(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-29
(45)【発行日】2022-08-08
(54)【発明の名称】分析方法および分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/64 20060101AFI20220801BHJP
G01N 21/41 20060101ALI20220801BHJP
G01N 35/00 20060101ALI20220801BHJP
G01N 35/02 20060101ALI20220801BHJP
【FI】
G01N21/64 G
G01N21/41 101
G01N35/00 F
G01N35/02 A
(21)【出願番号】P 2019544272
(86)(22)【出願日】2018-06-22
(86)【国際出願番号】 JP2018023895
(87)【国際公開番号】W WO2019064754
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2021-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2017184914
(32)【優先日】2017-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000206956
【氏名又は名称】大塚製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【氏名又は名称】前堀 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100184343
【氏名又は名称】川崎 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】野田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】真島 雅尚
(72)【発明者】
【氏名】庄司 祐也
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/082089(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/171139(WO,A1)
【文献】特開昭51-049779(JP,A)
【文献】特開2009-080291(JP,A)
【文献】特開2006-177852(JP,A)
【文献】特開2013-002858(JP,A)
【文献】国際公開第2015/064704(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/958
G01N 33/48-33/98
G01N 35/00-35/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面プラズモン共鳴蛍光分析法を利用して、被測定物質を含む分析チップに対して検出光を照射し、前記分析チップより出力される光の光量を検出することにより、前記被測定物質の量を検出する分析方法であって、
前記検出光と前記分析チップとの相対位置を変化させながら、前記分析チップの入射面、および前記入射面に隣接する他の面に前記検出光を照射し、前記分析チップの前記入射面での反射光を検出し、検出された反射光量と前記相対位置の関係から分析チップの位置に関する情報を取得する工程
と、
前記検出光の全ビーム径が前記入射面に入射する位置に前記分析チップが位置する時に検出された光量である、対象となる反射光の光量が所定の光量以下である場合に前記分析チップが異常であると判定する異常判定工程
と、
前記異常判定工程において前記分析チップが異常であると判定された場合に、前記分析チップの異常が解消できるか否かを判定する異常解消判定工程とを
含み、
異常解消判定工程において、前記対象となる反射光の光量のうち、最大となる光量の値と最小となる光量の値の差が最大値の所定の割合以下であれば異常解消可能と判定し、最大となる光量の値と最小となる光量の値の差が最大値の所定の割合を超えるのであれば、異常解消不可能と判定する、分析方法。
【請求項2】
前記所定の光量は、前記異常判定工程において、本来検出されるべき前記反射光の光量の理論値の85%以上95%以下の光量である、請求項1記載の分析方法。
【請求項3】
前記異常解消判定工程において異常解消可能と判定された場合に前記分析チップの異常を解消する異常解消工程をさらに含む、請求項
1または2記載の分析方法。
【請求項4】
前記異常解消工程における異常解消方法には、分析チップに温風を吹き付ける方法、温調された搬送ステージ上で所定の時間以上分析チップを放置する方法の少なくとも一方が含まれる、請求項
3記載の分析方法。
【請求項5】
異常解消工程の後に前記対象となる反射光の光量を再度取得する再取得工程と、
前記再取得工程において再取得された前記対象となる反射光の光量の値を元に前記分析チップの異常が解消されたか否かを判定する異常解消判定工程とを含む、請求項
4記載の分析方法。
【請求項6】
前記異常解消判定工程において、前記分析チップの異常が解消されたと判定された場合に前記被測定物質の量の検出を行う、請求項
5記載の分析方法。
【請求項7】
前記異常解消判定工程において、異常解消不可能と判定された場合に、その旨をユーザに報知すること、前記被測定物質の量の検出を中断すること、または検出結果に異常があった旨の注記を表示すること、の何れかを行う請求項
1~
6のいずれかに記載の分析方法。
【請求項8】
前記異常判定工程において検出される前記分析チップの異常は、前記入射面に生じた結露、前記入射面の曇り、前記入射面のキズ、前記入射面への汚れ付着のうちいずれかである、請求項1~
7のいずれかに記載の分析方法。
【請求項9】
表面プラズモン共鳴蛍光分析法を利用して、被測定物質を含む分析チップに対して
検出光を照射し、前記分析チップより出力される光を検出することにより、前記被測定物質の量を検出する分析装置であって、
前記検出光を照射する照射部と、
前記検出光と前記分析チップとの相対位置を変化させる搬送部と、
前記搬送部により前記相対位置を変化させ、前記照射部により前記分析チップの入射面、および前記入射面に隣接する他の面に前記検出光を照射させた状態で、前記分析チップの前記入射面での反射光を検出する検出部と、
前記検出された反射光量と前記相対位置の関係から分析チップの位置に関する情報を取得する位置情報取得部と、
前記搬送部により、前記検出光の全ビーム径が前記入射面に入射する位置に前記分析チップが位置する時に検出された光量である、対象となる反射光の光量が所定の光量以下である場合に前記分析チップが異常であると判定する異常判定部とを備え
、
前記異常判定部は、前記分析チップが異常であると判定された場合に、前記分析チップの異常が解消できるか否かを判定する機能を備え、
前記異常判定部は、前記対象となる反射光の光量のうち、最大となる光量の値と最小となる光量の値の差が最大値の所定の割合以下であれば異常解消可能と判定し、最大となる光量の値と最小となる光量の値の差が最大値の所定の割合を超えるのであれば、異常解消不可能と判定する、分析装置。
【請求項10】
前記所定の光量は、前記検出光の全ビーム径が前記入射面に入射する位置に前記分析チップが位置する時に本来検出されるべき前記反射光の光量の理論値の85%以上95%以下の光量である、請求項
9記載の分析装置。
【請求項11】
前記異常判定部により、異常解消可能と判定された場合に、前記分析チップの異常を解消する機能を備える、請求項
9または10記載の分析装置。
【請求項12】
前記分析チップに温風を吹き付ける温調ユニット、温調された搬送ステージ上に前記分析チップが所定の時間放置されたか否かを計測するタイマーの少なくとも一方を備える、請求項
11記載の分析装置。
【請求項13】
前記検出部は、前記分析チップの異常が解消された後に前記対象となる反射光の光量を再度検出し、
前記異常判定部は、前記検出部により再度検出された前記対象となる反射光の光量の値を元に前記分析チップの異常が解消されたか否かを判定する、請求項
11または
12記載の分析装置。
【請求項14】
前記異常判定部により、前記分析チップの異常が解消されたと判定された場合に前記被測定物質の量の検出を行う、請求項
13記載の分析装置。
【請求項15】
前記異常判定部により、異常解消不可能と判定された場合に、その旨をユーザに報知する報知部、前記被測定物質の量の検出を中断させる中断指示部、または検出結果に異常があった旨の注記を表示する印刷部、の何れかを備える請求項
9~
14のいずれかに記載の分析装置。
【請求項16】
前記異常判定部において検出される前記分析チップの異常は、前記入射面に生じた結露、前記入射面の曇り、前記入射面のキズ、前記入射面への汚れ付着のうちいずれかである、請求項
9~
15のいずれかに記載の分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance:SPR)を利用して試料液中に含まれる被検出物質を検出する分析方法および分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質やDNAなどの生体物質を検出する測定において、微量の被検出物質を高感度かつ定量的に検出できれば、即時に患者の状態を把握し治療を行うことが可能となる。このため、微量の被検出物質に起因する微弱な光を、高感度かつ定量的に検出する分析方法および分析装置が求められている。被検出物質を高感度で検出する1つの方法としては、表面プラズモン共鳴蛍光分析法(表面プラズモン励起増強蛍光分光法(Surface Plasmon-field enhanced Fluorescence Spectroscopy):SPFS)が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
SPFSでは、金属膜が所定の面上に配置されたプリズムを用いる。そして、プリズムを介して、表面プラズモン共鳴が生じる角度で励起光照射部から励起光を金属膜に照射すると、金属膜表面上に局在場光(増強された電場)を発生させることができる。この局在場光により、金属膜上に捕捉された被検出物質を標識する蛍光物質が励起されるため、蛍光物質から放出された蛍光を検出することで、被検出物質の存在またはその量を検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、SPFSに用いられるセンサーチップは、一般的には、個包装された状態で冷蔵保存されている。そして、測定を行う場合、ユーザは、事前にセンサーチップを冷蔵庫から取り出し、センサーチップの温度を室温(常温)に戻してから個包装を開封し、搬送ステージに設置する。ここで、室温戻し前にセンサーチップを開封した場合、冷蔵庫の庫内と室内の温度差や湿度差の影響でセンサーチップに結露や曇りが発生し、異常な測定結果が検出されてしまうという問題がある。
【0006】
また、無事に室温戻しした後にセンサーチップが開封されたとしても、ユーザが誤ってセンサーチップを手で触るなどしてセンサーチップに汚れや傷をつけた場合には、異常な測定結果が検出されるおそれがある。
【0007】
本発明の目的は、異常な測定結果が検出されることを容易に防止できる分析方法および分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本願発明は下記の事項を包含する。
被測定物質を含む分析チップに対して検出光を照射し、前記分析チップより出力される光の光量を検出することにより、前記被測定物質の量を検出する分析方法であって、
前記検出光と前記分析チップとの相対位置を変化させながら、前記分析チップの入射面、および前記入射面に隣接する他の面に前記検出光を照射し、前記分析チップの前記入射面での反射光を検出し、検出された反射光量と前記相対位置の関係から分析チップの位置に関する情報を取得する工程を有し、
前記検出光の全ビーム径が前記入射面に入射する位置に前記分析チップが位置する時に検出された光量である、対象となる反射光の光量が所定の光量以下である場合に前記分析チップが異常であると判定する異常判定工程をさらに含む、分析方法。
【0009】
検出光を照射する照射部を備え、前記照射部により被測定物質を含む分析チップに対して前記励起光を照射し、前記分析チップより出力される光を検出することにより、前記被測定物質の量を検出する分析装置であって、
前記検出光と前記分析チップとの相対位置を変化させる搬送部と、
前記搬送部により前記相対位置を変化させ、前記照射部により前記分析チップの入射面、および前記入射面に隣接する他の面に前記検出光を照射させた状態で、前記分析チップの前記入射面での反射光を検出する検出部と、
前記検出された反射光量と前記相対位置の関係から分析チップの位置に関する情報を取得する位置情報取得部と、
前記搬送部により、前記検出光の全ビーム径が前記入射面に入射する位置に前記分析チップが位置する時に検出された光量である、対象となる反射光の光量が所定の光量以下である場合に前記分析チップが異常であると判定する異常判定部とを備える、分析装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、異常な測定結果が検出されることを容易に防止できる分析方法および分析装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態に係るSPFS装置の構成を模式的に示す図である。
【
図2】実施の形態に係るSPFS装置の動作手順を示すフローチャートである。
【
図3】
図2に示される位置検出・異常検出工程(工程S120)内の工程を示すフローチャートである。
【
図4】位置検出・異常検出工程(工程S120)において、分析チップの位置情報と第1受光センサーに入射する反射光の光量の関係を説明するための模式図である。
【
図5】第1受光センサーによる反射光の検出結果の例を示すグラフである。
【
図7】分析チップを測定位置に配置する工程を説明するための模式図である。
【
図8】分析チップを測定位置に配置する工程を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、実施の形態に係る分析装置について、表面プラズモン共鳴蛍光分析法を利用して試料液中に含まれる被検出物質を検出するSPFS装置を例に説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係るSPFS装置(分析装置)100の構成を示す模式図である。
図1に示されるように、SPFS装置100は、励起光照射ユニット(照射部)110、励起光検出ユニット(検出部)120、蛍光検出ユニット130、送液ユニット140、搬送ユニット(搬送部)150、および制御処理部(異常判定部)160を有する。SPFS装置100は、搬送ユニット150のチップホルダー154に分析チップ10を装着した状態で使用される。そこで、分析チップ10について先に説明し、その後にSPFS装置100の各構成要素について説明する。
【0013】
(検出チップの構成)
分析チップ10は、入射面21、成膜面22および出射面23を有するプリズム20と、成膜面22上に形成された金属膜30と、成膜面22または金属膜30上に配置された流路蓋40とを有する。通常、分析チップ10は、分析のたびに交換される。分析チップ10は、好ましくは各片の長さが数mm~数cmの構造物であるが、「チップ」の範疇に含まれない、より小型の構造物またはより大型の構造物であってもよい。
【0014】
プリズム20は、励起光(検出光)αに対して透明な誘電体からなる。プリズム20は、入射面21、成膜面22および出射面23を有する。入射面21は、励起光照射ユニット110からの励起光α大部分をプリズム20の内部に入射させ、励起光照射ユニット110からの励起光αの一部を反射させる。励起光照射ユニット110からの励起光αのうち、入射面21で反射される励起光α(以下、「反射光β」ともいう)の光量の割合(反射率)は、プリズム20の屈折率と、プリズム20の周囲の気体の屈折率と、入射面21に対する励起光αの入射角とに応じて決まる。
【0015】
通常プリズム20の周囲は空気であるため、反射率は、プリズム20の材料と、励起光αの入射角とが同じであればほぼ一定となる。たとえば、プリズム20の材料が屈折率1.4~1.6の樹脂である場合、反射率は4.2%程度である。成膜面22上には、金属膜30が配置されている。プリズム20の内部に入射した励起光αは、金属膜30の裏面で反射する。より具体的には、励起光αは、プリズム20と金属膜30との界面(成膜面22)で反射する。出射面23は、金属膜30で反射した励起光αをプリズム20の外部に出射させる。
【0016】
プリズム20の形状は、特に限定されない。本実施の形態では、プリズム20の形状は、台形を底面とする柱体である。台形の一方の底辺に対応する面が成膜面22であり、一方の脚に対応する面が入射面21であり、他方の脚に対応する面が出射面23である。底面となる台形は、等脚台形であることが好ましい。これにより、入射面21と出射面23とが対称になり、励起光αのS波成分がプリズム20内に滞留しにくくなる。
【0017】
入射面21は、励起光αが励起光照射ユニット110に戻らないように形成される。励起光αの光源がレーザーダイオード(以下「LD」ともいう)である場合、励起光αがLDに戻ると、LDの励起状態が乱れてしまい、励起光αの波長や出力が変動してしまう。そこで、理想的な増強角を中心とする走査範囲において、励起光αが入射面21に垂直に入射しないように、入射面21の角度が設定される。ここで「増強角」とは、金属膜30に対する励起光αの入射角を走査した場合に、分析チップ10の上方に放出される励起光αと同一波長の散乱光(以下「プラズモン散乱光」という)δの光量が最大となるときの入射角を意味する。本実施の形態では、入射面21と成膜面22との角度および成膜面22と出射面23との角度は、いずれも約80°である。
【0018】
なお、分析チップ10の設計により、増強角(およびその極近傍にある共鳴角)が概ね決まる。設計要素は、プリズム20の屈折率、金属膜30の屈折率、金属膜30の膜厚、金属膜30の消衰係数、励起光αの波長などである。金属膜30上に固定化された被検出物質によって増強角および共鳴角がシフトするが、その量は数度未満である。ここで「共鳴角」とは、金属膜30に対する励起光αの入射角を走査した場合に、成膜面22で反射され、出射面23から出射される反射光(不図示)の光量が最小となるときの、入射角を意味する。
【0019】
プリズム20は、複屈折特性を少なからず有する。プリズム20の材料の例には、樹脂およびガラスが含まれる。プリズム20を構成する樹脂の例には、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、およびシクロオレフィン系ポリマーが含まれる。プリズム20の材料は、好ましくは、屈折率が1.4~1.6であり、かつ複屈折が小さい樹脂である。
【0020】
金属膜30は、プリズム20の成膜面22上に配置されている。これにより、成膜面22に全反射条件で入射した励起光αの光子と、金属膜30中の自由電子との間で相互作用(表面プラズモン共鳴)が生じ、金属膜30の表面上に局在場光を生じさせることができる。
【0021】
金属膜30の材料は、表面プラズモン共鳴を生じさせうる金属であれば特に限定されない。金属膜30の材料の例には、金、銀、銅、アルミニウムおよびこれらの合金が含まれる。本実施の形態では、金属膜30は、金薄膜である。金属膜30の形成方法は、特に限定されない。金属膜30の形成方法の例には、スパッタリング、蒸着、メッキが含まれる。金属膜30の厚みは、特に限定されないが、30~70nmの範囲内が好ましい。
【0022】
また、
図1では図示しないが、金属膜30のプリズム20と対向しない面(金属膜30の表面)には、被検出物質を捕捉するための捕捉体が固定化されている。捕捉体を固定化することで、被検出物質を選択的に検出することが可能となる。本実施の形態では、金属膜30上の所定の領域(反応場)に、捕捉体が均一に固定化されている。捕捉体の種類は、被検出物質を捕捉することができれば特に限定されない。本実施の形態では、捕捉体は、被検出物質に特異的に結合可能な抗体またはその断片である。反応場では、捕捉体および被検出物質の結合(1次反応)や、被検出物質の蛍光標識(2次反応)などの反応が行われる。
【0023】
流路蓋40は、金属膜30上に配置されている。金属膜30がプリズム20の成膜面22の一部にのみ形成されている場合は、流路蓋40は、成膜面22上に配置されていてもよい。流路蓋40の裏面には、流路溝が形成されており、流路蓋40は、金属膜30(およびプリズム20)と共に、液体が流れる流路41を形成する。金属膜30に固定化されている捕捉体は、流路41内に露出している。流路41の両端は、流路蓋40の上面に形成された不図示の注入口および排出口とそれぞれ接続されている。流路41内へ液体が注入されると、液体は捕捉体に接触する。
【0024】
流路蓋40は、金属膜30上から放出される光(蛍光γおよびプラズモン散乱光δ)に対して透明な材料からなることが好ましい。流路蓋40の材料の例には、樹脂が含まれる。これらの光に対して透明であれば、流路蓋40の他の部分は、不透明な材料で形成されていてもよい。流路蓋40は、例えば、両面テープや接着剤などによる接着や、レーザー溶着、超音波溶着、クランプ部材を用いた圧着などにより金属膜30またはプリズム20に接合されている。
【0025】
流路41を流れる液体の種類は、特に限定されない。液体の種類の例には、被検出物質を含む検体、蛍光物質を含む蛍光標識液、および緩衝液が含まれる。検体および被検出物質の種類は、特に限定されない。検体の例には、血液や血清、血漿、尿、鼻孔液、唾液、精液などの体液およびその希釈液が含まれる。被検出物質の例には、核酸(DNAやRNAなど)、タンパク質(ポリペプチドやオリゴペプチドなど)、アミノ酸、糖質、脂質およびこれらの修飾分子が含まれる。
【0026】
図1に示されるように、励起光αの大部分は、入射面21からプリズム20内に入射する。このとき、励起光αの一部は、入射面21で反射して反射光βとなる。プリズム20内に入射した励起光αは、金属膜30に全反射角度(表面プラズモン共鳴が生じる角度)で入射する。このように金属膜30に対して励起光αを表面プラズモン共鳴が生じる角度で照射することで、金属膜30上に局在場光(一般に「エバネッセント光」または「近接場光」とも呼ばれる)を発生させることができる。この局在場光により、金属膜30上に存在する被検出物質を標識する蛍光物質が励起され、蛍光γが出射される。SPFS装置100は、蛍光物質から放出された蛍光γの光量(強度)を検出することで、被検出物質の存在または量を検出する。また、詳細については後述するが、SPFS装置100は、反射光βの光量(強度)を検出することで、分析チップ10の位置を調整しながら分析チップ10の異常を検出することができる。
【0027】
(SPFS装置の構成)
次に、SPFS装置100の各構成要素について説明する。前述のとおり、SPFS装置(分析装置)100は、励起光照射ユニット(照射部)110、励起光検出ユニット(検出部)120、蛍光検出ユニット130、送液ユニット140、搬送ユニット(搬送部)150および制御処理部(異常判定部)160を有する。
【0028】
励起光照射ユニット110は、チップホルダー154に保持された分析チップ10に励起光αを照射する。蛍光γの検出時には、励起光照射ユニット110は、金属膜30に対する入射角が表面プラズモン共鳴を生じさせる角度となるように、金属膜30に対するP波のみを入射面21に向けて出射する。ここで「励起光」とは、蛍光物質を直接または間接的に励起させる光である。たとえば、励起光αは、プリズム20を介して金属膜30に表面プラズモン共鳴が生じる角度で照射されたときに、蛍光物質を励起させる局在場光を金属膜30の表面上に生じさせる光である。本実施の形態に係るSPFS装置100では、励起光αは、分析チップ10の位置決めや異常検出の際にも使用される。
【0029】
励起光照射ユニット110は、励起光αをプリズム20に向けて出射するための構成と、金属膜30の裏面に対する励起光αの入射角度を走査するための構成とを含む。本実施の形態では、励起光照射ユニット110は、光源ユニット111、角度調整機構112および光源制御部113を含む。
【0030】
光源ユニット111は、コリメートされ、かつ波長および光量(強度)が一定の励起光αを、金属膜30裏面における照射スポットの形状が略円形となるように出射する。光源ユニット111は、例えば、励起光αの光源、ビーム整形光学系および温度調整機構(いずれも不図示)を含む。
【0031】
光源の種類は、特に限定されないが、第2受光センサー137としてフォトダイオード(PD)などの高感度でない光検出器を使用する観点からは、ハイパワーの光源であることが好ましい。本実施の形態では、光源は、レーザーダイオード(LD)である。光源の他の例には、発光ダイオード、水銀灯、その他のレーザー光源が含まれる。光源から出射される光がビームでない場合は、光源から出射される光は、レンズや鏡、スリットなどによりビームに変換される。また、光源から出射される光が単色光でない場合は、光源から出射される光は、回折格子などにより単色光に変換される。さらに、光源から出射される光が直線偏光でない場合は、光源から出射される光は、偏光子などにより直線偏光の光に変換される。
【0032】
ビーム整形光学系は、例えば、コリメーターやバンドパスフィルター、直線偏光フィルター、半波長板、スリット、ズーム手段などを含む。ビーム整形光学系は、これらのすべてを含んでいてもよいし、一部を含んでいてもよい。
【0033】
コリメーターは、光源から出射された励起光αをコリメートする。
バンドパスフィルターは、光源から出射された励起光αを中心波長のみの狭帯域光にする。光源からの励起光αは、若干の波長分布幅を有しているためである。
【0034】
直線偏光フィルターは、光源から出射された励起光αを完全な直線偏光の光にする。半波長板は、金属膜30にP波成分が入射するように励起光αの偏光方向を調整する。
スリットおよびズーム手段は、金属膜30裏面における照射スポットの形状が所定サイズの円形となるように、励起光αのビーム径や輪郭形状などを調整する。
【0035】
温度調整機構は、例えば、ヒーターやペルチェ素子などである。光源の出射光の波長およびエネルギーは、温度によって変動することがある。このため、温度調整機構で光源の温度を一定に保つことにより、光源の出射光の波長およびエネルギーを一定に制御する。
【0036】
角度調整機構112は、金属膜30(プリズム20と金属膜30との界面(成膜面22))への励起光αの入射角を調整する。角度調整機構112は、プリズム20を介して金属膜30の所定の位置に向けて所定の入射角で励起光αを照射するために、励起光αの光軸とチップホルダー154とを相対的に回転させる。
【0037】
たとえば、角度調整機構112は、光源ユニット111を励起光αの光軸と直交する軸(
図1の紙面に対して垂直な軸)を中心として回動させる。このとき、入射角を走査しても金属膜30上での照射スポットの位置がほとんど変化しないように、回転軸の位置を設定する。回転中心の位置を、入射角の走査範囲の両端における2つの励起光αの光軸の交点近傍(成膜面22上の照射位置と入射面21との間)に設定することで、照射位置のズレを極小化することができる。
【0038】
前述のとおり、金属膜30に対する励起光αの入射角のうち、プラズモン散乱光δの最大光量を得られる角度が増強角である。増強角またはその近傍の角度に励起光αの入射角を設定することで、高強度の蛍光γを検出することが可能となる。なお、分析チップ10のプリズム20の材料および形状、金属膜30の膜厚、流路内の液体の屈折率などにより、励起光αの基本的な入射条件が決まるが、流路内の蛍光物質の種類および量、プリズム20の形状誤差などにより、最適な入射条件はわずかに変動する。このため、測定ごとに最適な増強角を求めることが好ましい。本実施の形態では、金属膜30の法線(
図1におけるz軸方向の直線)に対する励起光αの好適な出射角は、約70°である。
【0039】
光源制御部113は、光源ユニット111に含まれる各種機器を制御して、光源ユニット111の出射光(励起光α)の出力を制御する。光源制御部113は、例えば、演算装置、制御装置、記憶装置、入力装置および出力装置を含む公知のコンピュータやマイコンなどによって構成される。
【0040】
励起光検出ユニット120は、光学測定(例えば、増強角の検出や光学ブランク値の測定、蛍光γの検出など)を行う際の、分析チップ10の位置決めと励起光照射ユニット110の異常検出とのために、分析チップ10への励起光αの照射によって生じた反射光βを検出する。
【0041】
好ましくは、励起光検出ユニット120は、最初の光学測定を行う前に、分析チップ10の位置決めと、励起光照射ユニット110の異常検出とのために反射光βを検出する。多くの場合、最初の光学測定は、増強角の検出であることから、増強角の検出の前に反射光βを検出することが好ましい。増強角の検出を実施しない場合は、光学ブランク値の測定前に反射光βを検出する。増強角の検出および光学ブランク値の測定の両方を実施しない場合は、蛍光γの検出前に反射光βを検出する。
【0042】
励起光照射ユニット110の異常を検出するための反射光βの検出と、分析チップ10の位置決めのための反射光βの検出とは、同時に行われてもよいし、別々に行われてもよい。本実施の形態では、励起光照射ユニット110の異常を検出するための反射光βの検出と、分析チップ10の位置決めのための反射光βの検出とは、同時に行われる。
【0043】
励起光検出ユニット120は、第1受光センサー121および第1センサー制御部122を含む。
第1受光センサー121は、励起光αの反射光βを検出する。第1受光センサー121の種類は、励起光αの反射光βを検出可能であれば特に限定されない。たとえば、第1受光センサー121は、フォトダイオード(PD)や位置検出素子(PSD)などである。第1受光センサー121の受光面の大きさは、励起光αのビーム径よりも大きいことが好ましい。たとえば、励起光αのビーム径が1~1.5mm程度の場合、第1受光センサー121の受光面の1辺の長さは3mm以上であることが好ましい。
【0044】
第1受光センサー121は、励起光αの反射光βが入射する位置に配置されている。本実施の形態では、第1受光センサー121は、入射面21からの反射光βが入射する位置に配置されている。好ましくは、第1受光センサー121は、蛍光γの検出時と同じかまたはそれに近い角度で出射された励起光αの反射光βが入射する位置に配置されている。励起光αの照射位置(照射方向)は、入射角の変化によりわずかに変化するため、分析チップ10の位置決め時と蛍光γの検出時とで励起光αの入射角を同じかまたはそれに近い角度にすることで、蛍光γの検出時の位置決め精度をより高くすることが可能となる。本実施の形態では、金属膜30の法線(
図1におけるz軸方向の直線)に対する励起光αの出射角が約70°である場合、入射面21からの反射光βは、搬送ステージの進行方向(
図1におけるx軸方向)にほぼ水平に進む。したがって、第1受光センサー121は、この水平方向に進む反射光βが入射する位置に配置されている(
図4C参照)。
【0045】
第1センサー制御部122は、第1受光センサー121の出力値の検出や、検出した出力値による第1受光センサー121の感度の管理、適切な出力値を取得するための第1受光センサー121の感度の変更、などを制御する。第1センサー制御部122は、例えば、演算装置、制御装置、記憶装置、入力装置および出力装置を含む公知のコンピュータやマイコンなどによって構成されている。
【0046】
蛍光検出ユニット130は、金属膜30への励起光αの照射によって生じた蛍光γを検出する。また、必要に応じて、蛍光検出ユニット130は、金属膜30への励起光αの照射によって生じたプラズモン散乱光δも検出する。蛍光検出ユニット130は、例えば、受光ユニット131、位置切替機構132および第2センサー制御部133を含む。
【0047】
受光ユニット131は、分析チップ10の金属膜30の法線方向(
図1におけるz軸方向)に配置される。受光ユニット131は、第1レンズ134、光学フィルター135、第2レンズ136および第2受光センサー137を含む。
【0048】
第1レンズ134は、例えば、集光レンズであり、金属膜30上から出射される光を集光する。第2レンズ136は、例えば、結像レンズであり、第1レンズ134で集光された光を第2受光センサー137の受光面に結像させる。両レンズの間の光路は、略平行な光路になっている。
【0049】
光学フィルター135は、第1レンズ134および第2レンズ136の間に配置されている。光学フィルター135は、蛍光検出時においては、光学フィルター135に入射する光のうち、蛍光成分のみを透過させ、励起光成分(プラズモン散乱光δ)を除去する。これにより、蛍光成分のみを第2受光センサー137に導き、高いS/N比で蛍光γを検出することができる。光学フィルター135の種類の例には、励起光反射フィルター、短波長カットフィルターおよびバンドパスフィルターが含まれる。光学フィルター135の例には、所定の光成分を反射する多層膜を含むフィルターと、所定の光成分を吸収する色ガラスフィルターとが含まれる。
【0050】
第2受光センサー137は、分析チップ10から放出される蛍光γおよびプラズモン散乱光δを検出する。第2受光センサー137の例には、フォトダイオード(PD)、光電子増倍管(PMT)およびアバランシェフォトダイオード(APD)が含まれる。
【0051】
位置切替機構132は、光学フィルター135の位置を、受光ユニット131における光路上または光路外に切り替える。具体的には、第2受光センサー137が蛍光γを検出する時には、光学フィルター135を受光ユニット131の光路上に配置し、第2受光センサー137がプラズモン散乱光δを検出する時には、光学フィルター135を受光ユニット131の光路外に配置する。位置切替機構132は、例えば、回転駆動部と、回転運動を利用して光学フィルター135を水平方向に移動させる公知の機構(ターンテーブルやラックアンドピニオンなど)とによって構成される。
【0052】
第2センサー制御部133は、第2受光センサー137の出力値の検出や、検出した出力値による第2受光センサー137の感度の管理、適切な出力値を取得するための第2受光センサー137の感度の変更、などを制御する。第2センサー制御部133は、例えば、演算装置、制御装置、記憶装置、入力装置および出力装置を含む公知のコンピュータやマイコンなどによって構成されている。
【0053】
送液ユニット140は、チップホルダー154に装着された分析チップ10の流路41内に、試料液や標識液、洗浄液などを供給する。送液ユニット140は、シリンジポンプ141、ピペットノズル146、ピペットチップ145及び送液ポンプ駆動機構143を含む。
【0054】
送液ユニット140は、ピペットノズル146の先端にピペットチップ145を装着した状態で使用される。ピペットチップ145が交換可能であると、ピペットチップ145の洗浄が不要となり、不純物の混入などを防止することができる。
【0055】
シリンジポンプ141は、シリンジ142と、シリンジ142内を往復動作可能なプランジャー144とによって構成される。プランジャー144の往復運動によって、液体の吸引及び排出が定量的に行われる。
【0056】
送液ポンプ駆動機構143は、シリンジポンプ141の駆動装置及びピペットチップ145が装着されたピペットノズル146の移動装置を含む。シリンジポンプ141の駆動装置は、プランジャー144を往復運動させるための装置であり、例えば、ステッピングモーターを含む。ステッピングモーターを含む駆動装置は、シリンジポンプ141の送液量や送液速度を管理できるため、分析チップ10の残液量を管理する観点から好ましい。ピペットノズル146の移動装置は、例えば、ピペットノズル146を、ピペットノズル146の軸方向(例えば垂直方向)と、軸方向を横断する方向(例えば水平方向)との二方向に自在に移動させる。ピペットノズル146の移動装置は、例えば、ロボットアーム、2軸ステージまたは上下動自在なターンテーブルによって構成されている。
【0057】
シリンジ142と分析チップ10との相対的な高さを一定に調整し、分析チップ10内での残液量を一定に管理する観点からは、送液ユニット140は、シリンジ142の先端の位置を検出する装置をさらに有することが好ましい。
【0058】
送液ユニット140は、薬液チップ147より各種液体を吸引し、分析チップ10の流路41内に供給する。このとき、プランジャー144を動かすことで、分析チップ10中の流路41内を液体が往復し、流路41内の液体が撹拌される。これにより、液体の濃度の均一化や、流路41内における反応(例えば抗原抗体反応)の促進などを実現することができる。このような操作を行う観点から、分析チップ10の注入口は多層フィルムで保護されており、かつピペットチップ145がこの多層フィルムを貫通した時に注入口を密閉できるように、分析チップ10およびピペットチップ145が構成されていることが好ましい。
【0059】
流路41内の液体は、再びシリンジポンプ141で吸引され、薬液チップ147などに排出される。これらの動作の繰り返しにより、各種液体による反応、洗浄などを実施し、流路41内の反応場に、蛍光物質で標識された被検出物質を配置することができる。
【0060】
搬送ユニット150は、分析チップ10を設置位置、測定位置または送液位置に搬送し、固定する。ここで「設置位置」とは、分析チップ10をSPFS装置100(より具体的には、チップホルダー154)に設置するための位置である。ここで「測定位置」とは、励起光照射ユニット110が分析チップ10に励起光αを照射したときに発生する蛍光γを蛍光検出ユニット130が検出する位置である。また、「送液位置」とは、送液ユニット140が分析チップ10の流路41内に液体を供給するか、または分析チップ10の流路41内の液体を除去する位置である。
【0061】
搬送ユニット150は、搬送ステージ152およびチップホルダー154を含む。
搬送ステージ152は、チップホルダー154を一方向(
図1におけるx軸方向)およびその逆方向に移動させる。搬送ステージ152は、例えば、ステッピングモーターなどで駆動される。
【0062】
チップホルダー154は、搬送ステージ152に固定されており、分析チップ10を着脱可能に保持する。チップホルダー154の形状は、分析チップ10を保持することが可能であり、かつ励起光αや反射光β、蛍光γなどの光の光路を妨げない形状である。たとえば、チップホルダー154には、これらの光が通過するための開口が設けられている。
【0063】
温調ユニット70は、分析チップ10の流路41内を一定の温度に温調するために、分析チップ10に温風を吹き付け、分析チップ10および分析チップ10の周囲温度を温度調節する。分析チップ10だけでなく、分析チップ10の周囲温度を温調することで、分析チップ10からの放熱量を制御することができ、分析チップ10の流路41内の温度をより安定して制御することができる。また、温調ユニット70は、ピペットチップ145にも温風を吹き付け、ピペットチップ145およびピペットチップ145の周囲温度を温度調整してもよい。これにより、前述した送液ユニット140を用いて分析チップ10中の流路41内にて液体を往復させる際に、流路41内からピペットチップ145内に戻ってきた液体の温度がピペットチップ145内で変化(低下)しないよう、温度調節することができ、分析チップ10の流路41内の温度をより安定して制御することができる。更には、後述するが、この温調ユニット70は、分析チップ10の入射面21に温風を吹き付けることで、入射面21に生じた結露や曇りを乾燥させ、入射面21の異常状態を解消することも可能である。
【0064】
温調ユニット70は、分析チップ10から離間して配置される温調手段71と、温調手段71と分析チップ10との間に配置される温度センサー72と、温調手段71によって加熱または冷却された空気を分析チップ10に送る送風手段73とを有する。本実施形態において、温調ユニット70は、分析チップ10が送液位置にある状態で、分析チップ10の温調が可能なように設けられている。なお、温調ユニット70は、分析チップ10の位置が変わっても分析チップ10の温調ができるように、向きを変えることも可能である。また、入射面21に温風が当たるよう、ダクトやフィンなどにより、温風の流れる方向を制御してもよい。
【0065】
温調手段71は、後述する制御処理部160により所定の温度となるように制御される。なお、温調手段71は、加熱素子であっても冷却素子であってもよい。このような温調手段71としては、特に限定されるものではないが、例えば、電気抵抗素子、カートリッジヒーター、ラバーヒーター、セラミックヒーターなどの赤外線ヒーター、ペルチェ素子などを用いることができる。
【0066】
温調手段71により加熱または冷却された空気は、送風手段73により分析チップ10に吹き付けられる。これにより、分析チップ10は非接触により加熱または冷却されることになる。送風手段73としては、特に限定されるものではないが、例えば、軸流送風機や遠心送風機など公知の送風機を用いることができる。なお、送風手段73としては、後述する制御処理部160により圧力比を変更可能に構成されることが好ましい。
【0067】
温度センサー72は、測定された温度に応じた信号(出力値)を後述する制御処理部160へ送信可能なものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、サーミスタや熱電対などを用いることができる。なお、温度センサー72は、分析チップ10に吹き付けられる空気の温度が測定される。
【0068】
制御処理部160は、角度調整機構112、光源制御部113、第1センサー制御部122、位置切替機構132、第2センサー制御部133、送液ポンプ駆動機構143および搬送ステージ152を制御する。また、制御処理部160は、励起光検出ユニット120の検出結果に基づいて、チップホルダー154に保持された分析チップ10の位置を特定するとともに、搬送ステージ152によりチップホルダー154を移動させて、分析チップ10を適切な測定位置に移動させる位置調整部としても機能する。さらに、制御処理部160は、分析チップ10を適切な測定位置に移動させる工程において、分析チップ10が正常であるか否かを判定する異常判定部としての機能も有する。制御処理部160は、例えば、演算装置、制御装置、記憶装置、入力装置および出力装置を含む公知のコンピュータやマイコンなどによって構成されている。
【0069】
なお、制御処理部160には、反射光βの検出結果を記憶する記憶部(図示せず)、タイマー(図示せず)、測定結果を印刷する印刷部(図示せず)などが備えられている。また、制御処理部160には、後述する警告等を表示する表示画面(図示せず)や警告等を報知するスピーカ(図示せず)が接続されている。
【0070】
(SPFS装置の動作)
次に、SPFS装置100の動作(本実施の形態に係る分析方法)について説明する。
図2は、SPFS装置100の第1の動作手順の一例を示すフローチャートである。
【0071】
まず、ユーザにより分析チップ10がSPFS装置100の設置位置に設置される(工程S100)。具体的には、ユーザは、SPFS装置100のチップホルダー154に分析チップ10を設置する。
【0072】
次いで、制御処理部160は、搬送ステージ152を操作して、分析チップ10を測定位置の近くまで移動させる(工程S110)。
次いで、制御処理部160は、励起光照射ユニット110、励起光検出ユニット120および搬送ステージ152を操作して、第1受光センサー121に入射した分析チップ10の表面からの反射光βの光量の値を取得し、搬送ステージ152の位置情報(相対位置情報)と取得された反射光βの光量に基づいて、分析チップ10の位置情報を取得するとともに、取得した位置情報に基づいて分析チップ10(搬送ステージ152)の位置を調整する。さらに、この過程において、分析チップ10の異常を検出する(工程S120)。工程S120内のフローについては、後に
図3を用いて説明する。
【0073】
図4は、工程S120において、分析チップ10の位置情報と第1受光センサー121に入射する反射光βの光量の関係を説明するための模式図である。まず、
図4Aに示されるように、分析チップ10が光源ユニット111から離れた位置にある場合、光源ユニット111が励起光αを出射すると、励起光αは流路蓋40で反射して、下側(搬送ステージ152側)に向かう。したがって、励起光検出ユニット120の第1受光センサー121には、分析チップ10の表面からの反射光βは入射しない。
【0074】
この状態で分析チップ10を光源ユニット111に近づけていくと、光源ユニット111からの励起光αは、プリズム20と流路蓋40との境界部(以下「エッジ部」という)に到達する。この場合、
図4Bに示されるように、流路蓋40で反射した励起光α(反射光β)は第1受光センサー121に入射しないが、入射面21で反射した励起光α(反射光β)が第1受光センサー121に入射する。したがって、第1受光センサー121には、分析チップ10からの反射光βの一部が入射する。
【0075】
さらに分析チップ10を光源ユニット111に近づけていくと、光源ユニット111からの励起光αは、すべてプリズム20の入射面21に到達する。したがって、
図4Cに示されるように、第1受光センサー121には、分析チップ10の表面からの反射光βのすべてが入射する。
【0076】
図5Aは、第1受光センサー121による反射光βの検出結果(以下プロファイルという。)の例を示すグラフである。ここでは、搬送ステージ152により分析チップ10を一方向(x軸方向)に150μmずつ移動させながら、第1受光センサー121により反射光βの光量を測定した場合を例に説明する。励起光αのビーム径は1~1.5mm程度である。なお、
図5Aでは、分析チップ10が正常な場合の検出結果を例示している。
【0077】
ここで、
図5Aに示されるように、搬送ステージ152の移動距離が0~約900μmの間は、第1受光センサー121には、分析チップ10の表面からの反射光βは入射しない。これは、励起光αが、流路蓋40で反射して、下側(搬送ステージ152側)に向かうためである(
図4A参照)。一方、搬送ステージ152の移動距離が約900~約1800μmの間は、第1受光センサー121に入射する反射光βの強度が徐々に増大する。これは、励起光αの一部が入射面21に照射されることで、入射面21での反射光βが第1受光センサー121に入射するためである(
図4B参照)。搬送ステージ152の移動距離が約1800μmを超えると、第1受光センサー121に入射する反射光βの強度がほぼ一定かつ最大となる。これは、励起光αのすべてが入射面21に照射されることで、入射面21での反射光βが第1受光センサー121に入射するためである(
図4C参照)。したがって、グラフ中の傾斜部(移動距離:約900~約1800μm)が、エッジ部に対応する。なお、傾斜部の幅は、励起光αのx軸方向のビーム径(1~1.5mm程度)に対応している。
【0078】
図3は、
図2に示される、分析チップ10の位置検出および分析チップ10の異常検出工程(工程S120)内の工程を示すフローチャートである。上述したように、工程S120においては、チップホルダー154に保持された分析チップ10に対し、搬送ステージ152の位置を変えながら励起光αを照射するとともに、第1受光センサー121に入射した分析チップ10の表面からの反射光βの光量の値を取得し、
図5Aに示すようなプロファイルを取得する(工程S121)。この搬送ステージ152の位置情報と反射光βの光量の値によって示されるプロファイルは、記憶部に記憶される。得られた搬送ステージ152の位置情報と反射光βの光量(プロファイル)に基づいて、上述のように解析を行い、分析チップ10の正確な位置情報を取得する(位置情報取得工程)。また、得られたプロファイル情報と分析チップ10の位置情報を用いて、以下のように、分析チップ10の異常判定を行う(異常判定工程)。
【0079】
<位置情報取得工程>
まず、分析チップ10の位置情報取得工程より説明する。
得られた搬送ステージ152の位置情報と反射光βの検出結果(プロファイル)に基づいて、分析チップ10の正確な位置情報を取得する。具体的には、制御処理部160は、反射光βの上下10%の絶対値を設定する。すなわち、
図5に示すように、励起光αの全ビーム径が入射面21に入射した場合における反射光βの最大の光量の強度を100とした場合に、90となる反射光βの光量の強度を上限値A1とし、10となる反射光βの光量の強度を下限値A2と設定する。次に、制御処理部160は、記憶部からプロファイルを読み出して、プロファイルにおける上限値A1と下限値A2の間のプロット(この場合5点)を直接近似し、反射光βの光量の強度が50となる位置の分析チップ10の位置(この場合1400μm)を検出する。なお、反射光βの強度が50となる位置とは、励起光αの全ビーム径の半分が入射面21に入射した場合、すなわち励起光αのビーム径の中心が入射面21と流路蓋40とのエッジに照射された位置に相当する。これにより、チップホルダー154に設置された分析チップ10の位置情報を正確に取得でき、分析チップ10の設置時の位置ずれをキャンセルし、分析チップ10を正確に測定位置に搬送することができる。
【0080】
<異常判定工程>
次いで、位置情報取得工程にて算出した正確な分析チップ10の位置情報(エッジに励起光αのビーム径の中心が照射される搬送ステージ152の位置)より、励起光αの全ビーム径が入射面21に入射する分析チップ10の位置の範囲(搬送ステージ152の位置の範囲)を算出する。すなわち、位置情報取得工程で算出した励起光αのビーム径の中心が照射される搬送ステージ152の位置から、ビーム径の半分以上搬送ステージ152がプラス側に移動した位置が、励起光αの全ビーム径が入射面21に入射する位置となる。例えば、エッジ位置が1400μm、励起光αのビーム径1mmとすると、1900μm以上の位置の値(この場合、1950μm以上の7点)となる。
【0081】
次に、制御処理部160は、この分析チップ10の位置の範囲において、分析チップ10が正常であるか否かを判定する(工程S122)。判定は、たとえば、記憶部から読み出されたプロファイルにおいて、励起光αの全ビーム径が入射面21に入射した場合の反射光βの光量(以下、対象となる反射光の光量という。)の値に上限値A1以下となる値があるか否かを判断することにより行う。具体的には、
図5Aに示すように、対象となる反射光の光量の値(搬送ステージ152の位置が1950μm以上の位置の値)がすべて上限値A1を超えていれば、制御処理部160は、分析チップ10は正常であると判定する。一方、
図5B、Cに示すように、対象となる反射光の光量の値に上限値A1以下となる光量があれば、制御処理部160は、分析チップ10に異常があると判定する。
【0082】
ここで、上限値A1を反射光βの最大の光量の90%(バラツキ10%)としたのは、仮に反射光βの光量、分析チップ10の屈折率の個体差、第1受光センサー121の感度の固体差の何れかにバラツキがあった場合を考慮しても、反射光βの光量のバラツキは10%以下となることが想定されるためである。よって、その想定値よりも変化量が大きい場合に異常ありと判断することとした。上限値A1は、想定されるバラツキにより任意に値に設定することが望ましい。この場合、反射光βの最大の光量の85%以上95%以下の範囲の何れかの値を上限値A1として設定することが考えられる。
【0083】
分析チップ10が正常である場合(工程S122:yes)、工程S130に進み、制御処理部160は、そのまま測定を継続する。一方、分析チップ10に異常がある場合(工程S122:no)、制御処理部160は、分析チップ10の異常が解消できるのか否かを判定する(工程S123)。
【0084】
たとえば、
図5Bに示すように、プロファイルに表れる、対象となる反射光の光量がほぼフラットな形状で一律に反射光βの光量が減少している場合、制御処理部160は、分析チップ10の異常が解消できると判定する。この場合、入射面21全面に結露や雲りが発生した可能性が高いと推定できる。入射面21に結露や曇り等が発生すると、水滴によって反射光βが散乱することから、第1受光センサー121で検出される反射光βの光量は低下する。
【0085】
なお、対象となる反射光の光量がほぼフラットな形状であるか否かについては、プロファイルにおいて、対象となる反射光の光量の値の最大値と最小値の差が最大値の所定の割合以下であるか否かに基づいて判定する。すなわち、対象となる反射光の光量の値の最大値と最小値の差が最大値の所定の割合以下であれば、対象となる反射光の光量がほぼフラットな形状であると判定し、対象となる反射光の光量の値の最大値と最小値の差が最大値の所定の割合を超えるのであれば、対象となる反射光の光量がフラットでないと判定する。ここで、最大値の所定の割合については、最大値の10%とするのが最も好ましいが、たとえば、最大値の5%以上20%以下の範囲で設定することも考えられる。
【0086】
分析チップ10の異常が解消できる場合(工程S123:yes)、制御処理部160は、分析チップ10の異常を解消する処理を実行する(工程S124)。たとえば、温調ユニット70により温風を分析チップ10の入射面21に吹き付けて、入射面21に生じた結露や曇りを乾燥させる。また、制御処理部160は、分析チップ10の異常が解消できると判定した時点から測定を中断し、温調された搬送ステージ152上で所定の時間以上分析チップ10を放置してから工程S125に進むようにしてもよい。なお、測定を中断してからの所定の時間については、タイマーにより計測する。この場合、測定を中断することにより入射面21に生じた結露や曇りが消滅するのを待ってから工程S125に進むことができる。これにより、検体や分析チップ10を無駄にすることなく通常の測定に速やかに復帰させることができる。
【0087】
分析チップ10の異常が解消すると、制御処理部160は、励起光αの全ビーム径が入射面21に入射する位置(この場合、1950μm以上の位置)の少なくとも1ヶ所、例えば最後の測定点(
図5A~Cに示す2700μmの位置)において、再度光源ユニット111が励起光αを出射し、プリズム20の入射面21で反射された反射光βを第1受光センサー121で受光して、反射光βの光量の値を取得する(工程S125)。なお、最後の測定点のみの反射光βの光量を取得することに代えて、再び搬送ステージ152により分析チップ10を移動させながらプロファイルを再取得してもよい。
【0088】
次に、制御処理部160は、分析チップ10の異常が解消したか否かを判定する(工程S126)。たとえば、再度取得した反射光βの光量の値が上限値A1を超えていれば、分析チップ10の異常が解消したと判定し、再度取得した反射光βの光量の値が上限値A1以下であれば、分析チップ10の異常が解消していないと判定する。なお、プロファイルを取得した場合には、すべての反射光βの光量の値が上限値A1を超えていれば、分析チップ10の異常が解消したと判定し、反射光βの光量の値に上限値A1以下の値があれば、分析チップ10の異常が解消していないと判定する。
【0089】
分析チップ10の異常が解消した場合(工程S126:yes)には測定を継続し、工程S130に進む。一方、分析チップ10の異常が解消していない場合(工程S126:no)、制御処理部160は、表示画面に"分析チップに異常が認められます"などの表示を行った後(工程S127)、工程S130に進む。
【0090】
なお、工程S123において、分析チップ10の異常が解消できない場合もある(工程S123:no)。たとえば、
図5Cに示すように、プロファイルに表れる対象となる反射光の光量がフラットでない場合、制御処理部160は、制御処理部160は、表示画面に"分析チップに異常が認められます"などの表示を行なう(工程S127)。
【0091】
なお、
図5Cに示すように、プロファイルに表れる、対象となる反射光の光量がフラットでない場合、反射光βの光量が入射面21の場所によって変化する。この場合の異常は、結露や曇りといった入射面21に一律に発生するものではなく、入射面21に部分的にキズが生じたり汚れが付着したものである可能性が高いと推定できる。
【0092】
分析チップ10の位置検出および分析チップ10の異常検出工程(工程S120、
図2参照)が終了すると、制御処理部160は、搬送ステージ152を操作して、分析チップ10を送液位置に移動させ(工程S130)、送液ユニット140を操作して、薬液チップ147内の測定液を分析チップ10の流路41内に導入する(工程S140)。なお、分析チップ10の流路41内に保存試薬が存在する場合は、捕捉体が適切に被検出物質を捕捉できるように、この測定液を導入する際に流路41内を洗浄して保存試薬を除去する。
【0093】
次いで、制御処理部160は、搬送ステージ152を操作して、分析チップ10を測定位置に移動させる(工程S150)この時、工程S120の位置情報取得工程にて算出した分析チップ10の正確な位置を反映させることで、分析チップ10をチップホルダー154に設置する時の位置ずれをキャンセルし、分析チップ10を正確に測定位置にて測定することができる。
【0094】
次いで、励起光照射ユニット110および蛍光検出ユニット130を操作して、適切な測定位置に配置された分析チップ10に励起光αを照射するとともに、励起光αと同一波長のプラズモン散乱光δを検出して、増強角を検出する(工程S160)。具体的には、制御処理部160は、励起光照射ユニット110を操作して金属膜30に対する励起光αの入射角を走査しつつ、蛍光検出ユニット130を操作してプラズモン散乱光δを検出する。このとき、制御処理部160は、位置切替機構132を操作して、光学フィルター135を受光ユニット131の光路外に配置する。そして、制御処理部160は、プラズモン散乱光δの光量が最大の時の励起光αの入射角を増強角として決定する。
【0095】
次いで、制御処理部160は、励起光照射ユニット110および蛍光検出ユニット130を操作して、適切な測定位置に配置された分析チップ10に励起光αを照射するとともに、第2受光センサー137の出力値(光学ブランク値)を記録する(工程S170)。このとき、制御処理部160は、角度調整機構112を操作して、励起光αの入射角を増強角に設定する。また、制御処理部160は、位置切替機構132を制御して、光学フィルター135を受光ユニット131の光路内に配置する。
【0096】
次いで、制御処理部160は、搬送ステージ152を操作して、分析チップ10を送液位置に移動させる(工程S180)。
次いで、制御処理部160は、送液ユニット140を操作して、薬液チップ147内の試料液を分析チップ10の流路41内に導入する(工程S190)。流路41内では、抗原抗体反応(1次反応)によって、金属膜30上に被検出物質が捕捉される。この後、流路41内の試料液は除去され、流路41内は洗浄液で洗浄される。
【0097】
次いで、制御処理部160は、送液ユニット140を操作して、蛍光物質で標識された2次抗体を含む液体(標識液)を分析チップ10の流路41内に導入する(工程S200)。流路41内では、抗原抗体反応(2次反応)によって、金属膜30上に捕捉されている被検出物質が蛍光物質で標識される。この後、流路41内の標識液は除去され、流路内は洗浄液で洗浄される。
【0098】
次いで、制御処理部160は、搬送ステージ152を操作して、分析チップ10を工程S120で決定された適切な測定位置に移動させる(工程S210)。
次いで、制御処理部160は、励起光照射ユニット110および蛍光検出ユニット130を操作して、適切な測定位置に配置された分析チップ10に励起光αを照射するとともに、捕捉体に捕捉されている被検出物質を標識する蛍光物質から放出された蛍光γを検出する(工程S220)。この際も、工程S140と同様に、励起光αの入射角は増強角に設定され、光学フィルター135が受光ユニット131の光路内に配置された状態で検出する。
【0099】
最後に、制御処理部160は、蛍光γの検出値から光学ブランク値を引き、被検出物質の量に相関する蛍光強度を算出する。算出された蛍光強度は、必要に応じて、被検出物質の量や濃度などに換算される。
以上の手順により、試料液中の被検出物質の存在またはその量を検出することができる。
【0100】
(効果)
以上のとおり、本実施の形態に係る分析方法およびSPFS装置(分析装置)100によれば、分析チップ10の異常を、分析チップ10の位置検出時に判定することができるため、追加の装置や検出工程が必要とされず、異常な測定結果が検出されることを容易に防止することができる。
【0101】
また、追加の装置や検出工程が必要ないことから、SPFS装置100の製造コストを上昇させることがなく、検出時間が増加することもない。
また、分析チップ10の使用環境により発生する異常(たとえば、入射面21の結露や曇り)、ユーザの作業ミスにより発生する異常(たとえば、入射面21のキズや汚れ)、など、さまざまなケースで発生する異常を検出することができる。
【0102】
また、分析チップ10の製造時・輸送時・保管時などユーザの手に届くまでにユーザの作業ミスで発生した異常(たとえば、入射面21のキズや汚れ)を検出することで、それぞれの工程でのミスをカバーすることができる。
【0103】
また、分析チップ10の異常が回復可能か否かを判断するため、異常が回復できた場合には分析チップ10を無駄にすることなく通常の測定に速やかに復帰させることができ、異常が回復できない場合には無駄な復帰動作を行わないようにすることができる。
【0104】
なお、上述の実施の形態においては、工程S127において、表示画面に警告を表示しているが、警告はスピーカーで音声により報知してもよい。また、制御処理部160は、測定結果のデータに警告を印刷して出力してもよい。
【0105】
また、分析チップ10の異常が解消していないと判断された場合(工程S126:no)には測定を中断してもよい。この場合、復帰動作を行わずに終了することで、時間の無駄を削減し、正常な分析チップ10に交換して再検査に着手することができる。
【0106】
また、上述の実施の形態において、
図4を用いて説明した、「分析チップ10の互いに隣接する2つの面」には、実質的に隣接する2つの面が含まれる。たとえば、
図6に示されるように、プリズム20と、プリズムの成膜面22上に配置された金属膜30と、金属膜30の上に配置されたスペーサー42と、スペーサー42の上に配置された流路蓋40とを有する分析チップ10'を使用するとする。流路41の形状は、スペーサー42により形作られている。一方、流路蓋40は、透明の平板である。この場合、厳密には、プリズム20の入射面21と流路蓋40の下面との間にスペーサー42の側面が存在するため、入射面21と流路蓋40の下面とは隣接していない。しかしながら、励起光αのビーム径(例えば1~1.5mm)に比べてスペーサー42の厚みが非常に薄い(例えば100μm)場合、入射面21と流路蓋40の下面とが実質的に隣接していると考えられる。したがって、この場合は、実質的に隣接する入射面21および流路蓋40の下面からの反射光βを検出してエッジ部を検出する。接着剤や両面テープなどの接合部材や金属膜30などについても同様に無視することができる。
【0107】
このように反射光βを検出する際に無視できる部材(例えばスペーサー42)の厚さは、励起光αのビーム径の1/5以下であり、好ましくは1/10以下である。たとえば、励起光αが、励起光αのビーム径の1/5以下または1/10以下の厚みのスペーサー42を含む領域に照射された場合、分析チップ10'の表面からの反射光βは、その大半(4/5以上または9/10以上)が入射面21または流路蓋40の下面からの反射光βであり、位置検出に利用されうる。したがって、スペーサー42の影響を受けることなく、分析チップ10'の位置を特定することができる。このように、励起光αのビーム径の1/5以下の厚みの部材(スペーサー42や、接合部材、金属膜30など)は、反射光βを検出する際に無視することができる。すなわち、分析チップ10'の入射面21と流路蓋40の下面は実質的に隣接する2面として考えることができる。
【0108】
また、
図7A、Bは、分析チップ10を適切な測定位置に配置する工程を説明するための模式図である。まず、
図7Aに示されるように、エッジ部の位置を特定したとする。この場合、エッジ部の位置と金属膜30裏面の励起光αを照射すべき領域(反応場の裏側の領域)との距離は決まっている。このため、
図7Bに示されるように、搬送ステージ152にチップホルダー154を所定の距離移動させることで、分析チップ10を適切な測定位置に配置することができる。
【0109】
また、
図8A、Bに示されるように、分析チップ10が高さ方向(z軸方向)にずれて配置されていた場合(例えば、分析チップ10とチップホルダー154との間にごみが挟まっていた場合)も、分析チップ10を適切な測定位置に配置することができる。すなわち、
図8Aに示されるように、エッジ部の位置を特定したとする。この場合、分析チップ10がz軸方向にずれていない場合(図中破線で示す)に比べて、x軸方向における分析チップ10の位置はずれている。しかしながら、この場合であっても、
図8Bに示されるように、検出したエッジ部の位置に基づいて、搬送ステージ152にチップホルダー154を所定の距離移動させることで、分析チップ10を適切な測定位置に配置することができる。
【符号の説明】
【0110】
10 分析チップ
20 プリズム
21 入射面
22 成膜面
23 出射面
30 金属膜
40 流路蓋
41 流路
42 スペーサー
70 温調ユニット
71 温調手段
72 温度センサー
73 送風手段
100 SPFS装置
110 励起光照射ユニット
111 光源ユニット
112 角度調整機構
113 光源制御部
120 励起光検出ユニット
121 受光センサー
122 センサー制御部
130 蛍光検出ユニット
131 受光ユニット
132 位置切替機構
133 センサー制御部
134 レンズ
135 光学フィルター
136 レンズ
137 受光センサー
140 送液ユニット
141 シリンジポンプ
142 シリンジ
143 送液ポンプ駆動機構
144 プランジャー
145 ピペットチップ
147 薬液チップ
150 搬送ユニット
152 搬送ステージ
154 チップホルダー
160 制御処理部