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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/02 20120101AFI20220802BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20220802BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20220802BHJP
   B60W 10/04 20060101ALI20220802BHJP
   B60W 40/107 20120101ALI20220802BHJP
   F16D 48/02 20060101ALI20220802BHJP
   F16H 61/02 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
B60W30/02 300
B60W10/06
B60W10/02
B60W10/00 102
B60W40/107
F16D48/02 640Q
F16H61/02
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018025765
(22)【出願日】2018-02-16
(65)【公開番号】P2019142262
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2020-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】弁理士法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岸 達彦
(72)【発明者】
【氏名】西澤 浩光
【審査官】佐々木 佳祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-155812(JP,A)
【文献】特開2014-080089(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
F16D 48/02
F16H 61/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンにクラッチを介して連結され、前記クラッチを開放又は締結させるアクチュエータを有する自動変速機と、
前記アクチュエータを制御するクラッチ制御部と、
各車輪の回転速度を検出する車輪回転速度検出センサと、を備えた車両に搭載され、
前記車輪の前記回転速度から前記車輪のスリップ量を算出し、前記スリップ量が所定のスリップ量閾値を超えた場合に、少なくとも前記エンジンのエンジントルクを調整するトラクション制御動作を実行するトラクション制御部備えた車両の制御装置であって、
前記クラッチ制御部は、前記エンジンのエンジン回転速度が低下した場合、前記クラッチを開放するよう前記アクチュエータを制御し、
前記トラクション制御部は、
所定期間において、前記トラクション制御動作の実行中の前記クラッチの開放態様についての所定条件が成立した場合、前記トラクション制御動作が禁止又は実行され難くなるように前記スリップ量閾値を大きくすることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記所定条件は、
前記トラクション制御動作により前記クラッチが開放された時間が所定時間以上となったことであることを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記トラクション制御部は、
前記トラクション制御動作の実行中のドライバのアクセル操作の変化量が正の値で大きいほど、前記所定時間を短くすることを特徴とする請求項2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記トラクション制御部は、
前記トラクション制御動作の実行中の路面が大きな登り勾配であるほど、又は路面の摩擦係数が小さいほど、前記所定時間を短くすることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記トラクション制御部は、
前記トラクション制御動作の実行中の前記車両のヨーレートが小さいほど、前記所定時間を短くすることを特徴とする請求項2から請求項4の何れか1項に記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記所定条件は、
前記トラクション制御動作により前記クラッチが開放された回数が所定回数以上となったことであることを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項7】
前記トラクション制御部は、
前記トラクション制御動作の実行中のドライバのアクセル操作の変化量が正の値で大きいほど、前記所定回数を少なくすることを特徴とする請求項6に記載の車両の制御装置。
【請求項8】
前記トラクション制御部は、
前記トラクション制御動作の実行中の路面が大きな登り勾配であるほど、又は路面の摩擦係数が小さいほど、前記所定回数を少なくすることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の車両の制御装置。
【請求項9】
前記トラクション制御部は、
前記トラクション制御動作の実行中の前記車両のヨーレートが小さいほど、前記所定回数を少なくすることを特徴とする請求項6から請求項8の何れか1項に記載の車両の制御装置。
【請求項10】
前記所定期間は、
予め設定された時間が経過するまでの期間と、
登り勾配又は勾配のない路面を前記車両が走行している期間と、
前記車両のドライビングサイクルが所定ドライビング回数に到達するまでの期間と、
前記車両の走行している路面の路面状態が他の路面状態に変化するまでの期間と、のうち少なくとも1つの期間であることを特徴とする請求項1から請求項9の何れか1項に記載の車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両に搭載される車両の制御装置として、従来、特許文献1に記載された技術が知られている。特許文献1に記載の技術は、駆動輪がぬかるみや深雪等に入り込んでスタックした時等に、駆動力制御手段において、実スリップ率が所定の設定スリップ率を越えると駆動輪スリップを抑制するべく駆動力低減制御を行うようになっている。また、特許文献1に記載の技術では、駆動力低減制御を行なわれていても、アクセル操作量が所定値以上で、且つ、車体速度が所定値以下である状態が、予め定められた所定時間継続したならば、駆動力低減制御が禁止されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特公平07-108633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術にあっては、例えば圧雪登坂路等を車両が走行する際に、次の2つの理由により、ドライバに加速意思がありながら車両が加速できない又は失速してしまうという状況が継続して発生してしまうという問題があった。
【0005】
第1の理由は、手動変速機を備える車両において特許文献1に記載の制御を行うようにした場合、トラクションコントロール(駆動力低減制御)の実行によりエンジン回転速度が低下した際に、エンジンストール防止のためクラッチを開放する制御が継続して行われてしまうためである。
【0006】
第2の理由は、車両が動き出しているがトラクションコントロールを禁止する車速以上である場合には、エンジントルクダウンのため、又は車速が0km/hのときにトラクションコントロールを禁止するようにした結果として車両発進時の初期スリップを抑制できずにスタックから脱出できないためである。
【0007】
本発明は、上記のような問題点に着目してなされたものであり、車両の圧雪登坂路等での発進不良を防止でき、加速性能を向上でき、ドライバへ減速感を与えることを防止できる車両の制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、エンジンと、前記エンジンにクラッチを介して連結され、前記クラッチを開放又は締結させるアクチュエータを有する自動変速機と、前記アクチュエータを制御するクラッチ制御部と、各車輪の回転速度を検出する車輪回転速度検出センサと、を備えた車両に搭載され、前記車輪の前記回転速度から前記車輪のスリップ量を算出し、前記スリップ量が所定のスリップ量閾値を超えた場合に、少なくとも前記エンジンのエンジントルクを調整するトラクション制御動作を実行するトラクション制御部備えた車両の制御装置であって、前記クラッチ制御部は、前記エンジンのエンジン回転速度が低下した場合、前記クラッチを開放するよう前記アクチュエータを制御し、前記トラクション制御部は、所定期間において、前記トラクション制御動作の実行中の前記クラッチの開放態様についての所定条件が成立した場合、前記トラクション制御動作が禁止又は実行され難くなるように前記スリップ量閾値を大きくすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
このように上記の本発明によれば、車両の圧雪登坂路等での発進不良を防止でき、加速性能を向上でき、ドライバへ減速感を与えることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の一実施例に係る制御装置を備える車両の構成図である。
図2図2は、本発明の一実施例に係る車両の制御装置の動作を説明するフローチャートである。
図3図3は、本発明の一実施例に係る車両の制御装置で用いる、目標スリップ量と車速との相関を定めた制御マップである。
図4図4(A)から図4(E)は、クラッチの開放時間の閾値である所定の時間を、アクセル開度変化量、アクセル開度、路面傾斜、路面摩擦係数、車両ヨーレートに応じて変化させる場合の変化態様を示す図である。
図5図5(A)から図5(E)は、クラッチの開放回数の閾値である所定の回数を、アクセル開度変化量、アクセル開度、路面傾斜、路面摩擦係数、車両ヨーレートに応じて変化させる場合の変化態様を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施の形態に係る車両の制御装置は、エンジンと、エンジンにクラッチを介して連結され、クラッチを開放又は締結させるアクチュエータを有する自動変速機と、アクチュエータを制御するクラッチ制御部と、各車輪の回転速度を検出する車輪回転速度検出センサと、を備えた車両に搭載され、車輪の回転速度から車輪のスリップ量を算出し、スリップ量が所定のスリップ量閾値を超えた場合に、少なくともエンジンのエンジントルクを調整するトラクション制御動作を実行するトラクション制御部と、を備えた車両の制御装置であって、クラッチ制御部は、エンジンのエンジン回転速度が低下した場合、クラッチを開放するようアクチュエータを制御し、トラクション制御部は、所定期間において、トラクション制御動作の実行中のクラッチの開放態様についての所定条件が成立した場合、トラクション制御動作が禁止又は実行され難くなるようにスリップ量閾値を大きくすることを特徴とする。これにより、本発明の一実施の形態に係る車両の制御装置は、車両の圧雪登坂路等での発進不良を防止でき、加速性能を向上でき、ドライバへ減速感を与えることを防止できる。
【実施例
【0012】
以下、本発明の一実施例に係る車両の制御装置について図面を用いて説明する。図1から図5は、本発明の一実施例に係る車両の制御装置を説明する図である。
【0013】
図1に示すように、車両10は、エンジン20と、クラッチ30と、自動変速機40と、車輪13、16と、エンジン制御部71と、クラッチ制御部72と、トラクション制御部73とを含んで構成される。なお、車輪13は前輪であり、車輪16は後輪である。
【0014】
エンジン20には、複数の気筒が形成されている。本実施例において、エンジン20は、各気筒に対して、吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程からなる一連の4行程を行うことでクランク軸21を回転させるように構成されている。
【0015】
エンジン20にはクランク角センサ27が設けられており、このクランク角センサ27は、クランク軸21の回転位置に基づいてエンジン回転速度を検出し、検出信号をエンジン制御部71に送信する。
【0016】
自動変速機40は、エンジン20にクラッチ30を介して連結されており、エンジン20から伝達された回転を変速する。クラッチ30は乾式単板クラッチからなる。
【0017】
自動変速機40にはクラッチアクチュエータ35が設けられており、このクラッチアクチュエータ35は、クラッチ制御部72の制御によってクラッチ30を開放又は締結させる。本実施例におけるクラッチアクチュエータ35は本発明におけるアクチュエータを構成する。
【0018】
自動変速機40には、ディファレンシャル装置11およびドライブシャフト12を介して、駆動輪としての車輪13が連結されている。この自動変速機40およびエンジン20は、車両10の前部に搭載されている。したがって、車両10はフロントエンジンフロントドライブ車両である。なお、図1では車両10の前後方向にエンジン20の気筒が配列された状態が表わされているが、エンジン20の気筒配列方向は車幅方向であってもよい。
【0019】
車両10はアクセル開度センサ52を備えており、アクセル開度センサ52は、図示しないアクセルペダルの踏込み量(アクセル開度)を検出し、検出信号をエンジン制御部71に送信する。
【0020】
車両10は加速度センサ51およびヨーレートセンサ50を備えている。加速度センサ51は、車両10の各方向の加速度を検出し、検出信号をトラクション制御部73に送信する。ヨーレートセンサ50は、車両10のヨーレートを検出し、検出信号をトラクション制御部73に送信する。
【0021】
車両10は、車輪13の回転速度を検出する車輪回転速度検出センサ53と、従動輪としての車輪16の回転速度を検出する車輪回転速度検出センサ54とを備えている。車輪回転速度検出センサ53、54は検出信号をトラクション制御部73に送信する。
【0022】
車両10は、車輪13を制動するブレーキ61と、車輪16を制動するブレーキ62とを備えており、これらのブレーキ61、62は、トラクション制御部73によって制御される。
【0023】
エンジン制御部71、クラッチ制御部72及びトラクション制御部73は、CPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)と、ROM(Read Only Memory)と、バックアップ用のデータ等を保存するフラッシュメモリと、入力ポートと、出力ポートとを備えたコンピュータユニットによってそれぞれ構成されている。
【0024】
これらのコンピュータユニットのROMには、各種定数や各種マップ等とともに、当該コンピュータユニットを動作させるためのプログラムが格納されている。各コンピュータユニットは、CPUがRAMを作業領域としてROMに格納されたプログラムを実行することにより動作する。
【0025】
エンジン制御部71は、エンジン20を制御対象として制御を行う。クラッチ制御部72は、クラッチ30を制御対象として動作を行う。エンジン制御部71とクラッチ制御部72とは電気的に接続されている。
【0026】
また、エンジン制御部71及びクラッチ制御部72は、トラクション制御部73に電気的に接続されている。エンジン制御部71、クラッチ制御部72及びトラクション制御部73の間では、各センサの検出信号の共有、制御信号及び要求信号等の送受信が行われる。
【0027】
エンジン制御部71及びクラッチ制御部72は、トラクション制御部73からの要求に応じて各制御対象を制御する。
【0028】
本実施例において、クラッチ制御部72は、エンジン20のエンジン回転速度が低下した場合、クラッチ30を開放するようクラッチアクチュエータ35を制御するようになっている。これにより、エンジンストールを防止することができる。
【0029】
また、トラクション制御部73は、車輪13、16の回転速度から車輪13、16のスリップ量を算出する。そして、トラクション制御部73は、車両10の発進時等に車輪13、16の空転を解消するため、トラクション制御部73は、スリップ量が所定のスリップ量閾値を超えた場合に、車輪13、16のスリップ(空転)を解消すべくトラクション制御動作を実行する。
【0030】
トラクション制御動作とは、車輪13、16のスリップ量を目標スリップ量に調整及び制限すべく、ブレーキ61、62の制動又はエンジントルクの低減の少なくとも一方を実施することをいう。
【0031】
本実施例では、トラクション制御部73は、トラクション制御動作として、少なくともエンジン20のエンジントルクを調整する。トラクション制御動作を実行することにより、車輪13、16の空転を解消することができる。
【0032】
ところで、トラクション制御動作中は、エンジントルクが低減されるため、エンジンストールの防止のためにクラッチ30が断続的又は連続的に開放されることがある。
【0033】
そのため、クラッチ30の開放時間が長い場合又は開放回数が多い場合、車両10が雪道や泥道においてスタック状態からの脱出不能または加速不良等の不具合を繰り返していることが推定される。
【0034】
これらの不具合が発生している場合に、何ら対策を施さないならば、クラッチ30の開放が継続すること又はトラクション制御動作におけるエンジントルクダウンが継続されることにより、これらの不具合が継続してしまうことになる。
【0035】
言い換えると、エンジンストールを防止するためにクラッチ30の開放時間や開放回数が大きくなると、車輪13、16の空転が解消されることと引き換えに、スタック状態からの脱出不能または加速不良等の不具合が引き起こされてしまう。このような不具合に対しては、通常よりも空転を許容するような制御を行うことが有効である。
【0036】
そこで、本実施例では、トラクション制御部73は、所定期間において、トラクション制御動作の実行中のクラッチ30の開放態様についての所定条件が成立した場合、トラクション制御動作が禁止又は実行され難くなるようにスリップ量閾値を大きくするようになっている。
【0037】
スリップ量閾値としての目標スリップ量は、図3に示す制御マップに従い、トラクション制御部73により調整される。図3に示すように、目標スリップ量の初期値(SL1)は、車速(V1)よりも一定量大きな値に設定されている。
【0038】
そして、トラクション制御部73は、所定条件が成立した場合、スリップ量閾値を、トラクション制御動作が禁止される目標スリップ量(SL2)に設定する。または、トラクション制御部73は、所定条件が成立した場合、スリップ量閾値を、車速の増大に連れてステップ状に増加する目標スリップ量(SL3)に設定する。または、トラクション制御部73は、所定条件が成立した場合、スリップ量閾値を、車速の増大に伴って徐々に増加する目標スリップ量(SL4)に設定する。
【0039】
所定条件は、トラクション制御動作によりクラッチ30が開放された時間が所定時間以上となったことであることが好ましい。または、所定条件は、トラクション制御動作によりクラッチ30が開放された回数が所定回数以上となったことであることが好ましい。
【0040】
このように、クラッチ30が開放された時間又は回数を検出及び閾値と比較し、所定条件の成立の有無を判定することで、トラクション制御動作による一時的なクラッチ30の開放ではなく、雪道や泥道等を走行していることに起因してクラッチ30が長時間又は高頻度で開放されていることを検出できる。したがって、クラッチ30が長時間又は高頻度で開放された結果、車両の発進不良や加速不良が発生している状況が発生していること、又はドライバが減速感を感じる状況が発生していることを検出できる。
【0041】
本実施例では、例えば、クラッチ30が継続して開放されている時間が、所定時間としての第1の所定時間以上になった場合に、トラクション制御部73は、所定条件が成立したと判定する。又は、所定期間においてクラッチ30が開放されている時間の総和が、所定時間としての第2の所定時間以上になった場合に、トラクション制御部73は、所定条件が成立したと判定する。
【0042】
ここで、アクセル操作の変化量が正の値で大きいほどドライバの加速意思、発進意思が大きいため、このような状況ではドライバの意思を優先し、ドライバの不快感を取り除く必要がある。
【0043】
そこで、トラクション制御部73は、図4(A)、図4(B)に示すように、トラクション制御動作の実行中のドライバのアクセル操作の変化量(アクセル開度の変化量又はアクセル開度)が正の値で大きいほど、所定時間を短くすることが好ましい。
【0044】
また、トラクション制御部73は、図5(A)、図5(B)に示すように、トラクション制御動作の実行中のドライバのアクセル操作の変化量が正の値で大きいほど、所定回数を少なくすることが好ましい。
【0045】
ここで、路面が大きな登り勾配であるほど、又は路面の摩擦係数が小さいほど、より加速、発進が困難になることが考えられるため、このような不具合の発生を防止する必要がある。
【0046】
そこで、トラクション制御部73は、図4(C)に示すように、トラクション制御動作の実行中の路面が大きな登り勾配であるほど、又は図4(D)に示すように、路面の摩擦係数が小さいほど、所定時間を短くすることが好ましい。
【0047】
また、トラクション制御部73は、図5(C)に示すように、トラクション制御動作の実行中の路面が大きな登り勾配であるほど、又は図5(D)に示すように、路面の摩擦係数が小さいほど、所定回数を少なくすることが好ましい。
【0048】
ここで、車両10のヨーレートが大きいときは車両10の挙動が乱れており、トラクション制御動作を継続させて車両10の安定性を維持する必要がある。
【0049】
そこで、トラクション制御部73は、図4(E)に示すように、トラクション制御動作の実行中の車両10のヨーレートが小さいほど、所定時間を短くすることが好ましい。
【0050】
また、トラクション制御部73は、図5(D)に示すように、トラクション制御動作の実行中の車両10のヨーレートが小さいほど、所定回数を少なくすることが好ましい。
【0051】
なお、所定回数又は所定時間の変化態様は、図4(A)から図4(D)及び図5(A)から図5(D)のようにステップ状に変化される態様に限定されず、連続的に変化する態様であってもよい。
【0052】
ここで、引用文献1の制御においてトラクション制御動作を禁止する車速を0km/hにした場合には、初期スリップを抑えることができず、ドライバが加速しようとしても加速できない状況が生じてしまい、発進性能を損なってしまう。そのため、車速だけでなく車両10の加速度にも基づいて、トラクション制御動作が禁止又は実行され難くなるようにスリップ量閾値を大きくすることが好ましい。
【0053】
そこで、トラクション制御部73は、所定期間において、トラクション制御動作の実行中の車両10の加速度が所定加速度閾値以下かつ車速が所定車速閾値以上である場合、トラクション制御動作が禁止又は実行され難くなるようにスリップ量閾値を大きくすることが好ましい。
【0054】
このように、車両10の加速度を用いることで、加速度に基づいて発進不良を検出してスリップ量閾値を大きくすることができ、初期スリップをトラクション制御動作によって抑制した後にトラクション制御動作を禁止できるため、車両10の発進性能を向上させることができる。
【0055】
ここで、仮に加速度センサ51のみより加速度を検出する場合は、坂道や車体振動による加速度を誤検知してしまう可能性がある。また、二輪駆動車においての駆動輪、四輪駆動車においての4つの車輪の車輪回転速度のうち1番目又は2番目に速い車輪回転速度から加速度を求めてしまうと車輪の空転を検出できない可能性がある。
【0056】
そこで、車両10の加速度は、車両10に備えられる加速度センサ51の検出信号、車輪回転速度検出センサ53により検出される従動輪としての車輪16の車輪回転速度、または全ての車輪13、16が駆動輪である場合に車輪回転速度検出センサ53により検出された全ての車輪回転速度のうち、3番目に遅い車輪回転速度もしくは4番目に遅い車輪回転速度の少なくとも一方、から算出されることが好ましい。このようにすることで、車両10が加速していない状況をより正確に判断できる。
【0057】
所定期間は、予め設定された時間が経過するまでの期間と、登り勾配又は勾配のない路面を車両10が走行している期間と、車両10のドライビングサイクルが所定ドライビング回数に到達するまでの期間と、車両の走行している路面の路面状態が他の路面状態に変化するまでの期間と、のうち少なくとも1つの期間であることが好ましい。
【0058】
以上のように構成された車両10のトラクション制御部73の動作の一例について、図2に示すフローチャートを参照して説明する。
【0059】
図2において、トラクション制御部73は、トラクション制御が開始(図中、TCS介入と記す)されると(ステップS1)、まず、後輪上昇率、すなわち車輪13の回転速度の上昇率が閾値A以下であるか否かを判別する(ステップS2)。
【0060】
ステップS2で後輪上昇率が閾値A以下である場合、トラクション制御部73は後述するステップS4に進む。ステップS2で後輪上昇率が閾値Aより大きい場合、トラクション制御部73は、クラッチ30の開放回数(以下、クラッチ開放回数という)がN回以上になったか否かを判別する(ステップS3)。
【0061】
ステップS3でクラッチ開放回数がN回以上になっていない場合、トラクション制御部73はステップS1に戻る。ステップS3でクラッチ開放回数がN回以上になった場合、トラクション制御部73は登坂不可判定が成立(図中、ONと記す)したと判定する(ステップS4)。ここで、登坂不可判定とは、現在の状態のままでは車両10が登坂不可能であることの判定である。
【0062】
ステップS4に次いで、トラクション制御部73は、トラクション制御制限動作を実行し(ステップS5)、今回の動作を終了する。
【0063】
ステップS5のトラクション制御制限動作では、トラクション制御部73は、トラクション制御を一時禁止すること、目標スリップ量をステップ状に増加させること、又は目標スリップ量を徐々に増加させること、の何れかを実施する。
【0064】
以上のように、本実施例において、クラッチ制御部72は、エンジン20のエンジン回転速度が低下した場合、クラッチ30を開放するようクラッチアクチュエータ35を制御する。
【0065】
また、トラクション制御部73は、所定期間において、トラクション制御動作の実行中のクラッチの開放態様についての所定条件が成立した場合、トラクション制御動作が禁止又は実行され難くなるようにスリップ量閾値を大きくする。
【0066】
この構成により、所定条件が成立するとスリップ量閾値が大きくされるので、トラクション制御動作が禁止又は実行され難くなる。このため、トラクション制御動作によるエンジントルクダウンが中断され、エンジントルクダウンに起因するクラッチの開放が中断される。
【0067】
したがって、車両10の圧雪登坂路等での発進不良を防止でき、加速性能を向上でき、ドライバへ減速感を与えることを防止できる。
【0068】
また、本実施例において、所定条件は、トラクション制御動作によりクラッチ30が開放された時間が所定時間以上となったことであることが好ましい。
【0069】
この構成により、クラッチ30が開放された時間を用いてクラッチ30の開放継続を検出することで、トラクション制御動作による一時的なクラッチ30の開放ではなく、例えば雪道や泥道を走行していることに起因して車両に発進不良や加速不良が発生していること又はドライバに減速感を与えていることを検出できる。
【0070】
そこで、クラッチ30が開放された時間についての所定条件が成立するとスリップ量閾値が大きくされるので、トラクション制御動作が禁止又は実行され難くなる。このため、トラクション制御動作によるエンジントルクダウンが中断され、エンジントルクダウンに起因するクラッチの開放が中断される。
【0071】
したがって、車両10の圧雪登坂路等での発進不良を防止でき、加速性能を向上でき、ドライバへ減速感を与えることを防止できる。
【0072】
また、本実施例において、トラクション制御部73は、トラクション制御動作の実行中のドライバのアクセル操作の変化量が正の値で大きいほど、所定時間を短くすることが好ましい。
【0073】
これにより、アクセル操作の変化量が正の値で大きいほどドライバの加速意思、発進意思が大きいため、ドライバの加速意思、発進意思が大きいことを判断することで、よりドライバの不快感を取り除くことができる。
【0074】
また、本実施例において、トラクション制御部73は、トラクション制御動作の実行中の路面が大きな登り勾配であるほど、又は路面の摩擦係数が小さいほど、所定時間を短くすることが好ましい。
【0075】
これにより、路面が大きな登り勾配であるほど、又は路面の摩擦係数が小さいほど、より加速、発進が困難になることが考えられるため、このような不具合の発生を防止できる。
【0076】
また、本実施例において、トラクション制御部73は、トラクション制御動作の実行中の車両10のヨーレートが小さいほど、所定時間を短くすることが好ましい。
【0077】
これにより、車両10のヨーレートが大きいときは車両10の挙動が乱れているため、トラクション制御動作を継続させて車両10の安定性を維持することができる。
【0078】
また、本実施例において、所定条件は、トラクション制御動作によりクラッチ30が開放された回数が所定回数以上となったことであることが好ましい。
【0079】
クラッチ30が開放された回数を用いてクラッチ30の開放継続を検出することで、トラクション制御動作による一時的なクラッチ30の開放ではなく、例えば雪道や泥道を走行していることに起因して車両に発進不良や加速不良が発生していること又はドライバに減速感を与えていることを検出できる。
【0080】
そこで、トラクション制御動作によってエンジン回転速度が低下し続ける状況においては、トラクション制御動作の禁止又はトラクション制御動作が実行され難くなるようにスリップ量閾値を大きくする。
【0081】
これにより、トラクション制御動作におけるエンジントルクダウンが中断され、また、エンジン回転速度の低下によるクラッチの開放が中断される。
【0082】
そのため、アクセル開度に応じたエンジントルクを車輪13、16に伝達することができ、雪道や泥道での発進不良を防止でき、加速性能を向上でき、クラッチ30の開放による減速感を低減できる。
【0083】
この結果、車両10の圧雪登坂路等での発進不良を防止でき、加速性能を向上でき、ドライバへ減速感を与えることを防止できる。
【0084】
また、本実施例において、トラクション制御部73は、トラクション制御動作の実行中のドライバのアクセル操作の変化量が正の値で大きいほど、所定回数を少なくすることが好ましい。
【0085】
これにより、アクセル操作の変化量が正の値で大きいほどドライバの加速意思、発進意思が大きいため、ドライバの加速意思、発進意思が大きいことを判断することで、よりドライバの不快感を取り除くことができる。
【0086】
また、本実施例において、トラクション制御部73は、トラクション制御動作の実行中の路面が大きな登り勾配であるほど、又は路面の摩擦係数が小さいほど、所定回数を少なくすることが好ましい。
【0087】
これにより、路面が大きな登り勾配であるほど、又は路面の摩擦係数が小さいほど、より加速、発進が困難になることが考えられるため、このような不具合の発生を防止できる。
【0088】
また、本実施例において、トラクション制御部73は、トラクション制御動作の実行中の車両10のヨーレートが小さいほど、所定回数を少なくすることが好ましい。
【0089】
これにより、車両10のヨーレートが大きいときは車両10の挙動が乱れているため、トラクション制御動作を継続させて車両10の安定性を維持することができる。
【0090】
また、本実施例において、トラクション制御部73は、所定期間において、トラクション制御動作の実行中の車両10の加速度が所定加速度閾値以下かつ車速が所定車速閾値以上である場合、トラクション制御動作が禁止又は実行され難くなるようにスリップ量閾値を大きくすることが好ましい。
【0091】
これにより、車速だけでなく車両10の加速度にも基づいて、トラクション制御動作が禁止又は実行され難くなるようにスリップ量閾値を大きくすることができるため、加速しようとしても加速できない状況が生じることがない。
【0092】
本実施例では、車両10の加速度を用いることで、加速度に基づいて発進不良を検出してスリップ量閾値を大きくすることにより、初期スリップをトラクション制御動作によって抑制した後にトラクション制御動作を禁止できるため、車両10の発進性能を向上させることができる。
【0093】
また、本実施例において、車両10の加速度は、車両10に備えられる加速度センサ51の検出信号、車輪回転速度検出センサ53により検出される従動輪の車輪回転速度、または全ての車輪が駆動輪である場合に車輪回転速度検出センサ53により検出された全ての車輪回転速度のうち、3番目に遅い車輪回転速度もしくは4番目に遅い車輪回転速度の少なくとも一方、から算出されることが好ましい。
【0094】
ここで、加速度センサのみより加速度を検出した場合は坂道や車体振動による加速度を誤検知してしまう可能性がある。また、二輪駆動車においての駆動輪、四輪駆動車においての4つの車輪の車輪回転速度のうち1番目又は2番目に速い車輪回転速度から加速度を求めてしまうと車輪の空転を検出できない可能性がある。本実施例では上記構成とすることで、車両10が加速していない状況をより正確に判断できる。
【0095】
また、本実施例において、所定期間は、予め設定された時間が経過するまでの期間と、登り勾配又は勾配のない路面を車両10が走行している期間と、車両10のドライビングサイクルが所定ドライビング回数に到達するまでの期間と、車両10の走行している路面の路面状態が他の路面状態に変化するまでの期間と、のうち少なくとも1つの期間であることが好ましい。
【0096】
これにより、時間及びドライビングサイクルに基づいてトラクション制御動作の実行条件を変化させるまでの期間を設定することにより、不必要にトラクション制御動作の実行条件が変化してしまうことを防止できる。
【0097】
本発明の実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正及び等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0098】
10 車両
13 車輪(駆動輪)
16 車輪(従動輪)
20 エンジン
30 クラッチ
35 クラッチアクチュエータ(アクチュエータ)
40 自動変速機
51 加速度センサ
53、54 車輪回転速度検出センサ
72 クラッチ制御部
73 トラクション制御部
図1
図2
図3
図4
図5