(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-29
(45)【発行日】2022-08-08
(54)【発明の名称】電動リール及び電動リール制御装置
(51)【国際特許分類】
A01K 89/017 20060101AFI20220801BHJP
【FI】
A01K89/017
(21)【出願番号】P 2019168627
(22)【出願日】2019-09-17
【審査請求日】2021-06-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000204033
【氏名又は名称】太平洋工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112472
【氏名又は名称】松浦 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100202223
【氏名又は名称】軸見 可奈子
(72)【発明者】
【氏名】林 久雄
【審査官】大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-316437(JP,A)
【文献】特開2005-269929(JP,A)
【文献】特開2005-201799(JP,A)
【文献】特開2014-100078(JP,A)
【文献】米国特許第04598878(US,A)
【文献】特開2009-178119(JP,A)
【文献】特開2007-116934(JP,A)
【文献】特開2005-176777(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 89/017
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動リール(10)の駆動操作部(17)に対する操作速度(ω)又は操作加速度(α)を検出する操作検出部(19,S10,S34,S51)と、
前記電動リール(10)のモータ(12)を駆動する駆動回路(54)と、
前記駆動回路(54)の出力を前記操作速度(ω)又は前記操作加速度(α)に応じて変更する制御回路(52)と、を備え
、
前記制御回路(52)は、
前記操作速度(ω)の絶対値又は前記操作加速度(α)の絶対値が、
予め定められた基準値(ω1,ω2)を超えた場合には、前記駆動回路(54)の出力を、予め定められた一定変更量、変更する一方、
前記基準値(ω1,ω2)以下の場合には、前記駆動操作部(17)の操作量(X)に応じて前記駆動回路(54)の出力を変更する電動リール制御装置(40)。
【請求項2】
電動リール(10)の駆動操作部(17)に対する操作速度(ω)又は操作加速度(α)を検出する操作検出部(19,S10,S34,S51)と、
前記電動リール(10)のモータ(12)を駆動する駆動回路(54)と、
前記駆動回路(54)の出力を前記操作速度(ω)又は前記操作加速度(α)に応じて変更する制御回路(52)と、を備え、
前記制御回路(52)は、
前記操作速度(ω)の絶対値又は前記操作加速度(α)の絶対値が、
予め定められた単位期間(T)内に予め定められた基準値以上のピークを複数含むように変化したというピーク条件(S62~S65)を満たす場合には、前記駆動回路(54)の出力を予め定められた一定変更量、変更する一方、
前記ピーク条件(S62~S65)を満たさない場合には、前記駆動操作部(17)の操作量(X)に応じて前記駆動回路(54)の出力を変更する電動リール制御装置(40)。
【請求項3】
前記制御回路(52)は、前記駆動回路(54)の出力が停止している場合には、予め定められた単位期間(T)内に、前記操作速度(ω)又は前記操作加速度(α)の向きが反転したことを条件にして前記駆動回路(54)を起動する請求項1又は2に記載の電動リール制御装置(40)。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1の請求項に記載の電動リール制御装置(40)を有する電動リール(10)。
【請求項5】
前記駆動操作部(17)は、無制限に回転可能なフリーローラ構造になっている請求項4に記載の電動リール(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、釣りに使用される電動リール及び電動リール制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電動リールとして、モータの出力が駆動操作部の回動位置に応じて変わるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-7184号公報(
図1,段落[0022])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、電動リールの普及に伴い、今までにない操作感を有する電動リールの開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するためになされた請求項1の発明は、電動リール(10)の駆動操作部(17)に対する操作速度(ω)又は操作加速度(α)を検出する操作検出部(19,S10,S34,S51)と、前記電動リール(10)のモータ(12)を駆動する駆動回路(54)と、前記駆動回路(54)の出力を前記操作速度(ω)又は前記操作加速度(α)に応じて変更する制御回路(52)と、を備え、前記制御回路(52)は、前記操作速度(ω)の絶対値又は前記操作加速度(α)の絶対値が、予め定められた基準値(ω1,ω2)を超えた場合には、前記駆動回路(54)の出力を、予め定められた一定変更量、変更する一方、前記基準値(ω1,ω2)以下の場合には、前記駆動操作部(17)の操作量(X)に応じて前記駆動回路(54)の出力を変更する電動リール制御装置(40)である。
【0007】
請求項2の発明は、電動リール(10)の駆動操作部(17)に対する操作速度(ω)又は操作加速度(α)を検出する操作検出部(19,S10,S34,S51)と、前記電動リール(10)のモータ(12)を駆動する駆動回路(54)と、前記駆動回路(54)の出力を前記操作速度(ω)又は前記操作加速度(α)に応じて変更する制御回路(52)と、を備え、前記制御回路(52)は、前記操作速度(ω)の絶対値又は前記操作加速度(α)の絶対値が、予め定められた単位期間(T)内に予め定められた基準値以上のピークを複数含むように変化したというピーク条件(S62~S65)を満たす場合には、前記駆動回路(54)の出力を、予め定められた一定変更量、変更する一方、前記ピーク条件(S62~S65)を満たさない場合には、前記駆動操作部(17)の操作量(X)に応じて前記駆動回路(54)の出力を変更する電動リール制御装置(40)である。
【0008】
請求項3の発明は、前記制御回路(52)は、前記駆動回路(54)の出力が停止している場合には、予め定められた単位期間(T)内に、前記操作速度(ω)又は前記操作加速度(α)の向きが反転したことを条件にして前記駆動回路(54)を起動する請求項1又は2に記載の電動リール制御装置(40)である。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1乃至3の何れか1の請求項に記載の電動リール制御装置(40)を有する電動リール(10)である。
【0010】
請求項5の発明は、前記駆動操作部(17)は、無制限に回転可能なフリーローラ構造になっている請求項4に記載の電動リール(10)である。
【発明の効果】
【0011】
請求項1及び4の構成によれば、電動リール(10)の駆動操作部(17)に対する操作速度(ω)又は操作加速度(α)に応じて電動リール(10)の動作速度が変わるという今までにない操作感を楽しむことができる。ここで、駆動操作部(17)は、回動範囲が限定されたローラ又はレバーでもよく、請求項5の構成のように無制限に回動するフリーローラ構造としてもよい。駆動操作部(17)を従来の電動リール(10)にはなかったフリーローラ構造にすれば、今までとさらに異なる操作感を楽しむことができる。
【0012】
また、駆動操作部(17)に対する操作速度(ω)の絶対値又は操作加速度(α)の絶対値が、予め定められた基準値(ω1,ω2)を超えるように駆動操作部(17)を素早く操作すると、駆動回路(54)の出力が、一定変更量だけ変更される。また、操作速度(ω)の絶対値又は操作加速度(α)の絶対値が基準値(ω1,ω2)以下になるようにゆっくり操作すると、駆動操作部(17)の操作量に応じて駆動回路(54)の出力が変更される。これにより、例えば、駆動操作部(17)を素早く操作してモータ(12)の出力を一気に変更した後、ゆっくり操作してモータ(12)の出力を微調整することができる。
【0013】
請求項2の構成によれば、駆動操作部(17)を単位期間(T)内に連続して複数回操作すれば、操作速度(ω)の絶対値又は操作加速度(α)の絶対値が、基準値以上のピークを複数含むように変化し、ピーク条件(S62~S65)を満たす。そして、ピーク条件(S62~S65)を満たす場合には、駆動回路(54)の出力が、一定変更量だけ変更され、ピーク条件(S62~S65)を満たさない場合には、駆動操作部(17)の操作量に応じて駆動回路(54)の出力が変更される。これにより、例えば、駆動操作部(17)を素早く複数回操作してモータ(12)の出力を一気に変更した後、ゆっくり操作してモータ(12)の出力を微調整することができる。
【0014】
請求項3の構成では、駆動回路(54)の出力が停止している場合には、予め定められた単位期間(T)内に操作速度(ω)又は操作加速度(α)の向きが反転したことを条件にして駆動回路(54)を起動するので、意図せず駆動操作部(17)に触れて駆動回路(54)が起動する事態が防がれる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図6】第2実施形態の第3電動モード制御処理のフローチャート
【
図7】第3実施形態の第3電動モード制御処理のフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0016】
[第1実施形態]
以下、
図1~
図5を参照して、本開示の第1実施形態に係る電動リール10及び電動リール制御装置40について説明する。
図1に示された本実施形態の電動リール10は、両端部を回転可能に支持されたスプール11を有し、そのスプール11にはモータ12と手巻ハンドル13とが図示しないクラッチ機構とギヤとを介して連結されている。また、スプール11の後方にはクラッチ機構をON/OFF又は接続/解放するためのクラッチレバー14が備えられている。そして、クラッチ機構により、スプール11が、釣糸99を巻き取る巻取方向のみに回転可能な状態と、自在回転可能な状態とに切り替えられる。また、スプール11の巻取方向への回転は、モータ12又は手巻ハンドル13にて行うことができる。一方、スプール11の巻取方向とは逆の送出方向への回転は、スプール11が自在回転可能な状態で、釣糸99が餌や錘等に引っ張られることで行われる。また、クラッチ機構により、モータ12の一方向の回転出力が、スプール11に対して異なる向きの力に切り替えられて伝達され、スプール11の送出方向の回転をモータ12にてアシストすることもできるようになっている。
【0017】
電動リール10の上面には、モニタ15と、その後側に横並びに配置された複数の設定ボタン16とが備えられている。そして、電動リール10の上面の後縁部に、電動モードで使用する駆動操作部17が備えられている。
【0018】
駆動操作部17は、ローラ形状をなし、横方向に延びるシャフト17Sの中央部に一体回転可能に備えられている。シャフト17Sは、両端部を図示しない1対のベアリングに支持され、駆動操作部17はシャフト17Sと共に無制限に回転可能になっている。つまり、駆動操作部17は、フリーローラ構造になっている。また、駆動操作部17は、容易に回転可能であるが、振動では動かない程度に例えば1対のベアリングに備えた防水シールにより任意の位置で摩擦係止されるようになっている。
【0019】
なお、駆動操作部17は、片持ち状態で回転可能に支持されていてもよい。また、駆動操作部17は、防水シール以外の部材によって摩擦係止されていてもよい。さらに、駆動操作部17がラッチ機構によって係止される構造としてもよい。具体的には、シャフト17Sの周面に複数の凹凸を備え、電動リール10のボディに固定された弾性係止片の突起が前記凹凸に押し付けられた構造とし、駆動操作部17を回動操作すると突起が凹凸を乗り越え、回動操作を止めると突起と凹凸との凹凸係合により駆動操作部17が係止されるようにしてもよい。
【0020】
図3に示すように、駆動操作部17の回転を検出するために、シャフト17Sの一端部には、マグネット18(
図3参照)が取り付けられている。また、マグネット18の近傍には、電動リール制御装置40に備えられた磁気センサ19が配置されている。そして、磁気センサ19が、駆動操作部17の回転位置に応じた検出信号を出力する。
【0021】
なお、スプール11の端部にも図示しないマグネットが取り付けられていて、電動リール制御装置40には、スプール11の回転を検出するための磁気センサ19Z(
図2参照)も備えている。
【0022】
以下の説明において、駆動操作部17の上部が前方(モニタ15側)に向かう回転方向、及び、そのように駆動操作部17を操作する操作方向を、「正方向」といい、それらとは逆の回転方向及び操作方向を「負方向」ということとする。
【0023】
図2には、電動リール制御装置40が、電動リール10の一部として組み付けられる前の状態で示されている。この電動リール制御装置40は、透明な樹脂製の防水ケース41の内部に図示しない回路基板を収容して備える。回路基板の上面には、液晶モジュールが実装されて防水ケース41の上面の一部が前述したモニタ15になっている。
【0024】
一方、前述の複数の設定ボタン16は、防水ケース41の複数の貫通孔に防水された状態で支持され、回路基板の上面に実装されている図示しない複数の押圧スイッチに突き当てられている。
【0025】
なお、電動リール制御装置40は、電動リール10の一部として組み付けられると、
図1に示すように、防水ケース41のうちモニタ15と複数の設定ボタン16とを除いた部分が上面カバー49にて覆われる。
【0026】
図2に示すように、防水ケース41の両側面からは、回路基板に接続された第1~第4のケーブル42A~42Dが側方に引き出されている。なお、防水ケース41のケーブル引出口は、防水処理されている。
【0027】
第1ケーブル42Aの末端は、直流の外部電源59(
図3参照)に接続するための電源コネクタの端子42E(
図3参照)に接続される。第2ケーブル42Bの末端は、前述のモータ12に接続されている。第3及び第4のケーブル42C,42Dの末端には、前述した磁気センサ19,19Zが備えられている。
【0028】
図3には、電動リール制御装置40を含んだ電動リール10の回路の一部が示されている。電動リール制御装置40は、例えば外部電源59から受電する電源回路51と、MCU52(Micro Controller Unit:特許請求の範囲の「制御回路」に相当する)と、磁気センサ19の検出信号をMCU52に取り込むためのインターフェース回路53と、モータ12を駆動するするための駆動回路54と、を有する。
【0029】
電源回路51は、外部電源59から受電して変圧し、直流電圧をMCU52、インターフェース回路53等に出力する。
【0030】
モータ12は、直流モータであり、モータ12の一方の電極は、電源ケーブル42Aを介して外部電源59の正極に接続される一方、モータ12の他方の電極は、スイッチ57と電源ケーブル42Aとを介して外部電源59の負極に接続されている。即ち、本実施形態の駆動回路54は、外部電源59に接続される1対の入力電極54Aと、モータ12に接続される1対の出力電極54Bとを有した構造をなし、スイッチ57がMCU52よりオンオフされるPWM制御によって、モータ12への出力電圧が変更される。
【0031】
MCU52は、ROM,RAM、CPU、A/Dコンバータを有する。そして、MCU52は、インターフェース回路53を通して磁気センサ19から取得した検出信号に基づいて、駆動回路54の出力をPWM制御する。また、本実施形態の電動リール10の電動モードには、第1~第3の電動モードが備えられ、何れの電動モードに設定されているかによって駆動操作部17による電動リール10の操作感が異なるように駆動回路54が制御される。さらに、何れの電動モードを選択するかはモニタ15で目視確認しながら設定ボタン16によって行うことができる。また、電動モードの変更は、駆動回路54が停止中の場合にのみ行えるようになっている。さらに、駆動操作部17の操作方向の設定として、駆動操作部17を正方向に回転操作するとモータ12の出力が上がり、負方向に回転操作するとモータ12の出力が下がる第1操作設定と、それとは逆に、駆動操作部17を負方向に回転操作するとモータ12の出力が上がり、正方向に回転操作するとモータ12の出力が下がる第2操作設定とがあり、任意の操作設定を設定ボタン16にて選択することができるようになっている。以下の説明では、第1操作設定が選択されていることを前提に説明する。
【0032】
モータ12の制御は、スプール11にて釣糸99を巻き取る場合と送り出す場合とで同じなっている。そこで、以下、制御の構成について釣糸99を巻き取る場合に関してのみ詳細に説明する。
【0033】
MCU52のROMには、
図4に示した指令値決定プログラムPG1と図示しないPWM制御プログラムが記憶されていて、MCU52は、それら指令値決定プログラムPG1とPWM制御プログラムを所定周期(例えば、10[msec])で繰り返して実行する。なお、MCU52は、指令値決定プログラムPG1とPWM制御プログラムとを実行することによって
図3に示すように指令値決定部52A及びPWM制御部52Bとして機能する。
【0034】
指令値決定プログラムPG1が実行されると、データ取得処理(S10)が行われる。データ取得処理(S10)では、インターフェース回路53とA/Dコンバータとを通して磁気センサ19の検出信号が取得され、それがRAMの第1バッファに一時的に格納される。そして、1周期前(例えば、10[msec]前)に取得された検出信号との差分が回転検出値Xとして演算される。
【0035】
ここで、磁気センサ19の検出信号は、前述の如く、駆動操作部17の回転位置に応じた信号であるので、回転検出値Xは、所定周期毎の駆動操作部17に対する回転量(操作量)を意味すると共に、単位時間(この場合は、10[msec])毎の回転量(操作量)であるから角速度ω(操作速度)の意味も有する。また、駆動操作部17が正方向に操作された場合には、回転検出値Xは正の値になり、駆動操作部17が負方向に操作された場合には、回転検出値Xは負の値になる。回転検出値Xには、回転方向の情報も含まれる。
【0036】
そして、データ取得処理(S10)では、過去最新の単位期間T内に演算された複数の回転検出値Xが随時更新されて第2バッファに格納された状態になるように処理する。具体的には、単位期間Tとして、例えば、指令値決定プログラムPG1が10[msec]の周期で50回実行される時間に相当する0.5[sec]が設定され、過去最新の単位期間T内に演算された50個の回転検出値Xが随時更新されて第2バッファに格納される。
【0037】
次いで、FLG1が「1」であるか否かが判別される(S11)。ここで、FLG1は、駆動回路54が動作中か否かを判別するためのフラグであって、電動リール10の電源投入時には、駆動回路54が動作中ではないことを意味する「0」にセットされている。また、電源投入時には、前述の回転検出値Xは、「0」にセットされている。
【0038】
FLG1が「0」である場合(S11でNO)、駆動回路54が起動操作されたか否かが判別される(S12)。つまり、駆動回路54の出力が停止中に、駆動操作部17が操作されたか否かが判別される。
【0039】
その判別は、例えば、第2バッファに格納されている複数の回転検出値Xが、起動パターンになっているか否かによって行われる。本実施形態では、第2バッファに格納されている複数の回転検出値Xが、負の値の回転検出値Xが複数続いた後の全ての回転検出値Xが正の値になっているパターンが起動パターンに設定されている。つまり、駆動操作部17を負方向に回転操作した直後に正方向に回転操作したことが起動操作として認識されるように設定されている。
【0040】
なお、上記とは別のパターンを起動操作として設定されていてもよい。具体的には、起動操作は、駆動操作部17を正方向に回転操作した直後に負方向に回転操作するパターンや、単に、正方向に高速で回転操作するパターンや、駆動操作部17が正方向又は負方向に連続して一定角度以上、回転操作するパターン等に設定されていてもよい。
【0041】
ここで、第2バッファに格納されている複数の回転検出値Xが、起動パターンになっていない場合、つまり、起動操作なしと判断された場合(S12でNO)は、指令値決定プログラムPG1が終了する。
【0042】
一方、起動操作ありと判断された場合(S12でYES)は、FLG1に「1」がセットされてから(S13)、第3電動モードに設定されているか否かが判別される(S20)。第3電動モードに設定されていない場合、つまり、第1又は第2の電動モードに設定されている場合(S20でNO)、回転位置カウンタC1に最新の回転検出値Xが加算される。ここで、回転位置カウンタC1は、電動リール10の電源投入時には「0」にセットされている。そして、起動操作ありと判断されてから回転位置カウンタC1に回転検出値Xが加算されていくので、回転位置カウンタC1は、駆動操作部17の起動操作直後の回転位置を原点とする駆動操作部17の回転位置を意味する。
【0043】
次いで、回転位置カウンタC1が0以下であるか否かが判別される(S22)。回転位置カウンタC1が0以下であれば(S22でYES)、FLG1及び回転位置カウンタC1が「0」にリセットされ(S23)、DUTY比の指令値(以下、「指令DUTY比Dr」という)が「0」に決定されて(S24)、指令値決定プログラムPG1が終了する。なお、後述する指令値決定プログラムPG1内のすべての処理においても、指令DUTY比Drが決定されると指令値決定プログラムPG1が終了する。
【0044】
回転位置カウンタC1が0以下でない場合は(S22でNO)、第1電動モードか第2電動モードの何れに設定されているかが判別される(S25)。そして、第1電動モードに設定されている場合には(S25でYES)、回転位置カウンタC1が100以下であれば(S26でNO)、回転位置カウンタC1の値そのものが指令DUTY比Drに決定される(S28)。また、回転位置カウンタC1が「100」を超えていたら回転位置カウンタC1が「100」にセットされ(S26でYES,S27)、指令DUTY比Drが100[%]に決定される(S28)。これにより、指令DUTY比Drが、実質的に駆動操作部17の原点から100度の回転操作範囲内の回転位置に応じて決定される。
【0045】
一方、第2電動モードに設定されている場合には(S25でNO)、回転位置カウンタC1が300以下であれば(S29でNO)、回転位置カウンタC1の値を3で割った値が指令DUTY比Drに決定される。また、回転位置カウンタC1が「300」を超えていたら回転位置カウンタC1が「300」にセットされ(S29でYES,S30)、指令DUTY比Drが100[%]に決定される。これにより、指令DUTY比Drが、実質的に駆動操作部17の原点から300度の回転操作範囲内の回転位置に応じて決定される。
【0046】
なお、指令DUTY比Drが、上述した駆動操作部17の100度及び300度以外の回転操作範囲内の回転位置で決定されるようにしてもよい。例えば、駆動操作部17の360度、720度の回転操作範囲内の回転位置で決定されるようにしてもよい。また、指令DUTY比Drを決定する駆動操作部17の回転操作範囲は、2種類に限定されるものではなく、1種類でもよく、3種類以上であってもよい。
【0047】
電動リール10が第3電動モードに設定されている場合には(S20でYES)、駆動操作部17の原点からの回転位置とは無関係に指令DUTY比Drを決定する第3電動モード制御処理(S32)が実行される。
図5に示すように、第3電動モード制御処理(S32)が実行されると、角速度演算処理(S34)が実効され、例えば、単位期間Tの回転検出値Xの最大値である角速度ωが演算される。なお、角速度演算処理(S34)にて演算される角速度ωは、単位期間Tの回転検出値X平均値、中央値等であってもよい。
【0048】
次いで、角速度ωが正か負かにより、駆動操作部17の回転が正方向を向いているか否かが判別される(S35)。そして、駆動操作部17の回転が正方向を向いている場合には(S35でYES)、角速度ωの絶対値が、予め設定されている第1基準値ω1及び第2基準値ω2より大きい否かが判別される(S36,S37)。ここで、第1基準値ω1は、駆動操作部17を急峻に回転操作したときの値に設定されている。また、第2基準値ω2は、第1基準値ω1よりは小さく、駆動操作部17を早く操作したときの値に設定されている。
【0049】
そして、角速度ωの絶対値が第1基準値ω1より大きい場合には(S36でYES)、100[%]が新たな指令DUTY比Drに決定される(S41)。また、角速度ωの絶対値が第1基準値ω1以下、第2基準値ω2より大きい場合には(S36でNO,S37でYES)、現状の指令DUTY比Drに一定変更量である例えば50[%]を加算した値が演算され(S38)、それが100[%]を超えていなければ(S40でNO)、その値が新たな指令DUTY比Drに決定され、それが100[%]を超えている場合には(S40でYES)、100[%]が新たな指令DUTY比Drに決定される(S41)。
【0050】
さらに、角速度ωの絶対値が第2基準値ω2以下である場合には(S37でNO)、回転検出値Xを所定の定数Kで割り、現状の指令DUTY比Drに加算した値が演算され(S39)、それが100[%]を超えていなければ(S40でNO)、その値が新たな指令DUTY比Drに決定され、それが100[%]を超えている場合には(S40でYES)、100[%]が新たな指令DUTY比Drに決定される(S41)。ここで、所定の定数Kは、例えば、駆動操作部17を一周期(10[msec])で1度回したときにX/Kが「1」になるように設定されている。
【0051】
つまり、駆動操作部17の起動操作後に、駆動操作部17に対する回転操作が正方向を向いている場合には(S35でYES)、回転操作が、遅ければ、駆動操作部17の回転量に比例して指令DUTY比Drがゆっくり増加し、速ければ現状の指令DUTY比Drに50[%]を加算した値に一気に増加し、極めて速ければ指令DUTY比Drは、一気に100[%]になる。
【0052】
また、駆動操作部17に対する回転操作が負方向を向いている場合には(S35でNO)、正方向を向いている場合(S35でYES)と略同じアルゴリズムで駆動操作部17の回転操作が判別され、回転操作が、遅ければ、駆動操作部17の回転量に比例して指令DUTY比Drがゆっくり減少し、速ければ現状の指令DUTY比Drに50[%]を減算した値に一気に減少し、極めて速ければ指令DUTY比Drは、一気に0[%]になる(S42~S48)。なお、指令DUTY比Drが0[%]になるときには、フラグFLG1及び回転検出値Xが「0」にリセットされる(S47)。
【0053】
なお、本実施形態では、駆動操作部17の回転操作の操作速度が遅いか、速いか、極めて速いかの3段階に分けて判断されていたが、2段階に分けて判断する構成でもよいし、4段階以上に分けて判断される構成としてもよい。また、駆動操作部17を正方向に回転させる場合と、負方向に回転させる場合とで、上記した第1基準値ω1,第2基準値ω2の値が異なっていてもよいし、正方向と負方向とで、速度の判断の段階の数が相違していてもよい。具体的には、駆動操作部17を正方向に回転操作したときには、その操作速度が3段階に分けて判断され、駆動操作部17を負方向に回転操作したときには、その操作速度が2段階に分けて判断されるようにしてもよい。
【0054】
上述したように指令値決定プログラムPG1によって指令DUTY比Drが決定されると、それらに従ってPWM制御プログラムにより駆動回路54のスイッチ57がオンオフされ、指令DUTY比Drに応じた実効電圧がモータ12の1対の入力電極間に印加される。
【0055】
本実施形態の電動リール10の構成に関する説明は以上である。次に、この電動リール10の作用効果について以下説明する。電動リール10は、駆動操作部17の操作により駆動回路54の出力が変化し、駆動回路54の出力に応じてモータ12の出力も変化する。また、釣糸99にかかる負荷に大きな変化がなければ、モータ12の出力が大きくなれば、電動リール10による釣糸99の巻取速度が速くなり、モータ12の出力が小さくなれば電動リール10による釣糸99の巻取速度が遅くなる。
【0056】
そして、電動リール10が第1又は第2の電動モードにセットされている場合には、駆動操作部17の起動操作直後の回転位置を原点とする駆動操作部17の回転位置に応じて釣糸99の巻取速度が変化する。即ち、本実施形態の電動リール10では、第1又は第2の電動モードを選択して従来に近い操作感で釣りを楽しむこともできる。その場合、第1と第2の何れの電動モードを選択するかによって、駆動操作部17の操作感度を選択することができるという利便性を有する。また、モータ12を起動するには、駆動操作部17を負方向に回転させた直後に正方向に回転させるという起動操作を要するので、意図せずに駆動操作部17に触れて、勝手にモータ12が駆動することもない。
【0057】
また、電動リール10が第3電動モードにセットされている場合には、以下のように従来にはない操作感で釣りを楽しむことができる。即ち、上述の起動操作後、駆動操作部17を正方向に極めて早く回転操作することで、モータ12による釣糸99の巻取速度を一気に100%まで上げることもできるし、駆動操作部17を正方向に早く回転操作することで、モータ12による釣糸99の巻取速度を一気に50%まで上げることもできるし、駆動操作部17を正方向にゆっくり操作してモータ12による釣糸99の巻取速度をゆっくり上げることもできる。
【0058】
また、モータ12により釣糸99を巻き取っている状況下でも、同様に、駆動操作部17の正方向への操作速度に応じて、モータ12による釣糸99の巻取速度を一気に100%まで上げることもできるし、50%増加させることができるし、ゆっくり上げることもできる。さらに、駆動操作部17を負方向に極めて早く回転操作することで、モータ12を停止することもできるし、駆動操作部17を負方向に早く回転操作することで、モータ12による釣糸99の巻取速度を一気に50%下げることもできるし、駆動操作部17を負方向にゆっくり操作してモータ12による釣糸99の巻取速度をゆっくり下げることもできる。
【0059】
また、クラッチ機構のオフ又は解放により、モータ12により釣糸99を送り出す方向にスプール11を回転させる状態にした場合にも、上記と同様の操作により釣糸99の送出速度を変更することができる。
【0060】
このように本実施形態の構成によれば、釣糸99の巻取速度又は送出速度を一気に増減させる操作と、微調整する操作とを、スムーズかつ容易に切り替えて行うことができる。そして、電動リール10の駆動操作部17に対する操作速度に応じて電動リール10の動作速度が変わるという今までにない操作感を楽しむことができる。また、駆動操作部17が、従来の電動リール10にはなかったフリーローラ構造になっているので、今までとさらに異なる操作感を楽しむことができる。それに加え、駆動操作部17の回動範囲が限定された従来の駆動操作部に比べ、駆動操作部17及びその支持構造が簡素化され、製造コストを抑えることができる。また、上述したように駆動操作部17の操作感度を変更することもできる。
【0061】
なお、上記実施形態では、特許請求の範囲の「操作検出部」は、上記磁気センサ19とデータ取得処理(S10)と角速度演算処理(S34)とによって形成されている。
【0062】
[第2実施形態]
本実施形態は、
図6に示されており、第3電動モード制御処理(S50)の構成のみが第1実施形態と異なる。即ち、前記第1実施形態の第3電動モード制御処理(S32)では、駆動操作部17の角速度ωを演算して(S34)、その角速度ωと、第1基準値ω1及び第2基準値ω2との大小関係に応じて駆動回路54の出力を変更していたが、本実施形態の第3電動モード制御処理(S50)では、角加速度演算処理(S51)にて単位期間T内の連続する2つの回転検出値X同士の差分の最大値を駆動操作部17の角加速度αとして演算し、その角加速度αと、第1基準値α1及び第2基準値α2との大小関係(S52~S55)に応じて駆動回路54の出力を変更する点が異なる。それ以外の構成は、第1実施形態と同じである。
【0063】
本実施形態の構成によっても第1実施形態と同様に効果を奏する。なお、角加速度演算処理(S51)で演算する加速度αは、単位期間T内の連続する2つの回転検出値X同士の差分の平均値や中央値であってもよい。
【0064】
[第3実施形態]
本実施形態は、第1実施形態で説明した第3電動モード制御処理(S32)に替えて、
図7に示した第3電動モード制御処理(S60)を備えた構成になっている。この第3電動モード制御処理(S60)では、単位期間T内の回転検出値Xの変化のピーク値を演算する。具体的には、ピーク値演算処理(S61)では、単位期間T内の回転検出値Xの変化のピーク、つまり、角速度ωの変化のピークを求め、そのピークの絶対値が予め設定された基準値より大きなピークの数をカウントする。
【0065】
そして、駆動操作部17の操作方向が正である場合には(S35でYES)、単位期間T内に前述のピークを3つ以上含むという第1ピーク条件を満たすか否かが判別される(S62)。そして、第1ピーク条件を満す場合には(S62でYES)、つまり、単位期間T内に素早く3回以上操作された場合には、100[%]が新たな指令DUTY比Drに決定される(S41)。
【0066】
また、第1ピーク条件を満さない場合には(S62でNO)、単位期間T内に前述のピークを2つ含むという第2ピーク条件を満たすか否かが判別される(S63)。そして、第2ピーク条件を満す場合には(S62でNO,S63でYES)、つまり、単位期間T内に素早く2回操作された場合には、現状の指令DUTY比Drに一定変更量である例えば50[%]を加算した値が演算され(S38)、それが100[%]を超えていなければ(S40でNO)、その値が新たな指令DUTY比Drに決定され、それが100[%]を超えている場合には(S40でYES)、100[%]が新たな指令DUTY比Drに決定される(S41)。
【0067】
さらに、第2ピーク条件を満さない場合には(S63でNO)、前記第1実施形態の第3電動モード制御処理(S32)と同様に、駆動操作部17の回転量に比例して指令DUTY比Drを変更する。また、駆動操作部17に対する回転操作が負方向を向いている場合には(S35でNO)、正方向を向いている場合(S35でYES)と略同じアルゴリズムで駆動操作部17の回転操作が判別されて指令DUTY比Drが変更される。
【0068】
上記した本実施形態の構成によっても第1及び第2の実施形態と同様に効果を奏する。なお、ピーク値演算処理(S61)では、単位期間T内の連続する2つの回転検出値Xの差分である複数の角加速度αの絶対値が基準値以上になった回数をピークの数として演算してもよい。
【0069】
[他の実施形態]
(1)前記各実施形態の駆動操作部17は、フリーローラ構造になっていたが、駆動操作部は、回動範囲が限定されたローラ又はレバーでもよい。また、タッチパネルを駆動操作部として備えて、タッチパネル上を滑らせる指の移動操作速度又は移動操作加速度に応じて電動リールの動作速度が変わるようにしてもよい。
【0070】
(2)前記実施形態の電動リール10を、第3電動モードを備えず、第1と第2の電動モードの少なくとも一方を備えた構成としてもよい。
【0071】
(3)前記実施形態の電動リール10のモータ12は、直流モータであったが、交流モータやステッピングモータであってもよい。
【0072】
(4)前記実施形態では、汎用プロセッサであるMCU52が指令値決定プログラムPG1等を実行することで駆動回路54を制御する「制御部」が構成されているが、MCU等の汎用プロセッサの代わりに、DSP(Digital Signal Processo)等を設けてもよいし、ASIC(Application Specific Integrateed Circuit)等の専用回路を設けてもよい。また、本実施形態では、指令値決定プログラムPG1がMCU52のROMに記憶されていたが、RAM又はそれ以外の記憶媒体に記憶されていてもよく、さらには、RAM,ROMを含む複数種類の記憶媒体を組み合わせたものに記憶されていてもよい。
【0073】
(5)前記実施形態の電動リール10は、図示しないクラッチ機構により、モータ12の出力を釣糸99の巻取用と送出用に切り替えスプール11に伝達していたが、モータ12の回転方向を巻取用と送出用に切り替えてもよい。その場合には、例えば、
図8に示すように駆動回路54Hを4つのスイッチ57を有するHブリッジ回路にすればよい。
【0074】
(6)電動リール制御装置40は、電動リールを制御するためのものであったが、それ以外のものの駆動回路を制御する制御装置として使用してもよい。具体的には、ドローンのプロペラを駆動するモータの駆動回路や、電動工具のモータの駆動回路や、舞台等の演出用のライトやスピーカのボリューム等を駆動する駆動回路等の制御に制御装置として使用してもよい。
【符号の説明】
【0075】
10 電動リール
12 モータ
17 駆動操作部
19 磁気センサ(操作検出部)
40 電動リール制御装置
54,54H 駆動回路
99 釣糸
T 単位期間
X 回転検出値(操作量、操作速度)
α 角加速度(操作加速度)
α1 第1基準値
α2 第2基準値
ω 角速度(操作速度)
ω1 第1基準値
ω2 第2基準値