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特許7114677死亡率のリスク予測のためのバイオマーカー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-29
(45)【発行日】2022-08-08
(54)【発明の名称】死亡率のリスク予測のためのバイオマーカー
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20220801BHJP
【FI】
G01N33/68
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2020196889
(22)【出願日】2020-11-27
(62)【分割の表示】P 2017520381の分割
【原出願日】2015-10-28
(65)【公開番号】P2021043218
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2020-12-25
(31)【優先権主張番号】14190836.8
(32)【優先日】2014-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】14192653.5
(32)【優先日】2014-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ.ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100157923
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴喰 寿孝
(72)【発明者】
【氏名】ラティーニ,ロベルト
(72)【発明者】
【氏名】マッソン,セルジェ
(72)【発明者】
【氏名】ブロック,ディルク
(72)【発明者】
【氏名】ツァウグ,クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ディーターレ,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】カイザー,エーデルガルト
(72)【発明者】
【氏名】カール,ヨハン
(72)【発明者】
【氏名】ロルニー,ヴィンツェント
(72)【発明者】
【氏名】ヴィーンヒューズ-テレン,ウルスラ-ヘンリケ
【審査官】西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/040759(WO,A1)
【文献】特表2013-536425(JP,A)
【文献】特表2010-517023(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0286157(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0338027(US,A1)
【文献】特表2010-520469(JP,A)
【文献】特表2012-524282(JP,A)
【文献】特表2012-506031(JP,A)
【文献】特表2011-519039(JP,A)
【文献】CHUGH, S. et al,Pilot study identifying myosin heavy chain 7, desmin, insulin-like growth factor 7, and annexin A2 as circulating biomarkers of human heart failure,Proteomics,2013年05月28日,Vol.13/No.15,p.2324-2334
【文献】MOTIWALA, S.R. et al,Measurement of Novel Biomarkers to Predict Chronic Heart Failure Outcomes and Left Ventricular Remodeling,Journal of Cardiovascular Translational Reswarch,2013年12月06日,Vol.7,p.250-261
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/68
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体が慢性心不全に迅速に進行するリスクおよび/または慢性心不全によって入院するリスクおよび/または死亡するリスクを予測するための方法であって:
(a異常な中層短縮率(異常なMFS)の存在または非存在を評価された被験体由来試料中のIGFBP7(IGF結合タンパク質7)、BNP型ペプチド、心臓トロポニン、可溶性ST2(sST2)、FGF-23(線維芽細胞増殖因子23)、増殖分化因子15(GDF-15)、細胞間接着分子1(ICAM-1)、およびアンギオポエチン-2(ANG2)からなる群より選択される少なくとも1つのバイオマーカーのレベルを測定し、そして
)前記の少なくとも1つのバイオマーカーのレベルを参照レベルと比較する
工程を含む、前記方法。
【請求項2】
BNP型ペプチドがBNPまたはNT-プロBNPであり、そして/または心臓トロポニンがトロポニンTまたはトロポニンIである、請求項1の方法。
【請求項3】
異常なMFSが前記被験体に存在する、請求項1または2の方法。
【請求項4】
少なくとも1つのバイオマーカーが、BNP型ペプチド、sST2、IGFBP7、心臓トロポニンおよびFGF-23からなる群より選択される、請求項1~3のいずれか一項の方法。
【請求項5】
被験体が慢性心不全に迅速に進行するリスクおよび/または慢性心不全によって入院するリスクおよび/または死亡するリスクを予測するための方法であって:
(a)左心室肥大(LVH)の存在または非存在を評価された被験体由来試料中のIGFBP7(IGF結合タンパク質7)、BNP型ペプチド、可溶性ST2(sST2)、FGF-23(線維芽細胞増殖因子23)、増殖分化因子15(GDF-15)、および細胞間接着分子1(ICAM-1)からなる群より選択される少なくとも1つのバイオマーカーのレベルを測定し、そして
(b)前記の少なくとも1つのバイオマーカーのレベルを参照レベルと比較する
工程を含む、前記方法。
【請求項6】
BNP型ペプチドがBNPまたはNT-プロBNPである、請求項5の方法。
【請求項7】
LVHが前記被験体に存在する、請求項5または6の方法。
【請求項8】
少なくとも1つのバイオマーカーが、IGFBP7、sST2、FGF-23、およびGDF-15からなる群より選択される、請求項5~7のいずれか一項の方法。
【請求項9】
前記被験体が心不全の症状を示さない、請求項1~8のいずれか一項の方法。
【請求項10】
前記被験体が、ACC/AHA分類にしたがって病期Aまたは病期Bと分類される心不全を患う、請求項1~9のいずれか一項の方法。
【請求項11】
異常な中層短縮率の存在または非存在を評価し、そして前記被験体が左心室肥大を患わない、請求項1~10のいずれか一項の方法。
【請求項12】
前記被験体が65歳またはそれより高齢であり前記被験体が75歳またはそれより高齢であり、あるいは被験体が80歳またはそれより高齢である、請求項1~11のいずれか一項の方法。
【請求項13】
被験体がヒト被験体であり、そして/または試料が血液、血漿または血清試料である、請求項1~12のいずれか一項の方法。
【請求項14】
3年のウィンドウ期間内で被験体が慢性心不全に進行するリスクおよび/または慢性心不全によって入院するリスクおよび/または死亡するリスクを予測する、請求項1~13のいずれか一項の方法。
【請求項15】
参照レベルよりも高い少なくとも1つのバイオマーカーのレベルが、被験体が慢性心不全に迅速に進行するリスクおよび/または慢性心不全によって入院するリスクおよび/または死亡するリスクを有することを示すか、あるいは参照レベルよりも低い少なくとも1つのバイオマーカーのレベルが、被験体が慢性心不全に迅速に進行するリスクおよび/または慢性心不全によって入院するリスクおよび/または死亡するリスクを持たないことを示す、請求項3、4、および7~14のいずれか一項の方法。
【請求項16】
被験体が慢性心不全に迅速に進行するリスクおよび/または慢性心不全によって入院するリスクおよび/または死亡するリスクを予測するための方法であって:
(a異常なMFS患う被験体由来の試料中のIGFBP7(IGF結合タンパク質7)、BNP型ペプチド、心臓トロポニン、可溶性ST2(sST2)、FGF-23(線維芽細胞増殖因子23)、増殖分化因子15(GDF-15)、細胞間接着分子1(ICAM-1)、およびアンギオポエチン-2(ANG2)からなる群より選択される少なくとも1つのバイオマーカーのレベルを測定し、そして
(b)前記の少なくとも1つのバイオマーカーのレベルを参照レベルと比較する
工程を含む、前記方法。
【請求項17】
被験体が慢性心不全に迅速に進行するリスクおよび/または慢性心不全によって入院するリスクおよび/または死亡するリスクを予測するための方法であって:
(a)LVHを患う被験体由来の試料中のIGFBP7(IGF結合タンパク質7)、BNP型ペプチド、可溶性ST2(sST2)、FGF-23(線維芽細胞増殖因子23)、増殖分化因子15(GDF-15)、および細胞間接着分子1(ICAM-1)からなる群より選択される少なくとも1つのバイオマーカーのレベルを測定し、そして
(b)前記の少なくとも1つのバイオマーカーのレベルを参照レベルと比較する
工程を含む、前記方法。
【請求項18】
被験体が慢性心不全に迅速に進行するリスクおよび/または慢性心不全によって入院するリスクおよび/または死亡するリスクを予測するため、a)前記被験体から得た心臓の心エコー画像であって、前記被験体におけ異常なMFS存在または非存在を評価することを可能にする前記画像、あるいはb)前記被験体におけ異常なMFS存在または非存在を評価すること可能にする心エコーデバイスと組み合わせた、被験体試料中のIGFBP7(IGF結合タンパク質7)、BNP型ペプチド、心臓トロポニン、可溶性ST2(sST2)、FGF-23(線維芽細胞増殖因子23)、増殖分化因子15(GDF-15)、細胞間接着分子1(ICAM-1)、およびアンギオポエチン-2(ANG2)からなる群より選択される少なくとも1つのバイオマーカーの使用。
【請求項19】
被験体が慢性心不全に迅速に進行するリスクおよび/または慢性心不全によって入院するリスクおよび/または死亡するリスクを予測するため、a)前記被験体から得た心臓の心エコー画像であって、前記被験体におけるLVHの存在または非存在を評価することを可能にする前記画像、あるいはb)前記被験体におけるLVHの存在または非存在を評価することを可能にする心エコーデバイスと組み合わせた、被験体試料中のIGFBP7(IGF結合タンパク質7)、BNP型ペプチド、可溶性ST2(sST2)、FGF-23(線維芽細胞増殖因子23)、増殖分化因子15(GDF-15)、および細胞間接着分子1(ICAM-1)からなる群より選択される少なくとも1つのバイオマーカーの使用。
【請求項20】
被験体が慢性心不全に迅速に進行するリスクおよび/または慢性心不全によって入院するリスクおよび/または死亡するリスクを予測するため、a)前記被験体から得た心臓の心エコー画像であって、前記被験体におけ異常なMFS存在または非存在を評価することを可能にする前記画像、あるいはb)前記被験体におけ異常なMFS存在または非存在を評価すること可能にする心エコーデバイスと組み合わせた、被験体試料中のIGFBP7(IGF結合タンパク質7)、BNP型ペプチド、心臓トロポニン、可溶性ST2(sST2)、FGF-23(線維芽細胞増殖因子23)、増殖分化因子15(GDF-15)、細胞間接着分子1(ICAM-1)、およびアンギオポエチン-2(ANG2)からなる群より選択されるバイオマーカーに結合する少なくとも1つの結合剤の使用。
【請求項21】
被験体が慢性心不全に迅速に進行するリスクおよび/または慢性心不全によって入院するリスクおよび/または死亡するリスクを予測するため、a)前記被験体から得た心臓の心エコー画像であって、前記被験体におけるLVHの存在または非存在を評価することを可能にする前記画像、あるいはb)前記被験体におけるLVHの存在または非存在を評価することを可能にする心エコーデバイスと組み合わせた、被験体試料中のIGFBP7(IGF結合タンパク質7)、BNP型ペプチド、可溶性ST2(sST2)、FGF-23(線維芽細胞増殖因子23)、増殖分化因子15(GDF-15)、および細胞間接着分子1(ICAM-1)からなる群より選択されるバイオマーカーに結合する少なくとも1つの結合剤の使用。
【請求項22】
前記バイオマーカーがBNP型ペプチドおよびIGFBP7である、請求項1~17のいずれか一項の方法、あるいは請求項18~21のいずれか一項の使用。
【請求項23】
被験体が65歳またはそれより高齢である、請求項1~17および22のいずれか一項の方法、あるいは請求項18~22のいずれか一項の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験体が慢性心不全に迅速に進行するリスクおよび/または慢性心不全によって入院するリスクおよび/または死亡するリスクを予測するための方法に関する。該方法は、被験体試料中のBNP型ペプチド、IGFBP7(IGF結合タンパク質7)、心臓トロポニン、可溶性ST2(sST2)、FGF-23(線維芽細胞増殖因子23)、増殖分化因子15(GDF-15)、細胞間接着分子1(ICAM-1)、およびアンギオポエチン-2(ANG2)からなる群より選択される少なくとも1つのバイオマーカーの決定に基づく。該方法は、(i)異常な中層(midwall)短縮率または(ii)左心室肥大の存在または非存在の評価をさらに含むことも可能である。本発明にさらに想定されるのは、本発明を実施するために適応させたデバイスである。
【発明の概要】
【0002】
背景技術
現代医学の目的は、個人化または個別化治療措置を提供することである。これらは、患者の個々の必要性またはリスクを考慮に入れた治療措置である。個人化または個別化治療措置は、さらに、潜在的な治療措置に関して決定することが必要とされる場合の手段としても考慮されるべきである。
【0003】
心不全(HF)は、主要なそして増大しつつある公衆衛生上の問題である。米国では、およそ500万人の患者がHFを有し、毎年、50万人を超える患者が初めてHFと診断され、そして毎年、米国で25万人を超える患者が主因としてHFで死亡する。心不全(HF)は、先進国における罹患率および死亡率の主因の1つである。集団が加齢し、そして心臓血管疾患を持つ患者の寿命がより長くなっているため、HFの発生率および罹患率は増加しつつある。
【0004】
心不全は、症候性または無症候性であってもよい。無症候性心不全の被験体のあるものは、慢性心不全へ迅速に進行し、そしてしたがって、心不全による入院および/または死亡のリスクが上昇していることが知られる(Neelandら, Journal of
the American College of Cardiology Vol.
61, No. 2, 2013)。これらの被験体を可能な限り早期に同定することが重要であり、これは、これによって、慢性心不全への進行を防止するかまたは遅延させる療法的手段が可能になるであろうためである。疾患の迅速な進行の同定および適切な療法的介入は、しかし、満たされていない、大きな医学的必要性である(Neelandら)。
【0005】
Neelandらはまた、左心室肥大を有する患者における心臓マーカーを決定する。心臓マーカーの決定に基づいて、全体集団における高リスク群が同定可能である。
WO 2014/040759は、NT-プロBNPおよび心臓トロポニンなどの心臓マーカーを、画像化に基づく診断評価に供するべき被験体の同定に使用することも可能であることを開示する。
【0006】
Zapolskiらは、血液透析患者において行った断面研究において、異常なMFS(中層短縮率)およびNTプロBNPレベル上昇の関連を記載する。調べた患者は非常に重症である(Zapolskiら, BMC Cardiovasc Disord. 2012, 12:100)。
【0007】
Satyanらは、血液透析患者における死亡リスクの同定のため、異常なMFSと組
み合わせたNTプロBNP上昇のデータを提供する(Satyan S, Light RP, Agarwal R Am J Kidney Dis. 2007 Dec ;50(6):1009-19)。
【0008】
Massonらは、異常な中層短縮率を伴うNT-プロBNPなどのいくつかの循環バイオマーカーの組み合わせを調べる(Circulation. November 25, 2014; 130:A12358要約12358:異常な左心室中層短縮率および循環バイオマーカー上昇は、全集団における高齢者において、高死亡率を予測する)。
【0009】
好適なことに、本発明の根底にある研究の背景において、被験体試料中のBNP型ペプチド、IGFBP7(IGF結合タンパク質7)、心臓トロポニン、可溶性ST2(sST2)、FGF-23(線維芽細胞増殖因子23)、増殖分化因子15(GDF-15)、細胞間接着分子1(ICAM-1)、およびアンギオポエチン-2(ANG2)からなる群より選択される少なくとも1つのバイオマーカーのレベル測定を、被験体が異常なMFSを患っているかどうかの評価と組み合わせると、慢性心不全に迅速に進行するリスクがある被験体ならびに/あるいは慢性心不全による入院および/または死亡のリスクがある被験体の信頼性がある同定が可能になることが示されてきている。本発明の根底にある研究の背景において、被験体試料中のIGFBP7(IGF結合タンパク質7)、可溶性ST2(sST2)、FGF-23(線維芽細胞増殖因子23)、GDF15(増殖分化因子15)からなる群より選択される少なくとも1つのバイオマーカーのレベル測定を、被験体がLVHに罹患しているかどうかの評価と組み合わせると、慢性心不全に迅速に進行するリスクがある被験体ならびに/あるいは慢性心不全による入院および/または死亡のリスクがある被験体の信頼性がある同定が可能になることがさらに示されてきている。
【0010】
したがって、本発明は、被験体が慢性心不全に迅速に進行するリスクおよび/または慢性心不全によって入院するリスクおよび/または死亡するリスクを予測するための方法であって:
(a)前記被験体において
(i)異常な中層短縮率(異常なMFS)の存在または非存在、および/または
(ii)左心室肥大(LVH)の存在または非存在
を評価し、
(b)被験体試料中のBNP型ペプチド、IGFBP7(IGF結合タンパク質7)、心臓トロポニン、可溶性ST2(sST2)、FGF-23(線維芽細胞増殖因子23)、増殖分化因子15(GDF-15)、細胞間接着分子1(ICAM-1)、およびアンギオポエチン-2(ANG2)からなる群より選択される少なくとも1つのバイオマーカーのレベルを測定し、そして
(c)前記の少なくとも1つのバイオマーカーのレベル(単数または複数)を参照レベル(単数または複数)と比較する
工程を含む、前記方法に関する。
【0011】
好ましくは、リスクは、被験体が慢性心不全に迅速に進行するリスクおよび/または慢性心不全によって入院するリスクおよび/または死亡するリスクを予測するか、またはリスクの予測を提供する、さらなる工程d)を実行することによって予測される。前記工程は、工程a)、b)およびc)の結果に基づく。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】すべての患者においてバイオマーカー群(NTプロBNP、MFS)にしたがって層別化した死亡発生率。
図2】すべての患者においてバイオマーカー群(cTnT、MFS)にしたがって層別化した死亡発生率。
図3】すべての患者においてバイオマーカー群(IGFBP7、MFS)にしたがって層別化した死亡発生率。
図4】すべての患者においてバイオマーカー群(sST2、MFS)にしたがって層別化した死亡発生率。
図5】すべての患者においてバイオマーカー群(FGF23、MFS)にしたがって層別化した死亡発生率。
図6】正常LV重量を有する患者においてバイオマーカー群(NTプロBNP、MFS)にしたがって層別化した死亡発生率。
図7】正常LV重量を有する患者においてバイオマーカー群(cTnT、MFS)にしたがって層別化した死亡発生率。
図8】正常LV重量を有する患者においてバイオマーカー群(IGFBP7、MFS)にしたがって層別化した死亡発生率。
図9】正常LV重量を有する患者においてバイオマーカー群(sST2、MFS)にしたがって層別化した死亡発生率。
図10】正常LV重量を有する患者においてバイオマーカー群(FGF23、MFS)にしたがって層別化した死亡発生率。
図11】すべての患者においてバイオマーカー群(NTプロBNP、IGFBP7、LVH)にしたがって層別化した死亡発生率。
図12】すべての患者においてバイオマーカー群(NTプロBNP、IGFBP7、MFS)にしたがって層別化した死亡発生率。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の方法は、好ましくはex vivoまたはin vitro法である。さらに、明確に上述したものに加えた工程を含むことも可能である。例えば、さらなる工程は、試料の前処理、または方法によって得られる結果の評価であることも可能である。方法を手動で実施してもよいし、または自動化によって補助してもよい。好ましくは、測定工程、計算工程および比較工程は、全体として、または部分的に、自動化によって、例えば測定用の適切なロボットおよびセンサー装置、計算工程におけるデータプロセシングデバイス上にコンピュータ実装された計算アルゴリズム、あるいは比較工程におけるデータプロセシングデバイス上の比較および/または診断アルゴリズムによって、補助されてもよい。
【0014】
本発明にしたがって、被験体が慢性心不全に迅速に進行するリスクおよび/または慢性心不全によって入院するリスクおよび/または死亡するリスクを予測するものとする。したがって、そのリスクがある被験体またはそのリスクがない被験体を同定することも可能である。用語「リスクを予測する」は、本明細書において、好ましくは、被験体が慢性心不全に迅速に進行する可能性を評価すること、ならびに/あるいは慢性心不全による入院および/または死亡の可能性を評価することを指す。より好ましくは、特定の時間ウィンドウ内のリスク/可能性を予測する。本発明の好ましい態様において、予測ウィンドウは、好ましくは、少なくとも1年、少なくとも2年、少なくとも3年、少なくとも4年、少なくとも5年、または少なくとも10年、あるいは任意の中間の時間範囲の間隔である。本発明の特定の好ましい態様において、予測ウィンドウは、好ましくは5年、より好ましくは4年、または最も好ましくは3年の間隔である。本発明の別の好ましい態様において、予測ウィンドウは、被験体の全寿命の範囲であろう。好ましくは、前記予測ウィンドウは、試験しようとする試料を得た時点から計算する。
【0015】
当業者に理解されるであろうように、こうした予測は、通常、被験体の100%に関して正しいことは意図されない。しかし、該用語は、適切でそして正しい方式で、被験体の統計的に有意な部分に関して、予測を行うことが可能であることを必要とする。部分が統計的に有意であるかどうかは、多様な周知の統計評価ツール、例えば信頼区間の決定、p
-値決定、スチューデントt検定、マン-ホイットニー検定等を用いて、当業者によって、さらなる面倒を伴わずに決定可能である。詳細は、DowdyおよびWearden, Statistics for Research, John Wiley & Sons, New York 1983に見られる。好ましい信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%である。p値は、好ましくは、0.1、0.05、0.01、0.005、または0.0001である。好ましくは、本発明によって想定される可能性は、増加した、正常のまたは減少したリスクの予測が、所定のコホートまたは集団の被験体の少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%に関して正しいことを可能にする。該用語は、好ましくは、被験体集団における平均リスクに比較した際、被験体リスクが上昇しているかまたは減少しているかどうかを予測することに関する。
【0016】
用語「リスクを予測する」は、本明細書において、本発明の方法によって分析される被験体を、慢性心不全に迅速に進行するリスクおよび/または慢性心不全によって入院するリスクおよび/または死亡するリスクがある被験体群、あるいは慢性心不全に迅速に進行するリスクおよび/または慢性心不全によって入院するリスクおよび/または死亡するリスクがない被験体群のいずれかに割り当てる。リスクがある被験体は、好ましくは、慢性心不全に迅速に進行するリスクおよび/または慢性心不全によって入院するリスクおよび/または死亡するリスクが上昇している(特に予測ウィンドウ内で)被験体である。好ましくは、前記リスクは、被験体のコホート(すなわち被験体の群)における平均リスクに比較した際、上昇している。リスクがない被験体は、好ましくは、慢性心不全に迅速に進行するリスクおよび/または慢性心不全によって入院するリスクおよび/または死亡するリスクが減少している(特に予測ウィンドウ内で)被験体である。好ましくは、前記リスクは、被験体のコホート(すなわち被験体の群)における平均リスクに比較した際、減少している。したがって、本発明の方法は、上昇したリスクまたは減少したリスクの間を区別することが可能である。リスクがある被験体は、好ましくは3または4年の予測ウィンドウ内で、好ましくは12%またはそれより高い、あるいはより好ましくは15%またはそれより高い、あるいは最も好ましくは20%またはそれより高い、慢性心不全に迅速に進行するリスクおよび/または慢性心不全によって入院するリスクおよび/または死亡するリスクを有する。リスクがない被験体は、好ましくは3または4年の予測ウィンドウ内で、好ましくは10%またはそれより低い、より好ましくは8%またはそれより低い、あるいは最も好ましくは7%またはそれより低い、慢性心不全に迅速に進行するリスクおよび/または慢性心不全によって入院するリスクおよび/または死亡するリスクを有する。
【0017】
1つの態様において、入院のリスクを予測する。表現「入院」は、本明細書において、好ましくは、被験体が、病院に収容される、特に入院患者として収容されることを意味する。入院は、慢性心不全によるべきである。したがって、慢性心不全は、入院の原因であるものとする。1つの態様において、被験体が慢性心不全に迅速に進行するリスクを予測する。表現「慢性心不全に迅速に進行する」は、当業者によく理解される。慢性心不全に迅速に進行する被験体は、好ましくは、本明細書の別の箇所に記載するようなウィンドウ期間内に、慢性心不全に進行する被験体である。慢性心不全は、好ましくは、ACC/AHA分類(ACC/AHA分類に関しては、本明細書の別の箇所を参照されたい)にしたがって、病期CまたはDと分類される心不全を意味する。試験しようとする被験体がACC/AHA分類にしたがって、病期Aと分類される心不全を有する場合(または被験体が心不全を患っていない場合)、用語「慢性心不全」は、病期B、CまたはDと分類される心不全を意味することも可能である。
【0018】
1つの態様において、死亡リスクを予測する。用語「死亡」は、本明細書において、好ましくは、任意の原因による死亡、そしてより好ましくは、心臓の原因による死亡、そして最も好ましくは、心不全による死亡に関する。
【0019】
句「予測を提供する」は、本明細書において、被験体試料における、本明細書に言及するようなバイオマーカーのレベルに関連して生成される情報またはデータを用いて、そして(i)異常なMFSまたは(ii)LVHの存在または非存在に関連づけて、本明細書に言及するようなリスクを予測することを指す。情報またはデータは、書面、口頭または電子の任意の型であることも可能である。いくつかの態様において、生成される情報またはデータの使用には、通信、提示、報告、保存、送達、移動、供給、伝達、分配、またはその組み合わせが含まれる。いくつかの態様において、通信、提示、報告、保存、送達、移動、供給、伝達、分配、またはその組み合わせは、計算デバイス、アナライザー装置またはその組み合わせによって実行される。いくつかのさらなる態様において、通信、提示、報告、保存、送達、移動、供給、伝達、分配、またはその組み合わせは、実験または医学専門職によって実行される。いくつかの態様において、情報またはデータには、参照レベル(単数または複数)に対する、バイオマーカー(単数または複数)のレベルの比較が含まれる。いくつかの態様において、情報またはデータには、被験体がリスクを有すると診断される指標が含まれる。
【0020】
「被験体」は、本明細書において、好ましくは哺乳動物である。哺乳動物には、限定されるわけではないが、家畜動物(例えばウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ、およびウマ)、霊長類(例えばヒトおよび非ヒト霊長類、例えばサル(monkey))、ウサギ、および齧歯類(例えばマウスおよびラット)が含まれる。好ましくは、被験体はヒト被験体である。好ましくは、被験体は65歳またはそれより高齢であり、より好ましくは、被験体は75歳またはそれより高齢であり、最も好ましくは、被験体は80歳またはそれより高齢である。用語「被験体」および「患者」は、本明細書において、交換可能に用いられる。
【0021】
本発明の好ましい態様において、被験体は、心不全に関して見かけ上健康である。心不全に関して見かけ上健康である被験体は、好ましくは、心不全の症状を示さない(そしてしたがって、心不全に関して無症候性である)。心不全の症状を示さない被験体は、好ましくは身体活動に制限がなく、そして通常の身体活動が、過度の息切れ、疲労、または動悸を生じる。しかし、被験体がACC/AHA分類にしたがって病期AまたはBと分類される心不全、特にACC/AHA分類にしたがって病期Aまたは初期Bと分類される心不全を有することが想定される。
【0022】
ACC/AHA分類は、米国心臓病学会および米国心臓協会によって発展された心不全の分類である(分類に関しては、J. Am. Coll. Cardiol. 2001;38;2101-2113, 2005年改訂を参照されたい。本明細書にその全体が援用されるJ. Am. Coll. Cardiol. 2005;46;e1-e82を参照されたい)。分類はまた、やはり本明細書に援用されるMuredduら, European Journal of Heart Failure (2012) 14, 718-729にも記載される。4つの病期、A、B、CおよびDが定義される。病期AおよびBはHF(心不全)ではないが、「真の」HFを発展させる前の患者の早期同定を補助すると見なされる。病期AおよびBの患者は、HFを発展させるリスク要因を持つ患者と定義するのが最適である。例えば、左心室(LV)機能障害、肥大、または幾何学的心室変形をいまだ示さない、冠動脈疾患、高血圧、または糖尿病を有する患者は、病期Aと見なされるであろうし、一方、無症候性であるが、LV機能障害を示す患者は、病期Bと指定されるであろう。次いで、病期Cは、根底にある構造的心臓疾患に関連したHFの現在のまたは過去の症状を伴う患者(HF患者の大部分)を示し、そして病期Dは、真性の難治性HFの患者を指定する。ACC/AHA分類および用語「心不全」はまた、その全体が本明細書に援用される、WO 2012/025355にも説明される。
【0023】
好ましくは、本発明の背景において、被験体は損なわれた腎機能を持たない。好ましくは被験体は、腎不全を患わず、特に被験体は急性、慢性および/または末期腎不全を患わない。したがって、被験体は、好ましくは、透析被験体ではない。
【0024】
被験体が損なわれた腎機能を示さないかどうかを評価する方法が当該技術分野に周知である。知られており、そして適切と見なされる任意の手段によって、腎障害を診断することも可能である。特に、糸球体濾過率(GFR)によって、腎機能を評価することも可能である。例えば、Cockgroft-GaultまたはMDRD公式によって、GFRを計算することも可能である(Levey 1999, Annals of Internal Medicine, 461-470)。GFRは、単位時間あたりに、腎糸球体毛細管からボウマン嚢内に濾過される液体の体積である。臨床的には、これは、しばしば、腎機能を決定するために用いられる。Cockgroft Gault公式またはMDRD公式などの公式から得られるすべての計算は概算を送達し、そして血漿内にインスリンを注入することによる「真の」GFRではない。インスリンは糸球体濾過後には腎臓によって再吸収されないため、その排出速度は、糸球体フィルターを通過する水および溶質の濾過速度に正比例する。しかし、臨床診察においては、GFRを測定するためには、クレアチニンクリアランスが用いられる。クレアチニンは、内因性の分子であり、体において合成され、糸球体によって自由に濾過される(しかしまた、非常に少量、腎尿細管によって分泌される)。クレアチニンクリアランス(CrCl)は、したがって、GFRの近似値である。GFRは、典型的には、1分あたりのミリリットルで記録される(mL/分)。男性に関するGFRの正常範囲は、97~137mL/分であり、女性に関するGFRの正常範囲は、88~128ml/分である。したがって、腎機能障害を示さない被験体のGFRは、この範囲内であることが特に意図される。さらに、前記被験体は、好ましくは、0.9mg/dlより低い、より好ましくは1.1mg/dlより低い、そして最も好ましくは、1.3mg/dlより低い血液クレアチニンレベル(特に血清クレアチニンレベル)を有する。
【0025】
本発明の前述の方法の工程(a)は、2つの代替態様:(i)および(ii)を含む。代替(i)にしたがって、異常な中層短縮率(異常なMFS)の存在または非存在を評価する。代替(ii)にしたがって、左心室肥大(LVH)の存在または非存在を評価する。
【0026】
本発明の方法の背景において、被験体のリスクは、被験体が左心室肥大を患う前であっても予測可能であることが示されてきている(態様(i))。しかし、被験体がLVHを患っている場合、リスクはまた信頼性をもって予測可能である(態様(ii))。
【0027】
前述の方法の工程(a)の態様(i)を実行する場合、被験体は好ましくはLVHを患わない。用語「左心室肥大」は当該技術分野に周知である。左心室肥大に関する詳細な概観は、例えば標準的な教科書に見出されうる(Swamy Curr Cardiol Rep(2010)12:277-282を参照されたい)。LVHは、心電図、心エコー、または心磁気共鳴画像法(MRI)によって、検出可能である。好ましくは、LVHは心エコーによって検出される。さらに、LVH診断基準が当該技術分野に周知である(Manciaら, European Heart J. 2007, 28: 1462, Die Innere Medizin: Referenzwerk fuer den Facharzt -Wolfgang Gerok- 2007, 293ページ, Swamy Curr Cardiol Rep(2010)12:277-282)。用語「左心室肥大」(「LVH」と略される)は、本明細書において、好ましくは、心室壁の肥厚に関連する。LVHは、好ましくは、心臓に対する慢性に増加した作業負荷に対する反応である。動脈性高血圧を患う患者において見出されるLVHは、治療が必要な疾患である。本発明の背景において、リスクは、被験体がLVHを患う前に予測される。したがって、試験される被験体は、好ましくはLVHを患わない。LVHを患わない被験体は、好ましくは、正常左心室重量を有する。
【0028】
しかし、前述の方法の工程(a)の態様(i)を実行する場合、被験体がLVHを患っている可能性もあることもまた想定される。
LVHの診断、そしてしたがって左心室重量の評価には、好ましくは、当該技術分野に知られる公式にしたがった、左心室重量の計算とともに、隔壁直径、左心室後方壁厚および拡張期直径の測定が含まれる。LVHを診断するための特に好ましい基準が、例えば、ガイドラインに開示される(Manciaら, European Heart J. 2007, 28: 1462)。好ましくは、LVHの診断、そしてしたがって左心室重量の評価には、Cornell電圧基準、Cornell積基準、Sokolow-Lyon電圧基準またはRomhilt-Estesポイントスコア系を用いる(例えば、Manciaら, European Heart J. 2007, 28:1462を参照されたい)。
【0029】
被験体が男性である場合、以下が当てはまる:被験体は、男性被験体の左心室重量指数が、好ましくは105g/mに等しいかまたはそれより低い、あるいはより好ましくは110g/mに等しいかまたはそれより低い、あるいは最も好ましくは115g/mに等しいかまたはそれより低い場合、正常な左心室重量を有する(そしてしたがってLVHを患っていない)と見なされる。被験体が女性である場合、以下が当てはまる:被験体は、被験体の左心室重量指数が、好ましくは85g/mに等しいかまたはそれより低い、あるいはより好ましくは90g/mに等しいかまたはそれより低い、あるいは最も好ましくは96g/mに等しいかまたはそれより低い場合、正常な左心室重量を有すると見なされる。正常な左心室重量を有する被験体はLVHを患わないことが理解されるものとする(例えば、Drazner MH, Dries DL, Peshock RM, Cooper RS, Klassen C, Kazi F,Willett D, Victor RG. 左心室肥大は、一般集団において、白人よりも黒人においてより蔓延している:ダラス心臓研究 Hypertension. 2005;46:124-129)。
【0030】
本発明の方法の工程(a)、態様(i)において、異常な中層短縮率(異常なMFS)の存在または非存在が評価されるものとする。したがって、被験体が異常なMFSを患うかどうかを評価する。異常なMFSを患わない被験体は正常MFSを有する。
【0031】
表現「中層短縮率」は、当該技術分野に周知である(本明細書において、「MFS」と略される)。MFSは、LV機能不全の初期徴候であり、LV中層短縮率減少である。好ましくは、中層短縮率は、15%より低い場合、異常と見なされる。このカットオフポイントは、HFの設定において参照値として用いられてきており、そして高血圧被験体における予後関連が立証されてきている(Murreduら, European Journal of Heart Failure(2012)14, 718-729を参照されたい)。やはり好ましくは、中層短縮率は、14%または13%より低い場合、異常と見なされる。さらに、中層短縮率は、15%より高い(またはそれに等しい)場合、正常と見なされる。やはり好ましくは、中層短縮率は、16%または17%より高い場合、正常と見なされる。
【0032】
中層短縮率(またはLVH)を決定する方法、そしてしたがって、被験体における異常な中層短縮率(またはLVH)の存在または非存在を評価する方法は、当該技術分野に周知である。好ましくは、評価は、試験しようとする被験体から得られる心臓の心エコー画像に基づく。画像は、異常な中層短縮率(またはLVH)の存在または非存在を評価することを可能にするはずである。これらは、適切であるようにみえる任意の心エコー技術、
特にMモード心エコー、2Dスペックルトラッキング心エコー、ドップラー心エコー、または二次元(2D)心エコーによって得られることも可能である。
【0033】
1つの態様において、中層短縮率は、その全開示内容に関して、本明細書に援用される、Shimizuらによって記載されるような2シェル筒状モデルから計算可能である(Shimizu G, Hirota Y, Kita Y, Kawamura, K, Saito T, Gaasch WH. 全身動脈性高血圧における左心室中層力学 Circulation 1991;83:1676-84)。この方法は、慣用的な中層法を洗練したものであり、そして理論的周囲中層線維または心筋リングの短縮を反映するデータを提供する。該方法は、心周期を通じて左心室重量が一定であることを仮定し、そして内壁および外壁の肥厚率が等しいという仮定を必要としない。MFSの決定はまた、Mayetらによって、またはShimizuらの先の論文においても記載され、これらはすべて本明細書に援用される(例えば、Mayetら, Hypertension. 2000;36:755-759; Shimizu G, Zile MR, Blaustein AS, Gaasch WH. 左心室肥大を伴う患者における左心室充満および中層線維伸長:慣用的な中層測定による線維速度の過大評価。 Circulation. 1985;71:266-272、またはShimizu G, Conrad CH, Gaasch WH. 左心室肥大を伴う患者における左心室充満および中層線維伸長の位相面分析 Circulation. 1987;75(suppl l):I-34-I-39を参照されたい)。さらに、MFSの決定は、de Simoneら(JACC, 1994, Vol. 23(6):1444-51)によって記載されてきており、これもまたその全体が本明細書に援用される。別の態様において、MFSはMurredduら(European Journal of Heart Failure(2012)14, 718-729)によって記載されるように評価される。好ましくは、MFSは、本明細書において、Shimizuによって1987年または1985年に記載されるような方法にしたがって決定され、より好ましくは、MFSは、Mayetらにしたがって決定され、さらにより好ましくは、MFSはde Simoneにしたがって決定され、そして最も好ましくは、MFSはMuredduによって記載されるように決定される。
【0034】
実施例セクションにさらに記載するように、本明細書に言及するような少なくとも1つのバイオマーカーのレベルの測定は、異常なMFSを患う被験体において、特に好適である(図もまた参照されたい)。異常なMFSを有する被験体において、少なくとも1つのバイオマーカーの測定は、リスクがある被験体およびリスクがない被験体の間の非常に信頼性がある区別を可能にする。実施例セクションにおける結果は、被験体が非常に低いリスクを有するが、異常な中層短縮率を患う可能性もあることを示す。しかし、また、異常なMFSを患い、そして非常に高リスクである被験体もいる。本明細書に言及するような、少なくとも1つのバイオマーカーの決定は、高リスクおよび低リスクを有する被験体を同定することを可能にする。
【0035】
本明細書に言及するようないくつかのバイオマーカー(特にBNP型ペプチド、特にNT-プロBNP、sST2、IGFBP7、心臓トロポニン、特にcTnT、および/またはFGF23)の区別する能力は、正常心室重量を有するが、異常なMFSを有する被験体において特に好適である。したがって、工程(a)の態様(i)を実行する場合、少なくとも1つのバイオマーカーは、好ましくはBNP型ペプチド、sST2、IGFBP7、心臓トロポニンおよび/またはFGF23である。好ましくは、マーカーはsST2であり、より好ましくは、マーカーはIGFBP7であり、最も好ましくは、マーカーはNT-プロBNPである。さらに、マーカーがトロポニンTまたはFGF23であることもまた好ましい。バイオマーカーGDF-15および/またはもまた測定可能であることもまた理解されるものとする。
【0036】
1つの態様において、異常なMFSの存在または非存在が評価された後に、工程b)を実行することも可能である。特に、異常なMFSを患う被験体において、工程b)を実行することも可能である。したがって、本発明の方法は、工程a)での評価に基づいて、異常な中層短縮率を患う被験体を選択する工程a1)をさらに含むことも可能である。したがって、少なくとも1つのバイオマーカーのレベルを、異常なMFSを患う被験体において測定する。
【0037】
あるいは、少なくとも1つのバイオマーカーのレベルを第一の工程として測定することも可能である。その後、異常な中層短縮率の存在を評価する。
本発明の方法の工程(a)、態様(ii)において、LVHの存在または非存在を評価するものとする。したがって、被験体がLVHを患うかどうかを評価する。LVHを患わない被験体は、正常左心室重量を有する(本明細書の別の箇所に概略する通り)。
【0038】
前述の方法の工程(a)の態様(ii)を実行する場合、少なくとも1つのバイオマーカーは、好ましくは、IGFBP7(IGF結合タンパク質7)、可溶性ST2(sST2)、FGF-23(線維芽細胞増殖因子23)、およびGDF15(増殖分化因子15)より選択される。特に、少なくとも1つのバイオマーカーは、IGFBP-7および/またはsST2である。しかし、残りのマーカー、例えばNT-プロBNPもまた決定することも可能である。バイオマーカーの好ましい組み合わせ(患者の特性)は以下の通りである:
・IGFBP7+BNP型ペプチド、特にNTプロBNP
・ST2+BNP型ペプチド、特にNTプロBNP
・FGF23+BNP型ペプチド、特にNTプロBNP
・IGFBP7+ST2
・年齢+BNP型ペプチド、特にNTプロBNP
・年齢+NTプロBNP+cTn、特にhs-cTnT
「年齢」は、好ましくは、試験しようとする被験体が65歳またはそれより高齢であることを意味する。
【0039】
別の好ましい組み合わせは、好ましくは左心室肥大(LVH)の存在または非存在の評価と組み合わせた、BNP型ペプチド、特にNTプロBNP、およびIGFBP7、特に高齢被験体におけるもの(特に被験体が65歳またはそれより高齢である場合)である。
【0040】
別の好ましい組み合わせは、異常なMFSの存在または非存在の評価と組み合わせた、BNP型ペプチド、特にNTプロBNP、およびIGFBP7、特に高齢被験体におけるもの(特に被験体が65歳またはそれより高齢である場合)である。
【0041】
用語「試料」は、体液試料、分離された細胞の試料、あるいは組織または臓器由来の試料を指す。体液試料は、周知の技術によって得られることも可能であり、そしてこれには、血液、血漿、血清、尿、リンパ液、痰、腹水、あるいは任意の他の体性分泌物またはその派生物が含まれる。組織または臓器試料は、例えば、生検によって任意の組織または臓器から得られうる。特に、試料が血液、血清、または血漿試料であることが想定される。
【0042】
本発明にしたがって、本明細書に言及するような少なくとも1つのバイオマーカーのレベルを測定するものとする。用語「少なくとも1つ」は、1または1より多くを意味する。好ましくは、本発明の背景において、1、2、3、4、5、6、7、または8のバイオマーカーのレベルを測定する。
【0043】
さらに、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーのレベルは測定されるレベルであり
、そして少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの測定されるレベルを、参照レベルと比較することが想定される。好ましくは、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーはPlGF(胎盤増殖因子)である。より好ましくは、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーはMMP2(マトリックスメタロプロテイナーゼ-2)である。MMP2(72kDa IV型コラゲナーゼおよびゼラチナーゼAとしても知られる)は、ヒトにおいてMMP2遺伝子にコードされる酵素である(ヒトMMP2の配列に関しては、例えばUniprot(P08253)を参照されたい)。
【0044】
さらに、リスク評価のために被験体の単数または複数のさらなる特性、好ましくは年齢または性別(性)、特に年齢および性別(性)を評価することが想定される。好ましくは、リスクは、比較工程に基づいて、そして患者の特性(単数または複数)(例えば年齢および性)に基づいて予測される。より好ましくは、リスクは比較工程に基づいて、異常なMFSおよび/またはLVHの存在または非存在に基づいて(特にMFSおよび/またはLVHの存在に基づいて)、そして患者特性(単数または複数)(例えば年齢および性)に基づいて予測される。
【0045】
好ましい態様において、バイオマーカーのレベルを組み合わせて測定する。したがって、1より多いレベルを測定する。さらに、患者の特性(単数または複数)とバイオマーカー(単数または複数)の組み合わせが想定される。好ましい組み合わせを図11および図12、そして特に、実施例セクションの表1に示し、特に、BNP型ペプチド、特にNTプロBNPおよびIGFBP7と、それぞれLVHまたはMFSの評価の組み合わせが好ましい。さらに好ましい組み合わせを実施例セクションの表2に示す。
【0046】
バイオマーカー(および患者特性)のさらに好ましい組み合わせは:
・BNP型ペプチド、特にNTプロBNP、および心臓トロポニン、特にcTnT
・IGFBP7およびBNP型ペプチド、特にNT-プロBNP
・IGFBP7およびST2
・ST2およびBNP型ペプチド、特にNT-プロBNP
・GDF15およびBNP型ペプチド、特にNT-プロBNP
・FGF23およびBNP型ペプチド、特にNT-プロBNP
・年齢およびBNP型ペプチド、特にNT-プロBNP
・年齢、心臓トロポニン、特にcTnT(トロポニンT)およびBNP型ペプチド、特にNT-プロBNP
である。
【0047】
さらに好ましい組み合わせは:年齢および/または(特におよび)性別と組み合わされた、心臓トロポニン、特にTnT、FGF23、BNP型ペプチド、特にNTプロBNP、IGFBP7、sST2、およびGDF15より選択されるバイオマーカーより選択される少なくとも1つのバイオマーカーである。
【0048】
用語、本明細書に言及するようなマーカーレベルを「測定する」(本明細書において、「決定する」とも称される)は、適切な方法を使用して、バイオマーカーを定量化して、例えば試料中のバイオマーカーレベルを決定することを指す。
【0049】
本発明と関連して測定すべきバイオマーカーは、タンパク質バイオマーカーである。レベルを測定する方法、およびしたがってタンパク質バイオマーカーの量を決定する方法は、当該技術分野に周知であり、そして例えば本明細書にその全体が援用されるWO 2014/040759に記載される。特に15ページ15行から19ページ25行を参照されたい。
【0050】
1つの態様において、試料を、それぞれのマーカーに特異的に結合する結合剤と接触させ、それによって剤および前記マーカーの間の複合体を形成し、形成された複合体のレベルを検出し、そしてそれによって前記マーカーのレベルを測定する工程によって、少なくとも1つのバイオマーカーのレベルを測定する。
【0051】
好ましくは、結合剤は、本明細書に言及するようなバイオマーカーに特異的に結合する。好ましい結合剤には、抗体、核酸、ペプチドまたはポリペプチド、例えば該ペプチドまたはポリペプチドに関する受容体または結合パートナー、および該ペプチドに対する結合ドメインを含むその断片、ならびにアプタマー、例えば核酸またはペプチドアプタマー、特に抗体が含まれる。本明細書に言及するような抗体には、ポリクローナルおよびモノクローナル抗体の両方、ならびに抗原またはハプテンに結合可能な、その断片、例えばFv、FabおよびF(ab)2断片が含まれる。本発明にはまた、一本鎖抗体、および望ましい抗原特異性を示す非ヒトドナー抗体のアミノ酸配列を、ヒトアクセプター抗体の配列と組み合わせた、ヒト化ハイブリッド抗体も含まれる。用語「特異的結合」または「特異的に結合する」は、結合対分子が、他の分子に有意に結合しない条件下で、互いに結合を示す、結合反応を指す。用語「特異的結合」または「特異的に結合する」は、バイオマーカーとしてタンパク質またはペプチドを指す場合、結合剤が、少なくとも10-7Mのアフィニティで、対応するバイオマーカーに結合する、結合反応を指す。用語「特異的結合」または「特異的に結合する」は、好ましくは、ターゲット分子に対して少なくとも10-8Mまたはさらにより好ましくは少なくとも10-9Mのアフィニティを指す。用語「特異的」または「特異的に」は、試料中に存在する他の分子が、ターゲット分子に特異的な結合剤に有意には結合しないことを示すよう用いられる。好ましくは、ターゲット分子以外の分子に結合するレベルは、ターゲット分子に対するアフィニティのわずか10%またはそれ未満、より好ましくはわずか5%またはそれ未満の結合アフィニティを生じる。
【0052】
第三に、結合剤を、共有的にまたは非共有的に、結合剤の検出および測定を可能にする標識にカップリングすることも可能である。標識を、直接または間接的方法によって行ってもよい。直接標識は、標識を結合剤に直接(共有的または非共有的に)カップリングする工程を含む。間接的標識は、第一の結合剤に二次結合剤を(共有的または非共有的に)結合させる工程を含む。二次結合剤は、第一の結合剤に特異的に結合しなければならない。前記の二次結合剤を、適切な標識にカップリングさせてもよいし、そして/または前記の二次結合剤は該二次結合剤に結合する三次結合剤のターゲット(レセプター)であってもよい。
【0053】
本明細書に言及するようなバイオマーカーは当該技術分野に周知である。
脳ナトリウム利尿ペプチド(rain atriuretic eptide)型ペプチド(本明細書において、またBNP型ペプチドとも称される)は、好ましくは、プレプロBNP、プロBNP、NT-プロBNP、およびBNPからなる群より選択される。プレプロペプチド(プレプロBNPの場合は134アミノ酸)は、短いシグナルペプチドを含み、該シグナルペプチドは、酵素的に切断されて、プロペプチドを放出する(プロBNPの場合は108アミノ酸)。プロペプチドは、さらに切断されてN末端プロペプチド(NT-プロペプチド、NT-プロBNPの場合は76アミノ酸)となり、そして活性ホルモン(BNPの場合は32アミノ酸)となる。好ましくは、本発明にしたがった脳ナトリウム利尿ペプチドは、NT-プロBNP、BNP、およびその変異体である。BNPは活性ホルモンであり、そしてそれぞれの不活性対応物NT-プロBNPよりも短い半減期を有する。好ましくは、脳ナトリウム利尿ペプチド型ペプチドは、BNP(脳ナトリウム利尿ペプチド)であり、そしてより好ましくはNT-プロBNP(プロホルモン脳ナトリウム利尿ペプチドのN末端)である。
【0054】
用語「心臓トロポニン」は、心臓の細胞、そして好ましくは心内膜下細胞において発現
されるすべてのトロポニン・アイソフォームを指す。これらのアイソフォームは、例えば、Anderson 1995, Circulation Research, vol. 76, no. 4:681-686およびFerrieres 1998, Clinical Chemistry, 44:487-493に記載されるように、当該技術分野において、よく特徴付けられる。好ましくは、心臓トロポニンは、トロポニンTおよび/またはトロポニンIであり、そして最も好ましくは、トロポニンTである。
【0055】
IGF結合タンパク質7(=IGFBP7)は、内皮細胞、血管平滑筋細胞、線維芽細胞、および上皮細胞によって分泌されることが知られる30kDaのモジュラー糖タンパク質である(Ono, Y.ら, Biochem Biophys Res Comm
202(1994)1490-1496)。好ましくは、用語「IGFBP7」は、ヒトIGFBP7を指す。該タンパク質の配列は、当該技術分野において周知であり、そして例えばGenBank(NP_001240764.1)を通じてアクセス可能である。
【0056】
ST2は、「インターロイキン1受容体様1」としても知られ、機械的ストレス条件下で、心臓線維芽細胞および心筋細胞によって産生される、IL-1受容体ファミリーのメンバーである。ST2は、インターロイキン-1受容体ファミリーメンバーであり、そして膜結合アイソフォームおよび可溶性アイソフォーム(sST2)の両方で存在する。本発明の背景において、可溶性ST2の量が決定されるものとする(Dieplingerら(Clinical Biochemistry, 43, 2010: 1169~1170)。ST2はまた、インターロイキン1受容体様1またはIL1RLIとして知られ、ヒトにおいて、IL1RLI遺伝子によってコードされる。ヒトST2ポリペプチドの配列は、当該技術分野において周知であり、そして例えば、GenBankを通じてアクセス可能である。NP_003847.2 GI:27894328を参照されたい。
【0057】
バイオマーカー、線維芽細胞増殖因子-23(「FGF-23」と略される)は当該技術分野において周知である。FGF-23は、リン酸カルシウムおよびビタミンD代謝の制御における重要な因子であり、そして心臓血管事象の重要な決定因子であるLV肥大の病因形成において、原因となる役割を有する。好ましくは、FGF-23はヒトFGF-23である。ヒトFGF-23の配列は、当該技術分野に周知であり、例えばアミノ酸配列は、GenBank寄託番号NM_020638.1 GI:10190673を通じてアクセス可能である。さらに、該配列はまた、Shimadaら, 2001, PNAS, vol. 98(11)6500~6505ページにも開示される。
【0058】
用語「増殖分化因子-15」または「GDF-15」は、トランスフォーミング増殖因子(TGF)サイトカイン・スーパーファミリーのメンバーであるポリペプチドに関する。用語、ポリペプチド、ペプチドおよびタンパク質は、本明細書を通じて、交換可能に用いられる。GDF-15は、元来、マクロファージ阻害性サイトカイン1としてクローニングされ、そして後にまた、胎盤トランスフォーミング増殖因子-15、胎盤骨形態形成タンパク質、非ステロイド性抗炎症薬剤活性化遺伝子1、および前立腺由来因子としても同定された(Bootcov 前引用箇所; Hromas, 1997 Biochim Biophys Acta 1354:40-44; Lawton 1997, Gene 203: 17-26; Yokoyama-Kobayashi 1997, J Biochem (Tokyo), 122:622-626; Paralkar 1998, J Biol Chem 273: 13760-13767)。GDF-15のアミノ酸配列は、WO99/06445、WO00/70051、WO2005/113585、Bottner 1999, Gene 237: 105-111、Bootcov 前引用箇所、Tan 前引用箇所、Baek 2001, Mol Pharmacol 59: 901-908、Hromas 前引用箇所、Paralkar 前引用箇所、Morrish 1996, Placenta 17:431-441に開示される。
【0059】
細胞間接着分子-1(ICAM-1;しばしばまたCD54とも称される)は、典型的には内皮細胞および免疫系細胞上に発現される、膜貫通糖タンパク質である。ICAM-1の構造は、大量のグリコシル化によって特徴付けられ、そして5つの免疫グロブリン(Ig)様ドメインを形成する細胞外部分からなる。これらのドメインは、単一の膜貫通領域および短い細胞質テールに付着される。ICAM-1のいくつかのリガンドが記載されてきており;CD11a/CD18、またはCD11b/CD18型のインテグリンに結合し、そしてまた、ライノウイルスによって受容体として利用される。ヒトICAM-1のアミノ酸配列は、好ましくは、UniProtエントリーP05362に提供される。本発明にしたがって言及されるICAM-1は、前記の特定の配列のアレル変異体および他の変異体をさらに含む。
【0060】
マーカー「アンギオポエチン2」(ANG2)は当該技術分野に周知である(例えばSarah Y. Yuan; Robert R. Rigor(2010年9月30日). Regulation of Endothelial Barrier Function. Morgan & Claypool Publishers. ISBN 978-1-61504-120-6)を参照されたい。アンギオポエチン2は胚および出生後血管形成において役割を果たす血管増殖因子ファミリーの一部である。アンギオポエチン-2は、内皮細胞中のバイベル・パラーデ小体で産生され、そして保存され、そしてTEKチロシンキナーゼアンタゴニストとして作用する。アンギオポエチン-2は、慢性透析を受けている小児における初期心臓血管疾患に関するマーカーである(Shroffら(2013). 「循環アンギオポエチン-2は、慢性透析を受けている小児における初期心臓血管疾患に関するマーカーである」 PLoS ONE 8 (2):e56273)。ANG2の配列には、例えば、UniProtを通じてアクセス可能である(寄託番号O15123を参照されたい)。
【0061】
用語「レベル」は、本明細書において、本明細書に言及するようなバイオマーカーの絶対量、前記バイオマーカーの相対量または濃度、ならびにこれらに相関するかまたはこれらから派生しうる任意の値またはパラメータを含む。
【0062】
用語「比較すること」は、本明細書において、個体または患者由来の試料におけるバイオマーカーのレベルを、本明細書の別の箇所に明記するバイオマーカーの参照レベルと比較することを指す。本明細書において、比較することは、通常、対応するパラメータまたは値の比較を指し、例えば絶対量を絶対参照量と比較する一方、濃度を参照濃度と比較するか、または試料中のバイオマーカーから得られる強度シグナルを参照試料から得られる同じタイプの強度シグナルと比較すると理解されるものとする。比較を、手動で、またはコンピュータ補助比較で実行してもよい。個体または患者由来の試料中のバイオマーカーの測定されるまたは検出されるレベルおよび参照レベルの値を、例えば互いに比較してもよいし、そして比較のためのアルゴリズムを実行するコンピュータプログラムによって、前記比較が自動的に実行されてもよい。
【0063】
用語「参照レベル」は当該技術分野に周知である。好ましい参照レベルは、当業者によって、さらなる面倒を伴わずに決定可能である。好ましくは、用語「参照レベル」は、本明細書において、それぞれのバイオマーカーに関して、あらかじめ決定された値を指す。この背景において、「レベル」は絶対量、相対量または濃度、ならびにこれらに相関するかまたはこれらに由来しうる任意の値またはパラメータを含む。好ましくは、参照レベルは、被験体を、慢性心不全に迅速に進行するリスクおよび/または慢性心不全によって入院するリスクおよび/または死亡するリスクを有する被験体群に、あるいは慢性心不全に迅速に進行するリスクおよび/または慢性心不全によって入院するリスクおよび/または死亡するリスクを持たない被験体群に割り当てることを可能にするレベルである。したがって、参照レベルは、(慢性心不全に迅速に進行するリスクおよび/または慢性心不全によって入院するリスク)および/または死亡するリスクを有するまたはこうしたリスクを持たない被験体の間の区別を可能にするものとする。
【0064】
当業者が認識するであろうように、参照レベルがあらかじめ決定されており、そして例えば特異性および/または感度に関してルーチンの必要条件を満たすように設定される。これらの必要条件は、例えば取締機関によって多様でありうる。例えば、アッセイ感度または特異性が、それぞれ、特定の制限、例えばそれぞれ80%、90%、95%または98%に設定されなければならない可能性もある。これらの必要条件はまた、陽性または陰性予測値に関しても定義されうる。にもかかわらず、本発明に提供する解説に基づいて、当業者は、こうした必要条件を満たす参照レベルに到達することが常に可能であろう。1つの態様において、参照レベルは、リスクがある患者(または患者群)由来の参照試料(単数または複数)において決定される。別の態様において、参照は、(慢性心不全に迅速に進行するおよび/または慢性心不全によって入院するおよび/または死亡する)リスクのない患者(または患者群)由来の参照試料(単数または複数)において決定される。参照レベルは、1つの態様において、患者が属する疾患実体由来の参照試料においてあらかじめ決定されている。特定の態様において、参照レベルは、例えば、調べた疾患実体における値の全体の分布の25%~75%の間の任意の割合に設定可能である。他の態様において、参照レベルは、例えば、調べている疾患実体由来の参照試料における値の全体の分布から決定されるような、中央値、三分位数または四分位数に設定されることも可能である。1つの態様において、参照レベルは、調べる疾患実体における値の全体の分布から決定されるような中央値に設定される。参照レベルは、年齢、性別または下位集団などの多様な生理学的パラメータ、ならびに本明細書に言及するバイオマーカーの決定に用いる手段に応じて多様でありうる。1つの態様において、参照試料は、本発明の方法に供される個体または患者由来の試料と本質的に同じタイプの細胞、組織、臓器または体液供給源に由来し、例えば本発明にしたがって、個体におけるバイオマーカーのレベルを決定する試料として血液が用いられる場合、参照レベルもまた、血液またはその一部において決定される。
【0065】
好ましくは、以下がアルゴリズムとして適用される:
好ましくは、参照レベル(単数または複数)より高い少なくとも1つのバイオマーカーのレベル(単数または複数)は、被験体が慢性心不全に迅速に進行するリスクおよび/または慢性心不全によって入院するリスクおよび/または死亡するリスクを有することを示す。やはり好ましくは、参照レベル(単数または複数)より低い少なくとも1つのバイオマーカーのレベル(単数または複数)は、被験体が慢性心不全に迅速に進行するリスクおよび/または慢性心不全によって入院するリスクおよび/または死亡するリスクを持たないことを示す。
【0066】
前述のアルゴリズムは、特に、本発明の方法の工程a)において、異常なMFSまたはLVHの存在が評価されている場合、すなわち、工程a)において、被験体が異常なMFSまたはLVHを患うと評価されている場合に、当てはまる。
【0067】
特定の態様において、用語「参照レベルより大きい」または「参照レベルより高い」は、参照レベルと比較した際に、本明細書記載の方法によって決定される、参照レベルより高い個体または患者由来の試料中のバイオマーカーのレベル、あるいは5%、10%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%、100%またはそれより高い全体の増加を指す。特定の態様において、用語、増加は、個体または患者由来の試料におけるバイオマーカーレベルの増加であって、例えば参照試料からあらかじめ決定した参照レベルに比較した際、少なくとも約1.5、1.75、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50、60、70、75、80、90、または100倍高い、前記増加を指す。特定の態様において、用語「参照レベルより低い」または「未満」は、本明細書において、参照レベルと比較した際に、本明細書記載の方法によって決定される、参照レベルより低い個体または患者由来の試料中のバイオマーカーのレベル、あるいは5%、10%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれより高い全体の減少を指す。特定の態様において、用語、減少は、個体または患者由来の試料におけるバイオマーカーのレベルの減少であって、減少したレベルが例えば参照試料からあらかじめ決定した参照レベルの、最大約0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2、0.1、0.05、または0.01倍である、前記減少を指す。
【0068】
好ましい参照レベルは、当業者によって、さらなる面倒を伴わずに決定可能である。参照レベルは、年齢依存性であることも可能である。しかし、これは当業者によって考慮される。例えば、参照レベルは、被験体集団において、中央値レベルであることも可能である。本明細書に開示するマーカーに関する好ましい参照レベルを表3中の実施例セクションに示す。望ましい感度および特異性に応じて、参照レベルは異なることも可能である。
【0069】
本発明の方法の好ましい態様において、前記方法は、被験体が慢性心不全に迅速に進行するリスクおよび/または慢性心不全によって入院するリスクおよび/または死亡するリスクを有すると予測される場合、少なくとも1つの適切な療法を推奨し、そして/または開始する工程をさらに含む。したがって、本発明はまた、治療法にも関する。
【0070】
好ましくは、本発明の背景において用いられるような用語「療法」は、ライフスタイル変化、食餌療法、体に対する介入、ならびに医薬品治療、すなわち薬物(単数または複数)での治療を含む。
【0071】
治療に適した薬物は、当該技術分野に周知であり、例えばHeart Disease, 2008, 第8版, Braunwald監修, Elsevier Sounders、第24章(心不全に関して)、および第41章(高血圧に関して)を参照されたい。これらの治療は、本発明の一部である。好ましくは、こうした薬物投与は、被験体が慢性心不全に迅速に進行するリスクおよび/または慢性心不全によって入院するリスクおよび/または死亡するリスクを減少させることを目的とする。好ましくは、薬物は、アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、アンギオテンシン受容体アンタゴニスト(ARB)、アルドステロン・アンタゴニスト、利尿剤、およびベータ遮断剤からなる群より選択される。特に、薬物はアンギオテンシン受容体アンタゴニスト、またはACE阻害剤である。
【0072】
好ましい利尿剤は、ループ利尿剤、チアジドおよびチアジド様利尿剤である。好ましいベータ遮断剤は、プロプレノロール、メトプロロール、ビソプロロール、カルベジロール、ブシンドロール、およびネビボロールである。好ましいACE阻害剤には、エナラプリル、カプトプリル、ラミプリル、およびトランドラプリルである。好ましいアンギオテンシン受容体アンタゴニストはロサルタン、バルサルタン、イルベサルタン、カンデサルタン、テルミサルタン、およびエプロサルタンである。好ましいアルドステロン・アンタゴニストは、エプレロン、スピロノラクトン、カンレノン、メクスレノンおよびプロレノンである。好ましいカルシウム・アンタゴニストは、ジヒドロピリジン、ベラパミル、およびジルチアゼムである。
【0073】
ライフスタイル変化には、禁煙、アルコール消費の減少、身体的活動の増加、体重減少、ナトリウム(塩)制限、体重管理および健康な食生活、毎日の魚油、塩制限が含まれる。
【0074】
さらに好ましい療法は、全開示内容に関して、本明細書に援用される、Frohlichら(Journal of Hypertension 2011, 29:17-26)に開示される。特に、この参考文献の21および22ページを参照されたい。
【0075】
本明細書の以下に提供する定義は、変更すべきところは変更して、本発明の以下の態様に当てはまる。
本発明はまた、被験体が慢性心不全に迅速に進行するリスクおよび/または慢性心不全によって入院するリスクおよび/または死亡するリスクを予測するため、a)前記被験体から得た心臓の心エコー画像であって、前記被験体における(i)異常なMFS、および/または(ii)LVHの存在または非存在を評価することを可能にする前記画像、あるいはb)前記被験体における(i)異常なMFS、および/または(ii)LVHの存在または非存在を評価することを好ましくは可能にする心エコーデバイスと組み合わせた、被験体試料中のBNP型ペプチド、IGFBP7(IGF結合タンパク質7)、心臓トロポニン、可溶性ST2(sST2)、FGF-23(線維芽細胞増殖因子23)、増殖分化因子15(GDF-15)、細胞間接着分子1(ICAM-1)、およびアンギオポエチン-2(ANG2)からなる群より選択される少なくとも1つのバイオマーカーの使用にも関する。
【0076】
本発明はまた、被験体が慢性心不全に迅速に進行するリスクおよび/または慢性心不全によって入院するリスクおよび/または死亡するリスクを予測するため、a)前記被験体から得た心臓の心エコー画像であって、前記被験体における(i)異常なMFS、および/または(ii)LVHの存在または非存在を評価することを可能にする前記画像、あるいはb)前記被験体における(i)異常なMFS、および/または(ii)LVHの存在または非存在を評価することを好ましくは可能にする心エコーデバイスと組み合わせた、被験体試料中のBNP型ペプチド、IGFBP7(IGF結合タンパク質7)、心臓トロポニン、可溶性ST2(sST2)、FGF-23(線維芽細胞増殖因子23)、増殖分化因子15(GDF-15)、細胞間接着分子1(ICAM-1)、およびアンギオポエチン-2(ANG2)からなる群より選択されるバイオマーカーに結合する少なくとも1つの結合剤の使用にも関する。
【0077】
好ましくは、本明細書に言及するような心エコー装置は、(i)異常なMFSおよび/または(ii)LVHの存在または非存在の評価に用いられる。
用語「結合剤」は、上に定義されている。好ましくは、結合剤は、本明細書に言及するようなバイオマーカーに特異的に結合する。より好ましくは、結合剤は、抗体またはその断片である。少なくとも1つの結合剤を使用してもよい。1より多いバイオマーカーのレベルを決定する場合、1より多い結合剤を用いる。例えば、BNP型ペプチドおよびIGFBP7のレベルを測定する場合、BNP型ペプチドに結合する結合剤およびIGFBP7に結合する結合剤を用いる。
【0078】
さらに、本発明の方法を実行するために適応されたデバイスであって
a)被験体試料中のBNP型ペプチド、IGFBP7(IGF結合タンパク質7)、心臓トロポニン、可溶性ST2(sST2)、FGF-23(線維芽細胞増殖因子23)、増殖分化因子15(GDF-15)、細胞間接着分子1(ICAM-1)、およびアンギオポエチン-2(ANG2)からなる群より選択される少なくとも1つのマーカーのレベルを測定するため、少なくとも1つの結合剤を含むアナライザー装置、
b)被験体が(i)異常なMFSおよび/または(ii)LVHを患うかどうかの情報
を入力するためのデータ入力手段、および
c)測定レベル(単数または複数)を参照レベル(単数または複数)と比較し、それによって、測定レベル(単数または複数)を参照レベル(単数または複数)と比較した結果に基づいて、そして被験体が(i)異常なMFSおよび/または(ii)LVHを患うかどうかの情報に基づいて、被験体が慢性心不全に迅速に進行するリスクおよび/または慢性心不全によって入院するリスクおよび/または死亡するリスクを予測するための評価装置であって、参照レベル(単数または複数)を含むデータベースおよび比較を実行するためのコンピュータ実装アルゴリズムを含む、前記装置
を含む、前記デバイスを提供する。
【0079】
用語「デバイス」は、本明細書において、本発明の方法にしたがった診断を可能にするように、互いに機能可能であるように連結された上述の装置を含む系に関する。アナライザー装置に使用可能な好ましい結合剤は、本明細書中の別の箇所に開示される。アナライザー装置は、好ましくは、そのレベルを測定しようとするバイオマーカーを含む試料に接触させるべき固体支持体上に固定された形で、前記剤を含む。さらに、アナライザー装置はまた、バイオマーカー(単数または複数)に特異的に結合した検出剤のレベルを測定する検出装置を含むことも可能である。測定したレベル(単数または複数)を、評価装置に伝達してもよい。
【0080】
いくつかの態様にしたがって、アナライザー装置は、試料での分析物、例えばマーカーの光学検出のために設定されることも可能である。光学検出のために設定された例示的なアナライザー装置は、電磁エネルギーを電気シグナルに変換するために設定されたデバイスを含み、該デバイスは、単一および多要素またはアレイ光学検出装置の両方を含む。本開示にしたがって、光学検出装置は、光学的電磁シグナルを監視し、そして光学経路中に位置する試料における分析物の存在および/または濃度の指標となる、ベースラインシグナルに比較した、電気出口シグナルまたは反応シグナルを提供することが可能である。
【0081】
前記評価装置は、好ましくは、データプロセシング要素、例えばコンピュータまたは計算デバイスを含む。好ましくは、前記要素は、前記レベル(単数または複数)の参照レベル(単数または複数)への比較を実行して、比較結果に基づいて、そして被験体が異常な中層短縮率を患うかどうかの情報に基づいて、被験体が慢性心不全に迅速に進行するリスクおよび/または慢性心不全によって入院するリスクおよび/または死亡するリスクを予測するための実装アルゴリズムを有する。結果は、パラメータ診断生データの出力として提供されうる。これらのデータは、通常、臨床医による解釈を必要とするであろうことが理解されるものとする。しかし、やはり想定されるのは、出力が、解釈に専門医を必要としないプロセシングされた診断生データを含む、エキスパート系デバイスである。
【0082】
上記から、本開示のいくつかの態様にしたがって、本明細書に開示し、そして記載する方法のいくつかの工程の部分を、計算デバイスによって行うことも可能であることになる。計算デバイスは、例えば、汎用コンピュータまたはポータブル計算デバイスであることも可能である。本明細書開示の方法の1またはそれより多い工程を実行するため、例えばネットワークを通じてまたはデータをトランスファーする他の方法を通じて、多数の計算デバイスを一緒に用いてもよいこともまた理解されるべきである。計算デバイスは、メモリへのアクセスを有する。メモリは、コンピュータ読み取り可能媒体であり、そして例えば計算デバイスとともにローカルに位置するか、またはネットワークを通じて計算デバイスにアクセス可能である、単一の記憶デバイスまたは多数の記憶デバイスを含むことも可能である。計算デバイスはまた、出力デバイスにアクセスを有することも可能である。例示的な出力デバイスには、例えば、ファックス装置、ディスプレイ、プリンタ、およびファイルが含まれる。本開示のいくつかの態様にしたがって、計算デバイスは、本明細書に開示する方法の1またはそれより多い工程を実行することも可能であり、そしてその後、出力デバイスを通じて、方法の結果、徴候、比、または他の要因に関連する出力を提供することも可能である。
【0083】
本開示の態様にしたがって、ソフトウェアには、計算デバイスのプロセッサによって実行された際、本明細書に開示する方法の1またはそれより多い工程を実行可能な命令が含まれてもよい。命令のいくつかは、他の機械の操作を制御するシグナルを生じるように適応していてもよく、そしてしたがって、これらの制御シグナルを通じて作動して、コンピュータ自体から遠く離れて素材を変換することも可能である。
【0084】
本明細書の以下に提供する定義は、変更すべきところは変更して、本発明の以下の態様に当てはまる。
さらに、本発明は、被験体が慢性心不全に迅速に進行するリスクおよび/または慢性心不全によって入院するリスクおよび/または死亡するリスクを予測するための方法であって:
(a)(i)異常なMFSおよび/または(ii)LVHを患う被験体由来の試料中のBNP型ペプチド、IGFBP7(IGF結合タンパク質7)、心臓トロポニン、可溶性ST2(sST2)、FGF-23(線維芽細胞増殖因子23)、増殖分化因子15(GDF-15)、細胞間接着分子1(ICAM-1)、およびアンギオポエチン-2(ANG2)からなる群より選択される少なくとも1つのバイオマーカーのレベルを測定し、そして
(b)前記の少なくとも1つのバイオマーカーのレベルを参照レベルと比較する
工程を含む、前記方法に関する。
【0085】
好ましくは、被験体が慢性心不全に迅速に進行するリスクおよび/または慢性心不全によって入院するリスクおよび/または死亡するリスクを予測する、さらなる工程c)を実行することによって、リスクを予測する。前記工程は、工程b)の結果に基づく。
【0086】
異常なMFS(代替(i))を患う被験体は、LVHを患っていてもまたはいなくてもよい。特に、被験体がLVHを患わないことが想定される。
代替(i)および(ii)の好ましいバイオマーカーおよびバイオマーカー組み合わせを本明細書の別の箇所に開示する。さらに、参照レベルならびに好ましい診断アルゴリズムを本明細書の別の箇所に記載する。好ましくは、参照レベル(単数または複数)より高い少なくとも1つのバイオマーカーのレベル(単数または複数)は、被験体が慢性心不全に迅速に進行するリスクおよび/または慢性心不全によって入院するリスクおよび/または死亡するリスクを有することを示す。やはり好ましくは、参照レベル(単数または複数)より低い少なくとも1つのバイオマーカーのレベル(単数または複数)は、被験体が慢性心不全に迅速に進行するリスクおよび/または慢性心不全によって入院するリスクおよび/または死亡するリスクを持たないことを示す。
【0087】
本発明はまた、被験体が慢性心不全に迅速に進行するリスクおよび/または慢性心不全によって入院するリスクおよび/または死亡するリスクを予測するため、(i)異常なMFS、および/または(ii)LVHを患う被験体試料中のBNP型ペプチド、IGFBP7(IGF結合タンパク質7)、心臓トロポニン、可溶性ST2(sST2)、FGF-23(線維芽細胞増殖因子23)、増殖分化因子15(GDF-15)、細胞間接着分子1(ICAM-1)、およびアンギオポエチン-2(ANG2)からなる群より選択される少なくとも1つのバイオマーカーの使用にも関する。
【0088】
本発明はまた、被験体が慢性心不全に迅速に進行するリスクおよび/または慢性心不全によって入院するリスクおよび/または死亡するリスクを予測するため、(i)異常なMFS、および/または(ii)LVHを患う被験体試料中のBNP型ペプチド、IGFB
P7(IGF結合タンパク質7)、心臓トロポニン、可溶性ST2(sST2)、FGF-23(線維芽細胞増殖因子23)、増殖分化因子15(GDF-15)、細胞間接着分子1(ICAM-1)、およびアンギオポエチン-2(ANG2)からなる群より選択されるバイオマーカーに結合する少なくとも1つの結合剤の使用にも関する。
【0089】
上に言及するすべての参考文献は、その全開示内容、ならびに上記説明に明確に言及する特定の開示内容に関して、本明細書に援用される。
【実施例
【0090】
以下の実施例は本発明を例示するものとする。これらはしかし、本発明の範囲を限定するとは見なされないものとする。
実施例1:
いくつかの循環バイオマーカーと、不都合な転帰を伴う、前臨床収縮不全の初期心エコー指標である異常な中層短縮率(MFS)の組み合わせを調べた。
【0091】
多様なバイオマーカー(NTプロBNP、ICAM1、cTNT、FGF23、IGFBP7、MMP2、PLGF、eセレクチン、GDF15、ST2、ガレクチン-3,ビタミンD、CRP、シスタチンC、OPN、P1NP、ミメカン、エンドスタチン、プロANP、ANG2)の循環レベルを、PREDICTOR研究から選択した550の高齢個体(年齢65~84歳)において測定した。参加者は、臨床検査および中央測定MFSを伴う包括的ドップラー心エコーのため、心臓センターに委ねられた。すべての原因の死亡の絶対数は、管理データの記録連結から46[39~54]ヶ月後の追跡期間中央値で利用可能であった。死亡は36例で記録された。
【0092】
LV中層機能不全の個体(MFS<15%)は、正常機能を持つものよりも、NT-プロBNP、cTnT、IGFBP7、sST2、GDF15、ICAM1またはFGF23のより高いレベルを有した。異常なMFSおよび上昇したNT-プロBNPを持つ個体の間の相対死亡発生率は(>75年齢および性別特異的パーセンタイル)は、14.29%対1,96%(異常なMFS、低NT-プロBNP)、6.22%(正常MFS、高NT-プロBNP)および0.85%(正常MFS、低NT-プロBNP)であった(図1)。
【0093】
cTnT(>3ng/L)に関する対応する値は、14.09、0,0、4,65および3%であった(図2)。中央値濃度を超える、IGFBP7に関する対応する値は、15,85、2,94、6,87および1,36%であった(図3)。中央値濃度を超える、sST2に関する対応する値は、15,89、4,82、6,13および2,03%であった(図4)。中央値濃度を超える、FGF23に関する対応する値は、14,04、6,58、6,9および1,83%であった(図5)。
【0094】
性別、年齢、eGFRおよび高血圧歴に関して調整した後、異常なMFS、および上昇したNTプロBNP、IGFBP7、FGF23、GDF15、ICAM1、ANG2またはsST2を有する被験体は、正常MFSおよび低いNTプロBNP、IGFBP7、FGF23、GDF15、ICAM1、ANG2またはsST2を有するものに比較して、死亡率のより高いリスクを有した。
【0095】
NTプロBNPに関してハザード比(HR)=11.4(p=0.002)、ST2に関してHR=6.1(p=0.005)、ICAM1に関してHR=7.4(p=0.002)、アンギオポエチン2に関してHR=3.2(p=0.02)、IGFBP7に関してHR=6.5(p=0.002)、FGF23に関してHR=7.46(p=0.002)、GDF15に関してHR=7.39(p=0.002)(表1)。
【0096】
MFSを伴い、LV収縮機能の初期の改変と組み合わされた、循環NTプロBNP、cTnT、IGFBP7、FGF23、GDF15、ICAM1、ANG2またはsST2の上昇は、年齢65歳またはそれより高齢である一般集団において、死亡するより高いリスクを有する、個体の下位群を同定する。
【0097】
性別、年齢、eGFRおよび高血圧歴に関して調整した後、上昇したST2またはIGFBP7またはGDF15またはFGF23と組み合わせて、異常なMFSおよび上昇したNTプロBNPを有する被験体は、正常MFSおよび低NTプロBNP、ST2、FGF23、GDF15、IGFBP7を有するものと比較して、より高い死亡率のリスクを有した。NTプロBNPおよびIGFBP7に関して、HR=20.01、NTプロBNPおよびST2に関してHR=19.07、NTプロBNPおよびFGF23に関して10.54、NTプロBNPおよびGDF15に関してHR=12.62(表1)。性別、年齢、eGFRおよび高血圧歴に関して調整した後、上昇したST2と組み合わせて、異常なMFSおよび上昇したIGFBP7を有する被験体は、正常MFSおよび低IGFBP7および低ST2を有するものと比較して、より高い死亡率のリスクを有した。IGFBP7およびST2に関してHR=17.96(表1)。
【0098】
上昇した循環NTプロBNPは、異常なMFSと組み合わせて測定した際、不都合な転帰への最も顕著な関連を示した(表1)。上昇した循環NTプロBNPは、上昇した循環IGFBP7および異常なMFSまたはLVHのいずれかと組み合わせて測定した際、不都合な転帰/死亡率に最も顕著な関連を示した(図11および12、表1)。
【0099】
性別、年齢、eGFRおよび高血圧歴に関して調整した後、異常なMFSおよび上昇したNTプロBNP、Ang2、ICAM1、IGFBP7、sST2、GDF15およびFGF23を有する被験体は、死亡率に関して有意により高いリスクを有することが見出された(表1)。
【0100】
対照的に、本研究に含まれたいくつかの他のバイオマーカーは、異常なMFSと組み合わせて測定した際、CV/HFに関連する不都合な転帰に関してより高いリスクを有する高齢者集団における下位群を同定するために適しているとは見出されなかった。
【0101】
上昇したCRP、CysC,ビタミンDおよびプロANPは、異常なMFSを持つ被験体における死亡のより高いリスクと顕著に関連することは見出されなかった。性別、年齢、eGFRおよび高血圧歴に関して調整した後、異常なMFSおよび上昇したCRP、CysC、プロANP、ビタミンDを有する被験体は、異常なMFSを持たず、そしてそれぞれのバイオマーカーが低レベルである被験体と比較して、死亡率の有意により高いリスクを持たないことが見出された(表1)。
【0102】
実施例2:
実施例1に言及するようなバイオマーカーと異常なMFSの組み合わせを、正常左心室重量を有するPREDICTOR研究の参加者から得た試料のサブセットにおいて、さらに調べた。
【0103】
LV中層機能不全(MFS<15%)を有する個体は、正常機能を持つものよりより高いレベルのNT-プロBNP、cTnT、IGFBP7、sST2またはFGF23を有した。異常なMFSおよび上昇したNT-プロBNPを有する個体の死亡の相対発生率(>75年齢および性別特異的パーセンタイル)は、13.51%対0%(異常なMFS、低NT-プロBNP)、6.77%(正常MFS、高NT-プロBNP)および1.06%(正常MFS、低NT-プロBNP)であった(図6)。中央値濃度を超えるIGFBP7に関する対応する値は、16,0%、6.93%および1.9%であった(図8)。
【0104】
異常なMFSおよび上昇したcTnT(>3ng/L)を有する個体の間の死亡の絶対数は、5対0(異常なMFS、低cTnT)、8(正常MFS、高cTnT)および2(正常MFS、低cTnT)であった(図7)。中央値濃度を超えるsST2に関する対応する数値は、3、2、9および1であった。中央値濃度を超えるFGF23に関する対応する数値は、5、0、7および3であった(図9)(図10)。
【0105】
MFSを伴い、LV収縮機能の早期改変と組み合わされた、循環NTプロBNP、cTnT、IGFBP7、FGF23またはsST2の上昇は、CV/HF関連入院/死亡および/またはすべての原因の死亡のより高いリスクを有する、正常左心室重量を持つ年齢65歳またはそれより高齢の一般集団における個体の下位群を同定する。
【0106】
対照的に、本研究に含まれるいくつかの他のバイオマーカーは、正常LV重量を有する被験体における異常なMFSと組み合わせて測定した際、CV/HFに関連する不都合な転帰のより高いリスクを有する、高齢集団における下位群を同定するためには、適しているとは見出されなかった。
【0107】
実施例3
不都合な転帰を伴う、前臨床構造的心疾患の早期心エコー指標である左心室肥大と、いくつかの循環バイオマーカーの組み合わせを調べた。
【0108】
PREDICTOR研究より選択した550人の高齢個体(年齢65~84歳)において、NT-プロBNP、ICAM-1、ST2、hsCRP、シスタチンC、プロANP、ビタミンD、FGF23、GDF15およびIGFBP7の循環レベルを測定した。死亡の絶対数は、管理データの記録連結から46[39~54]ヶ月後の追跡期間中央値で利用可能であった。死亡は36例で記録された。
【0109】
LVHを有する個体は、正常機能を有するものよりも、より高いレベルのNT-プロBNPおよびIGFBP7を有した。LVH、上昇したNTプロBNP(>75年齢および性別特異的パーセンタイル)および上昇したIGFBP7(中央値濃度を超える)を有する個体間の相対死亡発生率は、19.15%対0%(LVH、低NTプロBNP、低IGFBP7)、13.79%(LVHなし、高NTプロBNP、高IGFBP7)および1.08%(LVHなし、低NTプロBNP、低IGFBP7)であった(図11)。異常なMFS、上昇したNTプロBNP(>75年齢および性別特異的パーセンタイル)および上昇したIGFBP7(中央値濃度を超える)を有する個体間の相対死亡発生率は、17%対3%であった(異常なMFSなし、低NTプロBNP、低IGFBP7)。
【0110】
LVHと組み合わされた循環NTプロBNPおよびIGFBP7の上昇は、年齢65歳またはそれより高齢である一般集団において、死亡するより高いリスクを有する、個体の下位群を同定する。
【0111】
LVHと組み合わされた循環NTプロBNPおよびIGFBP7の両方の上昇は、年齢65歳またはそれより高齢である一般集団において、死亡するより高いリスクを有する、個体の下位群を同定する。
【0112】
性別、年齢、eGFRおよび高血圧歴に関して調整した後、LVHおよび上昇したNTプロBNPおよびIGFBP7を有する被験体は、LVHを持たず、そして低IGFBP7、NTプロBNPであるものに比較して、CV/HF関連入院/死亡のより高いリスクを有した。
【0113】
LVHと組み合わされた循環NTプロBNP、IGFBP-7、ICAM-1、FGF23、GDF15またはsST2の上昇は、年齢65歳またはそれより高齢である一般集団において、CV/HF関連入院/死亡および/またはすべての原因の死亡のより高いリスクを有した。
【0114】
性別、年齢、eGFRおよび高血圧歴に関して調整した後、LVHおよび上昇したFGF23、GDF15、ICAM1、またはsST2を有する被験体は、正常LV重量および低FGF23、GDF15、ICAM1またはsST2を有するものと比較して、死亡のより高いリスクを有した。
【0115】
ST2に関してハザード比(HR)=3.5(p=0.08)、ICAM1に関してHR=5.5(p=0.009)、FGF23に関してHR=4.9(p=0.01)、GDF15に関してHR=5.83(p=0.03)(表2)。
【0116】
性別、年齢、eGFRおよび高血圧歴に関して調整した後、上昇したST2またはIGFBP7またはGDF15またはFGF23と組み合わされた、LVHおよび上昇したNTプロBNPを有する被験体は、正常LV重量および低NTプロBNP、ST2、FGF23、GDF15、IGFBP7を有するものと比較して、より高い死亡リスクを有した。NTプロBNPおよびIGFBP7に関してHR=9.8、NTプロBNPおよびST2に関してHR=11.9、NTプロBNPおよびFGF23に関してHR=8.3、NTプロBNPおよびGDF15に関してHR=7.1(表2)。性別、年齢、eGFRおよび高血圧歴に関して調整した後、上昇したST2と組み合わされた、LVHおよび上昇したIGFBP7を有する被験体は、正常MFSおよび低IGFBP7および低ST2を有するものと比較して、より高い死亡リスクを有した。IGFBP7およびST2に関してHR=5.7(表2)。
【0117】
対照的に、本研究に含まれるいくつかの他のバイオマーカーは、LVHを有する被験体で測定した際、CV/HFに関連する不都合な転帰のより高いリスクを有する高齢集団中の下位群を同定するためには、適しているとは見出されなかった。
【0118】
上昇したCRP、CysC,ビタミンDおよびプロANPは、LVHを有する被験体において、死亡のより高いリスクと顕著に関連するとは見出されなかった。性別、年齢、eGFRおよび高血圧歴に関して調整した後、LVHおよび上昇したCRP、CysC、プロANP、ビタミンDを有する被験体は、LVHを持たず、そして低いそれぞれのバイオマーカーレベルを有するものと比較して、死亡の有意により高いリスクを有するとは見出されなかった(表2)。
【0119】
表1:異常なMFSおよび上昇した濃度のバイオマーカーを有する被験体における、死亡率に関する多変数Coxモデル
【0120】
【表1】
【0121】
表2:LVHおよび上昇した濃度のバイオマーカーを有する被験体における、死亡率に関する多変数Coxモデル
【0122】
【表2】
【0123】
表3:LVHまたは異常なMFSと組み合わせた、上昇したバイオマーカーおよび死亡に関連するすべての研究で用いた参照レベル
【0124】
【表3】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12