(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-29
(45)【発行日】2022-08-08
(54)【発明の名称】エアバルブと、そのエアバルブを用いた燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
F16K 31/524 20060101AFI20220801BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20220801BHJP
【FI】
F16K31/524 Z
H01M8/04 N
H01M8/04 J
(21)【出願番号】P 2021514917
(86)(22)【出願日】2020-04-09
(86)【国際出願番号】 JP2020016044
(87)【国際公開番号】W WO2020213518
(87)【国際公開日】2020-10-22
【審査請求日】2021-06-10
(31)【優先権主張番号】P 2019078708
(32)【優先日】2019-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000116574
【氏名又は名称】愛三工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福井 誠
(72)【発明者】
【氏名】石原 昇
(72)【発明者】
【氏名】山中 翔太
【審査官】西井 香織
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-097951(JP,A)
【文献】特開2013-044410(JP,A)
【文献】特開2012-122425(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0176548(US,A1)
【文献】特開2018-137150(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 31/44 - 31/62
H01M 8/04 - 8/0668
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池スタックのエア系に設けられており、燃料電池スタックに供給されるエアガスの流れを制御するエアバルブであって、
エアバルブは、
外部から燃料電池スタックに供給されるエアガスが通過するエア供給通路を開閉する供給バルブと、
外部から供給されたエアガスがエア供給通路を通過する状態と、エア供給通路から分岐してエアバルブの下流に配置されている部材をバイパスするバイパス通路を通過する状態に切換える切換バルブと、
供給バルブと切換バルブに接続されており、両者を駆動するリンク機構と、を備えており、
リンク機構は、
供給バルブに固定されているアーム部と、
アーム部が接触するガイド部が設けられているカムプレートと、を備えており、
ガイド部は、供給バルブの開閉動作を行うためにアーム部が移動する第1領域と、切換バルブの開閉動作を行うためにアーム部が移動する領域であって第1領域から独立している第2領域と、を備えているエアバルブ。
【請求項2】
請求項1に記載のエアバルブあって、
第1領域と第2領域の間に、供給バルブと切換バルブの双方の開閉動作を行わない第3領域が設けられているエアバルブ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のエアバルブあって、
カムプレートは、モータに連結されているカムギアに固定されており、
カムギアは、供給バルブが閉弁しているときにアーム部が第1領域に接触しているように、供給バルブを開弁する際にカムギアが回転する方向に付勢されているエアバルブ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のエアバルブあって、
第2領域は、カムプレートの回転中心からの距離が一定の円弧状であり、
アーム部は、切換バルブが駆動する間
、第2領域に接触しながら
カムプレート上を移動す
るエアバルブ。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のエアバルブあって、
カムプレートは、供給バルブが閉弁しているときにアーム部と嵌合する嵌合部を備えており、
前記嵌合部は、カムプレートの径方向内側に窪んでいる溝であるエアバルブ。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載のエアバルブであって、
第1領域は、供給バルブが閉弁している状態でアーム部と接触し、供給バルブの開弁開始時から所定期間アーム部との接触状態が維持されている直線部を備えているエアバルブ。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のエアバルブであって、
第2領域の長さが、第1領域の長さより長いエアバルブ。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載のエアバルブを備えている燃料電池システムであって、
エアバルブと燃料電池スタックの間に加湿器が設けられており、
バイパス通路が加湿器をバイパスするようにエア供給通路に接続されており、
供給バルブが閉弁しているときに、切換バルブは、供給バルブと加湿器の間のエア供給通路を遮断するようにエア供給通路の内壁に接している燃料電池システム。
【請求項9】
請求項8に記載の燃料電池システムであって、
エアバルブは、供給バルブより上流のエア供給通路に接続される筒状の第1流通部と、一端が供給バルブより下流のエア供給通路に接続されるとともに他端がバイパス通路に接続され、中間部分に第1流通部が接続しているエア流通部を備えており、
供給バルブが全開しているときに、供給バルブの下流側の端部が上流側の端部と比較して、エア流通部の一端側に位置している燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2019年4月17日に出願された日本国特許出願第2019-078708号に基づく優先権を主張する。その出願の全ての内容は、この明細書中に参照により援用されている。本明細書は、エアバルブ、及び、そのエアバルブを用いた燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池システムでは、燃料電池スタックに酸素源(エアガス)と水素源(水素ガス)を供給して発電を行う。発電で使用されなかったガスは、エアオフガス及び水素オフガスとして燃料電池システムの外部に排出される。特開2018-137150号公報(以下、特許文献1と称する)には、燃料電池システムのエア系(エアガスを燃料電池スタックに供給する経路)の構造が開示されている。特許文献1の燃料電池システムでは、コンプレッサを用いて燃料電池スタックにエアガス(外気)を供給している。コンプレッサと燃料電池スタックを接続するエア供給通路上にバルブ(入口封止弁)を配置し、燃料電池スタックに供給するエアガスの流量を調整している。また、エアオフガスを排出するエア排出通路上にもバルブ(出口統合弁)を配置し、エアオフガスの流量を調整している。さらに、エア供給通路とエア排出通路をバイパス通路で接続し、バイパス通路上にもバルブ(バイパス弁)を配置している。特許文献1では、バイパス通路を通じてエア供給通路からエア排出通路にエアガスを供給し、エア供給通路内の圧力の調整(入口封止弁の前後差圧の調整)を行っている。
【発明の概要】
【0003】
特許文献1に開示されているように、エア供給通路にバイパス通路を接続することにより、エア供給通路内のエアガスを、燃料電池スタックに供給するだけでなく、燃料電池スタック以外の部材にも供給することができる。しかしながら、エア供給通路内のエアガスを複数個所(燃料電池スタックと、燃料電池スタック以外の部材)に供給する場合、バイパス通路上にバルブを配置することが必要となり、そのバルブを駆動するためのアクチュエータ(モータ等)も必要となる。その結果、燃料電池システムを構成する部品数が増え、燃料電池システムのサイズも増大する。本明細書は、コンパクトな燃料電池システムを実現し得るバルブ(エアバルブ)を提供する。
【0004】
本明細書で開示する第1技術は、燃料電池スタックのエア系に設けられており、燃料電池スタックに供給されるエアガスの流れを制御するエアバルブである。そのエアバルブは、外部から燃料電池スタックに供給されるエアガスが通過するエア供給通路を開閉する供給バルブと、外部から供給されたエアガスがエア供給通路を通過する状態と、エア供給通路から分岐してエアバルブの下流に配置されている部材をバイパスするバイパス通路を通過する状態に切換える切換バルブと、供給バルブと切換バルブに接続されており、両者を駆動するリンク機構を備えていてよい。また、リンク機構は、供給バルブに固定されているアーム部と、切換バルブに固定されており、アーム部が接触するガイド部が設けられているカムプレートを備えていてよい。このエアバルブでは、ガイド部は、供給バルブの開閉動作を行うためにアーム部が移動する第1領域と、切換バルブの開閉動作を行うためにアーム部が移動する領域であって第1領域から独立している第2領域を備えていてよい。
【0005】
本明細書で開示する第2技術は、上記第1技術のエアバルブであって、第1領域と第2領域の間に、供給バルブと切換バルブの双方の開閉動作を行わない第3領域が設けられていてよい。
【0006】
本明細書で開示する第3技術は、上記第1または第2技術のエアバルブであって、カムプレートは、モータに連結されているカムギアに固定されていてよい。また、カムギアは、供給バルブが閉弁しているときにアーム部が第1領域に接触しているように、供給バルブを開弁する際にカムギアが回転する方向に付勢されていてよい。
【0007】
本明細書で開示する第4技術は、上記第1から第3技術のいずれかのエアバルブであって、第2領域は、カムプレートの回転中心からの距離が一定の円弧状であり、切換バルブが駆動する間アーム部が接触しながら移動する接触部を備えていてよい。
【0008】
本明細書で開示する第5技術は、上記第1から第4技術のいずれかのエアバルブであって、カムプレートは、供給バルブが閉弁しているときにアーム部と嵌合する嵌合部を備えていてよい。また、嵌合部は、カムプレートの径方向内側に窪んでいる溝であってよい。
【0009】
本明細書で開示する第6技術は、上記第1から第5技術のいずれかのエアバルブであって、第1領域は、供給バルブが閉弁している状態でアーム部と接触し、供給バルブの開弁開始時から所定期間アーム部との接触状態が維持されている直線部を備えていてよい。
【0010】
本明細書で開示する第7技術は、上記第1から第5技術のいずれかのエアバルブであって、第2領域の長さが、第1領域の長さより長くてよい。
【0011】
本明細書で開示する第8技術は、上記第1から第7技術のいずれかのエアバルブを備えている燃料電池システムである。その燃料電池システムでは、エアバルブと燃料電池スタックの間に加湿器が設けられており、バイパス通路が加湿器をバイパスするようにエア供給通路に接続されていてよい。また、供給バルブが閉弁しているときに、切換バルブは、供給バルブと加湿器の間のエア供給通路を遮断するようにエア供給通路の内壁に接していてよい。
【0012】
本明細書で開示する第9技術は、上記第8技術の燃料電池システムであって、エアバルブは、供給バルブより上流のエア供給通路に接続される筒状の第1流通部と、一端が供給バルブより下流のエア供給通路に接続されるとともに他端がバイパス通路に接続され、中間部分に第1流通部が接続しているエア流通部を備えていてよい。また、供給バルブが全開しているときに、供給バルブの下流側の端部が上流側の端部と比較して、エア流通部の一端側に位置していてよい。
【発明の効果】
【0013】
第1技術によると、1個のエアバルブで、エア供給通路を流れる流体の流量と、バイパス通路を流れる流体の流量の双方を制御することができる。すなわち、エア供給通路とバイパス通路に別々にバルブ(バルブ体と、各バルブを駆動するアクチュエータ)を設ける形態と比較して、アクチュエータ数を少なくすることができる。燃料電池システムを構成する部品数を減少することが可能となり、燃料電池システムの小型化が実現される。なお、バイパス通路は、一端がエア供給通路に接続して(エア供給通路から分岐して)いれば、他端を接続する位置は適宜選択することができる。例えば、エアバルブと燃料電池スタックの間のエア供給通路上に機器等が接続されている場合、バイパス通路の他端は、機器等の下流(機器等と燃料電池スタックの間のエア供給通路)に接続されていてよい。すなわち、バイパス通路は、エアバルブと燃料電池スタックの間のエア供給通路上に配置されている機器等をバイパスする通路であってよい。あるいは、バイパス通路の他端は、燃料電池スタックの下流(エア排出通路)に接続されていてもよい。すなわち、バイパス通路は、燃料電池スタックをバイパスする通路であってよい。
【0014】
第2技術によると、供給バルブと切換バルブが同時に駆動することを確実に防止することができる。その結果、外部からエア供給通路に導入されるエアガス量が安定した後に、エア供給通路を通過して燃料電池スタックに移動するエアガス量と、バイパス通路を通過するエアガス量を調整することができる。
【0015】
第3技術によると、供給バルブが閉弁しているときに、アーム部をカムプレートに確実に接触させることができる。換言すると、第3技術によると、アーム部とカムプレートの隙間(遊び)がなくなり、バルブ(供給バルブ、切換バルブ)の開度を精度よく検出することができる。なお、カムギアの回転方向(供給バルブが開弁する際にカムギアが回転する方向)への付勢は、コイルばね等の付勢部材を利用して行ってもよいし、モータ出力を利用して行ってもよい。すなわち、供給バルブが閉弁している間、モータが、カムギアの回転方向にトルクを加えていてもよい。
【0016】
第4技術によると、エアバルブ(カムプレート)の構造を簡素化することができる。上記したように、本明細書で開示する技術では、供給バルブと切換バルブが別々のタイミングで駆動する(同時に駆動しない)。そのため、供給バルブが駆動しないタイミング(アーム部が第2領域を移動する期間)は、アーム部の姿勢を維持させるだけでよい。第2領域の形状がカムプレートの回転中心からの距離が一定の円弧状であれば、アーム部は姿勢を変えることなく、第2領域を移動する。アーム部の姿勢が変わらないので、アーム部が第2領域を移動する際にアーム部をカムプレートの係合を維持するための構造を省略することができ、カムプレートの構造を簡素化できる。
【0017】
第5技術によると、アーム部が第1領域の端部(供給バルブが閉弁する位置)に移動したときに、アーム部がカムプレートから飛び出す(アーム部とカムプレートが係合しなくなる)ことを防止することができる。また、嵌合部(嵌合溝)がカムプレートの径方向内側に窪んだ溝なので、嵌合部がカムプレートの周方向に設けられている形態と比較して、カムプレートのサイズを小さくすることができる。
【0018】
第6技術によると、供給バルブの開弁初期(開弁開始時から所定時間)において、カムプレートからアーム部に加わる力(供給バルブを駆動するトルク)が変動することを抑制することができる。
【0019】
第7技術によると、エア供給通路を通過するエアガスとバイパス通路を通過するエアガスの流量(流量比)を高度に制御することができる。
【0020】
第8技術によると、供給バルブが閉弁しているとき(燃料電池システムが停止しているとき)に、加湿器で生じた水分(結露水)が供給バルブに付着することを抑制することができる。弁体、弁座、シール材等が腐食することを抑制することができ、さらに、弁体が氷結することも抑制することができる。弁体の氷結(弁体と弁座の固着)を抑制することにより、供給バルブの開弁時に、弁体を駆動するトルクを低減することができ、供給バルブ開弁時の消費電力を低減することができる。
【0021】
第9技術によると、エア供給通路をエアガスが通過する際の流量係数を、バイパス通路をエアガスが通過する際の流量係数より大きくすることができる。バイパス通路と比較して、エア供給通路は加湿器が設けられている分、圧力損失(流路抵抗)が大きい。エア供給通路の流量係数をバイパス通路の流量係数より大きくすることにより、各通路(エア供給通路,バイパス通路)に対する切換バルブの開度が同じときに、各通路を通過するエアガスの流量差を低減することができる。すなわち、第9技術によると、加湿器が配置されていることに起因するエア供給通路の圧力損失を補償することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図3】バルブ体を駆動するリンク機構の概略図を示す。
【
図5】エア供給通路とバイパス通路の流路の切換りタイミングを示す。
【
図9】
図8の破線IXで囲った範囲の拡大図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(燃料電池システム)
図1を参照し、燃料電池システム100について説明する。燃料電池システム100は、燃料電池スタック20と、燃料電池スタック20に水素ガスを供給する水素系10と、燃料電池スタック20にエアガス(外気)を供給するエア系30と、コントローラ25を備えている。燃料電池システム100では、水素系10から供給された水素ガスと、エア系30から供給された酸素ガス(エアガス)を用いて発電を行う。水素系10は、水素ガス供給装置2と、水素供給通路4と、水素排出通路8を備えている。水素ガス供給装置2は、水素タンク、レギュレータ、インジェクタ等を備えている。水素ガス供給装置2は、コントローラ25によって制御される。水素ガス供給装置2は、コントローラ25の制御信号に基づいて、水素供給通路4を通じて燃料電池スタック20に水素ガスを供給する。燃料電池スタック20から排出される水素ガス(水素オフガス)は、水素排出通路8を通じて燃料電池システム100の外部に排出される。詳細は後述するが、水素排出通路8は、希釈器42に接続されている。水素オフガスは、希釈器42で希釈された後、燃料電池システム100の外部に排出される。
【0024】
エア系30は、コンプレッサ32と、エア供給通路34と、エア排出通路40と、FCバイパス通路36と、エア供給バルブ50と、エア排出バルブ38を備えている。FCバイパス通路36はバイパス通路の一例であり、エア供給バルブ50はエアバルブの一例である。コンプレッサ32は、エアガスとして外気をエア供給通路34に圧送する。なお、コンプレッサ32の上流にはエアクリーナ(図示省略)が配置されている。そのため、エア供給通路34には、清浄なエアガスが供給される。エア供給通路34は、燃料電池スタック20とコンプレッサ32を接続している。エア供給通路34上には、エア供給バルブ50が配置されている。具体的には、エア供給通路34は、コンプレッサ32とエア供給バルブ50を接続している上流側エア供給通路34aと、エア供給バルブ50と燃料電池スタック20を接続している下流側エア供給通路34bを備えている。コンプレッサ32を駆動し、エア供給バルブ50が上流側エア供給通路34aと下流側エア供給通路34bを導通させると、エアガスとして外気が燃料電池スタック20に供給される。エア供給バルブ50の詳細については後述する。
【0025】
エア排出通路40は、燃料電池スタック20に接続されており、燃料電池スタック20からエアオフガスを排出する。なお、エア排出通路40は、希釈器42に接続されている。希釈器42では、水素排出通路8から供給された水素オフガスが、エア排出通路40から供給されたエアオフガスによって希釈される。希釈後のガスは、排出管44を通じて燃料電池システム100の外部に排出される。エア排出通路40上にはエア排出バルブ38が設けられている。エア排出バルブ38は、バタフライ弁であり、コントローラ25によって制御される。エア排出バルブ38の開度を調整することにより、希釈器42に供給されるエアオフガス量が調整され、水素オフガスの濃度が調整される。
【0026】
FCバイパス通路36は、エア供給通路34とエア排出通路40を接続している。具体的には、FCバイパス通路36の一端はエア供給バルブ50に接続されており、他端はエア排出バルブ38の下流でエア排出通路40に接続されている。エア供給バルブ50がエア供給通路34(上流側エア供給通路34a)とFCバイパス通路36を接続すると、エア供給通路34内のエアガスが、エア排出通路40に供給される。FCバイパス通路36は、燃料電池スタック20をバイパスし、エア供給通路34とエア排出通路40を接続する通路である。
【0027】
(エア供給バルブ)
図2及び
図3を参照し、エア供給バルブ50について説明する。
図2は、エア供給バルブ50(エア流通部52)の内部構造を示している。
図3は、エア流通部52内のバルブ体60,64を駆動するバルブ駆動装置70を示している。バルブ駆動装置70は、リンク機構の一例である。
図2,3に示すように、エア供給バルブ50は、コンプレッサ32から供給されるエアガスが流通するエア流通部52と、エア流通部52内の流路を変化させるバルブ体60,64と、バルブ体60,64を駆動するバルブ駆動装置70を備えている。バルブ駆動装置70は、エア流通部52の外部に配置されている。まず、エア流通部52内の構造について説明する。
【0028】
図2に示すように、エア流通部52は、上流側エア供給通路34aに接続される筒状の第1流通部52aと、一端が下流側エア供給通路34bに接続されるとともに他端がFCバイパス通路36に接続される筒状の第2流通部52bを備えている。第1流通部52aの一端にフランジ53aが設けられており、上流側エア供給通路34aに接続される。第1流通部52aの他端は、第2流通部52bの軸方向中間部、より詳細には、第2流通部52bの軸方向の中央部に接続されている。第1流通部52aと第2流通部52bは連通しており、断面の形状(流路形状)は略T字状である。
【0029】
また、第1流通部52aの他端側に、第1バルブ体60が設けられている。第1バルブ体60は、供給バルブの一例である。第1バルブ体60は、第1シャフト62に接続されており、第1シャフト62の回転に伴って回転する。第1バルブ体60は、第1流通部52aから第2流通部52bに供給されるエアガス流量を制御することができる。すなわち、第1バルブ体60を回転させることによって、第1流通部52a内の第1流路54を流通するエアガス流量(第2流通部52bに供給されるエアガス流量)を変化させることができる。第1バルブ体60は、後述する下流側エア供給通路34b及びFCバイパス通路36に供給されるエアガスの総流量を変化させるバルブと捉えることもできる。
【0030】
第2流通部52bの一端にフランジ53bが設けられており、下流側エア供給通路34bに接続される。第2流通部52bの他端にフランジ53cが設けられており、FCバイパス通路36に接続される。第2流通部52bの中央部に、第2バルブ体64が設けられている。第2バルブ体64は切換バルブの一例である。第2バルブ体64は、第2シャフト66に接続されており、第2シャフト66の回転に伴って回転する。第2バルブ体64は、第1流通部52aから第2流通部52bに供給されたエアガスが移動する方向を制御することができる。エア供給バルブ50は、供給バルブ(第1バルブ体60)と切換バルブ(第2バルブ体64)の双方を備えているといえる。
【0031】
第2バルブ体64が
図2の実線で示す状態の場合、第1流通部52aから第2流通部52bにエアガスが供給されると、エアガスは、第2流路56を流通し、下流側エア供給通路34bを通過して燃料電池スタック20に供給される。また、第2バルブ体64が
図2の破線で示す状態の場合、第1流通部52aから第2流通部52bにエアガスが供給されると、エアガスは、第3流路58を流通し、FCバイパス通路36を通過してエア排出通路40に供給される(
図1も参照)。なお、第2バルブ体64を実線と破線の中間位置に制御すると、エアガスを燃料電池スタック20とエア排出通路40の双方に供給することができる。第2バルブ体64は、コンプレッサ32からエア供給バルブ50に供給されたエアガスのうち、燃料電池スタック20に直接供給されるエアガスの割合を変化させるバルブと捉えることもできる。
【0032】
(バルブ駆動装置)
図3に示すように、バルブ駆動装置70は、エア流通部52の外部に配置されている。なお、
図3には、エア流通部52の内部構造(バルブ体60,64、流路54,56,58)を破線で示している。また、バルブ駆動装置70は、エア流通部52と共通のハウジング(図示省略)に収容されている。バルブ駆動装置70は、モータ(図示省略)の出力軸に固定されているモータ歯車72と、第1歯車74と、第2歯車76と、カム(カムプレート)78と、第1アーム82と、第2アーム84を備えている。第2歯車76は、カムギアの一例である。第1歯車74は、2段歯車であり、大径歯車74aがモータ歯車72と噛み合っており、小径歯車74bが第2歯車76と噛み合っている。第2歯車76は、カム78に固定されている。大径歯車74aの歯数はモータ歯車72の歯数より多く、第2歯車76の歯数は小径歯車74bの歯数より多い。そのため、モータ歯車72,第1歯車74,第2歯車76によって、モータの出力トルクを増大(モータ回転数を減少)することができる。そのため、歯車74,76を用いることによって、小サイズ(低トルク)のモータであっても、カム78を駆動(回転)することができる。
【0033】
カム溝78aがカム78に設けられており、ローラ80がカム溝78a内に配置されている。ローラ80は、カム溝78aに沿って移動可能であり、第1アーム82に回転可能に支持されている。ローラ80及び第1アーム82は、アーム部の一例である。第1アーム82は、第1シャフト62に固定されており、カム78の動き(回転)に応じて回転する。第1アーム82が回転すると、第1シャフト62が回転し、第1バルブ体60が回転する。なお、第1アーム82は、カム78が所定角度回転するまではカム78の回転に応じて回転するが、カム78の回転角度が所定角度を超えた後はカム78が回転しても回転しない。具体的には、第1アーム82は、第1バルブ体60が第1流路54を閉じている状態から第1流路54を開く(全開にする)状態に回転するまではカム78の回転に応じて回転し、第1バルブ体60が第1流路54を開いた状態になった後はカム78が回転しても回転しない。すなわち、カム78の回転角度が所定角度を超えた後は、第1バルブ体60は回転しない。なお、カム78は、後述する第2アーム84を駆動するための第2アーム駆動部78bを備えている。
【0034】
第2アーム84は、第2シャフト66に固定されている。第2アーム84の回転軸(第2シャフト66)は、第2歯車76の回転軸と同軸である。但し、第2アーム84は、第2歯車76(及び、第2歯車76に固定されているカム78)に固定されていない。そのため、第2アーム84は、第2歯車76及びカム78と一体に回転しない。しかしながら、第2アーム84は、カム78回転角度が所定角度を超えた後は、カム78の回転に伴って回転する。第2アーム84が回転すると、第2シャフト66が回転し、第2バルブ体64が回転する。バルブ駆動装置70は、第1アーム82と第2アーム84に対して、各々を駆動するモータを個別に設けることなく、1個のモータで第1アーム82と第2アーム84を駆動する。
【0035】
第2アーム84は、第2アーム駆動部78bと接触する接触部84aを備えている。第2歯車76(カム78)が所定角度回転し、第2アーム駆動部78bと接触部84aが接触すると、第2アーム84は、第2歯車76(カム78)の回転に伴って回転する。具体的には、
図3に示すように、第1バルブ体60が第1流路54を閉じているときに、第2アーム駆動部78bと接触部84aは、第2シャフト66(第2歯車76の回転軸)に対して角度α1位相がずれた位置に存在する。そのため、第2歯車76(カム78)が角度α1回転するまでは第2アーム84(第2バルブ体64)は回転せず、第2歯車76の回転角度が角度α1を超えた後に回転を開始する。なお、第2アーム84は、スプリング(図示省略)によって第2バルブ体64が
図3に示す状態(第2流路56を全開にする状態)になるように付勢されている。そのため、第2アーム駆動部78bと接触部84aが非接触のときは、第2流路56が全開となっている。以下、エア供給バルブ50の動作(バルブ駆動装置70を駆動したときの第1バルブ体60と第2バルブ体64の動き)について詳細に説明する。
【0036】
(エア供給バルブの動作)
図4を参照し、エア供給バルブ50の動作90について説明する。なお、
図4では、
図3に示した歯車72,74の図示を省略している。状態(A)は、エア供給バルブ50を閉じている状態を示している。すなわち、状態(A)では、第1バルブ体60が第1流路54を閉じており、第2流路56と第3流路58の双方をエアガスが流通せず、下流側エア供給通路34b及びFCバイパス通路36(燃料電池スタック20及びエア排出通路40)にエアガスが供給されない。
【0037】
状態(B)は、第2歯車76(カム78)が角度α1(
図3を参照)回転し、ローラ80がカム溝78aを移動し、第1バルブ体60が回転して第1流路54が全開となった状態を示している。状態(B)では、第2アーム駆動部78bと接触部84aが接触する。そのため、第2歯車76がさらに回転すると、第2アーム84が回転し、第2バルブ体64が回転する。換言すると、状態(A)から状態(B)までの間、第2バルブ体64は回転しないので、第2流路56が開いており、第3流路58は閉じられている。そのため、状態(A)から状態(B)までの間、エアガスは、下流側エア供給通路34bのみに供給され、FCバイパス通路36には供給されない。すなわち、状態(A)から状態(B)に至るまでの間、コンプレッサ32からエア供給バルブ50に供給されたエアガスは、燃料電池スタック20のみに供給される。
【0038】
状態(C)は、第2アーム84(第2バルブ体64)が第2歯車76(カム78)とともに回転し、第2流路56が閉じられ、第3流路58が全開となった状態を示している。状態(C)では、エアガスは、FCバイパス通路36のみに供給され、下流側エア供給通路34bには供給されない。すなわち、状態(C)では、コンプレッサ32からエア供給バルブ50に供給されたエアガスは、エア排出通路40のみに供給される。なお、状態(B)から状態(C)までの間、第1バルブ体60は回転せず、第1流路54は全開のままである。そのため、状態(B)から状態(C)に至るまでの間、第1流路54を通過するエアガス流量(第2流路56と第3流路58を流通するエアガスの総流量)は変化せず、燃料電池スタック20に供給されるエアガス流量と、エア排出通路40に供給されるエアガス流量の割合が変化する。
【0039】
エア供給バルブ50では、1個のモータの回転に伴って、エア供給バルブ50の状態が状態(A),状態(B),状態(C)の順に変化する。そのため、エア供給バルブ50では、1個のモータを用いるだけで、下流側エア供給通路34b及びFCバイパス通路36に対し、下流側エア供給通路34b及びFCバイパス通路36の双方が閉じている状態(状態(A))、下流側エア供給通路34bのみが開かれ、FCバイパス通路36が閉じられている状態(状態(A)~(B))、下流側エア供給通路34b及びFCバイパス通路36の双方が開かれおり、両通路34b,36を流通するエアガスの割合を変化させる状態(状態(B)~(C))、FCバイパス通路36のみが開かれ、下流側エア供給通路34bが閉じられている状態(状態(C))の切換えを行うことができる。
【0040】
なお、上記したように、状態(B)から状態(C)までの期間、ローラ80が第2歯車76(カム78)の回転に伴ってカム溝78a内を移動するが、第1アーム82は回転していない。この現象は、状態(B)から状態(C)までの期間、第2歯車76(カム78)の回転軸からローラ80までの距離が変化しない(ローラ80が移動するカム溝78aが第2歯車76の回転軸の円弧上に設けられている)ことに起因する。一方、状態(A)から状態(B)までの期間、第1アーム82は、ローラ80の移動に伴って回転する。この現象は、状態(A)から状態(B)までの期間、第2歯車76(カム78)の回転軸からローラ80(ローラ80が移動するカム溝78aの位置)までの距離が除々に長くなっているからである。すなわち、バルブ駆動装置70では、カム溝78aは、第2歯車76(カム78)が角度α1回転するまでは第2歯車76の回転軸からローラ80が離れるように形成され、第2歯車76(カム78)が角度α1回転した後は第2歯車76の回転軸からローラ80が一定の距離に位置するように形成されている。
【0041】
なお、カム溝78aの形状を変更することによって、第1バルブ体60と第2バルブ体64が駆動するタイミングを調整することができる。例えば、第1バルブ体60が全開となった後、所定期間(第2歯車76が所定角度回転する期間)第2バルブ体64が駆動することを禁止することができる。あるいは、第1バルブ体60が全開になる前(第1バルブ体60の開度が上昇している途中)に、第2バルブ体64が駆動を開始するように調整することもできる。なお、カム溝78aの形状は変更せず、第2アーム駆動部78bと接触部84aの角度α1を変更することによっても、第1バルブ体60と第2バルブ体64が駆動するタイミングを調整することができる。すなわち、カム溝78aの形状を変更するよりも簡単に、第1バルブ体60と第2バルブ体64が駆動するタイミングを調整することができる。以下、バルブ駆動装置70の変形例として、第2アーム駆動部78bと接触部84aの角度α1を角度αに変更した場合の、第1バルブ体60と第2バルブ体64の駆動タイミングについて説明する。
【0042】
(変形例)
図5に示す変形例92は、第2歯車76の回転角度θと、下流側エア供給通路34b及びFCバイパス通路36に供給されるエアガス流量(第2流路56及び第3流路58を流通するエアガス流量)の関係を示している。ライン94は第2流路56を流通するエアガス流量(燃料電池スタック20に供給されるエアガス流量)を示し、ライン96は第3流路58を流通するエアガス流量(エア排出通路40に供給されるエアガス流量)を示している(
図1,2も参照)。
【0043】
例(a)は第2アーム駆動部78bと接触部84aの角度αが角度α1より小さい場合を示し、例(b)は角度αが角度α1と等しい場合(すなわち、バルブ駆動装置70)を示し、例(c)は角度αが角度α1より大きい場合を示している。なお、角度θ0は、第1バルブ体60が第1流路54を閉じているときの角度(
図4の状態(A)に相当)を示している。角度θ1は、第1バルブ体60の開度が最大となり、第2流路56及び第3流路58を流通するエアガスの総流量が最大となる角度(
図4の状態(B)に相当)を示している。角度θ2は、第2バルブ体64が第2流路56を閉じ、第3流路58のみを開いているときの角度(
図4の状態(C)に相当)を示している。
【0044】
例(a)の場合、第2歯車76が初期状態(角度θ0)から角度θ1回転すると、第1バルブ体60の開度が最大となり、第2流路56を流れるエアガス流量(ライン94)が最大となる。なお、角度θ0から角度θ1の間、第1バルブ体60の開度上昇に伴って第2流路56を流れるエアガス流量が増加する。例(a)の場合、第2歯車76が角度θ1回転しても、第2アーム駆動部78bと接触部84aは接触しない(
図4の状態(B)を比較参照)。そのため、第2歯車76の回転角度が角度θ1になっても、第2バルブ体64は回転を開始せず、第3流路58のエアガス流量は「ゼロ」である。第2バルブ体64は、第2歯車76の回転角度が角度αに達した後、回転を開始する。角度αから角度θ2の間、第2流路56のエアガス流量が減少するとともに第3流路58のエアガス流量(ライン96)が増加する。その後、第2歯車76の回転角度が角度θ2に達すると、第3流路58のみをエアガスが流通する。
【0045】
例(a)の場合、エア供給バルブ50に導入されるエアガス流量(第1流路54の流量)が安定した後に(エアガス流量が最大となった後に)、第2流路56と第3流路58の切換が行われる。そのため、例(a)は、下流側エア供給通路34bに供給するエアガスとFCバイパス通路36に供給するエアガスの流量比の制御を行いやすい。また、第2流路56のみをエアガスが流通する期間を長く確保することができるので、第2歯車76の回転角度を高度に制御しなくても、燃料電池スタック20に最大量のエアガスを供給することができる。
【0046】
例(b)はバルブ駆動装置70であり、第2歯車76の回転角度が角度α(角度α1)に達すると、第1バルブ体60の開度が最大になるとともに、第2バルブ体64が回転を開始する。そのため、第2流路56のエアガス流量(ライン94)が最大になると、第2流路56と第3流路58の流路の切換が開始される。すなわち、第1流路54を流通するエアガス量が最大になった直後に、下流側エア供給通路34bに供給するエアガス流量とFCバイパス通路36に供給するエアガス流量(ライン96)の流量比の制御が開始される。例(b)は、第2歯車76の回転(モータの駆動)に対し、流路の切換(下流側エア供給通路34bに供給するエアガス量と、FCバイパス通路36に供給するエアガス量の調整)の応答性がよい。
【0047】
例(c)の場合、第2歯車76の回転角度が角度αに達すると、第1バルブ体60の開度が最大になる前(第2歯車76の回転角度が角度θ1に達する前)に、第2バルブ体64が回転を開始する。第2歯車76の回転角度が角度αに達した後、角度θ1までの間、第2流路56のエアガス流量(ライン94)は一定のまま、第3流路58のエアガス流量(ライン96)が増加する。角度θ1以降は、第2流路56のエアガス流量が減少するとともに、第3流路58のエアガス流量が増加する。例(c)は、下流側エア供給通路34b(燃料電池スタック20)に供給されるエアガス流量を所定量以下に制限することが必要な場合に有用である。
【0048】
上記したように、燃料電池システム100では、フランジ53bを下流側エア供給通路34bに接続し、フランジ53cをFCバイパス通路36に接続している。しかしながら、フランジ53bをFCバイパス通路36に接続し、フランジ53cを下流側エア供給通路34bに接続してもよい。この場合、モータを駆動すると、燃料電池システム100の状態は、下流側エア供給通路34b及びFCバイパス通路36の双方が閉じている状態、FCバイパス通路36のみが開かれ、下流側エア供給通路34bが閉じられている状態、FCバイパス通路36及び下流側エア供給通路34bの双方が開かれている状態、下流側エア供給通路34bのみが開かれ、FCバイパス通路36が閉じられている状態の順に変化する。
【0049】
(燃料電池システムの変形例)
図6を参照し、燃料電池システム200について説明する。燃料電池システム200は、燃料電池システム100の変形例である。そのため、燃料電池システム200について、燃料電池システム100と実質的に同一の構成には、燃料電池システム100に付した参照番号と同一又は下二桁が同一の参照番号を付すことにより説明を省略することがある。燃料電池システム200では、エア系30に加湿器37が設けられている。また、エア供給通路34上にエア供給バルブ150が配置され、エア排出通路40上にエア排出バルブ38が配置され、FCバイパス通路36上にバイパスバルブ39が配置されている。
【0050】
加湿器37は、エア供給通路34及びエア排出通路40上に設けられている。具体的には、加湿器37は、エア供給バルブ150と燃料電池スタック20の間でエア供給通路34に接続されており、燃料電池スタック20とエア排出バルブ38の間でエア排出通路40に接続されている。加湿器37は、燃料電池スタック20に供給されるエアの湿度(水分量)、及び、希釈器42に供給されるエアオフガスの湿度を調整する。
【0051】
エア供給通路34(下流側エア供給通路34b)には、加湿器バイパス通路35が接続されている。加湿器バイパス通路35は、バイパス通路の一例である。加湿器バイパス通路35は、希釈器42をバイパスし、希釈器42の上流と下流でエア供給通路34(下流側エア供給通路34b)に接続されている。より具体的には、燃料電池システム200では、加湿器バイパス通路35の一端(上流側端)が、エア供給バルブ150(エアバルブの一例)に接続されている。エア供給バルブ150がエア供給通路34(下流側エア供給通路34b)と加湿器バイパス通路35を接続すると、エア供給通路34に供給されたエアガスは、加湿器37を通過せずに燃料電池スタック20に供給される。一方、エア供給バルブ150が下流側エア供給通路34bを接続すると、エア供給通路34に供給されたエアガスは、加湿器37を通過して燃料電池スタック20に供給される。
【0052】
(エア供給バルブの変形例)
図7から
図10を参照し、エア供給バルブ150について説明する。エア供給バルブ150は、エア供給バルブ50の変形例である。そのため、エア供給バルブ150について、エア供給バルブ50と実質的に同一の構成には、エア供給バルブ50に付した参照番号と同一又は下二桁が同一の参照番号を付すことにより説明を省略することがある。なお、燃料電池システム200において、エア供給バルブ150に代えてエア供給バルブ50を用いることもできる。その場合、フランジ53bを下流側エア供給通路34bに接続し、フランジ53cを加湿器バイパス通路35に接続してよい。あるいは、フランジ53bを加湿器バイパス通路35に接続し、フランジ53cを下流側エア供給通路34bに接続してもよい。
【0053】
図7は、エア供給バルブ150の内部構造を示している。エア供給バルブ150では、フランジ53bが加湿器バイパス通路35に接続されており、フランジ53cが下流側エア供給通路34bに接続されている(
図2も比較参照)。なお、
図7では、エア供給バルブ150が閉じている状態(燃料電池スタック20にエアガスが供給されない状態)を実線で示している。また、第1バルブ体60が回転した状態(エア供給バルブ150が開いている状態)、及び、第2バルブ体64が回転した状態(エアガスが移動する通路が切換った状態)を破線で示している。
【0054】
図7に示すように、エア供給バルブ150が閉じている(第1バルブ体60が閉じている)状態では、第2バルブ体64が、第1バルブ体60と加湿器37の間のエア供給通路34(下流側エア供給通路34b)を遮断するように、第2流通部52bの内壁に接している。そのため、エア供給バルブ150は、燃料電池システム200が停止しているときに、加湿器37で生じた水分が第1バルブ体60に付着することを抑制する。
【0055】
また、エア供給バルブ150では、第1バルブ体60の全開時(破線の状態)に、第1バルブ体60の下流側の他端が、上流側の他端と比較して、フランジ53b側(下流側エア供給通路34bに接続される側)に位置している。そのため、エアガスが下流側エア供給通路34b通過する際(第2バルブ体64が実線の状態)の流量係数を、エアガスが加湿器バイパス通路35を通過する際(第2バルブ体64が破線の状態)の流量係数より大きくすることができる。エアガスは、加湿器37を通過することで圧力損失が生じる。そのため、上記構成とすることにより、エアガスが下流側エア供給通路34b通過した際の流体圧力と、エアガスが加湿器バイパス通路35を通過した際の流体圧力との差を低減することができ、第2バルブ体64が駆動している際の分流制御性が向上する。
【0056】
図8は、バルブ体60,64を駆動するバルブ駆動装置170を示している。バルブ駆動装置170は、リンク機構の一例である。バルブ駆動装置170では、第2歯車176が、第1歯車74の小径歯車74bに噛み合っている。第2歯車176は、カム178(カムプレートの一例)に固定されている。第2歯車176の表面には、マグネット65が配置されている。マグネット65は、回転角検出センサ(図示省略)に対向している。回転角検出センサは、第2歯車176の回転角を検出する。また、第1シャフト62には、アーム部181を支持する支持部材182が固定されている。アーム部181の先端には、ローラ80が回転可能に支持されている。
【0057】
カム178には、エア供給バルブ150が閉弁しているときにローラ80が嵌合する嵌合部179と、エア供給バルブ150が開弁(第1バルブ体60または第2バルブ体64が駆動)しているときにローラ80が接触しながら移動するガイド部180が設けられている。嵌合部179は、カム178の外周の一部がカム178の径方向内側に窪んだ溝状である。嵌合部179によって、エア供給バルブ150が閉弁(第1バルブ体60が閉弁)したときに、ローラ80がカム178から外れることを防止することができる。また、エア供給バルブ150が閉弁しているときに、第2歯車176が、矢印55方向(エア供給バルブ150を開弁する方向)に付勢されている。そのため、ローラ80は、嵌合部179の壁面に接した状態を維持している。なお、図示は省略するが、第2歯車176の裏面には、第2シャフト66に固定されており、第2歯車176(カム178)が所定角度回転したときに第2歯車176(カム178)に接触する接触部が設けられている。
【0058】
バルブ駆動装置170の基本的な動作は、バルブ駆動装置70と実質的に同一である。すなわち、第2歯車176(カム178)が回転すると、ローラ80が第2歯車176の回転軸からローラ80までの距離が除々に長くなる第1領域191を移動する間、第1シャフト62が回転し、第1バルブ体60が駆動する。また、ローラ80が第2歯車176の回転軸からの距離が一定の第2領域192を移動する間、第1シャフト62は回転せず、第1バルブ体60は駆動しない。ローラ80が第2領域192を移動する間は、第2シャフト66が回転し、第2バルブ体64が駆動する。なお、バルブ駆動装置170では、第1領域191と第2領域192の間に、第1バルブ体60と第2バルブ体64の双方が駆動しない第3領域193が設けられている。第3領域193は、上述した第2シャフト66に固定されている接触部の位置を調整することにより形成することができる。
【0059】
図9を参照し、第1領域191,第2領域192及び第3領域193について説明する。第1領域191は、嵌合部179の内側面(カム178(第2歯車176)の回転軸に近い側の面)から、カム178の回転中心からの距離が一定となる部分までである。第1領域191は、曲率が一定ではなく、カム178の回転中心からの距離が変化している。第2領域192は、第1領域191から独立しており(離れており)、カム178の回転中心からの距離が一定である円弧状である。すなわち、第2領域192の曲率は一定である。第3領域193は、カム178の回転中心からの距離が一定である円弧状であり、上記したように、第2歯車176の回転に伴って第2バルブ体64が駆動するタイミングを調整することにより、長さを調整することができる。なお、
図8及び
図9から明らかなように、第2領域192の長さは第1領域191の長さより長い。
【0060】
第1領域191は、直線部191aと曲線部191bを有している。曲線部191bは、直線部191aと第3領域193の間に設けられている。バルブ駆動装置70が閉弁している間、アーム部181(ローラ80)は、直線部191aに接触している。バルブ駆動装置70が駆動する際、アーム部181(ローラ80)は、まず第1領域191との接触状態を維持したまま直線部191aを移動する。そのため、バルブ駆動装置70の駆動初期(駆動開始から所定期間)に、アーム部181(ローラ80)に加わる力を安定させることができる。すなわち、第1バルブ体60を駆動するトルクが安定する。例えば、第1領域191の全体が曲線で形成されている場合、バルブ駆動装置70の駆動初期にアーム部181に加わる力を安定化させるため、カム178の加工精度を高度に制御する(寸法ばらつきを低減する)ことが必要である。第1領域191に直線部191aを設けることにより、第1領域191の加工が容易となり、第1バルブ体60の駆動トルクを容易に安定化させることができる。
【0061】
図10は、第2歯車176の断面図を示している。上記したように、エア供給バルブ150が閉弁している際、第2歯車176は、矢印55方向に付勢されている(
図8も参照)。第2歯車176の裏面には、コイルばね196が配置されている。コイルばね196は、一端が第2歯車176の裏面に設けられている突出部177に固定されており、他端がエア供給バルブ150の筐体190に設けられている突出部194に固定されている。第2歯車176は、コイルばね196によって矢印55方向に付勢されている。なお、第2歯車176と筐体190の間にコイルばね196を設けることにより、第2歯車176が回転軸方向に移動することも抑制される。そのため、マグネット65と回転角検出センサ(図示省略)の距離が安定し、第2歯車176の回転角を制度よく検出することができる。
【0062】
(他の実施形態)
上記実施例では、バイパス通路の一端がエア供給通路に接続されているとともに他端がエア排出通路に接続されている例、および、バイパス通路の一端が加湿器より上流のエア供給通路に接続されているとともに他端が加湿器より下流のエア供給通路に接続されている例について説明した。しかしながら、バイパス通路(他端)は、必ずしも上記実施例で説明した位置に接続されていなくてもよい。本明細書で開示する技術において重要なことは、1個のエアバルブ(エア供給バルブ)によって、エア供給通路とバイパス通路の双方が閉じられている状態と、エア供給通路が開かれているとともにバイパス通路が閉じられている状態と、エア供給通路が閉じられているとともにバイパス通路が開かれている状態を切換えることである。
【0063】
また、本明細書で開示する技術において他の重要なことは、エア供給通路を開閉する供給バルブ、エア供給通路とバイパス通路の切換えを行う切換バルブを、供給バルブに固定されているアーム部と切換バルブに固定されているカムプレートを備えるリンク機構によって駆動されることである。そして、リンク機構が、供給バルブの開閉動作を行うためにアーム部が移動する第1領域と、切換バルブの開閉動作を行うためにアーム部が移動する領域であって第1領域から独立している第2領域が設けられているガイド部を備えることである。そのため、例えば、第1領域と第2領域は、隣接していてもよい。すなわち、第1領域と第2領域の間に供給バルブと切換バルブの双方の開閉動作を行わない第3領域を設けることは必須ではない。第3領域を削除すると、カムプレートのサイズを小型化することができる。
【0064】
また、供給バルブの閉弁時に供給バルブを開弁する際にカムギアが回転する方向にカムギア(第2歯車)を付勢する付勢部材として、板ばね、ゴムブロック等、コイルばね以外の付勢部材を用いることもできる。あるいは、付勢部材を省略し、供給バルブが閉弁している間、モータが、カムギアに対して、開弁時にカムギアが回転する方向にトルクを加え、カムギア付勢していてもよい。また、カムプレート、及び/又は、アーム部の形状を変更し、エア供給バルブが閉弁しているときにカムプレートとローラ(アーム部)の位置が変化することを防止することにより、付勢部材を省略することもできる。
【0065】
また、カムプレートの形態も実施例の形態に限定されるものではなく、例えば、供給バルブの閉弁時にローラ(アーム部)と嵌合する嵌合部、第1領域に設けられている直線部等は、必要に応じて省略することもできる。また、供給バルブの駆動速度が切換バルブの駆動速度より遅くなるように、第1領域の長さを第2領域の長さより長くしてもよい。
【0066】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。