(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-29
(45)【発行日】2022-08-08
(54)【発明の名称】有機性汚泥の嫌気性消化方法及び装置
(51)【国際特許分類】
C02F 11/04 20060101AFI20220801BHJP
【FI】
C02F11/04 Z ZAB
(21)【出願番号】P 2019519080
(86)(22)【出願日】2018-03-08
(86)【国際出願番号】 JP2018009017
(87)【国際公開番号】W WO2018211795
(87)【国際公開日】2018-11-22
【審査請求日】2020-03-18
(31)【優先権主張番号】P 2017099174
(32)【優先日】2017-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】西井 啓典
(72)【発明者】
【氏名】板山 倫也
(72)【発明者】
【氏名】樋口 真也
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-159005(JP,A)
【文献】特開2004-249233(JP,A)
【文献】特開2005-319388(JP,A)
【文献】国際公開第2008/026221(WO,A1)
【文献】登録実用新案第3146266(JP,U)
【文献】実開昭62-062806(JP,U)
【文献】特開2012-086157(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F11/00-11/20
C02F3/00-3/34
B01F27/00-27/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒型で有効深さ8m以上、内径4m以上の消化タンク内に、有機物濃度
5.0~
8.5%の有機性汚泥を有機物容積負荷3.3~6.6kg-VS/m
3・dとなるように投入し、消化日数12日以上で、前記消化タンク内を撹拌するための撹拌手段を設けることなく、前記消化タンク内で発生する発生ガスの上昇流による混合を利用して嫌気性消化処理することを含む有機性汚泥の嫌気性消化方法。
【請求項2】
円筒型で有効深さ8m以上、内径4m以上の消化タンクの下部に配置され、前記消化タンクの中心部に鉛直方向に設けられた軸部を中心軸として前記消化タンクの周方向に回転可能な第1のレーキ部材を備える前記消化タンク内に、有機物濃度
5.0~
8.5%の有機性汚泥を有機物容積負荷3.3~6.6kg-VS/m
3・dとなるように投入し、消化日数12日以上で、前記第1のレーキ部材を周速10m/min以下で順回転又は逆回転させて嫌気性消化処理することを含む有機性汚泥の嫌気性消化方法。
【請求項3】
前記消化タンクの底面が、中心部に形成された凹状の釜場と、前記釜場を取り囲む周縁底面部とを含み、前記周縁底面部が水平面であるか、又は水平面に対して30°以下の傾斜を有するテーパー状を有しており、前記釜場から、嫌気性消化後の前記有機性汚泥を引き抜くことを含む請求項1又は2に記載の有機性汚泥の嫌気性消化方法。
【請求項4】
前記消化タンクが、
前記第1のレーキ部材に接続されたピケットフェンス
を更に備え、
前記第1のレーキ部材と前記ピケットフェンスとを前記消化タンク内で回転させることを含む請求項2に記載の有機性汚泥の嫌気性消化方法。
【請求項5】
前記消化タンク内に投入される前記有機性汚泥の液面近傍に配置され、且つ前記軸部を中心軸として前記消化タンクの周方向に回転可能な第2のレーキ部材
を更に備え、
前記第2のレーキ部材を回転させることを含む請求項4に記載の有機性汚泥の嫌気性消化方法。
【請求項6】
円筒型で有効深さ8m以上、内径4m以上であり、内部を撹拌するための撹拌手段を備えず、内部で発生する発生ガスの上昇流による混合を利用して嫌気性消化処理を行うように構成される前記消化タンクと、
前記消化タンク内へ投入される有機性汚泥の投入有機物濃度を
5.0~
8.5%に調整できる濃度調整設備と、
濃度調整後の有機性汚泥を投入する投入管と
を備え、
前記消化タンクが、消化日数12日以上で投入有機物容積負荷3.3~6.6kg-VS/m
3・dとなる容量を有することを特徴とする有機性汚泥の嫌気性消化装置。
【請求項7】
円筒型で有効深さ8m以上、内径4m以上の消化タンクと、
前記消化タンクの下部に配置され、前記消化タンクの中心部に鉛直方向に設けられた軸部を中心軸として前記消化タンクの周方向に回転可能な第1のレーキ部材と、
前記消化タンク内へ投入される有機性汚泥の投入有機物濃度を
5.0~
8.5%に調整できる濃度調整設備と、
濃度調整後の有機性汚泥を投入する投入管と
を備え、
前記消化タンクが、消化日数12日以上で投入有機物容積負荷3.3~6.6kg-VS/m
3・dとなる容量を有することを特徴とする有機性汚泥の嫌気性消化装置。
【請求項8】
前記消化タンクの底面が、中心部に形成された凹状の釜場と、前記釜場を取り囲む周縁底面部とを含み、前記周縁底面部が水平面であるか、又は水平面に対して30°以下の傾斜を有するテーパー状を有しており、前記釜場に前記有機性汚泥を引き抜くための引抜管が接続されていることを含む請求項6又は7に記載の有機性汚泥の嫌気性消化装置。
【請求項9】
前記消化タンクが、
前記第1のレーキ部材に接続されたピケットフェンスを更に備えることを含む請求項7に記載の有機性汚泥の嫌気性消化装置。
【請求項10】
前記消化タンク内に投入される前記有機性汚泥の液面近傍に配置され、且つ前記軸部を中心軸として前記消化タンクの周方向に回転可能な第2のレーキ部材を備える請求項9に記載の有機性汚泥の嫌気性消化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性汚泥の嫌気性消化方法及び装置に関し、特に、下水汚泥、し尿汚泥、食品残渣、家畜糞尿等の有機性汚泥を嫌気性消化処理し、エネルギーを回収することが可能な有機性汚泥の嫌気性消化方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下水汚泥、し尿汚泥、食品残渣、家畜糞尿、その他の有機性汚泥及びこれらを含む廃棄物は、それ自体に熱量を持つため、エネルギーとして回収することが可能である。エネルギー回収手法として、有機性汚泥を脱水、乾燥の後、焼却して発生する熱を利用する方法、微生物の作用により有機物をメタンガスに変換するプロセスを利用する嫌気性消化法などが従来から実施されている。しかしながら、いずれの方法も設備にかかる建設コストが高いことや、設備自体で消費されるエネルギーの割合が高くエネルギー回収効率が低いことなどから、十分に普及していないのが実情である。
【0003】
一例として従来の下水汚泥の嫌気性消化設備では、低濃度の下水汚泥を嫌気性消化タンクに導入し、20日以上の消化日数を確保している。そのため、大容量の消化タンクが必要となり建設コストがかかる。更に、その大容量の消化タンク内を加温するためのエネルギーや、タンク内汚泥の沈降防止や均一化のために必要となる撹拌に費やすエネルギーなど、回収したエネルギーの大部分を設備自体で消費するため、投入物の持つエネルギーを有効利用できる割合が低いという問題点がある。
【0004】
これらの問題点を改善するため、最近では投入汚泥を5%程度まで濃縮して減量化することで消化タンク容量を小型化、加温熱量を低減する方法が採用されている。しかしながら、撹拌や加温のための汚泥循環にかかる動力はむしろ従来よりも高くなるため、大幅な改善には至っていない。また、反応速度を高めることによる消化タンクの小型化を目指して、タンク内温度を約50~55℃とする高温消化を採用する例も見られるが、中温消化(約35℃)と比較して、加温に要する熱量が多くなるため、エネルギー回収効率面でのメリットが小さい。
【0005】
撹拌動力を削減する方法として、特許第3406564号公報(特許文献1)及び特開2007-130510号公報(特許文献2)には、嫌気性消化で発生する消化ガスを貯留できる機構をタンク内に設け、貯まったガスを一度にタンク内汚泥に吹き出させることでタンク内汚泥を撹拌する方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第3406564号公報
【文献】特開2007-130510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び2に記載されるような方法はいずれも、タンク内にガスを貯留したり排出したりするための大掛かりな構造物を設置する必要があり、コストがかかる。また、これらの構造物はし渣による閉塞等のトラブルが運用中に発生した場合、その復旧が困難であるか又は非常に大掛かりとなるため、実際の運用には適さない場合が多い。このように、従来の有機性汚泥の嫌気性消化では、大容量の設備を要し、建設コストが高く、設備自体でのエネルギー消費量が多くエネルギー回収効率が低いという問題がある。
【0008】
上記課題を鑑み、本発明は、より小容量で建設コストの低い設備で高効率なエネルギー回収を実現することができ、維持管理上のトラブルの少ない嫌気性消化方法および装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明者らが鋭意検討した結果、嫌気性消化に用いられる消化タンクのサイズと消化タンクに投入される有機性汚泥の性状との関係を適切な範囲に制御することで、撹拌動力を必須とせず、高効率なエネルギー回収を実現でき、維持管理上のトラブルの少ない嫌気性消化方法および装置が得られることを見いだした。
【0010】
以上の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、円筒型で有効深さ8m以上、内径4m以上の消化タンク内に、有機物濃度4.5~9.0%の有機性汚泥を有機物容積負荷3.3~6.6kg-VS/m3・dとなるように投入し、消化日数12日以上で嫌気性消化処理することを含む有機性汚泥の嫌気性消化方法が提供される。
【0011】
本発明に係る有機性汚泥の嫌気性消化方法は一実施態様において、消化タンクの底面が、中心部に形成された凹状の釜場と、釜場を取り囲む周縁底面部とを含み、周縁底面部が水平面であるか、又は水平面に対して30°以下の傾斜を有するテーパー状を有しており、釜場から、嫌気性消化後の有機性汚泥を引き抜くことを含む。
【0012】
本発明に係る有機性汚泥の嫌気性消化方法は別の一実施態様において、消化タンクが、消化タンクの下部に配置され、消化タンクの中心部に鉛直方向に設けられた軸部を中心軸として消化タンクの周方向に回転可能な第1のレーキ部材を備え、第1のレーキ部材を周速10m/min以下で順回転又は逆回転させることを含む。
【0013】
本発明に係る有機性汚泥の嫌気性消化方法は更に別の一実施態様において、消化タンクが、第1のレーキ部材に接続されたピケットフェンスを更に備え、第1のレーキ部材とピケットフェンスとを消化タンク内で回転させることを含む。
【0014】
本発明に係る有機性汚泥の嫌気性消化方法は更に別の一実施態様において、消化タンク内に投入される有機性汚泥の液面近傍に配置され、且つ軸部を中心軸として消化タンクの周方向に回転可能な第2のレーキ部材を更に備え、第2のレーキ部材を回転させることを含む。
【0015】
本発明に係る有機性汚泥の嫌気性消化方法は更に別の一実施態様において、軸部の周囲に配置された円筒状のドラフトチューブを更に備え、消化タンク内の有機性汚泥をドラフトチューブの上方又は下方へと移送させることを更に含む。
【0016】
本発明は別の一側面において、円筒型で有効深さ8m以上、内径4m以上の消化タンクを備え、消化タンク内に有機物濃度4.5~9.0%の有機性汚泥を有機物容積負荷3.3~6.6kg-VS/m3・dとなるように投入し、消化日数12日以上で嫌気性消化処理する有機性汚泥の嫌気性消化装置が提供される。
【0017】
本発明に係る有機性汚泥の嫌気性消化装置は一実施態様において、消化タンクの底面が、中心部に形成された凹状の釜場と、釜場を取り囲む周縁底面部とを含み、周縁底面部が水平面であるか、又は水平面に対して30°以下の傾斜を有するテーパー状を有しており、釜場に有機性汚泥を引き抜くための引き抜き管が接続されていることを含む。
【0018】
本発明に係る有機性汚泥の嫌気性消化装置は別の一実施態様において、消化タンクが、消化タンクの下部に配置され、消化タンクの中心部に鉛直方向に設けられた軸部を中心軸として消化タンクの周方向に回転可能な第1のレーキ部材を備えることを含む。
【0019】
本発明に係る有機性汚泥の嫌気性消化装置は更に別の一実施態様において、消化タンクが、第1のレーキ部材に接続されたピケットフェンスを更に備えることを含む。
【0020】
本発明に係る有機性汚泥の嫌気性消化装置は更に別の一実施態様において、消化タンク内に投入される有機性汚泥の液面近傍に配置され、且つ軸部を中心軸として消化タンクの周方向に回転可能な第2のレーキ部材を備えることを含む。
【0021】
本発明に係る有機性汚泥の嫌気性消化装置は更に別の一実施態様において、軸部の周囲に配置され、消化タンク内の有機性汚泥をドラフトチューブの上方又は下方へと移送させる円筒状のドラフトチューブを更に備えることを含む。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、より小容量で建設コストの低い設備で高効率なエネルギー回収を実現することができ、維持管理上のトラブルの少ない嫌気性消化方法および装置が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施の形態に係る有機性汚泥の嫌気性消化装置の一例を示す概略図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る有機性汚泥の嫌気性消化装置が備える消化タンクの第1変形例を示す概略図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係る消化タンクの第2変形例を示す概略図である。
【
図4】本発明の実施の形態に係る消化タンクの第3変形例を示す概略図である。
【
図5】本発明の実施の形態に係る消化タンクの第4変形例を示す概略図である。
【
図6】本発明の実施の形態に係る消化タンクの第5変形例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。以下の図面の記載においては、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。なお、以下に示す実施の形態はこの発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は、構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。
【0025】
本発明の実施の形態に係る有機性汚泥の嫌気性消化装置は、
図1に示すように、投入原料1の有機物濃度を調整する濃度調整設備2と、濃度調整設備2で調整された投入原料1を嫌気性消化処理する消化タンク4とを備える。
【0026】
投入原料1としては有機性汚泥が用いられる。有機性汚泥としては、例えば、下水汚泥、し尿・浄化槽汚泥、家畜糞尿、食品製造残渣、農業残渣、バイオマスエネルギー回収残渣などや有機性廃液などが利用でき、これらを単一で又は複数種類混合させることができる。これらの中でも有機性廃棄物の収集・運搬に適した管路網が構築されている点から下水汚泥を本実施形態に係る有機性汚泥として利用することが好ましい。
【0027】
濃度調整設備2では、投入原料1である有機性汚泥が、消化タンク4における処理に適切な汚泥濃度に調整される。濃度調整設備2としては、投入原料1を固液分離等によって所定の有機物濃度(Volatile Solids:VS濃度)に濃縮する濃縮手段が利用可能である。濃縮手段としては、重力沈降を利用した重力濃縮、スクリーンやろ布等を利用した、又は遠心分離による機械濃縮が挙げられるが、濃縮できる方法であればこの限りではない。また、濃縮時には添加率1質量%以下の少量の凝集剤を添加しても良い。
【0028】
一方、投入原料1が例えば有機性汚泥の脱水ケーキなどであり、有機物濃度が元々高い原料である場合には、
図2に示すような設備を用いてもよい。即ち、ホッパ21等で受け入れた投入原料1を濃度調整設備2に移送させ、濃度調整設備2において希釈物11と混合し、投入原料1の有機物濃度を調整して消化タンク4に移送するものである。
【0029】
希釈物11としては希釈水及び希釈汚泥を単一で又は組み合わせて利用することができる。希釈水としては、上水、井戸水、下水処理水等が使用可能である。希釈汚泥としては、濃縮前の下水生汚泥、余剰汚泥、浄化槽汚泥の他、消化後の消化汚泥が利用可能である。ただし、消化汚泥を利用する場合は、濃度が高いため大量の消化汚泥を循環させることが必要となること、消化タンク内での見かけの分解率が低下することなどから、水や他の低濃度汚泥と併用することが望ましい。
【0030】
図1及び
図2に示す濃度調整設備2においては、投入原料1のVS濃度が4.5~9.0質量%となるように濃縮される。これにより、後述する消化タンク4での嫌気性消化処理において、消化タンク4内に積極的に攪拌手段等を設けなくとも、汚泥の消化タンク4の底部への沈降を抑制して処理を安定して行うことができ、高効率なエネルギー回収を実現することができる。
【0031】
投入原料1のVS濃度が高すぎると、消化タンク4内の汚泥の粘性が高くなりすぎて処理を安定して行うことが難しくなる。一方、VS濃度が低すぎると、消化タンク4内の汚泥の粘性が低くなるため、消化タンク4内で汚泥の沈降が生じやすくなることから、処理を安定的に進めるために撹拌手段を設ける必要が生じ、消化タンク4を撹拌するための動力が必要となる。
【0032】
本実施形態では、消化タンク4に対する撹拌等に必要な動力を極力減らすために、消化タンク4へ投入する投入原料1のVS濃度を5.0~8.5質量%に調整することがより好ましく、より更に好ましくは6.0~8.0質量%である。
【0033】
投入原料1のVS濃度を濃度調整設備2で上記範囲に予め調整しておくことにより、投入原料1に含まれる粒子の沈降速度を遅くすることができるため、消化タンク4の底部への汚泥の堆積が発生することを抑制することができる。
【0034】
濃度調整設備2においては、有機物濃度を高めるだけでなく固液分離等により消化タンク4へ供給される投入原料1からの異物を予め除去するような処理を行っても良い。これにより、消化タンク4内へ投入される異物量を少なくすることができるため、異物の混入による維持管理上のトラブルの少ない嫌気性消化設備が提供できる。
【0035】
図1に示すように、濃度調整設備2によってVS濃度が調整された有機性汚泥は、消化タンク投入管3を介して消化タンク4の上部から投入される。消化タンク4に投入された有機性汚泥(以下「投入汚泥」ともいう)は消化タンク4内に形成された汚泥層(図示せず)に落下し、汚泥層内で発生・浮上する気泡によって汚泥層内に分散される。消化タンク4内に分散した投入汚泥は、汚泥層内の微生物によって分解され、ガス化される。消化タンク4内で発生した消化ガスは消化ガス管7を通して回収され、加温や発電の燃料として利用される。
【0036】
消化タンク4内の汚泥は約35℃の中温に加温されており、投入汚泥に含まれる有機物が消化タンク4内の汚泥に含まれる微生物の作用によって嫌気的に分解され、水、アンモニア性窒素、二酸化炭素、メタンガスへと変換される。消化タンク4内の温度は高すぎると消化タンク4の加温に要する熱量が多くなる面でエネルギー回収効率面でのメリットは小さいが、本実施形態において高温領域(約50~55℃)に調整することも勿論可能である。
【0037】
消化タンク4へ投入される有機性汚泥は、その有機物容積負荷が高すぎると、分解しきれない有機物が蓄積してゆき、結果として系を維持することが困難になる場合があり、一方、有機物容積負荷が低すぎると、発生ガス量が少なくなり、消化タンク4内の汚泥の撹拌・均一化が不十分となり、有機物の分解効率が低下する場合がある。よって、消化タンク4へ投入される有機性汚泥の有機物容積負荷は、3.3~6.6kg-VS/m3・dとなるように消化タンク4へ投入されることが好ましく、より好ましくは4.0~6.0kg-VS/m3・dであり、更に好ましくは4.5~5.5kg-VS/m3・dである。
【0038】
本実施形態において、有機性汚泥として例えば、下水消化汚泥を用いた場合を例にあげると、有機物の分解・ガス化の反応は模式的に以下の式(1)で表される。
【0039】
【0040】
この反応により、投入汚泥中の有機物の約50%が分解・ガス化されるため、消化タンク4内の汚泥(消化汚泥)のVS濃度は2.25~4.5%程度となる。投入汚泥のVS濃度がこれより低い場合、消化タンク4内の汚泥の粘度が低くなることにより汚泥中の固形物が沈降・分離しやすくなり、それを防ぐための撹拌手段が別途必要となる。一方、投入汚泥のVS濃度が高すぎる場合には、逆に消化タンク4内の汚泥の粘度が高くなり、汚泥の均一化や気泡の浮上が阻害されること、及び原料の性状によっては下水消化汚泥中のアンモニア性窒素濃度が高くなることによる消化阻害が発生する可能性がある。
【0041】
嫌気性消化反応による消化タンク4からの消化タンク容量あたりのガス発生量E(Nm3/m3・d)は、投入汚泥中の有機物あたりの消化ガス発生量E0が0.5Nm3/kg-VS程度であることが過去の実績および発明者らの実験結果から明らかとなっている。そのため、ガス発生量Eは式(2)のように表される。
【0042】
【数2】
ここで、
Q:1日あたりの消化タンクへの汚泥投入量(m
3/d)
C
0:消化タンク投入汚泥VS濃度(kg/m
3)
V:消化タンク有効容量(m
3)
【0043】
一方、消化タンク容量V(m3)は、消化日数をT(d)とすると、
V=Q×T ・・・(3)
であるから、式(2)は
【0044】
【数3】
と表される。
次に消化タンク投入有機物容積負荷(kg-VS/m
3・d)をL
VSとすると、
【0045】
【数4】
であるから、式(4)は
E=0.5×L
VS ・・・(6)
となる。
【0046】
消化タンク4への有機物容積負荷が3.3~6.6kg-VS/m3・dとなるように投入量、消化タンク容量を設定すると、式(6)より消化タンク4容積あたりのガス発生量Eは1.65~3.3Nm3/m3・dとなる。有機物容積負荷は、この範囲以下では投入汚泥を分散・混合させるのに十分なガス発生量が得られず、この範囲以上では実験の結果、過負荷のため系を維持することが困難な場合がある。なお、従来の下水汚泥の嫌気性消化法においては、投入有機物容積負荷は1~3kg-VS/m3・d程度が一般的であり、消化タンク容積あたりのガス発生量は最大でも1.5Nm3/m3・d程度である。
【0047】
消化日数は短いほど有機物容積負荷は高められるが、12日未満では反応に必要な菌体量をタンク内に保持できない場合がある。そのため、12日以上、より具体的には12~25日、更に好適には13~18日程度の消化日数を確保できるタンク容量が必要である。
【0048】
反応の過程で発生する消化ガス(二酸化炭素とメタンの混合ガス)は気泡となり消化タンク4内の汚泥層内を浮上して、消化タンク4上部の気相部に移行する。投入汚泥と消化タンク4内の汚泥の混合は基本的にこの浮上する発生ガスに伴う上昇流によって行われる。気泡の発生は消化タンク4内の汚泥層全体で概ね均一に起こり、発生した気泡は汚泥層内を浮上するため、上部ほど気泡の容量は多くなる。
【0049】
消化タンク4の有効深さをh1(m)(
図1参照)とすると、消化タンク内汚泥層で発生・浮上して汚泥液面を通過する面積あたりの消化ガス量は、E×h1(Nm
3/m
2・d)であり、この値は消化タンク有効深さh1によって決まる。
【0050】
上記観点から種々検討した結果、発明者らは、この値が13Nm3/m2・d以上となる高さを備えていれば、消化タンク4内に攪拌手段を積極的に配置しなくとも、消化タンク4内で発生するガスにより充分に汚泥の撹拌が認められることを確認した。即ち、円筒型で有効深さh1が8m以上の消化タンク4を用いることによって、消化タンク4の上部から投入される投入汚泥が発生ガスにより十分に分散することを確認した。
【0051】
一方、消化タンク4の内径D1が小さい場合は汚泥層断面に対して壁面の割合が高くなるため気泡の円滑な浮上が阻害され、投入汚泥とタンク内汚泥との混合が不十分となることが解った。発明者らの検証によれば、タンク内面周長l(m)に対する断面積A(m
2)の比A/lが1以上となる径、即ち、消化タンク4の内径D1(
図1参照)を4m以上とすることにより、消化タンク4の壁面による気泡浮上の阻害の影響が解消されることを確認した。
【0052】
したがって、使用する消化タンク4のサイズとしては、円筒型で有効深さh1が8m以上、内径D1が4m以上の容器を用いることが好ましい。消化タンク4の有効深さh1は10m以上がより好ましく、内径D1は5m以上がより好ましい。
【0053】
一方で、消化タンク4は大きすぎると維持管理の労力及びコストが上がるとともに建設コストが高くなるなどの問題が発生することから、有効深さh1は50m以下とすることができ、より具体的には30m以下とすることが好ましい。同様に、消化タンク4の内径D1は30m以下とすることができ、より具体的には20m以下とすることができる。
【0054】
投入汚泥によっては粒径が大きく密度の高い異物が含まれる場合がある。そのため、消化タンク4の底面が、中心部に形成された凹状(又は消化タンク4の下部に向けて突出する凸状)の釜場5と、釜場5を取り囲む周縁底面部51とを含み、周縁底面部51が水平面であるか、又は周縁底面部51が水平面に対して角度α=30°以下の傾斜(
図1参照)を有するテーパー状を有していることが好ましい。これにより、消化タンク4内の異物や底面に堆積する有機性汚泥を釜場5へ集めやすくすることができる。更に、釜場5には異物や有機性汚泥を消化タンク4の外部へ引き抜くための引抜管(消化汚泥引抜管)6が接続されることが好ましい。これにより、消化タンク4に含まれる異物を消化汚泥とともに引き抜くことができ、設備のメンテナンスの少ない嫌気性消化装置が提供できる。
【0055】
消化タンク4内で発生する消化ガスによる消化タンク4内の有機性汚泥の混合を充分に進めるとともに、異物や有機性汚泥を釜場5へ効率良くかき集めるためには、釜場の内径D2を、消化タンク4の内径D1の1/10~1/5倍程度とすることが好ましく、釜場の有効深さh2を、1~2mとすることが好ましい。これにより、より小容量で建設コストの低い設備で高効率なエネルギー回収を実現することができ、維持管理上のトラブルの少ない嫌気性消化方法および装置が提供できる。
【0056】
また、
図3に示すように、消化タンク4が、消化タンク4の中心部に鉛直方向に設けられた軸部8を中心軸として消化タンク4の周方向に回転可能な第1のレーキ部材9Aを備えることが好ましい。第1のレーキ部材9Aは、消化タンク4の下部、より具体的には消化タンク4の底面に近接して設けられている。軸部8の下端は釜場5に収容されている。軸部8の上端には軸部8に回転動力を付与するためのモータ81が接続されている。
【0057】
第1のレーキ部材9Aは、消化タンク4の中心に配置された軸部8に接続され、消化タンク4の径方向に延伸し、軸部8を中心軸として回転可能なレーキアーム9aと、レーキアーム9aに接続された1又は複数のレーキ板9bを備える。レーキ板9bは、消化タンク4の底部の異物又は有機性汚泥を順回転で中心側に掻き寄せる角度、例えば、レーキアーム9aに対して10~45°傾斜させて取り付けられており、底部とのクリアランスが20mm以下となるように配置されている。第1のレーキ部材9Aを備えることにより、有機性汚泥として密度が高い粒子やサイズの大きいし渣等が混合する投入原料1が投入されて消化タンク4の底部に異物が堆積する場合に、異物を掻き寄せて有機性汚泥とともに消化タンク4の外部へ排出させやすくすることができる。
【0058】
第1のレーキ部材9Aの回転速度は、周速10m/min以下とすることが好ましく、より好ましくは5m/min以下、更に好ましくは3m/min以下である。従来法では、汚泥粒子自体の沈降防止も含めて、消化タンク4内を強く撹拌することで、消化タンク4底部への異物の堆積を抑制してきていた。本発明では、汚泥粒子が沈降することがないため撹拌手段を消化タンク4内に配置する必要は基本的にはない。しかしながら、汚泥の性状によって消化タンク4底部への堆積物が発生しやすい原料である場合には、第1のレーキ部材9Aを順方向に回転させることによって、異物を釜場5へ掻き寄せ、有機性汚泥とともに消化タンク4の外部へ排出させやすくすることができる。これにより、し渣等による閉塞等のトラブルが運用中に発生することを抑制でき、維持管理上のトラブルの少ない嫌気性消化方法および装置が提供できる。本発明の実施の形態によれば、第1のレーキ部材9Aを周速10m/min以下の低速で回転させることにより、従来の撹拌手段にくらべて小さい動力で消化タンク4内に液流を生じさせることができる。
【0059】
異物の排出の必要がなく、消化タンク4内の汚泥のVS濃度が何らかの原因で低くなり過ぎた場合等は、逆回転で運転することで、消化タンク4内の汚泥の低濃度化防止を図ることが可能である。
【0060】
第1のレーキ部材9Aの回転方向は、図示しない制御装置或いは手動で制御することが可能である。順回転、逆回転の切り替えのタイミングとしては、例えば、消化タンク4の上部から投入汚泥を投入する際には第1のレーキ部材9Aを逆回転で回転させ、消化タンク4内の汚泥に液流を生じさせるようにする。投入汚泥の投入後、消化タンク4内の処理状態が安定した後に、第1のレーキ部材9Aを順回転で回転させるように切り替える。これにより、処理を安定的に進めることができるとともに、消化タンク4内の異物の消化タンク4底部への堆積を効果的に抑制することができる。
【0061】
図3に示すように、消化タンク4は、第1のレーキ部材9Aの上方に接続されたピケットフェンス10を更に備えることができ、第1のレーキ部材9Aとピケットフェンス10とを消化タンク内で同時に回転させるようにすることが好ましい。
【0062】
ピケットフェンス10は、消化タンク4内での嫌気性消化により発生する消化ガスをタンク内で分散させるために用いられる装置であり、図示されるような格子形状の他に、鉛直方向に延伸する複数の棒がレーキアーム9aの長手方向に沿ってそれぞれ間隔を有して配置されるような、くし形状を有していても良い。レーキアーム9aに消化タンク4内の全高または一部の汚泥にあたるピケットフェンス10を取付けることによって、汚泥層内の気泡の浮上をスムーズにし、汚泥層内の混合状態を促進することが可能である。
【0063】
投入汚泥の性状や濃度によっては液面に浮上した気泡が破裂しにくく、液面に徐々に蓄積し、乾燥・固化するケースがある。このような場合は、
図4に示すように、消化タンク4内に投入される有機性汚泥の液面近傍に配置され、且つ軸部8を中心軸として消化タンク4の周方向に回転可能な第2のレーキ部材9Bを更に備え、第2のレーキ部材9Bを順方向又は逆方向に回転させることが好ましい。
【0064】
液面付近に第2のレーキ部材9Bを設置し、液面の気泡の付着した汚泥を掻き寄せることで、液面の固化、堆積を防ぐことができる。また、液面付近に配置された第2のレーキ部材9Bのレーキ板9bによる汚泥の掻き寄せ方向を、第1のレーキ部材9Aのレーキ板9bの汚泥の掻き寄せ方向と逆にすることにより、消化タンク4内全体の汚泥を緩慢に循環させることができ、より良好な混合状態を維持することが可能となる。
【0065】
図5に示すように、軸部8の周囲に配置された円筒状のドラフトチューブ12を更に備え、消化タンク4内の有機性汚泥をドラフトチューブの上方又は下方へと移送させることにより、タンク内汚泥の循環を促進することも可能である。ドラフトチューブ12の中心軸は、第1及び第2のレーキ部材9A、9Bと同一であり、ドラフトチューブ12の径はタンク内径D1の1/10~1/5程度とすることができる。ドラフトチューブ12の内部には撹拌羽根13が配置されている。ドラフトチューブ12内に汚泥を巻き込んで、鉛直方向に汚泥を移送させることが可能である。
【0066】
また、
図6に示すように、消化タンク4を加温する際は、消化タンク4の下部(消化タンク4の高さ1/5~1/2程度)の周囲を加温装置16で覆い、加温装置16内に配管14を介して温水などを供給して配管15から排出させるような構成を採用してもよい。
【0067】
本発明の実施の形態に係る有機性汚泥の嫌気性消化方法及び嫌気性消化装置によれば、従来と比較して大幅な消化タンクの小型化が実現され、同時に低コスト化が図れる。また、設備でのエネルギー消費量も、従来に比べて低減でき、エネルギー回収効率の画期的な改善が実現可能である。また、原料となる有機性汚泥はカーボンニュートラルな原料であり、現在のところエネルギーとしての利用率が低いため、本発明が広く採用されることによりエネルギー需給の逼迫や温室効果ガスの排出削減等の問題解決に大きく貢献できるものと考えられる。
【実施例】
【0068】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。なお、本発明の説明において「%」は、特に説明のない限り、質量%を意味するものとする。
【0069】
図4に示す消化タンク4を利用して、嫌気性消化処理を行った。使用した消化タンクの仕様を表1に示す。有機性汚泥として下水処理場の混合生汚泥(重力濃縮汚泥)を使用した。性状を表2に示す。
【0070】
【0071】
【0072】
原料汚泥に高分子凝集剤を添加して濃縮スクリーンで濃縮した汚泥を消化タンク投入汚泥とした。凝集剤注入率は0.5%(対TS)とし、濃縮汚泥(消化タンク投入汚泥)はTS濃度が約8%となるように設定した。消化タンクの運転条件を表3に示す。
【0073】
【0074】
この条件で1年以上の連続消化運転を行った。運転結果を表4に示す。表4に示すように、期間を通して消化汚泥中の有機酸の蓄積によるpH低下やアンモニア阻害による消化不良は見られず、良好な汚泥の分解(VS分解率:53%)、消化ガスの発生(ガス発生率:520Nm3/t-VS)が継続して行えたことを確認した。
【0075】
消化タンク容積あたりのガス発生率は従来法では最大で1.5Nm3/m3・d程度であったが、本法では2.3Nm3/m3・dと大幅に増大できることが確認された。また、レーキ部材の動力密度は1W/m3以下であり、従来の消化タンク攪拌機と比較して同等以下であった。これらの結果から、本発明によって消化タンクの小容量化による建設コストの低減が可能であること、消化設備での消費エネルギーの低減による有効利用可能エネルギーの増大が可能であることが示された。なお、期間を通して極端な発泡による消化ガス管の閉塞やスカムの堆積も見られなかった。
【0076】
【0077】
運転完了後に消化タンク内汚泥を全量引き抜き、内部を確認した結果、底部への汚泥や異物の堆積は見られず、デッドスペースが形成されることなく消化タンク内全体が有効に機能を発揮していたことが確認された。
【符号の説明】
【0078】
1…投入原料(有機性汚泥)
2…濃度調整設備
3…消化タンク投入管
4…消化タンク
5…釜場
6…消化汚泥引抜管
7…消化ガス管
8…軸部
9A…第1のレーキ部材
9B…第2のレーキ部材
9a…レーキアーム
9b…レーキ板
10…ピケットフェンス
11…希釈物
12…ドラフトチューブ
13…撹拌羽根
21…ホッパ
51…周縁底面部