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  • 特許-焼結材、及び焼結材の製造方法 図1A
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  • 特許-焼結材、及び焼結材の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-29
(45)【発行日】2022-08-08
(54)【発明の名称】焼結材、及び焼結材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 3/10 20060101AFI20220801BHJP
   B22F 3/02 20060101ALI20220801BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20220801BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20220801BHJP
   C21D 1/06 20060101ALN20220801BHJP
【FI】
B22F3/10 E
B22F3/02 P
C22C33/02 A
C22C38/00 304
C21D1/06 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019552932
(86)(22)【出願日】2019-01-30
(86)【国際出願番号】 JP2019003262
(87)【国際公開番号】W WO2020157880
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593016411
【氏名又は名称】住友電工焼結合金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100111567
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 寛
(72)【発明者】
【氏名】江頭 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】田代 敬之
(72)【発明者】
【氏名】伊志嶺 朝之
(72)【発明者】
【氏名】冨永 皓祐
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-038160(JP,A)
【文献】特開2002-317204(JP,A)
【文献】特開2002-146402(JP,A)
【文献】特開平04-173901(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00,3/02,3/10,3/24
C21D 1/06,9/32
C22C 33/02,38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄基合金からなる組成と、
断面において、100μm×100μmの単位面積あたりに存在する0.3μm以上の大きさである化合物粒子の個数が200個以上1350個以下である組織とを備え、
相対密度が93%以上である、
焼結材。
【請求項2】
前記相対密度が97%以上である請求項1に記載の焼結材。
【請求項3】
前記単位面積あたりに存在する前記化合物粒子の個数が850個以下である請求項1又は請求項2に記載の焼結材。
【請求項4】
前記単位面積あたりに存在する0.3μm以上の大きさである前記化合物粒子の個数をnとし、前記単位面積あたりに存在する20μm以上の大きさである前記化合物粒子の個数をn20とし、前記個数nに対する前記個数n20の割合を(n20/n)×100とし、前記割合が1%以下である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の焼結材。
【請求項5】
前記鉄基合金は、C,Ni,Mo,Mn,Cr,B,及びSiからなる群より選択される1種以上の元素を含有し、残部がFe及び不純物からなる請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の焼結材。
【請求項6】
鉄系粉末を含む原料粉末を用意する工程と、
前記原料粉末を用いて、相対密度が93%以上である圧粉成形体を作製する工程と、
前記圧粉成形体を焼結する工程とを備え、
前記鉄系粉末は、純鉄からなる粉末、及び鉄基合金からなる粉末の少なくとも一方の粉末を含み、
前記原料粉末を用意する工程では、前記鉄系粉末に還元処理を施し、
前記還元処理では、前記鉄系粉末を還元雰囲気下において800℃以上950℃未満の温度に加熱することで、前記鉄系粉末の酸素濃度を体積割合で800ppm超2400ppm以下にする、
焼結材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、焼結材、及び焼結材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、相対密度が93%以上である焼結体を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-186625号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示の焼結材は、
鉄基合金からなる組成と、
断面において、100μm×100μmの単位面積あたりに存在する0.3μm以上の大きさである化合物粒子の個数が200個以上1350個以下である組織とを備え、
相対密度が93%以上である。
【0005】
本開示の焼結材の製造方法は、
鉄系粉末を含む原料粉末を用意する工程と、
前記原料粉末を用いて、相対密度が93%以上である圧粉成形体を作製する工程と、
前記圧粉成形体を焼結する工程とを備え、
前記鉄系粉末は、純鉄からなる粉末、及び鉄基合金からなる粉末の少なくとも一方の粉末を含み、
前記原料粉末を用意する工程では、前記鉄系粉末に還元処理を施し、
前記還元処理では、前記鉄系粉末を還元雰囲気下において800℃以上950℃未満の温度に加熱する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1A図1は、実施形態の焼結材の一例を示す概略斜視図である。
図1B図1Bは、図1Aに示す一点鎖線円1B内を拡大して示す断面図である。
図2図2は、実施形態の焼結材の断面組織を拡大して示す模式断面図である。
図3図3は、試験例1で作製した各試料の焼結材において、単位面積あたりに存在する0.3μm以上の大きさである化合物粒子の個数と、引張強さとの関係を示すグラフである。
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
鉄系焼結材に対して、強度の更なる向上が望まれている。
【0008】
焼結材では、通常、空孔が割れの起点となって、引張強さといった強度の低下を招く。しかし、本発明者らは、相対密度が93%以上といった緻密な焼結材では、空孔ではなく、上記焼結材中に存在し得る化合物粒子が割れの起点となり、引張強さを低下させる、との知見を得た。
【0009】
そこで、本開示は、強度に優れる焼結材を提供することを目的の一つとする。また、本開示は、強度に優れる焼結材を製造可能な焼結材の製造方法を提供することを別の目的の一つとする。
【0010】
[本開示の効果]
本開示の焼結材は、強度に優れる。本開示の焼結材の製造方法は、強度に優れる焼結材を製造できる。
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
(1)本開示の一態様に係る焼結材は、
鉄基合金からなる組成と、
断面において、100μm×100μmの単位面積あたりに存在する0.3μm以上の大きさである化合物粒子の個数が200個以上1350個以下である組織とを備え、
相対密度が93%以上である。
【0012】
本開示の焼結材は、高い引張強さを有しており、この点で強度に優れる。この理由の一つとして、本開示の焼結材は、93%以上の相対密度を有する緻密な焼結材であることが挙げられる。また、別の理由の一つとして、本開示の焼結材では、焼結材の少なくとも表層に存在する0.3μm(300nm)以上の大きさを有する化合物粒子(例、酸化物、硫化物、窒化物)が上述の特定の範囲内で存在することが挙げられる。上述の緻密な焼結材では、0.3μm以上の化合物粒子が割れの起点になり得る。更に、0.3μm以上の化合物粒子が過剰に存在すれば、これらの化合物粒子は割れを伝搬させる。割れの発生や割れの伝搬によって、焼結材の引張強さが低下し易い。これに対し、本発明者らは、焼結材の少なくとも表層に0.3μm以上の化合物粒子が上述の特定の範囲内で存在すれば、焼結材の引張強さを向上できるとの知見を得た。この理由の一つとして、適量の上記化合物粒子が焼結材中に分散することによって、結晶粒(例、旧オーステナイト粒)が粗大化することを抑制できることが考えられる。焼結材の少なくとも表層において結晶粒の粗大化が抑制されることで、焼結材は、引っ張られても表層に割れが生じ難いと考えられる。このような本開示の焼結材は、高い引張強さが要求される材料に好適に利用できる。なお、ここでの焼結材の表層とは、焼結材の表面から内部に向かって200μmまでの領域が挙げられる。また、上記断面は、焼結材の表層からとることが挙げられる。
【0013】
(2)本開示の焼結材の一例として、
前記相対密度が97%以上である形態が挙げられる。
【0014】
上記形態は、より緻密であるため、高い引張強さを有し易い。
【0015】
(3)本開示の焼結材の一例として、
前記単位面積あたりに存在する前記化合物粒子の個数が850個以下である形態が挙げられる。
【0016】
上記形態では、化合物粒子の個数が多過ぎない。このような形態は、結晶粒の粗大化を抑制することによる強度の向上効果を適切に得つつ、割れの伝搬を抑制し易い。従って、上記形態は、引張強さをより高め易い。
【0017】
(4)本開示の焼結材の一例として、
前記単位面積あたりに存在する0.3μm以上の大きさである前記化合物粒子の個数をnとし、前記単位面積あたりに存在する20μm以上の大きさである前記化合物粒子の個数をn20とし、前記個数nに対する前記個数n20の割合を(n20/n)×100とし、前記割合が1%以下である形態が挙げられる。
【0018】
上記形態では、20μm以上という粗大な化合物粒子が少ないといえる。上記粗大な化合物粒子は割れの起点になり易い上に、割れを伝搬させ易い。上記形態は、このような粗大な化合物粒子が少ないため、引張強さをより高め易い。
【0019】
(5)本開示の焼結材の一例として、
前記鉄基合金は、C,Ni,Mo,Mn,Cr,B,及びSiからなる群より選択される1種以上の元素を含有し、残部がFe及び不純物からなる形態が挙げられる。
【0020】
上記に列挙する元素を含有する鉄基合金、例えばCを含む鉄基合金である鋼等は引張強さ等の強度に優れる。高強度な鉄基合金からなる上記形態は、引張強さをより高め易い。
【0021】
(6)本開示の一態様に係る焼結材の製造方法は、
鉄系粉末を含む原料粉末を用意する工程と、
前記原料粉末を用いて、相対密度が93%以上である圧粉成形体を作製する工程と、
前記圧粉成形体を焼結する工程とを備え、
前記鉄系粉末は、純鉄からなる粉末、及び鉄基合金からなる粉末の少なくとも一方の粉末を含み、
前記原料粉末を用意する工程では、前記鉄系粉末に還元処理を施し、
前記還元処理では、前記鉄系粉末を還元雰囲気下において800℃以上950℃未満の温度に加熱する。
【0022】
本開示の焼結材の製造方法において、相対密度が93%以上である圧粉成形体を作製し、この圧粉成形体を焼結するという製造過程は、特許文献1に記載される基本的な焼結材の製法に重複する。特に、本開示の焼結材の製造方法は、原料粉末として、上述の特定の温度に加熱して還元した鉄系粉末を用いる。この特定の還元粉末を用いることによって、緻密な圧粉成形体を成形することができる。また、上記特定の還元粉末を用いることによって、酸化物といった化合物粒子が適量存在する焼結材を製造することができる。このような本開示の焼結材の製造方法は、相対密度が93%以上という緻密な焼結材であって、焼結材の少なくとも表層に0.3μm以上の大きさを有する化合物粒子がある程度存在すると共に、上記化合物粒子が均一的に分散する焼結材を製造できる。製造された焼結材では、分散する上記化合物粒子によって、結晶粒の粗大化が抑制されている。上記焼結材は、結晶粒の粗大化が抑制されることによる強度の向上効果が得られるため、高い引張強さを有する等、強度に優れる。従って、本開示の焼結材の製造方法は、強度に優れる焼結材、代表的には本開示の焼結材を製造できる。
【0023】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、適宜図面を参照して、本開示の実施形態に係る焼結材、本開示の実施形態に係る焼結材の製造方法を順に説明する。
【0024】
[焼結材]
主に図1を参照して、実施形態の焼結材1を説明する。
図1Aは、実施形態の焼結材1の一例として外歯歯車を示す。図1Aは、複数の歯3のうち、一部の歯3を切り欠いて断面を示す。
図1Bは、図1Aにおいて一点鎖線円1B内を拡大して示す断面図である。
【0025】
(概要)
実施形態の焼結材1は、Fe(鉄)を主体とする鉄基合金からなる緻密な焼結材であり、0.3μm以上の大きさである化合物粒子2(図2)が適量存在する、というものである。具体的には、実施形態の焼結材1は、鉄基合金からなる組成と、以下の組織とを備え、相対密度が93%以上である。
上記組織とは、焼結材1の断面において、単位面積あたりに存在する0.3μm以上の大きさである化合物粒子2の個数が200個以上1350個以下である。上記単位面積は、100μm×100μmとする。以下、「断面において100μm×100μmの単位面積当たりに存在する0.3μm以上の大きさである化合物粒子の個数」を「個数の密度」と呼ぶことがある。
以下、より詳細に説明する。
【0026】
(組成)
鉄基合金は、添加元素を含有し、残部がFe及び不純物からなる合金である。添加元素は、例えば、C(炭素),Ni(ニッケル),Mo(モリブデン),Mn(マンガン),Cr(クロム),B(硼素),及びSi(珪素)からなる群より選択される1種以上の元素が挙げられる。Feに加えて、上記に列挙する元素を含む鉄基合金は、強度に優れる。強度に優れる鉄基合金からなる焼結材1は、高い引張強さを有する等、強度に優れる。
【0027】
上記に列挙する各元素の含有量は、鉄基合金を100質量%として、例えば以下が挙げられる。各元素の含有量が多いほど、鉄基合金は高強度になり易い。高強度な鉄基合金からなる焼結材1は、高い引張強さを有し易い。
〈C〉0.1質量%以上2.0質量%以下
〈Ni〉0.0質量%以上5.0質量%以下
〈Mo,Mn,Cr,B,Siの合計量〉0.1質量%以上5.0質量%以下
以下、Mo,Mn,Cr,B,及びSiをまとめて「Mo等の元素」と呼ぶことがある。
【0028】
Cを含む鉄基合金、代表的には炭素鋼は、強度に優れる。Cの含有量が0.1質量%以上であると、強度の向上、焼入れ性の向上を望める。Cの含有量が2.0質量%以下であると、高い強度を有しつつ、延性の低下や靭性の低下を抑制することができる。Cの含有量は0.1質量%以上1.5質量%以下、更に0.1質量%以上1.0質量%以下、0.1質量%以上0.8質量%以下でもよい。
【0029】
Niを含むと、強度の向上に加え、靭性の向上も望める。Niの含有量が多いほど、強度を高め易い上に、焼入れ性の向上も望める。Niの含有量が5.0質量%以下であると、焼結後に焼入れ焼戻しを行う場合に、焼戻し後の焼結材の内部における残留オーステナイト量を低減し易い。そのため、多量の残留オーステナイトが形成されることに起因する軟質化を防止できる。従って、焼入れ焼戻し後の焼結材1は、焼戻しマルテンサイト相を主たる組織として、硬度を高め易い。Niの含有量は0.1質量%以上4.0質量%以下、更に0.25質量%以上3.0質量%以下でもよい。
【0030】
Mo等の元素の合計含有量が0.1質量%以上であると、強度の更なる向上を望める。Mo等の元素の合計含有量が5.0質量%以下であると、高い強度を有しつつ、靭性の低下や脆化を抑制することができる。Mo等の元素の合計含有量は0.2質量%以上4.5質量%以下、更に0.4質量%以上4.0質量%以下でもよい。各元素の含有量は、例えば以下が挙げられる。
【0031】
〈Mo〉0.0質量%以上2.0質量%以下、更に0.1質量%以上1.5質量%以下
〈Mn〉0.0質量%以上2.0質量%以下、更に0.1質量%以上1.5質量%以下
〈Cr〉0.0質量%以上4.0質量%以下、更に0.1質量%以上3.0質量%以下
〈B〉0.0質量%以上0.1質量%以下、更に0.001質量%以上0.003質量%以下
〈Si〉0.0質量%以上1.0質量%以下、更に0.1質量%以上0.5質量%以下
【0032】
鉄基合金は、Mn等の元素のうち、特にMo及びMnを含むと、強度により優れる。Mnは、焼入れ性の向上、強度の向上に寄与する。Moは、高温強度の向上、焼戻し脆化の低減に寄与する。Mo及びMnはそれぞれ、上述の範囲で含むことが好ましい。
【0033】
焼結材1の全体組成の測定には、例えば、エネルギー分散型X線分析法(EDX又はEDS)、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)等を利用することができる。
【0034】
(組織)
〈化合物粒子〉
実施形態の焼結材1は、化合物粒子2(図2)を含む。ここでの化合物粒子2を構成する化合物は、焼結材1の構成元素(上記の組成の項参照)及び不純物元素の少なくとも一種以上の元素を含む酸化物、硫化物、炭化物、窒化物等が挙げられる。上記不純物元素は、不可避不純物、脱酸剤として添加した元素等が挙げられる。化合物粒子2は、製造過程で不可避に形成されるものが挙げられる。
【0035】
《個数》
実施形態の焼結材1では、断面において焼結材1の少なくとも表層に、0.3μm以上の大きさである化合物粒子2がある程度存在する。定量的には、焼結材1の断面において、一辺が100μmの正方形の領域を単位面積の領域とすると、上記単位面積あたりに存在する0.3μm以上の化合物粒子2の個数(個数の密度)が200個以上1350個以下である。個数の密度が200個以上であれば、化合物粒子2がある程度存在するといえる。これらの化合物粒子2が、図2に例示するように均一的に分散して存在することで、焼結材1の結晶粒の粗大化が抑制される。その結果、焼結材1は、引っ張られても破断し難く、高い引張強さを有する。個数の密度が1350個以下であれば、化合物粒子2が過剰に存在しないといえる。このような焼結材1は、上述の結晶粒の粗大化が抑制されることによる強度の向上効果を得つつ、化合物粒子2が割れの起点になったり、割れを伝搬させたりすることを抑制できる。従って、実施形態の焼結材1は、高い引張強さを有する等、強度に優れる。
【0036】
上述の個数の密度が大きいほど、結晶粒の粗大化が抑制されることによる強度の向上効果を得易く、焼結材1は高い引張強さを有し易い。従って、上記個数の密度は250個以上、更に300個以上、350個以上が好ましい。上記個数の密度が小さいほど、化合物粒子2に起因する割れの発生や割れの伝搬を抑制し易く、焼結材1は高い引張強さを有し易い。従って、上記個数の密度は1300個以下、更に1250個以下、1200個以下、1000個以下、900個以下が好ましい。特に、上記個数の密度は850個以下がより好ましい。焼結材1が、結晶粒の粗大化が抑制されることによる強度の向上効果を適切に得つつ、化合物粒子2による割れの伝搬を抑制して、より高い引張強さを有し易いからである。
【0037】
化合物粒子2の存在状態(上述の個数の密度)を調整する方法として、例えば、後述するように製造過程で、原料に用いる鉄系粉末に還元処理を施して酸化物が形成される量を調整することが挙げられる。還元処理における加熱温度が高いほど、化合物粒子2を低減することができる。上記加熱温度がある程度低ければ、化合物粒子2をある程度形成することができる。
【0038】
《化合物粒子の個数の密度を測定する方法》
焼結材1の断面において、上述の個数の密度は、例えば以下のように測定する。より具体的な測定方法は、後述の試験例1で説明する。
【0039】
(1)焼結材1の断面をとる。焼結材1の断面は、図1Bに示すように焼結材1の表面11及びその近傍領域(表層)をとることが望ましい。焼結材1を引っ張ると、焼結材1の表層から割れが生じ易いからである。また、焼結材1がその表層に浸炭処理による硬化層を備える場合、焼結材1の表層は、焼結材1の内部に比較して硬い。そのため、焼結材1の表層から割れが更に生じ易い。以下では、化合物粒子2の測定箇所が表層である場合を説明する。
【0040】
焼結材1の断面は、焼結材1の表面11から内部に向かって、200μmまでの領域を観察できるようにとる。例えば、焼結材1が図1Aに示す環状の歯車であれば、表面11は、歯3における歯先30の表面、歯面31の表面、歯底32の表面、貫通孔41の軸方向の端部に位置する端面40、貫通孔41の内周面等が挙げられる。焼結材1が図1Aに示す環状の歯車といった筒体であれば、切断面は、筒体に設けられた貫通孔の軸方向に直交する平面(図1B)、又は上記軸方向に平行な平面が挙げられる。より具体的な切断面として、歯車の厚さ方向に直交する平面(図1B)、又は歯車の厚さ方向に平行な平面等が挙げられる。その他、焼結材1が図1Aに示すような環状の歯車であれば、切断面は平面ではなく、曲面でもよい。例えば切断面は、歯車の軸(貫通孔41の軸)と同軸の円筒面(例、貫通孔41の内周面)に沿った曲面、又はその一部に平行な曲面(例、歯先30の表面、歯底32の表面)に沿った曲面としてもよい。焼結材1が直方体であれば、上記切断面は、直方体の外周面の一面に平行な平面等が挙げられる。
【0041】
焼結材1の最表面及び最表面の近傍の領域は除去することが好ましい。焼結材1の最表面及び最表面の近傍の領域には、不純物等が存在して適切な測定が行えない可能性があるためである。除去厚さは、10μmから30μm程度が挙げられる。焼結材1の表面11は、除去後の表面とする。
【0042】
(2)焼結材1の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して、表面11から内部に向かって、幅が50μmであり、長さが200μmである長方形の領域を測定領域(視野)として抽出する。観察倍率は、例えば3,000倍から10,000倍の範囲から選択する。測定領域の数は、一つ以上とする。
【0043】
(3)抽出した一つの測定領域を更に複数の微小領域に分割する。分割数kは50以上、更に80以上が挙げられる。各微小領域に対して、市販の自動粒子解析システムや市販のソフトウェア等を用いて、各微小領域に存在する粒子であって、0.3μm以上の大きさを有する粒子を抽出する。ここでの「0.3μm以上の大きさを有する粒子」とは、粒子の直径が0.3μm以上である粒子をいう。粒子の直径は、以下のように求める。抽出した粒子の面積(ここでは断面積)を求める。上記粒子の面積と同等の面積を有する円の直径を求める。粒子の直径は、上記円の直径とする。粒子は、上述の酸化物等の化合物からなる粒子の他、空孔を含み得る。そのため、各粒子に対して、SEM-EDS等を用いて成分分析を行うことで、化合物粒子と空孔とを区別する。各微小領域から化合物粒子のみを抽出し、化合物粒子の個数nを測定する。各微小領域の個数nを合算して、一つの測定領域における化合物粒子の合計個数Nを求める。測定した合計個数Nと測定領域の面積S(μm)とを用いて、100μm×100μmあたりに存在する化合物粒子の個数nを求める。一つの測定領域における上記個数nは(N×100×100)/Sで求められる。上記個数nを焼結材1の個数の密度とする。
【0044】
《大きさ》
化合物粒子2の大きさ(上述の直径)は小さいほど好ましい。微細な化合物粒子2が焼結材1中に分散することで、結晶粒の粗大化が抑制されることによる強度の向上効果を得易いからである。また、特に20μm以上といった粗大な化合物粒子2が少ないほど好ましい。上記粗大な化合物粒子2が少なければ、上記粗大な化合物粒子2が割れの起点になったり、割れを伝搬させたりすることを抑制し易いからである。定量的には、以下の割合(n20/n)×100が1%以下であることが挙げられる。上記nとは、単位面積あたりに存在する0.3μm以上の大きさである化合物粒子2の個数である。上記n20とは、単位面積あたりに存在する20μm以上の大きさである化合物粒子2の個数である。ここでの単位面積は、100μm×100μmである。割合(n20/n)×100とは、個数nに対する個数n20の割合である。上記割合が1%以下であれば、粗大な化合物粒子2が十分に少ないといえる。また、上記割合が1%以下であれば、個数nの99%超を占める化合物粒子2では、その大きさが20μm未満である。即ち、多くの化合物粒子2は小さいといえる。上記割合が小さいほど、上記個数n20が少ない。そのため、上記粗大な化合物粒子2が割れの起点になり難い。上記割合は0.8%以下、更に0.7%以下が好ましく、理想的には0%である。粗大な化合物粒子2の大きさは、例えば150μm以下、更に100μm以下、50μm以下が好ましい。
【0045】
上述の個数nの99%以上を占める化合物粒子2の大きさが小さいほど、結晶粒の粗大化が抑制されることによる強度の向上が期待できる。例えば、これらの化合物粒子2の大きさは、20μm未満、更に10μm以下、5μm以下、3μm以下が好ましい。上述の単位面積あたりに存在する全ての化合物粒子2の大きさが20μm以下であることがより好ましい。
【0046】
《熱処理後の組織》
実施形態の焼結材1は、焼結されたままのものが挙げられる。又は、実施形態の焼結材1は、焼結後に浸炭処理及び焼入れ焼戻しの少なくとも一方が施されたものが挙げられる。特に浸炭処理及び焼入れ焼戻しが施された焼結材1は機械的特性により優れて好ましい。浸炭処理が施された焼結材1は、表面11から内部に向かって1mm程度までの範囲に浸炭層(図示せず)を備える。浸炭層を備える焼結材1では、表面11近くの領域が焼結材1の内部に比較して硬い。そのため、浸炭層を備える焼結材1は耐摩耗性等を向上できる。焼入れ焼戻しが施された焼結材1は、(焼戻し)マルテンサイトからなる組織を有する。(焼戻し)マルテンサイト組織を有する焼結材1は、硬い上に靭性にも優れて、強度を高め易い。焼結材1の実質的に全体が(焼戻し)マルテンサイトからなり、残留オーステナイトを過度に含有しない組織であると、硬度と靭性との双方により優れる。このような焼結材1は高い引張強さを有する。
【0047】
(相対密度)
実施形態の焼結材1の相対密度は93%以上である。このような焼結材1は緻密であり、空孔が少ない。そのため、焼結材1では、空孔に起因する割れや破断が生じ難い又は実質的に生じない。このような焼結材1は、高い引張強さを有する。上記相対密度が95%以上、更に97%以であると、引張強さを高め易く好ましい。更に、上記相対密度は98%以上、99%以上でもよい。上記相対密度は理想的には100%であるが、製造性等を考慮すると99.6%以下でもよい。
【0048】
焼結材1の相対密度(%)は、焼結材1から複数の断面をとり、各断面を顕微鏡(SEM,光学顕微鏡等)で観察し、観察像を画像解析することで求める。焼結材1が例えば柱状体や筒状体であれば、焼結材1における各端面側の領域と、焼結材1における軸方向に沿った長さの中心近傍の領域とからそれぞれ断面をとる。上記端面側の領域とは、焼結材1における上記長さにもよるが、例えば焼結材1の表面から内側に向って3mm以内の領域が挙げられる。上記中心近傍の領域とは、焼結材1における上記長さにもよるが、例えば上記長さの中心から各端面側に向って1mmまでの領域(合計2mmの領域)が挙げられる。切断面は、上記軸方向に交差する平面、代表的には直交する平面が挙げられる。各断面から複数(例、10以上)の観察視野をとる。一つの観察視野の大きさ(面積)は、例えば、500μm×600μm=300,000μmが挙げられる。一つの断面から複数の観察視野をとる場合、この断面を均等に分割して、分割した各領域から観察視野をとることが好ましい。各観察視野の観察像に画像処理(例、二値化処理等)を施して、処理画像から、金属からなる領域を抽出する。抽出した金属からなる領域の面積を求める。更に、観察視野の面積に対する金属からなる領域の面積の割合を求める。この面積の割合を各観察視野の相対密度とみなす。求めた複数の観察視野の相対密度を平均する。求めた平均値を焼結材1の相対密度(%)とする。
【0049】
(機械的特性)
実施形態の焼結材1は、組成や相対密度にもよるが、例えば1300MPa以上という高い引張強さを有することが挙げられる(後述の試験例1参照)。
【0050】
(用途)
実施形態の焼結材1は、各種の一般構造用部品、例えば機械部品等に利用できる。機械部品は、例えば、スプロケットを含む各種の歯車、ローター、リング、フランジ、プーリー、軸受け等が挙げられる。その他、実施形態の焼結材1は、高い引張強さが求められる用途の素材に好適に利用できる。
【0051】
(主な効果)
実施形態の焼結材1は高い相対密度を有して緻密である上に、0.3μm以上の大きさを有する化合物粒子2が特定の量存在する。このような実施形態の焼結材1は高い引張強さを有する等、強度に優れる。この効果を後述の試験例で具体的に説明する。
【0052】
[焼結材の製造方法]
実施形態の焼結材1は、例えば、以下の工程を備える実施形態の焼結材の製造方法によって製造できる。
(第一の工程)鉄系粉末を含む原料粉末を用意する。
(第二の工程)上記原料粉末を用いて、相対密度が93%以上である圧粉成形体を作製する。
(第三の工程)上記圧粉成形体を焼結する。
上記鉄系粉末は、純鉄からなる粉末、及び鉄基合金からなる粉末の少なくとも一方の粉末を含む。
第一の工程では、上記鉄系粉末に還元処理を施す。還元処理では、上記鉄系粉末を還元雰囲気下において800℃以上950℃未満の温度に加熱する。
以下、工程ごとに説明する。
【0053】
(第一の工程:原料粉末の準備)
〈粉末の組成〉
原料粉末の組成は、焼結材をなす鉄基合金の組成に応じて、調整するとよい。原料粉末は、鉄系粉末を含む。ここでの鉄系粉末とは、Feを含む組成の金属からなる粉末である。鉄系粉末は、例えば、焼結材をなす鉄基合金と同じ組成の鉄基合金からなる合金粉末、焼結材をなす鉄基合金とは異なる組成の鉄基合金からなる合金粉末、又は純鉄粉が挙げられる。鉄系粉末は、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法等によって製造できる。具体的な原料粉末として、以下が挙げられる。
【0054】
(a)原料粉末は、焼結材をなす鉄基合金と同じ組成の鉄基合金からなる合金粉末を含む。
(b)原料粉末は、以下の鉄基合金からなる合金粉末と、カーボン粉とを含む。鉄基合金は、Ni,Mo,Mn,Cr,B,及びSiからなる群より選択される1種以上の元素を含有し、残部がFe及び不純物からなる。
(c)原料粉末は、純鉄粉と、Ni,Mo,Mn,Cr,B,及びSiからなる群より選択される1種以上の元素からなる粉末と、カーボン粉とを含む。
【0055】
上記(a),(b)のように、原料粉末に合金粉末を含む場合は、NiやMo等の元素を均一的に含む焼結材を製造し易い。原料粉末は、上記(a)及び(b)の一方に記載する合金粉末と、上記(c)に列挙される1種以上の元素からなる粉末とを含んでもよい。
【0056】
原料粉末の大きさは適宜選択できる。例えば、上述の合金粉末や純鉄粉の平均粒径は、20μm以上200μm以下、更に50μm以上150μm以下が挙げられる。主体となる合金粉末等の平均粒径が上記範囲を満たすと、原料粉末を加圧成形し易い。そのため、相対密度が93%以上といった緻密な圧粉成形体を製造し易い。
【0057】
NiやMo等の元素からなる粉末の平均粒径は、例えば1μm以上200μm以下程度が挙げられる。カーボン粉末の平均粒径は、例えば1μm以上30μm以下程度が挙げられる。また、カーボン粉末は、上記合金粉末や純鉄粉よりも小さいものを利用できる。
【0058】
ここでの平均粒径とは、レーザ回折式粒度分布測定装置によって測定した体積粒度分布における累積体積が50%となる粒径(D50)とする。
【0059】
その他、原料粉末は、潤滑剤及び有機バインダーの少なくとも一方を含有してもよい。潤滑剤及び有機バインダーの合計含有量は、例えば原料粉末を100質量%として0.1質量%以下であると、緻密な圧粉成形体を製造し易い。原料粉末が潤滑剤及び有機バインダーを含有しなければ、緻密な圧粉成形体をより製造し易い上に、後工程で圧粉成形体を脱脂する必要もない。この点で、潤滑剤等の省略は、焼結材1の量産性の向上に寄与する。
【0060】
〈還元処理〉
上述の鉄系粉末には還元処理を施す。還元処理によって、鉄系粉末を構成する各粒子の表面に存在し得る酸化膜や付着する酸素が還元される。そのため、鉄系粉末における酸素濃度が低減される。還元処理の条件を調整すれば、酸素濃度を適切な範囲にすることができる。酸素濃度が適切に調整された鉄系粉末を含む原料粉末を用いることで、酸素濃度が特定の範囲である圧粉成形体を製造することができる。この圧粉成形体を焼結すれば、焼結時、圧粉成形体中に含まれる酸素と、圧粉成形体に含まれる元素とが結合してなる酸化物の生成量を制御することができる。その結果、酸化物からなる化合物粒子2を含む焼結材1を製造することができる。化合物粒子2は、主として酸化物からなるものが多い。従って、酸化物量を制御すれば、化合物粒子2の含有量を特定の範囲に制御することができる。
【0061】
還元処理は、還元雰囲気下において鉄系粉末を加熱することで行う。加熱温度が800℃以上であれば、鉄系粉末から酸素を適切に低減することができる。例えば、鉄系粉末の酸素濃度を体積割合で2400ppm以下、更に2200ppm以下、2000ppm以下と低くすることができる。加熱温度が950℃未満であれば、鉄系粉末中の酸素がある程度残存し易い。残存する酸素によって、焼結時、酸化物を生成することができる。そのため、化合物粒子2を上述の特定の範囲で含む焼結材1を製造することができる。例えば、鉄系粉末の酸素濃度は、体積割合で800ppm超、更に850ppm以上、900ppm以上としてもよい。加熱温度は820℃以上945℃以下、更に830℃以上940℃以下が好ましい。この温度範囲であれば、化合物粒子2が結晶粒の粗大化を抑制することによる強度の向上効果を適切に得つつ、化合物粒子2による割れの発生や割れの伝搬を招き難いことで、高い引張強さを有する焼結材1を製造し易い。
【0062】
還元処理における上述の加熱温度の保持時間は、例えば0.1時間以上10時間以下、更に0.5時間以上5時間以下の範囲から選択することが挙げられる。上記加熱温度が同じである場合、保持時間が長いほど、鉄系粉末の酸素濃度が低くなり易い傾向がある。保持時間が短いほど、処理時間が短くなり、焼結材の製造時間を短くすることができる。ひいては、焼結材の製造性を向上することができる。上述の保持時間が経過したら、加熱を止める。
【0063】
還元雰囲気は、例えば還元ガスを含む雰囲気、真空雰囲気が挙げられる。還元ガスは、水素ガス、一酸化炭素ガス等が挙げられる。真空雰囲気の雰囲気圧力は、例えば10Pa以下が挙げられる。
【0064】
(第二の工程:成形)
この工程では、上述の還元された鉄系粉末を含む原料粉末を加圧圧縮して、相対密度が93%以上の圧粉成形体を成形する。実施形態の焼結材の製造方法は、相対密度が93%以上の圧粉成形体を用いることで、相対密度が93%以上の焼結材を製造できる。代表的には、焼結材は、圧粉成形体の相対密度を実質的に維持するからである。圧粉成形体の相対密度が高いほど、相対密度が高い焼結材を製造できる。そのため、圧粉成形体の相対密度は95%以上、更に97%以上、98%以上でもよい。上述のように製造性等を考慮すると、圧粉成形体の相対密度は99.6%以下でもよい。
【0065】
圧粉成形体の相対密度は、上述の焼結材1の相対密度と同様にして求めるとよい。特に、圧粉成形体を一軸加圧によって成形する場合、圧粉成形体の断面は、圧粉成形体における加圧軸方向に沿った長さの中心近傍の領域、加圧軸方向の両端部に位置する端面側の領域からそれぞれとることが挙げられる。切断面は、加圧軸方向に交差する平面、代表的には直交する平面が挙げられる。
【0066】
圧粉成形体は、代表的には一軸加圧が可能な金型を有するプレス装置を利用することで製造できる。金型は、代表的には、貫通孔を有するダイと、貫通孔の上下の開口部にそれぞれ嵌め込まれる上パンチ及び下パンチとを備えるものが挙げられる。ダイの内周面と下パンチの端面とはキャビティを形成する。原料粉末はキャビティ内に充填される。圧粉成形体は、キャビティ内の原料粉末を所定の成形圧力(面圧)で上パンチ及び下パンチによって圧縮することで製造できる。
【0067】
圧粉成形体の形状は、焼結材の最終形状に沿った形状でも、焼結材の最終形状とは異なる形状でもよい。焼結材の最終形状とは異なる形状である圧粉成形体には、成形以降の工程で切削加工等を行うとよい。成形以降の加工は、後述するように焼結前の圧粉成形体に対して行うと、効率的に行えて好ましい。この場合、例えば、圧粉成形体の形状が円柱や円筒等の単純な形状であれば、圧粉成形体を高精度に成形し易く、圧粉成形体の製造性に優れる。
【0068】
上述の金型の内周面に潤滑剤を塗布することができる。この場合、原料粉末が金型に焼付くことを防止しつつ、緻密な圧粉成形体を成形し易い。潤滑剤は、例えば、高級脂肪酸、金属石鹸、脂肪酸アミド、高級脂肪酸アミド等が挙げられる。
【0069】
成形圧力が高いほど、圧粉成形体の相対密度を高め易く、緻密な圧粉成形体を製造することができる。結果として、緻密な焼結材を製造することができる。成形圧力は、例えば1560MPa以上が挙げられる。更に、成形圧力は1660MPa以上、1760MPa以上、1860MPa以上、1960MPa以上でもよい。
【0070】
(第三の工程:焼結)
〈焼結温度及び焼結時間〉
この工程では、圧粉成形体を焼結して、相対密度が93%以上である焼結材を製造する。焼結温度及び焼結時間は、原料粉末の組成等に応じて適宜選択するとよい。焼結温度は、例えば、1100℃以上1400℃以下が挙げられる。焼結温度は1110℃以上1300℃以下、1120℃以上1250℃未満でもよい。実施形態の焼結材の製造方法は、上述のように緻密な圧粉成形体を用いる。そのため、1250℃以上の高温焼結によって焼き締めを行わなくても、1250℃未満の比較的低温な焼結によって、上述のように緻密な焼結材を製造することができる。例えば、焼結時間は、10分以上150分以下が挙げられる。
【0071】
〈雰囲気〉
焼結時の雰囲気は、例えば窒素雰囲気、真空雰囲気が挙げられる。窒素雰囲気や真空雰囲気であれば、雰囲気中の酸素濃度が低く(例、体積割合で1ppm以下)、酸化物の生成を低減することができる。真空雰囲気の雰囲気圧力は例えば10Pa以下が挙げられる。
【0072】
(その他の工程)
その他、実施形態の焼結材の製造方法は、以下の第一の加工工程、熱処理工程、及び第二の加工工程の少なくとも一つの工程を備えてもよい。
【0073】
〈第一の加工工程〉
この工程では、上述の第二の工程(成形工程)後、第三の工程(焼結工程)前において、圧粉成形体に切削加工を施す。切削加工は、転削加工でも旋削加工でもよい。具体的な加工として、歯切加工や穴あけ加工等が挙げられる。焼結前の圧粉成形体は、焼結後の焼結材や溶製材に比較して切削加工性に優れる。この点で、焼結工程前に切削加工を行うことは、焼結材の量産性の向上に寄与する。
【0074】
〈熱処理工程〉
この工程の熱処理は、浸炭処理及び焼入れ焼戻しが挙げられる。又は、この工程の熱処理は、浸炭焼入れでもよい。
浸炭条件は、例えば、カーボンポテンシャル(C.P.)を0.6質量%以上1.8質量%以下、処理温度を910℃以上950℃以下、処理時間を60分以上560分以下とすることが挙げられる。但し、最適な浸炭の処理時間は、一般に、焼結材の製品サイズによって異なる。そのため、上記時間はあくまで一例である。
焼入れ条件は、オーステナイト化の処理温度を800℃以上1000℃以下、処理時間を10分以上150分以下とし、その後に油冷又は水冷で急冷することが挙げられる。
焼戻し条件は、処理温度を150℃以上230℃以下、処理時間を60分以上240分以下とすることが挙げられる。
【0075】
〈第二の加工工程〉
この工程は、焼結後の焼結材に仕上げ加工を行う。仕上げ加工は、例えば研磨等が挙げられる。仕上げ加工を行うことで、焼結材の表面粗さを小さくして表面性状に優れる焼結材や、設計寸法に適合した焼結材を製造することができる。
【0076】
(主な効果)
実施形態の焼結材の製造方法は、相対密度が高く緻密である上に、0.3μm以上の大きさである化合物粒子が特定の量存在する焼結材、代表的には上述の実施形態の焼結材1を製造できる。従って、実施形態の焼結材の製造方法は、高い引張強さを有する等、強度に優れる焼結材1を製造できる。
【0077】
[試験例1]
酸素濃度が異なる鉄系粉末を原料粉末に用いて、相対密度が異なる焼結材を作製し、焼結材の組織及び引張強さを調べた。
【0078】
焼結材は、以下のように作製した。原料粉末を用いて圧粉成形体を作製する。得られた圧粉成形体を焼結する。焼結後に浸炭焼入れ、焼戻しを順に施す。
【0079】
原料粉末は、以下の鉄基合金からなる合金粉と、カーボン粉とを含む混合粉を用いる。
鉄基合金は、Niを2質量%、Moを0.5質量%、Mnを0.2質量%含有し、残部がFe及び不純物からなる。
カーボン粉末の含有量は、混合粉の合計質量を100質量%として0.3質量%である。
上記合金粉の平均粒径(D50)は100μmである。カーボン粉の平均粒径(D50)は5μmである。
【0080】
用意した上述の合金粉に対して、還元処理を施して、酸素濃度が異なる合金粉を用意した。ここでは、還元処理における加熱温度及び保持時間の少なくとも一方を異ならせることで、酸素濃度が異なる7種類の合金粉を用意した。上記加熱温度は800℃以上1000℃以下の範囲から選択する。上記保持時間は1時間以上5時間以下の範囲から選択する。還元処理時における雰囲気は水素雰囲気とする。
【0081】
還元処理後、各試料の合金粉の酸素濃度(質量ppm)を測定し、結果を表1に示す。ここでは、上記酸素濃度は、不活性ガス融解赤外線吸収法を用いて測定する。詳しくは、各試料の合金粉を不活性ガス中で加熱して溶融し、酸素を抽出する。抽出した酸素の量を測定する。酸素濃度(質量ppm)は、合金粉を100質量%とした質量割合である。
【0082】
合金粉の酸素濃度が1210質量ppm以下である試料では、上述の加熱温度が900℃、930℃、945℃、1000℃のいずれかである。加熱温度が高いほど、合金粉の酸素濃度が低い。ここでは酸素濃度が400質量ppmである試料の加熱温度が1000℃である。これらの試料の保持時間は同じである。
【0083】
合金粉の酸素濃度が1600質量ppm以上である試料では、上述の加熱温度が800℃であり、保持時間が異なることで、酸素濃度が異なる。保持時間が長いほど、合金粉の酸素濃度が低い。ここでは酸素濃度が1620質量ppmである試料の保持時間がこれらの試料のなかで最短である。
【0084】
還元処理を施した鉄系粉末(上述の合金粉)と、カーボン粉とを混合する。ここでは、V型混合器を用いて、上述の粉末を90分間混合する。混合後の粉末を原料粉末とする。原料粉末を加圧成形して、円柱状の圧粉成形体を作製した。圧粉成形体の寸法は、直径φ75mm、厚さ20mmである。
【0085】
各試料の圧粉成形体の相対密度(%)が91%、93%、95%、97%のいずれかとなるように、成形圧力を1560MPa~1960MPaの範囲から選択して、圧粉成形体を作製した。成形圧力が大きいほど、相対密度が高い圧粉成形体を得易い。各試料の圧粉成形体の相対密度(%)を表1に示す。
【0086】
作製した圧粉成形体を以下の条件で焼結した。焼結後、以下の条件で浸炭焼入れを行ってから焼戻しを行って、各試料の焼結材を得た。
【0087】
(焼結条件)焼結温度:1130℃、保持時間:30分間、雰囲気:窒素
(浸炭焼入れ)930℃×90分、カーボンポテンシャル:1.2質量%⇒850℃×30分⇒油冷
(焼戻し)200℃×90分
【0088】
上述のようにして、直径φ75mm、厚さ20mmである円柱状の焼結材を得た。この焼結材は、Niを2質量%、Moを0.5質量%、Mnを0.2質量%、Cを0.3質量%含有し、残部がFe及び不純物からなる鉄基合金の組成を有する。作製した各試料の焼結材について、個数の密度(個/(100μm×100μm))、引張強さ(MPa)、相対密度(%)を測定する。ここでの個数の密度とは、焼結材の断面において、単位面積あたりに存在する0.3μm以上の大きさである化合物粒子の個数である。単位面積は、100μm×100μmである。
【0089】
(組織観察)
各試料の焼結材の断面について、SEMによる自動粒子解析を行って、上述の個数の密度を調べた。ここでは、焼結材の断面において、焼結材の表面及びその近傍領域(表層)を測定対象として、化合物粒子の個数を調べた。また、市販の自動粒子解析システム(JSM-7600F、日本電子株式会社製SEM)を用いた。使用した粒子解析ソフトウェアは、INCA(Oxford Instruments製)である。以下に、具体的な測定手順を説明する。
【0090】
各試料の焼結材から、最表面を含む直方体の試験片を切り出す。試験片の寸法は、4mm×2mm×高さ3mmである。最表面に4mm×2mmの面積を有し、深さ方向に3mmの高さを有するように、焼結材から試験片を切り出す。切り出した直方体の試験片に対して、最表面から高さ方向に25μmまでの領域を除去する。除去後の表面を試験片の表面とする。試験片における4mm×約3mmの面について、Ar(アルゴン)イオンを用いたクロスセクションポリッシャー加工(CP加工)によって平坦化する。このCP加工面を測定面とする。
【0091】
上述の測定面に対して、試験片の表面から内部に向かって、即ち高さ方向に沿って200μmまでの領域について、幅50μmの領域を測定領域とする。即ち、測定領域は、幅が50μmであり、長さが200μmである長方形の領域である。ここでは、一つの試験片から一つの測定領域をとる。図2は、試料No.5の焼結材1における測定領域12の模式図である。図2において、丸印は、化合物粒子2を模式的に示す。化合物粒子2が存在する領域は、焼結材1の母相を構成する鉄基合金である。化合物粒子2は、代表的には図2に示すように鉄基合金からなる母相に均一的に分散して存在する。図2は、ハッチングを省略している。
【0092】
抽出した測定領域を更に複数の微小領域に分割し、各微小領域に存在する粒子を抽出する。ここでは、上記測定領域を82個に分割する(分割数k=82)。SEMの倍率は、10,000倍である。粒子の抽出は、SEM観察像におけるコントラストの相違から行う。ここでは、SEM観察像として反射電子像を用いる。反射電子像におけるコントラストの強度の閾値に基づいて、二値化処理の条件を設定する。そして、二値化処理像に対して、コントラストの相違から粒子を抽出する。また、二値化処理像に対して、穴埋め処理及びオープニング処理を行うことで、隣り合う粒子の画像を切り分ける。抽出した各粒子の面積を求める。求めた面積と同等の面積を有する円の直径を求める。上記円の直径が0.3μm以上である粒子を抽出する。抽出した0.3μm以上の粒子に対してそれぞれ、SEM-EDSによって成分分析を行う。成分分析の結果を用いて、酸化物等からなる粒子と、空孔とを区別し、酸化物等の化合物からなる粒子のみを抽出する。ここでの成分分析の時間は10秒である。
【0093】
各微小領域について、酸化物等からなる粒子の個数nを測定する。k個の微小領域における個数nを合算する。この合算(総和)が一つの測定領域における酸化物等からなる粒子の合計個数Nである。合計個数Nと一つの測定領域の面積S(ここでは50μm×200μm)とを用いて、100μm×100μmあたりの個数nは、n=(N×100×100)/Sで求められる。各試料における測定領域の個数nを各試料における個数の密度とし、表1に示す。
【0094】
(引張強さ)
引張強さは、汎用の引張試験機を用いて引張試験を行って測定した。引張試験の試験片は、日本粉末冶金工業会の規格、JPMA M 04-1992、焼結金属材料引張試験片に準ずるものである。試験片は、上述の円柱状の焼結材から切り出した平板材である。この試験片は、細幅部と、細幅部の両端に設けられる太幅部とで構成される。細幅部は、中央部と、肩部とで構成される。肩部は、中央部から太幅部にかけて形成される円弧状の側面を有する。
試験片のサイズを以下に示す。評点距離は30mmである。
厚さ:5mm
長さ:72mm
中央部の長さ:32mm
細幅部における中央部の幅:5.7mm
肩部における細幅部近くの幅:5.96mm
肩部の側面の半径R:25mm
太幅部の幅を8.7mm
【0095】
(相対密度)
焼結材の相対密度(%)は、上述のように焼結材の断面における顕微鏡の観察像を画像解析することで求める。ここでは、各試料の焼結材において、端面側の領域と、焼結材に備えられる貫通孔の軸方向に沿った長さの中心近傍の領域とからそれぞれ断面をとる。端面側の領域は、焼結材の円環状の端面から3mm以内の領域とする。中心近傍の領域は、焼結材の各端面から、上述の厚さ3mmである端面側の領域を除いた残りの領域、即ち上記長さが2mmの領域とする。各領域を上記軸方向に直交する平面で切断して、断面をとる。各断面から複数(10以上)の観察視野をとる。観察視野の面積は、500μm×600μm=300,000μmである。各観察視野の観察像に画像処理を施して、金属からなる領域を抽出する。抽出した金属からなる領域の面積を求める。観察視野の面積に対する金属からなる領域の面積の割合を求める。この割合を相対密度とみなす。合計30以上の観察視野の相対密度を求め、更に平均値を求める。求めた平均値を焼結材の相対密度(%)とする。焼結材1の相対密度(%)を表1に示す。
【0096】
【表1】
【0097】
表1に示すように、焼結材の相対密度が高いほど、引張強さが高い傾向にあることが分かる。詳しくは、相対密度が93%以上である試料No.1~No.18及びNo.111~No.119の焼結材は、相対密度が93%未満である試料No.101~No.109に比較して、高い引張強さを有する。試料No.1~No.18に着目すると、相対密度が93%以上であれば、引張強さが1300MPa以上であり、1400MPa以上の試料もある。相対密度が95%以上であれば、引張強さが1500MPa以上であり、1600MPa以上の試料も多い。相対密度が97%以上であれば、引張強さが1570MPa以上であり、1700MPa以上の試料も多い。このような結果が得られた理由の一つとして、上記相対密度が高いほど空孔が少なく、空孔に起因する割れの発生を低減できたため、と考えられる。
【0098】
次に、緻密である試料No.1~No.18とNo.111~No.119とについて、相対密度が同じ試料同士を比較すると、引張強さが異なる。試料No.1~No.18(以下、特定試料群と呼ぶ)の焼結材はいずれも、試料No.111~No.119に比較して高い引張強さを有する。定量的には、特定試料群の引張強さはいずれも、1300MPa以上である。
【0099】
特定試料群の引張強さが上述のように高い理由の一つとして、焼結材の断面において単位面積あたりに存在する0.3μm以上の大きさである化合物粒子の個数(個数の密度)の多寡が考えられる。特定試料群における個数の密度は200個以上1350個以下である。特定試料群では化合物粒子がある程度存在するといえる。このような特定試料群は、適量の化合物粒子が均一的に分散することで、結晶粒(ここでは旧オーステナイト粒)の粗大化が抑制されることによる強度の向上効果が適切に得られたと考えられる。また、適量の化合物粒子は、割れの起点になったり、割れを伝搬させたりし難いと考えられる。その結果、特定試料群は、引っ張られても破断し難くなったと考えられる。更に、上記化合物粒子は破断した試料の破断面に存在することを確認している。このことから、緻密な焼結材に存在する過剰な上記化合物粒子は割れの起点や割れの伝搬になり易いと考えられる。
【0100】
加えて、特定試料群では、粗大な化合物粒子が少なく、多くの化合物粒子が微細であることを確認している。具体的には、特定試料群では、割合(n20/n)×100が1%以下である。上記nは、上述の単位面積あたりに存在する0.3μm以上の化合物粒子の個数である。上記n20は、上記単位面積あたりに存在する20μm以上の化合物粒子の個数である。このとこからも、特定試料群は、上記化合物粒子による結晶粒の粗大化が抑制されることによる強度の向上効果を得易く、かつ上記化合物粒子による割れの発生及び割れの伝搬を抑制し易かったと考えられる。
【0101】
これに対し、試料No.111~No.113では、上述の個数の密度が200個未満、ここでは50個程度以下である。これらの試料は、上記化合物粒子が少な過ぎて、結晶粒の粗大化が抑制されることによる強度の向上効果が十分に得られず、引張強さが低いと考えられる。試料No.114~No.119では、上記個数の密度が1350個超、ここでは2000個以上である。これらの試料は、上記化合物粒子が多過ぎて、化合物粒子によって割れが伝搬し易くなり、引張強さが低いと考えられる。
【0102】
特定試料群と、試料No.111~No.119とで、化合物粒子の存在状態(個数の密度)に相違が生じた理由の一つとして、原料粉末の酸素濃度の相違が考えられる。ここでは、特定試料群に用いた合金粉の酸素濃度は800質量ppm超2400質量ppm以下、更に2000質量ppm以下である。特定試料群における合金粉の酸素濃度は、試料No.111~No.113に用いた合金粉の酸素濃度(ここでは400質量ppm)よりも高い。また、特定試料群における合金粉の酸素濃度は、試料No.114~No.119に用いた合金粉の酸素濃度(ここでは2400質量ppm超)よりも低い。特定試料群は、原料粉末の主体である合金粉として、酸素濃度が高過ぎず低過ぎず、適切な範囲である粉末を用いたことで、焼結時に圧粉成形体に含まれる元素と酸素とが結合して適量の酸化物を形成できたと考えられる。その結果、特定試料群は、酸化物からなる粒子をある程度含み、これらの粒子が均一的に分散して、結晶粒の粗大化を抑制できたと考えられる。試料No.111~No.119では、酸素濃度が低過ぎる粉末又は酸素濃度が高過ぎる粉末を用いたことで、結果として、酸化物からなる粒子が少な過ぎて結晶粒の粗大化を十分に抑制できなかった、又は酸化物からなる粒子が多過ぎて上記粒子が割れの起点となったり割れを伝搬させたりした、と考えられる。
【0103】
その他、この試験から以下のことが分かる。
(1)相対密度が高いほど、化合物粒子の多寡が引張強さに与える影響が大きい。この点について、図3を参照して説明する。図3は、各試料の焼結材について、上述の個数の密度(個/(100μm×100μm))と、引張強さ(MPa)との関係を示すグラフである。上記グラフの横軸は、各試料における個数の密度(個/(100μm×100μm))を示す。上記グラフの縦軸は、各試料の引張強さ(MPa)を示す。上記グラフにおける凡例の91、93、95、97は、各試料の相対密度を意味する。
【0104】
図3に示すように、相対密度が91%である場合、上述の個数の密度が増減しても、引張強さの変化が小さいことが分かる。ここでは相対密度が93%未満であれば、焼結材の引張強さは、0.3μm以上の大きさである化合物粒子の個数の多寡に実質的に依存しないといえる。
【0105】
一方、相対密度が93%以上である場合について、上記個数の密度が50個程度未満の範囲、及び1500個程度を超える範囲に着目する。これらの範囲では、0.3μm以上の大きさである化合物粒子の個数が少なくても多くても、焼結材の引張強さは、相対密度が91%である場合よりも高い。但し、これらの範囲では、引張強さの変化がそれほど大きくない。しかし、上記個数の密度が50個程度以上1500個程度以下の範囲では、引張強さの変化が大きい。特に上記個数の密度が200個以上1350個以下である場合には、引張強さが向上し易いことが分かる。ここでは、上記個数の密度が1000個以下、更に850個以下である場合には、引張強さがより向上し易いといえる。相対密度が97%以上である場合は、上記個数の密度が250個以上850個以下、更に300個以上500個以下の範囲であると、引張強さがより一層高いことが分かる。これらのことから、相対密度が93%以上、更には97%以上である場合には、0.3μm以上の化合物粒子が適切に存在すると、結晶粒の粗大化が抑制されることによる強度の向上効果を良好に得易いといえる。従って、相対密度が93%以上という緻密な焼結材に対して引張強さを向上するためには、化合物粒子を特定の範囲で含有することが望ましいといえる。
【0106】
(2)同じ相対密度を有する場合には、上述の個数の密度が200個以上850個以下の範囲であると、焼結材の引張強さをより高められる(特定試料群同士を比較参照)。例えば、この試験では、相対密度が97%以上である場合、上記個数の密度が上記範囲であれば、引張強さが1750MPa以上である。引張強さが1800MPa以上の試料も多い。引張強さが1900MPa以上の試料もある。
【0107】
(3)原料粉末に用いる鉄系粉末(ここでは合金粉)に対して、800℃以上950℃未満の範囲で還元処理を施すことで、上述の個数の密度を制御できる。ここでは、還元処理時の温度を上記範囲とすれば、上記個数の密度が200個以上1350個以下である焼結材を製造できる。
【0108】
以上のことから、相対密度が93%以上であり、断面において0.3μm以上の大きさを有する化合物粒子が上述の特定の範囲で存在する焼結材は、高い引張強さを有しており、この点で、強度に優れることが示された。また、このような焼結材は、特定の温度で還元処理を施した鉄系粉末を原料に用いて、相対密度が93%以上の圧粉成形体を作製し、この圧粉成形体を焼結することで製造できることが示された。
【0109】
本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
例えば、上述の試験例1において焼結材の組成や製造条件を変更してもよい。製造条件について変更可能なパラメータは、例えば、還元処理における加熱温度・保持時間、焼結温度、焼結時間、焼結時の雰囲気等が挙げられる。
【符号の説明】
【0110】
1 焼結材、11 表面、12 測定領域
2 化合物粒子
3 歯、30 歯先、31 歯面、32 歯底
40 端面、41 貫通孔
図1A
図1B
図2
図3