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特許7115039ハイブリッド車両のモータトルク制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両のモータトルク制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/08 20060101AFI20220802BHJP
   B60W 20/10 20160101ALI20220802BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20220802BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20220802BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
B60W10/08 900
B60W20/10 ZHV
B60K6/48
B60L50/16
B60L15/20 K
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018101731
(22)【出願日】2018-05-28
(65)【公開番号】P2019206223
(43)【公開日】2019-12-05
【審査請求日】2021-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】弁理士法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 義将
(72)【発明者】
【氏名】津島 亮
【審査官】井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0297110(US,A1)
【文献】特開2006-315488(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/08
B60W 20/10
B60K 6/48
B60K 6/40
B60L 50/16
B60L 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸に動力を伝達する駆動源としてのエンジン及びモータと、複数の変速段を有する自動変速機とを備え、前記自動変速機が前記エンジンとの間の動力伝達経路を切断又は接続するクラッチを有し、前記モータが減速機を介して前記駆動軸に接続されたハイブリッド車両のモータトルク制御装置であって、
変速時に前記クラッチが切断されている間である前記自動変速機の変速中、前記モータの出力トルクを前記駆動軸に伝達するアシストトルク出力制御を実行可能な制御部を備え、
前記制御部は、
前記アシストトルク出力制御の実行中、前記モータを回生状態から力行状態に移行させる際に前記モータの出力トルクを緩やかに変化させる緩変化処理を実行可能であり、
前記自動変速機の変速中に、アクセルペダルの操作量を示すアクセル開度が所定値以上、変化した場合には前記緩変化処理の実行を許可し、
前記自動変速機の変速中に、前記アクセル開度が前記所定値以上、変化しない場合には前記緩変化処理の実行を禁止することを特徴とするハイブリッド車両のモータトルク制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記自動変速機の変速中に、前記アクセル開度が所定値以上、変化した場合には前記緩変化処理の実行を許可し、
前記自動変速機の変速中に、前記アクセルペダルの操作がない状態又は前記アクセルペダルの操作がある状態で前記アクセル開度が一定の場合には前記緩変化処理の実行を禁止することを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両のモータトルク制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記アクセル開度が一定の場合、前記クラッチが前記動力伝達経路を切断している前記変速中は前記緩変化処理の実行を禁止し、前記クラッチが前記動力伝達経路を接続しているときは前記緩変化処理の実行を許可することを特徴とする請求項2に記載のハイブリッド車両のモータトルク制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両のモータトルク制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、エンジンからの動力とモータからの動力とを駆動軸に出力して走行する自動車において、モータ走行している状態で駆動軸に出力するトルクが反転するときにはガタ詰めの際の歯打ち音やトルクショックを抑制するためにトルクを緩やかに変化させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-232993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の自動車にあっては、車両状態によってギヤの歯打ち音のレベルが変化することを考慮していないため、歯打ち音が乗員にとって気にならないレベルであっても歯打ち音を抑制する制御を行ってしまう。このため、特許文献1に記載の自動車では、駆動軸に対するモータトルクの追従性が遅れてしまう可能性があり、ドライバビリティを損なうおそれがあった。
【0005】
本発明は、上述のような事情に鑑みてなされたもので、駆動軸に対するモータトルクの追従性を良好に保つことができ、ドライバビリティを損なうことを防止することができるハイブリッド車両のモータトルク制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するため、駆動軸に動力を伝達する駆動源としてのエンジン及びモータと、複数の変速段を有する自動変速機とを備え、前記自動変速機が前記エンジンとの間の動力伝達経路を切断又は接続するクラッチを有し、前記モータが減速機を介して前記駆動軸に接続されたハイブリッド車両のモータトルク制御装置であって、変速時に前記クラッチが切断されている間である前記自動変速機の変速中、前記モータの出力トルクを前記駆動軸に伝達するアシストトルク出力制御を実行可能な制御部を備え、前記制御部は、前記アシストトルク出力制御の実行中、前記モータを回生状態から力行状態に移行させる際に前記モータの出力トルクを緩やかに変化させる緩変化処理を実行可能であり、前記自動変速機の変速中に、アクセルペダルの操作量を示すアクセル開度が所定値以上、変化した場合には前記緩変化処理の実行を許可し、前記自動変速機の変速中に、前記アクセル開度が前記所定値以上、変化しない場合には前記緩変化処理の実行を禁止する構成を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、駆動軸に対するモータトルクの追従性を良好に保つことができ、ドライバビリティを損なうことを防止することができるハイブリッド車両のモータトルク制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の実施例に係るハイブリッド車両の構成図である。
図2図2は、本発明の実施例に係るハイブリッド車両のモータトルク制御装置によって実行される緩変化処理の可否判定制御の処理の流れを示すフローチャートである。
図3図3は、本発明の実施例に係るハイブリッド車両の変速中にアクセル開度が一定のときのモータトルクの変化の一例を示すタイムチャートである。
図4図4は、本発明の実施例に係るハイブリッド車両の変速中にチップイン操作があるときのモータトルクの変化の一例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施の形態に係るハイブリッド車両のモータトルク制御装置は、駆動軸に動力を伝達する駆動源としてのエンジン及びモータと、複数の変速段を有する自動変速機とを備え、自動変速機がエンジンとの間の動力伝達経路を切断又は接続するクラッチを有し、モータが減速機を介して駆動軸に接続されたハイブリッド車両のモータトルク制御装置であって、自動変速機の変速中、モータの出力トルクを駆動軸に伝達するアシストトルク出力制御を実行可能な制御部を備え、制御部は、アシストトルク出力制御の実行中、モータを回生状態から力行状態に移行させる際にモータの出力トルクを緩やかに変化させる緩変化処理を実行可能であり、自動変速機の変速中に、アクセルペダルの操作量を示すアクセル開度が所定値以上、変化した場合には緩変化処理の実行を許可し、自動変速機の変速中に、アクセル開度が所定値以上、変化しない場合には緩変化処理の実行を禁止することを特徴とする。これにより、本発明の一実施の形態に係るハイブリッド車両のモータトルク制御装置は、駆動軸に対するモータトルクの追従性を良好に保つことができ、ドライバビリティを損なうことを防止することができる。
【実施例
【0010】
以下、本発明の一実施例に係るハイブリッド車両のモータトルク制御装置について図面を参照して説明する。
【0011】
図1に示すように、ハイブリッド車両1は、内燃機関としてのエンジン2と、自動変速機としてのトランスミッション3と、モータとしてのモータジェネレータ4と、駆動輪5と、ハイブリッド車両1を総合的に制御するHCU(Hybrid Control Unit)10と、エンジン2を制御するECM(Engine Control Module)11と、トランスミッション3を制御するTCM(Transmission Control Module)12と、ISGCM(Integrated Starter Generator Control Module)13と、INVCM(Invertor Control Module)14と、低電圧BMS(Battery Management System)15と、高電圧BMS16とを含んで構成される。エンジン2及びモータジェネレータ4は、駆動軸としてのドライブシャフト23に動力を伝達する駆動源を構成する。
【0012】
エンジン2には、複数の気筒が形成されている。本実施例において、エンジン2は、各気筒に対して、吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程からなる一連の4行程を行うように構成されている。
【0013】
エンジン2には、ISG(Integrated Starter Generator)20と、スタータ21とが連結されている。ISG20は、ベルト22などを介してエンジン2のクランクシャフト18に連結されている。ISG20は、電力が供給されることにより回転することでエンジン2を回転駆動させる電動機の機能と、クランクシャフト18から入力された回転力を電力に変換する発電機の機能とを有する。
【0014】
本実施例では、ISG20は、ISGCM13の制御により、電動機として機能することで、エンジン2をアイドリングストップ機能による停止状態から再始動させるようになっている。ISG20は、電動機として機能することで、ハイブリッド車両1の走行をアシストすることもできる。
【0015】
スタータ21は、図示しないモータとピニオンギヤとを含んで構成されている。スタータ21は、モータを回転させることにより、クランクシャフト18を回転させて、エンジン2に始動時の回転力を与えるようになっている。このように、エンジン2は、スタータ21によって始動され、アイドリングストップ機能による停止状態からISG20によって再始動される。
【0016】
トランスミッション3は、エンジン2から出力された回転を変速してドライブシャフト23を介して駆動輪5に伝達し、当該駆動輪5を駆動するようになっている。トランスミッション3は、平行軸歯車機構からなる常時噛合式の変速機構25と、ノーマルクローズタイプの乾式クラッチによって構成されるクラッチ26と、減速機としてのディファレンシャル機構27と、アクチュエータ51、52とを備えている。
【0017】
クラッチ26は、変速機構25とエンジン2との間の動力伝達経路に設けられ、その動力伝達経路を切断または接続するものである。
【0018】
トランスミッション3は、いわゆるAMT(Automated Manual Transmission)として構成されており、前進用の複数の変速段及び後進用の変速段を含む複数の変速段を成立可能に構成されている。トランスミッション3は、TCM12により制御されたアクチュエータ52により変速機構25における変速段の切換えが行われ、アクチュエータ51によりクラッチ26の切断及び接続が行われるようになっている。ディファレンシャル機構27は、変速機構25によって出力された動力をドライブシャフト23に伝達するようになっている。
【0019】
モータジェネレータ4は、ディファレンシャル機構27に対して、チェーン等の動力伝達機構28を介して連結されている。モータジェネレータ4は、ディファレンシャル機構27を介してドライブシャフト23に接続されている。モータジェネレータ4は、電動機として機能する。
【0020】
このように、ハイブリッド車両1は、エンジン2とモータジェネレータ4の両方の動力を車両の駆動に用いることが可能なパラレルハイブリッドシステムを構成しており、エンジン2及びモータジェネレータ4の少なくとも一方が出力する動力により走行するようになっている。
【0021】
ハイブリッド車両1の走行モードとしては、少なくとも、エンジン2とモータジェネレータ4の駆動力をドライブシャフト23に伝達してハイブリッド車両1を走行させるHEV走行モードと、モータジェネレータ4のみの駆動力をドライブシャフト23に伝達してハイブリッド車両1を走行させるEV走行モードとがある。
【0022】
モータジェネレータ4は、発電機としても機能し、ハイブリッド車両1の走行によって発電を行うようになっている。なお、モータジェネレータ4は、エンジン2から駆動輪5までの動力伝達経路の何れかの箇所に動力伝達可能に連結されていればよく、必ずしもディファレンシャル機構27に連結される必要はない。
【0023】
ハイブリッド車両1は、第1蓄電装置30と、第2蓄電装置31を含む低電圧パワーパック32と、バッテリとしての第3蓄電装置33を含む高電圧パワーパック34と、高電圧ケーブル35と、低電圧ケーブル36とを備えている。
【0024】
第1蓄電装置30、第2蓄電装置31及び第3蓄電装置33は、充電可能な二次電池から構成されている。第1蓄電装置30は鉛電池からなる。第2蓄電装置31は、第1蓄電装置30よりも高出力かつ高エネルギー密度な蓄電装置である。
【0025】
第2蓄電装置31は、第1蓄電装置30と比較して短い時間で充電が可能である。本実施例では、第2蓄電装置31はリチウムイオン電池からなる。なお、第2蓄電装置31はニッケル水素蓄電池であってもよい。
【0026】
第1蓄電装置30及び第2蓄電装置31は、約12Vの出力電圧を発生するようにセルの個数等が設定された低電圧バッテリである。第3蓄電装置33は、例えば、リチウムイオン電池からなる。
【0027】
第3蓄電装置33は、第1蓄電装置30及び第2蓄電装置31より高電圧を発生するようにセルの個数等が設定された高電圧バッテリであり、例えば、100Vの出力電圧を発生させる。第3蓄電装置33の残容量(以下、「バッテリ残容量」という)などの状態は、高電圧BMS16によって管理される。
【0028】
ハイブリッド車両1には、電気負荷としての一般負荷37及び被保護負荷38が設けられている。一般負荷37及び被保護負荷38は、スタータ21及びISG20以外の電気負荷である。
【0029】
被保護負荷38は、常に安定した電力供給が要求される電気負荷である。この被保護負荷38は、ハイブリッド車両1の横滑りを防止するスタビリティ制御装置38A、操舵輪の操作力を電気的にアシストする電動パワーステアリング制御装置38B、及びヘッドライト38Cを含んでいる。なお、被保護負荷38は、図示しないインストルメントパネルのランプ類及びメータ類並びにカーナビゲーションシステムも含んでいる。
【0030】
一般負荷37は、被保護負荷38と比較して安定した電力供給が要求されず、一時的に使用される電気負荷である。一般負荷37には、例えば、図示しないワイパー、及び、エンジン2に冷却風を送風する電動クーリングファンが含まれる。
【0031】
低電圧パワーパック32は、第2蓄電装置31に加えて、スイッチ40、41と、低電圧BMS15とを有している。第1蓄電装置30及び第2蓄電装置31は、低電圧ケーブル36を介して、スタータ21と、ISG20と、電気負荷としての一般負荷37及び被保護負荷38とに電力を供給可能に接続されている。被保護負荷38に対しては、第1蓄電装置30と第2蓄電装置31とが並列に電気的に接続されている。
【0032】
スイッチ40は、第2蓄電装置31と被保護負荷38との間の低電圧ケーブル36に設けられている。スイッチ41は、第1蓄電装置30と被保護負荷38との間の低電圧ケーブル36に設けられている。
【0033】
低電圧BMS15は、スイッチ40、41の開閉を制御することで、第2蓄電装置31の充放電及び被保護負荷38への電力供給を制御している。低電圧BMS15は、アイドリングストップによりエンジン2が停止しているときは、スイッチ40を閉じてスイッチ41を開くことで、高出力かつ高エネルギー密度な第2蓄電装置31から被保護負荷38に電力を供給するようになっている。
【0034】
低電圧BMS15は、エンジン2をスタータ21によって始動するとき、及び、アイドリングストップ制御によって停止しているエンジン2をISG20によって再始動するときに、スイッチ40を閉じてスイッチ41を開くことで、第1蓄電装置30からスタータ21又はISG20に電力を供給するようになっている。スイッチ40を閉じてスイッチ41を開いた状態では、第1蓄電装置30から一般負荷37にも電力が供給される。
【0035】
このように、第1蓄電装置30は、少なくともエンジン2を始動する始動装置としてのスタータ21及びISG20に電力を供給するようになっている。第2蓄電装置31は、少なくとも一般負荷37及び被保護負荷38に電力を供給するようになっている。
【0036】
第2蓄電装置31は、一般負荷37と被保護負荷38の両方に電力を供給可能に接続されているが、常に安定した電力供給が要求される被保護負荷38に優先的に電力を供給するようにスイッチ40、41が低電圧BMS15により制御される。
【0037】
低電圧BMS15は、第1蓄電装置30及び第2蓄電装置31の充電状態(充電残量)、並びに、一般負荷37及び被保護負荷38への作動要求を考慮し、被保護負荷38が安定して作動することを優先して、スイッチ40、41を上述した例と異なるように制御することがある。
【0038】
高電圧パワーパック34は、第3蓄電装置33に加えて、インバータ45と、INVCM14と、高電圧BMS16とを有している。高電圧パワーパック34は、高電圧ケーブル35を介して、モータジェネレータ4に電力を供給可能に接続されている。
【0039】
インバータ45は、INVCM14の制御により、高電圧ケーブル35にかかる交流電力と、第3蓄電装置33にかかる直流電力とを相互に変換するようになっている。例えば、INVCM14は、モータジェネレータ4を力行させるときには、第3蓄電装置33が放電した直流電力をインバータ45により交流電力に変換させてモータジェネレータ4に供給する。
【0040】
INVCM14は、モータジェネレータ4を回生させるときには、モータジェネレータ4が発電した交流電力をインバータ45により直流電力に変換させて第3蓄電装置33に充電する。
【0041】
HCU10、ECM11、TCM12、ISGCM13、INVCM14、低電圧BMS15及び高電圧BMS16は、それぞれCPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)と、ROM(Read Only Memory)と、バックアップ用のデータなどを保存するフラッシュメモリと、入力ポートと、出力ポートとを備えたコンピュータユニットによって構成されている。
【0042】
これらのコンピュータユニットのROMには、各種定数や各種マップ等とともに、当該コンピュータユニットをHCU10、ECM11、TCM12、ISGCM13、INVCM14、低電圧BMS15及び高電圧BMS16としてそれぞれ機能させるためのプログラムが格納されている。
【0043】
すなわち、CPUがRAMを作業領域としてROMに格納されたプログラムを実行することにより、これらのコンピュータユニットは、本実施例におけるHCU10、ECM11、TCM12、ISGCM13、INVCM14、低電圧BMS15及び高電圧BMS16としてそれぞれ機能する。
【0044】
本実施例において、ECM11は、アイドリングストップ制御を実行するようになっている。このアイドリングストップ制御において、ECM11は、所定の停止条件の成立時にエンジン2を停止させ、所定の再始動条件の成立時にISGCM13を介してISG20を駆動してエンジン2を再始動させるようになっている。このため、エンジン2の不要なアイドリングが行われなくなり、ハイブリッド車両1の燃費を向上させることができる。
【0045】
ハイブリッド車両1には、CAN(Controller Area Network)等の規格に準拠した車内LAN(Local Area Network)を形成するためのCAN通信線48、49が設けられている。
【0046】
HCU10は、INVCM14及び高電圧BMS16にCAN通信線48によって接続されている。HCU10、INVCM14及び高電圧BMS16は、CAN通信線48を介して制御信号等の信号の送受信を相互に行う。
【0047】
HCU10は、ECM11、TCM12、ISGCM13及び低電圧BMS15にCAN通信線49によって接続されている。HCU10、ECM11、TCM12、ISGCM13及び低電圧BMS15は、CAN通信線49を介して制御信号等の信号の送受信を相互に行う。
【0048】
HCU10には、駆動輪5を含む各車輪の車輪速を検出する車輪速センサ10a、アクセルペダル8の操作量をアクセル開度として検出するアクセル開度センサ10b、クラッチ26の係合度を検出するクラッチストロークセンサ10c、クランク角センサ10dが接続されている。HCU10は、クランク角センサ10dからの検出情報に基づきエンジン2の回転速度であるエンジン回転速度を算出する。
【0049】
車輪速センサ10aは、車輪が所定角分回転するごとにパルスを発生させるパルス信号を車速パルスとして出力する。HCU10は、この車速パルスに基づいてハイブリッド車両1の車速を算出する。
【0050】
HCU10は、トランスミッション3の変速中、モータジェネレータ4の出力トルクであるモータトルクをアシストトルクとしてドライブシャフト23に伝達するアシストトルク出力制御を実行可能に構成されている。「トランスミッション3の変速中」とは、変速時にクラッチ26が切断されている間をいう。したがって、変速時に切断されたクラッチ26が接続されると、変速が完了する。本実施例に係るHCU10は、制御部を構成する。
【0051】
「クラッチ26が切断されている間」とは、クラッチ26の完全係合が解除されている期間(以下、この期間を「非完全係合期間」という)であり、当該非完全係合期間には、いわゆる半クラッチ状態が含まれる。半クラッチ状態とは、クラッチ26の摩擦材同士がスリップした状態で係合して動力を伝達する状態をいう。
【0052】
変速機構とエンジンとの間の動力伝達経路にクラッチが設けられた車両においては、変速時のクラッチの非完全係合期間中、エンジンからのトルクが駆動輪に伝達されないため、加減速感が喪失する、いわゆるトルク抜けが生じ、このトルク抜けによって空走感が生じてしまう。
【0053】
アシストトルク出力制御は、変速時のクラッチの非完全係合期間中にモータジェネレータ4から駆動輪5に対してアシストトルクを出力することで、トルク抜けによる空走感の発生を回避するものである。
【0054】
また、HCU10は、上述のアシストトルク出力制御の実行中、モータジェネレータ4を回生状態から力行状態に移行させる際にモータトルクを緩やかに変化させる緩変化処理を実行可能に構成されている。
【0055】
緩変化処理は、モータジェネレータ4が回生状態から力行状態に切り替わる際、モータトルクが0付近となる領域においてモータトルクの変化が緩やかとなるように、すなわちモータトルクの単位時間あたりの変化量が所定変化量以下となるようにモータトルクを制御する処理である。緩変化処理を行うことにより、モータトルクが0付近となる領域におけるギヤの歯打ち音が抑制される。本実施例において、歯打ち音が抑制されるギヤには、ディファレンシャル機構27のギヤの他、動力伝達機構28を構成するチェーンやスプロケット等が含まれる。
【0056】
ここで、上述したギヤの歯打ち音は、トランスミッション3の変速中にアクセル開度が所定値以上、変化したか否かにより、その大きさ(レベルともいう)が異なる。「アクセル開度が所定値以上、変化する場合」としては、例えば運転者によりチップイン操作がなされた場合が挙げられる。
【0057】
変速中に運転者によりチップイン操作がなされた場合は、チップイン操作がなされていない場合と比較してギヤの歯打ち音が大きい。変速中にチップイン操作がなされた場合にギヤの歯打ち音が大きいのは、加速要求による急激なモータトルクの変化が生じて、噛合うギヤの歯面同士が衝突する際の衝撃が大きくなるためである。
【0058】
上述のチップイン操作とは、運転者がアクセルペダル8を踏み込んでいない状態からアクセルペダル8を踏み込む操作をいう。すなわち、運転者がアクセルOFFからアクセルONとなるようアクセルペダル8を操作することをいう。
【0059】
本実施例では、変速中にアクセル開度が所定値以上、変化した場合に、HCU10によって上述の緩変化処理を行うようにしている。これにより、噛合うギヤの歯面同士が衝突する際の衝撃が緩和され、乗員にとって気になるような大きな歯打ち音の発生が抑制される。
【0060】
これに対し、変速中にアクセル開度が所定値以上、変化しない場合、例えば運転者によりチップイン操作がなされていない場合は、ギヤの歯打ち音が発生するものの、そのレベルは小さく、乗員にとって気になるほどの大きさではない。この場合、緩変化処理を行ってしまうと、ドライブシャフト23に対するモータトルクの追従性が遅れてしまう可能性がある。
【0061】
そこで、本実施例において、HCU10は、変速中にアクセル開度が所定値以上、変化しない場合には上述の緩変化処理を禁止するようにしている。これにより、ドライブシャフト23に対するモータトルクの追従性が良好に保たれる。
【0062】
「変速中にアクセル開度が所定値以上、変化しない場合」には、変速中に、アクセルペダル8の操作がない状態又はアクセルペダル8の操作がある状態、すなわちアクセルOFF又はアクセルONの状態でアクセル開度が一定の場合が含まれる。
【0063】
次に、図2を参照して、HCU10によって実行される緩変化処理の可否判定制御の処理の流れについて説明する。図2に示す緩変化処理の可否判定制御は、所定の時間間隔で繰り返し実行される。
【0064】
図2に示すように、HCU10は、アクセル開度センサ10bからアクセル開度を取得する(ステップS1)。次いで、HCU10は、車輪速センサ10aの検出結果に基づき車速を算出する(ステップS2)。
【0065】
次いで、HCU10は、ステップS1で取得したアクセル開度とステップS2で算出した車速とに基づき変速マップを参照することにより、トランスミッション3において変速を実施するか否かを判定する(ステップS3)。変速マップは、アクセル開度と車速と変速のタイミングとの関係を予め実験的に求めたもので、HCU10のROMに記憶されている。
【0066】
HCU10は、ステップS3において、変速を実施しないと判定した場合には緩変化処理の可否判定制御を終了する。HCU10は、ステップS3において、変速を実施すると判定した場合には、クラッチ26を接続状態から切断状態に切り替える(ステップS4)。これにより、変速が開始される。以降、クラッチ26が接続状態に切り替えられるまでが変速中となる。
【0067】
次いで、HCU10は、アクセル開度が所定値以上、変化したか否かを判定する(ステップS5)。HCU10は、ステップS5において、アクセル開度が所定値以上、変化したと判定した場合には、モータトルクの緩変化処理を許可して(ステップS6)、処理をステップS8に移行させる。
【0068】
HCU10は、ステップS5において、アクセル開度が所定値以上、変化しないと判定した場合には、モータトルクの緩変化処理を禁止して(ステップS7)、処理をステップS8に移行させる。
【0069】
ステップS8において、HCU10は、クラッチ26が接続されたか否かを判定する。HCU10は、クラッチ26が接続されていないと判定した場合には、変速が完了していない、すなわち変速中であると判断して、処理をステップS5に戻し、ステップS5以降の処理を再度行う。
【0070】
ステップS8において、HCU10は、クラッチ26が接続されたと判定した場合には、変速が完了したと判断して、緩変化処理の可否判定制御を終了する。
【0071】
次に、図3及び図4を参照して、変速中のモータトルクの変化について説明する。
【0072】
図3は、変速中にアクセルONの状態でアクセル開度が一定の場合のモータトルクの変化の一例である。図4は、変速中にチップイン操作がなされた場合のモータトルクの変化の一例である。図3及び図4のいずれの例でも、走行モードはHEV走行モードである。
【0073】
(アクセル開度が一定の場合)
図3に示すように、ハイブリッド車両1は、アクセルONで、かつアクセル開度が一定の状態でモータトルクとクラッチ伝達トルクとの和がドライバ要求トルクとなるようにモータトルクとエンジントルクとが制御されている。クラッチ伝達トルクは、エンジントルクと比例関係にある。
【0074】
時間t1において、クラッチ26が切断されて変速が開始されると、アシストトルク出力制御によってモータトルクが増加する。これにより、モータトルクが負から正に切り替わり、モータジェネレータ4が回生状態から力行状態に移行する。これに伴い、クラッチ伝達トルクが低下する。
【0075】
このとき、図3に示す例では、アクセル開度が一定のためモータトルクの緩変化処理が禁止されているので、緩変化処理を行った場合と比較してモータトルクが急に増加する。具体的には、所定変化量を超える単位時間あたりの変化量でモータトルクが増加する。これにより、ドライブシャフト23に伝達するモータトルクの追従性が良好となる。
【0076】
その後、時間t2において、クラッチ26が接続されて変速が完了すると、モータトルクが0となり、クラッチ伝達トルクがドライバ要求トルクとなる。時間t2においてクラッチ26が接続されると、モータトルクの緩変化処理が許可される。これにより、変速中でない場合は、モータトルクの緩変化処理が実行され、ギヤの歯打ち音が抑制される。
【0077】
(チップイン操作がなされた場合)
図4に示すように、ハイブリッド車両1は、モータトルクとクラッチ伝達トルクとの和がドライバ要求トルクとなるようにモータトルクとエンジントルクとが制御されている。図4に示す例では、時間t1までは、アクセル開度が一定に維持されており、クラッチ伝達トルクによってドライバ要求トルクが満たされ、モータトルクが0となっている。
【0078】
時間t1において、運転者のアクセル操作によりアクセルONからアクセルOFFに切り替えられ、クラッチ26が切断されて変速が開始されると、アクセルの変化に追従するようにドライバ要求トルク及びクラッチ伝達トルクが低下する。
【0079】
その後、変速中の時間t2において、運転者のチップイン操作によってアクセルOFFからアクセルONに切り替えられると、アクセルの変化に追従するようにドライバ要求トルクが増加する。
【0080】
このとき、アシストトルク出力制御によってモータトルクが増加する。これにより、モータトルクが負から正に切り替わり、モータジェネレータ4が回生状態から力行状態に移行する。
【0081】
図4に示す例では、上述のように、変速中にチップイン操作によってアクセル開度が所定値以上、変化したためモータトルクの緩変化処理が許可されている。このため、アシストトルク出力制御によって増加するモータトルクが0付近となる領域において緩変化処理が行われる。これにより、モータジェネレータ4が回生状態から力行状態に切り替わる際にモータトルクの変化が緩やかとなる。したがって、モータトルクが0付近となる領域におけるギヤの歯打ち音が抑制される。
【0082】
その後、時間t3において、クラッチ26が接続されて変速が完了すると、モータトルクが0となり、クラッチ伝達トルクがドライバ要求トルクとなる。
【0083】
以上のように、本実施例に係るハイブリッド車両のモータトルク制御装置は、トランスミッション3の変速中にアクセル開度が所定値以上、変化した場合にはモータトルクの緩変化処理の実行を許可するので、乗員にとって気になるような大きな歯打ち音が発生することを抑制できる。
【0084】
また、本実施例に係るハイブリッド車両のモータトルク制御装置は、トランスミッション3の変速中にアクセル開度が所定値以上、変化しない場合にはモータトルクの緩変化処理の実行を禁止するので、ドライブシャフト23に対するモータトルクの追従性を良好に保つことができ、ドライバビリティを損なうことを防止することができる。
【0085】
本発明の実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正および等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0086】
1 ハイブリッド車両
2 エンジン
3 トランスミッション(自動変速機)
4 モータジェネレータ(モータ)
5 駆動輪
8 アクセルペダル
10 HCU(制御部)
10a 車輪速センサ
10b アクセル開度センサ
23 ドライブシャフト(駆動軸)
25 変速機構
26 クラッチ
27 ディファレンシャル機構(減速機)
28 動力伝達機構
図1
図2
図3
図4