(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-29
(45)【発行日】2022-08-08
(54)【発明の名称】モーターとピニオンギヤの締結構造及び方法
(51)【国際特許分類】
H02K 7/00 20060101AFI20220801BHJP
【FI】
H02K7/00 A
(21)【出願番号】P 2019204722
(22)【出願日】2019-11-12
【審査請求日】2021-05-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000103792
【氏名又は名称】オリエンタルモーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】加藤 裕之
【審査官】宮崎 賢司
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-089638(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0194666(US,A1)
【文献】特開2018-152998(JP,A)
【文献】特開2014-093866(JP,A)
【文献】特開2018-057192(JP,A)
【文献】特開2010-065715(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102010002971(DE,A1)
【文献】特開2017-101716(JP,A)
【文献】特開2007-303660(JP,A)
【文献】特開平08-174352(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 7/00
H02K 7/116
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ異なる種類の歯車部およびそれぞれ共通の締結部で構成された各種ピニオンギヤと、該各種ピニオンギヤの前記締結部を締結する穴をモーターシャフトの出力端に設けたモーターとを備え、前記モーターシャフトの出力側の外周部に、
前記出力端の近傍に位置するモーターフランジを覆う他の機構により前記モーターシャフトを固定する固定部を設け
、該固定部は、前記モーターのモーター軸受と前記他の機構との間に配置されていることを特徴とするモーターとピニオンギヤの締結構造。
【請求項2】
前記モーターシャフトの固定部としては、前記モーターシャフトの出力側の外周面に、他の機構により前記モーターシャフトを保持するための係合部を設けたことを特徴とする請求項1に記載のモーターとピニオンギヤの締結構造。
【請求項3】
前記モーターシャフトの出力側の外径は、前記モーターシャフトとモーターロータとの締結部のモーターシャフト外径より大きく形成していることを特徴とする請求項1または2に記載のモーターとピニオンギヤの締結構造。
【請求項4】
前記モーターシャフトの出力端は、前記モーターのモーターフランジ端面と同一面上もしくは前記モーターのモーターフランジ端面よりも飛び出していないことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のモーターとピニオンギヤの締結構造。
【請求項5】
前記モーターシャフトの出力端と前記ピニオンギヤの締結部との締結は、多段圧入構造であり、前記ピニオンギヤの締結部の各段は、案内部と圧入部で構成されている請求項1ないし4のいずれか1項に記載のモーターとピニオンギヤの締結構造。
【請求項6】
それぞれ異なる種類の歯車部およびそれぞれ共通の締結部で構成された各種ピニオンギヤと、該各種ピニオンギヤの前記締結部を締結する穴をモーターシャフトの出力端に設けたモーターとを備え、
前記モーターシャフトの出力側の外周部に、前記出力端の近傍に位置するモーターフランジを覆う他の機構により前記モーターシャフトを固定する固定部を設け、該固定部は、前記モーターのモーター軸受と前記他の機構との間に配置されており、前記ピニオンギヤの締結部の形状は同じであり、前記歯車部は各種減速機を噛合いできる前記各種のピニオンギヤを設け、同一のモーターのモーターシャフト出力端に各種のピニオンギヤを締結することで、各種減速機の組付けを可能にしたことを特徴とするモーターとピニオンギヤの締結構造。
【請求項7】
それぞれ異なる種類の歯車部およびそれぞれ共通の締結部で構成された各種ピニオンギヤと、該各種ピニオンギヤの前記締結部を締結する穴をモーターシャフトの出力端に設けたモーターとを備え、前記モーターシャフトの出力側の外周部に設けた固定部を治具により固定された状態で、前記モーターシャフトの出力端に、ピニオンギヤを圧入することを特徴とするモーターとピニオンギヤの締結方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モーターとピニオンギヤの締結構造及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のモーターとピニオンギヤの締結構造および方法としては、例えば、特許文献1に示すようなものがある。
特許文献1においては、モーターのモーター軸にピニオン軸を組み付けるための方法であって、モーター軸は、負荷側端部に凹部を有し、モーターは、モーター軸を支持する負荷側軸受及び反負荷側軸受と、反負荷側に向けてモーター軸に作用するスラスト荷重を、負荷側軸受及び反負荷側軸受以外の荷重受け部材に伝達可能にするための荷重伝達用構造と、を備え、荷重伝達用構造を用いてスラスト荷重をモーター軸から荷重受け部材に伝達可能にした状態で、凹部にピニオン軸を圧入する方法が開示されている。
【0003】
特許文献1の
図4の実施例においては、荷重受け部材はモーターの負荷側カバーであり、荷重伝達用構造は、モーター軸の負荷側部分に形成される貫通穴と貫通穴に保持される当接部材であり、
図5の実施例の荷重伝達構造は、モーター軸の負荷側部分に形成される溝部と溝部に保持される止め輪とリング部材による当接部材である。
組み付け方法としては、モーター軸にピニオン軸が組み付けられていない状態のモーターの半製品を準備し、半製品には減速機ケーシングの第1本体部材が組み付けられており、減速機の他の構成部品は組み付けられていない状態で、第1本体部材内部にプレス用金型を配置可能な空間が確保されている。続いて、上記の荷重伝達用構造を用いてスラスト荷重をモーター軸から荷重受け部材に伝達可能にした状態にしたまま、モーター軸の凹部にピニオン軸の軸部を反負荷側に向けて圧入する。これにより、圧入するとき、モーター軸に作用するスラスト荷重Faが負荷側カバーに伝達され、反負荷側軸への負担を抑えられる、組み付け方法が開示されている。
【0004】
しかしながら、このような従来のモーターのモーター軸にピニオン軸を組み付けるための方法にあっては、特許文献1の目的は、ピニオン軸がモーター軸に組み付けられたモーターに関しての生産性の向上に役立つ技術の提供であり、一つの半製品状のモーターに様々な減速機を組み合わせるため、その減速機に噛合うピニオン軸を準備し、ピニオン軸をモーター軸に組み付けるという発想はない。
【0005】
モーター軸の負荷側部分に形成される貫通穴と貫通穴に保持される当接部材、又はモーター軸の負荷側部分に形成される溝部と溝部に保持される止め輪とリング部材による当接部材と負荷側カバー(モーターフランジ)で、モーター軸を固定して、ピニオン軸を圧入するとき、モーター軸に作用するスラスト荷重Faが負荷側カバーに伝達される様にしているので、モーター軸が負荷側カバー(モーターフランジ)より負荷側に出ている必要がある。このモーター軸にピニオン軸を圧入するため、負荷側カバー(モーターフランジ)から出るピニオン軸の長さが長くなるため、減速機の出力軸方向の大きさが大きくなる。
ピニオン軸を圧入するとき、モーター軸に作用するスラスト荷重Faが負荷側カバーに伝達される様にしているので、負荷側カバー(モーターフランジ)がアルミニウム材など、比較的やわらかい材質の場合、負荷側カバー(モーターフランジ)が変形する虞がある。
【0006】
他の事例としては、特許文献2に示されている様に、非円柱形状または円柱形状のモーター軸が、ピニオンを有する継軸に係入・連結されるものがある。
【0007】
さらに、特許文献3においては、ハイブリッド形ステッピングモーターの回転子の出力軸に使用する材料例として、モーター内部側部分にはステンレス鋼材などの非磁性金属材を使用し、軸端を含む出力側部分には鉄鋼材などの熱処理などにより機械的強度が増す材料を採用し、軸端にはモーターの機械的動力の伝達のため歯車が機械加工により形成されている。また、出力軸のモーター内部側部分と出力側部分との接合は通常、圧接または摩擦溶着により行ない、その接合面は、モーターの磁気回路への影響の少ない部分、例えば、回転子の鉄心と軸受との間に位置させることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2018-152998号公報
【文献】特開2007-303660号公報
【文献】実公平7-33584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の方法においては、ピニオン軸の圧入する軸の形状、モーター軸の負荷側端部に凹部の形状については、全く記載されていないため、ピニオン軸の締結力や曲がり、振れなどの問題が発生する虞があるという問題点があった。
また、特許文献2の構造では、継軸や継軸を支持する軸受が必要でありコストアップとなってしまう。さらに、継軸の部分が全体的に長くなるため、出力軸方向に減速機の外形が大きくなり、重量増となる問題点があった。
またさらに、特許文献3の固定構造では、歯車が機械加工により形成された鉄鋼材を使用した軸端は、モーター組付け前のモーターシャフト単体と接合する必要があるという問題点があった。
【0010】
本発明は、このような従来の問題点(欠点)に着目してなされたもので、ピニオンギヤの締結部は同じであり、歯車部は各種減速機を噛合いできる各種のピニオンギヤを用意し、同一のモーターのモーターシャフト出力端に各種のピニオンギヤを締結可能にしたモーターとピニオンギヤの締結構造を提供することを目的とする。
また、モーターシャフト出力側の外周部に、他の機構によりモーターシャフトが固定される固定部が設けられていて、ピニオンギヤの締結部を締結する穴をモーターシャフトの出力端に設けたモーターのモーターシャフト出力側の外周部に設けた固定部を治具により固定された状態で、モーターシャフト出力端に、ピニオンギヤを締結するモーターとピニオンギヤの締結方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するため、それぞれ異なる種類の歯車部およびそれぞれ共通の締結部で構成された各種ピニオンギヤと、該各種ピニオンギヤの前記締結部を締結する穴をモーターシャフトの出力端に設けたモーターとを備え、前記モーターシャフトの出力側の外周部に、他の機構により前記モーターシャフトを固定する固定部を設けたことにある。
また、本発明は、前記モーターシャフトの固定部としては、前記モーターシャフトの出力側の外周面に、他の機構により前記モーターシャフトを保持するための係合部を設けたことにある。
さらに、本発明は、前記モーターシャフトの出力側の外径は、前記モーターシャフトとモーターロータとの締結部のモーターシャフト外径より大きく形成していることにある。
またさらに、本発明は、前記モーターシャフトの出力端は、前記モーターのモーターフランジ端面と同一面上もしくは前記モーターのモーターフランジ端面よりも飛び出していないことにある。
また、本発明は、前記モーターシャフトの出力端と前記ピニオンギヤの締結部との締結は、多段圧入構造であり、前記ピニオンギヤの締結部の各段は、案内部と圧入部で構成されていることにある。
さらに、本発明は、それぞれ異なる種類の歯車部およびそれぞれ共通の締結部で構成された各種ピニオンギヤと、該各種ピニオンギヤの前記締結部を締結する穴をモーターシャフトの出力端に設けたモーターとを備え、前記ピニオンギヤの締結部の形状は同じであり、前記歯車部は各種減速機を噛合いできる前記各種のピニオンギヤを設け、同一のモーターのモーターシャフト出力端に各種のピニオンギヤを締結することで、各種減速機の組付けを可能にしたことにある。
またさらに、本発明は、それぞれ異なる種類の歯車部およびそれぞれ共通の締結部で構成された各種ピニオンギヤと、該各種ピニオンギヤの前記締結部を締結する穴をモーターシャフトの出力端に設けたモーターとを備え、前記モーターシャフトの出力側の外周部に設けた固定部を治具により固定された状態で、前記モーターシャフトの出力端に、ピニオンギヤを圧入することにある。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、各種減速機に対応したピニオンギヤをモーターが組立てられた状態で、モーターシャフト出力端に締結することによって、各種減速機とモーターの組み合わせが可能となり、共通のモーターに各種減速機が組み合わせできる減速機付きモーターのシリーズが構成できる。
また、本発明によれば、電磁ブレーキ付きモーターとかセンサー付きモーターなどの機能が付いたモーターとか、モデルチェンジしたモーターの場合でも、モーターシャフト出力端のインターフェース(穴や出力端外周の固定構造)を合わせておけば、すぐに減速機を組み合わせた減速機付きモーターのシリーズを構成することができる。
さらに、減速機が、今までのラインアップにない新規減速機を組み合わせるときも、締結部が同じ形状のピニオンギヤを新しく準備すれば、モーターとの組合せがすぐに可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の減速機付きモーターのシリーズを構成するモーターを示す斜視図である。
【
図2】(a)~(d)は本発明の減速機付きモーターのシリーズを構成する各種減速機を示す概念図である。
【
図3】(a)~(d)は本発明の減速機付きモーターのシリーズを構成する各種ピニオンギヤを示す概念図である。
【
図4】(a)~(c)はモーターシャフトにピニオンギヤを組み付ける方法を示す概念断面図である。
【
図5】モーターシャフトにピニオンギヤを組み付けた実施の形態を示す概念断面図である。
【
図6】圧入荷重がモーターにかからない本発明のシャフト圧入部の一実施例を示し、(a)は斜視図、(b)は正面図、(c)は(b)のA-A線断面図である。
【
図7】圧入荷重がモーターにかからない本発明のシャフト圧入部の変形例を示し、(a)は斜視図、(b)は正面図、(c)は(b)のB-B線断面図である。
【
図8】圧入荷重がモーターにかからない本発明のシャフト圧入部の変形例を示し、(a)は斜視図、(b)は正面図、(c)は(b)のC-C線断面図である。
【
図9】圧入荷重がモーターにかからない本発明のシャフト圧入部の変形例を示し、(a)は斜視図、(b)は正面図、(c)は(b)のD-D線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1ないし
図3は本発明のシリーズを構成するモーターおよび減速機、これらを結合するピニオンギヤを示したものである。
図1のモーター10と、
図2の各種の減速機20と、前記モーター10に選択的に組付けられ、前記各種減速機20の入力部と噛合う
図3(a)~(d)の各種のピニオンギヤ1とを示しており、これらの組み合わせにより各種の減速機付きモーターを構成することができるシリーズを示したものである。
図1には、各種ピニオンギヤ1の締結部1bとモーターシャフト4の出力端4aとが締結されるモーター10が示されており、このモーター10には、モーターシャフト4の出力端4aに、ピニオンギヤ1の締結部1bが締結できる穴4bが加工されている。
【0015】
図2(a)~(d)には、モーター10に組み付ける減速機20が示されており、各種減速機20としては、例えば、平行軸歯車減速機20
1、遊星歯車減速機20
2、直交軸減速機20
3、その他の新規減速機20
4等を用いることができる。
【0016】
図3(a)~(d)には、各種のピニオンギヤ1が示されており、ピニオンギヤ1の歯車部1aは、各種減速機20(平行軸歯車減速機20
1、遊星歯車減速機20
2、ハイポイド減速機20
3など)の歯切り諸元に合わせてあり、ピニオンギヤ1の締結部1bはすべて同じであるピニオンギヤ1が準備されている。
図3(a)~(d)は、各種減速機20に合わせて歯車部a
1~a
4が形成されたピニオンギヤ1の歯車部1aを示している。
【0017】
各種減速機20に対応したピニオンギヤ1をモーター20のモーターシャフト出力端4aに締結することによって、各種減速機20とモーター10の組み合わせが可能となり、共通のモーター10に各種減速機20が組み合わせできる減速機付きモーターのシリーズが構成できる。
【0018】
また、図示しない電磁ブレーキ付きモーターとかセンサー付きモーターなどの機能が付いたモーターとか、モデルチェンジしたモーターや異なる種類のモーターの場合でも、モーターシャフト出力端4aのインターフェース(穴4bや後で説明する出力端外周の固定構造)を合わせておけば、すぐに減速機20を組み合わせた減速機付きモーターのシリーズを構成することができる。
さらに、減速機20が、今までのラインアップにない新規減速機204を組み合わせるときも、締結部1bを同じ形状としたピニオンギヤ1を新しく準備すれば、モーター10との組合せがすぐに可能となる。
【0019】
次に、モーターシャフト4の出力端4aにピニオンシャフト1を締結する実施例について
図4(a)~(c)および
図5を参照して説明する。
完成されたモーター10のモーターシャフト出力端4aの穴4bにピニオンギヤ1を圧入して締結する場合、モーターシャフト4を支持している軸受5に圧入力が加わり、軸受5が損傷する虞がある。
本発明においては、モーターシャフト出力部に固定部4cを設け冶具8により固定することにより、ピニオンギヤ1の圧入時に、モーターシャフト4を支持する軸受5に力が加わらないようにしている。
【0020】
まず
図4(a)~(c)の構成を説明すると、1はピニオンギヤで、このピニオンギヤ1は、一端部に各種減速機に組み付ける歯車部1aが設けられ、他端部には、一定の太さの締結部1bが設けられている。このピニオンギヤ1の締結部1bには、ピニオンギヤ1に付随する圧入部2と、案内部(圧入導入部)3が交互に2段にわたって設けられている。4はピニオンギヤ1が組付けられるモーターシャフトで出力端4aにピニオンギヤ1を組み付ける穴4bが設けられている。5はモーターシャフト4を支持するモーター軸受、6はモーター10のケースの一部を構成する片側のフランジ、7はモーターシャフト4に組付けられた治具8のツメで、モーター10の周囲に配置された治具8によって操作されるものである9はモーターシャフト4にピニオンギヤ1を圧入する圧入治具である。
【0021】
図4(a)および
図5に示すように、モーターシャフト4の出力側外側には切り欠き溝4cが設けてあり、治具8のツメ7を引っ掛けることができるようになっている。この切り欠き4cに治具のツメ7を引っ掛けてモーター10を治具8により吊り下げるようにして固定することで、ピニオンギヤ1の圧入時にモーター軸受5に圧入荷重がかかることがないようにしている。
【0022】
治具8によりモーター10を固定して吊り下げる構成は、後述するように、他にも、モーターシャフト4の外周に外ねじを切って、治具8は内ねじを切り、ねじ込むことにより固定する方法や、モーターシャフト4の端面にタップ穴を設けておき、圧入治具9と固定する方法も考えられる。
また、モーターシャフト4の出力側41の外径D1は、出力端4aにピニオンギヤ1を圧入する穴4bを設けるとか、外側に治具のツメ7を引っ掛ける切り欠き4cや、ねじを設けるため、モーターシャフト4とロータとの締結部42の外径D2より大きく(D1>D2)していることが望ましい。
【0023】
さらに、モーター10のモーターシャフト4がモーターフランジ6より出ている必要はなく、モーターシャフト4の出力端4aは、モーター10のモーターフランジ6と同一面となっているか、低くなっていることが望ましい。
図4(b)で、モーター10を治具8により吊り下げたら、ピニオンギヤ1をモーターシャフト4の穴4bに挿入する。ピニオンギヤ1には案内部3が2箇所離れた位置に設けてあるため、穴4bに対して大きく傾くことなく立たせることができる。圧入前に大きく傾かせないでピニオンギヤ1を立たせることが圧入を成功させるためのポイントになる。
ピニオンギヤ1を挿入した後は、
図4(c)に示すように、圧入治具9によりピニオンギヤ1の圧入部2をモーターシャフト4の出力端4aの穴4bに圧入する。
この工程を踏むことにより、ピニオンギヤ1の圧入前までのモーター10を在庫しておき、組み合わせる減速機20によりピニオンギヤ1を選定して最後に圧入することができるため、モーター10の在庫の種類を減らすことができる。
【0024】
次にピニオンギヤ1とモーターシャフト4の出力端4aの穴4bとの圧入形状について説明する。
上記の圧入工程にて、ピニオンギヤ1の締結部1bには、案内部3と圧入部2が2箇所設けてある例の詳細を
図5に示す。ピニオンギヤ1の締結部1bは、各段が案内部3と圧入部2で構成された、各段の径が異なる段付きになっている。ピニオンギヤ1の締結部1bの先端部の方の径が小さくなっている。モーターシャフト4の出力端4aの穴4bは、段付きの半中空形状に加工されている(図では2段)。
各段の案内部3の外径は、モーターシャフト4の出力端4aの穴4bの各段の半中空部の内径よりわずかに小さく加工されており、各段の案内部3をモーターシャフト4の出力端4aの穴4bに挿入するところまでは、手で大きな力を加えなくても簡単に挿入することができる。
逆に各段の圧入部2はモーターシャフト4の出力端4aの穴4bの各段の半中空部より圧入代分だけ大きく加工されているため、プレス機などの設備等を使用して大きな力を加えて圧入する。
この圧入部2のところで、アキシアル荷重、ラジアル荷重、ねじりトルクを受けることになる。これらの荷重は、どの程度の圧入代を取るかで許容量が変わるため、適切に設計する必要がある。
【0025】
圧入前において、モーターシャフト4の出力端4aの穴4bに対してピニオンギヤ1の姿勢が重要となり、できるだけ真直ぐに立っている必要がある。よって圧入時の姿勢を真直ぐに保つために案内部3が離れたところに設けてある。
また、圧入時は圧入表面で凝着、剥離が起こりやすくなり、圧入時の距離が長くなるほど荒れてしまい圧入精度低下につながる。そのため圧入距離を短くするために、圧入部2のように段付きにした。段付きの段数は、通常は製作のしやすさやコストを考えて2段程度で行う。また、各段の圧入部2が同時に圧入開始されるようにすることが望ましい。2段軸は、案内部が離れて配置されており、手差しをしたときに案内部隙間から空気が逃げていくため、空気の圧縮によるピニオンの戻り(浮きあがり)が小さく、傾きにくくなる効果が得られる。
さらに、圧入部2は、ローレット加工されていても良い。
【0026】
図6(a)~(c)から
図9(a)~(c)は、圧入荷重がモーター10のモーターフランジ6にかからないようにモーターシャフト4を吊り下げる構造の実施例を示したものである。
(i)
図6(a)~(c)は、モーターシャフト4の出力側41の外周面に切り欠き溝4cを形成したものである。
モーターシャフト4の切り欠き溝4cに治具8のツメ7を引っ掛けて、吊り下げた状態で、ピニオンギヤ1を穴4bに圧入する。
こうして、モーターシャフト4の切り欠き溝4cによりピニオンギヤ1の圧入時の荷重を受けることができる。
(ii)
図7(a)~(c)は、モーターシャフト4の出力側41の外周面におねじ4dを形成したものである。
モーターシャフト4のおねじ4dに、図示しない治具8のめねじを螺合することでモーターシャフト4を吊り下げて、ピニオンギヤ1を穴4bに圧入する。
こうして、モーターシャフト4を治具8のねじで固定してピニオンギヤ1の圧入時の荷重を受けることができる。
(iii)
図8(a)~(c)は、モーターシャフト4の出力側41の外周面に複数溝4eを設け、治具8のツメ7あるいは、係合する複数溝(図示せず)によりモーターシャフト4を吊り下げてピニオンギヤ1を穴4bに圧入する。
モーターシャフト4に設けられている複数の溝4eがあることで、治具8にセットした際のモーターシャフト4の傾きを防ぐことができる。また、溝4eを複数設けることで圧入時に(i)の実施例よりも、モーターシャフト4に加わる荷重を分散することができる。
(iv)モーターシャフト4の端面4aに複数のタップ穴4f(図示例では4個)を形成し、図示しない治具8からのボルトをタップ穴4fに螺合することにより、モーターシャフト4を吊り下げてピニオンギヤ1を穴4bに圧入する。
圧入時の荷重をモーターシャフト4で受けることができるように、モーターシャフト4端面4aのタップ穴4fと治具8からのボルトをねじで固定しピニオンギヤ1を穴4bに圧入する。
【0027】
他の実施例として、モーター10がハイブリッド形ステッピングモーターの場合、ロータの永久磁石からモーターシャフト4を通る漏れ磁束を防止するため、モーターシャフト4は、ステンレスなどの非磁性金属材であり、ピニオンギヤ1は、熱処理などにより機械的強度が増す鉄鋼材としている。
【0028】
上記の説明では、ピニオンギヤ1とモーター10を締結する構造および方法を説明したが、すべりねじ、またはボールねじに、ピニオンギヤ1と同様の案内部3と圧入部2で構成された締結部1bを設けることで、モーター10と上記と同様の方法で締結することができる。
【0029】
したがって、すべりねじ、またはボールねじの締結部は同じであり、すべりねじ・ボールねじはそれぞれの用途に応じたものを用意し、同一のモーターのモーターシャフト出力端に各種のすべりねじ・ボールねじを締結可能にすることができる。これにより、すべりねじ・ボールねじをモーター10により駆動する直動機構のシリーズを構成することができる。
【0030】
以上説明してきたように、本発明によれば、以下に列挙する効果が得られる。
各種減速機20に対応したピニオンギヤ1をモーター10が組立てられた状態で、モーターシャフト出力端4aに締結することによって、各種減速機20とモーター10の組み合わせが可能となり、共通のモーター10に各種減速機20が組み合わせできる減速機付きモーターのシリーズが構成できる。
電磁ブレーキ付きモーターとかセンサー付きモーターなどの機能が付いたモーターとか、モデルチェンジしたモーターの場合でも、モーターシャフト出力端4aのインターフェース(穴4bや出力端外周の固定構造4c)を合わせておけば、すぐに減速機20を組み合わせた減速機付きモーターのシリーズを構成することができる。
さらに、減速機20が、今までのラインアップにない新規減速機を組み合わせるときも、締結部が同じ形状のピニオンギヤ1を新しく準備すれば、モーター10との組合せがすぐに可能となる。
モーター10にピニオンギヤ1を圧入するときに、かじり、曲がり、振れなどの失敗をなくすことができる。
【0031】
本発明の実施の形態よれば、以下のような効果も得ることができる。
<破棄リスクの低減>
減速機のカップリングで取付けるタイプに対し、軸方向長さがコンパクトになり、コストが低減できる。
モーター10を減速機20に組み付ける前に、モーターシャフト1に減速機に合わせてピニオンギヤ1を選択し、圧入すればよいので、一つのモーターを共通の在庫として持てば良い。
<在庫の削減、保管期限切れ在庫の破棄リスクの低減>
モーター10が異なる種類のモーターとか、新規開発された場合でも、ピニオンギヤ締結部1bと締結するモーターシャフト出力端4aのインターフェースを合わせておけば、従来のピニオンギヤ1がそのまま使用でき、減速機の資産をそのまま活かして製品化できる。
<商品開発のスピードアップ>
<在庫の削減、保管期限切れ在庫の破棄リスクの低減>
新規の減速機20を開発したときに、モーター10側は、その減速機20に対応したピニオンギヤ1の歯車部1aを設計し、ピニオンギヤ1の締結部1bは同形状にして製作するだけで、共通のモーター10と簡単に組み合わせることができる。
<商品開発のスピードアップ>
<在庫の削減、保管期限切れ破棄リスクの低減>
減速機の歯切り諸元を変更する必要が生じた場合は、ピニオンギヤ1のみの変更ですむ。
よって設計変更のスピードアップを図ることができる。
なお、本願の出願当初の開示事項を維持するために、本願の出願当初の請求項1~7の記載内容を以下に追加する。
(請求項1)
それぞれ異なる種類の歯車部およびそれぞれ共通の締結部で構成された各種ピニオンギヤと、該各種ピニオンギヤの前記締結部を締結する穴をモーターシャフトの出力端に設けたモーターとを備え、前記モーターシャフトの出力側の外周部に、他の機構により前記モーターシャフトを固定する固定部を設けたことを特徴とするモーターとピニオンギヤの締結構造。
(請求項2)
前記モーターシャフトの固定部としては、前記モーターシャフトの出力側の外周面に、他の機構により前記モーターシャフトを保持するための係合部を設けたことを特徴とする請求項1に記載のモーターとピニオンギヤの締結構造。
(請求項3)
前記モーターシャフトの出力側の外径は、前記モーターシャフトとモーターロータとの締結部のモーターシャフト外径より大きく形成していることを特徴とする請求項1または2に記載のモーターとピニオンギヤの締結構造。
(請求項4)
前記モーターシャフトの出力端は、前記モーターのモーターフランジ端面と同一面上もしくは前記モーターのモーターフランジ端面よりも飛び出していないことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のモーターとピニオンギヤの締結構造。
(請求項5)
前記モーターシャフトの出力端と前記ピニオンギヤの締結部との締結は、多段圧入構造であり、前記ピニオンギヤの締結部の各段は、案内部と圧入部で構成されている請求項1ないし4のいずれか1項に記載のモーターとピニオンギヤの締結構造。
(請求項6)
それぞれ異なる種類の歯車部およびそれぞれ共通の締結部で構成された各種ピニオンギヤと、該各種ピニオンギヤの前記締結部を締結する穴をモーターシャフトの出力端に設けたモーターとを備え、前記ピニオンギヤの締結部の形状は同じであり、前記歯車部は各種減速機を噛合いできる前記各種のピニオンギヤを設け、同一のモーターのモーターシャフト出力端に各種のピニオンギヤを締結することで、各種減速機の組付けを可能にしたことを特徴とするモーターとピニオンギヤの締結構造。
(請求項7)
それぞれ異なる種類の歯車部およびそれぞれ共通の締結部で構成された各種ピニオンギヤと、該各種ピニオンギヤの前記締結部を締結する穴をモーターシャフトの出力端に設けたモーターとを備え、前記モーターシャフトの出力側の外周部に設けた固定部を治具により固定された状態で、前記モーターシャフトの出力端に、ピニオンギヤを圧入することを特徴とするモーターとピニオンギヤの締結方法。
【産業上の利用可能性】
【0032】
なお、本発明は、上記実施の形態のみに限定されるものではなく、例えば、ピニオンギヤ1の圧入部1bは、ローレットで構成することができる。また、ピニオンギヤ1の歯車部1aは、平歯車、ヘリカル歯車、ハイポイド歯車、ベベル歯車、ウォーム歯車に設定することができる。さらに、モーター10は、ハイブリッド形ステッピングモーターであり、モーターシャフト4は、非磁性金属材であり、ピニオンギヤ1は鉄鋼材で構成することができる。など、本発明の技術的範囲を変更しない範囲内で適宜変更して実施し得ることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0033】
1 ピニオンギヤ
1a 歯車部
1b 締結部
2 圧入部
3 案内部
4 モーターシャフト
4a 出力端開口端
4b 穴
4c 固定部
5 モーター軸受
6 フランジ
7 ツメ
8 治具
9 圧入治具
10 モーター
20 減速機