(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】匍匐害虫防除用硬化性組成物、シーリング材、並びに、匍匐害虫の防除方法
(51)【国際特許分類】
A01N 25/10 20060101AFI20220802BHJP
A01P 7/04 20060101ALI20220802BHJP
A01M 1/24 20060101ALI20220802BHJP
A01N 53/06 20060101ALI20220802BHJP
A01N 53/08 20060101ALI20220802BHJP
A01N 53/04 20060101ALI20220802BHJP
A01N 25/00 20060101ALI20220802BHJP
C09K 3/10 20060101ALI20220802BHJP
A01M 1/20 20060101ALN20220802BHJP
【FI】
A01N25/10
A01P7/04
A01M1/24
A01N53/06 150
A01N53/08 125
A01N53/04 410
A01N53/06 110
A01N25/00 101
C09K3/10 G
C09K3/10 Z
C09K3/10 Q
C09K3/10 E
A01M1/20 A
(21)【出願番号】P 2018084372
(22)【出願日】2018-04-25
【審査請求日】2021-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】390000527
【氏名又は名称】住化エンバイロメンタルサイエンス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000107000
【氏名又は名称】シャープ化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【氏名又は名称】藤田 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100135839
【氏名又は名称】大南 匡史
(72)【発明者】
【氏名】田中 康順
(72)【発明者】
【氏名】梅本 晶太
(72)【発明者】
【氏名】本村 卓也
【審査官】武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-088859(JP,A)
【文献】特開2004-292615(JP,A)
【文献】特開2005-163024(JP,A)
【文献】国際公開第2018/079780(WO,A1)
【文献】特開2018-111684(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 25/00- 65/48
A01P 1/00- 23/00
C09K 3/10
A01M
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記式(1):
-Si(R
1)
3-aX
a (1)
(式中、R
1は1価炭化水素基又はハロゲン化1価炭化水素基を表し、Xは水素原子、ハロゲン原子、又はアルコキシ基を表し、aは0~3の整数を表す。)
で表される反応性ケイ素基を1分子中に少なくとも1個含有するポリオキシアルキレン系重合体を主成分とする基材、
(B)分子内に加水分解性ケイ素基とアミノ基を有するシランカップリング剤、
(C)下記式(2)又は(3):
【化1】
(式中、R
2はフェノキシ基、水素原子、フッ素原子、メチル基、メトキシメチル基、及びフェニル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の置換基を表し、R
3及びR
4は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、C1~C4アルキル基、又はC1~C4ハロゲン化アルキル基を表す。)
【化2】
(式中、R
3及びR
4は式(2)と同様の意味を表す。)
で表されるピレスロイド系化合物、及び
(D)
ビス-(2,3,3,3-テトラクロロプロピル)エーテル、N-(2-エチルヘキシル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド、及びピペロニルブトキシドからなる群から選ばれる少なくとも1つである共力剤、
を含む、匍匐害虫防除用硬化性組成物。
【請求項2】
前記シランカップリング剤は、下記式(4):
R
5
3-nMe
nSi-Z-Y (4)
(式中、R
5はメトキシ基、エトキシ基、又は2-メトキシエトキシ基を表し、Meはメチル基を表し、Zはエチレン基又はプロピレン基を表し、Yはアミノ基、フェニルアミノ基、又はNH-(2-アミノエチル)基を表し、nは0又は1を表す。)
で表される化合物からなる、請求項1に記載の匍匐害虫防除用硬化性組成物。
【請求項3】
前記ピレスロイド系化合物が、ペルメトリン、レスメトリン、ビフェントリン、及びトランスフルトリンからなる群から選ばれる少なくとも1つである、請求項1又は2に記載の匍匐害虫防除用硬化性組成物。
【請求項4】
前記共力剤が、N-(2-エチルヘキシル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド及びピペロニルブトキシドからなる群から選ばれる少なくとも1つである、請求項1~3のいずれかに記載の匍匐害虫防除用硬化性組成物。
【請求項5】
前記ピレスロイド系化合物の含有量が0.1重量%~3.0重量%である、請求項1~4のいずれかに記載の匍匐害虫防除用硬化性組成物。
【請求項6】
(A)100重量部に対し、(B)を0.3重量部~10重量部、(C)を0.1重量部~15重量部、(D)を0.1重量部~30重量部含む、請求項1~5のいずれかに記載の匍匐害虫防除用硬化性組成物。
【請求項7】
前記反応性ケイ素基が、トリメトキシシリル基、メチルジメトキシシリル基、ジメチルメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、メチルジエトキシシリル基、及びメチルジメトキシエトキシシリル基からなる群から選ばれる少なくとも1つである、請求項1~6のいずれかに記載の匍匐害虫防除用硬化性組成物。
【請求項8】
前記ポリオキシアルキレン系重合体が、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、又はポリオキシブチレンである、請求項1~7のいずれかに記載の匍匐害虫防除用硬化性組成物。
【請求項9】
前記基材が、さらに反応性ケイ素基を有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体を含む、請求項1~8のいずれかに記載の匍匐害虫防除用硬化性組成物。
【請求項10】
さらに昆虫成長制御剤、防黴剤、硬化剤、溶剤、充填剤、垂れ防止剤、脱水剤、光安定剤、紫外線吸収剤、及び酸化防止剤からなる群から選ばれる少なくとも1つの成分を含む、請求項1~9のいずれかに記載の匍匐害虫防除用硬化性組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載の匍匐害虫防除用硬化性組成物を含む、シーリング材。
【請求項12】
請求項1~10のいずれかに記載の匍匐害虫防除用硬化性組成物又は請求項11に記載のシーリング材を用いて匍匐害虫を防除する、匍匐害虫の防除方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、匍匐害虫防除用硬化性組成物、シーリング材、並びに、匍匐害虫の防除方法に関する。本発明は、アリ類、ゴキブリ類、チャタテムシ類等の匍匐害虫の防除に有用なものである。
【背景技術】
【0002】
屋外のアリ類、ゴキブリ類等の屋内への侵入や、大量発生したチャタテムシ類がコンクリートや石膏ボードの割れ目、壁と巾木の隙間等から室内へ侵入することを防ぐために、種々の方策が検討されている。その一例として、殺虫剤や害虫忌避剤を含有するシーリング材が開発されている。例えば特許文献1には、殺虫剤及び/又は害虫忌避剤としてピレスロイド系化合物を含有するシーリング材について記載されている。特許文献2には、ピレスロイド系化合物の1つであるアクリナトリンを配合したシリコーンゴム組成物について記載されている。
【0003】
上記したチャタテムシ類は体長1~2mm程度の微小昆虫であり、主にカビ類を餌としている。近年、一般家屋や食品、医薬品工場、クリーンルームなどにチャタテムシ類が大量発生する事例が増えており、大きな問題となっている。特に食品工場や医薬品工場では、虫体の製品への混入リスクが高まり、その対策が求められている。チャタテムシ類に対する殺虫剤の効果を調べた報告として、以下の非特許文献1、2がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-2503号公報
【文献】特開2009-185142号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】柴田光信「数種ピレスロイド剤に対するヒラタチャタテ(Liposcelis bostrichophilus)の感受性」、ペストロジー学会誌、第13巻、第1号、第38-39頁、1998年
【文献】哘 恵子ら「不快害虫としてのヒラタチャタテに対する数種殺虫剤の効力」、日環セ所報、第17号、第67-69頁、1990年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
工場等においては虫体の製品への異物混入のリスクをできる限り排除する必要があり、アリ類、ゴキブリ類、チャタテムシ類等の匍匐害虫について、生産現場への侵入を防止するための更なる技術が望まれる。そこで本発明は、匍匐害虫の防除に有用な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明者らは、匍匐害虫の屋内や室内への侵入経路を遮断する建築用シーリング材となる硬化性組成物に着目し、変成シリコーン系シーリング材に殺虫剤を配合して害虫防除機能を付与する検討を行った。しかし、殺虫剤が有する殺虫ポテンシャルに比較して、殺虫剤を配合した変成シリコーン系シーリング材が、期待される殺虫効果を充分に発揮できない場合が多々あった。その原因を突き止めるべくさらに検討したところ、変成シリコーン系シーリング材用の脱水剤や接着性付与剤として用いられるシランカップリング剤の配合により、一部の殺虫剤が不安定化することが分かった。特に、アミノシラン化合物を配合すると、不安定化の度合いが大きくなることが分かった。そして、さらに検討をすすめた結果、特定の化学構造を有する殺虫剤であればアミノシラン化合物によって不安定化されず、本来の殺虫効果を発揮できることが分かった。加えて、当該殺虫剤と共力剤を組み合わせることで、さらに強力な殺虫効果を発揮できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明の1つの様相は、
(A)下記式(1):
-Si(R
1)
3-aX
a (1)
(式中、R
1は1価炭化水素基又はハロゲン化1価炭化水素基を表し、Xは水素原子、ハロゲン原子、又はアルコキシ基を表し、aは0~3の整数を表す。)
で表される反応性ケイ素基を1分子中に少なくとも1個含有するポリオキシアルキレン系重合体を主成分とする基材、
(B)分子内に加水分解性ケイ素基とアミノ基を有するシランカップリング剤、
(C)下記式(2)又は(3):
【化1】
(式中、R
2はフェノキシ基、水素原子、フッ素原子、メチル基、メトキシメチル基、及びフェニル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の置換基を表し、R
3及びR
4は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、C1~C4アルキル基、又はC1~C4ハロゲン化アルキル基を表す。)
【化2】
(式中、R
3及びR
4は式(2)と同様の意味を表す。)
で表されるピレスロイド系化合物、及び
(D)共力剤、
を含む、匍匐害虫防除用硬化性組成物である。
【0009】
好ましくは、前記シランカップリング剤は、下記式(4):
R5
3-nMenSi-Z-Y (4)
(式中、R5はメトキシ基、エトキシ基、又は2-メトキシエトキシ基を表し、Meはメチル基を表し、Zはエチレン基又はプロピレン基を表し、Yはアミノ基、フェニルアミノ基、又はNH-(2-アミノエチル)基を表し、nは0又は1を表す。)
で表される化合物からなる。
【0010】
好ましくは、前記ピレスロイド系化合物が、ペルメトリン、レスメトリン、ビフェントリン、及びトランスフルトリンからなる群から選ばれる少なくとも1つである。
【0011】
好ましくは、前記共力剤が、N-(2-エチルヘキシル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド及びピペロニルブトキシドからなる群から選ばれる少なくとも1つである。
【0012】
好ましくは、前記ピレスロイド系化合物の含有量が0.1重量%~3.0重量%である。
【0013】
好ましくは、(A)100重量部に対し、(B)を0.3重量部~10重量部、(C)を0.1重量部~15重量部、(D)を0.1重量部~30重量部含む。
【0014】
好ましくは、前記反応性ケイ素基が、トリメトキシシリル基、メチルジメトキシシリル基、ジメチルメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、メチルジエトキシシリル基、及びメチルジメトキシエトキシシリル基からなる群から選ばれる少なくとも1つである。
【0015】
好ましくは、前記ポリオキシアルキレン系重合体が、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、又はポリオキシブチレンである。
【0016】
好ましくは、前記基材が、さらに反応性ケイ素基を有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体を含む。
【0017】
好ましくは、さらに昆虫成長制御剤、防黴剤、硬化剤、溶剤、充填剤、垂れ防止剤、脱水剤、光安定剤、紫外線吸収剤、及び酸化防止剤からなる群から選ばれる少なくとも1つの成分を含む。
【0018】
本発明の他の様相は、上記の匍匐害虫防除用硬化性組成物を含む、シーリング材である。
【0019】
本発明の他の様相は、上記の匍匐害虫防除用硬化性組成物又は上記のシーリング材を用いて匍匐害虫を防除する、匍匐害虫の防除方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、アリ類やチャタテムシ類等の匍匐害虫を効率的に防除することができる変成シリコーン系シーリング材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の匍匐害虫防除用硬化性組成物は、
(A)上記式(1)で表される反応性ケイ素基を1分子中に少なくとも1個含有するポリオキシアルキレン系重合体を主成分とする基材、
(B)分子内に加水分解性ケイ素基とアミノ基を有するシランカップリング剤、
(C)上記式(2)又は(3)で表されるピレスロイド系化合物、及び
(D)共力剤、
を含むものである。
【0022】
<基材>
上記ポリオキシアルキレン系重合体は、いわゆる変成シリコーン系シーリング材を構成する重合体である。一般に、変成シリコーン系シーリング材とは、末端に反応性シリル基(反応性ケイ素基)を導入したシリル化ポリエーテルを主成分とし、湿気硬化でシロキサン結合を形成するものを指す(日本シーリング材工業会「建築用シーリング材-基礎と正しい使い方-」第3版(平成24年10月1日発行)p182)。反応性ケイ素基は、加水分解性ケイ素基、架橋性ケイ素基、とも称される。
【0023】
本発明の匍匐害虫防除用硬化性組成物の(A)成分である基材は、上記ポリオキシアルキレン系重合体を主成分とするものである。ここで「主成分」とは、基材中における含有量が50重量%以上であることを指し、好ましくは60重量%以上、より好ましくは66重量%以上である。副成分を含めず、上記ポリオキシアルキレン系重合体のみで(A)成分を構成してもよい。
【0024】
上記ポリオキシアルキレン系重合体としては、例えば、下記のオキシアルキレン単位が複数個連なったポリオキシアルキレン骨格を含むものが挙げられる。
-(CH2)n-O-(nは1~4の整数)
-CH2CH(CH3)-O-
-CH2CH(C2H5)-O-
-CH2C(CH3)2-O-
-CH2CH(CH=CH2)-O-
これらの中で、ポリオキシエチレン(-CH2-CH2-O-)、ポリオキシプロピレン(-CH2CH(CH3)-O-)、ポリオキシブチレン(-CH2CH(C2H5)-O-)が好ましく、作業性に優れる点でポリオキシプロピレンが特に好ましい。
上記ポリオキシアルキレン系重合体には、上記の繰り返し単位が1種又は2種以上含まれていてもよい。
【0025】
上記ポリオキシアルキレン系重合体は直鎖状でもよく、分鎖を有するものでもよい。上記ポリオキシアルキレン系重合体の数平均分子量は、4000~30000であることが好ましい。このような反応性ケイ素基を有するポリオキシアルキレン系重合体の具体例としては、株式会社カネカ製の商品名「MSポリマーS203」、「MSポリマーS303」、「MSポリマーS203H」、及び「MSポリマーS303H」、旭硝子株式会社製 の商品名「エクセスターES2410」、等が例示される。
【0026】
上記一般式(1)で表される反応性ケイ素基としては、トリアルコキシシリル基、アルキルジアルコキシシリル基、ジアルキルアルコキシシリル基、等が挙げられる。ここでアルコキシ基、アルキル基の炭素数は10以下が好ましく、メトキシ基、エトキシ基、メチル基、エチル基がさらに好ましい。
トリアルコキシシリル基としては、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、等が挙げられる。アルキルジアルコキシシリル基としては、メチルジメトキシシリル基、メチルジエトキシシリル基、メチルジメトキシエトキシシリル基、等が挙げられる。ジアルキルアルコキシシリル基としては、ジメチルメトキシシリル基等が挙げられる。
これらの中で、トリメトキシシリル基とメチルジメトキシシリル基が特に好ましい。
【0027】
反応性ケイ素基の数としては、上記ポリオキシアルキレン系重合体1分子中に少なくとも1個あればよい。反応性ケイ素基は、上記ポリオキシアルキレン系重合体の主鎖と側鎖のいずれに導入されていてもよく、分子鎖末端に導入されていることが好ましい。
【0028】
上記ポリオキシアルキレン系重合体の分子鎖末端に対する反応性ケイ素基の導入率は特に限定されるものではないが、50%以上であることが好ましい。なお、反応性ケイ素基の導入率について、分子鎖末端の官能基が水酸基の場合は、例えば、反応性ケイ素基導入後の未反応の水酸基を水酸基価分析法にて定量および算出することができる。分子鎖末端の官能基が水酸基以外の場合は、例えば、赤外分光法や核磁気共鳴法などを用いて、反応性ケイ素基導入後の未反応の官能基を定量および算出することができる。
【0029】
反応性ケイ素基を有するポリオキシアルキレン系重合体は、公知の方法で製造することができる。例えば、上記した「建築用シーリング材-基礎と正しい使い方-(第3版)」のp182-183に記載の方法が挙げられる。具体的には、分子量3000程度のポリプロピレングリコール(PPG)の末端ヒドロキシル基をアルコキシド基に転換させた後、多価ハロゲン化合物を反応させることによって分子量を増大させ、分子量延長反応により高分子量化する。次に、CH2=CHRXで示される有機ハロゲン化合物を反応させることによって末端にオレフィン基を導入する。その後、脱塩精製工程を経てヒドロキシル化反応によって末端に反応性のシリコーン官能基(反応性ケイ素基)を導入する。
【0030】
下記(イ)又は(ロ)の方法によっても、反応性ケイ素基をポリオキシアルキレン系重合体に導入することができる(特許第3913859号公報)。
(イ)分子中に水酸基等の官能基を有するオキシアルキレン系重合体に、この官能基に対して反応性を示す活性基及び不飽和基を有する有機化合物を反応させ、不飽和基を含有するオキシアルキレン系重合体を得るか、又は、不飽和基含有エポキシ化合物との共重合により不飽和基を含有するオキシアルキレン系重合体を得る。次いで、得られた不飽和基を含有するオキシアルキレン系重合体に反応性ケイ素基を有するヒドロシランを作用させてヒドロシリル化する。
【0031】
(ロ)分子中に水酸基、エポキシ基やイソシアネート基等の官能基を有するオキシアルキレン系重合体に、この官能基に対して反応性を示す官能基及び反応性ケイ素基を有する化合物を反応させる。
【0032】
その他、反応性ケイ素基を有するポリオキシアルキレン系重合体の製造方法は、特開昭50-156599号公報、特開昭52-73998号公報、特開昭60-6747号公報、等の文献に記載されている。
【0033】
(A)の主成分である上記ポリオキシアルキレン系重合体以外の成分(副成分)としては、反応性ケイ素基を有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体が挙げられる。すなわち本発明の匍匐害虫防除用硬化性組成物においては、上記ポリオキシアルキレン系重合体(以下、重合体(a-1)と称することがある。)と反応性ケイ素基を有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体(以下、重合体(a-2)と称することがある。)とを併用することができる。これにより、硬化したシーリング材の耐候性や接着性が向上する。重合体(a-2)としては、例えば、上記一般式(1)で表される反応性ケイ素基を1分子中に少なくとも1個含有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体が挙げられる。重合体(a-1)と重合体(a-2)とを併用した重合体の具体例としては、株式会社カネカ製の商品名「MSポリマーS903」、「MSポリマーS943」が例示される。
【0034】
重合体(a-1)に対する重合体(a-2)の配合量としては、重合体(a-1)100重量部に対して1重量部~100重量部が好ましく、より好ましくは10重量部~100重量部、さらに好ましくは10重量部~80重量部である。
【0035】
(メタ)アクリル酸エステル系重合体は、公知の方法で製造することができる。例えば、アリル基を有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体を、VIII族金属の存在下でヒドロシリコン化合物と反応させる方法(特開昭54-36395号公報)、アルキル(メタ)アクリレートを、アルコキシシリル基を含有するアルキル(メタ)アクリレート、及びメルカプト基を含有する連鎖移動剤の存在下で共重合させる方法(特開昭57-179210号公報)、アルキル(メタ)アクリレートを、2官能ラジカル重合性化合物及び連鎖移動剤としてアルコキシシリル基を含有するメルカプタンの存在下で共重合させる方法(特開昭59-78222号公報)、アルキル(メタ)アクリレートを、重合開始剤としてアルコキシシリル基を含有するアゾビスニトリル化合物を使用して重合する方法(特開昭60-23405号公報)、等を用いて製造することができる(特開2002-201350号公報)。
【0036】
<アミノシランカップリング剤>
本発明の匍匐害虫防除用硬化性組成物は、加水分解性ケイ素基とアミノ基を有するシランカップリング剤((B)成分)を含有する。(B)成分は、主に接着性付与剤として添加される。(B)成分はアミノシランカップリング剤、アミノシラン化合物、とも称される。
上記加水分解性ケイ素基の加水分解性基の例としては、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルケニルオキシ基、アシルオキシ基、ケトキシメート基、アミノ基、アミド基、酸アミド基、アミノオキシ基、メルカプト基、等が挙げられる。このうち、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基が特に好ましい。
アミノ基は、置換アミノ基と非置換アミノ基のいずれであってもよい。置換アミノ基の置換基としては、アルキル基、アラルキル基、アリール基、等が挙げられる。
【0037】
上記シランカップリング剤を構成する化合物(アミノシラン化合物)の具体例としては、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリイソプロポキシシラン、3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリイソプロポキシシラン、N-(2-(2-アミノエチル)アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(6-アミノヘキシル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(N-エチルアミノ)-2-メチルプロピルトリメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-(N-フェニル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(N-ベンジル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(N-ビニルベンジル)アミノプロピルトリエトキシシラン、N-シクロヘキシルアミノメチルトリエトキシシラン、N-シクロヘキシルアミノメチルジエトキシメチルシラン、N-フェニルアミノメチルトリメトキシシラン、(2-アミノエチル)アミノメチルトリメトキシシラン、N,N’-ビス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、等が挙げられる。
【0038】
好ましい実施形態では、上記式(4)で表される化合物からなるシランカップリング剤(アミノシランカップリング剤)を含有する。式(4)中のR5、Z、Y、nの組み合わせは特に限定されないが、以下の具体的な化合物を例示することができる:3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-(N-フェニル)アミノプロピルトリメトキシシラン。
【0039】
上記アミノシランカップリング剤については、1種のみを用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
本発明の匍匐害虫防除用硬化性組成物における(B)アミノシランカップリング剤の含有量は、(A)成分100重量部に対して、好ましくは0.3重量部~10重量部、より好ましくは1重量部~5重量部である。(A)成分100重量部に対して(B)成分の含有量が10重量部より多い場合、硬化速度が遅くなるおそれがある。一方、(A)成分100重量部に対して(B)成分の含有量が0.3重量部未満であると、十分な接着性が得られないおそれがある。
【0041】
<ピレスロイド系化合物>
本発明の匍匐害虫防除用硬化性組成物は、上記式(2)又は(3)で表されるピレスロイド系化合物((C)成分)を含有する。式(2)、式(3)におけるR2、R3、R4の組み合わせは特に限定されないが、具体的なピレスロイド系化合物として、ペルメトリン、レスメトリン、トランスフルトリン、ビフェントリンを例示することができる。その他の例としては、フェノトリン、フェンフルトリン、プロフルトリン、メトフルトリン、ジメフルトリン等があげられる。上記ピレスロイド系化合物には、α-シアノフェノキシベンジル系のピレスロイド系化合物、プロパルギル基を有するイミプロトリンやプラレトリン等のピレスロイド系化合物、は含まれない。上記式(2)又は(3)で表されるピレスロイド系化合物には、不斉炭素原子に由来する異性体、及び二重結合に由来する異性体が存在する場合があるが、本発明では、有害生物防除活性を有する各異性体及び任意の比率の異性体混合物を(C)成分として用いることができる。
【0042】
上記ピレスロイド系化合物については、1種のみを用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
本発明の匍匐害虫防除用硬化性組成物における(C)成分の含有量は、(A)成分100重量部に対して、好ましくは0.1重量部~15重量部、より好ましくは、0.3重量部~10重量部、さらに好ましくは0.3重量部~5重量部である。(A)成分100重量部に対して(C)成分の含有量が15重量部より多い場合、硬化剤を加えたときの硬度が低くなる傾向があり好ましくない。一方、(A)成分100重量部に対して(C)成分の含有量が0.1重量部未満であると、殺虫効果の持続期間が短くなることから好ましくない。なお、(C)成分と後述する共力剤((D)成分)とを組み合わせることにより、(C)成分の殺虫効果が高くなり、組成物中におけるピレスロイド系化合物の含有量を低く抑えることができる。
【0044】
また本発明の匍匐害虫防除用硬化性組成物における(C)成分の含有量(組成物中における含有比率)は特に限定されないが、好ましくは0.1重量%~5.0重量%、より好ましくは0.1重量%~2.0重量%、さらに好ましくは0.3重量%~2.0重量%、である。本発明の匍匐害虫防除用硬化性組成物においては、(C)成分として、アミノシランカップリング剤に対して安定な、上記式(2)又は(3)で表されるピレスロイド系化合物を採用しており、かつ共力剤を併用しているので、(C)成分の含有量が比較的少なくても十分な殺虫効果を発揮する。
【0045】
<共力剤>
本発明の匍匐害虫防除用硬化性組成物は、共力剤((D)成分)を含有する。
共力剤は、殺虫剤と混合することで殺虫効果を著しく高める化合物である。共力剤の例としては、ビス-(2,3,3,3-テトラクロロプロピル)エーテル(別名:S-421)、N-(2-エチルヘキシル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド(別名:MGK264)、5-プロピル-6-[2-(2-ブトキシエトキシ)エトキシメチル]-1,3-ベンゾジオキソール(別名:ピペロニルブトキシド、PBO)、等が挙げられる。これらの共力剤については1種類のみを用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。共力剤の含有量は、(C)成分1重量部に対して、1重量部~20重量部が好ましく、3重量部~10重量部がより好ましい。
好ましい実施形態では、(D)成分としてMGK264又はPBOを用いる。
【0046】
(C)成分と(D)成分の組み合わせとしては、トランスフルトリンとMGK264、ビフェントリンとMGK264、ビフェントリンとPBO、ペルメトリンとMGK264、ペルメトリンとPBO、レスメトリンとMGK264、レスメトリンとPBO、等の組み合わせが推奨される。このうち、トランスフルトリンとMGK264、ビフェントリンとMGK264、ビフェントリンとPBO、の組み合わせが特に推奨される。
【0047】
<他の成分>
本発明の匍匐害虫防除用硬化性組成物は、反応性ケイ素基の反応を促進する目的でシラノール縮合触媒(硬化剤、硬化触媒)を含んでもよい。シラノール縮合触媒としては、例えば、カルボン酸のアルキルスズ塩、アルキルスズアルコキシド、アルキルスズキレート化合物、アルキルスズオキサイド及びその反応生成物、アルキルスズ塩とシリケート化合物との反応生成物、カルボン酸スズ塩、等が挙げられる。この中で、1,1,3,3-テトラブチル-1,3-ジラウリルオキシカルボニル-ジスタノキサン、ジブチル錫塩と正ケイ酸エチルとの反応生成物、ジブチル錫ジアセチルアセトナートが好ましい。また他にも、アルコキシ基およびキレート基を有するチタン化合物、ジルコニウムオキシド化合物、バナジウムオキシド化合物を用いてもよい。シラノール縮合触媒の含有量は、(A)成分100重量部に対して0.1重量部~10重量部が好ましく、0.5重量部~5重量部がより好ましい。
なお、本発明の匍匐害虫防除用硬化性組成物にシラノール縮合触媒を含めない場合は、匍匐害虫防除用硬化性組成物の使用時にシラノール縮合触媒を添加し、硬化させることができる。
【0048】
本発明の匍匐害虫防除用硬化性組成物は、その性能を損なわない限りにおいて、他の成分をさらに含んでもよい。例えば、溶剤、昆虫成長制御剤、防黴剤、充填剤、垂れ防止剤、脱水剤、光安定剤、紫外線吸収剤、及び酸化防止剤からなる群から選ばれる少なくとも1つの成分をさらに含んでもよい。
【0049】
上記溶剤としては特に限定はないが、例えば、炭素数4~12アルコールの2価カルボン酸ジエステル及び/又はポリプロピレングリコール、が挙げられる。炭素数4~12アルコールの2価カルボン酸ジエステルとしては、フタル酸ジエステルやアジピン酸ジエステルが挙げられ、特にフタル酸ジエステルが好ましく、その中でもフタル酸ジエチルヘキシル、フタル酸ジイソノニルが害虫防除剤の溶解性が良好なことから特に好ましい。
ポリプロピレングリコールとしては、分子量1000~5000のものが好ましく、特に分子量2000~4000のものが低粘度であることから取扱い易くより好ましい。ポリプロピレングリコールはジオール型、トリオール型のいずれを使用してもよい。
【0050】
本発明の匍匐害虫防除用硬化性組成物における上記溶剤の含有量は、(A)成分100重量部に対して、好ましくは10重量部~80重量部、より好ましくは20重量部~80重量部、さらに好ましくは30重量部~60重量部である。(A)成分100重量部に対して(B)成分の含有量が80重量部より多い場合、硬化剤を加えた場合組成物の硬度が低くなる傾向があり好ましくない。一方、(A)成分100重量部に対して(B)成分の含有量が10重量部未満であると、殺虫効果が低くなる場合があり好ましくない。
【0051】
昆虫成長制御剤は、昆虫の成長や休眠、産卵等の昆虫特有の機能を阻害する化合物である。昆虫成長制御剤の例としては、ピリプロキシフェン、メソプレン、ハイドロピレン、フェノキシカルブ、ルフェヌロン、フルフェノクスロン、ノバルロン、ヘキサフルムロン、テフルベンズロン、ジフルベンズロン、トリフルムロン、ブプロフェジン、シロマジン、等が挙げられる。これらの昆虫成長制御剤については1種類のみを用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。昆虫成長制御剤の含有量は、(A)成分100重量部に対して0.01重量部~30重量部が好ましく、0.1重量部~10重量部がより好ましい。
【0052】
防黴剤としては、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、4,5-ジクロロ-2-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、N-n-ブチル-1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン等のイソチアゾリノン系化合物;チアベンダゾール、カルベンダジム等のベンズイミダゾール系化合物;テトラクロロメチルスルホニルピリジン;ジヨードメチル-p-トリルスルホン、3-ヨード-2-プロピニルブチルカーバメート等の有機ヨウ素系化合物;2,2-ジブロモ-3-ニトリルプロピオンアミド;ジンクピリチオン、等が挙げられる。防黴剤の含有量は、(A)成分100重量部に対して0.01重量部~10重量部が好ましく、0.1重量部~6重量部がより好ましい。
【0053】
充填剤としては、無水ケイ酸、合成炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイソウ土タルク、酸化チタン、ベントナイト、酸化亜鉛、中空ガラスバルーン、等が挙げられる。これらの充填剤については1種類のみを用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。充填剤の含有量は、(A)成分100重量部に対して10重量部~200重量部が好ましく、50重量部~120重量部がより好ましい。
【0054】
垂れ防止剤としては、高分散シリカ、有機変性ベントナイト、合成ヘクトライト、有機ワックス類、反応性有機シリコン化合物、等が挙げられる。これらの垂れ防止剤については1種類のみを用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
脱水剤としては、ビニルトリメトキシシラン等の反応性有機シリコン化合物、等が挙げられる。脱水剤の含有量は、(A)成分100重量部に対して0.1重量部~10重量部が好ましく、0.2重量部~5重量部がより好ましい。
【0056】
光安定剤としては、ベンゾトリアゾール系化合物、ヒンダードアミン系化合物、ベンゾエート系化合物、等が挙げられる。この中でも、ヒンダードアミン系化合物が好ましい。光安定剤の含有量は、(A)成分100重量部に対して0.1重量部~10重量部が好ましく、0.2重量部~5重量部がより好ましい。
【0057】
紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリシレート系化合物、置換トリル系化合物、金属キレート系化合物、等が挙げられる。この中でもベンゾトリアゾール系化合物が好ましい。紫外線吸収剤の含有量は、(A)成分100重量部に対して0.1重量部~10重量部が好ましく、0.2重量部~5重量部がより好ましい。
【0058】
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、モノフェノール系酸化防止剤、ビスフェノール系酸化防止剤、ポリフェノール系酸化防止剤、等が挙げられる。この中でもヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましい。酸化防止剤の含有量は、(A)成分100重量部に対して0.1重量部~10重量部が好ましく、0.2重量部~5重量部がより好ましい。
【0059】
<製造法>
本発明の匍匐害虫防除用硬化性組成物は、例えば、以下のようにして製造することができる。まず、反応性ケイ素基を有するポリオキシアルキレン系重合体からなる(A)成分に、水分除去した炭酸カルシウムや酸化チタン等の充填剤を加え、混練する。一方、(B)成分、(C)成分、及び(D)成分を上記溶剤に溶かした溶液を調製する。そして、上記混練物に上記溶液を添加し、必要に応じて他の成分を添加し、加熱・攪拌等の条件を適宜調節し、均一に分散及び溶解させる。これにより、本発明の匍匐害虫防除用硬化性組成物を製造することができる。(A)成分として反応性ケイ素基を有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体を併用する場合には、反応性ケイ素基を有するポリオキシアルキレン系重合体(重合体(a-1))と反応性ケイ素基を有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体(重合体(a-2))との混合物に、水分除去した炭酸カルシウムや酸化チタン等の充填剤を加え混練する。得られた混練物に、(B)成分、(C)成分、及び(D)成分を上記溶剤に溶かして得られた上記溶液を添加し、必要に応じて他の成分を添加し、以下同様の操作を行えばよい。
【0060】
本発明における硬化性組成物は、室温硬化性組成物、湿分硬化性組成物、等と言い換えることができる。
【0061】
本発明のシーリング材は、上記の匍匐害虫防除用硬化性組成物を含むものである。本発明の匍匐害虫の防除方法は、上記の匍匐害虫防除用硬化性組成物又はシーリング材を用いて匍匐害虫を防除するものである。
【0062】
本発明のシーリング材を匍匐害虫の屋内や室内への侵入経路となる割れ目や隙間に施用することによって、アリ類、ゴキブリ類、チャタテムシ類等の匍匐害虫を防除することができる。本発明のシーリング材は、従来の変成シリコーン系シーリング材と同様に、建築用シーリング材として用いることができる。
【0063】
本発明の対象となる匍匐害虫としては、チャタテムシ類、トビムシ類、キクイムシ類、シバンムシ類、ヒメマキムシ類、ハネカクシ類、ケシキスイ類、カツオブシムシ類、アリ類、ダンゴムシ類、シロアリ類、ゴキブリ類、などが挙げられる。
【0064】
チャタテムシ類としては、コチャタテ等のコチャタテ科;ヒラタチャタテ、カツブシチャタテ、ソウメンチャタテ等のコナチャタテ科;ヒメチャタテ等のヒメチャタテ科、などに属する微小昆虫が挙げられる。
【0065】
以下に、実施例をもって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0066】
〔製剤例1-1〕
ポリオキシアルキレン系重合体を主成分とする基材(商品名「MSポリマーS303」、カネカ社)100重量部に、乾燥器により水分を除去した炭酸カルシウム120重量部と、酸化チタン20重量部を混合して充分混練した。フタル酸ジイソノニル(DINP)37.5重量部に、ビフェントリン1.5重量部、MGK264 15重量部、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン4重量部を混和し、溶解した。得られた溶解液を上記混練物に滴下し、撹拌した。有機スズ化合物(硬化触媒)2重量部を加え、混練して均一化し、硬化性組成物1-1を得た(ビフェントリン濃度:0.5%)。
【0067】
〔比較製剤例1-1〕
製剤例1-1のN-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン4重量部を0重量部(配合せず)に、DINP37.5重量部を41.5重量部に代えて、同様の操作をして比較硬化性組成物1-1を得た。
【0068】
〔製剤例1-2〕
製剤例1-1のビフェントリン1.5重量部を3重量部に、DINP37.5重量部を36重量部に代えて、同様の操作をして硬化性組成物1-2を得た(ビフェントリン濃度:1.0%)。
【0069】
〔比較製剤例1-2〕
製剤例1-2のN-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン4重量部を0重量部(配合せず)に、DINP36重量部を40重量部に代えて、同様の操作をして比較硬化性組成物1-2を得た。
【0070】
〔製剤例2〕
製剤例1-1のビフェントリン1.5重量部をペルメトリン4.5重量部に、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン4重量部を1.5重量部に、DINP37.5重量部を37重量部に代えて、同様の操作をして硬化性組成物2を得た(ペルメトリン濃度:1.5%)。
【0071】
〔比較製剤例2〕
製剤例2のN-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン1.5重量部を0重量部(配合せず)に、DINP37重量部を38.5重量部に代えて、同様の操作をして比較硬化性組成物2を得た。
【0072】
〔製剤例3〕
製剤例1-1のビフェントリン1.5重量部をレスメトリン4.5重量部に、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン4重量部を1.5重量部に、MGK264 15重量部をPBO 15重量部に、DINP37.5重量部を37重量部に代えて、同様の操作をして硬化性組成物3を得た(レスメトリン濃度:1.5%)。
【0073】
〔比較製剤例3〕
製剤例3のN-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン1.5重量部を0重量部(配合せず)に、DINP37重量部を38.5重量部に代えて、同様の操作をして比較硬化性組成物3を得た。
【0074】
〔製剤例4〕
製剤例1-1のビフェントリン1.5重量部をトランスフルトリン0.9重量部に、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン4重量部を0.9重量部に、DINP37.5重量部をポリプロピレングリコール3000(PPG3000) 41.2重量部に代えて、同様の操作をして硬化性組成物4を得た(トランスフルトリン濃度:0.3%)。
【0075】
〔比較製剤例4〕
製剤例4のN-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン0.9重量部を0重量部(配合せず)に、PPG3000 41.2重量部を42.1重量部に代えて、同様の操作をして比較硬化性組成物4を得た。
【0076】
〔参考製剤例5〕
製剤例1-1のビフェントリン1.5重量部をd・d・T-シフェノトリン1重量部に、MGK264 15重量部を5重量部に、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン4重量部を0.4重量部に、DINP37.5重量部を51.6重量部に代えて、同様の操作をして参考硬化性組成物5を得た。
【0077】
〔比較参考製剤例5〕
参考製剤例5のN-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン0.4重量部を0重量部(配合せず)に、DINP51.6重量部を52重量部に代えて、同様の操作をして比較参考硬化性組成物5を得た。
【0078】
各硬化性組成物における各成分の含有量(重量%)を表1にまとめた。
【0079】
【0080】
〔試験例1〕
4.0~4.2gの各硬化性組成物を、底面の直径80mm、高さ45mmの円柱型ポリカップの底面に厚さ1.0~1.5mm、直径60mmの円盤状になるように広げ、24時間以上室温で放置して硬化させた。この円盤状硬化物の中心付近に、飼育用餌粉末約100mgを置き、ヒラタチャタテ約50匹を放し、25℃の温度環境下に置いた。24時間後に、ポリカップ内のヒラタチャタテの生存成虫数と生存幼虫数および致死成虫数と致死幼虫数を調査した。致死成虫数と致死幼虫数の合計を、試験開始時に放した虫数で除し、致死率(%)を算出した。この試験を2回行い(N=2)、致死率の平均値(平均致死率)を算出した。
【0081】
〔試験例2〕
試験例1と同様にして、硬化性組成物1-1、硬化性組成物1-2、比較硬化性組成物1-1の円盤状硬化物を作製した。円柱状ポリカップの底面の端に、5%砂糖水を含んだ直径10mmの綿球を設置し、オオズアリ10匹を放し、25℃の温度環境下に置いた。18時間後に、ポリカップ内のオオズアリの生存数と致死数を調査した。致死数を、試験開始時に放した虫数で除し、致死率(%)を算出した。この試験を2回行い(N=2)、致死率の平均値(平均致死率)を算出した。
【0082】
〔試験例3〕
試験例1と同様にして、硬化性組成物1-1、硬化性組成物1-2、比較硬化性組成物1-1の円盤状硬化物を作製した。円盤状硬化物の中心付近に、約0.3gの飼育用餌粉末片を置き、チャバネゴキブリ成虫10匹(雄5匹、雌5匹)を放し、25℃の温度環境下に置いた。72時間後に、ポリカップ内のチャバネゴキブリの生存数と致死数を調査した。致死数を、試験開始時に放した虫数で除し、致死率(%)を算出した。この試験を2回行い(N=2)、致死率の平均値(平均致死率)を算出した。
【0083】
試験例1~3の結果を表2に示す。表中の数値は平均致死率(%)である。
【0084】
試験例1の結果に示すように、ビフェントリン、ペルメトリン、レスメトリン、又はトランスフルトリンを用いた場合は、いずれも、アミノシランカップリング剤を含んでいても、ヒラタチャタテに対する十分な殺虫効果を有していた(製剤例1~4、比較製剤例1~4)。これにより、ビフェントリン、ペルメトリン、レスメトリン、又はトランスフルトリンと共力剤とを組み合わせて、さらにアミノシランカップリング剤を含有させた硬化性組成物が、ヒラタチャタテに対する高い殺虫効果を有することが示された。
【0085】
なお、上記式(2)と(3)のいずれにも含まれないd・d-T-シフェノトリンを用いた場合は、共力剤と組み合わせても、アミノシランカップリング剤を含有させるとヒラタチャタテに対する殺虫効果が激減した(参考製剤例5、比較参考製剤例5)。
【0086】
さらに、上記式(2)と(3)のいずれにも含まれないトラロメトリンを用いた場合、d・d-T-シフェノトリンの場合と同様に、アミノシランカップリング剤を含有させるとヒラタチャタテに対する殺虫効果が激減することを別途確認した。
【0087】
試験例2の結果に示すように、ビフェントリンを用いた場合、アミノシランカップリング剤を含んでいても、オオズアリに対する十分な殺虫効果を有していた。これにより、ビフェントリンと共力剤とを組み合わせて、さらにアミノシランカップリング剤を含有させた硬化性組成物が、オオズアリに対する高い殺虫効果を有することが示された。
【0088】
試験例3の結果に示すように、ビフェントリンを用いた場合、アミノシランカップリング剤を含んでいても、チャバネゴキブリに対する十分な殺虫効果を有していた。これにより、ビフェントリンと共力剤とを組み合わせて、さらにアミノシランカップリング剤を含有させた硬化性組成物が、チャバネゴキブリに対する高い殺虫効果を有することが示された。
【0089】
【0090】
〔試験例4〕
本試験例では、アミノシランカップリング剤が各種ピレスロイド系化合物に与える影響について調べた。
【0091】
表3に示す各種ピレスロイド系化合物等を4%、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシランを4%含有するフタル酸ジノニル(DINP)溶液を作製し、スクリュー管に入れて密閉し、40℃条件下に保管した。6日後、溶液中の殺虫剤含量を高速液体クロマトグラフィーで分析し、初期含量に対する割合を残存率として求めた。結果を表3に示す。表3中、殺虫剤の残存率90%以上を○、残存率60~90%を△、60%未満を×で表示した。
【0092】
すなわち、ペルメトリン、d-T80-レスメトリン、トランスフルトリン、ビフェントリンの4種は90%以上の残存率を示した。共力剤であるMGK264も90%以上の残存率を示した。これに対し、トラロメトリン、d・d-T80-プラレトリン、イミプロトリンは60%未満の残存率しか示さず、d・d-T-シフェノトリンも60~90%の残存率しか示さなかった。
これらの結果は、試験例1の結果と整合するものである。
【0093】