(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-29
(45)【発行日】2022-08-08
(54)【発明の名称】溶接フィラー材料
(51)【国際特許分類】
B23K 35/30 20060101AFI20220801BHJP
C22C 19/05 20060101ALI20220801BHJP
【FI】
B23K35/30 320Q
B23K35/30 330K
B23K35/30 340L
C22C19/05 B
(21)【出願番号】P 2020520002
(86)(22)【出願日】2018-11-15
(86)【国際出願番号】 DE2018100933
(87)【国際公開番号】W WO2019110041
(87)【国際公開日】2019-06-13
【審査請求日】2020-04-07
(31)【優先権主張番号】102017129218.7
(32)【優先日】2017-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】516236078
【氏名又は名称】ファオデーエム メタルズ インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】VDM Metals International GmbH
【住所又は居所原語表記】Plettenberger Strasse 2, D-58791 Werdohl, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】マーティン ヴォルフ
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-033089(JP,A)
【文献】特開2001-107196(JP,A)
【文献】特開2017-036485(JP,A)
【文献】特表2017-515690(JP,A)
【文献】特開2010-029914(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/30
C22C 19/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(重量%)を有する溶接フィラー材料:
C 0.01~0.05%
N 0.05~0.10%
Cr 20.0~23.0%
Mn 0.25~0.50%
Si 0.04~0.10%
Mo 8.0~10.5%
Ti 0.75~1.0%
Nb 3.0~5.0%
Fe 最大1.5%
Al 0.03~0.50%
W 4.0~5.0%
Ta 最大0.5%
Co 最大1.0%
Zr 0.10~0.70%
Ni 残部、並びに溶融に起因する不純物。
【請求項2】
Fe≦1.2%(重量%)
を有する、請求項1に記載の溶接フィラー材料。
【請求項3】
Fe≦0.9%(重量%)
を有する、請求項2に記載の溶接フィラー材料。
【請求項4】
Zr 0.3~0.65%(重量%)
を有する、請求項1から3までのいずれか1項に記載の溶接フィラー材料。
【請求項5】
以下の不純物:
P 最大0.05%
S 最大0.01%
V 最大0.05%
を含有する、請求項1から4までのいずれか1項に記載の溶接フィラー材料。
【請求項6】
合金が、以下の条件
(質量%での比):
Zr/C>7
を満たす、請求項1から5までのいずれか1項に記載の溶接フィラー材料。
【請求項7】
合金が、以下の条件
(質量%での比):
Ti/N>10
を満たす、請求項1から6までのいずれか1項に記載の溶接フィラー材料。
【請求項8】
合金が、以下の条件
(質量%での比):
Nb/C>100
を満たす、請求項1から7までのいずれか1項に記載の溶接フィラー材料。
【請求項9】
熱処理されていない溶着金属において、降伏点Rp0.2>610MPaを有する、請求項1から8までのいずれか1項に記載の溶接フィラー材料。
【請求項10】
熱処理されていない溶着金属において、降伏点Rp0.2>640MPaを有する、請求項9に記載の溶接フィラー材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は溶接フィラー材料に関する。
【背景技術】
【0002】
高合金鋼またはニッケル合金からの圧延クラッディング、爆着クラッドディングまたは溶接クラッディングを備えた非合金鋼および低合金綱の溶接は、特定の前提条件下での冶金学的な理由から、および炭素鋼基材との混合を考慮して、完全オーステナイトの溶着金属を必要とする。そのような場合、ニッケル系の溶接用フィラー材料の使用が必須である。従って、溶接の接合部を横切る機械的な負荷に際して弾性ひずみおよび塑性ひずみが溶接の接合部に優先的に集中し、ひいては溶接の接合部における部材の破損をもたらさないように、ニッケル基合金製の溶着金属は周囲の母材よりも高い降伏点を有さなければならない。
【0003】
従って、特定の状況下でクラッディング薄板を溶接する際、溶着金属中で周囲の炭素鋼よりも高い降伏点を有する、ニッケル系材料の溶接フィラー材料を使用する必要がある。炭素鋼の開発が、化学組成の改良によって、および/または製造工程の最適化によって、ますます高い降伏点をもたらしているので、炭素鋼の分野の開発の段階に合ったニッケル系の溶接フィラー材料を使用することも必要とされる。
【0004】
これまでのところ、上述の前提条件下でのクラッディング薄板の接合溶接のためには、多くの場合、溶接フィラー材料FM 625(ISO18274-S NI 06625)が使用されている。これは、溶着金属において約510MPa~580MPaの降伏点を有し、且つ必要な安全面の備えを考慮して460MPaまでの降伏点を有する炭素鋼の溶接に適している。
【0005】
国際公開第2015/153905号(WO2015/153905A1)は、(重量%で)17.0~23.0%のクロム、5.0~12.0%のモリブデン、3.0~11.0%のタングステン、3.0~5.0%のニオブ、0~2.0%のタンタル、1.2~3.0%のチタン、0.005~1.5%のアルミニウム、0.0005~0.1%の炭素、2%未満の鉄、5%未満のコバルト、残部のニッケルを有し、ここでニッケル含有率が56~65%の範囲に設定される、高強度Ni-Cr-Mo-W-Nb-Ti溶接製品を開示している。溶着金属は496MPaの最低降伏点を有するとのことである。
【0006】
最低のチタン含有率が高いので、この材料については不十分なノッチ付き衝撃強さしか達成されず、なぜなら、チタンは基本元素のニッケルと強く相形成する(γ’層)元素であるからである。これによって、溶着金属の降伏点は高められるが、知られているとおり、γ’相による硬化が材料の強い脆化をもたらす。さらに、γ’相形成剤としてのチタンの作用は、溶接熱によって引き起こされる反応速度論に基づき、溶接プロセスの熱伝導に強く依存している。従って、降伏点について達成できる値は非常にばらつきがあり、そのことによって、実際の使用のために保証される最低降伏点が非常に制限されざるを得ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、良好な溶接性および腐食耐性の他に、従来技術に対して改善されたノッチ付き衝撃強さおよびより高い降伏点も有する、代替的な溶接フィラー材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、下記(重量%)を有する溶接フィラー材料によって解決される:
C 0.01~0.05%
N 0.05~0.10%
Cr 20.0~23.0%
Mn 0.25~0.50%
Si 0.04~0.10%
Mo 8.0~10.5%
Ti 0.75~1.0%
Nb 3.0~5.0%
Fe 最大1.5%
Al 0.03~0.50%
W 4.0~5.0%
Ta 最大0.5%
Co 最大1%
Zr 0.10~0.70%
Ni 残部、並びに溶融に起因する不純物。
【0010】
本発明による材料の有利なさらなる態様は従属請求項から得られる。
【0011】
本発明は、非常に高い機械的降伏点を有する溶着金属を製造するために適した、ニッケル基合金製の溶接フィラー材料に関する。前記溶接フィラー材料は、追加的なさらなる熱処理を行うことなく、溶着金属中でこの非常に高い降伏点を達成する。
【0012】
鉄元素は、最大1.5%で示されており、ここで≦1.2%、殊に≦0.9%の含有率も可能である。
【0013】
本発明のさらなる思想によれば、前記材料は、熱処理されていない溶着金属において、610MPaを上回る降伏点Rp0.2を有する。本発明による材料はチタン含有率およびジルコニウム含有率が変更されている点で従来技術とは異なり、ここで、窒素元素が意図的に配合されている。
【0014】
本発明による材料の試験により、0.75%~1.0%のチタン含有率が降伏点を高めるために寄与する一方で、溶着金属の過度の脆化はもたらさないことが確認された。さらに、溶接の際の溶着金属における機械技術的な値の熱供給の依存性は、ほぼ独立していることが確認された。
【0015】
ジルコニウム元素は0.10%~0.70%の範囲で記載されている。ここで、0.30%~0.65%の範囲の含有率が好ましい範囲である。これに関し、Zrが合金元素Cと優先的にカーバイドを形成し、それが微細に分散して存在するので、著しく強度が高められることが、試験により示されている(
図2)。この知見はこの点で新規であり、なぜなら合金元素としてのZrはこれまで高温もしくは熱伝導合金の場合にのみ使用されていたからである。これに関し、Zrは高温もしくは熱伝導合金の際に、高温の耐クリープ性およびスケール層の付着を改善できることが知られている。しかしながら、これまで、Zrが室温およびそれより下の温度での溶接フィラー材料の機械的特性を著しく改善できることは知られていない。
【0016】
窒素は0.05%~0.10%で記載される。Nは侵入型で溶解し、材料の孔および隙間腐食耐性を非常に強く高める元素である。しかし、NはTiと共に微細に分散したTiNも形成する(
図2)。窒素とチタンとの組み合わせにより窒化チタン(Titannitrit)が形成されることにより、降伏点が非常に高められることが、試験により示されている。さらに、窒素を添加することにより、TiがNiと共に上記の欠点をもたらすγ’層を形成することが防がれる。
【0017】
意外なことに、該試験において、固溶体硬化元素Cr、Mo、Nbの他に、炭化物および窒化物形成合金元素Zr、N、C、Ti、Nbの全体により初めて、熱処理されていない溶着金属における目標の最低降伏点を、良好な延性と共に達成できる効果が達成されることが判明した。
【0018】
本発明による合金中では、以下のように不純物が含有される:
P 最大0.05%
S 最大0.01%
V 最大0.05%。
【0019】
高い降伏点と良好な延性との組み合わせは、Zr、N、C、Ti、Nb元素の以下の比(質量%で記載)が守られる場合に達成される:
[Zr]/[C]>7、有利には>10
[Ti]/[N]>10
[Nb]/[C]>100、殊に>150。
【0020】
マンガンを添加すると、MnSが形成されることにより高温割れの安全性が改善される。さらに、マンガンは溶着金属における降伏点を高めるためにも寄与することが判明した。
【0021】
本発明による材料の試験により、少なくとも0.04%のケイ素が良好な溶接性のために必要であるが、高温割れの安全性を悪化させないためにはケイ素は0.10%以下であるべきであることが確認されている。
【0022】
バッチサイズ100kgを有する本発明による組成物で製造された実験用溶融ブロック(表2)が問題なく熱間圧延されることができ、その際、熱間圧延温度が有利には950℃~1180℃であるべきであることが確認された。熱間圧延された実験用溶融ブロックを引き続き、機械的に所望の寸法へとさらに加工して仕上げた。
【0023】
表1および2における組成を有する圧延された実験用薄板から、辺長約4mmを有する細い角棒を切り出した。この角棒を用いて、WIG法によってISO 15792-1に準拠する溶着金属試料を製造し、引き続き機械技術的試験を実施した。試験の結果を表1および3に記載する。
【0024】
【0025】
【0026】