(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-29
(45)【発行日】2022-08-08
(54)【発明の名称】スラストフォイル軸受、フォイル軸受ユニット、ターボ機械及びフォイル
(51)【国際特許分類】
F16C 27/02 20060101AFI20220801BHJP
F04D 29/057 20060101ALI20220801BHJP
【FI】
F16C27/02 A
F04D29/057 Z
(21)【出願番号】P 2019059053
(22)【出願日】2019-03-26
【審査請求日】2021-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100155457
【氏名又は名称】野口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】原田 和慶
(72)【発明者】
【氏名】吉野 真人
(72)【発明者】
【氏名】岡本 実樹
【審査官】日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-180684(JP,A)
【文献】特開2016-80119(JP,A)
【文献】特開2013-61024(JP,A)
【文献】特開平11-148512(JP,A)
【文献】国際公開第2017/169842(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 27/02
F04D 29/057
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転部材と軸方向に対向する軸受面を有し、前記回転部材の回転方向に並べて配された複数のフォイルを備えたスラストフォイル軸受であって、
各フォイルが、前記軸受面を有するトップフォイル部と、前記トップフォイル部の上流側に設けられ、隣接するフォイルのトップフォイル部の前記軸受面と反対側に重ねて配されたバックフォイル部とを有し、
隣接するフォイル同士の重合部の内径端が占める角度が、前記重合部の外径端が占める角度よりも小さいスラストフォイル軸受。
【請求項2】
各フォイルのうち、前記トップフォイル部及び前記バックフォイル部からなる本体部の内径端が占める角度が、前記本体部の外径端が占める角度よりも小さい請求項1に記載のスラストフォイル軸受。
【請求項3】
前記重合部の内径端が占める角度と、前記重合部の外径端が占める角度との差が10°以上である請求項1又は2に記載のスラストフォイル軸受。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載のスラストフォイル軸受と、前記回転部材とを備えたフォイル軸受ユニット。
【請求項5】
請求項4に記載のフォイル軸受ユニットを有するターボ機械。
【請求項6】
スラストフォイル軸受に設けられるフォイルであって、
回転部材と軸方向に対向する軸受面を有するトップフォイル部と、前記トップフォイル部の上流側に設けられ、隣接するフォイルのトップフォイル部の前記軸受面と反対側に重ねて配されるバックフォイル部とからなる本体部を有し、
前記本体部の内径端が占める角度が、前記本体部の外径端が占める角度よりも小さいフォイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラストフォイル軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンやターボチャージャ等のターボ機械の主軸を支持する軸受には、高温・高速回転といった過酷な環境に耐え得ることが要求される。このような条件下での使用に適する軸受として、動圧軸受の一種であるフォイル軸受が着目されている。フォイル軸受は、曲げに対して剛性の低い可撓性を有する薄膜(フォイル)で軸受面を構成し、軸受面の撓みを許容することで荷重を支持するものである(例えば、下記の特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-108485号公報
【文献】特開2015-132309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フォイル軸受は、潤滑剤が気体(空気)であるため、オイルを潤滑剤とする動圧軸受と比べて低トルクであるという利点がある。しかしながら一方で、動圧軸受の負荷容量は潤滑剤の粘度に依存するため、気体を潤滑剤とするフォイル軸受は、オイルを潤滑剤とする動圧軸受に比べて、負荷容量が小さくなることは避けられない。このため、フォイル軸受の適用範囲を拡大するためには、さらなる負荷容量の増大が必要である。
【0005】
ここで、
図16に、従来のリーフ型のスラストフォイル軸受120を示す。このスラストフォイル軸受120では、
図17に示すような形状のフォイル122を、
図18に示すように位相をずらしながら重ね合わせて配置している。各フォイル122のうち、隣接するフォイル122の背後(軸受面と反対側)に配された部分はバックフォイル部122bとして機能し、隣接するフォイル122の上に乗り上げた部分が、軸受面を有するトップフォイル部122aとして機能する。
【0006】
主軸に設けられたスラストカラー106が
図19の矢印方向に回転すると、各フォイル122に設けられた軸受面S’とスラストカラー106の端面との間に軸受隙間C’が形成される。このとき、各フォイル122のトップフォイル部122aが、隣接するフォイル122のバックフォイル部122bの上に乗り上げているため、各フォイル122のトップフォイル部122aとスラストカラー106との間の軸受隙間C’が、下流側に向けて隙間幅を徐々に狭めた楔形となる。この楔形の軸受隙間C’の小隙間部に潤滑剤(空気)が押し込まれることで、潤滑剤の圧力が高められ、スラストカラー106が非接触支持される。
【0007】
上記のようなスラストフォイル軸受120の負荷容量は、軸受隙間C’の最小幅(以下、この幅を「浮上隙間」と言う。)h’に依存する。すなわち、理論上、浮上隙間h’が小さい程、スラストフォイル軸受120の負荷容量は増大する。従って、スラストフォイル軸受120の負荷容量を増大させるためには、浮上隙間h’をできるだけ小さくすればよい。
【0008】
しかし、上記のスラストフォイル軸受120の浮上隙間h’を小さくしようとすると、以下のような問題が生じる。フォイル122を形成する際には、
図20に示すように、中空円盤状のフォイル素材130を周方向複数箇所で分断し、フォイル素材130の周方向全域をフォイル122として利用することで材料歩留まりを高めることが通例である。この場合、
図17に示すように、各フォイル122の外径端に設けられた円弧部122cが占める角度A’と、内径端に設けられた円弧部122dが占める角度B’が等しくなり、その結果、外径端の円弧部122cの周方向長が内径端の円弧部122dの周方向長よりも長くなる。
【0009】
このフォイル122を位相をずらしながら重ね合わせると、フォイル122の外径端付近では、
図21に示すようにフォイル122の周方向ピッチL1’が相対的に大きくなるのに対し、フォイル122の内径端付近では、
図22に示すようにフォイル122の周方向ピッチL2’が相対的に小さくなる。その結果、各フォイル122の内径端付近における剛性が、外径端付近における剛性よりも高くなるため、各フォイル122が撓みにくくなってスラストカラーに接触しやすくなる。この場合、各フォイルの内径端を基準として浮上隙間を設定する必要があるため、浮上隙間を十分に小さくすることができないという問題があった。
【0010】
そこで、本発明は、リーフ型のスラストフォイル軸受において、浮上隙間を小さくして負荷容量を増大させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、本発明は、回転部材と軸方向に対向する軸受面を有し、前記回転部材の回転方向に並べて配された複数のフォイルを備えたスラストフォイル軸受であって、各フォイルが、前記軸受面を有するトップフォイル部と、前記トップフォイル部の上流側に設けられ、隣接するフォイルのトップフォイル部の前記軸受面と反対側に重ねて配されたバックフォイル部とを有し、隣接するフォイル同士の重合部の内径端が占める角度が、前記重合部の外径端が占める角度よりも小さいスラストフォイル軸受を提供する。
【0012】
本発明では、上記のように、隣接するフォイル同士の重合部(すなわち、各フォイルのトップフォイル部がバックフォイル部で背後(軸受面と反対側)から支持される領域)の内径端が占める角度を、重合部の外径端が占める角度よりも小さくした。これにより、各フォイルの内径端付近の剛性が相対的に小さくなるため、各フォイルの外径端付近と内径端付近との剛性の差が小さくなり、フォイルを全面で略均一に撓ませることができるため、浮上隙間をより小さく設定することが可能となる。
【0013】
上記のスラストフォイル軸受では、例えば、各フォイルのうち、前記トップフォイル部及び前記バックフォイル部からなる本体部の内径端が占める角度を、前記本体部の外径端が占める角度よりも小さくすることにより、隣接するフォイル同士の重合部の内径端が占める角度を、重合部の外径端が占める角度よりも小さくすることができる。
【0014】
また、上記のスラストフォイル軸受では、隣接するフォイル同士の重合部の内径端が占める角度と、重合部の外径端が占める角度との差を10°以上とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、リーフ型のスラストフォイル軸受において、浮上隙間を小さくして負荷容量を増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】上記ガスタービンの主軸の支持構造を示す断面図である。
【
図3】上記支持構造に組み込まれるスラストフォイル軸受の断面図である。
【
図4】上記スラストフォイル軸受を軸方向から見た正面図である。
【
図5】上記スラストフォイル軸受のフォイルの正面図である。
【
図6】フォイル素材からフォイルを形成する様子を示す正面図である。
【
図7】上記フォイルを重ね合わせた状態を示す正面図である。
【
図11】他の実施形態に係るフォイルの正面図である。
【
図12】さらに他の実施形態に係るフォイルの正面図である。
【
図13】比較例に係るフォイルの試験結果を示す写真(正面図)である。
【
図14】実施例1に係るフォイルの試験結果を示す写真(正面図)である。
【
図15】実施例2に係るフォイルの試験結果を示す写真(正面図)である。
【
図16】従来のスラストフォイル軸受の正面図である。
【
図17】
図16のスラストフォイル軸受のフォイルの正面図である。
【
図18】
図17のフォイルを重ね合わせた状態を示す正面図である。
【
図20】フォイル素材から
図17のフォイルを形成する様子を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
図1に、ターボ機械の一種であるガスタービンの構成を概念的に示す。このガスタービンは、翼列を形成したタービン1および圧縮機2と、発電機3と、燃焼器4と、再生器5とを主に備える。タービン1、圧縮機2、および発電機3には、水平方向に延びる共通の主軸6が設けられ、この主軸6と、タービン1および圧縮機2とで一体回転可能のロータが構成される。吸気口7から吸入された空気は、圧縮機2で圧縮され、再生器5で加熱された上で燃焼器4に送り込まれる。この圧縮空気に燃料を混合して燃焼させ、高温、高圧のガスでタービン1を回転させる。タービン1の回転力が主軸6を介して発電機3に伝達され、発電機3が回転することにより発電し、この電力がインバータ8を介して出力される。タービン1を回転させた後のガスは比較的高温であるため、このガスを再生器5に送り込んで燃焼前の圧縮空気との間で熱交換を行うことで、燃焼後のガスの熱を再利用する。再生器5で熱交換を終えたガスは、排熱回収装置9を通ってから排ガスとして排出される。
【0019】
図2に、上記ガスタービンにおけるロータの支持構造の一例を示す。この支持構造では、軸方向の2箇所にラジアル軸受10が配置され、主軸6に設けられたスラストカラー6aの軸方向両側にスラスト軸受20、20が配置される。このラジアル軸受10およびスラスト軸受20により、主軸6がラジアル方向及び両スラスト方向に回転自在に支持される。
【0020】
この支持構造において、タービン1と圧縮機2の間の領域は、高温、高圧のガスで回転されるタービン1に隣接しているために高温雰囲気となる。この高温雰囲気では、オイルやグリース等からなる潤滑剤が変質・蒸発してしまうため、これらの潤滑剤を使用する通常の軸受(転がり軸受等)を適用することは難しい。そのため、この種の支持構造で使用される軸受10、20としては、空気動圧軸受、特にフォイル軸受が適合する。
【0021】
以下、上記ガスタービン用のスラスト軸受20に適合するフォイル軸受(以下、「スラストフォイル軸受20」という。)の構成を図面に基づいて説明する。
【0022】
スラストフォイル軸受20は、
図3に示すように、円盤状のフォイルホルダ21と、フォイルホルダ21の端面21aに取り付けられた複数のフォイル22とを有する。本実施形態では、スラストカラー6aの軸方向両側にスラストフォイル軸受20,20が設けられる。これらのスラストフォイル軸受20,20は、スラストカラー6aを中心として軸方向で対称な構造を有している。尚、以下では、主軸6の回転時における、フォイル22に対する流体の流れ方向下流側を「下流側」と言い、その反対側を「上流側」と言う。
【0023】
フォイルホルダ21は、金属や樹脂等で形成される。フォイルホルダ21は、主軸6が挿入される内孔21bを有する中空円盤状を成している。フォイルホルダ21の一方の端面21aには複数のフォイル22が取り付けられる。フォイルホルダ21の他方の端面21cは、スラストフォイル軸受20が組み込まれる設備(本実施形態ではガスタービン)のハウジングに固定される。
【0024】
フォイル22は、ばね性に富み、かつ加工性のよい金属で形成され、例えば鋼や銅合金で形成される。フォイル22は、厚さ20μm~200μm程度の金属薄板(フォイル)で形成される。本実施形態のように流体膜として空気を用いる空気動圧軸受では、雰囲気にオイルが存在しないため、ステンレス鋼もしくは青銅でフォイル22を形成するのが好ましい。
【0025】
フォイル22は、
図4に示すように、位相をずらしながら周方向に並べて配される。各フォイル22は、
図5に示すように、軸受面Sを有するトップフォイル部22aと、トップフォイル部22aの上流側に連続して設けられたバックフォイル部22bとからなる本体部22cを備える。図示例では、本体部22cの下流側端部22f(すなわち、トップフォイル部22aの下流側端部)及び上流側端部22g(すなわち、バックフォイル部22bの上流側端部)が、何れも半径方向中間部を下流側に突出させたヘリングボーン形状を成している。本実施形態では、トップフォイル部22aの下流側端部22fの形状と、バックフォイル部22bの上流側端部22gの形状とが異なっている。各フォイル22は、適宜の手段でフォイルホルダ21に固定され、例えば、本体部22cの上流側端部22gがフォイルホルダ21の端面21aに溶接により固定される。
【0026】
フォイル22の本体部22cの外径端には円弧部22dが設けられ、本体部22cの内径端には円弧部22eが設けられる。円弧部22d,22eは、何れも主軸6の回転中心Oを中心としている。本体部22cの内径端の円弧部22eが占める角度Bは、本体部22cの外径端の円弧部22dが占める角度Aよりも小さく、例えば角度Aよりも10°以上小さい。図示例では、本体部22cの下流側端部22fの外径端及び内径端は同じ位相(周方向位置)に配され、本体部22cの上流側端部22gの内径端は外径端よりも下流側に配される。
【0027】
フォイル22は、平板状のフォイル素材(金属薄板)に打ち抜き加工や放電加工を施すことにより形成される。本実施形態では、
図6に示すように、中空円盤状のフォイル素材30から6枚のフォイル22を形成する。このとき、隣接するフォイル22の下流側端部22f及び上流側端部22gの外径端同士は接しており、内径端同士は離間している。図示例では、隣接するフォイル22の下流側端部22f及び上流側端部22gのうち、半径方向中央に設けられた頂部よりも外径側の領域は接しており、頂部よりも内径側の領域は互いに離間している。
図6では、フォイル素材30のうち、隣接するフォイル22の下流側端部22fと上流側端部22gとの間の不要部分31に散点を付している。図示例では、フォイル素材30から6枚のフォイル22が形成されるため、各フォイル22の外径端の円弧部22dが占める角度A(
図5参照)が60°となる。一方、各フォイルの22の内径端の円弧部22eが占める角度Bは、60°よりも小さく、例えば50°以下とされる。
【0028】
上記のフォイル22をフォイルホルダ21に取り付けた状態では、
図7及び
図8に示すように、各フォイル22のトップフォイル部22aに設けられた軸受面Sがスラストカラー6aと軸方向に直接対向し、各フォイル22のトップフォイル部22aの背後(軸受面Sと反対側)に、下流側に隣接するフォイル22のバックフォイル部22bが配される。すなわち、各フォイル22のバックフォイル部22bが、上流側に隣接するフォイル22のトップフォイル部22aとフォイルホルダ21との間に配される。本実施形態では、各フォイル22の内径端の円弧部22eが占める角度Bが、各フォイル22の外径端の円弧部22dが占める角度Aよりも小さいため(
図5参照)、隣接するフォイル22同士の重合部P(
図7に散点で示す)の内径端が占める角度Eが、重合部Pの外径端が占める角度Dよりも小さくなっている。図示例では、各フォイル22のうち、軸受面Sを有するトップフォイル部22aの内径端及び外径端の占める角度は等しく、隣接するフォイル22の背後に配されるバックフォイル部22bの内径端の占める角度が外径端の占める角度よりも小さくなっている。
【0029】
主軸6が周方向一方(
図8の矢印R方向)に回転すると、スラストフォイル軸受20の各フォイル22の軸受面Sとスラストカラー6aの端面との間に軸受隙間Cが形成される。このとき、各フォイル22が隣接するフォイル22に乗り上げて湾曲することで、軸受隙間Cは、下流側へ行くにつれて狭くなった楔形を成す(
図8では、各フォイル22を簡略化して平板状としている)。この楔形の軸受隙間Cの大隙間部C1の空気が小隙間部C2に押し込まれることにより、軸受隙間Cの空気膜の圧力が高められ、この圧力により主軸6がスラスト方向に非接触支持される。このとき、フォイル22が、荷重や主軸6の回転速度、周囲温度等の運転条件に応じて弾性変形することで、軸受隙間Cが運転条件に応じた適切幅に自動調整される。そのため、高温・高速回転といった過酷な条件下でも、軸受隙間Cを最適幅に管理することができ、主軸6を安定して支持することが可能となる。
【0030】
このとき、各フォイル22の外径端付近における周方向のピッチL1(
図9参照)よりも、各フォイル22の内径端付近における周方向ピッチL2(
図10参照)が小さいため、フォイル22の内径端付近では、外径端付近よりも軸受面Sの剛性が高くなる(すなわち、軸受面Sが軸方向に変位しにくくなる)傾向がある。
【0031】
本発明では、上述のように、各フォイル22の内径端の円弧部22eが占める角度Bを外径端の円弧部22dが占める角度Aよりも小さくすることで、隣接するフォイル22同士の重合部Pの内径端が占める角度Eを重合部Pの外径端が占める角度Dよりも小さくしている。すなわち、フォイル22の外径端付近では、隣接するフォイル22同士の重合部Pが周方向で連続して設けられている(
図9参照)のに対し、フォイル22の内径端付近では、隣接するフォイル22同士の重合部Pが周方向で間隔を開けて設けられている(
図10参照)。このように、各フォイル22の内径端付近において、トップフォイル部22aがバックフォイル部22bで支持される領域の割合を小さくすることで、各フォイル22の内径端付近における軸受面Sの剛性が低下する。その結果、各フォイル22の外径端付近における剛性と内径端付近における剛性との差が小さくなるため、各フォイル22の半径方向全域を略均一に撓ませることができる。これにより、軸受隙間Cの小隙間部C2の幅(浮上隙間h)をさらに小さくすることが可能となり、スラストフォイル軸受20の負荷容量を増大させることができる。
【0032】
また、本実施形態では、各フォイル22のトップフォイル部22aの外径端及び内径端の占める角度が等しく、各フォイル22のバックフォイル部22bの内径端の占める角度を外径端の占める角度よりも小さくしている。この場合、
図18に示す従来のフォイル122と比べて、トップフォイル部22aの面積、すなわち軸受面Sの面積は変わらないため、軸受面Sの面積の減少による負荷容量の低下を回避できる。
【0033】
尚、主軸6の停止直前や起動直後の低速回転時には、各フォイル22の軸受面Sとスラストカラー6aの端面とが接触摺動するため、これらの何れか一方または双方に、DLC膜、チタンアルミナイトライド膜、二硫化タングステン膜、あるいは二硫化モリブデン膜等の低摩擦化被膜を形成してもよい。また、主軸6の回転中は、フォイル22とフォイルホルダ21との間、及び、重ね合わされたフォイル22のトップフォイル部22aとバックフォイル部22bとの間に微小摺動が生じ、この微小摺動による摩擦エネルギーにより、主軸6の振動を減衰させることができる。このような微小摺動による摩擦力を調整するために、互いに摺動する面の何れか一方または双方に、上記のような低摩擦化被膜を形成してもよい。
【0034】
本発明は、上記の実施形態に限られない。例えば
図11で示す実施形態では、フォイル22に、本体部22cから外径側に延在した固定部22hを設けている。この固定部22hをフォイルホルダ21に溶接等の適宜の手段で固定することで、フォイル22がフォイルホルダ21に固定される。
【0035】
また、
図12に示す実施形態では、フォイル22の本体部22cの下流側端部22f及び上流側端部22gを直線状としている。図示例では、下流側端部22fの全域を同じ位相(周方向位置)に配すると共に、上流側端部22gの内径端を外径端よりも下流側に配している。これにより、本体部22cの内径端が占める角度Bを外径端が占める角度Aよりも小さくしている。
【0036】
以上のようなスラストフォイル軸受20は、ガスタービンに限らず、過給機等の他のターボ機械や、その他の回転軸を支持する用途に適用することができる。
【実施例1】
【0037】
本発明の効果を確認するために、本体部の内径端が占める角度Bと外径端が占める角度Aとの差が0°のフォイル(比較例)と、5°のフォイル(実施例1)と、10°のフォイル(実施例2)とを用意し、これらのフォイルを設けたスラストフォイル軸受の軌道停止試験を行った後のフォイルの状態を観察した。その結果、比較例は、
図13に示すように、各フォイルのトップフォイル部の内径端付近(点線で囲んだ領域)に、スラストカラーと摺動した痕が設けられていた。一方、実施例1は、
図14に示すように、各フォイルの摺動痕が比較例よりも低減されていた。また、実施例2は、
図15に示すように、各フォイルに摺動痕はほとんど見られなかった。以上の結果から、各フォイルの内径端の角度Bを外径端の角度Aよりも小さくすること、すなわち、隣接するフォイル同士の重合部の内径端の角度を外径端の角度よりも小さくすることにより、各フォイルの内径端におけるスラストカラーとの接触が緩和されることが確認された。特に、各フォイルの内径端の角度Bと外径端の角度Aとの差を10°とした実施例2では、フォイルの内径端のみが接触することがなく、各フォイルが全体で均一に撓んでいることが分かる。このように、フォイルの内径端とスラストカラーとの接触を抑えることで、軸受隙間、特に浮上隙間をより小さくして負荷容量を増大させることが可能となる。
【符号の説明】
【0038】
1 タービン
2 圧縮機
6 主軸
6a スラストカラー
10 ラジアル軸受
20 スラストフォイル軸受
21 フォイルホルダ
22 フォイル
22a トップフォイル部
22b バックフォイル部
22c 本体部
22d 円弧部(外径端)
22e 円弧部(内径端)
22f 下流側端部
22g 上流側端部
30 フォイル素材
31 不要部分
C 軸受隙間
O 回転中心
P フォイル同士の重合部
S 軸受面