(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-29
(45)【発行日】2022-08-08
(54)【発明の名称】脆弱X症候群の治療のためのプリドピジンの使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/451 20060101AFI20220801BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220801BHJP
【FI】
A61K31/451
A61P25/00
(21)【出願番号】P 2019539958
(86)(22)【出願日】2018-01-18
(86)【国際出願番号】 US2018014169
(87)【国際公開番号】W WO2018136600
(87)【国際公開日】2018-07-26
【審査請求日】2021-01-18
(32)【優先日】2017-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519062797
【氏名又は名称】プリレニア ニューロセラピューティクス リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】514085654
【氏名又は名称】シンガポール国立大学
【氏名又は名称原語表記】NATIONAL UNIVERSITY OF SINGAPORE
【住所又は居所原語表記】21 Lower Kent Ridge Road Singapore 119077 (SG)
(73)【特許権者】
【識別番号】503231882
【氏名又は名称】エージェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヘイデン、マイケル
(72)【発明者】
【氏名】プーラディ、マムード・アブドルホセイン
【審査官】今村 明子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/138130(WO,A1)
【文献】特表2014-508744(JP,A)
【文献】国際公開第2008/133884(WO,A1)
【文献】Cogram et al ,Sigma-1 Receptor Agonists as Potential Treatment Options for Autism Spectrum Disorders: Pre-clinical Studies with ANAVEX 2-73 in a Fragile X Model',Gordon Research Conference for Fragile X and Autism-Related Disorders,2016年06月,インターネット<https://www.anavex.com//wp-content/uploads/Sigma-1-Receptor-Agonists-as-Potential-Treatment-Options.pdf>
【文献】J. Cell. Mol. Med.,2015年,Vol 19, No 11,pp. 2540-2548
【文献】Human Molecular Genetics,2016年,Vol.25, No.18,p.3975-3987
【文献】Biochemical Pharmacology,Vol.81,2011年,p.1078-1086
【文献】J Investig Med.,57(8),2009年12月,p.830-836
【文献】European Journal of Pharmacology,Vol.644,2010年,p.88-95
【文献】Progress in Neuro-Psychopharmacology & Biological Psychiatry,Vol.28,2004年,p.677-685
【文献】Current Genomics,2011年,Vol.12,p.216-224
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00- 9/72
A61K 31/00-31/80
A61K 33/00-33/44
A61K 47/00-47/69
A61P 1/00-43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脆弱X症候群(FXS)に罹患している対象を治療する
薬剤を製造するためのプリドピジンの使用であって、
前記薬剤は、前記対象を治療するために有効な量のプリドピジンを含
み、前記対象に定期的に投与
される、
使用。
【請求項2】
前記対象が、自閉症スペクトラム障害(ASD)にも罹患している、請求項1に記載の
使用。
【請求項3】
プリドピジンの前記量が、前記対象におけるFXSの1つ以上の症状の重症度を軽減するのに有効である、請求項1または2に記載の
使用。
【請求項4】
前記1つ以上の症状が、認知機能障害、発達遅延、社会的問題および行動問題、不安、活動亢進挙動、感覚刺激に対する過敏症、胃腸機能の変化、ならびに発作からなる群から選択される、請求項3に記載の
使用。
【請求項5】
前記症状が認知機能障害であり、前記認知機能障害が知的障害または学習障害である、請求項4に記載の
使用。
【請求項6】
前記症状が、発話および言語の発達遅延である、請求項4に記載の
使用。
【請求項7】
1日あたり10~315mgのプリドピジンが患者に投与される、請求項1~6のいずれか1項に記載の
使用。
【請求項8】
前記プリドピジンが、1日1回投与される、請求項7に記載の
使用。
【請求項9】
前記プリドピジンが、1日2回以上投与される、請求項7に記載の
使用。
【請求項10】
前記プリドピジンが、1日2回投与される、請求項9に記載の
使用。
【請求項11】
前記対象がX染色体に200を超えるCGG繰り返しを有する、請求項1~10のいずれか1項に記載の
使用。
【請求項12】
前記対象が18歳未満である、請求項1~11のいずれか1項に記載の
使用。
【請求項13】
前記対象がヒトである、請求項1~12のいずれか1項に記載の
使用。
【請求項14】
前記投与が経口である、請求項1~13のいずれか1項に記載の
使用。
【請求項15】
前記プリドピジンが塩酸プリドピジン、臭化水素酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩、硫酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、アコナート(aconate)、アスコルビン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、桂皮酸、クエン酸塩、エンボン酸塩、エナント酸塩、フマル酸塩、グルタミン酸塩、グリコール酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、マンデル酸塩、メタンスルホン酸塩、ナフタレン-2-スルホネート、フタル酸塩、サリチル酸塩、ソルビン酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、またはトルエン-p-スルホネートの塩の形態である、請求項1~14のいずれか1項に記載の
使用。
【請求項16】
カルバマゼピン、バルプロ酸、ジバルプロエクス、炭酸リチウム、ガバペンチン、ラモトリジン、トピラマート、チアガビン、ビガバトリン、フェノバルビタール、プリミドン、フェニトイン、メチルフェニデート、デキストロアンフェタミン、L-アセチルカルニチン、ベンラファキシン、ネファゾドン、アマンタジン、葉酸、クロニジン、グアンファシン、フルオキセチン、セルトラリン、シタロプラム、パロキセチン、フルボキサミン、リスペリドン、クエチアピン、オランザピン、トラゾドン、およびメラトニンからなる群から選択される第2の医薬剤
とともに前記薬剤が投与される、請求項1~15のいずれか1項に記載の
使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
【0002】
本出願は、その全内容が参照により本明細書に組み入れられる、2017年1月20日に出願された米国仮特許出願第62/448,595号の利益を主張する。
【背景技術】
【0003】
脆弱X症候群
【0004】
脆弱X症候群(FXS)は、遺伝性知的障害および自閉症スペクトラム障害(ASD)の変種の最も一般的な形態である(YuおよびBerry-Kravis、2014年)。FXSは、FMR1遺伝子の5'UTRにおけるCGGの繰り返しの拡大によって引き起こされ、その結果、その特異的な過剰メチル化、サイレンシング、およびFMR1タンパク質(FMRP)発現の喪失をもたらす。
【0005】
FXS関連障害の一例である脆弱X関連振戦/運動失調症候群(FXTAS)は、FMR1遺伝子の前突然変異範囲(55~200)におけるCGGの繰り返しの拡大によって引き起こされる成人発症型神経変性障害である。高齢男性におけるFXTASの主な臨床的特徴としては、小脳性歩行失調症および行動振戦を伴う運動の問題が挙げられる(Leehey 2009年)。
【0006】
効果的な治療法は、依然として存在していない。FXSおよび関連疾患に対する新しい効果的な治療法が必要である。
【0007】
プリドピジン
【0008】
プリドピジン(4-[3-(メチルスルホニル)フェニル]-1-プロピル-ピペリジン)(以前はACR16として公知であった)は、ハンチントン病の治療のために開発中の薬物である。プリドピジンは、活動亢進を抑制するかまたは活動低下を増強することによって運動活動を調節することが示されている。プリドピジンの神経保護特性は、シグマ-1受容体に対するその高い親和性(S1R、結合IC50~100nM)に起因することが示唆されているが、プリドピジンの運動活動は、主にドーパミンD2受容体(D2R)(IC50~10μMの結合)におけるその低親和性の拮抗活性によって主に媒介され得る(Ponten 2010年)。プリドピジンは、マイクロモル範囲の追加の受容体に対して低親和性結合を示す。
【0009】
S1Rは、小胞体(ER)シャペロンタンパク質であり、これは細胞の分化、神経可塑性、神経保護および脳内の認知機能に関与している。近年、ラット線条体のトランスクリプトーム解析により、プリドピジン処理がBDNF、ドーパミン受容体1(D1R)、グルココルチコイド受容体(GR)、およびセリン-トレオニンキナーゼプロテインキナーゼB(Akt)/ホスホイノシチド3-キナーゼ(PI3K)経路の発現を活性化することが示された。この経路は、神経可塑性および生存を促進し、HDでは損なわれることが知られている。さらに、プリドピジン遺伝子発現プロファイルでは、Q175ノックイン(Q175 KI)HDマウスモデルにおいて、HD疾患遺伝子発現プロファイルの逆パターンを示した(Geva 2016年)。プリドピジンはまた、神経芽細胞腫細胞株における神経保護性脳由来神経栄養因子(BDNF)の分泌をS1R依存様式で増強する(Geva 2016年)。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、脆弱X症候群(FXS)に罹患している対象を治療する方法であって、対象を治療するために有効な量のプリドピジンを含む医薬組成物を対象に定期的に投与することを含む方法を提供する。
【0011】
本発明はまた、FXSに罹患している対象の治療に使用するためのプリドピジンを提供する。
【0012】
本発明はまた、FXSに罹患している対象の治療に使用するための医薬品を製造するためのプリドピジンの使用を提供する。
【0013】
本発明はまた、FXSを治療するための有効量のプリドピジンを含む医薬組成物を提供する。
【0014】
本発明はまた、FXS罹患対象の治療に使用するためのプリドピジンを含む医薬組成物を提供する。
【0015】
本発明はまた、以下を含むパッケージを提供する:
(a)ある量のプリドピジンを含む医薬組成物;および
(b)FXS罹患対象を治療するための医薬組成物の使用説明書。
【0016】
本発明はまた、FXS罹患対象に投薬するための治療パッケージ、または該対象への投薬に使用するための治療パッケージを提供し、本パッケージは、
(a)1つ以上の単位用量であって、こうした各単位用量は、ある量のそのプリドピジンを含み、この単位用量中のプリドピジンの量が、対象への投与時に対象を治療するために有効である単位用量と、
(b)そのための完成医薬品容器とを含み、この容器には、単位用量または複数の単位用量を含み、かつ対象の治療におけるこのパッケージの使用を指示するラベルをさらに含むかまたは備える。
【0017】
本発明はまた、以下を含むパッケージを提供する:
(a)ある量のプリドピジンおよび薬学的に許容される担体を含む第1の医薬組成物;
(b)ある量のカルバマゼピン、バルプロ酸、ジバルプロエクス、炭酸リチウム、ガバペンチン、ラモトリジン、トピラマート、チアガビン、ビガバトリン、フェノバルビタール、プリミドン、フェニトイン、メチルフェニデート、デキストロアンフェタミン、L-アセチルカルニチン、ベンラファキシン、ネファゾドン、アマンタジン、葉酸、クロニジン、グアンファシン、フルオキセチン、セルトラリン、シタロプラム、パロキセチン、フルボキサミン、リスペリドン、クエチアピン、オランザピン、トラゾドン、またはメラトニン、および薬学的に許容される担体を含む第2の医薬組成物;ならびに
(c)FXS罹患対象を治療するために、第1の医薬組成物および第2の医薬組成物を一緒に使用するための説明書。
【0018】
本発明はまた、以下を含むパッケージを提供する:
(a)ある量のプリドピジンおよび薬学的に許容される担体を含む第1の医薬組成物;
(b)ある量のカルバマゼピン、バルプロ酸、ジバルプロエクス、炭酸リチウム、ガバペンチン、ラモトリジン、トピラマート、チアガビン、ビガバトリン、フェノバルビタール、プリミドン、フェニトイン、メチルフェニデート、デキストロアンフェタミン、L-アセチルカルニチン、ベンラファキシン、ネファゾドン、アマンタジン、葉酸、クロニジン、グアンファシン、フルオキセチン、セルトラリン、シタロプラム、パロキセチン、フルボキサミン、リスペリドン、クエチアピン、オランザピン、トラゾドン、またはメラトニン、および薬学的に許容される担体を含む第2の医薬組成物;ならびに
(c)FXS罹患対象を治療するために、第1の医薬組成物および第2の医薬組成物を一緒に使用するための説明書。
【0019】
本発明はまた、FXS罹患対象に投薬するための治療パッケージ、または該対象への投薬に使用するための治療パッケージを提供し、本パッケージは、
(a)1つ以上の単位用量であって、こうした各単位用量は、
(i)ある量のプリドピジン、ならびに
(ii)カルバマゼピン、バルプロ酸、ジバルプロエクス、炭酸リチウム、ガバペンチン、ラモトリジン、トピラマート、チアガビン、ビガバトリン、フェノバルビタール、プリミドン、フェニトイン、メチルフェニデート、デキストロアンフェタミン、L-アセチルカルニチン、ベンラファキシン、ネファゾドン、アマンタジン、葉酸、クロニジン、グアンファシン、フルオキセチン、セルトラリン、シタロプラム、パロキセチン、フルボキサミン、リスペリドン、クエチアピン、オランザピン、トラゾドン、およびメラトニンからなる群から選択される、ある量の第2の医薬剤を含み、
単位用量中のプリドピジンおよび第2の医薬剤のそれぞれの量は、対象への同時投与時に、対象を治療するために有効である単位用量と、
(b)そのための完成医薬品容器とを含み、この容器には、単位用量または複数の単位用量を含み、かつ対象の治療におけるこのパッケージの使用を指示するラベルをさらに含むかまたは備える。
【0020】
本発明はまた、FXS罹患対象に投薬するための治療パッケージ、または該対象への投薬に使用するための治療パッケージを提供し、本パッケージは、
(a)1つ以上の単位用量であって、こうした各単位用量は、
(i)ある量のプリドピジン、ならびに
(ii)カルバマゼピン、バルプロ酸、ジバルプロエクス、炭酸リチウム、ガバペンチン、ラモトリジン、トピラマート、チアガビン、ビガバトリン、フェノバルビタール、プリミドン、フェニトイン、メチルフェニデート、デキストロアンフェタミン、L-アセチルカルニチン、ベンラファキシン、ネファゾドン、アマンタジン、葉酸、クロニジン、グアンファシン、フルオキセチン、セルトラリン、シタロプラム、パロキセチン、フルボキサミン、リスペリドン、クエチアピン、オランザピン、トラゾドン、およびメラトニンからなる群から選択される、ある量の第2の医薬剤のうちの1つ以上を含み、
単位用量中のプリドピジンおよび第2の医薬剤のうちの1つ以上のそれぞれの量は、対象への同時投与時に、対象を治療するために有効である単位容量と、
(b)そのための完成医薬品容器とを含み、この容器には、単位用量または複数の単位用量を含み、かつ対象の治療におけるこのパッケージの使用を指示するラベルをさらに含むかまたは備える。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1A】FMRPが発現していないFXS hESCは、多能性を維持していることを示す図である。FXS hESCにおける多能性マーカーの発現を免疫細胞化学により示す。FXS hESCでは、FMRPは見られない。
【
図1B】FMRPが発現していないFXS hESCは、多能性を維持していることを示す図である。FXS hESCにおける多能性マーカーの発現をqRT-PCRにより示す。FXS hESCでは、FMR1 mRNAは見られない。FMR1のレベルは、対照およびFXS hESCのそれぞれにおいて左から4番目の列に表され、FXS hESCでは検出不可能である(すなわち、FXC hESCでは4番目の列が存在しない)。
【
図2A】FXS hESCが、成熟ニューロンに効率的に分化することができることを示す図である。FXS hESCは、MAP2、Tuj-1、GABA、およびNeuNタンパク質の発現によって示されるように、興奮性および抑制性のニューロンに効率よく分化させることができる。
【
図2B】FXS hESCが、成熟ニューロンに効率的に分化することができることを示す図である。FXS hESCは、MAP2、VGLUT2、GAD67、SYP、およびSYNのmRNAの発現によって示されるように、興奮性および抑制性のニューロンに効率よく分化させることができる。
【
図2C】FXS hESCが、成熟ニューロンに効率的に分化することができることを示す図である。分化21日目に、細胞の約80%がニューロン同一性を示した。
【
図3A】FMR1が、FXS hESCの神経細胞分化後もサイレントの状態であることを示す図である。FMR1 mRNAの発現は、神経前駆細胞(NPC)またはFXS hESCからのニューロン分化においては見られない。
【
図3B】FMR1が、FXS hESCの神経細胞分化後もサイレントの状態であることを示す図である。FMRP(FMR1遺伝子によってコードされているタンパク質)の発現は、神経前駆細胞(NPC)またはFXS hESCからのニューロン分化においては見られない。
【
図4A】ヒトFXSニューロンが、神経突起成長障害を呈することを示す図である7日目の対照およびFXSニューロンの神経突起を示す図である(明視野)。
【
図4B】ヒトFXSニューロンが、神経突起成長障害を呈することを示す図である。対照ニューロン(上のデータ)と比較して、FXS(下のデータ)における神経突起長の減少を示す図である。
【
図4C】ヒトFXSニューロンが、神経突起成長障害を呈することを示す図である。対照ニューロン(上のデータ)と比較して、FXS(下のデータ)における神経突起分岐点の減少を示す図である。
【
図5】プリドピジン処理により、ヒトFXSニューロンにおける神経突起成長が改善されることを示す図である。対照細胞および1μM、5μM、またはビヒクル(DMSO)で処理したFXS hESC由来ニューロンの神経突起の成長を8日間にわたって評価した。試験した用量の両方ともにおいて、プリドピジンが、ヒトFXSニューロンにおける神経突起欠損を改善した。
【
図6A】S1Rが遺伝的および薬理学的不活性化することにより、FXSニューロンにおける神経突起伸長のプリドピジン媒介改善が消失することを示す図である。S1R遺伝子の効果的な不活性化およびそのタンパク質産物の喪失は、ウエスタンブロットによって確認された。
【
図6B】S1Rが遺伝的および薬理学的不活性化することにより、FXSニューロンにおける神経突起伸長のプリドピジン媒介改善が消失することを示す図である。プリドピジンで処理したFXSニューロンにおいて観察された神経突起伸長の改善は、S1Rが不活性化されているFXSニューロン(S1RKO)では、消失した。
【
図6C】S1Rが遺伝的および薬理学的不活性化することにより、FXSニューロンにおける神経突起伸長のプリドピジン媒介改善が消失することを示す図である。NE-100を同時投与することにより、FXSニューロンにおける神経突起伸長に対するプリドピジンの効果が遮断された。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、脆弱X症候群(FXS)またはFXS関連障害に罹患している対象を治療する方法であって、対象を治療するために有効な量のプリドピジンを含む医薬組成物を対象に定期的に投与することを含む方法を提供する。
【0023】
さらに提供されるのは、FXS罹患対象を治療するのに使用するためのプリドピジンである。
【0024】
FXS罹患対象の治療に使用するための医薬品を製造するためのプリドピジンの使用がさらに提供される。
【0025】
さらに提供されるのは、FXSを治療するための、プリドピジンまたは有効量のプリドピジンを含む医薬組成物の使用である。
【0026】
一実施形態では、対象は、自閉症スペクトラム障害(ASD)にも罹患している。いくつかの実施形態では、対象は、FXTASに罹患している。
【0027】
別の実施形態では、プリドピジンのその量は、対象におけるFXSの1つ以上の症状の重症度を軽減するのに有効である。別の実施形態では、プリドピジンのその量は、対象におけるFXTASの1つ以上の症状の重症度を軽減するのに有効である。
【0028】
一実施形態では、FXSの1つ以上の症状は、認知機能障害、発達遅延、社会的問題および行動問題、不安、活動亢進挙動、感覚刺激に対する過敏症、胃腸機能の変化、ならびに発作からなる群から選択される。別の実施形態では、症状は、認知機能障害であり、認知機能障害は、知的障害または学習障害である。別の実施形態では、症状は、発話および言語の発達遅延である発達遅延である。
【0029】
高齢男性におけるFXTASの1つ以上の症状としては、小脳性歩行失調症および活動振戦を伴う運動障害が挙げられる。
【0030】
いくつかの実施形態では、治療方法、組成物および使用は、FXSまたはFXS関連障害に罹患している対象において、神経突起伸長を回復させることを含む。
【0031】
一実施形態では、1日あたり10~315mgのプリドピジンが患者に投与される。別の実施形態では、1日あたり22.5~315mgのプリドピジンが患者に投与される。一実施形態において、投与されるプリドピジンの量は、20mg/日~90mg/日である。一実施形態において、投与されるプリドピジンの量は、90mg/日~225mg/日である。一実施形態において、投与されるプリドピジンの量は、180mg/日~225mg/日である。別の実施形態において、1日あたり10mg、22.5mg、45mg、67.5mg、90mg、100mg、112.5mg、125mg、135mg、150mg、180mg、200mg、250mg、または315mgのプリドピジンが患者に投与される。一実施形態において、投与されるプリドピジンの量は、45mg/日である。一実施形態において、投与されるプリドピジンの量は、90mg/日である。一実施形態において、投与されるプリドピジンの量は、180mg/日である。一実施形態において、投与されるプリドピジンの量は、225mg/日である。
【0032】
一実施形態において、プリドピジンの量は、10mg、22.5mg、45mg、67.5mg、90mg、100mg、112.5mg、125mg、135mg、150mg、180mg、200mg、250mg、または315mgのプリドピジンの単位用量として投与される。
【0033】
一実施形態において、単位用量は、1日1回投与される。
【0034】
一実施形態において、単位用量は、1日2回以上投与される。別の実施形態では、単位用量は、1日2回投与される。
【0035】
一実施形態において、プリドピジンは、塩酸プリドピジンの形態である。
【0036】
一実施形態において、対象は、X染色体上に200を超えるCGG繰り返しを有する。
【0037】
一実施形態において、対象は、X染色体に約50~200のCGG繰り返しを有し、FXTASに罹患している。
【0038】
一実施形態では、対象は、18歳未満である。一実施形態では、対象は、男性である。他の実施形態では、対象は、女性である。一実施形態では、対象は、ヒト患者である。
【0039】
一実施形態では、定期投与は、経口である。
【0040】
本発明は、ある量のプリドピジンを含む医薬組成物を対象に定期的に投与することを含み、また、カルバマゼピン、バルプロ酸、ジバルプロエクス、炭酸リチウム、ガバペンチン、ラモトリジン、トピラマート、チアガビン、ビガバトリン、フェノバルビタール、プリミドン、フェニトイン、メチルフェニデート、デキストロアンフェタミン、L-アセチルカルニチン、ベンラファキシン、ネファゾドン、アマンタジン、葉酸、クロニジン、グアンファシン、フルオキセチン、セルトラリン、シタロプラム、パロキセチン、フルボキサミン、リスペリドン、クエチアピン、オランザピン、トラゾドン、およびメラトニンからなる群から選択される第2の医薬剤を投与することをさらに含む、FXS罹患対象を治療する方法を提供する。
【0041】
本発明はまた、FXSに罹患している対象の治療に使用するためのプリドピジンを提供する。
【0042】
本発明はまた、FXSに罹患している対象の治療に使用するための医薬品を製造するためのプリドピジンを提供する。
【0043】
本発明はまた、FXSを治療するための有効量のプリドピジンを含む医薬組成物を提供する。
【0044】
本発明はまた、FXS罹患対象の治療に使用するためのプリドピジンを含む医薬組成物を提供する。
【0045】
本発明はまた、以下を含むパッケージを提供する:
(a)ある量のプリドピジンを含む医薬組成物;および
(b)FXS罹患対象を治療するための医薬組成物の使用説明書。
【0046】
本発明はまた、FXS罹患対象に投薬するための治療パッケージ、または該対象への投薬に使用するための治療パッケージを提供し、本パッケージは、
(a)1つ以上の単位用量であって、こうした各単位用量は、ある量のそのプリドピジンを含み、この単位用量中のプリドピジンの量が、対象への投与時に対象を治療するために有効である単位用量と、
(b)そのための完成医薬品容器とを含み、この容器には、単位用量または複数の単位用量を含み、かつ対象の治療におけるこのパッケージの使用を指示するラベルをさらに含むかまたは備える。
【0047】
本発明はまた、以下を含むパッケージを提供する:
(a)ある量のプリドピジンおよび薬学的に許容される担体を含む第1の医薬組成物;
(b)ある量のカルバマゼピン、バルプロ酸、ジバルプロエクス、炭酸リチウム、ガバペンチン、ラモトリジン、トピラマート、チアガビン、ビガバトリン、フェノバルビタール、プリミドン、フェニトイン、メチルフェニデート、デキストロアンフェタミン、L-アセチルカルニチン、ベンラファキシン、ネファゾドン、アマンタジン、葉酸、クロニジン、グアンファシン、フルオキセチン、セルトラリン、シタロプラム、パロキセチン、フルボキサミン、リスペリドン、クエチアピン、オランザピン、トラゾドン、またはメラトニン、および薬学的に許容される担体を含む第2の医薬組成物;ならびに
(c)FXS罹患対象を治療するために、第1の医薬組成物および第2の医薬組成物を一緒に使用するための説明書。
【0048】
本発明はまた、以下を含むパッケージを提供する:
(a)ある量のプリドピジンおよび薬学的に許容される担体を含む第1の医薬組成物;
(b)ある量のカルバマゼピン、バルプロ酸、ジバルプロエクス、炭酸リチウム、ガバペンチン、ラモトリジン、トピラマート、チアガビン、ビガバトリン、フェノバルビタール、プリミドン、フェニトイン、メチルフェニデート、デキストロアンフェタミン、L-アセチルカルニチン、ベンラファキシン、ネファゾドン、アマンタジン、葉酸、クロニジン、グアンファシン、フルオキセチン、セルトラリン、シタロプラム、パロキセチン、フルボキサミン、リスペリドン、クエチアピン、オランザピン、トラゾドン、またはメラトニン、および薬学的に許容される担体を含む第2の医薬組成物;ならびに
(c)FXS罹患対象を治療するために、第1の医薬組成物および第2の医薬組成物を一緒に使用するための説明書。
【0049】
本発明はまた、FXS罹患対象に投薬するための治療パッケージ、または該対象への投薬に使用するための治療パッケージを提供し、本パッケージは、
(a)1つ以上の単位用量であって、こうした各単位用量は、
(i)ある量のプリドピジン、ならびに
(ii)カルバマゼピン、バルプロ酸、ジバルプロエクス、炭酸リチウム、ガバペンチン、ラモトリジン、トピラマート、チアガビン、ビガバトリン、フェノバルビタール、プリミドン、フェニトイン、メチルフェニデート、デキストロアンフェタミン、L-アセチルカルニチン、ベンラファキシン、ネファゾドン、アマンタジン、葉酸、クロニジン、グアンファシン、フルオキセチン、セルトラリン、シタロプラム、パロキセチン、フルボキサミン、リスペリドン、クエチアピン、オランザピン、トラゾドン、およびメラトニンからなる群から選択される、ある量の第2の医薬剤を含み、
単位用量中のプリドピジンおよび第2の医薬剤のそれぞれの量は、対象への同時投与時に、対象を治療するために有効である単位用量と、
(b)そのための完成医薬品容器とを含み、この容器には、単位用量または複数の単位用量を含み、かつ対象の治療におけるこのパッケージの使用を指示するラベルをさらに含むかまたは備える。
【0050】
本発明はまた、FXS罹患対象に投薬するための治療パッケージ、または該対象への投薬に使用するための治療パッケージを提供し、本パッケージは、
(a)1つ以上の単位用量であって、こうした各単位用量は、
(i)ある量のプリドピジン、ならびに
(ii)カルバマゼピン、バルプロ酸、ジバルプロエクス、炭酸リチウム、ガバペンチン、ラモトリジン、トピラマート、チアガビン、ビガバトリン、フェノバルビタール、プリミドン、フェニトイン、メチルフェニデート、デキストロアンフェタミン、L-アセチルカルニチン、ベンラファキシン、ネファゾドン、アマンタジン、葉酸、クロニジン、グアンファシン、フルオキセチン、セルトラリン、シタロプラム、パロキセチン、フルボキサミン、リスペリドン、クエチアピン、オランザピン、トラゾドン、およびメラトニンからなる群から選択される、ある量の第2の医薬剤のうちの1つ以上、を含み、
単位用量中のプリドピジンおよび第2の医薬剤のうちの1つ以上のそれぞれの量は、対象への同時投与時に、対象を治療するために有効である単位容量と、
(b)そのための完成医薬品容器とを含み、この容器には、単位用量または複数の単位用量を含み、かつ対象の治療におけるこのパッケージの使用を指示するラベルをさらに含むかまたは備える。
【0051】
上述の実施形態の組み合わせもまた本発明の範囲内である。本明細書で言及している「第2の医薬組成物」は、ある量のカルバマゼピン、バルプロ酸、ジバルプロエクス、炭酸リチウム、ガバペンチン、ラモトリジン、トピラマート、チアガビン、ビガバトリン、フェノバルビタール、プリミドン、フェニトイン、メチルフェニデート、デキストロアンフェタミン、L-アセチルカルニチン、ベンラファキシン、ネファゾドン、アマンタジン、葉酸、クロニジン、グアンファシン、フルオキセチン、セルトラリン、シタロプラム、パロキセチン、フルボキサミン、リスペリドン、クエチアピン、オランザピン、トラゾドン、またはメラトニン、またはそれらの任意の組み合わせ、および薬学的に許容される担体を含む。
【0052】
本明細書に記載の「第2の医薬剤」は、カルバマゼピン、バルプロ酸、ジバルプロエクス、炭酸リチウム、ガバペンチン、ラモトリジン、トピラマート、チアガビン、ビガバトリン、フェノバルビタール、プリミドン、フェニトイン、メチルフェニデート、デキストロアンフェタミン、L-アセチルカルニチン、ベンラファキシン、ネファゾドン、アマンタジン、葉酸、クロニジン、グアンファシン、フルオキセチン、セルトラリン、シタロプラム、パロキセチン、フルボキサミン、リスペリドン、クエチアピン、オランザピン、トラゾドン、およびメラトニン、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択され、任意により、薬学的に許容される担体が挙げられる。
【0053】
前述の実施形態について、本明細書に開示されている各実施形態は、他の開示されている実施形態のそれぞれに適用可能であると企図している。例えば、方法の実施形態に列挙されている要素は、本明細書に記載されている医薬組成物、パッケージ、および使用の実施形態において使用することができ、逆もまた同様である。
【0054】
用語
【0055】
本明細書で使用されるとき、かつ他に述べられない限り、以下の用語のそれぞれは、以下に記載される定義を有するものとする。
【0056】
冠詞「a」、「an」および「the」は、非限定的である。例えば、「方法」は、その句の意味の最も広い定義を含み、複数の方法であり得る。
【0057】
本明細書で使用されるとき、「対象に投与すること」とは、疾患、障害または状態(例えば、病理学的状態である)に関連する症状を軽減、治癒または低減するために、対象に医薬品、薬物または治療薬を与えること、投薬すること、または適用することを意味する。経口投与は、即時化合物を対象に投与する1つの様式である。
【0058】
本明細書で使用されるとき、「定期的投与」とは、ある期間によって区切られた繰り返し/反復投与を意味する。投与間の期間は、随時一定であることが好ましい。定期的投与は、例えば、1日1回、1日2回、1日3回、1日4回、週に1回、週に2回、週に3回、週に4回などの投与を含み得る。
【0059】
本明細書で使用されるとき、ミリグラムで測定される場合のプリドピジンの「量」または「用量」とは、調製物の形態にかかわらず、調製物中に存在するプリドピジン(4-[3-(メチルスルホニル)フェニル]-1-プロピル-ピペリジン)のミリグラムを指す。例えば、「90mgプリドピジン」を含有する単位用量は、調製物の形態にかかわらず、調製物中のプリドピジン塩基の量が90mgであることを意味する。したがって、塩(例えば塩酸プリドピジン塩)の形態であるとき、用量90mgのプリドピジンを提供するのに必要な塩形態の重量は、塩の存在により90mgを超えるものとなる。
【0060】
本明細書で使用されるとき、「単位用量(複数可)」、および「単位剤形(複数可)」は、単一の薬物投与実体(複数可)を意味する。
【0061】
本明細書で使用されるとき、数値または範囲の文脈における「約」は、列挙または請求されている数値または範囲の±10%を意味する。
【0062】
本明細書で使用されるとき、目的を達成するのに有効な量である「有効な」とは、合理的な利益/リスク比に釣り合った、過度の有害な副作用(毒性、刺激、またはアレルギー応答など)なく、本開示の様式で使用されたときの指示された治療応答をもたらすのに十分な成分の量を意味する。例えば、認知欠損の治療に有効な量である。具体的な有効量は、治療されている特定の状態、患者の体調、治療されている哺乳動物の種類、治療期間、併用療法の性質(もしあれば)、および用いられた特定の配合物、化合物またはその誘導体の構造などの要因によって変わる。
【0063】
本明細書で使用されるとき、「治療する」または「治療すること」とは、例えば、FXSまたは関連障害などの障害および/または疾患の阻害、後退、または停滞を誘導すること、疾患または障害の重症度を緩和すること、軽減すること、抑制すること、阻害すること、低減すること、疾患または障害の症状を消失させること、実質的に消失させること、または改善することなど、を包含する。
【0064】
本明細書で使用されるとき、対象における疾患の進行または疾患の合併症の「阻害」とは、対象における疾患の進行および/または疾患の合併症を予防、遅延または軽減することを意味する。これには、例えば、対象における1つ以上の症状の進行を遅らせること、これらに限定されないが、以下のものの進行を遅らせること:認識機能障害、知的障害、学習障害(例えば、新しい技能を学習するのに困難を有する)、発育遅延(例えば、お座りしない、歩けない、または同年齢の他の小児らと同時期に話すことができない)、社会問題および行動問題(例えば、アイコンタクトをする、不安、集中力の欠如(trouble paying attention)、手のひらをひらひらさせる(hand flapping)、考えることなく行動し、発話する(acting and speaking without thinking)、および非常に活動的になる)、不安および多動行動、感覚刺激に対する過敏性、胃腸機能の変化、自閉症の症状(例えば、軽度の症例では内気、アイコンタクトが少ない、および社会的不安、重度の罹患者においては、手をひらひらさせる、手の噛みつきおよび保存的発話)、注意欠陥および多動、行動障害(例えば、過敏性、攻撃性および自傷行為)、発作、強迫性挙動、ならびに胃腸機能の変化が挙げられる。
【0065】
FXSに関連する「症状」としては、FXSに関連するあらゆる臨床的または実験的症状が挙げられ、対象が感じ得るまたは観察し得るものに限定されない。FXSの症状としては、これらに限定されないが、認識機能障害、知的障害、学習障害(例えば、新しい技能を学習するのに困難を有する)、発育遅延(例えば、お座りしない、歩けない、または同年齢の他の小児らと同時期に話すことができない)、社会問題および行動問題(例えば、アイコンタクトをする、不安、集中力の欠如、手のひらをひらひらさせる、考えることなく行動し、発話する、および非常に活動的になる)、不安および多動行動、感覚刺激に対する過敏性、胃腸機能の変化、自閉症の症状(例えば、軽度の症例では内気、アイコンタクトが少ない、および社会的不安、重度の罹患者においては、手をひらひらさせる、手の噛みつきおよび保存的発話)、注意欠陥および多動、行動障害(例えば、過敏性、攻撃性および自傷行為)、発作、強迫性挙動、ならびに胃腸機能の変化が挙げられる。
【0066】
本明細書で使用されるとき、「FXS罹患対象」は、FXSに罹患していると診断された対象を意味する。一実施形態では、対象は、FMR1 DNA検査によって診断されている。いくつかの実施形態において、対象は、FXS関連障害、例えばFXTASと診断されている。
【0067】
「薬学的に許容される担体」とは、合理的な利益/リスク率に釣り合った過度の有害な副作用(毒性、刺激、およびアレルギー応答など)なく、ヒトおよび/または動物と共に使用するのに好適である担体または賦形剤を指す。即時化合物を対象に送達するための薬学的に許容される溶媒、懸濁剤またはビヒクルであり得る。
【0068】
本明細書で使用されるとき、「プリドピジン」は、プリドピジン塩基またはその薬学的に許容される塩、ならびに誘導体、例えば、重水素濃縮型のプリドピジンおよび塩を意味する。重水素濃縮プリドピジンおよび塩ならびにそれらの調製方法の例は、米国特許出願公開第2013/0197031号、第2016/0166559号および第2016/0095847号に見出すことができ、これらのそれぞれの全内容は、参照により本明細書に組み込まれる。ある実施形態では、プリドピジンは、HCl塩または酒石酸塩などの薬学的に許容される塩である。好ましくは、本明細書に記載の本発明の任意の実施形態では、プリドピジンはその塩酸塩の形態である。
【0069】
「重水素濃縮」とは、化合物の任意の関連部位における重水素の存在量が、その化合物の量において、その部位に天然に存在する重水素の存在量より多いことを意味する。天然に存在する重水素の分布は、約0.0156%である。したがって、「重水素濃縮」化合物では、その関連部位のいずれかにおける重水素の存在量は、0.0156%超であり、0.0156%超~100%の範囲であり得る。重水素濃縮化合物は、水素を重水素と交換するか、または化合物を重水素濃縮出発物質を用いて合成することによって得ることができる。
【0070】
百分率と関連して使用される場合の重水素濃縮は、水素の代わりに分子内の所与の位置に重水素が取り込まれる百分率を指す。例えば、所与の位置における1%の重水素濃縮は、所与の試料中の1%の分子が特定の位置に重水素を含むことを意味する。重水素濃縮は、質量分析法および核磁気共鳴分光法など、当業者に公知の従来の分析方法を用いて決定することができる。
【0071】
本明細書で使用されるとき、「組み合わせ」は、同時(simultaneous)投与または同時期(contemporaneous)投与のいずれかによる治療に使用するための試薬の集合を意味する。同時投与は、プリドピジンと第2の化合物との混和物(真の混合物、懸濁液、エマルジョンまたは他の物理的組み合わせにかかわらず)の投与を指す。この場合、組み合わせは、投与直前に組み合わせられるプリドピジンと第2の化合物の混和物または別々の含有物であり得る。同時期投与とは、プリドピジンまたは第2の化合物のいずれかの単独の活性に対して、相加的であるか、または好ましくは相乗的である活性が観察されるのと同時に、または十分に接近した時点でのプリドピジンおよび第2の化合物の別々の投与を指す。
【0072】
本明細書で使用されるとき、「併用投与」または「併用して投与すること」は、各剤の個々の治療効果が重複し得るのに十分近く時間的に近接して投与される2つの剤の投与を意味する。
【0073】
本明細書で使用されるとき、「追加」または「追加治療」は、治療に使用するための試薬の集まりを意味し、治療を受けている対象は、1つ以上の試薬の第1の治療レジメンを始め、その後、第1の治療レジメンに加えて、1つ以上の異なる試薬の第2の治療レジメンを始める。これにより、治療に使用される試薬は、すべてが同時に開始されるわけではない。例えば、ドネペジル療法を既に受けている患者にプリドピジン療法を加えることである。
【0074】
本明細書で使用されるとき、投与量単位は、単一の化合物またはそれらの化合物の混合物を含み得る。投与単位は、錠剤、カプセル剤、丸剤、散剤、および顆粒剤などの経口剤形用に調製することができる。
【0075】
薬学的に許容される塩
【0076】
本発明に従って使用するための活性化合物は、意図された投与に好適である任意の形態で提供することができる。好適な形態としては、本発明の化合物の薬学的に(すなわち生理学的に)許容可能な塩、およびプレドラッグまたはプロドラッグの形態が挙げられる。
【0077】
「それらの塩」は、化合物の酸性塩または塩基性塩を作ることによって改変されている即時化合物の塩である。この点に関して「薬学的に許容される塩」という用語は、薬学的用途に好適である本発明の化合物の比較的非毒性の無機酸および有機酸または塩基付加塩を指す。薬学的に許容される塩は、当技術分野において周知であり記載されている手順によって形成され得る。こうした塩を調製する1つの手段は、本発明の化合物を無機塩基で処理することによる。
【0078】
薬学的に許容される塩の例としては、これらに限定されないが、塩酸塩、臭化水素酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩、硫酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、アコナート(aconate)、アスコルビン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、桂皮酸、クエン酸塩、エンボン酸塩、エナント酸塩、フマル酸塩、グルタミン酸塩、グリコール酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、マンデル酸塩、メタンスルホン酸塩、ナフタレン-2-スルホネート、フタル酸塩、サリチル酸塩、ソルビン酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、トルエン-p-スルホネートなどの無毒の無機および有機酸付加塩が挙げられる。こうした塩は、当技術分野において周知であり、記載されている手順によって形成できる。
【0079】
医薬組成物
【0080】
本発明による使用のための化合物は、原料化合物の形態で投与され得るが、活性成分を、任意により生理学的に許容可能な塩の形態で、1種以上の補助剤、賦形剤、担体、緩衝剤、希釈剤、および/または他の慣用の医薬助剤と共に医薬組成物に導入することが好ましい。
【0081】
一実施形態では、本発明は、活性化合物またはその薬学的に許容される塩もしくは誘導体、1つ以上の薬学的に許容される担体、および任意により、当該分野で公知であり、また使用される他の治療的および/または予防的成分を含む医薬組成物を提供する。担体(複数可)は、配合物の他の成分と相溶性であり、そのレシピエントに有害ではないという意味で「許容される」ものでなければならない。
【0082】
本発明の医薬組成物は、所望の治療に好適である任意の都合の良い経路によって投与され得る。好ましい投与経路としては、経口投与、特に錠剤中、カプセル中、糖衣錠中、粉末中、または液体形態、および非経口投与、特に皮膚注射、皮下注射、筋肉内注射、または静脈内注射が挙げられる。本発明の医薬組成物は、所望の配合に適した標準的な方法および従来の技術を用いて当業者によって製造され得る。所望の場合、活性成分を徐放するように適合された組成物を使用し得る。
【0083】
配合および投与のための技術に関するさらなる詳細は、最新版のRemington's Pharmaceutical Sciences(Maack Publishing Co.、Easton、PA)に見出すことができる。
【0084】
本明細書に開示された「任意の範囲」は、その範囲内のすべての百分の一、十分の一、および整数の単位量が本発明によって提供され、本発明の一部として具体的に開示されることを意味する。したがって、例えば、「10mg~315.0mg」または「10mg~315.0mg」は、10.0mg、10.1mg、10.2mg、......22.0、22.1mg、22.2mg、22.3mg、22.4mg、最大で315.0mgなどの単位量が本発明の実施形態として含まれることを意味する。
【0085】
本出願を通して、様々な刊行物が、筆頭著者および発行年によって参照されている。これらの刊行物の完全な引用は、請求項の範囲の直前の「参考文献」セクションに記載されている。本明細書に記載の発明の日付時点での最新技術をさらに完全に説明するために、参考文献のセクションに引用した刊行物の開示内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0086】
本発明は、以下の実験の詳細を参照することによってよりよく理解されるであろうが、詳述された特定の実験は、後に続く特許請求の範囲においてより十分に記載される発明の単なる例示であることを当業者は容易に認識するであろう。
【0087】
実験の詳細
【0088】
実施例1:ヒト脆弱X症候群胚性幹細胞(FXS hESC)
【0089】
ヒト多能性幹細胞は、ASDなどの神経疾患を研究するための強力なツールとして発現している(Bhattacharyya 2015年;Telias 2015年;Doers 2015年)。ヒト脆弱X症候群胚幹細胞(FXS hESC)を使用して、ヒトFXSニューロンにおけるニューロン発達障害を明らかにした。これらのニューロン発達障害は、候補化合物の治療的可能性を評価するための終点として役立ち得る。FXS hESCニューロン(FXSニューロン)の欠損およびFXSニューロンにおけるプリドピジンの効果を以下に記載する。使用した対照細胞は、ヒト胚幹(ES)細胞株であった。
【0090】
多能性マーカーOCT4、NANOG、およびREX1の発現によって示されるように、FMRPおよびFMR1発現の欠如にもかかわらず、FXS hESCは、多能性を維持する(
図1Aおよび
図1B)。DAPI染色は、細胞核を検出するために使用され、本明細書において「DNA」として同定される。
【0091】
ニューロンマーカーMAP2、GAD67、VGLUT2、SYP、およびSYNの発現レベル(
図2B)、ならびに、CDマーカーによって決定されるように高い割合(約80%)のニューロン細胞で示される(
図2C)とおり、FXS hESCは、対照hESCに匹敵する効率でニューロン集団(
図2A)に分化した。
図2Aの上のパネルは、MAP2/Tuj-1/DNA免疫染色を示す。下のパネルはGABA/NeuN/DNA免疫染色を示す。
図2Bは、hESC対照細胞、NPCおよびニューロン細胞において標識されたニューロンマーカーの相対的mRNAレベルを示す。
【0092】
図3Aおよび3Bは、FMR1が神経前駆細胞(NPC)およびニューロンへの分化後にサイレンシング状態であることを示す。
図3Aおよび3Bは、FXS hESCから分化したNPCまたはニューロンにおいて、FMR1 mRNA(3A)またはFMRPタンパク質(3B)の発現が見られなかったことを示す。
【0093】
神経突起の成長は、ニューロンの発達および成熟の代用である。
図4A、
図4Bおよび
図4Cは、神経突起の長さおよび分岐点がFXSニューロンにおいて有意に減少していることを示しており、これは、ヒトFXSニューロンにおいて神経突起成長に欠陥があることを示唆している。
図4Aは、7日目における、対照およびFXSニューロンの輪郭を描写した神経突起を示す(明視野顕微鏡検査)。対照ニューロンと比較して、FXSニューロンにおける成長が少ない。
図4Bは、対照ニューロンと比較して、FXSニューロンにおいて、神経突起長が少ないことを示す。
図4Cは、対照ニューロンと比較して、FXSニューロンにおいて、神経突起分岐点が少ないことを示す。
【0094】
シグマ-1受容体活性は、ニューロンにおける神経突起成長に影響を与えることが示されている(Kimuraら、2013年)。
図5は、ヒトFXSニューロンおよび対照ニューロンにおける、縦方向の神経突起成長に対するプリドピジン処理の効果を示す。プリドピジン処理により、1μM(半分黒塗りの正方形)および5μM(黒塗りの正方形)の両方において、FXSニューロンにおける神経突起成長の有意な改善がもたらされた。白い四角は、DMSO処理FXSニューロンのデータを示す。丸は、DMSO処理(白丸)、1μM(黒丸)および5μMプリドピジン(半黒丸)により処理した対照細胞のデータを示す。本実施例は、プリドピジンがヒトFXSニューロンにおける神経突起伸長障害を回復させることを実証する。この実施例は、プリドピジンがFXSの治療において治療的価値を有することを実証している。
【0095】
実施例2:シグマ-1受容体の遺伝的および薬理学的不活性化により、FXSニューロンにおける神経突起伸長のプリドピジン媒介改善が消失する。
【0096】
プリドピジン処理後のFXSニューロンにおける神経突起伸長障害の救済が、シグマ-1受容体(S1R)を介して媒介されるかを調べるために、ウイルス送達Cas9を用いて、ニューロン分化の前にFXS NPCにおけるS1Rを標的化し、不活性化した。S1R遺伝子の効果的な不活性化およびそのタンパク質産物の喪失は、ウエスタンブロットによって確認された(
図6A)。100nMプリドピジンで24時間処理したFXSニューロンにおいて観察された神経突起伸長の改善は、S1Rが不活性化されているFXSニューロン(S1RKO)において消失した(
図6B)。
【0097】
FXSニューロンにおけるプリドピジン媒介神経突起伸長の改善に対するS1Rの薬理学的阻害剤の効果をさらに試験した。S1RアンタゴニストであるNE-100(1μM)を同時投与することで、FXSニューロンにおける神経突起伸長に対するプリドピジンの効果を遮断した(
図6C;各データセットの右側の薄灰色の列)。これらの結果は、FXSニューロンにおける神経突起伸長障害に対するプリドピジンの効果を媒介する際のS1Rの役割を裏付けている。
【0098】
実施例3:FXS罹患患者を治療するためのプリドピジンの有効性の評価
【0099】
プリドピジンの定期的(例えば、1日1回または1日2回)経口投与は、FXSに罹患しているヒト患者の治療に有効である。ヒト患者は、小児科患者または成人患者である。プリドピジンの定期的(例えば、1日1回または1日2回)経口投与は、FXS罹患対象の治療に有効である。
【0100】
本明細書に記載のプリドピジン組成物は、FXS罹患対象に経口投与される。組成物の投与は、FXS罹患対象の治療に有効である。
【0101】
実施例4:FXS罹患患者を治療するためのプリドピジンの有効性の評価
【0102】
プリドピジンの定期的(例えば、1日1回または1日2回)経口投与は、FXS関連障害に罹患しているヒト患者の治療に有効である。ヒト患者は、小児科患者または成人患者である。プリドピジンの定期的(例えば、1日1回または1日2回)経口投与は、FXS関連障害に罹患している対象の治療に有効である。
【0103】
本明細書に記載のプリドピジン組成物は、FXS関連障害に罹患している対象に経口投与される。本組成物の投与は、FXS関連障害に罹患している対象の治療に有効である。
【0104】
参照文献
【0105】
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