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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-29
(45)【発行日】2022-08-08
(54)【発明の名称】導電性塗工液組成物およびその塗工方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20220801BHJP
   B05D 5/12 20060101ALI20220801BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20220801BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20220801BHJP
   C09D 5/24 20060101ALI20220801BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20220801BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20220801BHJP
   H01B 1/20 20060101ALI20220801BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20220801BHJP
   H01G 11/38 20130101ALI20220801BHJP
【FI】
C09D201/00
B05D5/12 B
B05D7/24 302C
B05D7/24 303B
C09D5/02
C09D5/24
C09D7/61
C09D7/65
H01B1/20 A
H01G11/06
H01G11/38
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017118034
(22)【出願日】2017-06-15
(65)【公開番号】P2019001918
(43)【公開日】2019-01-10
【審査請求日】2020-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000107619
【氏名又は名称】スターライト工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤橋 政人
(72)【発明者】
【氏名】堀内 徹
(72)【発明者】
【氏名】河邉 保雅
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/114834(WO,A1)
【文献】特開2007-180250(JP,A)
【文献】国際公開第2016/023904(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 201/00
B05D 5/12
B05D 7/24
C09D 5/02
C09D 5/24
C09D 7/61
C09D 7/65
H01B 1/20
H01G 11/06
H01G 11/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維長が10μmから1000μmである未変性セルロースナノファイバーと、水溶性又は水分散性を有する架橋性樹脂、水溶性陰イオン性分散剤、導電性カーボンからなる導電性無機充填剤、及び前記架橋性樹脂が有する架橋性基及び/又は架橋性構造と反応可能な架橋剤よりなる導電性樹脂組成物
又は、前記未変性セルロースナノファイバーと、前記架橋性樹脂が架橋剤を用いなくても自身の分子内に架橋構造を形成しうる自己架橋性樹脂、水溶性陰イオン性分散剤、導電性カーボンからなる導電性無機充填剤よりなる導電性塗工液組成物、であって、
前記水溶性陰イオン性分散剤は未変性セルロースナノファイバーの前記導電性塗工液組成物における分散性及び分散安定性を高めるものであ、導電性塗工液組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の導電性塗工液組成物において、
導電性無機充填材を除く、未変性セルロースナノファイバー、前記水溶性又は水分散性を有する架橋性樹脂、分散剤、水系溶媒、前記架橋剤を、予備混合工程後に機械的解繊処理下に一段で混合する、又は、
前記自己架橋性樹脂、未変性セルロースナノファイバー、分散剤、水系溶媒を、予備混合工程後に機械的解繊処理下に一段で混合する、第1工程と、
前記第1工程で得られたナノセルロース複合体に導電性カーボンよりなる導電性無機充填剤を添加し、攪拌、混合する前記第2工程を経て段階的に前記導電性塗工液を作製し、第3工程で前記導電性塗工液を電極基材に塗工し、架橋処理を行ない、塗工膜とする、電気化学キャパシタ電極用導電性塗工膜の塗工方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースナノファイバー、水溶性の架橋性樹脂、及び導電性無機充填剤を含む、水性の導電性塗工液組成物および塗工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水溶性の塗料は、揮発性の高い有機溶剤を使用しないことから環境負荷が小さく、近年使用量が急拡大している。
しかしながら水溶性塗料は、一般に塗膜の耐久性や靭性が低く、特に無機充填剤を多量に添加した導電性塗料などは、塗装後の機械加工によりわれや欠けを生じやすいという問題があった。
特許文献1には、アミノ基を含むゾルゲル材料にポリエチレングリコールを加えた水溶性塗料が開示されているが、無機充填剤を含む場合については触れられておらず、充填剤との濡れ性が問題となり、塗膜の強度が十分でない。
また、特許文献2には、水溶性ポリマーと活性炭を含む塗工液が開示されているが、塗膜の靭性が充分でなく、塗装後に塗膜を含む基材を切断するなどの機械加工する際に塗工膜がひび割れたり、欠けたりする問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-371235
【文献】特開2017-17229
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の意図するところは、導電性の無機充填剤を含む塗工液において、塗工後の塗工基材を切断や曲げなどの機械加工する際に、塗工膜の基材からのはがれ、あるいは割れおよび欠けといった物理的欠陥の生じない水溶性塗工液およびその塗工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の〔1〕~〔5〕により構成される。
〔1〕 セルロースナノファイバーと、水溶性又は水分散性を有する架橋性樹脂、水溶性分散剤、導電性無機充填剤よりなる導電性塗工液組成物。
〔2〕 セルロースナノファイバーが、木質由来パルプの機械解繊により作製した未変性セルロースナノファイバーである、〔1〕に記載の導電性塗工液組成物。
〔3〕 前記無機充填剤が、導電性カーボンからなる〔1〕、〔2〕に記載の導電性塗工液組成物。
〔4〕 前記架橋性樹脂に反応して架橋構造を形成する架橋剤をさらに含む、又は前記架橋性樹脂が、水溶性又は水分散性を有する自己架橋性樹脂である、〔1〕~〔3〕に記載の導電性塗工液組成物。
〔5〕 前記〔1〕~〔4〕に記載の導電性塗工液組成物からなる、電気化学キャパシタ電極用導電性塗工液組成物。
〔6〕 前記〔5〕に記載の電気化学キャパシタ電極用導電性塗工液組成物を、電極基材に塗工した電気化学キャパシタ電極用塗工膜の塗工方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、導電性無機充填剤を含む導電性塗工液組成物からなる塗工膜は、その伸びおよび靭性、耐熱性が高く、熱膨張係数が低く、さらに塗工基材との接着性に優れることから、塗工された基材を曲げたり切断したりする機械加工の際に、塗工膜のはがれ、割れおよび欠けなどの物理的欠陥を生じない導電性塗工液組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の塗工液は、セルロースナノファイバー、分散剤、導電性無機充填剤を含み、水溶性又は水分散性を有する架橋性樹脂との組成物からなる塗工液であり、該塗工液を基材に塗工した後に、該塗工膜に架橋処理することにより、塗工基材と塗工膜の接着性が高く、塗工膜の伸びと靭性に優れる導電性塗工液組成物に関するものである。
【0008】
上記の、セルロースナノファイバー、水溶性分散剤、水溶性又は水分散性を有する架橋性樹脂との組成物からなる塗工液は、導電性無機充填剤を多量に添加しても、高い靭性と、強度、弾性率、低熱膨張係数を有しており、塗工した基材を曲げたり切断したりする機械加工においても、塗工膜は基材との接着性に優れ、割れや欠けなど物理的欠陥を生じない塗工膜を得ることができる。
【0009】
用いるセルロースナノファイバーとしては、セルロースナノファイバ表面に存在する水酸基を長鎖脂肪酸などで疎水化した疎水変性セルロースナノファイバーでもよいし、木質パルプ由来パルプを機械解繊して得た未変性セルロースナノファイバーのいずれでもよいが、疎水変性のためのプロセスおよび設備を必要としない未変性セルロースナノファイバーが好ましい。
【0010】
未変性セルロースナノファイバー(以下、未変性CNFと略す)が好ましい理由は、未変性CNFの繊維径がひとつの原因になっているものと推測している。本発明では、未変性CNFの解繊は、後述するように例えば高圧水の対向噴射処理により行われる。このような解繊では、未変性CNFは極限に使い3~10nm程度の繊維径まで粉砕されることはなく、長さが数μm、繊維径10~20nmの未変性CNFを比較的多く含むものとなりやすい。さらに個々のCNF表面には水酸基が存在するとされている。本発明者らは、表面に水酸基が存在し、長さ数μm、繊維径10~20nmの未変性CNFが、その水酸基とイオン結合した分散剤のイオン反発力により、水溶性又は水分散性を有する架橋性樹脂中に均一分散し、さらに、水溶性又は水分散性を有する架橋性樹脂が架橋構造をとることで、塗工膜全体が均一に靭性、強度、弾性率に優れ、塗工基材との接着性に優れた塗工膜を得ることができ、この効果は無機充填剤を加えた該塗工液においても得られることを見出した。
【0011】
また、本発明による塗工膜は、靭性や強度、弾性率に優れるだけでなく、耐候性、耐熱性、柔軟性、耐薬品性、吸水性、保水性、自己修復性、耐摩耗性等に優れたものになる。また、水溶性又は水分散性を有する架橋性樹脂(以下、架橋性樹脂と称する)に架橋剤を含む場合、又は自己架橋性樹脂である場合には、後述する架橋処理により、未変性CNF間、架橋性樹脂(又は自己架橋性樹脂)間、未変性CNFと架橋性樹脂(又は自己架橋性樹脂)との間、いずれかに架橋構造を導入することにより、上記した各機械的特性をさらに向上させることができる。
【0012】
本発明の塗工液は、未変性CNF、水溶性又は水分散性の架橋性樹脂、水溶性分散剤、導電性無機充填剤、及び水系溶媒を含み、未変性CNFの含有量が架橋性樹脂100重量部に対して0.5重量部以上、10重量部以下であり、未変性CNFが繊維径10~20nmの未変性CNFを含み、さらに無機充填剤は5重量部以上、3000重量部以下を含むものである。
各成分の詳細は、以下のとおりである。
【0013】
木質由来パルプの機械解繊により作製した未変性CNFは、化学処理(化学的解繊とは異なる)を施さず、その分子鎖中及び/又は分子鎖末端のセルロース由来の水酸基が、疎水変性されていない、又は水酸基以外の官能基でブロックされていないCNFである。未変性CNFは、本発明では、植物由来のパルプ等のセルロース原料を後述する機械的解繊により解きほぐすことにより得られる繊維状物質である。セルロース原料は、例えば、一のCNF内にて表面の複数の水酸基が水素結合を形成することにより、また、一のCNF表面の水酸基と他のCNF表面の水酸基とが水素結合を形成することにより、凝集体を含んでいることがある。この凝集体は、水溶性分散剤を加え、機械的解繊処理等により、該分散剤を未変性CNFに吸着もしくはイオン結合させることで解きほぐすことができる。
【0014】
本発明で使用する未変性CNFは、製紙用パルプを機械的解繊処理によって、繊維径10~20nmの範囲の未変性CNFを含み、かつその表面に水酸基が存在するという特徴がある。伸び切り鎖結晶からなるCNFの強度、弾性率はそれぞれ140GPa、及び3GPaであり、高い強度、弾性率を有し、しかも線熱膨張係数は1.0×10-7/℃と石英ガラスに匹敵する低さである。製紙用パルプの機械的解繊処理によって得た未変性CNFは、セルロース分子の構造が壊されずに保持され、前記範囲の繊維径を有していることから、前記範囲を以外の範囲の繊維径のものに比べ、より高い機械的特性を発揮しやすいと本発明者らは推測している。
【0015】
未変性CNFの繊維径、繊維長及びアスペクト比は特に限定されないが、繊維径が好ましくは100nm以下、より好ましくは80nm以下、さらに好ましくは60nm以下、特に好ましくは3~40nmであり、繊維長が好ましくは10~1000μm、より好ましくは100~500μmであり、アスペクト比(繊維長/繊維径)が1000~15000、好ましくは2000~10000程度である。ここでの繊維径及び繊維長は、電子顕微鏡観察により任意の個数(例えば20本)の未変性CNFの繊維径及び繊維長を測定し、得られた測定値の算術平均値として求められる。
【0016】
未変性CNFは、繊維径が前述のようにナノオーダーと非常に小さいことから、これを低濃度で水に分散させた場合、水中に未変性CNFが分散していることは肉眼では認められず、透明な分散液となる。また、未変性CNFを高濃度で水に分散させると、不透明な分散液となる。ここで、分散液は、エマルジョン、スラリー、ゲル、ペーストなどの種々の形態を含む。
【0017】
なお、本発明による導電性塗工液のように、未変性CNFと後述する分散剤とを水系で共存させた場合には、少なくとも一部の未変性CNF表面の水酸基と少なくとも一部の分散剤とが反応し、これらのイオン結合体が形成されることがある。このようなイオン結合体は、例えば、未変性CNFの分散安定性を長期間にわたって高水準に維持するような機能を有していると考えられる。
【0018】
未変性CNFの製造に使用するセルロースは、好ましくは水分散体として用いられる。セルロースの形状は、例えば、繊維状、粒状などの任意の形状である。セルロースとしては、リグニンやヘミセルロースを除去したミクロフィブリル化セルロースが好ましい。また、市販のミクロフィブリル化セルロースを使用してもよい。メディアレス分散機でミクロフィブリル化セルロースを処理すると、ミクロフィブリル化セルロースが繊維の長さを保ったまま繊維表面に存在する水酸基に由来する水素結合がほどけて細くなるが、処理条件を変えることで、繊維の切断もしくは分子量を低下させることも可能である。
【0019】
架橋性樹脂は、水溶性又は水分散性を有するものである。水溶性架橋性樹脂とは水系溶媒に溶解可能な架橋性樹脂である。水分散性架橋性樹脂とは、乳化剤などにより水系溶媒に分散させることができる強制乳化タイプの架橋性樹脂、及びその主鎖骨格の側鎖及び/又は末端に親水性基を導入することにより、水系溶媒に分散させることのできる自己乳化タイプの架橋性樹脂を含む。
【0020】
このような架橋性樹脂の具体例として、水溶性又は水分散性を有する架橋性樹脂、水溶性又は水分散性を有する自己架橋性樹脂等が挙げられる。架橋性樹脂とは、架橋性基及び架橋性構造から選ばれる少なくとも1種を有し、例えば架橋剤と反応して架橋構造を形成する架橋性樹脂であり、好ましくは、架橋性基及び架橋性構造から選ばれる少なくとも1種を有するとともに水溶性又は水分散性を有する架橋性樹脂である。ここで架橋性基としては特に限定されないが、例えば、エポキシ基、ヒドロキシ基、イソシアネート基、アミノ基、アミド基、カルボキシル基、エーテル基(例えばフルオロエチレンエーテル基など)、ヒドロシリル基などが挙げられる。架橋性樹脂は、架橋性基の1種又は2種以上を有することができる。これらの架橋性基は、架橋性樹脂の主鎖骨格に側鎖の少なくとも一部として結合してもよく、主鎖骨格の末端に結合してもよい。
【0021】
また、架橋性樹脂は、水溶性又は水分散性を示すために、親水性基を有していてもよい、親水性基としては特に限定されないが、例えば、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、スルホン基、エーテル基などが挙げられる。親水性基は、架橋性樹脂の主鎖骨格に側鎖の一部として結合してもよく、また、主鎖骨格の末端に結合してもよい。これらの親水性基の中でも、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、エーテル基などを有する架橋性樹脂は、水分散性又は水溶性を有する架橋性樹脂となる。
【0022】
前述の架橋性樹脂の中でも、所定の機械的強度、靭性、接着性を有するものとしてポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、水溶性エポキシ樹脂、水溶性フェノール樹脂、水溶性ポリアミド樹脂、水溶性メラミン樹脂が好ましく用いられる。
【0023】
なお、架橋性樹脂の分子量は特に限定されるものではないが、例えば、最終的に得られるナノセルロース複合体およびその成形体の機械的特性、剛性、その他の特性の向上を図る上では、重量平均分子量として2000以上であることが好ましい。
【0024】
本発明において、水溶性又は水分散性を有する架橋性樹脂を用いる場合、架橋性樹脂が有する架橋性基及び/又は架橋性構造と反応可能な架橋剤を、架橋性樹脂と併用することが好ましい。架橋剤については後述する。
【0025】
また、自己架橋性樹脂とは、架橋剤を用いなくても自身の分子内に架橋構造を形成し得る架橋性樹脂である。自己架橋性樹脂としては、水溶性又は水分散性を有するものであれば特に限定されないが、例えば、ポリビニルトルエン、t-ブチルアクリレート/グリシジルアクリレート共重合体、カルボキシル基含有ビニル単量体/スルホン酸基含有ビニル単量体共重合体等が挙げられる。また、自己架橋性樹脂と共に後述する架橋剤を用いることもできる。なお、自己架橋性樹脂としても、水溶性又は水分散性であるものがが好ましい。
【0026】
本発明では、架橋性樹脂は好ましくは溶液又は分散液の形態で用いられる。架橋性樹脂が水溶性である場合、架橋性樹脂の溶液は、架橋性樹脂を水系溶媒に溶解させた溶液であることが好ましい。水系溶媒とは、水、水に溶解可能な有機溶媒、水と水に溶解可能な有機溶媒との混合溶媒等が挙げられる。また、架橋性樹脂が水分散性である場合、架橋性樹脂の分散液は、前記と同様の水系溶媒を分散媒として用いた、強制乳化型エマルジョン、自己乳化型エマルジョンなどのエマルジョン、スラリーなどであることが好ましい。強制乳化型エマルジョンは、界面活性剤やその他の乳化剤を用いて架橋性樹脂を水系溶媒に分散させたものである。自己乳化型エマルジョンは、架橋性樹脂の主鎖骨格に側鎖および/又は末端基として親水性基を導入することにより、架橋性樹脂を水系溶媒に分散させたものである。水系溶媒の中でも、水、水と水溶性溶媒との混合溶媒が好ましく、水がより好ましい。
【0027】
ここで、水溶性溶媒としては、例えば、1価又は多価のアルコール類(一価アルコールには例えば炭素数1~4の低級アルコールがある)、アミド類、ケトン類、ケトアルコール類、環状エーテル類、グリコール類、多価アルコールの低級アルキルエーテル類、ポリアルキレングリコール類、グリセリン、N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2,6-ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等のポリオール類、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル等の多価アルコールアルキルエーテル類,エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル等の多価アルコールアリールエーテル類および多価アルコールアラルキルエーテル類、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、ε-カプロラクタム等のラクタム類、1,3-ジメチルイミダゾリジノンアセトン、N-メチルー2-ピロリドン、m-ブチロラクトン、グリセリンのポリオキシアルキレン付加物、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジメチルスルホキシド、ジアセトンアルコール、ジメチルホルムアミド、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどである。水溶性溶媒は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0028】
また水としては、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、または超純水を用いることができる。また、紫外線照射、または過酸化水素添加などにより滅菌した水を用いることにより、長期保存におけるカビまたはバクテリアの発生を防止することができるので好適である。これらの水溶性溶媒は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。好ましい水系溶媒は、水、水と水溶性溶媒との混合溶媒などであり、特別な廃液処理設備が不要で環境汚染をしにくい水が特に好ましい。
【0029】
分散剤は水溶性分散剤であり、好ましくは未変性CNFが表面に有する水酸基などの官能基とイオン結合可能なもしくは吸着可能な水溶性分散剤であり、より好ましくは未変性CNFが表面に有する水酸基などの官能基とイオン結合可能でありかつ静電反発力等により本発明の塗工液中での未変性CNFの分散性及び分散安定性を高め得るような分散剤である。該分散剤としては、前述のように水溶性であれば特に限定されないが、陰イオン性分散剤を好ましく使用できる。陰イオン性分散剤としては、例えば、リン酸基、-COOH基、-SOH基、これらの金属エステル基、及びイミダゾリン基から選ばれた少なくとも1種の官能基を有する化合物、アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体などが挙げられる。陰イオン性分散剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0030】
陰イオン性分散剤の具体例としては特に限定されないが、例えば、ポリアクリル酸とその塩、ポリメタクリル酸とその塩、ポリアクリル酸共重合体とその塩、ポリイタコン酸とその塩、オレフィン由来モノマーおよび不飽和カルボン酸(塩)由来モノマーを含む共重合体(例えば特開2015-196790号公報など)、ポリマレイン酸共重合体とその塩、ポリスチレンスルホン酸とその塩、スルホン酸基結合ポリエステルなどのカルボン酸系陰イオン性分散剤、アルキルイミダゾリン系化合物(例えば特開2015-934号公報、特開2014-118521号公報など)などの複素環系陰イオン性分散剤、、酸価とアミン価とを有する陰イオン性分散剤(例えば得開2010-186124号公報など)、ピロリン酸、ポリリン酸、トリポリリン酸、テトラポリリン酸、メタリン酸、トリメタリン酸、テトラメタリン酸、ヘキサメタリン酸、ホスホン酸、これらの塩などのリン酸系陰イオン分散剤、スルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、リグニンスルホン酸、これらの塩などのスルホン酸系陰イオン分散剤、オルトケイ酸、メタケイ酸、フミン酸、タンニン酸、ドデシル硫酸、これらの塩などのその他の陰イオン性分散剤などが挙げられる。これらの中でも、リン酸、ポリリン酸、リン酸塩、ポリリン酸塩、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸共重合体、ポリアクリル酸塩、ポリアクリル酸共重合体塩などが好ましい。
【0031】
また、陰イオン性分散剤として、アクリル酸やメタクリル酸と、他の単量体を共重合させた共重合体を用いることもできる。他の単量体としては、例えば、α-ヒドロキシアクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和カルボン酸およびそれらの塩、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸などの不飽和スルホン酸およびそれらの塩等が挙げられる。
【0032】
上記の陰イオン性分散剤の塩を構成するカチオンとしては特に限定されないが、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウムなどのアルカリ金属、カルシウムなどのアルカリ土類金属、マグネシウム、アンモニウム基などが挙げられる。水に対する溶解性の点からナトリウム、カリウム、アンモニウム基などがより好ましく、カリウムが最も好ましい。
【0033】
本発明では市販の陰イオン性分散剤を用いてもよく、市販品の具体例としては、アロンA-6114(商品名、カルボン酸系分散剤、東亜合成(株)製)、アロンA-6012(商品名、スルホン酸系分散剤、東亜合成(株)製)、デモールNL(商品名、スルホン酸系分散剤、花王(株)製)、SD-10(商品名、ポリアクリル酸系分散剤、東亜合成(株)製)などが挙げられる。
【0034】
また、本発明に用いられる陰イオン性分散剤として、(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体を用いてもよい。(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体は、本発明により得られるナノファイバー複合体中の各成分の分散安定性、特にナノファイバーの分散安定性を高め得るとともに、例えば、生体適合性を有し、本発明のナノセルロース複合体を医療用途、食品用途などに用いる場合の分散剤として好適に使用できる。ここで、(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンとは、メタアクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、及びアクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを包含する。これらは、常法に従って製造される。例えば、2-ブロモエチルホスホリルジクロリドと2-ヒドロキシエチルホスホリルジクロリドと2-ヒドロキシエチルメタクリレートとを反応させて2-メタクリロイルオキシエチル-2′-ブロモエチルリン酸を得、更にこれをトリメチルアミンとメタノール溶液中で反応させて得ることができる。
【0035】
本発明では(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体の市販品を用いてもよく、市販品の具体例としては、例えば、リピジュアHM、リピジュアBL(いずれも商品名、ポリメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)、リピジュアPMB(商品名、メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・メタクリル酸ブチルコポリマー)、リピジュアNR(商品名、メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・メタクリル酸ステアリルコポリマー)などが挙げられる。これらはいずれも日油(株)製である。
これらの分散剤は、後述の無機充填剤の均一分散にも有効である。
【0036】
本発明の製造方法で使用する架橋剤は、主に架橋性樹脂が有する架橋性基、架橋構造や、ナノセルロースがその表面に有する官能基と架橋反応を起こすものである。該架橋反応の結果、架橋性樹脂間、未変性CNF間、架橋性樹脂と未変性CNFとの間の少なくとも1つに、架橋剤に由来する架橋構造が形成され、得られる本発明の塗工液の機械的特性ならびに目的とする塗工液の機能性がが向上する。
【0037】
架橋剤としては、架橋性樹脂が有する架橋性や架橋構造、ナノセルロースが表面に有する官能基などとの反応性を有するものであれば特に限定されないが、例えば、多官能性モノマー、多官能性樹脂、有機過酸化物、重合開始剤などが挙げられる。これらの架橋剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0038】
多官能性モノマーとしては、多官能アクリル系モノマー、多官能アリル系モノマー、およびこれらの混合モノマー等が挙げられる。
【0039】
多官能アクリル系モノマーの具体例としては、例えば、エチレンオキシド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリス(メタクリロキシエチル)イソシアヌレートなどが挙げられる。これらの中でも、皮膚刺激性が低いという観点からは、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート(トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸のトリアクリル酸エステル)を好ましく使用できる。多官能アクリル系モノマーは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0040】
多官能アリル系モノマーとしては、例えば、トリアリルシアヌレート(TAC)、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート(DA-MGIC)、ジアリルフタレート、ジアリルベンゼンホスフォネートなどが挙げられる。多官能アリル系モノマーは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる
【0041】
多官能性モノマーは、必要に応じて重合開始剤と併用することができ、また、酸触媒、安定剤等を併用することができる。重合開始剤、触媒、安定剤等の本発明塗工液への添加時期は特に限定されないが、例えば、未変性CNF、架橋性樹脂、分散剤、導電性無機充填剤、水系溶媒と同時に混合される。
【0042】
多官能性モノマーの配合量は特に限定されないが、架橋性樹脂の固形分重量に対して、好ましくは0.01~10重量%、より好ましくは0.1~5重量%である。多官能性モノマーの配合量が0.01重量%未満の場合は、本発明塗工液の機械的特性、熱的特性が顕著に向上しない傾向がある。多官能性モノマーの配合量が10重量%を上回る場合には、本発明塗工液の伸びや衝撃強さなどの機械的特性に悪影響を及ぼす傾向がある。
【0043】
多官能性樹脂(多官能性ポリマー)の具体例としては、例えば、エポキシ樹脂、イソシアネート樹脂、シアネート樹脂、マレイミド樹脂、アクリレート樹脂、メタクリレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、オキセタン樹脂、ビニルエーテル樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。これらの中でも、熱硬化性エポキシ樹脂、エポキシ(メタ)アクリレート樹脂などの放射線硬化性樹脂などが好ましい。なお、多官能性樹脂は架橋性樹脂よりも相対的に分子量の低いものである。多官能性樹脂の分子量は、重量平均分子量として1000未満が好ましい。多官能性樹脂は、架橋性樹脂と同様に、水酸基やカルボキシル基などの親水性基で変性された自己乳化性のもの、乳化剤により分散媒中に分散可能な強制乳化型のものが好ましい。これらの樹脂を架橋剤として用いる場合、架橋性樹脂とは樹脂種の異なるものを用いるのが好ましい。多官能性樹脂の配合量は、架橋性樹脂の固形分重量に対して好ましくは3~20重量%、より好ましくは5~15重量%である。
【0044】
有機過酸化物は、例えば、加熱によりフリーラジカルを発生し、これにより、架橋性樹脂同士間、未変性CNF同士間、架橋性樹脂と未変性CNFとの間の少なくとも一部を架橋する。なお、有機過酸化物は重合開始剤の範疇にも入るものであるが、本明細書では重合開始剤とは別個に記載する。有機過酸化物の具体例としては、例えば、ジクミルパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3、1,3-ビス(tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(tert-ブチルパーオキシ)バレレート、ベンゾイルパーオキサイド、p-クロロベンゾイルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジアセチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、tert-ブチルクミルパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、tert-ブチルヒドロパーオキサイドなどが挙げられる。有機過酸化物は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。有機過酸化物の配合量は、架橋性樹脂及び未変性CNFの合計固形分量に対して好ましくは0.0001~10重量%、より好ましくは0.01~5重量%、さらに好ましくは0.1~3重量%である。
【0045】
重合開始剤は、例えば、加熱又は電離放射線照射によりフリーラジカルを発生し、これにより、架橋性樹脂同士間、未変性CNF同士間、架橋性樹脂と未変性CNFとの間の少なくとも一部を架橋する。重合開始剤の具体例としては、例えば、アゾ化合物、過硫酸塩などが挙げられる。また、重合開始剤は水溶性のものが好ましい。
【0046】
重合開始剤の具体例としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)などの疎水性アゾ化合物、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]などの水溶性アゾ化合物;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩名とが挙げられる。重合開始剤の配合量は、架橋性樹脂及びナノファイバーの合計固形分量に対して、好ましくは0.0001~5重量%、より好ましくは0.01~3重量%、さらに好ましくは0.1~1重量%程度である。
【0047】
なお、本発明では架橋剤と共に、酸触媒を用いてもよい。酸触媒は、例えば、架橋性性樹脂の架橋性基および/または架橋構造と架橋剤の求核性反応基との反応を促進させるために用いられる。酸触媒の具体例としては、例えば、p-トルエンスルホン酸、クエン酸、酢酸、リンゴ酸等の有機酸、塩酸、硫酸、スルホン酸等の無機酸、三フッ化ホウ素、塩化亜鉛、塩化スズ、塩化アルミニウムなどのルイス酸が挙げられる。酸触媒は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。酸触媒の配合量は、架橋性樹脂の固形分量100重量部に対して好ましくは0.1~8重量部である。酸触媒の配合量が0.1重量部未満では、架橋度が低くなりすぎる恐れがあり、8重量部を超えるとナノファイバー複合体中での相溶性が悪化する恐れがある。
【0048】
また、本発明の塗工液にアルカリ剤を配合し、そのpHを弱アルカリに調整することにより、未変性CNFの分散性及び分散安定性をさらに向上させることができる。アルカリ剤としては特に限定されず、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどが挙げられる。アルカリ剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0049】
また、本発明では、得られる本発明塗工液の導電性を損なわない範囲で、ヒンダードフェノール、リン酸エステルや亜リン酸エステルなどの酸化防止剤、耐熱安定剤、トリアジン系化合物などの耐候性付与剤、耐候性付与剤などの安定剤、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤、揆水剤、アンチブロッキング剤、柔軟性改良材、レベリング剤、消泡剤、金属石鹸、有機シラン、有機金属化合物などを配合することができる。
【0050】
これらの添加剤の中でも、酸化防止剤が好ましい。酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤などが挙げられる。これらの中でも、フェノール系酸化防止剤が特に好ましい。酸化防止剤の配合量は、ナノファイバー及び架橋性樹脂の合計固形分量又はナノファイバー、架橋性樹脂及び分散剤の合計固形分量に対し、通常0.1~10重量%。好ましくは0.2~5重量%である。
【0051】
<導電性無機充填剤>
本発明に用いる導電性無機充填剤としては、導電性カーボンが好ましく、たとえば、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、炭素繊維、活性炭などが挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック等のいずれでも用いることができる。また、活性炭としては水蒸気や二酸化炭素で賦活処理したやし殻炭、木粉炭、易黒鉛化性炭素をアルカリ金属化合物により賦活処理したアルカリ賦活炭等が挙げられる。
【0052】
本発明の導電性塗工液組成物は、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタなどの電気化学キャパシタ、又はハイブリッド型の電池等において、活性炭等を含む固形成分と水性溶媒とを混合して調製される塗工液を、アルミ箔等の電極基材表面に塗工、乾燥、および架橋して得られる電極シートに適用される。
また、これらの電極シートは、電気化学キャパシタにおいて、正極用の電極シート及び/または負極用の電極シートに適用される。
特に、本発明による導電性塗工液組成物は、塗工膜の伸びおよび靭性、耐熱性が高く、熱膨張係数が低く、さらに塗工基材との接着性に優れることから、塗工された電極シートを曲げたり切断したりする機械加工において、塗工膜に割れや欠けがなく、電極シートの生産性を向上させることができる。
また、本発明の導電性塗工液組成物を塗工した電極シート及びキャパシタは、角型のキャパシタ、円筒型のキャパシタのいずれにも適用することができる。
【0053】
本発明の導電性塗工液組成物には、導電性無機充填剤以外に、さまざまな機能性無機充填材を添加することで、塗工膜に機能性無機充填剤の種類に応じた機能が付与できる。導電性以外の、主な機能性無機充填材としては以下のものを挙げることができる。
抗菌性の場合はカテキン、銀イオン担持ゼオライト、銅フタロシアニンなどの抗菌剤、ガスバリア性の場合は(合成)マイカ、クレー無機層状化合物、磁性の場合はフェライト、酸化鉄、酸化クロム、コバルトなどの磁性材、熱伝導性の場合はアルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化ベリリウムなどの熱伝導性充填材、圧電性の場合はチタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛圧電材、遮音性の場合は鉄粉、鉛粉、硫酸バリウムなどの遮音材、摺動性の場合は黒鉛、六方晶窒化ホウ素、硫化モリブデン、フッ素樹脂粉、タルクなどの固体潤滑剤、電磁波吸収性の場合はフェライト、黒鉛、木炭粉、カーボンマイクロコイル、カーボンナノチューブ、PZTなどの電波吸収剤が好ましい例として挙げられる。本発明による塗工液に導電性以外の機能を付与する無機充填剤としては、上記に限定されるものではない。
【0054】
本発明による導電性塗工液組成物の製造方法は、第1工程を含み、さらに第2工程及び第3工程を含んでいてもよく、さらに後述する予備混合工程を含んでいてもよい。より具体的には、本発明の一実施形態の製造方法は、第1、第2工程を含み、さらに第3工程、予備混合工程を含んでいてもよい。
【0055】
本発明の製造方法によれば、未変性CNFが架橋性樹脂中にほぼ均一に分散したナノファイバー複合体、ナノファイバー複合体の固形分からなる成形体、及びナノファイバー複合体の固形分の少なくとも一部を架橋させた架橋成形体などが得られる。なお、本発明では第1工程の前に、予備混合工程を実施してもよい。以下、予備混合工程、第1工程、第2工程、第3工程の順により具体的に説明する。
【0056】
〔予備混合工程〕
予備混合工程では、未変性CNF、水溶性又は水分散性を有する架橋性樹脂、分散剤や他の添加剤、水系溶媒、導電性無機充填剤を除く添加剤などを、機械的解繊処理を行うことなく単に混合し、予備混合物を得る。得られた予備混合物中での未変性CNFの架橋性樹脂への分散性は十分ではない。しかし、予備混合物に第1工程で機械的解繊処理を施すことにより、得られるナノファイバー複合体中でのナノファイバーの架橋性樹脂中への分散性が、単に第1工程だけを実施した場合よりも一層向上する。なお、架橋性樹脂が自己架橋性を有さない場合は、架橋性樹脂と共に架橋剤を用いることが好ましい。
【0057】
〔第1工程〕
第1工程では、ナノファイバー、水溶性又は水分散性を有する架橋性樹脂、分散剤、水系溶媒、架橋性樹脂に反応して架橋構造を形成する架橋剤、必要に応じてその他の添加剤などを機械的解繊処理下に一段で混合する。架橋性樹脂には、架橋性樹脂と共に架橋剤を併用することが好ましい。また、第1工程では、予備混合工程で得られた予備混合物に機械的解繊処理を施してもよい。本明細書において、一段での混合とは、上記した各成分を同一容器に一度に投入して混合することを意味する。第1工程では、架橋性樹脂は、得られるナノファイバー複合体におけるナノファイバーの分散性などの観点から、溶液又は分散液の形態で用いることが好ましく、水系溶媒溶液又は水系溶媒分散液の形態で用いることがより好ましい。また、ナノファイバー、分散剤、架橋剤、その他の添加剤は、それぞれ別個に水系溶媒に溶解又は分散させた形態で用いてもよい。
【0058】
機械的解繊処理は、予備混合工程で得られた予備混合物又は第1工程で各成分を同一容器にほぼ同時に投入した混合物に対して、せん断力を付与できる装置を用いて実施される。このような装置としては、高圧ホモジナイザー、水中カウンターコリジョン、高速回転分散機、ビーズレス分散機、高速撹拌型メディアレス分散機などが挙げられる。これらのなかでも、ナノファイバーの架橋性樹脂中への分散性が一層向上するだけでなく、不純物の混入が少なく、純度の高いナノファイバー複合体が得られるという観点から、高速撹拌型メディアレス分散機が好ましい。
【0059】
高速攪拌型メディアレス分散機とは、分散メディア(例えば、ビーズ、サンド(砂)、ボール等)を用いず、せん断力を利用して分散処理を行う分散機である。メディアレス分散機は市販品を用いることができる。該市販品としては、例えば、DR-PILOT2000、ULTRA-TURRAXシリーズ、Dispax―Reactorシリーズ(いずれも商品名、IKA社製)、T.K.ホモミクサー、T.K.パイプラインホモミクサー(いずれも商品名、プライミクス(株)製)、ハイ・シアー・ミキサー(商品名、シルバーソン社製)、マイルダー、キャビトロン(いずれも商品名、大平洋機工(株)製)、クレアミックス(商品名、エムテクニック(株)製)、ホモミキサー、パイプラインミキサー(商品名、みずほ工業(株)製)、ジェットペースタ(商品名、日本スピンドル製造(株)製)、アペックスディスパーザー ZERO(商品名、(株)広島メタル&マシナリー製)等が挙げられる。
【0060】
高速攪拌型メディアレス分散機の中でも、ステータとロータとを備える型式の高速攪拌型メディアレス分散機が好ましい。この型式の具体例としては、例えば、ステータと、ステータの内部で回転するロータとを備える型式、ステータおよびロータが多段階に設置された型式などが挙げられる。上記した市販品の中では、アペックスディスパーザー ZEROがこの型式である。この型式では、ステータとロータの間には隙間がある。この隙間の寸法を「せん断部クリアランス」とする、ロータの回転下に、ステータとロータの隙間に上記各成分の混合液を通過させることにより、該混合液にせん断力を付与でき,ナノファイバー径のさらなる微細化、ナノファイバーの架橋性樹脂への均一分散などを図ることができる。また、上記各成分の混合液全体に均一にせん断力を付与する観点から、字容器各成分の混合液が装置内を循環するインライン循環式高速攪拌型メディアレス分散機が好ましい。
【0061】
高速撹拌型メディアレス分散機を用いる場合、せん断速度、せん断部クリアランスおよびロータの回転周速、特にせん断部クリアランスおよびロータの回転周速を所定の範囲に設定することにより、ナノファイバー径のさらなる微細化や、ナノファイバーの架橋性樹脂へのさらなる均一分散、得られるナノファイバー複合体中でのナノファイバーの沈降防止などの優れた効果が得られることが、本発明者らの研究により判明している。
【0062】
せん断速度は、900,000[1/sec]を超えることが好ましい。せん断速度が900,000[1/sec]以下である場合には、ナノファイバーの解繊、およびナノファイバーの架橋性樹脂への分散が共に不十分になる傾向がある。また、せん断速度は、2,000,000[1/sec]以下が好ましく、1,500,000[1/sec]以下が好ましく、1,200,000[1/sec]以下がより好ましい。
【0063】
せん断部クリアランスは、せん断速度、上記各成分の混合液の粘度などに応じて適宜設定されるが、ナノファイバーの径をできるだけ小さくし、また、ナノファイバーの架橋性樹脂中への分散性の一層の向上を図る観点から、100μm以上が好ましく、150μm以上がより好ましく、200μm以上が更に好ましい。また、上記各成分の混合液の粘度が高くても、分散機の回転数を適正範囲に保持しつつ高分散性を確保する観点から、クリアランスは、2mm以下が好ましく、1.5mm以下がより好ましく、1.2mm以下がさらに好ましい。
【0064】
ロータの回転周速は、せん断速度に応じて適宜設定されるが、ナノファイバーの径をできるだけ小さくし、また、ナノファイバーの架橋性樹脂中への分散性の一層の向上を図る観点から、18m/s以上が好ましく、20m/s以上がより好ましく、23m/s以上がさらに好ましい。また、最適なナノファイバー径を得る観点から、回転周速は、60m/s以下が好ましく、50m/s以下がより好ましく、45m/s以下がさらに好ましい。回転周速は、ロータの最先端部分の周速である。
【0065】
予備混合工程および第1工程において、上記した各成分の配合量は特に限定されないが、例えば、配合する架橋性樹脂の全固形分量を100重量部に対して、ナノファイバーを好ましくは0.001~10重量部、より好ましくは0.5~5重量部、水系溶媒を好ましくは100~10000重量部、より好ましくは150~1000重量部、分散剤を好ましくは0.01~0.5重量部、より好ましくは0.025~0.25重量部配合すればよい。架橋剤の配合量は前述したとおりである。
【0066】
第1工程で得られるナノセルロース複合体は、水系溶媒中にナノファイバーと架橋性樹脂とがほぼ均一に分散し、時間を経過してもナノファイバーの沈降が非常に少ないものである。また、該複合体中には、少なくとも一部のナノファイバーの表面に分散剤がイオン結合もしくは吸着している場合がある。ナノファイバーと分散剤とのイオン結合体は、後述する成形後および架橋処理後にも残留している場合がある。また、該複合体に含まれるナノファイバーの平均繊維径は10~100nm程度、好ましくは10~40nm程度、より好ましくは15~25nm程度である。すなわち、第1工程を実施することにより、ナノファイバーの繊維径が実施前よりも実施後の方がさらに小さくなることがある。また、第1工程では一段の混合でナノファイバー複合体が得られるので、従来の二段工程に比べて、大幅な省力化(特に量産時の大幅な省力化)を達成できる。
【0067】
また、第1工程で得られるナノセルロース複合体のゼータ電位は、好ましくは-20~-50mV、より好ましくは-30~-45mVである。ゼータ電位が-20mVよりも高い場合は、不均一分散となりナノファイバーが沈降する場合がある。一方、ゼータ電位が-50mVを下回ると、ナノファイバーが切断され、十分な架橋ネットワーク構造が形成されない場合が生じる。本発明では、製造後のナノセルロース複合体のゼータ電位を測定し、必要に応じてゼータ電位の値を調整してもよい。該ナノセルロース複合体のゼータ電位は、例えば、分散剤の配合量や種類などにより調整できる。ゼータ電池の測定方法については後述する。
【0068】
〔第2工程〕
第2工程では、第1工程で得られたナノセルロース複合体に導電性無機充填剤を添加し、攪拌、混合する。導電性無機充填材の添加量は、前記架橋性樹脂1重量部に対して、1~50重量部の範囲で添加可能である。無機充填材は、好ましくは添加する前に充分に乾燥し、水分の影響を低減する。
第1工程で得られたナノセルロース複合体に導電性無機充填剤を所定量添加し、公知の自転公転式ミキサーを用いて室温にて充分に混合し、本発明による導電性性無機充填剤を含むナノセルロース複合体からなる塗工液とする。
【0069】
塗工に適した塗工液の粘度は、B型粘度計において60rpmによる測定で、1000~15000mPa・sが好ましい。この範囲外にある場合には、適宜水系溶媒による希釈または、カルボキシメチルセルロースを増粘材として加えて、粘度を調整することで厚みの均一な塗工膜を得ることができる。
【0070】
〔第3工程〕
第3工程では、上記第2工程で得た、導電性無機充填剤を含むナノセルロース複合体からなる塗工液を基材に塗工し、乾燥して架橋処理を行ない、塗工膜とする。塗工の方法としては、各種基材表面にフィルム状成形品を形成する樹脂コーティング法が一般的である。樹脂コーティング法では、例えば、ナノファイバー複合体又はナノファイバー架橋複合体を基材表面に塗布し、加熱乾燥することにより、フィルム状成形品が得られる。ここで、塗布方法としては特に限定されず、例えば、スピンコーター法、バーコーター法、スプレーコート法、ブラシやローラーによる塗布、ディッピング法、溶液キャスト法(キャスティング法)などの公知の方法が挙げられる。
導電性無機充填剤を含むナノセルロース複合体からなる塗工液を基材に塗工し、架橋処理することで、塗工膜の伸びと靭性、耐熱性が高く、さらに塗工基材との接着性に優れ、塗工された基材を曲げたり切断したりする機械加工において、塗工膜に割れや欠けのない導電性の塗工膜を得ることができる。該塗工膜に付与される機能は、導電性充填材の種類により得ることができ、たとえば、抗菌性、導電性、磁性、熱伝導性、遮音性、低摩擦性、耐摩耗性、電磁波吸収性、などが挙げられる。これらの特性を付与するための導電性充填材の種類は前述のとおりである。本発明では、水系溶媒を分散媒として用いているので、導電性重点材を含むナノファイバー複合体からなる塗膜にそのまま架橋処理を施しても、安全性が高いという利点がある。
【0071】
架橋処理の方法としては特に限定されないが、ナノファイバー複合体中に含まれる架橋剤を利用した化学的架橋法および物理的架橋法が適用可能であるが、塗工膜の場合は架橋プロセスの容易な化学架橋が好ましく用いられる。
【0072】
化学的架橋法の具体例としては、例えば、加熱による架橋などが挙げられる。加熱条件は、ナノファイバー複合体の成分組成、固形分濃度、架橋性樹脂および架橋剤の種類や配合量、設定される架橋度合い、得られるナノファイバー架橋複合体に設定される各物性の値などに応じて適宜選択されるが、通常は約30℃以上の温度下での長時間加熱により架橋が形成される。架橋に要する時間を短くして工程全体としての省力化を図り、また架橋後のナノセルロース複合体の各物性をさらに向上させるという観点から、加熱条件は、好ましくは30℃~220℃の温度下で1分以上、より好ましくは100℃~180℃の温度下で1~40分、さらに好ましくは125℃~140℃で1~20分(好ましくは5~10分)である。
【0073】
物理的架橋の具体例としては、例えば、電離放射線の照射による架橋などが挙げられる。電離放射線の照射による架橋は、制御が容易であるという利点がある。電離放射線としては特に限定されないが、電子線、γ線、X線、荷電粒子線、紫外線、中性子線等が挙げられる。これらの中でも、電離放射線を発生させる装置の入手容易性、架橋反応の制御の容易性、安全性等の観点から、紫外線、γ線、電子線などが好ましい。
【0074】
電離放射線の照射線量は、ナノファイバー複合体の成分組成、固形分濃度、架橋性樹脂および架橋剤の種類や配合量、設定される架橋度合い、得られるナノファイバー架橋複合体に設定される各物性の値などに応じて適宜選択できるが、好ましくは10kGy~1000kGy、より好ましくは10~50kGyである。照射線量が10kGy未満では、最終的に得られる成形品の架橋度が不足し、塗工膜の物性が低下する傾向がある。一方、照射欄量が1000kGyを超えると、架橋性樹脂の分子鎖の切断などが増大することにより、塗工膜の物性が低下する傾向がある。
【0075】
架橋の度合いは、架橋度として、通常20~98%、好ましくは60~98%である。架橋度が20%未満では、最終的に得られる塗工膜の機械的強度、基材との接着性、または耐熱性の向上を得られない場合がある。また、架橋度が98%を超えると、架橋構造が形成される領域以外での分子鎖の切断などが増大することにより、塗工膜の物性が低下する場合がある。
【0076】
架橋度は、例えば、ゲル分率(%)として求められる。これは、架橋後のナノセルロース複合体からなる成形体の重量を初期乾燥重量とし、次いで該成形体を水に浸漬した後の溶解残渣を定量を不溶解分重量として、両者の比からゲル分率(%)を求める。
【実施例
【0077】
以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。なお実施例中で用いた各成分、装置および繊維径、ゼータ電位の測定方法は下記のとおりである。
【0078】
[架橋性樹脂]
ポリアクリル酸 (商品名:ビスコメート NP-700、水溶性架橋性樹脂、昭和電工(株)製、固形分2重量%)
ポリビニルアルコール (商品名:ポバール PVA-205,(株)クラレ製)
水溶性エポキシ樹脂 (商品名:アデカレジン EM-0427WC、(株)アデカ製、固形分50重量%のエマルジョンタイプ)
水溶性フェノール樹脂 (商品名:WSR-SP82、小西化学工業(株)製、固形分30重量%のノボラックエマルジョン)
[セルロースナノファイバー]
未変性CNF(商品名:BiNFi-s、(株)スギノマシン製)を10重量%水分散液として用いた。
[水溶性分散剤]
ポリメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(商品名:リピジュアBL、日油(株)製)
[架橋剤]
両末端イソシアネート型ポリカルボジイミド(商品名:カルボジライトVS-02、多官能性樹脂、日清紡ケミカル(株)製)40重量%水溶液。以下「カルボジライト」と呼ぶことがある。)
[無機充填剤]
カーボンブラック (商品名:三菱カーボンブラック MA77 三菱ケミカル(株)製、 ファーネスブラック)
活性炭 (商品名:クラレコールGLC、(株)クラレ製)
【0079】
[予備混合機]
実験用攪拌装置 (商品名:トルネード PM-203、アズワン(株)製)
[高速撹拌型メディアレス分散機]
アペックスディスパーザーZERO(商品名、(株)広島メタル&マシナリー製)
[自転公転式ミキサー]
あわとり錬太郎 AR-250(商品名、(株)シンキー製)
【0080】
<繊維径>
実施例および比較例で得られたナノファイバー複合体を電界放出型電子顕微鏡(FE-SEM)で観察し、電子顕微鏡写真(50000倍)を撮影した。撮影した写真上において、写真を横切る任意の位置に、20本以上のナノファイバーと交差する2本の線を引き、線と交差する全てのナノファイバーり繊維径を測定し、得られた測定値(n=20以上)の算術平均値として平均繊維径(nm)を算出した。なお、繊維径の測定値に基づいて、繊維径分布の標準偏差およびナノファイバーの最大繊維径を求めることもできる。
【0081】
<ゼータ電位測定法>
実施例および比較例で得られたナノファイバー複合体1mlをディスポーザブルガラス試験管に入れ、精製水で希釈し、CNF濃度を0.01重量%に調整する。次いで、30分超音波処理後、下記のゼータ電位測定に供した。使用機器および測定条件は以下のとおりである。
測定機器:ゼータ電位、粒径測定システム(大塚電子(株)製)
測定条件:ゼータ電位用 標準セルSOP
測定温度:25.0℃
ゼータ電位換算式:Smolchowskiの式
溶媒:水(溶媒の屈折率・粘度・誘電率のパラメータは、大塚電子(株)製ELSZソフトの値をそのまま適用)
システム適合性:Latex262nm標準溶液(0.001%)で規格値の範囲を超えない。
【0082】
<ゲル化の有無>
酸素プラズマで親水化処理したガラス基板上に、実施例及び比較例で得られたナノファイバー分散液をバーコーター塗布し、自然乾燥し、100mm×200mm×厚さ5μmのコーティング膜を形成した。このコーティング膜を170℃で20分間加熱して化学架橋を行ない、架橋コーティング膜(コーティング膜の架橋体)を得た。得られた架橋コーティング膜の水への可溶分の有無からゲル化の有無を判定した。
【0083】
<ゲル分率>
架橋度としてゲル分率を求めた。実施例及び比較例での第一工程で得られたナノセルロース複合体をフッ素樹脂型(50×20×2mm深さ)に注型し、80℃×10時間の加熱乾燥して、さらに自然乾燥した後に、170℃で20分加熱することで化学的架橋処理した。この成形体を100℃で2時間乾燥した後にその重量を秤量し、初期乾燥重量(g)を求めた。初期乾燥重量を秤量した試料を常温の水に24時間浸漬した後、溶解残渣を定量ろ紙でろ取し、該残渣を100℃で2時間乾燥した後に秤量し、不溶解分重量(g)を求めた。ゲル分率は下記式から算出される。
ゲル分率(%)=[(不溶解分重量)/(初期乾燥重量)]×100
【0084】
<分散性(CNF分散性)及び分散安定性(CNF分散安定性)>
得られた樹脂組成物の水分散液について、分散性(CNF分散性)及び分散安定性(CNF分散安定性)を目視観察により調べた。
分散性(CNF分散性)とは、作製直後の樹脂組成物の水分散液における未変性CNF及び架橋性樹脂の分散性の目視評価結果であり、全体に均一に白濁し、白色の濃淡が生じていないもの(未変性CNFや水溶性の架橋性樹脂の分散ムラや凝集は見られないもの)を「○」、全体に白濁しているものの、部分的にでも白色の濃淡が生じているものを「×」と評価した。
【0085】
分散安定性(CNF分散安定性)とは、24時間以上静置した後の水分散液における未変性CNFや架橋性樹脂の分散性の目視評価結果であり、未変性CNFの沈降が生じないものを「○」、未変性CNFの沈殿が僅かでも生じるものを「×」と評価した。なお、水分散液は白濁しているものの、未変性CNFが沈殿すると、その部分の白色度合いが変化し、白色の濃淡として識別可能である。
【0086】
(実施例1)
以下、水溶液または水分散液として用いた成分の配合量を固形分量で示すが、もちろん水を含んでいる。
ポリアクリル酸20gに対し、架橋剤(カルボジライト)2g(ポリアクリル酸固形分に対し10重量%)、未変性CNF(BiNFi-s)1g、分散剤(リピジュアBL)0.05gを実験用卓上攪拌機で予備混合し、予備混合物を調製した。
【0087】
得られた予備混合物500mlを高速回転型メディアレス分散機(アペックスディスパーザーZERO)により、せん断部クリアランス1mm、ロータの回転周速45m/sに設定し、10分間の解繊処理を5回行ない、本発明の複合ナノセルロース複合体を水分散体を製造した。
【0088】
得られたナノセルロース複合体は白濁液状を呈し、未変性CNFやPVA樹脂の分散ムラや凝集は目視観察では認められなかった。また、実施例1のナノセルロース複合体を24時間以上静置しても未変性CNFの沈殿は観察されず、安定した水分散体であった。また、当該ナノセルロース複合体のゼータ電位-40.2mVであった。ゼータ電位の絶対値が大きいことから、未変性CNFがPVA樹脂中にほぼ均一に分散していることが確認された。当該複合体に含まれる未変性CNFの繊維径は20~50nmの範囲であり、平均繊維径は18nmであった。
【0089】
当該ナノセルロース複合体をフッ素樹脂型(50×20×2mm深さ)に注型し、80℃×10時間の加熱乾燥につtづいて自然乾燥した後に、170℃で20分加熱することで化学的架橋処理した。得られた成形体の水への可溶分の有無からゲル化の有無を判定し、さらに前記の方法によりゲル分率を求めた。
【0090】
上記ナノセルロース複合体に、導電性無機充填剤としてカーボンブラック(商品名:MA77、三菱化学(株)製、 ファーネスブラック)240gおよび活性炭(GLC)60gを添加し、自転公転ミキサーミキサー(商品名:あわとり練太郎AR-250、(株)シンキー製)にて混合してスラリーAを調製した。
【0091】
得られたスラリーAの粘度をB型粘度計を用いて、常温(25℃)において回転数6rpmにて測定した。塗工に適した粘度として1000~10000mPaの範囲にあるものを「○」、粘度が1000mPa以下ではあるが、塗工は可能であるものを「△」、粘度が低く塗工に適さないものを「×」として判定した。結果を表1に示す。
【0092】
前記のスラリーAを、酸素プラズマで親水化処理したアルミ板(80×50×厚さ0.5mm、冷間圧延品)表面を酸素プラズマで親水化処理した後、バーコーター(商品名:塗工機3 IMC-70F0-C、(株)井元製作所製)により、塗布速度1.5m/minで100×200mm×厚さ50μmのサイズで塗工し、自然乾燥による脱溶媒後に、170℃で20分加熱することで化学的架橋処理して、導電性塗工膜を作製した。
【0093】
上記で得た、塗工されたアルミ板(80×50mm)を大型カッターナイフで、20×50mmに切り分けた。この際の塗工膜の切断面を観察し、塗工膜に欠けや割れが生じたものを「×」、塗工膜に欠けや割れは生じていないが切断面にが平滑にならなかったものを「△」、切断面は平滑であったものを「○」と判定した。結果を表1に示す。
【0094】
さらに上記で作製した、塗工されたアルミ板を島津オートグラフ(AGX-Plus)を用いて、3点曲げ試験を行い(試験速度:1mm/min、曲げスパン40mm)、アルミ板を水平位置から15°曲げた位置における塗工膜の状態を観察した。
アルミ板が15°曲がった位置で、塗工膜がアルミ板からはがれたり、塗工膜にひび割れが生じたものを「×」、塗工膜にごく小さなひび割れは生じたが、塗工膜はアルミ板からはがれなかったものを「△」、塗工膜のはがれやひび割れが生じなかったものを「○」として評価した。結果を表1に示す。
【0095】
前記のスラリーAを、酸素プラズマで親水化処理したガラス基板上に、上記バーコーターにより、塗布速度速度1.5m/分で100×50mm×厚さ100μmのサイズに塗工し、自然乾燥による脱溶媒後に、170℃で20分加熱することで化学的架橋を施し、自然乾燥による脱水後に、170℃で20分加熱することで化学的架橋処理して、導電性塗工膜を作製した。
この塗工膜に2.7Vの直流電圧を印加し、得た抵抗値が0.9~1.0mΩであるものを「○」、1.0mΩ以上であるものを「×」として判定した。結果を表1に示す。
【0096】
(比較例1)
実施例1において、架橋剤を加えない以外は、実施例1と同様に操作し、ナノセルロース複合体ならびに同量の導電性無機充填剤を添加したスラリーBを調製して、塗工およびその架橋処理を行い、同様の評価を行った。結果を表1に示す。
また、得られた導電性無機充填剤を添加する前のナノセルロース複合体のゼータ電位は-38.5mVであり、未変性CNFなどの分散性は高いことが確認された。さらに当該ナノファイバー複合体は、12時間静置した後であっても未変性CNFの沈降は見られず、安定した分散状態であった。
【0097】
(比較例2)
実施例1において、架橋剤を配合しない以外は、実施例1同様に操作して、ナノセルロース複合体ならびに同量の導電性無機充填剤を添加したスラリーCを調製し、塗工およびその架橋処理を行い、同様の評価を行った。結果を表1に示す。
また、得られた導電性無機充填剤を添加する前のナノセルロース複合体のゼータ電位は-21.5mVであり、未変性CNFなどの分散性は不十分であることがわかった。さらに当該ナノファイバー複合体は、作製後に静置すると約1時間で沈降が始まり、12時間静置後は液量の約1/2のレベルにまで沈降が見られた。
【0098】
(比較例3)
実施例1において、未変性セルルオースナノファイバーならびに分散剤を添加しない以外は、実施例1と同様に操作して、無機充填剤を添加したスラリーCを調製して、塗工およびその架橋処理を行い、同様の評価を行った。結果を表1に示す。
ただし、得られた導電性無機充填剤を添加する前の複合体のゼータ電位測定不可能であった。

【0099】
【表1】
【0100】
<実施例の効果>
以下の評価は、組成の導電性無機充填剤を含む架橋性樹脂とCNFを含む塗工液を基盤に塗工し、架橋させた塗工膜の特性を比較したものであり、導電性塗工膜全般の特性を評価するものではない。すなわち、実施例1および比較例1~3において、組成の異なる導電性塗工膜の特性を比較し、さらに架橋剤の有無、分散剤の有無、未変性CNFの有無が導電性塗工膜の特性(加工時のひび割れ、はがれ、割れ、欠けの有無および導電性)に与える影響について調べた。
【0101】
表1から、未変性CNFおよび架橋性樹脂からなる未変性CNFについて分散剤を添加してメディアレス分散することで未変性CNFを良好な分散状態に保つと、導電性無機充填剤を添加した塗工液は、塗工後に架橋処理することで、塗工膜の伸びと靭性、耐熱性が高く、さらに塗工基材との接着性に優れ、塗工された基材を曲げたり切断したりする機械加工において、塗工膜に割れや欠けのない導電性の塗工膜を得ることができることがわかった。(実施例1)
【0102】
実施例1のうち、架橋処理しない比較例1では、実施例1と同等レベルの導電性を得ているが、機械加工時の塗工膜のひび割れ、はがれ、欠けのレベルは低下し、塗工膜の伸びおよび靭性が低下していることがわかる。
【0103】
比較例2では、未変性CNFに対して分散剤および架橋剤を添加しないと、得られた塗工膜は、伸びや靭性が失われ、塗工基材を機械加工する際に塗工膜の接着性そのものがが低下しており、未変性CNFを添加しない場合も同様に、塗工膜の接着性や、伸びおよび靭性の高さに起因する易機械加工性が発現していない。
【0104】
上記の塗工膜のオーツグラフによる評価は、常温で行ったものであるが、当該試験機に高温炉を設置して、85℃の高温雰囲気で行った評価でも、表1と同等の結果を得た。
これは、熱膨張係数が石英並みに低い未変性CNFが架橋性樹脂の補強繊維としての効果により、該塗工膜の熱膨張が抑えられたためと考えている。
【0105】
さらに、上記実施例、比較例の架橋性樹脂をポリアクリル酸(ビスコメート NP-700)に代えて、ポリビニルアルコール(ポバール PVA-205)、水溶性エポキシ樹脂(アデカレジン EM-0427WC)、又は水溶性フェノール樹脂(WSR-SP82)に代えて、実施例1、比較例1~3と同様に塗工膜を調製し、同様の評価を行ったところ、表1と同等の結果を得た。
【0106】
以上のように、未変性CNF、水溶性又は水分散性を有する架橋性成樹脂、ナノファイバーとイオン結合可能な分散剤、及び水系溶媒を、機械的解繊処理下に混合した後に導電性無機充填時を添加して作製した導電性塗工液を、アルミ板などの基材に塗工することで、基材の機械加工時に塗工膜の物理的欠陥(基材からのはがれ、塗工膜のわれ、欠け)を生じない導電性塗工液を得ることができ、本発明による導電性塗工液は、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタなどの電気化学キャパシタの正極材料として好適に使用することができる。