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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-29
(45)【発行日】2022-08-08
(54)【発明の名称】安定な医薬フォーム
(51)【国際特許分類】
   A61L 15/42 20060101AFI20220801BHJP
   A61L 15/32 20060101ALI20220801BHJP
   A61L 15/44 20060101ALI20220801BHJP
   A61K 38/36 20060101ALI20220801BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20220801BHJP
【FI】
A61L15/42 310
A61L15/32 100
A61L15/44 100
A61K38/36
A61K47/42
【請求項の数】 38
(21)【出願番号】P 2019536003
(86)(22)【出願日】2017-09-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-09-19
(86)【国際出願番号】 IL2017000007
(87)【国際公開番号】W WO2018051325
(87)【国際公開日】2018-03-22
【審査請求日】2020-09-11
(31)【優先権主張番号】247810
(32)【優先日】2016-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IL
(31)【優先権主張番号】62/394,371
(32)【優先日】2016-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511203455
【氏名又は名称】オムリックス・バイオファーマシューティカルズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Omrix Biopharmaceuticals Ltd.
(73)【特許権者】
【識別番号】512080321
【氏名又は名称】エシコン・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Ethicon, Inc.
【住所又は居所原語表記】P.O. Box 151, U.S. Route 22, Somerville, NJ 08876, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】アウアーバッハ-ニーボー・タマル
(72)【発明者】
【氏名】ディーングリス・アシュリー
(72)【発明者】
【氏名】ヌル・イスラエル
【審査官】山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭53-058982(JP,A)
【文献】特表2014-518250(JP,A)
【文献】特表2015-535192(JP,A)
【文献】International Food Research Journal,2015年,22(2) ,p.651-660
【文献】Food Hydrocolloids,1989年,Vol.3 No.3,p.163-174
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00
A61K 9/00
A61K 47/00
A61K 38/36
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬フォーム組成物を調製するための方法であって、水溶液中の全長タンパク質の酵素加水分解によって調製されるペプトンの溶液を、気体を用いて発泡させる工程を含み、
前記ペプトンの前記溶液が、前記全長タンパク質を含まず、
前記ペプトンが、前記医薬フォーム組成物の約1.5%(w/v)より高く、約18.0%(w/v)より低い濃度で前記医薬フォーム組成物中に存在し、
前記医薬フォーム組成物は、前記ペプトンと混合されたフィブリンを含み、
組織に対する前記医薬フォーム組成物の平均接着力は、約1550Pa~約9300Pa(約1N/インチ~約6N/インチ の範囲であ
前記全長タンパク質は、カゼイン又はゼラチンである、方法。
【請求項2】
前記医薬フォーム組成物が、安定な乾燥していないフォームである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ペプトンが、11.7kDa超のサイズのペプチドを欠き、10.0kDa未満のサイズのペプチドを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ペプトンの前記溶液が乾燥状態で与えられ、調製前に、水を含む溶液で再構築される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記酵素加水分解が、前記全長タンパク質を加水分解して、10.0kDa未満のサイズのペプチドを含む前記ペプトンを生成する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記発泡させる工程の前に、前記ペプトンの前記溶液から、11.7kDa超のサイズのペプチドを除去することをさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
前記発泡させる工程の前に、前記ペプトンの前記溶液から、10kDa超のサイズのペプチドを除去することをさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
前記全長タンパク質が、2種類以上のタンパク質の組み合わせである、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記全長タンパク質が、1種類のタンパク質である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記全長タンパク質がカゼインである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記全長タンパク質がゼラチンである、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記酵素加水分解が、セリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、トレオニンプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、グルタミン酸プロテアーゼ、メタロプロテアーゼ、およびこれらの組み合わせからなる群から選択されるプロテアーゼを用いて行われる、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記ペプトンが、約1%(w/v)より高く、約40%(w/v)より低い濃度で、前記ペプトンの前記溶液中に存在する、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記ペプトンが、約5%(w/v)より高く、約25%(w/v)より低い濃度で、前記溶液中に存在する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記酵素加水分解の完了後に、酵素を不活性化する工程をさらに含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記発泡させる工程の前に前記ペプトンの前記溶液にフィブリノーゲンを加えることをさらに含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
フィブリノーゲンが、前記ペプトンの前記溶液の1%(w/v)から約30%(w/v)までの範囲の濃度で加えられる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記医薬フォーム組成物にトロンビンを加えることをさらに含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記トロンビンが、前記医薬フォーム組成物の約0.1IU/mL~約100IU/mLの濃度で加えられる、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
医薬フォーム組成物であって、全長タンパク質の酵素加水分解物であるペプトンを含み、
前記医薬フォーム組成物が、前記全長タンパク質を含まず、
前記ペプトンが、前記医薬フォーム組成物の約1.5%(w/v)より高く、約18.0%(w/v)より低い濃度で前記医薬フォーム組成物中に存在し、
前記医薬フォーム組成物は、前記ペプトンと混合されたフィブリンを含み、
組織に対する前記医薬フォーム組成物の平均接着力は、約1550Pa~約9300Pa(約1N/インチ~約6N/インチ の範囲であ
前記全長タンパク質は、カゼイン又はゼラチンである、医薬フォーム組成物。
【請求項21】
前記ペプトンが、11.7kDa超のサイズのペプチドを欠いている、請求項20に記載の医薬フォーム組成物。
【請求項22】
前記ペプトンが、10.0kDa未満のサイズのペプチドを含む、請求項21に記載の医薬フォーム組成物。
【請求項23】
前記全長タンパク質が、2種類以上の全長タンパク質の組み合わせである、請求項20~22のいずれか一項に記載の医薬フォーム組成物。
【請求項24】
前記全長タンパク質が、1種類の全長タンパク質である、請求項20~22のいずれか一項に記載の医薬フォーム組成物。
【請求項25】
前記全長タンパク質が、カゼインである、請求項24に記載の医薬フォーム組成物。
【請求項26】
前記全長タンパク質が、ゼラチンである、請求項24に記載の医薬フォーム組成物。
【請求項27】
前記医薬フォーム組成物が、安定な乾燥していないフォームである、請求項20~26のいずれか一項に記載の医薬フォーム組成物。
【請求項28】
前記酵素加水分解物が、セリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、トレオニンプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、グルタミン酸プロテアーゼ、メタロプロテアーゼ、およびこれらの組み合わせからなる群から選択されるプロテアーゼによる加水分解物である、請求項20~27のいずれか一項に記載の医薬フォーム組成物。
【請求項29】
前記医薬フォーム組成物が、前記医薬フォーム組成物の約0.1mg/mL~約10mg/mLの範囲の濃度でフィブリンを含む、請求項20~28のいずれか一項に記載の医薬フォーム組成物。
【請求項30】
前記医薬フォーム組成物が、前記医薬フォーム組成物の約2.3mg/mL~約7mg/mLの範囲の濃度でフィブリンを含む、請求項20~28のいずれか一項に記載の医薬フォーム組成物。
【請求項31】
トロンビンをさらに含む、請求項20~30のいずれか一項に記載の医薬フォーム組成物。
【請求項32】
前記医薬フォーム組成物が、前記医薬フォーム組成物の約0.1IU/mL~約100IU/mLの範囲の濃度でトロンビンを含む、請求項31に記載の医薬フォーム組成物。
【請求項33】
請求項20~32のいずれか一項に記載の医薬フォーム組成物を含む容器と、前記ペプトンを発泡させるためのデバイスと、場合により、前記酵素加水分解を受けるもの以外の全長タンパク質と、を含む、キット。
【請求項34】
前記酵素加水分解を受けるもの以外の全長タンパク質がフィブリノーゲンである、請求項33に記載のキット。
【請求項35】
トロンビンを含む容器をさらに含む、請求項34に記載のキット。
【請求項36】
前記ペプトンが、10.0kDa未満のサイズのペプチドを含む、請求項33~35のいずれか一項に記載のキット。
【請求項37】
請求項20~32のいずれか一項に記載の医薬フォーム組成物を調製するための方法であって、水溶液中の全長タンパク質の酵素加水分解によって調製されるタンパク質加水分解物の溶液を、気体を用いて発泡させる工程を含み、前記溶液が、前記全長タンパク質を含まない、方法。
【請求項38】
請求項20~32のいずれか一項に記載の医薬フォーム組成物を調製するための方法であって、水溶液が全長タンパク質を含まなくなるまで、前記水溶液中で前記全長タンパク質を酵素加水分解し、それによって、ペプトンまたはタンパク質加水分解物の溶液を得ることと、気体を用いて前記ペプトンまたはタンパク質加水分解物の溶液を発泡させることと、を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬フォーム、例えば、タンパク質の酵素加水分解によって調製されるペプトンを含む医薬フォームの分野に関する。
【背景技術】
【0002】
フォームは、液体に気体を分散させることによって形成され、その結果、液体中に気泡が取り込まれ、液体の薄い膜が気体領域を分離している物質である。
【0003】
溶解した粒子を含まない純粋な液体(例えば、100% HO)は泡立たず、そのため、液体の表面張力を下げるために界面活性剤の添加が一般的に必要であり、これにより気体と液体を混合して、安定なフォームを形成することができる。界面活性剤は、通常、両親媒性の性質を有し(すなわち、親水性基と親油性基の両方を有する)、長い疎水性鎖を有する。
【0004】
全長タンパク質から調製され、界面活性剤として作用するフォームが知られている。必要な界面活性剤の特徴をもたらすために、全長タンパク質を変性する必要がある。フォームを調製するために、変性したタンパク質の鎖がミセルを形成することができ、その中に気体(例えば空気)が捕捉される両親媒性薬剤(すなわち、親水性基と親水性基の両方を有する分子)が必要とされる。この特徴によって、液体内で安定な気泡を生成させることができる。
【0005】
フォームは、例えば、食品産業で、または消火フォームとして、工業的に広く用いられている。多種多様な医学的処置および外科的処置において、例えば、表面の保護、薬物の送達をもたらすために、または多くの外科的処置のための障壁として機能するように、フォームは、潜在的に有用である。液体フォームの使用によって、最小量の液体で大きな面積を迅速かつ効率的に被覆することが可能となる。
【0006】
大部分の外科的処置にとって、使用するフォームが強く耐久性がなければならないことが不可欠である。フォームの強度は、フォームを圧縮するために必要な力(すなわち、圧縮強度)として表され得、圧縮強度は、ゼラチンゲル強度(ブルーム値)を決定するために行われるのと同様の方法を用い、InstronまたはLloydによって製造されるようなデバイスを用いて測定することができる。ブルーム値は、所与のサンプル領域を距離4mmだけ圧縮するのに必要な力(グラム単位での重量)の指標である。ブルーム値が大きいほど、強いゲルであることを示す。ブルーム値は、平均分子量に比例する。低いブルーム値(50~125)は、20,000~25,000の平均分子量に相関しており、中程度のブルーム値(175~225)は、40,000~50,000の平均分子量に相関しており、一方、高いブルーム値(225~325)は、50,000~100,000の平均分子量に相関している。
【0007】
背景技術は、米国特許第8,778,883号、同第8,512,740号、同第8,753,670号、同第8,741,335号、同第2,492,458号、同第6,454,787号、同第8,603,543号、同第6,730,299号、国際公開第2014/086996号、同第2014/071053号、同第2010/088469号、および欧州特許第1257304号に含まれる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、そのいくつかの態様では、全長タンパク質の酵素加水分解によって調製されるペプトンを含む医薬(すなわち、医学および/または外科的用途のための)フォーム組成物であって、フォームが全長タンパク質を含まない、医薬フォーム組成物に関する。
【0009】
本発明の態様および実施形態は、本明細書では以下に、また、添付の特許請求の範囲に記載される。
【0010】
全長タンパク質から作られるゲルについて、ゲルの圧縮力は、タンパク質の平均分子量に正比例することが一般的に知られている。分子量が圧縮力に及ぼす影響のこの特徴は、変性したタンパク質によって調製されるフォームに相関し得る。
【0011】
本願発明者らは、驚くべきことに、短い長さのペプチド(例えば、90個以下のアミノ酸のペプチド)を含むペプトンを使用して、より大きな平均分子量を有する均一な全長タンパク質から製造される既知のフォームと比較して、高いフォーム圧縮強度などの優れた性質を有する安定なフォームを製造することができることを発見した。
【0012】
一般的に、ペプトンは、ペプチドフラグメントを得るための異なる供給源(例えば、ゼラチン、カゼインまたはタンパク質混合物)から誘導される全長タンパク質から調製され得る。ペプチドフラグメントは、アミド結合によって連結するアミノ酸モノマーの短鎖である。ペプトンは、全長タンパク質の酵素加水分解、酸加水分解および/またはアルカリ加水分解による方法などの異なる方法によって得ることができる。
【0013】
最も短いペプチドは、1個のペプチド結合によって結合する2個のアミノ酸からなるジペプチドであり得る。
【0014】
本発明で使用されるペプトンは、全長タンパク質の酵素加水分解/消化によって作られる、ペプチドと、場合により遊離アミノ酸と、を含む水溶性混合物である。いくつかの実施形態において、ペプトンは、遊離アミノ酸を欠いている。
【0015】
本発明のある態様では、医薬フォーム組成物であって、全長タンパク質の加水分解によって調製されるペプトンを含み、このフォームが、全長タンパク質を含まない、医薬フォーム組成物が提供される。
【0016】
本発明のさらなる態様によれば、医薬フォーム組成物であって、全長タンパク質の酵素加水分解によって調製されるペプトンを含み、このフォームが、全長タンパク質を含まない、医薬フォーム組成物が提供される。
【0017】
本発明のさらなる態様では、医薬フォーム組成物であって、全長タンパク質の酵素消化によって調製されるペプトンを含み、このフォームが、全長タンパク質を含まない、医薬フォーム組成物が提供される。
【0018】
本発明のさらなる態様では、医薬フォーム組成物であって、全長タンパク質の酵素加水分解によって調製されるタンパク質加水分解物を含み、このフォームが、全長タンパク質を含まない、医薬フォーム組成物が提供される。
【0019】
本明細書で使用される場合、「加水分解物」との用語は、加水分解によって作られる物質を指す。「加水分解」との用語は、通常、水を添加することによる化学結合の開裂を意味する。いくつかの実施形態では、「タンパク質加水分解」との用語は、タンパク質の、さらに小さなペプチドおよび遊離アミノ酸への破壊に関連する。いくつかの実施形態では、「タンパク質加水分解」との用語は、ペプチド結合の加水分解によるタンパク質の破壊に関連する。「タンパク質加水分解物」との用語は、典型的にはペプチドと遊離アミノ酸とを含むタンパク質の加水分解産物を指す。
【0020】
本発明の以下の態様では、ペプトンまたはタンパク質加水分解物は、酵素消化されたタンパク質または酵素加水分解されたタンパク質を含む。
【0021】
本明細書に開示する医薬フォーム組成物のいずれかのいくつかの実施形態では、ペプトン、タンパク質加水分解物または酵素加水分解されたタンパク質は、11.7kDaより大きいサイズのペプチドを欠いている。
【0022】
いくつかの実施形態では、ペプトン、タンパク質加水分解物または酵素加水分解されたタンパク質は、10.0kDa未満のサイズのペプチドを含む。
【0023】
いくつかの実施形態では、ペプトン、タンパク質加水分解物または酵素加水分解されたタンパク質、例えば、ゼラチンから調製されるペプトンまたはタンパク質加水分解物または酵素加水分解されたタンパク質は、主に、10.0kDa未満(約90以下のアミノ酸)の鎖長、例えば、約1000Da~約10kDa、約300Da~約500Da、またはさらに300Da未満の鎖長からなる。
【0024】
一実施形態では、ペプトン、タンパク質加水分解物または酵素加水分解されたタンパク質は、長く連続しており、分岐していないペプチド鎖であるペプチドを含む。
【0025】
一実施形態では、ペプトン、タンパク質加水分解物または酵素加水分解されたタンパク質は、約90以下のアミノ酸のペプチドを含む。
【0026】
いくつかの実施形態では、加水分解される全長タンパク質は、2種類以上の全長タンパク質の組み合わせである。
【0027】
いくつかの実施形態では、加水分解される全長タンパク質は、1種類の全長タンパク質である。
【0028】
いくつかの実施形態では、加水分解される全長タンパク質は、ミルクタンパク質(例えばカゼイン)、コラーゲン由来タンパク質(例えばゼラチン)、卵タンパク質、血液タンパク質(例えばアルブミン)、酵母タンパク質、植物タンパク質、またはこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0029】
いくつかの実施形態では、加水分解される全長タンパク質は、カゼインおよびゼラチンからなる群から選択される。
【0030】
いくつかの実施形態では、フォームは安定である。
【0031】
いくつかの実施形態では、酵素加水分解は、セリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、トレオニンプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、グルタミン酸プロテアーゼ、メタロプロテアーゼ、およびこれらの組み合わせからなる群から選択されるプロテアーゼの使用を含む。
【0032】
いくつかの実施形態では、ペプトン、タンパク質加水分解物または酵素加水分解されたタンパク質は、フォーム中に、フォームの約0.05%(w/v)より高く、約20%(w/v)より低い濃度で、例えば、フォームの約1.5%(w/v)より高く、約18.0%(w/v)より低い濃度で、またはフォームの約1.66%(w/v)より高く、約17.86%(w/v)より低い濃度で存在する。
【0033】
いくつかの実施形態では、医薬フォーム組成物は、さらに、フィブリンおよび/またはフィブリノーゲンを、場合によりフォームの約0.1mg/mL~約10mg/mLの範囲の濃度で、例えば、フォームの約2.3mg/mL~約7mg/mLの範囲の濃度で含む。
【0034】
いくつかの実施形態では、医薬フォーム組成物は、さらに、トロンビンを、場合によりフォームの約0.1IU/mL~約100IU/mLの範囲の濃度で含む。
【0035】
本発明のさらなる態様によれば、医薬フォーム組成物を調製するための方法であって、水溶液中の全長タンパク質の酵素加水分解によって調製されるペプトン、ペプチド加水分解物または酵素加水分解されたタンパク質の溶液を、気体を用いて発泡させる工程を含み、ペプトン、ペプチド加水分解物または酵素加水分解されたタンパク質の溶液が、全長タンパク質を含まない、方法が提供される。
【0036】
本発明のさらなる態様によれば、医薬フォーム組成物を調製するための方法であって、ペプトン、ペプチド加水分解物または酵素加水分解されたタンパク質の液体溶液(ペプトンまたはペプチド加水分解物の液体溶液は、液体水溶液中の全長タンパク質の酵素加水分解によって調製される)を、気体を用いて発泡させる工程を含み、ペプトン、ペプチド加水分解物または酵素加水分解されたタンパク質の溶液が、全長タンパク質を含まない、方法が提供される。
【0037】
本明細書で使用される場合、「発泡」との用語は、液体溶液と気体とを混合することによってフォームを調製するプロセスを指す。
【0038】
発泡は、手動で達成されても自動的に達成されてもよい。例えば、発泡は、互いに流体連通した2つの容器(例えば2つのシリンジ)を準備し、ここで、液体溶液が、2つの容器のうちの第1の容器内に存在し、気体(例えば空気)が、2つの容器のうちの第2の容器内に存在することと;第1のシリンジからの液体を第2のシリンジ内の気体へと流すか、または第2のシリンジからの気体を第1のシリンジからの液体に流すことと;次いで、フォームが達成されるまで、2つのシリンジ間で液体と気体を流すことと、によって達成され得る。
【0039】
例えば、発泡は、互いに流体連通した2つの容器(例えば2つのシリンジ)を準備し、ここで、再構築のための液体が、2つの容器のうちの第1の容器内に存在し、気体(例えば空気)が、ペプトン粉末またはタンパク質加水分解物と共に、2つの容器のうちの第2の容器内に存在することと;第1のシリンジからの液体を第2のシリンジ内の気体へと流すか、または第2のシリンジからの気体を第1のシリンジからの液体に流すことと;次いで、フォームが達成されるまで、2つのシリンジ間で液体と気体を流すことと、によって達成され得る。
【0040】
あるいは、気体を液体と接触させるための操作機構が作動されるまでは、気体と流体連結していない密封された容器内で、液体溶液が提供されてもよい。このような機構は、例えば、ポンプデバイスまたは密封された容器の密封を壊すための機構を含み得る。
【0041】
一実施形態では、2つのシリンジ間に液体を流すのは、少なくとも6回行われる。
【0042】
本明細書で使用される場合、「水溶液」との用語は、水と、水に溶解した少なくとも1種類の溶質と、を含む溶液を指す。一実施形態において、この用語は、油を含むエマルションまたは溶液を除外することを意図している。
【0043】
エマルションは、通常は不混和性(混合不可能またはブレンド不可能)な2種類以上の液体の混合物である。
【0044】
「液体」は、例えば、容器の形状に沿うが、圧力とは独立して(ほぼ)一定の体積を保持する流体、および/または流動可能な物質である。
【0045】
いくつかの実施形態では、ペプトンまたはペプチド加水分解物は、酵素消化されたタンパク質を含む。
【0046】
よって、本発明のある態様では、医薬フォーム組成物を調製するための方法であって、水溶液中の全長タンパク質の酵素加水分解によって調製される酵素消化されたタンパク質の溶液を、気体を用いて発泡させる工程を含み、酵素消化されたタンパク質の溶液が、全長タンパク質を含まない、方法が提供される。
【0047】
したがって、本発明のある態様では、医薬フォーム組成物を調製するための方法であって、液体水溶液中の全長タンパク質の酵素加水分解によって調製される酵素消化されたタンパク質の溶液を、気体を用いて発泡させる工程を含み、酵素消化されたタンパク質の液体溶液が、前記全長タンパク質を含まない、方法が提供される。
【0048】
本明細書に開示する方法のいくつかの実施形態では、ペプトン、ペプチド加水分解物または酵素消化されたタンパク質は、10.0kDa未満のサイズのペプチドを含む。
【0049】
いくつかの実施形態では、ペプトン、ペプチド加水分解物または酵素消化されたタンパク質は、少なくとも1000Daのペプチドを含む。
【0050】
いくつかの実施形態では、ペプトン、タンパク質加水分解物または酵素消化されたタンパク質は、1000Da~10.0kDa未満の範囲のサイズのペプチドを含む。
【0051】
いくつかの実施形態では、発泡前に、ペプトン、タンパク質加水分解物または酵素消化されたタンパク質の溶液は乾燥され、調製前に、水を含む溶液で再構築される。
【0052】
いくつかの実施形態では、酵素は、全長タンパク質を加水分解して、10.0kDa未満のサイズのペプチドを含むペプトン、タンパク質加水分解物または酵素加水分解されたタンパク質を生成する。
【0053】
いくつかの実施形態では、この方法は、発泡の前に、ペプトン、タンパク質加水分解物または酵素加水分解されたタンパク質の溶液から、11.7kDaより大きいサイズのペプチドを除去することをさらに含む。
【0054】
いくつかの実施形態では、この方法は、発泡の前に、ペプトン、タンパク質加水分解物または酵素加水分解されたタンパク質の溶液から、10kDaより大きいサイズのペプチドを除去することをさらに含む。
【0055】
いくつかの実施形態では、選択した大きさのペプチドを除去することは、濾過、例えば、遠心濾過デバイス内でサイズ排除膜を通すことによって行われる。
【0056】
いくつかの実施形態では、加水分解される全長タンパク質は、タンパク質の組み合わせ、例えば、2種類、3種類、またはそれ以上の異なる全長タンパク質の組み合わせである。
【0057】
いくつかの実施形態では、加水分解される全長タンパク質は、1種類のタンパク質である。
【0058】
いくつかの実施形態では、加水分解される全長タンパク質は、カゼインである。
【0059】
いくつかの実施形態では、加水分解される全長タンパク質は、ゼラチンである。
【0060】
いくつかの実施形態では、酵素加水分解は、生成されるタンパク質加水分解物またはペプトンが、1000Da~10.0kDa未満の範囲のサイズのペプチドを含む限り、および/またはペプトン、タンパク質加水分解物または酵素加水分解されたタンパク質の発泡能力が損なわれない限り、セリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、トレオニンプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、グルタミン酸プロテアーゼ、メタロプロテアーゼ、およびこれらの組み合わせからなる群から選択されるプロテアーゼを用いて行われる。
【0061】
ペプトン、タンパク質加水分解物または酵素加水分解されたタンパク質を溶液の約50%(w/v)未満の濃度で含む溶液は、本明細書に開示するフォームを調製する際に使用するのに有益であると考えられる。したがって、いくつかの実施形態では、ペプトン、タンパク質加水分解物または酵素加水分解されたタンパク質は、溶液の約50%(w/v)より低い濃度で、例えば、約1%(w/v)より高く、50%(w/v)より低い濃度で存在する。
【0062】
いくつかの実施形態では、ペプトン、タンパク質加水分解物または酵素加水分解されたタンパク質は、約1%(w/v)より高く、約40%(w/v)より低い濃度で、例えば、約5%(w/v)より高く、約25%(w/v)より低い濃度で溶液中に存在する。
【0063】
いくつかの実施形態では、この方法は、加水分解の完了後に、酵素を不活性化する工程をさらに含む。酵素の不活性化は、ペプトン、タンパク質加水分解物または酵素加水分解されたタンパク質の発泡能力が損なわれない限り、酵素活性に必要な条件を変えることによって(例えば、加熱および/またはpH調節)、または酵素を除去することによって(例えば、アフィニティクロマトグラフィー、サイズ排除などによって)、行うことができる。
【0064】
いくつかの実施形態では、ペプトン、タンパク質加水分解物または酵素加水分解されたタンパク質および/またはフォームは、ペプトン、タンパク質加水分解物または酵素加水分解されたタンパク質を調製するために使用される活性酵素を含まない。
【0065】
いくつかの実施形態では、この方法は、ペプトン、タンパク質加水分解物または酵素加水分解されたタンパク質の発泡能力が損なわれない限り、発泡の前、かつ酵素不活性化の後に、ペプトン、タンパク質加水分解物または酵素加水分解されたタンパク質の溶液に、場合により、ペプトン、タンパク質加水分解物または酵素加水分解されたタンパク質の溶液の1%(w/v)から約30%(w/v)までの濃度でフィブリノーゲンを加えることをさらに含む。
【0066】
いくつかの実施形態では、この方法は、さらに、医薬フォーム組成物に、場合により医薬フォーム組成物の約0.1IU/mL~約100IU/mLの濃度でトロンビンを加えることを含む。一実施形態において、トロンビンは、発泡の後に加えられる。
【0067】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示する方法のいずれかによって得られた医薬フォームが提供される。
【0068】
いくつかの実施形態では、止血、密封(例えば、胸膜組織の密封)、抗癒着および/または創傷治癒をもたらすための、本明細書に開示される医薬フォーム組成物の使用が提供される。
【0069】
本明細書に開示する態様によれば、ペプトン、タンパク質加水分解物または酵素加水分解されたタンパク質を含む容器と、フォームを得るためのデバイスと、場合により、加水分解を受けるもの以外の全長タンパク質と、を含む、キットが提供される。
【0070】
いくつかの実施形態では、加水分解を受けるもの以外の全長タンパク質は、フィブリノーゲンである。
【0071】
いくつかの実施形態では、キットは、トロンビンを含む容器をさらに含む。
【0072】
本明細書に開示するキットのいくつかの実施形態では、ペプトン、タンパク質加水分解物または酵素加水分解されたタンパク質は、10.0kDa未満のサイズのペプチドを含む。
【0073】
ある態様では、本発明は、医薬フォーム組成物であって、全長タンパク質の酵素加水分解によって調製されるペプトン、タンパク質加水分解物または酵素加水分解されたタンパク質を含み、このフォームが、加水分解を受ける全長タンパク質を含まない、医薬フォーム組成物を提供する。
【0074】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示するフォームは、当該技術分野で知られているフォームよりも丈夫であり、さらに耐久性があり、圧縮に対する耐性が大きいことによって判定される大きな引張強度を有する。
【0075】
高い強度および耐久性は、長期間にわたってフォームの存在が必要な用途、例えば、創傷治癒のため、密封処置のため、または癒着予防のための用途にとって重要である。ある状況において、止血は、例えば、抗凝固薬を投薬されている患者において、長時間にわたって確保されなければならない。密封のために、フォームは、特定の用途、例えば、肺手術後の空気の密封から生じる応力に耐えるために、高い強度を有することが必要である。抗癒着用途のために、フォームの耐久性は、手術部位の異なる臓器間に丈夫な物理障壁を提供するために重要である。いくつかの実施形態では、創傷治癒のために、細胞がその中で成長できるマトリックス(例えばフォーム)が、初期の治癒期間中、耐久性を維持することが重要である。
【0076】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示するフォームは、当該技術分野で既知のフォームと比較して、免疫原性が低下し、および/またはアレルゲン特性が低下しており、繰り返し適用が可能である。
【0077】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示するフォームは、当該技術分野で既知のフォームよりも接着性が大きく、このことは、物質を適用部位の所定位置に保持させる特定の医学的用途では極めて有利である。例えば、いくつかの実施形態では、本明細書に開示するフォームは、組織に対する平均接着力が、1N/インチより大きく、例えば、少なくとも1N/インチ、少なくとも2N/インチ、少なくとも3N/インチ、少なくとも4N/インチ、少なくとも5N/インチ、またはさらに少なくとも6N/インチである。いくつかの実施形態では、組織に対する平均接着力は、約1N/インチ~約6N/インチの範囲である。
【0078】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示するフォームは、当該技術分野で既知のフォームよりも大きな剛性を有し、このことは、特定の医学的用途では、すなわち、フォームが、特に圧力が高くなり得る場合に、流体または空気の漏れを密封するために強い凝集性を有していなければならない組織への適用に極めて有利である。例えば、いくつかの実施形態では、本明細書に開示するフォームは、平均剛性が少なくとも3N/mm、例えば、3N/mm、4N/mm、少なくとも5N/mm、少なくとも6N/mm、少なくとも7N/mm、少なくとも8N/mm、少なくとも9N/mm、少なくとも10N/mm、少なくとも11N/mm、少なくとも12N/mm、少なくとも13N/mm、少なくとも14N/mm、少なくとも15N/mm、少なくとも16N/mm、少なくとも17N/mm、またはさらに少なくとも18N/mmである。いくつかの実施形態では、平均剛性は、約3N/mm~約19N/mmの範囲である。さらに、いくつかの実施形態では、フォームは、その下にある組織が膨張または収縮しつつある場合に、無傷なまま保つことができなければならない。
【0079】
いくつかの実施形態では、フォームは安定であり、一時的なものではなく、例えば、高さ、体積および/または空隙率/平均孔径などのフォーム構造を生成から少なくとも1時間維持する。
【0080】
本明細書で使用される場合、フォーム(例えば、乾燥していないフォーム)に関して「安定」との用語は、所定の温度で崩壊することなくそれ自体の構造を実質的に支持し得るフォームに関連する。例えば、生理学的温度でin vitroで安定なフォームは、高さ、体積および/または空隙率/平均孔径を含むその元々の構造の少なくとも80%(例えば、90%、95%、またはより多く)を周囲温度で少なくとも1時間維持する。典型的には、崩壊は、フォーム生成後のフォーム構造の消失によって最も明らかに特徴付けられる。崩壊によって、通常、元々の調製されたフォームの体積よりも体積が顕著に小さな構造が生じる。
【0081】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示するフォームは、当該技術分野で既知のフォームよりも速いin vivoでの分解時間を有する。ペプトンは、既に部分的に分解したタンパク質であるため、ペプトンは、天然の無傷の/折りたたまれたタンパク質よりも迅速に完全に分解することができる。この特性は、炎症反応、異物反応および術後の癒着のうち1つ以上を低減することができる。
【0082】
本明細書で使用される場合、「分解時間」との用語は、フォームのペプトン構成要素の少なくとも90%がin vivoで分解するのに必要な時間を意味する。
【0083】
フォームの望ましい分解時間は、意図する用途(例えば、シーラントまたは止血剤として)、組織の種類、使用量、再出血または再漏出の可能性、関与する圧力、患者の状態などに依存する。一般的に、組織を修復させるには十分であるが組織の修復を妨げない期間、シーラントまたは止血剤が存在することが望ましい。例えば、いくつかの実施形態では、シーラントまたは止血剤として使用するために、フォームは、4~5日間の寿命を有することが好ましい。
【0084】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示するフォームは、非タンパク質の界面活性剤を含まない。
【0085】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示するフォームは、非タンパク質界面活性剤の非存在下で調製される。
【0086】
いくつかの実施形態では、フォームを調製するために(すなわち、発泡前に)使用されるペプトン、タンパク質加水分解物または酵素加水分解されたタンパク質は、発泡の前に変性を受けていない。
【0087】
本発明のいくつかの実施形態では、ペプトンは変性していない。
【0088】
いくつかの実施形態では、ペプトン、タンパク質加水分解物または酵素加水分解されたタンパク質を調製するために加水分解を受ける全長タンパク質は、発泡前に変性を受けていない。
【0089】
いくつかの実施形態では、ペプトン、タンパク質加水分解物または酵素加水分解されたタンパク質の溶液は、変性したタンパク質を含まない。
【0090】
いくつかの実施形態では、ペプトン、ペプチド加水分解物または酵素加水分解されたタンパク質の溶液は、加水分解酵素以外の変性したタンパク質を含まない。
【0091】
いくつかの実施形態では、ペプトン、ペプチド加水分解物または酵素加水分解されたタンパク質の溶液は、他の全長タンパク質を含み、ここで、他の全長タンパク質は、酵素加水分解を受けなかった全長タンパク質である。いくつかの実施形態では、他の全長タンパク質は、加水分解酵素に加え、ペプトン、タンパク質加水分解物または酵素加水分解されたタンパク質中に存在し、他の全長タンパク質は、発泡前に変性を受けていない。
【0092】
典型的には、変性は、例えば、熱によって、アルカリ、酸、尿素または洗剤を用いた処理によって、タンパク質/ペプチドの二次分子構造および/または三次分子構造を変えるプロセスである。タンパク質が変性される場合、二次構造および/または三次構造が変えられるが、アミノ酸間の一次構造のペプチド結合は、無傷なままである。
【0093】
本明細書で使用される場合、「~を含む(comprising)」、「~を含む(including)」、「有する」、およびその文法的変形は、記載される特徴、整数、工程、または構成要素を特定するものとして理解されるが、1つ以上の追加的特徴、整数、工程、構成要素、またはこれらの群の追加を排除するものではない。これらの用語は、「~からなる」および「~から本質的になる」との用語を包含する。
【0094】
本明細書で使用される場合、不定冠詞「1つの(a)」および「1つの(an)」は、文脈が明確にそうでない旨を表さない限り、「少なくとも1つの」または「1つ以上の」を意味する。
【0095】
本明細書で使用される場合、「約」という用語は、±10%を指す。
【0096】
別段の規定がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって一般的に理解されている意味と同一の意味を有する。加えて、表現、材料、方法および実施例は、単に例示的なものであり、限定することを意図するものではない。本発明を実施する上で、本明細書に記載されるものと類似または同等の方法および材料を使用することができる。
【0097】
本明細書で使用される場合、「酵素加水分解」との用語は、全長タンパク質が、ペプトン溶液が元々の全長タンパク質を含まなくなる時点まで酵素加水分解されることを意味する。
【0098】
一実施形態において、本発明の酵素加水分解は、所与の酵素が、酵素によって認識される全長タンパク質の全ての可能な消化部位を加水分解/消化しなくなった時点までの加水分解も含む。
【0099】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示する医薬フォーム組成物は、酵素加水分解を受けた全長タンパク質を実質的に欠いており、および/または実質的に含まない。本明細書で使用される場合、全長タンパク質に関して「実質的に含まない」または「実質的に欠いている」との用語は、組成物が、5(w/v)%未満、4(w/v)%未満、3(w/v)%未満、2(w/v)%未満、1(w/v)%未満、0.5(w/v)%未満、0.1(w/v)%未満、または0.05(w/v)%未満の全長タンパク質を含有することを意味する。
【0100】
本明細書で使用される場合、「ペプトンの溶液」との用語は、ペプトンと、場合により、他の構成要素(例えば、低分子、塩、活性医薬成分および凝固因子)と、を含む溶液(例えば、液体溶液)を指す。
【0101】
本明細書で使用される場合、「ペプチド加水分解物溶液」との用語は、ペプチド加水分解物と、場合により、他の構成要素(例えば、低分子、塩、活性医薬成分および凝固因子)と、を含む溶液(例えば、液体溶液)を指す。
【0102】
本明細書で使用される場合、「酵素加水分解されたタンパク質の溶液」との用語は、酵素加水分解されたタンパク質と、場合により、他の構成要素(例えば、低分子、塩、活性医薬成分および凝固因子)と、を含む溶液(例えば、液体溶液)を指す。
【0103】
いくつかの実施形態では、ペプトンは、ミルクタンパク質(例えばカゼイン)、コラーゲン由来タンパク質(例えばゼラチン、例えば、皮膚、軟骨または骨から調製されるもの)、卵タンパク質、血液タンパク質(例えばアルブミン)、酵母タンパク質、植物タンパク質、またはこれらの組み合わせから誘導される。
【0104】
小さなペプチドを含むことに加え、得られたペプトン溶液は、脂肪、金属、塩、ビタミンおよび多くのその他の生体化合物も含んでいてもよい。
【0105】
ある態様によれば、本発明は、全長タンパク質の酵素加水分解によって調製されるタンパク質加水分解物を含む容器と、前記加水分解物を発泡させるためのデバイスと、場合により、前記酵素加水分解を受けたもの以外の全長タンパク質と、を含む、キットを提供する。
【0106】
さらなる態様によれば、本発明は、医薬フォーム組成物を調製するための方法であって、水溶液中の全長タンパク質の酵素加水分解によって調製されるタンパク質加水分解物の溶液を、気体を用いて発泡させる工程を含み、溶液が、全長タンパク質を含まない、方法を提供する。
【0107】
さらに、さらなる態様によれば、本発明は、医薬フォーム組成物を調製するための方法であって、水溶液が全長タンパク質を含まなくなるまで、前記水溶液中で全長タンパク質を酵素加水分解し、それによって、ペプトンまたはタンパク質加水分解物の溶液を得ることと、気体を用いて前記ペプトンまたはタンパク質加水分解物の溶液を発泡させることと、を含む、方法を提供する。
【0108】
別の態様では、本発明は、本発明の方法によって得られる医薬フォーム組成物を提供する。
【0109】
本発明のある態様では、全長タンパク質の加水分解によって調製されるペプトン系フォームであって、フォームが、加水分解を受けた全長タンパク質を含まない、ペプトン系フォームを提供する。
【0110】
「ペプトン系フォーム」との用語は、フォームの大部分(フォームの全重量の半分より多く)がペプトンで構成されていることを意味する。
【0111】
フィブリノーゲン、フィブリン、トロンビンなどの他の構成要素も、フォーム中に存在していてよく、例えば、加水分解を受けた全長タンパク質以外のタンパク質が存在していてよい。例えば、フォームは、溶解した全構成要素中、1%~100%のペプトンを含んでいてよい。
【0112】
加水分解を受けた全長タンパク質以外のタンパク質は、49%以下の濃度でフォーム中に存在していてよく、一方、残りの構成要素は、ペプトンからなる。
【0113】
本明細書で使用される場合、「全長」タンパク質との用語は、加水分解/消化前のタンパク質を指す。
【0114】
いくつかの実施形態では、フォームを調製する際に使用される液体に対する空気の比率は、空気:液体が1:3~3:1の範囲であった。いくつかの好ましい実施形態では、液体に対する空気の比率は、空気:液体が約2:1~約3:1の範囲である。
【0115】
タンパク質分子は、多くの場合、非常に大きく、数百から数千のアミノ酸単位から作られる。タンパク質には、天然に存在するタンパク質もしくはそのフラグメントおよび/または合成タンパク質が含まれる。
【0116】
フォームは、乾燥していても乾燥していなくてもよい。乾燥したフォームは、例えば、空気乾燥、真空乾燥または凍結乾燥によって水の濃度を下げることによって得ることができる。
【0117】
「乾燥フォーム」との用語は、フォーム組成物の総重量を基準として含水量が3重量%以下のフォームを指す(w/w)。
【0118】
本発明のある態様では、本発明の医薬フォーム組成物の適用を含む、血液凝固;密封;癒着の予防および/または低減;ならびに/あるいは創傷治癒を促進するための方法を提供する。
【0119】
本明細書で上記および以下に記載するペプトンに関連する全ての態様および実施形態も、適用可能な場合、「ペプチド加水分解物」または「酵素加水分解されたタンパク質」に関連するものとする。
【図面の簡単な説明】
【0120】
本発明のいくつかの実施形態は、添付の図面を参照して、本明細書において説明されている。図面と共に説明を読むことにより、本発明のいくつかの実施形態がどのように実施され得るかということが、当業者にとって明らかとなる。図面は、例示的な記載の目的のためであり、実施形態における構造の詳細を、本発明の基本的理解に必要である以上に詳細に示そうとするものではない。明確性のため、図面に示されるいくつかの物体は、縮尺どおりではない。
図1】全長ゼラチンおよび全長ウシ血清アルブミン(BSA)から調製されるフォーム、または全長ゼラチンの酵素加水分解によって得られるペプトンから調製されるフォームの引張強度を示す棒グラフである。
図2】全長BSA、カゼインまたはゼラチンから調製されるフォーム、および全長カゼインまたはゼラチンの酵素加水分解または酸加水分解によって得られるペプトンから調製されるフォームの引張強度を示す棒グラフである。
図3】ペプトン濃度が、全長ゼラチンの酵素加水分解によって得られるペプトンの引張強度に及ぼす影響を示す棒グラフである。
図4】BAC2濃度が、全長ゼラチンの酵素加水分解によって得られるペプトンの引張強度に及ぼす影響を示す棒グラフである。
図5】フィブリノーゲン存在下および非存在下で、全長ゼラチンから調製されるフォーム、全長ゼラチンの酵素加水分解から誘導されるペプトンから調製されるフォームの引張強度を示す棒グラフである。
図6】全長アルブミンから調製されたフォームと比較した、全長ゼラチンまたはカゼインの酵素加水分解によって得られるペプトンから調製されるフォームの組織接着強度を示すドットグラフである。
図7】全長アルブミンから調製されたフォームと比較した、全長ゼラチンまたはカゼインの酵素加水分解によって得られるペプトンから調製されるフォームの剛性を示すドットグラフである。
図8A】全長ゼラチンから調製されたフォーム(8A)および全長ゼラチンの酵素加水分解によって得られるペプトンから調製されたフォーム(8B)についての走査型電子顕微鏡写真を示す。
図8B】全長ゼラチンから調製されたフォーム(8A)および全長ゼラチンの酵素加水分解によって得られるペプトンから調製されたフォーム(8B)についての走査型電子顕微鏡写真を示す。
図9】ペプトンペプチドの大きさが、全長ゼラチンから調製されたフォーム、全長ゼラチンの酵素加水分解から誘導されるペプトンから調製されたフォーム、約10kDa未満のペプチドを有する全長ゼラチンの酵素加水分解から誘導されるペプトンから調製されたフォームの引張強度に及ぼす影響を示す。
図10】全長ゼラチンの酵素加水分解によって得られるペプトンと全長ゼラチンとの混合が、フォームの引張強度に及ぼす影響を示す。
【発明を実施するための形態】
【0121】
本発明は、そのいくつかの実施形態では、タンパク質の酵素加水分解によって調製されるペプトンを含む医薬フォーム組成物に関する。
【0122】
本明細書における教示の原理、使用法、および実施は、添付の記載を参照してよりよく理解され得る。本明細書を精査することにより、当業者は、過度な努力または実験を行うことなく、本発明を実施することができる。
【0123】
少なくとも1つの実施形態を詳細に説明する前に、本発明は、その用途において、構成要素の構造もしくは構成および/または以下の説明に記載する方法の詳細に必ずしも限定されないことを理解されたい。本発明は他の実施形態が可能であり、あるいは様々な方法で実行または実施することが可能である。
【0124】
本明細書において使用される表現および用語は、便宜上のものであり、限定するものとしてみなされるべきではない。
【0125】
以下に示す実施例に示されるように、驚くべきことに、全長タンパク質から調製されるフォームと比較して、ペプトンから得られるフォームを圧縮するために、より多くの力が必要であることがわかった。
【0126】
さらに、予期せず、酸加水分解から得られるペプトンではなく、酵素加水分解から得られるペプトンのみから、耐久性のあるフォームが得られることが示された。
【0127】
ex-vivo実験では、ペプトンから得られるフォームが、全長タンパク質から得られるフォームと比較して、高い接着特徴を有することがさらに示された。
【0128】
さらに驚くべきことに、ペプトンから丈夫なフォームを得るために、架橋剤の存在は必要ではないが、場合により加えてもよいことがわかった。
【0129】
さらに驚くべきことに、10kDa以下のペプチドを含むペプトンが、全長タンパク質よりも丈夫なフォームを提供することがわかった。
【実施例
【0130】
材料および方法
材料
BSA(Sigma、カタログ番号A7030)
ブタの皮膚由来のゼラチン(Sigma、カタログ番号G1890)
ゼラチンの酵素加水分解によって得られるペプトン(Sigma、カタログ番号70951)
カゼイン(Sigma、カタログ番号C3400)
カゼインの酵素加水分解によって得られるペプトン(Sigma、カタログ番号70172)
カゼインの酸加水分解によって得られるペプトン(Sigma、カタログ番号70171)
EVICEL(登録商標)のBAC2構成要素、カタログ番号3901、3902、3905、Ethicon)
トロンビン(EVICEL(登録商標)のトロンビン構成要素、カタログ番号3901、3902、3905、Ethicon)
【0131】
溶液の調製および希釈のための水は、脱イオン水であった。
【0132】
10mmの底が平坦なステンシルを備えるLloyd LF PlusデバイスまたはInstronを用いて、圧縮試験を行った。
【0133】
実施例1:ペプトンから調製されたフォーム、ならびに全長BSAおよびゼラチンから調製されたフォームの引張強度
以下のフォームのそれぞれを圧縮するのに必要な力を測定した。
1.全長ゼラチンと、フィブリノーゲン源(BAC2)と、トロンビンと、を含む、フォーム;
2.BSAと、フィブリノーゲン源(BAC2)と、トロンビンと、を含む、フォーム;
3.全長ゼラチンの酵素加水分解によって得られるペプトンと、フィブリノーゲン源(BAC2)と、トロンビンと、を含む、フォーム;
4.フィブリノーゲン源(BAC2)と、トロンビンと、を含む、コントロールフォーム。
【0134】
全長ゼラチン、全長BSA、および全長ゼラチンの酵素加水分解によって得られるペプトンそれぞれの5%(w/v)水溶液を調製した(フォーム番号は、左から右に1~3)。各溶液5mLに、500μLの濃縮BAC2溶液を加えて、BAC2の最終濃度を10%にし、合計で約35mgのフィブリノーゲンを含んでいる。コントロールフォーム(4番)について、500μLの濃縮BAC2溶液に水5mLを加えた。
【0135】
2cmのTyvec管(直径が約2mm)で相互に接続した2つのシリンジを用いることによって溶液を発泡させた。上のように調製した溶液を、第1のシリンジに抜き取り、空気10mLを第2のシリンジに抜き取った。第1のシリンジと第2のシリンジとの間で溶液を前後に押し出し、それによって、溶液と空気とを混合した。
【0136】
調製の最後の工程で、体積200μl中、40mM CaCl中、20IUのトロンビンを、トロンビン溶液を1つのシリンジに加え、フォームを再度前後に押し出すことによって、フォームに加えた。調製したフォームを、24組織培養プレートのウェルに、縁の高さまで押し出した。フォームを室温で1時間放置した。次いで、10mmステンシルを用い、5mm/分の速度で、全長12mmにわたって押し、圧縮するのに必要な力を3回評価した。結果を記録し、分析した。
【0137】
図1からわかるように、驚くべきことに、全長ゼラチンの酵素加水分解によって得られるペプトンから調製したフォームは、フォームを圧縮するのに最も大きな力が必要であることがわかった。コントロールサンプル(水)によって示されるように、BAC2のみを圧縮するのに必要な力は、無視できる程度であった。さらに、全長BSA(66.5kDa)の球状タンパク質は、ゼラチンについて必要な力よりも小さな圧縮力を必要とすることが示された。
【0138】
実施例2:選択した全長タンパク質の酵素加水分解または酸加水分解によって得られるペプトンから調製したフォームの引張強度
全長タンパク質からペプトンが得られる異なる加水分解機構が圧縮力に及ぼす影響を調べるために、カゼインの酵素加水分解または酸加水分解によって得られるペプトンの水溶液から調製したフォームの圧縮に必要な力を測定した。さらなる比較のために、全長ゼラチン、BSAおよびカゼインから得られるフォームの圧縮に必要な力も測定した。
【0139】
全長ゼラチン、BSAおよびカゼイン;カゼインの酵素加水分解または酸加水分解によって得られるペプトン;およびゼラチンの酵素加水分解によって得られるペプトンそれぞれの5%(w/v)水溶液を調製した。2つの50mLシリンジの中でフォームを調製した。第1のシリンジに、20mLの5%タンパク質溶液および2mLのBAC2を入れた。第2のシリンジに、40mLの空気を入れた。上述の液体内に空気を激しく混合することによって発泡させた後、調製した物質を、直径60mmのカップ内に高さ20mmで押し出した。
【0140】
圧縮に必要な力を、0.5mm/秒、深さ4mmで評価した。全長ゼラチンおよびペプトンから調製したフォームを3回ずつ試験し、全長BSAおよびカゼインから調製したフォームを2回ずつ試験した。
【0141】
結果を図2に示す。
【0142】
図2に示されるように、カゼインまたはゼラチンの酵素加水分解によって得られるペプトンから調製されるフォームの圧縮に必要な力は、それぞれの全長タンパク質から調製したフォームよりも顕著に大きく、このことは、鎖の長さと必要な圧縮力との逆相関を示している。対照的に、カゼインの酸加水分解によって得られるペプトンから調製したフォームは、全長カゼインから調製したフォームよりも圧縮時に安定性が低いことがわかった。ゼラチンから得られたペプトンおよびカゼインから得られたペプトンから調製したフォームを用いると、非常によく似た結果がみられたことをさらに注記しておく。
【0143】
実施例3:ペプトン濃度がフォームの引張強度に及ぼす影響
全長ゼラチンの酵素加水分解によって得られるペプトンの50%(w/v)水溶液を、ペプトン粉末50gを水100mLに溶解することによって調製した。この溶液を水で希釈して、ペプトンの1%、5%、10%、25%水溶液を得た。
【0144】
実施例1に記載するように、5mLの各溶液を発泡させた。
【0145】
調製の最後の工程で、40mM CaCl中の200μLの100IU/mLトロンビン溶液をフォームに加え、最終的なフォームを調製し、上の実施例1に記載されているのと実質的に同様に、但し、5mm/秒で深さ4mmまで(12mmではなく)押し、圧縮に必要な力を4回ずつ試験した。結果を図3に示す。
【0146】
この結果は、水中に1~25%(w/v)の濃度のペプトンを含むフォームについて、圧縮に必要な力がペプトン濃度に正比例していることを示す。50%(w/v)以上のペプトン濃度によって、圧縮に必要な力の低下に反映されるように、フォームの品質が低下した。
【0147】
実施例4:BAC2濃度がフォームの引張強度に及ぼす影響
ゼラチンの酵素加水分解によって得られるペプトンの5%水溶液を調製した。
【0148】
それぞれが5mLのペプトン溶液を含む4つのサンプルを調製した。実施例1に記載するように各サンプルを発泡させた。
【0149】
調製の最後の工程で、BAC2を、1%、5%、10%または30%(w/v)の濃度で加え、そこで各%のBAC2は、約7mgのフィブリノーゲンを含んでいた。最終的なフォームを調製し、実施例3に記載したように4回試験した。結果を図4に示す。
【0150】
この結果は、1~30%の濃度のBAC2を含むフォームについて、圧縮に必要な力がペプトン濃度に正比例していることを示す。
【0151】
実施例5:フィブリノーゲンの存在下および非存在下でのペプトンから調製したフォームおよびゼラチンから調製したフォームの引張強度
タンパク質架橋剤の必要条件を試験するために、全長ゼラチンおよび全長ゼラチンの酵素加水分解によって得られるペプトンそれぞれの5%(w/v)水溶液から調製したフォームの引張強度を、フィブリノーゲン(BAC2によって提供される)の存在下および非存在下で測定した。結果を図5に示す。
【0152】
フォームを実施例1に記載したのと実質的に同様に調製したが、但し、約35mgのフィブリノーゲンおよび20IUのトロンビンを含むフォーム、ならびにBAC2を欠いたフォームが調製された。サンプルを3個試験した。
【0153】
図5に示すように、全長ゼラチンの酵素加水分解によって得られるペプトンから調製したフォームの圧縮に必要な力が、全長ゼラチンから調製したフォームと比較して増加することが、BAC2によって提供されるフィブリノーゲンの存在下および非存在下の両方で観察された。
【0154】
代替的な架橋剤である4アーム型PEGの使用も試験した。しかし、4アーム型PEGで架橋したフォームは、フォームの破壊を示したため、評価しなかった。
【0155】
実施例6:組織接着
水溶液を以下のように調製した。
5%(w/v)の全長アルブミン+30mg/mLの濃縮BAC2+2IU/mLのEVICEL(登録商標)トロンビン(液体:空気の比率1:3);
5%(w/v)の、ゼラチンの酵素加水分解によって得られるペプトン+30mg/mLの濃縮BAC2+3IU/mLのEVICEL(登録商標)トロンビン(液体:空気の比率1:3);および
5%(w/v)の、カゼインの酵素加水分解によって得られるペプトン+30mg/mLの濃縮BAC2+10IU/mLのEVICEL(登録商標)トロンビン(液体:空気の比率1:3)。
【0156】
実施例1について上記に記載したのと実質的に同様に、各溶液5mLからフォームを調製したが、但し、各フォームに添加されるBAC2の量は同じであり、トロンビンの量は、相当するフィブリノーゲン重合速度を達成するように調節された。
【0157】
各配合物について、5回ずつ試験した。各フォーム調製物についての液体:空気の比率は、1:3であり、大きなエアポケットまたは気泡を含まず、均一なフォームが得られた。
【0158】
ASTM F2258(引張状態での組織接着の強度特性についての標準試験方法)を用い、組織に対する接着についてフォームを試験した。新しく集めたブタの胸膜を組織基質として、引張強度測定のために、INSTRON(登録商標)(10N Load Cellを備えるTensile Tester model 5565)デバイスのロードセルおよび底部グリップに固定した1インチ×1インチプレートに取り付けた。2つの組織表面を確実に整列させるために、クロスヘッドおよびロードセルを下げた。各サンプルについて、組織表面間のギャップ3mmを維持した。
【0159】
フォームを絞り出す前に、クロスヘッドを底部から離れさせた。各配合物を試験直前に調製し、各サンプルについて、約3mLの配合物を組織表面に押し出した。上部プレートを初期のギャップ高さに戻した直後に、過剰な物質を固定具の周囲から拭き取った。試験前にフォームを完全に重合させるために、15分間放置した。試験を止めるまで、クロスヘッドを垂直方向に5mm/分で移動させた。各サンプルについて、ロード伸長出力をINSTRON(登録商標)コントロールソフトウェアによって記録した。各サンプルについて、ピーク接着力、剛性および破壊モードを記録した。組織接着結果を図6に示す。剛性(材料強度)結果を図7に示す。
【0160】
図6および図7からわかるように、組織接着は、無傷なアルブミンと比較して、ゼラチンペプトンまたはカゼインペプトンから調製したフォームを用いたときに大きくなった。カゼインペプトンから調製されたフォームは、最大接着および剛性を有していた。平均最大接着スコアは、以下のとおりであった:無傷なアルブミン0.97N;ゼラチンペプトン1.19N;およびカゼインペプトン1.58N。
【0161】
全ての配合物について、破壊モードは、接着(すなわち、組織:フォーム界面で破壊が起こった)であり、凝集ではなかった(すなわち、試験物品内で破壊が起こらなかった)。
【0162】
実施例7:走査型電子顕微鏡(SEM)試験
全長ゼラチンの5%(w/v)水溶液、および全長ゼラチンの酵素加水分解によって得られるペプトンの5%(w/v)水溶液から、実施例1について上に記載したように、BAC2およびトロンビンを添加しつつ、フォームを調製した。
【0163】
図8Aおよび図8Bは、全長ゼラチンから調製されたフォーム(8A)およびゼラチンの酵素加水分解によって得られるペプトンから調製されたフォーム(8B)についての電子顕微鏡写真を示す。
【0164】
図8Aおよび図8Bからわかるように、ペプトンから調製したフォームは、全長タンパク質から調製したフォームよりも高い密度を有し、エアポケットが小さかった。ゼラチンから調製したフォームが、大きな泡構造に起因して安定性が低く、一方、ペプトンから得られるフォームは、より安定であり、より硬いと予想される。この差は、全長タンパク質の大きな疎水性に起因すると想定される。
【0165】
実施例8:ペプチドのサイズが引張強度に及ぼす影響
ペプチドのサイズが引張強度に及ぼす影響を調査するために、全長ゼラチンの5%(w/v)水溶液および全長ゼラチンの酵素加水分解によって得られるペプトンの5%(w/v)水溶液を調製した。
【0166】
ペプチドを含む上述の溶液10mLを、遠心濾過デバイス(Sigma、Z706345)中、10kDAカットオフ遠心分離フィルタを備えたAmicon Ultra遠心分離フィルタUltra-15によって遠心分離処理した。デバイスに3500Gの遠心力を室温で10分間かけて、確実に、濾過した溶液に長さが10kDa未満のペプチドのみが含まれるようにした。
【0167】
実施例1に記載したように、濾過遠心分離を行い、また行わずに、全長ゼラチン溶液、およびペプトンを含む溶液それぞれ5mLから、フォームを調製した。フォームを圧縮させるのに必要な力は、実施例1に記載するように、4回試験された。結果を図9に示す。
【0168】
図9に示すように、長さ10kDa未満のペプチドのみを含むペプトンの溶液から調製したフォームは、圧縮に大きな力を必要とした。
【0169】
全長タンパク質を酵素加水分解されたペプチドと混合すると、必要な圧縮力が低下した。興味深いことに、この混合物からは、全長または酵素加水分解された溶液のいずれかの均質溶液と比較して、低い圧縮力が得られた。
【0170】
実施例9:ペプトンと全長タンパク質との混合が引張強度に及ぼす影響
全長ゼラチン、および全長ゼラチンの酵素加水分解によって得られるペプトンの5%水溶液を調製した。
【0171】
ゼラチン:ペプトンが40:60および95:5の比率での全長ゼラチンとペプトンとの混合物を含むサンプルも調製した。
【0172】
全長ゼラチン、ペプトンのみ、および上述の2つの比率それぞれでのゼラチン:ペプトン混合物それぞれ5mLからのフォームを、実施例1に記載したように調製した。各フォームを圧縮させるのに必要な力は、実施例1に記載するように、4回試験された。結果を図10に示す。
【0173】
図10からわかるように、全長ゼラチンと、全長ゼラチンの酵素加水分解によって得られるペプトンとの混合物を含む溶液から調製したフォームは、全長ゼラチンのみ、またはペプトンのみを含むフォームよりも圧縮に必要な力が小さかった。
【0174】
本発明の特定の特徴は、明確性のために別個の実施形態の文脈において記載されているが、これはまた、単一の実施形態において組み合わせて提示されてもよいことが理解されるであろう。逆に、本発明の様々な特徴は、簡潔さのために、単一の実施形態の文脈において記載されているが、これはまた、別個に、もしくは任意の好適なサブコンビネーションで、または本発明の任意のその他の記載される実施形態において好適にもたらされてもよい。様々な実施形態の文脈において記載される特定の特徴は、その実施形態がそれらの要素なしには動作不可能である場合を除き、それらの実施形態の必須特徴であるとして考慮されるべきではない。
【0175】
本発明は、その特定の実施形態と共に記載されてきたが、多くの代替、修正、および変形が当業者には明白となることは明らかである。したがって、添付の請求項の範囲内にある全てのそのような代替、修正、および変形を包含することが意図される。
【0176】
本出願におけるいずれの参照文献の引用または特定も、そのような文献が本発明の先行技術として利用可能であることを認めるものと解釈されるべきではない。
【0177】
〔実施の態様〕
(1) 医薬フォーム組成物であって、全長タンパク質の酵素加水分解によって調製されるペプトンを含み、前記フォームが、前記全長タンパク質を含まない、医薬フォーム組成物。
(2) 前記ペプトンが、11.7kDa超のサイズのペプチドを欠いている、実施態様1に記載の医薬フォーム組成物。
(3) 前記ペプトンが、10.0kDa未満のサイズのペプチドを含む、実施態様1または2に記載の医薬フォーム組成物。
(4) 前記全長タンパク質が、2種類以上の全長タンパク質の組み合わせである、実施態様1~3のいずれかに記載の医薬フォーム組成物。
(5) 前記全長タンパク質が、1種類の全長タンパク質である、実施態様1~3のいずれかに記載の医薬フォーム組成物。
【0178】
(6) 前記タンパク質が、カゼインおよびゼラチンからなる群から選択される、実施態様5に記載の医薬フォーム組成物。
(7) 前記フォームが安定である、実施態様1~6のいずれかに記載の医薬フォーム組成物。
(8) 前記酵素加水分解が、セリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、トレオニンプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、グルタミン酸プロテアーゼ、メタロプロテアーゼ、およびこれらの組み合わせからなる群から選択されるプロテアーゼの使用を含む、実施態様1~7のいずれかに記載の医薬フォーム組成物。
(9) 前記ペプトンが、前記フォームの約0.05%(w/v)より高く、約20%(w/v)より低い濃度で前記フォーム中に存在する、実施態様1~8のいずれかに記載の医薬フォーム組成物。
(10) 前記ペプトンが、前記フォームの約1.5%(w/v)より高く、約18.0%(w/v)より低い濃度で存在する、実施態様9に記載の医薬フォーム組成物。
【0179】
(11) フィブリンおよび/またはフィブリノーゲンをさらに含む、実施態様1~10のいずれかに記載の医薬フォーム組成物。
(12) 前記フォームが、前記フォームの約0.1mg/mL~約10mg/mLの範囲の濃度でフィブリンおよび/またはフィブリノーゲンを含む、実施態様11に記載の医薬フォーム組成物。
(13) 前記フォームが、前記フォームの約2.3mg/mL~約7mg/mLの範囲の濃度でフィブリンおよび/またはフィブリノーゲンを含む、実施態様12に記載の医薬フォーム組成物。
(14) トロンビンをさらに含む、実施態様11~13のいずれかに記載の医薬フォーム組成物。
(15) 前記フォームが、前記フォームの約0.1IU/mL~約100IU/mLの範囲の濃度でトロンビンを含む、実施態様14に記載の医薬フォーム組成物。
【0180】
(16) 医薬フォーム組成物を調製するための方法であって、水溶液中の全長タンパク質の酵素加水分解によって調製されるペプトンの溶液を、気体を用いて発泡させる工程を含み、前記ペプトンの溶液が、前記全長タンパク質を含まない、方法。
(17) 前記ペプトンが、10.0kDa未満のサイズのペプチドを含む、実施態様16に記載の方法。
(18) 前記ペプトンの溶液が乾燥状態で与えられ、調製前に、水を含む溶液で再構築される、実施態様16または17に記載の方法。
(19) 前記酵素が、前記全長タンパク質を加水分解して、10.0kDa未満のサイズのペプチドを含むペプトンを生成する、実施態様16に記載の方法。
(20) 前記発泡の前に、前記ペプトンの溶液から、11.7kDa超のサイズのペプチドを除去することをさらに含む、実施態様16に記載の方法。
【0181】
(21) 前記発泡の前に、前記ペプトンの溶液から、10kDa超のサイズのペプチドを除去することをさらに含む、実施態様16に記載の方法。
(22) 前記全長タンパク質が、2種類以上のタンパク質の組み合わせである、実施態様16~21のいずれかに記載の方法。
(23) 前記全長タンパク質が、1種類のタンパク質である、実施態様16~21のいずれかに記載の方法。
(24) 前記全長タンパク質がカゼインである、実施態様23に記載の方法。
(25) 前記全長タンパク質がゼラチンである、実施態様23に記載の方法。
【0182】
(26) 前記酵素加水分解が、セリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、トレオニンプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、グルタミン酸プロテアーゼ、メタロプロテアーゼ、およびこれらの組み合わせからなる群から選択されるプロテアーゼを用いて行われる、実施態様16~25のいずれかに記載の方法。
(27) 前記ペプトンが、約1%(w/v)より高く、約40%(w/v)より低い濃度で、前記ペプトンの溶液中に存在する、実施態様16~26のいずれかに記載の方法。
(28) 前記ペプトンが、約5%(w/v)より高く、約25%(w/v)より低い濃度で存在する、実施態様27に記載の方法。
(29) 前記加水分解の完了後に、前記酵素を不活性化する工程をさらに含む、実施態様16~28のいずれかに記載の方法。
(30) 前記発泡の前に前記ペプトンの溶液にフィブリノーゲンを加えることをさらに含む、実施態様16~29のいずれかに記載の方法。
【0183】
(31) 前記フィブリノーゲンが、前記ペプトンの溶液の1%(w/v)から約30%(w/v)までの範囲の濃度で加えられる、実施態様30に記載の方法。
(32) 前記医薬フォーム組成物にトロンビンを加えることをさらに含む、実施態様16~31のいずれかに記載の方法。
(33) 前記トロンビンが、前記医薬フォーム組成物の約0.1IU/mL~約100IU/mLの濃度で加えられる、実施態様32に記載の方法。
(34) 実施態様16~33のいずれかに記載の方法によって得られる、医薬フォーム。
(35) 止血、密封、抗癒着および/または創傷治癒を与えるための実施態様1~15または34のいずれかに記載の医薬フォーム組成物の使用。
【0184】
(36) 前記密封が、胸膜組織の密封である、実施態様35に記載の使用。
(37) 全長タンパク質の酵素加水分解によって調製されるペプトンを含む容器と、前記ペプトンを発泡させるためのデバイスと、場合により、前記酵素加水分解を受けるもの以外の全長タンパク質と、を含む、キット。
(38) 前記酵素加水分解を受けるもの以外の全長タンパク質がフィブリノーゲンである、実施態様37に記載のキット。
(39) トロンビンを含む容器をさらに含む、実施態様38に記載のキット。
(40) 前記ペプトンが、10.0kDa未満のサイズのペプチドを含む、実施態様37~39のいずれかに記載のキット。
【0185】
(41) 医薬フォーム組成物であって、全長タンパク質の酵素加水分解によって調製されるタンパク質加水分解物を含み、前記フォームが、前記全長タンパク質を含まない、医薬フォーム組成物。
(42) 全長タンパク質の酵素加水分解によって調製されるタンパク質加水分解物を含む容器と、前記加水分解物を発泡させるためのデバイスと、場合により、前記酵素加水分解を受けるもの以外の全長タンパク質と、を含む、キット。
(43) 医薬フォーム組成物を調製するための方法であって、水溶液中の全長タンパク質の酵素加水分解によって調製されるタンパク質加水分解物の溶液を、気体を用いて発泡させる工程を含み、前記溶液が、前記全長タンパク質を含まない、方法。
(44) 医薬フォーム組成物を調製するための方法であって、水溶液が全長タンパク質を含まなくなるまで、前記水溶液中で前記全長タンパク質を酵素加水分解し、それによって、ペプトンまたはタンパク質加水分解物の溶液を得ることと、気体を用いて前記ペプトンまたはタンパク質加水分解物の溶液を発泡させることと、を含む、方法。
(45) 実施態様43または44に記載の方法によって得られる、医薬フォーム組成物。
【0186】
(46) 止血、密封、抗癒着および/または創傷治癒を与えるための実施態様41または45のいずれかに記載の医薬フォーム組成物の使用。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10