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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-29
(45)【発行日】2022-08-08
(54)【発明の名称】印刷配合物および方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 3/00 20060101AFI20220801BHJP
   B05D 3/06 20060101ALI20220801BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20220801BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20220801BHJP
   B41F 23/00 20060101ALI20220801BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20220801BHJP
   C09D 11/30 20140101ALI20220801BHJP
【FI】
B05D3/00 D
B05D3/06 Z
B05D7/24 303A
B32B27/30 A
B41F23/00
B41J2/01 109
B41J2/01 123
B41J2/01 127
B41J2/01 501
C09D11/30
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2018545278
(86)(22)【出願日】2017-02-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-05-16
(86)【国際出願番号】 IL2017050229
(87)【国際公開番号】W WO2017145159
(87)【国際公開日】2017-08-31
【審査請求日】2020-02-21
(31)【優先権主張番号】244302
(32)【優先日】2016-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IL
(31)【優先権主張番号】244305
(32)【優先日】2016-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IL
(31)【優先権主張番号】244306
(32)【優先日】2016-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IL
(73)【特許権者】
【識別番号】518301501
【氏名又は名称】ヴェロックス-ピュアデジタル リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Velox-PureDigital Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】コフラー,マリアン
(72)【発明者】
【氏名】コフラー,エイドリアン
(72)【発明者】
【氏名】ヤースィーン,ハナディー
(72)【発明者】
【氏名】ガル,イド
(72)【発明者】
【氏名】アイリーン,シャイ
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-205510(JP,A)
【文献】特開2008-248251(JP,A)
【文献】特開2007-237733(JP,A)
【文献】特開2015-090903(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 3/00
B05D 3/06
B05D 7/24
B32B 27/30
B41F 23/00
B41J 2/01
C09D 11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面をパターニングする方法であって、
表面領域上に少なくとも1種のプレコート配合物をパターニングしてパターン化領域を形成するステップであって、パターン化領域のうちの少なくとも2つが、化学的および物理的特性の少なくとも一方において互いに異なり、当該化学的または物理的特性が、パターン化領域の組成、硬化度、粘度、粘着性、表面構造、表面張力、厚さ、化学反応性およびpHのうちの少なくとも1つである、ステップと、
パターン化領域上に少なくとも1種のパターニング配合物を塗布するステップであって、パターン化領域上に塗布された少なくとも1種のパターニング配合物がプレコート配合物と相互作用し、パターニング配合物とプレコート配合物との間の相互作用が、前記化学的および/または物理的特性によって決定され、それにより、(i)パターニング配合物がプレコート内に少なくとも部分的に組み込まれるか、または(ii)パターニング配合物がプレコートの上に保持される、ステップと、
プレコート配合物およびパターニング配合物の硬化を可能にする条件に、表面を曝し、それによりパターン形成された表面を得るステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、プレコート配合物は、少なくともパターニング配合物を塗布する前に、プレコート配合物の部分的硬化を可能にする条件に曝されることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法において、
プレコート配合物が複数の領域上に塗布され、少なくとも1の第1の領域が第1の厚さのプレコートでコーティングされ、複数の領域のうちの少なくとも1の第2の領域が第1の厚さより大きい第2の厚さのプレコートでコーティングされ、(i)第1の領域上に塗布されたパターニング配合物がプレコート内に少なくとも部分的に組み込まれ、(ii)第2の領域上に塗布されたパターニング配合物がプレコートの上に保持されることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の方法において、
プレコート層が、第1のプレコート配合物の第1の副層と、その上に塗布される、第2の異なるプレコート配合物の第2の副層とをパターン形成することにより得られ、少なくとも2つの領域が、前記プレコート層内における第1の副層と第2の副層の割合において互いに異なることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法において、
少なくとも2つの領域の各々における第1の副層と第2の副層との割合が、それぞれ0:100%と100%:0との間の範囲にあることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか一項に記載の方法において、
少なくとも1種のプレコート配合物が、少なくとも1種のパターニング配合物中の相補的作用物質と化学的に反応することができる作用物質を含むことを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか一項に記載の方法において、
少なくとも1種のパターニング配合物を塗布する前に、少なくとも1種の中間配合物を塗布するステップをさらに含み、任意には、少なくとも1種の中間配合物が、少なくとも1種のパターニング配合物中の相補的作用物質と化学的に反応することができる作用物質を含むことを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れか一項に記載の方法において、少なくとも2つのパターン化領域の各々が、少なくとも1種の光開始剤を含み、(i)少なくとも2つのパターン化領域の各々が異なる光開始剤を含み、(ii)少なくとも2つのパターン化領域の各々が異なる量の光開始剤を含み、または、(iii)少なくとも2つのパターン化領域の各々が光開始剤の異なる組合せを含むことを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れか一項に記載の方法において、パターン化領域の少なくとも2つは硬化度が異なり、任意には、硬化度の差が、部分的硬化を可能にする条件にパターン化領域を曝すことによって得られることを特徴とする方法。
【請求項10】
パターン形成された物品であって、
表面を有する物品と、
表面の領域上のプレコート層であって、当該プレコート層が、化学的および物理的特性の少なくとも一方において互いに異なる少なくとも2つのパターン化領域を形成し、前記化学的または物理的特性が、パターン化領域の組成、硬化度、粘度、粘着性、表面構造、表面張力、厚さ、化学反応性およびpHのうちの少なくとも1つである、プレコート層と、 プレコート層と相互作用する少なくとも1のパターニング配合物層とを備え、パターニング配合物層とプレコート層との間の相互作用が、前記化学的または物理的特性によって決定され、パターニング配合物層が、(i)プレコート層内に少なくとも部分的に組み込まれるか、または(ii)プレコート層の上に保持されていることを特徴とする物品。
【請求項11】
請求項10に記載のパターン形成された物品において、
プレコート層上に配置されて、プレコート層と相互作用する中間組成物層をさらに含み、中間配合物層が、(i)プレコート層内に少なくとも部分的に組み込まれるか、または(ii)プレコート層の上に保持されていることを特徴とする物品。
【請求項12】
請求項10または11に記載のパターン形成された物品において、複数の部分のうちの少なくとも1つが第1の厚さのプレコートでコーティングされ、複数の部分のうちの少なくとも別の1つが第2の厚さのプレコートでコーティングされ、第2の厚さが第1の厚さよりも大きく、(i)第1の領域上に塗布されたパターニング配合物がプレコート内に少なくとも部分的に組み込まれ、(ii)第2の領域上に塗布されたパターニング配合物がプレコートの上に保持されることを特徴とする物品。
【請求項13】
請求項10または11に記載のパターン形成された物品において、プレコート層が、第1のプレコート配合物の第1の副層と、その上に塗布される、第2の異なるプレコート配合物の第2の副層とを備え、少なくとも2つの領域が、前記プレコート層内における第1の副層と第2の副層の割合において互いに異なり、任意には、少なくとも2つの領域の各々における第1の副層と第2の副層との割合が、それぞれ0:100%と100%:0との間の範囲にあることを特徴とする物品。
【請求項14】
請求項10乃至13の何れか一つに記載のパターン形成された物品において、少なくとも1種のプレコート配合物が、少なくとも1種のパターニング配合物中の相補的作用物質と化学的に反応することができる作用物質を含むことを特徴とする物品。
【請求項15】
請求項10乃至14の何れか一つに記載のパターン形成された物品において、少なくとも2つのパターン化領域の各々が、少なくとも1種の光開始剤を含み、(i)少なくとも2つのパターン化領域の各々が異なる光開始剤を含み、(ii)少なくとも2つのパターン化領域の各々が異なる量の光開始剤を含み、または、(iii)少なくとも2つのパターン化領域の各々が光開始剤の異なる組合せを含むことを特徴とする物品
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、様々な表面上にパターンを印刷するための配合物および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタル印刷は、オンデマンド印刷、短期間のターンアラウンド、さらには各刷での画像(変数データ)の修正も可能であるため、印刷業界で一般的に使用されている印刷技術である。以下に、三次元物体の表面に印刷するために開発された技術のいくつかについて説明する。
【0003】
表面上にパターンを印刷する公知のプロセスは、典型的には、着色層を互いに重ね合わせて積層し、所望のパターンを形成するステップを含む。典型的な印刷プロセスでは、第1の着色層を印刷し、続いて少なくとも部分的な硬化またはピニングを行うこと(典型的にはUV光または加熱によりインク配合物から溶剤を蒸発させること、および/または顔料配合物を硬化させること)が必要とされる。第2の着色層は、第1の着色層の上に印刷された後、少なくとも部分的に硬化される。このプロセスは、所望のパターンを得るために必要に応じて繰り返される。
【0004】
別の公知の印刷プロセスでは、印刷システムが、複数の印刷ヘッドと、複数の硬化手段(例えば、光源)とを含み、一方が他方と同時に移動する。すなわち、硬化手段が印刷ヘッドの近傍に配置されるとともに、印刷ヘッドとともに移動し、その結果、各インク滴が印刷直後に硬化する。
【0005】
これらの印刷プロセスは、いくつかの重大な欠点がある。当技術分野で公知の印刷技術は、典型的には、様々な印刷層を積み重ねることによって実行される。そのような積み重ねを可能にするために、次の層の塗布前に各層を硬化させながら、層が順次印刷される。これは、色が互いに混ざるのを防止するが、印刷プロセスが相対的に長くなる。さらに、連続的な印刷および硬化は、印刷層間の僅かなズレが望ましくない層の重なりまたは色の混合をもたらすことから、パターンの不良を引き起こし易く、一方で、印刷サイクル間の硬化が不十分であると、しばしば印刷画像のぼけを引き起こし、それにより印刷パターン全体の解像度が低下する。
【0006】
一般的な印刷技術の欠点は、曲面上にパターンを印刷する場合はさらに著しいものとなり、そのため、印刷層の高いレベルの空間的精度と位置合わせが要求される。
【0007】
従来の印刷技術(すなわち、各色が別々に印刷されて硬化される印刷技術)は、典型的には、表面をいくつかの化学線光源(各色ごとの光源)に曝すことを必要とする。それらの光源は、プリントヘッドの近傍に配置する必要があり、時に化学線の反射および分散を引き起こす配置構成が、プリントヘッドノズル内部およびその近傍の色彩配合物の望ましくない硬化を引き起こして、それがノズルのブロッキングを引き起こすことがある。印刷される各色は塗布システム一式(プリントヘッドおよびピニング/硬化システム)を必要とするため、通常、その設定も膨大なものとなる。
【0008】
その他の一般的な印刷技術は、フォトポリマー材料の上に直接印刷されるUVマスクを使用することを伴う。しかしながら、インクジェット技術に適用可能な典型的なインク配合物の粘度が限られているため、画像の高い印刷品質を達成することができず、ブリード、裏抜け、インク滴の凝集またはフェザリングなどの問題が認められている。
【0009】
色彩配合物の印刷用表面を提供するために、しばしばプライマー層またはプレコート配合物が表面上に塗布される。しかしながら、典型的には、そのようなプライマーまたはプレコートは、特定の表面に対して特別に調整され、様々な特性、形状および粗さレベルの表面に適用することができない。
【0010】
さらに、当技術分野で知られているプライマー組成物の大部分は、他の層を塗布する前に硬化プロセスを必要とし、それにより印刷プロセスの複雑さおよび必要な設備が増加する。
【発明の概要】
【0011】
従来のインクジェット印刷とは異なり、本発明は、高精度のインクジェット印刷、高解像度および光学濃度、並びに、表面上へのパターン固定のための硬化サイクルの最小化を可能にし、それらの全てが、特有のウェットオンウェット(またはウェットオンセミウェット)印刷方法により達成される。本発明の印刷配合物および方法は、従来の印刷配合物が高精度印刷および高解像度パターンを提供できない曲面上においても、高品質のパターンを印刷するのに適している。
【0012】
本発明の以下の態様(例えば、プレコート配合物、パターニング配合物、パターニング方法など)は、それぞれ適切な印刷システムまたはプロセスにおいて使用できることを理解されたい。本発明の態様および原理は個々に説明されるが、本明細書に開示の1または複数の態様および原理は、適切なシステムまたは印刷プロセスにおいて組み合わせられるか、付随して使用され、そのような組合せもまた、この開示の範囲内とみなされる。
【0013】
プレコート配合物
従来のインクジェット印刷とは異なり、本開示のプレコート配合物は、配合物を表面のタイプおよびその物理的および/または化学的特性に合わせる必要なく、印刷用の様々な表面を提供することを可能にする。さらに、本明細書中に説明するように、本開示のプレコート配合物は、特有の性質により、3D(湾曲)表面上への印刷を可能にするとともに、その上に塗布される様々なパターニング配合物の定着を改善する。このため、本開示の配合物は、最終的に、表面上へのパターンの固定のための硬化サイクルを最小化するとともに、高精度のインクジェット印刷、高解像度および光学濃度を提供する。
【0014】
本開示は、その一態様では、少なくとも1種の官能化モノマーと、少なくとも1種のオリゴマーと、少なくとも1種の界面活性剤と、第1の波長で活性化可能な少なくとも1種の第1の光開始剤と、第2の波長で活性化可能な少なくとも1種の第2の光開始剤とを含む印刷プレコート配合物を提供する。
【0015】
「(印刷)プレコート配合物」という用語は、印刷が望まれる表面に直接塗布される、プライマーまたはコーティング組成物として使用される、多成分組成物を包含することを意味する。プレコート配合物が塗布されると、表面上にプレコート層が形成され、その上に他の(後続の)印刷配合物を任意の適切な技術(例えば、インクジェット印刷)によって塗布することができる。プレコート配合物は、典型的には液体であり、均質溶液の形態(すなわち、各成分が配合物の他の成分に可溶性である形態)であってもよく、あるいは分散液または懸濁液の形態として、プレコート配合物のいくつかの成分が、配合物の他の成分に分散または懸濁されるものであってもよい。
【0016】
プレコート配合物は、いくつかの実施形態では、最大で37mN/mの表面張力によって特徴付けられる。表面張力値は、「周囲条件」について与えられており、この周囲条件とは、特に明記しない限りは、大気圧および25℃の温度を指すものとする。
【0017】
印刷が望まれる通常の表面は少なくとも35mN/mの表面張力を有し、時には100mN/mを超え、あるいは500mN/mにもなるため、プレコート配合物のより低い表面張力は、表面の十分な濡れ性を提供するだけでなく、表面上へのプレコート配合物の拡散ももたらす。
【0018】
いくつかの実施形態では、プレコート配合物が、約20~約37mN/m、約20mN/m~36mN/m、約20mN/m~25mN/m、または約20mN/m~33mN/mの表面張力を有することができる。
【0019】
プレコート配合物は、プレコート配合物の所望の特性を提供するために一緒に調整されるいくつかの成分を含む。
【0020】
プレコート配合物は、少なくとも1種の官能化モノマーと、少なくとも1種のオリゴマーとを含む。モノマーおよびオリゴマーは、後述するように、光開始剤の助けにより共重合して表面上にプレコート層を形成することができるように選択される。「モノマー」という用語は、同一または類似の分子と化学的に反応してポリマー鎖を形成することができる分子を指す。すなわち、モノマーは、ポリマー鎖の繰り返し基本単位とみなすことができる基礎的要素である。同様に、「オリゴマー」という用語は、いくつかのモノマー、例えば2~20のモノマーを含むポリマー繰り返し単位を指す。
【0021】
いくつかの実施形態によれば、少なくとも1種のモノマーを、メチルアクリレート(MA)、メチルメタクリレート(MMA)、エチルアクリレート、(エチルヘキシル)アクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、トリエトキシトリアクリレート(TMP(EO)TA)、イソボルニルアクリレート(IBOA)、ジプロピレングリコールジアクリレート(DPGDA)およびそれらの組合せのなかから選択することができる。
【0022】
いくつかの実施形態では、少なくとも1種のモノマーが、プレコート配合物中に、約15~約70重量%の濃度で存在するものであってもよい。他の実施形態では、モノマーが、約20~70重量%、約25~70重量%、約30~70重量%、約35~70重量%、あるいは約40~70重量%の濃度で配合物中に存在するものであってもよい。いくつかの他の実施形態では、モノマーが、約15~65重量%、約15~60重量%、約15~55重量%、約15~50重量%、あるいは約15~45重量%の濃度で配合物中に存在するものであってもよい。さらなる実施形態では、配合物中のモノマーの濃度が、約30~65重量%、約30~60重量%、あるいは約35~60重量%であってもよい。
【0023】
他の実施形態によれば、オリゴマーは、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、アクリルアクリレート、ウレタンアクリレートおよびそれらの組合せから選択されるものであってもよい。
【0024】
少なくとも1種のオリゴマーは、いくつかの実施形態によれば、プレコート配合物中に約5~50重量%の濃度で存在するものであってもよい。他の実施形態では、オリゴマーが、約10~50重量%、約15~50重量%、約20~50重量%、約25~50重量%、または約30~50重量%の濃度でプレコート配合物中に存在する。いくつかの他の実施形態では、オリゴマーが、約5~45重量%、約5~40重量%、約5~35重量%、または約5~30重量%の濃度でプレコート配合物中に存在するようにしてもよい。さらなる実施形態では、プレコート配合物中のオリゴマーの濃度が、約10~45重量%、約15~35重量%、または約15~30重量%であってもよい。
【0025】
モノマーは、少なくとも1種の反応性基によって官能化される。オリゴマーは、少なくとも1種の官能基によって官能化されていても、官能化されていなくてもよく、その官能基は、官能化モノマーのものと同じであっても、異なるものであってもよい。「反応性基」という用語は、モノマーまたはオリゴマー主鎖に結合、典型的にはグラフトされ、適切な相補的反応性基と化学反応することができる官能化基を指す。本発明のプレコート配合物では、反応性基は、一般に、モノマーとオリゴマーの重合プロセスによって影響を受けることはなく、適切な相補性基に対する化学的反応性を維持する。
【0026】
「相補的反応性基」は、後の印刷プロセスにおいてプレコート層上に塗布される1または複数のパターニング配合物(後述)中に存在する適切な官能基である。プレコート配合物の反応性基とプレコート上に塗布されるパターニング配合物中に存在する相補的反応性基との間で起こる化学反応は、パターニング配合物のプレコート層上への、そして時にはプレコート層内への固定をもたらす。
【0027】
「化学反応」は、当技術分野で公知の任意の反応、例えば、酸-塩基反応、レドックス反応、イオン結合、錯体形成などである。いくつかの実施形態では、反応性基は酸性部分であり、相補的反応性基は塩基部分である。他の実施形態では、反応性基は塩基部分であり、相補的反応性基は酸性部分である。
【0028】
反応性基が酸性である場合、いくつかの実施形態では、カルボキシル基、スルホン酸基(-SOOH)、チオールおよびエノールのなかから選択することができる。そのような実施形態において、相補的反応性基が塩基性となる。
【0029】
反応性基が塩基性(すなわち、塩基として反応する)である他の実施形態では、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、ヒドロキシル基およびアミドなどのなかから選択することができる。そのような実施形態において、相補的反応性基が酸性となる。
【0030】
いくつかの実施形態では、プレコート配合物が少なくとも1種の他のオリゴマーをさらに含み、この他のオリゴマーが、官能化されていても、官能化されていなくてもよい。そのような少なくとも1種の他のオリゴマーは、少なくとも1種のオリゴマーと同じまたは異なる主鎖を有していてもよい。すなわち、少なくとも1種のオリゴマーの主鎖(すなわち、存在する場合には官能基を有しない)は、少なくとも1種の他のオリゴマーの主鎖と同じであっても異なっていてもよい。いくつかの実施形態では、少なくとも1種の他のオリゴマーを、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、アクリルアクリレート、ウレタンアクリレートおよびそれらの組合せのなかから個別に選択することができる。
【0031】
いくつかの実施形態では、少なくとも1種の他のオリゴマーが、プレコート配合物中に約5~15重量%の濃度で存在する。
【0032】
いくつかの実施形態では、少なくとも1種のオリゴマーおよび少なくとも1種の他のオリゴマーは両方とも官能化されていない。他の実施形態では、少なくとも1種のオリゴマーおよび少なくとも1種の他のオリゴマーの少なくとも一方が官能化される。
【0033】
いくつかの他の実施形態では、少なくとも1種のオリゴマーと少なくとも1種の他のオリゴマーの両方が官能化される。そのような実施形態において、オリゴマーの官能性は、同じであっても異なっていてもよく(すなわち、酸性または塩基性)、少なくとも1種のオリゴマーが、少なくとも1種の他のオリゴマーのものと同じ官能基または異なる官能基を有することができる。
【0034】
また、プレコート配合物は、少なくとも1種の界面活性剤も含む。本開示において、「界面活性剤」という用語は、配合物の表面張力を変更、典型的には低下させる化学物質を包含することを意味する。界面活性剤は、印刷される表面上に塗布されたときにプレコート配合物の十分な濡れおよび広がりが得られるように、所望の表面張力、例えば最大で37mN/mの表面張力を配合物に提供する。理論に拘束されることを望むものではないが、界面活性剤分子は、極性部分と非極性部分を含む。極性アクリルモノマーおよびオリゴマーに基づく本開示のプレコート配合物において、界面活性剤分子は、プレコート配合物の外面の近く、すなわち表面および/または空気とプレコートの界面に蓄積する傾向があり、それにより、界面領域における配合物の表面張力を変化させる。
【0035】
本開示のプレコート配合物は、2種以上の界面活性剤を含むことができ、各界面活性剤が配合物の表面張力に異なる影響を及ぼすようにしていもよい。すなわち、極性および/または分子量の相違により、1つの界面活性剤が配合物/空気の界面に蓄積する一方で、別の界面活性剤が配合物/表面の界面に蓄積し、それにより界面の各々で異なる表面張力の変更を生じさせることも、本開示の範囲内で企図される。
【0036】
いくつかの実施形態では、少なくとも1種の界面活性剤が、シリコンポリマー、シリコン有機ポリマー、アクリレート修飾シロキサン、フルオロアクリレート修飾シロキサンおよびその他の適切な界面活性剤、並びに、それらの混合物または組合せから選択される。
【0037】
他の実施形態では、少なくとも1種の界面活性剤が、約0.01~4重量%の濃度でプレコート配合物中に存在する。他の実施形態によれば、界面活性剤が、約0.01~3.8重量%、約0.01~3.6重量%、約0.01~3.4重量%、約0.01~3.2重量%、約0.01~3重量%、約0.01~2.8重量%、約0.01~2.6重量%、約0.01~2.4重量%、約0.01~2.2重量%、または約0.01~2重量%の濃度で、プレコート配合物中に存在する。いくつかの他の実施形態によれば、界面活性剤が、約0.02~4重量%、約0.03~4重量%、約0.03~4重量%、約0.04~4重量%または約0.05~4重量%の濃度で、プレコート配合物中に存在する。さらなる実施形態によれば、プレコート配合物中の界面活性剤の濃度を、約0.02~3.8重量%、約0.03~3.6重量%、約0.04~3.4重量%、または約0.05~3重量%とすることができる。
【0038】
上述したように、モノマーは(時にはオリゴマーも)、それらの重合が印刷プロセス中の所望の条件で得られるように選択される。この目的のために、プレコート配合物は少なくとも2種の光開始剤を含み、各々が異なる波長による照射によって活性化可能となっている。このため、本開示のプレコート配合物において、光開始剤の各々は、プレコート配合物が曝される照射を制御することによって、所望の異なる時間で活性化させることができる。「光開始剤」は、典型的には、重合(「硬化」としても知られる)メカニズムにおける1または複数のステップの速度を増加させるために使用される化合物であり、その速度の増加が、例えばラジカル種を生成して追加メカニズムによる重合を促進することで、より低い活性化エネルギーを有する反応経路を提供することによって達成される。
【0039】
例示的で非限定的な光開始剤は、芳香族ケトン、有機ホスフィン、ベンジルペルオキシド、ベンゾフェノン、例えば、ピペラジンベースのアミノアルキルフェノン(Omnipol 910)、カルボキシメトキシチオキサントンおよびポリテトラメチレングリコールのジエステル(Omnipol TX)、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(irgacure 819)または4-ヒドロキシベンゾフェノンラウレート(Omnirad 4HBL)、並びに、ポリマー光開始剤などである。
【0040】
第1の光開始剤は、第1の波長の光による照射で活性化可能である。いくつかの実施形態では、第1の波長が、約365nm~約470nmである。
【0041】
本開示のプレコート配合物では、第一の光開始剤が、表面上に塗布されたときにプレコート配合物の粘度を増加させるために使用されるが、モノマーおよびオリゴマーの完全な重合を得ることなく、プレコート配合物の表面を粘着性にして、他の配合物、例えば、パターニング配合物をその上に塗布することを可能にする。この目的のために、プレコート配合物中の第1の光開始剤の濃度は、典型的には低く、モノマーおよびオリゴマーの完全な重合を可能にするには不十分であり、それにより、第1の照射波長に曝されたときに、相対的に速い減少(または活性低下)を可能にする。このため、いくつかの実施形態では、少なくとも1種の第1光開始剤が、プレコート配合物中に約0.1~2重量%の濃度で存在する。他の実施形態では、第1の光開始剤が、約0.1~1.8重量%、約0.1~1.6重量%、約0.1~1.4重量%、約0.1~1.2重量%、または約0.1~1重量%の濃度でプレコート配合物中に存在する。いくつかの他の実施形態では、第1の光開始剤が、約0.2~2重量%、約0.25~2重量%、約0.3~2重量%、約0.35重量%~2重量%、約0.4~2重量%、または約0.45~2重量%の濃度でプレコート配合物中に存在する。さらなる実施形態では、プレコート配合物中の第1の光開始剤の濃度が、約0.15~1.8重量%、約0.2~1.6重量%、約0.3~1.4重量%、約0.4~1.2重量%、または約0.5~1重量%である。
【0042】
いくつかの実施形態では、プレコート配合物の粘度が、周囲温度で少なくとも25cps(センチポアズ)である。このため、少なくとも1種の第1の光開始剤が第1の波長への曝露により活性化可能である場合、いくつかの実施形態では、プレコート配合物の粘度を少なくとも100cps、少なくとも1,000cps、少なくとも10,000cps、または少なくとも100,000cpsに増加させることができる。
【0043】
「粘度」という用語は、加えられた応力による漸次的な変形に対する配合物または印刷層の耐性を意味する。この開示の配合物は、通常は液体の形態であるため、粘度の増加は、典型的には、配合物の半凝固および/またはゲル化として観察されるであろう。すなわち、配合物の粘度が増加すると、その層は、加えられる応力に対する耐性が増加する。このような半凝固は、表面上へのプレコート配合物の十分な固定を可能にする一方で、完全な重合(または乾燥)を待たずにプレコート層上にパターニング配合物を塗布する能力を有する。すなわち、部分重合は、そのような塗布の間に硬化/乾燥工程を必要とせずに、プレコート層上へのパターニング配合物の塗布および固定を可能にし、それにより、本明細書中にも記載のように、いわゆる「ウェットオンウェット」印刷を可能にする。
【0044】
すなわち、第1の光開始剤は、プレコート配合物中において、適切な光源に曝されたときにプレコート配合物を部分的に硬化させる機能を果たし、それにより、印刷プレコート層中の配合物の粘度を増加させる。
【0045】
第1の波長に曝されるとプレコート層の一部のみの硬化を生じる(通常は粘度の増加を伴う)ため、印刷パターンの最終的な固定は、その印刷の完了後にのみ達成される。第1の光開始剤とは異なるものとして示した少なくとも第2の光開始剤は、モノマーと、任意にはオリゴマーの実質的に完全な重合を可能にするために使用される。そのような完全重合は、所望のパターニング配合物すべてがプレコート層の上に(時にはその中に)塗布されたときに、印刷パターンを固化して(すなわち粘度をさらに増加させて)永続的に固定するために使用される。
【0046】
第2の光開始剤は、第1の光開始剤の活性化波長とは十分に異なる別個の第2の波長で活性化可能である。いくつかの実施形態では、第2の波長は、約200nm~約470nmである。
【0047】
第2の光開始剤の非限定的な例は、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシル)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパノン(Omnirad 659)、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニルケトン(Omnirad 481)、ヒドロキシケトン(esacure Kip 160)、メチル-o-ベンゾイルベンゾエート(Omnirad OMBB)、4-(4-メチルフェニルチオ)ベンゾフェノン(Speedcure BMS)、2-ベンジル-2-(ジメチルアミノ)-4’-モルホリノブチロフェノン(Omnirad 248)、並びに、ポリマー光開始剤である。
【0048】
他の実施形態によれば、少なくとも1種の第2の光開始剤は、約3~10重量%の濃度でプレコート配合物中に存在し、この濃度は、第2の波長による照射に曝されたときにモノマーと、任意にはオリゴマーの実質的に完全な重合を可能にする量である。いくつかの実施形態では、第2の光開始剤が、約3~9.5重量%、約3~9重量%、約3~8.5重量%、約3~8重量%、または約3~7重量%の濃度でプレコート配合物中に存在する。他の実施形態では、第2の光開始剤が、約3.5~10重量%、約4~10重量%、約4.5~10重量%、または約5~10重量%の濃度でプレコート配合物中に存在するようにしてもよい。
【0049】
第1および第2の光開始剤の各々は、他方とは関係なく、単一の化合物または化合物の混合物によって構成されるものであってもよい。
【0050】
なお、第1および第2の光開始剤は、同じ化学分子によって構成されるようにしてもよいことに留意されたい。そのような場合、光開始剤分子は2つの異なる部分を含み、その第1の部分が第1の波長によって活性化可能であり、他方が第2の波長によって活性化可能である。そのような場合、第1の光開始剤は、第1の波長の照射に曝されたときに完全に消費されることはなく、配合物が第2の波長の照射に曝されたときに不活性とされる。
【0051】
本開示において、「波長」という用語は、放射帯域、すなわち(使用される照射源に応じて)広帯域または狭帯域となる波長の帯域における照射を意味する。この用語は、規定された(単一の)波長における単色光を包含することも意図している。
【0052】
なお、第1および第2の光開始剤が同じ波長で活性化可能であるが、活性化のために異なる強度および/または異なる照射時間を必要とする場合もあることに留意されたい。さらに、プレコート配合物が単一の光源によって照射されるが、配合物中の光開始剤の各々が光源の異なる波長に反応する場合もあることに留意されたい。いくつかの実施形態では、第1および第2の光開始剤が、波長、照射強度および照射時間の異なる組合せ(すなわち、波長、強度および時間のうちの少なくとも1つが異なること)によって、それぞれ活性化可能である。
【0053】
プレコート配合物は、いくつかの実施形態では、典型的には約5ナノメートル~約500ナノメートルの平均直径を有するナノ粒子を含むものであってもよい。いくつかの実施形態では、ナノ粒子が、約5~約450nm、約5~約400nm、約5~約350nm、約5~約300nm、または約5~約250nmの平均直径を有する。他の実施形態では、ナノ粒子が、約10~約500nm、約20~約500nm、約25~約500nm、約30~約500nm、約35~約500nm、約40~約500nmの間、または約45~約500nmの平均直径を有することができる。いくつかの他の実施形態では、ナノ粒子が、約10~450nm、約20~約350nm、約25~約250nm、または約30~約200nmの平均直径を有することができる。
【0054】
いくつかの実施形態によれば、ナノ粒子が、250nm以下の平均直径を有することができる。
【0055】
ナノ粒子は、典型的には、プレコート配合物の光学特性(例えば、配合物の透明度)を損なうことのないように、それらの吸光度に従って選択される。このため、いくつかの実施形態では、ナノ粒子が、可視スペクトル、すなわち400~700nmの波長の照射に対して透明である。そのような適切な任意のナノ粒子をプレコート配合物に使用することができ、いくつかの実施形態では、ナノ粒子がシリカナノ粒子(SiO)である。
【0056】
プレコート配合物は、いくつかの実施形態では、顔料、希釈剤、ポリマー、粘着性調整剤、フリーラジカルスカベンジャー、粘度調整剤、または任意の他の機能性添加剤の少なくとも1つをさらに含むことができる。
【0057】
「顔料」という用語は、プレコート配合物を所望の色または他の所望の特性にする化学物質を指す。なお、顔料は、光開始剤の所望の活性を損なわないようにするために、上述した第1および第2の波長の光の照射を吸収しないように選択されることに留意されたい。いくつかの実施形態では、顔料が、発色団、塩、カプセル化顔料粉末、サーモクロミック顔料、蛍光顔料、セキュリティタグ付け剤、無機顔料、有機顔料などのなかから選択される。この用語は、金属粒子、磁性粒子、導電性顔料、ガラスまたはセラミック粒子(フリット)、発光顔料なども包含する。
【0058】
他の実施形態では、プレコート配合物が(少なくとも可視光波長において)透明である。
【0059】
「希釈剤」は、プレコート配合物の初期粘度の制御を可能にする化学物質である。いくつかの実施形態では、希釈剤を、少なくとも1種の任意に置換された脂肪族希釈剤、少なくとも1種の任意に置換された芳香族希釈剤、アクリル酸エステル、およびそれらの混合物のなかから選択することができる。
【0060】
他の実施形態では、希釈剤を、第1および/または第2の光開始剤の何れかによって活性化される重合プロセスに加わるアクリル酸エステルモノマーとすることができる。希釈剤は、含まれる場合、プレコート配合物の25~30重量%を構成することができる。
【0061】
なお、本開示において、希釈剤を溶剤と混同すべきではないことに留意されたい。希釈剤は、配合物の初期粘度を低下させるために使用されるが、蒸発することはなく、光開始剤が活性化されるときの粘度の増加は、揮発性成分(例えば溶剤)の蒸発ではなく、重合によって引き起こされる。このため、いくつかの実施形態では、プレコート配合物は、実質的に溶剤、例えば、揮発性溶剤を含まない。プレコート配合物を調製するために使用される成分の1または複数は、溶液の形態であってもよく、すなわち、その中に特定の成分を溶解させるために使用される固有の溶剤を含むことができるため、「溶剤が実質的に存在しない」という用語は、プレコート配合物および/または印刷パターンの特性(例えば、粘度、表面張力、粘着性、硬化プロファイルなど)に有意な影響を及ぼさない濃度の溶剤を示すことを意図している。いくつかの実施形態では、プレコート配合物が、微量の溶剤、すなわちプレコート配合物を配合するために使用される成分に由来する溶剤の不純物を含むことができる。
【0062】
いくつかの実施形態によれば、プレコート配合物が、最大で5重量%の溶剤を含むようにしてもよい。他の実施形態によれば、プレコート配合物が、0~4.5重量%の溶剤、0~4重量%の溶剤、0~3.5重量%の溶剤、0~3重量%の溶剤、または0~2.5重量%の溶剤を含むようにしてもよい。いくつかの他の実施形態によれば、プレコート配合物が、0.01~5重量%の溶剤、0.05~5重量%の溶剤、0.1~5重量%の溶剤、0.2~5重量%の溶剤、0.5~5重量%の溶剤を含むようにしてもよい。
【0063】
いくつかの実施形態では、プレコートが表面上に予め塗布されるようにしてもよく、他の実施形態では、プレコート配合物が、パターニング配合物の何れかを塗布する直前に、表面上に塗布されるようにしてもよい。
【0064】
このため、本開示は、その別の態様では、表面を有する印刷用の基材であって、表面の少なくとも一部が、本明細書中に記載のプレコート配合物の層によってプレコートされた基材を提供する。すなわち、本発明に包含される製品の1つは、本発明のプレコート配合物が塗布された基材であり、種々の印刷技術、例えばジェット印刷による印刷(すなわち、印刷配合物および/またはパターニング配合物の塗布)に適した基材を提供する。
【0065】
「表面」は如何なる材料からなるものであってもよい。表面は、表面全体またはその一部であってもよい。コーティングされる基材表面の部分は、任意のサイズおよび構造のものであってもよく、その部分は連続的であってもよく、またはいくつかの非連続的に離間した小部分から構成されるものであってもよい。いくつかの実施形態では、基材の表面が実質的に二次元である。他の実施形態では、表面が三次元物体の表面である。他の実施形態では、基材(または物体)の表面の少なくとも一部が、その表面全体である。
【0066】
コーティングは、任意の適切な「基材」上で行うことができ、当該基材は、吸収性または非吸収性、導電性または非導電性、有色または透明、可撓性または剛性の基材であってもよく、さらには、実質的に二次元(薄くて平坦な基材)、三次元の湾曲した(非平坦な)表面、起伏のある表面または不均一な表面などであってもよい。表面は、任意の滑らかさを有することができる。最も一般的な用語において、基材は、金属、ガラス、紙、半導体、ポリマー材料、セラミック表面、またはいくつかの異なる材料を含むハイブリッド基材などの固形材料からなるものであってもよい。表面材料、すなわちその上にプレコート配合物が塗布される基材は、必ずしも基材の大部分と同じ材料でなくともよい。例えば、基材は、本開示のプレコート配合物がその上に塗布される外層であって、大部分の材料とは異なる外層を含むことができる。そのような基材の非限定的な例としては、塗装された基材またはガラスで覆った基材などがある。
【0067】
基材は、均一な表面、すなわち、実質的に均一な表面粗さを有してもよく、単一の材料(または単一の組成物)でできていてもよく、かつ/または均一な厚さを有してもよい。しかしながら、本開示では、表面が不均一である場合もあることに留意されたい。すなわち、基材の表面が、粗さ、高さ、厚さ、材料または組成などのうちの少なくとも1つが異なる少なくとも2つのセクションを含むことができる。少なくとも2つのセクションは、互いに一体的なものであってもよいし、それらの間にギャップを有するものであってもよい(すなわち、それら基材セクションが連続的に関連付けられるものであってもよい)。例えば、それら基材セクションのうちの一方がチューブであり、他方の基材セクションが、チューブに関連するキャップとすることができ、それらチューブとキャップとの間に小さなギャップが形成されるものであってもよい。このため、本開示の方法は、マルチセクション基材上への連続的な印刷として適用することができる。
【0068】
このため、いくつかの実施形態では、本開示の方法が、少なくとも2つの連続的に関連するセクションを含む基材の表面上にプレコート配合物を連続的にパターニングすることを含む。当業者であれば分かるように、セクションの各々は、複数の領域を形成するようにパターン化されて、各パターン化領域が、化学的および物理的特性のうちの少なくとも1つによって互いに異なるものであってもよい。
【0069】
いくつかの実施形態では、プレコート配合物が、第一の波長の照射に暴露されると、第一の活性化可能な光開始剤から実質的に失われる。このような実施形態によれば、配合物の粘度は、少なくとも100cps、少なくとも1,000cps、少なくとも10,000cps、または少なくとも100,000cpsである。増加した粘度は、その後の印刷用の3D表面を調製する際に特に重要であり、それによって表面の曲率に起因するプレコート配合物の滲みや染出しを防止することができる。
【0070】
そのような基材は、保護層として機能する、プレコート配合物層上に配置される除去可能な層をさらに含むようにしてもよい。保護層は、その後の印刷の前に、ユーザまたは印刷システムにより取り除かれるものであってもよい。
【0071】
また、本開示のプレコート配合物は、標準的な硬化条件(UV放射線源への暴露)下では硬化することが困難な配合物をパターニングするための硬化促進剤としても機能し得る。そのようなパターニング配合物には、しばしば、非常に多くの顔料が含まれ、それら顔料が放射線の一部を吸収して、適切な硬化を妨げることがある。理論に束縛されることを望むものではないが、パターニング配合物がプレコート配合物上に塗布されると、プレコート配合物中に存在する光開始剤の一部がパターニング配合物中に拡散または移動し、それにより、パターニング配合物中の光開始剤の濃度を増加させて、その硬化を促進することとなる。
【0072】
このため、本開示は、別の態様において、本明細書に記載のプレコート配合物であって、その上に塗布されるパターニング配合物の硬化を促進するのに使用されるプレコート配合物を提供する。
【0073】
本開示のプレコート配合物は、これが塗布される様々な表面に対する耐摩耗性および高い接着性も示し、それ故に、優れた安定性と接着性で表面にパターン全体を印刷することを可能にする。このため、本開示は、別の態様では、本明細書に記載のプレコート配合物であって、その上に塗布されるパターニング配合物の表面への付着性を高めるのに使用されるプレコート配合物を提供する。
【0074】
別の態様では、本発明は、印刷用の表面を処理する方法であって、
(a)本明細書に記載のプレコート配合物を表面の少なくとも一部に塗布するステップと、
(b)表面を第1の波長による照射に曝して、プレコート配合物中の少なくとも1種の第1の光開始剤を活性化させ、それにより、配合物の粘度をその初期粘度と比較して少なくとも1桁増加させて、プレコートされた表面を得るステップとを含む方法を提供する。
【0075】
本明細書において、「少なくとも1桁」は、少なくとも10倍、少なくとも100倍、少なくとも1000倍、または少なくとも10,000倍の初期値の増加を意味する。すなわち、プレコート配合物の初期粘度は、第1の波長の照射に曝すことにより、少なくとも10倍増加することとなる。
【0076】
いくつかの実施形態では、この方法が、増粘されたプレコート層上に除去可能な層を塗布するステップをさらに含む。
【0077】
本発明は、他の一態様において、基材上にパターンを印刷する方法であって、
(a)本明細書に記載のプレコート配合物を基材の表面の少なくとも一部分に塗布するステップと、
(b)表面を第1の波長による照射に曝して、プレコート配合物中の少なくとも1種の第1の光開始剤を活性化させるステップと、
(c)前記一部分のうちの少なくともある領域に少なくとも1種のパターニング配合物を塗布するステップと、
(d)表面を第2の波長による照射に曝して、プレコート配合物中の少なくとも1種の第2の光開始剤を活性化させるステップとを含む方法を提供する。
【0078】
本発明は、別の態様において、パターンを基材上に印刷する方法であって、
(a)本明細書に記載のプレコート配合物を基材の表面の少なくとも一部分に塗布するステップと、
(b)表面を第1の波長による照射に曝して、プレコート配合物中の少なくとも1種の第1の光開始剤を活性化させるステップと、
(c)前記一部分のうちの少なくともある領域に少なくとも1種のパターニング配合物を塗布するステップであって、少なくとも1種のパターニング配合物が、プレコート配合物中の反応性基と化学的に反応することができる相補的反応性基を含む、ステップと、
(d)表面を第2の波長による照射に曝して、プレコート配合物中の少なくとも1種の第2の光開始剤を活性化させるステップとを含む方法を提供する。
【0079】
印刷中、プレコート配合物は、最初に、それ自体公知の任意の適切な技術によって表面上に塗布される。プレコート配合物の塗布技術の非限定的な例としては、インクジェット印刷、噴霧、ペインティング、ペースティングなどが挙げられる。
【0080】
プレコート配合物は、表面に塗布されると、第1の波長による照射に曝され、それにより、プレコート配合物の限定的な重合による粘度の増加を生じる。いくつかの実施形態では、プレコート配合物の初期粘度が、第1の波長による照射に曝すことによって少なくとも1桁増加する。そのような実施形態によれば、プレコート配合物は、照射に曝される前に、少なくとも10cps、時には少なくとも25cps、または少なくとも40cpsの粘度を有し、照射に曝された後に、少なくとも1,000cpsの粘度を有する。いくつかの実施形態では、プレコート配合物は、照射に曝される前に、約10~300cpsの粘度を有し、照射後に少なくとも1,000cpsの粘度を有することができる。
【0081】
その後、少なくとも1種のパターニング配合物の滴またはスポットが塗布され、それにより所望のパターンが得られる。プレコート配合物は透明または透き通っていることが多いが、「パターニング配合物」は顔料を含む。2種以上のパターニング配合物を塗布する場合、各パターニング配合物は異なる顔料を含むことができる。例えば、少なくとも4種のパターニング配合物であって、その各々が、例えばCMYKカラーとしても知られているシアン、マゼンタ、イエローおよびブラック(またはキー)から選択される異なる顔料を含むパターニング配合物を、所望の印刷パターンを形成するために、増粘されたプレコート層上に塗布するようにしてもよい。他のパターニング配合物は、白色顔料、金属粒子、導電性顔料、テクスチャリング剤、サーモクロミック顔料、蛍光顔料、セキュリティタグ付け剤、磁性粒子、ガラスまたはセラミック粒子(フリット)などを含むものであってもよい。
【0082】
「パターン」という用語は、1または複数のパターニング配合物を表面領域に塗布することによって表面上に形成される、任意のサイズの任意の形状を指す。例えば、パターンは単一の幾何学的形状または抽象的形状であってもよい。代替的には、パターンは、表面上にランダムにまたは順序付けられた様式で配置される同一のサイズまたは異なるサイズの複数の形状を含むことができる。この用語は、線、文字、数字、記号なども含む。
【0083】
いくつかの実施形態では、少なくとも1種のパターニング配合物が、プレコート配合物の表面張力と比較して少なくとも3mN/m大きい表面張力を有する。理論に束縛されることを望むものではないが、プレコート層上へのパターニング配合物の濡れ広がりが表面張力の差によって制限されるため、この表面張力の差は、あるパターニング配合物の別のパターニング配合物へのブリードまたはフェザリングを防止する。このため、異なるパターニング配合物間で高いパターニング解像度および明確な(鮮明な)境界線を得ることができるとともに、望ましくない色の混合を防ぐことができる。
【0084】
上述したように、プレコート配合物は、化学反応、例えば、プレコート配合物中の反応性基とパターニング配合物中の相補的な反応性基との間の酸-塩基反応により、更なる固定を得ることが可能である。いくつかの実施形態では、反応性基が酸性官能基であり、相補的反応性基が塩基性官能基である。他の実施形態では、反応性基は塩基性官能基であり、相補的反応性基が酸性官能基である。
【0085】
また、プレコート配合物は、プレコート層内のパターニング配合物滴の組み込み深さを制御することを可能にする。これは、以下に述べるように、表面の異なる領域で、プレコート層の特性の1つ、例えば、プレコート層の厚さを選択的に制御することによって達成することができる。
【0086】
いくつかの実施形態では、プレコート配合物が、複数の表面の部分上に選択的に塗布され、それら部分のうちの少なくとも1つが、第1の厚さのプレコートによってコーティングされ、それら部分のうちの他の少なくとも1つが、第1の厚さよりも厚い第2の厚さのプレコートによってコーティングされる。第1の波長による照射に曝されて部分的に粘度が増すと、第1の厚さの部分上に塗布されるパターニング配合物の滴が、プレコート内に少なくとも部分的に組み込まれ、第2の厚さの部分上に塗布されるパターニング配合物の滴が、プレコートの上に少なくとも部分的に保持される。
【0087】
「選択的に塗布する」という用語は、所望の第1および第2の部分を得るためのプレコート配合物の制御可能な塗布を包含することを意味する。プレコートの塗布は、各部分で所望の厚さのプレコートを得るために、第1および第2の選択された部分それぞれにプレコート配合物滴を選択的に塗布することによって行うことができる。代替的には、先ず、表面全体にプレコート配合物を塗布して第1の厚さのプレコート層を形成し、次いで、所望の部分上にプレコート配合物を選択的に塗布して第2の厚さのプレコート層を形成することにより、第1および第2の部分を形成することができる。
【0088】
他の実施形態では、第1および第2の部分が、本開示の異なるプレコート配合物の選択的塗布によって得ることができる。すなわち、第1の部分は、第1のプレコート配合物を塗布することによって形成することができ、第2の部分は、第2のプレコート配合物を塗布することによって形成することができる。第1および第2のプレコート配合物(ともに本明細書に記載の配合物である)は、その化学組成、粘度、表面張力、化学反応性または他の任意のパラメータの少なくとも1つが異なるものであってもよい。第1および第2のプレコート配合物は、予め規定された第1および第2の部分に選択的に塗布することができ、あるいは、一方のプレコート配合物を表面上に均一に塗布し、他方のプレコート配合物をその上に選択的に塗布して、第1および第2の部分を得ることができる。
【0089】
いくつかの実施形態では、少なくとも2種のプレコート配合物を表面の各部分に塗布して、それら部分におけるプレコート配合物間の所定の比率を得ることができる。
【0090】
2種以上のプレコート配合物が同じ表面部分に塗布される場合、プレコート配合物の少なくとも1つは、配合物の成分の全てを含む必要はない。すなわち、プレコート配合物の少なくとも1つが、プレコート配合物の一部の成分しか含まずに、プレコート配合物の混合物が表面部分で得られたときに、その混合物が、各領域でプレコート層の機能の実現に必要な成分のすべてを含むようにしてもよい。例として、2種のプレコート配合物を同じ表面部分に印刷する場合、配合物の一方が界面活性剤を含み、他方が界面活性剤を含まないようにしてもよい。配合物が同じ表面部分に印刷される場合、それらの混合物が、その表面部分で所望の機能を実現するための所望の界面活性剤含量をもたらすようにしてもよい。
【0091】
2種以上のプレコート配合物が使用される場合、同じ印刷ノズルを使用して、連続印刷または同時印刷により、それらプレコート配合物を表面上に塗布するようにしてもよい。代替的には、配合物の各々は、印刷システムにおいて互いに隣接する専用のノズルから印刷されるものであってもよい。別の実施形態では、表面の所与の部分において、第1のプレコート配合物を塗布して第1の副層を形成し、その後、第2の異なるプレコート配合物をその上に塗布して第2の副層を形成するようにしてもよい。そのような実施形態では、プレコート層が、実際には、複数(少なくとも2つ)の副層から構成され、それにより、その部分にプレコートの多層構造を形成する。表面上の異なる部分は、そのようなプレコート多層構造の組成が変わるものであってもよい。すなわち、所定の多層構造部分において、第1のプレコート副層と第2のプレコート副層との間の厚さの比は、0:100%~100%:0の範囲で変化させることができる。例えば、ある部分では、第1のプレコート配合物の副層が、多層構造の厚さの40%を占めて、プレコート配合物の第2の副層が、多層構造の残りの60%を占める一方、隣接する部分では、第1のプレコート配合物の副層が、多層構造の厚さの50%を占めて、第2のプレコート配合物の副層が、多層構造の残りの50%を占めるようにしてもよい。
【0092】
そのような別の実施形態では、第1のプレコート配合物と第2のプレコート配合物との間の比率が、単一の表面部分内の様々な位置で異なるようにしてもよい。例えば、第1のプレコート配合物は、厚さが徐々に増加する(または徐々に減少する)第1の副層の表面部分上に塗布することができ、第2の異なるプレコート配合物の第2の副層は、相補的な徐々に変化するプロファイルを有するように第1の副層上に塗布することができる。言い換えれば、第1の副層が、上記部分で横方向に沿って徐々に厚さが減少する場合、第2の副層は、同じ横方向に沿って相補的に徐々に厚さが増加し、その結果、最終的に形成される多層構造が、基材と実質的に平行な上面を有するものとなる。そのような多層構成では、第1のプレコート配合物と第2のプレコート配合物の比率が、横方向に沿った任意の位置で100%:0~0:100%の範囲となる。
【0093】
当業者に理解されるように、プレコート副層が互いに重なり合って印刷される一方で、配合物が依然として実質的に未硬化状態にあるような構造においては、界面領域が副層間に形成されることがある。そのような界面領域では、100%:0と0:100%との間の所定の比率で第1および第2のプレコート配合物の混合物を形成することができる。
【0094】
第1の部分および第2の部分は、任意の所望の形状または輪郭を有するものであってもよい。
【0095】
第1および第2の部分の厚さは異なっていてもよい。すなわち、第2の部分の厚さは、第1の部分より厚くてもよい。各部分のプレコートの厚さは、本明細書中で説明するように、その上に塗布されるパターニング配合物の液滴の作用を決定することができる。
【0096】
いくつかの実施形態では、プレコート配合物を表面上に塗布して、第1の厚さおよび/または第1のプレコート配合物の複数の離間した第1の部分と、第2の厚さおよび/または第2のプレコート配合物の複数の離間した第2の部分とを形成する。
【0097】
他の実施形態では、第1および第2の部分が、表面上に交互に配置される。いくつかの他の実施形態では、第1および第2の部分の各々が、部分の順序付けられた配列を形成する。
【0098】
いくつかの実施形態によれば、第1および第2の部分は、表面上で互いに一体的であり、すなわち連続しており、各第1の部分が少なくとも1つの位置で少なくとも1つの第2の部分と接触し、第2の部分の各々が少なくとも1つの第1の部分および少なくとも1つの更なる部分と接触する。
【0099】
第1の波長による照射に曝されると、第1の部分、第2の部分および更なる部分におけるプレコート層の異なる厚さによって、異なる局所的硬化/重合/粘度を有するプレコート部分が得られる。同一の照射条件に曝された場合に、厚い部分(すなわち、第2の部分)は薄い部分(すなわち、第1の部分)よりも高い硬化度および/または高い粘度を示すことが分かっている。
【0100】
プレコート層の厚さが薄い部分(すなわち、第1の部分)では、その部分の体積当たりの表面積が、より厚い部分(すなわち、第2の部分および更なる部分)の体積当たりの表面積よりも大きくなる。理論に拘束されることを望むものではないが、光開始剤、例えば、第1の光開始剤は、典型的には大気中の酸素に反応し易く、酸素化条件に曝すことによってしばしば分解または活性低下する。このため、その部分の体積当たりの表面積が大きいほど、大気中の酸素との相互作用による開始剤の分解の程度が大きくなり、その結果、体積当たりの表面積がより大きい部分における重合を防止または抑制することができる。いくつかの実施形態では、これにより、より低い重合度の第1の薄い部分(「より軟らかい」部分)と、より高い重合度の第2の厚い部分(「より硬い」部分)によって特徴付けられるプレコート表面を得ることが可能になる。
【0101】
第1の光開始剤の活性化の後、少なくとも1種のパターニング配合物が、プレコートされた表面上に塗布される。上述したように、所定の部分におけるプレコートの厚さは、いくつかの実施形態では、その上に塗布されるパターニング配合物の作用を決定することができる。第1の部分の重合度はより低いため、その上に塗布されるパターニング配合物の液滴はプレコートに浸透し、プレコート内に少なくとも部分的に組み込まれ、時には実質的に完全に組み込まれる一方で、重合度の高い第2の部分上に塗布されるパターニング配合物の液滴は、プレコート内に全くまたは実質的に浸透することなく、プレコートの上に留まることとなる。
【0102】
同様の効果は、表面の異なる部分に異なるプレコート配合物を塗布することによって得ることができ、例えば、光開始剤の種類、含有量または比率の異なる少なくとも2種のプレコート配合物を表面部分に選択的に塗布することによって、異なる硬化特性を有する部分を提供することができる。
【0103】
また、異なる表面部分間の差異は、各部分において、2種の異なるプレコート配合物を異なる比率で塗布することによって得ることもできる。すなわち、各部分が少なくとも2種の異なるプレコート配合物を含むようにして、それら配合物間の比率を0:100%~100%:0の範囲で変化させることにより、そこに塗布されるパターニング配合物の液滴の位置を制御することができる。
【0104】
本開示において、「・・・上に保持される」(または「・・・上に留まる」)という用語は、第2の部分上に塗布されたパターニング配合物の液滴が、プレコート配合物内に実質的に染み込むことなく、あるいは組み込まれることなく、プレコート配合物の表面上に留まることを意味する。この用語は、第2の部分上に塗布されたパターニング配合物滴の体積の最大約20%がプレコート内に組み込まれることも包含する。同様に、「少なくとも部分的に組み込まれる」という用語は、第1の部分上に塗布されたパターニング配合物の液滴の体積の少なくとも約20%がプレコート内に組み込まれることを意味する。時には、パターニング配合物滴は、プレコートの第1の部分内に実質的に完全に組み込まれ、典型的にはその体積の75%以上がプレコート内に組み込まれる。
【0105】
異なる部分でプレコートの厚さが変わることに起因するパターニング配合物の浸透の違いは、滑らかな肌の色調の印刷、顔料のグラデーション効果、および比較的大きな表面上のスポット領域を可能にする。そのような組み込みは、高度に制御可能な方式で様々なパターニング配合物を互いに重ね合わせて積層するために利用されるものであってもよい。
【0106】
より硬いプレコート部分では、プレコート内へのパターニング配合物の実質的な浸透は生じない。これは、例えば、エンボス効果、シャープネス効果および微細なレタリングパターンを作り出すために使用することができる。
【0107】
上述したように、パターニング配合物の塗布は、ウェットオンウェット・プロセスで行われ、印刷シーケンスにおいて次のパターニング配合物を塗布する前に、各パターニング配合物を乾燥および/または硬化させる必要がない。これは、印刷中のパターニング配合物の物理的および化学的固定の両方を促進するプレコート配合物の固有の特性によって可能になる。
【0108】
パターン印刷が完了すると、表面全体が第2の波長による照射に曝され、それにより、単一の硬化ステップで印刷パターン全体を重合させることができる。
【0109】
パターン形成
上述したように、本開示のプレコート配合物は、様々なパターン形成方法において様々なパターン化表面を得るために使用されるものであってもよい。
【0110】
本開示は、別の態様では、表面をパターニングする方法であって、
-表面領域上に少なくとも1種のプレコート配合物をパターニングしてパターン化領域を形成するステップであって、パターン化領域のうちの少なくとも2つが、化学的および物理的特性の少なくとも一方において互いに異なる、ステップと、
-プレコート配合物の部分的(すなわち、限定的な)硬化を可能にする条件に、プレコート配合物を曝すステップと、
-パターン化領域上に少なくとも1種のパターニング配合物を塗布するステップであって、パターン化領域上に塗布された少なくとも1種のパターニング配合物がプレコート配合物と相互作用し、パターニング配合物とプレコート配合物との間の相互作用が、化学的および物理的特性によって決定され、それにより、(i)パターニング配合物がプレコート内に少なくとも部分的に組み込まれているか、または(ii)パターニング配合物がプレコートの上に保持される、ステップと、
-プレコート配合物およびパターニング配合物の硬化の完了を可能にする条件に、表面を曝し、それによりパターン形成された表面を得るステップとを含む方法を提供する。
【0111】
このような方法では、プレコート配合物が、先ず、パターン形成される物品の表面上に塗布され、プレコートの少なくとも2つの領域が表面上に形成される。2つの領域は、化学的特性および物理的特性のうちの1または複数において異なる。特性の違いは、その後の方法ステップで塗布されるパターニング配合物の液滴の作用を決定する。すなわち、プレコート配合物上に塗布されるパターニング配合物は、表面の異なる領域におけるプレコート配合物と別様に相互作用し(すなわち、化学的および/または物理的相互作用を受け)、(i)パターニング配合物がプレコート内に少なくとも部分的に組み込まれるか、または(ii)パターニング配合物がプレコートの上に保持される。このため、パターニング配合物のプレコートへの浸透度は、表面の異なる領域におけるプレコート層の化学的特性および物理的特性のうちの少なくとも1つの相違によって決定される。
【0112】
上述したように、「・・・上に保持される」は、第2の領域上に塗布されたパターニング配合物の液滴が、プレコート配合物内に実質的に染み込むことなく、あるいは組み込まれることなく、プレコート配合物の表面上に留まることを意味する。この用語は、第2の領域上に塗布されたパターニング配合物滴の体積の最大約20%がプレコート内に組み込まれることも包含する。同様に、「少なくとも部分的に組み込まれる」という用語は、第1の領域上に塗布されたパターニング配合物の液滴の体積の少なくとも約20%がプレコート内に組み込まれることを意味する。時には、パターニング配合物滴は、プレコートの第1の領域内に実質的に完全に組み込まれ、典型的にはその体積の75%以上がプレコート内に組み込まれる。
【0113】
「表面」、「領域」、「パターン」および「基材」という用語は、プレコート配合物の態様および実施形態に関連して先に述べたのと同じ意味を有する。
【0114】
「塗布」という用語は、所望の領域を得るためのプレコート配合物の塗布、典型的には制御された(または選択的な)塗布を包含することを意図している。プレコートの塗布は、手動または自動で行うことができる。プレコートの塗布は、各領域で所望の物理的および/または化学的特性を得るために、選択された領域の各々にプレコート配合物滴を選択的に塗布することによって行うことができる。代替的には、先ず、表面全体にプレコート配合物を塗布して第1の特性のプレコート層を形成し、続いて、所望の領域にプレコート配合物を選択的に塗布して異なる特性の領域を形成することにより、それら領域を形成するようにしてもよい。代替的には、異なる特性の領域は、特性が異なる少なくとも2種のプレコート配合物を選択的に塗布することによって得ることができる。
【0115】
いくつかの実施形態では、プレコート配合物の層を塗布し、プレコートされた表面の領域を硬化条件に選択的に曝して、そのような条件に曝された領域を少なくとも部分的に硬化させ、それにより、異なる化学的および/または物理的特性を有するプレコートの様々な領域を提供することによって、異なる特性の領域を得ることができる。
【0116】
「プレコート配合物」は、典型的には、少なくとも1種の重合性成分(モノマー、オリゴマーまたは架橋性ポリマー鎖など)を含む。プレコートはさらに、架橋剤、光開始剤、顔料、希釈剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、充填剤、界面活性剤、安定剤などの様々な添加剤を含むようにしてもよい。いくつかの実施形態では、プレコート配合物が(少なくとも可視光スペクトルの波長に対して)透明である。いくつかの実施形態では、プレコート配合物が、「プレコート配合物」の欄に記載した配合物である。
【0117】
プレコート層の異なる領域は、それぞれの特性が異なるように設計されている。「化学的および/または物理的特性」は、領域間の同じ特性の違いを包含することを意図している。換言すれば、同じ特性が2つの領域の各々において別様に現れる。非限定的な例として、それら領域は、それぞれの厚さ、粘度、硬度(すなわち、物理的特性)および/またはそれぞれの化学組成(すなわち、化学的特性)によって異なる。いくつかの実施形態では、それら領域は、化学的および物理的特性の一方が異なる。他の実施形態では、それら領域は、その化学的および物理的特性のうちの少なくとも1つが異なる。いくつかの他の実施形態では、それら領域は、少なくとも1の化学的特性と少なくとも1の物理的特性の両方が異なる。
【0118】
いくつかの実施形態によれば、パターン化領域の少なくとも2つの間で異なる化学的または物理的特性は、パターン化領域の組成、硬化度、粘度、粘着性、表面構造、表面張力、厚さ、化学反応性およびpHのうちの少なくとも1つである。
【0119】
いくつかの実施形態では、化学的または物理的特性が、パターン化領域の組成である。すなわち、プレコート層の表面領域は、例えば、特定の成分の存在または欠如において、成分の絶対量において、あるいは種々の成分間の比率などにおいて、化学組成が互いに異なる。そのような違いは、いくつかの実施形態では、「プレコート配合物」の欄に記載したなかの1または複数であってもよい。
【0120】
いくつかの実施形態によれば、少なくとも2つのパターン化領域の各々が少なくとも1種の光開始剤を含む。そのような実施形態では、少なくとも2つのパターン化領域の各々が異なる光開始剤を含むことができる。他の実施形態では、少なくとも2つのパターン化領域の各々が異なる量の光開始剤を含む。いくつかの他の実施形態では、少なくとも2つのパターン化領域の各々が光開始剤の異なる組合せを含む。
【0121】
いくつかの実施形態によれば、パターン化領域が少なくとも2種の光開始剤を含む。
【0122】
光開始剤は、予め選択された波長による照射によって活性化可能である。このため、複数の光開始剤を含むプレコート配合物では、光開始剤の各々が、様々な波長、多くの場合、異なる波長で活性化可能である。これは、後述するように、各領域における硬化度を調整する能力を提供する。
【0123】
「光開始剤」および「波長」という用語は、先に定義した通りである。
【0124】
プレコート配合物が少なくとも2種の光開始剤を含むいくつかの実施形態では、少なくとも2種の光開始剤のうちの第1の光開始剤が、第1の波長の照射に曝されると、プレコート配合物の部分的硬化を引き起こす。そのような実施形態では、第1の波長を約365nm~約470nmとすることができる。
【0125】
他の実施形態では、少なくとも2種の光開始剤のうちの第2の光開始剤が、第2の波長による照射に曝されると、プレコート配合物の硬化を完了させる。そのような実施形態では、第2の波長を約200nm~約470nmとすることができる。
【0126】
プレコート配合物が少なくとも2種の光開始剤を含む他の実施形態では、第1および第2の光開始剤がともに、同じ波長による照射に曝されたときに、プレコート配合物の少なくとも部分的硬化を引き起こすが、各光開始剤が異なる照射パワーで活性化される。
【0127】
なお、第1および第2の光開始剤は、同じ化学分子によって構成できることにも留意されたい。そのような場合、分子は2つの異なる部分を含み、その第1の部分が第1の波長によって活性化可能であり、他の部分が第2の波長によって活性化可能である。そのような場合、第1の光開始剤は、第1の波長の照射に曝されたときに完全に消費されることはなく、配合物が第2の波長の照射に曝されたときに残りが活性化される。
【0128】
「部分的硬化」という用語は、適切な条件に曝されたときのプレコート配合物の不完全な重合(または不完全な硬化)、多くの場合限られた重合を指す。そのような部分的硬化は多くの場合、プレコート配合物の粘度の増加を伴う。すなわち、部分的硬化を可能にする条件に曝された場合、プレコート配合物は、0.1%~99%、典型的には最大で50~75%の程度まで部分的に硬化されるものであってもよい。換言すれば、上記条件に曝されたときに、プレコート配合物中の重合性分子の0.1~99%、より典型的には最大で50~75%が重合され、それによりプレコート層の粘度が増加する。
【0129】
なお、部分的硬化および完全硬化は、本明細書に記載の光開始剤の使用によって達成できることに留意されたい。しかしながら、部分的硬化および完全硬化は、プレコート配合物中の重合性分子の少なくとも一部の重合を引き起こすか、かつ/または粘度の所望の増加を引き起こす、他の適切な機構、手段または条件によっても達成することができる。
【0130】
このため、いくつかの実施形態では、「部分的硬化を可能にする条件」が、規定された帯域/波長の放射線源による照射への曝露、磁気源への曝露、電場への曝露、電子ビームによる照射、暗部硬化、IR放射線への曝露、または高温または低温への暴露のなかから選択される1または複数の条件である。所望の差異を得るために、十分な時間、部分的硬化を可能にする条件を適用することができ、すなわち、プレコート領域を上記条件に曝すことができる。そのような期間は、例えば、数マイクロ秒から数分の範囲とすることができる。
【0131】
領域の化学組成が異なる例示的で非限定的な例では、領域の一部における光開始剤が、部分的硬化の条件に曝されたときに活性化されるが、異なる領域に存在する異なる光開始剤は活性化されることがなく、それにより異なる硬化度を有する領域を提供するようにしてもよい。このため、いくつかの実施形態では、パターン化領域の少なくとも2つの硬化度が異なる。
【0132】
領域の化学組成が異なる別の例示的で非限定的な例では、領域の一部における重合性部分が、第1の温度に曝されると活性化される一方、異なる領域に存在する他の重合性部分が、異なる第2の温度で活性化され、それにより、異なる硬化度を有する領域を提供するようにしてもよい。
【0133】
いくつかの実施形態では、パターン化領域の少なくとも2つは、その粘度が異なる。粘度の差は、当業者に知られている任意の手段、すなわち、各領域におけるプレコート配合物の粘度および/または分子量を変化させること、異なるプレコート配合物の領域において粘度調整成分を追加または除去すること、あるいは異なる領域からの溶剤の選択的蒸発などによって、得ることができる。
【0134】
上述したように、プレコート配合物は、典型的には液体形態であり、部分的硬化(さらに完全な硬化)は、多くの場合、プレコート配合物の半凝固および/またはゲル化として観察される粘度の増加を伴い、すなわち、プレコート配合物の粘度が増加すると、その領域は、加えられる応力に対する耐性が増加する。そのような半凝固は、表面上へのプレコート配合物の十分な固定を可能にする一方で、その完全な重合(または乾燥)を待たずにプレコート層上にパターニング配合物を塗布する能力を有する。すなわち、様々な領域の粘度(および/または硬化度)の差異は、そのような塗布の間に硬化/乾燥工程を必要とせずに、プレコート層上へのパターニング配合物の塗布および固定を可能にし、それにより、いわゆる「ウェットオンウェット」(または「ウェットオンセミウェット」)印刷を可能にする。
【0135】
いくつかの実施形態では、プレコート配合物中の重合可能な種の完全な重合を得ることないが、表面上に塗布されたプレコート配合物の粘度を増加させ、部分的に硬化した領域を粘着性にして、その上に他の配合物、例えば、パターニング配合物の塗布を可能にするために、光開始剤が使用される。そのような光開始剤の非限定的な例としては、ピペラジンベースのアミノアルキルフェノン(Omnipol 910)、カルボキシメトキシチオキサントンおよびポリテトラメチレングリコールのジエステル(Omnipol TX)、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(irgacure 819)または4-ヒドロキシベンゾフェノンラウレート(Omnirad 4HBL)が挙げられる。
【0136】
他の実施形態では、粘度の増加または部分的硬化を可能にする適当な条件(例えば、規定された帯域/波長の放射線源による照射、磁気源への曝露、電場への曝露、電子ビームによる照射、暗部硬化、IR放射線への曝露、または高温または低温への暴露など)を適用することによって、粘度の増加が達成される。
【0137】
いくつかの実施形態では、領域間の粘度の差が、1桁または数桁であってもよい。例えば、領域の一部は1センチポアズの数十分の1の粘度を有することができ、他の領域は数百センチポアズ、数千センチポアズまたはそれ以上の粘度を有することができる。
【0138】
いくつかの実施形態によれば、領域間で異なる別の特性は、それぞれの厚さである。すなわち、一部のプレコート領域は、他のプレコート領域と異なる厚さを有することになる。
【0139】
いくつかの実施形態では、少なくとも2つのパターン化領域が、(a)第1の厚さのプレコートでコーティングされた少なくとも1の第1の領域と、(b)第1の厚さより大きい第2の厚さのプレコートでコーティングされた少なくとも1の第2の領域とを備え、(i)部分的硬化の後に第1の領域上に塗布されたパターニング配合物がプレコート内に少なくとも部分的に組み込まれ、(ii)第2の領域上に塗布されたパターニング配合物がプレコートの上に保持される。
【0140】
いくつかの実施形態では、第1の領域、第2の領域および更なる領域の厚さが異なり、第2の領域は第1の領域よりも厚く、更なる領域は第1の領域と第2の領域の両方よりも厚い。いくつかの実施形態では、第2の厚さが、第1の厚さよりも少なくとも5%、典型的には少なくとも10%、または少なくとも15%大きい。
【0141】
いくつかの実施形態では、プレコートを表面に塗布して、第1の厚さの複数の離間した第1の領域と、第2の厚さの複数の離間した第2の領域とを形成する。
【0142】
他の実施形態では、第1および第2の領域が表面上に交互に配置される。いくつかの他の実施形態では、第1および第2の領域の各々が、領域の規則的な配列を形成する。
【0143】
いくつかの実施形態によれば、第1および第2の領域(および更なる領域)が表面上で互いに一体的、すなわち連続的であり、第1の領域の各々が、少なくとも1つの位置において少なくとも1つの第2の領域と接触し、第2の領域の各々が、少なくとも1つの第1の領域および少なくとも1つの更なる領域と接触している。
【0144】
他の実施形態では、少なくとも1つの第1の領域および少なくとも1つの第2の領域が一体的であり、プレコート配合物のラインパターンを形成する。そのような実施形態では、ラインパターンが、本明細書中でさらに説明するように、ラインパターンに沿って徐々に増加または減少する厚さを有することができる。
【0145】
領域の厚さが変化する場合、プレコートされた表面を部分的硬化条件に曝すと、プレコート配合物の部分的硬化および/または粘度の増加が生じる。第1の領域、第2の領域および更なる領域におけるプレコートの異なる厚さは、異なる局所的硬化/粘度を有するプレコート領域を得ることを可能にする。部分的硬化を可能にする同一の条件に曝された場合に、厚い領域(すなわち、第2の領域)は薄い領域(すなわち、第1の領域)よりも高い硬化度および/または高い粘度を示すことが分かっている。
【0146】
より薄い領域(すなわち、第1の領域)では、領域の体積当たりの表面積が、より厚い領域(すなわち、第2の領域および更なる領域)の体積当たりの表面積よりも大きい。理論に拘束されることを望むものではないが、硬化プロセスは大気中の酸素の影響を受け易く、しばしば酸素化条件に曝すことが妨げられる。
【0147】
例えば、光開始剤がプレコート配合物を部分的に硬化するために使用される場合、酸素への暴露は、光開始剤を抑制し、分解し、または活性低下させる可能性がある。そのような場合、領域の体積当たりの表面が大きいほど、大気中の酸素との相互作用による開始剤の分解(または活性低下)の程度が大きくなり、その結果、領域の体積当たりの表面が大きい領域における硬化を防止または抑制することができる。これにより、本発明の方法では、より低い硬化度の第1の薄い領域(「より軟らかい」領域)と、より高い硬化度の第2の厚い領域(「より硬い」領域)によって特徴付けられるプレコート表面を得ることが可能になる。
【0148】
このため、プレコートの異なる厚さおよび/または異なる配合物が、異なる硬化度をもたらし、それにより異なる特性の領域をもたらす。パターニング配合物の液滴が各領域上に塗布されると、それぞれの特性の相違により、パターニング配合物が異なる領域でプレコート配合物と別様に相互作用する。
【0149】
第1の領域がより低い硬化度を有する(すなわち、より柔らかいプレコート部分を形成する)ため、その上に塗布されるパターニング配合物の液滴はプレコートに浸透し、それによりプレコート内に少なくとも部分的に組み込まれ、時には実質的に完全に組み込まれる一方で、より高い硬化度を有する第2の領域上に塗布されたパターニング配合物の液滴は、時にはプレコート内に全くまたは実質的に浸透することなく、プレコートの上に留まることとなる。
【0150】
異なる部分でプレコートの特性が変わることに起因するパターニング配合物の浸透の違いは、滑らかな肌の色調の印刷、顔料のグラデーション効果、および比較的大きな表面上のスポット領域を可能にする。そのような組み込みは、高度に制御可能な方式で様々なパターニング配合物を互いに重ね合わせて積層するために利用されるものであってもよい。
【0151】
より硬いプレコート部分では、プレコート内へのパターニング配合物の実質的な浸透は生じない。これは、例えば、エンボス効果、シャープネス効果および微細なレタリングパターンを作り出すために使用することができる。
【0152】
「パターニング配合物」は、典型的には、プレコート配合物と同じまたは異なる少なくとも1種の重合性成分(モノマー、オリゴマーまたは架橋性ポリマー鎖など)および少なくとも1種の顔料を含む。2種以上のパターニング配合物を塗布する場合、各パターニング配合物は異なる顔料を含むことができる。例えば、本発明の方法では、先ず、透明なプレコート配合物を塗布して表面上に透明なプレコート層を形成し、その後、その上に、少なくとも4種のパターニング配合物であって、その各々が、例えばCMYKカラーとしても知られているシアン、マゼンタ、イエローおよびブラック(またはキー)から選択される異なる顔料を含むパターニング配合物を塗布する。
【0153】
「顔料」は、パターニング配合物に所望の色または他の所望の特性を与える化学物質である。いくつかの実施形態では、顔料が、発色団、塩、カプセル化顔料粉末、サーモクロミック顔料、蛍光顔料、セキュリティタグ付け剤、無機顔料、有機顔料、または当技術分野で知られている任意の他の適切な形態から選択される。この用語は、金属粒子、導電性顔料、磁性粒子、ガラスまたはセラミック粒子(フリット)、発光顔料なども包含する。
【0154】
パターニング配合物はさらに、架橋剤、光開始剤、希釈剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、充填剤、界面活性剤、安定剤、金属粒子、導電性粒子、磁性粒子などの種々の添加剤を含むようにしてもよい。
【0155】
いくつかの実施形態では、プレコート配合物およびパターニング配合物が、互いに化学的に反応することができる。このため、そのような実施形態によれば、少なくとも1種のプレコート配合物が、パターニング配合物中の相補的作用物質と化学的に反応することができる作用物質を含むことができる。いくつかの実施形態では、作用物質が酸または酸性部分であってもよく、相補的作用物質が塩基または塩基性部分であってもよい。
【0156】
本発明の方法は、少なくとも1種のパターニング配合物を塗布する前に、少なくとも1種の中間配合物を塗布するステップをさらに含むことができる。いくつかの実施形態では、中間配合物が、白色顔料または任意の既知の白色粉末(シリカ、アルミナ、他の金属酸化物、タルク、粘土など)を含む。
【0157】
2種以上の中間配合物が同じ表面部分に塗布される場合、中間配合物の少なくとも1つは配合物の成分の全てを含む必要はない。すなわち、中間配合物の少なくとも1つが、中間配合物の一部の成分しか含まずに、中間配合物の混合物が表面部分で得られたときに、その混合物が、その領域における中間層の機能の実現に必要な成分のすべてを含むようにしてもよい。例として、2種の中間配合物を同じ表面部分に印刷する場合、配合物の一方が界面活性剤を含み、他方が界面活性剤を含まないようにしてもよい。配合物が同じ表面部分に印刷される場合、それらの混合物が、その表面部分で所望の機能を実現するための所望の界面活性剤含量をもたらすようにしてもよい。
【0158】
2種以上の中間配合物が使用される場合、同じ印刷ノズルを使用して、連続印刷または同時印刷により、それら中間配合物を表面上に塗布するようにしてもよい。代替的には、配合物の各々は、印刷システムにおいて互いに隣接する専用のノズルから印刷されるものであってもよい。
【0159】
いくつかの実施形態によれば、パターニング方法が、少なくとも部分的に硬化したプレコート層上に少なくとも1種の中間配合物を予め塗布するステップを含み、他の実施形態では、少なくとも1種のパターニング配合物を塗布する直前に、中間配合物がプレコート層上に塗布される。中間配合物は、パターン設計に従って、基材の表面全体またはその所望のセクション上に塗布することができる。いくつかの実施形態では、少なくとも1種の中間配合物が、少なくとも1種のパターニング配合物中の相補的作用物質と化学的に反応することができる作用物質を含む。
【0160】
他の実施形態では、表面のいくつかのセクションがある中間配合物で印刷され、他のセクションが別の異なる中間配合物で印刷されるものであってもよい。いくつかの他の実施形態では、セクションの一部が単一の中間配合物で印刷され、他のセクションが少なくとも2種の中間配合物で印刷されるようにしてもよい。
【0161】
いくつかの実施形態では、中間配合物がプレコート配合物と同様の機能成分を有する。すなわち、そのような実施形態では、中間配合物が、1種以上の光開始剤(プレコート配合物中のものと同じかまたは異なる光開始剤)を含むことができ、パターニング配合物中の1種以上の相補的な化学基との化学的相互作用のための官能基などを含むことができる。中間配合物のパターンは、プレコートのパターンまたはパターニング配合物のいずれかのパターンと同じであっても、異なっていてもよい。いくつかの実施形態では、プレコートが、表面のより大きな部分を覆い、中間配合物が、プレコートのより小さな領域または異なる設計または構造の一部を覆い、さらに、パターニング配合物を印刷することによって得られる最終印刷パターンが、プレコート設計または構造および中間配合物の設計または構造の両方とは異なる設計または構造を有する。
【0162】
パターニング配合物を塗布した後、コーティングされた表面は、硬化の完了を可能にする条件に曝され、それによりパターン化された表面を得る。すなわち、本発明の方法では、硬化の完了を可能にする条件への暴露が、パターニング(すなわち、所望のパターン全体の印刷)の完了後にのみ行われ、それによって、異なるパターニング配合物それぞれの塗布の間にパターンを少なくとも部分的に硬化する必要性を回避する。これにより、プレコート内の異なるパターニング配合物のいくつかの層の積層がプロセス効率的な方法で可能になることに加えて、印刷されたパターン全体の硬化(すなわち、すべてのパターン層の硬化)が層毎またはパス毎ではなく、単一のプロセスステップで実施されるため、相対的に耐久性のあるコーティングを得ることも可能になる。
【0163】
上述したように、「硬化の完了を可能にする条件」は、規定された帯域/波長の放射線源による照射への曝露、磁気源への曝露、電場への曝露、電子ビームによる照射、暗部硬化、IR放射線への曝露、または高温または低温への暴露のうちの少なくも1つを指し、部分的に硬化したプレコートの重合プロセスは、典型的には少なくとも80%(時には、少なくとも90%、95%またはそれ以上)の硬化度まで継続することが可能である。コーティングされた表面は、プレコートおよびパターニング配合物の実質的に完全な硬化を可能にする期間、上述した条件に曝される。
【0164】
いくつかの実施形態では、コーティングされた表面が硬化完了条件に曝される時間が、0.1秒~10秒の間で変化する(例えば、0.1秒~10秒間、800~1600WのUVランプに曝す)ようにしてもよい。
【0165】
他の実施形態では、硬化完了条件が、200ナノメートル~470ナノメートルの波長のUV放射線源による照射を含む。
【0166】
いくつかの実施形態によれば、プレコート配合物が、少なくとも2種の光開始剤を含み、第1の光開始剤が上述した部分的硬化条件によって活性化され、第2の開始剤が上述した硬化完了条件によって活性化される。
【0167】
他の実施形態によれば、部分的硬化のために使用される放射波長と完全硬化のために使用される放射波長が実質的に同じであるが、部分的硬化が、同波長へのより短い曝露、放射線の異なる強度、またはその両方の組合せによって行われる。いくつかの他の実施形態によれば、異なる放射波長が、部分的硬化および完全硬化のために使用される。いくつかの他の実施形態によれば、部分的硬化条件および完全硬化条件が、放射波長、曝露時間および放射強度のすべてにおいて異なる。
【0168】
上述したように、プレコート配合物が少なくとも2種の光開始剤を含む場合には、第1の光開始剤が、部分的硬化条件に曝されると活性化可能であり、第2の光開始剤が、硬化完了条件に曝されると活性化可能である。例えば、第1の光開始剤は、約365~470nmの第1の波長への曝露によって活性化可能であり、第2の光開始剤は、第1の光開始剤の活性化波長とは十分に異なる波長への曝露によって活性化可能である。いくつかの実施形態では、第2の波長が約200~470nmである。
【0169】
なお、第1および第2の光開始剤は、同じ化学分子によって構成できることにも留意されたい。そのような場合、分子は2つの異なる部分を含み、その第1の部分が第1の波長によって活性化可能であり、他の部分が第2の波長によって活性化可能である。そのような場合、第1の光開始剤は、第1の波長の照射に曝されたときに完全に消費されることはなく、配合物が第2の波長の照射に曝されたときに残りが活性化される。
【0170】
本発明の方法で使用されるプレコート配合物は、領域内のプレコートの厚さに応じて異なる硬化度の領域を得ることを可能にする任意のプレコート配合物であってもよい。同様に、本発明の方法における使用に適したパターニング配合物は、プレコートの硬化の程度に応じて、プレコート内への少なくとも部分的な組み込みまたはプレコート上での拡散を提供するものである。パターニング配合物は、典型的には、少なくとも1種の顔料を含む。
【0171】
本発明の別の態様では、パターン形成された物品であって、
-表面を有する物品と、
-表面の領域上のプレコート層であって、当該プレコート層がパターン化領域を形成し、パターン化領域のうちの少なくとも2つが、化学的および物理的性質の少なくとも一方において互いに異なる、プレコート層と、
-プレコート層と相互作用する少なくとも1のパターニング配合物層とを備え、パターニング配合物層とプレコート層との間の相互作用が、化学的または物理的特性によって決定され、パターニング配合物層が、(i)プレコート層内に少なくとも部分的に組み込まれるか、または(ii)プレコート層の上に保持されている物品が提供される。
【0172】
いくつかの実施形態では、物品が、プレコート層上に配置されて、プレコート層と相互作用する少なくとも1の中間組成物層をさらに含み、中間配合物層が、(i)プレコート層内に少なくとも部分的に組み込まれるか、または(ii)プレコート層の上に保持されている。
【0173】
本発明の別の態様では、パターン形成された物品であって、
-表面を有する物品と、
-表面の領域上のプレコート層であって、第1の厚さの少なくとも1の第1の領域と、第1の厚さより大きい第2の厚さの少なくとも1の第2の領域とを有するプレコート層と、
-パターニング配合物の少なくとも1のパターン層とを含み、当該パターン層が、(i)第1の領域内に少なくとも部分的に組み込まれ、かつ(ii)プレコート層の第2の領域の上に保持されている物品を提供する。
【0174】
いくつかの実施形態では、第2の厚さが、第1の厚さより少なくとも5%大きい。
【0175】
いくつかの実施形態では、プレコート層が、第1の厚さの複数の間隔を空けた領域と、第2の厚さまたは更なる厚さの複数の間隔を空けた領域とを含む。他の実施形態では、それら領域が、プレコート層内に交互に配置される。いくつかの他の実施形態では、それら領域の各々が、プレコート層内に領域の規則的な配列を形成する。
【0176】
いくつかの実施形態によれば、それら領域が、他の領域と一体化されている。すなわち、第1の領域の各々が、少なくとも1つの第2の領域と接触している。
【0177】
いくつかの実施形態では、プレコート層が、実質的に表面全体を覆う。
【0178】
いくつかの実施形態によれば、少なくとも1種のパターニング配合物が、顔料を含む。
【0179】
本発明の物品は、プレコート層とパターン層との間に配置された中間層を含む。そのような実施形態では、中間層が少なくとも1種の白色顔料を含むことができる。
【0180】
いくつかの実施形態では、物品の表面が凸状である。
【0181】
別の態様では、本発明が、パターン形成された物品であって、
-表面を有する物品と、
-規定された方向に沿って少なくとも1の化学的または物理的特性が徐々に変化する、表面上のプレコート層と、
-パターニング配合物の少なくとも1本の線とを含み、パターニング配合物が、(i)プレコート層の第1の領域内に少なくとも部分的に組み込まれ、かつ(ii)プレコート層の第2の領域の上に配置され、第1および第2の領域が互いに一体的である物品を提供する。
【0182】
本発明の更なる態様では、表面上にラインパターンを形成する方法であって、
-表面の少なくとも一部の上にプレコート配合物の層を形成するステップであって、前記層が、徐々に変動する厚さを有し、前記層の少なくとも1の第1の領域の厚さが、前記層の少なくとも1の第2の領域の厚さより少なくとも5%小さい、ステップと、
-表面へのプレコート配合物の部分的硬化を可能にする条件に前記層を曝すステップと、
-前記層上に少なくとも1種のパターニング配合物の少なくとも1本の線を塗布するステップであって、(i)第1の領域上に塗布されたパターニング配合物が前記層内に少なくとも部分的に組み込まれ、かつ(ii)第2の領域上に塗布されたパターニング配合物が、予備硬化されたラインパターンを得るために、第2の領域の上に保持される、ステップと、
-硬化の完了を可能にする条件に予備硬化されたラインパターンを曝して、表面上にラインパターンを得るステップとを含むことを特徴とする方法を提供する。
【0183】
別の態様では、本発明が、ラインパターンが形成された表面を有する物品であって、
-厚さが徐々に変化する、表面上のプレコート層であって、当該層の少なくとも1の第1の領域が、閾値厚さより小さい厚さを有し、当該層の少なくとも1の第2の領域が、閾値厚さより大きい厚さを有する、プレコート層と、
-パターニング配合物の少なくとも1本の線とを含み、パターニング配合物が、(i)第1の領域内に少なくとも部分的に組み込まれ、かつ(ii)プレコート層の第2の領域の上に配置されている物品を提供する。
【0184】
「ラインパターン」という用語は、線、直線または曲線に沿ったパターニング配合物の途切れない連続を示す。これは、徐々にかつ連続的に増加または減少するプレコート層の化学的または物理的特性の「漸次的な変化」によって可能になる。
【0185】
そのような可変特性の変化の具体例は、プレコート層の厚さの漸次的な変化である。厚さ閾値未満の厚さを有する領域では、ラインパターンがプレコート層内に少なくとも部分的に組み込まれ、プレコートの厚さが厚さ閾値よりも大きい領域では、ラインパターンが領域の表面上に形成される。これにより、部分的にプレコート層により封入され、かつ部分的に物品の表面に露出されるラインパターンの形成が可能になる。
【0186】
いくつかの実施形態では、プレコート層の厚さが、ラインパターンに沿って徐々に増加または減少する。
【0187】
いくつかの他の実施形態では、プレコート層がくさび状のプロファイル、すなわち一定の傾斜を有する連続的に増加または減少する厚さのプロファイルを有する。他の実施形態では、プレコート層が、連続的に交互に増加する厚さおよび減少する厚さのプロファイルを有する。
【0188】
当業者であれば、本開示の方法において、プレコート配合物、中間配合物および/またはパターニング配合物の何れか(またはすべて)の塗布を、任意の適切な技術、例えば、滴下、噴霧、ジェッティング、スミアリング、ペインティング、ブラッシング、エアーブラッシングなどによって行うことができることを理解するであろう。液滴形態の配合物を塗布する場合、液滴のサイズ/体積は、塗布ノズルの寸法および形状、塗布圧力、配合物の粘度、または当業者に知られている他の任意のパラメータによって制御することができる。
【0189】
本開示の方法およびそれにより得られるパターン形成された表面は、プレコートおよびパターニング配合物、すなわち、そのような方法に適した印刷インクを使用する必要がある。その印刷インクは、記載されていない印刷インクシステムであってもよい。
【0190】
印刷インクシステム
既に述べたように、本明細書に記載のインクシステムは、従来のインクジェット印刷とは異なり、高精度のインクジェット印刷、高解像度および光学濃度、並びに、パターンを表面上に固定するための硬化サイクルの最小化を可能にする。本発明のシステムは、従来の印刷配合物が高精度印刷および高解像度パターンを提供できない曲面上に印刷するのに適している。
【0191】
本開示は、別の態様では、印刷インクシステムであって、表面張力γを有するプレコート配合物と、表面張力γを有する少なくとも1種のパターニング配合物とを含み、周囲条件でγ<γであり、プレコート配合物が、少なくとも1種のパターニング配合物中の相補的作用物質と化学反応することができる作用物質を含むことを特徴とする印刷インクシステムを提供する。
【0192】
プレコート配合物および/またはパターニング配合物は、上述したものであってもよい。
【0193】
「印刷インクシステム」という用語は、本明細書中において簡潔に「システム」と称することがあるが、この用語は、少なくとも2種の異なるインク配合物を含み、各配合物が異なる特性のセットを有するマルチ配合物を包含することを意図している。このため、印刷インクシステムは、2,3,4,5,6、または7以上の異なるインク配合物を含むことができる。配合物は、典型的には液体であり、均質な溶液の形態(すなわち、各成分が配合物の他の成分に可溶性)であってもよく、または分散液または懸濁液の形態であり、配合物の一部の成分が配合物の他の成分に分散または懸濁されるものであってもよい。
【0194】
配合物の各々は、少なくとも異なる表面張力によって特徴付けられるものであってもよい。本発明において、「表面張力」は、表面エネルギーを最小にするための配合物の特性を指す。すなわち、表面張力は、凝集性を維持して露出する表面積を最小にするために、隣接分子によって表面分子に加えられる引力である。本明細書中で定義されるように、表面張力はγとして特定され、iが関連する配合物の数字を使った添字である。
【0195】
表面張力値は、「周囲条件」で与えられており、この周囲条件は、特に言及しない限り、大気圧および25℃の温度を指している。
【0196】
この開示によれば、システムが少なくとも2種の配合物を含み、そのうちの1つが表面張力γを有するプレコート配合物(上述した配合物であってもなくてもよい)であり、もう1つがγ<γとなるような表面張力γを有する少なくとも1種のパターニング配合物である。いくつかの実施形態では、γがγよりも少なくとも3mN/m大きい。
【0197】
印刷中、先ず、プレコート配合物を表面上に塗布し、続いてパターニング配合物の滴またはスポットを塗布することで、所望のパターンを得ることができる。理論に縛られることを望むものではないが、表面張力の違いは、異なる配合物の間で生じる化学反応と同様に、別のメカニズムであり、それにより、パターニング配合物のブリードまたはフェザリングが防止され、その結果、高いパターニング解像度と、プレコートとパターニング配合物との間の明確な(鮮明な)境界ラインを得ることができる。
【0198】
いくつかの実施形態では、システムが、少なくとも2種のプレコート配合物を含み、第1のプレコート配合物が表面張力γ を有し、第2のプレコート配合物がγ を有し、γ <γおよびγ ~γである。印刷時には、先ず、第1のプレコート配合物を表面上に印刷して、所望の表面上に十分に広がったプレコート層を形成し、その上に第2のプレコート配合物を印刷して、その後のパターニング配合物の印刷のための適切なベースを形成する。
【0199】
プレコート配合物は、典型的には透明であるが、少なくとも1種のパターニング配合物が、いくつかの実施形態では、顔料を含む。2種以上のパターニング配合物を含む場合、各パターニング配合物は異なる顔料を含むことができる。例えば、本発明のシステムは、表面上に透明なプレコート層を形成するための1種の透明なプレコート配合物と、4種類のパターニング配合物とを含み、各パターニング配合物が、異なる顔料、例えば、CMYKカラーとしても知られているシアン、マゼンタ、イエローおよびブラック(またはキー)から選択される顔料を含むことができる。
【0200】
各パターニング配合物の表面張力γと表面張力γとの間の差異は、顔料の望ましくない混合を防止する。それは、パターニング配合物の各滴が、表面張力の差により、プレコート層上に、時には少なくとも部分的にプレコート層内に物理的に固定されるからである。また、表面張力の差は、各印刷スポットまたは滴の広がりを制御および制限し、それにより印刷サイクル間の硬化の必要性を回避することもできる。色の混合が防止されるため、高い解像度も得られる。
【0201】
プレコート配合物の相対的に低い表面張力は、プレコート配合物の表面上への相対的に速くて均一な広がりを確保し、それにより、上面にパターンが印刷される均一な層を提供する。プレコート配合物は、その表面張力が様々な基材上への印刷に適するように設計されている。種々の表面張力および粗さレベルを有する基材上へのプレコートの適切なコーティング、すなわち広がりおよびレベリングを実現するために、いくつかの実施形態では、プレコートの表面張力γが、多くとも37mN/mである。いくつかの実施形態では、プレコート配合物が、約20~約37mN/m、約20mN/m~36mN/m、約20mN/m~35mN/m、または約20mN/m~33mN/mの表面張力γを有する。
【0202】
パターンの更なる固定は、化学反応によって得ることができる。このため、パターニング配合物は、接触時にプレコート配合物中の少なくとも1種の他の作用物質(以下に定義されるように、いわゆる「相補的作用物質」)と化学的に反応することができる「作用物質」を含む。2種以上のパターニング配合物が使用される場合、各パターニング配合物は、プレコート中の相補的作用物質と化学的に反応することができる異なる作用物質を含むことができる。
【0203】
「化学反応」は、当技術分野で公知の任意の反応、例えば、酸-塩基反応、レドックス反応、イオン結合、錯体形成などである。いくつかの実施形態では、作用物質および相補的作用物質が、それぞれ塩基部分および酸部分である。
【0204】
いくつかの実施形態によれば、「作用物質」は、塩基性官能基で官能化されたポリマー、オリゴマーまたはモノマーである。作用物質は、その炭素骨格に応じた塩基性(すなわち、塩基として反応する)官能基を有するポリマー、オリゴマーまたはモノマーであることを意図している。
【0205】
適切なポリマーの非限定的な例としては、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチルアクリレート、ポリ(エチルヘキシル)アクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリブチルメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、トリエトキシトリアクリレート(TMP(EO)TA)、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート、およびそれらの対応するモノマーであり、いくつかの実施形態では、それらが、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、ヒドロキシル基、アミドまたは他の塩基性官能基のなかから選択される塩基性基で官能化される。
【0206】
他の実施形態では、作用物質がアクリル化オリゴアミン樹脂またはアミン修飾アクリレートである。
【0207】
いくつかの実施形態では、「相補的作用物質」が、酸性官能基で官能化されたポリマーオリゴマーまたはモノマーである。相補的作用物質は、その炭素骨格に応じた酸性(すなわち、酸として反応する)官能基を有するポリマー、オリゴマーまたはモノマーであることを意図している。適切なポリマーの非限定的な例は、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチルアクリレート、ポリ(エチルヘキシル)アクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリブチルメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、トリエトキシトリアクリレート(TMP(EO)TA)、エポキシアクリレート、塩素化ポリエステルアクリレート、ポリアクリル酸、酸官能性アクリレート、酸官能性メタクリレートおよびそれらの対応するモノマーであり、いくつかの実施形態では、それらが、カルボキシル基、スルホン酸基(-SOOH)、チオールおよびエノールのなかから選択される酸性基により官能化される。
【0208】
いくつかの実施形態では、相補的作用物質が、モノ-2-アクリロイルオキシエチルフタレート(1,2-ベンゼンジカルボン酸)などの酸官能化化合物であってもよい。
【0209】
透明または着色表面上に印刷する場合、パターンを形成する前に、最初に着色、典型的には白色または不透明な中間層を形成することが望ましいときもある。この目的のために、いくつかの実施形態によれば、印刷インクシステムは、プレコート配合物とは区別可能な中間コート配合物をさらに含む。
【0210】
いくつかの実施形態では、中間配合物が少なくとも1種の他の顔料を含み、この顔料がパターニング配合物の顔料と同じか、または異なるものであってもよい。例えば、システムは、少なくとも1種の透明なプレコート配合物、少なくとも1種の白色中間配合物および少なくともパターニング配合物を含み、各パターニング配合物がCMYKカラーの1つを含むようにしてもよい。
【0211】
中間配合物はさらに、周囲条件でγ<γ≦γとなる表面張力γを有するように選択される。
【0212】
中間配合物はプレコート層上に塗布される。パターニング配合物と同様に、中間配合物の表面張力は、プレコートの表面張力よりも高い。このため、中間配合物は塗布されて、所望のパターン設計に従って、表面の特定の領域に物理的に固定、すなわち固定化される。その後、パターニング配合物が塗布されるが、このパターニング配合物は中間配合物の表面張力と少なくとも同等の表面張力を有し、時には中間配合物の表面張力よりも高い表面張力を有するため、印刷されたパターンは、プレコート層および中間層上に物理的に固定されたまま維持される。このため、いくつかの実施形態では、中間配合物の表面張力γがプレコートの表面張力γより少なくとも3mN/m大きい。
【0213】
2種以上の中間配合物が同じ表面部分に塗布される場合、中間配合物の少なくとも1つは配合物の成分の全てを含む必要はない。すなわち、中間配合物の少なくとも1つが、中間配合物の一部の成分しか含まずに、中間配合物の混合物が表面部分で得られたときに、その混合物が、その領域で中間層の機能の実現に必要な成分のすべてを含むようにしてもよい。例として、2種の中間配合物を同じ表面部分に印刷する場合、配合物の一方が界面活性剤を含み、他方が界面活性剤を含まないようにしてもよい。配合物が同じ表面部分に印刷される場合、それらの混合物が、その表面部分で所望の機能を実現するための所望の界面活性剤含量をもたらすようにしてもよい。
【0214】
中間配合物は、プレコートと同様に、パターニング配合物中の作用物質と化学的に反応することができる少なくとも1種の「他の相補的作用物質」を含むようにしてもよい。このため、表面張力の差によって得られる物理的固定に加えて、パターニング配合物は、そのような中間配合物が塗布されたときに、中間配合物との化学反応によって定位置にさらに固定される。
【0215】
他の実施形態では、プレコート配合物中の相補的作用物質および中間配合物中の他の相補的作用物質が同じである。
【0216】
いくつかの実施形態によれば、1つの他の相補的作用物質は、酸性官能基でそれぞれ官能化されたポリマー、オリゴマーまたはモノマーであり、その酸性官能基は、プレコート配合物のものと同じでも異なっていてもよい。
【0217】
当業者であれば分かるように、この開示は、プレコート配合物および/または中間配合物が作用物質を含み、パターニング配合物が本明細書で規定される相補的作用物質を含む組合せに限定されるものではない。すなわち、本開示は、パターニング配合物が作用物質を含み、プレコート配合物および/または中間配合物が相補的作用物質を含むシステムも包含する。本開示によって想定される他の可能な組合せには、(i)プレコート配合物が作用物質を含み、パターニング配合物が相補的作用物質を含むもの、(ii)プレコート配合物が相補的作用物質を含み、パターニング配合物が作用物質を含むもの、(iii)プレコート配合物が作用物質を含み、中間配合物が作用物質を含み、パターニング配合物が相補的作用物質を含むもの、(iv)プレコート配合物が相補的作用物質を含み、中間配合物が相補的作用物質を含み、パターニング配合物が作用物質を含むもの、(v)プレコート配合物が作用物質を含み、中間配合物が相補的作用物質を含み、パターニング配合物が相補的作用物質を含むもの、(vi)プレコート配合物が相補的作用物質を含み、中間配合物が作用物質を含み、パターニング配合物が作用物質を含むもの、(vii)プレコート配合物が相補的作用物質を含み、中間配合物が作用物質を含み、パターニング配合物が相補的作用物質を含むもの、並びに、(viii)プレコート配合物が作用物質を含み、中間配合物が相補的作用物質を含み、パターニング配合物が作用物質を含むものが含まれる。
【0218】
作用物質、例えば塩基性部分と、例えば酸性部分を有する相補的作用物質および他の相補的作用物質の少なくとも一つとの間の反応は、パターニング配合物の粘度を増加させる。この粘度の増加はさらに、プレコートおよび/または中間層上へのパターニング配合物の固定化を助ける。
【0219】
いくつかの実施形態では、少なくとも1種のパターニング配合物が初期粘度μ を有し、作用物質と相補的作用物質との間の化学反応時に、少なくとも1種のパターニング配合物の粘度が少なくともμへと1桁増加する。
【0220】
本開示において、「少なくとも1桁」は、初期値の少なくとも10倍、少なくとも100倍、少なくとも1,000倍、または少なくとも10,000倍の増加を意味する。すなわち、パターニング配合物の初期粘度μ は、作用物質と相補的作用物質の少なくとも1つとの化学反応の発生後に、少なくとも10μ に増加する。
【0221】
いくつかの実施形態では、μ が少なくとも10cps、少なくとも50cps、または少なくとも100cpsであり、μが少なくとも100、少なくとも50,000cpsまたは少なくとも100,000cpsである。
【0222】
なお、パターニング配合物とプレコート配合物および中間配合物の少なくとも一方との間の化学反応によって制御される粘度の増加は、プレコート配合物および中間配合物に対して塗布されるパターニング配合物の滴の位置も決定し得ることに留意されたい。
【0223】
すなわち、表面張力と様々な層の粘度変化との間のバランスを調整することによって、パターニング配合物の滴の位置を制御することができる。理論に縛られることを望むものではないが、表面張力と粘度との間のバランスを変化させることは、プレコートおよび/または中間コート層内にパターニング配合物の滴が組み込まれる程度を制御することにつながる。一般に、プレコート配合物の表面張力とパターニング配合物の表面張力との間の差が大きいほど、パターニング配合物の滴が横方向により広がり、その結果、印刷されたスポット/ドット間の高い解像度が得られる。さらに、固定の化学的特性、すなわちプレコート/中間配合物上に塗布されるパターニング配合物の粘度を増加させる化学反応が生じる速度を制御することにより、定位置におけるスポットの固定速度が決まる。このため、より遅い化学反応では、パターニング配合物の滴がプレコート/中間層内に少なくとも部分的に浸透することがある。表面張力の差と化学反応の速度/タイプとの間のバランスを変えることは、表面上に塗布されるパターニング配合物滴の位置、下部コーティング層へのそれらの浸透の深さ、および固定前のそれらの横方向の広がりの程度を制御するために使用される。これにより、各層または各パターニング配合物の印刷の間に硬化/乾燥プロセスを行うことを必要とせずに(すなわち、所与の印刷順序で異なる色の印刷の間に層を硬化させることを必要とせずに)、様々な印刷効果、高解像度のテキスト(すなわち、シャープな輪郭を有する文字)、エンボス効果、連続的な色の表面の効率的な印刷、高度に制御された色調のグラデーションなどを得ることができる。したがって、本発明のシステムは、「ウェットオンウェット」印刷プロセスとして所望のパターン全体を印刷することができ、印刷層の間における、および/または各層の印刷中における硬化ステップを回避し、それにより、貴重な印刷時間、コストを節減し、印刷生産ラインを簡素化することができる。
【0224】
印刷されたパターンを表面上に最終的に固定するために、パターンは、典型的には、所望の層すべての印刷後に、配合物の硬化(すなわち、重合または架橋)のために光源に曝される。このために、システム中の各配合物は、いくつかの実施形態によれば、少なくとも1種の光開始剤を個別に含むことができる。上述したように、光開始剤は、典型的には、活性化エネルギーのより低い反応経路を提供することによって、硬化メカニズムの1または複数のステップの速度を増加させるために使用される。
【0225】
いくつかの実施形態では、光開始剤がUV感受性、すなわち典型的には約200nm~470nmの波長のUV放射線によって活性化される。例示的で非限定的な光開始剤は、芳香族ケトン、有機ホスフィン、ベンジルペルオキシド、ベンゾフェノンなどである。なお、ポリマー光開始剤(すなわち、光開始剤であるポリマー剤)も適切であることを理解されたい。
【0226】
上述したように、「波長」は、放射帯域、すなわち(使用される照射源に応じて)広帯域または狭帯域となる波長の帯域における照射を意味する。この用語は、規定された(単一の)波長における単色光を包含することも意図している。
【0227】
また、上述したように、いくつかの実施形態では、システム配合物の特性が、プレコート層および中間層の一方または両方へのパターニング配合物の少なくとも部分的な浸透を可能にすべく、表面張力および化学反応の減衰により設計される。すなわち、パターニング配合物がプレコート層および中間層の一方または両方によって少なくとも部分的に被覆されることを可能にする様々な添加剤の添加によって、表面張力の差および化学反応の速度を調整することができる。
【0228】
いくつかの実施形態では、プレコート層または中間層上に塗布されると、パターンがプレコート層または中間層によってそれぞれ完全にコーティングされる。すなわち、パターニング配合物滴をプレコート/中間層内に完全に組み込むことができる。この結果、印刷された表面全体にわたって均一な厚さを有するパターン形成されたコーティングが得られる(すなわち、印刷された層の積み重ねにより印刷された層の高さに著しい差が生じることはない)。
【0229】
いくつかの実施形態によれば、システム中の各配合物は、希釈剤、界面活性剤、表面張力調整剤、フリーラジカルスカベンジャーおよび粘度調整剤のうちの少なくとも1つのような異なる添加剤を個別に含むようにしてもよい。
【0230】
いくつかの実施形態では、希釈剤を、少なくとも1種の(任意に置換された)脂肪族希釈剤、少なくとも1種の(任意に)置換された芳香族希釈剤およびそれらの混合物のなかから選択することができる。他の実施形態では、希釈剤が、アクリル酸エステル、ポリエーテルポリオールアクリレート、修飾ポリジメチルシロキサンなどのうちの1または複数である。
【0231】
顔料は、配合物中、典型的には中間配合物およびパターニング配合物中に、様々な形態で存在し得る。既に述べたように、「顔料」は、パターニング配合物を所望の色または他の所望の特性にする任意の化学物質である。いくつかの実施形態では、顔料が、発色団、塩、カプセル化顔料粉末、サーモクロミック顔料、蛍光顔料、セキュリティタグ付け剤、無機顔料、有機顔料、または当技術分野で公知の任意の他の適切な形態から選択される。この用語は、金属粒子、導電性顔料、磁性粒子、ガラスまたはセラミック粒子(フリット)、発光顔料なども包含する。いくつかの実施形態では、各顔料が、それぞれ発色団、有機塩、無機塩、酸化物、クロム酸塩などの形態にある。他の実施形態では、各顔料が、例えばマイクロカプセルまたはナノカプセルの形態で、シェル内にカプセル化されていてもよく、ここでシェルは、プレコート配合物またはプレコート配合物中の適当な分解添加剤と接触したときに分解可能とされる。
【0232】
いくつかの実施形態では、各配合物、すなわちプレコート配合物、中間配合物および少なくとも1種のパターニング配合物が溶剤を実質的に含まないため、印刷パターンを得るために蒸発または長時間の乾燥時間は必要ではない。プレコート配合物、中間配合物および/またはパターニング配合物を調製するために使用される1または複数の成分は溶液の形態であってもよく、すなわち、その中に特定の成分を溶解させるために使用される固有の溶剤を含むことができるため、「溶剤が実質的に存在しない」という用語は、配合物および/または印刷パターンの特性(例えば、粘度、表面張力、粘着性、硬化プロファイルなど)に有意な影響を及ぼさない濃度の溶剤を含むことを意図している。いくつかの実施形態では、プレコート配合物、中間配合物およびパターニング配合物がそれぞれ、微量の溶剤、すなわちプレコート配合物を配合するために使用される成分に由来する溶剤の不純物(例えば、最大5%の溶剤)を個別に含む。
【0233】
本発明は、別の態様では、印刷インクシステムであって、表面張力γを有するプレコート配合物と、表面張力γを有する中間配合物と、表面張力γを有する少なくとも1種のパターニング配合物とを含み、周囲条件でγ<γ≦γである印刷インクシステムを提供する。
【0234】
本発明は、別の態様では、表面にパターン、例えば2Dまたは3Dパターンを形成する方法であって、パターンを得るために、少なくとも1種のパターニング配合物を表面上に塗布するステップを含み、表面が、プレコート配合物により少なくとも部分的にプレコートされ、プレコート配合物が表面張力γを有し、少なくとも1種のパターニング配合物が表面張力γを有し、周囲条件でγ<γであり、少なくとも1種のパターニング配合物が、プレコート配合物中の相補的作用物質と化学的に反応することができる作用物質を含む方法を提供する。
【0235】
「表面」、「基材」、「セクション」、「領域」および「部分」という用語は、本明細書の前の章で説明したのと同じ意味を有する。
【0236】
いくつかの実施形態では、プレコートが予め表面上に塗布されるようにしてもよく、他の実施形態では、プレコート配合物が、パターニング配合物のいずれかを塗布する直前に表面上に塗布されるようにしてもよい。プレコートは、所望のパターンに従って、基材の表面全体またはその所望のセクション上に塗布することができる。
【0237】
いくつかの実施形態では、表面が、パターニング配合物を塗布する前に、少なくとも1種の中間配合物で処理され、中間配合物が、周囲条件でγ<γ≦γとなる表面張力γを有する。
【0238】
いくつかの実施形態によれば、中間配合物が予めプレコート層上に塗布されるようにしてもよく、他の実施形態では、中間配合物が、少なくとも1種のパターニング配合物を塗布する直前にプレコート層上に塗布されるようにしてもよい。中間配合物は、パターン設計に従って、基材の表面全体またはその所望のセクション上に塗布することができる。
【0239】
中間配合物のパターンは、プレコートのパターンまたは印刷パターンのいずれかと同じであっても、同じでなくてもよい。いくつかの実施形態では、プレコートが、表面のより大きな部分を覆い、中間配合物が、プレコートのより小さな領域または異なる設計または構造の一部を覆い、さらに、パターニング配合物を印刷することによって得られる最終印刷パターンが、プレコート設計または構造および中間層設計または構造の両方とは異なる設計または構造を有する。
【0240】
いくつかの実施形態では、パターニング配合物が少なくとも1種の顔料を含む。他の実施形態では、中間配合物が少なくとも1種の他の顔料を含む。いくつかの他の実施形態では、上記少なくとも1種の他の顔料が、上記少なくとも1種の顔料とは異なる。
【0241】
いくつかの実施形態によれば、パターニング配合物は、プレコート配合物および中間配合物の一方または両方における相補的な作用物質と化学的に反応することができる作用物質を含む。このため、本発明の方法は、作用物質を相補的作用物質と化学的に反応させるステップをさらに含むことができる。
【0242】
いくつかの実施形態では、パターニング配合物を塗布することによって形成されるパターンが、プレコート層に少なくとも部分的に浸透することが可能となっている。他の実施形態では、パターニング配合物が、プレコート層に、あるいは適用可能な場合は中間層に完全に浸透する(すなわち、コーティングされる)ことが可能となっている。
【0243】
この方法は、いくつかの実施形態では、パターニング後に表面を完全硬化条件または部分的硬化条件に曝すステップをさらに含むことができる。いくつかの実施形態では、表面が、パターニング中の異なる段階で完全硬化条件または部分的硬化条件に曝される。
【0244】
2種以上のパターニング配合物が使用される場合、上記方法は、パターニング配合物を同時塗布するステップを含むことができる。そのような実施形態では、パターン印刷の最終段階中または後に、完全硬化条件または部分的硬化条件に曝すことができる。
【0245】
代替的には、パターニング配合物の各々が、別々に、すなわち順次塗布されるものであってもよい。そのような実施形態では、部分的硬化および/または粘度の増加が、異なるパターニング配合物の塗布の間に、印刷された表面を完全硬化条件または部分的硬化条件に曝すことによって得られる。いくつかの他の実施形態では、パターニングシーケンスの完了後に、完全硬化条件または部分的硬化条件に曝すステップが実行される。
【0246】
本発明は、別の態様では、表面にパターンを形成する方法であって、
(a)表面上に表面張力γを有するプレコート配合物を塗布してプレコート層を得るステップと、
(b)任意選択的に、表面張力γを有する中間配合物をプレコート層上に塗布して中間層を得るステップと、
(c)表面張力γを有する少なくとも1種のパターニング配合物をプレコート層上に塗布してパターンを得るステップとを含み、
周囲条件でγ<γ≦γであり、パターニング配合物が、(i)プレコート配合物中の相補的作用物質および(ii)中間配合物中の少なくとも1種の他の相補的作用物質のうちの少なくとも一方と化学的に反応することができる作用物質を含む方法を提供する。
【0247】
いくつかの実施形態によれば、作用物質と相補的作用物質の少なくとも1つとの間の化学反応は、少なくとも1種のパターニング配合物の粘度を増加させる。そのような実施形態では、少なくとも1種のパターニング配合物が、初期粘度μ を有し、作用物質と相補的作用物質の少なくとも1つとの間の化学反応時に、少なくとも1種のパターニング配合物の粘度が、粘度μへと少なくとも1桁増加する。
【0248】
他の実施形態では、上記方法が、パターニング後に、硬化条件に表面を曝すステップをさらに含むことができる。硬化条件には、完全硬化条件または部分的硬化条件に曝すことが含まれるが、これに限定されるものではない。このため、上記方法は、いくつかの実施形態では、プレコート配合物の初期粘度μ を粘度μへと少なくとも1桁増加させるために、プレコート配合物を照射に曝すステップ(a1)をさらに備え、このステップ(a1)が、中間コートまたはパターニング配合物の何れかの塗布の前に行われる。
【0249】
上記方法は、他の実施形態では、中間配合物が塗布される場合に、中間配合物の初期粘度μ を粘度μへと少なくとも1桁増加させるために、中間配合物を照射に曝すステップ(b1)をさらに備え、このステップ(b1)が、パターニング配合物の塗布前に行われる。
【0250】
ステップ(a1)および(b1)の各々における照射およびパターニングの完了後の照射は、同じであってもよいが、典型的には異なる波長であってもよい。このため、ステップ(a1)および(b1)の各々における照射およびパターニングの完了後の照射は、約365~470nmおよび約200~470nmの間の波長で個別に適用することができる。
【0251】
当業者であれば分かるように、本開示の方法において、プレコート配合物、中間配合物および/またはパターニング配合物の何れか(またはすべて)の塗布が、任意の適切な技術、例えば、滴下、噴霧、ジェッティング、スミアリング、ペインティング、ブラッシング、エアーブラッシングなどによって行うことができる。液滴形態の配合物を塗布する場合、液滴のサイズ/体積は、塗布ノズルの寸法および形状、塗布圧力、配合物の粘度、または当業者に知られている他の任意のパラメータによって制御することができる。
【0252】
本開示は、その態様の別の1つでは、キットであって、
-プレコート配合物を含む第1の容器と、
-任意には、中間コート配合物を含む第2の容器と、
-少なくとも1種のパターニング配合物を含む少なくとも1の第3の容器とを含み、
プレコート配合物が表面張力γを有し、中間コート配合物が表面張力γを有し、少なくとも1種のパターニング配合物が表面張力γを有し、周囲条件でγ<γ≦γであり、パターニング配合物が、(i)プレコート配合物中の相補的作用物質および(ii)中間コート配合物中の少なくとも1種の他の相補的作用物質のうちの少なくとも一方と化学的に反応することができる作用物質を含むキットを提供する。
【0253】
2種以上のプレコート配合物が使用される場合、キットは2以上の第1の容器を含むことが理解されるであろう。同様に、2種以上の中間配合物が使用される場合、キットは2以上の第2の容器を含むものとなる。
【0254】
いくつかの実施形態では、キットに含まれる各容器が、別々に利用可能とされ、本発明の革新的な態様を実施するために組み合わせられるようにしてもよい。
【0255】
第1、第2および第3の容器の各々は、当業者に知られているような一般的な容器であってもよい。いくつかの実施形態では、容器の各々が、インクジェットプリンタなどの適切なパターニングプリンタのプリントヘッドに収まるように構成されている。
【0256】
いくつかの実施形態では、キットが、第1、第2および第3の容器のうちの少なくとも2つを保持するためのハウジングをさらに含む。そのような実施形態では、ハウジングがカートリッジであってもよく、少なくとも2つの容器を受け入れるための少なくとも2つの区画を備えていてもよい。
【0257】
他の実施形態では、第1、第2および第3の容器の各々を、カートリッジの第1、第2および第3の区画によってそれぞれ構成することができる。
【0258】
具体的に記載しない限り、本明細書中で言及するすべての粘度および表面張力値は、室温(23~25℃)および大気圧での値を指す。
【0259】
本明細書において、「約」という用語は、温度、濃度などのパラメータの具体的に言及した値から±10%の偏差を包含することを意図している。
【0260】
本明細書において数値範囲が示されるときはいつでも、示された範囲内の任意の引用数字(小数または整数)を含むことを意図している。第1の表示数字と第2の表示数字との「範囲/間の範囲」という用語と、第1の表示数字「から」第2の表示数字「までの範囲/~の範囲」は、本明細書では同様の意味で使用され、第1および第2の表示数字と、それらの間のすべての小数および整数を含むことを意図している。
【図面の簡単な説明】
【0261】
本明細書に開示した主題をより良く理解し、実際にどのように実施することができるかを例示するために、以下に、添付の図面を参照して実施形態を単なる非制限的な例として説明する。
図1図1A図1Cは、異なる特性のプレコート領域を有する、本開示の一実施形態に従いパターン形成された表面の概略断面図を示し、図1Aは、パターニング配合物の液滴がプレコート領域の上に維持されている状態、図1Bは、パターニング配合物の液滴がプレコート領域内に部分的に浸透している状態、図1Cは、パターニング配合物の液滴がプレコート領域内に完全に浸透している状態をそれぞれ示している。
図2図2Aは、本開示の一実施形態に従って異なる領域に塗布された異なるプレコート配合物の領域を有する例示的なパターン形成された表面の概略断面図を示し、図2Bは、X方向に沿った対応する粘度の違いを示している。
図3図3Aは、本開示の別の実施形態に従って異なる厚さで塗布された同じプレコート配合物の領域を有する例示的なパターン形成された表面の概略断面図を示し、図3Bは、X方向に沿った対応する粘度の違いを示している。
図4図4Aは、本開示の別の実施形態に従って、X方向に沿った各点において第1のプレコート配合物と第2のプレコート配合物との間の比率が0:100%~100%:0の間の範囲をとるように、異なるプレコート配合物の2つの層を有する例示的なパターン形成された表面の概略断面図を示し、図4Bは、層26Aが層26Bよりも多くの光開始剤を含有する場合の2つの例示的な断面におけるY方向に沿った対応する粘度の違いを示し、図4Cは、層26Aが層26Bよりも多くの光開始剤を含有する場合の2つの例示的な断面におけるY方向に沿った対応する粘度の違いを示している。
図5図5Aおよび図5Bは、厚さの異なるプレコート層上に印刷が施された表面を示している。
図6図6Aおよび図6Bは、プレコート配合物なしでポリマー表面上に印刷された画像(図6A)と、本開示に従ってプレコート配合物上に印刷された画像(図6B)の比較印刷品質を示している。
図7図7Aおよび図7Bは、高い表面張力を有するプレコート配合物(図7A)および低い表面張力を有するプレコート配合物(図7B)を有するポリマー表面上に印刷された画像およびテキストの比較印刷品質を示している。
図8図8Aおよび図8Bは、それぞれ図7Aおよび図7Bの印刷表面のテキスト部分のクローズアップ画像である。
図9図9Aおよび図9Bは、プレコート配合物なしでポリマー表面上に印刷された画像(図9A)と、本開示に従ってプレコート配合物上に印刷された画像(図9B)の比較印刷品質の追加例を示している。
図10図10は、本開示の方法において、徐々に厚さが変化するプレコート層上に印刷されたラインパターンを示している。
【発明を実施するための形態】
【0262】
プレコート表面の例示的な概略図
図1A図1Cは、プレコート層でコーティングされた表面を概略的に示しており、各プレコート領域の特性がその上に塗布されたパターニング配合物の液滴の挙動を決定することを示している。
【0263】
基材10は、プレコート層の領域20によってコーティングされている。領域20A,20B,20Cは、粘度、硬化度、厚さ、粘着性、化学組成などの少なくとも1つの特性によって互いに異なり、その結果、それら領域の何れかに塗布されるパターニング配合物30の液滴が、プレコート領域上に保持されるか、プレコート領域内に部分的に組み込まれるか、または完全に浸入している(図1A図1Bおよび図1C)。
【0264】
図2Aに示すように、同じ基材表面は、異なるプレコート配合物の複数の領域(22A,22B)でプレコートすることができ、それらの領域は、互いに一体化されていてもよいし、分離されていてもよい(図示省略)。図2Bは、図2Aの印刷された領域に対応するプレコート層の例示的な粘度の相違を示している。すなわち、領域22Aでは、配合物が領域22Bの粘度に比べてより高い粘度を提供する。
【0265】
図3Aは、プレコート配合物の塗布の別の実施例を示している。この実施例では、基材表面が、同じプレコート配合物の複数の領域でプレコートされているが、それら領域は、プレコート層の厚さが異なっている(24A,24B)。図3Bに示す対応する粘度において、より厚い領域(24A)は、より薄い領域(24B)よりも高い粘度を有するものとなる。
【0266】
プレコート層の特性の違いは、同じ領域にわたって層状に少なくとも2種のプレコート配合物を塗布することによっても得ることができる。すなわち、所与の領域において、2種以上のプレコート配合物を所定の比率で互いに重ねて塗布することができる。異なる領域の特性は、2種のプレコート配合物間の比率を変化させることによって、典型的には所与の領域内の各プレコート層の厚さを変化させることによって、調整することができる。例えば、ある領域では、2種のプレコート配合物を20:80の厚さ(または量)比で塗布することができ、一方、隣接する領域では、それら各領域で異なる特性を得るために、プレコート配合物を40:60の厚さ(または量)比で塗布することができる。特性の別の違いは、プレコート配合物が塗布される順序を逆にすることによって、すなわち、第1のプレコート配合物に続いて第2のプレコート配合物を塗布することにより、または第2のプレコート配合物を塗布した後に第1のプレコート配合物を塗布することにより得ることができる。
【0267】
図4Aに示す別の実施例では、少なくとも2種のプレコート配合物が互いに重ねて塗布されているが、X方向に厚さの勾配が生じている。このような勾配は、X方向に沿って粘度の連続的な変化を生じさせることができるが、任意の所与の点Xiでは、配合物間の局所的な比率に応じて、Y方向に沿った粘度も変化する(図4Bおよび図4C)。
【0268】
当業者であれば分かるように、(図2A図3Aおよび図4Aに示すように)領域が互いに一体化されている場合、異なる領域間の接触点は、実際には任意のプレコート配合物の混合物が存在する界面領域によって構成されるものであってもよい。これは、図2B図3B図4Bおよび図4Cにおいて破線で示されている。
【0269】
プレコート層の厚さの影響
上述したように、プレコート層の領域は、少なくとも1つの化学的および/または物理的特性によって互いに異なるようにしてもよい。例えば、違いのうちの1つは、異なるプレコート領域の厚さであってもよい。すなわち、プレコート配合物の特性は、プレコート層の厚さに依存して、プレコート層上に塗布されたパターニング配合物の滴が、プレコート層内に少なくとも部分的に浸透するか、またはプレコート層の上に維持されるようなものであってもよい。
【0270】
プレコート層のそのような挙動の一例が、図5Aおよび図5Bに示されている。図5Aでは、ポリマー表面を本開示のプレコート配合物により最初にコーティングして、5ミクロンの層厚さを与えたが、図5Bでは、表面を同じプレコート配合物により10ミクロンの層厚さでコーティングした。両方の表面を同じ照射源(395nm)に同じ時間曝してプレコートの部分的硬化を得た。
【0271】
その後、同一の印刷および硬化条件下で、同じパターニング配合物により表面を印刷した。図5Aに見られる表面は滑らかな表面テクスチャを示し、一方、図5Bの表面は粒状であり、パターニング配合物の滴が表面から外側にはみ出していた。
【0272】
理論に縛られることを望むものではないが、プレコート配合物中の第1の光開始剤は大気酸素に反応し易く、重合プロセスがしばしば酸素化条件への暴露によって阻害される。このため、図5Aのより薄いプレコート層では、プレコート層の体積当たりの表面が図5Bのより厚い層よりも大きい。
【0273】
プレコート層が部分的硬化条件に曝されると、より薄い層の重合抑制がより大きくなる。すなわち、同じ部分的硬化条件に曝された場合、薄い層は、より少ない重合により「より軟らかい」層をもたらす一方、厚い層は、より大きな重合度により「より硬い」層をもたらすものとなる。
【0274】
このため、本開示による印刷方法では、異なる厚さの領域を有するプレコート層を形成することができる。そのような領域は、硬化度のばらつきが得られる部分的硬化条件に曝される。したがって、各層上に塗布されたパターニング配合物の挙動は、プレコート層の特性に依存し、部分的に硬化したプレコート層がより軟らかい図5Aにおいては、パターニング配合物の液滴がプレコート層内に浸透して、それにより滑らかな表面が得られる一方、部分的に硬化したプレコート層がより硬い図5Bでは、パターニング配合物の液滴が表面の上に保持されて、きめのある表面が得られる。
【0275】
別の実施例(図示省略)では、同じポリマー表面が同一のプレコート配合物によりコーティングされ、一方の表面上のプレコート層の厚さが他方の表面のプレコート層の厚さの2倍であった。両方のサンプルを同じ部分的硬化条件(395nmのLEDランプによる照射、5W/cm)に曝し、次いで、パターニング配合物の液滴を層上に塗布した。
【0276】
より薄く、より硬化度の低いプレコート層については、パターニング配合物の液滴がプレコート層内に浸入した。より高い部分硬化度を有するより厚い層については、パターニング配合物の液滴がプレコート層の上に維持された。異なる領域でのプレコート特性の違いに起因するパターニング配合物のこの浸透の違いは、滑らかな肌の色調の印刷、顔料のグラデーション効果、および比較的大きな表面上のスポット領域のために、プレコート層への液滴の部分的な組み込みを利用することを可能にする。パターニング配合物のプレコート内への実質的な浸透が起こらないより硬いプレコート部分では、(例えば、輪郭がはっきりしたテキストおよび数字のために、必要とされる場合には)エンボス効果、シャープネス効果および微細なレタリングパターンを得ることができる。
【0277】
上述したように、プレコート配合物の特性の違いは、液滴の垂直位置(すなわち、プレコート内の組み込み深さ)およびその広がりの程度を制御するのを補助する。「より柔らかい」表面は、パターニング配合物をプレコート層内に実質的に完全に組み込むことを可能にし、液滴の組み込み後の化学反応は、プレコート層内に小さなパターニング配合物のドットを得るのを助けた。「より硬い」層は、配合物間の接触のための限られた表面により、プレコート層内への実質的な浸透を生じることのないパターニング配合物の液滴をもたらし、それにより、液滴が表面上に広がってより大きな範囲を得るのを補助した。
【0278】
テキスト印刷
パターン形成された各表面領域におけるプレコート層の特性の違いおよび制御は、一般的な印刷方法では得難い鮮明な画像およびテキストを得ることを可能にする。
【0279】
本開示による方法によって印刷された画像およびテキストを含む例示的な表面が図6Aおよび図6Bに示されている。図6Aおよび図6Bは、ポリマー表面上に印刷されたバーコード、スポット領域、ロゴおよびテキストを含む画像の比較印刷品質を示している。はっきりと分かるように、プレコートなしでポリマー表面にインクジェットによって印刷された画像は、数字、バーコードがほとんど判読できず、スポット領域およびロゴには境界がない(図6A)。同一のインク(すなわち、パターニング配合物)を使用する同じ表面を本開示のプレコート層で最初にコーティングした後、同じ画像を印刷したところ、ロゴ、スポット領域、バーコードおよび数字の明確ではっきりした輪郭が得られた(図6B)。本開示の方法は、異なる領域のプレコートの特性を選択的に調整することを可能にし、テキストを意図した領域において、画像印刷を意図した領域とは異なる特性を提供することを可能にし、それにより、鮮明なテキストと滑らかな画像を単一の迅速な印刷プロセスで提供することができる。
【0280】
別の実施例では、図7Aおよび図7Bが、ポリマー表面上のテキストの比較印刷品質を示している。この実施例では、印刷する表面に光沢ワニスを塗布した。これは典型的には非常に低い表面エネルギーを特徴としており、よって一般的な印刷方法で印刷するには問題のある基材と考えられている。プレコートの塗布を光沢ワニス上で行い、本開示の方法においてプレコート層の上に画像を印刷した。
【0281】
図7Aに見られるのは、パターニング配合物の表面張力と同様の比較的高い表面張力を有するプレコート層上に800dpiの解像度で印刷したときの画像である。図7Bは同じ解像度の同じ画像であるが、プレコート配合物が、パターニング配合物の表面張力と比較して有意に低い(少なくとも3mN/m低い)表面張力を有する。図8Aおよび図8Bは、それぞれ図7Aおよび図7Bのテキスト部分のクローズアップ画像である。
【0282】
はっきりと分かるように、プレコート配合物の表面張力が低いことにより、光沢のあるワニス加工された表面を良好に被覆することが可能となり、その上に印刷されるパターニング配合物の定着条件を満たす基礎を提供して、鮮明なテキストおよび画像を得ることができた(図7B図8B)。これと比較して、プレコートとパターニング配合物の表面張力がほぼ同様(すなわち、表面張力の差が3mN/m未満)であったサンプルにおいては、画像を印刷したときに、明確なコントラストまたはきめ細かさを得ることができず、印刷されたテキストは、不均一な輪郭および/またはぼんやりした輪郭を有していた。
【0283】
印刷された画像
比較的大きな表面にわたって滑らかな肌の色調の印刷および顔料のグラデーション効果を得る能力が、図9Aおよび図9Bに例示されている。プレコートなしで印刷した場合、モデルの顔の特徴はぼやけており、異なる顔面領域では色のグラデーションを殆ど見ることができないのに対して(図9A)、本開示のプレコート配合物によって最初にコーティングされた表面に同じ画像を印刷した場合、顔の特徴が明確となり、高解像度、色のグラデーションおよび滑らかな肌の色調がはっきりと見える(図9B)。
【0284】
可変深さのラインパターン
徐々に厚さが変化するプレコート層の印刷を利用したラインパターンが図10に例示されている。印刷方法は実施例2と同様であるが、プレコート配合物がラインパターンで印刷され、その厚さが(左から右へ)徐々に減少している。はっきりと分かるように、徐々に変化するプレコート層上に印刷されたパターニング配合物のラインは、2つの部分によって特徴付けられる連続的なラインをもたらし、一方の部分がプレコート層の上に維持され、他方の部分がプレコート層内に組み込まれている。このようなラインパターンは、導電性パターニング配合物で印刷された場合、層状集積回路または導電線を印刷するために利用することができ、それにより、本開示の方法によって回路の3Dアーキテクチャを得ることができる。
【0285】
例示的な印刷方法(A)-プレコートおよびパターニング
上述したように、本開示のシステムは、少なくともプレコート配合物およびパターニング配合物を含む。本発明に係る方法では、30mN/mを超える表面張力を有する、パターン形成される表面が与えられた。
【0286】
プレコート配合物の表面張力は28mN/mであり、よってプレコート配合物の滴は広がって、表面の印刷領域上に薄膜を形成した。
【0287】
プレコート配合物は透き通っており(すなわち、透明であり)、酸性アクリルオリゴマーを含んでいた。
【0288】
プレコート層の粘度を増加させるために、プレコート配合物中に存在する適切な光開始剤を活性化すべく、表面を波長395nmの照射に曝し、それによって部分重合およびプレコート層の増粘を引き起こした。この照射により、プレコート層の粘度が約100,000cpsに増加し、粘着層が得られた。そのような光開始剤の非限定的な例としては、ピペラジンベースのアミノアルキルフェノン(Omnipol 910)、カルボキシメトキシチオキサントンおよびポリテトラメチレングリコールのジエステル(Omnipol TX)、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(irgacure 819)または4-ヒドロキシベンゾフェノンラウレート(Omnirad 4HBL)が挙げられる。プレコート配合物は、この段階で活性化されなかった第2のUV光感受性光開始剤をさらに含んでいた。
【0289】
その後、顔料が異なる4~12の異なるパターニング配合物を、順々に粘性のあるプレコート層上にジェット印刷した。異なるパターニング配合物の印刷の間に、硬化、乾燥またはピニングは行われなかった。パターニング配合物の各々は、アクリルアミンモノマーまたはオリゴマーおよびUV光感受性光開始剤を含み、約31~35mN/mの表面張力を有していた。このため、プレコート層上に塗布された約25cpsの粘度を有するパターニング配合物の液滴は、酸-塩基化学反応(すなわち、プレコートの酸性アクリルモノマーまたはオリゴマーのカルボン酸基と、パターニング配合物中のアクリルアミンモノマーまたはオリゴマーの塩基性アミン基との間の反応)を起こした。化学反応は、パターニング配合物滴の粘度を約100,000cpsに増加させて、それらの固定を可能にした。表面張力の差により、望ましくないブリードまたは色の混合が防止され、良好な分離および色解像度がもたらされた。
【0290】
印刷が完了したら、パターン形成された領域を200~470nmの波長のUV照射に曝し、それによりプレコートおよびパターニング配合物中のUV光感受性光開始剤を活性化し、一回の硬化プロセスで印刷パターン全体を硬化させた。
【0291】
例示的な印刷方法(B)-プレコート、中間コートおよびパターニング
本開示に係る他のシステムは、プレコート配合物、中間コート配合物およびパターニング配合物を含むことができる。本発明に係る方法では、30mN/mを超える表面張力を有する、パターン形成される表面が与えられた。
【0292】
プレコート配合物は、例示的な方法(A)に記載したのと同様の組成、表面張力および粘度を有していた。プレコート層を塗布した後、プレコート配合物中に存在する適切な光開始剤が活性化されるように、表面を波長395nmの照射に曝して、プレコート層の部分重合および増粘を引き起こした。この照射により、プレコート層の粘度が約100,000cpsに増加し、粘着層が得られた。プレコート配合物は、この段階で活性化されなかった第2のUV光感受性光開始剤をさらに含んでいた。
【0293】
白色顔料および酸性アクリルオリゴマーを含む中間コート配合物をプレコート層上にジェット印刷した。中間コートの表面張力は約32mN/mであり、そのため、プレコート層上に所望の中間パターンを印刷することができた。塗布時に、中間コートの粘度は約100cpsであった。395nmの波長による照射に曝すことにより、適切な光開始剤が活性化されて、中間コートの粘度が約100,000cpsまで増加した。プレコート配合物は、この段階で活性化されなかった第2のUV光感受性光開始剤をさらに含んでいた。
【0294】
その後、顔料が異なる4~12の異なるパターニング配合物を、順々に粘性のある中間コート層上にジェット印刷した。異なるパターニング配合物の印刷の間に、硬化または乾燥は行われなかった。パターニング配合物の各々は、アクリルアミンモノマーまたはオリゴマーおよび光開始剤を含み、約32~35mN/mの表面張力を有していた。このため、プレコート層または中間コートパターン層の何れかの上に塗布された約25cpsの粘度を有するパターニング配合物の液滴は、酸-塩基化学反応(すなわち、プレコートおよび中間配合物の酸性アクリルモノマーのカルボン酸基と、パターニング配合物中のアクリルアミンモノマーまたはオリゴマーの塩基性アミン基との間の反応)を起こした。化学反応は、パターニング配合物滴の粘度を約100,000cpsに増加させて、それらの固定を可能にした。表面張力の差により、望ましくないブリードまたは色の混合が防止され、良好な分離および色解像度がもたらされた。
【0295】
印刷が完了したら、パターン形成された領域を200~470nmの波長のUV照射に曝し、それによりUV光感受性光開始剤を活性化し、一回の硬化プロセスで印刷パターン全体を硬化させた。
【0296】
実施形態
[実施形態1]
少なくとも1種の官能化モノマーと、少なくとも1種のオリゴマーと、少なくとも1種の界面活性剤と、第1の波長で活性化可能な少なくとも1種の第1の光開始剤と、第2の波長で活性化可能な少なくとも1種の第2の光開始剤とを含むことを特徴とする印刷プレコート配合物。
【0297】
[実施形態2]
実施形態1に記載の配合物において、最大で37mN/mの表面張力を有することを特徴とする配合物。
【0298】
[実施形態3]
実施形態1または2に記載の配合物において、約20mN/m~33mN/mの表面張力を有することを特徴とする配合物。
【0299】
[実施形態4]
実施形態1乃至3の何れか一つに記載の配合物において、周囲温度で少なくとも50cpsの粘度を有することを特徴とする配合物。
【0300】
[実施形態5]
実施形態1乃至4の何れか一つに記載の配合物において、少なくとも1種のモノマーが、メチルアクリレート(MA)、メチルメタクリレート(MMA)、エチルアクリレート、(エチルヘキシル)アクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、トリエトキシトリアクリレート(TMP(EO)TA)、イソボルニルアクリレート(IBOA)、ジプロピレングリコールジアクリレート(DPGDA)およびそれらの組合せのなかから選択されることを特徴とする配合物。
【0301】
[実施形態6]
実施形態1乃至5の何れか一つに記載の配合物において、少なくとも1種のモノマーが、約15~約70重量%の濃度で当該配合物中に存在することを特徴とする配合物。
【0302】
[実施形態7]
実施形態1乃至6の何れか一つに記載の配合物において、少なくとも1種のオリゴマーが、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、アクリル酸アクリレート、ウレタンアクリレートおよびそれらの組合せのなかから選択されることを特徴とする配合物。
【0303】
[実施形態8]
実施形態1乃至7の何れか一つに記載の配合物において、少なくとも1種のオリゴマーが、当該配合物中に約5~50重量%の濃度で存在することを特徴とする配合物。
【0304】
[実施形態9]
実施形態1乃至8の何れか一つに記載の配合物において、少なくとも1種のモノマーが、酸性基、塩基性基または錯化配位子から選択される反応性基によって官能化されることを特徴とする配合物。
【0305】
[実施形態10]
実施形態9に記載の配合物において、(i)反応性基が、カルボキシル基、スルホン酸基(SOOH)、チオールおよびエノールのなかから選択される酸性基であり、または(ii)化学反応性基が、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、ヒドロキシル基およびアミドのなかから選択される塩基性基であることを特徴とする配合物。
【0306】
[実施形態11]
実施形態1乃至10の何れか一つに記載の配合物において、少なくとも1種のオリゴマーが、反応性基によって官能化されることを特徴とする配合物。
【0307】
[実施形態12]
実施形態11に記載の配合物において、反応性基が、酸性基、塩基性基または錯化配位子のなかから選択されることを特徴とする配合物。
【0308】
[実施形態13]
実施形態12に記載の配合物において、(i)反応性基が、カルボキシル基、スルホン酸基(SOOH)、チオールおよびエノールのなかから選択される酸性基であり、または(ii)化学反応性基が、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、ヒドロキシル基およびアミドのなかから選択される塩基性基であることを特徴とする配合物。
【0309】
[実施形態14]
実施形態1乃至13の何れか一つに記載の配合物において、少なくとも1種の他のオリゴマーをさらに含み、この他のオリゴマーが、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、アクリル酸アクリレート、ウレタンアクリレートおよびこれらの組合せのなかから任意に選択されることを特徴とする配合物。
【0310】
[実施形態15]
実施形態12または13に記載の配合物において、少なくとも1種の他のオリゴマーが、当該配合物中に約5~15重量%の濃度で存在することを特徴とする配合物。
【0311】
[実施形態16]
実施形態14または15に記載の配合物において、少なくとも1種の他のオリゴマーが、酸性基、塩基性基または錯化配位子のなかから選択される反応性基によって官能化されていることを特徴とする配合物。
【0312】
[実施形態17]
実施形態16に記載の配合物において、(i)反応性基が、カルボキシル基、スルホン酸基(SOOH)、チオールおよびエノールのなかから選択される酸性基であり、または(ii)反応性基が、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、ヒドロキシル基およびアミドのなかから選択される塩基性基であることを特徴とする配合物。
【0313】
[実施形態18]
実施形態16または17に記載の配合物において、少なくとも1種のオリゴマーおよび少なくとも1種の他のオリゴマーの少なくとも一方が官能化されることを特徴とする配合物。
【0314】
[実施形態19]
実施形態18に記載の配合物において、少なくとも1種のオリゴマーおよび少なくとも1種の他のオリゴマーの両方が官能化され、同じ官能基または異なる官能基を有することを特徴とする配合物。
【0315】
[実施形態20]
実施形態1乃至19の何れか一つに記載の配合物において、少なくとも1種の界面活性剤が、シリコンポリマー、シリコン有機ポリマー、アクリレート修飾シロキサンおよびフルオロアクリレート修飾シロキサンのなかから選択されることを特徴とする配合物。
【0316】
[実施形態21]
実施形態1乃至20の何れか一つに記載の配合物において、少なくとも1種の界面活性剤が、当該配合物中に約0.01~4重量%の濃度で存在することを特徴とする配合物。
【0317】
[実施形態22]
実施形態1乃至21の何れか一つに記載の配合物において、少なくとも1種の第1の光開始剤が、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシドピペラジンベースのアミノアルキルフェノン、ポリテトラメチレングリコールおよびカルボキシメトキシチオキサントンのジエステル、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシドおよび4-ヒドロキシベンゾフェノンラウレートのなかから選択されることを特徴とする配合物。上述したものと同じ種類のポリマーPIが加えられる。
【0318】
[実施形態23]
実施形態1乃至22の何れか一つに記載の配合物において、少なくとも1種の第1の光開始剤が、当該配合物中に約0.1~2重量%の濃度で存在することを特徴とする配合物。
【0319】
[実施形態24]
実施形態22または23に記載の配合物において、第1の波長が約365nm~約470nmであることを特徴とする配合物。
【0320】
[実施形態25]
実施形態1乃至24の何れか一つに記載の配合物において、少なくとも1種の第1の光開始剤が、第1の波長に曝されることにより活性化されて、当該配合物の粘度を少なくとも100cps、少なくとも1,000cps、少なくとも10,000cpsまたは少なくとも100,000cpsに上昇させることを特徴とする配合物。
【0321】
[実施形態26]
実施形態1乃至25の何れか一つに記載の配合物において、少なくとも1種の第2の光開始剤が、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシル)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ヒドロキシケトン、メチル-o-ベンゾイルベンゾエート、4-(4-メチルフェニルチオ)ベンゾフェノンおよび2-ベンジル-2-(ジメチルアミノ)-4’-モルホリノブチロフェノンのなかから選択されることを特徴とする配合物。
【0322】
[実施形態27]
実施形態1乃至26の何れか一つに記載の配合物において、少なくとも1種の第2の光開始剤が、当該配合物中に約3~10重量%の濃度で存在することを特徴とする配合物。
【0323】
[実施形態28]
実施形態26または27に記載の配合物において、第2の波長が約200nm~約470nmであることを特徴とする配合物。
【0324】
[実施形態29]
実施形態1乃至28の何れか一つに記載の配合物において、少なくとも1種の第2の光開始剤が、第2の波長に曝されることにより活性化されて、少なくとも1種のモノマー、任意には少なくとも1種のオリゴマーおよび/または少なくとも1種の他のオリゴマーの重合を引き起こすことを特徴とする配合物。
【0325】
[実施形態30]
実施形態1乃至29の何れか一つに記載の配合物において、第1の光開始剤が作用物質の第1の部分であり、この第1の部分が第1の波長によって活性化可能であることを特徴とする配合物。
【0326】
[実施形態31]
実施形態30に記載の配合物において、第2の光開始剤が作用物質の第2の部分であり、この第2の部分が第2の波長によって活性化可能であることを特徴とする配合物。
【0327】
[実施形態32]
実施形態1乃至31の何れか一つに記載の配合物において、顔料、希釈剤、ポリマー、粘着性調整剤、フリーラジカルスカベンジャーおよび粘度調整剤のうちの少なくとも1種をさらに含むことを特徴とする配合物。
【0328】
[実施形態33]
実施形態32に記載の配合物において、希釈剤が、少なくとも1種の任意に置換された脂肪族希釈剤、少なくとも1種の任意に置換された芳香族希釈剤、アクリル酸エステルおよびそれらの混合物のなかから選択されることを特徴とする配合物。
【0329】
[実施形態34]
実施形態33に記載の配合物において、希釈剤がアクリル酸エステルモノマーであることを特徴とする配合物。
【0330】
[実施形態35]
実施形態33または34に記載の配合物において、希釈剤が、当該配合物中に約25~30重量%の量で存在することを特徴とする配合物。
【0331】
[実施形態36]
実施形態32乃至35の何れか一つに記載の配合物において、顔料が、発色団、塩、カプセル化顔料粉末、サーモクロミック顔料、蛍光顔料、セキュリティタグ付け剤、無機顔料、金属粒子、磁性粒子、導電性顔料および有機顔料のなかから選択されることを特徴とする配合物。
【0332】
[実施形態37]
実施形態1乃至36の何れか一つに記載の配合物において、揮発性溶剤を実質的に含まないことを特徴とする配合物。
【0333】
[実施形態38]
表面を有する印刷用の基材であって、表面の少なくとも一部が、実施形態1乃至36の何れか一つに記載のプレコート配合物の層によってプレコートされることを特徴とする印刷用の基材。
【0334】
[実施形態39]
実施形態38に記載の基材において、配合物が、第1の波長の照射に曝されると、活性化可能な第1の光開始剤から実質的に失われることを特徴とする基材。
【0335】
[実施形態40]
実施形態39に記載の基材において、配合物の粘度が、少なくとも100cps、少なくとも1,000cps、少なくとも10,000cpsまたは少なくとも100,000cpsであることを特徴とする基材。
【0336】
[実施形態41]
印刷用表面を処理する方法であって、
実施形態1乃至37の何れか一つに記載のプレコート配合物を表面の少なくとも一部に塗布するステップと、
表面を第1の波長による照射に曝して、プレコート配合物中の少なくとも1種の第1の光開始剤を活性化させ、それにより、配合物の粘度をその初期粘度と比較して少なくとも1桁増加させて、プレコートされた表面を得るステップとを含むことを特徴とする方法。
【0337】
[実施形態42]
実施形態41に記載の方法において、除去可能な層を増粘されたプレコート上に塗布するステップをさらに含むことを特徴とする方法。
【0338】
[実施形態43]
基材上にパターンを印刷する方法であって、
実施形態1乃至37の何れか一つに記載のプレコート配合物を基材の表面の少なくとも一部分に塗布するステップと、
表面を第1の波長による照射に曝して、プレコート配合物中の少なくとも1種の第1の光開始剤を活性化させるステップと、
一部分のうちの少なくともある領域に少なくとも1種のパターニング配合物を塗布するステップと、
表面を第2の波長による照射に曝して、プレコート配合物中の少なくとも1種の第2の光開始剤を活性化させるステップとを含むことを特徴とする方法。
【0339】
[実施形態44]
基材上にパターンを印刷する方法であって、
実施形態1乃至37の何れか一つに記載のプレコート配合物を基材の表面の少なくとも一部分に塗布するステップと、
表面を第1の波長による照射に曝して、プレコート配合物中の少なくとも1種の第1の光開始剤を活性化させるステップと、
一部分のうちの少なくともある領域に少なくとも1種のパターニング配合物を塗布するステップであって、少なくとも1種のパターニング配合物が、プレコート配合物中の反応性基と化学的に反応することができる相補的反応性基を含む、ステップと、
表面を第2の波長による照射に曝して、プレコート配合物中の少なくとも1種の第2の光開始剤を活性化させるステップとを含むことを特徴とする方法。
【0340】
[実施形態45]
実施形態41乃至44の何れか一つに記載の方法において、プレコート配合物の初期粘度が、第1の波長による照射に曝すことによって少なくとも1桁増加することを特徴とする方法。
【0341】
[実施形態46]
実施形態45に記載の方法において、プレコート配合物が、照射に曝される前に少なくとも10cpsの粘度を有し、照射に曝された後に少なくとも1,000cpsの粘度を有することを特徴とする方法。
【0342】
[実施形態47]
実施形態44乃至46の何れか一つに記載の方法において、(i)反応性基が酸性官能基であり、相補的反応性基が塩基性官能基であること、または(ii)反応性基が塩基性官能基であり、相補的反応性基が酸性官能基であることを特徴とする方法。
【0343】
[実施形態48]
実施形態44乃至47の何れか一つに記載の方法において、少なくとも1種のパターニング配合物が、プレコート配合物と比較して少なくとも3mN/m大きい表面張力を有することを特徴とする方法。
【0344】
[実施形態49]
実施形態44乃至48の何れか一つに記載の方法において、プレコート配合物が複数の部分に塗布されて、それら部分のうちの少なくとも1つが第1の厚さのプレコートでコーティングされ、それら部分のうちの少なくとも別の一つが第2の厚さのプレコートでコーティングされ、第2の厚さが第1の厚さよりも大きいことを特徴とする方法。
【0345】
[実施形態50]
実施形態49に記載の方法において、第1の厚さの部分上に塗布されたパターニング配合物がプレコート内に少なくとも部分的に組み込まれ、第2の厚さの部分上に塗布されたパターニング配合物がプレコートの上に保持されることを特徴とする方法。
【0346】
[実施形態51]
表面をパターニングする方法であって、
表面領域上に少なくとも1種のプレコート配合物をパターニングしてパターン化領域を形成するステップであって、パターン化領域のうちの少なくとも2つが、化学的および物理的特性の少なくとも一方において互いに異なる、ステップと、
プレコート配合物の部分的硬化を可能にする条件にプレコート配合物を曝すステップと、
パターン化領域上に少なくとも1種のパターニング配合物を塗布するステップであって、パターン化領域上に塗布された少なくとも1種のパターニング配合物がプレコート配合物と相互作用し、パターニング配合物とプレコート配合物との間の相互作用が、化学的および物理的特性によって決定され、それにより、(i)パターニング配合物がプレコート内に少なくとも部分的に組み込まれるか、または(ii)パターニング配合物がプレコートの上に保持される、ステップと、
プレコートおよびパターニング配合物の硬化の完了を可能にする条件に表面を曝し、それによりパターン形成された表面を得るステップとを含むことを特徴とする方法。
【0347】
[実施形態52]
実施形態51に記載の方法において、プレコート配合物が透明であることを特徴とする方法。
【0348】
[実施形態53]
実施形態51または52に記載の方法において、パターン化領域のうちの少なくとも2つの間で異なる化学的または物理的特性が、パターン化領域の組成、硬化度、粘度、粘着性、表面構造、表面張力、厚さ、化学反応性およびpHのうちの少なくとも1つであることを特徴とする方法。
【0349】
[実施形態54]
実施形態53に記載の方法において、化学的または物理的特性が、パターン化領域の組成であることを特徴とする方法。
【0350】
[実施形態55]
実施形態54に記載の方法において、少なくとも2つのパターン化領域の各々が、少なくとも1種の光開始剤を含むことを特徴とする方法。
【0351】
[実施形態56]
実施形態55に記載の方法において、少なくとも2つのパターン化領域の各々が、異なる光開始剤を含むことを特徴とする方法。
【0352】
[実施形態57]
実施形態55に記載の方法において、少なくとも2つのパターン化領域の各々が異なる量の光開始剤を含むことを特徴とする方法。
【0353】
[実施形態58]
実施形態55に記載の方法において、少なくとも2つのパターン化領域の各々が光開始剤の異なる組合せを含むことを特徴とする方法。
【0354】
[実施形態59]
実施形態55乃至58の何れか一つに記載の方法において、パターン化領域が少なくとも2種の光開始剤を含むことを特徴とする方法。
【0355】
[実施形態60]
実施形態59に記載の方法において、少なくとも2種の光開始剤のうちの第1の光開始剤が、第1の波長による照射に曝されたときに、プレコート配合物の部分的硬化を引き起こすことを特徴とする方法。
【0356】
[実施形態61]
実施形態59または60に記載の方法において、少なくとも2種の光開始剤のうちの第2の光開始剤が、第2の波長による照射に曝されたときに、プレコート配合物の硬化を完了させることを特徴とする方法。
【0357】
[実施形態62]
実施形態51乃至61の何れか一つに記載の方法において、パターン化領域の少なくとも2つは硬化度が異なることを特徴とする方法。
【0358】
[実施形態63]
実施形態62に記載の方法において、硬化度の差が、部分的硬化を可能にする条件にパターン化領域を曝すことによって得られることを特徴とする方法。
【0359】
[実施形態64]
実施形態51乃至63の何れか一つに記載の方法において、部分的硬化を可能にする条件が、規定された帯域/波長の放射線源による照射への曝露、磁気源への曝露、電場への曝露、電子ビームによる照射、暗部硬化(dark curing)、IR放射線への曝露、または高温または低温への暴露のなかから選択されることを特徴とする方法。
【0360】
[実施形態65]
実施形態51乃至64の何れか一つに記載の方法において、パターン化領域の少なくとも2つは粘度が異なることを特徴とする方法。
【0361】
[実施形態66]
実施形態65に記載の方法において、粘度の差が異なる硬化度によって得られることを特徴とする方法。
【0362】
[実施形態67]
実施形態51乃至66の何れか一つに記載の方法において、パターン化領域の少なくとも2つは表面構造が異なることを特徴とする方法。
【0363】
[実施形態68]
実施形態67に記載の方法において、表面構造の違いが部分的硬化により得られることを特徴とする方法。
【0364】
[実施形態69]
実施形態51乃至68の何れか一つに記載の方法において、パターン化領域の少なくとも2つは厚さが異なることを特徴とする方法。
【0365】
[実施形態70]
実施形態69に記載の方法において、少なくとも2のパターン化領域は、(a)第1の厚さのプレコートでコーティングされた少なくとも1の第1の領域と、(b)第1の厚さより大きい第2の厚さのプレコートでコーティングされた少なくとも1の第2の領域とを備え、(i)部分的硬化の後に第1の領域上に塗布されたパターニング配合物がプレコート内に少なくとも部分的に組み込まれ、(ii)第2の領域上に塗布されたパターニング配合物がプレコートの上に保持されることを特徴とする方法。
【0366】
[実施形態71]
実施形態70に記載の方法において、第2の厚さが、第1の厚さより少なくとも5%大きいことを特徴とする方法。
【0367】
[実施形態72]
実施形態70に記載の方法において、少なくとも1つの第1の領域および少なくとも1つの第2の領域が互いに一体的であり、プレコート配合物のラインパターンを形成することを特徴とする方法。
【0368】
[実施形態73]
実施形態72に記載の方法において、ラインパターンは、ラインパターンに沿って漸増または漸減する厚さを有することを特徴とする方法。
【0369】
[実施形態74]
実施形態51乃至68の何れか一つに記載の方法において、プレコート層が、第1のプレコート配合物の第1の副層と、その上に塗布される、第2の異なるプレコート配合物の第2の副層とをパターニングすることにより得られ、少なくとも2の領域が、第1および第2の副層の間の比率において互いに異なることを特徴とする方法。
【0370】
[実施形態75]
実施形態74に記載の方法において、少なくとも2つの領域の各々における第1の副層と第2の副層との比率が、それぞれ0:100%と100%:0との間の範囲にあることを特徴とする方法。
【0371】
[実施形態76]
実施形態51乃至75の何れか一つに記載の方法において、パターン化領域が互いに一体的に形成されていることを特徴とする方法。
【0372】
[実施形態77]
実施形態51乃至76の何れか一つに記載の方法において、少なくとも1種のパターニング配合物が顔料を含むことを特徴とする方法。
【0373】
[実施形態78]
実施形態51乃至77の何れか一つに記載の方法において、少なくとも1種のプレコート配合物が、少なくとも1種のパターニング配合物中の相補的作用物質と化学的に反応することができる作用物質を含むことを特徴とする方法。
【0374】
[実施形態79]
実施形態78に記載の方法において、作用物質が酸または酸性部分であり、相補的作用物質が塩基または塩基性部分であることを特徴とする方法。
【0375】
[実施形態80]
実施形態51乃至79の何れか一つに記載の方法において、少なくとも1種のパターニング配合物を塗布する前に、少なくとも1種の中間配合物を塗布するステップをさらに含むことを特徴とする方法。
【0376】
[実施形態81]
実施形態80に記載の方法において、中間配合物が少なくとも1種の白色顔料を含むことを特徴とする方法。
【0377】
[実施形態82]
実施形態80または81に記載の方法において、少なくとも1種の中間配合物が、少なくとも1種のパターニング配合物中の相補的作用物質と化学的に反応することができる作用物質を含むことを特徴とする方法。
【0378】
[実施形態83]
実施形態51乃至82の何れか一つに記載の方法において、表面が凸状であることを特徴とする方法。
【0379】
[実施形態84]
パターン形成された物品であって、
表面を有する物品と、
表面の領域上のプレコート層であって、当該プレコート層がパターン化領域を形成し、パターン化領域のうちの少なくとも2つが、化学的および物理的特性の少なくとも一方において互いに異なる、プレコート層と、
プレコート層と相互作用する少なくとも1のパターニング配合物層とを備え、パターニング配合物層とプレコート層との間の相互作用が、化学的または物理的特性によって決定され、パターニング配合物層が、(i)プレコート層内に少なくとも部分的に組み込まれるか、または(ii)プレコート層の上に保持されていることを特徴とする物品。
【0380】
[実施形態85]
実施形態84に記載のパターン形成された物品において、プレコート層上に配置されて、プレコート層と相互作用する中間組成物層をさらに含み、中間配合物層が、(i)プレコート層内に少なくとも部分的に組み込まれるか、または(ii)プレコート層の上に保持されていることを特徴とする物品。
【0381】
[実施形態86]
実施形態85に記載の物品において、中間層が白色顔料を含むことを特徴とする物品。
【0382】
[実施形態87]
パターン形成された物品であって、
表面を有する物品と、
表面の領域上のプレコート層であって、第1の厚さの少なくとも1の第1の領域と、第1の厚さより大きい第2の厚さの少なくとも1の第2の領域とを有するプレコート層と、
パターニング配合物の少なくとも1種のパターン層とを含み、当該パターン層が、(i)第1の領域内に少なくとも部分的に組み込まれ、かつ(ii)プレコート層の第2の領域の上に保持されていることを特徴とする物品。
【0383】
[実施形態88]
実施形態87に記載の物品において、第2の厚さが第1の厚さより少なくとも5%大きいことを特徴とする物品。
【0384】
[実施形態89]
実施形態84乃至88の何れか一つに記載の物品において、パターン化領域が互いに一体的に形成されていることを特徴とする物品。
【0385】
[実施形態90]
実施形態84乃至89の何れか一つに記載の物品において、プレコート層が透明であることを特徴とする物品。
【0386】
[実施形態91]
実施形態84乃至90の何れか一つに記載の物品において、少なくとも1種のパターニング配合物が顔料を含むことを特徴とする物品。
【0387】
[実施形態90]
実施形態84乃至91の何れか一つに記載の物品において、表面が凸状であることを特徴とする物品。
【0388】
[実施形態93]
表面上にラインパターンを形成する方法であって、
表面の少なくとも一部の上にプレコート配合物の層を形成するステップであって、上記層が、徐々に変化する厚さを有し、上記層の少なくとも1の第1の領域の厚さが、上記層の少なくとも1の第2の領域の厚さより少なくとも5%小さい、ステップと、
表面へのプレコート配合物の部分的硬化を可能にする条件に上記層を曝すステップと、
上記層上に少なくとも1種のパターニング配合物の少なくとも1本の線を塗布するステップであって、(i)第1の領域上に塗布されたパターニング配合物が上記層内に少なくとも部分的に組み込まれ、かつ(ii)第2の領域上に塗布されたパターニング配合物が、予備硬化されたラインパターンを得るために、第2の領域の上に保持される、ステップと、
硬化の完了を可能にする条件に予備硬化されたラインパターンを曝して、表面上にラインパターンを得るステップとを含むことを特徴とする方法。
【0389】
[実施形態94]
実施形態93に記載の方法において、プレコート層が、ラインパターンに沿って徐々に厚さが増加しているか、または徐々に減少していることを特徴とする方法。
【0390】
[実施形態95]
実施形態93または94に記載の方法において、パターニング配合物が、顔料、導電性粒子またはそれらの組合せを含むことを特徴とする方法。
【0391】
[実施形態96]
パターン形成された物品であって、
表面を有する物品と、
規定された方向に沿って少なくとも1の化学的または物理的特性が徐々に変化する、表面上のプレコート層と、
パターニング配合物の少なくとも1本の線とを含み、パターニング配合物が、(i)プレコート層の第1の領域内に少なくとも部分的に組み込まれ、かつ(ii)プレコート層の第2の領域の上に配置され、第1および第2の領域が互いに一体的であることを特徴とする物品。
【0392】
[実施形態97]
パターン形成された物品であって、
表面を有する物品と、
厚さが徐々に変化する、表面上のプレコート層であって、当該層の少なくとも1の第1の領域の厚さが、当該層の少なくとも1の第2の領域の厚さより少なくとも5%小さい、プレコート層と、
パターニング配合物の少なくとも1本の線とを含み、パターニング配合物が、(i)第1の領域内に少なくとも部分的に組み込まれ、かつ(ii)プレコート層の第2の領域の上に配置されていることを特徴とする物品。
【0393】
[実施形態98]
実施形態96に記載の物品において、上記層の厚さが、ラインパターンに沿って徐々に増加または徐々に減少していることを特徴とする物品。
【0394】
[実施形態99]
印刷インクシステムであって、表面張力γを有するプレコート配合物と、表面張力γを有する少なくとも1種のパターニング配合物とを含み、周囲条件でγ<γであり、少なくとも1種のパターニング配合物が、プレコート配合物中の相補的作用物質と化学反応することができる作用物質を含むことを特徴とする印刷インクシステム。
【0395】
[実施形態100]
実施形態99に記載のシステムにおいて、作用物質と相補的作用物質との間の化学反応が、少なくとも1種のパターニング配合物の粘度を増加させることを特徴とするシステム。
【0396】
[実施形態101]
実施形態100に記載のシステムにおいて、少なくとも1種のパターニング配合物が、初期粘度μ を有し、作用物質と相補的作用物質との間の化学反応時に、少なくとも1種のパターニング配合物の粘度が、粘度μへと少なくとも1桁増加することを特徴とするシステム。
【0397】
[実施形態102]
実施形態101に記載のシステムにおいて、μ が少なくとも10cps、少なくとも50cpsまたは少なくとも100cpsであり、かつ/またはμが少なくとも1,000、少なくとも10,000cpsまたは少なくとも100,000cpsであることを特徴とするシステム。
【0398】
[実施形態103]
実施形態99乃至102の何れか1つに記載のシステムにおいて、少なくとも1種のパターニング配合物が顔料を含み、任意には、当該システムが2種またはそれ以上のパターニング配合物を含み、それぞれが異なる顔料を含むことを特徴とするシステム。
【0399】
[実施形態104]
実施形態99乃至103の何れか1つに記載のシステムにおいて、作用物質がポリマー、オリゴマーまたはモノマーであり、それぞれが塩基性官能基で官能化されていることを特徴とするシステム。
【0400】
[実施形態105]
実施形態104に記載のシステムにおいて、ポリマーまたはオリゴマーが、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチルアクリレート、ポリ(エチルヘキシル)アクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリブチルメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、トリエトキシトリアクリレート(TMP(EO)TA)、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート、アクリル化オリゴアミン樹脂またはアミン修飾アクリレートのなかから選択され、またはモノマーが、メチルアクリレート(MA)、メチルメタクリレート(MMA)、エチルアクリレート、(エチルヘキシル)アクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、トリエトキシトリアクリレート(TMP(EO)TA)、エポキシアクリレートモノマー、ポリエステルアクリレートモノマー、ウレタンアクリレートモノマーおよびそれらの任意の組合せのなかから選択されることを特徴とするシステム。
【0401】
[実施形態106]
実施形態104または105に記載のシステムにおいて、塩基性官能基が、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、ヒドロキシル基およびアミドのなかから選択されることを特徴とするシステム。
【0402】
[実施形態107]
実施形態99乃至106の何れか1つに記載のシステムにおいて、相補的作用物質がポリマー、オリゴマーまたはモノマーであり、それぞれが酸性官能基で官能化されていることを特徴とするシステム。
【0403】
[実施形態108]
実施形態107に記載のシステムにおいて、ポリマーまたはオリゴマーが、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチルアクリレート、ポリ(エチルヘキシル)アクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリブチルメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、トリエトキシトリアクリレート(TMP(EO)TA)、エポキシアクリレート、塩素化ポリエステルアクリレート、ポリアクリル酸、酸官能性アクリレート、酸官能性メタクリレートのなかから選択され、またはモノマーが、それらの対応するモノマーから選択されることを特徴とするシステム。
【0404】
[実施形態109]
実施形態107または108に記載のシステムにおいて、酸性官能基が、カルボキシル基、スルホン酸基(-SOOH)、チオールおよびエノールのなかから選択されることを特徴とするシステム。
【0405】
[実施形態110]
実施形態99乃至109の何れか1つに記載のシステムにおいて、表面張力γが37mN/m以下であることを特徴とするシステム。
【0406】
[実施形態111]
実施形態99乃至110の何れか1つに記載のシステムにおいて、表面張力γが約20~33mN/mであることを特徴とするシステム。
【0407】
[実施形態112]
実施形態99乃至111の何れか1つに記載のシステムにおいて、表面張力γが、γより少なくとも3mN/m大きいことを特徴とするシステム。
【0408】
[実施形態113]
実施形態99乃至112の何れか1つに記載のシステムにおいて、プレコート配合物および少なくとも1種のパターニング配合物のそれぞれが、少なくとも1種の光開始剤を個別に含むことを特徴とするシステム。
【0409】
[実施形態114]
実施形態113に記載のシステムにおいて、光開始剤が、約365nm~470nmの波長で任意に活性化されるUV感受性であることを特徴とするシステム。
【0410】
[実施形態115]
実施形態113に記載のシステムにおいて、光開始剤が、200~470nmの波長による照射に暴露されると活性化されることを特徴とするシステム。
【0411】
[実施形態116]
実施形態99乃至115の何れか1つに記載のシステムにおいて、周囲条件でγ<γ≦γとなるような表面張力γを有する中間配合物をさらに含むことを特徴とするシステム。
【0412】
[実施形態117]
実施形態116に記載のシステムにおいて、中間配合物が、少なくとも1種の他の顔料を含み、任意には、この少なくとも1種の他の顔料が、パターニング配合物の顔料とは異なることを特徴とするシステム。
【0413】
[実施形態118]
実施形態116または117に記載のシステムにおいて、作用物質が、中間配合物中の1種の他の相補的作用物質と化学的に反応することができることを特徴とするシステム。
【0414】
[実施形態119]
実施形態118に記載のシステムにおいて、作用物質と少なくとも1種の他の相補的作用物質との間の化学反応が、少なくとも1種のパターニング配合物の粘度を増加させることを特徴とするシステム。
【0415】
[実施形態120]
実施形態119に記載のシステムにおいて、少なくとも1種のパターニング配合物が、初期粘度μ を有し、作用物質と相補的作用物質との間の化学反応時に、少なくとも1種のパターニング配合物の粘度が、粘度μへと少なくとも1桁増加することを特徴とするシステム。
【0416】
[実施形態121]
実施形態118乃至120の何れか1つに記載のシステムにおいて、他の相補的作用物質が、塩基性官能基で官能化されたポリマー、オリゴマーまたはモノマーであることを特徴とするシステム。
【0417】
[実施形態122]
実施形態121に記載のシステムにおいて、ポリマーまたはオリゴマーが、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチルアクリレート、ポリ(エチルヘキシル)アクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリブチルメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、トリエトキシトリアクリレート(TMP(EO)TA)、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート、アクリル化オリゴアミン樹脂またはアミン修飾アクリレートのなかから選択され、またはモノマーが、メチルアクリレート(MA)、メチルメタクリレート(MMA)、エチルアクリレート、(エチルヘキシル)アクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、トリエトキシトリアクリレート(TMP(EO)TA)、エポキシアクリレートモノマー、ポリエステルアクリレートモノマー、ウレタンアクリレートモノマーおよびそれらの任意の組合せのなかから選択されることを特徴とするシステム。
【0418】
[実施形態123]
実施形態121または122に記載のシステムにおいて、酸性官能基が、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、ヒドロキシル基およびアミドのなかから選択されることを特徴とするシステム。
【0419】
[実施形態124]
実施形態116乃至123の何れか1つに記載のシステムにおいて、表面張力γが、γより少なくとも3mN/m大きいことを特徴とするシステム。
【0420】
[実施形態125]
実施形態116乃至124の何れか1つに記載のシステムにおいて、中間配合物が、少なくとも1種の光開始剤をさらに含み、この光開始剤が、任意には、365~470nmの波長で活性化されることを特徴とするシステム。
【0421】
[実施形態126]
実施形態99乃至125の何れか1つに記載のシステムにおいて、プレコート配合物および少なくとも1種のパターニング配合物の各々が、希釈剤、界面活性剤、表面張力調整剤、フリーラジカルスカベンジャーおよび粘度調整剤のうちの少なくとも1つを個別に含むことを特徴とするシステム。
【0422】
[実施形態127]
実施形態116乃至126の何れか1つに記載のシステムにおいて、中間配合物が、希釈剤、界面活性剤、表面張力調整剤、フリーラジカルスカベンジャーおよび粘度調整剤のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とするシステム。
【0423】
[実施形態128]
実施形態99乃至127の何れか1つに記載のシステムにおいて、プレコート配合物および少なくとも1種のパターニング配合物の各々が、実質的に溶剤を含まないことを特徴とするシステム。
【0424】
[実施形態129]
実施形態116乃至128の何れか1つに記載のシステムにおいて、中間配合物が、実質的に溶剤を含まないことを特徴とするシステム。
【0425】
[実施形態130]
印刷インクシステムであって、
表面張力γを有するプレコート配合物と、
表面張力γを有する中間配合物と、
表面張力γを有する少なくとも1種のパターニング配合物とを含み、周囲条件でγ<γ≦γとなることを特徴とするシステム。
【0426】
[実施形態131]
実施形態130に記載のシステムにおいて、プレコート配合物、中間配合物および少なくとも1種のパターニング配合物の各々が、実質的に溶剤を含まないことを特徴とするシステム。
【0427】
[実施形態132]
実施形態130または131に記載のシステムにおいて、パターニング配合物が少なくとも1種の顔料を含み、中間配合物が少なくとも1種の他の顔料を含み、任意には、少なくとも1種の顔料が、少なくとも1種の他の顔料とは異なることを特徴とするシステム。
【0428】
[実施形態133]
実施形態130乃至132の何れか1つに記載のシステムにおいて、少なくとも1種のパターニング配合物が、(i)少なくとも1種のプレコート配合物中の相補的作用物質および(ii)中間配合物中の少なくとも1種の他の相補的作用物質のうちの少なくとも一方と化学的に反応することができる作用物質を含み、相補的作用物質および他の相補的作用物質が同じであるか、または異なることを特徴とするシステム。
【0429】
[実施形態134]
実施形態133に記載のシステムにおいて、相補的作用物質および他の相補的作用物質の各々が、それぞれ酸性官能基で官能化されたポリマー、オリゴマーまたはモノマーであり、作用物質が、塩基性官能基で官能化されたポリマー、オリゴマーまたはモノマーであることを特徴とするシステム。
【0430】
[実施形態135]
実施形態130乃至134の何れか1つに記載のシステムにおいて、表面張力γが最大で37mN/mであることを特徴とするシステム。
【0431】
[実施形態136]
実施形態130乃至135の何れか1つに記載のシステムにおいて、(i)表面張力γがγより少なくとも3mN/m大きく、かつ/または(ii)表面張力γがγより少なくとも3mN/m大きいことを特徴とするシステム。
【0432】
[実施形態137]
表面にパターンを形成する方法であって、パターンを得るために、少なくとも1種の顔料含有パターニング配合物を表面上に塗布するステップを含み、表面が、プレコート配合物により少なくとも部分的にプレコートされ、プレコート配合物が表面張力γを有し、少なくとも1種のパターニング配合物が表面張力γを有し、周囲条件でγ<γであり、少なくとも1種のパターニング配合物が、プレコート配合物中の相補的作用物質と化学的に反応することができる作用物質を含むことを特徴とする方法。
【0433】
[実施形態138]
実施形態137に記載の方法において、作用物質と相補的作用物質との間の化学反応が、少なくとも1種のパターニング配合物の粘度を増加させ、任意には、少なくとも1種のパターニング配合物が、初期粘度μ を有し、作用物質と相補的作用物質との間の化学反応時に、少なくとも1種のパターニング配合物の粘度が、粘度μへと少なくとも1桁増加することを特徴とする方法。
【0434】
[実施形態139]
実施形態137または138に記載の方法において、表面が、パターニング配合物を塗布する前に中間配合物で処理され、中間配合物が、周囲条件でγ<γ≦γとなるような表面張力γを有することを特徴とする方法。
【0435】
[実施形態140]
実施形態139に記載の方法において、パターニング配合物中の作用物質が、中間配合物中の少なくとも1種の他の相補的作用物質と化学的に反応することができ、任意には、少なくとも1種のパターニング配合物が、初期粘度μ を有し、作用物質と少なくとも1種の他の相補的作用物質との間の化学反応時に、少なくとも1種のパターニング配合物の粘度が、粘度μへと少なくとも1桁増加することを特徴とする方法。
【0436】
[実施形態141]
実施形態137乃至140の何れか1つに記載の方法において、作用物質が相補的作用物質または他の相補的作用物質の少なくとも一方と化学的に反応することを可能にするステップをさらに含むことを特徴とする方法。
【0437】
[実施形態142]
実施形態137乃至141の何れか1つに記載の方法において、作用物質が、塩基性官能基で官能化されたポリマー、オリゴマーまたはモノマーであり、相補的作用物質および他の相補的作用物質の各々が、それぞれ酸性官能基で官能化されたポリマー、オリゴマーまたはモノマーであることを特徴とする方法。
【0438】
[実施形態143]
実施形態137乃至142の何れか1つに記載の方法において、パターン形成後に表面をUV放射に曝すステップをさらに含むことを特徴とする方法。
【0439】
[実施形態144]
表面にパターンを形成する方法であって、
(a)表面上に表面張力γを有するプレコート配合物を塗布してプレコート層を得るステップと、
(b)任意選択的に、表面張力γを有する中間配合物をプレコート層上に塗布して中間層を得るステップと、
(c)表面張力γを有する少なくとも1種のパターニング配合物をプレコート層上に塗布してパターンを得るステップとを含み、
周囲条件でγ<γ≦γであり、パターニング配合物が、(i)プレコート配合物中の相補的作用物質および(ii)中間配合物中の少なくとも1種の他の相補的作用物質のうちの少なくとも一方と化学的に反応することができる作用物質を含むことを特徴とする方法。
【0440】
[実施形態145]
実施形態144に記載の方法において、作用物質と相補的作用物質の少なくとも一方との間の化学反応が、少なくとも1種のパターニング配合物の粘度を増加させることを特徴とする方法。
【0441】
[実施形態146]
実施形態144または145に記載の方法において、プレコート配合物の初期粘度μ を粘度μへと少なくとも1桁増加させるために、プレコート配合物を照射に曝すステップ(a1)をさらに備え、このステップ(a1)が、中間コートまたはパターニング配合物の何れかの塗布の前に行われ、任意には、ステップ(a1)または(b1)における照射が約365~470nmの波長で適用されることを特徴とする方法。
【0442】
[実施形態147]
実施形態144乃至146の何れか1つに記載の方法において、中間配合物が塗布されるときに、中間配合物の初期粘度μ を粘度μへと少なくとも1桁増加させるために、中間配合物を照射に曝すステップ(b1)をさらに備え、このステップ(b1)が、パターニング配合物の塗布前に行われ、任意には、ステップ(a1)または(b1)における照射が約365~470nmの波長で適用されることを特徴とする方法。
【0443】
[実施形態148]
実施形態144乃至147の何れか1つに記載の方法において、パターンが、プレコート層および中間層の一方または両方に少なくとも部分的に入り込むことを特徴とする方法。
【0444】
[実施形態149]
キットであって、
プレコート配合物を含む第1の容器と、
任意には、中間配合物を含む第2の容器と、
少なくとも1種のパターニング配合物を含む少なくとも1の第3の容器とを含み、
プレコート配合物が表面張力γを有し、中間配合物が表面張力γを有し、少なくとも1種のパターニング配合物が表面張力γを有し、周囲条件でγ<γ≦γであり、パターニング配合物が、(i)プレコート配合物中の相補的作用物質および(ii)中間配合物中の少なくとも1種の他の相補的作用物質のうちの少なくとも一方と化学的に反応することができる作用物質を含むことを特徴とするキット。
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A-9B】
図10