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  • 特許-加圧式液体吐出具 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-29
(45)【発行日】2022-08-08
(54)【発明の名称】加圧式液体吐出具
(51)【国際特許分類】
   B43K 7/035 20060101AFI20220801BHJP
   B43K 24/08 20060101ALI20220801BHJP
【FI】
B43K7/035
B43K24/08
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018124737
(22)【出願日】2018-06-29
(65)【公開番号】P2020001331
(43)【公開日】2020-01-09
【審査請求日】2021-04-08
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】梶原 巧
【審査官】稲荷 宗良
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-280119(JP,A)
【文献】特開2004-130679(JP,A)
【文献】特開2010-17992(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 7/035
B43K 24/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端チップから吐出具本体の内部に収容した液体を吐出させる加圧式液体吐出具であって、
前記吐出具本体の内方に、前記液体を収容する液体収容管を配設し、
前記液体収容管の外方に、気体収容管を配設し、
前記気体収容管の前方に、先口を着脱可能に装着し、
前記液体収容管の前方に、鍔部を設け、
前記先口と、前記液体収容管とが、前記鍔部を挟持して前記気体収容管の前方を密封し、
前記液体収容管の前方に、前記先端チップを配し、
前記液体収容管の外方に、該液体収容管に収容された液体の後方に位置した後方空間と連通する気体収容部を設け、
前記気体収容管の内方に、前記液体収容管を前後動不能に収容し、
前記吐出具本体の内方に、前記気体収容管及び液体収容管を前後動可能に収容し、
前記気体収容管の後方に、当該気体収容管を押動して前記先端チップを前記吐出具本体の前端開口より突出させた状態で維持する押動体を設け、
前記液体収容管の後方、且つ、前記押動体の内方に、前記液体収容管内の空気と、前記気体収容部内の空気と、を同時に圧縮した状態で維持する加圧機構を設け、前記押動体の押動により前記加圧機構を作動させることを特徴とした加圧式液体吐出具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は加圧式液体吐出具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ボールペンやマーカー等の筆記具やペン型の修正液や液体糊等の塗布具のように、本体の前方に設けた先端孔から液体を流出させるものは広く知られており、加圧により液体の流出量を増加できる構造も知られている。
例えば筆記具では、特許文献1(特開2000-335173号公報)のように、インキを収容したレフィールの後方に加圧機構を設けて、ノック体の押圧操作に連動させてインキタンク内を加圧する構造を用いて、ペン先からのインキの流出量を多くして、筆跡を太くあるいは濃くするボールペンが考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-335173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記特許文献1のボールペンは、インキを収容してあるレフィル(液体収容管)の後方空間の空気に対してのみ、加圧機構による加圧が行える構造であることから、レフィル内のインキ(液体)が未使用で当該レフィルの後方空間の空気量が少ない時の圧縮力に比べて、インキが減って当該レフィルの後方空間の空気が多くなった時の圧縮力は小さくなるため、結果、レフィルの後方空間の空気が圧縮され易いボールペンの使用開始時にはインキが多く吐出され、インキが消費されレフィルの後方空間の空気が圧縮され難くなった時にはインキの吐出が減少することになり、インキの残量に当該インキの吐出量が影響を受け易い構造である。
【0005】
本発明の目的は、加圧力が液体収容管内の液体の残量変化による影響を受け難い構造の加圧式液体吐出具を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
「1.先端チップから吐出具本体の内部に収容した液体を吐出させる加圧式液体吐出具であって、
前記吐出具本体の内方に、前記液体を収容する液体収容管を配設し、
前記液体収容管の外方に、気体収容管を配設し、
前記気体収容管の前方に、先口を着脱可能に装着し、
前記液体収容管の前方に、鍔部を設け、
前記先口と、前記液体収容管とが、前記鍔部を挟持して前記気体収容管の前方を密封し、
前記液体収容管の前方に、前記先端チップを配し、
前記液体収容管の外方に、該液体収容管に収容された液体の後方に位置した後方空間と連通する気体収容部を設け、
前記気体収容管の内方に、前記液体収容管を前後動不能に収容し、
前記吐出具本体の内方に、前記気体収容管及び液体収容管を前後動可能に収容し、
前記気体収容管の後方に、当該気体収容管を押動して前記先端チップを前記吐出具本体の前端開口より突出させた状態で維持する押動体を設け、
前記液体収容管の後方、且つ、前記押動体の内方に、前記液体収容管内の空気と、前記気体収容部内の空気と、を同時に圧縮した状態で維持する加圧機構を設け、前記押動体の押動により前記加圧機構を作動させることを特徴とした加圧式液体吐出具。」である。
【0007】
本発明の加圧式液体吐出具は、液体収容管内の空気と気体収容部内の空気とを大気圧より高い気圧となるよう加圧することで、液体が吐出され易くなり、その加圧する程度は液体の粘度などの特性や先端チップの構造により適宜設定すればよい。
大気圧を1000hPaとした場合、例えば粘度が低い筆記具用インキ(一例として20℃の環境下における粘度が1mPa・s~2000mPa・sの筆記具用インキ)では、前記密閉された空間の空気の気圧を前記大気圧である1000hPaを越え1500hPaの範囲となる加圧状態にすることで筆記具用インキを吐出し易くすることができるようになり、例えば粘度が高い液体(一例として20℃の環境下における粘度が3000mPa・s~50000mPa・sの筆記具用インキ)では、前記密閉された空間の空気の気圧を1100hPa~5000hPaの範囲となる加圧状態にすることで筆記用インキを吐出し易くすることができるようになる。しかしながら加圧する数値は特に限定されるものではなく、前述の通り液体の粘度などの特性や先端チップの構造により適宜設定すればよい。
【0008】
本発明構造における加圧式液体吐出具は、液体収容管内の空気と気体収容部内の空気とを同時に加圧し、大きな容積の空気を加圧できることから、液体収容管内の液体が減少し、液体収容管内の空気が増加しても、加圧力の変化が生じ難く、結果、吐出量が安定する。圧縮できる空気の容積を大きくすることから、低い加圧力で長く液体を加圧することができ、一度の加圧で長く吐出を行う必要がある筆記具で好適に用いることができ、特に加圧力が小さくても吐出がし易くなる低粘度のインキを用いるボールペンで好適に用いることができる。
尚、気体収容部に収容される空気の容積を空気Aとし、未使用状態で液体収容管に収容される液体の容積を液体Bとし、液体の後方に配置された空気の容積を空気Cとした場合、空気Aと液体Bと空気Cとの和を、空気Aと空気Cとの和に対して1.5倍以下とすることが好ましい。これは液体Bの減少に伴う加圧力の低下を減少させるためであり、特に1100hPa未満の低い加圧量が好ましい低粘度の液体を用いる加圧式液体吐出具において、液体を使用していない状態から液体が僅かとなった状態に至るまで、好適な吐出量を維持することが可能となる。
また、液体収容管に収容される液体Bが消費されることで、空気Cが増加して空気C’となり、液体が僅かとなった状態では、空気C’は空気Cと液体Bとの和となる。
空気Aの容積または空気Cの容積を大きく設定することで、液体Bの減少に伴う加圧力の低下を減少させることができるが、液体Bの後方に位置する空気Cの容積を大きく設定するためには、吐出具本体の全長を長くする必要があることから、全長が短くコンパクトな加圧式液体吐出具を得るためには、液体収容管の外方に位置する気体収容部の空気Aの容積を大きく設定することが好ましい。気体収容部を大きくするには、吐出具本体内方のスペースが利用できる。
【0009】
また、気体収容管の内方に、液体収容管を前後動不能に収容し、吐出具本体の内方に、気体収容管及び液体収容管を前後動可能に収容し、気体収容管の後方に、当該気体収容管を押動して先端チップを吐出具本体の前端開口より突出させた状態で維持する押動体を設け、押動体の内方に、加圧機構を設け、押動体の押動により加圧機構を作動させる構造とすることで、先端チップを突出させるために押動体を押動する動作に伴って加圧が行えるので操作性に優れる。
この場合、先端チップの内部と外部との連通状態を、コイルスプリングなどの弾発力で開閉可能な弁機構を設け、先端チップを紙面等に押し付けていない状態では、先端チップから液体が吐出しないようにすることで、粘度が低い液体を用いる場合でも、押動体を押動して加圧しただけでは液体が吐出しないようにすることが可能となる。
【0010】
また、気体収容管の前方に、先口を着脱可能に装着し、液体収容管の前方に、鍔部を設け、先口と、液体収容管とが、鍔部を挟持して気体収容管の前方を密封する構造とすることで、液体収容管の内部に収容された液体が無くなった場合に、気体収容管から先口を取り外して、液体が充填された液体収容管に交換することができる。
【0011】
加圧式吐出具を筆記具とする場合、先端チップは、ボールペンチップやフェルトチップあるいは筆先やペン芯を備えた万年筆のペン体などがあげられ、塗布具の場合には、樹脂チップやスポンジなどがあげられる。先端チップは、収容管内の液体を外部に吐出させる最終的な経路になっていることから、液体流路の大きさや弁機構の有無などが、収容管に収容された液体の後端に接する空気の加圧状態に関係する。例えば液体流路が大きければ大気圧より少し高く加圧するだけでも液体が吐出し易くなる。先端チップに弁機構を設けることにより、液体の後端に接する空間の空気を大きく加圧した場合でも、意図せずに液体が吐出してしまうことを防止できる。
【0012】
液体は、液体収容室に収容できるものであれば特に限定されるものではなく、筆記用インキや修正液、あるいは液状糊や化粧液など、液体吐出具の用途に応じて適宜選定すればよい。筆記用インキにおいては、油性インキや水性インキなど特に限定されず、剪断減粘性を有するインキを使用することもできる。
また、熱変色材料を含有したマイクロカプセル顔料を着色剤として用いた熱変色性インキは、カプセル内に色材を含有することから、一般的に筆跡濃度を高くし難い傾向にあるが、本発明構造の加圧式液体吐出具を用いることで、加圧によるインキ流出量の増加で筆跡濃度を高くすることが可能となる。
尚、マイクロカプセル顔料を含有した熱変色性インキの筆跡濃度を高くする方法としては、着色剤となるマイクロカプセル顔料の量を多くする場合や、マイクロカプセル顔料の粒径を大きくする場合もあるが、前記マイクロカプセル顔料の量を多くした場合にはインキの粘度が高くなって流出し難くなり、前記マイクロカプセル顔料の粒径を大きくした場合には当該顔料がインキ流路を通り難くなり、インキの流出がし難くなる虞がある。
しかしながら、この様なインキでも、本発明構造の加圧式液体吐出具は、インキを加圧することで強制的に当該インキを吐出させることができることから使用可能である。
また、液中に酸化チタンや光輝性顔料などの比重が比較的大きい固形分を含み、その固形分が液中で沈降しないように静置時の粘度を高くしたインキでも、本発明構造の加圧式液体吐出具は、前記マイクロカプセル顔料を含有した熱変色性インキと同様に、インキを加圧することで強制的に当該インキを吐出させることができる。
また、修正液や液体糊のように、乾燥した液体が先端チップに付着してしまうような場合でも、液体を加圧して吐出し易くすることができる。
この様に本発明の加圧式液体吐出具は様々な液体の吐出具として適した構造である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、加圧力が液体収容管内の液体の残量変化による影響を受け難い構造の加圧式液体吐出具を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態のボールペンの縦断面図で、先端チップを没入させた状態の図である。
図2】本実施形態のボールペンの縦断面図で、先端チップを突出させた状態の図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、図面を参照しながら説明を行うが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。本実施形態では、加圧式液体吐出具として、筆記具であるボールペンについて説明を行うが、本発明構造の加圧式液体吐出具は、マーカーや万年筆などの筆記具や、修正ペンや液体糊のような塗布具、あるいは化粧具に採用することが可能である。
本実施形態においては、先端チップがある方を前方と表現し、その反対側を後方と表現する。説明を分かり易くするために、図面中の同様の部材、同様の部分については同じ符号を付してある。
【0016】
図1に示すように、本実施形態のボールペン1は、軸筒2(吐出具本体)を、前軸3と該前軸3に螺合した後軸4とで構成してある。軸筒2の側面には、クリップ5を装着してある。
クリップ5は、後軸4の側面に突設した突部4aに回動可能に軸支されており、クリップ5の後部と後軸4の後部との間に配設したコイルバネ6で、クリップ5の内面に形成した突起5aが、後軸4の側面に当接するよう弾発してある。
【0017】
軸筒2の内方には、インキ7を収容した液体収容管8を収容し、液体収容管8の前方に配した先端チップ8aが、前軸3の前方に設けた前端開口3aから突出される。液体収容管8の内方には、前記インキ7が収容され、当該インキ7の後方には後方空間8bが形成され、当該後方空間部内に空気K1が収容される。
液体収容管8の外方には、気体収容管9を配設してあり、液体収容管8の前方に設けたエラストマー製の鍔部材8cを、気体収容管9の前端部と、当該気体収容管9に螺合される先口10の内段10aとで挟持してある。これにより気体収容管9の前方が密封され空気の流出入を防ぐことができる。
また、気体収容管9の後方には、ピストン部材11の前方部が挿着される。ピストン部材11は、側面に形成したフランジ11aが、気体収容管9の後端に当接するまで挿着され、ピストン部材11に形成した凹部11bへ係止されたエラストマー製のOリング12が、気体収容管9の内面に当接される。これにより気体収容管9の後方が密封され空気の流出入を防ぐことができる。
【0018】
ピストン部材11は、前方開口11cを有しており、液体収容管9の後部を挿着してある。前方開口11cの内方には、溝部11dを形成してある。
液体収容管8の外面と気体収容管9の内面との間には気体収容部9aが形成され、空気K2が収容される。
ピストン部材11に形成された前記溝部11dは、液体収容管8内の空気K1と、気体収容部9a内の空気K2とを連通させる。本実施形態では、溝部11dを、ピストン部材11の内底面11eと内側面11fとが連通するよう形成され、軸心に対して放射状に複数設けてある。したがって、液体収容管8が長く形成され、内底面11eに当接してしまう場合でも、液体収容管8内の空気K1と気体収容部9a内の空気K2とを、溝部11dにより確実に連通させることができる。
【0019】
後軸4の後端開口4bからは、後軸4内に配設した押動体13の押動部13aを突出してある。押動体13は前方開口13bを有し、ピストン部材11の前方に形成された大径部11gが挿通される。ピストン部材11の後方には小径部11hが形成され、筒状のシリンダ部材14に挿通される。
ピストン部材11の小径部11hに形成した凹部11iへ係止されたエラストマー製のOリング15は、シリンダ部材14の内面に当接される。これによりピストン部材11とシリンダ部材14との間における空気の流出入を防ぐことができる。
押動体13の内部後方には、半球状の弁部16aを有するエラストマー製の弁体16が挿着される。弁体16は、外周に形成した円環部16bを、押動体13の内面に形成した縦リブ13cの前端に当接させ、後方への移動が規制される。
図1に示すように、先端チップ8aが軸筒2内に没入した状態では、シリンダ部材14の後方に形成した截頭錐体状で貫通孔を有する突部14aが、弁体16の弁部16aから離間しており、押動体13とシリンダ部材14との隙間、及びピストン部材11と押動体13との隙間を通じて、シリンダ部材14内の空気K3と、ピストン部材11内の空気K4と、液体収容管8内の空気K1と、気体収容部9a内の空気K2と、が外気と連通して大気圧となる。
【0020】
軸筒2の内方には、コイルバネ17が収容されており、その前端を前軸3の内段3bに当接させ、その後端を気体収容管9の外段9bに当接させ、気体収容管9と当該気体収容管9と一体となったピストン部材11とが常時後方へ弾発される。気体収容管9は、外方に突出するよう形成した鍔部9cが、後軸4の内面に形成した段部4dに当接することで、コイルバネ17の弾発力による後退が規制される。
押動体13の内方にはコイルバネ18が収容されており、その前端をピストン部材11の外段11jに当接させ、その後端を押動体13の前部内段13eに当接させ、ピストン部材11に対して押動体13が常時後方へ弾発される。押動体13は、コイルバネ18に弾発されることにより、後軸4の後端開口4bから突出する。
本実施形態では、コイルバネ17は、初期バネ力が3.0Nで配設されており、コイルバネ18は、初期バネ力が1.8Nで配設されている。
【0021】
次に、図1及び図2を用いて、ボールペン1の先端チップ8aを突出させ、筆記可能な状態にするための操作方法について説明を行う。
本実施形態のボールペン1は、押動体13の押動部13aを押動することで、先端チップ8aを前端開口3aから突出させ、クリップ5の突起5aが、押動体13の側面に形成した膨出部13dに係止されることで、前記先端チップ8aの突出状態が維持される。前記膨出部13dは、後軸4の側面に軸線方向daに沿って形成された窓部4cへ、前後動可能に挿通してある。
【0022】
押動体13を前方へ押動した際、まず初めにシリンダ部材14の突部14aに弁体16の弁部16aが当接し、次いで押動体13に形成された後部内段13fがシリンダ部材14に形成した外段14bに当接し、コイルバネ17より初期バネ力が低いコイルバネ18を圧縮しながら、シリンダ部材14が前進される。この状態から、さらに押動体13を前進させることで、コイルバネ17で後方へ弾発されたピストン部材11に対して、シリンダ部材14が前進される。この際、シリンダ部材14の突部14aは、弁体16の弁部16aに当接して密封され、Oリング15でシリンダ部材14とピストン部材11との密封状態が維持されたまま該シリンダ部材14が前進することで、当該シリンダ部材14内の空気K3が圧縮されることとなる。この時、液体収容管8内の空気K1と、気体収容部9a内の空気K2と、シリンダ部材14内の空気K3と、ピストン部材11内の空気K4と、が連通していることから、全ての空気が圧縮される。
本実施形態では、液体収容管8の後方のピストン部材11とシリンダ部材14とOリング15とで加圧機構が構成される。
【0023】
さらに押動体13を押動し続けると、シリンダ部材14の前端が、ピストン部材11の大径部11gの後壁11kに当接することで、ピストン部材11に対するシリンダ部材14の相対的な前進が規制され、さらなる空気の圧縮が止まる。
また、気体収容管9は、シリンダ部材14及びピストン部材11を介して前進され、押動体13の膨出部13dが、後軸4の窓部4cの前端縁4eに当接されるまで前進する。この際、コイルバネ6を圧縮しながらクリップ5の突起5aが押動体13の膨出部13dを乗り越え、コイルバネ6の弾発力で突起5aが、膨出部13dに係止されることで、先端チップ8aが前端開口3aから突出した状態で維持される。
したがって、ボールペン1が筆記可能な状態にあるとき、つまり先端チップ8aが前端開口3aから突出して維持されたときは、インキ7が加圧された状態で維持される。
【0024】
本実施形態のボールペン1は、大気圧が1000hPaのときに、液体収容管8内のインキ7を未使用な状態で押動体3を押動した場合には、空気K1、空気K2、空気K3、空気K4の気圧を1026hPaに加圧することができ、液体収容管8内のインキ7が僅かな状態で押動体3を押動した場合には、空気K1、空気K2、空気K3、空気K4の気圧を1023hPaに加圧することができる。
【0025】
ボールペン1は、直列に配置した液体収容管8内の空気K1と、ピストン部材11内の空気K4と、シリンダ部材14内の空気K3とを合計した容積が、インキ7が未使用な状態で255mmであり、インキ7が僅かとなった状態で463mmであり、インキ7の容積208mmが消費された分だけ空気K1が増加する。これに対し液体収容管8の外方に配置した気体収容部9a内の空気K2の容積は、1657mmと常に一定の容積となる。
本実施形態では、気体収容部9aに収容される空気K2の容積1657mmと、未使用状態で液体収容管8に収容される液体の容積208mmと、液体の後方に配置された空気K1の容積31mmと、空気K3の容積184mmと、空気K4の容積40mmとの和が、空気K2の容積1657mmと、液体の後方に配置された空気K1の容積31mmと、空気K3の容積184mmと、空気K4の容積40mmとの和の1.109倍となっており、その差が少ないことから、インキ7が消費された場合でも加圧力の低下を減少させることができ、安定した吐出量を維持することができる。
【0026】
インキ7のインキ配合は、感温変色性色彩記憶性のマイクロカプセル顔料17部(予め-23℃以下に冷却して黒色に発色させたもの)を、キサンタンガム(剪断減粘性付与剤)0.5部、尿素10.0部、グリセリン10部、燐酸エステル系界面活性剤0.6部、変性シリコーン系消泡剤0.1部、防黴剤0.2部、水61.6部からなる水性インキビヒクルに均一に分散させて剪断減粘性を付与した熱変色性インキとしてある。インキ7による筆跡は、室温(25℃)では黒色を呈しており、摩擦体を用いて筆跡を擦過すると、該筆跡は消色して無色となり、この状態は室温下で維持することができる。尚、消色後の前記紙面を冷凍庫に入れて-23℃以下の温度に冷却すると、再び筆跡が黒色になる変色挙動を示し、前記挙動は繰り返し再現することができる。
【0027】
後軸4の後端開口4bから突出した押動体13は、POM樹脂で成形した基体131と、後述する弾性材料で成形した摩擦体132とからなる。
前記摩擦体132を構成する弾性材料は、弾性を有する合成樹脂(ゴム、エラストマー)が好ましく、例えば、シリコーン樹脂、SBS樹脂(スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体)、SEBS樹脂(スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体)、フッ素系樹脂、クロロプレン樹脂、ニトリル樹脂、ポリエステル系樹脂、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)等があげられる。
弾性を有する合成樹脂は、高摩耗性の弾性材料(例えば、消しゴム等)ではなく、摩擦時に摩耗カス(消しカス)が殆ど生じない低摩耗性の弾性材料であり、摩擦体132にて、前記インキ7による筆跡を摩擦することで、摩擦熱を発生して筆跡を消色することができる。また、押動体13の押動部13aが前述の通り弾性材料(摩擦体132)であることから、押動体13を後方へ弾発するコイルバネ17やコイルバネ18の弾発力が強くても、押動体13を押動する指が滑り難く、操作し易い構造である。
【0028】
液体収容管8内のインキ7の後端には、インキ7の消費に伴い追従するグリース状のインキ追従体7aを直接収容し、液体収容管8の前方には、チップ本体8dの前端にボール8e(φ0.38mm)を回動自在に抱持させた先端チップ8aを圧入嵌合させている。ボール8eの後方には、ボール8eをチップ前端の内壁に押圧するコイルスプリング8fを配し、チップ前端からのインキ漏れ出しを抑制する弁機構としてある。
【0029】
ボールペン1の加圧前、加圧後の単位面積当たりのインキ消費量値、筆跡濃度は、表1に示す通りである。表1に示す測定結果は、インキ7を未使用な状態で測定した結果とインキ7が僅かな状態で測定した結果とを示したものである。
尚、10m当たりのインキ消費量は、JIS規格S6054に準じて測定(20℃、筆記角度70度、筆記速度4m/min、自公転、筆記荷重100gf、下敷きステンレス板)測定したものであり、10m筆記後にインキ残量を測定して計算によって求めたものである。また、こうした試験を連続して5回(計50m)、計5本行い、その平均値によって求められるものである。
また、筆跡幅及び筆跡濃度は、前記筆記によって得られた筆跡をISO13660に準じて、筆跡幅(mm)は、反射率の60%以下の領域、筆跡濃度は、反射率75%以下の範囲内の平均値を測定したもので、本願発明における筆跡幅及び筆跡濃度は、パーソナル画質評価装置(QEA(Quality Engineering Associates)社製、PIAS-II)によって求めることができる。尚、本発明においては、15箇所を測定し、その平均値によって求めたものである。
インキ粘度は、ブルックフィールド社製DV-II粘度計(コーンローター CPE整42)を用いて20℃の環境下で、剪断速度3.84sec-1(10rpm)、剪断速度384sec-1(100rpm)の条件にてインキ粘度を測定する。
【0030】
【表1】
【0031】
前記測定結果が示す通り、本実施形態のボールペン1は、筆記によりインキ7が減少する場合においても、インキ消費量や線幅が安定した状態での筆記を行うことができる。
【0032】
次に、図1及び図2を用いて、ボールペン1の先端チップ8aを没入させ、ボールペン1を携帯可能な状態にするための操作方法について説明を行う。
図2に示したクリップ5の後端を、コイルバネ6の弾発力に抗して軸筒2側へ押動することで、押動体13の膨出部13dとクリップ5の突起5aとの係止状態を解除し、コイルバネ17及びコイルバネ18の弾発力で、液体収容管8、気体収容管9、ピストン部材11、押動体13、シリンダ部材14のそれぞれが、図1の状態まで後退され、再び先端チップ8aが前端開口3a内に没入する。
前述の通り、先端チップ8aが軸筒2内に没入した状態では、シリンダ部材14の後方に形成した截頭錐体状で貫通孔を有する突部14aが、弁体16の弁部16aから離間しており、押動体13とシリンダ部材14との隙間、及びピストン部材11と押動体13との隙間を通じて、シリンダ部材14内の空気K3と、ピストン部材11内の空気K4と、液体収容管8内の空気K1と、気体収容部9a内の空気K2と、が外気と連通して再び大気圧となる。
【符号の説明】
【0033】
1…ボールペン、
2…軸筒、
3…前軸、3a…前端開口、3b…内段、
4…後軸、4a…突部、4b…後端開口、4c…窓部、4d…段部、4e…前端縁、
5…クリップ、5a…突起、
6…コイルバネ、
7…インキ、7a…インキ追従体、
8…液体収容管、8a…先端チップ、8b…後方空間、8c…鍔部、8d…チップ本体、8e…ボール、8f…コイルスプリング、
9…気体収容管、9a…気体収容部、9b…外段、9c…鍔部、
10…先口、10a…内段、
11…ピストン部材、11a…フランジ、11b…凹部、11c…前方開口、11d…溝部、11e…内底面、11f…内側面、11g…大径部、11h…小径部、11i…凹部、11j…外段、11k…後壁、
12…Oリング、
13…押動体、13a…押動部、13b…前方開口、13c…縦リブ、13d…膨出部、13e…前部内段、13f…後部内段、13g…基体、13h…摩擦体、
14…シリンダ部材、14a…突部、
15…Oリング、
16…弁体、16a…弁部、16b…円環部、
17…コイルバネ、
18…コイルバネ、
K1,K2,K3,K4…空気。
図1
図2