(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-29
(45)【発行日】2022-08-08
(54)【発明の名称】電子スピン共鳴測定装置及び方法
(51)【国際特許分類】
G01N 24/10 20060101AFI20220801BHJP
【FI】
G01N24/10 520G
G01N24/10 520P
(21)【出願番号】P 2018161570
(22)【出願日】2018-08-30
【審査請求日】2021-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 貴之
【審査官】赤木 貴則
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-166891(JP,A)
【文献】特開平07-190966(JP,A)
【文献】特開2016-075665(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0328965(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0097832(US,A1)
【文献】Fukuda, K. and Asakawa, N.,Development of multi-frequency ESR/EDMR system using a rectangular cavity equipped with waveguide window,Review of Scientific Instruments,2016年11月11日,Vol. 87, Article No. 113106,pp. 1-5,doi:10.1063/1.4967712
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 22/00-G01N 22/04
G01N 24/00-G01N 24/14
G01R 33/00-G01R 33/64
G01N 27/72-G01N 27/9093
H01P 1/20-H01P 1/219
H01P 7/00-H01P 7/10
A61B 5/055
G01N 21/00-G01N 21/01
G01N 21/17-G01N 21/61
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
静磁場を発生する静磁場発生器と、
前記静磁場中に配置され、サンプルを収容する部材であって、マイクロ波が供給され、前記サンプルにおいて電子スピン共鳴を生じさせるキャビティと、
前記静磁場の掃引過程において前記電子スピン共鳴を測定するための複数の測定方法を循環的に実行する測定手段と、
を含
み、
前記複数の測定方法には第1測定方法及び第2測定方法が含まれ、
前記第1測定方法では前記キャビティに供給されるマイクロ波が変調され、
前記第2測定方法では前記静磁場が変調される、
ことを特徴とする電子スピン共鳴測定装置。
【請求項2】
静磁場を発生する静磁場発生器と、
前記静磁場中に配置され、サンプルを収容する部材であって、マイクロ波が供給され、前記サンプルにおいて電子スピン共鳴を生じさせるキャビティと、
前記静磁場の掃引過程において前記電子スピン共鳴を測定するための複数の測定方法を循環的に実行する測定手段と、
を含み、
前記複数の測定方法には第1測定方法及び第2測定方法が含まれ、
前記第1測定方法では前記キャビティに
マイクロ波が供給され
、且つ、前記キャビティからの反射波が観測され、
前記第2測定方法では
前記キャビティにマイクロ波が供給され、且つ、前記サンプルからの信号であって前記反射波とは異なる信号が観測される、
ことを特徴とする電子スピン共鳴測定装置。
【請求項3】
請求項
1に記載の電子スピン共鳴測定装置において、
前記マイクロ波の変調周波数の方が前記静磁場の変調周波数よりも低い、
ことを特徴とする電子スピン共鳴測定装置。
【請求項4】
請求項3に記載の電子スピン共鳴測定装置において、
前記第1測定方法において前記キャビティに供給されるマイクロ波の強度の方が前記第2測定方法において前記キャビティに供給されるマイクロ波の強度よりも大きい、
ことを特徴とする電子スピン共鳴測定装置。
【請求項5】
請求項
1に記載の電子スピン共鳴測定装置において、
前記測定手段は、
前記第1測定方法に対応した振幅変調信号と前記第2測定方法に対応した直流信号とを含むコンポジット信号を生成するコンポジット信号生成回路と、
前記第1測定方法の実行時に前記振幅変調信号に従って前記キャビティに供給されるマイクロ波を変調し、前記第2測定方法の実行時に前記直流信号のレベルに従って前記キャビティに供給されるマイクロ波の強度を設定するマイクロ波処理回路と、
前記第2測定方法の実行時に磁場変調信号を生成して当該磁場変調信号を磁場変調コイルへ供給する磁場変調信号生成回路と、
を含むことを特徴とする電子スピン共鳴測定装置。
【請求項6】
請求項5に記載の電子スピン共鳴測定装置において、
前記第1測定方法の実行時に、前記コンポジット信号の基本周波数に従って、前記サンプルから得られた測定信号に対して検波を行う第1検波回路と、
前記第2測定方法の実行時に、前記磁場変調信号の磁場変調周波数に従って、前記キャビティからの反射波信号に対して検波を行う第2検波回路と、
を含むことを特徴とする電子スピン共鳴測定装置。
【請求項7】
請求項6に記載の電子スピン共鳴測定装置において、
前記測定信号は、EDMR測定法で得られた測定信号、ODMR測定法で得られた測定信号及びLOD測定法で得られた測定信号の内の少なくとも1つである、
ことを特徴とする電子スピン共鳴測定装置。
【請求項8】
静磁場中に設置されるキャビティ内にサンプルを配置する工程と、
第1測定方法に対応した振幅変調信号を生成すると共に第2測定方法に対応した振幅設定信号を生成する工程と、
前記第1測定方法の実行時に前記振幅変調信号に従って前記キャビティに供給されるマイクロ波を変調する工程と、
前記第2測定方法の実行時に前記振幅設定信号に従って前記キャビティに供給されるマイクロ波の強度を設定すると共に、前記振幅変調信号が有する周波数よりも高い周波数で前記静磁場を変調する工程と、
を含むことを特徴とする電子スピン共鳴測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子スピン共鳴(Electron Spin Resonance:以下「ESR」ともいう。)測定装置に関し、特に、複数の測定方法で電子スピン共鳴を測定し得る装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電子スピン共鳴分光法では、静磁場の中に置かれたキャビティ内にサンプルが配置される。キャビティ内において、サンプル中の電子スピンに対して電磁波エネルギーが与えられる。その電磁波エネルギー(hν)と静磁場(Bo)によるゼーマンエネルギー(gμBo)とが一致したとき、サンプルにおいて電磁波エネルギーが吸収され、その現象が電子スピン共鳴として観測される。ここで、hはプランク定数であり、νは電磁波の周波数であり、gはg値であり、μは電子の磁気モーメントである。
【0003】
ESR測定装置において、静磁場方向をz軸としたとき、サンプル中の電子スピンはz軸方向に平行な磁化(Mz)を有する。その状態において、マイクロ波が供給され、また、静磁場が掃引される(具体的には静磁場の強さが変更される)。その過程において、共鳴条件が満たされると、y軸方向の振動磁化(横磁化)成分(My)が生じる。ESR測定装置において観測される一般的な「ESRスペクトル」(CW-ESRスペクトル)は、静磁場の強さの変化に対する振動磁化成分(My)の変化をプロットしたものである。
【0004】
電子スピン共鳴を上記とは別の測定信号として観測する幾つかの方法が提案されている(特許文献1を参照)。EDMR(Electrically Detected Magnetic Resonance)測定法では、サンプルを流れる電流が観測される。サンプルにおいて電子スピン共鳴が生じると、サンプルを流れる電流に変化が生じる。EDMR測定法では、そのような電流の変化が検出される。ODMR(Optically Detected Magnetic Resonance)測定法では、サンプルから出る光が検出される。サンプルにおいて電子スピン共鳴が生じると、サンプルから出る光の量に変化が生じる。ODMR測定法では、そのような光量の変化が検出される。LOD(Longitudinally detected)-ESR測定法(単に「LOD測定法」ともいう。)では、サンプルにおける縦磁化が検出される。縦磁化は、z軸方向の磁化成分(Mz)であり、上記のy軸方向の振動磁化成分(My)とは異なるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電子スピン共鳴を複数の測定方法で同時に測定できるならば、サンプルの物性を解析する上で貴重な情報を得られる。しかしながら、従来のESR測定装置は、基本的に、複数の測定方法で電子スピン共鳴を同時に測定できないものである。仮に、従来のESR測定装置を利用して、複数の測定方法で電子スピン共鳴を同時に測定したとしても、複数の測定方法の間において、マイクロ波強度や変調周波数等の測定条件を共通にするならば、それらの測定結果の全部を良好なものとすることはできない。
【0007】
本発明の目的は、複数の測定方法で、しかも各測定方法に適する測定条件で、電子スピン共鳴を測定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態に係る電子スピン共鳴測定装置は、静磁場を発生する磁場発生器と、前記静磁場中に配置され、サンプルを収容する部材であって、マイクロ波が供給され、前記サンプルにおいて電子スピン共鳴を生じさせるキャビティと、前記静磁場の掃引過程において前記電子スピン共鳴を測定するための複数の測定方法を循環的に実行する測定手段と、を含むことを特徴とするものである。
【0009】
上記構成によれば、静磁場の掃引過程において複数の測定方法が循環的に実行される。複数の測定方法が時分割で実行されるので、個々の測定方法の実行時に当該測定方法に適合する測定条件を設定することが可能となる。また、複数の測定方法を並列的に実行できるので、複数の測定結果の突き合わせに際して同時性を担保できる。複数の測定方法の循環的実行を円滑に遂行するために、特にマイクロ波を周期的に制御するために、実施形態においては後述するコンポジット信号が利用される。
【0010】
電子スピン共鳴を測定するための複数の測定方法には、望ましくは、キャビティからの反射波を観測する測定方法、及び、サンプルからの測定信号であって反射波とは異なる測定信号を観測する測定方法、が含まれる。3つ以上の測定方法が循環的に実行されてもよい。一般には、静磁場の掃引周期に対してかなり早いサイクルで複数の測定方法が循環的に実行される。測定手段は、キャビティや静磁場発生器等を除く、キャビティ周囲の構成に相当し、具体的には、複数の測定方法を実行するために必要となる回路、素子等により構成されるものである。
【0011】
実施形態において、前記複数の測定方法には第1測定方法及び第2測定方法が含まれ、 前記第1測定方法では前記キャビティに供給されるマイクロ波が変調され、前記第2測定方法では前記静磁場が変調される。第1測定方法及び第2測定方法のいずれにおいてもキャビティに対してマイクロ波(電磁波)が供給される。少なくとも第1測定方法ではマイクロ波が変調され、少なくとも第2測定方法では静磁場が変調される。実施形態においては、測定方法ごとに変調方式が動的に切り換えられる。
【0012】
実施形態においては、前記マイクロ波の変調周波数の方が前記静磁場の変調周波数よりも低い。また、実施形態においては、前記第1測定方法において前記キャビティに供給されるマイクロ波の強度の方が前記第2測定方法において前記キャビティに供給されるマイクロ波の強度よりも大きい。このように、実施形態においては、測定方法ごとに変調周波数及びマイクロ波強度が切り換えられる。
【0013】
実施形態においては、前記測定手段は、前記第1測定方法に対応した振幅変調信号と前記第2測定方法に対応した直流信号とを含むコンポジット信号を生成するコンポジット信号生成回路と、前記第1測定方法の実行時に前記振幅変調信号に従って前記キャビティに供給されるマイクロ波を変調し、前記第2測定方法の実行時に前記直流信号のレベルに従って前記キャビティに供給されるマイクロ波の強度を設定するマイクロ波処理回路と、前記第2測定方法の実行時に磁場変調信号を生成して当該磁場変調信号を磁場変調コイルへ供給する磁場変調信号生成回路と、を含む。
【0014】
コンポジット信号は、第1測定方法の実行時においてマイクロ波を振幅変調するための信号として機能し、第2測定方法の実行時において一定のマイクロ波強度を設定する信号として機能する。コンポジット信号が供給されるマイクロ波処理回路は、マイクロ波の振幅を動的に制御する回路であり、マイクロ波変調器及びマイクロ波強度調整器として機能する。
【0015】
実施形態においては、更に、前記第1測定方法の実行時に、前記コンポジット信号の基本周波数に従って、前記サンプルから得られた測定信号に対して検波を行う第1検波回路と、前記第2測定方法の実行時に、前記磁場変調信号の磁場変調周波数に従って、前記キャビティからの反射波信号に対して検波を行う第2検波回路と、が設けられる。コンポジット信号の基本周波数は、第1測定方法及び第2測定方法の各実行期間を定めるものである。実施形態において、前記測定信号は、EDMR測定法で得られた測定信号、ODMR測定法で得られた測定信号及びLOD測定法で得られた測定信号の内の少なくとも1つである。他の測定法が採用されてもよい。
【0016】
実施形態に係る電子スピン共鳴測定方法は、静磁場中に設置されるキャビティ内にサンプルを配置する工程と、第1測定方法に対応した振幅変調信号を生成すると共に第2測定方法に対応した振幅設定信号を生成する工程と、前記第1測定方法の実行時に前記振幅変調信号に従って前記キャビティに供給されるマイクロ波を変調する工程と、前記第2測定方法の実行時に前記振幅設定信号に従って前記キャビティに供給されるマイクロ波の強度を設定すると共に、前記振幅変調信号が有する周波数よりも高い周波数で前記静磁場を変調する工程と、を含むことを特徴とするものである。
【0017】
上記構成によれば、サンプルにおいて生じる電子スピン共鳴が複数の測定方法によって測定される。その際において、第1測定方法においては、マイクロ波が振幅変調され、第2測定方法においては、マイクロ波の強度が制御(例えば抑制)されつつ静磁場が変調される。望ましくは、静磁場の掃引過程において短周期で第1測定方法及び第2測定方法が循環的に実行される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、複数の測定方法で、しかも各測定方法に適する測定条件で、電子スピン共鳴を測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】ESR測定装置の第1参考例を示す図である。
【
図2】ESR測定装置の第2参考例を示す図である。
【
図3】ESR測定装置の第3参考例を示す図である。
【
図4】ESR測定装置の第4参考例を示す図である。
【
図5】ESR測定装置の第5参考例を示す図である。
【
図6】ESR測定装置の第6参考例を示す図である。
【
図7】第1実施形態に係る電子スピン共鳴測定装置を示す図である。
【
図8】基準信号、コンポジット信号及び磁場変調信号を示す図である。
【
図10】第1実施形態に係る測定結果を示す図である。
【
図11】第2実施形態に係るESR測定装置を示す図である。
【
図12】第3実施形態に係るESR測定装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
最初に幾つかの参考例を説明した上で、そこで生じる課題を整理し、その後に幾つかの実施形態について説明する。
【0021】
(1)参考例の説明
図1には、第1参考例として、一般的なESR測定装置の概要が示されている。図示されたESR測定装置はCW法に従って電子スピン共鳴を測定する装置である。
【0022】
測定対象であるサンプル10は、キャビティ12内に配置されている。キャビティ12にはマイクロ波が供給される。キャビティ12は空洞であり、マイクロ波に対して共振器として働く。なお、サンプル10は、気体、液体又は固体である。
【0023】
静磁場発生器14は、静磁場(B0)を生成する一対の電磁石コイル等によって構成される。静磁場は、少なくともサンプル10の周囲においてz軸方向に平行な磁場である。電子スピン共鳴を生じさせるために、静磁場の強度が掃引される。必要に応じて、その掃引が繰り返される。図示の構成例では、静磁場発生器14とサンプル10との間に、磁場変調コイル16が配置されている。磁場変調コイル16は、静磁場への重畳により静磁場を変調する変調磁場(振動磁場)を生成するものである。磁場変調コイル16には、磁場変調信号発生器24で生成された磁場変調信号が与えられている。マイクロ波発生器18は、マイクロ波を生成するものである。アッテネータ20は、生成されたマイクロ波のパワーつまり強度を調整する回路である。アッテネータを通過したマイクロ波がサーキュレーター22を介してキャビティ12へ導入されている。
【0024】
静磁場の掃引過程において、一定の共鳴条件が満たされると、サンプル内の電子スピンがマイクロ波と相互作用して共鳴状態となる。このとき、キャビティ12の同調バランスが崩れ、変調周波数で振動する反射波がキャビティ12から漏れ出す。キャビティ12から漏れ出た反射波は、サーキュレーター22を通って、マイクロ波検波器26へ送られ、そこで、マイクロ波の混合によって検波される。これによりオーディオ周波数帯域の信号が生成される。移相器28はマイクロ波の移相をシフトさせるものである。検波後の信号がアンプ30によって増幅された上で、例えばロックインアンプとして構成された位相検波器32に入力され、そこで位相検波される。位相検波器32においては、磁場変調信号発生器24で生成された参照信号がアンプ30から出力された信号に混合される。これにより検波後の信号としてDC信号が生成される。そのDC信号がA/D変換器34においてデジタル信号に変換され、変換後のデジタル信号がPC等の情報処理装置36に入力される。情報処理装置36においてはESRスペクトルが生成される。このESRスペクトルは、上記のように電子スピンによる磁化のy軸成分(横磁化)を表すものである。
【0025】
図2には、第2参考例として、EDMR(Electrically Detected Magnetic Resonance)測定法に従うESR測定装置の第1例が示されている。なお、各図の説明において、それ以前に説明した要素には同一符号を付しその説明を省略する。
【0026】
この方法では、以下に説明するように、CW法の下で、EDMRスペクトルが観測される。図示された第1例では、一般的なESR測定装置に対して幾つかの構成が付加されている。EDMR測定法において、サンプル38は、典型的には、半導体デバイスである。サンプル38には電源40によって電圧が印加されている。サンプル38の両端間の電圧がアンプ42によって検出されている。静磁場の掃引過程において、サンプルにおいて電子スピン共鳴が生じると、サンプル38を流れる電流が変化する。その電流の変化がアンプ42において電圧の変化として観測される。アンプ42から出力された検出信号が位相検波器44に送られる。検出信号に対して磁場変調信号(磁場変調信号発生器24より出力された参照信号)を混合することによって、検出信号が位相検波される。位相検波後の信号(DC信号)がA/D変換器46においてデジタル信号に変換され、そのデジタル信号が情報処理装置48へ送られる。情報処理装置48においてEDMRスペクトルが生成される。
【0027】
EDMRスペクトルは、上記ESRスペクトルと違って、磁気モーメントを直接反映したものではなく、磁気モーメントの変化に起因する電流経路(伝導度、電流パスなど)の変化を反映したものであり、それは磁化の情報であると同時に、電子スピンに起因した電流情報であると言い得る。
【0028】
なお、
図2に示す構成において、EDMRスペクトルの観測に際しては、マイクロ波検波器26、アンプ30、位相検波器32、A/D変換器34、情報処理装置36等の構成は機能しない。それらを機能させることは可能であるが、後述するように、同一測定条件の下で2つの測定方法を並列的に実行させると、様々な問題が生じ得る。
【0029】
図3には、第3参考例として、EDMR法に従うESR測定装置の第2例が示されている。上記の第2参考例では、磁場変調が適用されていたが、この第3参考例では振幅変調(AM変調)が適用されている。
【0030】
マイクロ波発生器18で生成されたマイクロ波はアッテネータ20を介してスイッチ52に送られている。スイッチ52には変調信号発生器50で生成された変調信号が入力され、その変調信号に従ってスイッチ52がオンオフ動作を行っている。これにより振幅変調されたマイクロ波がサーキュレーター22を介してキャビティ12へ供給されている。キャビティ12内には、上記第2参考例と同様に、半導体デバイス等によって構成されるサンプル38が配置されている。位相検波器44において、アンプ42からの検出信号に対して変調信号(変調信号発生器50より出力された参照信号)が混合され、これにより移相検波後の信号としてDC信号が生成されている。磁場掃引の過程において、サンプル38において電子スピン共鳴が生じると、サンプル38を流れる電流が変化し、その変化が検出信号の変化として観測される。その観測結果に基づいてEDMRスペクトルが生成される。
【0031】
EDMR法に従う第3参考例によれば、EDMR法に従う第2参考例に比べて、変位量を大きくとれるので、一般に、広帯域なEDMRスペクトルを感度良く計測することが可能である。また、磁場変調方式では半導体デバイスにおいて誘導起電力が生じ易いが、マイクロ波強度変調方式によれば、そのような誘導起電力が生じ難い。これにより、オフセットの増大によるロックインアンプの飽和を回避しやすいという利点が得られる。
【0032】
図4には、第4参考例として、ODMR(Optically Detected Magnetic Resonance)測定法に従うESR測定装置の第1例が示されている。EDMR法では、サンプル38を流れる電流が検出されていたが、ODMR法ではサンプル38で生じる発光の強度あるいはサンプル38を透過した光の強度が検出される。サンプル38に対しては電源40が接続されている。サンプル38の近傍には光検出器54が設けられており、そこからの検出信号がアンプ56を介して位相検波器44に送られている。位相検波器44において、検出信号に対して磁場変調信号(磁場変調信号発生器24より出力された参照信号)が混合され、これによって検出信号が位相検波される。位相検波後の信号に基づいてODMRスペクトルが生成される。この方法により得られる物理量は、光強度及び光エネルギー(波長)に関する情報である。
【0033】
図5には、第5参考例として、ODMR法に従うESR測定装置の第2例が示されている。上記の第4参考例では、磁場変調法が適用されていたが、この第5参考例では、
図3に示した第3参考例と同様に、マイクロ波振幅変調が適用されている。
図5に示されている個々の要素については既に説明したので、
図5の構成の説明は省略する。
【0034】
図6には、第6参考例として、LOD(Longitudinally Detected)測定法に従うESR測定装置が示されている。この方法では、電子スピンに起因する磁化の内で、静磁場方向と同じ方向の磁化成分(縦磁化)が検出され、LODスペクトル(LOD-ESRスペクトル)が生成される。サンプル10の周囲には、縦磁化を検出するLODコイル58が配置されている。LODコイル58は、縦磁化の変化に伴う誘導起電力を検知するものである。LODコイル58からの検出信号がアンプ60を介して位相検波器44に入力されている。位相検波器44では、検出信号に対して強度変調信号(変調信号発生器50より出力された参照信号)が乗算されており、その乗算結果に基づいてLOD-ESRスペクトルが生成されている。この第6参考例も、磁場掃引の過程において、サンプルにおいて生じる電子スピン共鳴に起因する検出信号の変化を観測するものである。
【0035】
LODスペクトルは、ESRスペクトルと同様に、電子スピンの磁気モーメントの情報を表すものである。もっとも、ESRスペクトルが静磁場に垂直なy軸方向の磁化成分を表しているのに対し、LODスペクトルは、z軸方向の磁化成分を表すものである。この方法は、電子スピンのT1情報(スピン格子緩和時間)を得るための手法として利用される。
【0036】
以上説明したEDMRスペクトル、ODMRスペクトル、及び、LODスペクトルは、いずれも電子スピン共鳴に起因するスペクトルであるが、それらに反映されている物理量は、ESRスペクトルが表している物理量とは本質的に異なっている。そこで、ESRスペクトルの観測と同時に、それ以外のスペクトルを同時に観測することが望まれる。
【0037】
例えば、ダイオードの物性の解析においては、電子スピンに依存する再結合電流の情報を得ることが望まれ、そのような情報は、EDMR測定法やODMR測定法により得られる。サンプルを流れる電流やサンプルにおいて生じる発光は、半導体のエネルギー準位中に存在する欠陥電子や一時的な電子スピンのペアに密接に関わるものである。一般に、半導体デバイス中には、意図的に又は非意図的に生じた格子欠陥が存在しており、不純物としての電子スピンを含有している。
【0038】
通常のESR測定では、デバイスの機能に関係する電子スピンも、その機能に無関係な電子スピンも、区別なく検出されてしまう。EDMR測定法やODMR測定法によれば、デバイスの動作に関連した電子スピンを選択的に計測することが可能となる。このような背景から、ESRと他の現象とを同時並行的に測定すること、しかも、それぞれの測定法に適合した測定条件で測定すること、が求められている。以下に説明する実施形態は、そのようなニーズに応えるものである。
【0039】
(2)実施形態の詳細説明
図7には、第1実施形態に係るESR測定装置が示されている。このESR測定装置は、EDMRスペクトルとESRスペクトルを時分割で同時に測定する装置である。換言すれば、この電子スピン共鳴測定装置は、第1測定方法としてのEDMR測定法と第2測定方法としてのESR測定法とをそれぞれに適する測定条件の下で同時に並列的に実行する装置である。
【0040】
具体的な構成の説明に先立って、各測定方法で採用される測定条件について説明しておく。実施形態においては、静磁場の掃引過程において、EDMR測定法とESR測定法とが短周期で交互に繰り返し実行される。EDMR測定法においては、静磁場の変調が停止された状態でマイクロ波が変調され、サンプルから得た測定信号がマイクロ波変調信号と同じ周波数を有する参照信号によって位相検波される。一方、ESR測定法の実行に際しては、マイクロ波の変調が停止された状態において静磁場が変調され、一定の強度(低強度)をもったマイクロ波がキャビティに供給される。キャビティからの反射波が磁場変調信号と同じ周波数を有する参照信号によって位相検波される。
【0041】
一般に、EDMR測定法において良好なSN比を得るためには、例えば、100~200mW程度の強いマイクロ波をキャビティに供給することが求められる。また、EDMRスペクトルにおいては線幅の広がり傾向が認められ、十分な信号強度を得るためには、変調磁場強度を大きく設定する必要がある。更に、サンプルとしてのデバイスの応答特性の性質上、変調周波数は、例えば、1kHz近傍に設定される。
【0042】
一方、ESR測定法において、マイクロ波の強度を大きくし、また、変調磁場強度を大きくすると、ESRスペクトルが飽和してしまい、また、ESRスペクトルにおいて過変調を原因とする歪が生じてしまう。ESR測定法で用いられる変調周波数は例えば100kHzである。
【0043】
一般に、EDMRスペクトルを磁場変調方式で測定すると、変動磁場による誘導起電力がデバイスとしてのサンプルに発生し、それにより生じた信号の周波数が変調周波数と同じであるため、ロックイン検波を適正に行えないという問題が生じ易い。それを回避するために、磁場変調に代えて、マイクロ波の振幅変調を採用することが望まれる。ところが、ESRスペクトル測定に際して、マイクロ波の振幅変調を適用すると、場合によっては、大きなオフセット成分の影響により、検波が困難になる。
【0044】
よって、2つの測定方法について、マイクロ波強度、変調方式、変調周波数等を個別的に設定することが望まれる。しかも、2つの測定方法を同期させて、それらを適正なタイミングで循環的に実行することが望まれる。
図7に示す第1実施形態、後に
図11に示す第2実施形態、及び、後に
図12に示す第3実施形態は、以上のような観点から、複数の測定方法をそれぞれに最適な測定条件の下で実行し得る構成を備えている。以下に具体的に説明する。
【0045】
図7に示す第1実施形態に係るESR測定装置において、サンプル70は、例えば、半導体デバイスである。サンプル70は、共振器としてのキャビティ72内に配置されている。サンプル70付近においては、静磁場発生器74により一様な静磁場が生成されている。静磁場発生器74は、電子スピン共鳴を生じさせるために、静磁場の強度を掃引する機能を備えている。サンプル70付近には静磁場に重畳される変調磁場を生成する磁場変調コイル76が配置されている。それはEDMR測定においては機能せず、ESRスペクトル測定において機能するものである。磁場変調コイル76は、キャビティ72の外側に配置され、あるいは、キャビティ72の内側に配置される。
【0046】
サンプル70に対して電圧を印加するために直流電源78が設けられている。スイッチ80の作用によって、電圧印加の有無を切り換えることが可能である。端子Aが選択された場合、サンプル70に対して電圧が印加される。例えば、太陽電池を観測する場合、逆スピンホール効果を観測する場合等においては、スイッチ80によって端子Bが選択される。サンプル70を流れる電流の変化が電圧の変化としてアンプ82によって検出される。アンプ82からEDMR検出信号134が出力される。
【0047】
第1実施形態に係るESR測定装置は、第1信号発生器84及び第2信号発生器86を備えている。第1信号発生器84は、コンポジット信号88及び基準信号90を生成する回路である。基準信号90は、位相検波を行うときの参照信号としても機能する。コンポジット信号88は基準信号90に同期した信号である。基準信号90はロジック信号であり、それは基本周波数としての第1変調周波数(fmod1)を有し、それは例えば数10~数kHzの周波数である。第1変調周波数は、マイクロ波の振幅変調における変調周波数となる。基準信号90における個々の1周期は、前半区間(H区間、EDMR測定期間)と後半区間(L区間、ESR測定期間)とにより構成され、前半区間においてはEDMR測定が実行され、後半区間においてはESR測定が実行される。基準信号90のデューティは図示の例において50%である。コンポジット信号88は、前半区間において振幅変調信号を有し、後半区間において低レベルをもった一定の直流信号を有する。振幅変調信号は緩やかな山状の形態を有し、それは後続の直流信号に滑らかに連なっている。振幅変調信号は例えばガウス分布状の形態を有し、それは急峻な立ち上がりや急峻な立ち下がり(つまり高周波成分)を有していないものである。
【0048】
第2信号発生器86は、第2変調周波数(fmod2)を有する正弦波信号94及びロジック信号96を生成するものである。第2変調周波数は、第1変調周波数よりも高く、それは例えば数十~数百kHzである。ロジック信号96のデューティは図示の例において50%である。第2変調周波数は、静磁場の変調周波数として利用される。スイッチング回路106は、基準信号90における後半区間つまりL区間だけ、正弦波信号94を通過させるものである。これにより個々の後半区間だけ機能する磁場変調信号108が生成される。磁場変調信号108がアンプ110を介して磁場変調コイル76へ供給される。これにより、後半区間において静磁場に対して変調磁場が重畳される。
【0049】
マイクロ波発生器98で生成されたマイクロ波がマイクロ波処理器100に入力されている。マイクロ波処理器100は、コンポジット信号に基づいて、マイクロ波の振幅を制御する回路である。具体的には、前半区間においては、振幅変調信号に従ってマイクロ波が振幅変調される。後半区間においては、直流信号に従ってマイクロ波の強度が一定に抑制される。このような処理を経たマイクロ波が、アンプ102及びサーキュレーター104を介して、キャビティ72に供給されている。
【0050】
静磁場の掃引中において、ESR共鳴条件を満足する磁場が生じると、マイクロ波とサンプルに含有される電子スピンとが相互作用し、キャビティ72における同調が崩れるため、キャビティ72からの反射波が生じる。その場合、個々の前半区間においては、マイクロ波変調周波数によって変調された反射波信号が得られ、個々の後半区間においては、磁場変調周波数によって変調された反射波信号が得られる。
【0051】
スイッチ128がオフ状態であり且つスイッチ114が端子Aを選択している場合、 キャビティ72からの反射波信号が、サーキュレーター104を経由して、マイクロ波検波器112に入力される。マイクロ波検波器112により、反射波信号がオーディオ周波数帯の信号に変換される。変換された信号がアンプ116を介して検出信号118としてロックインアンプ120に入力される。ロックインアンプ120は、磁場変調周波数を有するロジック信号96に基づいて、検出信号118を位相検波する回路である。ロックインアンプ120では、マイクロ波変調周波数を有する反射波信号成分が棄却され、磁場変調周波数を有する反射波信号成分が抽出される。ロックインアンプ120から出力される直流信号が情報処理装置122に入力される。情報処理装置122は、静磁場の掃引過程における直流信号のレベルをプロットすることにより、ESRスペクトル124を生成する。
【0052】
一方、スイッチ128がオン状態であり且つスイッチ114が端子Bを選択している場合、サーキュレーター104からの反射波信号が復調器130に入力される。復調器130は、検波器あるいはミキサーである。復調器130においては、反射波信号に対してマイクロ波が混合され、これによって、反射波信号が検波されて、それがオーディオ信号に変換される。符号126は移相器である。このような回路構成を利用すると、マイクロ波の位相調整がし易く、また、AFC(Automatic Frequency Control)機能を利用することが可能となる。
図7に示す構成では、マイクロ波検波器112と復調器130とが並列的に設けられていたが、いずれか一方のみを設けるようにしてもよい。
【0053】
一方、静磁場の掃引中に、ESR共鳴条件を満たす磁場が生じると、マイクロ波とサンプル70中の電流に関係する電子スピンとが相互作用し、サンプル70において、バイアス電流や誘導電流が変化する。すなわち、サンプルを流れる電流が変化する。その電流の変化がアンプ82によって検出され、アンプ82から検出信号134が出力される。検出信号134は、個々の前半区間では、マイクロ波変調周波数によって変調された信号となり、個々の後半区間では、磁場変調周波数によって変調された信号となる。検出信号134は、ロックインアンプ132に入力される。ロックインアンプ132において、マイクロ波変調周波数を有する基準信号90によって、検出信号134が位相検波される。すなわち、個々の前半区間において、マイクロ波変調周波数を有する検出信号成分が抽出される。一方、個々の後半区間において、磁場変調周波数を有する検出信号成分は棄却される。ロックインアンプ132から出力された直流信号が情報処理装置136に入力される。情報処理装置136は、静磁場の掃引過程において、変化する直流信号のレベルをプロットすることにより、EDMRスペクトル138を生成する。
【0054】
制御部139は、
図7に示されている各構成の動作を制御するものであり、それは例えば情報処理装置によって構成される。制御部139において、ESRスペクトル124及びEDMRスペクトル138の合成、突き合わせ、解析等が実行されてもよい。情報処理装置122,136及び制御部139が単一のコンピュータによって構成されてもよい。
【0055】
図8に示すタイミングチャートにおいて、(A)には基準信号90が示されている。(B)にはコンポジット信号88が示されている。(C)には磁場変調信号108が示されている。基準信号90が有する周波数はマイクロ波変調周波数である。基準信号90における各周期200は、既に説明したように、EDMR測定用の前半区間200AとESR測定用の後半区間200Bとからなる。コンポジット信号88は、前半区間200Aにおいて山状の波形を有し、それはマイクロ波振幅変調信号88Aを構成し、後半区間200Bにおいて平坦な信号であり、それはマイクロ波強度設定用の直流信号88Bを構成する。直流信号88Bのレベル(オフセット)202は任意に設定し得る。磁場変調信号108において、前半区間200Aは無信号区間204であり、後半区間200Bにおいて磁場変調周波数を有するバースト108Aが生じている。符号206は磁場変調周波数の1周期を示している。
【0056】
なお、上記説明では、前半区間においてEDMR測定が実行され、後半区間においてESR測定が実行されているが、それらが逆であってもよい。また第3測定が付加され、3つの測定方法が循環的に実行されてもよい。その場合には、第3測定のための回路が付加される。
【0057】
振幅変調用のパルスとして、矩形のパルスを用いると、検出信号中に多くの高周波成分が含まれてしまい、ロックイン検波を適正に行えず、EDMRスペクトルに無視できないビートノイズを重畳させてしまうおそれがある。これに対し、上記実施形態のように、振幅変調用のパルスとして、上記のようになだらかな形態を有するものを用いれば、上記問題が生じることを回避又は軽減できる。山状のパルスに代えて、急峻な変化を有しない他の形態をもったパルスを利用してもよい。また、直流信号88BによってESR測定期間においてマイクロ波の強度を調整でき、具体的には、その強度を低減できるから、ESRスペクトルが飽和してしまう問題を回避又は軽減できる。
【0058】
以上の第1実施形態によれば、静磁場の掃引過程において、短周期でEDMR測定とESR測定とを交互に繰り返し実行させることができる。EDMR測定においては、マイクロ波の強度が高められ、また、マイクロ波の振幅変調が適用され、その周波数として低周波数が設定される。一方、ESR測定においては、マイクロ波の強度が低減され、磁場が変調される。その周波数として高周波数が設定される。このように個々の測定方法ごとにそれに適合した測定条件を適用することが可能である。よって、EDMR測定及びESR測定をいずれも最適化することが可能となる。2つの測定方法が実質的に見て同時に並列実行されるので、測定の同時性を担保することも可能となる。すなわち、サンプルにおいて特定のタイミングで生じた現象を複数の測定方法をもって同時に観測することが可能である。
【0059】
図9には、比較例に係るEDMRスペクトル210及びESRスペクトル212が示されている。それらのスペクトル210,212は、
図2に示した構成によって、同一測定条件の下でEDMR測定及びESR測定を同時に実行することにより得られたものである。ESRスペクトル212における336mT付近に着目すると、マイクロ波のパワーが過剰であることに起因して飽和が生じており、つまり波形が潰れている。その両側のタブレット信号においては、磁場変調のかけ過ぎに起因して線幅の広がりが認められる。一方、
図10には、第1実施形態に係るEDMRスペクトル214及びESRスペクトル216が示されている。ESRスペクトル216における336mT付近に着目すると、マイクロ波のパワーが適切となったために、正常な波形が得られている。その両側のタブレット信号においても、適切な磁場変調により、正常な波形が得られている。EDMRスペクトル214においては、低周波数変調と高電力照射により、強い信号が得られている。
図9及び
図10の対比から明らかなように、第1実施形態によれば、良好なEDMRスペクトル214及び良好なESRスペクトル216を得られる。
【0060】
なお、
図7に示した構成において、個々の前半区間(ESR測定区間)において、ロックインアンプ120は、無信号を出力し続けることになり、検波後の信号の平均値が半減してしまう。これを避けるために、ロックインアンプ120において、複数の後半区間で飛び飛びに得られた複数の直流信号を連結し、連結後の直流信号を情報処理装置122へ送るようにしてもよい。
【0061】
図11には、第2実施形態に係るESR測定装置が示されている。
図7に示した構成と同一の構成には同一符号を付しその説明を省略する。
【0062】
第2実施形態に係るESR測定装置においては、ODMR測定とESR測定とが同時進行で実行される。サンプル70の近傍には光検出器140が設けられ、そこから検出信号が出力されている。その検出信号はマイクロ波振幅変調周波数によって変調されている信号である。その信号がアンプ142を介して検出信号144としてロックインアンプ132に入力されている。この第2実施形態では、個々の前半期間においてODMR測定が実行され、個々の後半期間においてESR測定が実行される。
【0063】
図12には、第3実施形態に係るESR測定装置が示されている。
図7に示した構成と同一の構成には同一符号を付しその説明を省略する。
【0064】
第3実施形態に係るESR測定装置においては、LOD測定とESR測定とが同時進行で実行される。キャビティ72の外側又は内側にはLOD検出コイル148が設けられ、アンプ150を介して、縦磁化の変化を表す検出信号がロックインアンプ132へ送られている。この第3実施形態では、個々の前半期間においてLOD測定が実行され、個々の後半期間においてESR測定が実行される。
【0065】
以上の各実施形態によれば、電子スピン共鳴を複数の測定方法の循環的実行によって測定することができ、特に、個々の測定方法の実行時に測定条件を最適化することが可能である。
【符号の説明】
【0066】
70 サンプル、72 キャビティ、74 静磁場発生器、76 磁場変調コイル、84 第1信号発生器、86 第2信号発生器、98 マイクロ波発生器、100 マイクロ波処理器、106 スイッチ、120 ロックインアンプ、132 ロックインアンプ。