(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-29
(45)【発行日】2022-08-08
(54)【発明の名称】紡糸引取機及び紡糸引取機の糸掛け補助具
(51)【国際特許分類】
D01D 7/00 20060101AFI20220801BHJP
【FI】
D01D7/00 C
(21)【出願番号】P 2018146023
(22)【出願日】2018-08-02
【審査請求日】2021-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】特許業務法人梶・須原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小島 匠吾
(72)【発明者】
【氏名】米倉 踏青
(72)【発明者】
【氏名】前田 賢
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-164875(JP,A)
【文献】実開昭53-069543(JP,U)
【文献】実公昭47-011565(JP,Y1)
【文献】国際公開第2012/140009(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01D 1/00 - 13/02
D02G 1/00 - 3/48
D02J 1/00 - 13/00
B65H 57/00 - 57/28
H02G 15/00 - 15/196
H05K 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紡糸装置から紡出される複数の糸がそれぞれ掛けられる複数の糸掛け部を備えており、前記複数の糸を保持可能な糸掛け補助具を用いて前記複数の糸掛け部への糸掛けを行う形式の紡糸引取機であって、
導電性を有するフレームと、
アース線と、
前記アース線
の一端部を前記フレームに対して通電可能に取り付ける第1取付部と、
前記アース線
の他端部を前記糸掛け補助具に対して通電可能に取り付ける第2取付部とを備え
、
前記第2取付部は、前記アース線の前記他端部を前記糸掛け補助具に対して着脱可能に装着するものであり、且つ、前記アース線の前記他端部を前記フレームに対して着脱可能に取り付けるものであることを特徴とする紡糸引取機。
【請求項2】
紡糸装置から紡出される複数の糸がそれぞれ掛けられる複数の糸掛け部を備えており、前記複数の糸を保持可能な糸掛け補助具を用いて前記複数の糸掛け部への糸掛けを行う形式の紡糸引取機であって、
導電性を有するフレームと、
アース線と、
前記アース線を前記フレームに対して通電可能に取り付ける第1取付部と、
前記アース線を前記糸掛け補助具に対して通電可能に取り付ける第2取付部とを備え、
前記第1取付部による前記アース線の前記フレームへの取付位置は、前記複数の糸掛け部よりも上方であることを特徴とする紡糸引取機。
【請求項3】
前記第1取付部による前記アース線の前記フレームへの取付位置は、前記複数の糸掛け部よりも上方であることを特徴とする請求項1に記載の紡糸引取機。
【請求項4】
前記紡糸装置よりも下方に配置されており、前記紡糸装置から紡出された複数の糸を引き取る1又は複数のローラを有する引取部をさらに備えており、
前記第1取付部による前記アース線の前記フレームへの取付位置は、前記引取部よりも上方であることを特徴とする請求項2
又は3に記載の紡糸引取機。
【請求項5】
前記引取部の下方に配置されており、前記引取部から送られる複数の糸を複数のボビンにそれぞれ巻き取る糸巻取装置をさらに備えており、
前記複数の糸掛け部は、前記引取部の下方に配置されており、前記引取部から前記糸巻取装置に送られる複数の糸がそれぞれ掛けられるものであることを特徴とする請求項
4に記載の紡糸引取機。
【請求項6】
前記第2取付部は、磁力によって前記フレームに取り付け可能であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の紡糸引取機。
【請求項7】
前記フレームは、強磁性体であり、
前記第1取付部は、前記アース線に固定された導電性を有する磁石であることを特徴とする請求項1~
6のいずれか1項に記載の紡糸引取機。
【請求項8】
前記第2取付部は、前記アース線に固定されており且つ前記糸掛け補助具に形成された孔に係合可能なフック状部材であることを特徴とする請求項
1~7のいずれかに記載の紡糸引取機。
【請求項9】
前記第2取付部は、前記アース線に固定されており且つ前記糸掛け補助具に形成された孔に係合可能であり開閉可能なリング状部材であることを特徴とする請求項
1~7のいずれかに記載の紡糸引取機。
【請求項10】
前記第1取付部は、前記アース線の一端部を前記フレームに対して取り付けるものであって、
前記第2取付部は、前記アース線の前記一端部とは反対の他端部に固定されており、
前記第2取付部に係合可能な係合部が形成された係合部材が、前記フレームに設けられていることを特徴とする請求項
8又は
9に記載の紡糸引取機。
【請求項11】
前記アース線は、バネ性を有することを特徴とする請求項1~10のいずれかに記載の紡糸引取機。
【請求項12】
前記第1取付部による前記アース線の前記フレームへの取付位置は、前記複数の糸掛け部が並べて配置された方向において、前記複数の糸掛け部よりも作業空間に近い側であることを特徴とする請求項1~
11のいずれかに記載の紡糸引取機。
【請求項13】
紡糸引取機の複数の糸掛け部に、紡糸装置から紡出される複数の糸をそれぞれ掛けるための糸掛け補助具であって、
前記複数の糸をそれぞれ保持する複数の保持溝が形成された本体と、
前記本体に対して通電可能に取り付けられたアース線と、
前記紡糸引取機の導電性を有するフレームに対して前記アース線を着脱可能に装着し、前記アース線が前記フレームに装着された状態で前記アース線と前記フレームとの間を通電可能とする取付部と、を備えていることを特徴とする紡糸引取機の糸掛け補助具。
【請求項14】
前記アース線を巻取可能な巻取機構をさらに備えていることを特徴とする請求項
13に記載の紡糸引取機の糸掛け補助具。
【請求項15】
前記巻取機構は、磁力によって前記フレームに取り付け可能であることを特徴とする請求項14に記載の紡糸引取機の糸掛け補助具。
【請求項16】
オペレータによって携帯されることが可能であることを特徴とする請求項13~15のいずれかに記載の紡糸引取機の糸掛け補助具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡糸引取機及び紡糸引取機の糸掛け補助具に関する。
【背景技術】
【0002】
紡糸機から紡出される合成繊維からなる糸を引き取り、糸巻取機でボビンに巻き取ってパッケージを形成する紡糸引取機であって、糸が掛けられる糸掛け部を備えているものが知られている。例えば特許文献1に開示されている紡糸引取機は、紡糸機から紡出された複数の糸を引取ローラで引き取った後、糸送りローラによって引取ローラからの複数の糸を引き取って糸巻取機に送る。糸巻取機は、糸送りローラから送られた複数の糸がそれぞれ掛けられる複数の分配ガイド(糸掛け部)を備えており、分配ガイドを支点として複数の糸を綾振りしながら各ボビンに巻き取る。
【0003】
また、特許文献1の紡糸引取機においては、複数の分配ガイドへの糸掛け作業は、複数の糸をそれぞれ保持する複数の溝を備える糸掛け補助具を用いて行われる。オペレータは、複数の糸が保持された状態の糸掛け補助具を手で持って、各分配ガイドへの糸掛け作業を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、一台の紡糸引取機で処理される糸の本数が増加(多エンド化)しているとともに、糸の巻取速度も高速化している。多エンド化及び巻取速度の高速化に伴って、糸と糸掛け補助具との摩擦によって発生する静電気量が増大する。また、紡糸引取機においては、糸走行時の糸切れや毛羽を抑制するために、糸に対して油剤を付着させることがある。使用する油剤の濃度が高い場合には、糸と糸掛け補助具との摩擦によって発生する静電気量が増大する。
【0006】
糸掛け補助具が帯電している場合には、糸掛け補助具を用いて糸掛け作業を行うオペレータの体と周辺の金属部品などとの間で放電が生じる恐れがある。上述のように、糸と糸掛け補助具との摩擦によって発生する静電気量が多い場合には、糸掛け補助具への帯電量が多くなり、放電が生じた際にオペレータは強い電撃を受ける。したがって、オペレータは糸掛け作業を快適に行うことができない。
【0007】
本発明の目的は、糸掛け作業時にオペレータが電撃を受けるのを抑制できる紡糸引取機及び紡糸引取機の糸掛け補助具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明の紡糸引取機は、紡糸装置から紡出される複数の糸がそれぞれ掛けられる複数の糸掛け部を備えており、前記複数の糸を保持可能な糸掛け補助具を用いて前記複数の糸掛け部への糸掛けを行う形式の紡糸引取機であって、導電性を有するフレームと、アース線と、前記アース線を前記フレームに対して通電可能に取り付ける第1取付部と、前記アース線を前記糸掛け補助具に対して通電可能に取り付ける第2取付部とを備えていることを特徴とするものである。
【0009】
本発明では、導電性を有するフレームに対してアース線を通電可能に取り付け、且つ、糸掛け補助具に対してアース線を通電可能に取り付けることができる。したがって、オペレータが糸掛け補助具を用いて糸掛け部への糸掛け作業を行う際に、糸掛け補助具に溜まった静電気をアース線を介してフレームに流すことができる。よって、糸掛け作業時にオペレータが電撃を受けるのを抑制できる。
【0010】
第2の発明の紡糸引取機は、前記第1の発明において、前記第1取付部による前記アース線の前記フレームへの取付位置は、前記複数の糸掛け部よりも上方であることを特徴とするものである。
【0011】
アース線のフレームへの取付位置が低い場合には、アース線がオペレータの糸掛け作業の邪魔になり作業性が低下する。本発明では、アース線のフレームへの取付位置が複数の糸掛け部よりも上方であるので、アース線によって作業性が低下するのを抑制できる。
【0012】
第3の発明の紡糸引取機は、前記第2の発明において、前記紡糸装置よりも下方に配置されており、前記紡糸装置から紡出された複数の糸を引き取る1又は複数のローラを有する引取部をさらに備えており、前記第1取付部による前記アース線の前記フレームへの取付位置は、前記引取部よりも上方であることを特徴とするものである。
【0013】
本発明では、アース線のフレームへの取付位置を引取部よりも上方にすることで、アース線を引取部のローラと干渉し難くすることができる。よって、アース線がローラに引っ掛かるのを抑制することができる。
【0014】
第4の発明紡糸引取機は、前記第3の発明において、前記引取部の下方に配置されており、前記引取部から送られる複数の糸を複数のボビンにそれぞれ巻き取る糸巻取装置をさらに備えており、前記複数の糸掛け部は、前記引取部の下方に配置されており、前記引取部から前記糸巻取装置に送られる複数の糸がそれぞれ掛けられるものであることを特徴とするものである。
【0015】
本発明では、引取部の1又は複数のローラと糸との摩擦により糸に電荷が蓄積される。したがって、引取部から糸巻取装置に送られる糸を糸掛け部に掛けるための糸掛け作業を行う際、糸掛け補助具への帯電量が多くなる。よって、糸掛け補助具に溜まった静電気をアース線を介してフレームに流すことができる本発明を適用することが効果的である。
【0016】
第5の発明の紡糸引取機は、前記第1~第4のいずれか1つの発明において、前記フレームは、強磁性体であり、前記第1取付部は、前記アース線に固定された導電性を有する磁石であることを特徴とするものである。
【0017】
本発明では、簡易な構成でアース線をフレームに対して通電可能に取り付けることができる。
【0018】
第6の発明の紡糸引取機は、前記第1~第5のいずれか1つの発明において、前記第2取付部は、前記アース線を前記糸掛け補助具に着脱可能に装着することを特徴とするものである。
【0019】
本発明では、糸掛け作業時以外は糸掛け補助具をアース線から取り外しておくことができる。したがって、糸掛け作業を行うオペレータが糸掛け補助具を携帯することが可能となる。また、複数の紡糸引取機に対して糸掛け補助具を1つ備えるような運用が可能となる。
【0020】
第7の発明の紡糸引取機は、前記第6の発明において、前記第2取付部は、前記アース線に固定されており且つ前記糸掛け補助具に形成された孔に係合可能なフック状部材であることを特徴とするものである。
【0021】
本発明では、簡易な構成でアース線を糸掛け補助具に対して着脱可能に装着することができる。
【0022】
第8の発明の紡糸引取機は、前記第6の発明において、前記第2取付部は、前記アース線に固定されており且つ前記糸掛け補助具に形成された孔に係合可能であり開閉可能なリング状部材であることを特徴とするものである。
【0023】
本発明では、簡易な構成でアース線を糸掛け補助具に対して着脱可能に装着することができる。
【0024】
第9の発明の紡糸引取機は、前記第7又は8の発明において、前記第1取付部は、前記アース線の一端部を前記フレームに対して取り付けるものであって、前記第2取付部は、前記アース線の前記一端部とは反対の他端部に固定されており、前記第2取付部に係合可能な係合部が形成された係合部材が、前記フレームに設けられていることを特徴とするものである。
【0025】
本発明では、糸掛け作業時以外は、アース線に固定された第2取付部(フック状部材又はリング状部材)を糸掛け補助具の孔ではなく、フレームに設けられた係合部材の係合部に係合させることができる。アース線は、第1取付部により一端部がフレームに取り付けられており、第2取付部はアース線の他端部に固定されているので、アース線全体をフレームに留めておくことができる。したがって、糸掛け作業時以外に、アース線がフレームから垂れて、例えば、複数の糸や引取部の複数のローラと接触するのを抑制することができる。
【0026】
第10の発明の紡糸引取機は、前記第6の発明において、前記第1取付部は、前記アース線の一端部を前記フレームに対して取り付けるものであって、前記アース線の前記一端部とは反対の他端部を前記フレームに対して着脱可能に取り付けて、前記アース線全体を前記フレームに留める留め部をさらに備えていることを特徴とするものである。
【0027】
本発明では、糸掛け作業時以外は、留め部によりアース線全体をフレームに留めておくことができる。したがって、糸掛け作業時以外に、アース線がフレームから垂れて、例えば、複数の糸や引取部の複数のローラと接触するのを抑制することができる。
【0028】
第11の発明の紡糸引取機の糸掛け補助具は、紡糸引取機の複数の糸掛け部に、紡糸装置から紡出される複数の糸をそれぞれ掛けるための糸掛け補助具であって、前記複数の糸をそれぞれ保持する複数の保持溝が形成された本体と、前記本体に対して通電可能に取り付けられたアース線と、前記紡糸引取機の導電性を有するフレームに対して前記アース線を着脱可能に装着し、前記アース線が前記フレームに装着された状態で前記アース線と前記フレームとの間を通電可能とする取付部と、を備えていることを特徴とするものである。
【0029】
本発明では、本体に対して通電可能に取り付けられたアース線を、紡糸引取機の導電性を有するフレームに対して電通可能に装着できる。したがって、オペレータが糸掛け補助具を用いて糸掛け部への糸掛け作業を行う際に、糸掛け補助具の本体に溜まった静電気をアース線を介してフレームに流すことができる。よって、糸掛け作業時にオペレータが電撃を受けるのを抑制できる。
【0030】
第12の発明の紡糸引取機の糸掛け補助具は、前記第11の発明において、前記アース線を巻取可能な巻取機構をさらに備えていることを特徴とする。
【0031】
本発明では、糸掛け作業時以外は巻取機構によりアース線を巻き取っておくことができるので、糸掛け補助具の携帯性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る紡糸引取機が設置された設備を示す模式図である。
【
図3】糸掛け位置に位置する複数の支点ガイドを示す図である。
【
図5】糸掛け補助具の保持溝に糸を掛ける作業を示す図である。
【
図6】糸掛け補助具を用いた糸掛け作業を示す図である。
【
図7】第2実施形態に係る糸掛け補助具を示す図であり、(a)はアース線が巻き取られた状態であり、(b)はアース線が引き出された状態である。
【
図8】第1実施形態の第1変形例に係る紡糸引取装置のフレームを示す図である。
【
図9】第1実施形態の第2変形例に係る紡糸引取装置に備えられるアース線の一部を示す図であり、(a)はリング状部材が閉状態、(b)はリング状部材が開状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0034】
(紡糸引取機1の概略構成)
図1は、本実施形態に係る紡糸引取機1が設置された設備を示す模式図である。
図1に示すように、紡糸引取機1は、紡糸装置2から紡出されたポリエステルやナイロンなどの複数の糸10を、紡糸装置2よりも下方に配置された引取部4で引き取った後、引取部4よりも下方に配置された糸巻取装置5で巻き取る構成となっている。なお、以下では、
図1の左方を「左」、
図1の右方を「右」、
図1の紙面手前側を「前」、
図1の紙面奥側を「後」と定義して説明を進める。
【0035】
図1に示すように引取部4は、糸走行方向に沿って順に配置された糸ガイド20、糸送りローラ16、3つの第1加熱ローラ4a,4b,4c、2つの第2加熱ローラ4d,4e、糸送りローラ17~19等を備えている。
【0036】
糸ガイド20は、紡糸装置2の下方に配置されている。
図2に示すように糸ガイド20は、紡糸装置2から紡出された複数の糸10を屈曲させ、複数の糸10を糸送りローラ16へと導く。
【0037】
糸送りローラ16は、その軸心が前後方向と平行となるように配置されている。糸送りローラ16には、糸ガイド20によって導かれた複数の糸10が巻き掛けられる。糸送りローラ16に巻き掛けられた複数の糸10は、糸送りローラ16によってスリット26aを介して保温箱26内に送られる。
【0038】
図1に示すように保温箱26内には、3つの第1加熱ローラ4a,4b,4c、及び、2つの第2加熱ローラ4d,4eが収容されている。第1加熱ローラ4a,4b,4c、及び、第2加熱ローラ4d,4eは、それらの軸心が前後方向と平行となるように配置されている。保温箱26には、第1加熱ローラ4a,4b,4c、及び、第2加熱ローラ4d,4eの前端面を覆う扉(不図示)が開閉自在に取り付けられている。
【0039】
第1加熱ローラ4a,4b,4c、及び、第2加熱ローラ4d,4eは、いずれも内蔵ヒータ(不図示)により加熱される。なお、第1加熱ローラ4a,4b,4c、及び、第2加熱ローラ4d,4eは、断熱材料からなる保温箱26に収容されるので、放熱が抑制されている。第2加熱ローラ4d,4eの表面温度は、第1加熱ローラ4a,4b,4c表面温度(例えば、80~100℃)よりも高い温度(例えば、120~140℃)に設定されている。
【0040】
また、第1加熱ローラ4a,4b,4c、及び、第2加熱ローラ4d,4eは、いずれもモータ(不図示)により駆動される駆動ローラである。第2加熱ローラ4d,4eは、第1加熱ローラ4a,4b,4cよりも糸送り速度が速くなるように設定されている。したがって、保温箱26内に送られた複数の糸10は、第1加熱ローラ4a,4b,4cと、第2加熱ローラ4d,4eとの間で延伸される。延伸された複数の糸10は、第2加熱ローラ4d,4eによって加熱され、延伸された状態が熱固定される。
【0041】
3つの第1加熱ローラ4a,4b,4cと2つの第2加熱ローラ4d,4eとによって、加熱及び延伸された複数の糸10は、保温箱26の外に配置された糸送りローラ17に向けて、スリット26bを介して送り出される。糸送りローラ17は、その軸心が前後方向と平行となるように配置されている。保温箱26の外に送り出された複数の糸10は、糸送りローラ17に巻き掛けられ、糸送りローラ17よりも糸走行方向下流側に設けられた糸送りローラ18,19へと送られる。
【0042】
糸送りローラ18,19は、紡糸装置2の下方において、その軸心が左右方向と平行となるように配置されている。糸送りローラ17から送り出された複数の糸10は、糸送りローラ18、糸送りローラ19の順に巻き掛けられ、糸巻取装置5へと送られる。
【0043】
図2に示すように、2つの糸送りローラ18,19は、糸巻取装置5の前端部の上方位置から後斜め上方に延びる長尺な支持部材27に支持されている。糸送りローラ18は、支持部材27の前端部に取り付けられている。糸送りローラ19は、支持部材27に対して、支持部材27の長さ方向に沿って移動可能に取り付けられている。糸送りローラ19は、昇降モータ(不図示)により、
図2において二点鎖線で示される「前側位置」と実線で示される「後側位置」との間で移動する。後述するように、糸送りローラ19の前側位置は糸掛け時の位置であり、後側位置は糸巻取装置5による糸巻取時の位置である。
【0044】
糸送りローラ16~19の糸送り方向すぐ上流側には、糸ガイド21~24がそれぞれ設けられている。複数の糸10は、これら糸ガイド21~24に掛けられることによって、複数の糸10の配列方向において一定の距離を保ちつつ糸分けされる。
【0045】
図1に示すように糸巻取装置5は、2つの巻取ユニット50を備えている。2つの巻取ユニット50は、左右方向に並び、且つ、上方の糸送りローラ19から送られる複数の糸10の糸道を挟んで配置されている。また、2つの巻取ユニット50は、左右対称に配置されている。紡糸装置2から紡出された複数の糸10は、2つの巻取ユニット50に分かれて送られる。例えば、紡糸装置2から24本の糸10が送られてくる場合に、その半分の12本が左側の巻取ユニット50で巻き取られ、残りの12本が右側の巻取ユニット50で巻き取られる。
【0046】
巻取ユニット50は、機台15と、機台15に回転可能に設けられた円板状のターレット6と、複数のボビンBがその軸方向に沿って装着される2本のボビンホルダ7と、ボビンホルダ7と平行に前後方向に延びる支持部材12と、複数の糸10がそれぞれ掛けられる複数の支点ガイド13と、複数のボビンBに巻取られる複数の糸10をそれぞれ綾振りする複数のトラバースガイド8と、ボビンホルダ7に装着された複数のボビンBに接触するコンタクトローラ9等を備えている。
【0047】
2本のボビンホルダ7は、いずれも軸心が前後方向と平行になる状態で、後方側の端部においてターレット6に回転可能にそれぞれ支持されている。2本のボビンホルダ7は、それぞれモータ(不図示)によって回転駆動される。各ボビンホルダ7が回転すると、このボビンホルダ7に装着された複数のボビンBも、ボビンホルダ7と一体的に回転する。また、ターレット6が回転することにより、2本のボビンホルダ7の位置を巻取位置(
図1、2の上方の位置)と退避位置(
図1、2の下方の位置)との間で切り換えることができる。
【0048】
ボビンホルダ7の上方には、ガイド部材11を介して支持部材12の上部に取り付けられた複数の支点ガイド13と、支持部材12に取り付けられた複数のトラバースガイド8とが、複数のボビンBにそれぞれ対応して設けられている。複数の支点ガイド13は、糸送りローラ19から送られた複数の糸10の半分がそれぞれ掛けられるものである。支点ガイド13は、トラバースガイド8が糸10を綾振りする際の綾振り支点となる。
【0049】
複数の支点ガイド13は、ガイド部材11に移動可能に装着されている。ガイド部材11は、その長さ方向がボビンホルダ7の軸心方向(前後方向)に対して平行になるように配置されている。ガイド部材11に装着された複数の支点ガイド13は、前後方向に一列に並んで配置されている。複数の支点ガイド13は、
図2に示すように、各ボビンBの直上に配置され綾振り支点となる「支点位置」と、
図3に示すように、ガイド部材11の前方端部にすべての支点ガイド13が集められ、隣接する支点ガイド13同士が近接する「糸掛け位置」と間で移動可能となっている。
【0050】
複数の支点ガイド13にそれぞれ掛けられた複数の糸10は、複数のトラバースガイド8によって対応する支点ガイド13を中心としてボビンBの軸方向に綾振りされながら、巻取位置のボビンホルダ7に装着された複数のボビンBにそれぞれ巻取られる。これにより、複数のボビンBに複数のパッケージPがそれぞれ形成されていく。また、糸巻取り中には、コンタクトローラ9がパッケージPの外周面に接触して所定の接圧を付与しながら回転することで、パッケージPの形状が整えられる。
【0051】
図1に示す設備においては、紡糸引取機1は、左右方向に並んで複数配置されている。また、
図1に示す設備には、各紡糸引取機1の保温箱26や糸送りローラ16、17などを支持するフレーム91、92が設けられている。フレーム91は上下方向に延びており、隣り合う紡糸引取機1の間に設けられている。フレーム91の上端部と保温箱26の上端部と
はほぼ
同じ高さ位置にある。フレーム92はフレーム91の上方に設けられており、左右方向に沿って複数の紡糸引取機1にわたって延びている。糸巻取装置5が設置される床面Fからのフレーム92までの高さは約2.8mである。フレーム92は、引取部4を構成する各要素(糸ガイド20~24、糸送りローラ16~19、第1加熱ローラ4a,4b,4c、および第2加熱ローラ4d,4e)よりも上方に位置している。フレーム92は、例えば鉄などの、導電性を有しており且つ強磁性体である材料で形成されている。また、フレーム92はアースされている。また、
図2に示すように、フレーム92の前面は、複数の支点ガイド13よりも前方に位置している。言い換えると、フレーム92の前面は、複数の支点ガイド13が並べて配置された方向において、複数の支点ガイド13よりも、オペレータ(
図1参照)が後述の糸掛け作業を行う空間に近い側に位置している。
【0052】
図2に示すように、フレーム92は紡糸装置2のほぼ直下に位置している。そして、紡糸装置2から紡出された糸10は、フレーム92の前方を通って糸ガイド20に向かい、糸ガイド20を介して屈曲し、糸送りローラ16へ送られる。
【0053】
(糸掛け補助具60及びアース線70の構成)
上述の紡糸引取機1の糸ガイド20~24、及び、支点ガイド13には、
図4、5に示すような糸掛け補助具60を用いて、オペレータにより複数の糸10が掛けられる。糸掛け補助具60は、複数の保持溝61が形成されたSUS製の扁平な板状部材である。複数の保持溝61は、複数の糸10をそれぞれ保持するものであり、縁から切り欠かれたスリット状となっている。複数の保持溝61は、
スリットの開放端側(糸の掛口側)から
閉鎖端側へ扇形の放射状に配置されており、各保持溝61は
開放端側から
閉鎖端側に向けて直線的に延びている。 したがって、保持溝61は、配列方向の端側にあるものほど、配列方向の中央に位置するものに対する傾きが大きくなっている。また、複数の保持溝61は、
開放端側の配列方向の間隔W1よりも、
閉鎖端側の配列方向の間隔W2の方が大きくなっている。
【0054】
糸掛け補助具60には、複数の保持溝61の配列方向に沿って延びる取っ手部62が形成されている。取っ手部62の複数の保持溝61側とは反対側の端部には、孔63が形成されている。
図5に示すように、糸掛け作業時には、孔63に後述するアース線70に固定されたフック状部材72が引っ掛けられる。
【0055】
上述のような糸掛け補助具60を用いて、オペレータが糸掛け作業を行う際には、
図1に示すように、糸掛け補助具60にアース線70を取り付けた状態で作業を行う。アース線70の一端部には導電性を有する磁石71が固定されており、磁石71はその磁力によりフレーム92
の前面に吸着固定されている
(図1参照)。すなわち、アース線70は、磁石71によりフレーム92に対して通電可能に取り付けられている。
【0056】
アース線70の磁石71が固定されている一端部とは反対の他端部には、
図5に示すようなフック状部材72が固定されている。フック状部材72は、導電性を有する材料で形成されている。フック状部材72は、糸掛け補助具60の孔63に引っ掛けることができる。フック状部材72により、アース線70は糸掛け補助具60に対して通電可能且つ着脱可能に装着することができる。
【0057】
また、フック状部材72は、それ自体が磁石により形成されているか、又は、磁石(不図示)が貼り付けられている。フック状部材72は、オペレータが糸掛け作業を行う際には、
図5に示すように糸掛け補助具60の孔63に引っ掛けられる。そして、糸掛け作業時以外は、フック状部材72は糸掛け補助具60から取り外され、磁力によりフレーム92に吸着固定される。このときアース線70は、
図1において一点鎖線で示すように、全体がフレーム92に留められた状態となる。より詳細には、
図1に示すように、アース線70は、隣接する2つの紡糸引取機1の紡糸装置2からそれぞれ紡出されてフレーム92の前方を通る複数の糸10の間に留められる。
【0058】
なお、本実施形態のアース線70は、バネ性(伸縮性)を有している。アース線70がバネ性を有しているので、糸掛け作業時以外においてアース線70の全体をフレーム92に留めておく際に縮んだ状態としておくことで、アース線70を留めておくスペースを小さくすることができる。したがって、フレーム92の前方を通る糸10と干渉することがない位置にアース線70を留めておくことができる。また、糸掛け作業を行う際にはアース線70を伸ばすことができるので、作業可能な範囲が広がる。
【0059】
(糸掛け作業の手順)
次に、
図6をさらに参照しつつ、紡糸引取機1に対して糸掛け作業を行う際の手順について説明する。糸掛け作業は、糸送りローラ19を前側位置(
図2において二点鎖線で示す位置)とし、支点ガイド13を糸掛け位置(
図3で示す位置)とした状態で行われる。オペレータは、紡糸引取機1の前方から糸掛け作業を行う。なお、糸掛け作業時以外では、アース線70は、
図1において一点鎖線で示すように、磁石71及びフック状部材72がフレーム92に取り付けられており全体がフレーム92に留められた状態である。糸掛け作業を行うオペレータは、アース線70のフック状部材72をフレーム92から取り外して、
図5に示すように糸掛け補助具60の孔63に引っ掛ける。なお、フック状部材72をフレーム92に留めたり外したりする作業を行う際、オペレータは図示しない踏み台に乗って作業する。
【0060】
まず、オペレータは、紡糸装置2から紡出された複数の糸10をサクションガン(不図示)で吸引しつつ、糸ガイド20、糸ガイド21、糸送りローラ16、第1加熱ローラ4a,4b,4c、第2加熱ローラ4d,4e、糸ガイド22、糸送りローラ17、糸ガイド23、糸送りローラ18、糸ガイド24、及び、糸送りローラ19に糸掛けを行う。
【0061】
続いて、支点ガイド13への糸掛けを行う。オペレータは、糸送りローラ19とサクションガン(不図示)との間において、
図5に示すように複数の糸10に対して糸掛け補助具60を差し込む。これにより、複数の保持溝61にそれぞれ掛けられた複数の糸10は、分配した状態で保持溝61に保持される。
【0062】
その後、複数の糸10が保持された糸掛け補助具60を操作し、
図6に示すように糸掛け位置に位置する複数の支点ガイド13のそれぞれに糸掛けを行っていく。オペレータは、糸掛け補助具60を持ち、各保持溝61に保持された糸10が、その糸10が掛けられる支点ガイド13の先端部13aへとそれぞれ移動するように、糸掛け補助具60を移動させる。すなわち、糸掛け補助具60を、水平面内において複数の支点ガイド13の配列方向である前後方向と交わる方向(図中矢印で示す左斜め前方に向かう方向)に向かって移動させる。これにより、複数の糸10は、図中において二点鎖線で示す軌跡を辿りながら、複数の支点ガイド13にそれぞれ掛けられていく。複数の糸10は、一方向から複数の支点ガイド13に入れられていく。なお、糸掛け前の糸掛け補助具60の位置を
二点鎖線で示している。
【0063】
複数の支点ガイド13への糸掛けが完了した後は、糸送りローラ19を「前側位置」から「後側位置」へと移動させる。続いて、複数の支点ガイド13を「糸掛け位置」から「支点位置」に移動させる。その後、下方に設けられたボビンBによって複数の糸10をそれぞれ巻き取る巻取動作を開始する。
【0064】
(第1実施形態の効果)
以上のように、第1実施形態の紡糸引取機1は、紡糸装置2から紡出される複数の糸10がそれぞれ掛けられる複数の糸掛け部(支点ガイド13、糸ガイド20~24)を備えており、複数の糸10を保持可能な糸掛け補助具60を用いて複数の糸掛け部への糸掛けを行う形式の紡糸引取機1である。そして、紡糸引取機1は、導電性を有するフレーム92と、アース線70と、アース線70をフレーム92に対して通電可能に取り付ける磁石71と、アース線70を糸掛け補助具60に対して通電可能に取り付けるフック状部材72とを備えている。したがって、導電性を有するフレーム92に対してアース線70を通電可能に取り付け、且つ、糸掛け補助具60に対してアース線70を通電可能に取り付けることができる。よって、オペレータが糸掛け補助具60を用いて糸掛け部(支点ガイド13、糸ガイド20~24)への糸掛け作業を行う際に、糸掛け補助具60に溜まった静電気をアース線70を介してフレーム92に流すことができる。結果、糸掛け作業時にオペレータが電撃を受けるのを抑制できる。
【0065】
また、第1実施形態では、磁石71により、複数の糸掛け部(支点ガイド13、糸ガイド20~24)よりも上方に位置するフレーム92にアース線70が取り付けられる。すなわち、磁石71によるアース線70のフレーム92への取付位置は、複数の糸掛け部よりも上方である。アース線70の取付位置が低い場合には、アース線70がオペレータの糸掛け作業の邪魔になり作業性が低下する。第1実施形態では、アース線70の取付位置が複数の糸掛け部よりも上方であるので、アース線70によって作業性が低下するのを抑制できる。
【0066】
また、第1実施形態では、磁石71により、引取部4よりも上方に位置するフレーム92にアース線70が取り付けられる。すなわち、磁石71によるアース線70のフレーム92への取付位置は、引取部4よりも上方である。アース線70の取付位置を引取部4よりも上方にすることで、アース線70を引取部4のローラ(糸送りローラ16~19)と干渉し難くすることができる。よって、アース線70がローラに引っ掛かるのを抑制することができる。
【0067】
また、第1実施形態では、引取部4の下方に配置されており、引取部4から糸巻取装置5に送られる複数の糸10がそれぞれ掛けられる支点ガイド13に対して、糸掛け補助具60を用いて糸掛けを行う。本実施形態の構成では、引取部4のローラ(糸送りローラ16~19、第1加熱ローラ4a,4b,4c、および、第2加熱ローラ4d,4e)と糸10との摩擦により糸10に電荷が蓄積される。したがって、引取部4から糸巻取装置5に送られる糸10を糸掛け部に掛けるための糸掛け作業を行う際、糸掛け補助具60への帯電量が多くなる。よって、糸掛け補助具60に溜まった静電気をアース線70を介してフレーム92に流すことができる本発明を適用することが効果的である。
【0068】
また、第1実施形態では、複数の支点ガイド13は、前後方向に一列に並んで配置されている。水平面に沿う前後方向に一列に並んで配置された複数の支点ガイド13に糸掛けを行う際には、糸掛け補助具60を水平面内において前後方向と交わる一方向に沿って移動させながら糸掛け作業を行う。糸掛け補助具60を水平面内において一方向に移動させる際、アース線70のフレーム92への取付位置と糸掛け補助具60との位置関係が変化する。よって、アース線70のフレーム92への取付位置と糸掛け補助具60との位置関係によっては、アース線70に撓みが生じる。本実施形態においては、アース線70のフレーム92への取付位置が引取部4よりも上方、且つ、複数の支点ガイド13が引取部4よりも下方であり、アース線70のフレーム92への取付位置と複数の支点ガイド13との間の距離が比較的長い。したがって、糸掛け作業時にアース線70に生じる撓みが比較的少なく、引取部4のローラなどにアース線70が引っ掛かりにくい。よって、本発明を適用することが効果的である。
【0069】
また、第1実施形態では、フレーム92は強磁性体であり、アース線70に導電性を有する磁石71が固定されている。そして、アース線70は、磁石71によりフレーム92に対して通電可能に取り付けられている。したがって、簡易な構成でアース線70をフレーム92に対して通電可能に取り付けることができる。
【0070】
加えて、第1実施形態では、アース線70は糸掛け補助具60に対して着脱可能に装着することができる。したがって、糸掛け作業時以外は糸掛け補助具60をアース線70から取り外しておくことができる。よって、糸掛け作業を行うオペレータが糸掛け補助具60を携帯することが可能となる。また、複数の紡糸引取機1に対して糸掛け補助具60を1つ備えるような運用が可能となる。
【0071】
さらに、第1実施形態では、糸掛け補助具60に形成された孔63に係合可能なフック状部材72がアース線70に固定されている。したがって、簡易な構成でアース線70を糸掛け補助具60に対して着脱可能に装着することができる。
【0072】
また、第1実施形態では、アース線70の一端部にアース線70をフレーム92に取り付けるために磁石71が固定されている。アース線70の磁石71が固定されている側とは反対の他端部にはフック状部材72が固定されている。フック状部材72は、それ自体が磁石により形成されているか、又は、磁石が貼り付けられており、磁力によりフレーム92に着脱可能に取りつけることができる。したがって、糸掛け作業時以外は、アース線70全体をフレーム92に留めておくことができる。よって、糸掛け作業時以外に、アース線70がフレーム92から垂れて、例えば、複数の糸10や引取部4の複数のローラと接触するのを抑制することができる。
【0073】
<第2実施形態>
次に、
図7(a)、(b)を参照しつつ、本発明の第2実施形態について説明する。
図7(a)、(b)は、本発明の第2実施形態に係る糸掛け補助具を示す図である。上述の実施形態においては、紡糸引取機1がアース線70を備えている場合について説明したが、本実施形態においては糸掛け補助具160がアース線170を備えている。以下の説明においては、第1実施形態と同様の構成については同じ符号を用いて適宜その説明を省略する。
【0074】
図7(a)、(b)に示すように、本実施形態の糸掛け補助具160は、複数の保持溝161および取っ手162が形成された板状部材の本体165と、本体165に対して通電可能に取り付けられたアース線170と、本体165から延びるアース線170を巻き取る巻取機構175と、巻取機構175のケース175aに貼り付けられた磁石171とを備えている。磁石171は導電性を有しており、磁石171とアース線170との間は通電可能である。
【0075】
巻取機構175は、例えば特開2005-345107号公報に開示されている公知の機構であるので、ここでは詳細な説明は省略する。巻取機構175は、操作ボタン(不図示)を操作していない状態では、巻き取られているアース線170をオペレータがケース175a内から引き出し、アース線170から手を離してもアース線170が巻き戻ることがないように構成されている。操作ボタン(不図示)を操作すると、引き出されたアース線170がケース175a内に巻き戻される。
【0076】
糸掛け作業時以外では、糸掛け補助具160はアース線170が巻取機構175により巻き取られた状態であり、この状態でオペレータに所持されている。また、糸掛け作業時以外において、糸掛け補助具160は紡糸引取機1の近傍で保管されていてもよい。糸掛け作業を行う際には、オペレータは糸掛け補助具160の巻取機構175のケース175a内からアース線170を引出し、磁石171をフレーム92に吸着固定する。これにより、アース線170とフレーム92との間で通電可能となる。
【0077】
(第2実施形態の効果)
第2実施形態では、第1実施形態と同様に、本体165に対して通電可能に取り付けられたアース線170を、紡糸引取機1の導電性を有するフレーム92に対して電通可能に装着できる。したがって、オペレータが糸掛け補助具160を用いて複数の支点ガイド13への糸掛け作業を行う際に、糸掛け補助具160の本体165に溜まった静電気をアース線170を介してフレーム92に流すことができる。よって、糸掛け作業時にオペレータが電撃を受けるのを抑制できる。
【0078】
また、第2実施形態では、アース線170を巻取可能な巻取機構175を備えている。したがって、糸掛け作業時以外は巻取機構175によりアース線170を巻き取っておくことができるので、糸掛け補助具160の携帯性が向上する。
【0079】
(変形例)
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0080】
例えば、上述の第1実施形態では、アース線70が磁石71によりフレーム92に取り付けられている場合について説明したが、アース線70をフレーム92に取りつける手段はこれに限定されるものではない。例えば、ネジを用いて固定してもよい。また、上述の第1実施形態では、アース線70を糸掛け補助具60に対して着脱可能に装着するためのフック状部材72が、糸掛け作業時以外は磁力によりフレーム92に留められる場合について説明したが、フック状部材72をフレーム92に留める手段もこれに限定されるものではない。例えば、フレーム92にフック状部材72を引っ掛ける輪状部材を設けておくことで、代用してもよい。
【0081】
ここで、
図8を参照しつつ、第1実施形態の第1変形例について説明する。本変形例においては、アース線270は、その両端部にそれぞれフック状部材271、272が固定されている。フック状部材271は、フレーム92に設けられた輪状部材274aに引っ掛けられている。フック状部材272は、糸掛け作業時以外はフレーム92に設けられた輪状部材275aに引っ掛けられている。すなわち、
図8において一点鎖線で示すように、糸掛け作業時以外は、アース線270全体がフレーム92に留められる。糸掛け作業時には、フック状部材272は輪状部材275aから取り外されて、第1実施形態と同様に糸掛け補助具60の孔63に引っ掛けられる(
図5参照)。
【0082】
輪状部材274a、275a及び、フック状部材271、272はいずれも導電性を有する材料で形成されている。したがって、フック状部材271が輪状部材274aに引っ掛けられることで、アース線270をフレーム92に対して通電可能に取り付けることができる。なお、第1実施形態と同様にフック状部材272を磁力によりフレーム92に留めるようにしてもよい。
【0083】
また、上述の第1及び第2実施形態、並びに、第1実施形態の第1変形例では、アース線70(170、270)が、糸掛け補助具60(160)によって糸掛けを行う糸掛け部(支点ガイド13、糸ガイド20~24)、及び、引取部4よりも上方に位置するフレーム92に取り付けられる場合について説明したが、アース線70(170、270)の取り付け位置はこれに限定されるものではない。アース線70(170、270)は、フレーム92以外の糸掛け部や引取部4よりも下方に位置するフレームに取り付けられてもよい。
【0084】
さらに、上述の第1及び第2実施形態、並びに、第1実施形態の第1変形例では、複数の支点ガイド13が前後方向に一列に並んで配置されている場合について説明したが、複数の支点ガイド13の配列方向はこれに限定されるものではない。例えば、前後方向と交差する方向に一列に並んで配置されてもよいし、一列に並んで配置されなくてもよい。
【0085】
加えて、上述の第1実施形態、及び、その第1変形例では、アース線70(270)はフック状部材72(272)により糸掛け補助具60に対して着脱可能に装着することができる場合について説明したが、これには限定されない。すなわち、例えば
図9(a)、(b)に示す第1実施形態の第2変形例においては、アース線70は、フック状部材72(272)に替えて、開閉可能なリング状部材372により糸掛け補助具60に対して着脱可能に装着される。リング状部材372は、2つの円弧状部材372a、372bで構成されており、円弧状部材372aと円弧状部材372bとは軸372cによって互いに端部において接続されている。リング状部材372は、軸372cを中心に円弧状部材372a及び円弧状部材372bを回動させることで、
図9(a)に示すようにリング状となる閉状態と、
図9(b)に示すようにリングの一部が途切れた開状態とを取り得る。糸掛け補助具60に対して着脱する際にはリング状部材372を開状態とし、掛け補助具60への装着完了後はリング状部材372を閉状態とする。これにより、糸掛け作業中にアース線70が糸掛け補助具60から外れるのを防ぐことができる。なお、リング状部材372は、2つの円弧状部材372a、372bで構成されていることに限らない。カラビナのように1つの円弧状部材と1つの直線状部材で構成されてもよい。また、アース線70(270)は、糸掛け補助具60に対して取り外し不能に装着されていてもよい。
【0086】
また、上述の第1実施形態、及び、その第1変形例では、フック状部材72(272)をフレーム92に留めることで、アース線70全体をフレーム92に留めることができる場合について説明したが、フック状部材72(272)はフレーム92に留めることができる構成でなくてもよい。
【0087】
また、上述の第2実施形態においては、巻取機構175のケース175aに磁石171が貼り付けられており、磁石171をフレーム92に吸着固定することで、アース線170をフレーム92に取り付ける場合について説明した。アース線170をフレーム92に取り付ける手段は、これに限定されるものではない。例えば、巻取機構175のケース175aに設けられたフック状部材を、フレーム92に設けられた輪状部材に引っ掛けることで、アース線170をフレーム92に取り付けてもよい。
【0088】
加えて、上述の実施形態では、糸掛け補助具60を用いて糸ガイド20~24、及び、支点ガイド13に糸掛けを行う場合について説明したが、これには限定されない。糸掛け補助具60は、糸ガイド20~24、及び、支点ガイド13の少なくともいずれか1つに糸掛けを行う際に用いるものであればよい。
【0089】
上述の実施形態では、アース線70は、バネ性(伸縮性)を有している場合について説明したが、これに限定されるものではない。糸掛け作業時以外において糸10と干渉することがない位置にアース線70を留めておくことができ、且つ、糸掛け作業を行うことができるだけのアース線70の長さがあれば、バネ性(伸縮性)を有する構成でなくてもよい。
【符号の説明】
【0090】
1 紡糸引取機
2 紡糸装置
4 引取部
5 糸巻取装置
10 糸
13 支点ガイド(糸掛け部)
16~19 糸送りローラ
20~24 糸ガイド(糸掛け部)
60、160 糸掛け補助具
61、161 保持溝
70、170、270 アース線
71 磁石(第1取付部)
72 フック状部材(第2取付部、留め部)
92 フレーム
165 本体
171 磁石(取付部)
175 巻取機構
274a 輪状部材
275a 輪状部材(係合部)
271 フック状部材
372 リング状部材