(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-29
(45)【発行日】2022-08-08
(54)【発明の名称】焼結材、及び焼結材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 33/02 20060101AFI20220801BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20220801BHJP
B22F 3/10 20060101ALI20220801BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20220801BHJP
B22F 3/24 20060101ALI20220801BHJP
B22F 3/02 20060101ALI20220801BHJP
【FI】
C22C33/02 101
C22C38/00 304
C22C33/02 A
B22F3/10 B
B22F1/00 S
B22F3/24 G
B22F3/02 G
(21)【出願番号】P 2021541960
(86)(22)【出願日】2019-08-30
(86)【国際出願番号】 JP2019034296
(87)【国際公開番号】W WO2021038878
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2021-11-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593016411
【氏名又は名称】住友電工焼結合金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116366
【氏名又は名称】二島 英明
(72)【発明者】
【氏名】伊志嶺 朝之
(72)【発明者】
【氏名】江頭 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】嶋内 一誠
(72)【発明者】
【氏名】田代 敬之
【審査官】瀧澤 佳世
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/021935(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/175772(WO,A1)
【文献】特開2019-019362(JP,A)
【文献】特表2007-533857(JP,A)
【文献】特開2015-004098(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 33/02
C22C 38/00
B22F 3/10
B22F 1/00
B22F 3/24
B22F 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄基合金からなる母相と、
前記母相中に存在する複数の気孔とを備え、
任意の断面における前記気孔の平均断面積が
300μm
2以下であり、
任意の断面における前記気孔の平均周囲長が55μm以下であり、
任意の断面における前記気孔の形状が円形及び楕円形以外の形状であり、
相対密度が93%以上99.5%以下である、
焼結材。
【請求項2】
前記相対密度が96.5%以上である請求項
1に記載の焼結材。
【請求項3】
前記気孔の最大径の平均値が5μm以上30μm以下である請求項1
又は請求項2に記載の焼結材。
【請求項4】
前記鉄基合金は、C,Ni,Mo,
Mn及びBからなる群より選択される1種以上の元素を含有する請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載の焼結材。
【請求項5】
原料粉末を加圧圧縮して、相対密度が93%以上99.5%以下である圧粉成形体を作製する工程と、
前記圧粉成形体を焼結
して焼結材を作製する工程とを備え、
前記原料粉末は
、鉄基合金からなる粉末を含み、
前記鉄基合金のビッカース硬度Hvが80以上200以下であ
り、
前記鉄基合金からなる粉末の平均粒径は、100μm以上200μm以下であり、
前記圧粉成形体を焼結する工程における焼結温度が
液相温度未満であって1000℃以上
1200℃未満であ
り、
前記焼結材の任意の断面における気孔の平均断面積が300μm
2
以下であり、
前記焼結材の任意の断面における気孔の平均周囲長が55μm以下である、
焼結材の製造方法。
【請求項6】
更に、前記圧粉成形体を焼結する前に、前記圧粉成形体に切削加工を施す工程を備える請求項
5に記載の焼結材の製造方法。
【請求項7】
前記鉄基合金は、0.1質量%以上2.0質量%以下のMo
、0.5質量%以上5.0質量%以下のNi
及び0.1質量%以上5.0質量%以下のMnからなる群より選択される少なくとも
一種の元素を含有する請求項
5又は請求項
6に記載の焼結材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、焼結材、及び焼結材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、相対密度が93%以上である鉄系の焼結体を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示の第一の焼結材は、
金属からなる母相と、
前記母相中に存在する複数の気孔とを備え、
任意の断面における前記気孔の平均断面積が500μm2以下であり、
相対密度が93%以上99.5%以下である。
【0005】
本開示の第二の焼結材は、
金属からなる母相と、
前記母相中に存在する複数の気孔とを備え、
任意の断面における前記気孔の平均周囲長が100μm以下であり、
相対密度が93%以上99.5%以下である。
【0006】
本開示の焼結材の製造方法は、
原料粉末を加圧圧縮して、相対密度が93%以上99.5%以下である圧粉成形体を作製する工程と、
前記圧粉成形体を焼結する工程とを備え、
前記原料粉末は、ビッカース硬度Hvが80以上200以下である鉄系材料からなる粉末を含み、
前記圧粉成形体を焼結する工程における焼結温度が1000℃以上1300℃未満である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、実施形態の焼結材の一例を示す斜視図である。
【
図2A】
図2Aは、試験例1で作製した試料No.1の焼結材の断面を示す顕微鏡写真である。
【
図2B】
図2Bは、試験例1で作製した試料No.2の焼結材の断面を示す顕微鏡写真である。
【
図2C】
図2Cは、試験例1で作製した試料No.3の焼結材の断面を示す顕微鏡写真である。
【
図3】
図3は、試験例1で作製した各試料の焼結材について、気孔の平均断面積を示すグラフである。
【
図4】
図4は、試験例1で作製した各試料の焼結材について、気孔の平均周囲長を示すグラフである。
【
図5】
図5は、試験例1で作製した各試料の焼結材について、気孔の最大径の平均値を示すグラフである。
【
図6】
図6は、試験例1で作製した各試料の焼結材について、気孔の最大径の最大値を示すグラフである。
【
図7】
図7は、試験例1で作製した各試料の焼結材について、気孔の最大径の最小値を示すグラフである。
【
図8A】
図8Aは、試験例1で作製した試料No.101の焼結材の断面を示す顕微鏡写真である。
【
図8B】
図8Bは、試験例1で作製した試料No.102の焼結材の断面を示す顕微鏡写真である。
【
図8C】
図8Cは、試験例1で作製した試料No.103の焼結材の断面を示す顕微鏡写真である。
【0008】
[本開示が解決しようとする課題]
高強度であって、生産性にも優れる焼結材が望まれている。
【0009】
そこで、本開示は、高強度で、生産性にも優れる焼結材を提供することを目的の一つとする。また、本開示は、高強度な焼結材を生産性よく製造できる焼結材の製造方法を提供することを他の目的の一つとする。
【0010】
[本開示の効果]
本開示の焼結材は、高強度で、生産性にも優れる。本開示の焼結材の製造方法は、高強度な焼結材を生産性よく製造できる。
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
(1)本開示の一態様に係る焼結材は、
金属からなる母相と、
前記母相中に存在する複数の気孔とを備え、
任意の断面における前記気孔の平均断面積が500μm2以下であり、
相対密度が93%以上99.5%以下である。
以下、本開示の一態様に係る焼結材を第一の焼結材と呼ぶことがある。
【0012】
第一の焼結材は、以下に説明するように、気孔に起因する割れが生じ難いため高強度である上に、生産性にも優れる。
【0013】
(強度)
・第一の焼結材は、93%以上の相対密度を有しており、緻密である。緻密な焼結材であれば、気孔が少ないため、気孔が割れの起点になり難い。
・第一の焼結材は複数の気孔を含むものの、各気孔が割れの起点になり難い。この理由は、気孔の平均断面積が500μm2以下であれば、複数の気孔のうち、多くの気孔の断面積が小さいといえるからである。断面積が小さい気孔は割れの起点になり難い。
【0014】
(生産性)
・第一の焼結材は、例えば、93%以上の相対密度を有するといった緻密な圧粉成形体を比較的低温で焼結することで製造される。焼結温度が低いことで、熱エネルギーを低減することができる。
【0015】
ここで、比較的低密度な圧粉成形体、例えば相対密度が90%程度である圧粉成形体を液相が生じる程度の高温で焼結すれば、93%以上の相対密度を有する焼結材が得られる。しかし、高温焼結を行うと、気孔が大きくなり易い。この点は、後述の試験例1を参照するとよい。大きな気孔は、割れの起点になり易い。気孔が割れの起点となることで、焼結材の強度が低下する。これに対し、上記緻密な圧粉成形体を比較的低温で焼結すれば、気孔が小さく緻密な焼結材が得られる。この点は、後述の試験例1を参照するとよい。
【0016】
・上述の高温焼結を行わないため、形状精度や寸法精度に優れる焼結材が得られ易い。そのため、歩留りが高くなり易い。
・上述の緻密な圧粉成形体は、切削加工性に優れる。そのため、必要に応じて、焼結前の圧粉成形体に切削加工を施せば、加工時間が短くなり易い。また、所定の寸法、形状を満たす焼結材がより得られ易い。そのため、歩留りがより高くなり易い。
【0017】
(2)本開示の別の態様に係る焼結材は、
金属からなる母相と、
前記母相中に存在する複数の気孔とを備え、
任意の断面における前記気孔の平均周囲長が100μm以下であり、
相対密度が93%以上99.5%以下である。
以下、本開示の別の態様に係る焼結材を第二の焼結材と呼ぶことがある。
【0018】
第二の焼結材は、以下に説明するように、気孔に起因する割れが生じ難いため高強度である。また、第二の焼結材は、上述の第一の焼結材と同様の理由によって生産性にも優れる。
【0019】
・第二の焼結材は、93%以上の相対密度を有しており、緻密である。緻密な焼結材であれば、気孔が少ないため、気孔が割れの起点になり難い。
・第二の焼結材は複数の気孔を含むものの、各気孔が割れの起点になり難い。この理由は、気孔の平均周囲長が100μm以下であれば、複数の気孔のうち、多くの気孔の周囲長が短いといえ、周囲長が短い気孔では断面積も小さいといえるからである。
【0020】
(3)第一の焼結材の一例として、
任意の断面における前記気孔の平均周囲長が100μm以下である形態が挙げられる。
【0021】
上記形態では、複数の気孔のうち、多くの気孔について断面積が小さく、かつ周囲長も短いといえる。このような気孔は、割れの起点に更になり難い。
【0022】
(4)第一の焼結材又は第二の焼結材の一例として、
前記相対密度が96.5%以上である形態が挙げられる。
【0023】
上記形態では、気孔がより少ない。そのため、気孔が割れの起点に更になり難い。
【0024】
(5)第一の焼結材又は第二の焼結材の一例として、
前記気孔の最大径の平均値が5μm以上30μm以下である形態が挙げられる。
【0025】
気孔の断面積が小さかったり、気孔の周囲長が短かったりすると共に、気孔の最大径の平均値が30μm以下であれば、複数の気孔のうち、多くの気孔は短く小さなものといえる。このような気孔は、割れの起点に更になり難い。また、上記最大径の平均値が5μm以上であれば、気孔が小さ過ぎないため、圧粉成形体を成形する際の圧力が過大になり難い。この点で、上記形態は、生産性に優れる。
【0026】
(6)第一の焼結材又は第二の焼結材の一例として、
前記金属は、鉄基合金であり、
前記鉄基合金は、C,Ni,Mo,及びBからなる群より選択される1種以上の元素を含有する形態が挙げられる。
【0027】
上記に列挙する元素を含有する鉄基合金、例えばCを含む鉄基合金である鋼等は強度に優れる。従って、上記形態は、強度に優れる。
【0028】
(7)本開示の一態様に係る焼結材の製造方法は、
原料粉末を加圧圧縮して、相対密度が93%以上99.5%以下である圧粉成形体を作製する工程と、
前記圧粉成形体を焼結する工程とを備え、
前記原料粉末は、ビッカース硬度Hvが80以上200以下である鉄系材料からなる粉末を含み、
前記圧粉成形体を焼結する工程における焼結温度が1000℃以上1300℃未満である。
【0029】
本開示の焼結材の製造方法は、以下に説明するように、高強度な焼結材を生産性よく製造できる。
【0030】
(強度)
・93%以上の相対密度を有する緻密な圧粉成形体を用いるため、93%以上の相対密度を有する焼結材が得られる。この焼結材では、気孔が少なく緻密であるため、気孔が割れの起点になり難い。
・鉄系材料は、代表的には、鉄基合金が挙げられる。鉄基合金は、一般に、高強度である。そのため、高強度な焼結材が得られる。
・代表的には、気孔の平均断面積が500μm2以下である焼結材が得られる。又は、気孔の平均周囲長が100μm以下である焼結材が得られる。このような焼結材では、上述のように各気孔が割れの起点になり難い。
【0031】
(生産性)
・鉄系材料からなり、上述の特定のビッカース硬度Hvを有する粉末を用いるため、加圧圧縮することで、上述の緻密な圧粉成形体が得られる。また、緻密な圧粉成形体を用いるため、1300℃未満といった低温で焼結しても、上述の緻密な焼結材が得られる。即ち、1300℃以上、更には1400℃以上といった高温での焼結が不要である。そのため、熱エネルギーを低減することができる。
・上述の高温焼結を行わないため、形状精度や寸法精度に優れる焼結材が得られ易い。そのため、歩留りが高くなり易い。
【0032】
(8)本開示の焼結材の製造方法の一例として、
更に、前記圧粉成形体を焼結する前に、前記圧粉成形体に切削加工を施す工程を備える形態が挙げられる。
【0033】
焼結前の圧粉成形体は、焼結後の焼結材に比較して、切削加工性に優れる。そのため、上記形態は、切削加工の加工時間を短くできる。また、切削加工を良好に行えるため、形状精度や寸法精度に優れる焼結材が得られ易い。従って、上記形態は、歩留りを更に高められる。
【0034】
(9)本開示の焼結材の製造方法の一例として、
前記鉄系材料からなる粉末は、鉄基合金からなる粉末を含み、
前記鉄基合金は、0.1質量%以上2.0質量%以下のMo及び0.5質量%以上5.0質量%以下のNiの少なくとも一方の元素を含有する形態が挙げられる。
【0035】
上記形態は、80以上200以下のビッカース硬度Hvを有する合金粉末を製造し易い。
【0036】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、適宜図面を参照して、本開示の実施形態に係る焼結材、本開示の実施形態に係る焼結材の製造方法を順に説明する。
【0037】
[焼結材]
主に
図1を参照して、実施形態の焼結材1を説明する。
図1は、実施形態の焼結材1の一例として外歯歯車を示す。
【0038】
(概要)
実施形態の焼結材1は、金属を主体とする緻密な焼結材である。また、焼結材1の任意の断面において、気孔が小さい。具体的には、実施形態の焼結材1は、金属からなる母相10と、母相10中に存在する複数の気孔11とを備える(後述の
図2参照)。実施形態の焼結材1の相対密度は93%以上99.5%以下である。そして、実施形態の焼結材1の一例では、任意の断面における気孔11の平均断面積が500μm
2以下である。実施形態の焼結材1の別例では、任意の断面における気孔11の平均周囲長が100μm以下である。
【0039】
ここでの気孔11の平均断面積は、焼結材1から任意の断面をとり、この断面において、複数の気孔11について各気孔11の断面積を求め、求めた複数の断面積を平均した値である。
【0040】
ここでの気孔11の平均周囲長は、焼結材1から任意の断面をとり、この断面において、複数の気孔11について各気孔11の輪郭の長さを求め、求めた複数の輪郭の長さを平均した値である。
【0041】
気孔の断面積、気孔の周囲長、後述する気孔の最大径、気孔のアスペクト比、及び相対密度の測定方法の詳細は、後述の試験例で説明する。
【0042】
以下、焼結材1をより詳細に説明する。
(組成)
実施形態の焼結材1の母相10を構成する金属は、各種の純金属、又は合金が挙げられる。純金属は、例えば、鉄、ニッケル、チタン、銅、アルミニウム、マグネシウム等が挙げられる。合金は、例えば、鉄基合金、チタン基合金、銅基合金、アルミニウム基合金、マグネシウム基合金等が挙げられる。合金は、一般に、純金属よりも高強度である。そのため、母相10が合金である焼結材1は、強度に優れる。
【0043】
鉄基合金は、添加元素を含み、残部がFe(鉄)及び不純物からなり、Feを最も多く含む合金である。添加元素は、例えば、C(炭素),Ni(ニッケル),Mo(モリブデン),及びB(硼素)からなる群より選択される1種以上の元素が挙げられる。Feに加えて、上記に列挙する元素を含む鉄基合金、例えば鋼等は、高い引張強さを有する等、強度に優れる。そのため、上記添加元素を含む鉄基合金からなる母相10を備える焼結材1は、強度に優れる。各元素の含有量が多いほど、強度が高くなり易い。各元素の含有量が多過ぎなければ、靭性の低下や脆化が抑制されて、靭性も高くなり易い。
【0044】
Cを含む鉄基合金、代表的には炭素鋼は、強度に優れる。Cの含有量は、例えば、0.1質量%以上2.0質量%以下が挙げられる。Cの含有量は、0.1質量%以上1.5質量%以下、更に0.1質量%以上1.0質量%以下、0.1質量%以上0.8質量%以下でもよい。なお、各元素の含有量は、鉄基合金を100質量%とする質量割合である。
【0045】
Niは、強度の向上に加え、靭性の向上にも寄与する。Niの含有量は、例えば、0質量%以上5.0質量%以下が挙げられる。Niの含有量は、0.1質量%以上5.0質量%以下、更に0.5質量%以上5.0質量%以下、更には4.0質量%以下、3.0質量%以下でもよい。
【0046】
Mo,Bは、強度の向上に寄与する。特にMoは、強度を高め易い。
Moの含有量は、例えば、0質量%以上2.0質量%以下、更に0.1質量%以上2.0質量%以下、更には1.5質量%以下が挙げられる。
Bの含有量は、例えば、0質量%以上0.1質量%以下、更に0.001質量%以上0.003質量%以下が挙げられる。
【0047】
その他の添加元素として、Mn(マンガン),Cr(クロム),Si(珪素)等が挙げられる。これらの各元素の含有量は、例えば、0.1質量%以上5.0質量%以下が挙げられる。
【0048】
焼結材1の全体組成は、例えば、エネルギー分散型X線分析法(EDX又はEDS)、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)等で分析することが挙げられる。
【0049】
(組織)
実施形態の焼結材1は、任意の断面において、複数の気孔11を含むものの、各気孔11が小さい。そのため、各気孔11が割れの起点になり難い。気孔11に起因する割れが生じ難いことで、焼結材1は強度に優れる。
【0050】
《断面積》
気孔11の平均断面積が500μm2以下であれば、焼結材1中の気孔11の多くは、断面積が小さい気孔11であるといえる。上記平均断面積が小さいほど、各気孔11の断面積が小さいといえる。各気孔11が小さければ、割れの起点になり難い。気孔11に起因する割れの発生を低減する観点から、上記平均断面積は480μm2以下、更に450μm2以下、特に430μm2以下が好ましい。
【0051】
気孔11の平均断面積は、焼結材1の相対密度が高いほど小さくなる傾向にある。例えば、焼結材1の製造過程において成形圧力を大きくして、圧粉成形体の相対密度を高めれば、焼結材1の相対密度が高められる。結果として、上記平均断面積が小さくなり易い。しかし、成形圧力が大き過ぎると、脱型時間が長くなったり、金型の寿命が短くなったりし易い。この点で、生産性が低下し得る。生産性を向上する観点から、上記平均断面積は、例えば20μm2以上、更に30μm2以上でもよい。
【0052】
《周囲長》
気孔11の平均周囲長が100μm以下であれば、焼結材1中の気孔11の多くは、周囲長が短い気孔11であるといえる。周囲長が短い気孔11では、断面積も小さい。上記平均周囲長が短いほど、各気孔11の断面積が小さいといえる。各気孔11が小さければ、割れの起点になり難い。気孔11に起因する割れの発生を低減する観点から、上記平均周囲長は90μm以下、更に80μm以下、特に70μm以下が好ましい。
【0053】
気孔11の平均周囲長は、焼結材1の相対密度が高いほど小さくなる傾向にある。上述のように成形圧力が過大になることを防止して、生産性を向上する観点から、上記平均周囲長は、例えば10μm以上、更に15μm以上でもよい。
【0054】
気孔11の平均断面積が500μm2以下であり、かつ気孔11の平均周囲長が100μm以下であることが好ましい。このような焼結材1中の気孔11の多くは、断面積が小さく、かつ周囲長も短い気孔11であるといえる。そのため、各気孔11が割れの起点になり難い。気孔11に起因する割れの発生を低減する観点から、上記平均断面積及び上記平均周囲長は、上述のように小さいほど好ましい。
【0055】
《最大径》
更に、気孔11の最大径の平均値も小さいことが好ましい。ここでの気孔11の最大径の平均値は、焼結材1から任意の断面をとり、この断面において、複数の気孔11について各気孔11の最大径を求め、求めた複数の最大径を平均した値である。
【0056】
例えば、気孔11の最大径の平均値は5μm以上30μm以下が挙げられる。上記平均値が30μm以下であれば、焼結材1中の気孔11の多くは短く小さなものといえる。このような気孔11は割れの起点に更になり難い。気孔11に起因する割れの発生を低減する観点から、上記平均値は28μm以下、更に25μm以下、特に20μm以下が好ましい。上記平均値が5μm以上であれば、気孔11が小さ過ぎない。上述の成形圧力が過大になることを防止して、生産性を向上する観点から、上記平均値は8μm以上、更に10μm以上でもよい。高強度と良好な生産性とのバランスの観点から、上記平均値は例えば10μm以上25μm以下が挙げられる。
【0057】
更に、気孔11の最大径の最大値も小さいことが好ましい。各気孔11が割れの起点によりなり難いからである。上記最大値は、例えば30μm以下、更に28μm以下、特に25μm以下が好ましい。
【0058】
気孔11の最大径の最小値が例えば3μm以上20μm以下、更に5μm以上18μm以下であると、上述のように生産性の向上の点で好ましい。
【0059】
《形状》
焼結材1の断面において、気孔11の形状は、代表的には異形状が挙げられる(
図2も参照)。気孔11の形状が円形や楕円形等といった単純な曲線形状ではなく、異形状である理由の一つとして、後述するように、緻密な圧粉成形体を比較的低温で焼結することが挙げられる。なお、
図2において、濃い色、主に黒色である粒子状の領域及び白く縁取られた粒子状の領域は、気孔11であり、残部が母相10である。
【0060】
(相対密度)
実施形態の焼結材1の相対密度は93%以上99.5%以下である。つまり、焼結材1は、0.5%以上7%以下の範囲で気孔11を含む。気孔11の含有量が上記範囲であれば、気孔11が少なく、焼結材1は緻密である。気孔11が少ないことからも、気孔11が割れの起点になり難い。上記相対密度が高いほど、気孔11が少ない。気孔11に起因する割れの発生を低減する観点から、上記相対密度は94%以上、更に95%以上、96%以上が好ましく、96.5%以上が特に好ましい。上記相対密度は97%以上、98%以上、99%以上でもよい。
【0061】
焼結材1の相対密度が99.5%以下であれば、上述の成形圧力が過大になることを防止して、生産性が高められる。生産性を向上する観点から、上記相対密度は99%以下でもよい。
【0062】
高強度と良好な生産性とのバランスの観点から、焼結材1の相対密度は、例えば94%以上99%以下が挙げられる。
【0063】
(用途)
実施形態の焼結材1は、各種の一般構造用部品、例えば機械部品等に利用できる。機械部品は、例えば、スプロケットを含む各種の歯車、ローター、リング、フランジ、プーリー、軸受け等が挙げられる。実施形態の焼結材1は、緻密で強度に優れる上に、小型にできる。そのため、実施形態の焼結材1は、高強度で、小型・軽量化が望まれる歯車、例えば自動車のトランスミッション等に好適に利用できる。
【0064】
(主な効果)
実施形態の焼結材1では、相対密度が高く、気孔11が少ない上に、任意の断面において気孔11が小さい。このような実施形態の焼結材1は、気孔11が割れの起点になり難く、強度に優れる。また、複数の気孔11のうち、少なくとも一つの気孔11が焼結材1の表面に開口する気孔、つまり開気孔であれば、以下に説明するように、焼結材1は耐久性に優れる、静音性に優れるという効果も奏する。
【0065】
・耐久性
開気孔は潤滑剤を保持できる。焼結材1が歯車といった摺動部材である場合、開気孔に保持される潤滑剤によって、相手部材との焼き付きが低減される。このような焼結材1からなる摺動部材は、長期にわたり良好に使用できる。
【0066】
・静音性
開気孔は音を吸収できる。開気孔が上述のように小さければ、開気孔に吸収された音が減衰し易い。
【0067】
[焼結材の製造方法]
実施形態の焼結材1は、例えば、以下の工程を備える焼結材の製造方法によって製造することが挙げられる。
(第一の工程)原料粉末を加圧圧縮して、相対密度が93%以上99.5%以下である圧粉成形体を作製する。
(第二の工程)圧粉成形体を焼結する。焼結温度は、液相温度未満とする。
【0068】
相対密度が93%以上である緻密な圧粉成形体を用いることで、焼結温度が液相温度未満といった比較的低温であっても、相対密度が93%以上99.5%以下である緻密な焼結材、即ち気孔が少ない焼結材が得られる。この理由は、上記焼結材は、代表的には圧粉成形体の相対密度を維持するからである。また、上記圧粉成形体は、0.5%以上7%以下の範囲で気孔を含む。但し、各気孔は、加圧圧縮によって小さくなっている。小さな気孔を含む緻密な圧粉成形体を上述の比較的低温で焼結することで、小さな気孔を含む緻密な焼結材が得られる。いわば、圧粉成形体中の気孔の大きさ及び量を実質的に維持した焼結材が得られる。この焼結材は、気孔が少ない上に小さいため、気孔が割れの起点になり難く、強度に優れる。
【0069】
実施形態の焼結材の製造方法は、上述の第一の工程及び第二の工程を備える。特に、原料粉末は、ビッカース硬度Hvが80以上200以下である鉄系材料からなる粉末を含む。以下、鉄系材料からなる粉末を鉄系粉末と呼ぶことがある。上記第二の工程における焼結温度が1000℃以上1300℃未満である。ビッカース硬度Hvが上述の範囲を満たす鉄系粉末を用いることで、後述するように上述の緻密な圧粉成形体が得られ易い。
以下、工程ごとに説明する。
【0070】
(第一の工程)
〈原料粉末の準備〉
原料粉末は、金属粉末を含む。金属粉末は、柔らか過ぎず、かつ硬過ぎない金属からなるものが好ましい。金属粉末が硬過ぎないことで、加圧圧縮によって塑性変形し易い。そのため、相対密度が93%以上である緻密な圧粉成形体が得られ易い。金属粉末が軟らか過ぎないことで、相対密度が99.5%以下である圧粉成形体、即ち気孔を含む圧粉成形体が得られ易い。
【0071】
原料粉末は、焼結材の母相の組成に応じて、適宜な組成の金属粉末を含むとよい。また、金属粉末の硬度は、金属粉末の組成に応じて調整するとよい。金属粉末の硬度を調整するには、上記組成を調整したり、金属粉末に熱処理を施したり、金属粉末の熱処理条件を調整したりすること等が挙げられる。金属粉末の組成は、上述の[焼結材]の(組成)の項を参照するとよい。
【0072】
例えば、母相が鉄系材料からなる焼結材を製造する場合、原料粉末は、鉄系粉末を含む。鉄系材料は、純鉄、又は鉄基合金である。鉄系材料が特に鉄基合金であれば、上述のように高強度な焼結材が得られる。鉄系粉末は、例えば、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法等によって製造できる。
【0073】
母相が鉄基合金からなる焼結材を製造する場合、原料粉末は、例えば以下が挙げられる。
(1)原料粉末は、鉄基合金からなる第一合金粉末を含む。第一合金粉末を構成する鉄基合金は、焼結材の母相を構成する鉄基合金と同じ組成を有する。
(2)原料粉末は、鉄基合金からなる第二合金粉末と、所定の元素からなる第三粉末とを含む。第二合金粉末を構成する鉄基合金は、焼結材の母相を構成する鉄基合金に含まれる添加元素のうち、一部の添加元素を含む。第三粉末を構成する元素は、上記添加元素のうち、残部の添加元素のそれぞれからなる。即ち、第三粉末は元素単体からなる。
(3)原料粉末は、純鉄粉と、上述の第二合金粉末及び第三粉末とを含む。
(4)原料粉末は、純鉄粉と、第三粉末とを含む。この場合、第三粉末は、上記母相の鉄基合金における添加元素のそれぞれからなる。
【0074】
例えば、焼結材の母相が、Ni,Mo,及びBからなる群より選択される1種以上の元素と、Cとを含有し、残部がFe及び不純物からなる鉄基合金である場合、第二合金粉末は以下の鉄基合金からなることが挙げられる。鉄基合金は、Cを含有せず、上述の群より選択される1種以上の元素を含有し、残部がFe及び不純物からなる。この鉄基合金の一例として、0.1質量%以上2.0質量%以下のMo及び0.5質量%以上5.0質量%以下のNiの少なくとも一方の元素を含有することが挙げられる。MoやNiを上述の範囲で含む鉄基合金は、80以上200以下のビッカース硬度Hvを有する組成が多種存在する。そのため、上記鉄基合金からなる粉末は製造し易い。第三粉末は、例えば、カーボン粉や、上述の群より選択される1種の元素からなる粉末が挙げられる。
【0075】
ビッカース硬度Hvが80以上である鉄系材料からなる粉末は、柔らか過ぎない。このような鉄系粉末を含む原料粉末を用いれば、上述のように気孔を特定の範囲で含む圧粉成形体が得られる。ビッカース硬度Hvが200以下である鉄系材料からなる粉末は、硬過ぎない。このような鉄系粉末を含む原料を用いれば、上述のように緻密な圧粉成形体が得られる。ビッカース硬さHvは、90以上190以下、更に100以上180以下、110以上150以下でもよい。
【0076】
原料粉末の大きさは適宜選択できる。上述の合金粉末や純鉄粉の平均粒径は、例えば20μm以上200μm以下、更に50μm以上150μm以下が挙げられる。カーボン粉を除く第三粉末の平均粒径は、例えば1μm以上200μm以下程度が挙げられる。カーボン粉の平均粒径は、例えば1μm以上30μm以下程度が挙げられる。ここでの粉末の平均粒径は、レーザ回折式粒度分布測定装置によって測定した体積粒度分布における累積体積が50%となる粒径(D50)である。
【0077】
〈成形〉
圧粉成形体の相対密度が高いほど、最終的に得られる焼結材の相対密度が高く、気孔が少なくなり易い。また、焼結材中の気孔が小さくなり易い。気孔を低減する観点及び気孔を小さくする観点から、圧粉成形体の相対密度は94%以上、更に95%以上、96%以上、96.5%以上、97%以上、98%以上でもよい。
【0078】
一方、圧粉成形体の相対密度がある程度低ければ、成形圧力が低くてもよい。そのため、金型の寿命が長くなり易い点、金型から圧粉成形体を抜き出し易く、脱型時間が短くなり易い点から、量産性が高められる。良好な量産性の観点から、圧粉成形体の相対密度は99.4%以下、更に99.2%以下でもよい。
【0079】
圧粉成形体の製造には、代表的には一軸加圧が可能な金型を有するプレス装置を利用することが挙げられる。金型の形状は、圧粉成形体の形状に応じて選択するとよい。
【0080】
圧粉成形体の形状は、焼結材の最終形状に沿った形状、又は焼結材の最終形状とは異なる形状が挙げられる。後者の場合、成形以降の工程で、焼結材の最終形状に応じて、切削加工等の加工を行うことが挙げられる。上記切削加工は、後述するように焼結前の圧粉成形体に施すことが好ましい。
【0081】
金型の内周面に潤滑剤が塗布されてもよい。潤滑剤によって、原料粉末が金型に焼付くことが抑制され易い。そのため、形状精度や寸法精度に優れる上に、緻密な圧粉成形体が得られ易い。潤滑剤は、例えば、高級脂肪酸、金属石鹸、脂肪酸アミド、高級脂肪酸アミド等が挙げられる。
【0082】
成形圧力が高いほど、緻密な圧粉成形体が得られ易い。成形圧力は、例えば1560MPa以上が挙げられる。更に、成形圧力は1660MPa以上、1760MPa以上、1860MPa以上、1960MPa以上でもよい。
【0083】
(第二の工程:焼結)
焼結温度は、上述のように液相温度未満であり、比較的低い。そのため、液相が生じるような高温で焼結する場合に比較して、熱エネルギーを低減することができる。また、上述の高温焼結に比較して、熱収縮に起因する形状精度の低下や寸法精度の低下が生じ難い。そのため、形状精度や寸法精度に優れる焼結材が得られ易く、焼結材の歩留りを高めることもできる。これらのことから、緻密な圧粉成形体を比較的低温で焼結するという焼結材の製造方法は、気孔が少なくかつ小さい焼結材であって、形状精度や寸法精度にも優れる焼結材を生産性よく製造できるといえる。
【0084】
焼結温度及び焼結時間は、原料粉末の組成等に応じて調整するとよい。鉄系粉末を用いる実施形態の焼結材の製造方法では、焼結温度は1000℃以上1300℃未満である。
【0085】
焼結温度が低いほど、上述の熱収縮量が小さくなり易い。そのため、形状精度や寸法精度に優れる焼結材が得られ易い。エネルギーの低減の観点、形状精度や寸法精度の向上の観点から、焼結温度は1250℃以下、更に1200℃未満が好ましい。
【0086】
焼結温度が上述の範囲で高いほど、焼結時間が短くなり易い。この点で、生産性が高められる。焼結時間の短縮の観点から、焼結温度は1050℃以上、更に1100℃以上でもよい。
【0087】
エネルギーの低減及び良好な精度と焼結時間の短縮とのバランスの観点から、焼結温度は、例えば1100℃以上1200℃未満が挙げられる。
【0088】
焼結時間は、例えば10分以上150分以下が挙げられる。
【0089】
焼結時の雰囲気は、例えば窒素雰囲気、真空雰囲気が挙げられる。真空雰囲気の圧力は、例えば10Pa以下が挙げられる。窒素雰囲気や真空雰囲気であれば、雰囲気中の酸素濃度が低く、圧粉成形体や焼結材が酸化し難い。
【0090】
(その他の工程)
上述の焼結材の製造方法は、更に圧粉成形体を焼結する前に、圧粉成形体に切削加工を施す工程を備えてもよい。切削加工は、旋削加工でも転削加工でもよい。
【0091】
焼結前の圧粉成形体は、焼結後の焼結材や溶製材に比較して切削加工性に優れる。特に、93%以上の相対密度を有する圧粉成形体は、相対密度が93%未満である圧粉成形体に比較して、切削加工を施し易い。例えば、送り量を大きく設定しても、切削加工を良好に施すことができる。そのため、形状精度や寸法精度に優れる焼結材が得られ易い。この点で、歩留りが高くなり易い。また、送り量の増大によって、切削時間が短くなる。更に、圧粉成形体に切削加工を施して例えば最終形状の成形体とする場合、圧粉成形体は、例えば円筒体や円柱体、直方体等の単純形状の成形体でよい。単純形状であれば、成形圧力がある程度小さくても、緻密な圧粉成形体が高精度に成形され易い。成形圧力が大き過ぎないことで、金型の寿命が長くなり易い。また、単純形状であれば、金型コストも削減される。これらのことから、焼結工程前の圧粉成形体に切削加工を行うことは、焼結材の量産に寄与する。
【0092】
上述の焼結材の製造方法は、第二の工程で作製された焼結材に熱処理を行う工程を備えてもよい。例えば、上述の鉄系粉末を用いる実施形態の焼結材の製造方法では、上記熱処理は、浸炭処理及び焼入れ焼戻し、浸炭焼入れ及び焼戻し等が挙げられる。上記熱処理の条件は、焼結材の組成に応じて適宜調整するとよい。上記熱処理条件は、公知の条件を参照してもよい。
【0093】
上述の焼結材の製造方法は、焼結後の焼結材に仕上げ加工を行う工程を備えてもよい。仕上げ加工は、例えば研磨等が挙げられる。仕上げ加工を行うことで、表面性状に優れる焼結材や、形状精度や寸法精度がより高い焼結材が得られる。
【0094】
(主な効果)
実施形態の焼結材の製造方法は、相対密度が高く、気孔が少ない上に、任意の断面において気孔が小さい焼結材、代表的には上述の実施形態の焼結材1を生産性よく製造できる。
【0095】
[試験例1]
相対密度が異なる圧粉成形体を種々の温度で焼結して焼結材を作製し、焼結材の組織、強度を調べた。
【0096】
焼結材は、以下のように作製した。
原料粉末を用いて圧粉成形体を作製する。
得られた圧粉成形体を焼結する。
焼結後に浸炭焼入れ、焼戻しを順に施す。
【0097】
原料粉末は、以下の鉄基合金からなる合金粉末と、カーボン粉とを含む混合粉である。
鉄基合金は、Niを2質量%、Moを0.5質量%、Mnを0.2質量%含有し、残部がFe及び不純物からなる。この鉄基合金のビッカース硬度Hvは120であり、80以上200以下を満たす。
カーボン粉末の含有量は、混合粉の合計質量を100質量%として0.3質量%である。
上記合金粉末の平均粒径(D50)は100μmである。カーボン粉の平均粒径(D50)は5μmである。
【0098】
原料粉末を加圧成形して、円柱状の圧粉成形体を作製した。圧粉成形体の寸法は、外径75mm、厚さ20mmである。
【0099】
各試料の圧粉成形体の相対密度(%)が85%~99%程度となるように、成形圧力を1560MPa~1960MPaの範囲から選択して、圧粉成形体を作製した。ここでは、成形圧力が大きいほど、相対密度が高い圧粉成形体が得られる。各試料の圧粉成形体の密度(g/cm3)及び相対密度(%)を表1に示す。
【0100】
圧粉成形体の密度(g/cm3)は、圧粉成形体の質量を測定し、この質量を圧粉成形体の体積で除して求めた。求めた密度は、圧粉成形体の見かけ密度である。圧粉成形体の相対密度(%)は、圧粉成形体の見かけ密度を圧粉成形体の真密度、ここでは7.8g/cm3で除して求めた。真密度は、用いた原料粉末の組成から求めた。
【0101】
作製した圧粉成形体を以下の条件で焼結した。焼結後、以下の条件で浸炭焼入れを行ってから焼戻しを行って、各試料の焼結材を得た。
【0102】
(焼結条件)焼結温度(℃)は1130℃、1450℃、1480℃のいずれかである。各試料の焼結温度を表1に示す。保持時間は20分間である。雰囲気は、窒素雰囲気である。
(浸炭焼入れ)930℃×90分、カーボンポテンシャル:1.4質量%⇒850℃×30分⇒油冷
(焼戻し)200℃×90分
【0103】
上述のようにして、外径75mm、厚さ20mmである円柱状の焼結材を得た。この焼結材の母相は以下の鉄基合金からなる。この鉄基合金は、Niを2質量%、Moを0.5質量%、Mnを0.2質量%、Cを0.3質量%含有し、残部がFe及び不純物からなる。焼結材の成分分析はICPを利用して行った。
【0104】
(試料の説明)
試料No.1~No.3の焼結材は、相対密度が93%以上である圧粉成形体を1130℃、つまり液相温度未満で焼結したものである。
図2A~
図2Cは順に、試料No.1~No.3の焼結材について、任意の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したSEM像である。
【0105】
試料No.101~No.103の焼結材は、相対密度が93%未満である圧粉成形体を1450℃又は1480℃という液相温度で焼結したものである。
図8A~
図8Cは順に、試料No.101~No.103の焼結材について、任意の断面をSEMで観察したSEM像である。
図8A,
図8Bにおいて、上方の黒い領域は背景である。
【0106】
(密度及び相対密度)
作製した各試料の焼結材について、密度(g/cm3)及び相対密度(%)を調べた。
【0107】
焼結材の密度(g/cm3)は、アルキメデス法に準拠して求めた。具体的には、密度は、焼結材の空中の質量と純水中の質量とを測定して、「(水の密度×空中での焼結材の質量)/(空中での焼結材の質量-水中での焼結材の質量)」から算出する。
【0108】
焼結材の相対密度(%)は、以下のように求める。
焼結材から複数の断面をとる。各断面をSEMや光学顕微鏡等の顕微鏡で観察する。この観察像を画像解析して、金属成分の面積割合を相対密度とみなす。
【0109】
焼結材が本例のように筒状体である場合、その他、柱状体である場合、焼結材における各端面側の領域と、焼結材における軸方向に沿った長さの中心近傍の領域とからそれぞれ断面をとる。上記焼結材の端面は、本例では円形の面である。
【0110】
上記端面側の領域は、焼結材の上記長さ、本例では上記厚さにもよるが、例えば焼結材の表面から内側に向って3mm以内の領域が挙げられる。上記中心近傍の領域は、焼結材の上記長さにもよるが、例えば上記長さの中心から各端面側に向って1mmまでの領域、つまり合計2mmの領域が挙げられる。切断面は、上記軸方向に交差する平面、代表的には直交する平面が挙げられる。
【0111】
各断面から複数、例えば10以上の観察視野をとる。一つの観察視野の面積は、例えば、500μm×600μm=300,000μm2が挙げられる。一つの断面から複数の観察視野をとる場合、この断面を均等に分割して、分割した各領域から観察視野をとることが好ましい。
【0112】
各観察視野の観察像に二値化処理等といった画像処理を施して、処理画像から、金属からなる領域を抽出する。抽出した金属からなる領域の面積を求める。更に、観察視野の面積に対する金属からなる領域の面積の割合を求める。この面積の割合を各観察視野の相対密度とみなす。求めた複数の観察視野の相対密度を平均する。求めた平均値を焼結材の相対密度(%)とする。
【0113】
ここでは、二つの端面側の領域からそれぞれ、10以上の観察視野をとる。また、中心近傍の領域から10以上の観察視野をとる。そして、各観察視野の相対密度を求めて、合計30以上の相対密度を平均する。この平均した値を焼結材の相対密度(%)とし、表1に示す。
【0114】
なお、圧粉成形体の相対密度は、焼結材の相対密度と同様にして求めてもよい。本例のように圧粉成形体を一軸加圧によって成形する場合、圧粉成形体の断面は、圧粉成形体における加圧軸方向に沿った長さの中心近傍の領域、加圧軸方向の両端部に位置する端面側の領域からそれぞれとることが挙げられる。切断面は、加圧軸方向に交差する平面、代表的には直交する平面が挙げられる。
【0115】
(組織観察)
作製した各試料の焼結材について、任意の断面をとり、気孔の大きさを調べた。
【0116】
気孔の大きさは、以下のように求める。
各試料の焼結材において、任意の断面をとる。上記断面をSEMで観察し、上記断面から、少なくとも一つの視野をとる。気孔の大きさの測定は、合計50以上の気孔を抽出して行う。
倍率は、一つの視野に一つ以上の気孔が存在し、かつ気孔の大きさを精度よく測定できるように、気孔の大きさに応じて調整する。例えば、倍率を100倍として上記断面を観察し、気孔の最大径が70μm以下であれば、倍率を300倍に変更して、再度、上記断面を観察する、という操作を行う。合計50以上の気孔が得られるまで、視野数を増やす。ここでは、試料No.1~No.3における一つの視野の大きさは約355μm×約267μmである。
【0117】
上記視野において、気孔を抽出する。
図2,
図8に示すように、母相10の色と気孔11の色とが異なる。そのため、SEM像に二値化処理等を行うことで、気孔が抽出される。気孔の抽出や気孔の大きさの測定、上述の相対密度の測定に利用する金属からなる領域の抽出や上記領域の面積の測定等は、市販の画像解析システムや市販のソフトウエア等を用いて行うと容易に行える。
【0118】
〈断面積〉
上述のSEM像から抽出した各気孔の断面積を求める。更に、気孔の断面積の平均値を求める。上記断面積の平均値は、抽出した50以上の気孔の断面積について総和をとり、総和を気孔数で除すことで求める。上記断面積の平均値を平均断面積(μm2)とし、表1に示す。また、断面積等の測定に用いた気孔数(N数)を表1に示す。
【0119】
〈周囲長〉
上述のSEM像から抽出した各気孔の周囲長、つまり輪郭の長さを求める。更に、気孔の周囲長の平均値を求める。上記周囲長の平均値は、抽出した50以上の気孔の周囲長について総和をとり、総和を気孔数で除すことで求める。上記周囲長の平均値を平均周囲長(μm)とし、表1に示す。
【0120】
〈最大径〉
上述のSEM像から抽出した各気孔の最大径を求める。更に、最大径の平均値を求める。上記最大径の平均値は、抽出した50以上の気孔の最大径について総和をとり、総和を気孔数で除すことで求める。上記最大径の平均値(μm)を表1に示す。各気孔の最大径は、以下のように求める。上記SEM像において、各気孔の外形を2本の平行線によって挟み、これら2本の平行線の間隔を測定する。上記間隔は、上記平行線に直交する方向の距離である。各気孔において、任意の方向の平行線の組を複数とり、上記間隔をそれぞれ測定する。各気孔において、測定した複数の上記間隔のうち、最大値を各気孔の最大径とする。
【0121】
気孔の最大径の最大値、最小値も求めた。ここでは、上述の50以上の気孔の最大径のうち、最大値(μm)を表1に示す。また、上述の50以上の気孔の最大径のうち、最小値(μm)を表1に示す。
【0122】
〈真円度〉
また、以下のようにして、気孔の真円度を求めた。上述のSEM像から抽出した各気孔の周囲長と、各気孔の断面積と等価の面積を有する円の周囲長とを求める。(気孔の周囲長/上記円の周囲長)を各気孔の真円度とする。50以上の気孔の真円度を平均した値を表1に示す。
【0123】
〈強度〉
更に、各試料の焼結材について、引張強さ(MPa)を調べた。結果を表1に示す。
引張強さは、汎用の引張試験機を用いて引張試験を行って測定した。引張試験の試験片は、日本粉末冶金工業会の規格、JPMA M 04-1992、焼結金属材料引張試験片に準ずるものである。
試験片は、焼結材から切り出した平板材である。
この試験片は、細幅部と、細幅部の両端に設けられる太幅部とで構成される。細幅部は、中央部と、肩部とで構成される。肩部は、中央部から太幅部にかけて形成される円弧状の側面を有する。
試験片のサイズを以下に示す。評点距離は30mmである。
厚さ:5mm
長さ:72mm
中央部の長さ:32mm
細幅部における中央部の幅:5.7mm
肩部における細幅部近くの幅:5.96mm
肩部の側面の半径R:25mm
太幅部の幅を8.7mm
【0124】
【0125】
図3~
図7は順に、各試料の焼結材について、気孔の平均断面積(μm
2)、気孔の平均周囲長(μm)、気孔の最大径の平均値(μm)、気孔の最大径の最大値(μm)、気孔の最大径の最小値(μm)を示すグラフである。各グラフの横軸は、試料番号を示す。各グラフの縦軸は、
図3では気孔の平均断面積(μm
2)、
図4では気孔の平均周囲長(μm)、
図5では気孔の最大径の平均値(μm)、
図6では気孔の最大径の最大値(μm)、
図7では気孔の最大径の最小値(μm)を示す。
【0126】
表1,
図3に示すように、試料No.1~No.3の焼結材では、試料No.101~No.103の焼結材に比較して、気孔の平均断面積が小さいことが分かる。以下、試料No.1~No.3の焼結材を高密度成形の試料と呼ぶ。試料No.101~No.103の焼結材を高温焼結の試料と呼ぶ。
【0127】
定量的には、高密度成形の試料では、気孔の平均断面積が500μm2以下であり、ここでは特に450μm2以下である。焼結材の相対密度が96.5%以上である試料No.2,No.3の焼結材では、気孔の平均断面積が400μm2以下、特に300μm2以下であり、より小さい。
【0128】
また、表1,
図4に示すように、高密度成形の試料では、高温焼結の試料に比較して、気孔の平均周囲長が短いことが分かる。定量的には、高密度成形の試料では、気孔の平均周囲長が100μm以下、ここでは特に70μm以下である。試料No.2,No.3の焼結材では、気孔の平均周囲長が55μm以下であり、より短い。
【0129】
高温焼結の試料では、焼結材の相対密度が93%以上であり、表1,
図8A~
図8Cに示すように、各気孔11の断面積が大きく、周囲長も長い。この理由の一つは、以下のように考えられる。高温焼結の試料の圧粉成形体は、高密度成形の試料に比較して、相対密度が小さいため、気孔を多く含む。気孔が多い圧粉成形体を液相温度といった高温で焼結すると、気孔がある程度排出され易いものの、内部で複数の気泡が結合することで、
図8A~
図8Cに示すように、大きな気孔が残存し易い。即ち、断面積が大きく、周囲長が長い気孔が残存し易い。
【0130】
これに対し、高密度成形の試料では、表1,
図2A~
図2Cに示すように、気孔11の数がある程度多いものの、各気孔11の断面積が小さく、周囲長も短い。試料No.1~No.3の焼結材のなかでは、試料No.3の焼結材の気孔11が最も少ない上に、気孔11の断面積が最も小さく、周囲長も最も短い。この理由の一つは、以下のように考えられる。高密度成形の試料の圧粉成形体では、相対密度が大きいため、気孔が少ない。また、加圧圧縮によって、各気孔が小さくなり易い。このような圧粉成形体を比較的低温で焼結すると、気泡が排出されずに残存し易いものの、各気孔が小さいままである。即ち、
図2A~
図2Cに示すように、断面積が小さく、周囲長が短い気孔が残存し易い。また、圧粉成形体中の気孔が少ないほど、焼結材中の気孔の断面積が小さくなり易いと共に気孔の周囲長が短くなり易い。
【0131】
そして、高密度成形の試料は、高温焼結の試料に比較して、引張強さが高く、強度に優れることが分かる。高温焼結の試料のうち、引張強さが最も高い試料No.102と比較して、高密度成形の試料では、引張強さが15%以上向上している。この理由は、高密度成形の試料では、気孔が小さいことで、気孔が割れの起点になり難かったためと考えられる。
【0132】
その他、この試験から以下のことが分かる。
(1)表1,
図5に示すように、高密度成形の試料では、高温焼結の試料に比較して、気孔の最大径の平均値が小さい。定量的には、高密度成形の試料における上記最大径の平均値は、30μm以下であり、ここでは特に20μm以下である。また、高密度成形の試料における上記最大径の平均値は、5μm以上、ここでは特に10μm以上である。このような気孔は、小さいものの、小さ過ぎないといえる。
【0133】
(2)表1,
図6,
図7に示すように、高密度成形の試料では、高温焼結の試料に比較して、気孔の最大径の最大値及び最小値も小さい。定量的には、高密度成形の試料における上記最大径の最大値は、30μm以下であり、ここでは特に25μm以下である。また、高温焼結の試料に比較して、高密度成形の試料では、上記最大径において平均値と最大値との差が小さい。そのため、高密度成形の試料の最大径は均一的な大きさを有するといえる。高密度成形の試料における上記最大径の最小値は、20μm以下であり、ここでは特に5μm以上15μm以下である。このことからも、高密度成形の試料の気孔は、小さいものの、小さ過ぎないといえる。
【0134】
(3)表1に示すように、高密度成形の試料では、高温焼結の試料に比較して、真円度が小さい。定量的には、高密度成形の試料の真円度は、3.4以下、ここでは更に3.3以下である。
【0135】
また、この試験から、相対密度が93%以上99.5%以下であり、気孔が小さい焼結材は、相対密度が93%以上99.5%以下である圧粉成形体を液相温度未満という比較的低温で焼結することで製造できることが示された。また、ビッカース硬度Hvが80以上200以下である鉄基合金からなる粉末を用いることで、上述のような緻密な圧粉成形体が得られることが示された。
【0136】
上述のように相対密度が93%以上99.5%以下と緻密であり、気孔が小さい焼結材は、気孔が割れの起点になり難く、強度に優れる。そのため、上記焼結材は高強度が求められる各種の部品等に好適に利用できると期待される。また、少なくとも一つの気孔が開気孔であれば、潤滑剤の保持による良好な耐久性、良好な静音性も期待できる。そのため、上記焼結材は、潤滑性が望まれる歯車等の摺動部材や、静音性が望まれる部品に好適に利用できると期待される。
【0137】
本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
例えば、上述の試験例1において焼結材の組成、製造条件を変更することが挙げられる。焼結材の組成は、例えば鉄系材料以外でもよい。製造条件については、例えば圧粉成形体の相対密度、焼結温度等を変更することが挙げられる。
【符号の説明】
【0138】
1 焼結材、10 母相、11 気孔