(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-29
(45)【発行日】2022-08-08
(54)【発明の名称】有機カルシウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01F 11/00 20060101AFI20220801BHJP
C09B 3/40 20060101ALI20220801BHJP
【FI】
C01F11/00 ZAB
C09B3/40
(21)【出願番号】P 2017197566
(22)【出願日】2017-10-11
【審査請求日】2020-07-31
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】301034072
【氏名又は名称】メモリアルネットワーク有限会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001564
【氏名又は名称】フェリシテ特許業務法人
(73)【特許権者】
【識別番号】519310171
【氏名又は名称】ケミテラス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 邦道
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-041990(JP,A)
【文献】特開2001-204433(JP,A)
【文献】特開2014-097917(JP,A)
【文献】特開平09-187776(JP,A)
【文献】特開平10-257850(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 11/00
B09B 3/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1段階において、貝殻、蟹ガラを含むカルシウム原料を気密室に投入し、投入が完了したら熱源部を作動開始し、気密室に対して初期段階における加熱動作として気密室内の温度を100℃~200℃に加熱し、また、
前記加熱の初期段階で気密室内に不活性ガスを導入し、それまで気密室内に存在していた空気及び水分を排出して、気密室内の気体をほぼ100%不活性ガスに置換して無酸素状態の雰囲気にするとともに
、前記100℃~200℃の加熱により気密室内及びカルシウム原料を完全乾燥状態にし、
第2段階において、気密室内を無酸素状態の雰囲気に保ったまま、更にヒーターを用いて完全乾燥状態になったカルシウム原料を加熱し、気密室内の温度を300~450℃まで順次上昇させカルシウム原料に含まれる成分の熱分解を行い、
第3段階において、ヒーターを停止して、気密室内に常温またはそれ以下の温度の不活性ガスを導入し低温の不活性ガスを注入し、同時に気密室内部の高温の不活性ガスを排出させて気密室の内部を50℃~100℃程度まで冷却し、
第4段階において、冷却動作により気密室内の温度がほぼ常温になった後、加熱処理後の有機カルシウムを気密室の外へ取り出す、
ことを特徴とする有機カルシウムの製造方法。
【請求項2】
前記第1段階における「貝殻、蟹ガラを含むカルシウム原料を気密室に投入し、投入が完了したら熱源部を作動開始し、気密室に対して初期段階における加熱動作として気密室内の温度を100℃~200℃に加熱する」動作は約30分間の動作であり、また、
前記第1段階における「前記加熱の初期段階で気密室内に不活性ガスを導入し、それまで気密室内に存在していた空気及び水分を排出して、気密室内の気体をほぼ100%不活性ガスに置換して無酸素状態の雰囲気にするとともに
、前記100℃~200℃の加熱により気密室内及びカルシウム原料を完全乾燥状態にする」動作は約50分間の動作であり、
前記第2段階における「気密室内を無酸素状態の雰囲気に保ったまま、更にヒーターを用いて完全乾燥状態になったカルシウム原料を加熱し、気密室内の温度を300~450℃まで順次上昇させカルシウム原料に含まれる成分の熱分解を行う」動作は約50分間の動作であり、
前記第3段階において、冷却動作は約120分の時間をかけて行われる、
ことを特徴とする請求項1記載の有機カルシウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、身体に吸収されやすく化学物性としては中性(非アルカリ)である有機カルシウムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年においては、社会的な高齢化に伴う骨粗しょう症、ダイエットによるカルシウム不足、病気によるカルシウム不足を補うために、カルシウム物質として乳酸カルシウムやリン酸カルシウム等が製造されている。しかしながら、このようなカルシウム不足を補うための乳酸カルシウムやリン酸カルシウム等を体内に摂取しても身体に吸収される量(割合)は微小であり大半は対外に排出されてしまうということは多くの学者、医師がしてきしている。
【0003】
身体が吸収するカルシウムとしては、有機質である牛乳や小魚などが知られているがこれらを焼成すると熱による結晶化が生じ、身体が吸収しないカルシウムになる。そして、これらの材質を例えばジェットミルのような物質粉砕機で粉砕すると、結晶化したままで微細になるだけで、身体に吸収されない点では変わりない。よって、身体がカルシウムを吸収できるようにするためには有機質性を有するカルシウムを実現する必要がある。
【0004】
このような必要性が認められながら、カルシウムは、例えば再表2011-155635号公報(特許文献1)に開示されているように、その酸化物が工業的に用いられることに重点が置かれるか、或いは工業的に利用できるように、各種カルシウム化合物を製造することに注目が集まっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
他方において、人体、或いは動物の体に良好に作用するカルシウムの実現という点については注目されることはなかった。そして、人体などにおいてカルシウムが必要であれば、上述したように牛乳や小魚などを摂取するか、或いはカルシウム成分を含むものを粉末状や液状にしたもの(サプリメント)を摂取するという方法が一般的であり、それ以上の改変は行われなかった。
【0007】
本発明は上記従来の状況に鑑みてなされたもので、その目的は、人体や動物の体、より広範には生命体に、良好に、且つより直接的に作用する有機カルシウムの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するため、有機質から成るカルシウム材質(原料)を、酸素、空気に接触させないように、不活性ガスである窒素、アルゴン等の不活性ガスの雰囲気下にて熱分解し有機カルシウムを実現する。「有機質から成るカルシウム材質」としては、貝殻、蟹ガラ、動物の骨、歯、牙など、一般的に見て「カルシウム材質(食材)」と呼ばれているものを指し、石灰岩やシラスのような自然物や鉱物は含まない。
【0009】
有機カルシウムの製造方法としては、第1段階において、貝殻、蟹ガラを含むカルシウム原料を気密室に投入し、投入が完了したら熱源部を作動開始し、気密室に対して初期段階における加熱動作として気密室内の温度を100℃~200℃に加熱し、また、前記加熱の初期段階で気密室内に不活性ガスを導入し、それまで気密室内に存在していた空気及び水分を排出して、気密室内の気体をほぼ100%不活性ガスに置換して無酸素状態の雰囲気にするとともに、前記100℃~200℃の加熱により気密室内及びカルシウム原料を完全乾燥状態にし、第2段階において、気密室内を無酸素状態の雰囲気に保ったまま、更にヒーターを用いて完全乾燥状態になったカルシウム原料を加熱し、気密室内の温度を300~450℃まで順次上昇させカルシウム原料に含まれる成分の熱分解を行う。続く第3段階において、ヒーターを停止して、気密室内に常温またはそれ以下の温度の不活性ガスを導入し低温の不活性ガスを注入し、同時に気密室内部の高温の不活性ガスを排出させて気密室の内部を50℃~100℃程度まで冷却し、第4段階において、冷却動作により気密室内の温度がほぼ常温になった後、加熱処理後の有機カルシウムを気密室の外へ取り出す、という手順から成る。
【0010】
なお、前記第1段階における「貝殻、蟹ガラを含むカルシウム原料を気密室に投入し、投入が完了したら熱源部を作動開始し、気密室に対して初期段階における加熱動作として気密室内の温度を100℃~200℃に加熱する」動作は約30分間の動作であり、また、前記第1段階における「前記加熱の初期段階で気密室内に不活性ガスを導入し、それまで気密室内に存在していた空気及び水分を排出して、気密室内の気体をほぼ100%不活性ガスに置換して無酸素状態の雰囲気にするとともにカルシウム原料を完全乾燥状態にする」動作は約50分間の動作であり、前記第2段階における「気密室内を無酸素状態の雰囲気に保ったまま、更にヒーターを用いて完全乾燥状態になったカルシウム原料を加熱し、気密室内の温度を300~450℃まで順次上昇させカルシウム原料に含まれる成分の熱分解を行う」動作は約50分間の動作であり、また、前記第3段階において、冷却動作は約120分の時間をかけて行われることがカルシウム原料から有機カルシウムを実現するのに好ましい処理動作である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法で生成された有機カルシウムは、身体に吸収されやすく化学物性としては中性(非アルカリ)である。そして、人体や動物の体、より広範には生命体に、良好に、且つより直接的に作用する。また、この有機カルシウムは化学反応性に富んだ活性化カルシウム材料としての性質(特性)を有しており、様々な性質を持ち、種々の機能を発揮することができる。よって、農業や人間の健康増進、さらには医療の分野において利用可能性がある。また、工業的にも化学物質や工業材料等の製造においてこの有機カルシウムは化学反応性に富んだ活性化カルシウム材料としての性質(特性)を有しており、様々な性質を持ち、種々の機能を発揮することができる。
【0012】
さらに、本発明の有機カルシウムは、粒子性、或いは極微粒子性を有しており、さらに細かいばかりか化学反応性に富むことから各種の物質と化合物を作ったり、化合物の生成を支援することが可能である。またカルシウムであることから、人体に対しても毒性を有しないため、薬品や健康材料、美容剤など各種の優れた用途が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る有機カルシウムの製造方法における好ましい基本装置の形態を概略的に示す断面図である。
【
図2】本発明の一実施の形態として示すカルシウム原料を無酸素の雰囲気の下で加熱する手順を説明する加熱処理説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を実施するための形態について添付の図面を参照して説明する。
図1は本発明に係る有機カルシウムの製造方法を実施するための製造装置の一例を示すものである。この製造装置は空気の入らない気密室1(加熱室)と窒素やアルゴン等の不活性ガス(窒素で代表する)注入開閉弁2と熱分解ガス排出開閉弁3を持った管路を備え、気密室1の内部に所定の温度まで上昇させるための熱源部としてのヒーター4が組み込まれている。製造装置にはさらに、気密室1と同じ雰囲気(窒素雰囲気)を持つ製造された有機カルシウム取り出し用のカートリッジ5と、カルシウム原料を載置する支持台6とが備えられている。カートリッジ5は気密室1に着脱可能になっている。なお、
図1において、7は気密室1の出入り口に設けられたシャッターであり、閉鎖されたときは気密室1を気密或いは窒素雰囲気に保つ。8はカートリッジ5に設けられた蓋或いは開閉扉であり、閉鎖されたときはカートリッジ5を気密或いは窒素雰囲気に保つ。
【0015】
次に本発明に係る有機カルシウムの製造動作(工程)について説明する。この明細書においては、加熱加工処理完了前の原料の段階と、加熱加工処理完了後の製品の段階とにおけるカルシウムを区別するために、前者を「カルシウム原料」とし、後者を「有機カルシウム」と表記する。有機カルシウムを製造するには最初に支持台6にカルシウム原料(貝殻、蟹ガラ、動物の骨、歯、牙など、)を入れ、ヒーター4が組み込まれている気密室1に装填する。次に窒素注入開閉弁2より窒素を注入し、同時に熱分解ガス排出開閉弁3より内部の空気を排出し気密室1とカートリッジ5の内部を窒素雰囲気にし、ヒーター4により加熱する。この製造工程について順を追って説明する。
【0016】
図2は、本発明の有機カルシウムの製造方法を実現するための手順を説明する加熱処理説明図である。有機カルシウムの製造に当たっての各工程処理は次の手順で行われる。
【0017】
第1段階:
図2中のブロック11で示すように、カルシウム原料を熱気密室1に投入する。投入が完了したら熱源部を作動開始し、気密室1を常温状態からヒーター4により加熱開始する。このカルシウム原料の投入と加熱動作の初期段階までで約30分間の動作であり、この間での気密室1内の温度上昇は100℃から200℃であるが、これは一応の目安であり、比較的ゆっくりした動作で低温領域に留まるということで上記時間および温度を表す数値は限定されない。これと同時に気密室1内の空気(酸素およびその他のガス)及び水分を排出する一方で、窒素20やアルゴン21などの不活性ガスを導入し、それまで気密室1内に存在していた空気22を不活性ガスに置換する。このガス置換処理までは約50分間の動作であり、この処理動作により気密室1内の気体はほぼ100%不活性ガスに置換され無酸素状態の雰囲気になるとともに、カルシウム原料は完全乾燥状態になる。
【0018】
第2段階:
図2中のブロック12で示すように、気密室1内を無酸素状態の雰囲気に保ったまま、更にヒーター4を用いて完全乾燥状態になったカルシウム原料を加熱し、温度を300~450℃まで順次上昇させカルシウム原料に含まれる成分の熱分解を行う。この300~450℃の温度はカルシウム原料を焼成するときの温度よりもはるかに低い中途の温度であるが、本発明では、このレベルの温度までの上昇に加熱動作をコントロールし、それよりも高い温度までは上げないことが重要な事柄である。この加熱動作は約120分位の時間をかけて行われる。この加熱動作の時間(120分位)は一応の目安であり、比較的ゆっくりした加熱動作であるということを表したもので上記時間を表す数値に限定されない。
【0019】
第3段階:
図2中のブロック13で示すように、ヒーター4を停止して、窒素注入開閉弁2より低温の窒素を注入し、同時に熱分解ガス排出開閉弁3より内部の高温の窒素ガスを排出させて気密室1とカートリッジ5の内部を50℃~100℃程度まで冷却する。この冷却動作は約120分位の時間をかけて行われ、気密室1内の温度がほぼ常温になるまで行われる。この冷却動作の時間(120分位)は一応の目安であり、比較的ゆっくりした冷却動作であるということを表したもので上記時間を表す数値に限定されない。
【0020】
第4段階:
図2中のブロック14で示すように、気密室1とカートリッジ5の内部が50℃~100℃程度まで冷却された後、上述の加熱処理によって得られた有機カルシウムを台6とともに気密室1からカートリッジ5へ移動させ、カートリッジ5の蓋8を閉鎖して、このカートリッジ5の内部を窒素雰囲気に保ったまま気密室1から離脱させる。気密室1についても、シャッター7を閉鎖して、次の動作に備える。
【0021】
有機カルシウムは加熱処理によって活性化したカルシウム材料としての性質(特性)を有しており、様々な性質を呈し、種々の機能を発揮する。
【0022】
第5段階:
図2中のブロック15で示すように、気密室1の外へ取り出された有機カルシウムは、アルカリの物性を持たない、見た目は固体物質(粉末)である。また、有機カルシウムの水溶液はPH7~PH8という中性の水素イオン濃度を呈する。またこの有機カルシウムは、上述のように見た目は固体物質(粉末)であるが、結晶構造による固体物質ではなく、カルシウム原子が単体或いはカルシウム原子が2乃至10個程度の鎖状に結合した状態の極微粒子からなり、この極微粒子が原子間引力により互いに不規則に集合した非結晶な構造を有する。さらに有機カルシウムは上記各工程を終了した後、カルシウム材料として使用能力を最大限に発揮するため、カートリッジ5はカルシウムを酸化させることのない窒素雰囲気を保ったまま密閉し保管する必要がある。カートリッジ5に保管された有機カルシウムは空気に触れることがないので、酸素や他の物質と化合しない。
【0023】
そして、酸素や他の物質と化合しない有機カルシウムは必要に応じて粉砕されたりして、粒子、或いは極微粒子となる。上記粉砕動作は、例えばポールミルなどの粉砕装置を使用して行われる。有機カルシウムの粉砕は、当該有機カルシウムが得られた後ならどの製造工程において行ってもよいが、例えばカートリッジ6に密封状態で収容する前の工程で気密室1の中で450℃以下の不活性雰囲気において極微粒径に粉砕することができる。或いは50℃~100℃程度まで冷却した後に気密室1の中で不活性雰囲気において極微粒径に粉砕してもよい。さらに、上記冷却後、カートリッジ6に密封状態で収容して気密室1から搬出及び運搬し、ポールミルにより粉砕加工してもよい。
図2の第5段階ブロック15にはこのときの動作状態が示されている。上記有機カルシウムは酸素や他の物質と化合していないため化学反応性に富む。また有機カルシウムを水に混入したときはPH7~PH8の中性を示す。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、貝殻、蟹ガラ等のカルシウム原料を、無酸素の雰囲気の下でカルシウムの焼成温度よりもはるかに低い温度まで順次加熱し、有機カルシウムを製造する。この有機カルシウムはアルカリの物性を持たない固体物質(粉末)で、しかもその水溶液はPH7~PH8という中性の水素イオン濃度を呈する。また、この有機カルシウムは化学反応性に富んだ活性化カルシウム材料としての性質(特性)を有しており、様々な性質を持ち、種々の機能を発揮することができ、有用である。
【符号の説明】
【0025】
1 気密室
2 窒素注入開閉弁
3 熱分解ガス排出開閉弁
4 管路
5 カートリッジ
6 支持台
7 シャッター
8 蓋(開閉扉)
20 窒素
21 アルゴン
22 空気