(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-29
(45)【発行日】2022-08-08
(54)【発明の名称】ステータ、モータおよびインホイールモータ駆動装置
(51)【国際特許分類】
H02K 1/06 20060101AFI20220801BHJP
H02K 1/18 20060101ALI20220801BHJP
H02K 16/02 20060101ALI20220801BHJP
【FI】
H02K1/06 B
H02K1/18 C
H02K16/02
(21)【出願番号】P 2017029868
(22)【出願日】2017-02-21
【審査請求日】2020-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】趙 申
【審査官】尾家 英樹
(56)【参考文献】
【文献】実公昭29-005236(JP,Y1)
【文献】特開2012-120346(JP,A)
【文献】特開2015-107031(JP,A)
【文献】特開2010-220288(JP,A)
【文献】特開平08-116632(JP,A)
【文献】実開昭52-085101(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/06
H02K 1/18
H02K 16/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状に連結されてモータのステータコアを構成し、周方向両側に互いの連結部を有する複数の分割コアと、
前記分割コアの前記連結部が挿入されるボビンと該ボビンに巻かれた巻線とを有し、前記連結部が前記ボビンに挿入されることで隣接する前記分割コアの間に配設され、その配設状態で前記連結部を囲む形状を有する複数のコイルと、
を備え、
隣接する前記分割コアの前記連結部および前記コイルに貫通されたピンにより、前記連結部どうしが連結されるとともに該連結部に前記コイルが結合されるステータ。
【請求項2】
環状に連結されてモータのステータコアを構成し、周方向両側に互いの連結部を有する複数の分割コアと、
前記分割コアの前記連結部が挿入されるボビンと該ボビンに巻かれた巻線とを有し、前記連結部が前記ボビンに挿入されることで隣接する前記分割コアの間に配設され、その配設状態で前記連結部を囲む形状を有する複数のコイルと、
を備え、
前記分割コアは、
径方向外側に位置して周方向に延在する外側突極と、径方向内側に位置して周方向に延在する内側突極と、前記外側突極と前記内側突極との間に配置されて周方向に延在する前記連結部とを備え、前記コイルは、前記外側突極と前記連結部との間、および前記内側突極と前記連結部との間を通して前記ボビンに巻回されているステータ。
【請求項3】
請求項1
または2に記載のステータと、
前記ステータの外周側および/または内周側に配されるロータと、
を備えるモータ。
【請求項4】
前記ステータの軸方向両側に配設された保持部材によって前記ステータが保持されている請求項
3に記載のモータ。
【請求項5】
ホイールを備えた車輪を回転駆動する装置であって、
前記ホイール内に収容された請求項
3または4に記載のモータと、
前記ロータの回転を前記ホイールに伝達する伝達部材と、
を備えるインホイールモータ駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータおよびそのステータを用いたモータ、ならびにそのモータを用いたインホイールモータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータは、環状のステータの内側または外側にロータが配された構成が一般的であるが、大きなトルクが得られるモータとしてステータの内側と外側の双方にロータが配されたデュアルロータ型のモータも提供されている。いずれにしてもモータを構成するステータにおいては周方向に等間隔をおいてコイルが設けられているが、そのコイルが巻線をトロイダル式に巻く形式のものにあっては、ステータコアが環状で周方向において閉じた構成であるため、巻線を巻きにくく、装置を用いて自動的に巻くことができないため、製造コストが高くなるなど製造面において問題があった。そこでステータコアを分割して機械で巻線の巻回を可能とするものが提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記文献はデュアルロータ型のモータにおけるステータを示しており、2分割したステータコアの内周側と外周側にそれぞれ形成されたスロット開口部の溝部に巻線を巻いている。ところで、巻線を巻く装置は、ノズルの先端から巻線を導出しながらノズルとステータコアを相対回転させることで巻線を巻いていく構成であり、例えば上記文献の分割コアの場合には、スロット開口部にノズルを通しながら巻線を巻くことになる。すなわちスロット開口部の隙間はノズルを通過する大きさが必要となり、このため、スロット開口部の隙間を小さくするには限界がある。スロット開口部の隙間を小さくすることは占積率の向上に有効であるが、ノズルを用いるため占積率を高くすることができず、さらにこれに起因して電磁振動による騒音やコギングトルクの発生などの問題も招来することになっていた。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その主な目的としては、ステータコアにコイルを設けることを容易として生産性の向上が図られるとともに、占積率の向上およびこれに基づく振動、騒音、コギングトルクの低減や出力の向上が図られるステータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のステータは、環状に連結されてモータのステータコアを構成し、周方向両側に互いの連結部を有する複数の分割コアと、前記分割コアの前記連結部が挿入されるボビンと該ボビンに巻かれた巻線とを有し、前記連結部が前記ボビンに挿入されることで隣接する前記分割コアの間に配設され、その配設状態で前記連結部を囲む形状を有する複数のコイルと、を備え、隣接する前記分割コアの前記連結部および前記コイルに貫通されたピンにより、前記連結部どうしが連結されるとともに該連結部に前記コイルが結合されている。
【0008】
また、本発明のステータは、環状に連結されてモータのステータコアを構成し、周方向両側に互いの連結部を有する複数の分割コアと、前記分割コアの前記連結部が挿入されるボビンと該ボビンに巻かれた巻線とを有し、前記連結部が前記ボビンに挿入されることで隣接する前記分割コアの間に配設され、その配設状態で前記連結部を囲む形状を有する複数のコイルと、を備え、前記分割コアは、径方向外側に位置して周方向に延在する外側突極と、径方向内側に位置して周方向に延在する内側突極と、前記外側突極と前記内側突極との間に配置されて周方向に延在する前記連結部とを備え、前記コイルは、前記外側突極と前記連結部との間、および前記内側突極と前記連結部との間を通して前記ボビンに巻回されている。
【0009】
また、本発明のステータは、少なくとも軸方向の一方側に配設された保持部材が前記ロッドに固定され、前記保持部材が前記ロッドを介して前記複数の分割コアからなる前記ステータコアおよび前記複数のコイルを保持する形態を含む。
【0010】
また、本発明のステータは、前記分割コアは、前記連結部が同一形状であって互いに嵌合する嵌合部を有し、全体形状が径方向に延びる線を対称軸として周方向に左右対称あるいは点対称の形状である形態を含む。
【0011】
また、本発明のステータは、前記分割コアは少なくとも2個のコアスタックを組み合わせて構成され、該コアスタックには組み合わせた状態で前記嵌合部が形成される嵌合形成部が形成されている形態を含む。
【0012】
次に、本発明のモータは、上記本発明のステータと、前記ステータの外周側および/または内周側に配されるロータと、を備える。
【0013】
また、本発明のモータは、前記ステータの軸方向両側に配設された保持部材によって前記ステータが保持されている形態を含む。
【0014】
また、本発明のインホイールモータ駆動装置は、ホイールを備えた車輪を回転駆動する装置であって、前記ホイール内に収容された上記本発明のモータと、前記ロータの回転を前記ホイールに伝達する伝達部材と、を備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ステータコアにコイルを設けることを容易として生産性の向上が図られるとともに、占積率の向上およびこれに基づく振動、騒音、コギングトルクの低減や出力の向上が図られるといった効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係るステータコアの斜視図である。
【
図2】(a):一実施形態のステータコアを構成する分割コアの斜視図、(b):分割コアを構成するコアスタックの斜視図である。
【
図3】一実施形態のステータコアに複数のコイルが装着された状態を示す斜視図である。
【
図4】(a):一実施形態のコイルの斜視図、(b):同コイルに巻線を巻く際にピンを通した状態を示すコイルの斜視図である。
【
図5】同コイルを構成するボビンの(a):全体斜視図、(b):半割り状態を示す斜視図である。
【
図6】一実施形態の分割コアの間にコイルを装着する状態を示す斜視図であって、(a):装着前、(b):装着後である。
【
図7】コイルが装着されたステータコアにリベットとホルダを固定した状態を示す斜視図である。
【
図8】
図7に示した組立体にサポータを結合してなる一実施形態に係るステータの斜視図である。
【
図9】同ステータの(a):正面図、(b):(a)のB-B断面図である。
【
図10】一実施形態のモータを構成するアウタロータの斜視図である。
【
図11】同アウタロータをホイールに組み込んだ状態を示す斜視図である。
【
図12】
図11に示したホイールの(a):正面図、(b):(a)のB-B断面図である。
【
図13】一実施形態のモータを構成するインナロータの斜視図である。
【
図14】同インナロータの(a):正面図、(b):(a)のB-B断面図である。
【
図15】ロータマグネットをボンド磁石とした変更例に係るアウタロータの斜視図である。
【
図16】ロータマグネットをボンド磁石とした変更例のインナロータの斜視図である。
【
図17】一実施形態のステータに軸受ブラケットを装着した状態を示す斜視図である。
【
図18】
図17に示した組立体の(a):正面図、(b):(a)のB-B断面図である。
【
図19】
図18に示した組立体にカバーを装着した状態を示す斜視図である。
【
図20】
図19に示した組立体の(a):正面図、(b):(a)のB-B断面図である。
【
図21】一実施形態に係るインホイールモータ駆動装置の(a):ステータ、インナロータおよびブラケット側とアウタロータおよび車輪側に分解した状態の斜視図、(b):組み立て後の全体斜視図である。
【
図22】同インホイールモータ駆動装置の(a):正面図、(b):(a)のB-B断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明をデュアルロータ型のモータおよびそのモータを用いたインホイールモータ駆動装置に適用した一実施形態を説明する。ここでは、それらの構成を組み立ての工程にしたがって説明していく。
【0018】
[1]分割コアによるステータコア
はじめに、
図1に示す一実施形態のステータコア1を説明する。本実施形態のステータコア1は、複数の分割コア2が環状に連結されて構成されている。分割コア2は、
図2(a)に示すように全体形状が略十字状であり、周方向に沿って帯状に延びる基部21と、基部21の径方向外側および内側にそれぞれ設けられた外側突極22および内側突極23を有し、基部21と各突極22、23の交点である中心には孔24が設けられている。基部21には周方向両側に突出した連結部25が設けられ、各連結部25の先端には互いに嵌合する嵌合段部(嵌合部)26が形成されている。連結部25は同一形状であり、分割コア2の全体形状は、径方向に延びる線(
図2(a)の線T)を軸として点対称の形状となっている。
【0019】
分割コア2は同一形状の2個のコアスタック3を重ね合わせて構成される。コアスタック3は例えばケイ素鋼板等の複数の磁性鋼板の薄板を打ち抜き、積層加工して得られる。
図2(b)に示すように1枚のコアスタック3は、2個が重なって分割コア2となった状態で上記基部21、外側突極22、内側突極23をそれぞれ形成する基部31、外側突極32、内側突極33を有し、中心に孔34が形成されている。コアスタック3の基部31の周方向一方側(
図2(b)で左側)の先端には周方向に突出する半円弧状の凸部(嵌合形成部)311が形成され、他方側(
図2(b)で右側)には凸部311が嵌合する凹部(嵌合形成部)312が形成されている。基部31から凸部311にかかる部分には、凸部311と同心状の孔311aが形成されている。
【0020】
図2(a)に示すように2個のコアスタック3は、基部31の両端の凸部311と凹部312を互い違いにした背中合わせの状態で重ね合わされて接着され、分割コア2となる。分割コア2の連結部25には、凸部311と凹部312とにより嵌合段部26が形成される。嵌合段部26は周方向において凸部311と凹部312が互いに嵌合するように相補的な形状を有している。嵌合段部26においては凹部311側から見た場合に凸部311を含むコアスタック3の内面が円形状に露出し、その円形状部分27の中心に孔311aが位置している。嵌合段部26どうしを嵌合させると円形状部分27どうしが重なって孔311aが合致し、合致した孔311aにピン43(
図4(b)、
図6参照)を通すことで連結部25どうしが連結されるようになっている。
【0021】
[2]コイル
上記のように複数の分割コア2の連結部25を連結して環状のステータコア1が構成されるが、実際のステータコア1は、
図3に示すように連結部25を覆って装着されたコイル4が隣り合う分割コア3の間に配設された状態に組み立てられる。
【0022】
コイル4は、
図4(a)に示すように樹脂製のボビン41に巻線42を巻いてなるものである。ボビン41は周方向に沿って空洞が形成された角筒状の部材であって、胴部411の両端に矩形状の鍔部413が形成され、各鍔部413と胴部411の外周で形成される周溝にマグネットワイヤである巻線42が巻かれている。
【0023】
図5(a)に示すように、ボビン41の胴部411は軸方向に離間する2つの板部412を有し、それら板部412の中心には軸方向に貫通する円筒状のピン挿入口412aが同心状に形成されている。ピン挿入口412aは外側に突出し、その突出長さは、鍔部413の長さ(板部412からせり出している長さ)と同等か、あるいは少々長く形成されている。巻線42をボビン41に巻く時には、
図4(b)に示すようにピン挿入口412aにピン43を挿入し、胴部411内の空洞に架け渡した状態で行う。これによりボビン41が巻線42の圧力を受けてもピン挿入口412aの形状はピン43によって保持され、ゆがみが防がれる。巻線42が巻かれた後は残留応力を除去する処理がなされ、この後、ピン43はピン挿入口412aから一旦抜き出される。
【0024】
図3に示したように、コイル4は連結される分割コア2の間に配設され、複数の分割コア2およびコイル4が周方向に交互に並んだ状態にステータコア1が複数のコイル4とともに組み立てられる。組み立てにあたっては、
図6(a),(b)に示すように、ボビン41内の空洞に分割コア2の周方向一方側の基部21を挿入し、次の分割コア2の周方向他方側の基部21を反対側から分割コア41内に挿入して、コイル4内で凸部311を凹部312に互いに嵌め合わせて嵌合段部26どうしを嵌合させる。この時、コイル4は分割コア2間の基部21および突極22、23で囲まれる空所に嵌合し、ピン挿入口412aが分割コア2の孔24と同軸的に一致する。これら一致したピン挿入口412aと孔24に、再びピン43を挿入する。これにより分割コア2どうしが連結部25を介して連結されるとともに、その連結部25にコイル4が結合される。
【0025】
分割コア2の連結部25はボビン41の空洞内に位置しており、すなわちコイル4は分割コア2の間に配設され、その状態で連結部25を囲んでいる。複数の分割コア2およびコイル4を上記のように組み立てることで、環状のステータコア1に複数のコイル4が装着され、外側突極22および内側突極23の端部が露出した状態となる。また、分割コア2の中心の孔24はコイル4間において露出している。
【0026】
[3]ステータ
複数の分割コア2の間にコイル4が配設されたステータコア1の内周面および外周面は真円状に整えられ、
図7に示すように分割コア2の中心の孔24にリベット50とロッド状のホルダ(ロッド)51が交互に挿入される。そして、リベット50がステータコア1に固定されてから、
図8および
図9に示すように環状の円盤からなり中心にベアリング521が組み込まれたサポータ(保持部材)52がホルダ51に結合される。なお、分割コア2の孔24に対し、リベット50とホルダ51とを必ずしも交互に配置する必要はない。例えば、リベット50とホルダ51とが2対1の割合で配置されてもよいし、逆の割合であってもよい。また、リベット50を用いず、全ての孔24にホルダ51を挿入する構成としてもよい。
【0027】
図9(b)に示すように、リベット50は一端(
図9(b)で右端)に頭部501を有し、頭部501がない側の端部から孔24に挿入され、頭部501がステータコア1の端面に当接した状態で、突出した挿入先端側の端部が潰されて固定される。
【0028】
さらに
図9(b)に示すように、ホルダ51は両端部にねじ部51a、51bを有するとともに、ねじ部51b側(
図9(b)で左側)には孔24より大径の大径部512を有しており、大径部512がないねじ部51a側(
図9(b)で右側)から孔24に挿入される。大径部512がステータコア1の端面に当接した状態でねじ部51a側の端部は孔24から突出し、その端部には円筒状のスペーサ513が嵌め込まれる。
【0029】
サポータ52は外周部に各ホルダ51のねじ部51aが挿入される複数の孔が設けられており、それら孔にねじ部51aが挿入され、突出したねじ部51aにバネ座金53を介してナット54が締め込まれる。サポータ52はスペーサ513に当接して軸方向の位置決めがなされるとともにナット54によってホルダ51に締結される。これにより複数の分割コア2からなるステータコア1と、複数のコイル4と、サポータ52とを備えたステータSが構成される。分割コア2の重ねられた2個のコアスタック3は、リベット50と、ホルダ51にサポータ52が結合されたことにより、強固に密接した状態が保持される。また、各コイル4の巻線42は、例えばボビン41に設けた不図示の端子どうしを接続線で接続するなどして結線され、末端のリード線421(
図18参照)に収束される。
【0030】
[4]モータ
上記ステータSには、外周側に
図10に示すアウタロータ6が配設され、内周側に
図13および
図14に示すインナロータ7が配設される。本実施形態では、
図21および
図22に示すようにアウタロータ6は車輪9のホイール91の内周部に固定され、ステータSおよびインナロータ7はそのホイール91の内側に収容されて、ステータSの外周側と内周側にロータを備えたデュアルロータ型のモータMが構成され、このモータMは
図21および
図22に示す車輪9を回転駆動するインホイールモータ駆動装置Wの駆動源とされる。
【0031】
車輪9は、例えばバランススクータ(登録商標)とも称される電動立ち乗り二輪車等の車輪に適用されるものが挙げられるが、本発明でのインホイールモータ駆動装置Wはこれに限られず、ホイール内に収容されて車輪を回転駆動する形態のものに適用される。
【0032】
[4-1]モータのアウタロータ
図10に示すアウタロータ6は、炭素鋼板等の薄肉の磁性材料からなる環状のバックヨーク61の内周面に、複数の矩形状のマグネット621からなるロータマグネット62が設けられたものである。バックヨーク61の内周面には、仕切り631によって周方向に複数の空間部分が仕切られた環状の梯子形状を有するスペーサ63が固定され、スペーサ63の各空間部分にマグネット621が嵌め込まれて固定される。
【0033】
マグネット621は焼結磁石であって予め着磁されており、各マグネット621およびスペーサ63はバックヨーク61の内周面に接着剤で固定される。
図11および
図12に示すように、アウタロータ6はホイール91内に組み込まれ、バックヨーク61の外周面がホイール91の内周面に接着剤で固定される。
【0034】
[4-2]モータのインナロータ
図13および
図14に示すインナロータ7は、ケイ素鋼板等の磁性材料からなる円盤状のロータコア71の外周部に複数の矩形状のマグネット721からなるロータマグネット72が設けられ、ロータコア71の中心にシャフト73が固定されたものである。ロータコア71の外周部には軸方向に貫通する複数のマグネット装着孔71aが周方向に等間隔をおいて形成されており、これらマグネット装着孔71aにマグネット721が挿入され、接着剤により固定されている。マグネット721の数はアウタロータ6のマグネット621の数と同じである。
【0035】
マグネット721は焼結磁石であって予め着磁されており、外周面側において極性(N・S)が周方向に交互に並ぶ状態とされてロータマグネット72が構成される。シャフト73はロータコア71の中心のシャフト固定孔71bに圧入されて同軸的に固定されている。シャフト73はロータコア71の両側から出ているが、突出長さは均等ではなく、突出長さが短い短尺側73aの端部にキー(伝達部材)74が装着される。
【0036】
なお、上記のアウタロータ6およびインナロータ7の各ロータマグネット62、72は、それぞれ焼結磁石からなる複数のマグネット621、721を周方向に並べて構成されているが、ロータマグネット62、72としては、磁石粉を樹脂やゴム等に混合して成形固化したボンド磁石を使用することができる。
図15は、バックヨーク61の内周面にボンド磁石からなる環状のロータマグネット62を設けたアウタロータ6の例を示している。また、
図16は、ロータコア71の外周面にボンド磁石からなる環状のロータマグネット72を設けたインナロータ7の例を示している。いずれのロータマグネット62、72も周方向に極性(N・S)が交互に配列されるように着磁されている。ロータマグネット62、72を構成する磁石は、コストや製造面での都合や磁力の大きさ等が考慮されて、焼結磁石やボンド磁石等から適宜に選択される。
【0037】
[4-3]モータおよびインホイールモータ駆動装置の組み立て
上記アウタロータ6およびインナロータ7は、次のようにしてデュアルロータ型のモータMとして組み立てられると同時にインホイールモータ駆動装置Wが構成される。
【0038】
はじめに、
図17および
図18に示すように、インナロータ7のシャフト73の長尺側73bに円盤状の軸受ブラケット(保持部材)80が装着され、さらにインナロータ7を保持した軸受ブラケット80がステータSに固定される。軸受ブラケット80は軸心にシャフト挿通孔801aが貫通形成された円筒状の軸受部801を有し、軸受部801の一端にフランジ802が形成され、その一端側の内周部にベアリング803が装着されている。また、軸受部801の軸方向ほぼ中央の外周部にはベアリング804が装着されている。
【0039】
軸受ブラケット80をインナロータ7に装着するには、座金81と皿バネ82を嵌めたシャフト73の長尺側73bをベアリング803に圧入し、さらに皿バネ82にベアリング803が当たって弾性変形するまでシャフト73をシャフト挿通孔801aに挿入する。ベアリング803は皿バネ82によって軸方向に予圧が付与される。
【0040】
軸受ブラケット80のフランジ802の外周部には上記複数のホルダ51のねじ部51bが挿入される複数の孔802aが設けられており、それら孔802aに各ねじ部51bが挿入され、フランジ802から突出したねじ部51bにバネ座金83を介してナット84が締め込まれる。フランジ802はホルダ51の大径部512に当接して軸方向の位置決めがなされるとともにナット84によってホルダ51に締結される。すなわち軸受ブラケット80はホルダ51を介してステータSのステータコア1に結合される。この状態でインナロータ7はステータS内に収容され、外周部のロータマグネット72が、ステータコア1の各分割コア2の内側突極23に対し僅かな隙間をおいて対向する。
【0041】
軸受ブラケット80のフランジ802および軸受部801には、各コイル4の巻線42に接続された上記リード線421を外部に引き出すためのリード線ガイド孔802b、801bが形成されており、これらリード線ガイド孔802b、801bにリード線421が通されて外部に引き出される。シャフト73を含むインナロータ7は、ベアリング521、803を介してステータSおよび軸受ブラケット80に相対回転可能に支持されている。
【0042】
図19および
図20に示すように、軸受ブラケット80の軸受部801の外周部には環状のカバー85がベアリング804を介して相対回転可能に装着される。そしてカバー85が装着された組立体は、
図21および
図22に示すように車輪9のホイール91内に収容され、カバー85がホイール91に固定される。
【0043】
図21および
図22に示すように、車輪9はホイール91の外周にタイヤ93が装着され、ホイール91内の軸心部分にキー溝92aが形成された環状のハブ(伝達部材)92が固定されたものである。上記組立体は、シャフト73にキー74が装着されてホイール91内に収容され、そのキー74がハブ92のキー溝92a内に嵌合される。そして、ホイール91の外周部端面に設けられた複数のねじ孔91aにカバー85の外周部に設けられた孔85aを合わせ、ねじ孔91aにボルト86を締結することによってカバー85がホイール91すなわち車輪9に固定される。この状態でアウタロータ6の内周部に設けられたロータマグネット62は、ステータコア1の各分割コア2の外側突極22に対し僅かな隙間をおいて対向する。
【0044】
以上により、ホイール91内に、ステータSの内周側にインナロータ7が配され、かつステータSの外周側にアウタロータ6が配されたデュアルロータ型のモータMが収容され、さらにこのモータMによって車輪9を回転駆動するインホイールモータ駆動装置Wが構成される。
【0045】
インホイールモータ駆動装置Wは、軸受ブラケット80に上記電動立ち乗り二輪車等の車体が固定され、モータMが作動すると車輪9が回転駆動される。すなわちモータMにおいてリード線421から駆動電流がステータSのコイル4に供給されると、インナロータ7とアウタロータ6が回転する。インナロータ7の回転はキー74、ハブ92を介して車輪9に伝達し、アウタロータ6の回転は車輪9を直接回転させる。回転する部材は、インナロータ7、アウタロータ6が固定された車輪9、カバー85であり、サポータ52を含むステータSと軸受ブラケット80が回転しない部材である。
【0046】
[5]本実施形態の作用効果
本実施形態のステータSによれば、コイル4のボビン41に分割コア2の連結部25を挿入することでステータコア1に容易にコイル4を設けることができる。また、ボビン41には簡易な装置を用いて巻線42を容易に巻くことができるため、大量生産が可能である。本発明では、従来のようにステータコアまたは分割したステータコアに巻線を巻いてコイル4を形成しないため、コイル巻き用のノズルを備えた巻線装置は不要である。このため、外側突極22間および内側突極23間の隙間を小さくすることができるとともに巻線42を多く巻くことができる。その結果、占積率の向上およびこれに基づく振動、騒音、コギングトルクの低減や出力の向上が図られる。
【0047】
また、上記のようにボビン41に巻線42を容易に巻くことができ、コイル4用のノズルを備えた装置は不要なため、生産性の向上が図られる。さらに、コイル4の内部は磁束が最大となるが、その内部に分割コア2の連結部25が入っていてコイル4に囲まれているため、連結部25においても磁束に影響が出にくく、出力の低減が生じにくい。
【0048】
また、分割コア2の連結部25およびコイル4に貫通されたピン43により、連結部25どうしが連結されるとともに連結部25にコイル4が結合されている。ピン43という単純な構成の連結部材によって分割コア2は径方向および周方向への動きが効果的に拘束され、その結果、径方向および周方向の振動が抑制され、騒音をより低減させることができる。
【0049】
また、各分割コア2は、周方向中央部がリベット50またはロッド状のホルダ51によってサポータ52および軸受ブラケット80に固定され、基部21の両側の連結部25どうしはそれぞれピン43で固定されている。すなわち2つのピン43と1つのリベット50またはホルダ51の3点で固定状態が得られている。これによりステータコア1は振動を受けてもゆがみにくく、環状のステータコア1の形状が強固に維持されるものとなっている。
【0050】
さらに本実施形態の分割コア2は、基部21の両側の連結部25が同一形状であって互いに嵌合する嵌合段部26を有し、全体形状が径方向に延びる線(
図2(a)の線T)を軸として点対称の形状であり、全体として一様な形状である。このため、分割コア2のどの部分においても均等に磁束を発生させやすく、結果として出力特性の向上が図られる。また、分割コア2は2個のコアスタック3を重ね合わせて構成されるが、コアスタック3の基部31の両側にそれぞれ形成された凸部311と凹部312によって同一形状の嵌合段部26が形成される。このため、一様な形状を有する分割コア2を2個のコアスタック3を用いることで容易に得ることができる。なお、本実施形態では分割コア2は上記のように点対称形状であるが、全体として一様な形状を得ることが可能であれば、分割コア5は、上記線Tを軸として周方向に左右対称な形状であってもよい。
【0051】
また、ステータSに関しては、軸方向の一方側にサポータ52を有し、サポータ52に複数の分割コア2からなるステータコア1および複数のコイル4が保持されている。このサポータ52によってステータコア1および複数のコイル4が保持されているため耐振動性が向上する。さらに本実施形態のモータMにおいては、ステータSが軸方向両側に配されたサポータ52と軸受ブラケット80とにより両持ちの状態で保持されており、このため耐振動性がより向上したものとなる。
【0052】
また、モータMにおいては、例えば本実施形態のようにインホイールモータ駆動装置のモータとして用いる場合、体積が小さいながら出力トルクが高いので、車輪の内部に搭載することができ、かつ減速ギアを省略することができるという利点を有する。
【0053】
[6]本発明の他の形態
上記実施形態はステータの外周側と内周側の両方にロータ(アウタロータ6、インナロータ7)を配したデュアルロータ型のモータであるが、本発明はステータの外周側のみにロータを有するアウタロータ型、または内周側のみにロータを有するインナロータ型のいずれのモータにも適用することができる。ただし、ステータの外周側と内周側の両方にロータを配したデュアルロータ型のモータの方が、片側のみにロータを配したアウタロータ型やインナロータ型に比べて出力を向上させることができる。
【0054】
また、本発明のモータは上記実施形態のようなインホイールモータ駆動装置に限らず、例えば電動工具やエレベータ等の小型、かつ大きな出力や大きなトルクが求められる回転機に用いて好適である。また、通常のモータに比してコギングトルクやトルクリップルが低減されるため、低騒音化が求められる家庭用ロボットや洗濯機等、家庭用電気製品の動力源としても好適である。
【符号の説明】
【0055】
1…ステータコア
2…分割コア
24…貫通孔
25…連結部
26…嵌合段部(嵌合部)
3…コアスタック
311…凸部(嵌合形成部)
312…凹部(嵌合形成部)
4…コイル
41…ボビン
42…巻線
43…ピン
50…リベット(ロッド)
51…ホルダ(ロッド)
52…サポータ(保持部材)
6…アウタロータ
7…インナロータ
73…シャフト
74…キー(伝達部材)
80…軸受ブラケット(保持部材)
9…車輪
91…ホイール
92…ハブ(伝達部材)
M…モータ
S…ステータ
W…インホイールモータ駆動装置