(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-29
(45)【発行日】2022-08-08
(54)【発明の名称】硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
C08F 2/44 20060101AFI20220801BHJP
C08F 2/50 20060101ALI20220801BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20220801BHJP
A61K 6/887 20200101ALI20220801BHJP
A61K 6/831 20200101ALI20220801BHJP
A61L 27/16 20060101ALI20220801BHJP
A61L 27/10 20060101ALI20220801BHJP
A61L 27/44 20060101ALI20220801BHJP
A61L 27/50 20060101ALI20220801BHJP
【FI】
C08F2/44 A
C08F2/50
A61P1/02
A61K6/887
A61K6/831
A61L27/16
A61L27/10
A61L27/44
A61L27/50
(21)【出願番号】P 2019513634
(86)(22)【出願日】2018-04-16
(86)【国際出願番号】 JP2018015735
(87)【国際公開番号】W WO2018194032
(87)【国際公開日】2018-10-25
【審査請求日】2021-02-10
(31)【優先権主張番号】P 2017082023
(32)【優先日】2017-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017169730
(32)【優先日】2017-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】391003576
【氏名又は名称】株式会社トクヤマデンタル
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100136939
【氏名又は名称】岸武 弘樹
(74)【代理人】
【識別番号】100087893
【氏名又は名称】中馬 典嗣
(72)【発明者】
【氏名】松尾 拓馬
(72)【発明者】
【氏名】秋積 宏伸
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/050634(WO,A1)
【文献】特開2012-153640(JP,A)
【文献】国際公開第2011/158742(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/042911(WO,A1)
【文献】特表2007-532518(JP,A)
【文献】特表2012-505823(JP,A)
【文献】国際公開第2013/039169(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/101236(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00-2/60
A61P 1/02
A61K 6/887、6/831
A61L 27/10、27/16、27/44、27/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性単量体(A)、平均一次粒子径が230nm~1000nmの範囲内にあ
り、且つ、平均均斉度が0.6以上である球状粒子(B)、及び重合開始剤(C)を含有し、
前記球状粒子(B)がシリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物粒子であり、
前記球状粒子(B)を構成する個々の粒子の90%以上が平均一次粒子径の前後の5%の範囲に存在し、
前記重合性単量体(A)及び前記球状粒子(B)は、下記式(1):
nP<nF (1)
(式(1)中、nPは、前記重合性単量体(A)を重合して得られる重合体の25℃における屈折率を表し、nFは、前記球状粒子(B)の25℃における屈折率を表す。)
で示される条件(X1)を満たし、
厚さ1mmの硬化体を形成した状態で、各々色差計を用いて測定した、黒背景下での着色光のマンセル表色系による測色値のY値(Yb)と、白背景下での着色光のマンセル表色系による測色値のY値(Yw)との比(Yb/Yw)が、0.2~0.5の範囲を満たす硬化性組成物。
【請求項2】
前記球状粒子(B)の平均一次粒子径が240nm~500nmの範囲内である請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
前記球状粒子(B)の25℃における屈折率nFと、前記重合性単量体(A)の重合体の25℃における屈折率nPとの差が0.001以上である請求項1又は2に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
平均一次粒子径が100nm未満の無機粒子(D)を含有する請求項1~3のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の硬化性組成物からなる歯科用充填修復材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、染料及び顔料を使用することなく外観色調を制御でき、且つ、退色及び変色の少ない硬化性組成物に関し、特に、簡便性及び審美性に優れた歯科用充填修復材料等の歯科用硬化性組成物として有用な硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、無機又は有機のフィラーと、重合性単量体とを含有する硬化性組成物が、建築材料、記録材料、歯科用材料等の種々の分野において使用されている。特に歯科用充填修復材料は、天然歯牙色と同等の色調を付与することができ、操作が容易であることから、齲蝕、破折等により損傷をうけた歯牙の修復をするための材料として急速に普及し、近年においては、機械的強度の向上及び歯牙との接着力の向上により、前歯部の修復のみならず、高い咬合圧が加わる臼歯部に対しても使用されている。
【0003】
近年、歯科用充填修復材料の分野では、咬合の回復だけではなく、天然歯に見えるような審美的な修復への要求が高まりつつあり、単なる同等の色調だけではなく、歯牙の各所の透明性及び色調を再現できる修復材料が求められている。
【0004】
天然歯は、象牙質及びエナメル質からなり、各部位で色調(色相、彩度、明度)が異なる。例えば、切端部は象牙質層が薄くほとんどエナメル質となるため透明性が高い。逆に、歯頚部は象牙質層が厚いため不透明であり、切端部と比較して明度(色の濃淡)及び彩度(色の鮮やかさ)が高い。すなわち、天然歯は、象牙質層が厚い歯頸部から象牙質層の薄い切端部の方向に彩度及び明度が低下している。このように、歯牙は部位によって色調が異なるため、歯牙の修復において高い審美性を得るには、色調が各々異なる複数種の硬化性ペーストを用意し、この中から、実際の修復歯牙及びその隣接歯牙(以下、「修復歯牙の周辺」ともいう。)と色調が最も良く適合したものを選定して使うことが大切になる(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
こうした色調の選定は、歯科医師が、用意された硬化性ペーストの各硬化体サンプルが集められたシェードガイド(色見本)を用い、それぞれの色調と、口腔内を覗き込んで確認される修復歯牙周辺の色調とを見比べて、最も近いと感じられるものを選ぶことにより行われる。
【0006】
また、修復歯牙の損傷が軽く、窩洞が浅い場合でなければ、上記色調の適合を、単一種の硬化性ペーストの充填で実現することは困難になる。すなわち、窩洞が深い(例えば、4級窩洞)と、歯牙の色調は、単に歯面部(エナメル質部分)の色調だけでなく、透けて見える深層部(象牙質部分)までの色調も融合してグラデーションに富む状態で観取される。このため、一定の深さごとに充填する硬化性ペーストの色調を変え、積層充填することにより、この微妙な色調を再現している。通常は、最深部から、象牙質部分の色調を再現した象牙質修復用の硬化性ペーストの複数種を用いて積層し(通常は、層ごとに硬化させながら積層していく)、最後の表層部に、エナメル質修復用の硬化性ペーストを積層することにより実施されている(例えば、非特許文献1及び2参照)。
【0007】
このように、歯牙の色調には個人差及び部位差があるため、これらを考慮して色調を厳格にコントロールして用意することは、硬化性ペースト数が膨大になり実質不可能なのが実情である。また、用意した色調の異なる複数種の硬化性ペーストから歯牙の色調にあった硬化性ペーストを選択するのに手間が掛かる。
【0008】
さらに、従来から、硬化性ペースト等の硬化性組成物の色調調整には、顔料、染料等が用いられており、色調の異なる顔料、染料等の配合割合を変更して種々の色調を準備していた。しかし、このような顔料及び染料による着色は経年劣化によって退色又は変色する傾向にある。歯科用充填修復材料においては、修復直後は高い色調適合性を示すが、修復後から時間が経過するに従って変色し、修復部位の外観が天然歯と適合しないといった現象が多々生じていた。
【0009】
これに対し、顔料、染料等を用いずに着色する技術として光の干渉を利用するものが、内装建材及び記録物の分野で知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。光の干渉を利用した発色は、顔料、染料等を用いた場合に見られる退色又は変色現象がないという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2004-276492号公報
【文献】特開2001-239661号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】松村英雄、田上順次監修,「接着YEARBOOK 2006」,第1版,クインテッセンス出版株式会社,2006年8月,p.129-137
【文献】宮崎真至著,「コンポジットレジン修復のサイエンス&テクニック」,第1版,クインテッセンス出版株式会社,2010年1月,p.48-49
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
光の干渉による着色光(以下、単に「干渉光」ともいう。)を利用した硬化性組成物による歯牙の修復は、顔料等の着色物質を用いた場合に見られる退色又は変色現象がないという利点がある。しかし、該修復には、個体差又は修復箇所により濃淡がある天然歯牙の色調に適合させるため、複数種の硬化性組成物を用意する必要があり、また、修復する窩洞の深さが深い場合には色調の異なる複数種の硬化性組成物を用いて積層する必要があるという課題がある。
【0013】
したがって、本発明の目的は、色調の異なる複数種の硬化性組成物を用意する必要がなく、さらに、色調の異なる複数種の硬化性組成物を用いて積層することなく、形成される硬化物の外観が天然歯牙の色調と適合する修復が可能であり、且つ、形成される硬化物の天然歯牙との調和が継続する硬化性組成物、及び該組成物を用いた歯科用充填修復材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題に鑑み、本発明者らは鋭意研究を続けてきた。その結果、特定の粒子径を有する球状粒子を含有した硬化性組成物において、硬化性組成物のコントラスト比を制御することにより、修復物の充填部と非充填部との色調の差が小さく、天然歯牙に対して優れた色調適合性を示すようになり、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明の硬化性組成物は、重合性単量体(A)、平均一次粒子径が230nm~1000nmの範囲内にある球状粒子(B)、及び重合開始剤(C)を含有し、球状粒子(B)を構成する個々の粒子の90%以上が平均一次粒子径の前後の5%の範囲に存在し、重合性単量体(A)及び球状粒子(B)が、下記式(1):
nP<nF (1)
(式(1)中、nPは、重合性単量体(A)を重合して得られる重合体の25℃における屈折率を表し、nFは、球状粒子(B)の25℃における屈折率を表す。)
で示される条件(X1)を満たし、厚さ1mmの硬化体を形成した状態で、各々色差計を用いて測定した、黒背景下での着色光のマンセル表色系による測色値のY値(Yb)と、白背景下での着色光のマンセル表色系による測色値のY値(Yw)との比(Yb/Yw)が、0.2~0.5の範囲を満たすものである。
【0016】
また、本発明の歯科用充填修復材料は、本発明の硬化性組成物からなるものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の硬化性組成物は、固体差又は修復箇所により異なる天然歯牙の色調に応じた発色を示すため、色調の異なる複数種の硬化性組成物を用意する必要がない。また、本発明の硬化性組成物によれば、色調の異なる複数種の硬化性組成物を用いて積層することなく、簡便に硬化体を形成することができ、且つ、硬化体の外観が窩洞の深さに関係なく天然歯牙の色調と適合する修復が可能である。また、本発明の硬化性組成物は、干渉光を利用しているため退色及び変色がなく、形成される硬化体の天然歯牙との調和が継続する修復が可能である。したがって、本発明の硬化性組成物は、歯科用硬化性組成物、特に歯科用充填修復材料として好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の硬化性組成物は、重合性単量体(A)、平均一次粒子径が230nm~1000nmの範囲内にある球状粒子(B)、及び重合開始剤(C)を含有してなる。
【0019】
本発明の最大の特徴は、窩洞の修復作業性の簡便性と、優れた審美性及び天然歯牙との調和の継続とを達成するために、粒度分布が狭い球状粒子(B)を用いるとともに、重合性単量体(A)及び球状粒子(B)として、屈折率の関係が下記式(1):
nP<nF (1)
(上記式中、nPは、重合性単量体(A)を重合して得られる重合体の25℃における屈折率を表し、nFは、球状粒子(B)の25℃における屈折率を表す。)
で示される条件(X1)を満足するように選択し、且つ、厚さ1mmの硬化体を形成した状態で、各々色差計を用いて測定した、黒背景(マンセル表色系による明度が1の下地)下での着色光のマンセル表色系による測色値のY値(Yb)と、白背景(マンセル表色系による明度が9.5の下地)下での着色光のマンセル表色系による測色値のY値(Yw)との比(Yb/Yw)が、0.2~0.5の範囲を満たすものとする点である。以下、この比(Yb/Yw)をコントラスト比ともいう。
【0020】
上記の条件を全て満たすことにより、染料、顔料等を用いなくても光の干渉による着色光が明瞭に確認でき、窩洞の深さに関係なく、天然歯に近い、色調適合性の良好な修復が可能となる歯科用硬化性組成物、特に歯科用充填修復材料として用いることができる硬化性組成物を得ることができる。なお、球状粒子(B)の粒径と光の干渉現象との関係は、ブラッグ回折条件に従うと考えられる。
【0021】
天然歯牙の色調には個人差があり、修復する部位によっても色調が異なるが、本発明の光の干渉現象を利用した硬化性組成物は様々な色調に対応できる。具体的には、下地となる歯牙の色度(色相及び彩度)が高い場合には、照射光等の外光が高色度の背景によって吸収され、光の干渉現象を利用した硬化性組成物から生じる着色光(干渉光)以外の光が抑制されるため、着色光が観察できる。一方、下地となる歯牙の色度が低い場合には、照射光等の外光が低色度の背景で散乱反射し、光の干渉現象を利用した硬化性組成物から生じる着色光(干渉光)よりも強いため、着色光が打ち消されて弱くなる。
【0022】
したがって、色度の高い天然歯牙に対しては強い着色光が生じ、色度の低い天然歯牙に対しては弱い着色光が生じるため、1種のペーストで幅広い色調適合性を示すことができる。このように、1種のペーストで色度の高低によらず天然歯牙と色調が適合する技術は、顔料等の着色物質の配合により調製されるペーストでは達成は困難である。
【0023】
本発明の硬化性組成物は、干渉現象によって着色光が発生することを特徴としているが、該着色光が発生するか否かは、色差計を用いて黒背景下及び白背景下の双方の条件で分光反射率特性を測定することにより確認される。黒背景下では、上述した条件を満たす場合、着色光に応じた特有の反射スペクトルが明瞭に確認されるが、白背景下では、可視スペクトル(380nm~780nm)の実質的な全範囲に亘り、実質的に均一な反射率を示し、特定の反射可視スペクトルは確認されず、実質的に無色である。これは、黒背景下においては、外光(例えば、C光源、D65光源等)が吸収又は遮光されて干渉による着色光が強調され、白背景下においては、外光の散乱反射光が強いため干渉による着色光が観察され難くなるためと考えられる。
【0024】
本発明の色調適合性に優れるという効果を発現させる上では、重合性単量体(A)の重合体の25℃における屈折率nPと、球状粒子(B)の25℃における屈折率nFとの関係を、下記式(1)を満足するものとし、且つ、硬化性組成物の硬化体のコントラスト比(Yb/Yw)を0.2~0.5の範囲とする点が重要である。
nP<nF (1)
【0025】
式(1)に示すように、本発明の硬化性組成物は、重合性単量体(A)の重合体の25℃における屈折率nPと、球状粒子(B)の25℃における屈折率nFとの関係がnP<nFにある。球状粒子(B)の屈折率nFが高く、重合性単量体(A)の重合体の屈折率nPが低い場合、ブラッグ回折条件に従った干渉光が発現するが、逆の場合、短波長の光が干渉され易くなり、得られる着色光は短波長化して青みを帯びたものとなり、エナメル質から象牙質に亘って形成された天然歯の窩洞に対しては、歯牙との色調適合性が不良となり易い。
【0026】
また、本発明における硬化性組成物の硬化体のコントラスト比(Yb/Yw)が、0.2未満の場合、充填部位における硬化体の明度(色の濃淡)が低くなり、充填部位における透過光が強く、硬化体からの着色光が弱くなるため、深い窩洞(例えば、4級窩洞)に充填した場合に、本発明の効果である色調適合性が得られ難くなると考えられる。一方、硬化体のコントラスト比(Yb/Yw)が0.5を超えた場合、硬化体の明度が高くなり、下地となる修復物まで光が透過し難くなるため、充填部位表面での反射光が強く、硬化体からの着色光が弱くなり、本発明の効果である色調適合性が得られ難くなると考えられる。
【0027】
窩洞の深さに関係なく優れた色調適合性を有するためには、硬化性組成物の硬化体のコントラスト比(Yb/Yw)は0.2~0.5の範囲であり、0.20~0.47の範囲であるのが好ましく、0.20~0.45の範囲であるのがより好ましい。
【0028】
なお、硬化性組成物の硬化体のコントラスト比(Yb/Yw)は、例えば、重合性単量体(A)の重合体と球状粒子(B)との屈折率差、球状粒子(B)の粒子径、後述する無機粒子(D)の含有率等によって調整することが可能である。具体的には、重合性単量体(A)の重合体と球状粒子(B)との屈折率差が大きくなるとコントラスト比(Yb/Yw)が大きくなる傾向にあり、重合性単量体(A)の重合体と球状粒子(B)との屈折率差が小さくなるとコントラスト比(Yb/Yw)が小さくなる傾向にある。また、球状粒子(B)の平均一次粒子径が大きくなるとコントラスト比(Yb/Yw)が大きくなる傾向にあり、球状粒子(B)の平均一次粒子径が小さくなるとコントラスト比(Yb/Yw)が小さくなる傾向にある。また、無機粒子(D)の含有率が多くなるとコントラスト比(Yb/Yw)が大きくなる傾向にあり、無機粒子(D)の含有率が少なくなるとコントラスト比(Yb/Yw)が小さくなる傾向にある。
【0029】
本発明の硬化性組成物を用いると、例えば、シェードガイド(「VITAClassical」、VITA社製)におけるA系(赤茶色)の範疇にあって、深さが1mm及び5mmの修復物の孔に硬化性組成物を充填及び硬化した状態で、各々二次元色彩計を用いて測定したときの、充填部と非充填部とにおける測色値の色差(ΔE*)を3.5以下とすることができる。また、シェードガイド(「VITAClassical」、VITA社製)におけるB系(赤黄色)の範疇にあって、深さが1mm及び5mmの修復物の孔に同じ硬化性組成物を充填及び硬化した状態で、各々二次元色彩計を用いて測定したときの、充填部と非充填部とにおける測色値の色差(ΔE*)を3.5以下とすることができる。すなわち、本発明の硬化性組成物は、歯牙の色調及び窩洞の深さが異なっても色調適合性に優れる。
【0030】
以下、本発明の硬化性組成物の各成分について説明する。
【0031】
<重合性単量体(A)>
重合性単量体(A)としては、公知のものが特に制限なく使用できる。重合速度の観点から、ラジカル重合性又はカチオン重合性の単量体が好ましい。特に好ましいラジカル重合性単量体は(メタ)アクリル化合物である、(メタ)アクリル化合物としては、以下に例示する(メタ)アクリレート類が挙げられる。また、特に好ましいカチオン重合性単量体としては、エポキシ類及びオキセタン類が挙げられる。
【0032】
一般に、好適に使用される(メタ)アクリル化合物として、(メタ)アクリレート類を例示すれば、下記(I)~(IV)に示されるものが挙げられる。
【0033】
(I)単官能重合性単量体
(I-i)酸性基及び水酸基を有さないもの
メチル(メタ)アクリレート、
エチル(メタ)アクリレート、
n-ブチル(メタ)アクリレート、
2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、
n-ラウリル(メタ)アクリレート、
n-ステアリル(メタ)アクリレート、
テトラフルフリル(メタ)アクリレート、
グリシジル(メタ)アクリレート、
メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、
メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、
メトキシートリエチレングリコール(メタ)アクリレート、
メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、
エトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、
エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、
エトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、
エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、
フェノキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、
フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、
フェノキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、
フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、
シクロヘキシル(メタ)アクリレート、
ベンジル(メタ)アクリレート、
イソボロニル(メタ)アクリレート、
トリフルオロエチル(メタ)アクリレート等。
【0034】
(I-ii)酸性基を有するもの
(メタ)アクリル酸、
N-(メタ)アクリロイルグリシン、
N-(メタ)アクリロイルアスパラギン酸、
N-(メタ)アクリロイル-5-アミノサリチル酸、
2-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネート、
2-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンフタレート、
2-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンマレート、
6-(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン-1,2,6-トリカルボン酸、
O-(メタ)アクリロイルチロシン、
N-(メタ)アクリロイルチロシン、
N-(メタ)アクリロイルフェニルアラニン、
N-(メタ)アクリロイル-p-アミノ安息香酸、
N-(メタ)アクリロイル-o-アミノ安息香酸、
p-ビニル安息香酸、
2-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、
3-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、
4-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、
N-(メタ)アクリロイル-5-アミノサリチル酸、
N-(メタ)アクリロイル-4-アミノサリチル酸等
及びこれらの化合物のカルボキシ基を酸無水物基化した化合物;
11-(メタ)アクリロイルオキシウンデカン-1,1-ジカルボン酸、
10-(メタ)アクリロイルオキシデカン-1,1-ジカルボン酸、
12-(メタ)アクリロイルオキシドデカン-1,1-ジカルボン酸、
6-(メタ)アクリロイルオキシヘキサン-1,1-ジカルボン酸、
2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-3’-メタクリロイルオキシ-2’-(3,4-ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピルサクシネート、
4-(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)トリメリテートアンハイドライド、
4-(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)トリメリテート、
4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテート、
4-(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリテート、
4-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリメリテート、
4-(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメリテート、
4-(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリテート、
6-(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン-1,2,6-トリカルボン酸無水物、
6-(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン-2,3,6-トリカルボン酸無水物、
4-(メタ)アクリロイルオキシエチルカルボニルプロピオノイル-1,8-ナフタル酸無水物、
4-(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン-1,8-トリカルボン酸無水物、
9-(メタ)アクリロイルオキシノナン-1,1-ジカルボン酸、
13-(メタ)アクリロイルオキシトリデカン-1,1-ジカルボン酸、
11-(メタ)アクリルアミドウンデカン-1,1-ジカルボン酸、
2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンフォスフェート、
2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンフォスフェート、
10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンフォスフェート、
6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンフォスフェート、
2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2-ブロモエチルハイドロジェンフォスフェート、
2-(メタ)アクリルアミドエチルジハイドロジェンフォスフェート、
2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、
10-スルホデシル(メタ)アクリレート、
3-(メタ)アクリロキシプロピル-3-ホスホノプロピオネート、
3-(メタ)アクリロキシプロピルホスホノアセテート、
4-(メタ)アクリロキシブチル-3-ホスホノプロピオネート、
4-(メタ)アクリロキシブチルホスホノアセテート、
5-(メタ)アクリロキシペンチル-3-ホスホノプロピオネート、
5-(メタ)アクリロキシペンチルホスホノアセテート、
6-(メタ)アクリロキシヘキシル-3-ホスホノプロピオネート、
6-(メタ)アクリロキシヘキシルホスホノアセテート、
10-(メタ)アクリロキシデシル-3-ホスホノプロピオネート、
10-(メタ)アクリロキシデシルホスホノアセテート、
2-(メタ)アクリロキシエチル-フェニルホスホネート、
2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホン酸、
10-(メタ)アクリロイルオキシデシルホスホン酸、
N-(メタ)アクリロイル-ω-アミノプロピルホスホン酸、
2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、
2-(メタ)アクリロイルオキシエチル2’-ブロモエチルハイドロジェンホスフェート、
2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルホスホネートなど。
【0035】
(I-iii)水酸基を有するもの
2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、
3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、
4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、
6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、
10-ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、
プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、
グリセロールモノ(メタ)アクリレート、
エリスリトールモノ(メタ)アクリレート、
N-メチロール(メタ)アクリルアミド、
N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、
N,N-(ジヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド等。
【0036】
(II)二官能重合性単量体
(II-i)芳香族化合物系のもの
2,2-ビス(メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、
2,2-ビス[(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]プロパン、
2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、
2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、
2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、
2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、
2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、
2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、
2(4-メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)-2(4-メタクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、
2(4-メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)-2-(4-メタクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、
2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、
2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパン等
及びこれらのメタクリレートに対応するアクリレート;
2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルメタクリレート等のメタクリレート又はこれらのメタクリレートに対応するアクリレートのような-OH基を有するビニルモノマーと、ジイソシアネートメチルベンゼン、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートのような芳香族基を有するジイソシアネート化合物との付加から得られるジアダクト;
ジ(メタクリルロキシエチル)ジフェニルメタンジウレタンなど。
【0037】
(II-ii)脂肪族化合物系のもの
エチレングリコールジメタクリレート、
ジエチレングリコールジメタクリレート、
トリエチレングリコールジメタクリレート、
テトラエチレングリコールジメタクリレート、
ネオペンチルグリコールジメタクリレート、
1,3-ブタンジオールジメタクリレート、
1,4-ブタンジオールジメタクリレート、
1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート等
及びこれらのメタクリレートに対応するアクリレート;
1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)トリメチルヘキサン等の、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルメタクリレート等のメタクリレート又はこれらのメタクリレートに対応するアクリレートのような-OH基を有するビニルモノマーと、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、イソフォロンジイソシアネート、メチレンビス(4-シクロヘキシルイソシアネート)のようなジイソシアネート化合物との付加体から得られるジアダクト;
1,2-ビス(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)エチルなど。
【0038】
(III)三官能重合性単量体
トリメチロールプロパントリメタクリレート、
トリメチロールエタントリメタクリレート、
ペンタエリスリトールトリメタクリレート、
トリメチロールメタントリメタクリレート等
及びこれらのメタクリレートに対応するアクリレートなど。
【0039】
(IV)四官能重合性単量体
ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、
ペンタエリスリトールテトラアクリレート;
ジイソシアネートメチルベンゼン、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、イソフォロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、メチレンビス(4-シクロヘキシルイソシアネート)、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレン-2,4-ジイソシアネート等のジイソシアネート化合物とグリシドールジメタクリレートとの付加体から得られるジアダクトなど。
【0040】
これらの(メタ)アクリレート系重合性単量体は、必要に応じて複数の種類のものを併用してもよい。
【0041】
さらに、必要に応じて、上記(メタ)アクリレート系重合性単量体以外の重合性単量体を用いてもよい。
【0042】
本発明において、重合性単量体(A)としては、硬化性組成物の硬化体の物性(機械的特性、及び歯科用途では歯質に対する接着性)調整のため、一般に、複数種の重合性単量体が使用されるが、その際、重合性単量体(A)の25℃における屈折率が1.38~1.55の範囲となるように、重合性単量体の種類及び量を設定することが、後述する球状粒子(B)との屈折率差の観点から望ましい。すなわち、球状粒子(B)として屈折率の調整が容易なシリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物を用いる場合、その屈折率nFはシリカ分の含有量に応じて1.45~1.58程度の範囲となるが、重合性単量体(A)の屈折率を1.38~1.55の範囲に設定することにより、重合性単量体(A)から得られる重合体の屈折率nPを、おおよそ1.40~1.57の範囲に設定でき、式(1)を満足させることが容易である。なお、重合性単量体(A)として複数種の重合性単量体を用いる場合、複数種の重合性単量体を混合した混合物の屈折率が上記範囲に入っていればよく、個々の重合性単量体は必ずしも上記範囲に入っていなくてもよい。
【0043】
なお、重合性単量体又は重合性単量体の硬化体の屈折率は、25℃にてアッベ屈折率計を用いて求めることができる。
【0044】
<球状粒子(B)>
歯科用充填修復材料には、無機粉体、有機粉体等の種々の充填材が含有されているが、本発明の硬化性組成物には、干渉による着色光を発現させる目的で、平均一次粒子径が230nm~1000nmの範囲内である球状粒子(B)が配合される。本発明の硬化性組成物において特徴的なことは、構成する充填材が球状であり、且つ、粒子径分布が狭い点である。干渉による着色光は、構成する粒子が規則的に集積されたときに生じる。本発明の硬化性組成物を構成する球状粒子(B)は、形状が均一な球状であり、且つ、粒子径分布が狭いため、干渉による着色光が生じる。これに対して、粉砕等によって製造される不定形粒子を用いた場合、形状が不均一であり、且つ、粒子径分布が広いため、規則的に集積されず、干渉による着色光は生じない。
【0045】
上述したように、球状粒子(B)は、その平均一次粒子径が230nm~1000nmであり、且つ、球状粒子(B)を構成する個々の粒子の90%(個数)以上が平均一次粒子径の前後の5%の範囲に存在することが重要である。つまり、球状粒子(B)は、複数の一次粒子から構成されており、該複数の一次粒子の平均粒子径の前後の5%の範囲に、全体の一次粒子の数のうち90%以上の数の一次粒子が存在している。干渉による着色光の発現は、ブラッグ条件に則って回折干渉が起こり、特定波長の光が強調されることによるものであり、上記粒子径の粒子を配合すると、その粒子径に従ってその硬化性組成物の硬化体には、黄色~赤色系の着色光が発現するようになる。干渉による着色光の発現効果を一層に高める観点から、球状粒子(B)の平均一次粒子径は230nm~800nmが好適であり、240nm~500nmがより好適であり、260nm~350nmがさらに好適である。平均一次粒子径が150nm以上230nm未満の範囲の球状粒子を用いた場合、得られる着色光は青色系であり、エナメル質から象牙質に亘って形成された天然歯の窩洞に対しては、歯質との色調適合性が不良となり易い。また、平均一次粒子径が100nmよりも小さい球状粒子を用いた場合、可視光の干渉現象が生じ難い。他方、平均一次粒子径が1000nmよりも大きい球状粒子を用いた場合、光の干渉現象の発現は期待できるが、本発明の硬化性組成物を歯科充填用修復材料として用いる場合には、球状粒子の沈降、研磨性の低下等の問題が生じるため好ましくない。
【0046】
本発明の硬化性組成物は、球状粒子(B)の粒径に応じて、黒背景下で様々な着色光を発現する。したがって、所望の色光が得られるように、球状粒子(B)の平均一次粒子径を230nm~1000nmの範囲から決定すればよい。平均一次粒子径が230nm~260nmの範囲内の球状粒子を用いた場合、得られる着色光は黄色系であり、シェードガイド(「VITAClassical」、VITA社製)におけるB系(赤黄色)の範疇にある歯牙の修復に有用で、特にエナメル質から象牙質に亘って形成された窩洞の修復に有用である。平均一次粒子径が260nm~350nmの範囲内の球状粒子を用いた場合、得られる着色光は赤色系であり、シェードガイド(「VITAClassical」、VITA社製)におけるA系(赤茶色)の範疇にある歯牙の修復に有用で、特にエナメル質から象牙質に亘って形成された窩洞の修復に有用である。象牙質の色相はこのような赤色系のものが多いため、平均一次粒子径が260nm~350nmの範囲内の球状粒子を用いる態様において、多様な色調の修復歯牙に対して幅広く適合性が良くなり最も好ましい。一方、平均一次粒子径が150nm以上230nm未満の範囲の球状粒子を用いた場合、上記したように、得られる着色光は青色系であり、エナメル質から象牙質に亘って形成された窩洞に対しては歯質との色調適合性が不良となり易いが、エナメル質の修復に有用で、特に切端部の修復に有用である。
【0047】
なお、球状粒子(B)は平均一次粒子径が上記粒径範囲にあることが重要である。
【0048】
本発明の硬化性組成物の硬化体の周辺が赤色系を呈した環境下であれば、その環境が赤黄色から赤茶色に様々に変化しても、明度、彩度、及び色相のいずれも良好に調和する。具体的には、背景(下地環境)の色度(色相及び彩度)が高い場合には、照射光等の外光が高色度の背景によって吸収され、硬化体からの着色光以外の光が抑制されるため、着色光が観察できる。一方、背景(下地環境)の色度が低い場合には、照射光等の外光が低色度の背景で散乱し、硬化体から生じる着色光よりも強いために打ち消され、弱い着色光となる。したがって、色度の高い下地環境に対しては強い着色光が生じ、色度の低い下地環境に対しては弱い着色光が生じるため、赤色系の様々な周辺環境に対して幅広く調和する効果が発揮される。
【0049】
本発明において、球状粒子(B)及び後述する球状無機フィラー(b2)の平均一次粒子径は、走査型電子顕微鏡により粉体の写真を撮影し、その写真の単位視野内に観察される粒子の30個以上を選択し、それぞれの一次粒子径(最大径)を求めた平均値をいう。
【0050】
また、本発明において、球状とは、略球状であればよく、必ずしも完全な真球である必要はない。走査型電子顕微鏡で粒子の写真を撮り、その単位視野内にあるそれぞれの粒子(30個以上)について最大径を測定し、その最大径に直交する方向の粒子径をその最大径で除した平均均斉度が0.6以上、より好ましくは0.8以上のものであればよい。
【0051】
本発明の硬化性組成物において、球状粒子(B)は、上述した条件を満たしていれば、如何なる形態で含まれていてもよい。例えば、球状粒子(B)は、そのまま粉体として本発明の硬化性組成物中に含まれていてもよい。また、球状粒子(B)又は球状粒子(B)を凝集させた凝集物と重合性単量体とを混合し、重合硬化させた後に、粉砕して調製した有機無機複合フィラーとして本発明の硬化性組成物中に含まれていてもよい。あるいは、粉体の球状粒子(B)と有機無機複合フィラーとを併用してもよい。
【0052】
粉体の球状粒子(B)と有機無機複合フィラーとを併用する場合、粉体の球状粒子(B)と有機無機複合フィラー中の球状粒子(B)とは同じであっても、異なる球状粒子であってもよい。
【0053】
球状粒子(B)は、硬化性組成物の成分として使用されるようなものが制限なく使用できる。具体的には、非晶質シリカ、シリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物粒子(シリカ・ジルコニア、シリカ・チタニアなど)、石英、アルミナ、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、ランタンガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、フッ化イッテルビウム、ジルコニア、チタニア、コロイダルシリカ等の無機粉体が挙げられる。
【0054】
このうちフィラーの屈折率の調整が容易であることから、シリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物粒子が好ましい。
【0055】
本発明においてシリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物粒子とは、シリカとチタン族元素(周期律表第4族元素)酸化物との複合酸化物であり、シリカ・チタニア、シリカ・ジルコニア、シリカ・チタニア・ジルコニア等が挙げられる。このうち、フィラーの屈折率を調整が可能であるほか、高いX線不透過性も付与できることから、シリカ・ジルコニアが好ましい。その複合比は特に制限されないが、十分なX線不透過性を付与すること、及び屈折率を後述する好適な範囲にする観点から、シリカの含有量が70モル%~95モル%であり、チタン族元素酸化物の含有量が5モル%~30モル%であるものが好ましい。シリカ・ジルコニアの場合、このように各複合比を変化させることにより、その屈折率を自在に変化させることができる。
【0056】
なお、これらシリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物粒子には、少量であれば、シリカ及びチタン族元素酸化物以外の金属酸化物の複合も許容される。具体的には、酸化ナトリウム、酸化リチウム等のアルカリ金属酸化物を10モル%以内で含有させてもよい。
【0057】
シリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物粒子の製造方法は特に限定されないが、本発明の特定の球状粒子を得るためには、例えば、加水分解可能な有機ケイ素化合物と加水分解可能な有機チタン族金属化合物とを含んだ混合溶液を、アルカリ性溶媒中に添加し、加水分解を行って反応生成物を析出させる、いわゆるゾルゲル法が好適に採用される。
【0058】
これらのシリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物粒子は、シランカップリング剤により表面処理されていてもよい。シランカップリング剤による表面処理により、有機無機複合フィラーとしたときに有機樹脂マトリックス(b1)との界面強度に優れたものになる。代表的なシランカップリング剤としては、γ-メタクリロイルオキシアルキルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等の有機ケイ素化合物が挙げられる。これらシランカップリング剤の表面処理量に特に制限はなく、得られる硬化性組成物の硬化体の機械的物性等を予め実験で確認したうえで最適値を決定すればよいが、好適な範囲を例示すれば、球状粒子(B)100質量部に対して0.1質量部~15質量部の範囲である。
【0059】
上述のように、天然歯牙に対する良好な色調適合性を発現する、干渉、散乱等による着色光は、下記式(1):
nP<nF (1)
(式(1)中、nPは、重合性単量体(A)を重合して得られる重合体の25℃における屈折率を表し、nFは、球状粒子(B)の25℃における屈折率を表す。)
で示される条件(X1)を満たす場合に得られる。
【0060】
すなわち、球状粒子(B)の屈折率は、重合性単量体(A)を重合して得られる重合体の屈折率より高い状態にあるということである。球状粒子(B)の屈折率nF(25℃)と、重合性単量体(A)の重合体の屈折率nP(25℃)との差は、0.001以上であるのが好ましく、0.002以上であるのがより好ましく、0.005以上であるのがさらに好ましい。
【0061】
また、本発明の硬化性組成物の硬化体のコントラスト比(Yb/Yw)が、上述した0.2~0.5の範囲にある場合に、干渉による着色光が鮮明に発現し、色調適合性が向上することから、球状粒子(B)の屈折率nFと重合性単量体(A)の重合体の屈折率nPとの屈折率差は0.1以下、より好ましくは0.05以下とし、透明性をできるだけ損なわないようにすることが好ましい。
【0062】
本発明における球状粒子(B)の配合量は、重合性単量体(A)100質量部に対して、10質量部~1500質量部であることが好ましい。球状粒子(B)を10質量部以上配合することにより、干渉、散乱等による着色光が良好に発現するようになる。また、球状粒子(B)として、重合性単量体(A)の重合体との屈折率差が0.1を上回るものを用いる場合において、硬化体の透明性が低下して、着色光の発現効果も十分に発現しなくなる虞がある。これらを勘案すると、球状粒子(B)の配合量は、重合性単量体(A)100質量部に対して50質量部~1500質量部であることがより好ましく、100質量部~1500質量部であることがさらに好ましい。
【0063】
球状粒子(B)のうち、屈折率の調整が容易なシリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物の屈折率は、シリカ分の含有量に応じて1.45~1.58程度の範囲となる。球状粒子(B)としてシリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物を用いる場合、重合性単量体(A)の屈折率を前述した範囲(1.38~1.55の範囲)に設定しておくことにより、重合性単量体(A)から得られる重合体の屈折率nPを、おおよそ1.40~1.57の範囲に設定できるので、上述した条件(式(1))を満足するように、球状粒子(B)を容易に選択することができる。すなわち、適当な量のシリカ分を含むシリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物(例えば、シリカ・チタニア、シリカ・ジルコニア等)を使用すればよい。
【0064】
<有機無機複合フィラー>
球状粒子(B)を有機無機複合フィラーの形態で用いる場合、有機無機複合フィラー中に含まれる有機樹脂マトリックスを有機樹脂マトリックス(b1)、球状粒子(B)を球状無機フィラー(b2)という。
【0065】
球状粒子(B)を有機無機複合フィラーの形態で用いる場合において、有機無機複合フィラーを構成する、球状無機フィラー(b2)と有機樹脂マトリックス(b1)との屈折率差、及び球状無機フィラー(b2)と重合性単量体(A)の重合体との屈折率差を、後述する式(2)、(3)を満足するようにすることで、硬化性組成物に有機無機複合フィラーを添加する場合においても、ブラッグの回折条件に従った光の回折干渉が起こり、球状無機フィラー(b2)の平均一次粒子径が球状粒子(B)と同じであると、球状粒子(B)を単独で用いる場合と同じ波長の着色光が発現する。
【0066】
有機無機複合フィラーを構成する球状無機フィラー(b2)は、粉体で用いる球状粒子(B)と同じでも異なっていてもよいが、粉体で用いる球状粒子(B)と同様に、球状であり、平均一次粒子径が230nm~1000nmの範囲内にあって、球状無機フィラー(b2)を構成する個々の粒子の数のうち90%以上が平均一次粒子径の前後の5%の範囲に存在する。さらに、下記式(2)で示される有機樹脂マトリックス(b1)の屈折率nMb1と球状無機フィラー(b2)の屈折率nFb2との関係、及び下記式(3)で示される重合性単量体(A)の重合体の屈折率nPと球状無機フィラー(b2)の屈折率nFb2との関係を満足することが重要である。
【0067】
nMb1<nFb2 (2)
(式(2)中、nMb1は、有機無機複合フィラーを構成する有機樹脂マトリックス(b1)の25℃における屈折率を表し、nFb2は、球状無機フィラー(b2)の25℃における屈折率を表す。)
nP<nFb2 (3)
(式(3)中、nPは、重合性単量体(A)の重合体の25℃における屈折率を表し、nFb2は、有機無機複合フィラーを構成する球状無機フィラー(b2)の25℃における屈折率を表す。)
【0068】
これにより、球状粒子(B)を有機無機複合フィラーの形態で用いた場合でも、歯科用硬化性組成物、特に、染料、顔料等を用いなくても光の干渉による着色光が明瞭に確認でき、天然歯に近い修復が可能な色調適合性の良好な歯科用充填修復材料として用いることができる硬化性組成物を得ることができる。
【0069】
上述したように、干渉による着色光は、下記式(2)及び(3)を満足する場合に天然歯牙と色調適合性よく発現する。
【0070】
nMb1<nFb2 (2)
(式(2)中、nMb1は、有機無機複合フィラーを構成する有機樹脂マトリックス(b1)の25℃における屈折率を表し、nFb2は、球状無機フィラー(b2)の25℃における屈折率を表す。)
nP<nFb2 (3)
(式(3)中、nPは、重合性単量体(A)の重合体の25℃における屈折率を表し、nFb2は、有機無機複合フィラーを構成する球状無機フィラー(b2)の25℃における屈折率を表す。)
【0071】
すなわち、球状無機フィラー(b2)の屈折率nFb2は、重合性単量体(A)の重合体の屈折率nP、及び有機無機複合フィラーを構成する有機樹脂マトリックス(b1)の屈折率nMb1より高い状態にあることが重要である。球状無機フィラー(b2)の屈折率nFb2と重合性単量体(A)の重合体の屈折率nPとの屈折率差、及び球状無機フィラー(b2)の屈折率nFb2と有機樹脂マトリックス(b1)の屈折率nMb1との屈折率差は、0.001以上であるのが好ましく、0.002以上であるのがより好ましく、0.005以上であるのがさらに好ましい。
【0072】
また、本発明の硬化性組成物の硬化体のコントラスト比(Yb/Yw)が、上述した0.2~0.5の範囲にある場合に、干渉による着色光が鮮明に発現し、色調適合性が向上することから、球状無機フィラー(b2)の屈折率nFb2と重合性単量体(A)の重合体の屈折率nPとの屈折率差、及び球状無機フィラー(b2)の屈折率nFb2と有機樹脂マトリックス(b1)の屈折率nMb1との屈折率差は0.1以下、より好ましくは0.05以下とし、透明性をできるだけ損なわないようにすることが好ましい。
【0073】
球状無機フィラー(b2)の有機無機複合フィラーへの含有率は、30質量%~95質量%が好ましい。有機無機複合フィラーへの含有量が30質量%以上であると、硬化性組成物の硬化体の着色光が良好に発現するようになり、機械的強度も十分に高めることができる。また、球状無機フィラー(b2)を、95質量%を超えて有機無機複合フィラー中に含有させることは操作上困難であり、均質なものが得難くなる。球状無機フィラー(b2)の有機無機複合フィラーへのより好適な含有量は、40質量%~90質量%である。
【0074】
粉体で用いる球状粒子(B)と同様、球状無機フィラー(b2)のうち、屈折率の調整が容易なシリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物の屈折率は、シリカ分の含有量に応じて1.45~1.58程度の範囲となる。すなわち、球状無機フィラー(b2)としてシリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物を用いる場合、重合性単量体(A)の屈折率を上述した範囲(1.38~1.55の範囲)に設定しておくことにより、重合性単量体(A)から得られる重合体の屈折率nPを、おおよそ1.40~1.57の範囲に設定できるため、上述した条件(式(3))を満足するように、球状無機フィラー(b2)を容易に選択することができる。すなわち、適当な量のシリカ分を含むシリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物(例えばシリカ・チタニア或いはシリカ・ジルコニアなど)を使用すればよい。
【0075】
有機無機複合フィラーにおいて、有機樹脂マトリックス(b1)は、上述の重合性単量体(A)として記載したものと同じ重合性単量体を用いて得られる単独重合体又は複数種の共重合体が、なんら制限なく採択可能である。上述したように、球状無機フィラー(b2)として屈折率の調整が容易なシリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物を用いる場合、その屈折率は、シリカ分の含有量に応じて1.45~1.58程度の範囲となるため、有機樹脂マトリックス(b1)の屈折率nMb1を、おおよそ1.40~1.57の範囲に設定することにより、上述した条件(式(2))を満足させることができる。
【0076】
有機樹脂マトリックス(b1)は、重合性単量体(A)から得られる重合体と同じでも異なっていてもよいが、有機樹脂マトリックス(b1)の屈折率nMb1と重合性単量体(A)の重合体の屈折率nPとの屈折率差は、得られる硬化性組成物の透明性の観点から0.005以下が好ましい。屈折率差が0.005より大きい場合、不透明となり干渉による着色光が弱くなる。さらに、屈折率差によって光の拡散性を付与でき、硬化性組成物と歯牙との色調適合性が向上できるという観点から、屈折率差は0.001~0.005の範囲がより好ましい。
【0077】
有機無機複合フィラーの製造方法は特に制限されず、例えば、球状無機フィラー(b2)、重合性単量体、及び重合開始剤の各成分の所定量を混合し、加熱、光照射等の方法で重合させた後、粉砕する一般的な製造方法を採用することができる。あるいは、国際公開第2011/115007号又は国際公開第2013/039169号に記載された製造方法を採用することもできる。この製造方法では、球状無機フィラー(b2)が凝集してなる無機凝集粒子を、重合性単量体、重合開始剤、及び有機溶媒を含む重合性単量体溶媒に浸漬した後、有機溶媒を除去し、重合性単量体を加熱、光照射等の方法で重合硬化させる。国際公開第2011/115007号又は国際公開第2013/039169号に記載された製造方法によれば、無機一次粒子が凝集した無機凝集粒子の各無機一次粒子の表面を覆うとともに、各無機一次粒子を相互に結合する有機樹脂相を有し、各無機一次粒子の表面を覆う有機樹脂相の間に凝集間隙が形成されている有機無機複合フィラーが得られる。
重合開始剤としては、公知の重合開始剤が特に制限なく用いられるが、より黄色度の低い硬化体を得ることができることから、熱重合開始剤を用いるのが好ましく、構造中に芳香族環を有していない化合物からなる熱重合開始剤を用いるのがより好ましい。
【0078】
有機無機複合フィラーの平均粒子径は、特に制限されるものではないが、硬化体の機械的強度及び硬化性ペーストの操作性を良好にする観点から、2μm~100μmが好ましく、5μm~50μmがより好ましく、5μm~30μmがさらに好ましい。また、形状については、特に制限されるものではなく、球状無機フィラー(b2)、重合性単量体、及び重合開始剤の各成分の所定量を混合し、加熱、光照射等の方法で重合させた後、粉砕して得られる不定形のものや、国際公開第2011/115007号又は国際公開第2013/039169号に記載の方法に従って製造される、球状又は略球状のものが挙げられる。
【0079】
有機無機複合フィラーは、その効果を阻害しない範囲で、公知の添加剤を含有していてもよい。添加剤として具体的には、顔料、重合禁止剤、蛍光増白剤等が挙げられる。これらの添加剤はそれぞれ、通常、有機無機複合フィラー100質量部に対して、0.0001質量部~5質量部の割合で使用できる。
【0080】
また、有機無機複合フィラーは、洗浄又はシランカップリング剤等による表面処理がなされていてもよい。
【0081】
有機無機複合フィラーの配合量は、有機無機複合フィラーのみで構成する場合、重合性単量体(A)100質量部に対して50質量部~1000質量部であり、硬化性組成物のペーストの操作性及び硬化体の機械的強度を良好にするためには、該有機無機複合フィラーは70質量部~600質量部、より好適には100質量部~400質量部を配合すればよい。また、該有機無機複合フィラー中の球状無機フィラー(b2)の配合量は、上記したように、30質量%~95質量%が好ましく、より好適には40質量%~90質量%である。したがって、干渉による着色光の発現に影響を及ぼす球状無機フィラーの配合量は、硬化性組成物中10質量%((50/150)×30%)以上、86.4質量%((1000/1100)×95%)以下である。粉体の球状粒子(B)と有機無機複合フィラーとを併用する場合、無機フィラー成分の配合量が硬化性組成物中10質量%~86質量%になるように配合することで、干渉による着色光が良好に発現するようになる。無機フィラー成分の配合量は、より好ましくは15質量%~86質量%、さらに好ましくは20質量%~86質量%である。さらに、硬化性組成物のペーストの操作性及び硬化体の機械的強度を良好にするためには、球状粒子(B)と有機無機複合フィラーとの配合割合(質量比)を90:10~10:90とすることが好ましく、80:20~20:80とすることがより好ましく、70:30~30:70とすることがさらに好ましい
【0082】
<重合開始剤(C)>
重合開始剤は、本組成を重合硬化させる目的で配合されるが、公知の如何なる重合開始剤であっても特に制限されることなく用いられる。
【0083】
中でも、口腔内で硬化させる場合が多い歯科の直接充填修復用途では、光重合開始剤又は化学重合開始剤が好ましく、混合操作の必要が無く簡便な点から、光重合開始剤がより好ましい。
【0084】
光重合に用いる重合開始剤としては、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル類;ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール等のベンジルケタール類;ベンゾフェノン、4,4'-ジメチルベンゾフェノン、4-メタクリロキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン類;ジアセチル、2,3-ペンタジオンベンジル、カンファーキノン、9,10-フェナントラキノン、9,10-アントラキノン等のα-ジケトン類;2,4-ジエトキシチオキサンソン、2-クロロチオキサンソン、メチルチオキサンソン等のチオキサンソン化合物;ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-4-プロピルフェニルホスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-1-ナフチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)―フェニルホスフィンオキサイド等のビスアシルホスフィンオキサイド類;などが使用できる。
【0085】
なお、光重合開始剤には、しばしば還元剤が添加されるが、その例としては、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、N-メチルジエタノールアミン等の第3級アミン類;ラウリルアルデヒド、ジメチルアミノベンズアルデヒド、テレフタルアルデヒド等のアルデヒド類;2-メルカプトベンゾオキサゾール、1-デカンチオール、チオサルチル酸、チオ安息香酸等の含イオウ化合物;などが挙げられる。
【0086】
さらに、光重合開始剤及び還元剤に加えて光酸発生剤を加えて用いる例がしばしば見られる。このような光酸発生剤としては、ジアリールヨードニウム塩系化合物、スルホニウム塩系化合物、スルホン酸エステル化合物、ハロメチル置換-S-トリアジン誘導体、ピリジニウム塩系化合物等が挙げられる。
【0087】
これらの重合開始剤は、単独で用いることもあるが、2種以上を混合して使用してもよい。重合開始剤の配合量は、目的に応じて有効量を選択すればよいが、重合性単量体(A)100質量部に対して、通常0.01質量部~10質量部の割合であり、より好ましくは0.1質量部~5質量部の割合で使用される。
【0088】
<無機粒子(D)>
本発明の硬化性組成物には、硬化体の干渉による着色光を効果的に発現させ、色調適合性をより良好にする目的で、平均一次粒子径が230nm~1000nmの範囲内にある球状粒子(B)のほかに、平均一次粒子径が100nm未満の無機粒子(D)をさらに配合することができる。
【0089】
該無機粒子(D)は平均一次粒子径が100nm未満であり、上述したように可視光の干渉現象が生じ難い粒子径であることから、本発明における干渉による着色光の発現を阻害しない。したがって、該無機粒子(D)を配合することにより、所望の色光を発現しつつ、硬化性組成物の硬化体のコントラスト比を無機粒子(D)の配合量により調整することができる
【0090】
無機粒子(D)としては、本発明における球状粒子(B)として使用されるものが制限なく使用できる。具体的には、非晶質シリカ、シリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物粒子(シリカ・ジルコニア、シリカ・チタニア等)、石英、アルミナ、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、ランタンガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、フッ化イッテルビウム、ジルコニア、チタニア、コロイダルシリカ等の無機粉体が挙げられる。
【0091】
このうち、屈折率の調整が容易であることから、非晶質シリカ又はシリカ・チタン族酸化物系複合酸化物粒子が好ましい。非晶質シリカ又はシリカ・チタン族酸化物系複合酸化物粒子の25℃における屈折率は、例えば、1.45~1.58の範囲である。
【0092】
シリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物粒子は、球状粒子(B)と同様に、シランカップリング剤により表面処理されていてもよい。シランカップリング剤による表面処理により、本発明の硬化性組成物を硬化させたとき、重合性単量体(A)の硬化体部分との界面強度に優れたものになる。代表的なシランカップリング剤としては、γ-メタクリロイルオキシアルキルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等の有機ケイ素化合物が挙げられる。これらシランカップリング剤の表面処理量に特に制限はなく、得られる硬化性組成物の硬化体の機械的物性等を予め実験で確認したうえで最適値を決定すればよいが、好適な範囲を例示すれば、無機粒子(D)100質量部に対して0.1質量部~15質量部の範囲である。
【0093】
本発明における無機粒子(D)の配合量は、天然歯牙への色調適合性の観点から、重合性単量体(A)100質量部に対して、0.1質量部~50質量部が好適であり、0.2質量部~30質量部がより好適である。
【0094】
<その他の添加剤>
本発明の硬化性組成物には、その効果を阻害しない範囲で、上記(A)~(D)成分のほか、公知の他の添加剤を配合することができる。具体的には、重合禁止剤、紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0095】
本発明では上述したとおり、顔料等の着色物質を用いなくても、天然歯牙との色調適合性が良好な修復が単一のペースト(硬化性組成物)で可能になる。したがって、時間とともに変色する虞のある顔料は配合しない態様が好ましい。ただし、本発明においては、顔料の配合自体を否定するものではなく、球状粒子の干渉による着色光の妨げにならない程度の顔料は配合しても構わない。具体的には、重合性単量体100質量部に対して0.0005質量部~0.5質量部程度、好ましくは0.001質量部~0.3質量部程度の顔料であれば配合しても構わない。
【0096】
本発明の硬化性組成物は、上記のように歯科用硬化性組成物、特に光硬化性コンポジットレジンに代表される歯科用充填修復材料として特に好適に使用されるが、それに限定されるものではなく、その他の歯科用途にも好適に使用できる。その用途としては、例えば、歯科用セメント、支台築造用の修復材料等が挙げられる。
【実施例】
【0097】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0098】
本発明における各種物性測定方法は、それぞれ以下のとおりである。
【0099】
(1)球状粒子(B)及び球状無機フィラー(b2)の平均一次粒子径
走査型電子顕微鏡(フィリップス社製、「XL-30S」)で粉体の写真を5000倍~100000倍の倍率で撮り、画像解析ソフト(旭化成エンジニアリング(株)製、「IP-1000PC」)を用いて、撮影した画像の処理を行い、その写真の単位視野内に観察される粒子の数(30個以上)及び一次粒子径(最大径)を測定し、測定値に基づき下記式により平均一次粒子径を算出した。
【0100】
【0101】
(2)球状粒子(B)及び球状無機フィラー(b2)の平均粒子径粒子の存在割合
球状粒子(B)の平均一次粒子径の前後の5%の範囲に存在する粒子の割合(%)は、上記写真の単位視野内における全粒子(30個以上)のうち、上記で求めた平均一次粒子径の前後5%の粒子径範囲外の一次粒子径(最大径)を有する粒子の数を計測し、その値を上記全粒子の数から減じて、上記写真の単位視野内における平均一次粒子径の前後5%の粒子径範囲内の粒子数を求め、下記式:
球状フィラー(B)の平均一次粒子径の前後5%の範囲内の粒子の割合(%)=[(走査型電子顕微鏡写真の単位視野内における平均一次粒子径の前後5%の粒子径範囲内の粒子数)/(走査型電子顕微鏡写真の単位視野内における全粒子数)]×100
に従って算出した。
【0102】
(3)球状粒子(B)及び球状無機フィラー(b2)の平均均斉度
走査型電子顕微鏡で粉体の写真を撮り、その写真の単位視野内に観察される粒子について、その数(n:30以上)、粒子の最大径を長径(Li)、該長径に直交する方向の径を短径(Bi)を求め、下記式により算出した。
【0103】
【0104】
(4)有機無機複合フィラーの平均粒子径(粒度)
0.1gの有機無機複合フィラーをエタノール10mLに分散させ、超音波を20分間照射した。レーザー回折-散乱法による粒度分布計(ベックマンコールター社製、「LS230」)を用い、光学モデル「フラウンフォーファー」(Fraunhofer)を適用して、体積統計のメディアン径を求めた。
【0105】
(5)屈折率の測定
<重合性単量体(A)の屈折率>
用いた重合性単量体(又は重合性単量体の混合物)の屈折率は、アッベ屈折率計((株)アタゴ製)を用いて25℃の恒温室にて測定した。
【0106】
<重合性単量体(A)の重合体の屈折率(nP)>
用いた重合性単量体(又は重合性単量体の混合物)の重合体の屈折率は、窩洞内での重合条件とほぼ同じ条件で重合した重合体を、アッベ屈折率計((株)アタゴ製)を用いて25℃の恒温室にて測定した。
【0107】
すなわち、0.2質量%のカンファーキノン、0.3質量%のN,N-ジメチルp-安息香酸エチル、及び0.15質量%のヒドロキノンモノメチルエーテルを混合した均一な重合性単量体(又は重合性単量体の混合物)を、7mmφ×0.5mmの貫通した孔を有する型に入れ、両面にポリエステルフィルムを圧接した。その後、光量500mW/cm2のハロゲン型歯科用光照射器(サイブロン社製、「Demetron LC」)を用いて30秒間光照射し硬化させた後、型から取り出して、重合性単量体の重合体を作製した。アッベ屈折率計((株)アタゴ製)に重合体をセットする際に、重合体と測定面を密着させる目的で、試料を溶解せず、且つ、試料よりも屈折率の高い溶媒(ブロモナフタレン)を試料に滴下し、屈折率を測定した。
【0108】
<有機樹脂マトリックス(b1)の屈折率nMb1>
有機樹脂マトリックスの屈折率は、有機無機複合フィラー製造時の重合条件とほぼ同じ条件で重合した重合体を、アッベ屈折率計((株)アタゴ製)を用いて25℃の恒温室にて測定した。
【0109】
すなわち、0.5質量%のアゾビスイソブチロニトリルを混合した均一な重合性単量体(又は重合性単量体の混合物)を、7mmφ×0.5mmの貫通した孔を有する型に入れ、両面にポリエステルフィルムを圧接した。その後、窒素加圧下で一時間加熱して重合硬化後、型から取り出して、重合性単量体の重合体(有機樹脂マトリックス)を作製した。アッベ屈折率計((株)アタゴ製)に重合体をセットする際に、重合体と測定面を密着させる目的で、試料を溶解せず、且つ、試料よりも屈折率の高い溶媒(ブロモナフタレン)を試料に滴下し、屈折率を測定した。
【0110】
<球状粒子(B)、球状無機フィラー(b2)、無機粒子(D)の屈折率>
用いた球状粒子、球状無機フィラー、及び無機粒子の屈折率は、アッベ屈折率計((株)アタゴ製)を用いて液浸法によって測定した。
【0111】
すなわち、25℃の恒温室において、100mLのサンプル瓶中、球状無機フィラー若しくは無機粒子又はその表面処理物1gを無水トルエン50mL中に分散させた。この分散液をスターラーで撹拌しながら1-ブロモトルエンを少しずつ滴下し、分散液が最も透明になった時点の分散液の屈折率を測定し、得られた値を無機充填材の屈折率とした。
【0112】
(6)目視による着色光の評価
実施例及び比較例で調製された硬化性組成物のペーストを7mmφ×1mmの貫通した孔を有する型にいれ、両面にポリエステルフィルムを圧接した。可視光線照射器((株)トクヤマ製、パワーライト)で両面を30秒ずつ光照射し硬化させた後、型から取り出して、10mm角程度の黒いテープ(カーボンテープ)の粘着面に載せ、目視にて着色光の色調を確認した。
【0113】
(7)着色光の波長
実施例及び比較例で調製された硬化性組成物のペーストを7mmφ×1mmの貫通した孔を有する型にいれ、両面にポリエステルフィルムを圧接した。可視光線照射器((株)トクヤマ製、パワーライト)で両面を30秒ずつ光照射し硬化させた後、型から取り出して、色差計((有)東京電色製、「TC-1800MKII」)を用いて、背景色黒、背景色白で分光反射率を測定し、背景色黒における反射率の極大点を着色光の波長とした。
【0114】
(8)硬化性組成物のコントラスト比(Yb/Yw)の評価
実施例及び比較例で調製された硬化性組成物のペーストを7mmφ×1mmの貫通した孔を有する型にいれ、両面にポリエステルフィルムを圧接した。可視光線照射器((株)トクヤマ製、パワーライト)で両面を30秒ずつ光照射し硬化させた後、型から取り出して、色差計((有)東京電色製、「TC-1800MKII」)を用いて、上記硬化体の三刺激値のY値(背景色黒及び背景色白)を測定した。下記式:
コントラスト比(Yb/Yw)=背景色黒の場合のY値/背景色白の場合のY値
に基づいてコントラスト比(Yb/Yw)を計算した。
【0115】
(9)色彩計による色調適合性の評価
右下6番の咬合面中央部にI級窩洞(直径4mm、深さ1mm)を再現した硬質レジン歯、及び右下6番の咬合面中央部にI級窩洞(直径4mm、深さ5mm)を再現した硬質レジン歯を用いて、欠損部に硬化性組成物を充填して硬化及び研磨し、色調適合性を二次元色彩計((株)パパラボ製、「RC-500」)にて評価した。なお、硬質レジン歯としては、シェードガイド(「VITAClassical」、VITA社製)におけるA系(赤茶色)の範疇の中にある、高彩度の硬質レジン歯(A4相当)及び低彩度の硬質レジン歯(A1相当)、並びにシェードガイド(「VITAClassical」、VITA社製)におけるB系(赤黄色)の範疇の中にある、高彩度の硬質レジン歯(B4相当)及び低彩度の硬質レジン歯(B1相当)を用いた。
【0116】
硬質レジン歯を二次元色彩計にセットし、硬質レジン歯を撮影した後、画像解析ソフト((株)パパラボ製、「RC Series Image Viewer」)を用いて、撮影した画像の処理を行い、硬質レジン歯の修復部と非修復部とにおける測色値の色差(CIELabにおけるΔE*)を求め、色調適合性の評価を行った。
【0117】
ΔE*={(ΔL*)2+(Δa*)2+(Δb*)2}1/2
ΔL*=L1*-L2*
Δa*=a1*-a2*
Δb*=b1*-b2*
なお、L1*:硬質レジン歯の修復部の明度指数、a1*,b1*:硬質レジン歯の修復部の色質指数、L2*:硬質レジン歯の修復部の明度指数、a2*,b2*:硬質レジン歯の修復部の色質指数、ΔE*:色調変化量である。
【0118】
(10)目視による色調適合性の評価
右下6番の咬合面中央部にI級窩洞(直径4mm、深さ1mm)を再現した硬質レジン歯、及び右下6番の咬合面にI級窩洞(直径4mm、深さ5mm)を再現した硬質レジン歯を用いて、欠損部に硬化性組成物を充填して硬化及び研磨し、色調適合性を目視にて確認した。なお、硬質レジン歯としては、シェードガイド(「VITAClassical」、VITA社製)におけるA系(赤茶色)の範疇の中にある、高彩度の硬質レジン歯(A4相当)及び低彩度の硬質レジン歯(A1相当)、並びにシェードガイド(「VITAClassical」、VITA社製)におけるB系(赤黄色)の範疇の中にある、高彩度の硬質レジン歯(B4相当)及び低彩度の硬質レジン歯(B1相当)を用いた。
-評価基準-
5:修復物の色調が硬質レジン歯と見分けがつかない。
4:修復物の色調が硬質レジン歯と良く適合している。
3:修復物の色調が硬質レジン歯と類似している。
2:修復物の色調が硬質レジン歯と類似しているが適合性は良好でない。
1:修復物の色調が硬質レジン歯と適合していない。
【0119】
実施例及び比較例で用いた重合性単量体、重合開始剤、無機粒子等は以下のとおりである。
【0120】
[重合性単量体]
・1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)トリメチルヘキサン(以下、「UDMA」と略す。)
・トリエチレングリコールジメタクリレート(以下、「3G」と略す。)
・2,2-ビス[(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]プロパン(以下、「bis-GMA」と略す。)
【0121】
[重合開始剤]
・カンファーキノン(以下、「CQ」と略す)。
・N,N-ジメチルp-安息香酸エチル(以下、「DMBE」と略す)。
・アゾビスイソブチロニトリル(以下、「AIBN」と略す)。
【0122】
[重合禁止剤]
・ヒドロキノンモノメチルエーテル(以下、「HQME」と略す。)
【0123】
[無機粒子]
・レオロシールQS-102(一次粒子径5nm~50nm、(株)トクヤマ製)
【0124】
[着色剤]
・二酸化チタン(白顔料)
・ピグメントイエロー(黄顔料)
・ピグメントレッド(赤顔料)
・ピグメントブルー(青顔料)
【0125】
[重合性単量体の混合物の調製]
表1に示すような重合性単量体を混合し、重合性単量体M1、M2、M3、M4を調製した。表1中の括弧内の数値は、各重合性単量体の使用量(単位:質量部)を表す。
【0126】
【0127】
[球状粒子、球状無機フィラー、及び不定形無機フィラーの製造]
球状粒子及び球状無機フィラーは、特開昭58-110414号公報、特開昭58-156524号公報等に記載の方法で製造した。すなわち、加水分解可能な有機ケイ素化合物(テトラエチルシリケート等)と加水分解可能な有機チタン族金属化合物(テトラブチルジルコネート、テトラブチルチタネート等)とを含んだ混合溶液を、アンモニア水を導入したアンモニア性アルコール(例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール等)溶液中に添加し、加水分解を行って反応生成物を析出させる、いわゆるゾルゲル法を用いて調製し、次いで乾燥、必要に応じて粉砕し、焼成する方法を用いて調製した。
【0128】
不定形無機フィラーは、特開平2-132102号公報、特開平3-197311号公報等に記載の方法で製造した。すなわち、アルコキシシラン化合物を有機溶剤に溶解し、これに水を添加して部分加水分解した後、複合化する他の金属のアルコキサイド及びアルカリ金属化合物を添加して加水分解してゲル状物を生成させ、次いで該ゲル状物を乾燥した後、必要に応じて粉砕し、焼成する方法により製造した。
【0129】
実施例で用いた球状粒子、球状無機フィラー、及び不定形無機フィラーを表2に示す。
【0130】
【0131】
[不定形の有機無機複合フィラーの製造]
表1に示す重合性単量体中に、0.5質量%の熱重合開始剤(AIBN)を予め溶解させておき、表2に示す球状無機フィラー又は不定形無機フィラーを所定量(表3)添加混合し、乳鉢でペースト化した。これを、95℃の窒素加圧下で一時間加熱することによって、重合硬化させた。この硬化体を、振動ボールミルを用いて粉砕し、さらに0.02質量%のγ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランによって、エタノール中、90℃で5時間還留することで表面処理を行い、下記表3に示す不定形の有機無機複合フィラーCF1~CF12を得た。表3中の括弧内の数値は、重合性単量体及び球状無機フィラーの使用量(単位:質量部)を表す。
【0132】
[略球状の有機無機複合フィラーの製造]
表2に示す球状無機フィラー100gに水を200g加え、循環型粉砕機SCミル(日本コークス工業(株)製)を用いてこれらの水分散液を得た。
【0133】
一方、4g(0.016mol)のγ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランと0.003gの酢酸とを80gの水に加え、1時間30分撹拌し、pH4の均一な溶液を得た。この溶液を上記球状無機フィラー分散液に添加し、均一になるまで混合した。その後、分散液を軽く混合しながら、高速で回転するディスク上に供給して噴霧乾燥法により造粒した。
【0134】
噴霧乾燥は、回転するディスクを備え、遠心力で噴霧化する噴霧乾燥機TSR-2W((株)坂本技研製)を用いて行った。ディスクの回転速度は10000rpm、乾燥雰囲気空気の温度は200℃であった。その後、噴霧乾燥により造粒されて得られた粉体を60℃で18時間真空乾燥し、略球状の凝集体を73g得た。
【0135】
次いで、表1に示す重合性単量体中に、熱重合開始剤として0.5質量%のAIBNを添加し、さらに有機溶媒としてメタノールを混合した重合性単量体溶液(有機溶媒100質量部に対して重合性単量体36質量部を含有)に、上記凝集体を所定量(表3)添加し、浸漬させた。十分撹拌し、この混合物がスラリー状になったことを確認した後、1時間静置した。
【0136】
上記の混合物を、ロータリーエバポレーターに移した。撹拌状態で、減圧度10hPa、加熱条件40℃(温水バスを使用)の条件下で、上記混合物を1時間乾燥し、有機溶媒を除去した。有機溶媒を除去すると、流動性の高い粉体が得られた。
【0137】
得られた粉体を、ロータリーエバポレーターで撹拌しながら、減圧度10hPa、加熱条件100℃(オイルバス使用)の条件下で、1時間加熱することにより、上記粉体中の重合性単量体を重合硬化させた。この操作により、球状無機フィラーの凝集体の表面が有機重合体で被覆され、下記表3に示す略球状の有機無機複合フィラーCF13~CF20をそれぞれ9g得た。
【0138】
【0139】
[実施例1~29]
重合性単量体M1、M2、M3、M4に対して、0.3質量%のCQ、1.0質量%のDMBE、0.15質量%のHQMEを加えて混合し、均一な重合性単量体組成物を調製した。次に、乳鉢に表2及び表3に示した各フィラーを計りとり、上記重合性単量体を赤色光下にて徐々に加えていき、暗所にて十分に混練し均一な硬化性ペーストとした。さらにこのペーストを減圧下脱泡して気泡を除去し硬化性組成物を調製した。得られた硬化性組成物について、上記の方法に基づいて各物性を評価した。組成及び結果を表4~表6に示す。表4中の括弧内の数値は各成分の使用量(単位:質量部)を表す。
【0140】
[比較例1~8、10~12]
重合性単量体M1、M2、M4に対して、0.3質量%のCQ、1.0質量%のDMBE、0.15質量%のHQMEを加えて混合し、均一な重合性単量体組成物を調製した。次に、乳鉢に表2及び表3に示した各フィラーを計りとり、上記重合性単量体を赤色光下にて徐々に加えていき、暗所にて十分に混練し均一な硬化性ペーストとした。さらにこのペーストを減圧下脱泡して気泡を除去し硬化性組成物を調製した。得られた硬化性組成物について、上記の方法に基づいて各物性を評価した。組成及び結果を表4~表6に示す。
【0141】
[比較例9]
重合性単量体M1に対して、0.3質量%のCQ、1.0質量%のDMBE、0.15質量%のHQMEを加えて混合し、均一な重合性単量体組成物を調製した。次に、乳鉢に表3に示した有機無機複合フィラーを計りとり、上記重合性単量体を赤色光下にて徐々に加えていき、さらに二酸化チタン(白顔料)を0.040g、ピグメントイエロー(黄顔料)を0.0008g、ピグメントレッド(赤顔料)を0.0004g、ピグメントブルー(青顔料)を0.0002g加えて暗所にて十分に混練して均一な硬化性ペーストとした。さらにこのペーストを減圧下脱泡して気泡を除去し、比較例2に示した組成に顔料を添加して高彩度硬質レジン歯のA系統に適合する色調(A4相当)に調整した硬化性組成物を調製した。目視評価で高彩度硬質レジン歯のA系統に適合する色調(A4相当)であった。続いて、上記の方法に基づいて各物性を評価した。組成及び結果を表4~表6に示す。
【0142】
【0143】
【0144】
【0145】
実施例1~29の結果から理解されるように、本発明で規定する条件を満足していると、硬化した硬化性組成物は黒背景化で着色光を示し、且つ、窩洞の深さに関係なく色調適合性が良好であることが分かる。
【0146】
比較例1、4、8の結果から理解されるように、平均一次粒子径が230nm未満の球状フィラーを用いた場合、着色光は青色系であり、エナメル質から象牙質に亘って形成された窩洞に対しては歯質との色調適合性に劣っていることが分かる。
【0147】
比較例2、3、5、6、7、10、11、12の結果から理解されるように、本発明で規定する条件を満足していないと、歯科用充填修復材料は黒背景化で着色光を示さず(比較例2、5:球状フィラーの平均粒径が80nm、且つ、コントラスト比(Yb/Yw)が0.2~0.5を満たしていない。比較例3、10:フィラーの形状が不定形。)、着色光が弱く(比較例6:球状フィラーの平均一次粒子径の前後の5%の範囲内の粒子の割合が88%。)、充填、硬化、及び研磨後に所望の色調が得られず(比較例7:nP<nFを満たしていない。比較例11、12:コントラスト比(Yb/Yw)が0.2~0.5を満たしていない。)、色調適合性に劣っていることが分かる。
【0148】
比較例9の結果から理解されるように、比較例2に示した組成に顔料を添加して高彩度硬質レジン歯のA系統に適合する色調に調整した歯科用充填修復材料は、色差計((有)東京電色製、「TC-1800MKII」)を用いて、背景色黒、背景色白で分光反射率を測定したところ、背景色黒、背景色白ともに添加した顔料に応じた分光反射特性を示すことが観察された。高彩度硬質レジン歯のA系統に適合する色調(A4相当)への色調適合性は良好であったが、他の模型歯への色調適合性は低いものであった。
【0149】
2017年4月18日に出願された日本出願2017-082023及び2017年9月4日に出願された日本出願2017-169730の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。