(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-29
(45)【発行日】2022-08-08
(54)【発明の名称】植物用生育補助剤及び植物の生育方法
(51)【国際特許分類】
A01N 25/10 20060101AFI20220801BHJP
A01N 43/828 20060101ALI20220801BHJP
A01N 53/12 20060101ALI20220801BHJP
A01N 33/04 20060101ALI20220801BHJP
A01P 21/00 20060101ALI20220801BHJP
A01G 7/06 20060101ALI20220801BHJP
【FI】
A01N25/10
A01N43/828
A01N53/12
A01N33/04
A01P21/00
A01G7/06 A
(21)【出願番号】P 2020530196
(86)(22)【出願日】2019-07-09
(86)【国際出願番号】 JP2019027136
(87)【国際公開番号】W WO2020013177
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2020-10-28
(31)【優先権主張番号】P 2018131228
(32)【優先日】2018-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 真澄
(72)【発明者】
【氏名】田中 佑弥
(72)【発明者】
【氏名】飛永 恭兵
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107306942(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103766351(CN,A)
【文献】FAN, Tengfei, et al.,Journal of Applied Polymer Science,2013年,129(4),pp.1861-1867,DOI:10.1002/app.38892
【文献】ZHANG, Jiakun, et al.,Journal of Nanoscience and Nanotechnology,2016年,Vol.16, No.6,pp.6231-6237,DOI:10.1166/jnn.2016.10894
【文献】VALLETTA, Alessio, et al.,Journal of Nanoparticle Research,2014年11月22日,16,2744,DOI:10.1007/s11051-014-2744-0
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
A01G 7/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性樹脂(A)と25℃におけるオクタノール/水分配係数(LogPow)が1~10である疎水性薬剤(B)と
、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとの共重合体(EO-PO共重合体)とを含有するメジアン径が1~300nmの粒子(P)を含有
し、
EO-PO共重合体におけるEOの重量割合が50~90重量%であり、
粒子(P)における生分解性樹脂(A)と疎水性薬剤(B)との重量比[(A):(B)]が5:1~20:1であり、
粒子(P)におけるEO-PO共重合体と疎水性薬剤(B)との重量比[EO-PO共重合体:(B)]が20:1~5:1である植物用生育補助剤(X)。
【請求項2】
前記生分解性樹脂(A)が、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸及び乳酸-グリコール酸共重合体並びにこれらの樹脂のいずれかからなるセグメントとSP値が5~15である樹脂からなるセグメントとを有する樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂である請求項
1記載の植物用生育補助剤。
【請求項3】
葉面散布に用いられる請求項1
又は2記載の植物用生育補助剤。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか記載の植物用生育補助剤(X)を用いる植物の生育方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物用生育補助剤に関する。また、本発明は、植物の生育方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農業用途では、農作物を安定に生産するため、肥料が用いられている。一般的に肥料は土中混和によって、根から吸収されることで、植物の生長を促進する。一方、土中混和の補助的施肥方法として葉面散布が注目されている。葉面散布を行うことで、生理障害の予防、養分不足による生育不良の早期回復、そして病害虫抵抗性の増強等が期待されている。また、農薬に関しては葉に付着させて葉中に浸透させることが重要であり、薬剤の葉中への浸透については古くから検討されている。近年では、溶媒中の溶解速度及び溶解度が比較的高い特徴を有するナノ粒子製剤を用いることで、有効成分の使用割合を減少させる技術が開示されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1記載の技術では、粒子の植物への取り込み(吸収)や粒子からの薬剤の溶出が充分でなく、植物の生育性が不充分であるという問題がある。
本発明の目的は、葉内に薬剤を効率的に取り込ませることができ、粒子からの薬剤の溶出特性に優れる植物用生育補助剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく検討を行った結果、本発明に到達した。即ち本発明は、生分解性樹脂(A)と25℃におけるオクタノール/水分配係数(LogPow)が1~10である疎水性薬剤(B)とを含有するメジアン径が1~300nmの粒子(P)を含有する植物用生育補助剤(X);前記植物用生育補助剤(X)を用いる植物の生育方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の植物用生育補助剤(X)は、以下の効果を奏する。
(1)葉内に薬剤を効率的に取り込ませることができる。
(2)粒子からの薬剤の適度な溶出性を有し、薬剤の徐放性に優れ、薬効の持続性に優れる。
(3)上記(1)と(2)により、少量の使用量で植物の生育促進等が可能であり、植物の生育性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の植物用生育補助剤(X)は、生分解性樹脂(A)と25℃におけるオクタノール/水分配係数(LogPow)が1~10である疎水性薬剤(B)とを含有するメジアン径が1~300nmの粒子(P)を含有する。25℃におけるオクタノール/水分配係数(LogPow)が1~10である疎水性薬剤(B)を、以下では単に疎水性薬剤(B)とも記載する。
【0008】
<生分解性樹脂(A)>
本発明における生分解性樹脂(A)としては、生分解性を有する樹脂、即ち、微生物分解、酵素分解又は生物による摂食が可能である樹脂であれば特に制限なく用いることができる。それらの樹脂の中でも、生分解性を評価するOECD301Cの試験方法に基づく易分解性の条件を満たす樹脂を使用することが好ましい。生分解性樹脂(A)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。加水分解されやすく、粒子(P)からの疎水性薬剤(B)の溶出性と徐放性とのバランスに優れるという観点からは、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸及び乳酸-グリコール酸共重合体並びにこれらの樹脂のいずれかからなるセグメント(ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸又は乳酸-グリコール酸共重合体からなるセグメント)とSP値が5~15である樹脂からなるセグメントとを有する樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂が好ましい。一態様において、生分解性樹脂(A)として、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸又は乳酸-グリコール酸共重合体からなるセグメントとSP値が5~15である樹脂からなるセグメントとを有する樹脂及びポリ乳酸からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、ポリ乳酸、及び/又は、ポリ乳酸からなるセグメントとSP値が5~15である樹脂からなるセグメントとを有する樹脂がさらに好ましい。
SP値が5~15である樹脂からなるセグメントとして、エチレンオキサイド(以下EOと略記)の単独重合体、EOとプロピレンオキサイド(以下POと略記)との共重合体(以下EO-PO共重合体と記載)又はイオン性モノマーの重合体からなるセグメントが好ましい。
【0009】
ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸、乳酸-グリコール酸共重合体の重量平均分子量(以下Mwと略記)は、好ましくは1,000~200,000であり、より好ましくは20,000~80,000、さらに好ましくは20,000~60,000である。Mwが1,000以上であれば、疎水性薬剤(B)の内包率が高くなり、徐放性が良好であり、200,000以下であれば、粒子(P)からの疎水性薬剤(B)の溶出性が良好である。
【0010】
本発明におけるMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、例えば以下の条件で測定することができる。
装置:「HLC-8120GPC」[東ソー(株)製]
カラム:「Guardcolumn HXL-H」(1本)、「TSKgel GMHXL」(2本)[いずれも東ソー(株)製]
試料溶液:0.25重量%のテトラヒドロフラン溶液
溶液注入量:100μL
流量:1mL/分
測定温度:40℃
検出装置:屈折率検出器
基準物質:標準ポリスチレン
【0011】
前記ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸及び乳酸-グリコール酸共重合体は、市販のものを用いても、公知の方法で製造したものを用いてもよい。製造方法としては、例えば、対応する環状モノマーを触媒を用いて開環重合する方法が挙げられる。
【0012】
生分解性樹脂(A)として、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸又は乳酸-グリコール酸共重合体からなるセグメントとSP値が5~15である樹脂からなるセグメントとを有する樹脂が望ましい。SP値が5~15である樹脂からなるセグメントとしては、EOの単独重合体(ポリエチレングリコール)、EO-PO共重合体又はイオン性モノマーの重合体からなるセグメントを用いることが好ましい。そのような樹脂としては、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸又は乳酸-グリコール酸共重合体が有する末端官能基にEOの単独重合体、EO-PO共重合体又はイオン性モノマーの重合体を結合させたものが挙げられる。セグメントを構成するポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸又は乳酸-グリコール酸共重合体のMwの好ましい範囲は、上述した通りである。
本発明におけるSP値の計算方法は、Robert F Fedorsらの著による文献(Polymer Engineering and Science,Feburuary,1974,Vol.14,No.2 P.147~154)に記載の方法による。
【0013】
イオン性モノマーの重合体におけるイオン性モノマーとしては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート及びアリルアミン等の無機酸(塩酸、硫酸及びリン酸等)又は有機酸(酢酸等)の塩;不飽和カルボン酸[(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸及びイタコン酸等]や不飽和2重結合を有する有機スルホン酸[ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸及び2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等]のアルカリ金属塩又はアンモニウム塩等が挙げられる。「(メタ)アクリレート」はアクリレート又はメタクリレートを意味し、「(メタ)アクリル」はアクリル又はメタクリルを意味する。
【0014】
ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸又は乳酸-グリコール酸共重合体からなるセグメントと、SP値が5~15である樹脂からなるセグメントとを有する樹脂の製造方法は特に限定されない。
EOの単独重合体又はEO-PO共重合体を用いる場合、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸又は乳酸-グリコール酸共重合体が有するカルボキシル基(水酸基のみを有する場合、酸無水物等でカルボキシル基に変換後)とEOの単独重合体又はEO-PO共重合体が有する水酸基とを反応させることにより上記2種のセグメントを有する樹脂を得ることができる。
イオン性モノマーを用いる場合、例えばポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸又は乳酸-グリコール酸共重合体が有する水酸基に不飽和カルボン酸無水物を反応させて不飽和2重結合を導入してこれに上記イオン性モノマーを重合させることにより上記2種のセグメントを有する樹脂を得ることができる。
【0015】
EOの単独重合体、EO-PO共重合体及びイオン性モノマーの重合体の内、粒子(P)からの疎水性薬剤(B)の溶出性と徐放性とのバランスの観点から好ましいのはEO単独重合体及びEO-PO共重合体である。
【0016】
EO-PO共重合体におけるEOの重量割合は、疎水性薬剤(B)の溶出速度の観点から、溶出速度を促進させる場合は、50~90重量%が好ましく、65~85重量%がより好ましい。また、EO-PO共重合体におけるEOの重量割合は、溶出速度を遅延させる場合は、2重量%以上50重量%未満が好ましく、5~45重量%がより好ましい。
【0017】
EO単独重合体及びEO-PO共重合体の数平均分子量(以下Mnと略記)は、好ましくは1,000~80,000、より好ましくは数平均分子量8,000~80,000、さらに好ましくは9,000~75,000である。Mnが1,000以上であれば、疎水性薬剤(B)の溶出性が良好であり、80,000以下であれば疎水性薬剤(B)の徐放性が良好となる。
【0018】
本発明におけるMnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、例えば以下の条件で測定することができる。
装置:「Waters Alliance 2695」[Waters社製]
カラム:「Guardcolumn Super H-L」(1本)、「TSKgel SuperH2000、TSKgel SuperH3000、TSKgel SuperH4000(いずれも東ソー(株)製)を各1本連結したもの」
試料溶液:0.25重量%のテトラヒドロフラン溶液
溶液注入量:10μL
流量:0.6mL/分
測定温度:40℃
検出装置:屈折率検出器
基準物質:標準ポリエチレングリコール
【0019】
ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸又は乳酸-グリコール酸共重合体からなるセグメントとEOの単独重合体、EO-PO共重合体又はイオン性モノマーの重合体からなるセグメントとを有する樹脂の重量に対する、該樹脂中のポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸又は乳酸-グリコール酸共重合体からなるセグメントの重量の割合は、好ましくは30~80重量%であり、より好ましくは40~80重量%、さらに好ましくは50~80重量%である。ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸又は乳酸-グリコール酸共重合体からなるセグメントが30重量%以上であれば、疎水性薬剤(B)の内包率が高くなり、徐放性が良好であり、80重量%以下であれば、粒子(P)からの疎水性薬剤(B)の溶出性が良好である。
粒子(P)における生分解性樹脂(A)の含有量は、薬剤の溶出制御の観点から20~95重量%が好ましく、20~80重量%がより好ましく、さらに好ましくは30~70重量%である。一態様において、粒子(P)が生分解性樹脂(A)としてポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸及び乳酸-グリコール酸共重合体並びにこれらの樹脂のいずれかからなるセグメントとSP値が5~15である樹脂からなるセグメントとを有する樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する場合、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸及び乳酸-グリコール酸共重合体、並びに、これらの樹脂のいずれかからなるセグメントの合計含有量が、粒子(P)中に20~80重量%が好ましく、30~70重量%がより好ましい。
【0020】
<疎水性薬剤(B)>
本発明における疎水性薬剤(B)における疎水性とは、25℃におけるオクタノール/水分配係数(LogPow)が0を超えるものを意味する。オクタノール/水分配係数(LogPow)は、薬発第291号,62基局,第171号 OECD Test Guideline ([C(81)30 最終別添1])107において規定されている化学物質の分配係数(1-オクタノール/水)測定方法に準じて測定することができる。
【0021】
本発明における疎水性薬剤(B)は、粒子(P)からの疎水性薬剤(B)の徐放性及び溶出性のバランスの観点から、25℃におけるオクタノール/水分配係数(LogPow)が1~10である。疎水性薬剤(B)としては、25℃におけるオクタノール/水分配係数(LogPow)が1~10である農薬及びその他の薬剤等が挙げられ、その薬効毎に公知のもの等が特に制限なく使用できる。本発明で使用される疎水性薬剤(B)は、分子量が2,000未満の化合物であることが好ましい。疎水性薬剤(B)は、25℃におけるオクタノール/水分配係数(LogPow)が、1~8であることが好ましく、1~7であることがより好ましく、1~6であることがさらに好ましい。
好ましい疎水性薬剤(B)としては、例えば、上市されている農薬では、チアジニル(LogPow=3.68)、アシベンゾラル-S-メチル(LogPow=3.1)、イソチアニル(LogPow=2.96)、ベンジルアミン(LogPow=1.09)、カルプロパミド(LogPow=4.2)、ベノミル(LogPow=1.3)、ピロキロン(LogPow=1.42)、チオファネートメチル(LogPow=1.5)、チオジカルブ(LogPow=1.62)、ホスチアゼート(LogPow=1.68)、チウラム(LogPow=1.73)、メタラキシル(LogPow=1.75)、メチダチオン(LogPow=2.2)、ベンスルタップ(LogPow=2.2)、メトミノストロビン(LogPow=2.32)、フラメトピル(LogPow=2.36)、フルスルファミド(LogPow=2.8)、キャプタン(LogPow=2.8)、フェリムゾン(LogPow=2.89)、ミクロブタニル(LogPow=2.9)、フルバリネート(LogPow=2.9)、TPN(クロロタロニル)(LogPow=2.92)、ボスカリド(LogPow=2.96)、ペフラゾエート(LogPow=3.0)、フサライド(LogPow=3.01)、ジエトフェンカルブ(LogPow=3.02)、フルオルイミド(LogPow=3.04)、プロシミドン(LogPow=3.14)、フルトラニル(LogPow=3.17)、ジチアノン(LogPow=3.2)、シアゾファミド(LogPow=3.2)、フェンブコナゾール(LogPow=3.23)、メパニピリウム(LogPow=3.28)、ダイアジノン(LogPow=3.3)、イプロベンホス(LogPow=3.37)、イソプロチオラン(LogPow=3.3)、クレソキシムメチル(LogPow=3.4)、ビフェナゼート(LogPow=3.4)、フェニトロチオン(LogPow=3.43)、ピラクロホス(LogPow=3.77)、アクリナトリン(LogPow=5.25)、ジフルフェニカン(LogPow=4.9)、フィプロニル(LogPow=4)、フルアズロン(LogPow=5.1)、フルフェノクスロン(LogPow=4.01)、ヘキサフルムロン(LogPow=4.68)、ルフェニュロン(LogPow=5.12)、テフルベンズロン(LogPow=4.3)、テフルスリン(LogPow=6.5)、テトラコナゾール(LogPow=3.53)、チアゾピル(LogPow=3.89)及びトランスフルスリン(LogPow=5.46)等が挙げられる(LogPowはいずれも25℃におけるLogPow)。
また、植物の生育を促進する疎水性農業用薬剤(25℃におけるLogPowが1~10のもの)としては脂溶性ビタミン類等が挙げられ、その他開発が進んでいる25℃におけるLogPowが1~10の薬剤としてはスフィンゴ脂質等が挙げられる。疎水性薬剤(B)は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0022】
<粒子(P)>
本発明における粒子(P)は、生分解性樹脂(A)と疎水性薬剤(B)とを含有する。
粒子(P)における生分解性樹脂(A)と疎水性薬剤(B)の重量比[(A):(B)]は、疎水性薬剤(B)の溶出性の観点から、5:1~30:1が好ましく、より好ましくは5:1~20:1である。
【0023】
粒子(P)は、更にHLB値が3~6である界面活性剤(C)を含有することができる。HLB値が3~6である界面活性剤(C)を、以下では単に界面活性剤(C)ともいう。本発明において、界面活性剤(C)は、分子量が2,000以上の化合物であることが好ましく、より好ましくは分子量が2,000~80,000の化合物である。界面活性剤(C)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。25℃におけるオクタノール/水分配係数(LogPow)が1~10である化合物は、本発明における界面活性剤(C)には含まれない。
本発明において、HLB(Hydrophile-Lipophile Balance)値とは、無機性/有機性のバランスを示す尺度であり、HLB値が高いほど無機性が高いことを意味する。HLB値としては、小田法により下記の計算式で算出した値を用いる。
HLB=10×無機性/有機性
小田法は、例えば「界面活性剤入門」(2007年 三洋化成工業株式会社発行)212頁に記載されている。HLB値を導き出すための有機性の値及び無機性の値については前記「界面活性剤入門」213頁に記載の表の値を用いて算出することができる。
【0024】
粒子(P)が界面活性剤(C)を含有する場合、粒子(P)における界面活性剤(C)と疎水性薬剤(B)の重量比[(C):(B)]は、内包率の観点から、30:1~3:1が好ましく、より好ましくは20:1~5:1である。
生分解性樹脂(A)と疎水性薬剤(B)とを混合する際に(B)の分散剤として界面活性剤(C)を用いた場合、粒子(P)中に(C)が存在する形態で粒子(P)が(C)を含有する。
また、粒子(P)は、例えば生分解性樹脂(A)及び疎水性薬剤(B)を親水性溶媒に溶解させた後、界面活性剤(C)を溶解させた水に滴下することで、容易に製造できるが、この場合、生分解性樹脂(A)と疎水性薬剤(B)からなる粒子の表面に界面活性剤(C)が吸着した形態で粒子(P)が(C)を含有する。
【0025】
一態様において、生分解性樹脂(A)としてポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸及び乳酸-グリコール酸共重合体からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を使用する場合は、粒子(P)は界面活性剤(C)を含有することが好ましい。
【0026】
界面活性剤(C)としては、HLB値が3~6であるノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤及び両性界面活性剤が挙げられるが、粒子(P)からの疎水性薬剤(B)の溶出性と徐放性とのバランスの観点から、ノニオン性界面活性剤が好ましく、特にEO-PO共重合体が好ましい。
【0027】
EO-PO共重合体におけるEOの重量割合は、疎水性薬剤(B)の溶出速度の観点から、溶出速度を促進させる場合は、50~90重量%が好ましく、65~85重量%がより好ましい。また、疎水性薬剤(B)の溶出速度を遅延させる場合は、2重量%以上50重量%未満が好ましく、5~45重量%がより好ましい。
【0028】
EO-PO共重合体の数平均分子量(以下Mnと略記)は、好ましくは2,000~80,000、より好ましくは数平均分子量8,000~80,000、さらに好ましくは9,000~75,000である。Mnが2,000以上であれば、疎水性薬剤(B)の溶出性が良好であり、80,000以下であれば疎水性薬剤(B)の徐放性が良好となる。
【0029】
生分解性樹脂(A)と疎水性薬剤(B)とを混合する際に(B)の分散剤として界面活性剤(C)を用いる場合、界面活性剤(C)の使用量は、ハンドリング性と分散性のバランスの観点から、疎水性薬剤(B)の重量に対して5~20倍量であることが好ましい。また、粒子(P)の製造時に生分解性樹脂(A)及び疎水性薬剤(B)を親水性溶媒に溶解させた後、界面活性剤(C)を溶解させた水に滴下する場合、界面活性剤(C)の使用量は、ハンドリング性と分散性のバランスの観点から、疎水性薬剤(B)の重量に対して5~20倍量であることが好ましい。
【0030】
粒子(P)の製造方法としては、生分解性樹脂(A)及び疎水性薬剤(B)を親水性溶媒に溶解させた後、界面活性剤(C)を溶解させた水に撹拌下に滴下し、親水性溶媒等の溶媒を減圧留去後、凍結乾燥する方法等が挙げられる。例えば、生分解性樹脂(A)として、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸及び乳酸-グリコール酸共重合体からなる群より選択される1種以上を使用する際は、上記の方法で粒子(P)を製造することが好ましい。尚、凍結乾燥前の粒子(P)の水分散体をそのまま本発明の植物用生育補助剤(X)として用いることもできる。
【0031】
親水性溶媒としては、アセトン及びメチエチルケトン等のケトン溶媒、酢酸エチル等のエステル溶媒、ジオキサン及びテトラヒドロフラン等のエーテル溶媒並びにN,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド及びN-メチル-2-ピロリドン等のアミド溶媒等が挙げられる。親水性溶媒は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
尚、本発明における親水性溶媒とは、20℃の水100gに20g以上溶解する溶媒を意味する。
【0032】
生分解性樹脂(A)及び疎水性薬剤(B)を親水性溶媒に溶解させた溶液の重量に対する(A)及び(B)の合計重量の割合は、ハンドリング性の観点から0.5~5重量%であることが好ましい。
界面活性剤(C)の水溶液における(C)の濃度は、ハンドリング性の観点から0.01~1重量%であることが好ましい。
生分解性樹脂(A)及び疎水性薬剤(B)の親水性溶媒溶液を界面活性剤(C)の水溶液に滴下する際、スターラー等を用いて親水性溶媒溶液を100~500rpmで攪拌しながら滴下することが好ましい。
【0033】
尚、生分解性樹脂(A)に、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸又は乳酸-グリコール酸共重合体からなるセグメントとSP値が5~15である樹脂(好ましくはEOの単独重合体、EO-PO共重合体又はイオン性モノマーの重合体)からなるセグメントとを有する樹脂を用いる場合、界面活性剤(C)を用いずに粒子(P)を得ることができる。ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸又は乳酸-グリコール酸共重合体からなるセグメントが疎水性薬剤(B)を内包し、SP値が5~15である樹脂からなるセグメントが粒子の表面側に配置していわゆるミセル形状の粒子が形成されるためである。ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸又は乳酸-グリコール酸共重合体からなるセグメントとSP値が5~15である樹脂(好ましくはEOの単独重合体、EO-PO共重合体又はイオン性モノマーの重合体)からなるセグメントとを有する樹脂を用いる場合は、例えば、該樹脂を親水性溶媒に溶解させた後、水に撹拌下に滴下し、親水性溶媒等の溶媒を減圧留去後、凍結乾燥することにより、粒子(P)を製造することができる。
【0034】
界面活性剤(C)を用いる方法及びポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸又は乳酸-グリコール酸共重合体からなるセグメントとSP値が5~15である樹脂からなるセグメントとを有する樹脂を用いる方法の内、製法の簡便さやコストの観点から好ましいのは界面活性剤(C)を用いる方法である。
【0035】
粒子(P)のメジアン径は、1~300nmであり、好ましくは5~250nm、より好ましくは10~200nmである。
メジアン径が1nm未満のものは工業的に製造困難であり、300nmを超えると粒子(P)の植物への取り込みが不充分となり、また、疎水性薬剤(B)の粒子(P)からの溶出性が不良となる。
本発明におけるメジアン径は、動的光散乱測定装置[例えば、動的光散乱式粒分布測定装置LB-550(HORIBA社製)、Zetasizer Ultra(マルバーン・パナリティカル社製)及びDelsaMax CORE(ベックマン・コールター社製)]等で測定できる。
【0036】
<植物用生育補助剤(X)>
本発明の植物用生育補助剤(X)は、生分解性樹脂(A)と疎水性薬剤(B)とを含有する粒子(P)を含有する。
本発明の植物用生育補助剤(X)は、更に水及びオクタノール/水分配係数(LogPow)が1未満、好ましくは0以下の薬剤(硫酸アンモニウム等の肥料及び農薬等)、展着剤(ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤及びシリコーン系展着剤等)等を含有することができる。展着剤には、分子量が2,000以上(好ましくは2,000~80,000)の化合物を使用することができる。
【0037】
本発明の植物の生育方法は、前記植物用生育補助剤(X)を用いるものである。形態としては、植物用生育補助剤(X)を植物に散布又は塗布することが好ましく、葉に散布又は塗布することがより好ましく、植物の葉に散布することが特に好ましい。本発明の植物用生育補助剤(X)は、葉面散布又は塗布に好適に用いられ、葉面散布によりより好適に用いられる。
植物に散布又は塗布する際には、植物用生育補助剤(X)の水分散体の形態で使用することが好ましい。葉に適用する場合には、植物が有する葉の一部に散布又は塗布してもよく、全ての葉に散布又は塗布してもよい。
植物用生育補助剤(X)の水分散体における(X)の重量割合は、散布性及び植物の生育性の観点から、水分散体の重量を基準として、粒子(P)の重量割合として、好ましくは0.5~15重量%、より好ましくは1~10重量%である。
また、葉に散布等で適用する場合、葉の面積に対する使用量(好ましくは散布量)は、粒子(P)の使用量(散布量)として、好ましくは1~200g/m2、より好ましくは3~100g/m2である。
葉面散布又は塗布は、葉の表側、裏側のいずれに行ってもよく、両側に行ってもよい。
【0038】
本発明の植物用生育補助剤(X)は、植物に薬剤を効率的に取り込ませることができ、粒子からの薬剤の適度な溶出性を有し、薬剤の徐放性に優れ、薬効の持続性に優れるため、植物の生育性、植物の生育促進に有効であり、農業用途に特に有用である。また、植物用生育補助剤(X)が生育促進に有効なのは、仮説ではあるが、植物の有する孔を経由して、植物に取り込まれ、前記効果を発揮できると考えられる。本発明の植物の生育方法は、植物の生育促進方法として使用され得る。
【0039】
本発明の植物用生育補助剤が使用される植物として、葉を有する植物が好ましい。植物としては、例えば、イネ、麦類(オオムギ、コムギ、ライムギ、カラスムギ等)、果菜類、葉菜類、根菜類、花卉類などが挙げられる。果菜類では、トマト、ピーマン、エンドウ、キュウリ、スイカ、エダマメ、メロン、イチゴ、ピーマン、オクラ、ナス、サヤインゲン、カボチャ、ソラマメ、トウモロコシなどが挙げられる。葉菜類としては、フキ、ネギ、ミョウガ、ニンニク、サラダナ、ラッキョウ、ブロッコリー、キャベツ、シソ、ハクサイ、チンゲンサイ、セリ、ウド、ホウレンソウ、ツケナ類、カリフラワー、レタス、メキャベツ、アスパラガス、ミツバ、タマネギ、パセリ、ニラ、シュンギク、セルリーなどが挙げられる。根菜類としては、大根、カブ、ゴボウ、ニンジン、ジャガイモ、サトイモ、サツマイモ、山芋、ショウガ、レンコンなどが挙げられる。中でも、イネ、トマト、スイカ、キュウリ、イチゴ、ハクサイ等のアブラナ科作物等が好ましい。
【0040】
本発明の植物用生育補助剤(X)は、育苗期において用いることが特に好ましい。植物用生育補助剤(X)を育苗期に用いる場合は、必要に応じて、後記の育苗シート用材料(Y)を用いてもよい。育苗シート用材料(Y)と、育苗シート基材とを有する育苗シート(Z)を使用することもできる。育苗シート(Z)は、土の表面又は土中に設置して使用することができる。育苗シート用材料(Y)は、土の表面又は土中に設置又は混合して使用することができる。植物の育苗期に、植物用生育補助剤(X)と、育苗シート用材料(Y)、及び/又は、育苗シート用材料(Y)と、育苗シート基材とを有する育苗シート(Z)とを用いる植物の生育方法は、本発明における好ましい実施態様の一つである。本発明の植物の生育方法は、植物の育苗方法として好適に使用される。植物は上記の植物が好ましい。
【0041】
育苗は、種子を播種し、出芽させ、緑化を行うことを含み、緑化の後に硬化を行うことを含んでもよい。本発明においては、植物用生育補助剤(X)を、緑化の期間に苗の葉に適用(好ましくは散布)することが好ましい。硬化を行う場合は、植物用生育補助剤を、緑化及び/又は硬化の期間に葉に適用してよく、緑化の期間に葉に適用することが好ましい。本発明の植物の生育方法を育苗期に使用する際の好ましい態様の一例として、以下の態様などが挙げられる。
育苗シート用材料(Y)及び/又は育苗シート(Z)を設置した土に、種子を播種し、出芽させ、緑化を行い、緑化の期間に植物用生育補助剤(X)を苗の葉に適用する。植物用生育補助剤(X)の葉への適用(好ましくは葉面散布)は、葉の表側、又は、裏側のいずれに行ってもよく、葉の両側に行ってもよい。育苗シート用材料(Y)及び/又は育苗シート(Z)は、育苗箱などに設置することができ、該材料(Y)及び/又はシート(Z)の上に土(床土)を入れ、種子を播種することが好ましい。
種子は、上記の植物の種子が好ましい。播種前には、種子の予備措置(種子の選別、浸種及び催芽など)を行ってもよい。床土や、種子の播種、出芽、緑化及び硬化の条件等は、植物の種類に応じて選択又は調整すればよい。硬化後には、苗を本田又は本畑に移植することが好ましい。
【0042】
以下に、種子としてイネの種子を用いて育苗を行う場合を例に挙げて説明する。
通常、田植機で植えられる苗は、育苗床と呼ばれる床の中で育てられるが、例えば以下のような育苗工程が望ましい。
1)種子の予備措置
1-1)種モミ選別:消毒の後、塩水選により浮モミを除去し、水洗の後乾燥する。
1-2)浸種:5日間浸水して、種モミの吸水を均一にする。
その間、毎日の水替えと、水切りにより酸素補給を繰り返す。
1-3)催芽:酸素補給の後、32℃の温湯で10時間浸種してハト胸状態にする。
2)床土の調整
通気性と水はけのよい団粒構造の土を選び、pH5に調整する。元肥を配合する。
3)土入れ
育苗床に床土を入れ鎮圧し平面にする。
4)播種
苗床に均一にまいて灌水し、種モミの腹を落付かせる。
まきムラを手直しする。
【0043】
5)覆土
5mm厚に土を入れ、均し平面にする。
6)育苗器による出芽そろえ、32℃で2日間で鞘葉長1.2cmくらいに仕立てる。
7)予備緑化
酸素補給、灌水の後育苗床でチラチラ光線を当て、25℃で1日、20℃で1日管理する。
8)緑化
ハウス内で昼間30℃、夜間12℃で8日間、毎日数回、充分灌水を繰り返して2.5葉を展開させる。
9)硬化
昼間20℃、夜間10℃の管理で10日間、自然条件になじむ3.5葉令の苗に徐々に育てる。
【0044】
育苗シート(Z)は、土入れ:3)前の育苗床の内部に設置されることが好ましい。設置の場所、方法は任意でよいが底部に設置される方が望ましい。
【0045】
植物用生育補助剤(X)は、緑化:8)の期間において適用されることがより望ましいが、硬化:9)の期間に適用されてもよい。
【0046】
<育苗シート用材料(Y)>
育苗シート用材料(Y)は吸水性高分子材料(D)を含有することが好ましく、必要に応じて肥料(E)を含有してもよい。さらに、フィラー(F)を含有する育苗シート用材料であることが好ましい。
【0047】
吸水性高分子材料(D)としては、吸水性樹脂などを使用することができ、特に限定されるものではないが、カルボキシル基を含有する親水性架橋重合体であることが好ましく、ポリアクリル酸(塩)がより好ましい。また、全量(100重量%)が重合体である形態に限定されない。前記ポリアクリル酸(塩)とは、繰り返し単位としてアクリル酸(塩)を主成分とする重合体を意味する。具体的には、架橋剤を除く単量体として、アクリル酸(塩)を好ましくは50~100モル%、より好ましくは70~100モル%、さらに好ましくは90~100モル%、特に好ましくは実質100モル%、含む重合体をいう。重合体としての塩は、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩が好ましく、これらの中でも1価の塩、アルカリ金属塩が好ましく、カリウム塩やナトリウム塩が特に好ましい。また、ポリアクリル酸(塩)の形状は特に限定されず、粒子状又は粉末状であることが好ましい。
【0048】
前記吸水性高分子材料(D)の25℃のイオン交換水の吸水倍率は、通常80~1000倍であり、好ましくは90~670倍、より好ましくは120~530倍、さらに好ましくは130~480倍である。吸水倍率が80倍未満であると保水剤の保水能力が低くなり、多量に使用する必要が生じ、コストアップとなる場合や、水の補給が頻繁に必要になる場合がある。吸水倍率は大きい方が、少量の使用で済むので好ましいが、吸水倍率が1000倍を超える吸水性高分子材料は、透水性が低くなり、植生が悪くなる問題点がある。
なお、吸水倍率は下記の方法で測定される。
[イオン交換水の吸水倍率の測定法]
ナイロン製の網袋(250メッシュ)に吸水性高分子材料の試料L(g)を入れ、これを袋ごと過剰のイオン交換水に浸す。浸漬60分後に袋ごと空中に引き上げ、静置して15分間水切りした後、重量M(g)を測定して下式より吸水倍率を求める。
なお網袋のみを用いて上記と同様の操作を行い、この分の重量N(g)をブランクとして差し引く。
イオン交換水の吸水倍率=(M-N)/L
【0049】
前記吸水性高分子材料(D)の、吸水性高分子材料1重量部に25℃のイオン交換水100重量部を吸水させたときの吸水体のpH値としては、植生の観点から、4.5~7.5が好ましく、さらに好ましくは5.0~7.0である。
なお、pH値は下記の方法で測定される。
〔pH値の測定法〕
25℃のイオン交換水100重量部に対して吸水性高分子材料1重量部を入れ、25℃で8時間、恒温槽中で放置して、前記吸水性高分子材料を膨潤させ吸水体を作製する。吸水体の温度が25℃であることを温度計で確認し、pHメーターを吸水体に差し込み、pH値がほぼ安定したことを確認した後、値を読み取る。なお、吸水性高分子材料の吸水倍率が小さい場合には、吸水性高分子材料の吸水体とイオン交換水が分離して2相になるので、撹拌して均一にした後、pHメーターを差し込み、値を測定する。撹拌及び均一化してもすぐに2相に再び分離する場合は、撹拌下にpHメーターを差し込み、値を測定する。
【0050】
肥料(E)としては、窒素質肥料、リン酸質肥料、カリ質肥料、有機質肥料、複合肥料、石灰質肥料、ケイ酸質肥料、苦土肥料、マンガン質肥料、ホウ素質肥料、微量要素複合肥料等の普通肥料と、その他の特殊肥料(緩効性肥料等)を挙げることができる。これらの肥料成分は液状又は粉末などの固体状であり、前記吸水性高分子材料(D)に対して添加することによって、或いは前記(D)に注水する水に含有させることによって、育苗シート用材料又は育苗シート中に存在させることができる。前記肥料(E)の添加量としては、栽培する作物の種類、使用する肥料の種類等を考慮して任意に決めることができるが、育苗シートの単位面積(m2)当たり例えば1~500g、好ましくは3~300gである。育苗シート用材料の場合は、単位面積(m2)当たりの肥料(E)の使用量が上記範囲となるように、育苗シート用材料に肥料(E)を配合することが好ましい。
【0051】
フィラー(F)としては、好ましくは粉末状、粒子状、繊維状及び綿状のフィラーである。前記フィラー(F)としては、種子の発芽生育を阻害しないように、適度な通気性を有するもの、地面に取り付けた際に土壌に悪影響を与えないもの及び/又は土壌表面若しくは内部において分解され易い性質を有しているものが好ましく、下記に記載されたものが挙げられる。例えば、パーライト、バーミキュライト、ロックファイバー等の無機多孔質、木屑、モミガラ、ソバカス、米ヌカ、木綿、ワラ、草炭、羊毛、オガクズ、パルプ、紙屑等が挙げられる。前記フィラー(F)の添加量としては、通気性及び厚さを確保するため、育苗シートの単位面積(m2)当たり、好ましくは1~500g、より好ましくは3~300gである。育苗シート用材料の場合は、単位面積(m2)当たりのフィラー(F)の使用量が上記範囲となるように、育苗シート用材料にフィラー(F)を配合することが好ましい。
【0052】
<育苗シート(Z)>
育苗シート(Z)は、前記育苗シート用材料(Y)と、育苗シート基材とを有する育苗シートである。該育苗シート基材としては、シート(G)が挙げられる。
【0053】
前記シート(G)は、例えば透水性のシート、水崩壊性のシート又は水溶性のシートが挙げられ、これらの2種以上を重ね合わせた組合せであってもよい。前記シート(G)としては、育苗シートに成形後の厚みが0.01~9mmになるものが好ましく、0.02~3mmとなるものがより好ましい。前記シート(G)の重量は、前記育苗シート(Z)の単位面積(m2)当たり、育苗シートの保形性、厚さを確保するため、例えば5~300g、好ましくは10~100gである。透水性シートとしては、例えば、セルロース系繊維の織編物(布)や不織布、紙、水溶性ポリビニルアルコール系繊維織編物やフィルム、板紙等が挙げられ、これらの中で透水性の程度が、JIS L 1096に記載の吸水速度A法において、5分以下の吸水速度を有するものが好ましい。また、種子の発芽生育を阻害しないように、適度な通気性、及びシートを地面に取り付けた際に、土壌表面又は内部において分解され易い性質を有していることが好ましく、これらの中ではセルロース質の紙及び不織布が好ましい。
【0054】
水崩壊性のシートとしては、例えば、紙のパルプ繊維同士を水溶性又は親水性の糊、水膨潤性ポリマー等で接着させて水との接触によりパルプ繊維同士がバラバラに崩壊するようにした紙(三島製紙株式会社製の「ディゾルボMDP」等)、さらにこれにヒートシール剤を併用して成形加工性(熱接着性)を加味した紙(三島製紙株式会社製の「ディゾルボMDP-P」等)等が挙げられる。これらの紙は、吸水により崩壊するスピードが速い特徴を有する。水溶性のシートとしては、水溶性ポバールフィルム、デンプンフィルム、カラギーナンフィルム等の水溶性のフィルムや、ポバール繊維で作られた水溶性の不織布(日本バイリーン社製「エコモールド」、「エコソルブ」等)が挙げられる。これらのシートは、同一の厚みで比較した場合、上記水崩壊性の紙より水溶解(崩壊)速度は劣るものの、乾燥状態でのシート強度が大きい特徴を有する。
【0055】
また、該水崩壊性の紙と水溶性のフィルムを貼り合わせたラミネートシートとしては、少なくとも1種以上の、上記水崩壊性の紙及び水溶性のフィルムを接着、ラミネートしたもの(上記「ディゾルボMDP」にポバールフィルムを貼り合わせた三島製紙株式会社製の「ディゾルボA」等)が挙げられる。これらのラミネートシートは水への溶解(崩壊)性が速くかつフィルム強度も大きいという特徴を有する。これは、紙の強度の分、貼り合わせる水溶性フィルムの厚みを薄くできるため、トータルとして溶解(崩壊)速度とフィルム強度の両面を向上させることが出来る。これら水溶性又は水崩壊性のシートの中で好ましいものは、水崩壊性の紙及び水溶性の不織布である。また、これら水溶性又は水崩壊性のシートが水中で崩壊ないし溶解に要する時間は、例えば5分以内、好ましくは2分以内、より好ましくは1分以内である。
【0056】
前記育苗シート(Z)は好ましくは吸水性高分子材料(D)を含有するシートであり、吸水性高分子材料(D)及びシート(G)を含み、(D)が少なくとも1枚の(G)の表面又は内部に存在してなる育苗シートであることが好ましい。この育苗シート(Z)においては更に肥料(E)、更にフィラー(F)が少なくとも1枚のシート(G)に存在することが出来る。育苗シート(Z)は、吸水性高分子材料(D)、少なくとも1枚のシート(G)、並びに、肥料(E)及び/又はフィラー(F)を含み、(D)並びに(E)及び/又は(F)が少なくとも1枚のシート(G)の表面又は内部に存在するシートであってよい。育苗シート(Z)として、シート(G)を2枚以上用いる場合は、全体として少なくとも1枚の(G)の表面又は内部に吸水性高分子材料(D)が存在していればよい。シート(G)を2枚以上用いる育苗シートの例としては、例えば、シート(G)の層、フィラー(F)と吸水性高分子材料(D)の層、(G)の層、肥料(E)の層及び(G)の層からなる5層構造を有するもの、(G)の層が2層、(D)~(F)の混合された層及び(G)の層からなる4層構造を有するものなどが挙げられる。
【0057】
前記育苗シート(Z)の製造方法としては、公知の方法、例えばシート(G)を上記(D)~(F)の混合物に浸漬するか、該混合物をシート(G)の表面に塗布する方法等が挙げられる。シート(G)を2枚用いる場合は上記と同じ方法で作製した2枚のシートを重ねる方法の他に、例えば次の2つの方法が挙げられる。(a)一方のシート(G)上に(D)~(F)を混合したものを均一に散布した後、他方の(G)を重ね合わせ、更にエンボス加工等の加圧成形をする方法。(b)一方のシート(G)上に(D)~(F)を混合したものを適当な後記の結合材(H)に加えたものを塗工し、他方の(G)を重ね合わせ加工成形した後、乾燥する方法。
【0058】
前記育苗シート(Z)上に(D)~(F)を固定する結合材(H)としては、天然高分子、合成樹脂、天然又は合成ゴムなどが挙げられる。天然高分子としては、デンプン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アルギン酸ソーダ、グアーガム、キサンタンガム、ビーンガム、カラギーナン、グルテンなどが挙げられる。合成樹脂としては、前記吸水性高分子材料(D)以外のアクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、エチレン共重合体樹脂などが挙げられる。天然又は合成ゴムとしては、天然ゴム、アクリルゴム、ブチルゴム、ポリイソブチレンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、クロロプレンゴムなどが挙げられる。これらはそれぞれ単独、もしくは2種類以上混合して用いることができる。これらのうち好ましいものはデンプン、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ソーダ等の水溶性の天然高分子である。
【実施例】
【0059】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。LogPowは、25℃におけるオクタノール/水分配係数である。
【0060】
粒子のメジアン径は、動的光散乱測定装置(製品名動的光散乱式粒分布測定装置LB-550、HORIBA社製)で測定した。
【0061】
<製造例1>
容器に、ポリ乳酸[Mw=60,000、シグマアルドリッチ(株)製]50mg、チアジニル[LogPow=3.68、富士フイルム和光純薬(株)製]5mgをアセトン10mLに溶解させた。EO-PO共重合体[ニューポール PE-128、数平均分子量(Mn)31,000、EO/PO=6.1(モル比)(EO-PO共重合体中のEOの重量割合:82.2重量%)、HLB=4.89、三洋化成工業(株)製]50mgをイオン交換水20mLに溶解し、マグネチックスターラー HS-30D[アズワン(株)製]を用いて200rpmで撹拌させている25℃の上記水溶液に対して、25℃の上記ポリ乳酸溶液を5分間滴下して、更に同じ撹拌速度で、25℃で20分間撹拌を続けた。その後、溶媒をエバポレーターで減圧留去し、凍結乾燥することで粒子(P-1)を得た。粒子(P-1)のメジアン径は190nmであった。
【0062】
<製造例2>
ポリ乳酸としてポリ乳酸[RESOMER R203S、Mw=23,000、シグマアルドリッチ(株)製]を用いること以外は製造例1と同じ操作を行い、粒子(P-2)を得た。粒子(P-2)のメジアン径は155nmであった。
【0063】
<製造例3>
EO-PO共重合体としてEO-PO共重合体[ニューポール PE-78、Mn=9,350、EO/PO=4.8(モル比)(EO-PO共重合体中のEOの重量割合:78.6重量%)、HLB=5.01、三洋化成工業(株)製]を用いること以外は製造例1と同じ操作を行い、粒子(P-3)を得た。粒子(P-3)のメジアン径は180nmであった。
【0064】
<製造例4>
界面活性剤として、製造例1で使用したEO-PO共重合体の代わりにEO-PO共重合体[ニューポール PE-78、Mn=9,350、三洋化成工業(株)製]、ポリ乳酸としてポリ乳酸[RESOMER R203S、Mw=23,000、シグマアルドリッチ(株)製]を用いること以外は製造例1と同じ操作を行い、粒子(P-4)を得た。粒子(P-4)のメジアン径は120nmであった。
【0065】
<製造例5>
疎水性薬剤としてチアジニルの代わりにカルプロパミド[LogPow=4.2、富士フイルム和光純薬(株)製]を用いること以外は製造例1と同じ操作を行い、粒子(P-5)を得た。粒子(P-5)のメジアン径は170nmであった。
【0066】
<製造例6>
ポリ乳酸を乳酸-グリコール酸共重合体[RESOMER RG505、Mw=61,500、シグマアルドリッチ(株)製]に変更すること以外は製造例1と同じ操作を行い、粒子(P-6)を得た。粒子(P-6)のメジアン径は186nmであった。
【0067】
<製造例7>
フラスコに、ポリ乳酸[Mw=60,000、シグマアルドリッチ(株)製]1.4gとEO-PO共重合体[ニューポール PE-128、Mn=31,000、SP値9.24、三洋化成工業(株)製]0.7gを混合し、180℃で加熱溶融させた。その後、ジ(2-エチルヘキサン酸)すず触媒を添加(1.4mg)し、窒素置換後、180℃で15時間加熱し、ポリ乳酸にEO-PO共重合体が結合したポリマーを得た。容器に、上記ポリ乳酸にEO-PO共重合体が結合したポリマー50mg、チアジニル[LogPow=3.68、富士フイルム和光純薬(株)製]5mgをアセトン10mLに溶解させた。この溶液をマグネチックスターラー HS-30D[アズワン(株)製]を用いて200rpmで撹拌させている25℃のイオン交換水20mLに対して、25℃で5分間滴下して、更に同じ撹拌速度で25℃で20分間撹拌を続け、その後、溶媒をエバポレーターで減圧留去することで粒子(P-7)を得た。粒子(P-7)のメジアン径は180nmであった。
【0068】
<製造例8>
EO-PO共重合体として、下記の方法で製造したEO-PO共重合体(Mn=31,000、EO/PO=0.5(モル比)(EO-PO共重合体中のEOの重量割合:27.2重量%)、HLB=4.89)を用いること以外は製造例1と同じ操作を行い、粒子(P-8)を得た。粒子(P-8)のメジアン径は170nmであった。
(EO-PO共重合体の製造)
撹拌機、温度計、圧力計、耐圧滴下ボンベ、減圧及び窒素導入ラインの付いたオートクレーブ中にエチレングリコール0.2重量部(1モル)、水酸化カリウム0.43重量部を加え撹拌を開始し窒素封入し130℃に昇温した後、圧力-0.1MPaGで1時間脱水した。次いで160℃に昇温し、圧力0.3MPaG以下で1,2-プロピレンオキサイド72.3重量部(388モル)を6時間かけて逐次滴下し、同温度で圧平衡になるまで1時間撹拌した。次いでエチレンオキサイド27.4重量部(194モル)を3時間かけて逐次滴下し、同温度で圧平衡になるまで1時間撹拌した。その後60℃に冷却し、酢酸0.32重量部で中和し、EO-PO共重合体を得た。
【0069】
<比較製造例1>
ポリ乳酸の代わりに、生分解性を有しないポリスチレン[Mw=50,000、富士フイルム和光純薬(株)製]を用いること以外は製造例1と同じ操作を行い、粒子(P’-1)を得た。粒子(P’-1)のメジアン径は165nmであった。
【0070】
<実施例1~8及び比較例1>
上記粒子(P-1)~(P-8)又は(P’-1)20mgが生理食塩水3mLに分散した分散液を用意し、分画分子量(MWCO)14,000である透析膜を用いて、外槽の溶液である生理食塩水150mLに対して、透析を行った。外槽溶液に溶出した薬剤の溶出率[100×溶出した薬剤重量/初期の粒子中の薬剤重量(%)]を所定の時間毎にHPLC装置を用いて測定した。その結果を表1に示す。
【0071】
【0072】
以下、疎水性薬剤に放射線同位体125Iでラベル化した薬剤を用いて、粒子(P)の植物の葉への取り込みについて評価した。
<製造例9>
エッペンチューブにベンジルアミン[LogPow=1.09、富士フイルム和光純薬(株)]50μLと0.1M リン酸緩衝液 pH7.2[富士フイルム和光純薬(株)製]50μLを入れ混合した。その溶液に、5μLのNa125I溶液(3.7GBq/mL、NEN Research Products社製)を加えた。クロラミンT[富士フイルム和光純薬(株)製]を0.1Mリン酸緩衝液(pH7.2)溶液で溶解させ、0.5mg/mL濃度となるように調製したクロラミンT溶液200μLを上記エッペンチューブに添加し、25℃で2分間、放射線同位体ラベル化反応を行った。次に、200μLの4mg/mL二亜硫酸ナトリウムのリン酸緩衝液(pH7.2)を加えて、反応を停止させた。ラベル化されていない未反応のNa125IはPD10カラム(GEヘルスケア社製)を用いて除去した。
【0073】
<製造例10>
チアジニルに代えて、製造例9で作製した放射線同位体ラベル化ベンジルアミンを用いたこと以外は、製造例1と同じ操作を行い、粒子(P-9)を得た。粒子(P-9)のメジアン径は185nmであった。
【0074】
<製造例11>
チアジニルに代えて、製造例9で作製した放射線同位体ラベル化ベンジルアミンを用いたこと以外は、製造例4と同じ操作を行い、粒子(P-10)を得た。粒子(P-10)のメジアン径は125nmであった。
【0075】
<比較製造例2>
チアジニルに代えて、製造例9で作製した放射線同位体ラベル化ベンジルアミンを用い、ポリ乳酸としてポリ乳酸[RESOMER RG756S、Mw=96,000、シグマアルドリッチ(株)製]を用いたこと以外は製造例1と同じ操作を行い、粒子(P’-2)を得た。粒子(P’-2)のメジアン径は360nmであった。
【0076】
<実施例9>
粒子(P-9)20mgが生理食塩水3mLに分散した分散液を用意した。市販のハーブ苗のポット(直径9cm)の葉1枚に、葉からこぼれないように留意しながら粒子(P-9)の分散液(ナノ粒子分散液)100μLを、葉の表側に噴霧した。25℃で1時間静置した後、分散液を噴霧した葉を切り取り、イオン交換水の入った容器に1分間浸漬して容器から取り出した。容器の水を新鮮なイオン交換水に交換し、更に葉を容器内の新鮮なイオン交換水に1分間浸漬して引き上げる操作を計3回繰り返すことで、葉表面に付着していたラベル化薬剤を除去した。その葉(対象葉試料)をガンマカウンター(ARC-301B、Aloka社製)のサンプル容器にセットして、放射線量を測定して下式から取り込み率(%)を算出した。
取り込み率(%)=[(対象葉試料の放射線量)/(ナノ粒子分散液100μLの放射線量)]×100
また、別のハーブ苗ポットを用いて、上記と同様に分散液の植物への噴霧操作をした後、25℃で3時間静置した葉についても、粒子(P-9)の取り込み率を測定した。その結果を表2に示す。
【0077】
<実施例10>
粒子(P-9)の代わりに粒子(P-10)を用いること以外は実施例9と同じ操作を行い、葉への粒子(P-10)の取り込み率を測定した。その結果を表2に示す。
【0078】
<比較例2>
粒子(P-9)の代わりに粒子(P’-2)を用いること以外は実施例9と同じ操作を行い、葉への粒子(P’-2)の取り込み率を測定した。その結果を表2に示す。
【0079】
【0080】
粒子(P-1)、(P-4)、(P-6)(ナノ粒子(P))に含まれるチアジニルの内包率を下記の方法で求め、以降の実験ではチアジニル含有量が100ppmとなるように調整したナノ粒子(P)(粒子(P-1)、(P-4)又は(P-6))のイオン交換水分散体を用いた。
<内包率の評価方法>
エッペンチューブ中のナノ粒子(P)の水分散体1mLを遠心分離(4℃、15,000rpm、30分)により沈降させた後で上澄み液除去した。遠心沈降後のナノ粒子(P)にアセトニトリルを添加することでポリ乳酸を溶解させ、分光光度計により内包率を算出した。
【0081】
<実施例11~34及び比較例3~8>
吸水性樹脂サンフレッシュGT-1(三洋化成工業(株)製、吸水倍率400倍、pH7.0)4.9gと粉砕パルプ(フィラー)17.5gを混合して、育苗シート用材料(Y-1)を得た。
得られた育苗シート用材料(Y-1)を、透水性シート(580mm×280mm)上に、均一に散布した後、他方の透水性シート(580mm×280mm)を重ね合わせ、更にエンボス加工した。この様にして育苗シート(Z-1)を作製した。
また、上記のフィラー(粉砕パルプ)を、育苗シート用材料(Y-2)として使用して、育苗シート(Z-2)を作製した。育苗シート(Z-2)は、上記の育苗シート(Z-1)の製造において、吸水性樹脂サンフレッシュGT-1を使用しなかった以外は、育苗シート(Z-1)と同じ方法で作製した。
【0082】
[1]育苗条件
1.供試品種:ヒノヒカリ(イネ)、ハウス桃太郎(トマト)
2.育苗箱:内のり面積580×280mm/箱
3.育苗シート:面積580×280mm/枚
4.播種:180g/箱(乾籾換算)
5.培土:イナホ倍土(いなほ化工株式会社製):ビートモス=3:1(容積比)(床土・覆土に使用)
6.薬剤処理:種子消毒はベントレートT(200倍液)48時間処理
7.出芽処理:積み重ね方式、加温出芽(32℃×2日間)
8.緑化処理:ビニールハウス畑育苗
【0083】
次に、上記の育苗条件[1]で2~3葉令まで育苗した(育苗床期間)。育苗シートは、育苗箱の底部に、土を入れる前に設置した。2~3葉令までの育苗状態を表3(イネ)、表4(トマト)の「育苗床栽培」の評価結果に示す。使用した育苗シートを表3及び4に示す。育苗状態の評価では、下記の方法で根張り及び地上部生育状態を評価した。
【0084】
<育苗床期間中の根張り、及び地上部生育状態の評価>
育苗床期間中の根張り、及び地上部生育状態は、各部の長さを測定することにより、評価した。
・根張り
◎:根の長さが8cm以上
○:根の長さが5cm以上8cm未満
△:根の長さが3cm以上5cm未満
×:根の長さが3cm未満
・地上部生育状態
◎:地上部の長さが12cm以上
○:地上部の長さが8cm以上12cm未満
△:地上部の長さが4cm以上8cm未満
×:地上部の長さが4cm未満
【0085】
得られた2~3葉期の幼苗の葉1枚に、葉からこぼれないように留意しながら、含有したチアジニル量が100ppmとなるように調整したナノ粒子(P)水分散液又は100ppmチアジニル溶液(1体積%DMSO、12.5体積%アセトン、0.01重量%マイリノ-(日本農薬(株)製))100μLを噴霧した。ナノ粒子(P)水分散液又は100ppmチアジニル溶液は、葉の表側に噴霧した。これを用いて、下記の方法で水田栽培を行った。下記の方法で抵抗誘導性、薬害評価及び地上部生育比の評価を行い、対照サンプル(比較例)と比較した。その結果を表3(イネ)、表4(トマト)の「水田栽培」に示す。
【0086】
<抵抗誘導性の評価>
5千分の1アールのポットに水田土壌(植壌土)を2.9kg充填して、上記の方法で育てた2~3葉期の幼苗10本を2cmの深さに移植し水を加えて3cmの灌水状態にした。25℃で表3又は表4に記されている所定の期間(水田に移してから評価するまでの日数(日))静置した後、ナノ粒子(P)の分散液(又はチアジニル溶液)を噴霧した葉を切り取り、イオン交換水の入った容器に1分間浸漬して容器から取り出した。容器の水を新鮮なイオン交換水に交換し、更に葉を容器内の新鮮なイオン交換水に1分間浸漬して引き上げる操作を計3回繰り返すことで、葉表面に付着していたナノ粒子(P)(又はチアジニル)を除去した後に、上記の葉から8分間植物トータルタンパク質抽出キット(コスモバイオ(株)製)を用いて蛋白質を抽出し、その中に含まれる抵抗性誘導マーカーのPR1蛋白質量を以下のように調べた。全蛋白質量はMicro BCATM protein assay kit(THERMO Fisher Scientific社製)によって定量し、各実験での葉の全蛋白質量が同じとなるように、全蛋白質量が多い葉の抽出液をイオン交換水で希釈することで、標準化したものを以降の電気泳動に使用した。
試験は各5回実施し、PR1蛋白質量の評価は、以下に詳述するウェスタンブロッティング(電気泳動、転写及び発色を含む)により評価した。
【0087】
(1)電気泳動
電気泳動は、葉から抽出した抽出液10μLに、サンプルバッファー溶液10μLを添加した混合液を用いて以下の条件で実施した。
試料溶液:各実施例又は各比較例で得た葉の抽出液
ポリアクリルアミドゲル:E-R15L e・パジェル[アトー(株)製]
電気泳動槽:WSE-1100P パジェラン-R[アトー(株)製]
電気泳動時間:90分
サンプルバッファー溶液:4X Laemmli サンプルバッファー[バイオ・ラッド(株)製]900μLと2-メルカプトエタノール100μLの混合液
【0088】
(2)転写
転写は、上記条件で電気泳動後、転写メンブレンを用いて以下の条件で実施した。
転写メンブレン:Amersham Hybond P0.45 PVDF[GEヘルスケア(株)製]
転写液:AE-1465EzFastBlot[アトー(株)製]を純水で10倍に希釈した液
電圧/電流:12V/400mA
転写時間:30分
【0089】
(3)発色
上記条件で転写後、その転写メンブレンをブロッキング、次いで一次抗体及び二次抗体で抗原抗体反応を行った。本試験においては、一次抗体としてAnti-PR1 Antibody(イネ:MybioSource社製、トマト:Agrisera社製)を使用し、二次抗体として、horseradish peroxidase HRP標識二次抗体を用い、ImageQuant LAS4000を用いて以下の条件で発色させた。
検出器:ImageQuant LAS4000(富士フイルム株式会社製品)
ブロッキング時間:45分
一次抗体反応時間:120分
二次抗体反応時間:60分
【0090】
(4)発現量の解析方法
(1)~(3)の操作の後、転写メンブレンにPR1蛋白質のバンドが検出された後、そのバンドの濃さをイメージJ(National Institutes of Health,USA)によって、定量した。実施例11~14の場合、実施例11~14毎の定量したバンドの濃さを、比較例3のバンドの濃さで除し、この値を実施例11~14毎のPR1蛋白質量比とした。同様にチアジニル溶液で所定期間処理した比較例で得られたバンドの濃さで、同じ日数ナノ粒子(P)を処理した実施例で得られたバンドの濃さを除したものをPR1蛋白質量比とした。その評価結果を表3(イネ)及び表4(トマト)に示す。PR1蛋白質量比が多いほど、抵抗性が向上していることを意味している。
PR1蛋白質量比が1.0以上100以下であれば良好な抵抗性を示しており、1.0を下回ると病害に対する抵抗性を示し難い。一方で、100以上であれば抵抗性以外の薬害といった負の効果を有する生理機能を反映していることが多く、正しく抵抗性の評価ができていないことを意味する。
【0091】
<ナノ粒子(P)またはチアジニル処理後の薬害評価>
上記の<抵抗誘導性の評価>に記載の方法と同様にして、幼苗をナノ粒子(P)またはチアジニルで処理した後、所定時間(表3~4に示す水田に移してから評価するまでの日数(日))後の葉表面の薬害度を評価した。具体的には、薬害は肉眼観察により、下記の指標で観察した。
(薬害指数)
0:無害(健全)、1:微少害、2:小害、3:中害、4:大害、5:完全枯死
【0092】
<ナノ粒子(P)またはチアジニル処理後の地上部生育比>
上記の<抵抗誘導性の評価>に記載の方法と同様にして、幼苗をナノ粒子(P)またはチアジニルで処理した後、所定期間(表3~4に示す水田に移してから評価するまでの日数(日))後の地上部生育状態を評価した。具体的には、地上部生育状態は、各部の長さを測定することにより、評価した。チアジニル溶液で所定期間処理した比較例で得られた地上部の長さで、同じ日数ナノ粒子(P)を処理した実施例で得られた地上部の長さを除したものを地上部生育比として算出した。
【0093】
【0094】
【0095】
表3及び4に示す吸水性樹脂(D)、フィラー(F)及び透水性シート(G)の数値は、重量(g)を示す。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の植物用生育補助剤(X)は、植物に薬剤を効率的に取り込ませることができ、粒子からの薬剤の適度な溶出性を有し、薬剤の徐放性に優れ、薬効の持続性に優れるため、植物の生育性、植物の生育促進に優れ、園芸用途及び農業用途に極めて有用である。