(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-29
(45)【発行日】2022-08-08
(54)【発明の名称】圧密止血セルロース系凝集体
(51)【国際特許分類】
A61L 31/04 20060101AFI20220801BHJP
D01D 5/42 20060101ALN20220801BHJP
【FI】
A61L31/04 120
D01D5/42
(21)【出願番号】P 2020152878
(22)【出願日】2020-09-11
(62)【分割の表示】P 2018542991の分割
【原出願日】2016-10-28
【審査請求日】2020-09-11
(32)【優先日】2015-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2016-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2016-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512080321
【氏名又は名称】エシコン・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Ethicon, Inc.
【住所又は居所原語表記】P.O. Box 151, U.S. Route 22, Somerville, NJ 08876, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】ワン・イ-ラン
【審査官】一宮 里枝
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-503368(JP,A)
【文献】特開2005-015484(JP,A)
【文献】特表2015-517388(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00-33/18
A61K 31/00-33/44
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
止血粒子状凝集体であって、
凝集体形態で、少なくとも0.5の球形度、500マイクロメートル未満かつ50マイクロメートル超であるその最長軸に沿った寸法を有する、複数の相互連結された個々のセルロース系フィブリルを含み、
振動負荷にさらされた後に、
20kPa(0.2バール)においてQICPIC光センサによって測定されるサイズ分布のピーク値が変化しない
ものであり、
前記振動負荷は、1mm/gの振幅で90分間振動させ、続いて3mm/gで90分間振動させるふるい振盪機上に2gの前記止血粒子状凝集体を含有するバイアルを配置することから構成される、止血粒子状凝集体。
【請求項2】
止血粒子状凝集体であって、
凝集体形態で、少なくとも0.6の球形度、500マイクロメートル未満かつ50マイクロメートル超であるその最長軸に沿った寸法を有する、複数の相互連結された個々のセルロース系フィブリルを含み、
振動負荷にさらされた後に、
20kPa(0.2バール)においてQICPIC光センサによって測定されるサイズ分布のピーク値が変化しない
ものであり、
前記振動負荷は、1mm/gの振幅で90分間振動させ、続いて3mm/gで90分間振動させるふるい振盪機上に2gの前記止血粒子状凝集体を含有するバイアルを配置することから構成される、止血粒子状凝集体。
【請求項3】
前記止血粒子状凝集体が、80マイクロメートル超のd15、140~250マイクロメートルのd50、370マイクロメートル未満のd90、0.45g/mL超の嵩密度、及び0.7以上の球形度(sh50)を有するサイズ分布プロファイルを有する、請求項1に記載の止血粒子状凝集体。
【請求項4】
前記振動負荷にさらされた後に、
前記サイズ分布
の変化を有さない、請求項1に記載の止血粒子状凝集体。
【請求項5】
d50によって測定された前記止血粒子状凝集体のサイズ分布プロファイルが、100マイクロメートルを下回らない、請求項4に記載の止血粒子状凝集体。
【請求項6】
前記止血粒子状凝集体が、100kPa(1.0バール)の真空での処理にかけられた後に、サイズ分布変化がd50で5%以下であることによって機械的安定性が特徴付けられる、請求項1に記載の止血粒子状凝集体。
【請求項7】
止血粒子状凝集体であって、
凝集体形態で、少なくとも0.5の球形度、500マイクロメートル未満かつ50マイクロメートル超であるその最長軸に沿った寸法を有する、複数の相互連結された個々のセルロース系フィブリルを含み、
前記止血粒子状凝集体が、100kPa(1.0バール)の真空での処理にかけられた後に、サイズ分布変化がd50で5%以下であることによって機械的安定性が特徴付けられる、止血粒子状凝集体。
【請求項8】
前記止血粒子状凝集体が、100kPa(1.0バール)の真空での処理にかけられた後に、サイズ分布変化を有さない、請求項
7に記載の止血粒子状凝集体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動性の生体吸収性止血材、特にセルロース繊維の圧密凝集体、及びそのような材料の製造方法を目的とする。
【背景技術】
【0002】
多種多様な状況において、ヒトを含む動物は、創傷が原因で、あるいは外科的処置の間に、出血に見舞われることがある。状況によっては、出血は比較的軽いものであり、通常の血液凝固作用が、簡単な応急処置の実施に加われば、それだけで十分である。他の状況では、相当な出血が起こることがある。これらの局面では通常、専門的な設備及び物資、並びに適切な救助を施すように訓練された人員が必要となる。
【0003】
外科的処置中の出血は、多くの形態で顕在化し得る。それは、広い表面積から離散又は拡散し得る。それは、高容量若しくは低容量の大小の血管、動脈(高圧)又は静脈(低圧)からのものであり得る。それは容易にアクセス可能であり得るか、又はアクセスが難しい部位に由来する場合もある。
【0004】
止血を達成するための従来の方法には、外科的技術、縫合糸、結紮糸又はクリップ、及びエネルギーに基づく凝固若しくは焼灼の使用が挙げられる。これらの従来の対策が非効果的又は非実用的なとき、補助的止血技術及び製品が典型的には利用される。
【0005】
出血を制御するための適切な方法又は製品の選択は、出血の重症度、出血源の解剖学的場所並びに隣接する重要な構造の近接性、出血が離散した出血源からのものであるか、若しくはより広い表面積からのものであるか、出血源の視認性並びに正確な識別、及び供給源へのアクセスが挙げられるが、これらに限定されない多くの因子に依存する。
【0006】
上述の問題に対処する取り組みにおいて、過剰な出血を制御するための物質が開発されてきた。局所用吸収性止血材(TAH)は、外科用途で広く使用されている。TAHは、酸化セルロース(OC)、酸化再生セルロース(ORC)、ゼラチン、コラーゲン、キチン、キトサンなどに基づく製品を包含する。止血性能を改善するために、上述物質に基づくスキャフォールドは、トロンビン及びフィブリノゲンなどの生物学的に誘導された凝固因子と組み合わせることができる。
【0007】
多くの製品が止血の補助剤として開発されている。これらの製品には、酸化再生セルロース、トロンビン溶液を含むか又は含まない様々な形態のゼラチン、及びコラーゲン粉体などの局所用吸収性止血剤(TAH)、並びに生物学的に活性な局所用止血製品(局所用トロンビン溶液、フィブリン封止剤など)及び様々な合成局所用封止剤が挙げられる。
【0008】
最も一般的に使用される局所用止血薬のうちの1つは、酸化再生セルロース(ORC)から作製された、SURGICEL(登録商標)Original吸収性止血剤である。ORCは、1960年に多くの外科的処置のための安全かつ有効な止血薬として導入された。ORC布材は、そのマトリックス構造に緩い編物を有し、その隣接する周囲に迅速にぴったりと一致し、外科用器具に粘着せず、そのサイズを容易に調節できるので、他の吸収剤よりも管理が容易である。これによって、外科医が、全ての出血が止まるまで、セルロースを適所にしっかりと保持することができる。
【0009】
出血の制御は、失血を最小限に抑え、術後合併症を低減させ、かつ手術室での手術の時間を短くするために、外科的処置において必須かつ重要である。その生分解性及びその殺菌性、並びに止血特性により、酸化セルロース並びに酸化再生セルロースは、神経外科、腹部手術、心臓血管手術、胸部外科、頭部及び頸部手術、骨盤手術、並びに皮膚及び皮下組織処置などの様々な外科処置において局所性止血用創傷包帯として長い間使用されてきた。粉体、織布、不織布、編物、及び他の形態で作られるか否かにかかわらず、酸化セルロース材料に基づいた様々な種類の止血剤を形成するための多数の方法が知られている。現在利用される止血用創傷包帯には、セルロース繊維の均一性を増加した酸化セルロースである酸化再生セルロース(ORC)を含む編み布地又は不織布が含まれる。
【0010】
SURGICEL(登録商標)吸収性止血剤は、結紮又は他の従来の制御方法が非実用的若しくは非効果的である場合、毛細血管、静脈、及び小動脈の出血の制御を補助するために、外科的処置において補助的に使用される。吸収性止血剤のSURGICEL(登録商標)ファミリーは、Ethicon,Inc.(Somerville,N.J.)、Johnson & Johnson Companyから市販されている全ての止血用創傷包帯を有する、4つの主な製品グループからなる。
【0011】
SURGICEL(登録商標)Original止血剤は、淡黄色のギプス包帯とほのかなカラメルのような香りの白い布材であり、この材料は強く、ほつれることなく縫合又は切断することができ、
SURGICEL(登録商標)NU-KNIT(登録商標)吸収性止血剤は、Originalと類似しているが、高密度な編物を有し、これにより引張り強度が高く、この材料は、出血を制御するために適所に包まれたり縫合されたりすることができるため、外傷及び移植手術での使用に特に推奨されており、
製品のSURGICEL(登録商標)FIBRILLAR(商標)吸収性止血剤の形態は、外科医が特定の出血部位で止血を得るために必要な材料の任意の量を鉗子で剥離及び把持することを可能にする層状構造を有し、到達しにくいか、又は不規則な形状の出血部位のための編物形態よりも便利な場合があり、特に、整形外科/脊椎及び神経外科手術での使用に推奨されており、
製品のSURGICEL(登録商標)SNoW(商標)吸収性止血剤の形態は、構造化不織布であり、かつ高度に適応できるために、内視鏡用の他の形態よりも便利であり得る構造化不織布であり、切開及び低侵襲的処置の両方において推奨されている。
【0012】
酸化セルロースを含有する市販の吸収性止血剤の他の例には、Gelita Medical BV(Amsterdam,The Netherlands)によるGelitaCel(登録商標)吸収性セルロース包帯が挙げられる。上述の市販の酸化セルロース止血剤は、編物、不織布、又は粉体形態で入手可能である。微多孔性多糖類粒子及び植物性デンプン系粒子からなる粉体などの追加の止血用製品も、Arista及びPerclotとして市販されている。
【0013】
米国特許第8,815,832号は、約1~約18の平均アスペクト比を有する粒子を含むボールミルで圧密されたORC粉体を含む止血材を開示しており、粉体は、少なくとも0.45g/cm3のタップ密度、36マイクロメートルのメジアン径を有する1.75マイクロメートル~116マイクロメートルの平均サイズ、及び少なくとも7.5cm/秒の流動性を有する。
【0014】
Ashton and Moserの米国特許第3,364,200号は、綿撒糸の統合酸化セルロースステープルファイバの形態の吸収性外科用止血剤を説明している。
【0015】
Hueyの米国特許出願公開第2008/0027365号は、出血部位上に配置するためにシートに形成される圧縮圧密性の成形可能な塊の形態の酸化セルロースを利用し、リムを受容するように寸法決定された管状シェルの形態のスリーブを更に有する、止血を促進するための装置を説明している。
【0016】
Looneyらの米国特許出願公開第2004/0005350号は、カルボキシル-酸化セルロースから作製された繊維性布地基材を利用し、布地を通して均一に分配され、生体適合性、水溶性、又は水膨潤性セルロースポリマーから作製された多孔性の高分子マトリックスを含有する止血用創傷包帯を開示しており、布地は、約3重量パーセント以上の水溶性オリゴ糖を含有する。
【0017】
Herzbergらによるものであり、「COMPOSITIONS AND METHODS FOR PREVENTING OR REDUCING POSTOPERATIVE ILEUS AND GASTRIC STASIS」と題されたPCT特許公開第WO 2007/076415号には、電動ミルの切刃を使用した、ORCの粉砕、特に低温粉砕が開示されている。
【0018】
Howsmon and Marchessaultによる「The Ball-Milling of Cellulose Fibers and Recrystallization Effects」と題された記事(Journal of Applied Polymer Science,Volume 1 Issue 3,Pages 313~322,(1959))には、セルロースをボール粉砕した結果として得られる微細構造が非結晶化過程に及ぼす影響の調査結果が報告されている。非結晶化の速度は、微細構造の種類に敏感であり、水分の存在によって加速される。分子鎖の崩壊の程度は、二酸化炭素中よりも空気雰囲気中でより強くなり、機械的に誘発される遊離基の分離が他の分子鎖切断過程と共に生じることが示唆される。種々の回数の粉砕後における試料の密度及び水分率を調べたところ、回復率と密度との直線関係が、試験した全範囲にわたって保たれることが示された。この関係は、天然のセルロースと再生セルロースに関して同じであった。ボール粉砕された試料の再結晶の過程は様々な条件下で調べられており、加水分解的に誘発したレーヨンの再結晶と比較されている。この文献は、セルロース繊維のボール粉砕の結果として得られる微細構造が非結晶化過程に及ぼす影響について開示している。
【0019】
米国特許第6,627,749号には、乳棒及び乳鉢を使用して、又はボールミル若しくは任意の他の通常の実験用粉砕機において、酸化再生セルロースを粉砕するプロセスが開示されている。更には、コットンリンターシートが開始セルロース源として使用されるとき、製品の繊維長が反応時間の増加に伴って減少することが開示されている。ボール粉砕されると、製品の長い繊維構造はより短い繊維へと変化して、緩く充填された球状塊となる。これらの試料の結晶化度における著しい変化が、ボール粉砕の結果として生じることはない。これらの文献には、短い繊維又は緩く充填した球状塊を形成するようにボール粉砕された、長い繊維の酸化セルロースが開示されている。
【0020】
他の関連する参考文献には、「Freeze-dried composite materials and processes for the production thereof」という米国特許第6,309,454号、同第5,696,191号、同第6,627,749号;Kyokoらの米国特許第6,225,461号;国際公開第2001/024841 A1号、Compositions for the Treatment of Wound Contracture、及びDae Sikらの欧州特許公開第EP1,323,436号が挙げられる。
【0021】
他の関連する参考文献には、文献表題「The role of oxidized regenerated cellulose/collagen in chronic wound repair and its potential mechanism of action」,The International Journal of Biochemistry & Cell Biology 34(2002)1544~1556,Breda Cullenら;粉砕プロセスを通してのシルクパウダーの作製方法を教示する、Rangamらによる文献[Powder Technology 185(2008)、p 87~95];Yasnitskiiらによる文献、「Oxycelodex、a new hemostatic preparation」,Pharmaceutical Chemistry Journal,18,506~508であって2つの成分、酸化セルロース粉体と、20%のデキストラン水溶液と、からなるオキシセロデックスペーストを開示するものが含まれる。
【0022】
Looneyらへの米国特許公開第2006/0233869号には、剪断又は細断プロセスを用いてORCミクロ繊維をORC織物から作製することについて開示されている。棒状の形状をなす繊維が、約35~4350マイクロメートルに及ぶ大きさを有していた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
塗布のし易さ及び止血の迅速な開始を容易にする、改善された止血形態及び材料が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は、セルロース繊維の圧密止血凝集体を含む、止血材を目的とする。いくつかの態様において、止血材は、カルボキシメチルセルロース(CMC)若しくは他の多糖類、カルシウム塩、抗感染症薬、止血促進薬、ゼラチン、コラーゲン、又はこれらの組み合わせなどの添加剤を更に含む。別の態様において、本発明は、セルロース系材料を止血凝集体に圧密することによって上述した止血材を作製する方法を目的とする。別の実施形態において、本発明は、上述の止血材を患者の創傷の上及び/又は中に塗布することによって創傷を治療する方法に関する。
【0025】
本発明はまた、複数の止血凝集体を作製する方法を目的とし、本方法は、セルロース原料物質を粉砕して、中間微細繊維を形成することと、中間微細繊維を加湿することと、中間微細繊維をローラー圧密して、止血凝集体を形成することと、止血凝集体をふるい分けすることと、止血凝集体を除湿することと、任意に、得られた止血凝集体を保管容器又は送達デバイスに注入することと、を含む。粉砕工程に先行して、セルロース原料物質を細長く切って切断して、断片を形成する工程を行うことができる。粉砕工程は、二部分のプロセスであり、第2の部分は空気分級機で実施され、第2の部分は3回繰り返すことができる。中間微細繊維は、好ましくは、約100マイクロメートル未満のd50及び約180マイクロメートル未満のd90を有するサイズ分布を有する。中間微細繊維は、11.0重量%~20重量%の含水量まで加湿することができる。中間微細繊維は、ローラー圧密された材料とすることができ、次いで、事前破砕にかけられ、その後、最終粉砕の工程にかけられる。中間微細繊維は、好ましくは少なくとも13,000kPa(130バール)のローラー圧で圧密される。中間微細繊維は、好ましくは少なくとも26.0kN/cmのローラー力で圧密される。得られた材料は、スクリーンふるい分け法によって、75~300μmのその最長軸に沿った寸法を有する目的とする止血凝集体分画を生成するように選択される。好ましくは、目的とする止血凝集体分画は、d15が約80マイクロメートル超であり、d50が約140~250マイクロメートルであり、d90が約370マイクロメートル未満となるサイズ分布によって特徴付けられる。投与のために意図された止血凝集体は、好ましくは、乾燥時の減量による、約5%未満、より好ましくは2%未満の含水量を有する。原料物質は、酸化再生セルロース系織物、酸化再生セルロース系不織布、細断酸化再生セルロース系材料、又はこれらの組み合わせから選択され得る。原料物質は、カルボキシメチルセルロース、カルシウム塩、抗感染症薬、止血促進薬、ゼラチン、コラーゲン、又はこれらの組み合わせからなる群から選択される添加剤を更に含むことができる。本発明は、上述のとおりに調製された止血凝集体を患者の創傷の上及び/又は中に塗布することによって創傷を治療する方法に更に関する。
【0026】
本発明は、凝集体形態で、少なくとも0.5の球形度、約500マイクロメートル未満かつ約50マイクロメートル超であるその最長軸に沿った直径を有する複数の相互連結された個々のセルロース系フィブリルから構成される止血粒子状凝集体に更に関する。止血凝集体は、代替的に、約80マイクロメートル超のd15、約140~250マイクロメートルのd50、約370マイクロメートル未満のd90、0.45g/mL超の嵩密度、及び0.70以上の球形度(sh50)を有するサイズ分布プロファイルを有するものとして表すことができる。止血凝集体は、好ましくは、振動負荷にさらされるとき、サイズ分布変化を実質的に有さないか、又は最小限のサイズ分布変化を有することによって特徴付けられ、より好ましくは、d50によって測定された止血凝集体のサイズ分布プロファイルは、100マイクロメートルを下回らない。一実施形態において、サイズ分布変化は、20kPa(0.2バール)においてQICPIC光センサによって特徴付けられる。また更なる実施形態において、サイズ分布変化又は最小限のサイズ分布変化は、100kPa(1.0バール)真空での処理に基づく。
【0027】
本発明は、粉砕され、加湿され、ローラー圧密され、かつ乾燥されたセルロース系材料である、止血凝集体に更に関する。本発明は、上述の止血凝集体を患者の創傷の上及び/又は中に塗布することによって創傷を治療する方法に更に関する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明者らは、止血のための驚くべき特性及び非常に有益な効果を有する止血凝集体を作製するためのプロセスを発見した。本発明による止血凝集体は、酸化セルロース系繊維材料から、又は予め細断された酸化セルロース系材料から作製され、これによって得られる止血凝集体は、抗接着バリア、止血剤、組織封止剤などの様々な外科的及び創傷治癒局所適用に使用することができる。本発明の止血凝集体を作製するための出発物質として使用することができる酸化再生セルロース材料は既知であり、市販されている。それらの出発物質には、酸化多糖類、特に酸化セルロース及びそれらの中和誘導体を含んだ吸収性の織布若しくは編物又は不織布材料が挙げられ得る。例えば、セルロースは、カルボキシル-酸化又はアルデヒド-酸化セルロースであってよい。より好ましくは、限定するものではないが、酸化再生セルロースを含めた酸化再生多糖類が使用され得る。酸化再生セルロースは、再生されていないセルロースに対して均等度がより高度であるため好ましい。再生セルロース、及び酸化再生セルロースを作製する方法の詳細な説明が、米国特許第3,364,200号、同第5,180,398号、及び同第4,626,253号に記載されており、これらの特許の各々の内容は、その全ての内容が記載されたものとして、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0030】
利用することができる好ましいセルロース材料の例には、INTERCEED(登録商標)吸収性接着バリア、SURGICEL(登録商標)Original吸収性止血剤、SURGICEL(登録商標)NU-KNIT(登録商標)吸収性止血剤、SURGICEL(登録商標)FIBRILLAR(商標)吸収性止血剤、SURGICEL(登録商標)SNoW(商標)吸収性止血剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
本発明の止血凝集体は、ペースト又は粉体のいずれの形態においても、優れた止血特性と良好な組織適合性及び流動性で、止血剤として働くことができる。加えて、止血凝集体は、他の薬剤及びバイオポリマーと物理的に混和されて、組織への接着性、封止特性、及び/又は抗接着性を改善することができる。
【0032】
本発明の一態様において、有益な止血、創傷治癒、及び他の治療特性を有する止血凝集体の作製方法が提供される。本発明の好ましい方法は、上述されているものなどのORC布材又は不織布製品などのセルロース系材料から直接止血凝集体を製造するために適用される。
【0033】
簡単に言うと、好ましい製造プロセスは、布材をより小さい断片に切断する刃に材料が供給される前に、2.5~5センチメートル(1~2インチ)の幅の切片に切断されるような、SURGICEL(登録商標)Original吸収性止血剤などのORC材料で開始する。次いで、切断されたORC布材片は、2回の連続した粉砕プロセス(ハンマー粉砕及び空気分級粉砕)によって、中間ORC微細繊維にすりつぶされる。代替実施形態において、切断されたORC布材片は、ボールミル内で中間微細繊維に直接変換される。次いで、得られた中間ORC微細繊維は、Ohausハロゲン湿度計で測定して約11%~約16%に加湿され、その後、より大きな凝集体にローラー圧密される。湿度分析計は、熱重量分析原理に基づいて動作し、湿度分析計が試料の重量を決定し、次いで、試料が一体型のハロゲン乾燥機ユニットによって迅速に加熱され、水分が蒸発する。乾燥動作中、器具は試料の重量を連続的に決定し、その結果を表示する。乾燥が完了すると、集計された結果は、含水率パーセント、固形分パーセント、重量又は回復パーセントとして表示され、特に、分析計は、0.5~1グラムの凝集体を、4分間のランプ、90℃の最高温度、及び以下の設定で試験する:試験ID-LOD;プロファイル-標準;乾燥時間-90C;スイッチオフ-A60;結果-水分%;カスタム-オフ;目標重量-なし。ふるい分けは、好ましくは、スクリーンふるい分けによって決定される75~300マイクロメートルのサイズで目標粒子を分離するために行われる。
【0034】
圧密の目的のために導入された過剰な水分は、アプリケータデバイスへのその後の注入のための圧密及びふるい分け工程の後の除湿又は乾燥プロセスによって除去され、次いでデバイスのパッケージング及び滅菌にかけられる。アプリケータへの注入前の好ましい貯蔵水分は、アプリケータへの注入のための制御された環境(相対湿度、通常は25~55%の相対湿度に応じて500gの試料当たり0.3~0.6%/時の水分増加量である)において好ましくは6%未満の含水率を達成するために、乾燥終了時に好ましくは約2%未満である。
【0035】
より具体的には、本発明の止血凝集体を製造するための1つのプロセスは、a)セルロース原料物質を細長く切って切断する工程と、b)工程a)から得られた材料を粉砕する工程と、c)空気分級機内での第2の粉砕工程と、d)加湿の工程と、e)ローラー圧密の工程と、f)ふるい分けの工程と、g)除湿又は乾燥する工程と、h)任意に、保管容器に又は送達デバイスに注入し、一次パッケージング及び二次パッケージングを行う工程と、i)任意の滅菌工程と、を含む。
【0036】
細長く切って切断することは、好ましくは、およそ2.5センチメートル×8センチメートル(約1インチ×3インチ)又は5センチメートル×8センチメートル(2インチ×3インチ)の間の適切なサイズの断片に細長く切って切断するために実施することができるが、より小さい断片も使用することができる。細長く切って切断するために実施される主な動作は、布材のロールを巻き戻して、布材をストリップに細長く切って、ストリップを切断してサイズ決めし、切断片を第1の粉砕工程に供給することである。AZCOから入手可能なAZCOモデルFTW-1000などの多くの切断及び細断機(slitting machine)が既知であり、市販されている。
【0037】
第1の粉砕工程では、処理されたセルロース系布材は、材料の色指数及び水溶性含量に与える影響を最小限に抑えながら、細長く切って切断する工程で生成された中間粗繊維から452μm未満のD90値及び218μm未満のD50値を有する材料に変換される。ハンマーミル型粉砕機であり、497マイクロメートルの丸いスクリーンと、中間粗セルロース繊維を製造するために布材がスクリーンを通過するまで布材を破砕する1組のブレードと、を備える、Fitzpatrickによって製造されたモデルDASO6及びWJ-RS-D6Aなどの、粉砕用の多数の機械が市販されている。例示的な処理運転において、ミル速度は、約7000RPM;80℃未満での処理温度;1534~9004のスクリーンサイズ;8個(それぞれ2個のインペラ)などのブレードの数;225ナイフなどのブレード型、衝撃型ブレード;「衝撃」として設定されたブレードの向き、とすることができる。
【0038】
サイズ分布D50は、凝集体サイズ分布のメジアン径又は中間値としても知られており、累積分布における50%における凝集体の直径の値である。例えば、D50が218μmであるならば、そのときは、試料中の凝集体の50%は218μmより大きく、50%は218μmより小さい。サイズ分布とは、対象の試料中の全サイズの総数の百分率として与えられた様々なサイズ範囲のそれぞれに入る凝集体の数である。したがって、D90値は、D90値より小さいサイズを有する凝集体の90%を指し、一方、D10は、D10値より小さいサイズを有する凝集体の10%を指す。
【0039】
好ましいプロセスのこの段階では、第1の粉砕工程で生成された中間粗繊維のサイズは、材料の色指数及び水溶性含量への影響を最小限に抑えながら、177μm未満のD90値及び95μm未満のD50値に更に低減される。Quadroからの空気分級機/F10 Quadro Fine Grindなどの、多くの機械が、第2の粉砕工程に使用可能である。
【0040】
第1の粉砕工程からの中間粗繊維は、制御された速度で第2のミルに送り込まれ、粉砕スクリーンによって分離された2つの粉砕チャンバを通過することができる。材料は、送風機によって粉砕チャンバから引き出すことができる。中間粗繊維は、所望のサイズを得るために、空気分級装置を3回通して処理することができる。第2の粉砕工程の終わりに、中間微細繊維を採集することができる。
【0041】
例示的な処理運転では、Quadro空気分級機F10を、8400rpmの粉砕速度、1800rpmの送風機速度、0.0018インチの丸穴スクリーン、及び3回の通過で、第2の粉砕工程で使用することができる。ORC中間微細繊維はまた、上述のような2工程粉砕工程の代わりに、ボール粉砕によって1つの工程で製造することができる。代替的なボール粉砕の実施形態では、50gの予め切断されたORC布材(5cm×5cm((2インチ×2インチ))を、500mLの粉砕ジャーにボール及び試料を配置することによって、12個の高密度ジルコニア(直径20mmの二酸化ジルコニウムZrO2(Glen Mills Inc.(Clifton,N.J.,USA))でボール(粉砕する。このジャーはラッチブラケットの中へ圧締めされ、次いで遊星ボールミルPM100(Retsch,Inc.(Newtown,Pa.,USA))上で均衡化され得る。次いで、粉砕を450rpmにて20分間、双方向で行う。
【0042】
粉砕プロセス後に、得られたセルロース中間微細繊維は、好ましくは約11%~約18%、より好ましくは11%~約16%、最も好ましくは約12~16%の含水率まで、ローラー圧密プロセスを含む後続の処理のために加湿される。加湿工程に適した好ましい湿度チャンバは、Thermal Product SolutionsによってモデルCEO-916-4-B-WF4-QSとして市販されている。チャンバ空気の加湿は、水蒸気注入によって達成される。典型的な25℃の定常状態温度を利用することができ、一方、湿度レベルは、75%~85%で循環させることができ、好ましい目標は85%の空気湿度である。湿度チャンバ内の材料の加湿時間又は滞留時間は、材料及び空気再循環の量に応じて、数時間から数日の範囲とすることができる。典型的かつ好ましい循環において、材料は、数個のトレイに配置され、85%の相対湿度及び加湿後の粉体の12%の含水率の目標にさらされた約3,000グラムのセルロース中間微細繊維に対して、12~13時間の滞留時間を有するであろう。
【0043】
圧密工程に送り込まれた、20重量%の含水率などの、16重量%を超える含水率を有するセルロース中間微細繊維の使用は、得られたORC中間微細繊維が圧密時に固化し、流動性が非常に乏しく、圧密機を詰まらせた。したがって、中間微細繊維の高湿度は、好適な止血凝集体材料をもたらさない。反対に、中間微細セルロース繊維の含水率が約8%未満であるとき、止血凝集体の収率は極めて低く、所望の止血凝集体の収率は大体約5%である。
【0044】
次いで、加湿された中間微細ORC繊維を圧密し、ふるい分けして止血凝集体材料を得る。ローラー圧密機は、供給物を圧密し、供給物は、次いで、事前破砕、最終粉砕、及びスクリーナ内でのふるい分けにかけられ、所望の止血凝集体のサイズを得る。
【0045】
圧密装置は既知であり、市販されている。例示的な圧密ユニットは、レッチェ(Retsch)の手動ふるいAS200スクリーナを備えたFitzpatrickのChilsonator IRR220-L1A、及びM5A下に一体化されたスクリーナSweco Vibro-energyユニットを備えたFitzpatrickのChilsonator CCS220/M3B & RV-M5Aである。圧密処理は、共通の電気システムによって結合されている2つの別個のサブシステムを用いて実施することができる。例えば、第1のサブシステム(ローラー圧密機:メインユニット)は、FitzpatrickのChilsonator CCS220ローラー圧密機と、圧密された材料を事前破砕するためのM3Bミルであり、一方、第2のサブシステム(ローラー圧密機:二次粉砕ユニット)は、所望のサイズの凝集体を得るために分離するためのSweco又はレッチェのスクリーナによる最終粉砕のためのM5Aミルである。
【0046】
加湿された中間微細繊維は、ローラー圧密機ユニットのホッパに送り込まれ、最初にメイン粉砕ユニットを通過し、次いで、第2の粉砕ユニットを通って進むことができる。メイン粉砕ユニットから得られる事前破砕されたセルロース材料を捕捉する容器を提供することができる。次いで、事前破砕されたセルロース材料断片を二次粉砕ユニットに送り込むことができ、二次粉砕ユニットは、スクリーンメッシュを利用した最終粉砕及びスクリーニングを実施する。得られた粉砕セルロース材料は、好ましくは、上述のSweco又はレッチェのスクリーナなどのスクリーンメッシュを使用して、微細(<75μm)、目標(75~300μm)、及び超過(>300μm)に分離される。
【0047】
表3を参照すると、試験は、第2の粉砕工程からの中間微細セルロース繊維について、d(50)及び/又はd(90)によって測定されるようなより小さいサイズを使用することにより、圧密機配列から得られる凝集体生成物が1に近づく球形値を有する結果をもたらすことを示した。より高い繊維の含水率(オーハウス(Ohaus)のMB45湿度分析計によって測定された、16% LOD中間微細繊維)は、0.76の測定された球形度を有する、結果として生じる凝集体をもたらした。対照的に、中間微細繊維の含水率がおよそ11% LODのとき、得られた凝集体は0.72の球形度を有した。中間ORC繊維の水分含有率が高くなるほど、ORC圧密凝集体の球形度が高くなる。
【0048】
ローラー圧密及びふるい分けプロセスについての好ましいプロセスパラメータは以下のとおりである:13,000kPa(130バール)の目標で、約12,500~13,500kPa(125~135バール)のローラー圧であり;約3RPMのローラー速度であり;ローラーはダイアモンドナールであり;出発原料のサイズは、約95マイクロメートル未満のd50及び177マイクロメートル未満のd90であり;出発水分含有率は、約11%超であるが、約16%未満であり;約26.0kN/cmのロール力値であり;約19rpmの水平送りスクリュー速度、約265rpmの垂直送りスクリュー速度であり;ふるい分け分離される目標止血凝集体(370マイクロメートル未満のd90、140~242マイクロメートルのd50、及び86マイクロメートルを超えるd15)である。好ましいローラー圧は、ローラー圧密機で典型的に使用されるレベルよりも高く、振動負荷試験後に実証されるような凝集体耐久性を有する材料を製造した。
【0049】
セルロース中間微細繊維のバッチを異なるローラー圧密システムで試験した。試験したシステムのうちで、Fitzpatrick CCS20/M3B及びIRR220-L1Aモデルのみが、許容される止血凝集体を製造した。いかなる特定の理論にも拘束されるものではないが、これらの好ましいユニットは、十分なローラーの力(26kN/cm)において、圧密ロールへの供給材料の垂直配向で動作することができると考えられる。
【0050】
水分は、除湿又は乾燥工程において、ローラー圧密及びふるい分け後に得られる止血凝集体から除去される。除湿又は乾燥工程は、好ましくは、色、嵩密度、水溶性含量、サイズ、及び球形度などのいかなる他の製品品質属性にも著しく影響を及ぼすことはない。典型的には、従来の空気流動床を用いて、750グラム以下の粉体を1バッチとして乾燥させることができる。得られた乾燥粉体は、密封ホイルパウチ内に包装及び保管することができる。除湿装置は既知であり、市販されている。例示的なベンチトップ型空気流動床は、6L容量を有して、レッチェ(TG-200)から市販されている。あるいは、Fluid Air(Aurora,IL)からの流動床モデル番号0002も使用することができる。
【実施例】
【0051】
実施例1.製造及び特性化
止血凝集体を、SURGICEL(登録商標)Original布材を用いて、第1の粉砕工程、中間微細ORC繊維を得るための空気分級機を介する第2の粉砕工程、中間微細ORC繊維の加湿、ローラー圧密、顆粒化、ふるい分け、及び除湿を含むORC原料物質を細長く切って切断する工程を通して、上記のようにORC材料から作製した。
【0052】
止血凝集体材料は、圧密プロセスによって互いに圧密及び連結された微細なORC繊維の複数の個々のフィブリルを含む。好ましい態様では、止血凝集体材料は、微細なORC繊維の少なくとも5本の細長い個々のフィブリル、より好ましくは微細なORC繊維の少なくとも10本の細長い個々のフィブリル、又は10~50本などの微細なORC繊維の5~100本の細長い個々のフィブリルを含む。
【0053】
得られる材料は、粒子ではなく、凝集体である。コア領域又は画定された細孔も存在しない。むしろ、フィブリル又は繊維は、それぞれが離散点で相互連結された、フィブリル構造を失うことなく相互に絡み合ったウェブを形成するように見える。上述のプロセスは、連結部を有するのに十分な嵩並びに血漿よりも大きな密度を提供するための繊維、及び沈み込み、その後カルボン酸基の凝固作用を最大化するように容易に分散するための強度を備えたフィブリル相互連結構造を有する凝集体を生成する。
【0054】
本発明の止血凝集体は、約500マイクロメートル未満の全体のサイズ(それらの最大寸法によって決定される)を有するが、概して約50マイクロメートルより大きい。そのような寸法を有する止血凝集体材料は、最終止血材を構成する粒子の大部分、すなわち全粒子の80%超又は90%超などの50%超を構成すべきである。好ましい本発明の止血凝集体材料は、QICPIC FERET_MIN_Q3法により測定される[d15>86マイクロメートル]、[d50は140~242マイクロメートル]、[d90<370マイクロメートル]であるようなサイズ分布によって特徴付けられる。QICPICは、Sympatec GMBH(Germany)から入手可能な高速画像解析センサである。
【0055】
嵩密度とは、タップされていない粉体試料の質量と、粒子間の空隙容量の寄与を含めたその粉体試料の体積との比である。嵩密度測定を、USP 616(2012)に従うことによって実施した。本発明の止血凝集体材料は、好ましくは、0.3~0.7の範囲内の、好ましくは0.5g/mlなどの0.45g/mL超の嵩密度(g/mL)を有する。
【0056】
メジアン粒子(D50)の球形度(sh50)は、Sympatec社のQICPIC法によって、0.70などの0.5以上であり、ここで、1は球に相応し、止血凝集体が比較的球形であることを示している。球形度を以下に示すように定義し、測定した。止血凝集体の球形度は、凝集体の投影面積と同じ面積を有する円の直径に関連する。球形度Sは、等価な円の周長P、PEQPCの実周囲長Prealに対する比である。A=粒子の面積、の場合、球形度は以下の式で定義される。
【0057】
【0058】
得られる球形度は0~1の値を有する。値が小さければ小さいほど、粒子の形状がより不規則になる。これは、不規則な形状が周囲長の増加を引き起こすという事実に起因する。これは所与の投影面積を有する最小の可能な周囲長であるため、比率は、常に相当円の周囲長に基づく。1の値は完全な球に相応する。
【0059】
いくつかのサイズの止血凝集体材料を展開し、以下の表1に示すように、試験して、異なる粒径を有する中間微細ORC繊維と比較した。
【0060】
【0061】
圧密力があまりに低い場合、例えば、約10kN/cmを下回る場合、得られる材料は、圧密システムに関連する造粒機(後圧密又は二次粉砕)において微細な繊維としてその元の状態に戻るであろう。圧密力が高すぎると、製品は「超過押圧」されるであろう。変色して極端に熱い、又はひどいひび割れなどの、超過押圧は、材料がローラー圧密プロセスから出てくるときに観察された。上で定義したプロセスパラメータを使用して、22rpmより高い垂直スクリュー速度を使用したとき、圧密されたリボンは燃焼の徴候を示し、それによってセルロース材料に熱的損傷を与えた。
【0062】
上述のように、止血凝集体は、2つのカウンタ回転ロールの間に、加圧下でORC微細粉体粒子に力をかけてリボン状の「圧密体」を生成し、次いで圧密体が凝集体に粉砕され、凝集体はスクリーンふるいにかけられて、106μm~300μmの所望の止血凝集体を得るためにふるい分けされる。
【0063】
再び、いかなる特定の理論に束縛されることを意図するものではないが、粒子を一緒に保持することができる結合機構は、(1)ファンデルワース力-圧密中に、これらのファンデルワールス力が全ての材料を互いに結合させて固体の圧密凝集体を形成するように、ORC材料を圧搾する、及び(2)ある特定レベルの水分が存在するとき、全ての物質を同様に連結するための分子間水素結合である。
【0064】
(実施例2)
上で説明した製造技術を使用して、止血凝集体試料を、加湿工程の有無で、他の全ての処理工程は同じで状態で調製した。両方の標本を、20kPa(0.2バール)の真空処理を用いてSympatecのQICPIC装置を使用してサイズ分布測定にかけて、サイズ分布曲線を得た(
図1)。曲線1は、ローラー圧密前にORC中間微細繊維に加湿工程を適用して作製された標本のサイズ分布を示す一方、曲線2はORC中間微細繊維に適用された加湿がなく作製された標本のサイズ分布を示す。
【0065】
その後、標本1及び2の両方を振動試験にさらした。試験は、1mm/gの振幅で90分間振動させ、続いて3mm/gで90分間振動させたふるい振盪機(Retsch AS200)上に2gの止血凝集体粉体を含有するバイアルを配置することから構成された。振動負荷後に、標本を再びSympatecのQICPICによって同じサイズ分布測定にかけた。この結果も
図2に示す。
【0066】
図2の曲線1aは、加湿工程で作製され、振動試験にさらされた標本のサイズ分布を示す。
図2の曲線2aは、加湿工程なしで作製され、同じ振動試験にさらされた標本のサイズ分布を示す。ローラー圧密の前に加湿にさらされていないORC中間微細繊維で作製された対照試料2は、d50が137マイクロメートルから50マイクロメートルまで変化する状態で、その減少したサイズが止血凝集体のより小さなサブユニットへの破砕を示唆している、サイズ分布における著しい変化を呈したことを確認することができた。対照的に、標本1は、曲線1と1aとが非常に類似しているため、目立った変化は見られない。曲線1及び1aに示されるサイズ分布を有する止血凝集体標本を作製するために使用された加湿したORC中間微細繊維の含水率は、11~16%の範囲内であった。曲線2及び2aに示される止血凝集体標本を作製するために使用されたORC中間微細繊維の含水率は、2.0%であった。振動負荷の結果としての特性の顕著な変化は望ましくなく、以下に示すように、治療有効性に悪影響をもたらし得る。振動負荷は、止血凝集体が使用時にさらされ得る注入、貯蔵、及び移送の負荷を示し、したがって、特性における著しい変化は、止血有効性に及ぼす有害な影響をもたらし得る。有利には、本発明の一態様によれば、20kPa(0.2バール)でSympatecのQICPIC光学センサによって測定されるように、止血凝集体は振動負荷にさらされた後に、サイズ分布の変化を実質的に有さないか、又は最小限のサイズ分布の変化を有する。
【0067】
(実施例3)
試験をサイズ分布測定についての上記の方法論を用いて実施した。上記のように、加湿工程の有無で、全ての他の処理工程が同じ状態で調製した止血凝集体試料を、同じQICPIC装置であるが、2つの圧力設定-20kPa(0.2バール)の真空の低圧、及び100kPa(1バール)の真空の高圧を用いて測定した。各標本を、20kPa及び100kPa(0.2バール及び1.0バール)の真空処理を用いて、QICPIC装置を使用することによって、サイズ分布測定にかけて、比較のためにサイズ分布曲線を得た。
図3は、ローラー圧密の前にORC中間微細繊維に適用された加湿工程を用いて作製された止血凝集体標本についての20kPa(0.2バール)で測定されたサイズ分布に相応する曲線1を示している。曲線1aは、同じ止血凝集体標本について100kPa(1.0バール)で測定されたサイズ分布を示している。このデータは、100kPa(1.0バール)の真空における高処理圧が、ローラー圧密の前にORC中間微細繊維に適用された加湿工程を用いて作製された止血凝集体標本についてのサイズ分布と実質的に同じサイズ分布又は最小限の変化をもたらすことを示唆している。d50は、190から199マイクロメートルに変化したに過ぎない。
【0068】
図4は、加湿工程なしに製造された標本について実施された同じ試験を示している。
図4は、ローラー圧密の前にORC中間微細繊維に適用された加湿工程なしに作製された止血凝集体標本についての20kPa(0.2バール)で測定されたサイズ分布に相応する曲線1を示している。曲線1aは、同じ止血凝集体標本について100kPa(1.0バール)で測定されたサイズ分布を示している。このデータは、100kPa(1.0バール)の真空における高処理圧が、ローラー圧密の前にORC中間微細繊維に適用される加湿工程なしに作製された止血凝集体標本についてのサイズ分布において実質的な変化をもたらすことを示している。d50は、147から84マイクロメートルに実質的に変化しており、
図4に示される止血凝集体のサイズは、圧力が増加すると、大幅に減少することを示唆している。
【0069】
高圧処置負荷は、ガス支援送達を含む様々な送達デバイスを介しての止血凝集体送達に関連し得る。有利には、本発明の一態様によれば、止血凝集体は、100kPa(1.0バール)の真空における処理にかけられるとき、サイズ分布における実質的な変化を有さない。重要なことには、過度の機械的攪拌又は衝突力は、止血凝集体のサイズ分布に有害な影響を及ぼし、したがって、止血有効性に影響を及ぼし得る。SympatecのQICPIC実験で発生した衝突力は、止血凝集体の圧力に対する感度の指標であり、相対的安定性を定量的に判定するために使用することができる。
【0070】
実施例4.止血特性
本発明の別の態様において、本止血凝集体は、インビトロで試験されるとき、優れた止血又は血液凝固特性を有することが示されている。上で説明した製造技術を使用して、止血凝集体試料を、加湿工程の有無で、他の全ての処理工程は同じ状態で調製した。一部の標本をまた、上記のような振動負荷にさらした。
【0071】
新鮮なブタの血液を、3.2%の緩衝クエン酸ナトリウム溶液を含む数本の4.5mLの試験管(BDバキュティナ)中に配置し、生理食塩水溶液(0.9%のNaCl USP)を用いて2.5/1(体積/体積)の比で希釈した。次いで、この血液溶液1mLを7mLのガラスバイアル内に配置し、続いて100mgの各止血凝集体試料を適用し、2分間放置した後に評価した。次いで、バイアルを上下逆さにして、いかなる非凝固血もバイアルから採集容器に移るようにした。次いで、各バイアル中に残留する残渣及び凝固血を重量で評価した。各試料を3通りに試験した。結果を表2に示す。
【0072】
【0073】
データの分析は、ローラー圧密の前にORC中間微細繊維に加湿工程を適用して作製された止血凝集体標本が、振動負荷にさらされた後であっても、優れたインビトロでの血液凝固を呈したことを示唆している。これとは対照的に、加湿工程なしに作製された止血凝集体標本はインビトロでの優れた血液凝固を呈したが、振動負荷にさらされた後の同じ標本は、不良なインビトロでの凝固を呈した。本発明の一態様によれば、止血凝集体の機械的安定性は、持続した止血特性をもたらす。
【0074】
(実施例5)
表3を参照すると、表3は、異なるバッチで得られた止血凝集体のパラメータを示しており、パラメータは3つの試験の平均値として報告されている。プロセスパラメータは、異なる供給材料(中間微細繊維)で同様であった。血液凝固を、上記の方法を用いて測定した。止血凝集体の嵩密度及びサイズ分布を、上記の方法を用いて測定した。
【0075】
表3で分かるように、約0.6以上の球形度(sh50)の値を有する止血凝集体について良好な凝固が達成される。最適の凝固、すなわち、血液の80%を超えるものがバイアル中に残存することは、少なくとも約0.7のその球形度(sh50)及び0.5(g/ml)を上回る嵩密度の値を有する止血凝集体について達成された。ただし、供給材料のサイズが小さくなるほど、これらの特性を有する止血凝集体をもたらす。データの分析は、ローラー圧密の前にORC中間微細繊維に加湿工程を適用して作製され、0.5を上回る嵩密度を有する止血凝集体標本が、優れたインビトロでの血液凝固を呈したことを示唆している。データの分析は、ローラー圧密の前にORC中間微細繊維に加湿工程を適用して作製され、0.7を上回る球形度(sh50)を有する止血凝集体標本が、優れたインビトロでの血液凝固を呈したことを更に示唆している。
【0076】
表3のデータに基づいて、本発明の止血凝集体は、0.6を上回る、好ましくは0.65を上回る、より好ましくは0.7を上回る、最も好ましくは0.75を上回る平均球形度を有する。
【0077】
【0078】
注記:ラインGの材料については、中間微細繊維を、ボールミルプロセスを用いて作製した。布材を中間ORC微細繊維に変換するためのボール粉砕法は、下記のように説明される。ボールと試料を500mLの粉砕ジャーの中に置くことによって、事前に切断した50gのORC布材(5cm×5cm(2インチ×2インチ))を12の高密度ジルコニア(直径20mm)(Glen Mills Inc.(Clifton,N.J.,USA))でボール粉砕した。このジャーはラッチブラケットの中へ圧締めされ、次いで遊星ボールミルPM100(Retsch,Inc.(Newtown,Pa.,USA))上で均衡化した。次いで、粉砕を450rpmにて20分間、双方向で行った。
【0079】
線形回帰及びプロットを、得られた止血凝集体の球形度に対する原料の中間微細繊維について、d(50)に関して[R2が0.950である場合、y=-301.03x+301.92]、及びd(90)に関して[R2が0.9887である場合、y=-680.11x-659.02]生成することができる。約65マイクロメートルのd(50)及び約120マイクロメートルのd(90)を有する中間微細粉体を用いるなど、より微細な中間微細繊維は、止血凝集体のより高い球形度をもたらすが、止血凝集体の球形度は約0.8である。同じ相関が表3で見られる。
【0080】
表3に示すように、中間微細粉体のd(50)及びd(90)が96以上である場合(すなわち、d(50)について96~約130であり、d(90)について200~約270である場合)、得られる血液凝固は70%~30%であり、球形度は0.56~0.67であった。中間微細粉体のd(50)及びd(90)が96未満である場合(すなわち、d(50)について35であり、かつ200を下回る(すなわち、d(90)について122)である場合)、得られる血液凝固は80%を上回り、球形度は0.7を上回った。滑らかな輪郭の止血凝集体、特に1に近似する球形度を有するものは、アプリケータ又は噴霧器内で十分に流動するが、ギザギザした止血凝集体はアプリケータ内で十分に流動しない。
【0081】
ここで
図5を参照すると、止血凝集体の止血試験の結果が、他の止血材と比較して示されている。ブタのパンチ生検の肝臓欠損モデルを使用した。試験材料は、止血凝集体(チャート上のバーAで表示);精製植物デンプンから誘導された植物ベースの吸収性微多孔性多糖類止血粉体(バーBで表示);及び吸収性多糖類からなる親水性接着性止血ポリマーを形成する植物デンプン粉体(チャート上のバーCで表示)であった。
【0082】
試験方法:直径6mm×深さ3mmの欠損を、生検用パンチを用いて作成した。製品を適用する前に、この部位を数秒間出血させた。欠損試験部位を、止血が10分以内に達成され、かつ閉塞圧なしに1分間維持した場合に、止血(合格)として採点し、非止血部位を「不合格」と採点した。止血までの時間(TTH)を、合格部位で測定した。
図5から分かるように、止血凝集体は、材料Bよりも89%速いTTHを生じ、及び材料Cよりも93%速いTTHを生じて、どちらの場合もp値<0.001で、比較材料よりも有意に短いTTHを生じた。チャート上のバーDは、陰性対照、すなわち、止血薬が適用されていないところの出血に相応する。
【0083】
(実施例6)
粒径分布を、ORC凝集体及び微細繊維について得た。典型的な凝集体材料は、111、178、及び307マイクロメートルの体積重み付き最小フェレー径D(15)、D(50)、及びD(90)値を有した。この粉体はまた、球形度、Sh(50)=0.76を有した。典型的なORC微細繊維は、30、72、及び128マイクロメートルの長さ重み付き繊維長さD(10)、D(50)、及びD(90)値を有した。
【0084】
粒径及び形状を、SympatecのQICPIC画像解析装置(Sympatec GMBH,Clausthal-Zellerfield,Germany)を用いて取得した。これは10×10μm2の画素サイズを有する、1024×1024画素のカメラ分解能を有した。その測定範囲は、5~1705μmである。VIBRI/L振動性フィーダーを用いて、個体粒子をRODOS/L分散剤中に導入した。次いで、分散粒子の画像を、450fpsのカメラフレームレートを有するQICPICにおいて取得した。フェレー最小Q3法を用いて、凝集体の粒径を算出する一方、SympatecのLFFI Q1アルゴリズムを用いて、繊維の繊維長を決定した。
【0085】
メジアン径凝集体の球形度[Sh(50)]を、等式S=(PEOPC)/(Preal)=2(πA)1/2/(Preal)で示した、相当円の外周P(PEOPC)の実際の外周(Preal)に対する比を用いる、SympatecのQICPIC法によって決定し、式中、A=粒子の面積である。相当投影円の面積は、実際の粒子の投影面積と同じ面積を有する。
【0086】
表面積及び表面湿潤性
材料の更なる特性化を、各止血材の表面積及び湿潤性を測定して実施した。湿潤性は、表面極性の相対的尺度を提供し、したがって、全血との材料の親水性又は疎水性挙動の範囲である。表面積の分析を、逆ガスクロマトグラフィー(Surface Measurement Systems Model IGC-SEA(Alperton,UK))で実施した。およそ750mgの各試料を、個々のシラン化ガラスカラム(長さ300mm×内径4mm)中に充填した。各カラムを、37℃及び0%の相対湿度において、ヘリウムガスで60分間調整した。全ての実験を、排除容積補正にメタンを用いて、10mL/分のヘリウムの総流量で、37℃において実行した。吸着等温式のクロマトグラフを用いる、HPLCグレードのデカン(Sigma-Aldrich(St Louis,MO,USA))による吸着等温に基づいて、ブルナウアー(Brunauer)、エメット(Emmett)、及びテラー(Teller)(BET)モデルを表面積決定に使用した。
【0087】
ORC凝集体[Sh(50)=0.76]、ORC凝集体[Sh(50)=0.51]、ORC微細繊維、及びデンプン系球体についてのブルナウアー、エメット、及びテラー(BET)表面積を、表4に示す。0.51及び0.76の球形度値を有するORC凝集体は、それぞれ0.67m2/g及び0.40m2/gの表面積を有した。ORC凝集体及び微細繊維は、酸化再生セルロースの同じファミリーに属するが、ORC凝集体は、より低い表面積/質量比を有した。より低い球形度値を有するORC凝集体が、より高い球形度値を有する凝集体と比べて、これらが同様な粒径分布を有する場合も、より大きな表面積を有することも判明した。ORC粉体に対比して、デンプン系球体は、4つの材料のうちで最も大きな表面積を有した。
【0088】
【0089】
表4の分析は、高球形度値を有するORC凝集体が、低い球形度のORC微細繊維及びORC凝集体と対比して非常に小さな表面積を有したことを示唆している。高球形度を有するORC凝集体は、低球形度のORC凝集体と対比して1.5倍小さな表面積を有し、ORC微細繊維と対比してほぼ3倍小さな表面積を有した。
【0090】
試験材料の湿潤性又は親水性を、酸塩基の表面エネルギーを総表面エネルギーで割ること(γAB/γT)によって決定した。表面エネルギープロファイルを、脱着の比自由エネルギーが分極によって決定される、分布図作製技術によって決定した。分散表面エネルギー成分(γD)を、非極性HPLCグレードのプローブ:デカン、ノナン、オクタン、及びヘプタン(Sigma-Aldrich(St Louis,MO,USA))を使用して、Dorris及びGrayの方法によって測定した。酸塩基の表面エネルギー成分(γs
AB)を、酸塩基の成分がルイス酸パラメータ(γs
-)及びルイス塩基パラメータ(γs
+)の幾何平均として取られる、Good-van Oss-Chaudhury(GvOC)モデルを用いて決定した。総表面エネルギー(γT)は、分散表面エネルギーと酸塩基の表面エネルギーとの和である(γT=γD+γs
AB)。γblood
AB値は、利用不可であるために、上記等式は、37℃における血液についての表面張力値(γblood
T)=52.6mJ/m2を用いて、総表面エネルギー値のみからの接着性及び凝集性の作用を算出するために簡略化された。表面湿潤性の結果を表5に提示する。
【0091】
【0092】
表5の分析は、高球形度値を有するORC凝集体が、低い球形度のORC微細繊維及びORC凝集体と対比して非常に低い浸潤性を有したことを示唆している。高球形度を有するORC凝集体は、低球形度のORC凝集体と対比してほぼ2倍低い湿潤性を有し、ORC微細繊維と対比してほぼ3倍低い湿潤性を有した。
【0093】
密度
材料の「真密度」を、ガス比重計によって得た。結果を表6に示す。試験されたORC材料及びデンプン球体の密度は、全てが1.0g/cm3の水の密度よりも高いが、血液との相互作用が異なったことを観察した。高球形度の凝集体のみが、血液表面を即時に貫通、迅速な凝固を開始した。より低い球形度の凝集体並びに微細ORC繊維は、以下に述べるように、優先的に又は部分的に、血液の表面上に留まった。実際には、全ての試験したORC凝集体及び微細繊維は近い真密度を有するが、高球形度のORC凝集体が、血液表面の即時の貫通を呈した。
【0094】
【0095】
同様な密度にもかかわらず、ORC材料は、血液との相互作用の驚くほど異なるパターンを呈した。ORC微細繊維は、主として、ほとんど貫通することなく、血液の表面上に浮遊した。ORCの低球形度凝集体は、幾分の貫通を呈したが、高球形度の凝集体ほど深くはなかった。
【0096】
血液中へ貫通する能力は、ORC材料の表面積に直接関連すると考えられる。より高い表面積は、より小さい貫通性をもたらす。より低い表面積を有する材料は、血液中により急速に沈み込む。湿潤性は、これらの3種の材料の別の際だった特徴である。ORC微細繊維及び低球形度凝集体は、高い球形度凝集体よりもわずかに高い湿潤性値を有する。これらは、より親水性である。高い表面積及び湿潤性値を有する粉体は、低い表面積及び湿潤性値を有するものよりも迅速に血液と相互作用するであろう。ORCと血液とのゲル化の速度は比較的速いために、より高い表面積及び湿潤性を有する粉体は、血液中に貫通することができず、表面付近にそのまま留まるであろう。他方では、低浸潤性を有するより低い表面積の粉体は、より多くの量の血液と相互作用することができ、良好な凝固をもたらすであろう。
【0097】
デンプン系球体は、全ての材料のうちで最も高い表面積を有するが、それらの血液中への貫通度は、最小であった。
【0098】
実施例7.インビトロでの凝固更なる止血評価
新鮮なブタ血液を、3.2%の緩衝クエン酸ナトリウム溶液を含む4.5mLのバキュティナチューブ(Becton,Dickinson and Company(Franklin Lakes,NJ,USA))内に採集した。次いで、希釈血液の1mLのアリコートを、7mLのバイアルに移し、その後、それぞれの試験物品100mgを塗布した。凝固を、室温で2分間続けさせた。バイアルにキャップを嵌めて、上下逆さまにひっくり返し、タップ密度分析器(Quantachrome Autotap EC148;Quantachrome Instruments(Boynton Beach,FL,USA))上に配置して、機械的に5回タップした。2分後に、キャップを取り外し、未凝固材料を重力によって排出させて、各バイアル中に残留する残渣を、重量で算出した。各試料について6通り実施した。
【0099】
2種の球形度値[Sh(50)=0.51及びSh(50)=0.76]で調製したORC凝集体、それから凝集体が誘導されたORC微細繊維、及びデンプン系球体から構成された市販の止血剤の止血活性を検討した。この検討は、ORC試験材料の全体的な球形度が凝固にどのように影響を及ぼすのか、及びこれらの実験的な製品が承認された吸収性止血剤にどのように匹敵するかを決定することから開始した。
【0100】
各止血剤100mgを添加する前に、及び添加後最長2分まで試料を評価した。各パネルにおいて、1番チューブは未処置の対照であって、2番チューブはデンプン系球体で処置され、3番チューブはORC微細繊維で処置され、4番チューブは、低球形度ORC凝集体[Sh(50)=0.51]で処置され、5番チューブは高球形度ORC凝集体[Sh(50)=0.76]で処置された。
【0101】
数秒のうちに、試験材料の活性における目に見える差があることを観察した。高球形度を有する[Sh(50)=0.76]ORC凝集体は、血液の表面を即時に貫通して、凝固を開始した。より低い球形度[Sh(50)=0.51]を有するORC凝集体は貫通したが、より浅い範囲までであり、ORC微細繊維(本質的に非球面状)は、液状の血液表面上のいくらか表層に留まった。デンプン系球体は、血液表面の頂部に留まり、液状部に貫通しなかった。このことは、高程度の球形度が、ORC凝集体の血液貫通特性に寄与することを示唆した。しかしながら、デンプン系球体が最も貫通性が小さく、試験された中で最も球状の材料[Sh(50)=0.93]であったために、球形度それ自体は、貫通に影響を及ぼす唯一の因子ではなかった。
【0102】
2分の時点で、試験材料の凝固活性において目に見える差が存在した。高球形度のORC凝集体で処置されたバイアル中の血液全てが、ORC血塊に特有である濃い赤味がかかった黒色から明らかであるように、完全に凝固された。低球形度のORC凝集体及びORC微細繊維で処置された血液は、入り込みがより少なく見え、デンプン系球体で処置された血液は、未処置の対照血液とほぼ同様に見えた。バイアルを逆さにすると、高球形度のORC凝集体が、頑強な接着性血塊を生成するように見えた。未処置血液を含んだ対照チューブには凝集はなかった。高球形度のORC凝集体は、バイアルに接着する完全に入り込んだ血塊を生じた。低球形度ORC凝集体は、接着性が少ない血塊を生じ、ORC微細繊維は、中程度の血塊を生じた。デンプン系球体で処置されたチューブには、血塊はほとんど存在しなかった。
【0103】
凝固有効性を、逆さにした前後のバイアル中の血液の質量を比較することによって定量化した。バイアルを逆さにして、タップ密度分析器を用いて、機械的に5回タップし、2分間放置し、未凝固の血液試料を単にバイアルの底部から滴り落し、各バイアル中の残留する残渣を重量で算出し、各試料を6通りで試験した。この試験の結果を
図6に示す。高球形度及び低球形度のORC凝集体についての凝固有効性は、それぞれ95%及び38%であった。ORC微細繊維及びデンプン系球体についての凝固有効性は、それぞれ26%及び19%であった。未処置血液は、その重量のわずか4%を血塊として保持したに過ぎない。エラーバーは、±標準偏差である。高球形度のORC凝集体は、最大の凝固有効性を有した。
【0104】
実施例8.インビトロでの凝固凝集体の球形度の凝集有効性に及ぼす効果
いくつかの異なる球形度値を有する凝集体を生成し、比較した。類似する粒径分布を有する凝集体を比較することによって、より球状の凝集体がより小さい表面積を有し、かつ最も高い凝固有効性を有した。インビトロ凝集アッセイを、0.51~0.79の範囲の球形度値を有するORC凝集体のバッチで実施した。結果を
図7に提示するが、
図7は、より球状の凝集体が余り球状形態ではないものよりも大きな凝固有効性を有したことを示唆している。0.79の球形度において、凝固有効性は、ほぼ96%であったのに対し、0.51の球形度においては、有効性は33%未満であった。エラーバーは、±標準偏差である。0.65を超える、より好ましくは0.70を超える、最も好ましくは0.75を超える球形度が、高凝固有効性には好ましい。
【0105】
実施例9.インビボでの止血
貯蔵条件及び加速劣化の止血性能に及ぼす効果をブタの肝臓のパンチ生検モデルにおいて評価する長期安定性試験を行った。より大規模な試験の範囲内で、ORC凝集体の球形度[Sh(50)=0.56又はSh(50)=0.76]が止血有効性に及ぼす効果を比較することが可能であった。
【0106】
この試験は、54~57kgの体重の5匹のメスのヨークシャークロスブタを用いた。生検パンチ欠損を、外科用テープでおよそ3mmの深さ止めにマークして、6mmの生検パンチ装置を用いて作成した。生検パンチを用いて、肝臓の実質面を、穏やかなねじり運動を使用して、組織に垂直な角度で切開した。必要とされる3mmの深さまで組織が切開されると、パンチを取り外した。パンチ部位の中心にある組織を、鉗子及び外科用ハサミを用いて除去し、割り当てられた処置を適用した。
【0107】
試験生検パンチを作成した後に、これをガーゼで吸い取り、適切な試験物品をこの部位に塗布した。乾燥非接着性創傷包帯(例えば、Telfa(商標)非接着性包帯)を試験材料の上部に適用し、続いて、指圧して、適切かつ均一なタンポナーデが部位に適用されることを確実にした。
【0108】
圧力を、最初は30秒間保持し、その後非接着性包帯を取り外して、止血を30秒間評価した。初期評価期間中に出血が生じた場合、非接着性創傷包帯を用いて圧力を即時に更に30秒間再度加え、続いて止血を更に30秒間評価し、製品の適用後、最長で合計2分間まで評価した。出血が30秒間の観察時間内に生じなかった場合、止血までの時間を、最後に適用されたタンポナーデが解除されたときの時間として記録した。2分以内に止血を達成したいかなる部位も、次いで10mLの食塩水で洗浄し、持続性のある(維持された)止血を、更に30秒の観察時間にわたって観察した。洗浄後に出血が生じた場合、持続性のある止血は「不合格」として記録し、外科医は、試験期間を続行するために、出血を制御するために救済措置を使用した。止血が洗浄後の30秒の観察期間中に維持された場合、持続性のある止血を「合格」として記録した。試験期間中に、タンポナーデ及び観察時間が2分より長く続いた場合、すなわち、止血が達成できなかった場合、部位への試みを中止し、止血までの時間を生データに2分超として記録した。これは、陰性対照部位でのみで起こった。この手順を、指示された各試験物品で繰り返した。物品が首尾よく塗布されて、止血に失敗した場合、再塗布を施すことはなかった。陰性対照部位は未処置であった。
【0109】
球形度に関するインビボでの止血有効性における差は、インビトロでの凝集結果と並行して観察可能であった。ORC凝集体[Sh(50)=0.56、n=16;Sh(50)=0.76、n=12]で処置された全ての部位は、30秒の止血までの時間の中央値を有し、部位の100%が、2分以内に完全に止血された。しかしながら、低球形度のORC凝集体で処置された部位の38%は、遅延出血を有し、試料が試験され、成功裏に止血されたものと分類された後に起こった相当量の出血を制御するために、別のORC材料(ORCスノー)の救済処置の適用を必要とした。
【0110】
これらの観察は、より大きな球形度を有する凝集体がより有効な止血薬であることを示唆しているインビトロのデータを確認した。
【0111】
本発明の更なる態様において、本止血凝集体は、止血特性、創傷治癒特性、及び取扱い適性を更に改善するように、ゼラチン、コラーゲン、セルロース、キトサン、多糖類、デンプン、CMC、カルシウム塩などの止血添加剤、トロンビン、フィブリノゲン、及びフィブリンで例示される生物由来の止血薬、限定するものではないがプロコアグラント酵素、タンパク質、及びペプチドを含む更なる生物学的止血薬を含め、当業者に既知の添加剤を利用して、様々な添加剤と組み合わされ得るが、そのような各薬剤は、天然のものであっても、組換え型であっても、合成のものであってもよく、また、フィブロネクチン、ヘパリナーゼ、第X/Xa因子、第VII/VIIa因子、第IX/IXa因子、第XI/XIa因子、第XII/XIIa因子、組織因子、バトロキソビン、アンクロッド、エカリン、フォンビルブランド因子、アルブミン、血小板表面糖タンパク質、バソプレシン及びバソプレシン誘導体、エピネフリン、セレクチン、プロコアギュラント毒(procoagulant venom)、プラスミノーゲン活性化因子阻害因子、血小板活性化薬、止血活性を有する合成ペプチド、上記の誘導体、並びにこれらの任意の組み合わせからなる群から更に選択されてもよい。ボール粉砕されたORC粒子と組み合わせて使用され得る好ましい生物学的止血薬は、トロンビン、フィブリノゲン及びフィブリン;グルコン酸クロルヘキシジン(CHG)、トリクロサン、銀、及び当該技術分野において既知である類似の抗菌/微生物剤などの抗感染剤;並びに止血剤の粘着性を増加させる添加剤;希釈剤、生理食塩水、及び当該技術分野において既知の類似の添加剤である。
【0112】
本開示の様々な形態について図示し説明したが、本明細書で説明した方法及びシステムの更なる適応が、当業者による適切な変更により、本発明の範囲を逸脱することなく達成され得る。そのような可能な改変のうちのいくつかについて述べたが、他の改変も当業者には明らかとなるであろう。例えば、上述の実施例、変形形態、幾何学形状、材料、寸法、比率、工程などは例示的なものであって、必須ではない。したがって、本発明の範囲は、以下の特許請求の範囲の観点から考慮されるべきものであり、本明細書及び図面において図示され説明された構造及び動作の細部に限定されないものとして理解される。
【0113】
〔実施の態様〕
(1) 複数の止血凝集体の作製方法であって、
a)セルロース原料物質を粉砕して、中間微細繊維を形成する工程と、
b)前記中間微細繊維を加湿する工程と、
c)前記中間微細繊維をローラー圧密して、止血凝集体を形成する工程と、
d)前記止血凝集体をふるい分けする工程と、
e)前記止血凝集体を除湿する工程と、
f)任意に、得られた止血凝集体を保管容器に、又は送達デバイスに注入する工程と、を含む、方法。
(2) 前記工程a)に先立って、前記セルロース原料物質を細長く切って切断して、工程a)の粉砕に許容される断片を形成する工程が行われる、実施態様1に記載の方法。
(3) 前記工程a)が、二部分プロセスであり、第2の部分が、空気分級機又はボールミルプロセスで実施される、実施態様2に記載の方法。
(4) 前記第2の部分が、3回繰り返される、実施態様3に記載の方法。
(5) 前記中間微細繊維が、約100マイクロメートル未満のd50及び約180マイクロメートル未満のd90のサイズ分布を有する、実施態様4に記載の方法。
【0114】
(6) 工程b)において、前記中間微細繊維が、11.0重量%~20重量%の含水量まで加湿される、実施態様1に記載の方法。
(7) 前記工程c)は、前記中間微細繊維を圧密材料に圧密し、前記圧密材料が次いで事前破砕にかけられ、その後、最終粉砕の工程にかけられることによって実施される、実施態様1に記載の方法。
(8) 前記中間微細繊維を前記圧密することが、少なくとも12,500kPa(125バール)のローラー圧で実施される、実施態様7に記載の方法。
(9) 前記中間微細繊維を前記圧密することが、少なくとも26.0kN/cmのローラー力で実施される、実施態様7に記載の方法。
(10) 前記工程d)が、スクリーンふるい分けによって、75~300μmの寸法を有する、目的とする止血凝集体分画を選択するために実施される、実施態様1に記載の方法。
【0115】
(11) 前記工程d)は、d15が80マイクロメートル以上(≧)であり、d50が140~250マイクロメートルであり、かつd90が370マイクロメートル以下(≦)であるようなサイズ分布によって特徴付けられる、目的とする止血凝集体分画を選択するために実施される、実施態様1に記載の方法。
(12) 前記工程e)が、乾燥時の減量によって決定される5.5%未満の含水率を有する止血凝集体を生成するために実施される、実施態様1に記載の方法。
(13) 前記工程e)が、乾燥時の減量によって決定される2%未満の含水率を有する止血凝集体のために実施される、実施態様12に記載の方法。
(14) 前記原料物質が、酸化再生セルロース系織物、酸化再生セルロース系不織布、細断酸化再生セルロース系材料、又はこれらの組み合わせである、実施態様1に記載の方法。
(15) 前記原料物質が、カルボキシメチルセルロース、カルシウム塩、抗感染症薬、止血促進薬、ゼラチン、コラーゲン、又はこれらの組み合わせからなる群から選択される添加剤を更に含む、実施態様1に記載の方法。
【0116】
(16) 工程a)の前に、若しくは工程b)の前に、添加剤を前記中間微細粉末に混合することによって、あるいは、工程c)の前に、前記添加剤を前記加湿された中間微細粉末に混合することによって、あるいは工程e)の前に、乾燥に先立って前記添加剤を止血凝集体に混合することによって、あるいは工程f)の前に、注入することに先立って前記添加剤を止血凝集体に混合することによって、前記添加剤を混合する工程を更に含む、実施態様1に記載の方法。
(17) 創傷を治療する方法であって、実施態様1から得られた止血凝集体を患者の前記創傷の上及び/又は中に塗布することを含む、方法。
(18) 凝集体形態で、少なくとも0.5の球形度、約500マイクロメートル未満かつ約50マイクロメートル超であるその最長軸に沿った寸法を有する、複数の相互連結された個々のセルロース系フィブリルを含む、止血粒子状凝集体。
(19) 凝集体形態で、少なくとも0.6の球形度、約500マイクロメートル未満かつ約50マイクロメートル超であるその最長軸に沿った寸法を有する、複数の相互連結された個々のセルロース系フィブリルを含む、止血粒子状凝集体。
(20) 前記止血凝集体が、約80マイクロメートル超のd15、約140~250マイクロメートルのd50、約370マイクロメートル未満のd90、0.45g/mL超の嵩密度、及び0.7以上の球形度(sh50)を有するサイズ分布プロファイルを有する、実施態様18に記載の止血凝集体。
【0117】
(21) 振動負荷(vibratory challenge)にさらされた後に、サイズ分布変化を実質的に有さないか、又は最小限のサイズ分布変化を有する、実施態様18に記載の止血凝集体。
(22) d50によって測定された前記止血凝集体の前記サイズ分布プロファイルが、100マイクロメートルを下回らない、実施態様21に記載の止血凝集体。
(23) 前記サイズ分布変化が、20kPa(0.2バール)においてQICPIC光センサによって特徴付けられる、実施態様22に記載の止血凝集体。
(24) 前記機械的安定性が、100kPa(1.0バール)の真空での処理にかけられた後に、サイズ分布変化を実質的に有さないか、又は最小限のサイズ分布変化を有する前記止血凝集体によって特徴付けられる、実施態様22に記載の止血凝集体。
(25) 粉砕され、加湿され、ローラー圧密され、かつ乾燥されたセルロース系材料である、止血凝集体。
【0118】
(26) 創傷を治療する方法であって、実施態様18に記載の止血凝集体を患者の前記創傷の上及び/又は中に塗布する工程を含む、方法。