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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-29
(45)【発行日】2022-08-08
(54)【発明の名称】農薬配合物中の溶媒としてのラクトン
(51)【国際特許分類】
   A01N 43/54 20060101AFI20220801BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20220801BHJP
   A01N 43/88 20060101ALI20220801BHJP
   A01P 13/00 20060101ALI20220801BHJP
   A01N 43/40 20060101ALI20220801BHJP
   A01N 37/40 20060101ALI20220801BHJP
   A01N 43/42 20060101ALI20220801BHJP
   A01N 47/40 20060101ALI20220801BHJP
   A01N 43/70 20060101ALI20220801BHJP
   A01N 37/52 20060101ALI20220801BHJP
   A01N 43/653 20060101ALI20220801BHJP
   A01N 43/36 20060101ALI20220801BHJP
   A01N 43/56 20060101ALI20220801BHJP
   A01N 37/36 20060101ALI20220801BHJP
   A01N 39/04 20060101ALI20220801BHJP
   A01N 33/22 20060101ALI20220801BHJP
   A01N 51/00 20060101ALI20220801BHJP
   A01N 37/42 20060101ALI20220801BHJP
   A01N 25/04 20060101ALI20220801BHJP
   A01N 37/34 20060101ALI20220801BHJP
【FI】
A01N43/54 A
A01P3/00
A01N43/88 103
A01P13/00
A01N43/40 101B
A01N37/40
A01N43/42 101
A01N47/40 Z
A01N43/70
A01N43/54 F
A01N37/52
A01N43/653 C
A01N43/54 D
A01N43/653 G
A01N43/36 A
A01N43/56 C
A01N37/36
A01N39/04 B
A01N33/22 101
A01N43/54 C
A01N51/00
A01N37/42
A01N25/04 101
A01N37/34 106
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019563390
(86)(22)【出願日】2018-05-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-07-09
(86)【国際出願番号】 EP2018062165
(87)【国際公開番号】W WO2018210686
(87)【国際公開日】2018-11-22
【審査請求日】2021-05-06
(31)【優先権主張番号】1707930.2
(32)【優先日】2017-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】519295993
【氏名又は名称】シンジェンタ パーティシペーションズ アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100218578
【弁理士】
【氏名又は名称】河井 愛美
(72)【発明者】
【氏名】ベル ゴードン アラステア
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-505218(JP,A)
【文献】特表2008-542271(JP,A)
【文献】国際公開第2009/031621(WO,A1)
【文献】特開2011-157355(JP,A)
【文献】特表2009-502826(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物における有害生物の防除における使用のための農薬組成物であって、前記組成物が、乳剤(EC)又は水中エマルション(EW)であり、
(i)以下の表:
【表1】


に列挙される農薬有効成分からなる群から選択される農薬有効成分;及び
(ii)ガンマ-カプロラクトン又は2-アセチル-ガンマ-ブチロラクトン;
を含み、
前記(i)の農薬有効成分が、(ii)のガンマ-カプロラクトン又は2-アセチル-ガンマ-ブチロラクトンの中に溶解されている、農薬組成物。
【請求項2】
界面活性剤をさらに含む、請求項1に記載の農薬組成物。
【請求項3】
前記農薬有効成分が、20℃で、10g/L未満の水溶解度を有する、請求項1または2に記載の農薬組成物。
【請求項4】
乳剤、水中エマルション、又はマイクロエマルションの中における、殺有害生物活性のある以下の表:
【表2】


に列挙される農薬有効成分からなる群から選択される農薬有効成分のための溶媒としての、ガンマ-カプロラクトン又は2-アセチル-ガンマ-ブチロラクトンの、植物における有害生物の防除のための使用。
【請求項5】
乳剤、水中エマルション、又はマイクロエマルションである、植物における有害生物を防除するための農薬組成物を作製する方法であって、
(i)ガンマ-カプロラクトン又は2-アセチル-ガンマ-ブチロラクトンの中に農薬有効成分を溶解させる工程であって、農薬有効成分が、以下の表:
【表3】


に列挙される農薬有効成分から選択され;及び
(ii)前記(i)の溶液を、水、又は(i)において採用された前記ガンマ-カプロラクトン又は2-アセチル-ガンマ-ブチロラクトンとは非混和性であるその他の水性溶媒と組み合わせる工程;
を含む方法。
【請求項6】
植物における有害生物を防除する方法であって、請求項1~3のいずれか1項で定義された農薬組成物を、前記有害生物又は前記有害生物の生息場所に適用することを含む、方法。
【請求項7】
植物における真菌感染を処置又は予防する方法であって、前記植物又は前記植物の生息場所に対して、ガンマ-カプロラクトン又は2-アセチル-ガンマ-ブチロラクトンの中に溶解された殺真菌性有効成分を含む組成物を適用することを含む、方法。
【請求項8】
植物の中の虫を防除するための方法であって、前記植物又は前記植物の生息場所に対して、ガンマ-カプロラクトン又は2-アセチル-ガンマ-ブチロラクトンの中に溶解された殺虫性有効成分を含む組成物を適用することを含む、方法。
【請求項9】
望ましくない植物の成長を防除するための方法であって、前記植物又は前記植物の生息場所に対して、ガンマ-カプロラクトン又は2-アセチル-ガンマ-ブチロラクトンの中に溶解された除草性有効成分を含む組成物を適用することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農薬配合物中の溶媒としての水溶性ラクトン誘導体の使用、さらには濃縮した形及び希釈した形の両方のそのような配合物自体、並びにそのような配合物を作製する方法に関する。具体的には、本発明は、6個の炭素原子を有するラクトン誘導体と、除草剤、セーフナー(safener)、殺虫剤、殺真菌剤、線虫駆除剤、軟体動物駆除剤、及び植物成長調節物質からなる群より選択される少なくとも1種の農薬有効成分とを含む、そのような配合物(より詳しくは、乳剤(emulsifiable concentrates)及び/又はエマルション若しくはマイクロエマルション)に関する。
【背景技術】
【0002】
溶媒ベースの液状配合物は、農薬産業においては一般的である。それらは、熱力学的に安定な単一相配合物であって、殺生物剤が溶媒の中に溶解されていて、それにより、製品をコンテナーから散布用タンクの中に注入することが容易に可能であり、次いでそこで水を用いて希釈する。
【0003】
水溶性溶媒に依存した濃縮配合物は、通常、分散剤(dispersion concentrates:DC)と呼ばれている。それらの配合物は、配合するのが困難となりうるが、その理由は、溶解された殺生物剤が、希釈することによって結晶化する傾向があるからである。水溶性の溶媒が、水相の方へ移行することが、この現象の原因であると一般的にされている。
【0004】
さらなる配合物のタイプにおいては、殺生物剤を溶媒及び乳化剤と組み合わせて、乳剤配合物(emulsifiable concentrate formulations:EC)を形成させる。散布用タンクの中で水を用いて希釈すると、そのようにして得られたエマルションが、タンク全体に容易に分散して、均質な濃度の殺生物剤が得られる。典型的には、そのような配合物は、水不溶性のオイルを、基本成分として含んでいる。水の中に希釈すると、オイルが液滴を形成し(それにより、水中にエマルションが形成される)、それに殺生物剤が含まれる。殺生物剤は依然としてオイルの中に留まっているので、結晶化が防止される。しかしながら、そのような水不溶性のオイルは、多くの場合、微生物有効農薬成分に対する溶解力が弱い。さらには、それらの親油性が高いために、望ましくない環境的又は安全上の影響を有する可能性があるが、その理由は、それらが、哺乳類動物、魚類、水生生物、又は益虫の体組織の中に分配される可能性があるからである。
【0005】
この欠点に対処する試みとして、EC配合物ではしばしば、多溶媒系を使用し、一つの溶媒成分には、水に貧溶性である(すなわち、高い水/オクタノール分配係数すなわちlogP octanolを有する)単一又は複数の溶媒を含み、第二の溶媒成分には、水易溶性である(すなわち、低いlogP octanolを有する)単一又は複数の溶媒を含む。そのような溶媒系の一例が、Solvesso 200 ND(logP octanol 3.7)と、アセトフェノン(logP octanol 1.58)との組合せであろう。親油性溶媒(高logP octanol、この場合では、Solvesso 200 ND)の目的は、希釈の際に水不溶性の液滴を作ることである。この低水溶性のオイルは、散布用タンクで採用される希釈のレベルでは、溶解することはない。より高い水溶性を有する溶媒(低logP octanol、この場合では、アセトフェノン)は、殺生物剤に対してより良好な溶媒として機能するが、しかしながら、希釈の際に水の中に溶解して、殺生物剤を沈降させることになり得る。したがって、溶媒を適切にブレンドした配合の設計で、バランスをとる必要がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
驚くべきことには、11%(w/w)という高い水溶解度の値を有するガンマ-カプロラクトン及び類似のラクトン誘導体が、EC配合物を形成させるのによく適合しているということが見出された。この程度の水溶性を有する溶媒は、一般的には、乳剤配合物では有用でないが、その理由は、水の中に希釈したときに、それらがオイルの液滴を作らないからである。
【0007】
しかしながら、予想に反して、本明細書において、ガンマ-カプロラクトン及びその他の類似のラクトン誘導体が、農薬有効成分のための溶媒としてそのような配合物の中で使用することが可能であり、オイルを必要としないということが実証された。そのような溶媒として、そのようなラクトン誘導体を使用することが、希釈の際に結晶化を起こさせるであろうと予測されるであろうが、そのような問題が起きず、そのために、ユーザーが、水溶性溶媒をオイルの役割として採用することが可能となるということが見出された。さらなるメリットは、有効成分の結晶化が防止されるだけではなく、溶媒が親油性ではないために、環境や水生生物などに対する問題が潜在的に小さいということである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
したがって、第一の態様においては、本発明は、農薬組成物を提供するが、ここで、組成物は、乳剤(EC)又は水中エマルション(EW)であって、(i)農薬有効成分及び(ii)6個の炭素原子を有するラクトン誘導体を含むが、ここで、農薬有効成分(i)は、ラクトン誘導体(ii)の中に溶解されている。
【0009】
第二の態様においては、本発明は、乳剤、水中エマルション、又はマイクロエマルション中の微生物活性のある農薬有効成分のための溶媒としての、6個の炭素原子を有するラクトン誘導体の使用を提供する。
【0010】
第三の態様においては、本発明はさらに、乳剤、水中エマルション、又はマイクロエマルションである農薬組成物を作製するための方法を提供するが、その方法には、以下の工程が含まれる:
(i)農薬有効成分をラクトン誘導体(ラクトン誘導体は6個の炭素原子を有している)の中に溶解させる工程;及び
(ii)(i)の溶液を、水、又は(i)で採用されたラクトン誘導体とは非混和性の他の水性溶媒と組み合わせる工程。
【0011】
本発明で使用するためのラクトン誘導体は、全部で6個の炭素原子を含む、モノマー性のラクトンである。理想的には、それらは、ラクトン環の上に置換基を担持しているであろう。それらが、水と混和性を有し(すなわち、1g/L以上の水溶解度を有し)、且つ低いlogP octanol(0.6以下)を有しているのが好ましい。したがって、ε-カプロラクトン(本明細書の中で示す)及びポリε-カプロラクトンは、本発明で使用するのに適したラクトン誘導体とは考えられない。
【0012】
さらにより好ましくは、ラクトン環が、5員環である。本発明において使用するのに特に好ましいラクトン誘導体としては以下のものが挙げられる:ガンマ-カプロラクトン(γ-カプロラクトン)、別名γ-エチル-γ-ブチロラクトン、又は5-エチルテトラヒドロフラン-2-オン(次の構造を有し、
【化1】
CAS登録番号695-06-7である)、及び2-アセチル-ガンマ-ブチロラクトン(2-アセチル-γ-ブチロラクトン)、別名2-アセチルブチロラクトン、3-アセチル-ジヒドロ-2[3H]-フラノン又は3-アセチルオキソラン-2-オン(次の構造を有し、
【化2】
CAS登録番号517-23-7である)。最も好ましくは、ラクトン誘導体はγ-カプロラクトンである。
【0013】
「農薬有効成分(agrochemical active ingredient)」という用語及び「農薬(agrochemical)」という名詞は、相互に置き換え可能に使用することができ、本明細書で使用するとき、小さな分子/化合物を指している(すなわち、生物剤(biological agent)ではない)。用語には、除草剤、セーフナー、殺虫剤、殺真菌剤、線虫駆除剤、軟体動物駆除剤、及び植物成長調節物質が包含される。本発明の目的においては、植物のための「栄養素(nutrient)」又は「肥料(fertiliser)」と考えられる化学物質は、用語には包含されない。特に好ましい実施態様においては、ラクトン誘導体の中に溶解される農薬は、以下のものからなる群より選択されるであろう:除草剤、セーフナー、殺虫剤、殺真菌剤、及び植物成長調節物質。最も好ましくは、農薬が、以下のものからなる群より選択される:除草剤、セーフナー、殺虫剤、及び殺真菌剤。
【0014】
実施例からも見ることが可能であるが、本明細書に記載のラクトン誘導体、特にγ-カプロラクトンは、広く各種の構造、水溶解度、及び作用モードを有する、種々の範囲の農薬を可溶化させることができる。したがって、本発明で使用するためのラクトン誘導体を使用して、任意の農薬、すなわち、任意の除草剤、セーフナー、殺虫剤、殺真菌剤、線虫駆除剤、軟体動物駆除剤、又は植物成長調節物質と共に、EC配合物(又はエマルション若しくはマイクロエマルション)を形成させることに使用できる。
【0015】
好適な除草剤としては、以下のものが挙げられる:ビシクロピロン、メソトリオン、ホメサフェン、トラルコキシジム、ナプロパミド、アミトラズ、プロパニル、ピリメタニル、ジクロラン、テクナゼン、トクロホスメチル、フラムプロップM、2,4-D、MCPA、メコプロップ、クロジナホップ-プロパルギル、シハロホップ-ブチル、ジクロホップメチル、ハロキシホップ、キザロホップ-P、ピノキサデン、インドル-3-イル酢酸、1-ナフチル酢酸、イソキサベン、テブタム、クロルタールジメチル、ベノミル、ベンフレセート、ジカンバ、ジクロベニル、ベナゾリン、トリアゾキシド、フルアズロン、テフルベンズロン、フェンメディファム、アセトクロール、アラクロール、メトラクロール、プレチラクロール、テニルクロール、アロキシジム、ブトロキシジム、クレトジム、シクロジム(cyclodim)、セトキシジム、テプラロキシジム、ペンジメタリン、ジノテルブ、ビフェノックス、ブタフェナシル、オキシフルオルフェン、アシフルオルフェン、フルオログリコフェン-エチル、ブロモキシニル、アイオキシニル、イマザメタベンズ-メチル、イマザピル、イマザキン、イマゼタピル、イマザピック、イマザモックス、ピリベンゾキシム、ピリフタリド、フルミオキサジン、フルミクロラック-ペンチル、ピクロラム、アモドスルフロン(amodosulfuron)、クロルスルフロン、ニコスルフロン、リムスルフロン、トリアスルフロン、トリアレート、ペブレート、プロスルホカルブ、モリネート、アトラジン、シマジン、シアナジン、アメトリン、プロメトリン、テルブティラジン、テルブトリン、スルコトリオン、イソプロツロン、リニュロン、フェニュロン、クロロトルロン、及びメトキシウロン。
【0016】
好適な殺真菌剤としては、以下のものが挙げられる:フルキサピロキサド、フルオピラム、ペンチオピラド、フラメトピル、ペンフルフェン、ビキサフェン、セダキサン、イソピラザム、3-ジフルオロメチル-1-メチル-1H-ピラゾール-4-カルボン酸メトキシ-[1-メチル-2-(2,4,6-トリクロロフェニル)-エチル]-アミド、ソラテノール(solatenol)、マンジプロパミド、アゾキシストロビン、トリフロキシストロビン、クレソキシムメチル、ファモキサドン、メトミノストロビン、ピコキシストロビン、シプロダニル(cyprodanil)、カルベンダジム、チアベンダゾール、ジメトモルフ、ビンクロゾリン、イプロジオン、ジチオカルバメート、イマザリル、プロクロラズ、フルキンコナゾール、エポキシコナゾール、フルトリアホール、アザコナゾール、ビテルタノール、ブロムコナゾール、シプロコナゾール、ジフェノコナゾール、ヘキサコナゾール、メフェントリフルコナゾール、パクロブトラゾール、プロピコナゾール、テブコナゾール、トリアジメホン、トリチチコナゾール(trtiticonazole)、フェンプロピモルフ、トリデモルフ、フェンプロピジン、マンコゼブ、メチラム、クロロタロニル、サイラム、ジラム、カプタホール、キャプタン、ホルペット、フルアジナム、フルトラニル、フルジオキソニル、シフルフェナミド、オキサチアピプロリン、カルボキシン、メタラキシル、ブピリメート、エチリモール、ジモキシストロビン、フルオキサストロビン、オリサストロビン、及びプロチオコナゾール。
【0017】
好適な殺虫剤としては、以下のものが挙げられる:チアメトキサム、イミダクロプリド、アセタミプリド、クロチアニジン、ジノテフラン、ニテンピラム、フィプロニル、アバメクチン、エマメクチン、ベンダイオカルブ、カルバリル、フェノキシカルプ、イソプロカルブ、ピリミカーブ、プロポキスル、キシリルカルブ、アシュラム、クロルプロファム、エンドスルファン、ヘプタクロル、テブフェノジド、ベンスルタップ、ジエトフェンカルブ、ピリミホスメチル、アルジカルブ、メソミル、シペルメトリン、ビオアレトリン、デルタメトリン、ラムダシハロトリン、シハロトリン、シフルトリン、フェンバレレート、イミプロトリン、ペルメトリン、及びハルフェンプロックス。
【0018】
好適な植物成長調節物質としては、以下のものが挙げられる:パクロブトラゾール、トリネキサパック-エチル、及び1-メチルシクロプロペン。
【0019】
好適なセーフナーとしては、以下のものが挙げられる:ベノキサコル、クロキントセット-メキシル、シオメトリニル(cyometrinil)、ジクロルミド、フェンクロラゾール-エチル、フェンクロリム、フルラゾール、フルクソフェニム(fluxofenim)、メフェンピルジエチル、MG-191、無水ナフタル酸、N-(2-メトキシベンゾイル)-4-[(メチルアミノカルボニル)アミノ]ベンゼン-スルホンアミド、及びオキサベトリニル。
【0020】
言うまでもないことであるが、「The Pesticide Manual」の各版(特に第14版及び第15版)にも、農薬の詳細が開示されており、その内のいずれであっても、本発明で使用するのに適し得る。
【0021】
ある種の実施態様においては、本明細書で定義されたラクトン誘導体(特にγ-カプロラクトン)の中に溶解された農薬(又は少なくとも1種の農薬)が、20℃で10g/リットル以下の水溶解度を有している。より好ましくは、前記農薬の水溶解度が、20℃で、1g/リットル以下、より好ましくはさらに500mg/リットル以下、さらにより好ましくは250mg/リットル以下、さらにより好ましくは100mg/リットル以下、さらにより好ましくは50mg/リットル以下、最も好ましくは20mg/リットル以下である。
【0022】
組成物の中に含めるのが特に好ましい農薬としては、下の表4に列記したもの、さらには表4に列記したものと構造及び/又は作用機構が類似している農薬の一つ又は複数が挙げられる。
【0023】
本明細書で定義されたようなラクトン誘導体(好ましくはγ-カプロラクトン又は2-アセチルブチロラクトン、さらには下の表4に列記された少なくとも1種の農薬を含む、乳剤(emulsion concentrate)、水中油滴型エマルション、又はマイクロエマルションは、現発明の具体的な実施態様を形成する。アゾキシストロビンのEC又はエマルションを作製しようという場合には、γ-カプロラクトンが特に有効であることに注目されたい。
【0024】
これまた実施例からも見ることが可能であるが、本明細書に記載されたラクトン誘導体と組み合わせることによって、2種以上(具体的には、2種、3種又は4種)の農薬有効成分を可溶化させることができる。本発明は、他の方法では水溶性溶媒の中に可溶化させるのが困難である農薬有効成分、又は異なった水溶解度を有していて、一つ(又は複数)の農薬では水溶性が低く、それに対して第二の(又はさらなる)農薬が、容易に水溶性であるものを、組み合わせるのに特に有用となりうる。
【0025】
本発明の組成物は、典型的には、当業界で推奨される量で、農薬を含むであろう。一般的には、農薬は、約0.001%~90%(w/v)の量で存在させるであろう。熟練者であれば、本発明の組成物が、調合済みの(ready-to-use)配合物(たとえばエマルション(EW)又はマイクロエマルション)の形態にあるか、又は最終使用者がさらに希釈するのに適した濃縮物(EC配合物)の形態にあるかであってよく、それに従って、農薬の濃度を調節するであろうということは理解するであろう。濃縮された形態の場合には、本発明の組成物には、農薬を、典型的には5~75%(w/v)、より好ましくは10~50%(w/v)の農薬を含む。本発明の調合済みの組成物には、典型的には0.0001%~1%(w/v)、より好ましくは0.001%~0.5%(w/v)、さらにより好ましくは0.001%~0.1%(w/v)の農薬を含むであろう。
【0026】
本明細書に従って得られたラクトン誘導体は、単独で使用することも、或いは他の溶媒と組み合わせて使用することもできるが、しかしながら、驚くべきことには、ラクトン誘導体そのものが、広い範囲の農薬と及び広い範囲の乳化剤と、安定なエマルションを形成することができる。
【0027】
本発明の組成物が、1種又は複数のさらなる溶媒を含む場合には、それらは、広い範囲の水への溶解度を有していてよい。たとえば香り付け、安全化、コスト低減、及び乳化性能の改良などの種々の理由から、ラクトン誘導体に加えて、水への溶解度が極めて低いオイルを添加してもよい。たとえば、水中への配合物の乳化を容易にするため、配合物中への殺生物剤又はその他の任意添加物の溶解性を改良するため、配合物の粘度を変化させるため、又は商業的利益を増すためなど、各種の理由から、水への溶解度が高い溶媒を添加することもまた可能である。
【0028】
追加の配合物成分を、本発明の組成物に組み入れてもよい。そのような追加の成分としては、たとえば、アジュバント、界面活性剤、乳化剤、増粘剤、及び消泡剤が挙げられ、これらは当業者には周知のものである。標準的な配合についての出版物には、そのような本発明で使用するのに適した配合物成分が開示されている(たとえば、Chemistry and Technology of Agrochemical Formulations,Ed.Alan Knowles,published by Kluwer Academic Publishers,The Nethrelands,in 1998;及び、Adjuvants and Additives:2006 Edition by Alan Knowles,Agrow Report DS256,published by Informa UK Ltd,December 2006)。本発明で使用するのに好適なさらなる標準的な配合物成分は、国際公開第2009/130281A1号(参照、page 46,line 5~page51,line 40)にも開示されている。
【0029】
したがって、本発明の組成物にはさらに、水性媒体(分散系)中での分散または希釈において、農薬の乳化に役立つ、1種又は複数の界面活性剤又は分散剤が含まれていてもよい。乳化系は主として、水の中に乳化させた農薬を保持することを助けるために存在している。農薬のためのエマルション系を形成させるのに適した、多くの個々の乳化剤、界面活性剤及びそれらの混合物が当業者には公知であり、極めて広い選択範囲で利用可能である。乳化剤系を形成させるために使用可能な典型的な界面活性剤としては、以下のものを含むものが挙げられる:エチレンオキシド、プロピレンオキシド又はエチレンオキシドとプロピレンオキシド;アリール若しくはアルキルアリールスルホネート、及びそれらとエチレンオキシド若しくはプロピレンオキシドのいずれか、又はそれら両方との組合せ;カルボン酸塩、及びそれらとエチレンオキシド若しくはプロピレンオキシドのいずれか、又はそれら両方との組合せ。ポリマー及びコポリマーもまた、一般的に使用される。好ましい界面活性剤は、ポリビニルアルコール、及びエチレングリコール-プロピレングリコールのブロックコポリマー、及びそれらの組合せである。
【0030】
配合物に添加することが可能なその他の任意成分としては、たとえば、着色剤、芳香剤、及びその他の、典型的な農薬配合物にメリットを与える物質が挙げられる。
【0031】
本発明の組成物は、有害生物を防除するために使用することができる。「有害生物(pest)」という用語には、本明細書で使用するとき、虫、真菌、軟体動物、線虫、及び望ましくない植物が含まれる。したがって、有害生物を防除する目的では、本発明の組成物を、有害生物に直接適用するか、又は有害生物の生息場所(locus)に適用することができる。したがって、各種の実施態様において、本発明は、植物における真菌感染を処置又は予防するための方法、植物の中の虫を防除するための方法、及び望ましくない植物の成長を防除するための方法を提供する。それぞれの場合において、その方法には、前記植物、又は前記植物の生息場所に対して、本明細書に記載のラクトン誘導体の中に溶解された殺真菌性、殺虫性、又は除草性の有効成分(必要に応じて)を含む組成物を適用することが含まれる。
【0032】
本発明の組成物はさらに、種子処理の領域でも有用であり、そのため、必要に応じて種子に適用することもできる。
【0033】
ここで、例を挙げて、本発明の各種の態様及び実施態様をさらに詳しく説明する。本発明の範囲から逸脱することなく、詳細を修正することが可能であることは、理解されるであろう。
【実施例
【0034】
実施例1 γ-ラクトンの水溶解度及びlogP octanol
1.1 水性溶解度
ガンマ-カプロラクトンの水溶解度は、HPLCクロマトグラフィーを用いて測定した。ラクトンのいくつかのサンプルを、室温で、等容積の水と平衡に達しさせた。それらのサンプルを2週間放置してから、HPLCにより分析した。繰り返し測定の結果を下の表1に示すが、ガンマ-カプロラクトンの水溶解度が、ほぼ11%(w/w)であることは一目瞭然である。
【0035】
【表1】
【0036】
1.2 γ-カプロラクトンでのLogP octanol
ガンマ-カプロラクトンのサンプルを、オクタノールで飽和させたクロマトグラフィーカラムを使用して調べた。カラム上での保持時間から、温度25℃、pH6.98でのオクタノール水分配係数(logP octanol)が、0.34であることが示された。
【0037】
実施例2 一連の有機液体中への殺真菌剤アゾキシストロビンの溶解度
アゾキシストロビンを、一連の有機液体(それらの内のいくつかは、農薬のための溶媒として公知である)の中に室温で溶解させ、平衡に達しさせた。所定量の水を加え、それぞれの混合物を振盪した。水の容積は、有機液体/溶媒の容積の20倍であった。静置した後、それらのサンプルが次のいずれであるかを評価した:(i)二層に分離し、殺生物剤の結晶化の形跡なし、又は(ii)単一層とみなされ、殺生物剤が結晶として沈降。
【0038】
24時間後及び48時間後に、サンプルの評価をした。48時間後での結果を表2に示す。溶媒に対するlogP octanol値は、文献から得たものか、又は、この値が得られなかった場合には、プログラムProPred(商標)(ICAS ProPred(商標),KT Consortium,DTU Kemiteknik,Lyngby,Denmark)を使用して概算した。それらの数値が概算されたら、メスシリンダーで50/50容積比のオクタノール/水を用いて、簡単なチェックを実施した。シリンダーに溶媒を、添加効果が明瞭に観察されるまで添加した。
【0039】
【表2】
【0040】
驚くべきことには、ガンマ-カプロラクトン又は2-アセチル-ガンマ-ブチロラクトン中でのアゾキシストロビンの溶液は、二相混合物となったが、殺生物剤は溶媒中に溶解して留まっており、この溶液は水溶性ではなかった。
【0041】
アゾキシストロビンとガンマ-カプロラクトンとのサンプルを、水でさらに100倍に希釈しても、それらの二層は依然として混和しないという結果となった。
【0042】
実施例3 類似の水溶解度及びlogP octanolを有する複数の有機液体の殺生物剤溶解性の比較
2種の溶媒、Dowanol(商標)TPM(トリプロピレングリコールメチルエーテル、The Dow Chemical Company)及びヘキシレングリコールは、それらのlogP octanol値の点でγ-カプロラクトンに類似しており、また、20℃で水と完全に混和性である。この実施例においては、数種の微生物有効農薬成分(マンジプロパミド、フルジオキソニル、ピノキサデン、及びジフェノコナゾール)を、これら3種の溶媒のそれぞれの中に溶解させて、5%(w/w)溶液を得た。次いで、それぞれの溶液を水中に希釈して、20:1混合物を形成させた。観察結果を下の表3に示す。
【0043】
【表3】
【0044】
驚くようなことではないが、溶媒としてDowanol(商標)TPM及びヘキシレングリコールを採用した配合物は、それぞれの農薬有効成分の結晶化を起こした。ガンマ-カプロラクトンだけは、それぞれの農薬有効成分を溶液中に保持することが可能であり、二層系を示した。
【0045】
実施例4 γ-カプロラクトン中への農薬類の溶解度
下の表4に列記したそれぞれの農薬有効成分の少量を、溶媒としてのガンマ-カプロラクトンに添加し、溶解させた。次いで、界面活性剤のSoprophor(商標)3D33(トリスチリルフェノールエトキシレートのリン酸エステル、SOLVAY)を添加して5%(w/w)とした。得られたサンプルを水に希釈すると、すべてのものが、容易に乳化するのが認められた。
【0046】
【表4】
【0047】
実施例5 溶媒としてγ-カプロラクトンを使用した、農薬EC配合物の調製
この実施例においては、アゾキシストロビンのEC配合物を、下の表5に記載した組成を用いて調製した。それらの成分を共に混合して、透明な溶液を形成させた。そのECは、室温で2週間安定であることを示した。
【0048】
水中への希釈でのエマルション特性を調べた。その配合物は、水中で容易に乳化し、1:100の希釈レベルで24時間、良好なエマルション安定性を示した。
【0049】
【表5】
【0050】
実施例6 溶媒としてγ-カプロラクトンを使用した、ECとしての2種の農薬混合物の配合物
この実施例においては、2種の殺真菌性有効成分、アゾキシストロビン及びソラテノールを、ガンマ-カプロラクトン及び第二の溶媒のジメチルラクトアミドと組み合わせることによって、2種の殺真菌剤のEC配合物を調製した。それらの成分を共に混合すると、透明な溶液が形成された。少量の界面活性剤のSoprophor(商標)4D384(トリスチリルフェノールエトキシレートスルフェート、SOLVAY)を、その溶液に添加し、水の中に希釈して、そのエマルション特性を調べた。1/100の希釈では、そのエマルションは、24時間安定であった。
【0051】
実施例7 溶媒としてγ-カプロラクトンを使用した、ECとしての4種の農薬の配合物
この実施例においては、複合ECを形成させたが、それには、3種の除草剤と除草剤セーフナーとが含まれていた。下の表6に記載の成分を共に混合して、ECを形成させた。得られたECは、水中に容易に希釈され、乳白色のエマルションが形成された。
【0052】
24時間静置した後では、(無視できるほど)少量のエマルションからの沈降物が存在したが、それ以外では、安定であることが観察された。
【0053】
【表6】

本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕農薬組成物であって、前記組成物が、乳剤(EC)又は水中エマルション(EW)であり、
(i)農薬有効成分;及び
(ii)6個の炭素原子を有するラクトン誘導体;
を含み、
前記(i)の農薬有効成分が、前記(ii)のラクトン誘導体の中に溶解されている、農薬組成物。
〔2〕界面活性剤をさらに含む、前記〔1〕に記載の農薬組成物。
〔3〕前記ラクトン誘導体が、5員のラクトン環を含む、前記〔1〕又は前記〔2〕に記載の農薬組成物。
〔4〕前記ラクトン誘導体が、ガンマ-カプロラクトン又は2-アセチル-ガンマ-ブチロラクトンである、前記〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の農薬組成物。
〔5〕前記農薬有効成分が、除草剤、セーフナー、殺虫剤、殺真菌剤、線虫駆除剤、軟体動物駆除剤、又は植物成長調節物質である、前記〔1〕~前記〔4〕のいずれか1項に記載の農薬組成物。
〔6〕前記農薬有効成分が、除草剤、セーフナー、殺虫剤、又は殺真菌剤である、前記〔1〕~前記〔5〕のいずれか1項に記載の農薬組成物。
〔7〕前記農薬有効成分が、20℃で、10g/L未満の水溶解度を有する、前記〔1〕~前記〔6〕のいずれか1項に記載の農薬組成物。
〔8〕乳剤、水中エマルション、又はマイクロエマルション中における、微生物活性のある農薬有効成分のための溶媒としての、6個の炭素原子を有するラクトン誘導体の使用。
〔9〕前記ラクトン誘導体が、5員のラクトン環を含み、全部で6個の炭素原子を有する、前記〔8〕に記載の使用。
〔10〕前記ラクトン誘導体が、ガンマ-カプロラクトン又は2-アセチル-ガンマ-ブチロラクトンである、前記〔8〕又は前記〔9〕に記載の使用。
〔11〕乳剤、水中エマルション、又はマイクロエマルションである農薬組成物を作製するための方法であって、
(i)農薬有効成分をラクトン誘導体(前記ラクトン誘導体は6個の炭素原子を有している)の中に溶解させる工程;及び
(ii)前記(i)の溶液を、水、又は(i)で採用された前記ラクトン誘導体とは非混和性である他の水性溶媒と組み合わせる工程;
を含む方法。
〔12〕有害生物を防除する方法であって、前記〔1〕~〔7〕のいずれか1項で定義された農薬組成物を、前記有害生物又は前記有害生物の生息場所に適用することを含む、方法。
〔13〕植物における真菌感染を処置又は予防するための方法であって、前記植物又は前記植物の生息場所に対して、6個の炭素原子を有するラクトン誘導体の中に溶解された殺真菌性有効成分を含む組成物を適用することを含む、方法。
〔14〕植物の中の虫を防除するための方法であって、前記植物又は前記植物の生息場所に対して、6個の炭素原子を有するラクトン誘導体の中に溶解された殺虫性有効成分を含む組成物を適用することを含む、方法。
〔15〕望ましくない植物の成長を防除するための方法であって、前記植物又は前記植物の生息場所に対して、6個の炭素原子を有するラクトン誘導体の中に溶解された除草性有効成分を含む組成物を適用することを含む、方法。