(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-29
(45)【発行日】2022-08-08
(54)【発明の名称】酸性飲料及び酸性飲料の風香味の維持方法
(51)【国際特許分類】
A23L 2/68 20060101AFI20220801BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20220801BHJP
【FI】
A23L2/00 D
A23L2/00 B
A23L2/00 T
(21)【出願番号】P 2018207649
(22)【出願日】2018-11-02
【審査請求日】2020-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】312017444
【氏名又は名称】ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】大澤 直樹
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 夏実
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/122777(WO,A1)
【文献】特開2018-024619(JP,A)
【文献】特開2018-191556(JP,A)
【文献】特開2018-191555(JP,A)
【文献】特開2018-046762(JP,A)
【文献】国際公開第2014/133060(WO,A1)
【文献】渡邊光,水溶性食物繊維の新たな選択肢,イソマルトデキストリン,月刊フードケミカル,2016年01月,Vol.32, No.1,p6-10
【文献】渡邊光,でん粉から酵素の力でつくる新しい水溶性食物繊維「イソマルトデキストリン」,砂糖類・でん粉情報,No.41,2016年02月10日,p42-47,https://www.alic.go.jp/joho-d/joho08_000580.html
【文献】特集 酸蝕症(さんしょくしょう),季刊誌「お口の時間」,財団法人ライオン歯科衛生研究所,2008年,秋,vol.6,1-2
【文献】渡邊光,水溶性食物繊維の新たな選択肢,イソマルトデキストリン,月刊フードケミカル,2016年01月,Vol.32, No.1,p6-10
【文献】渡邊光,でん粉から酵素の力でつくる新しい水溶性食物繊維「イソマルトデキストリン」,砂糖類・でん粉情報,No.41,2016年02月10日,p42-47,https://www.alic.go.jp/joho-d/joho08_000580.html
【文献】特集 酸蝕症(さんしょくしょう),季刊誌「お口の時間」,財団法人ライオン歯科衛生研究所,2008年,秋,vol.6,1-2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580/JMEDplus(JDreamIII)
CAplus/CABA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA(STN)
日経テレコン
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソマルトデキストリン及び果汁を含有する酸性飲料であって、前記酸性飲料中における前記イソマルトデキストリンの含有量は、5~
40g/Lである酸性飲料。
【請求項2】
前記酸性飲料は、さらに香料を含む請求項1に記載の酸性飲料。
【請求項3】
イソマルトデキストリンを果汁が含まれる酸性飲料に5~
40g/L配合する酸性飲料の風香味の維持方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性飲料及び酸性飲料の風香味の維持方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康に配慮した飲食品のニーズの高まりを受け、食後血糖値改善作用、コレステロールの吸収抑制作用等の機能性をもつ素材である食物繊維を配合した飲食品が多数販売されてきた。例えば飲料にも配合可能な水溶性の食物繊維として難消化性デキストリンが知られている。難消化性デキストリンは、飲食品中における安定性に優れ、価格的にも利用しやすいことから特定保健用食品等の一般の飲食品に広く普及している。しかしながら、難消化性デキストリンは、特に濃度が高まると独特な風味が出たり、柑橘果汁、酸味料、炭酸等を含有する酸性飲料に配合すると飲料の風香味に影響を及ぼすという問題があった。
【0003】
従来より、特許文献1,2の水溶性食物繊維を配合した飲料が知られている。特許文献1は、難消化性デキストリン由来の雑味等を低減する観点から柑橘類のフレーバー、リンゴ酸を配合した柑橘類風味ノンアルコール飲料について開示する。特許文献2は、十分なコクを付与するために馬鈴薯由来でDEが2以上5未満であるデキストリンを配合した炭酸及び/又はアルコール含有飲料について開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-140312号公報
【文献】特開2012-115246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的とするところは、酸性飲料の風香味を維持できる酸性飲料及び酸性飲料の風香味の維持方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、水溶性食物繊維としてイソマルトデキストリンを使用することにより、酸性飲料の風香味の維持できることを見出したことに基づくものである。
上記目的を達成するために、本発明の一態様では、イソマルトデキストリンを含有する酸性飲料が提供される。前記酸性飲料は、果汁及び香料から選ばれる少なくとも一種を含んでもよい。前記酸性飲料中における前記イソマルトデキストリンの含有量は、5~100g/Lであってもよい。
【0007】
本発明の別の態様では、イソマルトデキストリンを酸性飲料に配合する酸性飲料の風香味の維持方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、酸性飲料の風香味を維持できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
以下、本発明の酸性飲料を具体化した第1実施形態を説明する。本実施形態の酸性飲料に含有されるイソマルトデキストリンは、α結合のグルコースのみから構成される水溶性食物繊維であり、グルコース当量(DE)約7.3の多分岐α-グルカンの一種である。イソマルトデキストリンは、コーンスターチ等の澱粉を原料とし、土壌細菌Paenibacillus alginolyticus由来の2種類の酵素(α-グルコシルトランスフェラーゼ及びα-アミラーゼ)を作用させることによって製造することができる。
【0010】
酸性飲料中におけるイソマルトデキストリンの含有量の下限は、適宜設定されるが、5g/L以上が好ましく、8g/L以上がより好ましく、12g/L以上がさらに好ましい。かかる含有量の上限は、適宜設定されるが、100g/L以下が好ましく、70g/L以下がより好ましく、40g/L以下がさらに好ましい。かかる範囲に規定することにより、酸性飲料の風香味をより維持することができる。
【0011】
酸性飲料としては、果汁、酸味料、炭酸、食酢、pH調整剤等の酸成分を含有する公知の飲料で、pH4.6未満の飲料が挙げられる。果汁としては、特に限定されないが濃縮果汁、ストレート果汁、透明果汁、混濁果汁等の果汁を用いてもよく、エキス、ピューレ等の果実成分でもよい。果汁の種類についても特に限定されるものではなく、例えばレモン、グレープフルーツ、ミカン、ライム等の柑橘類、リンゴ、パイナップル、プルーン、ブドウ、ブルーベリー、モモ、アサイ、キウイ、イチゴ、マンゴー等の果実由来の果汁が挙げられる。酸味料としては、公知の酸味料を適用することができ、例えばクエン酸、クエン酸ナトリウム、リンゴ酸、酒石酸、フィチン酸、リン酸、コハク酸、酢酸、グルコン酸、乳酸、アジピン酸等が挙げられる。これらの酸成分は、1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0012】
酸性飲料は、風香味を向上させる観点から香料をさらに含んでもよい。香料としては、飲料に適用可能な公知の香料を適宜採用することができる。香料としては、例えばシトラス系香料、フルーツ系香料、ミント系香料、スパイス系香料等が挙げられる。これらは、1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0013】
酸性飲料は、清涼飲料水の他、アルコール飲料、ノンアルコール飲料のいずれにも適用することができる。酸性飲料の具体例としては、例えば果汁入り飲料、野菜汁入り飲料、スポーツドリンク、食酢入り飲料、栄養ドリンク、ワイン、梅酒、各種炭酸飲料等が挙げられる。炭酸飲料の具体例としては、例えばサイダー、コーラ、チューハイ等が挙げられる。
【0014】
本実施形態の酸性飲料によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態の酸性飲料では、水溶性食物繊維としてイソマルトデキストリンを適用した。したがって、酸性飲料の風香味を低下させることなく、風香味を維持しながら、食後血糖値改善作用等の各種機能性に優れる水溶性食物繊維を飲料の形態で摂取することができる。
【0015】
(2)酸性飲料の風香味をより向上させる観点から果汁及び香料から選ばれる少なくとも一種をさらに含んでいる場合、各種機能性に優れる水溶性食物繊維としてイソマルトデキストリンと混合しても果汁又は香料由来の風香味を維持することができる。
【0016】
(第2実施形態)
以下、本発明の酸性飲料の風香味の維持方法を具体化した第2実施形態を説明する。なお、第2実施形態について、下記の記載以外は、第1実施形態の酸性飲料と同様の構成が適用される。
【0017】
本実施形態は、イソマルトデキストリンを酸性飲料に配合することにより酸性飲料の風香味を維持する方法である。風香味の維持は、官能評価により求めることができる。
本実施形態の酸性飲料の風香味の維持方法によれば、第1実施形態の効果に加えて以下のような効果を得ることができる。
【0018】
(3)本実施形態の酸性飲料の風香味の維持方法では、水溶性食物繊維としてイソマルトデキストリンを採用し、酸性飲料に配合した。したがって、機能性に優れる水溶性食物繊維を飲料中に配合したとしても酸性飲料の風香味を低下させることなく、風香味を維持することができる。
【0019】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態の酸性飲料は、本発明の効果を損なわない範囲内において、グルコース、ショ糖、果糖、乳糖、上記以外の食物繊維、多糖類等の糖類、ステビア、アスパルテーム、スクラロース、アセスルファムK等の甘味料、ソルビトール、マルチトール、エリスリトール、キシリトール等の糖アルコール系の甘味料、色素、安定剤、ビタミン類、アミノ酸類、各種ミネラル、アスコルビン酸等の酸化防止剤、植物性油脂及び動物性油脂等の油性成分、ポリフェノール等の機能性成分等の添加剤を適宜配合してもよい。
【0020】
・上記実施形態の酸性飲料の用途としては、特に限定されず、いわゆる一般食品、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント、特定保健用食品、機能性表示食品等として適用することができる。
【0021】
・上記実施形態の酸性飲料において、本発明の効果を阻害しない範囲内において、難消化性デキストリンを配合することを妨げるものではない。難消化性デキストリンを配合する場合、本発明の効果を向上させる観点から好ましくは1g/L以下、より好ましくは0.1g/L以下であり、さらに配合しないことが好ましい。
【実施例】
【0022】
以下に試験例を挙げ、前記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、実施例1~5,9,10は、参考例1~5,9,10に置き換えるものとする。
各製造例に示されるように水溶性食物繊維としてイソマルトデキストリンを配合した各種酸性飲料を調製し、香り立ちについて評価した。なお、香り立ちは、レトロネイザルアロマについて評価した。
【0023】
<製造例1:サイダー>
水溶性食物繊維として、各実施例においてイソマルトデキストリン(林原社製:ファイバリクサ)を使用し、各比較例において難消化性デキストリン(松谷化学工業社製:ファイバーゾル2)を使用した。イソマルトデキストリン又は難消化性デキストリンを規定の含有量になるよう配合する際、例えば32.26g/Lの含有量とする場合、ファイバリクサとして40.32g/L、ファイバーソル2として37.95g/L配合される。飲料の配合成分として、上記水溶性食物繊維、クエン酸、スクラロース、香料を純水に溶解の上、混合し、さらに純水を加え、pHが約3.5となるようにクエン酸ナトリウムで適宜調整したシロップを作製した。このシロップを93℃まで昇温し殺菌後、冷却した。このシロップと炭酸水とを所定の配合割合で混合し、ガス容量2.8volの下記表1に示される各成分の配合量にて各例の酸性飲料としてのサイダーを調製した。その後、サイダーを280mLペットボトルに充填し、その後、60℃で10分間相当以上の後殺菌を行った。
【0024】
得られた各実施例のサイダーについて、水溶性食物繊維の含有量が同一の各比較例を用いて、風香味として香り立ちの対比(評価)を行った。対照の比較例に対して、香り立ちが非常に強い場合を◎、強い場合を○、やや強い場合を△、同等以下の場合を×として評価した。なお、評価は、専門の味覚の評価者6名による合議で行った。結果を表2に示す。
【0025】
【0026】
【表2】
表2に示されるように、いずれの実施例も各比較例との対比において優れたサイダーの風香味が得られていることが確認された。
【0027】
<製造例2:レモン果汁入り炭酸飲料>
水溶性食物繊維として、実施例においてイソマルトデキストリン(林原社製:ファイバリクサ)を使用し、比較例において難消化性デキストリン(松谷化学工業社製:ファイバーゾル2)を使用した。イソマルトデキストリン及び難消化性デキストリンは、製造例1の算出方法と同様に添加した。飲料の配合成分として、上記水溶性食物繊維、果糖ぶどう糖液糖、スクラロース、濃縮レモン果汁、ビタミンC、香料、着色料を純水に溶解の上、混合し、さらに純水を加え、pHが2.8となるようにアスコルビン酸ナトリウムで適宜調整したシロップを作製した。このシロップを93℃まで昇温し殺菌後、冷却した。このシロップと炭酸水とを所定の配合割合で混合し、ガス容量2.6volの下記表3に示される各成分の配合量にて各例の酸性飲料としてのレモン果汁入り炭酸飲料を調製した。その後、レモン果汁入り炭酸飲料を420mLペットボトルに充填し、その後、60℃10分間相当以上の後殺菌を行った。製造例1欄と同様の方法にて、香り立ちについて評価した。結果を表4に示す。
【0028】
【0029】
【表4】
表4に示されるように、いずれの実施例も各比較例との対比において優れたレモン果汁入り炭酸飲料の風香味が得られていることが確認された。
【0030】
<製造例3:プルーン果汁入り炭酸飲料>
水溶性食物繊維として、実施例においてイソマルトデキストリン(林原社製:ファイバリクサ)を使用し、比較例において難消化性デキストリン(松谷化学工業社製:ファイバーゾル2)を使用した。イソマルトデキストリン及び難消化性デキストリンは、製造例1の算出方法と同様に添加した。飲料の配合成分として、上記水溶性食物繊維、果糖ぶどう糖液糖、プルーン濃縮汁、クエン酸、スクラロース、香料を純水に溶解の上混合し、さらに純水を加え、pHが約3.0となるようにクエン酸ナトリウムで適宜調整したシロップを作製した。このシロップを93℃まで昇温し殺菌後、冷却した。このシロップと炭酸水とを所定の配合割合で混合し、ガス容量2.2volの下記表5に示される各成分の配合量にて各例のプルーン果汁入り炭酸飲料を調製した。その後、280mLペットボトルに充填し、65℃10分間相当以上の後殺菌を行った。製造例1欄と同様の方法にて、香り立ちについて評価した。結果を表6に示す。
【0031】
【0032】
【表6】
表6に示されるように、実施例11は比較例11との対比において優れたプルーン果汁入り炭酸飲料の風香味が得られていることが確認された。
【0033】
<製造例4:プルーン果汁入り飲料(非炭酸飲料)>
水溶性食物繊維として、実施例においてイソマルトデキストリン(林原社製:ファイバリクサ)を使用し、比較例において難消化性デキストリン(松谷化学工業社製:ファイバーゾル2)を使用した。イソマルトデキストリン及び難消化性デキストリンは、製造例1の算出方法と同様に添加した。飲料の配合成分として、上記水溶性食物繊維、果糖ぶどう糖液糖、プルーン濃縮汁、クエン酸、スクラロース、香料を純水に溶解の上混合し、さらに純水を加えて、pHが約3.0となるようにクエン酸ナトリウムで適宜調整し、下記表7に示される各成分の配合量にて各例のプルーン果汁入り飲料(非炭酸飲料)を調製した。その後、280mLペットボトルに充填し、93℃まで昇温し殺菌後、冷却した。製造例1欄と同様の方法にて、香り立ちについて評価した。結果を表8に示す。
【0034】
【0035】
【表8】
表8に示されるように、実施例12は比較例12との対比において優れたプルーン果汁入り飲料の風香味が得られていることが確認された。
【0036】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、以下に追記する。(a)果汁入り飲料にイソマルトデキストリンを配合する工程を含む酸性飲料の製造方法。