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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-29
(45)【発行日】2022-08-08
(54)【発明の名称】コンデンサおよび絶縁回路
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20220801BHJP
   H01G 4/38 20060101ALI20220801BHJP
【FI】
H02M7/48 Z
H01G4/38 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019029530
(22)【出願日】2019-02-21
(65)【公開番号】P2020137298
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-06-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【弁理士】
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(72)【発明者】
【氏名】福田 典子
(72)【発明者】
【氏名】小笠 正道
(72)【発明者】
【氏名】田口 義晃
【審査官】佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-174886(JP,A)
【文献】特開2015-089238(JP,A)
【文献】特開2000-021674(JP,A)
【文献】特開2013-158224(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0232138(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02M 3/00
H01G 4/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1端子対および第2端子対を備える4端子のコンデンサであって、
前記第1端子対に接続された第1コンデンサとして機能する第1電極対と、
前記第2端子対に接続された第2コンデンサとして機能する第2電極対と、
を備え、
前記第1電極対は、前記第1端子対を構成する一方の端子に接続された第1正極素子と、他方の端子に接続された第1負極素子と、を有し、
前記第2電極対は、前記第2端子対を構成する一方の端子に接続された第2正極素子と、他方の端子に接続された第2負極素子と、を有し、
前記第1正極素子、前記第1負極素子、前記第2正極素子および前記第2負極素子の4つの電極素子が、a)積層方向において異なる積層位置で、且つ、b)前記積層方向において共通して重なる部分があるように積層されることで、前記第1電極対と前記第2電極対とが電界結合可能に部分的に対向配置され、
前記第1端子対および前記第2端子対の一方に間欠的に印加される直流電力を他方から出力するコンデンサ。
【請求項2】
前記積層方向において、前記第1電極対および前記第2電極対の一方の電極対を構成する2つの電極素子の間に、他方の電極対の電極素子を部分的に挟むように配置されることで、前記対向配置がなされた、
請求項1に記載のコンデンサ。
【請求項3】
前記積層方向において、前記第1電極対を構成する2つの電極素子と、前記第2電極対を構成する2つの電極素子とが互い違いに部分的に重なるように配置されることで、前記対向配置がなされた、
請求項1又は2に記載のコンデンサ。
【請求項4】
第1端子対および第2端子対と、
前記第1端子対に接続された第1コンデンサとして機能する第1電極対と、
前記第2端子対に接続された第2コンデンサとして機能する第2電極対と、
を備え、
前記第1電極対と前記第2電極対とが電界結合可能に部分的に対向配置され、
前記第1端子対および前記第2端子対の一方に間欠的に印加される直流電力を他方から出力するコンデンサであって、
前記第1電極対を構成する各電極素子は、前記第1コンデンサとして機能する基本対向部分と、前記第2電極対と対向する屈曲部分とを有し、
前記第2電極対を構成する各電極素子は、前記第2コンデンサとして機能する基本対向部分と、前記第1電極対と対向する屈曲部分とを有する、
コンデンサ。
【請求項5】
前記第1端子対は、第1正極端子および第1負極端子を有し、
前記第2端子対は、第2正極端子および第2負極端子を有し、
前記第1電極対は、前記第1正極端子に接続された第1正電極素子と、前記第1負極端子に接続された第1負電極素子とを有し、
前記第2電極対は、前記第2正極端子に接続された第2正電極素子と、前記第2負極端子に接続された第2負電極素子とを有し、
前記第1正電極素子と前記第2正電極素子とが部分的に対向配置され、
前記第1負電極素子と前記第2負電極素子とが部分的に対向配置された、
請求項に記載のコンデンサ。
【請求項6】
一次側と二次側との間を電気的に絶縁して直流電力を融通する絶縁回路であって、
請求項1~5の何れか一項に記載のコンデンサと、
高圧側ラインの前記一次側と前記第1端子対の第1正極端子との間に設けられた第1双方向半導体スイッチ回路と、
低圧側ラインの前記一次側と前記第1端子対の第1負極端子との間に設けられた第2双方向半導体スイッチ回路と、
高圧側ラインの前記二次側と前記第2端子対の第2正極端子との間に設けられた第3双方向半導体スイッチ回路と、
低圧側ラインの前記二次側と前記第2端子対の第2負極端子との間に設けられた第4双方向半導体スイッチ回路と、
を備え、
前記第1双方向半導体スイッチ回路および前記第2双方向半導体スイッチ回路のオン制御と、前記第3双方向半導体スイッチ回路および前記第4双方向半導体スイッチ回路のオン制御とが交互に行われることで、前記一次側から前記二次側に、或いは、前記二次側から前記一次側に直流電力を供給する絶縁回路。
【請求項7】
前記第1~第4双方向半導体スイッチ回路は、スイッチング素子にダイオード素子を逆並列接続した基本回路を、ダイオード素子の順方向が向き合うように直列接続して構成されている、
請求項6に記載の絶縁回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一次側と二次側とを電気的に絶縁して直流電力を融通する絶縁回路等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の交流電気車の主回路は、主変圧器と、コンバータと、インバータとを備えて構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-308205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
交流電気車の主回路を小型化(容積や重量の削減)しようとする場合、構成される機器それぞれを小型化する方策が考えられるが、主回路の機器構成それ自体を変えた新たな主回路も検討されるべきである。例えば、主変圧器を不用とする新たな主回路構成が考えられる。しかし、主変圧器は、交流架線電圧を降圧する機能のほかに、架線側と電動機等の駆動回路側とを電気的に絶縁するという重要な機能を担っている。また、電気車では、電動機を回生ブレーキに用いるため、新たな主回路であっても、架線側から電動機側へ電力を供給する順方向と、電動機側から架線側へ電力を回生する逆方向との両方向に動作する必要がある。
【0005】
また、電気車の例を挙げたが、一次側と二次側とを電気的に絶縁し、一次側と二次側との間で両方向に直流電力を融通することが望まれる技術用途に対しては、同様の要求が考えられる。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、一次側と二次側とを電気的に絶縁し、一次側と二次側との間で両方向に直流電力を融通可能な絶縁回路を実現すること、特に、当該絶縁回路を実現するに当たって直流電力を融通する要所を担う要素回路を実現すること、である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための第1の発明は、
第1端子対および第2端子対と、
前記第1端子対に接続された第1コンデンサとして機能する第1電極対と、
前記第2端子対に接続された第2コンデンサとして機能する第2電極対と、
を備え、
前記第1電極対と前記第2電極対とが電界結合可能に部分的に対向配置され、
前記第1端子対および前記第2端子対の一方に間欠的に印加される直流電力を他方から出力するコンデンサである。
【0008】
第1の発明によれば、第1端子対と第2端子対とは物理的に接続された導通状態にはないが、第1電極対と第2電極対とが電界結合可能に対向配置されているので、第1端子対および第2端子対の一方の端子対に印加される直流電力を、他方の端子対から出力するコンデンサが実現可能となる。つまり、一方の端子対に直流電力を印加すると、当該一方の端子対に接続された一方の電極対が蓄電されるとともに、電界結合によって他方の電極対も蓄電される。一方の端子対に直流電力が印加されなくなると、他方の電極対の蓄電電力が放電されて他方の端子対から直流電力が出力される。従って、このコンデンサを用いることで、一次側と二次側とを電気的に絶縁し、一次側と二次側との間で両方向に直流電力を融通可能な絶縁回路を実現することができる。このコンデンサは、当該絶縁回路を実現するに当たって直流電力を融通する要所を担う要素回路である。
【0009】
第1電極対と第2電極対とが電界結合可能に部分的に対向配置される構成とは、具体的に種々の構成が考えられる。
例えば、第2の発明として、第1の発明において、
前記第1電極対および前記第2電極対の一方の電極対を構成する2つの電極素子の間に、他方の電極対の電極素子を部分的に挟むように配置されて前記対向配置がなされた、
コンデンサを実現するとしてもよい。
【0010】
また、第3の発明として、第1又は第2の発明において、
前記第1電極対を構成する2つの電極素子と、前記第2電極対を構成する2つの電極素子とが互い違いに部分的に重なるように配置されて前記対向配置がなされた、
コンデンサを実現するとしてもよい。
【0011】
また、第4の発明として、第1の発明において、
前記第1電極対を構成する各電極素子は、前記第1コンデンサとして機能する基本対向部分と、前記第2電極対と対向する屈曲部分とを有し、
前記第2電極対を構成する各電極素子は、前記第2コンデンサとして機能する基本対向部分と、前記第1電極対と対向する屈曲部分とを有する、
コンデンサを実現することとしてもよい。
【0012】
第5の発明は、第1~第4の何れかの発明において、
前記第1端子対は、第1正極端子および第1負極端子を有し、
前記第2端子対は、第2正極端子および第2負極端子を有し、
前記第1電極対は、前記第1正極端子に接続された第1正電極素子と、前記第1負極端子に接続された第1負電極素子とを有し、
前記第2電極対は、前記第2正極端子に接続された第2正電極素子と、前記第2負極端子に接続された第2負電極素子とを有し、
前記第1正電極素子と前記第2正電極素子とが部分的に対向配置され、
前記第1負電極素子と前記第2負電極素子とが部分的に対向配置された、
コンデンサである。
【0013】
第5の発明によれば、第1電極対および第2電極対それぞれの正電極素子が部分的に対向配置され、負電極素子が部分的に対向配置されることで、第1電極対と第2電極対とが電界結合可能に部分的に対向配置されたコンデンサを構成することができる。
【0014】
第6の発明は、
一次側と二次側との間を電気的に絶縁して直流電力を融通する絶縁回路であって、
第1~第5の何れかの発明のコンデンサと、
高圧側ラインの前記一次側と前記第1端子対の第1正極端子との間に設けられた第1双方向半導体スイッチ回路と、
低圧側ラインの前記一次側と前記第1端子対の第1負極端子との間に設けられた第2双方向半導体スイッチ回路と、
高圧側ラインの前記二次側と前記第2端子対の第2正極端子との間に設けられた第3双方向半導体スイッチ回路と、
低圧側ラインの前記二次側と前記第2端子対の第2負極端子との間に設けられた第4双方向半導体スイッチ回路と、
を備え、
前記第1双方向半導体スイッチ回路および前記第2双方向半導体スイッチ回路のオン制御と、前記第3双方向半導体スイッチ回路および前記第4双方向半導体スイッチ回路のオン制御とが交互に行われることで、前記一次側から前記二次側に、或いは、前記二次側から前記一次側に直流電力を供給する絶縁回路である。
【0015】
第6の発明によれば、一次側と二次側とを電気的に絶縁し、一次側と二次側との間で両方向に直流電力を融通可能な絶縁回路を実現することができる。つまり、コンデンサの第1端子対に接続された第1および第2双方向半導体スイッチ回路と、第2端子対に接続された第3および第4双方向半導体スイッチ回路とを交互にオン制御することで、コンデンサ(電極対)への蓄電および蓄電電力の放電を交互に行わせて、一次側の第1端子対および二次側の第2端子対の一方の端子対に印加される直流電力を、他方の端子対に出力することができる。これにより、一次側と二次側とを電気的に絶縁しつつ、両方向に直流電力を融通可能な絶縁回路を実現できる。
【0016】
第7の発明は、第6の発明において、
前記第1~第4双方向半導体スイッチ回路は、スイッチング素子にダイオード素子を逆並列接続した基本回路を、ダイオード素子の順方向が向き合うように直列接続して構成されている、
絶縁回路である。
【0017】
第7の発明によれば、双方向半導体スイッチ回路を、スイッチング素子にダイオード素子を逆並列接続した基本回路を、ダイオード素子の順方向が向き合うように直列接続して構成することで、双方向半導体スイッチ回路のオン制御として2つのスイッチング素子の何れをオン制御するかによって、通流方向を一方向に制限することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】絶縁回路の構成例。
図2】コンデンサの原理的な構造例。
図3】電界結合による等価回路の一例。
図4】絶縁回路の制御装置の他の構成例。
図5】力行運転時の絶縁回路の動作説明図。
図6】回生運転時の絶縁回路の動作説明図。
図7】絶縁回路を組み込んだインバータの構成例。
図8】シミュレーション回路の構成図。
図9】シミュレーション結果のグラフ。
図10】第1実施例における交流電気車用の主回路構成図。
図11】第2実施例における交流電気車用の主回路構成図。
図12】コンデンサの他の構造例。
図13】コンデンサの他の構造例。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態によって本発明が限定されるものではなく、本発明を適用可能な形態が以下の実施形態に限定されるものでもない。また、図面の記載において、同一要素には同一符号を付す。
【0020】
[回路構成]
図1は、本実施形態の絶縁回路10の回路構成を示す図である。図1によれば、絶縁回路10は、一次側が直流電源側に接続され、二次側が電動機60を駆動するインバータ50に接続されて、一次側と二次側とを電気的に絶縁して直流電力を融通する回路であり、電源ラインの中間に設けられている。なお、インバータ50は、いわゆる1C1Mとして1台の電動機を駆動制御することとしてもよいし、1C2Mや1C4Mとして複数台の電動機を駆動制御することとしてもよい。
【0021】
絶縁回路10の二次側に接続されたインバータ50は、従来のインバータを用いることができる。なお、従来のインバータの入力段には、コンデンサ(フィルタコンデンサ)が設けられているのが一般的である(図1中の破線)。コンデンサを備えないインバータを用いる場合には、絶縁回路10の出力段(二次側の高圧側ラインHLと低圧側ラインLLとの間)にコンデンサを設けて出力電圧を平滑化して出力することにしてもよい。
【0022】
また、絶縁回路10の一次側は、給電ラインや電源回路、直流安定化回路、コンバータ等に接続される。これらの電源側の出力段には、電圧安定化等のためにコンデンサ(フィルタコンデンサ)が設けられているのが通常である(図1中の破線)。コンデンサが設けられていない場合には、絶縁回路10の入力段(一次側の高圧側ラインHLと低圧側ラインLLとの間)にコンデンサを設けることとしてもよい。
【0023】
絶縁回路10は、コンデンサ20と、4つの双方向半導体スイッチ回路30(30-1~30-4)とを有して構成される。
【0024】
コンデンサ20は、第1正極端子22aおよび第1負極端子22bを有して絶縁回路10の一次側と接続される第1端子対21と、第2正極端子24aおよび第2負極端子24bを有して絶縁回路10の二次側と接続される第2端子対23とを有する。
【0025】
双方向半導体スイッチ回路30は、スイッチング素子とダイオード素子とを逆並列接続した2つの基本回路を、互いのダイオード素子の順方向が向き合うように直列接続して構成される。双方向半導体スイッチ回路30は、どちらのスイッチング素子をオン制御するかによって通流方向を制御可能である。電源ラインの高圧側(例えば、プラス側或いは非接地側)を高圧側ラインHL、低圧側(例えば、マイナス側或いは接地側)を低圧側ラインLLとすると、双方向半導体スイッチ回路30-1は、一次側の高圧側ラインHLと、コンデンサ20の第1正極端子22aとの間に設けられ、双方向半導体スイッチ回路30-2は、一次側の低圧側ラインLLと、コンデンサ20の第1負極端子22bとの間に設けられる。双方向半導体スイッチ回路30-3は、二次側の高圧側ラインHLと、コンデンサ20の第2正極端子24aとの間に設けられ、双方向半導体スイッチ回路30-4は、二次側の低圧側ラインLLと、コンデンサ20の第2負極端子24bとの間に設けられる。
【0026】
双方向半導体スイッチ回路30を構成するスイッチング素子およびダイオード素子は、いわゆるパワーデバイスを利用することができる。例えば、GTO(Gate Turn-Off thyristor)やIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)のほか、Si-IGBT(Silicon-Insulated Gate Bipolar Transistor),SiC-SBD(Silicon Carbide-Schottky Barrier Diode)、SiC-MOSFET、SiC-IGBTなど、絶縁回路10の使用電圧によって適宜選択することができる。
【0027】
図2は、コンデンサ20の原理的な構造を示す図である。図2によれば、コンデンサ20は、第1コンデンサとして機能する第1電極対25と、第2コンデンサとして機能する第2電極対27とを備えて構成される。第1電極対25は、第1正極端子22aに接続された第1正電極素子26aと、第1負極端子22bに接続された第1負電極素子26bとが対向配置されて構成される。第2電極対27は、第2正極端子24aに接続された第2正電極素子28aと、第2負極端子24bに接続された第2負電極素子28bとが対向配置されて構成される。つまり、第1端子対21と第2端子対23とは物理的に接続された導通状態にはない。
【0028】
また、第1電極対25と第2電極対27とは、電界結合可能に部分的に対向配置されている。具体的には、第1電極対25および第2電極対27の一方の電極対を構成する2つの電極素子の間に、他方の電極対の1つの電極素子を部分的に挟むように配置されて対向配置がなされている。より詳細には、第1電極対25を構成する2つの電極素子である第1正電極素子26aおよび第1負電極素子26bと、第2電極対27を構成する2つの電極素子である第2正電極素子28aおよび第2負電極素子28bとが、互い違いに部分的に重なるように配置されている。
【0029】
第1電極対25の電極素子の面積をS、電極素子間の距離をdとし、第2電極対27の電極素子の面積をS、電極素子間の距離をdとする。また、第1正電極素子26a、第2正電極素子28a、第2負電極素子28b、第2負電極素子28bが互いに重なる対向部分の面積をS、対向部分間の距離をdとする。そして、第1正極端子22aと第1負極端子22bとの間に直流電圧Vを印加し、第2正極端子24aと第2負極端子24bとの間に直流電圧V2を印加した場合に、第1電極対25に蓄えられる電荷Q、および、第2電極対27に蓄えられる電荷Qは、電束密度Dを用いると、それぞれ、次式(1),(2)で与えられる。
【数1】
【0030】
式(1)において、Dは、第1電極対25において第2電極対27と重ならない部分の電極素子間の電束密度であり、当該電極素子間の誘電率をεとして、式(3)で与えられる。式(2)において、Dは、第2電極対27において第1電極対25と重ならない部分の電極素子間の電束密度であり、当該電極素子間の誘電率をεとして、式(4)で与えられる。式(1),(2)において、Dは、第1電極対25と第2電極対27とが重なる対向部分間の電束密度であり、当該対向部分間の誘電率をεとして、次式(5)で与えられる。
【数2】
【0031】
式(3)~(5)を用いると、式(1),(2)は、次式(6),(7)のように変形される。
【数3】
なお、式(6),(7)における誘電率ε,ε,εは、電極素子間で全て等しく、ε=ε=ε=ε、としても良い。
【0032】
また、図3に示すように、2つのコンデンサが電界結合する場合、その結合部分はπ形回路の等価回路で示すことができる。本実施形態のコンデンサ20は、コンデンサとして機能する第1電極対25および第2電極対27が電界結合可能に配置されて構成されるから、図3の等価回路で表されるとすると、コンデンサ20についての式(6),(7)から、等価回路におけるキャパシタンスC,C2,Cそれぞれについて、次式(8)~(10)が成り立つ。
【数4】
【0033】
[回路動作]
次に、絶縁回路10の動作について説明する。絶縁回路10は、基本的にインバータ50の動作に合わせて動作する。そのため、本実施形態では、インバータ50の制御装置40が、絶縁回路10を動作制御する機能を有することとする。具体的には、制御装置40は、絶縁回路制御装置41を有し、この絶縁回路制御装置41が、インバータ50が電動機60に電力を供給して引張力を発生させる力行運転の制御中であるか、電動機60を回生ブレーキとして用いる回生運転の制御中であるかによって、各双方向半導体スイッチ回路30(30-1~30-4)に対してオン/オフを指示する動作指示信号を出力することで、絶縁回路10の動作を切り替える。双方向半導体スイッチ回路30は直列接続した2つのスイッチング素子を有するので、双方向半導体スイッチ回路30に対する動作指示信号は、インバータ50の動作に応じた通流方向となるように、どちらのスイッチング素子をオンするかを指示する信号となる。
【0034】
なお、図4に示すように、絶縁回路制御装置41をインバータ50の制御装置40とは別体の装置として構成し、絶縁回路制御装置41は、制御装置40から力行運転の制御中であるか回生運転の制御中であるかの信号を入力して絶縁回路10の動作を制御するようにしてもよい。
【0035】
図5図6を参照して、絶縁回路10の動作を具体的に説明する。図5は、力行運転時の絶縁回路10の動作を説明するための図である。力行運転時においては、絶縁回路10は、絶縁回路制御装置41からの動作指示信号に従って、双方向半導体スイッチ回路30-1,30-2をオン制御する図5(1)の状態と、双方向半導体スイッチ回路30-3,30-4をオン制御する図5(2)の状態とを交互に切り替える。
【0036】
具体的には、図5(1)の状態においては、双方向半導体スイッチ回路30-1については、コンデンサ20の第1正極端子22aに近いほうのスイッチング素子をオン制御し、双方向半導体スイッチ回路30-2については、コンデンサ20の第1負極端子22bから遠いほうのスイッチング素子をオン制御することで、一次側の高圧側ラインHLから、コンデンサ20を経由して、一次側の低圧側ラインLLに向かう方向が通流方向となる。
【0037】
また、図5(2)の状態においては、双方向半導体スイッチ回路30-3については、コンデンサ20の第2正極端子24aから遠いほうのスイッチング素子をオン制御し、双方向半導体スイッチ回路30-4については、コンデンサ20の第2負極端子24bに近いほうのスイッチング素子をオン制御することで、二次側の低圧側ラインLLから、コンデンサ20を経由して、二次側の高圧側ラインHLに向かう方向が通流方向となる。
【0038】
従って、図5(1)の状態で電源側から供給された電力がコンデンサ20に蓄電され、図5(2)の状態でコンデンサ20の蓄電電力が放電されてインバータ50に供給される。このため、絶縁回路10の一次側と二次側とが電気的に絶縁されて、一次側から二次側へ直流電力が供給される。この図5(1)の状態と図5(2)の状態とを切り替える周波数は、インバータ50の仕様に応じて適宜設定することができる。
【0039】
図6は、回生運転時の絶縁回路の動作を説明するための図である。回生運転時においては、絶縁回路10は、絶縁回路制御装置41からの動作指示信号に従って、双方向半導体スイッチ回路30-3,30-4をオン制御する図6(1)の状態と、双方向半導体スイッチ回路30-1,30-2をオン制御する図6(2)の状態とを交互に切り替える。
【0040】
具体的には、図6(1)の状態においては、双方向半導体スイッチ回路30-3については、コンデンサ20の第2正極端子24aに近いほうのスイッチング素子をオン制御し、双方向半導体スイッチ回路30-4については、コンデンサ20の第2負極端子24bから遠いほうのスイッチング素子をオン制御することで、二次側の高圧側ラインHLから、コンデンサ20を経由して、二次側の低圧側ラインLLに向かう方向が通流方向となる。
【0041】
また、図6(2)の状態においては、双方向半導体スイッチ回路30-1については、コンデンサ20の第1正極端子22aから遠いほうのスイッチング素子をオン制御し、双方向半導体スイッチ回路30-2については、コンデンサ20の第1負極端子22bに近いほうのスイッチング素子をオン制御することで、一次側の低圧側ラインLLから、コンデンサ20を経由して、一次側の高圧側ラインHLに向かう方向が通流方向となる。
【0042】
図6(1)の状態でインバータ50から供給された回生電力がコンデンサ20に蓄電され、図6(2)の状態でコンデンサ20の蓄電電力が放電されて電源側に供給される。このため、絶縁回路10の一次側と二次側とが電気的に絶縁されて、二次側から一次側へ直流電力が供給される。この図6(1)の状態と図6(2)の状態とを切り替える周波数は、インバータ50の仕様に応じて適宜設定することができる。
【0043】
以上、絶縁回路10について説明したが、絶縁回路10は、インバータ50の動作に合わせて動作するため、絶縁回路10をインバータ50に組み込んだ構成としても良い。具体的には、図7に示すように、直流電力を交流電力に変換した駆動電力を電動機60に供給する電力変換回路53の前段に絶縁回路10を備えたインバータ51を構成することとしてもよい。また、図7においては、制御装置40をも一体とした構成を例示しているが、制御装置40はインバータ51と別体の装置とすることとしても良い。
【0044】
[試験結果]
続いて、絶縁回路10に対する試験結果を説明する。試験は、絶縁回路10の等価回路に対するシミュレーションとして行った。図8に、シミュレーション回路の構成を示す。図8に示すように、シミュレーション回路は、コンデンサ20を図3に示した等価回路として絶縁回路10を構成した。この絶縁回路10の一次側(電源側)に直流3000Vの直流電源Vを接続し、二次側に平滑コンデンサおよび30Ωの負荷抵抗Rを並列接続して、絶縁回路10の一次側から二次側へ直流電力を供給する場合を模擬した。そして、絶縁回路10の一次側の高圧側ラインHLからコンデンサ20に向かって流れる一次側電流i、コンデンサ20から絶縁回路10の二次側の高圧側ラインHLに向かって流れる二次側電流i、二次側の出力電圧となる平滑コンデンサの両端電圧V、負荷Rに流れる負荷電流iout、を測定した。
【0045】
図9は、図8のシミュレーション回路に対するシミュレーション結果である。図9では、横軸を時刻、右側の縦軸を電圧、左側の縦軸を電流として、電源電圧V、出力電圧V、一次側電流i、二次側電流i、負荷電流iout、のそれぞれを示している。なお、一次側の双方向半導体スイッチ回路30-1,30-2のオン制御と、二次側の双方向半導体スイッチ回路30-3,30-4のオン制御との切替周期を、0.025ms(=40kHz)、とした。
【0046】
図9によれば、直流3000Vの電源電圧Vに対して、ほぼ等しい直流2850V程度の出力電圧Vが得られた。また、直流100Aの負荷電流ioutが得られた。つまり、絶縁回路10の一次側(電源側)から二次側(負荷側)に、直流電力が供給されたことがわかる。また、一次側電流iと二次側電流iとは同時に通流していない。特に、この電流i,iの同時通流は、コンデンサ20の充電動作と放電動作との切替時において生じていないことから、絶縁回路の一次側(電源側)と二次側(負荷側)とが電気的に絶縁されていることがわかる。
【0047】
[実施例]
次に、絶縁回路10を交流電気車の主回路に適用した2つの実施例を説明する。
<第1実施例>
図10は、第1実施例における交流電気車の主回路を示す図である。図10に示すように、交流電気車の主回路は、パンタグラフ3および真空遮断器等のスイッチ5を介して架線2に電気的に接続されるとともに、輪軸7を介してレール8に電気的に接続されることで、架線電圧が印加される。架線電圧は、コンバータ70に入力される。従来の交流電気車の主回路では、架線電圧を降圧および絶縁するための主変圧器が設けられているが、本実施例では、主変圧器を不用としている。
【0048】
コンバータ70の出力側には、N個(N≧2)の絶縁回路10(10-1~10-N)が並列接続される。そして、各絶縁回路10の二次側にはインバータ50(50-1~50-N)が接続される。N個のインバータ50は、全てが電動機60の駆動を制御することとしてもよいが、図10では、N個中のM個(N>M)のインバータ50が電動機60を制御することとし、残余のインバータ50は、いわゆるSIV(静止形インバータ)として機能する。
【0049】
コンバータ70は、交流架線電圧を当該交流架線電圧より高い直流電圧に変換する。例えば、架線電圧が交流25000Vの場合には、直流30000Vに変換する。各絶縁回路10にはコンバータ70からの出力電圧が分圧される。また、各絶縁回路10のスイッチング動作は同期して行われる。このため、図10には図示されていないが、各絶縁回路10に対応する制御装置40(或いは、絶縁回路制御装置41)は、動作指示信号を、対応する絶縁回路10に同期して出力する。
【0050】
<第2実施例>
図11は、第2実施例における交流電気車の主回路を示す図である。第2実施例では、第1実施例と同様に、主変圧器を不用としてコンバータ70に架線電圧が入力される構成を採用しているが、コンバータ70より後段の回路構成が第1実施例と異なる。第2実施例では、並列接続されたN個の降圧回路80(80-1~80-N)が、コンバータ70の出力側に接続される。降圧回路80は、例えばチョッパ回路で構成することができる。そして、各降圧回路80の出力側には、絶縁回路10(10-1~10-N)の一次側が接続されており、絶縁回路10の二次側には、インバータ50(50-1~50-N)が接続される。各絶縁回路10のスイッチング動作が同期して行われることは、第1実施例と同様である。このため、図11には図示されていないが、各絶縁回路10に対応する制御装置40(或いは、絶縁回路制御装置41)は、動作指示信号を、対応する絶縁回路10に同期して出力する。
【0051】
[作用効果]
このように、本実施形態によれば、一次側と二次側とを電気的に絶縁し、一次側と二次側との間で両方向に直流電力を融通可能な絶縁回路10を実現することができる。絶縁回路10が有するコンデンサ20は、一次側の第1端子対21に接続された第1電極対25と、二次側の第2端子対23に接続された第2電極対27とが、電界結合可能に部分的に対向配置されて構成されている。つまり、コンデンサ20の第1端子対21と第2端子対23との間は物理的に接続された導通状態にはないが、一方の端子対に直流電力を印加すると、当該一方の端子対に接続された一方の電極対が蓄電されるとともに、電界結合によって他方の電極対も蓄電される。一方の端子対に直流電力が印加されなくなると、他方の電極対の蓄電電力が放電されて他方の端子対から直流電力が出力される。したがって、コンデンサ20は、絶縁回路10を実現するに当たって直流電力を融通する要所を担う要素回路と言える。
【0052】
[変形例]
なお、本発明の適用可能な実施形態は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能なのは勿論である。
【0053】
(A)コンデンサ20の構造
コンデンサ20は、コンデンサとして機能する2つの電極対(第1電極対25および第2電極対27)が互いに電界結合可能に部分的に対向配置されていればよく、例えば、図12図13に示すような構造としても良い。
【0054】
図12に示すコンデンサ20Aは、第1電極対25を構成する第1正電極素子26aおよび第1負電極素子26bそれぞれが、互いに対向して第1コンデンサとして機能する基本対向部分29aと、この基本対向部分29aの端部から屈曲して、第2電極対27の第2正電極素子28aおよび第2負電極素子28bそれぞれの屈曲部分29dと対向する屈曲部分29bとを有する。第2電極対27についても同様に、第2電極対27を構成する第2正電極素子28aおよび第2負電極素子28bそれぞれが、互いに対向して第2コンデンサとして機能する基本対向部分29cと、この基本対向部分29cの端部から屈曲して、第1電極対25の第1正電極素子26aおよび第1負電極素子26bそれぞれの屈曲部分29bと対向する屈曲部分29dとを有する。
【0055】
上述の実施形態と同様に、第1電極対25および第2電極対27の対向配置される部分となる屈曲部分29b,29dの面積をS、対向する屈曲部分29b,29d間の距離をdとすると、第1電極対25および第2電極対27それぞれに蓄えられる電荷Q,Q2は、それぞれ、次式(11),(12)で与えられる。
【数5】
【0056】
そして、このコンデンサ20Aについても、図3に示した等価回路で表すことができ、等価回路におけるキャパシタンスC,C,Cそれぞれについて、次式(16)~(18)が成り立つ。
【数6】
【0057】
また、図13に示すコンデンサ20Bは、第1電極対25の2つの電極素子(第1正電極素子26aおよび第1負電極素子26b)の間に、第2電極対27の2つの電極素子(第2正電極素子28aおよび第2負電極素子28b)を、部分的に挟むように構成することで、第1電極対25および第2電極対27が互いに電界結合可能に部分的に対向配置されている。対向面積や対向間隔等の諸条件が見合えば、この構成であってもコンデンサ20として機能させることができる。
【0058】
また、上記実施形態では、電気車の例を挙げたが、一次側と二次側との間で両方向に直流電力を融通する技術用途に対しては、上述の絶縁回路10やコンデンサ20(20A,20Bを含む)を同様に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0059】
10…絶縁回路
20…コンデンサ
21…第1端子対
22a…第1正極端子、22b…第1負極端子
23…第2端子対
24a…第2正極端子、24b…第2負極端子
25…第1電極対
26a…第1正電極素子、26b…第1負電極素子
27…第2電極対
28a…第2正電極素子、28b…第2負電極素子
30(30-1~30-4)…双方向半導体スイッチ回路
40…制御装置、41…絶縁回路制御装置
50…インバータ、60…電動機
HL…高圧側ライン、LL…低圧側ライン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13