(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-29
(45)【発行日】2022-08-08
(54)【発明の名称】基材を乾燥させる方法、該方法を実施するための乾燥機モジュールおよび乾燥機システム
(51)【国際特許分類】
F26B 13/10 20060101AFI20220801BHJP
B41F 23/04 20060101ALI20220801BHJP
【FI】
F26B13/10 E
B41F23/04 A
(21)【出願番号】P 2020531016
(86)(22)【出願日】2018-12-03
(86)【国際出願番号】 EP2018083303
(87)【国際公開番号】W WO2019110484
(87)【国際公開日】2019-06-13
【審査請求日】2021-11-15
(31)【優先権主張番号】102017129017.6
(32)【優先日】2017-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】593129320
【氏名又は名称】ヘレーウス ノーブルライト ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Noblelight GmbH
【住所又は居所原語表記】Heraeusstrasse 12-14, Hanau, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ベアンハート グラツィール
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル ティトマン
(72)【発明者】
【氏名】フィンツェント クラフト
(72)【発明者】
【氏名】ラリーザ フォン リーヴェル
【審査官】岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102010046756(DE,A1)
【文献】特開2009-243701(JP,A)
【文献】特開2012-146851(JP,A)
【文献】特開昭49-050932(JP,A)
【文献】特開2002-243366(JP,A)
【文献】特開2003-094605(JP,A)
【文献】特開2002-052850(JP,A)
【文献】特開2007-320183(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F26B 13/10
B41F 23/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材を少なくとも部分的に乾燥させる方法であって、
(a)搬送経路に沿って搬送方向にプロセス空間を通って移動する基材に向けて、少なくとも1つの赤外線エミッタを備えるエミッタユニットを使用して赤外線放射を放出させる方法ステップと、
(b)前記基材に向けて方向付けられた、プロセスガスの少なくとも2つのプロセスガス流を発生させる方法ステップと、
(c)前記基材への前記赤外線放射および前記プロセスガスの作用によって前記基材を少なくとも部分的に乾燥させるとともに、水分を含んだプロセスガスを抽出ダクトを介して前記プロセス空間から抽出し、前記基材から離れる排出空気流を形成する方法ステップと、
を含む方法において、
前記少なくとも2つのプロセスガス流が前記基材に作用する前に、該少なくとも2つのプロセスガス流を前記赤外線エミッタに案内し、かつ前記基材に向けて方向付けられた各プロセスガス流を、前記基材から離れる排出空気流に空間的に割り当てかつ隣接させることを特徴とする、基材を少なくとも部分的に乾燥させる方法。
【請求項2】
長手方向軸線を有する赤外線エミッタを用い、該赤外線エミッタは、その長手方向軸線の各側方に該赤外線エミッタを越えて流れる2つのプロセスガス流のうちの一方を有することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも2つのプロセスガス流が乾燥すべき前記基材に帯状に作用することを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記基材の平面的な赤外線照射の目的で、いずれの場合も互いに平行に走る長手方向軸線を有する複数の赤外線エミッタを備えるエミッタユニットを用い、
前記基材に向けて方向付けられたプロセスガス流が前記赤外線エミッタの各前記長手方向軸線の周囲に案内され、隣接する前記赤外線エミッタの隣接するプロセスガス流が共通の排出空気流に空間的に割り当てられることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記赤外線エミッタの前記長手方向軸線が基材搬送方向に走るか、または前記基材搬送方向と30度未満の角度を形成することを特徴とする、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記プロセス空間が、前記基材の搬送方向で見て、次の構成要素、すなわち、手前側空気ナイフと、互いに平行に配置された複数の赤外線エミッタが取り付けられた照射空間と、統合された抽出手段を有する空気交換ユニットと、奥側空気ナイフとの組合せを有する赤外線乾燥機モジュール内に形成されることを特徴とする、請求項4または5記載の方法。
【請求項7】
前記赤外線エミッタの長さの少なくとも部分的な長さに亘って、前記基材搬送方向に増加する体積特性が前記プロセスガス流に与えられていることを特徴とする、請求項4から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
プロセスガス量制御ユニットによって、乾燥機モジュールに導入されるガス体積V
inが、前記乾燥機モジュールから抽出されるガス体積V
outよりも小さくなるように調節されることを特徴とする、請求項1から
7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
基材平面内でかつ搬送方向にプロセス空間を通って移動する基材を乾燥させるための赤外線乾燥機モジュールであって、前記乾燥機モジュールは、
(a)長手方向軸線を有し、赤外線放射を前記基材平面に向けて放出させるための少なくとも1つの赤外線エミッタを備えるエミッタユニットと、
(b)プロセスガス収集空間からプロセス空間にプロセスガスを導入するための少なくとも1つの入口開口部を有する前記プロセスガス収集空間を有し、前記基材平面の方向に延在するガス案内要素が前記入口開口部の境界を形成する、プロセスガス供給ユニットと、
(c)前記プロセス空間から水分を含んだプロセスガスを排出するための少なくとも1つの抽出ダクトを有する排出空気ユニットと、
を備える、赤外線乾燥機モジュールにおいて、
前記赤外線エミッタは、該赤外線エミッタの長手方向軸線の各側方で前記ガス案内要素と協働して前記プロセスガスのための入口通路を形成するように、前記入口開口部に対して配置されており、少なくとも1つのプロセスガス抽出ダクトが各プロセスガス入口通路に隣接していることを特徴とする、赤外線乾燥機モジュール。
【請求項10】
前記ガス案内要素と前記抽出ダクトとが、前記基材平面から或る距離で終端する共通の壁部分を有することを特徴とする、請求項9記載の乾燥機モジュール。
【請求項11】
前記エミッタユニットは、いずれの場合も互いに平行に走る長手方向軸線を有する複数の赤外線エミッタを備えており、
隣接する前記赤外線エミッタ間に共通の抽出ダクトが配置されることを特徴とする、請求項9または10記載の乾燥機モジュール。
【請求項12】
前記赤外線エミッタの前記長手方向軸線が基材搬送方向に走るか、または前記基材搬送方向と30度未満の角度を形成することを特徴とする、請求項11記載の乾燥機モジュール。
【請求項13】
前記プロセス空間が、前記搬送方向で見て、次の構成要素、すなわち、手前側空気ナイフと、互いに平行に配置された複数の赤外線エミッタが取り付けられた照射空間と、統合された抽出手段を有する空気交換ユニットと、奥側空気ナイフとを有することを特徴とする、請求項11または12記載の乾燥機モジュール。
【請求項14】
前記赤外線エミッタの長さの少なくとも部分的な長さに亘って、前記基材搬送方向に増加する体積特性が前記プロセスガス流に与えられていることを特徴とする、請求項11から13までのいずれか1項記載の乾燥機モジュール。
【請求項15】
基材平面内でかつ搬送方向にプロセス空間を通って移動する基材を乾燥させるための乾燥機システムであって、
請求項11から14までのいずれか1項記載の乾燥機モジュールを複数含み、該複数の乾燥機モジュールは、搬送方向で見て左右かつ/または前後に隣り合って配置されている、乾燥機システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材を少なくとも部分的に乾燥させる方法であって、
(a)搬送経路に沿って搬送方向にプロセス空間を通って移動する基材に向けて、少なくとも1つの赤外線エミッタを備えるエミッタユニットを使用して赤外線放射を放出させる方法ステップと、
(b)基材に向けて方向付けられた、プロセスガスの少なくとも2つのプロセスガス流を発生させる方法ステップと、
(c)基材への赤外線放射およびプロセスガスの作用によって基材を少なくとも部分的に乾燥させるとともに、水分を含んだプロセスガスを抽出ダクトを介してプロセス空間から抽出し、基材から離れる排出空気流を形成する方法ステップと、
を含む方法に関する。
【0002】
さらに、本発明は、基材平面内でかつ搬送方向にプロセス空間を通って移動する基材を乾燥させるための赤外線乾燥機モジュールであって、前記乾燥機モジュールは、
(a)長手方向軸線を有し、赤外線放射を基材平面に向けて放出させるための少なくとも1つの赤外線エミッタを備えるエミッタユニットと、
(b)プロセスガス収集空間からプロセス空間にプロセスガスを導入するための少なくとも1つの入口開口部を有するプロセスガス収集空間を有し、基材平面の方向に延在するガス案内要素が入口開口部の境界を形成する、プロセスガス供給ユニットと、
(c)プロセス空間から水分を含んだプロセスガスを排出するための少なくとも1つの抽出ダクトを有する排出空気ユニットと、
を備える、赤外線乾燥機モジュールに関する。
【0003】
加えて、本発明は、基材平面内でかつ搬送方向にプロセス空間を通って移動する基材を乾燥させるための乾燥機システムに関する。
【0004】
そのような乾燥機システム、乾燥機モジュールおよび乾燥方法は、例えば、インク、塗料、ラッカ、接着剤またはその他の溶剤ベースの層を乾燥させるために用いられ、特に、紙や板紙および紙や板紙から製造された製品ならびに印刷物を乾燥させるために用いられる。
【背景技術】
【0005】
オフセット印刷機、平版印刷機、輪転印刷機またはフレキソ印刷機は、印刷インクを使用して、紙、板紙、フィルムまたは厚紙製のシートタイプまたはウェブタイプの印刷基材に印刷するために一般的に使用される。印刷インクや印刷機インクの代表的な成分は、油、樹脂、水、およびバインダである。溶剤ベース、特に水ベースの印刷インクやラッカの場合、乾燥させる必要があり、この乾燥は、物理的乾燥プロセスおよび化学的乾燥プロセスの両方に基づくことができる。物理的乾燥プロセスは、溶媒(特に水)の蒸発と、印刷基材への溶媒の拡散とを含み、拡散は吸収とも呼ばれる。化学的乾燥とは、印刷インク成分の酸化または重合化を意味すると理解される。
【0006】
物理的乾燥と化学的乾燥との間には遷移がある。したがって、例えば、溶媒の吸収は、モノマ樹脂分子を互いに近接移動させることができ、その結果、モノマ樹脂分子同士をより容易に重合させることができる。したがって、印刷された基材を乾燥させるための乾燥装置は、溶媒を除去するためにかつ/または架橋反応を開始させるために役立つ。
【0007】
従来の赤外線乾燥機システムは、赤外線エミッタ以外にも、冷却部や供給空気部、排出空気部などの機能コンポーネントを有しており、これらの機能コンポーネントはさまざまな方法で互いに結合され、空気管理システムで制御される。したがって、例えば、独国特許出願公開第102010046756号明細書は、複数の乾燥機モジュールから構成され、シート材料またはロール材料に印刷するための印刷機用の乾燥機モジュールおよび乾燥機システムを記載している。
【0008】
乾燥機システムは、搬送方向に対して横方向に配置された複数の乾燥機モジュールで構成され、各乾燥機モジュールは、印刷基材と整列された細長い赤外線エミッタを有し、赤外線エミッタの長手方向軸線は、印刷基材の搬送方向に対して直交して走る。制御可能な換気システムを使用することにより、赤外線エミッタおよび印刷基材に作用する空気流が発生する。赤外線エミッタは、印刷基材のためのプロセス空間内に配置されている。供給空気は、供給空気収集空間に供給され、加熱装置を使用して供給空気収集空間内で加熱される。さらに、赤外線エミッタによって加熱された空気は、ファンを使用して運び去られ、加熱された供給空気に追加されて赤外線エミッタが冷却される。
【0009】
加熱された供給空気は、供給空気収集空間からスリットノズルの形態のガス出口ノズルを介してプロセス空間に送り込まれる。ガス出口ノズルは、赤外線エミッタの両側に配置され、印刷基材の搬送方向で手前側のスリットノズルは、搬送方向とは反対の向きで印刷基材平面に対して傾斜して走り、搬送方向で奥側のスリットノズルは、同様に、印刷基材平面に対して傾斜して走り、搬送方向に向いている。スリットノズルの傾斜角度はモータを使用して変えることができる。
【0010】
水分を含んだ供給空気は、プロセス空間から抽出ダクトを介して排出空気として運び去られ、その一部は熱交換器に供給され、別の一部は供給空気収集空間に追加される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
既知の乾燥機モジュールでは、プロセスガスは、その目的のために特別に設けられた加熱装置を使用して加熱される。加熱されたプロセスガスは、加熱された空気流としてスリットノズルを介して印刷基材に向けて流出し、水分を含んだ空気として別の場所で再び抽出されるまで、乾燥すべき印刷基材に対して局所的に作用しあるいは多少規定外に作用する。したがって、基材表面から水分を運び去るという観点での乾燥空気の効率性は、正確に再現可能ではない。スリットノズルはその構造が比較的複雑である。
【0012】
したがって、本発明は、再現可能かつ効率的であり、特に基材の乾燥の均一性および乾燥速度に関して改善された結果をもたらす乾燥方法を特定するという目的に基づいている。
【0013】
加えて、本発明は、特に、溶媒を含有する、特に水ベースの印刷インクを乾燥させるための、乾燥の均一性および乾燥速度に関して改善されたエネルギ効率の良い赤外線乾燥機モジュールおよび乾燥機システムを提供するという目的に基づいている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記方法に関して、この目的は、本発明に従って達成され、上述した形式の方法から始まり、少なくとも2つのプロセスガス流が基材に作用する前に、少なくとも2つのプロセスガス流を赤外線エミッタに案内し、かつ基材から離れる排出空気流を、基材に向けて方向付けられた各プロセスガス流に空間的に割り当てるというものである。
【0015】
少なくとも2つのプロセスガス流が基材に作用する前に、少なくとも2つのプロセスガス流を赤外線エミッタに案内する。
・プロセスガスは、最も単純な場合では空気である。プロセスガスは主に基材から水分を運び去るために使用される。この目的のために、プロセスガスは基材に作用する前に加熱される。一般的な方法とは対照的に、2つのプロセスガス流は、高温の赤外線エミッタとそのすぐ近くにある任意の高温ガス案内要素とに衝突することによって加熱される。この目的のために、プロセスガス流は、赤外線エミッタに案内され、その結果、プロセスガス流は少なくとも部分的にエミッタの周囲を流れる。同時に、プロセスガス流は、赤外線エミッタとその近くのガス案内要素とを冷却する。プロセスガスを加熱することにより、プロセスガスに比較的多くの水分を吸収させることができる。
・少なくとも1つの赤外線エミッタは、例えば、細長いエミッタ菅を備えた管状エミッタ、あるいはU字状またはリング状に曲げられたエミッタ菅、あるいはパネル状またはタイル状のエミッタである。少なくとも1つの赤外線エミッタは、反射体およびハウジングを備えることができる。これらの赤外線エミッタの実施形態では、赤外線エミッタを越えて流れることによるプロセスガスの加熱は、例えば、プロセスガスがエミッタ菅の長手方向両側面側でエミッタ菅の周囲を流れるという事実によって、あるいはプロセスガスがパネル状の赤外線エミッタの平らな側面に衝突して横方向にまたはエミッタパネルの開口部を介してプロセス空間に送られることによって行われる。
・これらの赤外線エミッタは、例えば約1000~2750nmの範囲内の放出波長を有しており、一般的に(特に、例えば印刷機に典型的なような狭い空間では)、赤外線エミッタは過熱から保護するために積極的に冷却する必要がある。本発明による方法では、赤外線エミッタに到達するプロセスガスは、加熱されると同時に赤外線エミッタを冷却する。したがって、赤外線エミッタのための冷却ガスは、加熱された後には、乾燥プロセス用の加熱されたプロセスガスとして同時に作用する。プロセスガスの追加的な加熱を省略することができ、あるいはプロセスガスの追加的な加熱は、いずれの場合でも冷却する必要がある赤外線エミッタによる追加的な加熱がない場合よりも少ないエネルギ消費で行うことができる。これにより、エネルギを効率的に使用することができる。
【0016】
基材から離れる排出空気流を、基材に向けて方向付けられた各プロセスガス流に空間的に割り当てる。
・加熱されたプロセスガスは、方向付けられかつ加熱されたプロセスガス流として、プロセス空間に導入される。プロセスガス流は拡散的ではなく、プロセスガスの体積および流速に応じて基材表面に向かって前進し、所定の角度で基材表面に衝突し、コーティングされた基材上で乾燥させるように作用する主要な伝播方向を有している。ここで「作用する」とは、プロセスガス流が層を乾燥させることを意味し、例えば、溶媒は、この層から気相に取り込まれ、基材表面の領域ではガス乱流が発生する。
・水分を含んだプロセスガスおよび基材から出るその他のガス状の成分は、排出空気としてプロセス空間から完全にまたは部分的に除去される。排出空気の方向付けられた流れは、抽出ダクトを介して抽出することによって発生し、この排出空気流も(プロセスガス流と同様に)主要な伝播方向を有している。排出空気流の方向は、基材表面に対する抽出ダクトの位置および整列によって決定的に定まり、基材表面に向かう抽出ダクトの仮想的な延長として定義される。
・プロセスガス流と排出空気流との空間的な割当ては、少なくとも1つの排出空気流が、基材表面に衝突する少なくとも2つのプロセスガス流のそれぞれに隣接しているという事実によって得られ、より正確には、少なくとも2つのプロセスガス流のそれぞれは基材表面上で排出空気流と合流する。
・空間的な割当てにより、基材表面上で複数のガス流の共有の相互作用が生じる。したがって、それぞれのガス流の相互作用は、一方では、加熱されたプロセスガスの流れ方向と水分を含んだ排出空気の流れ方向とが異なるという事実によって、他方では、上述した空間的な割当ての結果として、加熱されたプロセスガスと水分を含んだ排出空気とが強制的に収束するという事実によってもたらされる。結果として生じるプロセスガス流と排出空気流との間の強制的な相互作用は、基材表面の近接部位にガス乱流をもたらす。このガス乱流は、流体力学的層流境界層の乱れ、減少または剥離さえも生じさせることができ、物質移動、特に基材からの水分の除去に関連する改善をもたらすことができる。
【0017】
本発明による方法では、これらの手段の結果として、基材の迅速かつ効率的な乾燥が達成され、可能な限り低いエネルギ消費も一緒に達成される。さらに、プロセスガスの体積と排出空気の体積とを制御することにより、ガスの乱流の程度を制御できるため、乾燥の効率も再現性よく調節できる。
【0018】
ガス乱流の形成を支援するために、プロセスガスの主要な伝播方向と排出空気の主要な伝播方向とは、好ましい場合には90度未満の角度を形成し、特に好ましい場合には、それらは反対方向に方向付けられる。
【0019】
長手方向軸線を有する赤外線エミッタを用いることが有利であることが判明しており、赤外線エミッタは、その長手方向軸線の各側方に赤外線エミッタを越えて流れる2つのプロセスガス流のうちの一方を有している。
【0020】
ここで、赤外線エミッタは、プロセス空間を区画する壁のスリット状の入口開口部内または下方に(好ましくは中央に)配置され、これにより、赤外線エミッタは、壁との間に1つの長手方向隙間、または好ましくは同じ幅の2つの長手方向隙間を形成し、プロセスガスが、長手方向隙間から赤外線エミッタの2つの長手方向側面に沿って基材表面に向かって流出する。スリット状の入口開口部は、例えば、貫通隙間として、または並置された複数の個々の開口部として構成される。
【0021】
したがって、赤外線エミッタは、2つのプロセスガス流の発生に寄与し、同時にプロセスガス流が赤外線エミッタを越えて流れる。ここで、発生した各プロセスガス流は、乾燥すべき基材の帯状の表面領域に作用する。好ましくは、それぞれに割り当てられた抽出流も、任意選択で、ストリップ状にそれぞれ構成してもよい。
【0022】
基材の平面的な赤外線照射の目的で使用されるエミッタユニットがいずれの場合も、互いに平行に走る長手方向軸線を有する複数の赤外線エミッタを備える、本発明による方法の好ましい技術を以下に説明する。
【0023】
この技術の特に効率的な実施形態では、基材に向けて方向付けられたプロセスガス流は、赤外線エミッタの各長手方向側面の周囲に案内され、隣接する赤外線エミッタの隣接するプロセスガス流は、共通の排出空気流に空間的に割り当てられる。
【0024】
この方法の変形例では、排出空気流はいずれの場合も、2つのプロセスガス流の間を流れ、2つのプロセスガス流のうちの一方は1つの赤外線エミッタに割り当てられ、他方のプロセスガス流は隣接する赤外線エミッタに割り当てられる。赤外線エミッタの長手方向軸線の方向で見て、2つの隣接する赤外線エミッタ間で次の流れ順序、すなわち、プロセスガス流、排出空気流、プロセスガス流の流れ順序が得られる。互いに関与するプロセスガス流は、共通の排出空気流と相互作用し、これらのプロセスガス流は、好ましくは、特に基材表面の共通の帯状領域上で互いに相互作用することもできる。
【0025】
流れの共有の相互作用により、特に集中的なガス乱流が基材表面の共通の帯状領域に発生し、これにより、基材表面上の層流境界層が特に効率的に乱され、低減され、または剥離され、迅速な乾燥が達成される。隣接する2つのプロセスガス流による排出空気流の共通の利用により、コンパクトな構造とともに、エミッタアレイの赤外線エミッタの空間的近接配置が可能になり、したがって効率的な乾燥が可能になる。
【0026】
赤外線エミッタの長手方向軸線は、基材の搬送方向に直交して走っていてよく、したがって、例えば、基材の全幅に亘って延在してよい。ただし、一部の用途、例えば印刷機では、異なる幅の基材を処理するために1つの同じ装置を使用できることが望ましい。赤外線放射は、いわゆる「規格幅」に亘ってだけ必要とされてよく、この規格幅は赤外線エミッタが取り付けられている装置の全装備幅よりも小さくすることができる。この点に関して、特に、赤外線エミッタの長手方向軸線が基材搬送方向に走るか、または基材搬送方向と30度未満の角度を形成する場合に有利であることが判明している。
【0027】
赤外線エミッタは基材搬送方向に配置されているため、取り付けられた全赤外線エミッタのうち側縁部の赤外線エミッタは、必要に応じて単にオフにすることができる。この場合、この配置の結果として乾燥動作中に基材上に形成される可能性がある、基材搬送方向の帯状の不均一性を回避するため、赤外線エミッタ配列を搬送方向に対してわずかに傾斜させて配置することが有利である。ここで、傾斜角は小さく、有利には30度未満である。
【0028】
別の好ましい技術は、プロセス空間が、基材の搬送方向で見て、次の構成要素、すなわち、手前側空気ナイフと、互いに平行に配置された複数の赤外線エミッタが取り付けられた照射空間と、統合された抽出手段を有する空気交換ユニットと、奥側空気ナイフとの組合せを有する赤外線乾燥機モジュール内に形成されることを特徴とする。
【0029】
これらの構成要素は、乾燥機モジュールの一部であり、そして乾燥機モジュールは、複数の同一または異なる乾燥機モジュールが組み合わされている乾燥機システムの一部であってもよい。個々の構成要素によって実行される方法ステップを以下に説明する。照射空間には、複数の赤外線エミッタで構成されたエミッタアレイが取り付けられており、照射空間では、加熱および乾燥による基材の処理が、上述のように、プロセスガス、抽出手段および赤外線放射の作用の下で行われる。
【0030】
手前側空気ナイフは、基材表面に向けて方向付けられた集中的な空気流を搬送方向に発生させ、この集中的な空気流は、基材上の層流境界層を突き破り、乱流を発生させ、したがって乾燥プロセスの開始直後に蒸発を促進させる。
【0031】
基材がプロセス空間に持ち込まれるとき、基材の表面に付着したガス状または液状の物質のような望ましくない物質が、気相を介してかつ基材とともに、プロセス空間に導入されるおそれがある。
【0032】
これに対抗するために、この技術の好ましい修正形態では、搬送方向で手前側空気ナイフの下流に抽出手段が設けられる。
【0033】
この任意選択の抽出手段により、空気の一部、および手前側空気ナイフによって基材表面から除去され気相に移行した成分の一部は、最初からプロセス空間から除去される。
【0034】
基材がプロセス空間から出るとき、吸着または吸収によって基材の表面に付着した、または流動境界層内に固定された物質を含む有毒またはその他の望ましくないガス状および液状の物質が、ろ過されずに、また制御されないまま、プロセス空間から放出されるおそれがある。プロセス空間からのそのような物質の制御されない排出を可能な限り回避することが有利である。
【0035】
これを考慮して、奥側空気ナイフは同様に、基材表面に向けて方向付けられた集中的な空気流を発生させ、この集中的な空気流は、プロセスの最後に基材上の層流境界を突き破る。これにより、空気ナイフの上流に蓄積するプロセスガスを、搬送方向の上流に配置された統合された抽出手段を有する空気交換ユニットによって制御下で抽出し、プロセス空間抽出手段を介して制御下で処分することができる。
【0036】
空気交換ユニットは、基材表面に向けて方向付けられた少なくとも1つの空気ジェットを発生させ、空気交換ユニットは、空気ジェットが基材表面に作用した直後に空気ジェットを再び除去する抽出手段を有している。空気交換ユニットは、例えば、基材の全幅に亘って延在する交互に配置されたガス入口ノズルおよび抽出ダクトの配列からなる。空気交換ユニットは、赤外線放射の作用の結果として形成される水分を取り込み、集中的な空気乱流によって水分を運び去ることを目的とする。この直接的な抽出は、乾燥機モジュールからの汚染物質の排出量の低減に寄与する。
【0037】
したがって、奥側空気ナイフは、それぞれの乾燥機モジュール内で基材を乾燥させるプロセスステップを完結させる。
【0038】
このように、手前側空気ナイフと奥側空気ナイフとは、乾燥機モジュールの入口と出口とにおいて追加的な空気カーテンの機能を引き受け、これにより赤外線モジュールは空気圧式に密閉される。照射空間と説明した他の構成要素との組合せの作用により、汚染物質、特に水がプロセス空間に入り、また乾燥機モジュールから放出されるリスクは低減される。これにより、特に低水分量のプロセス空間が可能になり、乾燥効率が改善かつ最適化される。
【0039】
プロセスガス流の体積特性が、赤外線エミッタの長さの少なくとも部分的な長さに亘って、基材搬送方向に増加する場合も有利であることが判明している。
【0040】
好ましくは、流量の増加は、プロセスガスをプロセス空間へ流入させるための、赤外線エミッタの長手方向軸線に沿って走る出口開口部の流れ開断面を連続的に拡大させることによって連続的に行われる。これにより、プロセスガスの動的作用が可能になり、したがって、赤外線エミッタアレイの端部での乱流の度合いが、乾燥プロセスでの蒸発の度合いの増加と相関する。言い換えると、基材の加熱がまだ低く、蒸発の程度が比較的低い乾燥プロセスの開始時では、基材の加熱がまだ高く、蒸発の程度が比較的高い乾燥プロセスの最後に近づくときよりも少ないプロセスガスが乾燥に用いられる。これにより、プロセスガスを特に効率的かつ経済的に使用することができる。
【0041】
本発明による方法は、乾燥機モジュールに導入されるガス体積Vinが乾燥機モジュールから抽出されるガス体積Voutよりも小さくなるように調節されるプロセスガス量制御を有利に備える。
【0042】
プロセス空間から抽出されるガス体積は、プロセス空間に導入されるガス体積よりも大きい。これにより、可能な限り、プロセス空間から有毒またはその他の望ましくない物質が流出しないことが保証される。プロセス空間に導入されるガス体積は、プロセスガスの体積と、任意選択で空気交換ユニットおよび1つまたは複数の空気ナイフを介して導入されるガスの体積とを含む。
【0043】
赤外線乾燥機モジュールに関して、本発明による上述の目的は、赤外線エミッタが、赤外線エミッタの長手方向軸線の各側方でガス案内要素と協働してプロセスガスのための入口通路を形成するように、入口開口部に対して配置され、少なくとも1つのプロセスガス抽出ダクトが各プロセスガス入口通路に隣接していることで達成される。
【0044】
赤外線エミッタが、赤外線エミッタの長手方向軸線の各側方でガス案内要素と協働してプロセスガスのための入口通路を形成するように、入口開口部に対して配置される。
・少なくとも1つの赤外線エミッタは、例えば、細長いエミッタ菅を備えた管状エミッタ、あるいはU字状に曲げられたエミッタ菅、あるいはパネル状またはタイル状のエミッタである。赤外線エミッタは、長手方向軸線を有し、赤外線エミッタは、反射体およびハウジングを備えることができる。
・入口開口部は、赤外線エミッタの長手方向軸線と平行に走り、入口開口部は、例えば、貫通隙間として、または一連の複数の個々の開口部として構成されている。
・少なくとも1つの赤外線エミッタは、入口開口部からプロセス空間に流入するプロセスガスが赤外線エミッタを直接越えてかつ直接その周囲を流れるように、プロセスガス入口開口部に対して配置される。この場合、赤外線エミッタとガス案内要素との間の空間は、少なくとも2つのプロセスガス流のための入口通路を長手方向軸線の各側方に1つずつ形成する。プロセスガス入口通路のガス出口は、基材平面に向けて直角にまたは或る角度に方向付けられている。
・ガス案内要素は、入口開口部から流出してプロセスチャンバに流入するプロセスガスを赤外線エミッタに向けて案内することに寄与することができ、これらのガス案内要素は、赤外線エミッタの近くまで、または赤外線エミッタを越えて基材平面に向かって延在してもよい。小さな隙間幅、すなわち赤外線エミッタとガス案内要素との間のわずかな距離を設定することで、ジェット効果が得られ、このジェット効果は、基材平面に向かうプロセスガス流の加速に貢献することができる。
・したがって、本発明による乾燥機モジュールでは、ガス案内要素および赤外線エミッタは、プロセスガスによって冷却され、それと同時にプロセスガスは赤外線エミッタによって加熱される。赤外線エミッタのための冷却ガスは、加熱された後、加熱されたプロセスガスとして作用する。プロセスガスの追加的な加熱を省略することができ、あるいはプロセスガスの追加的な加熱は、いずれの場合でも冷却する必要がある赤外線エミッタによる追加的な加熱がない場合よりも少ないエネルギ消費で行うことができる。これにより、エネルギを効率的に使用することができる。さらに、赤外線エミッタはプロセスガス案内手段の一部であり、赤外線エミッタは、少なくとも小さな部分に亘ってプロセスガス流の形成および案内に貢献する。
【0045】
少なくとも1つのプロセスガス抽出ダクトが各プロセスガス入口通路に隣接している。
・加熱されたプロセスガスは、プロセスガス入口通路を通過し、方向付けられかつ加熱されたプロセスガスとしてプロセス空間に送り込まれる。プロセスガス流は拡散的ではなく、プロセスガスの体積および流速に応じて基材表面に向かって前進し、所定の角度で基材表面に衝突し、基材表面上で乾燥作用を及ぼす主要な伝播方向を有している。
・水分を含んだプロセスガスおよび基材から出るその他のガス状の成分は、プロセス空間から完全にまたは部分的に排出される。排出空気の方向付けられた流れは、抽出ダクトを介して抽出することによって発生し、この排出空気流も(プロセスガス流と同様に)主要な伝播方向を有している。この流れの方向は、基材平面に対する抽出ダクトの位置および整列によって決定的に定まる。
・各入口通路に隣接して抽出ダクトが存在するため、これはまた、基材表面に衝突する少なくとも2つのプロセスガス流のそれぞれに隣接して少なくとも1つの排出空気流が存在することを意味し、さらによく言えば、少なくとも2つのプロセスガス流のそれぞれは、基材表面上で排出空気流と合流する。その結果、それぞれのガス流の共有の相互作用が基材表面上に発生する。したがって、それぞれのガス流の相互作用は、一方では、加熱されたプロセスガスの流れ方向と水分を含んだ排出空気の流れ方向とが異なるという事実によって、他方では、上述した空間的な割当てにより、加熱されたプロセスガスと水分を含んだ排出空気とが収束するという事実によって生じる。結果として生じるプロセスガス流と排出空気流との間の強制的な相互作用は、基材表面の近接部位にガス乱流をもたらす。このガス乱流は、流体力学的層流境界層の乱れ、減少または剥離さえも生じさせることができ、物質移動、特に基材からの水分の除去に関連する改善をもたらすことができる。
【0046】
本発明による乾燥機モジュールでは、これらの手段の結果として、基材の迅速かつ効率的な乾燥が達成され、それと同時に低いエネルギ消費も達成される。加えて、プロセスガスの体積と排出空気の体積とを制御することにより、ガスの乱流の程度、ひいては乾燥の程度も再現性よく調節できる。
【0047】
ガス乱流の形成を支援するために、プロセスガスの主要な伝播方向と排出空気の主要な伝播方向とは、好ましい場合には90度未満の角度を形成し、特に好ましい場合には、それらは反対方向に方向付けられる。ここで、ガス案内要素および抽出ダクトが、基材平面から或る距離で終端する共通の壁部分を有する場合、好ましいことが判明している。
【0048】
共通の壁部分の一方の側では、加熱されたプロセスガスが基材平面に向かって流れ、共通の壁部分の他方の側では、水分を含んだプロセスガスが排出空気として基材平面から流出する。プロセスガス流の高流速、および共通の壁部分の端部と基材平面との間の可能な限り小さい自由距離は、可能な限り少量のプロセスガスが、共通の壁部分の端部で抽出ダクトに直接送り込まれるという事実に寄与する。基材平面からの自由距離は、例えば、10mm未満であってもよい。
【0049】
本発明による乾燥機モジュールの好ましい実施形態では、以下で詳しく説明するように、基材の平面的な赤外線照射の目的で、いずれの場合にも、互いに平行に走る長手方向軸線を有する複数の赤外線エミッタを備えるエミッタユニットが用いられる。
【0050】
この乾燥機モジュールの特に効率的な実施形態では、いずれの場合にも、隣接する赤外線エミッタの間に共通の抽出ダクトが配置される。
【0051】
赤外線エミッタと抽出ダクトとは交互に並ぶ。これは、特に集中的なガス乱流をもたらし、それにもかかわらず、乾燥すべき基材上にプロセスガス流の規定通りのかつ再現可能な作用をもたらす。隣接する赤外線エミッタが両側にある赤外線エミッタは、ここでは、それらの長手方向側面の各側に抽出ダクトを有し、それぞれの抽出ダクトは、2つのプロセスガス流の一方に割り当てられている。したがって、抽出ダクト内の排出空気流は、いずれの場合も2つのプロセスガス流の間を流れ、2つのプロセスガス流のうちの一方は1つの赤外線エミッタに割り当てられ、他方は隣接する赤外線エミッタに割り当てられる。互いに関与するプロセスガス流は、共通の排出空気流と相互作用し、これらのプロセスガス流は、好ましくは、互いに相互作用することもできる。流れの共有の相互作用によって、特に集中的なガス乱流が基材表面の共通の帯状領域に発生し、これにより、基材表面での層流境界層が特に効率的に乱され、低減され、または剥離され、基材の迅速な乾燥が達成される。さらに、隣接する2つのプロセスガス流による抽出ダクトの共通の利用により、赤外線エミッタのコンパクトな構造が可能になる。
【0052】
側縁部の赤外線エミッタは、隣接する赤外線エミッタとのみ共通の抽出ダクトを有し、側縁部の赤外線エミッタの他方の長手方向側面の側に専用に配置された別の抽出ダクトを有しているか、またはその側で作用する別の抽出手段を有している。
【0053】
赤外線エミッタの長手方向軸線は、基材搬送方向に直交して走っていてよく、例えば、基材の全幅に亘って延在してよい。ただし、一部の用途、例えば印刷機では、異なる幅の基材を処理するために1つの同じ装置を使用できることが望ましい。赤外線放射は、いわゆる「規格幅」に亘ってだけ必要とされてよく、この規格幅は、赤外線エミッタが取り付けられている装置の全装備幅よりも小さくすることができる。この点に関して、特に、赤外線エミッタの長手方向軸線が基材搬送方向に走るか、または基材搬送方向と30度未満の角度を形成する場合に有利であることが判明している。
【0054】
赤外線エミッタは基材搬送方向に配置されているため、取り付けられた全赤外線エミッタのうち側縁部の赤外線エミッタは、必要に応じて単にオフにすることができる。この場合、この配置の結果として乾燥動作中に基材上に形成される可能性がある、基材搬送方向の帯状の不均一性を回避するため、赤外線エミッタ配列を搬送方向に対してわずかに傾斜させて配置することが有利である。ここで、傾斜角は小さく、有利には30度未満である。
【0055】
乾燥機モジュールの別の好ましい実施形態は、プロセス空間が、基材の搬送方向で見て次の構成要素、すなわち、手前側空気ナイフと、互いに平行に配置された複数の赤外線エミッタが取り付けられた照射空間と、統合された抽出手段を有する空気交換ユニットと、奥側空気ナイフとを有する赤外線乾燥機モジュール内に形成されることを特徴とする。
【0056】
これらの構成要素は、乾燥機モジュールの一部であり、そして乾燥機モジュールは、複数の同一または異なる乾燥機モジュールが組み合わされている乾燥機システムの一部であってもよい。個々の構成要素によって実行される方法ステップを以下に説明する。照射空間には、複数の赤外線エミッタで構成されたエミッタアレイが取り付けられており、照射空間では、加熱および乾燥による基材の処理は、上述のように、プロセスガス、抽出手段および赤外線放射の作用の下で行われる。
【0057】
手前側空気ナイフは、基材表面に向けて方向付けられた集中的な空気流を搬送方向に発生させ、集中的な空気流は、基材上の層流境界層を突き破り、乱流を発生させ、したがって乾燥プロセスの開始直後に蒸発を促進させる。
【0058】
基材がプロセス空間に持ち込まれるとき、基材の表面に付着したガス状または液状の物質のような望ましくない物質が、気相を介してかつ基材とともに、プロセス空間に導入されるおそれがある。
【0059】
これに対抗するために、好ましい修正形態では、搬送方向で手前側空気ナイフの後に抽出手段が続くことが提供される。
【0060】
この任意選択の抽出手段により、空気の一部、および手前側空気ナイフによって基材表面から除去され気相に移行した成分の一部は、最初からプロセス空間から除去される。
【0061】
基材がプロセス空間から出るとき、吸着または吸収によって基材の表面に付着した、または流動境界層内に固定された物質を含む有毒またはその他の望ましくないガス状および液状の物質が、ろ過されずに、また制御されないまま、プロセス空間から放出されるおそれがある。プロセス空間からのそのような物質の制御されない排出を可能な限り回避することが有利である。
【0062】
これを考慮して、奥側空気ナイフは同様に、基材表面に向けて方向付けられた集中的な空気流を発生させ、この集中的な空気流は、プロセスの最後に基材上の層流境界を突き破る。これにより、空気ナイフの上流に蓄積するプロセスガスを、搬送方向の上流に配置された統合された抽出手段を有する空気交換ユニットによって制御下で抽出し、プロセス空間抽出手段を介して制御下で処分することができる。
【0063】
空気交換ユニットは、基材表面に向けて方向付けられた少なくとも1つの空気ジェットを発生させ、空気交換ユニットは、空気ジェットが基材表面に作用した直後に空気ジェットを再び除去する抽出手段を有している。空気交換ユニットは、例えば、基材の全幅に亘って延在する交互に配置されたガス入口ノズルおよび抽出ダクトの配列からなる。空気交換ユニットは、赤外線放射の作用の結果として形成される水分を取り込み、集中的な空気乱流によって水分を運び去ることを目的とする。
【0064】
したがって、奥側空気ナイフは、それぞれの乾燥機モジュール内で基材を乾燥させるプロセスステップを完結させる。
【0065】
このように、手前側空気ナイフと奥側空気ナイフとは、乾燥機モジュールの入口と出口とにおいて追加的な空気カーテンの機能を引き受け、これにより赤外線モジュールは空気圧式に密閉される。照射空間と説明した他の構成要素との組合せの作用により、汚染物質、特に水がプロセス空間に入り、また乾燥機モジュールから放出されるリスクは低減される。これにより、特に低水分量のプロセス空間が可能になり、乾燥効率が改善かつ最適化される。
【0066】
基材平面内でかつ搬送方向にプロセス空間を通って移動する基材を乾燥させるための乾燥機システムに関して、本発明による前述の技術的目的は、乾燥機システムが本発明による複数の乾燥機モジュールであって、搬送方向で見て左右にかつ/または前後に隣り合って配置されている複数の乾燥機モジュールを含むという事実によって達成される。
【0067】
本発明を、例示的な実施形態および特許図面を参照して、以下により詳細に説明する。詳細には、図面には以下の概略図が示されている。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【
図1】印刷ユニットおよび赤外線乾燥機システムを有する印刷機と、搬送経路に沿って搬送方向に搬送される印刷基材とを示す概略図である。
【
図2】
図1の印刷機の乾燥機システムの一部としての本発明による乾燥機モジュールを示す、印刷基材搬送方向の長手方向断面図である。
【
図3】本発明による乾燥機モジュールの照射ユニットの詳細を示す、
図2の線A―Aに沿った断面図である。
【
図4】照射ユニットの詳細を示す、
図3の矢印Xの方向でのエミッタユニットの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0069】
赤外線エミッタでは、コイル状またはストリップ状の炭素またはタングステンで構成された加熱フィラメントが、不活性ガスで満たされたエミッタ管に封入されており、エミッタ菅は通常は石英ガラス製である。加熱フィラメントは、エミッタ管の一端部または両端部を介して導入される電気接続部に接合されている。
【0070】
図1には、全体的な参照番号1が割り当てられた、ロール供給インクジェット印刷機の形態の印刷機の図が示されている。巻出し機2から始まり、例えば紙などの印刷基材で構成された材料ウェブ3は印刷ユニット40に送られる。この印刷ユニット40は、材料ウェブ3に沿って前後に配置された複数のインクジェット印刷ヘッド4を備え、複数のインクジェット印刷ヘッド4によって、溶剤ベースの、特に水ベースの印刷インクが印刷基材に塗布される。
【0071】
搬送方向5で見ると、材料ウェブ3は続いて、印刷ユニット40から偏向ローラ6を介して赤外線乾燥機システム70に送られる。この赤外線乾燥機システム70には、複数の乾燥機モジュール7が取り付けられており、複数の乾燥機モジュール7は溶媒を乾燥させるためまたは溶媒を材料ウェブに吸収させるために設計されている。
【0072】
材料ウェブ3のさらなる搬送経路は、固有の牽引駆動モータが装備された牽引ローラ8を介して巻取りローラ9に至り、牽引ローラ8を介してウェブ張力が調節される。
【0073】
乾燥機システム70では、複数(例示的な実施形態では4個)の乾燥機モジュール7が一緒にグループ化される。各乾燥機モジュールには、複数(例示的な実施形態では18個)の赤外線エミッタが装備されている。
【0074】
乾燥機システムにおいて、乾燥機モジュールは、搬送方向で見て、左右に対をなすとともに前後に対をなして配置されている。左右に配置された乾燥機モジュール7の対は、印刷機1の最大規格幅をそれぞれ包含する。印刷基材の寸法およびインク範囲に対応して、乾燥機モジュール7と個々の赤外線エミッタとは、互いに別個に電気的に制御することができる。
【0075】
材料ウェブ3の搬送速度は5m/sに設定されている。これは比較的高速であり、個々のプロセスステップの最適化によって可能になり、特に高い乾燥速度を必要とする。この要件を満たすために必要な乾燥方法、およびこの目的で使用される乾燥機モジュール7については、
図2~4を参照して以下でより詳細に説明する。これらの図において
図1と同じ参照番号が使用されている場合、それらの参照番号は、印刷機の説明を参照して先により詳細に説明したものと同一に構成されたまたは同等の構成要素および部品を指す。
【0076】
図2に示す本発明による乾燥機モジュール7の実施形態では、ハウジング21は、印刷基材3のための処理空間(=プロセス空間)を取り囲み、(搬送方向5で見て)次の構成要素、すなわち、空気バッフル22aを備えた手前側空気ナイフ22と、手前側空気ナイフ22のすぐ下流にある抽出手段23と、18個の赤外線エミッタ24であってそれらの長手方向軸線24aがほぼ搬送方向5に走りかつ互いに平行に配置された赤外線エミッタ24が取り付けられた赤外線照射チャンバ25と、交互に配置されたガス入口ノズルおよび抽出ダクト(26b,26a)を有する空気交換ユニット26と、最終空気バッフル22aを有する奥側空気ナイフ22と、を有している。
【0077】
方向矢印28は、印刷基材3の表面に向けて方向付けられた空気流を示し、方向矢印29は、印刷基材3から離れる空気流を示し、共有の相互作用35はこれらの空気流によるものであり、これについては
図3を参照して説明する。搬送方向5での方向矢印28;29の長さの増加は、それぞれの流量の増加を象徴している。印刷基材3の表面は、同時に、基材平面3aに対応する。
【0078】
図3に示す断面は、4つの同一に構成された赤外線エミッタユニット30に沿った赤外線照射チャンバ25の区分を備える。この断面は、抽出空間31、ガス供給空間32および実際の赤外線処理空間33を示している。
【0079】
ガス供給空間32は、ガス入口36に接続されるとともに複数のガス収集空間32aから構成されており、複数のガス収集空間32aはライン32bを介して互いに流体接続されている。各エミッタユニット30は、ガス収集空間32aを有している。各ガス収集空間32aには、基材処理空間33に通じる中央の細長い開口部37が設けられている。この細長い開口部37は、基材搬送方向5(紙面に垂直)に延在する長手方向スリットの形状を有しており、長手方向スリットは長手方向両側でガス案内要素38a;38bによって区画されている。
図3に示す断面において、ガス案内要素38a,38bは、ベルのように赤外線エミッタ24を覆うアーチ状をなし、これらのガス案内要素38a,38bは以下ではまとめて「空気誘導ベル38」とも称する。空気誘導ベル38は、印刷基材3の表面(基材平面3a)の手前約10mmの距離で終端する。
【0080】
抽出空間31は、ファン(図示せず)に接続されたガス出口34を有している。スロット状の抽出ダクト39はそれぞれ、隣接する赤外線エミッタユニット30の間を走りかつ基材平面3aの手前で空気誘導要素38aおよび/または38bと一緒に終端し、抽出ダクト39は、抽出空間31に導き入れられている。
【0081】
基材処理空間33内に配置された赤外線エミッタ24は、市販の双菅エミッタの形態である。双菅エミッタは、8字形の断面を有し中央のウェブによって互いに分離された2つの副区域を囲む石英ガラス電球で構成されている。双菅エミッタの公称出力は3,500Wである。エミッタの全長は70cmであり、電球の外寸は34×14mmである。
【0082】
図4のエミッタユニット30の平面図から、冷却空気のための処理空間33への開口部37を視認することができ、また開口部37の奥に赤外線エミッタ24を視認することができる。細長い開口部37の開口幅は、搬送方向5で連続的に拡大されている。他方で、抽出ダクト39の幅は、搬送方向5において一定のままである。搬送方向5は、抽出ダクト39の長手方向側面および赤外線エミッタ24(この図では見えない)の長手方向軸線のそれぞれと10度の角度を形成する。
【0083】
本発明による方法を、
図1~4を参照して、例として以下により詳細に説明する。
【0084】
図2の乾燥機モジュール7の構成要素は、以下の機能および効果を有している。
【0085】
手前側空気ナイフ22は、空気バッフル22aの助けを借りて、印刷基材表面3aに向けて方向付けられた集中的な空気流22bを搬送方向5に発生させ、この集中的な空気流22bは、印刷基材3上の層流境界層を突き破り、乱流を発生させ、それにより乾燥プロセスの開始直後に蒸発を促進させる。搬送方向で手前側空気ナイフ22の下流に配置された抽出手段によって、手前側空気ナイフ22によって巻き上げられた空気および成分の一部は、乾燥機モジュール7から抽出される。
【0086】
印刷基材3が乾燥機モジュール7から出るときに、ガス状および液状の有毒またはその他の望ましくない物質が、ろ過されずに、また制御されないまま、プロセス空間から放出されることをできる限りなくすために、奥側空気ナイフ27が同様に、空気バッフル27aの助けを借りて、印刷基材表面3aに向けて方向付けられた集中的な空気流を発生させ、この集中的な空気流は、印刷基材3上の層流境界層を突き破る。これにより、空気ナイフ27の上流に蓄積したプロセスガス27bは、搬送方向で上流に配置された空気交換ユニット26によって除去される。この目的のために、搬送方向5に対して横方向に走る複数の空気カーテン26aが、空気交換ユニット26によって発生される。交互のガス入口ノズルおよび抽出ダクトを使用して、印刷基材表面3aに向けて方向付けられた供給空気流26bが、各空気カーテン26aで発生し、この供給空気流26bは、印刷基材に衝突した直後に、排出空気流26cによって再び引き出される。空気交換ユニット26は、赤外線放射の作用の結果として得られた水分を集中的な空気乱流を使用して取り込むことができるとともに、その水分を空気交換ユニット26に統合された抽出手段によって除去することができ、これにより望ましくない成分が制御されずに乾燥機モジュール7から放出されないようにすることができる。
【0087】
赤外線照射チャンバ25内での印刷基材3の処理は、赤外線放射を使用して加熱すると同時に乾燥空気に曝すことを含む。両方の処理が印刷基材3に可能な限り効率的に作用するようにするために、ガス供給空間32から細長い開口部を通って処理空間33に流入する冷却空気は、2つのプロセスガス流28に分割され、2つのプロセスガス流28は赤外線エミッタ24に案内されるとともに部分的に赤外線エミッタ24の電球の周囲に案内される。赤外線エミッタ24はこのプロセスの間に冷却され、同時に冷却空気が加熱される。
【0088】
赤外線エミッタ24の壁と空気誘導ベル38との間に狭い隙間が得られ、この狭い隙間は2つの空気流28を印刷基材3に向けて加速させ、これにより2つの空気流28は印刷基材3に集中的に作用して水分を気相に移行させまたは吸収する。加熱された結果として、冷却空気は水分に対する吸収能力が増大する。
【0089】
印刷基材から離れる排出空気流29は、印刷基材3に向けて方向付けられた各空気流28に空間的に割り当てられており、流入する空気流28と吸引される空気流29との方向はほぼ反対方向に方向付けられる(例示的な実施形態では、流入する空気流28と吸引される空気流29とは互いに30度未満の角度を形成する)とともに印刷基材3の表面上にある相互作用ゾーン35に収束する。したがって、2つの空気流28のそれぞれは、印刷基材表面上で排出空気流29に合流する。空気流28と排出空気流29との間で結果として生じる強制的な相互作用は、相互作用ゾーン35において、すなわち、印刷基材表面の近接部位においてガス乱流につながり、ガス乱流は、流体力学的層流境界層の乱れ、減少、または剥離さえも生じさせることができ、それに伴う物質移動の改善、特に印刷基材3からの水分の除去をもたらすことができる。
【0090】
排出空気流29は、いずれの場合も2つの空気流28の間を流れ、2つの空気流28の一方は一方の赤外線エミッタ24に割り当てられ、他方は隣接する赤外線エミッタ24に割り当てられる。
図3に示すように、隣接する赤外線エミッタ24間には、次の流れ順序、すなわち、空気流28―排出空気流29―空気流28の流れ順序が得られる。これらの空気流28は共通の排出空気流29と相互作用し、好ましくは、特に印刷基材表面上の共通の帯状領域35で互いに相互作用することもできる。流れ28,29,28の共有の相互作用は、基材表面の共通の帯状相互作用領域35で特に集中的なガス乱流を発生させ、この集中的なガス乱流は印刷基材表面で層流境界層を特に効率的に乱し、減少させ、または剥離させ、それにより急速な乾燥が達成される。2つの隣接する空気流28による排出空気流29の共通の利用は、エミッタアレイの赤外線エミッタ24の空間的近接配置を可能にし、したがってコンパクトな構造と同時に効率的な乾燥を可能にする。