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特許7114571腫瘍溶解性ウイルスの増殖方法及び抗腫瘍剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-29
(45)【発行日】2022-08-08
(54)【発明の名称】腫瘍溶解性ウイルスの増殖方法及び抗腫瘍剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/768 20150101AFI20220801BHJP
   A61K 31/282 20060101ALI20220801BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220801BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220801BHJP
   C12N 5/09 20100101ALI20220801BHJP
   C12N 7/00 20060101ALI20220801BHJP
【FI】
A61K35/768
A61K31/282
A61P35/00
A61P43/00 121
C12N5/09
C12N7/00 ZNA
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019509428
(86)(22)【出願日】2018-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2018013974
(87)【国際公開番号】W WO2018182014
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-01-22
(31)【優先権主張番号】P 2017071296
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】517114920
【氏名又は名称】緒方 久修
(73)【特許権者】
【識別番号】517114377
【氏名又は名称】谷 憲三朗
(73)【特許権者】
【識別番号】000006884
【氏名又は名称】株式会社ヤクルト本社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】緒方 久修
(72)【発明者】
【氏名】谷 憲三朗
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-527719(JP,A)
【文献】特表2016-526531(JP,A)
【文献】国際公開第2014/171526(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/157648(WO,A1)
【文献】特表2008-526188(JP,A)
【文献】特開2012-046489(JP,A)
【文献】綜合臨牀,2001年,Vol.50, No.2,p.210-215
【文献】Molecular Oncology,2015年,Vol.9,p.1539-1552
【文献】Oncolytic Virotherapy,2013年,Vol.2,p.31-46
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00 ~ 33/44
C12N 1/00 ~ 7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コクサッキーウイルス及びオキサリプラチンを組み合わせてなる、オキサリプラチン抵抗性の癌に対する抗腫瘍剤。
【請求項2】
コクサッキーウイルスが、A11型又はB3型である請求項記載の抗腫瘍剤。
【請求項3】
コクサッキーウイルスを含有してなる薬剤と、オキサリプラチン含有してなる薬剤からなるキットである請求項1又は2記載の抗腫瘍剤。
【請求項4】
オキサリプラチンを有効成分とする腫瘍溶解性ウイルスの抗腫瘍効果増強剤であって、腫瘍溶解性ウイルスがコクサッキーウイルスである、抗腫瘍効果増強剤
【請求項5】
オキサリプラチンと、腫瘍溶解性ウイルスを共に培養することによる腫瘍溶解性ウイルスの増殖促進方法であって、腫瘍溶解性ウイルスがコクサッキーウイルスである、方法
【請求項6】
オキサリプラチンを有効成分とする癌細胞のウイルス受容体発現増強剤であって、ウイルス受容体がDAF及び/又はICAM-1である、ウイルス受容体発現増強剤
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍溶解性ウイルスを用いた新たな抗腫瘍療法に関する。
【背景技術】
【0002】
悪性腫瘍は、日本人の死因の第1番目であり、統計上は国民の3人に1人が悪性腫瘍を原因として死亡している。長年の努力により、悪性腫瘍に対する手術療法、放射線療法、分子標的薬を含む化学療法の進歩は著しく、治療成績は向上している。しかし、悪性腫瘍による死亡率は依然として高く、悪性腫瘍に有効な新たな治療方法が望まれている。
【0003】
新たな治療方法として、腫瘍溶解性ウイルス療法が直接的な殺細胞効果を有する点で注目されてきている。例えば、DNAウイルスである腫瘍溶解性アデノウイルスや単純ヘルペスウイルスを用いた臨床研究が脳腫瘍や乳癌を対象として実施されており、安全性と有効性を示唆する結果が報告されている。
【0004】
また、RNAウイルスであるピコルナウイルス科のエンテロウイルスは、感染後に宿主細胞のゲノムへの組み込みがなく遺伝子変異による癌化リスクが低いことに加え、癌遺伝子を有していないため安全性が高く、また、細胞内での増殖速度が速いため、迅速かつ高い抗腫瘍効果が期待できる。例えば、エンテロウイルスであるコクサッキーウイルス(CV)A21型、エコーウイルス(EV)6型、EV7型、EV11型、EV12型、EV13型、EV29型を用いた腫瘍溶解性ウイルス療法(特許文献1)、CVA13型、CVA15型、CVA18型、CVA21型、EV1型、EV7型、EV8型、EV22型を用いた腫瘍溶解性ウイルス療法(特許文献2)等が報告されている。
【0005】
さらに、本発明者らは、近年、コクサッキーウイルスA11型(「CVA11型」と称する)とエコーウイルス4型(EV4型)が腫瘍細胞に対して高い細胞傷害性を示すと共に、ヒトに対する病原性が低く安全性が高いウイルスであることを見出している(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2007-527719号公報
【文献】特開2012-46489号公報
【文献】国際特許公開第2013/157648号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、優れた抗腫瘍効果を発揮し且つ副作用の少ない、腫瘍溶解性ウイルスを用いた抗腫瘍療法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、腫瘍溶解性ウイルス療法について研究を重ねた結果、特定の抗がん剤をコクサッキーウイルス等と併用することにより当該ウイルスの増殖が促進され、副作用を増強することなく当該ウイルスによる抗腫瘍効果が顕著に増強されることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の1)~18)を包含する。
1)腫瘍溶解性ウイルス、並びにオキサリプラチン、植物アルカロイド系抗がん剤及び代謝拮抗剤から選ばれる抗がん剤を組み合わせてなる抗腫瘍剤。
2)腫瘍溶解性ウイルスがコクサッキーウイルス又はアデノウイルスである1)記載の抗腫瘍剤。
3)コクサッキーウイルスが、A11型又はB3型である2)記載の抗腫瘍剤。
4)植物アルカロイド系抗がん剤が、SN-38、イリノテカン及びそれらの塩から選ばれる1以上からなる1)~3)のいずれかに記載の抗腫瘍剤。
5)代謝拮抗剤が、5-FU又はその塩である1)~3)のいずれかに記載の抗腫瘍剤。
6)腫瘍溶解性ウイルス、並びにオキサリプラチン、植物アルカロイド系抗がん剤及び代謝拮抗剤から選ばれる抗がん剤を含む抗腫瘍剤。
7)腫瘍溶解性ウイルスがコクサッキーウイルス又はアデノウイルスである6)記載の抗腫瘍剤。
8)コクサッキーウイルスが、A11型又はB3型である7)記載の抗腫瘍剤。
9)植物アルカロイド系抗がん剤が、SN-38、イリノテカン及びそれらの塩から選ばれる1以上からなる6)~8)のいずれかに記載の抗腫瘍剤。
10)代謝拮抗剤が、5-FU又はその塩である6)~8)のいずれかに記載の抗腫瘍剤。
11)腫瘍溶解性ウイルスを含有してなる薬剤と、オキサリプラチン及び植物アルカロイド系抗がん剤から選ばれる抗がん剤を含有してなる薬剤からなるキットである1)~5)のいずれかに記載の抗腫瘍剤。
12)オキサリプラチン、植物アルカロイド系抗がん剤及び代謝拮抗剤から選ばれる抗がん剤を有効成分とする腫瘍溶解性ウイルスの抗腫瘍効果増強剤。
13)腫瘍溶解性ウイルスがコクサッキーウイルス又はアデノウイルスである12)記載の抗腫瘍効果増強剤。
14)オキサリプラチン、植物アルカロイド系抗がん剤及び代謝拮抗剤から選ばれる抗がん剤と、腫瘍溶解性ウイルスを共に培養することによる腫瘍溶解性ウイルスの増殖促進方法。
15)オキサリプラチン、植物アルカロイド系抗がん剤及び代謝拮抗剤から選ばれる抗がん剤を有効成分とする癌細胞のウイルス受容体発現増強剤。
16)ウイルス受容体が、DAF及び/又はICAM-1である15)記載のウイルス受容体発現増強剤。
17)抗腫瘍剤を製造するための、腫瘍溶解性ウイルス、並びにオキサリプラチン、植物アルカロイド系抗がん剤及び代謝拮抗剤から選ばれる抗がん剤の使用。
18)抗腫瘍療法に使用される、腫瘍溶解性ウイルス、並びにオキサリプラチン、植物アルカロイド系抗がん剤及び代謝拮抗剤から選ばれる抗がん剤の組み合わせ。
19)腫瘍溶解性ウイルス、並びにオキサリプラチン、植物アルカロイド系抗がん剤及び代謝拮抗剤から選ばれる抗がん剤を患者に投与する、抗腫瘍療法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた抗腫瘍効果を発揮し、ヒトに対する安全性が高い抗腫瘍療法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】オキサリプラチン抵抗性大腸癌細胞株(WiDr)に対する細胞傷害性を示す図。A:オキサリプラチン、CVA11型ともに不添加,B:オキサリプラチンのみ添加(50μM),C:オキサリプラチン添加(50μM)後、CVA11型添加(MOI(感染力価)=0.01),D:CVA11型のみ添加(MOI=0.01)。
図2】オキサリプラチンによりCVA11型の増殖が促進されることを示す図。
図3】オキサリプラチンによるウイルス受容体の発現増加効果を示す図。
図4】ヒト大腸癌担癌マウスにおける抗腫瘍効果(腫瘍体積の増加抑制)を示す図。
図5】ヒト大腸癌担癌マウスにおける有害事象の発現(体重減少抑制)を示す図。
図6】ヒト大腸癌担癌マウスにおける抗腫瘍効果(生存率)を示す図。
図7】ヒト大腸癌担癌マウスにおける抗腫瘍効果を示す図(腫瘍組織像)。矢印は、死細胞を示す。
図8】オキサリプラチンとCVB3型の併用によるオキサリプラチン抵抗性大腸癌細胞株(WiDr)に対する細胞傷害性を示す図。
図9】オキサリプラチンによりCVB3型の増殖が促進されることを示す図。1:オキサリプラチン不添加、2:オキサリプラチン 0.5μM添加、3:オキサリプラチン 1.0μM添加。
図10】オキサリプラチンによりAAVの増殖が促進されることを示す図。
図11】SN-38によりCVA11型の増殖が促進されることを示す図。1:SN-38不添加、2:SN-38 1.0μM添加、3:SN-38 5.0μM添加、4:SN-38 50μM添加。
図12】5-FUによりCVA11型の増殖が促進されることを示す図。1:5-FU不添加、2:5-FU 50μM添加。
図13】脳腫瘍細胞U-87に対する細胞傷害性を示す図。
図14】オキサリプラチンとシスプラチンのCVA11併用時の細胞傷害性を比較した図。(a)オキサリプラチンとCVA11併用時の図。(b)シスプラチンとCVA11併用時の図。
図15】シスプラチンの添加ではCVB3型の増殖が促進されないことを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
腫瘍溶解性ウイルスは、癌細胞に感染して癌細胞を溶解、細胞死させるウイルスである。本発明の腫瘍溶解性ウイルスとしては、癌細胞を溶解させて細胞死を起こさせるウイルスであれば特に限定されないが、エンテロウイルスであるCVA11型、CVB3型(コクサッキーウイルス)やEV4型(エコーウイルス)、アデノウイルスであるAAV、単純ペルペスウイルスの変異種であるHF10等が挙げられ、特にCVA11型、CVB3型及びAAVが好ましい。CVA11型及びCVB3型は、ピコルナウイルス科に属する腸管系ウイルス(エンテロウイルス)の一種であるコクサッキーウイルス(Coxsackie virus)である。コクサッキーウイルスはA、Bの2群に分けられ、A群はさらに24型に,B群は6型に分けられる。本発明のCVA11型はA群11型のコクサッキーウイルスであり、CVB3型はB群3型のコクサッキーウイルスである。
腫瘍溶解性ウイルスは、細胞表面のウイルス受容体に結合することによって、当該細胞に感染することができる。ウイルス受容体としては、例えば、崩壊促進因子(DAF又はCD55)、細胞間接着分子‐1(ICAM‐1又はCD54)、インテグリンαβ(CD49b)等が挙げられる。腫瘍溶解性ウイルスがウイルス受容体と相互作用することでカプシドが脱安定化され、これにより腫瘍溶解性ウイルスの脱外皮が誘導される。
【0013】
腫瘍溶解性ウイルスは、検体等から、遠心分離法や培養細胞によるウイルス増殖法等の既知のウイルス単離方法によって単離できる。また、本発明の腫瘍溶解性ウイルスは、癌細胞への高い感染性を獲得するよう、天然に存在しているウイルスを、多数回の継代にわたって細胞株において培養することによって生物選抜してもよい。生物選抜に好適な細胞株は、DAF、ICAM‐1、インテグリンαβ等のウイルス受容体を有するものが好ましく、HEK293細胞、H1299細胞、A549細胞、LK-87細胞、PC-9細胞、H460細胞等が挙げられる。
【0014】
本発明の腫瘍溶解性ウイルスは、天然に存在するものであってもよく、改変されたもの、一部変異したものであってもよい。また、通常のウイルス以外にもベクター型ウイルスであってもよい。例えば、CVA11型の改変体としては、そのカプシドが除去されたものが挙げられる。カプシドは、例えば、キモトリプシン又はトリプシン等のプロテアーゼによる処理によって除去できる。具体的には、例えば、CVA11型を、アルキル硫酸塩等の界面活性剤の存在下においてキモトリプシンで処理することで、カプシドを除去できる。CVA11型のカプシドを除去することで、ウイルスの癌細胞への感染性を増大させることができる。また、カプシドに存在するタンパク質は宿主の体液性免疫及び細胞性免疫の主要な活性化因子であるので、CVA11型のカプシドを除去することで、宿主の免疫応答を低下させることができる。この結果、CVA11型の癌細胞に対する感染性、ひいては医薬組成物の癌細胞に対する細胞傷害性を向上させることができる。
【0015】
また、本発明において、腫瘍溶解性ウイルスは、癌細胞に感染する腫瘍溶解性ウイルスに由来する核酸を含む。腫瘍溶解性ウイルスに由来する核酸は、腫瘍溶解性ウイルスから直接単離されたウイルスRNA、合成RNA、単離されたウイルスRNAの塩基配列に対応するcDNAを包含する。
ウイルスRNAを単離するには、フェノール/クロロホルム抽出法や磁気ビーズによる単離等の任意の方法を使用することができる。
また、上記核酸は、ウイルスを生じさせるための核酸を組み込んだウイルスプラスミドや発現ベクターであってもよい。発現ベクターには、例えば、ウイルスを生じさせるために必要なウイルスタンパク質をコードするDNAを発現することができるプラスミドが含まれる。発現ベクターには、挿入された核酸が機能的に連結された転写調節制御配列が含まれてもよい。ここでの転写調節制御配列は、例えば、転写を開始させるためのプロモーター、転写されたmRNAに対するリボソームの結合を可能にするための発現制御エレメント等である。
【0016】
コクサッキーウイルスのうち、CVA11型に由来する核酸としては、具体的には配列番号1に示す塩基配列からなる核酸が挙げられる。CVB3型に由来する核酸としては、具体的には配列番号2に示す塩基配列からなる核酸が挙げられる。発現ベクターとしては、例えば、pSV2neo、pEF-PGk.puro 、pTk2、非複製アデノウイルスシャトルベクター、サイトメガロウイルスプロモーター等を用いることができる。ウイルスを生じさせるために必要なウイルスタンパク質をコードするcDNAは、ウイルスRNA又はそのフラグメントを逆転写することによって調製することができる。
【0017】
アデノウイルスのうち、AAVに由来する核酸としては、具体的には配列番号3に示す塩基配列からなる核酸が挙げられる。発現ベクターとしては、発現ベクターとしては、例えば、pSV2neo、pEF-PGk.puro 、pTk2、非複製アデノウイルスシャトルベクター、サイトメガロウイルスプロモーター等を用いることができる。ウイルスを生じさせるために必要なウイルスタンパク質をコードするcDNAは、ウイルスRNA又はそのフラグメントを逆転写することによって調製することができる。
【0018】
本発明において、抗がん剤は、オキサリプラチン、植物アルカロイド系抗がん剤及び代謝拮抗剤から選ばれるものであり、植物アルカロイド系抗がん剤としては、例えば、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン、ビノレルビン、エトポシド、イリノテカン若しくはその活性代謝物又はそれらの塩、ノギテカン、ソブゾキサン、ドセタキセル、パクリタキセル、パクリタキセル注射剤、エリブリン等が挙げられ、イリノテカン、SN-38及びそれらの塩が好ましい。また、代謝拮抗剤としては、5-フルオロウラシル(5-FU)、5-FUのプロドラッグ(例えばテガフール又はその塩)、カペシタビン又はその塩、TS-1(S-1ともいう。テガフールにモジュレーターを併用した配合剤)、カルモフール、ドキシフルリジン等のフッ化ピリミジン系抗がん剤の他、ゲムシタビン、シタラビン、エノシタビン、メルカプトプリン、フルダラビン、クラドリビン、メトトレキサート、ペメトレキセド、ヒドロキシカルバミド、ネララビン、ペントスタチンやこれらのプロドラッグ等が挙げられ、生体内で5‐フルオロウラシルを存在させるフッ化ピリミジン系抗がん剤がより好ましく、特に5‐FU又はその塩が好ましい。
オキサリプラチンは、L-OHPとしても知られる第三世代の白金錯体系抗がん剤である。本発明において、「オキサリプラチン」は、cis-オキサロト(trans-l-1,2-ジアミノシクロヘキサン)白金(II)、その光学エナンチオマーであるcis-オキサロト(trans-d-1,2-ジアミノシクロヘキサン)白金(II)及びこれらの混合物が包含される。
イリノテカンは、カンレンボク由来の抗腫瘍性アルカロイドであるカンプトテシンの誘導体で、トポイソメラーゼI阻害作用を有する。SN-38(7-ethyl-10-hydroxycamptothecin)は、イリノテカンの活性代謝物であり、イリノテカンに比べ強い抗腫瘍活性を有する。
イリノテカン及びSN-38の塩としては、無機酸又は有機酸との塩が挙げられるが、好ましくは塩酸塩である。
5-FUは、フッ化ピリミジン系の代謝拮抗剤で、核酸の合成を阻害することにより抗腫瘍効果を発揮する抗がん剤である。
【0019】
上記抗がん剤のうち、好ましくはオキサリプラチンである。オキサリプラチンやSN-38、5-FUは、それ自体で抗腫瘍効果を有するが、後述する実施例に示すとおり、オキサリプラチンは腫瘍溶解性ウイルス、特にコクサッキーウイルスの増殖を促進する作用を有し、また、癌細胞のウイルス受容体(DAF、ICAM‐1)の発現促進作用を有する。そして、オキサリプラチンやSN-38等の植物アルカロイド系抗がん剤及び5-FU等の代謝拮抗剤は、コクサッキーウイルスとオキサリプラチンを併用した場合、オキサリプラチン抵抗性の癌細胞に対して、コクサッキーウイルスを単剤で適用した場合よりも遥かに強い細胞傷害性を発揮する。これは、オキサリプラチンやSN-38、5-FUによってコクサッキーウイルスが有する抗腫瘍効果が増強されたものと考えられる。
すなわち、オキサリプラチン、植物アルカロイド系抗がん剤又は代謝拮抗剤と、腫瘍溶解性ウイルスの併用において、オキサリプラチン、植物アルカロイド系抗がん剤及び代謝拮抗剤から選ばれる抗がん剤は腫瘍溶解性ウイルスの増殖促進剤、腫瘍溶解性ウイルスの抗腫瘍効果増強剤となり得、腫瘍溶解性ウイルスとオキサリプラチン、植物アルカロイド系抗がん剤及び代謝拮抗剤から選ばれる抗がん剤の組み合わせは抗腫瘍剤となり得る(以下、これらを纏めて本発明の「抗腫瘍療法」とも称する)。また、オキサリプラチン、植物アルカロイド系抗がん剤及び代謝拮抗剤から選ばれる抗がん剤は癌細胞のウイルス受容体の発現増強剤となり得る。
【0020】
ここで、オキサリプラチン、植物アルカロイド系抗がん剤及び代謝拮抗剤から選ばれる抗がん剤による腫瘍溶解性ウイルスの増殖促進効果は、オキサリプラチン、植物アルカロイド系抗がん剤及び代謝拮抗剤から選ばれる抗がん剤と腫瘍溶解性ウイルスを共に培養することによって得られる。培養は、培養細胞によるウイルス増殖法等の既知の方法を用いることができる。増殖促進効果は、ウイルスの感染力価(MOI)を算出する既知の方法を用いることで評価することができる。
【0021】
本発明の腫瘍溶解性ウイルスとオキサリプラチン、植物アルカロイド系抗がん剤及び代謝拮抗剤から選ばれる抗がん剤による抗腫瘍効果(癌細胞に対する細胞傷害性)は、抗がん剤の存在下で腫瘍溶解性ウイルスに暴露された癌細胞の細胞株の生存を試験することで確認することができる。細胞株の生存を試験する方法には、例えば、固定した細胞を染色液で染色して、染色された生細胞の数を定量する方法、クリスタルバイオレット法、アポトーシス特異的なマーカーを定量する方法等がある。これらの方法を用いて、抗がん剤存在下で腫瘍溶解性ウイルスとインキュベーションされた癌細胞の細胞株について、所定時間後に生存している癌細胞を定量することで、結果的に、腫瘍溶解性ウイルスと抗がん剤による細胞傷害性によって、死滅した癌細胞を定量することができる。
【0022】
本発明の抗腫瘍療法が対象とする癌種は、腫瘍溶解性ウイルス、特に腫瘍溶解性ウイルスが癌細胞に感染し細胞傷害性を発揮するものであれば特に限定されず、固形癌及び液性癌を含む。
固形癌において特に強い細胞傷害性が誘導される癌細胞としては、例えば、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺扁平上皮癌、悪性中皮腫、大腸癌、結腸直腸癌、胃癌、食道癌、下咽頭癌、乳癌、子宮頸癌、卵巣癌、前立腺癌、膀胱癌等の癌細胞が挙げられる。したがって、本発明の抗腫瘍療法では、前記固形癌に加え、非ホジキンリンパ腫やリンパ性白血病、ヒトBリンパ腫等の癌細胞を対象に用いられるのが好ましく、大腸癌、結腸直腸癌の癌細胞が特に好ましい。
【0023】
また、本発明の抗腫瘍療法は、オキサリプラチン、植物アルカロイド系抗がん剤又は代謝拮抗剤に抵抗性の癌、いわゆる難治性癌の治療に対しても使用することができる。例えばオキサリプラチン抵抗性の癌は、例えば、臨床上効果が得られる用量のオキサリプラチンを投与しても、腫瘍体積の減少、増大の抑制又は当該癌に関連する状態の改善等が見られない癌であり、例えば小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺扁平上皮癌、悪性中皮腫、大腸癌、結腸直腸癌、胃癌、食道癌、下咽頭癌、乳癌、子宮頸癌、卵巣癌、前立腺癌、膀胱癌、非ホジキンリンパ腫やリンパ性白血病、ヒトBリンパ腫等の癌で見られる。
【0024】
本発明の抗腫瘍療法では、腫瘍溶解性ウイルスとオキサリプラチン、植物アルカロイド系抗がん剤及び代謝拮抗剤から選ばれる抗がん剤を、それぞれの有効量を適当な配合比で含み、一の剤型に製剤化した配合剤(1剤型形態)でも、同時に又は間隔を空けて別々に使用できるように腫瘍溶解性ウイルスと抗がん剤のそれぞれの有効量を含有する薬剤を単独に製剤化して組み合わせたもの(2剤型形態。キットと称する)であってもよい。配合剤には、腫瘍溶解性ウイルスとオキサリプラチン、植物アルカロイド系抗がん剤及び代謝拮抗剤から選ばれる抗がん剤に加えて、キャリア、希釈剤、補助剤、担体を含むようにしてもよい。キャリアとしては、例えば、リポソーム、ミセル等が好ましい。リポソームは、脂質と膜安定性に寄与するステロイド又はステロイド前駆体との組み合わせを含む。この場合、脂質としては、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、スフィンゴ脂質、ホスファチジルエタノールアミン、セレブロシド、ガングリオシド等のホスファチジル化合物が挙げられる。リポソーム又はミセルで覆われた腫瘍溶解性ウイルスは宿主の免疫応答を低下させることができる。希釈剤としては、例えば、脱塩水、蒸留水及び生理的食塩水等が挙げられる、また、補助剤としては、植物系オイル、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール及び脂肪酸エステル等が挙げられる。担体としては、通常の薬剤に汎用される各種のもの、例えば賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、pH調整剤、緩衝剤、安定化剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤等を例示できる。また、配合剤は、配合剤以外の他の薬剤と組み合わせて投与することができる。
また、キットは、腫瘍溶解性ウイルスを含有する薬剤とオキサリプラチン、植物アルカロイド系抗がん剤及び代謝拮抗剤から選ばれる抗がん剤を含有する薬剤以外に、さらに他の薬剤を組み合わせて投与することができる。
【0025】
腫瘍溶解性ウイルスを含有する上記の製剤は、腫瘍溶解性ウイルスに加えて、キャリア、希釈剤又は補助剤等を含むようにしてもよい。キャリアとしては、例えば、リポソーム、ミセル等が好ましい。リポソームは、脂質と膜安定性に寄与するステロイド又はステロイド前駆体との組み合わせを含む。この場合、脂質としては、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、スフィンゴ脂質、ホスファチジルエタノールアミン、セレブロシド、ガングリオシド等のホスファチジル化合物が挙げられる。リポソーム又はミセルで覆われた腫瘍溶解性ウイルスは宿主の免疫応答を低下させることができる。
希釈剤としては、例えば、脱塩水、蒸留水及び生理的食塩水等が挙げられる、また、補助剤としては、植物系オイル、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール及び脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0026】
また、オキサリプラチン、植物アルカロイド系抗がん剤及び代謝拮抗剤から選ばれる抗がん剤を含有する製剤は、薬理学的に許容される担体を用いて、通常公知の方法により調製することができる。斯かる担体としては、通常の薬剤に汎用される各種のもの、例えば賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、pH調整剤、緩衝剤、安定化剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤等を例示できる。
【0027】
尚、上記製剤中における腫瘍溶解性ウイルスの配合量は、例えば液剤1mLに1×10~1×1010プラーク形成ユニットとすることが挙げられ、1×10プラーク形成ユニット以上とするのが好ましい。また、オキサリプラチン、植物アルカロイド系抗がん剤及び代謝拮抗剤から選ばれる抗がん剤の配合量は、例えば製剤中に1~1000mgであるのが好ましい。
【0028】
本発明の抗腫瘍療法では、腫瘍溶解性ウイルス、並びにオキサリプラチン、植物アルカロイド系抗がん剤及び代謝拮抗剤から選ばれる抗がん剤を種々の方法、すなわち経口、筋肉、皮下、直腸、膣、鼻腔等を介してがん患者に投与することができるが、癌種に応じて腫瘍内投与、静脈投与、腹腔内投与することが好ましい。特に、食道癌、大腸癌等の消化器癌の多くは、内視鏡等で腫瘍組織を視認しながら、上記の製剤組成物を腫瘍組織に直接注射できる。この場合、内視鏡等で注射した部位を確認できるため、出血しても対処しやすいという利点もある。
【0029】
また、腫瘍溶解性ウイルス、並びにオキサリプラチン、植物アルカロイド系抗がん剤及び代謝拮抗剤から選ばれる抗がん剤は、癌を治療するのに十分な量となるように投与されればよく、投与量は、患者の体重、年齢、性別、腫瘍組織の大きさ等に基づいて決定される。例えば、成人一日あたり、腫瘍溶解性ウイルスは、1×10~1×1010プラーク形成ユニットが例示でき、抗がん剤は、1~1000mgが例示できる。
投与方法は、単回投与でも複数回投与でもよく、徐放製剤として持続的に投与してもよい。また、投与順序や投与間隔は、腫瘍溶解性ウイルスと、オキサリプラチン、植物アルカロイド系抗がん剤及び代謝拮抗剤から選ばれる抗がん剤の組み合わせの効果が得られる範囲であれば特に制限されないが、オキサリプラチン、植物アルカロイド系抗がん剤及び代謝拮抗剤から選ばれる抗がん剤の投与後に腫瘍溶解性ウイルスを投与することがより好ましい。また、キットとする場合は、それぞれ単独の製剤を、同時に或いは間隔を空けて投与してもよい。
【実施例
【0030】
以下の実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
実施例1 オキサリプラチンとCVA11型の併用による抗腫瘍効果
(1)方法
(a)CVA11型の調製
CVA11型は、国立感染症研究所から入手した。CVA11型は、HELA細胞(ATCCから購入)を用いて増殖した。Dulbecco’s modified Eagle medium(DMEM)(Sigma-Aldrich製)を10mL用いて継代培養したHELA細胞(約2x10cells/mL)にCVA11型(播種量:MOI=0.1~1.0)を1時間孵置した後、培地をDMEMに置換し、細胞変性効果が始まるまで静置した。培地を除去後、培養用シャーレにOPTI-MEM I 1mLを添加し、セルスクレーパーを用いて細胞を剥離回収した。なお、CVA11型及びHELA細胞は、インキュベーター内で37℃、5%CO下で培養した。液体窒素を用いて、回収したHELA細胞の凍結、融解を3回繰り返した後、4℃、3000rpmで15分間遠心を行い、上清を回収した。回収した上清(ウイルス溶液)は、-80℃で保存した。
【0031】
(b)MOIの算出
MOIは、特許文献3に記載の以下の方法で算出した。
オキサリプラチン抵抗性大腸癌細胞株(WiDr)(ATCCから入手)を96穴のプレートに5×10cells/100μL/ウェルで播種し、37℃、5%CO下で5時間維持した。ウイルスは、OPTI-MEM Iで100倍又は1000倍希釈して、これをMOI測定用のウイルス原液とした(ここでの希釈倍率の常用対数をLとする)。ウイルス原液を10倍ずつ段階希釈し(ここでの希釈倍率の常用対数をdとする)、希釈系列液を調製した。次に、各ウェルに希釈系列液を0.05mLずつ添加した(添加した希釈系列液の体積をvとする)。120時間後に50%以上の細胞変性効果が認められたウェル数の合計を8で除算した値Sを算出し、MOIを以下の式で算出した。
(数1)
log10(MOI)=L+d(S-0.5)+log10(1/v)
【0032】
(c)CVA11型のクリスタルバイオレット法を用いた抗腫瘍効果の検討
クリスタルバイオレット法により、CVA11型による抗腫瘍効果(細胞傷害性)を評価した。
オキサリプラチン抵抗性大腸癌細胞株(WiDr)を72時間後にコンフルエントになる密度(3×10cells/ウェル)で24穴のプレートに播種した。適切な感染力価(MOI=0.001、0.01、0.1)になるように、OPTI-MEM IでCVA11型を希釈し、CVA11型の希釈液を調製した。約6時間後、プレートから培地を除去し、CVA11型の希釈液を各ウェルに200μL添加し、37℃、5%CO2下にプレートを1時間維持した。次に、CVA11型の希釈液を除去し、各細胞用培地を各ウェルに1mL加え、72時間培養した。72時間後、リン酸緩衝食塩水(PBS)で緩やかに洗浄し、0.5%グルタルアルデヒド含有PBSを各ウェルに300μL添加した後、15分間室温に静置することで生存接着細胞を固定した。その後、グルタルアルデヒド含有PBSを除去し、PBSで洗浄後、2%エタノール及び0.1%クリスタルバイオレットを含有する滅菌水を、各ウェルに300μL添加し、室温で10分間静置することで生細胞を染色した。染色後のプレートの各ウェルを滅菌水500μLで2回洗浄し、スキャナを用いて染色を記録することで、抗腫瘍効果を確認した。
【0033】
A:オキサリプラチン、CVA11型ともに不添加、B:オキサリプラチンのみ添加(50μM)、C:オキサリプラチン添加(50μM)後、CVA11型添加(MOI=0.01)、D:CVA11型のみ添加(MOI=0.01)の4群に分けて比較した。
【0034】
(2)結果
図1にクリスタルバイオレット法の結果を示す。B:オキサリプラチンのみを添加したもの、D:CVA11型のみを添加したWiDrでは抗腫瘍効果は認められなかった。一方、C:オキサリプラチン添加後CVA11型を添加(MOI=0.01)した群で強い抗腫瘍効果が認められた。
【0035】
実施例2 オキサリプラチンによるCVA11型の増殖促進作用
(1)方法
培養したオキサリプラチン抵抗性大腸癌細胞株(WiDr)を3×106cells/mLになるようにDMEM培地に懸濁した。96穴のプレートの各ウェルに、得られた細胞懸濁液を100μLずつ分注し、3×105cells/ウェルとなるように播種した。37℃、5%CO2下にプレートを約8時間静置した後、オキサリプラチンを最終濃度50μMとなるように添加した。その後、37℃、5%CO2下にプレートを約12時間静置した後、CVA11型をMOI=0.01となるように添加した。37℃、5%CO2下にプレートを約30時間静置した後、実施例1(1)(b)に記載の方法でウイルスの感染力価を測定した。A:オキサリプラチン、CVA11型ともに不添加、B:オキサリプラチンを添加せず、CVA11型のみを添加、C:オキサリプラチン添加(50μM)後、CVA11型添加(MOI=0.01)の3群に分けて比較をした。検定はt検定を用いた。
【0036】
(2)結果
図2にCVA11型のウイルス力価の結果を示す。オキサリプラチン添加を行ったもので、有意なCVA11型ウイルス量の増加がみとめられた。オキサリプラチンがCVA11型の増殖を促進することが確認された。
【0037】
実施例3 オキサリプラチンによるウイルス受容体発現促進作用
(1)方法
培養したオキサリプラチン抵抗性大腸癌細胞株(WiDr)を3×10cells/mLになるようにDMEM培地に懸濁した。96穴のプレートの各ウェルに、得られた細胞懸濁液を100μLずつ分注し、3×10cells/ウェルとなるように播種した。37℃、5%CO下にプレートを約8時間静置した後、オキサリプラチンを最終濃度50μMとなるように添加した。その後、37℃、5%CO下にプレートを約42時間静置した後、mRNAを採取しcDNAを作成した。細胞播種後、約20時間後にCVA11型を添加したものと比較した。DAF(decay accelerating factor)、ICAM-1(intercellular adhesion molecule 1)の発現をreal-time PCRにより比較した。検定はt検定を用いた。
【0038】
(2)結果
図3にreal-time PCRの結果を示す。
オキサリプラチン抵抗性大腸癌細胞株(WiDr)において、オキサリプラチン添加により、ウイルス受容体あるDAFとICAM-1の発現が有意に増加した。一方、CVA11型ウイルスを添加したものは、DAFとICAM-1の発現は増加しなかった。受容体の中にはウイルスの増殖に影響するものも知られており、この結果より、CVA11型によるWiDrに対する抗腫瘍効果がオキサリプラチンによる前処理によって増加したのは、DAFやICAM-1がウイルスの増殖に関与し、CVA11型ウイルスが増殖したためと考えられた。
【0039】
実施例4 オキサリプラチンとCVA11型の併用によるin vivo抗腫瘍効果1
(1)方法
実施例1で確認したCVA11型の癌細胞に対する抗腫瘍効果を、オキサリプラチン抵抗性大腸癌細胞株WiDrによる担癌ヌードマウスを用いて検討した。WiDrをPBS で洗浄し、5.0×10cells/mLになるようにOPTI-MEM Iに懸濁した。 6-8週齢のBALB/cヌードマウスの右側腹部にWiDrを含む懸濁液を、100μLずつ27G針を用いて皮下注射した。マウスは、1)非投与群、2)オキサリプラチン単独投与群、3)CVA11型単独投与群、4)オキサリプラチン投与後にCVA11型を投与した群の4つに分けた。オキサリプラチン100μgは、day1に腹腔内投与された。CVA11型は5×10プラーク形成ユニット(PFU)をday2,4,6,8,10に皮下腫瘍内に局所注射された。非投与群に対しては、右側腹部にCVA11型を含まないOPTI-MEM Iを、CVA11型投与群と同量投与した。CVA11型投与後、各群の腫瘍体積及び体重を測定した。なお、腫瘍体積は、長径×短径×短径×0.5で算出した。また、試験は各群5匹のマウスを用いて行い、検定はt検定を用いた。
【0040】
(2)結果
図4は、非投与群の腫瘍体積およびオキサリプラチン単独投与群、CVA11型単独投与群、オキサリプラチン投与後にCVA11型を投与した群(併用群)の腫瘍体積を示す。オキサリプラチン投与後にCVA11型を投与したマウスでは、非投与群と比較して、腫瘍体積の増加が有意に抑制された。また、併用群は、オキサリプラチン単独投与群、CVA11型単独投与群と比較しても腫瘍体積の増加が抑制されており、高い抗腫瘍効果を有していることが確認された。
また、図5は、これら4群の体重の変化を示す。この結果、非投与群と比べて、オキサリプラチン単独投与したマウス、CVA11型を単独投与したマウス、オキサリプラチン投与後にCVA11型を投与したマウスにおいて有意な体重減少を認めなかった。この時点での体重減少は、有害事象を示唆するため、体重減少を認めないことは、オキサリプラチン投与後にCVA11型を投与したマウスにおいても有害事象を認めなかったといえ、本発明の抗腫瘍療法は安全性が高いといえる。
【0041】
実施例5 オキサリプラチンとCVA11型の併用によるin vivo抗腫瘍効果2
(1)方法
実施例4におけるオキサリプラチン抵抗性大腸癌細胞株WiDrを皮下移植された担癌ヌードマウスにおける生存率を比較し、皮下移植後day 40の腫瘍の病理組織をH.E.(hematoxylin eosin)染色にて評価した。
【0042】
(2)結果
図6に担癌ヌードマウスにおける生存率を比較したデータを示す。オキサリプラチン投与後にCVA11型を投与したマウスの生存率は、未治療群のマウス、オキサリプラチン単独投与群のマウス、CVA11型単独投与群のマウスと比べて改善が見られた。また、図7に腫瘍組織の病理組織(H.E.染色)を示す。H.E.染色された腫瘍の病理組織においては、オキサリプラチン投与後にCVA11型を投与したマウスの腫瘍の病理組織において、より広範囲に細胞死をみとめた。これにより、生存率や病理組織の観察からも本発明が高い抗腫瘍効果を有することが確認された。
【0043】
実施例6 オキサリプラチンとCVB3型の併用による抗腫瘍効果
(1)方法
(a)CVB3型の調製
CVB3型は、国立感染症研究所から入手した。CVB3型は、HELA細胞(ATCCから購入)を用いて増殖した。Dulbecco’s modified Eagle medium(DMEM)(Sigma-Aldrich製)を10mL用いて継代培養したHELA細胞(約2x10cells/mL)にCVA11型(播種量:MOI=0.1~1.0)を1時間孵置した後、培地をDMEMに置換し、細胞変性効果が始まるまで静置した。培地を除去後、培養用シャーレにOPTI-MEM I 1mLを添加し、セルスクレーパーを用いて細胞を剥離回収した。なお、CVB3型及びHELA細胞は、インキュベーター内で37℃、5%CO下で培養した。液体窒素を用いて、回収したHELA細胞の凍結、融解を3回繰り返した後、4℃、3000rpmで15分間遠心を行い、上清を回収した。回収した上清(ウイルス溶液)は、-80℃で保存した。
【0044】
(b)MOIの算出
MOIの算出は、実施例1(1)(b)と同様の方法で行った。
【0045】
(c)CVB3型のクリスタルバイオレット法を用いた抗腫瘍効果の検討
ウイルスとしてCVB3型を使用した。また、CVB3型の感染力価(MOI)を0(不添加)、0.001、0.01、0.1とし、オキサリプラチンの添加量を0μM(不添加)、0.5μM、1μM、5μMとした以外は、実施例1(1)(c)と同様の方法で行った。
【0046】
(2)結果
図8にクリスタルバイオレット法の結果を示す。オキサリプラチンのみを添加したもの(図8のCVB3型のMOIが0の横一列)、CVB3型のみを添加したもの(図8のOXAが0の縦一列)では抗腫瘍効果は認められなかった。一方、オキサリプラチン添加後CVA11型を添加した群(枠内の群)では、MOI及びオキサリプラチン添加量の量に依存して強い抗腫瘍効果が認められた。
【0047】
実施例7 オキサリプラチンによるCVB3型の増殖促進作用
(1)方法
CVB3型の調製は、実施例6(1)(a)と同様の方法で行った。また、MOIの算出は、実施例1(1)(b)と同様の方法で行った。
培養したオキサリプラチン抵抗性大腸癌細胞株(WiDr)を3×106cells/mLになるようにDMEM培地に懸濁した。96穴のプレートの各ウェルに、得られた細胞懸濁液を100μLずつ分注し、3×105cells/ウェルとなるように播種した。37℃、5%CO2下にプレートを約8時間静置した後、オキサリプラチンを最終濃度が0(不添加)、0.5、1.0μMとなるように添加した。その後、37℃、5%CO2下にプレートを約12時間静置した後、CVB3型をMOI=0.01となるように添加した。37℃、5%CO2下にプレートを約30時間静置した後、実施例1(1)(b)に記載の方法でウイルスの感染力価を測定した。1:オキサリプラチン不添加、2:オキサリプラチン 0.5μM添加、3:オキサリプラチン 1.0μM添加の3群に分けて比較した。試験は6回試験とし、検定はt検定を用いた。
【0048】
(2)結果
図9にCVB3型のウイルス力価の結果を示す。オキサリプラチン添加を行ったもので、CVB3型ウイルス量の増加がみとめられた。特にオキサリプラチン1μM添加時には有意な増加がみとめられた。これにより、オキサリプラチンがCVA11型だけでなく、CVB3型の増殖も促進することが確認された。
【0049】
実施例8 オキサリプラチンによるAAVの増殖促進作用
(1)方法
(a)AAVの調製
AAVとしてpAAV-CMV Vector(タカラバイオ(株)製)を使用した。pAAV-CMV Vectorは、AAVpro(R) Helper Free System(タカラバイオ(株)製)を用いて調製を行った。回収した上清(ウイルス溶液)は、-80℃で保存した。
【0050】
(b)MOIの算出
MOIの算出は、実施例1(1)(b)と同様の方法で行った。
【0051】
(c)オキサリプラチンの添加
培養したオキサリプラチン抵抗性大腸癌細胞株(WiDr)を3×106cells/mLになるようにDMEM培地に懸濁した。96穴のプレートの各ウェルに、得られた細胞懸濁液を100μLずつ分注し、3×105cells/ウェルとなるように播種した。37℃、5%CO2下にプレートを約8時間静置した後、オキサリプラチンを最終濃度が0(無添加)、0.25、0.5、1.0、2.5μMとなるように添加した。その後、37℃、5%CO2下にプレートを約24時間静置した後、AAVをMOI=0.01となるように添加した。37℃、5%CO2下にプレートを約30時間静置した後、AAVpro(R) Titration Kit(for Real Time PCR)Ver.2(タカラバイオ(株)製)を用いてウイルスのコピー数を測定した。検定はt検定を用いた。
【0052】
(2)結果
図10にAAVのコピー数の結果を示す。オキサリプラチン添加を行ったもので、有意なAAVのコピー数の増加がみとめられた。特に、オキサリプラチンの添加量が0.25~1.0μMの間で顕著な増加が見られた。これにより、オキサリプラチンがAAVの増殖を促進することが確認された。
【0053】
実施例9 SN-38によるCVA11型の増殖促進作用
(1)方法
CVA11型の調製及びMOIの算出は、実施例1(1)(a)及び(b)と同様の方法で行った。
培養したオキサリプラチン抵抗性大腸癌細胞株(WiDr)を3×106cells/mLになるようにDMEM培地に懸濁した。96穴のプレートの各ウェルに、得られた細胞懸濁液を100μLずつ分注し、3×105cells/ウェルとなるように播種した。37℃、5%CO2下にプレートを約8時間静置した後、SN-38を最終濃度が0(不添加)、1.0、5.0、50μMとなるように添加した。その後、37℃、5%CO2下にプレートを約12時間静置した後、CVA11型をMOI=0.01となるように添加した。37℃、5%CO2下にプレートを約30時間静置した後、実施例1(1)(b)に記載の方法でウイルスの感染力価を測定した。1:SN-38不添加、2:SN-38 1.0μM添加、3:SN-38 5.0μM添加、4:SN-38 50μM添加の4群に分けて比較をした。試験は6回試験とし、検定はt検定を用いた。
【0054】
(2)結果
図11にSN-38添加時のCVA11型のウイルス力価の結果を示す。SN-38添加を行ったもので、有意なCVA11型ウイルス量の増加がみとめられた。オキサリプラチンだけでなく、SN-38においてもCVA11型の増殖を促進することが確認された。
【0055】
実施例10 5-FUによるCVA11型の増殖促進作用
(1)方法
CVA11型の調製及びMOIの算出は、実施例1(1)(a)及び(b)と同様の方法で行った。
培養したオキサリプラチン抵抗性大腸癌細胞株(WiDr)を3×106cells/mLになるようにDMEM培地に懸濁した。96穴のプレートの各ウェルに、得られた細胞懸濁液を100μLずつ分注し、3×105cells/ウェルとなるように播種した。37℃、5%CO2下にプレートを約8時間静置した後、5-FUを最終濃度が0(不添加)、50μMとなるように添加した。その後、37℃、5%CO2下にプレートを約12時間静置した後、CVA11型をMOI=0.01となるように添加した。37℃、5%CO2下にプレートを約30時間静置した後、実施例1(1)(b)に記載の方法でウイルスの感染力価を測定した。1:5-FU不添加、2:5-FU 50μM添加の2群に分けて比較をした。試験は6回試験とし、検定はt検定を用いた。
【0056】
(2)結果
図12に5-FU添加時のCVA11型のウイルス力価の結果を示す。5-FU添加を行ったもので、有意なCVA11型ウイルス量の増加がみとめられた。オキサリプラチン、SN-38だけでなく、5-FUにおいてもCVA11型の増殖を促進することが確認された。
【0057】
実施例11 脳腫瘍細胞株U-87を使用した際のオキサリプラチンとCVA11型の併用による抗腫瘍効果
(1)方法
(a)CVA11型の調製
CVA11型の調製は、実施例1(1)(a)と同様の方法で行った。
(b)MOIの算出
MOIの算出は、オキサリプラチン抵抗性大腸癌細胞株(WiDr)の代わりに脳腫瘍細胞株U-87を使用したこと以外は実施例1(1)(b)と同様の方法で行った。
(c)CVA11型のクリスタルバイオレット法を用いた抗腫瘍効果の検討
クリスタルバイオレット法により、脳腫瘍細胞株U-87を使用した際のCVA11型及びオキサリプラチンの併用による抗腫瘍効果(細胞傷害性)を評価した。
脳腫瘍細胞株U-87を72時間後にコンフルエントになる密度(3×10 cells/ウェル)で24穴のプレートに播種した。その後、オキサリプラチンを0(不添加)又は50μM添加した。感染力価がMOI=0.001になるように、OPTI-MEM IでCVA11型を希釈し、CVA11型の希釈液を調製した。約6時間後、プレートから培地を除去し、CVA11型の希釈液を各ウェルに200μL添加し、37℃、5%CO2下にプレートを1時間維持した。次に、CVA11型の希釈液を除去し、各細胞用培地を各ウェルに1mL加え、72時間培養した。72時間後、リン酸緩衝食塩水(PBS)で緩やかに洗浄し、0.5%グルタルアルデヒド含有PBSを各ウェルに300μL添加した後、15分間室温に静置することで生存接着細胞を固定した。その後、グルタルアルデヒド含有PBSを除去し、PBSで洗浄後、2%エタノール及び0.1%クリスタルバイオレットを含有する滅菌水を、各ウェルに300μL添加し、室温で10分間静置することで生細胞を染色した。染色後のプレートの各ウェルを滅菌水500μLで2回洗浄し、スキャナを用いて染色を記録することで、抗腫瘍効果を確認した。
【0058】
(2)結果
図13にクリスタルバイオレット法の結果を示す。CVA11型のみにおいても抗腫瘍効果が確認されたが、オキサリプラチン50μMとの併用で抗腫瘍効果の増強が確認された。これにより大腸癌以外の癌種である脳腫瘍に対しても当該抗腫瘍療法が効果的であることが示された。
【0059】
比較例1 CVA11型とオキサリプラチン又はシスプラチン併用時における抗腫瘍効果の比較
(1)方法
(a)CVA11型の調製及びMOIの算出
CVA11型の調製及びMOIの算出は、実施例1(1)(a)及び(b)と同様の方法で行った。
【0060】
(c)クリスタルバイオレット法を用いた抗腫瘍効果の比較
CVA11型の感染力価(MOI)を0(不添加)、0.001、0.01、0.1とし、オキサリプラチン又はシスプラチンの添加量を0μM(不添加)、0.5μM、1μM、5μMとした。それ以外は、実施例1(1)(c)と同様の方法で行った。
【0061】
(2)結果
図14(a)にオキサリプラチン添加時、図14(b)にシスプラチン添加時のクリスタルバイオレット法の結果を示す。CVA11型とオキサリプラチンの併用は、CVA11型とシスプラチンの併用と比較して、強い抗腫瘍効果を示した。この結果より、腫瘍溶解性ウイルスであるCVA11型とオキサリプラチンの組み合わせは、既報(国際公開第2013-157648号)のCVA11型とシスプラチンとの組み合わせと比較して特に有用であることが示された。
【0062】
比較例2 シスプラチンによるCVB3型の増殖促進作用
(1)方法
オキサリプラチンの代わりにシスプラチンを使用した以外は、実施例7と同様の方法で行った。1:シスプラチン不添加、2:シスプラチン 0.5μM添加、3:シスプラチン 1.0μM添加の3群に分けて比較をした。
【0063】
(2)結果
図15にCVB3型のウイルス力価の結果を示す。オキサリプラチンを添加した場合(図9)と異なり、シスプラチンを添加してもCVB3型ウイルス量の増加はみとめられなかった。この結果より、オキサリプラチンはシスプラチンと比較して、腫瘍溶解性ウイルスとの併用において有用であることが示された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【配列表】
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