(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-29
(45)【発行日】2022-08-08
(54)【発明の名称】燃料電池および燃料電池用シール材
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1004 20160101AFI20220801BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20220801BHJP
H01M 8/0271 20160101ALI20220801BHJP
H01M 8/0276 20160101ALI20220801BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20220801BHJP
H01M 8/04828 20160101ALI20220801BHJP
【FI】
H01M8/1004
H01M8/10 101
H01M8/0271
H01M8/0276
H01M8/04 Z
H01M8/04828
(21)【出願番号】P 2019042901
(22)【出願日】2019-03-08
【審査請求日】2021-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100124372
【氏名又は名称】山ノ井 傑
(74)【代理人】
【識別番号】100120385
【氏名又は名称】鈴木 健之
(72)【発明者】
【氏名】中森 洋二
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-079059(JP,A)
【文献】特開2009-199877(JP,A)
【文献】特開2003-297389(JP,A)
【文献】特開2011-210588(JP,A)
【文献】特開2007-048568(JP,A)
【文献】特開2007-123235(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ガスが供給される燃料極と、
酸化剤ガスが供給される酸化剤極と、
前記燃料極および前記酸化剤極に接するように前記燃料極と前記酸化剤極との間に配置された高分子電解質膜と、
前記燃料極に接するように前記燃料極に対して前記高分子電解質膜の反対側に配置され、前記燃料極に前記燃料ガスを供給する燃料ガス流路板と、
前記酸化剤極に接するように前記酸化剤極に対して前記高分子電解質膜の反対側に配置され、前記酸化剤極に前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス流路板と、
前記燃料ガス流路板と前記高分子電解質膜との間において前記燃料極の周囲に配置され、前記供給された燃料ガスのリークを防止する燃料極シール材と、
前記酸化剤ガス流路板と前記高分子電解質膜との間において前記酸化剤極の周囲に配置され、前記供給された酸化剤ガスのリークを防止する酸化剤極シール材と、を備え、
前記燃料極および前記酸化剤極の少なくとも一方は、前記高分子電解質膜に接する第1面積が、前記燃料ガス流路板または前記酸化剤ガス流路板に接する第2面積
よりも大きく、
前記燃料ガスおよび前記酸化剤ガスの少なくとも一方の加湿温度は、燃料電池の温度よりも低い、燃料電池。
【請求項2】
前記燃料極シール材は、前記燃料ガス流路板および前記高分子電解質膜に接するように前記燃料極の周囲に配置され、
前記酸化剤極シール材は、前記酸化剤ガス流路板および前記高分子電解質膜に接するように前記酸化剤極の周囲に配置され、
前記燃料極シール材および前記酸化剤極シール材の少なくとも一方は、前記高分子電解質膜に接する第3面積が、前記燃料ガス流路板または前記酸化剤ガス流路板に接する第4面積よりも小さい、請求項
1に記載の燃料電池。
【請求項3】
燃料ガスが供給される燃料極と、
酸化剤ガスが供給される酸化剤極と、
前記燃料極および前記酸化剤極に接するように前記燃料極と前記酸化剤極との間に配置された高分子電解質膜と、
前記燃料極に接するように前記燃料極に対して前記高分子電解質膜の反対側に配置され、前記燃料極に前記燃料ガスを供給する燃料ガス流路板と、
前記酸化剤極に接するように前記酸化剤極に対して前記高分子電解質膜の反対側に配置され、前記酸化剤極に前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス流路板と、
前記燃料ガス流路板と前記高分子電解質膜との間において前記燃料極の周囲に配置され、前記供給された燃料ガスのリークを防止する燃料極シール材と、
前記酸化剤ガス流路板と前記高分子電解質膜との間において前記酸化剤極の周囲に配置され、前記供給された酸化剤ガスのリークを防止する酸化剤極シール材と、を備え、
前記燃料極および前記酸化剤極の少なくとも一方は、前記高分子電解質膜に接する第1面積
が、前記燃料ガス流路板または前記酸化剤ガス流路板に接する第2面積よりも小さ
く、
前記燃料ガスおよび前記酸化剤ガスの少なくとも一方の加湿温度は、燃料電池の温度と同一以上である、燃料電池。
【請求項4】
前記燃料極シール材は、前記燃料ガス流路板および前記高分子電解質膜に接するように前記燃料極の周囲に配置され、
前記酸化剤極シール材は、前記酸化剤ガス流路板および前記高分子電解質膜に接するように前記酸化剤極の周囲に配置され、
前記燃料極シール材および前記酸化剤極シール材の少なくとも一方は、前記高分子電解質膜に接する第3面積が、前記燃料ガス流路板または前記酸化剤ガス流路板に接する第4面積よりも大きい、請求項
3に記載の燃料電池。
【請求項5】
燃料ガスが供給される燃料極と、
酸化剤ガスが供給される酸化剤極と、
前記燃料極および前記酸化剤極に接するように前記燃料極と前記酸化剤極との間に配置された高分子電解質膜と、
前記燃料極に接するように前記燃料極に対して前記高分子電解質膜の反対側に配置され、前記燃料極に前記燃料ガスを供給する燃料ガス流路板と、
前記酸化剤極に接するように前記酸化剤極に対して前記高分子電解質膜の反対側に配置され、前記酸化剤極に前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス流路板と、を備え
、
前記燃料極および前記酸化剤極の少なくとも一方は、前記高分子電解質膜に接する第1面積が、前記燃料ガス流路板または前記酸化剤ガス流路板に接する第2面積よりも大きく、
前記燃料ガスおよび前記酸化剤ガスの少なくとも一方の加湿温度は、燃料電池の温度よりも低い、燃料電池に用いられ、
前記供給された燃料ガスのリークを防止するために前記燃料ガス流路板および前記高分子電解質膜に接するように前記燃料極の周囲に配置され、または、前記供給された酸化剤ガスのリークを防止するために前記酸化剤ガス流路板および前記高分子電解質膜に接するように前記酸化剤極の周囲に配置され、
前記高分子電解質膜に接する第3面積が、前記燃料ガス流路板または前記酸化剤ガス流路板に接する第4面積
よりも小さい、燃料電池用シール材。
【請求項6】
燃料ガスが供給される燃料極と、
酸化剤ガスが供給される酸化剤極と、
前記燃料極および前記酸化剤極に接するように前記燃料極と前記酸化剤極との間に配置された高分子電解質膜と、
前記燃料極に接するように前記燃料極に対して前記高分子電解質膜の反対側に配置され、前記燃料極に前記燃料ガスを供給する燃料ガス流路板と、
前記酸化剤極に接するように前記酸化剤極に対して前記高分子電解質膜の反対側に配置され、前記酸化剤極に前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス流路板と、を備え、
前記燃料極および前記酸化剤極の少なくとも一方は、前記高分子電解質膜に接する第1面積が、前記燃料ガス流路板または前記酸化剤ガス流路板に接する第2面積よりも小さく、
前記燃料ガスおよび前記酸化剤ガスの少なくとも一方の加湿温度は、燃料電池の温度と同一以上である、燃料電池に用いられ、
前記供給された燃料ガスのリークを防止するために前記燃料ガス流路板および前記高分子電解質膜に接するように前記燃料極の周囲に配置され、または、前記供給された酸化剤ガスのリークを防止するために前記酸化剤ガス流路板および前記高分子電解質膜に接するように前記酸化剤極の周囲に配置され、
前記高分子電解質膜に接する第3面積が、前記燃料ガス流路板または前記酸化剤ガス流路板に接する第4面積よりも大きい、燃料電池用シール材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明による実施形態は、燃料電池および燃料電池用シール材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の燃料電池は、燃料極および酸化剤極のいずれの電極においても、高分子電解質膜に接する電極の面積と、高分子電解質膜と反対側のガス流路に接する電極の面積とが同等になるよう設計されていた。このため、従来の燃料電池は、ガス流路と高分子電解質膜との間において電極の周囲に配置されたシール材との境界における電極端の形状が、燃料電池の運転条件に適合していなかった。
【0003】
具体的には、従来の電極端の形状は、電極の周囲のシール材によって電極中の水分を保持するために適した形状でなかったため、電極に供給されるガスが低加湿である運転条件の下では、低加湿で供給されたガスによってガスの入口側の電極端が乾燥していた。電極端が乾燥することで、電極端に接する高分子電解質膜も乾燥していた。高分子電解質膜は乾燥に弱いため、乾燥雰囲気が続くと高分子電解質膜の劣化が進み、最終的には発電を継続できなくなる場合があった。
【0004】
また、従来の電極端の形状は、電極の周囲のシール材によって電極中の水分を排出するために適した形状でなかったため、電極に供給されるガスがフル加湿である運転条件の下では、電極端に水分が滞留するリスクが大きくなっていた。電極端に水分が滞留することで、電極内でのガスの拡散が阻害されて燃料電池の性能が低下する場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、発電性能を向上させることができる燃料電池および燃料電池用シール材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態による燃料電池は、燃料極と、酸化剤極と、高分子電解質膜と、燃料ガス流路板と、酸化剤ガス流路板と、燃料極シール材と、酸化剤極シール材とを備える。燃料極には、燃料ガスが供給される。酸化剤極には、酸化剤ガスが供給される。高分子電解質膜は、燃料極および酸化剤極に接するように燃料極と酸化剤極との間に配置されている。燃料ガス流路板は、燃料極に接するように燃料極に対して高分子電解質膜の反対側に配置され、燃料極に燃料ガスを供給する。酸化剤ガス流路板は、酸化剤極に接するように酸化剤極に対して高分子電解質膜の反対側に配置され、酸化剤極に酸化剤ガスを供給する。燃料極シール材は、燃料ガス流路板と高分子電解質膜との間において燃料極の周囲に配置され、供給された燃料ガスのリークを防止する。酸化剤極シール材は、酸化剤ガス流路板と高分子電解質膜との間において酸化剤極の周囲に配置され、供給された酸化剤ガスのリークを防止する。燃料極および酸化剤極の少なくとも一方は、高分子電解質膜に接する第1面積が、燃料ガス流路板または酸化剤ガス流路板に接する第2面積と異なる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1の実施形態による燃料電池を示す断面図である。
【
図2】第1の実施形態による燃料電池において、燃料極および燃料極シール材を示す平面図である。
【
図3】第1の実施形態による燃料電池において、酸化剤極および酸化剤極シール材を示す平面図である。
【
図4】第1の実施形態における燃料電池において、加湿器の一例を示す図である。
【
図5】第2の実施形態による燃料電池を示す断面図である。
【
図6】第2の実施形態による燃料電池において、燃料極および燃料極シール材を示す平面図である。
【
図7】第2の実施形態を示す燃料電池において、酸化剤極および酸化剤極シール材を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明に係る実施形態を説明する。本実施形態は、本発明を限定するものではない。
【0010】
(第1の実施形態)
先ず、第1の実施形態として、ガスが低加湿の運転条件で供給される燃料電池について説明する。
図1は、第1の実施形態による燃料電池1を示す断面図である。
図2は、第1の実施形態による燃料電池1において、燃料極2および燃料極シール材5を示す平面図である。
図3は、第1の実施形態による燃料電池1において、酸化剤極3および酸化剤極シール材6を示す平面図である。なお、
図1に示される燃料電池1は、複数の燃料電池1を積層した燃料電池スタックの態様で発電に用いられてもよい。
【0011】
図1に示すように、燃料電池1は、燃料極2と、酸化剤極3と、高分子電解質膜4と、燃料極シール材5と、酸化剤極シール材6と、燃料ガス流路板7と、酸化剤ガス流路板8とを備える。
【0012】
燃料極2には、燃料ガス流路板7から水素を含有する燃料ガスが供給される。燃料極2は、高分子電解質膜4側から順に、燃料極触媒層21と、燃料極拡散層22とを積層して構成されている。
【0013】
燃料極拡散層22は、燃料ガス流路板7から供給された燃料ガスを拡散させることで、燃料極触媒層21に燃料ガスを均一に供給する。燃料極拡散層22は、例えば、カーボンペーパ、カーボンクロス、不織布、炭素製の織物、紙状抄紙体、またはフェルトなどのシート状の多孔質材料で構成される。
【0014】
燃料極触媒層21では、燃料極拡散層22から供給された燃料ガスの反応が進行する。具体的には、燃料極触媒層21では、燃料ガス中の水素の酸化反応が進行し、プロトンと電子が生成される。生成されたプロトンは、高分子電解質膜4を通して酸化剤極3に供給され、生成された電子は、燃料極2および外部回路を通して酸化剤極3に供給される。燃料極触媒層21は、例えば、金属粒子を炭素担体に担持させた担持触媒で構成される。担持触媒の金属粒子は、例えば、白金と、ルテニウムやニッケルなどの白金以外の金属とを含む。
【0015】
図1および
図2に示すように、燃料極2は、第1面積の一例である高分子電解質膜4に接する下面2bの面積が、第2面積の一例である燃料ガス流路板7に接する上面2aの面積と異なる。なお、
図1および
図2の例において、燃料極2の上面2aは、燃料極拡散層22の上面であり、燃料極2の下面2bは、燃料極触媒層21の下面である。
【0016】
より詳しくは、低加湿の運転条件の下で供給される燃料ガスによってガス入口側(すなわち、上流側)の燃料極2の端部(
図1における燃料極2の左端部)が乾燥することを抑制するため、燃料極2の下面2bの面積は、燃料極2の上面2aの面積よりも大きい。さらに詳しくは、燃料極2は、燃料極触媒層21および燃料極拡散層22の積層方向に直交する断面の面積が、燃料ガス流路板7側から高分子電解質膜4側に向かうにしたがって漸増している。
【0017】
ここで、低加湿の運転条件とは、燃料ガスの加湿温度を、燃料電池1の温度よりも低くする運転条件のことである。燃料ガスの加湿は、例えば、
図4に示すように、燃料ガスの供給源と燃料ガス流路板7との間の燃料ガスの流路10上に配置された加湿器11で行うことができる。
図4の例において、加湿器11は、貯留部111に貯留された水Wを図示しない加熱装置で加熱することで、水Wの加熱温度に応じた量の水分を燃料ガスに含ませることができる。すなわち、水Wの加熱温度が高いほど、燃料ガスの湿度を高くすることができ、水Wの加熱温度が低いほど、燃料ガスの湿度を低くすることができる。低加湿の運転条件において、加湿器11は、燃料ガスの加湿温度である水Wの加熱温度を、予め設定された燃料電池1の温度よりも低い温度に設定する。なお、燃料電池1の温度は、発電にともなう燃料電池1の発熱と後述する冷媒による燃料電池1の冷却によって決まる燃料電池1の温度である。燃料電池1の温度は、冷媒の流量で制御することができる。例えば、燃料電池1の設定温度が80℃である場合に、水Wを60℃で加熱することで低加湿の運転を行ってもよい。また、低加湿の運転は、燃料ガスを加湿しないこと、すなわち、加湿器11を配置しないことで行ってもよい。低加湿の運転の意義は、酸化剤ガスにおいても同様である。
【0018】
図1に示すように、酸化剤極3には、酸化剤ガス流路板8から酸素を含有する酸化剤ガスが供給される。酸化剤極3は、高分子電解質膜4から順に、酸化剤極触媒層31と、酸化剤極拡散層32とを積層して構成されている。
【0019】
酸化剤極拡散層32は、酸化剤ガス流路板8から供給された酸化剤ガスを拡散させることで、酸化剤極触媒層31に酸化剤ガスを均一に供給する。酸化剤極拡散層32は、例えば、カーボンペーパ、カーボンクロス、不織布、炭素製の織物、紙状抄紙体、またはフェルトなどのシート状の多孔質材料で構成される。
【0020】
酸化剤極触媒層31では、酸化剤極拡散層32から供給された酸化剤ガスの反応が進行する。具体的には、酸化剤極触媒層31では、酸化剤極拡散層32から供給された酸素と燃料極触媒層21から供給されたプロトンおよび電子との反応、すなわち、酸素の還元反応が進行し、この反応によって水が生成される。酸化剤極触媒層31は、例えば、合金粒子を炭素担体に担持させた担持触媒で構成される。例えば、白金、ルテニウム、パラジウム等の金属、白金-コバルト合金、白金-鉄合金、白金-ニッケル合金等の合金を酸化剤極触媒層31として用いることができる。
【0021】
図1および
図3に示すように、酸化剤極3は、第1面積の一例である高分子電解質膜4に接する上面3aの面積が、第2面積の一例である酸化剤ガス流路板8に接する下面3bの面積と異なる。なお、
図1および
図3の例において、酸化剤極3の上面3aは、酸化剤極触媒層31の上面であり、酸化剤極3の下面3bは、酸化剤極拡散層32の下面である。
【0022】
より詳しくは、低加湿の運転条件の下で供給される酸化剤ガスによってガス入口側の酸化剤極3の端部(
図1における酸化剤極3の左端部)が乾燥することを抑制するため、酸化剤極3の上面3aの面積は、酸化剤極3の下面3bの面積よりも大きい。さらに詳しくは、酸化剤極3は、酸化剤極触媒層31および酸化剤極拡散層32の積層方向に直交する断面の面積が、酸化剤ガス流路板8側から高分子電解質膜4側に向かうにしたがって漸増している。
【0023】
高分子電解質膜4は、燃料極2と酸化剤極3との間に配置されている。高分子電解質膜4は、燃料極触媒層21で生成されたプロトンを酸化剤極触媒層31へと透過させる。また、高分子電解質膜4は、燃料極2に供給される燃料ガスと酸化剤極3に供給される酸化剤ガスとの混合を防止する隔壁としても機能する。高分子電解質膜4は、例えば、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体等のフッ素系樹脂、スルホン酸基を有する炭化水素系樹脂等の有機系材料、有機無機複合系材料などのプロトン伝導性を有する電解質で構成される。
【0024】
燃料極シール材5は、燃料ガス流路板7と高分子電解質膜4との間において燃料極2の周囲に配置されている。より詳しくは、燃料極シール材5は、上面5aが燃料ガス流路板7に接し、下面5bが高分子電解質膜4に接し、内周面5cが燃料極2の外周面2cに接するように燃料極2の周囲に配置されている。燃料極シール材5は、燃料極2に供給された燃料ガスが燃料極2の外周面2cから燃料極2の外部にリークすることを防止する。燃料極シール材5は、例えば、樹脂材料で構成される。
【0025】
低加湿の運転条件の下で供給される燃料ガスによってガス入口側の燃料極2の端部が乾燥することを抑制するため、燃料極シール材5は、第3面積の一例である高分子電解質膜4に接する下面5bの面積が、第4面積の一例である燃料ガス流路板7に接する上面5aの面積よりも小さい。より詳しくは、燃料極シール材5は、燃料極触媒層21および燃料極拡散層22の積層方向に直交する断面の面積が、燃料ガス流路板7側から高分子電解質膜4側に向かうにしたがって漸減している。
【0026】
酸化剤極シール材6は、酸化剤ガス流路板8と高分子電解質膜4との間において酸化剤極3の周囲に配置されている。より詳しくは、酸化剤極シール材6は、上面6aが高分子電解質膜4に接し、下面6bが酸化剤ガス流路板8に接し、内周面6cが酸化剤極3の外周面3cに接するように酸化剤極3の周囲に配置されている。酸化剤極シール材6は、酸化剤極3に供給された酸化剤ガスが酸化剤極3の外周面3cから酸化剤極3の外部にリークすることを防止する。
【0027】
低加湿の運転条件の下で供給される酸化剤ガスによってガス入口側の酸化剤極3の端部が乾燥することを抑制するため、酸化剤極シール材6は、第3面積の一例である高分子電解質膜4に接する上面6aの面積が、第4面積の一例である酸化剤ガス流路板8に接する下面6bの面積よりも小さい。より詳しくは、酸化剤極シール材6は、酸化剤極触媒層31および酸化剤極拡散層32の積層方向に直交する断面の面積が、酸化剤ガス流路板8側から高分子電解質膜4側に向かうにしたがって漸減している。
【0028】
燃料ガス流路板7は、燃料極2に対して高分子電解質膜4の反対側に配置されている。燃料ガス流路板7には、燃料極2の上面2aおよび燃料極シール材5の上面5aに沿った燃料ガス流路71が設けられている。燃料ガス流路板7は、燃料ガス流路71を介して燃料極2に燃料ガスを供給する。
図2に示すように、燃料ガス流路71は、燃料ガス流路71の長手方向に直交する方向に間隔を空けて燃料ガス流路板7に複数設けられている。
【0029】
燃料ガス流路板7には、更に、燃料ガス流路71の反対側に位置し、燃料電池1の発電によって生じた熱を除去するための冷媒の流路(図示せず)が設けられている。
【0030】
第1の実施形態において、燃料ガス流路板7は、既述した低加湿の運転条件の下で、燃料極2に燃料ガスを供給する。
【0031】
酸化剤ガス流路板8は、酸化剤極3に対して高分子電解質膜4の反対側に配置されている。酸化剤ガス流路板8には、酸化剤極3の下面3bおよび酸化剤極シール材6の下面6bに沿った酸化剤ガス流路81が設けられている。酸化剤ガス流路板8は、酸化剤ガス流路81を介して酸化剤極3に酸化剤ガスを供給する。
図3に示すように、酸化剤ガス流路81は、酸化剤ガス流路81の長手方向に直交する方向に間隔を空けて酸化剤ガス流路板8に複数設けられている。
【0032】
酸化剤ガス流路板8には、更に、酸化剤ガス流路81の反対側に位置し、燃料電池1の発電によって生じた熱を除去するための冷媒の流路(図示せず)が設けられている。
【0033】
第1の実施形態において、酸化剤ガス流路板8は、既述した低加湿の運転条件の下で、酸化剤極3に酸化剤ガスを供給する。
【0034】
ここで、もし、高分子電解質膜4に接する燃料極2の下面2bの面積と、燃料ガス流路板7に接する燃料極2の上面2aの面積とが同一である場合、燃料極2の外周面2cは酸化剤極触媒層31に対して垂直になり、燃料極2の外周面2cに接する燃料極シール材5の内周面5cも、酸化剤極触媒層31に対して垂直になる。燃料極シール材5の内周面5cが酸化剤極触媒層31に対して垂直になることで、燃料極シール材5は、酸化剤極触媒層31で発生した水の燃料ガス流路板7側への移動を抑制することが困難となる。すなわち、燃料極シール材5は、酸化剤極触媒層31で発生した水をガス入口側の燃料極2の端部に保持することが困難となる。このため、低加湿の運転条件の下で供給された燃料ガスによって、ガス入口側の燃料極2の端部の乾燥が顕著になる。ガス入口側の燃料極2の端部が著しく乾燥することで、燃料極2の端部に接する高分子電解質膜4も乾燥してしまう。
【0035】
これに対して、第1の実施形態においては、高分子電解質膜4に接する燃料極2の下面2bの面積が、燃料ガス流路板7に接する燃料極2の上面2aの面積よりも大きいことで、燃料極2の外周面2cに接する燃料極シール材5の内周面5cは、酸化剤極触媒層31側から燃料ガス流路板7側に向かうにしたがって内側に傾斜している。燃料極シール材5の内周面5cが内側に傾斜していることで、燃料極シール材5は、酸化剤極触媒層31で発生した水の燃料ガス流路板7側への移動を効果的に抑制することができる。すなわち、燃料極シール材5は、酸化剤極触媒層31で発生した水をガス入口側の燃料極2の端部に有効に保持することができる。これにより、低加湿の運転条件の下で供給された燃料ガスによってガス入口側の燃料極2の端部が乾燥することを抑制することができる。燃料極2の端部の乾燥を抑制することで、燃料極2の端部に接する高分子電解質膜4の乾燥も抑制することができる。
【0036】
また、もし、高分子電解質膜4に接する酸化剤極3の上面3aの面積と、酸化剤ガス流路板8に接する酸化剤極3の下面3bの面積とが同一である場合、酸化剤極3の外周面3cは酸化剤極触媒層31に対して垂直になり、酸化剤極3の外周面3cに接する酸化剤極シール材6の内周面6cも、酸化剤極触媒層31に対して垂直になる。酸化剤極シール材6の内周面6cが酸化剤極触媒層31に対して垂直になることで、酸化剤極シール材6は、酸化剤極触媒層31で発生した水の酸化剤ガス流路板8側への移動を抑制することが困難となる。すなわち、酸化剤極シール材6は、酸化剤極触媒層31で発生した水をガス入口側の酸化剤極3の端部に保持することが困難となる。このため、低加湿の運転条件の下で供給された酸化剤ガスによって、ガス入口側の酸化剤極3の端部の乾燥が顕著になる。ガス入口側の酸化剤極3の端部が著しく乾燥することで、酸化剤極3の端部に接する高分子電解質膜4も乾燥してしまう。
【0037】
これに対して、第1の実施形態においては、高分子電解質膜4に接する酸化剤極3の上面3aの面積が、酸化剤ガス流路板8に接する酸化剤極3の下面3bの面積よりも大きいことで、酸化剤極3の外周面3cに接する酸化剤極シール材6の内周面6cは、酸化剤極触媒層31側から酸化剤ガス流路板8側に向かうにしたがって内側に傾斜している。酸化剤極シール材6の内周面6cが内側に傾斜していることで、酸化剤極シール材6は、酸化剤極触媒層31で発生した水の酸化剤ガス流路板8側への移動を効果的に抑制することができる。すなわち、酸化剤極シール材6は、酸化剤極触媒層31で発生した水をガス入口側の酸化剤極3の端部に有効に保持することができる。これにより、低加湿の運転条件の下で供給された酸化剤ガスによってガス入口側の酸化剤極3の端部が乾燥することを抑制することができる。酸化剤極3の端部の乾燥を抑制することで、酸化剤極3の端部に接する高分子電解質膜4の乾燥も抑制することができる。
【0038】
したがって、第1の実施形態によれば、低加湿の運転条件下における高分子電解質膜4の乾燥による劣化を抑制することができ、この結果、燃料電池の発電性能及び耐久性を向上させることができる。
【0039】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態として、ガスがフル加湿の運転条件下で供給される燃料電池について、第1の実施形態との相違点を中心に説明する。
図5は、第2の実施形態を示す燃料電池1の断面図である。
【0040】
第2の実施形態における燃料電池1において、燃料ガス流路板7は、フル加湿の運転条件下で、燃料極2に燃料ガスを供給する。
【0041】
ここで、フル加湿の運転条件とは、燃料ガスの加湿温度を、燃料電池1の温度と同一以上にする運転条件のことである。燃料ガスの加湿は、既述した加湿器11で行うことができる。フル加湿の運転条件において、加湿器11は、水Wの加熱温度を、予め設定された燃料電池1の温度と同一以上の温度に設定する。例えば、燃料電池1の設定温度が80℃である場合に、水Wを80℃で加熱することでフル加湿の運転を行ってもよい。フル加湿の運転の意義は、酸化剤ガスにおいても同様である。
【0042】
また、酸化剤ガス流路板8は、フル加湿の運転条件下で、酸化剤極3に酸化剤ガスを供給する。
【0043】
フル加湿の運転条件の下でガス入口側の燃料極2の端部に水が滞留することを抑制するため、高分子電解質膜4に接する燃料極2の下面2bの面積は、燃料ガス流路板7に接する燃料極2の上面2aの面積よりも小さい。より詳しくは、燃料極2は、燃料極触媒層21および燃料極拡散層22の積層方向に直交する断面の面積が、燃料ガス流路板7側から高分子電解質膜4側に向かうにしたがって漸減している。
【0044】
また、フル加湿の運転条件の下でガス入口側の酸化剤極3の端部に水が滞留することを抑制するため、高分子電解質膜4に接する酸化剤極3の上面3aの面積は、酸化剤ガス流路板8に接する酸化剤極3の下面3bの面積よりも小さい。より詳しくは、酸化剤極3は、酸化剤極触媒層31および酸化剤極拡散層32の積層方向に直交する断面の面積が、酸化剤ガス流路板8側から高分子電解質膜4側に向かうにしたがって漸減している。
【0045】
また、フル加湿の運転条件の下でガス入口側の燃料極2の端部に水が滞留することを抑制するため、高分子電解質膜4に接する燃料極シール材5の下面5bの面積は、燃料ガス流路板7に接する燃料極シール材5の上面5aの面積よりも大きい。
【0046】
また、フル加湿の運転条件の下でガス入口側の酸化剤極3の端部に水が滞留することを抑制するため、高分子電解質膜4に接する酸化剤極シール材6の上面6aの面積は、酸化剤ガス流路板8に接する酸化剤極シール材6の下面6bの面積よりも大きい。
【0047】
ここで、もし、高分子電解質膜4に接する燃料極2の下面2bの面積と、燃料ガス流路板7に接する燃料極2の上面2aの面積とが同一である場合、既述したように、燃料極シール材5の内周面5cが、酸化剤極触媒層31に対して垂直になる。燃料極シール材5の内周面5cが酸化剤極触媒層31に対して垂直になることで、燃料極シール材5は、酸化剤極触媒層31で発生した水の燃料ガス流路板7側への移動を促進することが困難となる。すなわち、燃料極シール材5は、酸化剤極触媒層31で発生した水がガス入口側の燃料極2の端部に滞留することを抑制することが困難となる。このため、フル加湿の運転条件の下で供給された燃料ガスに含まれる水分によってガス入口側の燃料極2の端部における水の滞留がより顕著になる。これにより、燃料極2内での燃料ガスの拡散が阻害されて燃料電池1の性能が低下してしまう。
【0048】
これに対して、第2の実施形態においては、高分子電解質膜4に接する燃料極2の下面2bの面積が、燃料ガス流路板7に接する燃料極2の上面2aの面積よりも小さいことで、燃料極2の外周面2cに接する燃料極シール材5の内周面5cは、酸化剤極触媒層31側から燃料ガス流路板7側に向かうにしたがって外側に傾斜している。燃料極シール材5の内周面5cが外側に傾斜していることで、燃料極シール材5は、酸化剤極触媒層31で発生した水の燃料ガス流路板7側への移動を効果的に促進することができる。すなわち、燃料極シール材5は、酸化剤極触媒層31で発生した水がガス入口側の燃料極2の端部に滞留することを有効に抑制することができる。これにより、フル加湿の運転条件の下で供給された燃料ガスに含まれる水分によってガス入口側の燃料極2の端部における水の滞留が顕著になることを抑制することができる。燃料極2の端部における水の滞留を抑制することで、燃料極2内で燃料ガスの拡散が阻害されることを抑制して、燃料電池1の性能が低下することを抑制することができる。
【0049】
また、もし、高分子電解質膜4に接する酸化剤極3の上面3aの面積と、酸化剤ガス流路板8に接する酸化剤極3の下面3bの面積とが同一である場合、既述したように、酸化剤極シール材6の内周面6cが、酸化剤極触媒層31に対して垂直になる。酸化剤極シール材6の内周面6cが酸化剤極触媒層31に対して垂直になることで、酸化剤極シール材6は、酸化剤極触媒層31で発生した水の酸化剤ガス流路板8側への移動を促進することが困難となる。すなわち、酸化剤極シール材6は、酸化剤極触媒層31で発生した水がガス入口側の酸化剤極3の端部に滞留することを抑制することが困難となる。このため、フル加湿の運転条件の下で供給された酸化剤ガスに含まれる水分によってガス入口側の酸化剤極3の端部における水の滞留がより顕著になる。これにより、酸化剤極3内での酸化剤ガスの拡散が阻害されて燃料電池1の性能が低下してしまう。
【0050】
これに対して、第2の実施形態においては、高分子電解質膜4に接する酸化剤極3の上面3aの面積が、酸化剤ガス流路板8に接する酸化剤極3の下面3bの面積よりも小さいことで、酸化剤極3の外周面3cに接する酸化剤極シール材6の内周面6cは、酸化剤極触媒層31側から酸化剤ガス流路板8側に向かうにしたがって外側に傾斜している。酸化剤極シール材6の内周面6cが外側に傾斜していることで、酸化剤極シール材6は、酸化剤極触媒層31で発生した水の酸化剤ガス流路板8側への移動を効果的に促進することができる。すなわち、酸化剤極シール材6は、酸化剤極触媒層31で発生した水がガス入口側の酸化剤極3の端部に滞留することを有効に抑制することができる。これにより、フル加湿の運転条件の下で供給された酸化剤ガスに含まれる水分によってガス入口側の酸化剤極3の端部における水の滞留が顕著になることを抑制することができる。酸化剤極3の端部における水の滞留を抑制することで、酸化剤極3内で酸化剤ガスの拡散が阻害されることを抑制して、燃料電池1の性能が低下することを抑制することができる。
【0051】
したがって、第2の実施形態によれば、フル加湿の運転条件下における燃料電池1の性能の低下を抑えることができるので、燃料電池1の発電性能を向上させることができる。
【0052】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0053】
1 燃料電池、2 燃料極、3 酸化剤極、4 高分子電解質膜、5 燃料極シール材、6 酸化剤極シール材、7 燃料ガス流路板、8 酸化剤ガス流路板