(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-29
(45)【発行日】2022-08-08
(54)【発明の名称】コーティングされた切削工具
(51)【国際特許分類】
B23B 27/14 20060101AFI20220801BHJP
B23C 5/16 20060101ALI20220801BHJP
C23C 16/32 20060101ALI20220801BHJP
C23C 16/34 20060101ALI20220801BHJP
C23C 16/36 20060101ALI20220801BHJP
C23C 16/40 20060101ALI20220801BHJP
C22C 1/05 20060101ALN20220801BHJP
B22F 7/00 20060101ALN20220801BHJP
C22C 29/08 20060101ALN20220801BHJP
【FI】
B23B27/14 A
B23B27/14 B
B23C5/16
C23C16/32
C23C16/34
C23C16/36
C23C16/40
C22C1/05 H
B22F7/00 H
C22C29/08
(21)【出願番号】P 2019548653
(86)(22)【出願日】2018-03-07
(86)【国際出願番号】 EP2018055606
(87)【国際公開番号】W WO2018162558
(87)【国際公開日】2018-09-13
【審査請求日】2021-01-08
(32)【優先日】2017-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507226695
【氏名又は名称】サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア, ホセ ルイス
(72)【発明者】
【氏名】パーション, ジャネット
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-097677(JP,A)
【文献】特開2001-001203(JP,A)
【文献】特開平05-271844(JP,A)
【文献】特開2009-101463(JP,A)
【文献】特開2003-145312(JP,A)
【文献】特開昭62-211366(JP,A)
【文献】特開2015-160270(JP,A)
【文献】特開平03-107461(JP,A)
【文献】特開2007-160504(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/14、51/00
B23C 5/16
C23C 16/30-16/40
C22C 1/05、29/08
B22F 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超硬合金基材及びコーティングを含むコーティングされた切削工具であって、超硬合金が、WC並びにCo、Fe及びNiの一又は複数を含む結合相を含み、超硬合金中の炭素含有量が
、-0.30wt%≦SCC≦-0.16wt%である準化学量論炭素含有量SCCであり、
超硬合金が、M
12
C及び/又はMe
6
C炭化物を含むイータ相を含み、ここで、Meは、W、Mo及び結合相金属から選択される一又は複数の金属であり、イータ相の分布は、超硬合金基材全体にわたって同じであり、コーティングが、金属がZr及びHfの少なくとも一つであり、任意選択的にTiが金属総量の最大10at-%の量で存在する、金属炭化物、金属窒化物又は金属炭窒化物である一又は複数の層(A)、並びに酸化アルミニウム層を含み、一又は複数の層(A)が基材と酸化アルミニウム層との間に位置している、コーティングされた切削工具。
【請求項2】
一又は複数の層(A)が、ZrC、ZrN、Zr(C,N)、HfC、HfN及びHf(C,N)の少なくとも一つである、請求項1に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項3】
一又は複数の層(A)が一つのZr(C,N)又はHf(C,N)層である、請求項1又は2に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項4】
一又は複数の層(A)が、6から8[10
-6/K]の熱膨張係数CTEを有する、請求項1から3のいずれか一項に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項5】
一又は複数の層(A)の総厚が2から15μmである、請求項1から4のいずれか一項に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項6】
酸化アルミニウム層の総厚が1から5μmである、請求項1から5のいずれか一項に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項7】
一又は複数の層(A)の厚さと酸化アルミニウム層の厚さの比が1以上である、請求項1から6のいずれか一項に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項8】
基材表面に隣接した、0.05から1.5μmである、Ti(C
xN
yO
z)又はZr(C
xN
yO
z)、又はHf(C
xN
yO
z)の層[x+y+z=1、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z<1]を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項9】
0.05から2μmの厚さを有する接着層(B)が、一又は複数の層(A)の最上部と酸化アルミニウム層との間に存在し、接着層(B)が、Ti(C
xN
yO
z)又はZr(C
xN
yO
z)、又はHf(C
xN
yO
z)[x+y+z=1、0<x<1、0≦y<1、0<z<1]である、請求項1から8のいずれか一項に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項10】
接着層(B)が、Ti(C
xN
yO
z)[x+y+z=1、0<x<1、0≦y<1、0<z<1]である、請求項9に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項11】
超硬合金中の準化学量論炭素含有量SCC
が-0.28wt%≦SCC≦-0.17wt%である、請求項1から10のいずれか一項に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項12】
超硬合金中の準化学量論炭素含有量SCC
が-0.28wt%≦SCC≦-0.17wt%であ
り、超硬合金が2から10vol%の体積分率でイータ相を含む、請求項1から
11のいずれか一項に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項13】
イータ相の平均粒度が0.1から10μmである、請求項
12に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項14】
切削工具がフライスインサートである、請求項1から
13のいずれか一項に記載のコーティングされた切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティングされた切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、金属機械加工のための切削工具は、一般的に切削工具の耐摩耗性を改善し、よって工具寿命を増加させるために堆積した比較的薄いコーティングを通常有する超硬合金に基づく。数多くのコーティングが当該技術分野で知られており、コーティングは、異なる組成及び厚さの層の組み合わせで作製することができる。
【0003】
間欠的な機械加工中、特にフライス加工操作中では、「櫛状亀裂」と呼ばれる熱機械的に誘起された亀裂が、切れ刃の基材中に通常形成される。これらの亀裂は、最終的に欠けによる工具の破損につながり、工具寿命の律速因子となる。
【0004】
CVDコーティングでは、冷却亀裂は堆積後の冷却中に形成されるが、それは、コーティングが超硬合金体に接着しているため、自由に収縮できないためである。冷却亀裂は、基材中の櫛状亀裂の形成のための核形成部位として作用し得る。同時に冷却亀裂が形成され、引張応力がコーティングに誘起される。したがって、櫛状亀裂形成に対する抵抗性を増大させるための当該技術分野において知られている1つの方法は、ブラスト処理によってコーティング中に圧縮応力を導入することによってコーティング中の亀裂形成及び亀裂伝播を遅らせることである。
【0005】
定義
本明細書におけるイータ相とは、MeがW、Mo並びに結合相金属Co、Fe及びNiの一又は複数から選択される、Me12CとMe6Cとから選択される亜炭化物を意味する。一般的な亜炭化物は、W6Co6C、W3Co3C、W6Ni6C、W3Ni3C、W6Fe6C、W3Fe3Cである。
【発明の概要】
【0006】
現在、驚くべきことに、特にフライス加工操作における櫛状亀裂の形成に対して優れた耐性を有するコーティングされた切削工具が提供され得ることがわかっている。
【0007】
本発明は、超硬合金基材及びコーティングを含む切削工具であって、超硬合金が、WC並びにCo、Fe及びNiの一又は複数を含む結合相を含み、超硬合金中の炭素含有量が、-0.13wt%≦SCC<0wt%又は-0.30wt%≦SCC≦-0.16wt%である準化学量論炭素含有量(本明細書ではSCCと表す)であり、コーティングが、金属がZr及びHfの少なくとも一つであり、任意選択的にTiが金属総量の最大10at-%の量で存在する、金属炭化物、金属窒化物又は金属炭窒化物である一又は複数の層(A)、並びに酸化アルミニウム層を含み、一又は複数の層(A)が基材と酸化アルミニウム層との間に位置している、切削工具に関する。
【0008】
コーティングの金属炭化物、金属窒化物又は金属炭窒化物中のTiの任意の存在は、Tiの量が金属総量の0~10at-%の量で存在すると言うこともできることを意味する。
【0009】
本発明における超硬合金は、特定の範囲内の準化学量論炭素含有量(SCC:substoichiometric carbon content)を有する。準化学量論炭素含有量は、炭素の化学量論値に対する炭素含有量の尺度である。準化学量論炭素含有量値は、結合相含有量、他の炭化物等のような他のパラメータに依拠しないため、良好な尺度である。
【0010】
化学量論炭素含有量は、反対に、結合相含有量等のような他のパラメータに依拠する。粉末については、化学量論値は、焼結前に、WCが完全に化学量論的である、すなわち原子比W:Cが1:1であると仮定することにより計算される。他の炭化物が存在する場合、それらも化学量論的であると仮定される。
【0011】
化学量論炭素含有量は、例えばCo及びWCからなる焼結された超硬合金について推定されるとき、その計算は、原子比W:Cが1:1であると仮定して、添加されたWC原材料の量に基づいて、又は焼結された材料の測定から行うことができ、その後、測定されたタングステン含有量は、原子比W:Cが1:1であると仮定して、化学量論炭素含有量を計算する。
【0012】
これは、本明細書で使用される場合の用語、準化学量論炭素、SCCが、化学分析により決定された総炭素含有量(wt%)からWC及び超硬合金中に存在する考えられるさらなる炭化物に基づく計算された化学量論炭素含有量(wt%)を引いたものであることであることを意味する。
【0013】
一例として、特定の超硬合金の化学量論炭素含有量が5.60wt%である場合、同じ超硬合金が作製されうるが、炭素含有量は5.30wt%であり、準化学量論炭素は-0.30wt%であろう。
【0014】
結合相は、超硬合金の2から20wt%の量で、又は超硬合金の5から12wt%の量で、Fe、Co及びNiの一又は複数から、好ましくはCoから選択される。
【0015】
一実施態様では、Crが超硬合金中に存在するとき、Crのいくらかは結合相に溶解する。
【0016】
超硬合金中のWCの量は、適切には80から98wt%である。焼結前の原材料粉末中のWCの粒度(FSSS)は、適切には0.1から12μm、又は0.4から9μmである。
【0017】
本発明の一実施態様では、超硬合金は、0.5から20wt%、又は0.8から5wt%の量のMoも含む。
【0018】
超硬合金は、超硬合金の技術分野では一般的な他の構成要素、例えば、Ti、Ta、Nb、Cr、Mo、Zr又はVの一又は複数の炭化物、炭窒化物又は窒化物も含み得る。
【0019】
本発明の超硬合金は、以下の工程:
・硬質構成要素を形成する粉末を提供する工程
・結合相を形成する、Co、Fe及びNiから選択される粉末を提供する工程
・ミリング液を提供する工程
・粉末を超硬合金にフライス加工し、乾燥させ、プレスし、焼結する工程
に従って作製することができ、W、W2C、Mo又はMo2Cの一又は複数は、焼結された超硬合金中に準化学量論炭素含有量、SCCが存在し、-0.13wt%≦SCC<0wt%又は-0.30wt%≦SCC≦-0.16wt%であるような量で添加される。
【0020】
最終的な焼結された超硬合金の製造において正確な炭素含有量を達成するために、W、W2C、Mo又はMo2Cの一又は複数が添加される。
【0021】
一実施態様では、W及びW2Cの一又は複数が添加される。
【0022】
一実施態様では、W、W2C、Mo又はMo2C粉末の一又は複数は、他の原材料の添加前に前破砕される。
【0023】
W、W2C、Mo又はMo2Cの正確な量は、他の原材料の組成に依拠する。
【0024】
通常、一部の炭素は、酸素の存在により焼結中に失われる。酸素は炭素と反応し、焼結中にCO又はCO2として残り、よって、炭素収支を変化させて、W、W2C、Mo又はMo2Cの一又は複数の追加量が調整されなければならない。焼結中に正確にはどのくらいの炭素が失われるかは、使用される原材料及び製造技術に依拠し、焼結材料中の目的の準化学量論炭素含有量が得られるようなW、W2C、Mo又はMo2Cの追加を調整することは当業者次第である。
【0025】
超硬合金中の化学量論炭素含有量は、試料中の総炭素含有量を、例えばLECO WC-6500機器を使用して初めに測定することによって決定することができる。コバルト含有量も、例えばX線蛍光分析により測定される。コバルト量及び炭素量を試料の総重量から差し引くことにより、WCが1:1の比を有すると仮定して、化学量論炭素含有量を計算するために後に使用されるタングステン含有量が得られる。
【0026】
硬質構成要素を形成する粉末は、WC及び超硬合金の技術分野で一般的な他の構成要素、例えば、Ti、Ta、Nb、Cr、Mo、Zr又はVの一又は複数の炭化物、炭窒化物又は窒化物から選択される。
【0027】
一実施態様では、添加されるWCの量は、乾燥粉末重量に基づき80から98wt%である。WC粉末の粒度(FSSS)は、適切には0.1から12μm、又は0.4から9μmである。
【0028】
一実施態様では、硬質構成要素を形成する粉末はWCである。
【0029】
一実施態様では、硬質構成要素を形成する粉末の少なくとも一部は、主に元素W、C及びCoを含む再利用された超硬合金スクラップから作製された粉末画分として添加される。
【0030】
結合相を形成する粉末は、Co、Ni若しくはFe、又はそれらの合金の一又は複数である。結合相を形成する粉末は、乾燥粉末重量に基づき、2から20wt%、又は5から12wt%の量で添加される。
【0031】
硬質構成要素を形成する粉末及び結合相を形成する粉末を含むスラリーは、適切には、ボールミル又はアトライタミルのいずれかでフライス加工操作によって混合される。従来の超硬合金製造においてミリング液として一般に使用される任意の液体を使用することができる。粉末状の材料を含有するスラリーは、その後乾燥し、適切には、凝集顆粒を形成する。
【0032】
続いて、一軸加圧、多軸加圧などのプレス操作によって、乾燥粉末/顆粒からグリーン体が形成される。
【0033】
粉末/顆粒から形成されたグリーン体は、続いて、任意の従来の焼結法、例えば真空焼結、Sinter HIP、放電プラズマ焼結、ガス圧焼結(GPS)等に従って焼結される。
【0034】
焼結温度は、典型的には、1300から1580℃、又は1360から1450℃である。
【0035】
一実施態様では、超硬合金は、-0.13wt%≦SCC<0wt%、又は-0.13wt%≦SCC≦-0.05wt%、又は-0.12wt%≦SCC≦-0.10wt%の準化学量論炭素含有量を有する。この実施態様では、超硬合金は、イータ相の少なくとも凝集体を含まず、あるいは、あらゆる形態のイータ相を含まない。
【0036】
一実施態様では、超硬合金は、-0.30wt%≦SCC<-0.16wt%、又は-0.28wt%≦SCC≦-0.17wt%の準化学量論炭素含有量を有する。この実施態様では、超硬合金は、M12C及び/又はMe6C炭化物を含むイータ相を含み、ここで、Meは、W、Mo及び結合相金属から選択される一又は複数の金属である。この実施態様による超硬合金は、イータ相が形成されるような低炭素含有量を有する。これは、結合相とイータ相の両方に高含有量のWを有する超硬合金をもたらす。しかしながら、形成されるイータ相は、凝集体としては存在しない。
【0037】
一般的に、イータ相は、超硬合金の特性に脆性且つ有害であるイータ相粒子の大きな凝集体に伝統的に存在するため、超硬合金では望ましくないと考えられてきた。しかしながら、特定の範囲の準化学量論炭素含有量をこの実施態様の超硬合金のように選択して、非凝集イータ相を提供することにより、超硬合金は良好な特性を示す。イータ相は、微細分散相として微細構造中に存在する。
【0038】
イータ相の一般的な炭化物は、W6Co6C、W3Co3C、W6Ni6C、W3Ni3C、W6Fe6C、W3Fe3Cである。
【0039】
一実施態様では、イータ相はMe12CとMe6Cの両方を含む。
【0040】
一実施態様では、イータ相は、XRD測定値から推定されるように、>90vol%のMe12Cを含む。
【0041】
一実施態様では、イータ相はMoを含まない。
【0042】
さらに別の実施態様では、イータ相はMoを含有する。Moが超硬合金中に存在する場合、Moは、イータ相中のタングステンの一部を置換するであろう。
【0043】
イータ相の平均粒度は、適切には0.1から10μm、又は0.5から3μmである。
【0044】
イータ相の分布は、可能な限り均一であるべきである。
【0045】
一実施態様では、超硬合金中のイータ相の体積分率は、適切には2から10vol%、又は4から8vol%、又は4から6vol%である。
【0046】
一実施態様では、イータ相の分布は、超硬合金基材全体にわたって同じである。本明細書では、これは、例えば米国特許第4,843,039号のような超硬合金がイータ相を含まない任意の勾配又はゾーンを含まないことを意味する。
【0047】
櫛状亀裂に対する改善された耐性を得るために必要であるよく分布されたイータ相を得られるようにするためには、正確な炭素含有量を得ることが不可欠である。イータ相は、適切な量で十分に分布していることが必要である。これは、製造中に炭素収支を注意深く制御することにより達成される。
【0048】
焼結された超硬合金中の炭素含有量が低すぎる場合、すなわち-0.30wt%の準化学量論炭素含有量より低い場合、イータ相の量は大きくなりすぎ、粒度は大幅に増大し、超硬合金は脆性になる。一方、炭素含有量が-0.16wt%の準化学量論炭素含有量よりも高いが、依然としてイータ相形成領域にある場合、形成されるイータ相は、大きな凝集体におけるように均一に分布し、超硬合金の靭性の減少をもたらす。
【0049】
イータ相の不要な大きな凝集体を得ることと、目的とする細かく分布したイータ相を得ることとの間の準化学量論炭素含有量の差異は、非常に小さいことがある。この限界に近づくには、不要な大きな凝集体が確実に回避されるように微細構造をモニターする必要がある。炭素含有量を注意深く調整し、その後得られた微細構造に関してその結果をモニターすることは、当業者に知られた作業手順である。
【0050】
この実施態様の超硬合金は均一に分布したイータ相を有するべきであるということは、本明細書では、超硬合金は大きな凝集体を含まないことを意味する。
【0051】
コーティングの金属炭化物、金属窒化物又は金属炭窒化物では、Tiは、適切には金属総量の最大7at-%、又は金属総量の最大5at-%、又は金属総量の最大1at-%の量で任意選択的に存在する。
【0052】
言い換えれば、コーティングの金属炭化物、金属窒化物又は金属炭窒化物は、Tiは、適切には金属総量の0~7at-%、又は金属総量の0~5at-%、又は金属総量の0~1at-%の量で存在する。
【0053】
一又は複数の層(A)は、適切には、Zr及びHfの一方又は両方が存在し、Tiが任意選択的であり、Tiの含有量が金属総量の0~10at%、又は0~7at%、又は0~5at%、又は0~1at%である、(Zr,Hf,Ti)(C,N)、(Zr,Hf,Ti)C及び(Zr,Hf,Ti)Nの少なくとも一つである。
【0054】
一又は複数の層(A)は、任意の適切なCVD法、例えばMT-CVD、HT-CVD及びプラズマ-CVDによって生成され得る。MT-CVD法又はプラズマ-CVD法は、基材からコーティングへの炭素の拡散を最小化するHT-CVDよりも低い温度で操作されるため、好ましくはそれらが使用される。(Zr,Hf,Ti)(C,N)については、好ましくはMT-CVD法又はプラズマ-CVD法が使用される。
【0055】
一実施態様では、一又は複数の層(A)は、(Zr,Ti)C、(Zr,Ti)N、(Zr,Ti)(C,N)、(Hf,Ti)C、(Hf,Ti)N及び(Hf,Ti)(C,N)の少なくとも一つであり、Tiの含有量は、金属総量の0~10at%、又は0~7at%、又は0~5at%、又は0~1at%である。
【0056】
一実施態様では、一又は複数の層(A)は、ZrC、ZrN、Zr(C,N)、HfC、HfN及びHf(C,N)の少なくとも一つである。
【0057】
一実施態様では、一又は複数の層(A)は、一つのZrC、ZrN、Zr(C,N)、HfC、HfN又はHf(C,N)層である。
【0058】
一実施態様では、一又は複数の層(A)は、一つのZrC、Zr(C,N)、HfC又はHf(C,N)層である。
【0059】
一実施態様では、一又は複数の層(A)は、一つのZr(C,N)又はHf(C,N)層、好ましくは一つのZr(C,N)層である。
【0060】
一又は複数の層(A)は、適切には、6から8[10-6/K]、又は6.5から7.5[10-6/K]の熱膨張係数CTEを有する。
【0061】
熱膨張係数CTEは、物質固有の特性であり、異なる物質の値が、例えばFriedrich et al.の「Datensammlung zu Hartstoffeigenschaften」, Materialwissenschaft und Werkstofftechnik, 28 (1997), p.59-76等の文献でみられる。
【0062】
一又は複数の層(A)の総厚は、適切には2から15μm、又は2から12μm、又は2.5から8μm、又は2.5から5μmである。
【0063】
酸化アルミニウム層の総厚は、適切には1から5μm、又は2から4μmである。
【0064】
コーティング全体の総厚は、適切には3から20μm、又は4から15μm、又は5から12μmである。
【0065】
一又は複数の層(A)の厚さと酸化アルミニウム層の厚さの比は、適切には1以上である。
【0066】
一実施態様では、コーティングされた切削工具は、基材表面に隣接した、0.05から1.5μm、又は0.05から1μmである、Ti(CxNyOz)又はZr(CxNyOz)又はHf(CxNyOz)[x+y+z=1、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z<1]の層を含む。
【0067】
一実施態様では、コーティングされた切削工具は、基材表面に隣接した、0.05から1.5μm、又は0.05から1μmである、TiC、TiN、HfC、HfN、ZrC又はZrNの層を含む。
【0068】
一実施態様では、コーティングされた切削工具は、基材表面に隣接した、0.05から1.5μm、又は0.05から1μmである、TiN、HfN又はZrNの層を含む。
【0069】
一実施態様では、コーティングされた切削工具は、基材表面に隣接した、0.05から1.5μm、又は0.05から1μmである、TiC、TiN、HfC、HfN、ZrC又はZrNの層を含み、一又は複数の層(A)が続く。
【0070】
一実施態様では、コーティングされた切削工具は、基材表面に隣接した、0.05から1.5μm、又は0.05から1μmである、TiC、TiN、HfC、HfN、ZrC又はZrNの層を含み、ZrC、Zr(C,N)、HfC又はHf(C,N)層が続く。
【0071】
Zr(C,N)及びHf(C,N)層は、あらゆる種類のCVD法、例えばMT-CVD、HT-CVD及びプラズマ-CVDにより生成され得る。MT-CVD法又はプラズマ-CVD法は、基材からコーティングへの炭素の拡散を最小化するHT-CVDよりも低い温度で操作されるため、好ましくはそれらが使用される。
【0072】
0.05から2μmの厚さを有する接着層(B)は、適切には、一又は複数の層(A)の最上部と酸化アルミニウム層との間に存在し、接着層(B)は、Ti(CxNyOz)又はZr(CxNyOz)、又はHf(CxNyOz)[x+y+z=1、0<x<1、0≦y<1、0<z<1]である。一又は複数の層(A)がMT-CVD Zr(C,N)又はMT-CVD Hf(C,N)層であるとき、すなわち、一つの反応ガスとしてCH3CNのようなニトリルを使用するとき、任意選択的には、接着層(B)は、MT-CVD Zr(C,N)又はMT-CVD Hf(C,N)層の頂部に、適切には0.05から1μmの厚さのHT-Ti(C,N)、HT-Zr(C,N)又はHT-Hf(C,N)の層をさらに含む。
【0073】
一実施態様では、酸化アルミニウム層はアルファ酸化アルミニウム層である。
【0074】
一実施態様では、酸化アルミニウム層はカッパ酸化アルミニウム層である。
【0075】
コーティングされた切削工具は、好ましくはフライスインサートである。
【実施例】
【0076】
実施例1:
表1に従って原料粉末から作製されたジオメトリR365-1505ZNE-KMの3つの異なる超硬合金体を用意した。
【0077】
粉砕液(9/91の比率の水/エタノール)及び有機結合剤、2wt%のPEG(PEGの量は乾燥粉末重量に含まれない)とともに、8時間ボールミルで粉末と粉砕して試料1、2及び3を作製した。その後、スラリーを蒸発皿乾燥させた。その後、凝集体をグリーン体にプレスし、その後それを1410℃で焼結した。
【0078】
試料1及び2の焼結片はイータ相を含有しないことが分かった。試料3はイータ相を含有するが、その後クラスターを含まないよく分散された形態であったことがわかった。セットアップ「Automatic」を使用するソフトウェアImage Jを使用の画像分析により、イータ相の量を決定した。分析に使用した画像は、1000倍及び2000倍の倍率のLOM画像であった。各倍率で二つの測定をし、試料3についての表2の値はこれらすべての平均値である。
【0079】
総炭素含有量をLECO WC-600機器を使用して最初に測定することにより、焼結材料中の化学量論炭素含有量をさらに計算した。この分析については、分析前に試料を破砕する。値の精度は±0.01wt%である。Panalytical Axios Max Advanced機器を使用のXRF(X線蛍光)を用いてCo含有量を測定する。コバルト量及び炭素量を試料の総重量から差し引くことにより、WCが1:1の比を有すると仮定して、化学量論炭素含有量を計算するために使用されるW含有量が得られる。
【0080】
LECO WC-600機器により測定される総炭素含有量から化学量論炭素含有量を差し引くことにより、準化学量論炭素含有量が得られる。表2からわかるように、焼結された材料中の準化学量論炭素含有量は、それぞれの粉末の炭素含有量とは異なる。これは、炭素の一部が、原料中の不純物である酸素と反応するためであり、それにより、焼結中にCO又はCO
2として放出され、合金の最終的なC含有量総量を減少させる。
【0081】
実施例2:
実施例1で作製されたジオメトリR365-1505ZNE-KMを有する超硬合金インサートを、その後3μmのTi(C,N)層でコーティングし、続いて3μmのアルファ-Al2O3層でコーティングした。
【0082】
基材とTiN層との間の薄い(0.5μm)接着層を初めに用意した。N2、TiCl4及びH2を含む反応ガス混合物を使用して、TiN接着層を堆積させた。
【0083】
885℃の堆積温度及び55mbarの圧力で、H2、N2、HCl、TiCl4及びCH3CNを含む反応ガス混合物を使用する当該技術分野でよく知られた一般的な手順に基づき、CVD反応器中にTi(C,N)層を堆積させた。
【0084】
さらに、Ti(C,N)層とアルファ-Al2O3層との間のTi(C,O)の薄い(0.5μm)接着層を用意した。H2、TiCl4及びCOを含む反応ガス混合物を使用することにより、TiCO接着層を堆積させた。堆積後、Ti(C,O)層は、アルファ-Al2O3層の堆積前に、CO及びCO2を含むガス混合物中でわずかに酸化した。
【0085】
さらに、実施例1で作製されたジオメトリR365-1505ZNE-KMを有する超硬合金インサート1、2及び3を、3μmのZr(C,N)層でコーティングし、続いて3μmのアルファ-Al2O3層でコーティングした。
【0086】
930℃の堆積温度及び55mbarの圧力で、64.9vol%のH2、33.2vol%のN2、1.3vol%のZrCl4及び0.6vol%のCH3CNを含む反応ガス混合物を使用するBernexTM325反応器中で、一般的な手順(MT-CVD)に従ってZr(C,N)層を堆積させた。総ガス流量は2880l/hであった。
【0087】
Zr(C,N)層の堆積前に、TiNの薄い(0.5μm)接着層を基材とZr(C,N)層との間に堆積させた。
【0088】
アルファ-Al2O3層の堆積前に、Zr(C,N)層とアルファ-Al2O3層との間の一連のHT-CVD Ti(C,N)及びTi(C,N,O)を含む薄い(1μm)接着層を用意した。1000℃の堆積温度で、H2、N2、HCl、TiCl4及びCH4を含む反応ガス混合物を使用する当該技術分野でよく知られた一般的な手順に基づき、HT-CVD Ti(C,N)層を堆積させた。1000℃の堆積温度で、H2、N2、HCl、TiCl4、CH3CN及びCOを含む反応ガス混合物を使用する既知の手順に基づき、Ti(C,N,O)層も堆積させた。堆積後、Ti(C,N,O)層は、アルファ-Al2O3層の堆積前に、CO及びCO2を含むガス混合物中でわずかに酸化した。
【0089】
その後、約1000℃の堆積温度で及び55mbarの圧力で、H2、HCl、CO2及びAlCl3を含む核生成工程において反応ガス混合物を使用し、さらに、H2、HCl、CO2、AlCl3及びH2Sを含む成長工程において反応ガス混合物を使用する当該技術分野でよく知られた一般的な手順に基づき、アルファ-Al2O3層を堆積させた。
【0090】
コーティングされた超硬合金の試料を表3にまとめる。
【0091】
実施例3:
実施例2によるコーティングされた超硬合金の試料1から4を、以下の切削パラメータを有する乾燥条件下でのねずみ鋳鉄SS0125のモータブロックの正面フライス加工操作(荒削り操作)で試験した。
Vc: 362m/分
Fz: 0.29mm/rev
ap: 5mm
ae: 20mm
【0092】
カッター: R365-100Q32W15H
歯の数: 14(13フライスインサート+1ワイパーインサート)
機械: 水平マルチオペレーショナル(GROB)
テーパー: HSK100
【0093】
工具本体において試験された各試料のインサートの数は、6、7又は13であった。異なるインサートを試験するときには同じフライス加工カッターを使用し、6又は7の試料インサートを取り付けたときも、常に合計14のインサートをカッターに取り付けた。このように、試料1から4の各インサートを、試験中同じ条件に供した。
【0094】
各試験について、100の構成要素を作製した(約70分のフライス加工時間に相当)。その後、インサートにつき0.2mm超の櫛状亀裂の数をカウントし、同じフライス加工カッターに使用されるすべての試料インサートの平均を計算した。