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特許7114575RAF阻害剤及びERK阻害剤を含む治療用組合せ
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  • 特許-RAF阻害剤及びERK阻害剤を含む治療用組合せ 図1A
  • 特許-RAF阻害剤及びERK阻害剤を含む治療用組合せ 図1B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-29
(45)【発行日】2022-08-08
(54)【発明の名称】RAF阻害剤及びERK阻害剤を含む治療用組合せ
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/5377 20060101AFI20220801BHJP
   A61K 31/4965 20060101ALI20220801BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220801BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20220801BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220801BHJP
【FI】
A61K31/5377 ZMD
A61K31/4965
A61P35/00
A61P35/04
A61P43/00 121
A61P43/00 111
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019515203
(86)(22)【出願日】2017-09-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-11-07
(86)【国際出願番号】 IB2017055641
(87)【国際公開番号】W WO2018051306
(87)【国際公開日】2018-03-22
【審査請求日】2020-09-14
(31)【優先権主張番号】62/396,504
(32)【優先日】2016-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504389991
【氏名又は名称】ノバルティス アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100186897
【弁理士】
【氏名又は名称】平川 さやか
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】カポニーロ,ジョルダーノ
(72)【発明者】
【氏名】メイヤー,マシュー ジョン
(72)【発明者】
【氏名】クック,ヴェセリーナ
(72)【発明者】
【氏名】スチュアート,ダリン
【審査官】六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-517417(JP,A)
【文献】国際公開第2015/066188(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/115376(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/151616(WO,A1)
【文献】Expert Opin. Pharmacother.,15(5),2014年,pp.589-592
【文献】Nature Reviews Drug Discovery,13,2014年,pp.928-942
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/33-33/44
A61P 35/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)化合物A:
【化1】


であるCRAF阻害剤又はその医薬的に許容される塩を含有し、
(ii)化合物B:
【化2】


であるERK阻害剤又はその医薬的に許容される塩と組み合わせて使用するための、医薬組成物。
【請求項2】
1つ以上のマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)の変化を有する固形腫瘍である増殖性疾患の治療に使用するための、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記増殖性疾患は、KRAS変異型NSCLC(非小細胞肺がん)、BRAF変異型NSCLC、KRAS変異型膵臓がん、KRAS変異型大腸がん(CRC)、及びKRAS変異型卵巣がんからなる群から選択される、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記増殖性疾患は、RAF変異であるV600E、V600D、及びG464E、並びにRAS変異であるA146T、Q61L、Q61K、G12D、G12C、G13D、G12V、及びG12Rからなる群から選択される少なくとも1つの変異を発現するがん又は腫瘍である、請求項2または3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記CRAF阻害剤またはその医薬的に許容される塩は、1日量を約100mg、又は約150mg、又は約200mg、又は約250mgとして投与される、請求項2~4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記ERK阻害剤又はその医薬的に許容される塩は、用量を1日当たり約50mg、又は1日当たり約75mg、又は1日当たり約100mgとして投与される、請求項2~5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
(i)化合物Aは1日量を100mgとして投与され、且つ化合物Bは用量を100mgとして投与され、又は
(ii)化合物Aは1日量を200mgとして投与され、且つ化合物Bは用量を100mgとして投与される、請求項2~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
化合物A:
【化3】


であるCRAF阻害剤又はその医薬的に許容される塩を含む、KRAS変異型NSCLC(非小細胞肺がん)、BRAF変異型NSCLC、KRAS変異型膵臓がん、KRAS変異型大腸がん(CRC)、及びKRAS変異型卵巣がんからなる群から選択される増殖性疾患の治療に使用するための医薬組成物であって、化合物B:









【化4】


であるERK阻害剤又はその医薬的に許容される塩と組み合わせて使用するための、医薬組成物。
【請求項9】
前記増殖性疾患は、RAF変異であるV600E、V600D、及びG464E、並びにRAS変異であるA146T、Q61L、Q61K、G12D、G12C、G13D、G12V、及びG12Rからなる群から選択される少なくとも1つの変異を発現するがんである、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
化合物B:
【化5】


であるERK阻害剤又はその医薬的に許容される塩を含む、KRAS変異型NSCLC(非小細胞肺がん)、BRAF変異型NSCLC、KRAS変異型膵臓がん、KRAS変異型大腸がん(CRC)、及びKRAS変異型卵巣がんからなる群から選択される増殖性疾患の治療に使用するための医薬組成物であって、化合物A:
【化6】


であるCRAF阻害剤又はその医薬的に許容される塩と組み合わせて使用するための、医薬組成物。
【請求項11】
前記増殖性疾患は、RAF変異であるV600E、V600D、及びG464E、並びにRAS変異であるA146T、Q61L、Q61K、G12D、G12C、G13D、G12V、及びG12Rからなる群から選択される少なくとも1つの変異を発現するがんである、請求項10に記載の医薬組成物
【請求項12】
(a)請求項1に記載のCRAF阻害剤又はその医薬的に許容される塩の1種又は複数種の投与単位と、(b)請求項1に記載のERK阻害剤又はその医薬的に許容される塩の1種又は複数種の投与単位と、少なくとも1種の医薬的に許容される担体と、を含む、組合せ製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、KRAS変異型腫瘍、特に、KRAS変異型NSCLC(非小細胞肺がん)、黒色腫、膵臓がん、大腸がん、及び卵巣がん等のマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)が変化(alteration)している切除不能な(advanced)固形がんであるがんを治療するためのRAF阻害剤、特にc-RAF(C-RAF又はCRAF)の阻害剤の使用に関する。特に本発明は、少なくとも1種のRAF阻害剤を使用するがんを治療するための治療用組合せに関する。
【0002】
本発明はまた、がん、特にKRAS変異、とりわけKRASの機能獲得型変異を有する、肺がん(特にNSCLC)、黒色腫、膵臓がん、及び卵巣がんを含むがんを治療するためのERK阻害剤(ERKi)の使用にも関する。
【0003】
更に本発明は、(a)少なくとも1種のERK阻害剤(ERKi)と、(b)RAF阻害剤、好ましくは、b-Rafも阻害し得るc-RAF(CRAF)阻害剤であるRAF阻害剤と、を含む組合せ医薬であって、この2種の化合物は、増殖性疾患の治療用として、同時に、別々に、若しくは順次投与するために調製及び/又は使用される、組合せ医薬、並びにこの種の組合せを含む医薬組成物;増殖性疾患を有する対象を治療する方法であって、それを必要とする対象に上記組合せを投与することを含む、方法;この種の組合せの、増殖性疾患を治療するための使用;この種の組合せを含む商業用パッケージ;にも関する。本発明における上記増殖性疾患は、多くの場合、KRAS変異型腫瘍等のマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)が変化している固形腫瘍、特に、KRAS変異型NSCLC(非小細胞肺がん)、黒色腫、膵臓がん、大腸がん、及び卵巣がんである。通常、CRAF阻害剤及びERK阻害剤はいずれも低分子量化合物であり、特に本発明は、本明細書に記載する通りに使用するための化合物A及び化合物Bの組合せに関する。
【0004】
特に、化合物A又はその医薬的に許容される塩と、化合物B又はその医薬的に許容される塩とを含む組合せ医薬が提供される。この組合せ医薬は、切除不能な又は遠隔転移を有する(metastatic)KRAS又はBRAF変異型NSCLC等のKRAS又はBRAF変異型NSCLCの治療に特に有用な可能性がある。
【背景技術】
【0005】
RAS/RAF/MEK/ERK即ちMAPK経路は、細胞増殖、分化、及び生存を駆動する重要なシグナル伝達経路である。腫瘍発生の多くはこの経路の調節不全が原因となって起こる。黒色腫、肺がん、及び膵臓がんを含む複数の種類の腫瘍にこのMAPK経路のシグナル伝達異常又は不適切な活性化が認められており、これらは、RAS及びBRAFの活性化型変異を含む幾つかの異なる機序を介して発生し得る。RASはGTPアーゼのスーパーファミリーである。RASにはKRAS(v-Ki-ras2カーステン・ラット肉腫ウイルスがん遺伝子ホモログ)が含まれ、これは機能獲得型変異として知られる様々な点突然変異によってスイッチがオンの状態になり(活性化され)得るシグナル伝達タンパク質である。MAPK経路はヒトがんにおける変異頻度が高く、その中でもKRAS変異及びBRAF変異が最も高頻度に認められる(およそ30%)。RAS変異、特に機能獲得型変異はがん全体の9~30%で検出されており、KRAS変異が最も頻度が高く(86%)、NRAS(11%)及び低頻度のHRAS(3%)がそれに続く(Cox AD,Fesik SW,Kimmelman AC,et al(2014),Nat Rev Drug Discov.Nov;13(11):828-51.)。BRAF変異型腫瘍には、選択的BRAF阻害剤(BRAFi)及びそれよりも効果は低いもののMEK阻害剤(MEKi)も良好な活性を示すが、現時点においてKRAS変異型腫瘍に対する有効な治療法は存在しない(Cantwell-Dorris ER,O’Leary JJ,Sheils OM(2011)Mol Cancer Ther.Mar;10(3):385-94.)。
【0006】
CRAFが、KRASシグナル伝達の媒介及びKRAS変異型非小細胞肺がん(NSCLC)の発生に関与しているという新たな証拠に基づけば、CRAFは治療的介入の標的として好適である(Blasco RB,Francoz S,Santamaria D,et al(2011) c-Raf,but not B-Raf,is essential for development of K-Ras oncogene-driven non-small cell lung carcinoma.Cancer Cell.2011 May 17;19(5):652-63)。CRAFは、KRAS変異型がんをMEKiで治療した後に、フィードバックを介した経路の再活性化を促進することが示されている(Lito P,Saborowski A,Yue J,et al(2014) Disruption of CRAF-Mediated MEK Activation Is Required for Effective MEK Inhibition in KRAS Mutant Tumors.Cancer Cell 25,697-710.,Lamba et al 2014)。更にCRAFは、BRAFi治療後に起こる逆説的な活性化の媒介に必須の役割を果たす(Poulikakos PI,Zhang C,Bollag G,et al.(2010),Nature.Mar 18;464(7287):427-30.,Hatzivassiliou et al 2010,Heidorn et al 2010)。したがって、CRAF及びBRAFの活性を強力に阻害する選択的pan-RAF阻害剤は、BRAF変異型腫瘍及びRAS変異体により駆動される腫瘍化の阻止に有効な可能性があり、また、フィードバックの活性化も軽減することができる。本明細書に記載する化合物Aは、CRAF及びBRAFの両方の強力な阻害剤である。
【0007】
肺がんは全世界の男女に発症している一般的な種類のがんである。NSCLCは最も一般的な種類(約85%)の肺がんであり、その患者のおよそ70%が診断時に病期が進行(ステージIIIB又はステージIV)している。NSCLC腫瘍の約30%に活性化型KRAS変異が認められており、この変異はEGFRチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)に対する耐性に関与している(Pao W,Wang TY,Riely GJ,et al(2005) PLoS Med;2(1):e17)。活性化型KRAS変異は、黒色腫(British J.Cancer 112,217-26(2015))、膵臓がん(Gastroenterology vol.144(6),1220-29(2013))、及び卵巣がん(British J.Cancer 99(12),2020-28(2008))にも認められている。BRAF変異は最大3%のNSCLCにも観察されており、EGFR変異陽性NSCLCにおける耐性獲得機序に関与することも述べられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
KRASの直接阻害は困難であることが証明されている。現時点において、NSCLCのようなKRAS変異型がんの患者に利用することができる承認された標的療法は存在しない。したがって、KRAS変異型NSCLCに罹患している患者及びBRAF変異型NSCLCに罹患している患者のための非常に満たされていない医学的ニーズが存在する。安全且つ/又は十分な忍容性を示す標的療法が求められている。臨床環境において奏効期間が長期に亘る(durable and sustained response)治療法も有益であろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明はまた、(a)化合物A:
【化1】


であるCRAF阻害剤又はその医薬的に許容される塩と、
(b)化合物B:
【化2】

であるERK阻害剤又はその医薬的に許容される塩と、を含む組合せ医薬を提供する。本明細書においては、この組合せを「本発明の組合せ」と称する。
【0010】
更に本発明は、増殖性疾患の治療に使用するために同時に、別々に、又は順次(任意の順序で)投与するための、本明細書に記載する、化合物Aであるc-Rafキナーゼ阻害剤又はその医薬的に許容される塩と、化合物BであるERK阻害剤又はその医薬的に許容される塩と、を含む組合せ医薬を提供する。特に本発明は、MAPK経路の活性化型変異、特にKRAS又はBRAFの1つ又は複数の突然変異を特徴とする増殖性疾患の治療に使用するための本発明の組合せに関する。特に本発明は、KRAS変異型NSCLC(非小細胞肺がん)、BRAF変異型NSCLC、KRAS変異型膵臓がん、KRAS変異型大腸がん(CRC)、及びKRAS変異型卵巣がんの治療に関する。
【0011】
化合物Aは、BRAF(本明細書においてはb-RAF又はb-Rafとも称する)及びCRAF(本明細書においてはc-RAF又はc-Rafとも称する)プロテインキナーゼのアデノシン三リン酸(ATP)競合阻害剤である。本開示全体を通して、化合物Aをc-RAF(又はCRAF)阻害剤又はC-RAF/c-Rafキナーゼ阻害剤とも称する。
【0012】
化合物Aは、N-(3-(2-(2-ヒドロキシエトキシ)-6-モルホリノピリジン-4-イル)-4-メチルフェニル)-2-(トリフルオロメチル)イソニコチンアミドであり、次に示す構造を有する化合物である。
【化3】
【0013】
化合物Aは、細胞ベースのアッセイにおいて、MAPKシグナル伝達を活性化する種々の突然変異を含む細胞株に対する増殖抑制効果が示されている。in vivoにおいては、NSCLC由来のCalu-6(KRAS Q61K)及びNCI-H358(KRAS G12C)を含む幾つかのKRAS変異モデルを化合物Aで処理することにより腫瘍が退縮することが認められている。総括すると、in vitro及びin vivoにおいて、十分に忍容される用量の化合物Aに関しMAPK経路抑制及び増殖抑制作用が観察されたことは、化合物Aが、MAPK経路に活性化型の障害(lesion)を有する腫瘍を持つ患者において抗腫瘍作用を発揮し得ることを示唆している。更に化合物Aは、キナーゼポケットの立体構造を不活性型に保ち、それによって多くのB-Raf阻害剤に認められる逆説的活性化を低減し、突然変異したRASにより駆動されるシグナル伝達を遮断し、細胞増殖を阻止する、B-Raf及びC-Rafの両方のType II ATP競合阻害剤である。化合物Aは、MAPKを介して活性化される数多くのヒトがん細胞株、並びにKRAS、NRAS、及びBRAFがん遺伝子に障害を持つヒト腫瘍を異種移植したモデルにおいて有効性が示されている。
【0014】
化合物Bは、細胞外シグナル制御キナーゼ1及び2(ERK1/2)の阻害剤である。化合物Bは、4-(3-アミノ-6-((1S,3S,4S)-3-フルオロ-4-ヒドロキシシクロヘキシル)ピラジン-2-イル)-N-((S)-1-(3-ブロモ-5-フルオロフェニル)-2-(メチルアミノ)エチル)-2-フルオロベンズアミドの名称で知られる、次に示す構造を有する化合物である。
【化4】
【0015】
化合物Bは、種々の固形腫瘍モデルにおいて単剤療法で活性が示されており、特に、第2の抗がん治療剤と組み合わせて使用した場合に有効であった。例えば、特に治療困難ながんである膵管腺がん(PDAC)(Cancers(Basel),vol.8(4),45(April 2016)によれば、PDACの5年生存率は7%)のモデルで、化合物Bを幾つかの異なる抗がん剤と組み合わせると顕著な腫瘍縮小が認められ、特定の成分の組合せが、単剤の活性に基づき予測されるよりも効果が高かった。特に、ヒトNSCLCであるCalu-6の異種移植モデルにおいては、化合物Bに化合物Aを組み合わせると、いずれかの単剤療法と比較して奏効の深さ及び奏効期間が向上した。
【0016】
したがって、化合物A等のpan-RAF阻害剤と化合物B等のERK1/2キナーゼ阻害剤とを組み合わせてMAPK(マイトジェン活性化プロテインキナーゼ)を垂直方向に阻害することにより、KRAS及びBRAF変異型NSCLCにおけるMAPKシグナル伝達の抑制が最適化されることが期待される。この組合せはまた、BRAFV600E変異型NSCLCにおけるBRAF阻害剤及びMEK(マイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼ)阻害剤の組合せに対する耐性出現の防止にも役立つ可能性がある。
【0017】
したがって本発明は、固形腫瘍、特にNSCLC、その中でも特にKRAS変異型NSCLCを含む、KRAS変異を発現する腫瘍に加えて、BRAF V600E変異型NSCLCを含むBRAF変異型NSCLを治療するための、化合物BをRAF阻害剤、特に化合物Aと組み合わせて使用する組成物及び方法を提供する。
【0018】
本明細書においては、(a)化合物A等のc-RAF阻害剤又はその医薬的に許容される塩と、(b)化合物B等のERK阻害剤又はその医薬的に許容される塩と、を含む組合せ医薬であって、増殖性疾患、特に、KRAS変異型腫瘍及び特定のBRAF変異型腫瘍等のマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)が変化している固形腫瘍を治療するために、同時に、別々に、又は順次投与するための組合せ医薬を開示する。そのようなものとして、KRAS変異型NSCLC(非小細胞肺がん)、BRAF変異型NSCLC(非小細胞肺がん)、KRAS変異及びBRAF変異型NSCLC(KRAS-mutant and BRAF mutant NSCLC)(非小細胞肺がん)、KRAS変異型膵臓がん、KRAS変異型大腸がん(CRC)、並びにKRAS変異型卵巣がんが挙げられる。本発明はまた、再発性又は難治性のBRAF V 600変異型黒色腫を含むBRAF V 600変異型黒色腫の治療に使用するための本発明の組合せ医薬も提供する。この種の組合せを含む医薬組成物;それを必要とする対象にこの種の組合せを投与することを含む、増殖性疾患を有する対象を治療する方法;増殖性疾患を治療するためのこの種の組合せの使用;及びこの種の組合せを含む商品パッケージも開示する。本発明の他の特徴、目的、及び利点は、明細書、及び図面、及び特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1A】マウスのCalu-6 NSCLC異種移植腫瘍モデルに化合物A及び化合物Bを別々に及び一緒に使用した場合の有効性を示すものである。ここに示すように、化合物を1日1回(qd)又は隔日(q2d)のいずれかで経口投与した。
図1B図1Aに示した治療の奏効期間を示すものであり、組合せ治療がどちらの単剤治療よりも優れていることを示すものである。
図1C図1Aの治療の忍容性を経時的な体重変化により示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の組合せ医薬は、化合物A又はその医薬的に許容される塩と、化合物B又はその医薬的に許容される塩との組合せ医薬である。好ましい実施形態においては、KRAS変異型NSCLC(非小細胞肺がん)、BRAF変異型NSCLC(BRAFBRAFV600E変異型NSCLCを含む)、KRAS変異型膵臓がん、KRAS変異型大腸がん(CRC)、及びKRAS変異型卵巣がんから選択される増殖性疾患の治療に使用するための本発明の組合せ医薬を提供する。本発明の組合せ医薬の利益を受ける可能性が高い患者には、切除不能な又は遠隔転移を認める疾患の患者、例えば、標準的な治療を受けた後に増悪した可能性がある、切除不能な又は遠隔転移を認めるKRAS又はBRAF変異型NSCLCと診断されたNSCLC患者が含まれる。
【0021】
CRAFキナーゼ阻害剤
本発明のCRAFキナーゼ阻害剤は化合物Aを含む。化合物Aは、国際公開第2014/151616号パンフレットに実施例1156として開示されている。国際公開第2014/151616号パンフレットには、その製造方法及び化合物Aを含む医薬組成物も記載されている。
【0022】
本明細書に記載する方法、治療、組合せ、及び組成物の好ましい実施形態において、CRAF阻害剤は、化合物A又はその医薬的に許容される塩である。
【0023】
化合物Aは次に示す構造を有する。
【化5】
【0024】
化合物A(化合物A)は、N-(3-(2-(2-ヒドロキシエトキシ)-6-モルホリノピリジン-4-イル)-4-メチルフェニル)-2-(トリフルオロメチル)イソニコチンアミドの名称でも知られる。
【0025】
細胞ベースのアッセイにおいて、化合物Aは、MAPKシグナル伝達を活性化する種々の突然変異を含む細胞株において増殖抑制作用を示した。in vivoでは、NSCLC由来のCalu-6(KRAS Q61K)及びNCI-H358(KRAS G12C)を含む幾つかのKRAS変異モデルを化合物Aで処理することにより腫瘍が退縮した。総括すると、in vitro 及びin vivoにおいて、十分に忍容される用量の化合物Aに関しMAPK経路抑制及び増殖抑制作用が観察されたことは、化合物Aが、MAPK経路に活性化型の障害を有する腫瘍を持つ患者に対し抗腫瘍作用を発揮し得ることを示唆している。更に化合物Aは、キナーゼポケットの立体構造を不活性型に保ち、それによって多くのB-Raf阻害剤に認められる逆説的活性化を低減し、突然変異したRASにより駆動されるシグナル伝達を遮断し、細胞増殖を阻止する、B-Raf及びC-Rafの両方のType II ATP競合阻害剤である。化合物Aは、MAPKを介して活性化される数多くのヒトがん細胞株、並びにKRAS、NRAS、及びBRAFがん遺伝子に障害を持つヒト腫瘍を異種移植したモデルにおいて有効性が示されている。
【0026】
化合物Aの作用機序、前臨床データ、及びMAPK経路の調節におけるCRAFの重要性に関し公開されている文献に基づけば、化合物Aは、化合物B等の他の少なくとも1種のMAPK経路阻害剤と併用すると、MAPK経路が変化している切除不能な固形がんを有する患者の治療に有用となり得る。化合物Aは、この種の治療を必要としている対象における、KRAS変異型腫瘍等のマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)が変化している切除不能な固形がんである増殖性疾患、特に、肺がん、NSCLC(非小細胞肺がん)、卵巣がん、膵臓がん、大腸がん、又は黒色腫等の、RAS又はRAFの少なくとも1つの機能獲得型変異を発現している腫瘍の治療(例えば、進行の緩和、阻止、又は遅延のうちの1つ又は複数)に使用することができる。
【0027】
ERK阻害剤
本発明に使用される本明細書におけるERKi化合物は、通常、遊離形態にあるか又は医薬的に許容される塩としてのいずれかの化合物Bである。
【0028】
化合物Bは、細胞外シグナル制御キナーゼ1及び2(ERK1/2)の阻害剤である。この化合物は開示されており、その調製及びこの化合物を含む医薬組成物は、PCT公開出願である国際公開第2015/066188号パンフレットに記載されている。化合物Bは次に示す構造を有する。
【化6】
【0029】
幾つかの実施形態においては、化合物Bの塩酸塩が使用される。
【0030】
治療用途
一実施形態において、本発明は、対象における疾患、例えば、過剰増殖状態又は過剰増殖性疾患(例えば、がん)を治療(例えば、阻害、緩和、改善、又は予防)する方法を特徴とする。この方法は、ERK阻害剤をc-RAF阻害剤と組み合わせて対象に投与することを含み、特定の実施形態においては、c-RAF阻害剤は化合物Aであり、ERK阻害剤は化合物Bである。この種の方法においてこれらの化合物を使用するための適切な投与量及び投与スケジュールを本明細書に記載する。
【0031】
幾つかの実施形態において、増殖性疾患は、本明細書に記載する少なくとも1種のKRASの機能獲得型変異を発現する腫瘍等のKRAS変異型腫瘍、特に、NSCLC(非小細胞肺がん)等のKRAS変異型がんである。そのようなものとして、V600E等のBRAF変異を有する腫瘍、例えば、少なくとも1つのV600E又は典型的若しくは非典型的な他のBRAF変異を有するNSCLCが挙げられる。本明細書に開示する方法、治療、及び組合せに使用するためのCRAF阻害剤は、少なくとも1種のCRAFの阻害剤であり、且つ任意選択でBRAFの強力な阻害剤でもある。幾つかの実施形態において、CRAF阻害剤又はその医薬的に許容される塩は経口投与される。幾つかの実施形態において、CRAF阻害剤は化合物A又はその医薬的に許容される塩である。
【0032】
本明細書において、投与量を「約」を付記した特定量として記載する場合、実際の投与量は、記載した量に対し最大10%、例えば5%まで変化し得る。この「約」の用法は、所与の剤形に含まれる正確な量は、様々な理由から、投与される化合物のin vivo効果に実質的に影響を与えることなく、意図された量とは僅かに異なる可能性があることを認めるものである。当業者は、治療用化合物の用量又は投与量が本明細書に引用されている場合、その量はその治療用化合物の遊離形態の量を指すことを理解するであろう。
【0033】
CRAF阻害剤の単位投与量は、患者の年齢、体重、性別;治療すべきがんの範囲及び重症度;並びに治療医の判断等の基準により決定される実際の投与量及び投与タイミングで、1日1回、又は1日2回、又は1日3回、又は1日4回投与することができる。
【0034】
一実施態様において、化合物Aは経口投与用として調製され、100mg、150mg、200mg、250mg、300mg、又は400mgの用量で経口投与され、送達は1日4回までである。100mgを1日1回又は2回という用量は、アロメトリックスケール則に基づき、動物の対応する血中濃度から、ヒト対象でヒトに有効となり得る血中濃度が得られるように予測したものである。依然として十分な治療指数をもたらしながらより高い効力を達成するためには、200mgの用量を1日4回まで投与することができる。幾つかの実施形態において、化合物Aは、1日1回100mg、200mg、250mg、300mg、又は400mgの用量で投与される。前臨床モデルのアロメトリックスケーリングは、化合物Aの1日量を300mg以上とすると(これは1日1回、又は2、3、若しくは4分割した用量を1日間で投与することができる)、単剤としては、KRAS変異を含むか又は発現する固形腫瘍を含む多くの適応症において治療効果が得られるはずであることを示唆している。
【0035】
本発明の組合せにおいて、これらの対象における化合物Aの治療投与量はより低くなることが期待され、したがって、併用療法においては、通常、この種の対象には化合物Aの1日量を100mg、200mg、250mg、又は300mgとして使用する。好適には、本発明の組合せ及び方法において、化合物Aは、100mg、又は200mg、又は250mg、又は300mgの投与量で1日1回投与される。
【0036】
一実施形態において、化合物Bは、経口送達により投与するために調製され、その塩酸塩として使用することができる。幾つかの実施形態において、化合物又はそのHCl塩は、経口投与用硬質又は軟質ゲルカプセル等の医薬的に許容される容器で単純にカプセル化される。ゲルカプセルは投与に自由度を持たせられるように様々な投与量で製造することができ、例えば、ゲルカプセルは、化合物B又はそのHCl塩を約5mg、約20mg、約50mg、又は約100mg含むように調製することができる。
【0037】
本明細書の組合せ及び本明細書に記載する治療用途において、化合物A又はその医薬的に許容される塩は、1日量を約100mg、又は約150mg、又は約200mg、又は約250mgとして、1日量を約50mg、又は約75mg、又は約100mg、又は約150mg、又は約200mgとして投与することができる化合物B又はその医薬的に許容される塩と組み合わせて投与することができる。例えば、化合物A又はその医薬的に許容される塩は、総用量が約100mgの化合物Aを毎日と、総用量が約100mgの化合物B又はその医薬的に許容される塩を毎日と、を投与することができ、この用量は、好ましくは1日1回投与される。それを必要とする患者には、総用量が約200mgの化合物A又はその医薬的に許容される塩を毎日と、総用量が約100mgの化合物B又はその医薬的に許容される塩を毎日と、を投与することができ、この用量は、好ましくは1日1回投与される。
【0038】
化合物A及び化合物Bは本明細書に開示した方法に従い一緒に使用することができる。本発明の治療は、治療医が適切と看做し、更に、好適な投与量及び投与頻度を決定するための本明細書に記載する方法を用いて導かれた場合、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、1週間、2週間、3週間、4週間、又は4週間を超えて継続できることが想定されているので、この2種の化合物は一緒に投与することもできるし、意図された投与量及び投与頻度に応じて任意の順序で別々に投与することもできる。本明細書に開示する方法及び使用において、化合物A及び/又は化合物Bは少なくとも5日間連続して毎日投与することができる。
【0039】
他の態様において、本発明は、過剰増殖(例えば、がん)細胞の活性(例えば、増殖、生着(survival)、若しくは生存能(viability)、又は全て)を低下させる方法を特徴とする。他の態様において、本発明は、固形腫瘍を治療するための方法及び化合物Bを用いた組成物を提供し、これはCRAF阻害剤と別々に、同時に、又は順次投与されるか又は投与するために調製される。MAPK経路における機能獲得型変異を発現する固形腫瘍、例えば、KRAS変異型NSCLC(非小細胞肺がん)、BRAF変異型NSCLC(非小細胞肺がん)、KRAS変異及びBRAF変異型NSCLC(非小細胞肺がん)、KRAS変異型膵臓がん、KRAS変異型大腸がん(CRC)、並びにKRAS変異型卵巣がん、並びにBRAF V600変異型黒色腫の治療に使用するためのCRAF阻害剤も提供され、CRAF阻害剤は、化合物B等のERK阻害剤と別々に、同時に、若しくは順次投与されるか又は投与するために調製される。通常、化合物Bは経口投与され、同じく経口投与されることの多いCRAF阻害剤と、別々に、同時に、若しくは順次投与される。好適な方法、これらの方法及び組成物に使用するための化合物A及び化合物Bの投与経路、投与量、及び投与頻度を本明細書に記載する。
【0040】
他の態様において、本発明は、KRAS変異型NSCLC(非小細胞肺がん)の治療に使用するため、及びBRAF変異型NSCLCの治療に使用するための、ERK1/2阻害剤を提供し、このERK1/2阻害剤は、CRAF阻害剤と別々に、同時に、若しくは順次投与されるか又は投与するために調製される。本発明は、KRAS変異型NSCLC(非小細胞肺がん)の治療に使用するため及びBRAF変異型NSCLCの治療に使用するためのCRAF阻害剤も提供し、このCRAF阻害剤は、ERK1/2阻害剤と別々に、同時に、若しくは順次投与されるか又は投与するために調製される。通常、ERK1/2阻害剤は経口投与され、同じく経口投与することができるCRAF阻害剤と別々に又は順次投与することができる。CRAF阻害剤及びERK1/2阻害剤に好適な方法、経路、投与量、及び投与頻度を本明細書に記載する。幾つかの実施形態において、CRAF阻害剤は化合物Aであり、幾つかの実施形態において、ERK1/2阻害剤は化合物Bである。
【0041】
本明細書に開示する組合せは、単一組成物中で一緒に投与することもできるし、又は2種以上の異なる組成物中で別々に、例えば本明細書に記載する組成物又は剤形で投与することもできる。本明細書に記載する組合せ医薬、特に本発明の組合せ医薬は、自由に組み合わせられる製品(free combination product)、即ち、2種以上の別個の剤形として同時に、別々に、又は順次投与される2種以上の活性成分、例えば化合物A及び化合物Bの組合せとすることができる。治療剤の投与は任意の順序で行うことができる。第1の薬剤及び追加の薬剤(例えば、第2、第3の薬剤)は、同じ投与経路又は異なる投与経路を介して投与することができる。
【0042】
他の態様において、本発明は、化合物A及び化合物Bを含み、少なくとも1種の、任意選択で2種以上の、医薬的に許容される賦形剤又は担体も任意選択で含む、組成物を特徴とする。この種の組成物は、固形腫瘍、典型的にはKRAS変異又はRAF変異を発現する固形腫瘍を治療するために使用され、多くの場合、NSCLC、特に少なくとも1種のKRAS変異、特に本明細書に記載するものなどの機能獲得型変異を発現するNSCLCを有する患者を治療するために使用される。
【0043】
非小細胞肺がん(NSCLC)
肺がんは前世界の男女に発症する一般的な種類のがんである。非小細胞がん(NSCLC)は最も一般的な種類(約85%)の肺がんであり、その患者のおよそ70%が診断時に病期が進行(ステージIIIB又はステージIV)している。肺がんは一般に喫煙と関連があるが、非喫煙者も肺がん、特にNSCLCに罹患する。喫煙との関連性が高いことから、非喫煙者は診断が遅れることが多いが、肺がん患者の10~15%は喫煙経験がない。NSCLCの約30%が活性化型KRAS変異を含み、これらの変異はEGFR TKIに対する耐性に関与している(Pao W,Wang TY,Riely GJ,et al(2005) PLoS Med;2(1):e17)。
【0044】
現在開発中の免疫療法は、従来の治療では効果がなかった患者を含め、肺がん患者に高い有益性をもたらし始めている。最近になって、PD-1/PD-L1相互作用を阻害する2種の阻害剤であるペンブロリズマブ(Pembrolizumab)(キイトルーダ(Keytruda)(登録商標))及びニボルマブ(Nivolumab)(オプジーボ(Opdivo)(登録商標))のNSCLCに対する使用が承認された。ところがその結果から、PD-1阻害剤単剤で治療した多くの患者において治療が十分な有益性をもたらさないことが示唆されている。
【0045】
KRASの直接阻害は困難であることが証明されており、KRAS変異型NSCLCのがん治療の標的は依然として捕えられないままである。現時点において、KRAS又はBRAF変異型NSCLCの患者に使用することができる標的治療は承認されていない。
【0046】
BRAF変異は3%以下のNSCLCで観察されており、EGFR変異陽性NSCLCにおける耐性獲得機序としても説明されている(Paik PK,Arcila ME,Fara M,et al(2011).J Clin Oncol.May 20;29(15):2046-51)。
【0047】
卵巣がん
卵巣がんは婦人科がんの中で最も致死率の高いがんであり、多様な予後を示す異なる組織型及び分子型のサブタイプからなる多様性の大きい疾患である。上皮型は卵巣がんの90%を占める。
【0048】
上皮性卵巣がんの最も一般的な組織型は漿液性がんであり、上皮性卵巣がんの60~70%を占める。2段階異型度分類方式(two tiered grading system)によれば、漿液性がんは、分子型、免疫組織化学的特徴、疫学像、及び臨床像の異なる低悪性度漿液性(LGS)及び高悪性度漿液性(HGS)に分類される。LGSがんは漿液性上皮性卵巣がんの10%以下を占め、KRAS変異(40%以下)又はBRAF変異(2~6%)を有する卵巣がんは主としてLGSがんである。LGSがんは、第1選択薬に対してのみならず、再発症例においても化学療法抵抗性を示す。
【0049】
膵臓がん
本明細書において使用される「膵臓がん」という用語は膵管腺がん(PDAC)を含む。PDACは最も一般的なタイプの膵臓がんである。
【0050】
KRAS変異型がん及びBRAF変異型NSCLC
本発明は、KRAS変異型NSCLCの治療に使用するための、(a)化合物AであるCRAF阻害剤又はその医薬的に許容される塩、及び(b)化合物BであるERK阻害剤又はその医薬的に許容される塩を含む、組合せ医薬を提供する。
【0051】
他の態様において、本発明は、KRAS変異型大腸がん(CRC)の治療に使用するための、(a)化合物AであるCRAF阻害剤又はその医薬的に許容される塩、及び(b)化合物BであるERK阻害剤又はその医薬品的に許容される塩を含む、組合せ医薬を提供する。
【0052】
他の態様において、本発明は、KRAS変異型卵巣がんの治療に使用するための、(a)化合物AであるCRAF阻害剤又はその医薬的に許容される塩、及び(b)化合物BであるERK阻害剤又はその医薬品的に許容される塩を含む、組合せ医薬を提供する。
【0053】
他の態様において、本発明は、KRAS変異型膵臓がんの治療に使用するための、(a)化合物AであるCRAF阻害剤又はその医薬的に許容される塩、及び(b)化合物BであるERK阻害剤又はその医薬品的に許容される塩を含む、組合せ医薬を提供する。
【0054】
他の態様において、本発明は、BRAF変異型NSCLCの治療に使用するための、(a)化合物AであるCRAF阻害剤又はその医薬的に許容される塩、及び(b)化合物BであるERK阻害剤又はその医薬的に許容される塩を含む、組合せ医薬を提供する。
【0055】
「BRAF変異型」腫瘍又はがんという語には、変異したBRAFタンパク質を発現する(exhibit)任意の腫瘍を包含する。B-Raf変異の例としては、これらに限定されるものではないが、V600E及びV600Kが挙げられる。B-Raf変異の殆どは、2つの部位:N-lobeにあるグリシンに富むP-loop並びに活性領域及びその近辺に集中している。V600E変異は様々ながんで検出されており、1799位のヌクレオチドのチミンがアデニンに置き換わったことに起因する。それにより、コドン600のバリン(V)がグルタミン酸(E)に置き換わる(現在はV600Eと呼ばれている)。
【0056】
「KRAS変異型」腫瘍又はがんという語は、変異したKRASタンパク質を発現する、特にKRASの機能獲得型変異、特にG12X、G13X、Q61X、又はA146X KRAS変異(ここでXは、その位置に天然に存在するアミノ酸以外の任意のアミノ酸である)を有する任意の腫瘍を包含する。例えば、G12V変異は、コドン12のグリシンがバリンに置換されていることを意味する。腫瘍のKRAS変異の例としては、Q61K、G12V、G12C、及びA146Tが挙げられる。したがって、KRAS変異型NSCLC、CRC、卵巣がん、及び膵臓がんは、これらに限定されるものではないが、Q61K、G12V、G12C、及びA146T NSCLC、Q61K、G12V、G12C、及びA146T CRC、卵巣がん、又は膵臓がんを含む。例えば、本明細書に開示する併用療法によって治療されるがんとしては、KRASQ61K肺がん、KRASG12D卵巣がん、KRASG12D膵臓がん、及びKRASG12R膵臓がんが挙げられる。
【0057】
「BRAF変異型」腫瘍又はがんという語は、変異したBRAFタンパク質を発現する任意の腫瘍を包含する。B-Raf変異の例としては、これらに限定されるものではないが、V600E及びV600Kが挙げられる。B-Raf変異の殆どは、2つの部位:N-lobeにあるグリシンに富むP-loop並びに活性領域及びその近辺に集中している。V600E変異は様々ながんで検出されており、1799位のヌクレオチドのチミンがアデニンに置き換わったことに起因する。それにより、コドン600のバリン(V)がグルタミン酸(E)に置き換わる(現在はV600Eと呼ばれている)。
【0058】
本明細書に記載する組合せ医薬により治療されるがんは、初期、中期、又は切除不能な状態にあるものとすることができる。
【0059】
併用療法の使用
一態様においては、対象のKRAS変異型腫瘍、特にKRAS変異型NSCLC(非小細胞肺がん)等の、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)に1つ又は複数の変化を有する切除不能な固形がんである増殖性疾患を治療(例えば、進行の緩和、阻止、又は遅延のうちの1つ又は複数)する方法が提供される。この方法は、本明細書に開示する組合せ(例えば、治療有効量のERK1/2阻害剤及び治療有効量の化合物A又はその医薬的に許容される塩を含む組合せ)を対象に投与することを含む。
【0060】
本明細書に記載する組合せは、対象に全身に(例えば、経口、非経口、皮下、静脈内、直腸内、筋肉内、腹腔内、鼻腔内、経皮、又は吸入若しくは腔内注入による)、又は局所的に、又は鼻、喉、若しくは気管支等の粘膜に適用することにより投与することができる。幾つかの実施形態において、これらの組合せ及び方法に使用するためのERK1/2阻害剤は経口投与される。幾つかの実施形態において、本発明の組合せ及び方法に使用するためのCRAF阻害剤は経口投与される。ERK1/2阻害剤及びCRAF阻害剤を組み合わせて使用する場合、両方を経口投与してもよく、治療医が決定した投与スケジュールに従い、一緒に(同時に)又は任意の順序で別々に投与することもできる。適切な用量及び投与スケジュールを本明細書に開示する。
【0061】
更なる併用療法
特定の実施形態において、本明細書に記載する方法及び組成物は、抗体分子、化学療法、他の抗がん治療剤(例えば、標的抗がん治療、遺伝子治療、ウイルス治療、RNA治療骨髄移植(RNA therapy bone marrow transplantation)、ナノ治療、又は腫瘍溶解薬)、細胞傷害性薬剤、免疫療法(例えば、サイトカイン、免疫賦活薬、細胞免疫治療)、外科手技(例えば、乳腺腫瘍摘出術又は乳房切除術)、若しくは放射線術、又は上述したもの任意の組合せ等の1種又は複数種の他の抗がん治療方式と組み合わせて投与される。追加治療は、術後補助療法又は術後補助療法の形態とすることができる。幾つかの実施形態において、追加治療は、酵素阻害剤(例えば、低分子酵素阻害剤)又は転移阻害剤である。本発明の組合せと組み合わせて投与することができる例示的な細胞傷害性薬剤としては、微小管阻害剤、トポイソメラーゼ阻害剤、代謝拮抗剤、有糸分裂阻害剤、アルキル化剤、アントラサイクリン、ビンカアルカロイド、挿入剤、シグナル伝達経路を干渉することができる薬剤、細胞死を促進する薬剤、プロテオソーム阻害剤、及び放射線(例えば、局所又は全身照射(例えば、ガンマ線照射)が挙げられる。他の実施形態においては、追加治療は外科手術若しくは放射線療法又はそれらの組合せである。他の実施形態においては、追加治療は、PI3K/AKT/mTOR経路の1つ若しくは複数を標的とする治療、HSP90阻害剤、又はチューブリン阻害剤である。
【0062】
別法として、又は上述の組合せと組み合わせて、本明細書に記載する方法及び組成物は、1種又は複数種の免疫調節剤(例えば、共刺激分子の活性化剤(activator)又は阻害分子の阻害剤、例えば、免疫チェックポイント分子の阻害剤);ワクチン、例えば、治療用がんワクチン;又は他の形態の細胞免疫療法;と組み合わせて投与することができる。
【0063】
他の治療剤、手順、又は様式(例えば本明細書に記載されているもの)を任意の組合せ及び順序で本発明の治療と組み合わせて使用することができる。本発明の組成物及び組合せは、他の治療方法の前に、他の治療方法と同時に、この種の他の治療のサイクルの間に、又は疾患の寛解期間に投与することができる。
【0064】
本明細書においては、がん、特に、MAPK経路内に少なくとも1つの機能獲得型変異を発現する固形腫瘍の治療に使用するためのERK阻害剤及び/又はC-Raf阻害剤を含む方法、組合せ、及び組成物を開示する。
【0065】
選択した用語は以下の定義を有し、本明細書全体を通してこの定義を有する。
【0066】
本明細書において使用される、冠詞「1つの(a)」及び「1つの(an)」は、この冠詞の文法上の目的語が1つ又は1つを超える(例えば、少なくとも1つである)ことを指す。
【0067】
文脈上明らかに他の指示がない限り、本明細書において使用される「又は」という語は「及び/又は」という語を意味するために使用され、「及び/又は」と互換的に使用される。
【0068】
「約(about)」及び「およそ(approximately)」は、一般に、測定された量について、測定の性質又は精度を考慮した上で許容される誤差の程度を意味するものとする。例示的な誤差の程度は、所与の値又は値の範囲の20パーセント(%)以内、典型的には10%以内、より典型的には5%以内である。特に、特定の値に「約」を付記して投与量を記述する場合は、この特定の値に対し±10%の範囲を包含することを意図している。当技術分野において慣用されているように、投与量は、その遊離形態にある治療剤の量を指す。例えば、化合物Bの投与量が100mgと記述されており、化合物Bがその塩酸塩として使用される場合、使用される治療剤の量は化合物Bの遊離形態が100mgであることに相当する。
【0069】
「組合せ、併用(combination)」又は「~と組み合わせて、~と併用して(in combination with)」は、治療又は治療剤を、物理的に混合若しくは同時に投与しなければならない、及び/又は一緒に送達するために配合しなければならないことを示唆する意図はないが、これらの送達方法は本明細書に記載する範囲に包含される。これらの組合せにおける治療剤は、1つ又は複数の他の追加治療又は治療剤と同時に、その前に、又はその後に投与することができる。治療剤又は治療プロトコルの投与は任意の順序で行うことができる。一般に、各薬剤は、その薬剤に関し決められた用量及び/又はスケジュールで投与されることになる。この組合せに利用される追加の治療剤は、単一の組成物中で一緒に投与することができ、又は異なる組成物中で別々に投与することができることが更に理解されるであろう。一般に、組み合わせて利用される追加の治療剤は、それらが個々で利用される場合の量を超えない量で利用されることが期待される。幾つかの実施形態において、組み合わせて利用される場合の量は、単剤治療として利用される量よりも少ない。
【0070】
本明細書において使用される「相乗」という語は、例えば化合物Aであるc-RAF阻害剤化合物及び化合物BであるERK1/2阻害剤化合物等の2種類の治療剤によって生み出される、例えば増殖性疾患、特にがん又はその症状の症状増悪を遅延させる作用が、各薬物を単独で投与した場合の効果の単純な相加よりも高いことを指す。相乗効果は、例えば、(Lehar et al 2009)に記載されているものなどの適切な方法を用いて算出できる。
【0071】
実施形態においては、追加の治療剤(例えば、CRAF阻害剤)は、単剤の用量水準に対し、治療用量又は治療用量よりも少ない量で投与される。特定の実施形態において、阻害、例えば増殖阻害又は腫瘍収縮を達成するのに必要とされる第2の治療剤の濃度は、第2の治療剤を別々に投与する場合よりも、第2の治療剤、例えばERK1/2阻害剤を第1の治療剤を組み合わせて使用するか又は投与する場合の濃度の方が低い。特定の実施形態においては、阻害、例えば増殖阻害を達成するために必要とされる第1治療剤の濃度又は投与量は、第1治療剤を別々に投与する場合よりも、第1治療剤を第2治療剤と組み合わせて投与する場合の方が低い。特定の実施形態における併用療法において、阻害、例えば増殖阻害を達成するために必要とされる第2治療剤の濃度又は投与量は、単独療法としての第2治療剤の治療用量よりも低く、例えば、10~20%、20~30%、30~40%、40~50%、50~60%、60~70%、70~80%、又は80~90%低い。特定の実施形態における併用療法において、阻害、例えば増殖阻害を達成するのに必要とされる第1治療剤の濃度又は投与量は、単剤療法としての第1治療剤の治療用量よりも低く、例えば、10~20%、20~30%、30~40%、40~50%、50~60%、60~70%、70~80%、又は80~90%低い。
【0072】
「阻害」、「阻害剤」、又は「拮抗剤」という語は、所与の分子又は経路の特定のパラメータ、例えば活性を低下させることを含む。例えば、標的キナーゼ(CRAF又はERK1/2)の活性を5%、10%、20%、30%、40%又はそれを超えて阻害することが、この語に包含される。したがって、この阻害は100%であり得るが、必ずしも100%である必要はない。
【0073】
「がん」という語は、異常細胞の望ましくない、且つ制御されない増殖を特徴とする疾患を指す。がん細胞は、局所的に又は血流及びリンパ系を介して身体の他の部分に広がることがある。本明細書において使用する「がん」又は「腫瘍」という語は、前悪性及び悪性のがん及び腫瘍を含む。
【0074】
本明細書において使用する「治療する(treat)」、「治療(treatment)」及び「治療すること(treating)」という語は、1つ又は複数の療法を施した結果として、疾患、例えば、増殖性疾患の進行、重症度及び/又は持続期間が緩和若しくは改善されるか、又は疾患の1つ若しくは複数の症状(好ましくは、1つ又は複数の認識可能な症状)が改善されることを指す。特定の実施形態において、「治療する」、「治療」、及び「治療すること」という語は、必ずしも患者によって認識できるとは限らない、腫瘍の成長等の増殖性疾患の少なくとも1種の測定可能な物理的パラメータの改善を指す。他の実施形態において、「治療する」、「治療」、及び「治療すること」という語は、増殖性疾患の進行を、例えば、認識可能な症状の安定化によって身体的に、若しくは例えば、身体的パラメータの安定化によって生理学的に、のいずれか又はその両方により抑制することを指す。他の実施形態において、「治療する」、「治療」及び「治療すること」という語は、腫瘍サイズ又はがん細胞数の低下又は安定化を指す。
【0075】
医薬組成物及びキット
投与レジメンは、最適な所望の反応(例えば、治療反応)が得られるように調整される。例えば、単回ボーラス投与を行ってもよいし、数回に分割した用量をある期間に亘って投与してもよいし、又は治療の緊急性に比例させて用量を減量又は増量してもよい。
【0076】
本明細書において使用される単位剤形は、治療を受ける対象の単位投与量として適した物理的に分離した単位を指す。各単位は、必要な医薬担体と一緒に所望の治療効果を発揮するように計算された予め定められた量の活性化合物を含有する。本発明の単位剤形の詳細は、(a)活性化合物の独自の特徴及び達成すべき具体的な治療効果、並びに(b)個体の過敏症(sensitivity)を治療するためのこの種の活性化合物の配合の技術分野に固有の制限により指示され、これらに直接依存する。
【0077】
本発明の医薬組成物は「治療有効量」又は「予防有効量」の本発明の化合物を含むことができる。「治療有効量」とは、必要な投与量及び期間で所望の治療結果を達成するのに有効な量を指す。治療有効量は、個体の病状、年齢、性別、及び体重等の因子に応じて変化し得る。治療有効量はまた、CRAF阻害剤及び/又はERK1/2阻害剤の治療上有益な効果が毒性又は有害作用を上回る量でもある。「治療上有効な投与量」は、好ましくは、測定可能なパラメータ、例えば、腫瘍増大率を、所望の方法により、無治療の対象と比較して少なくとも約20%、より好ましくは少なくとも約40%、更に好ましくは少なくとも約60%、一層好ましくは少なくとも約80%調節するものである。測定可能なパラメータ、例えば、ある化合物ががんを望ましく調節する能力は、適切な投与量及びスケジュールの確立を支援するためにヒト腫瘍における効力を予測する動物モデルシステムで評価することができる。或いは、組成物のこの特性は、当業者に公知のin vitroアッセイを用いて、化合物が望ましくないパラメータを調節する能力を試験することにより評価することができる。
【0078】
「予防有効量」とは、必要な投与量及び期間で所望の予防結果を達成するのに有効な量を指す。通常、予防用量は、疾患の前段階又は初期段階で対象に使用されるので、予防有効量は治療有効量よりも少ないことになる。
【0079】
また、本発明の範囲には、本明細書に記載する化合物の1種又は複数種を含むキットが含まれる。このキットはまた、1種又は複数種の他の構成要素;使用指示書;本発明化合物と一緒に使用するための他の試薬;投与される化合物を調製するための混合容器等の器具又は他の材料;医薬的に許容される担体;並びに対象に投与するための注射器等の器具又は他の材料;も含むことができる。
【0080】
本発明の組合せは、治療機能又は保護機能又はその両方を有し、in vivo又はex vivoで使用することができる。例えば、これらの分子は、本明細書に記載するがん等の様々な疾患を治療、予防、及び/又は診断するために、培養細胞にin vitro若しくはex vivoで、又はヒト対象に投与することができる。
【0081】
したがって、一態様において、本発明は、他の抗がん化合物と組み合わせて使用することにより抗がん化合物の効力を増強する方法、特に、化合物Bと一緒に化合物Aを使用することにより、いずれか一方の化合物を単剤として類似の用量で投与しても安全には達成することができない増強された効力を達成する方法を提供する。これらの組合せは、MAPK経路における1つ又は複数の機能獲得型変異、特にRAS及び/又はRaf遺伝子変異を発現するがんの治療に特に有用である。
【実施例
【0082】
以下に示す実施例は本発明の理解を助けるために記載するものであって、その範囲をいかなる形でも限定することを意図するものではなく、そのように解釈すべきではない。
【0083】
実施例1:N-(3-(2-(2-ヒドロキシエトキシ)-6-モルホリノピリジン-4-イル)-4-メチルフェニル)-2-(トリフルオロメチル)イソニコチンアミド
化合物A(化合物A)は次に示す構造を有するモルホリン置換ビアリール化合物である。
【化7】
【0084】
化合物Aは、公開PCT出願である国際公開第2014/151616号パンフレットの実施例1156である。化合物Aの調製、化合物Aの医薬的に許容される塩、及び化合物Aを含む医薬組成物も同PCT出願に開示されている(例えば、739~741頁参照)。
【0085】
実施例1A
in vitroでのRaf活性測定
RAF酵素及び触媒的に不活性なMEK1基質タンパク質は全て従来法を用いて社内で製造した。CRAF cDNAを、Y340E及びY341E活性化型変異を有する完全長タンパク質としてSf9昆虫細胞で発現させるために、バキュロウイルス遺伝子発現ベクターにサブクローニングした。SF9昆虫細胞で発現させるために、h14-3-3ゼータcDNAをバキュロウイルス遺伝子発現ベクターにサブクローニングした。両方のタンパク質を同時発現させたSf9細胞を溶解し、固定化ニッケルクロマトグラフィーにかけ、イミダゾールで溶出した。第2カラム(StrepII binding column)を使用し、デスチオビオチンで溶出した。タンパク質のタグをPrescission酵素を用いて除去し、タグを除去するためにフロースルー(flow through)工程を用いてタンパク質を更に精製した。
【0086】
C-Raf FLは完全長C-Rafタンパク質を指す。
【0087】
ATP結合部位に変異を持つ不活性化型K97Rを含む完全長MEK1をRAFの基質として利用する。N末端に(his)タグを有するMEK1 cDNAを大腸菌(E.Coli)用発現ベクターにサブクローニングした。大腸菌(E.Coli)溶菌液からMEK1基質を、ニッケルアフィニティークロマトグラフィーに続いて陰イオン交換を行うことにより精製した。最終MEK1調製物をビオチン標識し(Pierce EZ-Link Sulfo-NHS-LC-Biotin)、濃縮した。
【0088】
アッセイ材料
アッセイバッファー:50mM Tris(pH7.5)、15mM MgCl、0.01%ウシ血清アルブミン(BSA)、1mMジチオトレイトール(DTT)
反応停止バッファー:60mMエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、0.01%Tween(登録商標)20
活性化b-Raf(V600E)
ビオチン化Mek(kinase dead型)
Alpha Screen検出キット(PerkinElmer(商標)から入手可能、#6760617R)
抗phospho-MEK1/2(Cell Signalling Technology,Inc.より入手可能、#9121)
384ウェル少量アッセイプレート(White Greiner(登録商標)プレート)
【0089】
アッセイ条件
b-Raf(V600E):およそ4pM
c-Raf:およそ4nM
ビオチン化Mek(キナーゼデッド型):およそ10nM
ATP:BRAF(V600E)用10μM、CRAF用1μM
化合物のプレインキュベーション時間:室温下で60分間
反応時間:室温下で1~3時間
【0090】
アッセイプロトコル
Raf及びビオチン化Mek(kinase dead型)を最終濃度の2×になるようにアッセイバッファー(50mM Tris、pH7.5、15mM MgCl、0.01%BSA、及び1mM DTT)中で混合し、100%DMSOで希釈した40×のRafキナーゼ阻害剤試験化合物0.25mlを含むアッセイプレート(Greiner白色384ウェルアッセイプレート#781207)に5ml/ウェルで分注した。プレートを室温で60分間インキュベートした。
【0091】
アッセイバッファーで希釈した2×ATPを5ml/ウェルで添加することによりRafキナーゼ活性測定反応を開始した。3時間後(b-Raf(V600E))又は1時間後(c-Raf)に反応を停止し、ウサギ抗p-MEK(Cell Signaling、#9121)抗体及びAlpha Screen IgG(ProteinA)検出キット(PerkinElmer#6760617R)を使用し、抗体(1:2000希釈)及び検出用ビーズ(両ビーズを1:2000希釈)の反応停止/ビーズバッファー(25mM EDTA、50mM Tris、pH7.5、0.01%Tween20)中混合物10mlをウェルに添加することにより、リン酸化物を測定した。検出用ビーズを光から保護するために、添加は暗条件下で行った。プレートにカバーを載せ、室温で1時間インキュベートした後、PerkinElmer Envision機器で発光を読み取った。各化合物の50%阻害濃度(IC50)をXL Fitデータ解析ソフトウェアを用いて非線形回帰により求めた。
【0092】
上述のアッセイにより、化合物Aは以下に報告する阻害効果を示した。
【0093】
化合物Aはb-Raf及びc-Rafの両方に対するtype II阻害剤である。
【0094】
【表1】
【0095】
実施例1B
次表に示すように、化合物Aは、MAPK経路内における変異を発現する多くのヒトがん細胞株に対し活性を示す。BRAF又はRASに少なくとも1つの変異を有する細胞株に対する活性が特に強力であることに注目されたい。
【0096】
【表2】
【0097】
実施例1C
BRAF及び/又はMEK阻害剤に抵抗性のBRAF V600変異型黒色腫細胞における化合物Aの活性を調査するために、MEK1/2変異、NRAS変異、又はBRAFのスプライスバリアントを発現するBRAF V600変異黒色腫細胞株A375から派生させた機構的なモデルから化合物Aの増殖抑制活性を評価した。これらの変異は、前臨床試験及び臨床サンプルの両方において、BRAF及び/又はMEK阻害剤に対する耐性を付与することが実証されている。親A375細胞株及び種々の突然変異対立遺伝子を発現するその派生細胞株における化合物Aの増殖阻害効果を、BRAF阻害剤であるベムラフェニブ(Vemurafenib)及びMEK阻害剤であるセルメチニブ(Selumetinib)の有効性と比較して以下にまとめる。この突然変異はBRAF及びMEK阻害剤の両方に対する耐性を付与し、IC50値が50倍を超えて増大した。それとは対照的に、耐性モデルは依然として化合物Aに対し感受性を有し、IC50は2~3倍しか増大しなかった。これらのデータは、BRAF及び/又はMEK阻害剤に抵抗性を示すようになったBRAF V600黒色腫患者における化合物Aの使用を支持するものである。
【0098】
【表3】
【0099】
実施例1D
化合物Aを、ヒドロキシプロピルメチルセルロース/ヒプロメロース、コロイド状二酸化ケイ素、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン/ポビドン、及びステアリン酸マグネシウムと一緒に配合し、化合物Aを約50mg含有する錠剤に成形した。この錠剤を、絶食状態の対象に、所望の投与量を得るのに十分な数で1日1回投与した。対象を100mgの用量で1日1回、又は1日当たり200mgの用量で治療した。化合物Aの初回投与(サイクル1、1日目)から48時間後まで、及び反復投与(サイクル1、15日目)から24時間後まで、PK評価用の一連の血液サンプルを採取した。最大血中濃度(Cmax)447ng/ml及び889ng/mlは、それぞれ単回用量100mg及び単回用量200mgを投与後4時間以内に到達した。投与1日目の投与間隔(24時間)ごとの平均血中濃度(plasma exposure)(AUCtau)は、化合物Aの用量100mg及び200mgに対しそれぞれ5679hr・ng/ml及び10019hr・ng/mlであった。患者における半減期は23~24時間前後と算出される。1日1回100mgの投与で、血漿中に化合物Aが僅かに蓄積し、蓄積率は1.8であった。これらのデータに基づき、1日1回の投与スケジュールを確立した。この研究は継続中であるため、提示する全てのデータは予備的なものと看做す。
【0100】
実施例2:KRAS変異型NSCLCモデルにおける化合物Aの抗腫瘍活性
H358モデル:
腫瘍細胞接種14日後に、平均腫瘍体積が259.44~262.47mmの範囲にあるSCID beige担腫瘍NCI-H358雌性マウスを3群に無作為に割付けた(n=8匹/群)。
【0101】
治療期間中、動物に、投与液量を動物の体重1kg当たり10mlとし、溶媒、化合物Aのいずれかを毎日30mg/kg又は200mg/kgで連続14日間経口投与した。腫瘍体積を週3回デジタルノギスで測定し、治療期間を通して全動物の体重を記録した。
【0102】
Calu6モデル:
平均腫瘍体積が180mmとなった腫瘍移植後17日目に、担腫瘍Calu6雌性ヌードマウスを治療群に無作為に割付けた(n=6匹/群)。化合物Aによる治療は17日目に開始し、16日間継続した。投与液量は10ml/kgとした。無作為割付け時及びその後の研究期間中、腫瘍体積を週2回測定した。
【0103】
H727モデル:
平均腫瘍体積が275.74mmの範囲にある担腫瘍NCI-H358雌性ヌードマウスを2群に無作為に割付けた(n=8匹/群)。治療期間中、動物に、投与液量を動物の体重1kg当たり10mlとし、溶媒又は化合物Aのいずれかを100mg/kgの用量で連続14日間経口投与した。腫瘍体積を週3回デジタルノギスで測定し、治療期間を通して全動物の体重を記録した。図1A、1B、及び1Cに示すように、化合物Aは、KRASmt NSCLCモデルにおいて単剤活性を示した。
【0104】
細胞ベースのアッセイにおいて、化合物Aは、MAPKシグナル伝達を活性化する種々の変異を含む細胞株において増殖抑制活性を示した。例えば、化合物Aは、非小細胞肺がん細胞株Calu-6(KRAS Q61K)、大腸がん細胞株HCT116(KRAS G13Dの増殖を阻害し、IC 50値は0.2~1.2μMの範囲にあった。in vivoでは、NSCLC由来Calu-6(KRAS Q61K)及びNCI-H358(KRAS G12C)異種移植片を含む幾つかのヒトKRAS変異モデルを化合物Aで治療することにより腫瘍が縮小した。全ての場合において腫瘍抑制効果は用量依存的であり、有意な体重減少が認められないことから判断されるように、忍容性が良好であった。ヌードマウス及びヌードラットに移植したCalu-6モデルはどちらも化合物Aに対し感受性を示し、マウスで1日1回(QD)の用量を100、200、及び300mg/kgとし、ラットでQD75及び150mg/kgとした場合に縮小が認められた。このモデルにおける腫瘍増殖静止は、マウス及びラットにおいてそれぞれ30mg/kgQD及び35mg/kgQDで認められた。別のヒトNSCLC(NCI-H358)モデルにおいて、マウスでは用量200mg/kgのQDで、ヒト卵巣Hey-A8を異種移植したマウスでは30mg/kgのQDという低用量でも縮小が達成された。更に、Calu-6異種移植片における用量分割(dose fractionation)効力試験のデータから、化合物AをQD投与及び1日2回分割投与(BID)すると、異なる投与量間で同程度の腫瘍抑制活性を示すことが実証された。これらの結果は、臨床におけるQD又はBID投与レジメンの探索を支持するものである。まとめると、忍容性が良好な用量の化合物Aについて、in vitro及びin vivoにおいてMAPK経路抑制及び増殖抑制活性が認められたことは、化合物AがMAPK経路に活性化型の障害を持つ腫瘍を有する患者において抗腫瘍活性を示す可能性があり、したがって、特にKRAS変異を有するNSCLC患者の治療に、単剤として、又はMAPK経路の異なる段階に影響を及ぼす阻害剤等の第2の薬剤と組み合わせて、有用となり得ることを示唆している。化合物Aは、MAPK経路、例えばRAS又はRAFにおいて機能獲得型変異を発現する、卵巣がん、膵臓がん、及び黒色腫等の他の様々ながんに対し、単剤としての活性を示すことが分かっており、モデルシステムにおいて化合物B等のERK阻害剤と組み合わせて使用すると、これらの状態に対してより効果が高くなることが示されている。
【0105】
実施例3:
化合物BはERK1/2の阻害剤である。この化合物は公開PCT出願である国際公開第2015/066188号パンフレットに開示されており、その調製も記載されている。
【化8】
【0106】
幾つかの実施形態において、この化合物はその塩酸塩として使用される。
【0107】
3日間の増殖アッセイにおいて、化合物Bは、肺がん細胞株Calu6(KRASQ61K)、卵巣がん細胞株HeyA8(KRASG12D)、膵臓がん細胞株AsPC-1(KRASG12D)、及びPSN1(KRASG12R)等のKRAS変異を有する細胞株のサブセットにおいて1μM未満のIC50値で細胞増殖を強力に阻害した。
【0108】
実施例4:KRAS変異型細胞株に対する化合物A及び化合物Bの組合せの効果
化合物A及び化合物Bの組合せの増殖に対する効果を、NSCLC(4)、大腸がん(CRC)(4)、及び膵管腺がん(PDAC)(6)由来の14種のKRAS変異細胞株パネルを用いてin vitroで評価した。
【0109】
CellTiter-Glo(登録商標)(CTG)発光細胞生存率アッセイキット(Promega、米国ウィスコンシン州マディソン(Madison))は細胞溶解後にウェル中に存在するATP量を測定するものである。溶解時に放出されるATPを、ルシフェラーゼ及びその基質であるルシフェリンが関与する酵素反応で測定する。発光量はATP量に比例し、そのATP量はウェル内の生細胞数に比例する。このアッセイは薬物処理後の生細胞の割合を求めるために使用される。
【0110】
14種の細胞株を含むCTGアッセイに使用する試薬、培地、及び細胞密度を次の表に記載する。
【0111】
細胞を、白色384ウェル組織培養プレート(#3707、Corning、米国ニューヨーク州)に、次表の情報に従い50μl/ウェルでduplicate setsで播種した。翌日、化合物用プレート(#788876、Greiner、米国ノースカロライナ州モンロー(Monroe))中、化合物をDMSOで希釈し、7段階の1:3希釈系列を作成した(必要な最終濃度の1000倍)。超音波分注器(acoustic dispenser)(ATS100、EDC Biosystems、米国カリフォルニア州)を用いて化合物を細胞プレートに分注することにより1:1000希釈を達成した。例えば、化合物用プレートの10mMの化合物Aを含む1つのウェルから、化合物50nLを細胞50uLに移すことにより、その所与のウェルにおけるその化合物の最終濃度を10μMとした。2.3項に、ATS100を使用して本発明者らのアッセイプレートで作成した組合せのマトリクス(combinations grid)の配置と濃度について概説する。次いでアッセイプレートを37℃の加湿COインキュベーターに戻した。
【0112】
化合物を5日間インキュベートした後、CTG生存活性測定試薬を25μL/ウェルで各ウェルに添加し(総体積75μl)、室温で15分間インキュベートした後、プレートをマイクロプレートリーダーを用いて0.1秒の超高感度発光測定プロトコル(ultrasensitive luminescence protocol)(Envision、Perkin Elmer、米国マサチューセッツ州ホプキントン(Hopkington))で読み取った。
【0113】
その所与の細胞株のデータを未処理ウェル(DMSOのみで処理)の平均値に対し正規化した。次いでその値を1から差し引いて阻害率として表すために100を乗じた。次いで正規化したデータを、自社開発のソフトウェア(HELIOS)による4変数ロジスティック(4PL)回帰曲線フィッティングモデルを用いて曲線当てはめを行った。化合物が単剤で細胞増殖を50%阻害した曲線をIC50(最大半量阻害濃度)として報告した。
【0114】
【表4】
【0115】
【表5】
【0116】
全ての場合において、化合物Aの濃度を0.014~10μMの範囲とし、化合物Bの濃度を0.011~8.0μMの範囲として、その組合せをチェッカーボード方式のマトリックス(checkerboard formatted matrix)で評価した。組合せが特定の細胞株において相乗的であるか否かは、相乗効果に関する2つの測定値:50又は75%の阻害レベルにおける相乗効果スコア(synergy score)及び併用指数(combination index)(CI)を用いて決定した(Lehar et al 2009)。
【0117】
試験に供した細胞株の7/14において、化合物Aと化合物Bとを組み合わせることにより中程度~高度の相乗効果が認められた。各細胞株についてのこれらの値を次表にまとめる。
【0118】
【表6】
【0119】
このスコア/数値を解釈するための一般的な目安を次の表に示す。
【0120】
【表7】
【0121】
試験に供した細胞株セットにおいては、相乗効果は主としてNSCLC及びPDAC細胞系に由来するモデルで観察され、この2つの系列ではそれぞれCalu-6(KRASQ61K)及びHUPT4(KRASG12V)モデルの反応が最も高かった。
【0122】
実施例5:疾患の異種移植片モデルにおける化合物A及び化合物Bの組合せ
Calu-6NSCLC腫瘍の細胞1000万個を含む50%Matrigel(商標)を胸腺欠損雌性マウスの側腹部皮下に注射することにより生着させた。腫瘍がおよそ250mmに到達したら、マウスを腫瘍体積に応じて無作為に治療群に割付けた(n=7)。試験薬剤を指示された用量で1日1回(qd)又は1日置きに(q2d)経口投与した。無作為割付け後の経過日数に対する治療群の腫瘍体積(A-B)。初期からの体重変化率の平均(C)。これらの治療に関するデータを図1A、1B、及び1Cに示す。
【0123】
ヒトNSCLC異種移植片(Calu-6)に対し化合物A及び化合物Bによる併用治療を行うと、いずれかの単剤と比較して奏効の深さ及び奏効期間が向上した。化合物Aを30mg/kg qdで投与することにより26%T/Cを達成し、一方、化合物Bを75mg/kg q2d又は50mg/kg qdで投与することによりそれぞれ4%T/C及び22%の縮小を達成した(17日間投与後)。化合物Aの30mg/kg qd投与及び化合物Bの50mg/kg qd又は75mg/kg q2d投与を組み合わせると、投与後17日目にそれぞれ66%及び51%の縮小を達成した。化合物A及び化合物Bの組合せにより奏効の深さが増大したことに加えて、奏効期間も向上した。化合物A及び化合物Bの単剤を投与したマウスの腫瘍は治療中に増悪したが、化合物A及び化合物Bの組合せは(化合物Bの用量に関係なく)投与後42日間腫瘍縮小を維持した。総括すると、これらのデータは、化合物A及び化合物Bの併用治療により、MAPK経路内の機能獲得型変異によりMAPK経路が活性化された患者においてより高く且つより持続的な反応を得ることができることを示唆している。更にこれらの結果は、化合物Aと組み合わせて化合物Bを間欠的に投与することの探索の可能性を支持するものである。体重減少が認められなかったことから判断されるように、試験を行った組合せは忍容性が良好である。
【0124】
実施例6:MAPK経路が変化した切除不能な固形がんの成人患者に化合物A単独で又は化合物Bと一緒に投与する第I相用量設定試験
単剤としての化合物A
本試験において推奨される化合物Aの開始用量及び投与レジメンは、前臨床試験で得られた前臨床安全性試験、忍容性データ、PK/PDデータ、並びに探索的なヒトの有効用量範囲予測に基づき、経口100mg QDである。100mg、200mg、250mg、300mg、又は400mgの開始用量を用いることができる。予備データから、開始用量を1日1回250mgとすると固形腫瘍に有効となる可能性が示唆されている。投薬の自由度を最大限にするために、化合物Aは50mg及び/又は100mgの経口投与用錠剤として調製することができる。化合物Aの臨床応用に提案された処方は、化合物Aに、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロース)、コロイド状二酸化ケイ素、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン(ポビドン)及びステアリン酸マグネシウムから選択される1種又は複数種の賦形剤を組み合わせたものを含み、好適には化合物Aを50mg又は100mg含有する経口投与用錠剤の剤形で調製することができる。
【0125】
用量漸増のための暫定用量を次表に記載する。
【0126】
【表8】
【0127】
用量拡大パートでは、化合物Aの単剤群の患者は、推奨用量及び用量漸増データに基づき選択されたレジメンにより化合物Aで治療する。この用量は、治験対象となる全ての適応症の成人患者に対し安全かつ忍容性があると期待されている。
【0128】
このヒト初回投与治験の臨床レジメンは、化合物Aを1日1回連続投与するスケジュールである。QDレジメンは、前臨床試験において有効且つ忍容性が良好であることが実証されている。Calu6異種移植片に対しては、QD又は分割BIDレジメンのいずれも同程度の効果が達成され、有効性には総曝露量が関係していることが示唆された。予測されたヒトPK及び予測された半減期(約9時間)も、QD投与により有効な曝露が達成され得ることを示唆している。
【0129】
更に、有効投与量は、MAPキナーゼ経路阻害を示唆するバイオマーカーを監視することによって決定することができる。特にDUSP6(二重特異性ホスファターゼ6)はこの経路の既知のバイオマーカーであり、DUSP6は、in vivoレベルで、化合物Aの有効血中量に対応する投与量の化合物Aが投与された対象において低下することが示されている。したがってDUSP6は、化合物Aで治療された対象の薬力学的バイオマーカーとして、単剤の場合も他の治療剤と併用した場合も使用することができる。
【0130】
化合物A及び化合物Bの組合せ
化合物Bはその塩酸塩として使用することができる。この試験を行うために、1種若しくは複数種の賦形剤と一緒に配合するか又は化合物のみで、ソフト又はハードゲルカプセル等の医薬的に許容されるカプセルに含有させるか、強制経口投与に便利な溶媒と混合して経口投与することができる。
【0131】
化合物Bと組み合わせた化合物Aの用量漸増は、単剤としての化合物Aに関し特定された投与レジメンで開始した。化合物Aの開始用量は単剤用量よりも低くした。したがって、この用量を選択する際は、十分な効力を示すには低過ぎる用量を投与される可能性がある患者数を制限しながら、毒性を示す可能性がある量の薬物への曝露を最小限に抑えるべきである。
【0132】
化合物Aのレジメンは単剤としての化合物Aに選択されたものと同じレジメンとした。単剤拡大パートで化合物A単剤のレジメンも探索する場合、安全性及び曝露量を含む全ての利用可能なデータに基づき好ましい1つのレジメンを、組合せ用に選択することになる。新たなデータに基づき、併用治療群の化合物Aの投与レジメンの切り替えを決定することができる。
【0133】
化合物Bは、前臨床モデルにおける活性に基づき、有効な腫瘍抑制効果をもたらすのに十分な曝露を受けると予測される投与量で投与した。前臨床試験に基づけば、効力は有効血中濃度を超えた時間によって決まると思われるので、一実施形態においては化合物Bの血中濃度を監視することによって投与量を決定することができる。効力を得るために望ましい最低血中濃度は約600nM又は約350ng/mLと予測される。したがって、投与量及び投与スケジュール(頻度)は、少なくとも1日間若しくは少なくとも1週間、又は治療医が適切と判断した1、2、3、若しくは4週間等の治療サイクルに亘って、化合物Bの血中濃度がこの最低血中濃度を超えるように維持することを目標として導出することができる。
【0134】
この治験の臨床レジメンは、化合物A及び化合物Bを1日1回連続投与するスケジュールとした。
【0135】
更にこれを臨床試験で得られた予備結果により確定した。化合物Aを1200mgQDで治療した非小細胞肺がん(NSCLC)を有する対象は、固形がんの治療効果判定規準(Response Evaluation Criteria In Solid Tumors)(RECIST)の規準に従い、-35%の部分奏効をもたらすことが示された。
【0136】
用量拡大パートでは、併用療法群の患者を、用量漸増データに基づき薬剤併用に推奨される用量及びレジメンで治療する。適切な投与量が自由に得られるように、化合物Bは、ゲルカプセル当たり約5mg、20mg、50mg、又は100mgの用量等の様々な量の化合物B(任意選択でその塩酸塩として)を含有するゲルカプセルの形態で調製することができる。
【0137】
併用群の患者は、化合物Aの1日量を約100mg、約150mg、又は約200mg、又は約250mg、及び化合物Bの1日量を約50mg、約75mg、又は約100mgとして治療することができる。例えば、患者に、総用量約100mgの化合物Aを毎日及び総用量約100mgの化合物Bを毎日投与することができ、その用量は、好ましくは1日1回投与される。患者はまた、総用量約200mgの化合物Aを毎日及び総用量約100mgの化合物Bを毎日投与することができ、その用量は、好ましくは1日1回投与される。
【0138】
併用療法を受ける患者には、切除不能な又は遠隔転移を有するKRAS変異型又はBRAF変異型(例えばBRAF V600E変異型)NSCLCを有するNSCLC患者、例えば成人患者が含まれる。これらの患者は、標準的な治療を受けた後に増悪したか、又は有効な標準的治療が存在しない可能性のある患者である。
【0139】
試験の有効性は、RECISTバージョン1.1に準拠して、全奏効率(ORR)、疾病管理率(DCR)、奏効期間(DOR)、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)を測定することにより評価することができる。
【0140】
均等物
本発明の特定の実施形態について述べてきたが、上述の明細書は例示的なものであって限定的なものではない。本明細書及び以下に記載する特許請求の範囲を検討することにより、当業者には本発明の多くの変形形態が明らかになるであろう。本発明の全範囲は、特許請求の範囲をその均等物の全範囲と一緒に、及び明細書をこの種の変形形態と一緒に参照することによって決定すべきである。
また、本発明は以下の態様を含みうる。
[1]
(i)化合物A:
【化9】


であるCRAF阻害剤又はその医薬的に許容される塩と;
(ii)化合物B:
【化10】


であるERK阻害剤又はその医薬的に許容される塩と、を含む組合せ医薬。
[2]
前記c-Rafキナーゼ阻害剤又はその医薬的に許容される塩と、前記ERKキナーゼ阻害剤又はその医薬的に許容される塩とは、別々に、同時に、又は順次投与される、上記[1]に記載の組合せ医薬。
[3]
経口投与用である、上記[1]又は[2]に記載の組合せ医薬。
[4]
前記c-Rafキナーゼ阻害剤は経口投与形態にある、上記[1]又は[2]に記載の組合せ医薬。
[5]
前記ERK阻害剤は経口投与形態にある、上記[1]又は[2]に記載の組合せ医薬。
[6]
上記[1]~[5]のいずれかに記載の組合せ医薬及び少なくとも1種の医薬的に許容される担体を含む医薬組成物。
[7]
増殖性疾患の治療に使用するための、上記[1]~[5]のいずれかに記載の組合せ医薬又は上記[6]に記載の医薬組成物。
[8]
上記[1]~[5]のいずれかに記載の組合せ医薬の、増殖性疾患を治療するための医薬を調製するための使用。
[9]
それを必要とする対象における増殖性疾患を治療するための方法であって、前記対象に治療有効量の上記[1]~[5]のいずれかに記載の組合せ医薬又は治療有効量の上記[6]に記載の医薬組成物を投与することを含む、方法。
[10]
前記増殖性疾患は、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)に1つ又は複数の変化を有する固形腫瘍から選択される、上記[7]に記載の組合せ医薬又は上記[8]に記載の組合せ医薬の使用又は上記[9]に記載の方法。
[11]
前記増殖性疾患は、KRAS変異型NSCLC(非小細胞肺がん)、BRAF変異型NSCLC、KRAS変異型膵臓がん、KRAS変異型大腸がん(CRC)、及びKRAS変異型卵巣がんである、上記[10]に記載の使用のための組合せ医薬、又は上記[10]に記載の組合せ医薬の使用、又は上記[10]に記載の方法。
[12]
前記増殖性疾患は、切除不能な又は遠隔転移を有するKRAS変異型NSCLC(非小細胞肺がん)である、上記[10]に記載の使用のための組合せ医薬、又は上記[10]に記載の組合せ医薬の使用、又は上記[10]に記載の方法。
[13]
前記増殖性疾患は、切除不能な又は遠隔転移を有するBRAF変異型NSCLCである、上記[10]に記載の使用のための組合せ医薬、又は上記[10]に記載の組合せ医薬の使用、又は上記[10]に記載の方法。
[14]
前記増殖性疾患は、KRAS変異型膵臓がんである、上記[10]に記載の使用のための組合せ医薬、又は上記[10]に記載の組合せ医薬の使用、又は上記[10]に記載の方法。
[15]
前記増殖性疾患は、KRAS変異型大腸がん(CRC)である、上記[10]に記載の使用のための組合せ医薬、又は上記[10]に記載の組合せ医薬の使用、又は上記[10]に記載の方法。
[16]
前記増殖性疾患は、KRAS変異型卵巣がんである、上記[10]に記載の使用のための組合せ医薬、又は上記[10]に記載の組合せ医薬の使用、又は上記[10]に記載の方法。
[17]
前記がんは、RAF変異であるV600E、V600D、及びG464E、並びにRAS変異であるA146T、Q61L、Q61K、G12D、G12C、G13D、G12V、及びG12Rからなる群から選択される少なくとも1つの変異を発現する、上記[10]に記載の使用のための組合せ医薬、又は上記[10]に記載の組合せ医薬の使用、又は上記[10]に記載の方法。
[18]
前記c-RAFキナーゼ阻害剤又はその医薬的に許容される塩と、前記ERK阻害剤又はその医薬的に許容される塩とは、別々に投与される、上記[10]~[17]のいずれかに記載の使用のための組合せ医薬、又は上記[10]~[17]のいずれかに記載の組合せ医薬の使用、又は上記[10]~[17]のいずれかに記載の方法。
[19]
前記c-RAFキナーゼ阻害剤又はその医薬的に許容される塩と、前記ERK阻害剤又はその医薬的に許容される塩とは、一緒に投与される、上記[10]~[17]のいずれかに記載の使用のための組合せ医薬、又は上記[10]~[17]のいずれかに記載の組合せ医薬の使用、又は上記[10]~[17]のいずれかに記載の方法。
[20]
前記c-RAFキナーゼ阻害剤又はその医薬的に許容される塩は、1日量を約100mg、又は約150mg、又は約200mg、又は約250mgとして投与される、上記[10]~[19]のいずれかに記載の使用のための組合せ医薬、又は上記[10]~[19]のいずれかに記載の組合せ医薬の使用、又は上記[10]~[19]のいずれかに記載の方法。
[21]
前記ERK阻害剤又はその医薬的に許容される塩は、1日当たり約50mg、又は1日当たり約75mg、又は1日当たり約100mgの用量で投与される、上記[10]~[20]のいずれかに記載の使用のための組合せ医薬、又は上記[10]~[20]のいずれかに記載の組合せ医薬の使用、又は上記[10]~[20]のいずれかに記載の方法。
[22]
前記c-RAF阻害剤又はその医薬的に許容される塩は、経口投与される、上記[21]に記載の使用のための組合せ医薬、又は上記[20]に記載の組合せ医薬の使用、又は上記[21]に記載の方法。
[23]
前記ERK阻害剤である化合物B又はその医薬的に許容される塩は、化合物Aと併用される場合は、間欠的に投与される、上記[22]に記載の使用のための組合せ医薬、又は上記[22]に記載の組合せ医薬の使用、又は上記[22]に記載の方法。
[24]
前記ERK阻害剤又はその医薬的に許容される塩は、単回の1日量を約50mg又は約75mg又は約100mgとして投与される、上記[23]に記載の使用のための組合せ医薬、又は上記[23]に記載の組合せ医薬の使用、又は上記[23]に記載の方法。
[25]
化合物Aは1日量を100mg(例えば1日1回)として投与され、化合物Bは1日量を100mg(例えば1日1回)として投与される、上記[24]に記載の使用のための組合せ医薬、又は上記[24]に記載の組合せ医薬の使用、又は上記[24]に記載の方法。
[26]
化合物Aは1日量を200mg(例えば、1日1回)として投与され、化合物Bは1日量を100mg(例えば、1日1回)として投与される、上記[25]に記載の使用のための組合せ医薬、又は上記[25]に記載の組合せ医薬の使用、又は上記[25]に記載の方法。
[27]
KRAS変性型NSCLC(非小細胞肺がん)の治療に使用するためのERK阻害剤又はその医薬的に許容される塩であって、前記ERK阻害剤又はその医薬的に許容される塩は、c-Raf阻害剤又はその医薬的に許容される塩と、別々に、同時に、又は順次投与するために調製される、ERK阻害剤又はその医薬的に許容される塩。
[28]
KRAS変異及びBRAF変異型NSCLCの治療に使用するためのERK阻害剤又はその医薬的に許容される塩であって、前記ERK阻害剤又はその医薬的に許容される塩は、c-Raf阻害剤又はその医薬的に許容される塩と、別々に、同時に、又は順次投与するために調製される、ERK阻害剤又はその医薬的に許容される塩。
[29]
KRAS変異型膵臓がんの治療に使用するためのERK阻害剤又はその医薬的に許容される塩であって、前記ERK阻害剤又はその医薬的に許容される塩は、c-Raf阻害剤又はその医薬的に許容される塩と、別々に、同時に、又は順次投与するために調製される、ERK阻害剤又はその医薬的に許容される塩。
[30]
KRAS変異型大腸がん(CRC)の治療に使用するためのERK阻害剤又はその医薬的に許容される塩であって、前記ERK阻害剤又はその医薬的に許容される塩は、c-Raf阻害剤又はその医薬的に許容される塩と、別々に、同時に、又は順次投与するために調製される、ERK阻害剤又はその医薬的に許容される塩。
[31]
KRAS変異及び/又はBRAF変異型卵巣がんの治療に使用するためのERK阻害剤又はその医薬的に許容される塩であって、前記ERK阻害剤又はその医薬的に許容される塩は、c-Raf阻害剤又はその医薬的に許容される塩と、別々に、同時に、又は順次投与するために調製される、ERK阻害剤又はその医薬的に許容される塩。
[32]
KRAS変異型NSCLC(非小細胞肺がん)の治療に使用するためのc-Raf阻害剤又はその医薬的に許容される塩であって、前記c-Raf阻害剤又はその医薬的に許容される塩は、ERK阻害剤又はその医薬的に許容される塩と、別々に、同時に、又は順次投与するために調製される、c-Raf阻害剤又はその医薬的に許容される塩。
[33]
KRAS変異又はBRAF変異型NSCLCの治療に使用するためのc-Raf阻害剤又はその医薬的に許容される塩であって、前記c-Raf阻害剤又はその医薬的に許容される塩は、ERK阻害剤又はその医薬的に許容される塩と、別々に、同時に、又は順次投与するために調製される、c-Raf阻害剤又はその医薬的に許容される塩。
[34]
KRAS変異型膵臓がんの治療に使用するためのc-Raf阻害剤又はその医薬的に許容される塩であって、前記c-Raf阻害剤又はその医薬的に許容される塩は、ERK阻害剤又はその医薬的に許容される塩と、別々に、同時に、又は順次投与するために調製される、c-Raf阻害剤又はその医薬的に許容される塩。
[35]
KRAS変異型大腸がん(CRC)の治療に使用するためのc-Raf阻害剤又はその医薬的に許容される塩であって、前記c-Raf阻害剤又はその医薬的に許容される塩は、ERK阻害剤又はその医薬的に許容される塩と、別々に、同時に、又は順次投与するために調製される、c-Raf阻害剤又はその医薬的に許容される塩。
[36]
KRAS変異型卵巣がんの治療に使用するためのc-Raf阻害剤又はその医薬的に許容される塩であって、前記c-Raf阻害剤又はその医薬的に許容される塩は、ERK阻害剤又はその医薬的に許容される塩と、別々に、同時に、又は順次投与するために調製される、c-Raf阻害剤、又はその医薬的に許容される塩。
[37]
上記[1]に記載のc-Raf阻害剤又はその医薬的に許容される塩の1種又は複数種の投与単位と、(b)上記[1]に記載のERK阻害剤の1種又は複数種の投与単位と、少なくとも1種の医薬的に許容される担体と、を含む、組合せ製剤。
[38]
上記[1]~[6]のいずれかに記載の組合せ医薬を、それを同時に又は順次投与するための指示書と一緒に含む、前記MAPK経路に機能獲得型変異を発現するがんの治療に使用するための、キット。
図1A
図1B
図1C