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特許7114072ビス(アルキルテトラメチルシクロペンタジエニル)亜鉛、化学蒸着用原料、および亜鉛を含有する薄膜の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-29
(45)【発行日】2022-08-08
(54)【発明の名称】ビス(アルキルテトラメチルシクロペンタジエニル)亜鉛、化学蒸着用原料、および亜鉛を含有する薄膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/18 20060101AFI20220801BHJP
   C23C 16/40 20060101ALI20220801BHJP
   C07F 17/00 20060101ALI20220801BHJP
   H01L 21/285 20060101ALI20220801BHJP
   H01L 21/288 20060101ALI20220801BHJP
【FI】
C23C16/18
C23C16/40
C07F17/00 CSP
H01L21/285 C
H01L21/288 M
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018228705
(22)【出願日】2018-12-06
(65)【公開番号】P2020090712
(43)【公開日】2020-06-11
【審査請求日】2021-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000143411
【氏名又は名称】株式会社高純度化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 伸尚
(72)【発明者】
【氏名】水谷 文一
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-108178(JP,A)
【文献】特開2009-030162(JP,A)
【文献】国際公開第2012/132669(WO,A1)
【文献】特開平02-225317(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/00-16/56
C07F 17/00-17/02
H01L 21/285
H01L 21/288
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるビス(アルキルテトラメチルシクロペンタジエニル)亜鉛。
【化1】
(式(1)中、R1およびR2は炭素数3のアルキル基を表す。)
【請求項2】
下記式(2)で表されるビス(アルキルテトラメチルシクロペンタジエニル)亜鉛を主成分として含有する化学蒸着用原料。
【化2】
(式(2)中、R3およびR4は炭素数2~5のアルキル基を表す。)
【請求項3】
23℃において液体である、請求項2に記載の化学蒸着用原料。
【請求項4】
下記式(2)で表されるビス(アルキルテトラメチルシクロペンタジエニル)亜鉛を主成分として含有し、23℃において液体である化学蒸着用原料を用いて、化学蒸着法によって形成する、亜鉛を含有する薄膜の製造方法。
【化3】
(式(2)中、R3およびR4は炭素数2~5のアルキル基を表す。)
【請求項5】
前記化学蒸着法が原子層堆積法である、請求項4に記載の亜鉛を含有する薄膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学蒸着用の有機亜鉛化合物および化学蒸着原料に関する。
【背景技術】
【0002】
透明導電膜はその特性から、フラットパネルディスプレイ、太陽電池、タッチスクリーン、熱線反射膜、透明ヒーター、透明電磁波シールドおよび帯電防止膜など、用途が多岐に渡る。これらの透明導電膜に用いる材料である、酸化亜鉛にアルミニウム、ガリウム、インジウムおよびホウ素などの金属元素や、フッ素などのハロゲン元素をドープした材料は、導電膜形成の温度が低く、電気特性、光学特性および耐水素プラズマ特性に優れるため、透明導電膜としては酸化亜鉛系薄膜が最も多く用いられる。
【0003】
酸化亜鉛系薄膜は、スパッタリングなどの物理蒸着法(PVD)や、原子層堆積法(ALD)などの化学蒸着法(CVD)により形成することができる。これらのうち、化学蒸着法では、化学蒸着用原料を気体の状態で基板を設置した反応室に送り、基板上で、熱分解、化学反応、または光化学反応などによって、所望の組成を有する薄膜を堆積する。例えば、化学蒸着用原料を、該原料の分解温度よりも高い温度に加熱した基材と接触させ、熱分解によって、基材上に金属膜を形成することができる。このため、化学蒸着用原料は、基板温度より低い温度で、気化可能であり、かつ、基板上に均一な膜を形成できるように十分に蒸気圧が高いものである必要がある。
【0004】
特許文献1では、酸化亜鉛系薄膜の蒸着に用いられる前駆体として、ジルコノセンまたはその誘導体が開示されている。特許文献1は、優れた熱的および化学的安定性ならびに高い蒸気圧を有する新たな化学蒸着用原料を提供するものであり、反応ガスや蒸着温度などの条件だけを変化させれば、炭素などの不純物の少ない高純度の酸化亜鉛系薄膜を形成できることを開示している。
【0005】
しかしながら、これらの化合物は、室温で固体であり、化学蒸着工程においては、融解させた後、気化させるか、または固体から気体に昇華させる必要がある。そのため、固体を融解温度近くまで加熱して、ガス状にしなければならず、反応室までの配管および反応室を原料温度以上かつ熱分解温度未満に保つ必要もあり、操作が煩雑であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-108178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、亜鉛含有薄膜を形成するための化学蒸着用原料であって、室温で液体であり、取り扱い容易なビス(アルキルテトラメチルシクロペンタジエニル)亜鉛を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記した従来技術における課題を解決するものであり、以下の事項からなる。
本発明のビス(アルキルテトラメチルシクロペンタジエニル)亜鉛は、下記式(1)で表されることを特徴とする。
【化1】
ただし、式(1)中、R1およびR2は炭素数3のアルキル基を表す。
【0009】
本発明の化学蒸着用原料は、下記式(2)で表されるビス(アルキルテトラメチルシクロペンタジエニル)亜鉛を主成分として含有することを特徴とする。
【化2】
ただし、式(2)中、R3およびR4は炭素数2~5のアルキル基を表す。
【0010】
前記化学蒸着用原料は、23℃において液体であることが好ましい。
本発明の亜鉛を含有する薄膜の製造方法は、下記式(2)で表されるビス(アルキルテトラメチルシクロペンタジエニル)亜鉛を主成分として含有し、23℃において液体である化学蒸着用原料を用いて、化学蒸着法によって形成することを特徴とする。
【化3】
式(2)中、R3およびR4は炭素数2~5のアルキル基を表す。
前記化学蒸着法は、原子層堆積法であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の式(1)または(2)で表されるビス(アルキルテトラメチルシクロペンタジエニル)亜鉛は、室温で液体であるため、取り扱いが容易で、化学蒸着用原料として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の下記式(1)で表されるビス(アルキルテトラメチルシクロペンタジエニル)亜鉛について説明する。
【化4】
【0013】
前記式(1)中、R1およびR2は炭素数3のアルキル基を表す。R1およびR2は同一でもよいし、異なっていてもよいが、合成のしやすさから同一であることが好ましい。
炭素数3のアルキル基には、n-プロピル基およびイソプロピル基が挙げられるが、n-プロピル基が好ましい。
前記式(1)で表されるビス(アルキルテトラメチルシクロペンタジエニル)亜鉛は、大気圧下、23℃において液体である。さらに、高い蒸気圧を有するため、化学蒸着用原料として好適である。
【0014】
本発明の化学蒸着用原料は、下記式(2)で表されるビス(アルキルテトラメチルシクロペンタジエニル)亜鉛を主成分として含有する。
【化5】
【0015】
本発明の化学蒸着用原料は、前記式(2)中、R3およびR4は炭素数2~5のアルキル基を表す。R3およびR4は同一でもよいし、異なっていてもよいが、合成のしやすさから同一であることが好ましい。
【0016】
炭素数2~5のアルキル基には、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ネオペンチル基、3-メチルブチル基、1-メチルブチル基、1-エチルプロピル基および1,1-ジメチルプロピル基が挙げられる。
【0017】
これらのうち、R3およびR4は、炭素数3~5のアルキル基が好ましく、具体的には、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基などが好ましく、さらに、n-プロピル基、イソプロピル基が好ましく、特にn-プロピル基が好ましい。
【0018】
式(1)または式(2)で表されるビス(アルキルテトラメチルシクロペンタジエニル)亜鉛の融点は、室温で液体が好ましいため、室温よりも低いことが好ましく、35℃未満が好ましい。より好ましくは23℃未満、さらに好ましくは20℃未満であり、特に好ましくは10℃未満である。
【0019】
上記化学蒸着用原料中、式(2)で表されるビス(アルキルテトラメチルシクロペンタジエニル)亜鉛の含有量は、100%に近いほうが好ましいが、蒸着原料として使用する温度において、ビス(アルキルテトラメチルシクロペンタジエニル)亜鉛と反応せず、気化しない不純物が微量含まれていてもよい。
【0020】
本発明の式(1)または(2)で表されるビス(アルキルテトラメチルシクロペンタジエニル)亜鉛を用いた薄膜形成は、化学蒸着法(CVD)により行う。化学蒸着法では、ビス(アルキルテトラメチルシクロペンタジエニル)亜鉛を充填した原料容器を加熱して気化させ、反応室に供給する。このとき、ビス(アルキルテトラメチルシクロペンタジエニル)亜鉛を反応室中の基板まで供給するためには、原料容器から反応室までの配管および反応室は、原料が熱分解せず、気体の状態を保つ温度、すなわち、原料容器の温度(原料を気化させる温度)よりも高く、原料の熱分解温度よりも低くする必要がある。このため、成膜温度(基板温度)設定の自由度が高くなるには、原料温度はできるだけ低いことが望ましく、原料は低温で十分な蒸気圧を持つことが望ましい。
【0021】
化学蒸着法には、例えば、基板上で連続的に熱分解させて堆積する熱CVD法や、一原子層ずつ堆積させる原子層堆積法(ALD)などがあり、これらのうち、原子層堆積法(ALD)が好ましい。ALDでは、例えば、化学蒸着原料であるビス(アルキルテトラメチルシクロペンタジエニル)亜鉛と酸化剤とを交互に供給することで、基板上の表面反応により、酸化亜鉛の薄膜を原子層の単位で制御して成膜することができる。酸化剤には、例えば、水蒸気、オゾン、プラズマ活性化酸素などが用いられる。
【0022】
本発明のビス(アルキルテトラメチルシクロペンタジエニル)亜鉛は室温で液体であるため、流量制御装置によって原料ガスの供給速度を精密に制御することが容易である。
【0023】
なお、蒸着原料が室温で固体である場合、流量制御装置による原料の供給速度の制御が困難であるため、反応室への原料供給速度の制御の精密性は著しく劣ることとなる。
【実施例
【0024】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例により制限されるものではない。
[実施例1]
1Lの四ツ口フラスコにTHF 400ml、金属カリウム14.4g(0.37mol)、C5(CH34(n-C37)H 142.2g(0.87mol)を入れ、52時間反応させた後、100℃で減圧留去し、C5(CH34(n-C37)Kを得た。
得られたC5(CH34(n-C37)Kに、-78℃でTHF 600ml、ZnCl2 24.7g(0.18mol)を加え、50℃で5.5時間攪拌した。その後、50℃で減圧留去し、固形分を得た。
得られた固形分を単蒸留装置に仕込み、100-150℃、0.4-0.5torrで真空蒸留を2回行ったところ、黄色の液体が得られた。収量は37.6g(0.096mol)、収率53.3%(ZnCl2基準)であった。
【0025】
得られた試料について、以下(1)-(3)の分析を行ったところ、Zn[C5(CH34(n-C37)]2と確認された。
(1)組成分析
湿式分解して得られた液のICP発光分光分析の結果、Znの含有量は15.9%であった(理論値:16.7%)。
(2)1H-NMR
測定条件(装置:UNITY INOVA-400S(400MHz)、バリアン社、 溶媒:THF-d8、 方法:1D)
1.87(12H,singlet)ppm:C5(CH34、1.84(12H,singlet)ppm:C5(CH34、 2.23-2.19(4H,multiplet)ppm:CH2CH2CH3、 1.24-1.19(4H,sextet)ppm:CH2CH2CH3、 0.98-0.84(6H,triplet)ppm:CH2CH2CH3
(3)13C-NMR
測定条件(装置:UNITY INOVA-400S(100MHz)、バリアン社、 溶媒:THF-d8、 方法:1D)
114.01、 113.28、 109.79ppm:C5、
29.13、 25.89、 14.37、 10.99、 10.84ppm:C(CH34(n-C37
【0026】
次に、昇温速度10℃/minで密閉DSC測定を行ったところ、融点は約5℃で、約250℃まで熱分解しなかった。また、アルゴン1気圧雰囲気150℃での重量変化から求めた気化速度は、約50μg/minであった。
従って、Zn[C5(CH34(n-C37)]2は、室温において液体であり、化学蒸着に求められる熱安定性と気化性を有していると言える。
【0027】
[比較例1]
1Lの四ツ口フラスコにTHF 400ml、金属カリウム11.6g(0.30mol)、C54(C25)H 42.1g(0.45mol)を入れ、21時間反応させた後、40℃で減圧留去し、C54(C25)Kを得た。
得られたC54(C25)Kに、-78℃CでTHF600ml、ZnCl2 19.4g(0.14mol)を加え、50℃で6時間攪拌した。その後、50℃で減圧留去し、固形分を得た。
得られた固形分を単蒸留装置に仕込み、120-190℃、0.4-0.5torrで真空蒸留を2回行ったところ単黄色の固体が得られた。収量は8.1g(0.032mol)、収率22.9%(ZnCl2基準)であった。
【0028】
得られた試料について、以下(1)-(3)の分析を行ったところ、Zn[C54(C25)]2と確認された。
(1)組成分析
湿式分解して得られた液のICP発光分光分析の結果、Znの含有量は25.7%であった(理論値:26.0%)。
(2)1H-NMR
測定条件(装置:UNITY INOVA-400S(400MHz)、バリアン社、 溶媒:THF-d8、方法:1D)
5.72-5.71(4H,doublet)ppm:C54、 5.35-5.34(4H,doublet)ppm:C54、 2.57-2.51(4H,quartet)ppm:CH2CH3、 1.23-1.19(6H,triplet)ppm:CH2CH3
(3)13C-NMR
測定条件(装置:UNITY INOVA-400S(100MHz)、バリアン社、 溶媒:THF-d8,方法:1D)
138.50、 138.18、 109.51、 109.49、 99.28、 99.27ppm:C5
23.67、 15.81ppm:CH2CH3
【0029】
次に、昇温速度10℃/minで密閉DSC測定を行ったところ、融点は約90℃で、約184℃から熱分解が始まった。また、アルゴン1気圧雰囲気150℃での重量変化から求めた気化速度は、約0.7μg/minであった。
このように、Zn[C54(C25)]2は、室温で固体であり、熱安定性や気化性も本発明の化合物に劣る。