IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社トプコンの特許一覧

特許7114423測量装置、測量装置の動作方法およびプログラム
<>
  • 特許-測量装置、測量装置の動作方法およびプログラム 図1
  • 特許-測量装置、測量装置の動作方法およびプログラム 図2
  • 特許-測量装置、測量装置の動作方法およびプログラム 図3
  • 特許-測量装置、測量装置の動作方法およびプログラム 図4
  • 特許-測量装置、測量装置の動作方法およびプログラム 図5
  • 特許-測量装置、測量装置の動作方法およびプログラム 図6
  • 特許-測量装置、測量装置の動作方法およびプログラム 図7
  • 特許-測量装置、測量装置の動作方法およびプログラム 図8
  • 特許-測量装置、測量装置の動作方法およびプログラム 図9
  • 特許-測量装置、測量装置の動作方法およびプログラム 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-29
(45)【発行日】2022-08-08
(54)【発明の名称】測量装置、測量装置の動作方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01C 15/00 20060101AFI20220801BHJP
【FI】
G01C15/00 103Z
G01C15/00 103A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018171196
(22)【出願日】2018-09-13
(65)【公開番号】P2020041962
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 陽
(72)【発明者】
【氏名】西田 信幸
【審査官】飯村 悠斗
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-198555(JP,A)
【文献】特開平06-323856(JP,A)
【文献】特開2014-137299(JP,A)
【文献】特開2017-067710(JP,A)
【文献】特開2018-128291(JP,A)
【文献】特開2012-063167(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 15/00
G01B 11/00-11/30
G01C 3/00- 3/32
G01S 7/48- 7/51
G01S 17/00-17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測距用のレーザー光を用いた測量を行うための光学系を備え、水平回転が可能な回転部と、
前記水平回転を行うための水平回転駆動部と、
前記水平回転駆動部による前記回転部の回転の前後における前記測距用のレーザー光を用いた測量による測量データを比較することで、前記回転部の回転誤差を検出する回転誤差検出部と
を備え、
前記水平回転駆動部による前記回転は、回転前と回転後における前記光学系の向きを一致させる回転である測量装置。
【請求項2】
前記回転部の回転の前後における前記測距用のレーザー光を用いた前記測量は、同じ反射プリズムを対象に行われる請求項1に記載の測量装置。
【請求項3】
測距用のレーザー光を用いた測量を行うための光学系を備え、水平回転が可能な回転部と、
前記水平回転を行うための水平回転駆動部と
を備えた測量装置の動作方法であって、
前記水平回転駆動部により、回転前と回転後における前記光学系の向きを一致させる回転を前記回転部に行わせ、
前記回転部の前記回転の前後における前記測距用のレーザー光を用いた測量による測量データを比較することで、前記回転部の回転誤差を検出する測量装置の動作方法。
【請求項4】
測距用のレーザー光を用いた測量を行うための光学系を備え、水平回転が可能な回転部と、前記水平回転を行うための水平回転駆動部とを備えた測量装置の動作をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、
前記水平回転駆動部により、回転前と回転後における前記光学系の向きを一致させる回転を前記回転部に行わせ、
前記回転部の前記回転の前後における前記測距用のレーザー光を用いた測量による測量データを比較することで、前記回転部の回転誤差を検出するプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転駆動部を備える測量装置の異常を検知する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
測量対象(ターゲット)の位置(距離および方向)を測距光等により測量する装置として、トータルステーションが知られている(例えば、特許文献1を参照)。また、トータルステーション等の測量装置は、測距光軸を測定対象物に向けるため、本体部を回転させる回転駆動部を備える(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5628648号
【文献】特開2014-137299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
測量対象(ターゲット)を測量することで、ターゲットの位置データ(ターゲットまでの距離およびターゲットの方向)を得る測量装置(例えば、トータルステーション(TS))は、測距光軸を測定対象物に向けるための回転機構として、水平回転駆動部および鉛直回転駆動部等の回転駆動部を備える。例えば、水平回転駆動部は、本体部を水平回転させることで、全周スキャン等の周囲360°の測量を可能にしている。このように、回転駆動部は、測量を行う上では必要不可欠であり、回転駆動部に問題が生じた場合、高精度の測量の実現は難しくなる。そこで、本発明は、測量装置およびその回転駆動部の状況を確認することで、高精度な測量の実現を阻害する要因を防止する技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、測距用のレーザー光を用いた測量を行うための光学系を備え、水平回転が可能な回転部と、前記水平回転を行うための水平回転駆動部と、前記水平回転駆動部による前記回転部の回転の前後における前記測距用のレーザー光を用いた測量による測量データを比較することで、前記回転部の回転誤差を検出する回転誤差検出部とを備え、前記水平回転駆動部による前記回転は、回転前と回転後における前記光学系の向きを一致させる回転である測量装置である。
【0006】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記回転部の回転の前後における前記測距用のレーザー光を用いた前記測量は、同じ反射プリズムを対象に行われることを特徴とする。
【0007】
請求項3に記載の発明は、測距用のレーザー光を用いた測量を行うための光学系を備え、水平回転が可能な回転部と、前記水平回転を行うための水平回転駆動部とを備えた測量装置の動作方法であって、前記水平回転駆動部により、回転前と回転後における前記光学系の向きを一致させる回転を前記回転部に行わせ、前記回転部の前記回転の前後における前記測距用のレーザー光を用いた測量による測量データを比較することで、前記回転部の回転誤差を検出する測量装置の動作方法である。
【0008】
請求項4に記載の発明は、測距用のレーザー光を用いた測量を行うための光学系を備え、水平回転が可能な回転部と、前記水平回転を行うための水平回転駆動部とを備えた測量装置の動作をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、前記水平回転駆動部により、回転前と回転後における前記光学系の向きを一致させる回転を前記回転部に行わせ、前記回転部の前記回転の前後における前記測距用のレーザー光を用いた測量による測量データを比較することで、前記回転部の回転誤差を検出するプログラムである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、測量装置による測量の開始前に、装置およびその回転駆動部の状況の確認を行うことで、人為的なミスや装置のトラブルを未然に防ぐことが可能となる。例えば、本発明をトータルステーションに用いるのならば、本体部と回転駆動部の固定がなされていない場合や回転駆動部の故障による動作不良が発生している場合等による異常を検出することができる。それにより、測量精度の維持または向上に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態の概念図である。
図2】トータルステーションの斜視図である。
図3】トータルステーションの正面図である。
図4】トータルステーションのブロック図である。
図5】回転誤差検出部のブロック図である。
図6】処理の一例を示すフローチャートである。
図7】トータルステーションが備える上盤部および基盤部の斜視図である。
図8】トータルステーションが備える基盤部の平面図である。
図9】回転誤差検出部のブロック図である。
図10】処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.第1の実施形態
(概要)
ここでは、測量装置としてトータルステーション(TS)を対象とし、TSが備える回転駆動部の動作に関連する異常有無の検出を行う実施形態を説明する。
【0018】
図1は、本実施形態の概念図である。図1には、TS100が反射プリズム200に対して、レーザー光を照射することで測量を行っている様子が示されている。一般に、反射プリズム200は測定対象物に備えられ、TS100は反射プリズム200にレーザー光を照射することによって、測定対象物の測量を行う。しかしながら、本発明の実施においては、反射プリズム200が測定対象物に備えられているか否かは、問題とならない。
【0019】
(トータルステーションの構成)
図2には、図1に示すTS100の斜視図が示され、図3には、正面図が示されている。TS100は、ターゲット(または、ターゲットに備えられる反射プリズム)を探索する探索用レーザースキャン機能、および探索したターゲット(ターゲットに備えられる反射プリズム)を自動視準するための機構を備える。
【0020】
この自動視準のための機構は、後述する機能部である、追尾光の送受信部を構成する追尾光受光部104、追尾光受光部105、追尾光を用いた視準を行うためのモータ駆動機構を構成する水平回転駆動部106と鉛直回転駆動部109に加え、自動追尾の制御を行う演算制御部113を有することで自動追尾が可能である。また、自動視準および自動追尾を行うTSは、特に自動視準追尾トータルステーション(モータドライブトータルステーション:MDTS)と呼ばれる。なお、TS100が自動視準のための機構を有することで、ユーザーがターゲットを視準する作業を大幅に削減できる。
【0021】
また、TS100は、測距用レーザー光を用いてターゲットまでの距離を測距するレーザー測距機能、レーザー測距されたターゲットの方向(水平角と鉛直角(仰角または俯角))を計測する機能、ターゲットまでの距離と方向からターゲットの三次元位置(座標)を算出する機能(測位機能)を有する。
【0022】
TS100は、本体部11を有している。本体部11は、基盤部12に水平回転(Z軸を中心とした回転)が可能な状態で保持されている。基盤部12は図示しない三脚の上部に固定される。本体部11は、Y軸の方向から見て上方に向かって延在する2つの延在部を有する略コの字形状を有し、この2つの延在部の間に可動部13が鉛直角(仰角および俯角)の制御が可能な状態で保持されている。
【0023】
本体部11は、基盤部12に対して電動で回転する。すなわち、本体部11は、モータにより基盤部12に対する水平回転角の角度制御が行われる。また、可動部13は、モータにより鉛直角の角度制御が行なわれる。この水平回転角と鉛直角の角度制御のための駆動は、本体部11に内蔵された水平回転駆動部106および鉛直回転駆動部109(図4のブロック図を参照)により行われる。また、水平回転駆動部106については、基盤部12に内蔵されるものであってもよい(例えば、特開2014-137299号公報に記載の測量機器が、これに該当する)。なお、水平回転駆動部106および鉛直回転駆動部107についての説明は後述する。
【0024】
本体部11には、水平回転角制御ダイヤル14aと鉛直角制御ダイヤル14bが配置されている。水平回転角制御ダイヤル14aを操作することで、本体部11(可動部13)の水平回転角の調整が行なわれ、鉛直角制御ダイヤル14bを操作することで、可動部13の鉛直角の調整が行なわれる。
【0025】
可動部13の上部には、大凡の照準を付ける角筒状の照準器15aが配置されている。また、可動部13には、照準器15aよりも視野が狭い光学式の照準器15bと、より精密な視準が可能な望遠鏡16が配置されている。
【0026】
照準器15bと望遠鏡16が捉えた像は、接眼部17を覗くことで視認できる。望遠鏡16は、測距用のレーザー光と測距対象(例えばターゲットとなる専用の反射プリズム)を追尾および捕捉するための追尾光の光学系を兼ねている。測距光と追尾光の光軸は、望遠鏡16の光軸と一致するように光学系の設計が行なわれている。
【0027】
本体部11には、ディスプレイ18と19が取り付けられている。ディスプレイ18は、後述する操作部111と一体化されている。ディスプレイ18と19には、TS100の操作に必要な各種の情報や測量データ等が表示される。前後に2つディスプレイがあるのは、本体部11を回転させなくても前後のいずれの側からでもディスプレイを視認できるようにするためである。なお、説明したTSの詳細な構造については、例えば特開2009-229192号公報、特開2012―202821号公報に記載されている。
【0028】
図4は、TS100のブロック図である。TS100は、測距部101、追尾光発光部102、追尾光受光部103、水平角検出部104、鉛直角検出部105、水平回転駆動部106、鉛直回転駆動部107、表示部108、操作部109、記憶部110、通信部111、演算制御部112を備えている。
【0029】
測距部101は、測距用レーザー光を用いたターゲットまでの距離の計測を行う。測距部101は、測距用レーザー光の発光素子、照射光学系、受光光学系、受光素子、測距演算部、測距基準光の光路を備えている。測定対象までの距離は、測定対象から反射された測距光と基準光の位相差から算出される。距離の算出方法は、通常のレーザー測距と同じである。
【0030】
追尾光発光部102および追尾光受光部103は、三角錐型または扇形ビームを有した探索用レーザー光を用いた反射プリズムの探索を行う。反射プリズムは、探索対象(視準目標)に備えられ、反射プリズムが探索およびレーザー照射対象となることで、探索対象(視準目標)の自動視準が行われる。すなわち、追尾光発光部102が発光した探索用レーザー光を反射プリズムに照射し、その反射光を追尾光受光部103の受光素子の中心に位置するよう制御することで、視準目標を追尾する。
【0031】
水平角検出部104および鉛直角検出部105は、測距部101が測距したターゲットの水平方向角と鉛直方向角(仰角および俯角)を計測する。測距部101、追尾光発光部102および追尾光受光部103の光学系を備えた筐体部分は、水平回転および仰角(俯角)制御が可能であり、水平方向角と鉛直方向角は、エンコーダにより計測される。このエンコーダの出力が水平角検出部104および鉛直角検出部105で検出され、水平方向角と鉛直方向角(仰角および俯角)の計測が行われる。
【0032】
水平回転駆動部106および鉛直回転駆動部107は、測距部101、追尾光発光部102および追尾光受光部103の光学系を備えた筐体部分の水平回転および仰角制御(および俯角制御)を行うモータ、該モータの駆動回路、該駆動回路の制御回路を含む。
【0033】
表示部108は、TS100を扱うユーザー等に対して、その処理結果等を視覚的に認識できる状態、例えば、GUI(Graphical User Interface)等の技術により、情報の提供または表示を行う。操作部109は、テンキーや十字操作ボタン等が配され、TS100に係る各種の操作やデータの入力が行なわれる。また、表示部108および操作部109は、ユーザーが情報表示画面をタッチすることで動作するタッチパネル方式を採用することによって、一体化可能である。なお、ディスプレイ18および19は、表示部108に該当する。
【0034】
記憶部110は、TS100の動作に必要な制御プログラム、各種のデータ、測量結果等を記憶する。通信部111は、通信部111が備えられる装置以外の装置との間で、各種情報およびデータの送受信を行う機能部であって、無線通信機能、有線通信機能および光通信機能のうち少なくとも一つを備える。
【0035】
演算制御部112は、TS100の各種動作制御に係わる演算処理および記憶部110に記憶するデータの管理の制御を行う。また、演算制御部112は、後述する回転誤差検出部300を備える。したがって、演算制御部112は、回転誤差検出部300の処理に応じて、TS100を動作させることができる。
【0036】
演算制御部112は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)に代表されるPLD(Programmable Logic Device)などの電子回路により構成される。また、一部の機能を専用のハードウェアで構成し、他の一部を汎用のマイコンにより構成することも可能である。
【0037】
演算制御部112の各機能部を専用のハードウェアで構成するのか、CPUにおけるプログラムの実行によりソフトウェア的に構成するのかは、要求される演算速度、コスト、消費電力等を勘案して決定される。なお、機能部を専用のハードウェアで構成することとソフトウェア的に構成することは、特定の機能を実現するという観点からは、等価である。加えて、各機能部を装置として実現することも等価である。
【0038】
(回転誤差検出部の構成)
回転誤差検出部300は、回転機能を有する装置に用いるものであって、回転実施前後の取得データの差異から、装置の回転時における異常の存在を検出するものである。装置の回転時における異常の原因は、例えば、装置の各部が固定されていないため回転前後で回転部と本体部の位置にズレが生じている、装置の回転制御が正しく行われていない等が挙げられる。
【0039】
図5に、回転誤差検出部300のブロック図を示す。回転誤差検出部300は、データ取得信号生成部301、データ受付部302、試験回転信号生成部303、データ判定部304を有する。
【0040】
データ取得信号生成部301は、回転を実施することで異常の有無を調べたい装置(以下、対象装置)に対して、異常の有無を判定するためのデータを回転実施の前後で取得させる動作を行わせる信号を生成する。ここで、データ取得信号生成部301が対象装置に取得させるデータは、本実施形態のようにTSを対象装置とするならば、回転前および回転後の反射プリズムの測角データ(TSに対する反射プリズムの角度)となる。
【0041】
データ受付部302は、データ取得信号生成部301の機能によって対象装置が取得したデータおよび対象装置が持つ各種データを受け付ける。本実施形態の場合ならば、回転前および後の反射プリズムの測角データをTSから受け付ける。
【0042】
試験回転信号生成部303は、対象装置に試験回転を実施させる信号を生成する。ここで、試験回転とは、対象装置の回転時における異常の有無を確認するために行う回転を指す。
【0043】
試験回転の方法および方向に制限はないが、回転方向の角度を十分に変化(例えば、合計で360°以上の変化)させ、かつ回転角の合計が360N°(Nは整数)となるように回転させることが望ましい。その理由としては、回転により角度を十分に変化させない場合、対象装置に変化が生じず、軽微な異常が検知できない可能性があるためである。そして、回転角の合計が360N°(Nは整数)とならないように回転させた場合、回転前の対象装置の向きとの角度の差を勘案しなければならず、後述するデータ判定部304での判定が複雑になるためである。
【0044】
例えば、TS100の水平回転時における異常の有無を確認するための試験回転ならば、高速で任意の角度(270°以上)を回転させた後、再度後方へ振り向き(90°~180°の角度の回転)、回転前のTS100の向きと一致させるような回転動作を行う。
【0045】
データ判定部304は、データ受付部302が受け付けたデータから対象装置の状態を判定する。本実施形態であるならば、試験回転前に対象装置が取得したデータと試験回転後に対象装置が取得したデータとを比較し、その差異が規定以上ならば、対象装置に異常が存在すると判断する。なお、判定基準となる規定(または、規定値)は、任意に決定されるものでよい。データ判定部304は、ユーザーによって、任意に決定される規定を受け付ける判定基準受付部を備える構成としてもよい。
【0046】
回転誤差検出部300は、図示しない記憶部や通信部を備える構成であってもよい。そして、回転誤差検出部300は、対象装置に備えられる機能部としてではなく、別個装置として実装してもよい。
【0047】
回転誤差検出部300は、通信部を備えることで、対象装置を介さず、外部装置と通信が可能になる。また、回転誤差検出部300を対象装置とは別個の装置として実装した場合において、対象装置との通信手段となる。
【0048】
回転誤差検出部300は、記憶部を備えることで、対象装置に備えられる記憶部を介さず、処理が可能になる。そして、回転誤差検出部300を対象装置とは別個の装置として実装した場合において、回転誤差検出部300が行う処理に必要なデータを記憶する手段となる。
【0049】
(処理の一例)
本実施形態において、回転誤差検出部300が行う処理の一例を図6に示す。ここでは、TS100が試験回転として水平回転(図2および図3におけるZ軸を中心とした回転)を行うことで、異常の有無を確認する場合の処理を示す。
【0050】
まず、回転誤差検出部300は、データ取得信号生成部301の機能により、TS100に反射プリズム200を探索および測角させる(ステップS101)。次に、回転誤差検出部300は、データ受付部302の機能により、ステップS101において、TS100が反射プリズムの測角で得た測角データを受け付ける(ステップS102)。次に、回転誤差検出部300は、試験回転信号生成部303の機能により、TS100に水平方向駆動部106を駆動させ、水平方向に試験回転(図2および図3におけるZ軸を中心とした回転)をさせる(ステップS103)。この試験回転では、例えば、上方から見て、時計回りに270°回転→停止→更に時計回りに90°回転を行う。
【0051】
そして、試験回転実施後、回転誤差検出部300は、データ取得信号生成部301の機能により、反射プリズム200の測角を再度行い、試験回転後の測角データを得る(ステップS104)。次に、回転誤差検出部300は、データ受付部302の機能により、ステップS104において、TS100が反射プリズムの測角で得た測角データを受け付ける(ステップS105)。
【0052】
最後に、回転誤差検出部300は、データ判定部304の機能により、ステップS102において受け付けた試験回転前の測角データとステップS104において受け付けた試験回転後の測角データから、その2つの水平角を比較し、水平角の差が規定値以下ならば、異常なしと判定し、規定値以上ならば、異常ありと判定する(ステップS106)。以上で処理は終了となる。判定の結果は、報知部として機能する表示部108に表示され、回転動作に係る異常の有無についてユーザーへの報知が行われる。この報知情報をTS100が備える通信部111および回転誤差検出部300が備える通信部(図示省略)の機能により、無線で他の機器に送信する形態も可能である。
【0053】
なお、上述のステップS101からステップS106の処理では、ステップS102およびステップS105の2回に分けて、測角データを取得したが、ステップS102の処理を行わず、ステップS105の処理の際に、試験回転後の測角データに加え、試験回転前の測角データも受け付ける処理としてもよい。
【0054】
(変形例1)
上述のステップS101からステップS106の処理においては、水平方向に試験回転を行ったが、鉛直方向に試験回転を行うこともできる。この場合は、ステップS103において、鉛直方向に試験回転(図2および図3におけるX軸を中心とした回転)を行い、ステップS106において、試験回転前後の鉛直角を比較することで行うことができる。
【0055】
(変形例2)
また、本発明の実施において、対象装置となるものは、回転駆動部を備え、回転実施前後で比較するためのデータを取得できる装置であればよく、TSに限られるものではない。例えば、回転駆動部を備えるレーザースキャナ等の測量装置や写真撮影用カメラおよびビデオカメラ等の撮影装置であっても実施の可能性がある。
【0056】
レーザースキャナで、本発明を実施するならば、レーザースキャナが測量する点群データに三次元座標情報が付与されていることを利用し、任意の点群データにおいて、試験回転前と後の三次元座標を比較して、その差から固定状況を確認してもよい。
【0057】
写真撮影用カメラおよびビデオカメラ等の撮影装置で、本発明を実施するならば、試験回転前と後の写真画像または撮影動画におけるカメラの外部標定要素(カメラの位置および傾き)を算出し、算出された外部標定要素の差から固定状況を確認してもよい。
【0058】
2.第2の実施形態
(概要)
第1の実施形態で示した、試験回転の実施により対象装置の異常の有無を確認する方法は、他の対象装置の異常の有無を確認する方法と組み合わせることで、より効果を高めることができる。そこで、本実施形態では、TSの本体部と水平回転駆動部とを固定する締め込みネジの締め込みを確認する方法を例として説明する。なお、本実施形態において、TS100、反射プリズム200および回転誤差検出部300については、特に言及のない場合、第1の実施形態と同様とする。
【0059】
(TSの構成)
図2および図3に示すTS100の本体部11は、上盤部20に対して回転可能な状態で結合している。上盤部20は、三脚等の上部に固定された基盤部12に結合される。通常、TS100が運搬される状態では、上盤部20と基盤部12は分離されている。そして、測量現場にTS100が設置される段階で、本体部11下部の上盤部20が基盤部12に固定される。この様子が図7に示されている。
【0060】
図7に示すように、本体部11が備える上盤部20には、下方に突出した突起部21が複数(この例では3つ)設けられ、基盤部12には、突起部21が挿入される挿通孔22が設けられている。上盤部20と基盤部12は、突起部21を挿通孔22へ挿入することで、結合される構造となっている。
【0061】
図8は、図2図3および図7に示す基盤部12を上方から見た平面図である。図8に示すように基盤部12には、外側から内側に貫通するネジ孔が形成され、このネジ孔に締め込みネジ23が捩じ込まれる。すなわち、締め込みネジ23は、基盤部12側を雄とし、基盤部12と結合された上盤部20を雌とする締め込みが行われる。上盤部20の締め込みネジ23の締め込み先に対応する部分には、凹部20aが設けられている。上盤部20と基盤部12を結合した状態で、締め込みネジ23を回転させ、その先端を凹部20aに突き当てることで、基盤部12に対する上盤部20の位置決めが行われる。この構造により、上盤部20と基盤部12(すなわち、本体部11と基盤部12)を固定し、回転駆動部の動作時の本体部11の揺れ、および基盤部12に対する上盤部20のガタやズレの発生を抑制することができる。
【0062】
なお、この締め込みネジ23を締め込まないまま、あるいは締め込みが不十分なままTS100が測定対象物の自動視準や自動追尾のために回転動作をすると、本体部11の揺れ等により、水平角の測量に誤差が生じてしまい、高精度な測量の実現が難しくなってしまう。このため、TS100の基盤部12への設置時に、締め込みネジ23をしっかりと締め付ける必要がある。
【0063】
そこで、本実施形態では、以下に説明するように、締め込みネジ23の締め込みが確実に行われているか否かを判定する構成としている。本実施形態において、締め込みネジ23は、その先端が電気的なスイッチ(例えば、普段はスイッチが開放されているが、締め込みネジ23が締め込まれるとスイッチが短絡されるa接点)になっている。そして、上盤部20(または本体部11)には、締め込みネジ23をスイッチとする電気回路を備え、演算制御部112において電気信号の管理を行うシーケンス回路が備えられる。
【0064】
すなわち、締め込みネジ23をa接点として実装するならば、正常に締め込みネジ23の締め込みが行われることで、電気回路が形成される。そして、電気回路が形成されたことにより発生した電気信号が演算制御部112に設けられた接触検出部400で検出され、締め込みネジ23の締め込みが確認できる。さらに、演算制御部112の機能により、表示部18および19に締め込みネジ23の締め込みが正常に行われた旨を表示(報知)させることができる。
【0065】
(回転誤差検出部の構成)
本実施形態において、回転誤差検出部300は、図9に示すように、図5に示す構成に加え、異常認証表示制御部305を備える。異常認証表示制御部305は、GUIの制御を行うものであって、TS100のディスプレイ18および19に表示される情報を制御することで、ユーザーに表示画面上で異常の有無を確認させる機能を制御する。また、異常認証表示制御部305は、ユーザーが音声によって、異常の有無を確認する機能を制御するものであってもよい。
【0066】
なお、本実施形態においては、データ受付部302は、TS100が計測した試験回転前後の反射プリズム200の測角データに加え、S100の演算制御部112が持つ締め込みネジ23が締め込まれているか否かの情報を受け付ける。そして、データ判定部304は、試験回転前後の測角データの比較判定に加え、締め込みネジ23が締め込まれているか否かの情報に応じた判定も行う。
【0067】
(処理の一例)
本実施形態において、回転誤差検出部300が行う処理の一例を図10に示す。ここでは、回転誤差検出部300が、ユーザーによる締め込みネジ23の締め忘れを防止する装置として機能させる場合を説明する。
【0068】
まず、回転誤差検出部300は、異常認証表示制御部305の機能により、TS100のディスプレイ18および19に、ユーザーが締め込みネジ23の締め込みを行ったか確認する画面を表示させ、ユーザーに確認をさせる(ステップS201)。
【0069】
次に、回転誤差検出部300は、データ受付部302の機能により、TS100の演算制御部112から、締め込みネジ23が締め込まれているか否かの情報を受け付ける(ステップS202)。そして、回転誤差検出部300は、データ判定部304の機能により、判定を行い、締め込みネジ23が締め込まれていないと判定されたのならば、ステップS204へ進む処理を行い、締め込まれていると判定されたのならば、ステップS205へ進む処理を行う(ステップS203)。
【0070】
回転誤差検出部300は、異常認証表示制御部305の機能により、TS100のディスプレイ18および19に、ユーザーに締め込みネジ23の締め込み確認を行う旨のメッセージを表示させ、ユーザーに再確認を促す。そして、ユーザーによる再確認後はステップS202へ戻る(ステップS204)。
【0071】
ステップS101~ステップS105と同様の処理を行う(ステップS205)。次に、ステップS205の処理により得られた試験回転後の測角データから、その2つの水平角を比較し、水平角の差が規定値以下ならば、締め込みネジ23の締め忘れ等はないと判定し、処理を終える。そして、水平角の差が規定値より上ならば、締め込みネジ23の締め忘れ、または締め込みが足りない等が発生していると判定する(ステップS206)。
【0072】
ステップS206において、締め込みネジ23の締め忘れ、または締め込みが足りない等が発生していると判定された場合、TS100のディスプレイ18および19に、ユーザーに締め込みネジ23の締め込みの確認を行う旨のメッセージを表示させ、ユーザーに再確認を促す(ステップS207)。以上で処理を終える。
【0073】
本実施形態では、TS100の締め込みネジ23の締め込みの確認を行う処理の説明をしたが、ステップS201からステップS204までの処理を締め込みネジ21の締め込みの確認とし、ステップS205からステップS207はTS100等の装置側に起因する異常(装置の回転駆動部の故障)の検出とする形態も可能である。また、ステップS207において、規定値より上であった場合は、締め込みネジ23の締め込み具合によるもの以外に予想され得る要因を対象装置の表示部に列挙し、それを一つ一つ、ユーザーに確認させるものであってもよいし、ユーザー確認後、ステップS205へ戻る処理としてもよい。
【0074】
また、本実施形態では、ユーザーがディスプレイに表示された情報を確認しながら処理を進める例を示したが、ユーザーの確認を要しない処理を行うこともできる。その場合は、ステップS201、ステップS204およびステップS207は行わず、下記のような処理を行う。
【0075】
まず、ステップS202を行う。次いで行うステップS203の処理で行われる判定において、締め込みネジ21が締め込まれていないと判定されたのならば、その旨をディスプレイ18および19に表示して処理を終える。なお、締め込みネジ23が締め込まれていると判定されたのならば、ステップS205へ進み、続けてステップS206を行う。最後に、ステップS206で行われる判定の結果をディスプレイ18および19に表示して処理を終える。
【0076】
(優位性)
ユーザーは、本発明を実施することで、装置の回転動作に関連する異常や人為的なミスを、測量前に検知できる。加えて、本発明は、測量データを用いて検知するため、人間が見落としがちな軽微な異常も検知可能である。したがって、軽微な異常も事前に検知することで、高精度な測量の実現に寄与できる点が本発明の優位性である。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、測量の分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0078】
11…本体部、12…基盤部、13…可動部、14a…水平回転角制御ダイヤル、14b…鉛直回転角制御ダイヤル、15a…照準器、15b…照準器、16…望遠鏡、17…接眼部、18…ディスプレイ、19…ディスプレイ、20…上盤部、20a…凹部、21…突起部、22…挿通孔、23…締め込みネジ、100…TS、101…測距部、102…追尾光発光部、103…追尾光受光部、104…水平角検出部、105…鉛直角検出部、106…水平回転駆動部、107…鉛直回転駆動部、108…表示部、109…操作部、110…記憶部、111…通信部、112…演算制御部、200…反射プリズム、300…回転誤差検出部、301…データ取得信号生成部、302…データ受付部、303…試験回転信号生成部、304…データ判定部、305…異常認証表示制御部、400…接触検出部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10