IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 堺化学工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】蓄光材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/64 20060101AFI20220802BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20220802BHJP
   C01B 35/12 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
C09K11/64
C09K11/08 G
C01B35/12 D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018141413
(22)【出願日】2018-07-27
(65)【公開番号】P2020015868
(43)【公開日】2020-01-30
【審査請求日】2021-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000174541
【氏名又は名称】堺化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】江副 諒太
(72)【発明者】
【氏名】森 健治
(72)【発明者】
【氏名】小泉 寿夫
(72)【発明者】
【氏名】石川 桃子
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-292282(JP,A)
【文献】特開平10-273654(JP,A)
【文献】国際公開第2015/083814(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00-11/89
C01B 35/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン元素を希土類元素賦活アルカリ土類金属アルミン酸塩100重量部に対して0.01重量部以上、8重量部未満含み、リン酸濃度が5~80wt%のリン酸水溶液を噴霧添加しながら該希土類元素賦活アルカリ土類金属アルミン酸塩を乾式で混合する工程を含むことを特徴とする蓄光材料の製造方法。
【請求項2】
前記乾式混合は、機械型かき混ぜ型混合機を用いて行われることを特徴とする請求項1に記載の蓄光材料の製造方法。
【請求項3】
前記乾式混合は、0.1~40m/sの周速で撹拌して行われることを特徴とする請求項1又は2に記載の蓄光材料の製造方法。
【請求項4】
希土類元素賦活アルカリ土類金属アルミン酸塩を含む蓄光材料であって、
該蓄光材料は、蓄光材料100重量部に対してリン元素を0.01重量部以上、8重量部未満含み、
粒度分布におけるD25/D75の比が0.45以上であり、
該蓄光材料を40℃、100mlの純水に1時間浸漬させた後のスラリーの電気伝導度が150μS/cm未満であることを特徴とする蓄光材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄光材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蓄光材料は、照射された光のエネルギーを蓄えて、光照射を止めた後も発光する性質を有する材料である。蓄光材料は、時計の文字盤やキーホルダー等の日用品の他、地下施設での避難誘導板等の材料として使用されており、近年では更に、マニキュア等の化粧料用途への展開が検討されている。
【0003】
蓄光材料は原料混合粉末を焼成し、粉砕・分級工程を経て得られるが、材料として硬度が高いため、粉砕時に大きな粉砕強度が必要となる。その結果、目的とする粒径よりも小さい粒子が多数発生するが、蓄光材料は粒子サイズが大きいほどりん光輝度特性が高い傾向があり、小さな粒子が多数混合しているとりん光輝度が低くなって特性を悪化させる要因となる。また、こうして得られる蓄光材料の粒度分布は非常にブロードであるため、樹脂等に配合した後シート状に成型した場合、発光が不均一になる。そのため、分級により小さな粒子や、粗大な粒子を取り除いて粒度分布をシャープにして特性を高く保つことが必要になり、これが収率低下とコストアップの原因になるという問題があった。蓄光材料粒子を比較的簡便に分級して小さな粒子を取り除くことが出来る方法として水媒体を用いた沈降分級法が知られているが、アルミン酸塩を母体とする蓄光材料は水に触れると分解するため、この方法を用いるためには蓄光材料に耐水性を付与することが必要となる。蓄光能力が高い蓄光顔料は、夜間の誘導標識等といった屋外で雨水にさらされる環境でも使用できることが望まれており、耐水性の付与は湿式分級工程の効率化だけでなく、最終製品の耐候性の観点でも重要である。
蓄光材料に耐水性を付与する方法としては、蓄光材料にリン酸塩で表面処理を行う方法が知られており、特にリン酸アンモニウムで表面処理を行った蓄光材料は優れた耐水能を有し、りん光特性も表面処理前と同等であることが報告されている(特許文献1、2参照)。その他にも蓄光材料をリン酸やリン酸塩で処理する方法について報告されている(特許文献3~5、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5967787号公報
【文献】特開平10-273654号公報
【文献】特許第5967787号公報
【文献】特開2001-181624号公報
【文献】特開2017-155217号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】「Encapsulation of strontium aluminate phosphors to enhance water resistance and luminescence」 Zhu, Yong et al、 Applied Surface Science、Volume 255、Issue 17、p.7580-7585
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
蓄光材料を誘導標識に使用する場合、蓄光材料を樹脂と配合した後、シート状に成形加工して使用される。屋外用の誘導標識等で使用するためには水分と接触した場合にもりん光特性の大きな低下が発生しないよう、蓄光材料に耐水性を付与する必要がある。蓄光材料に耐水性を付与するためにリン酸塩で表面処理を行う方法が知られているが、リン酸塩を用いるとリン酸塩が糊のように作用して蓄光材料同士が癒着し、粗大な造粒物が生成するため、表面処理後の蓄光材料の粒度分布はブロードになる。こうした粗大粒子が存在した状態で樹脂に配合しシート成型を行うと、シートの発光が不均一になる。表面処理後の蓄光材料を目的の粒度分布にするためには、再度解砕工程を設けるか、もしくは分級工程を設けて粗大粒子を除去することが必要となるが、解砕によって微細な粒子が生成することによるりん光輝度低下や、表面処理が施されていない面が新たに露出することによる耐水性能の低下が発生するという課題や、工程追加による収率低下とコストアップにつながるという課題があった。
また、リン酸アンモニウムを用いて表面処理を施した蓄光材料は200℃以上で長時間加熱すると変色し、りん光特性が低下するため、蓄光材料を配合可能な樹脂は成形温度が低い樹脂(塩ビやウレタン等)に限られるという課題があった。
【0007】
本発明は、上記現状に鑑み、耐水性に優れると共に粒度分布が狭く、更に高温で加熱した場合の粉末の変色が抑制された蓄光材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、耐水性に優れ、粒度分布が狭く、かつ高温で加熱した場合の粉末の変色が抑制された蓄光材料について検討し、リン元素を希土類元素賦活アルカリ土類金属アルミン酸塩に対して所定の割合で含むリン酸水溶液を噴霧添加しながら該希土類元素賦活アルカリ土類金属アルミン酸塩を乾式で混合する工程を含む方法で蓄光材料を製造すると、耐水性に優れ、更に粒度分布が狭い蓄光材料が得られること、及び、この蓄光材料を高温で加熱した場合に、従来の蓄光材料を用いた場合に比べて粉末の変色が抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、リン元素を希土類元素賦活アルカリ土類金属アルミン酸塩100重量部に対して0.01重量部以上、8重量部未満含むリン酸水溶液を噴霧添加しながら該希土類元素賦活アルカリ土類金属アルミン酸塩を乾式で混合する工程を含むことを特徴とする蓄光材料の製造方法である。
【0010】
上記乾式混合は、機械型かき混ぜ型混合機を用いて行われることが好ましい。
【0011】
上記乾式混合は、0.1~40m/sの周速で撹拌して行われることが好ましい。
【0012】
本発明はまた、希土類元素賦活アルカリ土類金属アルミン酸塩を含む蓄光材料であって、該蓄光材料は、蓄光材料100重量部に対してリン元素を0.01重量部以上、8重量部未満含み、粒度分布におけるD25/D75の比が0.45以上であり、該蓄光材料を40℃、100mlの純水に1時間浸漬させた後のスラリーの電気伝導度が150μS/cm未満であることを特徴とする蓄光材料でもある。
【発明の効果】
【0013】
本発明の蓄光材料の製造方法は、耐水性に優れ、かつ粒度分布が狭い蓄光材料を製造することができ、また、得られる蓄光材料を含む樹脂組成物を高温で成形しても粉末の着色が十分に抑制されることから、樹脂と混練、成形して作製され、雨水にさらされる屋外環境で使用される誘導標識等に使用される蓄光材料の製造方法として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい形態について具体的に説明するが、本発明は以下の記載のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0015】
1.蓄光材料の製造方法
本発明の蓄光材料の製造方法は、リン酸水溶液を噴霧添加しながら希土類元素賦活アルカリ土類金属アルミン酸塩を乾式で混合する工程を含むことを特徴とする。
リン酸水溶液を添加することで希土類元素賦活アルカリ土類金属アルミン酸塩に表面処理がされるため、得られる蓄光材料は耐水性に優れたものとなる。また、表面処理にリン酸水溶液を使用することで、リン酸塩を使用した場合に生じる、リン酸塩が糊のように作用し、表面処理後の蓄光材料の粒度分布が極端に大きくなることもない。更に本発明の蓄光材料の製造方法で得られた蓄光材料は、高温で加熱した場合でも粉末の変色が起こりにくい。このように蓄光材料粉末の変色が十分に抑制される理由については以下のように推定される。
リン酸塩を用いて表面処理をした場合、表面処理層には蓄光材料から溶出したアルカリ土類金属イオンとリン酸塩が反応して生成するアルカリ土類金属のリン酸水素塩が形成されるが、リン酸塩を用いると、リン酸イオンの対となる塩基性のカウンターイオンも表面に残留しており、それが熱処理により蓄光材料粉末と反応して着色を引き起こすと考えられる。これに対し、本発明の蓄光材料の製造方法では、表面処理剤としてリン酸塩ではなくリン酸を使用するため、蓄光材料粉末の変色も抑制されることになるものと考えられる。
リン酸塩を使用する従来の表面処理方法では、塩基性のカウンターイオンを除去するため、表面処理後に中和・水洗が行われるが、未反応の処理剤やカウンターイオンを完全に取り除くことは難しい上に、製造工程が増えコストアップにつながる。これに対し、本発明の蓄光材料の製造方法では表面処理後の中和・水洗を行う必要がないため、コスト面や製造効率の面でも有利である。また、リン酸の他にピロリン酸、メタリン酸、ポリリン酸等を用いても良い。
【0016】
上記希土類元素賦活アルカリ土類金属アルミン酸塩に対して噴霧添加するリン酸水溶液の量は、希土類元素賦活アルカリ土類金属アルミン酸塩100重量部に対して、リン酸水溶液に含まれるリン元素が0.01重量部以上、8重量部未満となる量である。このような量のリン酸水溶液を用いることで、得られる蓄光材料の輝度の低下を抑制しつつ、希土類元素賦活アルカリ土類金属アルミン酸塩をより十分に表面処理することができ、得られる蓄光材料をより耐水性に優れたものとすることができる。リン酸水溶液の量が0.01重量部未満であるとリン酸による被覆が不十分となり、耐湿性が不十分であるため望ましくない。8重量部以上であるとリン酸によって蓄光材料表面が過剰に被覆されてしまうため、りん光輝度が低下するため望ましくない。リン酸水溶液の量は、好ましくはリン酸水溶液に含まれるリン元素が希土類元素賦活アルカリ土類金属アルミン酸塩100重量部に対して0.1~2重量部となる量である。
【0017】
上記希土類元素賦活アルカリ土類金属アルミン酸塩に対して噴霧添加するリン酸水溶液は、リン酸水溶液に含まれるリン酸の濃度が5~80wt%であることが好ましい。このような濃度のものを用いることで、表面処理工程中の発熱や希土類元素賦活アルカリ土類金属アルミン酸塩の加水分解を抑制しながら希土類元素賦活アルカリ土類金属アルミン酸塩をより十分に表面処理することができ、得られる蓄光材料をより耐水性に優れたものとすることができる。リン酸の濃度が5wt%未満であるとリン酸と蓄光材料の反応性が低くなって、表面処理反応よりも加水分解反応が優勢となり、粒子の崩壊や輝度の低下を招くため望ましくない。リン酸の濃度が80wt%を超えると、必要量のリン酸を含むリン酸水溶液の液量が少なくなり、噴霧する液量が少なすぎるため、均質な表面処理が行えず、耐湿性が下がるため望ましくない。リン酸水溶液中のリン酸の濃度は、より好ましくは、10~70wt%である。
【0018】
上記希土類元素賦活アルカリ土類金属アルミン酸塩に対してリン酸水溶液を噴霧添加する際の噴霧速度は、0.001~35L/分であることが好ましい。このような速度で噴霧することで希土類元素賦活アルカリ土類金属アルミン酸塩全体により適切な量のリン酸水溶液を均一に添加することができる。リン酸水溶液の噴霧速度は、より好ましくは、0.01~5L/分である。
【0019】
上記希土類元素賦活アルカリ土類金属アルミン酸塩を乾式で混合する方法は、希土類元素賦活アルカリ土類金属アルミン酸塩が混合されることになる限り特に制限されず、撹拌機を用いた混合であってもよいが、顔料と水溶液の混合を効率よく行い、顔料表面に均質にリン酸を被覆するためには機械型かき混ぜ型混合機で行うのが好ましい。
機械型かき混ぜ型混合機の例としては特に限定されないが、リボン、スクリュー、ロッド、パドル、高速流動、回転円盤、マラー等が挙げられる。これらの中でも特に、せん断力の強い高速流動型混合機が好ましい。高速流動混合機を用いることで、得られる蓄光材料が輝度により優れたものとなる。この理由は以下のように推定される。
高速流動混合機を用いることで、得られる蓄光材料表面の凹凸がなくなり、滑らかな表面となることから、微粉がリン酸液と反応して乾式混合中のより大きな粒子の表面に付着するような現象が生じ、これにより輝度低下の原因となる微粉が少なくなり、得られる蓄光材料が輝度により優れたものとなると考えられる。
【0020】
上記希土類元素賦活アルカリ土類金属アルミン酸塩の乾式混合を撹拌機を用いて行う場合、希土類元素賦活アルカリ土類金属アルミン酸塩をより十分に撹拌しつつ整粒する点から、0.1~40m/sの周速で撹拌して行われることが好ましい。周速が0.1m/s未満であると、流動性やせん断力が弱く、表面処理が不均一にとなり整粒効果や十分な耐湿性が得られないため望ましくない。周速が40m/sを超える条件ではせん断力が強く顔料を破砕し、りん光輝度が低下するため望ましくない。より好ましくは、1~20m/sの周速で撹拌することである。
混合時間は、上記周速が0.1~40m/sの条件であれば特に制限はないが、1分以上、30分未満で行うことが望ましい。混合時間が1分未満であると、リン酸による被覆が不十分となる可能性があり、混合時間が30分以上では生産効率が低下することになるため望ましくない。
【0021】
本発明の蓄光材料の製造方法は、上記乾式混合工程の後に得られた希土類元素賦活アルカリ土類金属アルミン酸塩を40~500℃で加熱処理する工程を含むことが好ましい。このような加熱処理工程を行うことで、得られる蓄光材料がより耐水性に優れたものとなる。加熱処理は1回行ってもよく、複数回行ってもよい。
加熱処理する工程の温度は、より好ましくは、60~300℃であり、更に好ましくは、80~250℃である。
【0022】
上記加熱処理工程の時間は、蓄光材料の耐水性・耐湿性を高める効果と製造効率とを考慮すると、0.5~24時間であることが好ましい。より好ましくは、1~12時間である。
【0023】
本発明の蓄光材料の製造方法は、上述した乾式混合工程、加熱処理工程以外のその他の工程を含んでいてもよい。その他の工程としては、ろ過、水洗、粉砕、分級等が挙げられる。
【0024】
本発明の蓄光材料の製造方法に用いる希土類元素賦活アルカリ土類金属アルミン酸塩は、アルカリ土類金属アルミン酸塩が希土類元素によって賦活されたものであり、アルカリ土類金属アルミン酸塩は、下記一般式(1);
MxAlyOz (1)
(式中、Mは、アルカリ土類金属元素を表す。x、y、zは、0<x≦4、0<y≦14、0<z≦25の数を表す。)で表される化合物である。
【0025】
上記一般式(1)においてMで表されるアルカリ土類金属元素としては、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウムの1種又は2種以上が挙げられるが、これらの中でも、ストロンチウムが好ましい。
【0026】
上記一般式(1)で表されるアルカリ土類金属アルミン酸塩のうち、Mで表されるアルカリ土類金属元素がストロンチウムであるアルミン酸ストロンチウムとしては、SrAl、SrAl、SrAl1425、SrAl1219、SrAl等の種々の化合物があり、これらのいずれのものであってもよい。
【0027】
上記アルカリ土類金属アルミン酸塩は、αアルミナ、θアルミナ、κアルミナ、δアルミナ、ηアルミナ、χアルミナ、γアルミナ、及びρアルミナから選択される少なくとも1種のアルミナを含有するアルミナ原料又は水酸化アルミニウムと、アルカリ土類金属源とから合成されたものであるのが好ましい。
【0028】
本発明の蓄光材料の製造方法に用いる希土類元素賦活アルカリ土類金属アルミン酸塩が含む希土類元素としては、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Y、Sc等の1種又は2種以上が挙げられる。これらの中でも、Eu、Dy、Nd、Hoが好ましい。
【0029】
上記希土類元素賦活アルカリ土類金属アルミン酸塩が含む希土類元素の量は特に制限されないが、アルカリ土類金属アルミン酸塩1モル当たり、0.0001~0.05モルであることが好ましい。希土類元素の量が少なすぎると十分なりん光輝度を達成することができず、また多すぎてもりん光輝度は飽和する一方で、別の物性にも影響をおよぼすことがある。希土類元素の量は、より好ましくは、アルカリ土類金属アルミン酸塩1モル当たり、0.001~0.03モルである。
【0030】
本発明の蓄光材料の製造方法に用いる希土類元素賦活アルカリ土類金属アルミン酸塩の製造方法は特に制限されないが、例えば、アルミナ原料又は水酸化アルミニウムとアルカリ土類金属化合物と希土類元素化合物とを湿式で混合した後、乾燥、焼成をして得ることができる。
【0031】
2.蓄光材料
上述したとおり、本発明の蓄光材料の製造方法は表面処理にリン酸塩ではなくリン酸水溶液を使用することから、得られる蓄光材料は耐水性に優れ、粒度分布が狭く、リン酸塩由来のカチオン種の存在が原因と考えられる高温での蓄光材料粉末の着色が抑制されたものである。
このような蓄光材料、すなわち、希土類元素賦活アルカリ土類金属アルミン酸塩を含む蓄光材料であって、該蓄光材料は、蓄光材料100重量部に対してリン元素を0.01重量部以上、8重量部未満含み、粒度分布におけるD25/D75の比が0.45以上であり、該蓄光材料を40℃、100mlの純水に1時間浸漬させた後のスラリーの電気伝導度が150μS/cm未満であることを特徴とする蓄光材料もまた、本発明の1つである。
【0032】
本発明の蓄光材料は、蓄光材料100重量部に対してリン元素を0.01重量部以上、8重量部未満含むものであるが、リン元素を0.1~2重量部含むものであることが好ましい。リン元素の含有量がこのような範囲であることで、表面が分解せず、かつ、より十分な耐水性を有する蓄光材料となる。
蓄光材料中のリン元素の含有量は、ICP発光分析により測定することができる。
【0033】
本発明の蓄光材料は、リン元素を希土類元素賦活アルカリ土類金属アルミン酸塩100重量部に対して0.01重量部以上、8重量部未満含むリン酸水溶液を噴霧添加しながら該希土類元素賦活アルカリ土類金属アルミン酸塩を機械型かき混ぜ型混合機を用いて0.1~40m/sの周速で攪拌・混合することによって得られる。こうして得られる該蓄光材料は粒度分布が狭く、具体的には、粒度分布におけるD25/D75の比が0.45以上である。このような蓄光材料を樹脂等に蓄光材料を配合すると樹脂に良好に分散し、樹脂成型体のりん光輝度のムラが抑えられる。D25/D75の比は、好ましくは、0.50以上である。
蓄光材料の粒度分布は、粒度分布測定機により測定することができる。
【0034】
本発明の蓄光材料は、該蓄光材料を40℃、100mlの純水に1時間浸漬させた後のスラリーの電気伝導度が150μS/cm未満であるものである。このように蓄光材料を浸漬した後のスラリーの電気伝導度が低いことは、蓄光材料中に、リン酸塩由来のカチオン種等の水中でイオンとなる成分の含有量が少ないことを意味する。蓄光材料を1時間浸漬させた後の40℃、100mlのスラリーの電気伝導度は、130μS/cm以下であることが好ましい。
【0035】
本発明の蓄光材料が含む希土類元素賦活アルカリ土類金属アルミン酸塩を構成するアルカリ土類金属アルミン酸塩や希土類元素の具体例、及び、希土類元素賦活アルカリ土類金属アルミン酸塩における希土類元素の含有量は、上述した本発明の蓄光材料の製造方法における希土類元素賦活アルカリ土類金属アルミン酸塩と同様である。
【0036】
3.蓄光材料を含む樹脂組成物
本発明の蓄光材料を樹脂と混練して樹脂組成物とする場合、使用する樹脂は特に制限されず、塩化ビニル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂、PET樹脂、EVA樹脂、フッ素系樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリプロピレン樹脂、ABS樹脂等を使用することができる。中でも、本発明の蓄光材料は、高温で加熱した場合にも蓄光材料粉末の着色が十分に抑制されたものであることから、フッ素系樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリプロピレン樹脂、ABS樹脂等の高温で成形される樹脂と混練して用いられることは本発明の好適な実施形態の1つである。
【0037】
本発明の蓄光材料は、耐水性に優れ、かつ粒度分布が狭く、樹脂と混練して得られる樹脂組成物を高温で成形しても蓄光材料粉末の着色が十分に抑制されることから、本発明の蓄光材料を含む樹脂組成物は、雨水にさらされる屋外環境で使用される誘導標識等の材料として好適に用いることができる。
【実施例
【0038】
本発明を詳細に説明するために以下に具体例を挙げるが、本発明はこれらの例のみに限定されるものではない。特に断りのない限り、「%」及び「wt%」とは「重量%(質量%)」を意味する。
【0039】
合成例(蓄光材料の製造)
炭酸ストロンチウム(堺化学工業社製SW-K、24.58g)、酸化ユーロピウム(純度99.9%、0.30g)、酸化ジスプロシウム(純度99.9%、0.32g)、酸化アルミニウム(純度99.99%、16.99g)、炭酸リチウム(純度99.0%、0.0063g)、ホウ酸(純度99.5%、0.11g)を秤量し、水(85mL)中に入れてスラリー化後、3mm径アルミナボール(ニッカトー社製、SSA-999W、190g)を粉砕メディアとして使用し、遊星ボールミルを用いて250rpmで90分間分散・粉砕・混合することによりスラリー状の緑色蓄光材料用組成物を得た。得られた混合スラリーは噴霧乾燥し、粉末状の緑色蓄光材料用組成物を得た。次いで、その緑色蓄光材料用組成物をアルミナ製坩堝に充填して、還元雰囲気(2%水素含有窒素)中で200℃/時の速度で1400℃まで昇温し、そのまま4時間保持後、200℃/時の速度で室温まで降温した。
こうして得られた焼成物を、乳鉢で解砕し、篩を通すことで蓄光材料(1):Sr0.979Li0.001Al1.960.01:Eu0.01,Dy0.01を粉末として得た。
【0040】
実施例1
リン酸(和光純薬工業社製、純度85wt%)5.06gを秤量し、純水11.39gに投入後、攪拌することによりリン酸水溶液を作製した。
蓄光材料(1)200gを1Lのポリ容器に投入し、攪拌機FLOS20-S(太洋社製)にて、周速1m/s条件のもと攪拌を行いつつ上記リン酸水溶液をトリガースプレー♯30(マルハチ産業社製)を用いて0.01L/minで噴霧した。噴霧終了後、周速1m/s条件のもと10分間かけて攪拌した後、磁性皿に移し、130℃の電気乾燥機にて2時間乾燥させることでリン酸被覆蓄光材料1を得た。
【0041】
実施例2
リン酸(和光純薬工業社製、純度85wt%)5.06gを秤量し、純水37.97gに投入後、攪拌することによりリン酸水溶液を作製した。
蓄光材料(1)200gを1Lのポリ容器に投入し、攪拌機FLOS20-S(太洋社製)にて、周速1m/s条件のもと攪拌を行いつつ上記リン酸水溶液をトリガースプレー♯30(マルハチ産業社製)を用いて0.01L/minで噴霧した。噴霧終了後、周速1m/s条件のもと10分間かけて攪拌したあと磁性皿に移し、130℃の電気乾燥機にて2時間乾燥させることでリン酸被覆蓄光材料2を得た。
【0042】
実施例3
リン酸(和光純薬工業社製、純度85wt%)10.12gを秤量し、純水22.78gに投入後、攪拌することによりリン酸水溶液を作製した。
蓄光材料(1)200gを1Lのポリ容器に投入し、攪拌機FLOS20-S(太洋社製)にて、周速1m/s条件のもと攪拌を行いつつ上記リン酸水溶液をトリガースプレー♯30(マルハチ産業社製)を用いて0.01L/minで噴霧した。噴霧終了後、周速1m/s条件のもと10分間かけて攪拌したあと磁性皿に移し、130℃の電気乾燥機にて2時間乾燥させることでリン酸被覆蓄光材料3を得た。
【0043】
実施例4
リン酸(和光純薬工業社製、純度85wt%)0.51gを秤量し、純水1.14gに投入後、攪拌することによりリン酸水溶液を作製した。
蓄光材料(1)200gを1Lのポリ容器に投入し、攪拌機FLOS20-S(太洋社製)にて、周速10m/s条件のもと攪拌を行いつつ上記リン酸水溶液をトリガースプレー♯30(マルハチ産業製)を用いて0.01L/minで噴霧した。噴霧終了後、周速10m/s条件のもと10分間かけて攪拌したあと磁性皿に移し、130℃の電気乾燥機にて2時間乾燥させることでリン酸被覆蓄光材料4を得た。
【0044】
実施例5
リン酸(和光純薬工業社製、純度85wt%)1.27gを秤量し、純水2.85gに投入後、攪拌することによりリン酸水溶液を作製した。
蓄光材料(1)200gを1Lのポリ容器に投入し、攪拌機FLOS20-S(太洋社製)にて、周速10m/s条件のもと攪拌を行いつつ上記リン酸水溶液をトリガースプレー♯30(マルハチ産業社製)を用いて0.01L/minで噴霧した。噴霧終了後、周速10m/s条件のもと10分間かけて攪拌したあと磁性皿に移し、130℃の電気乾燥機にて2時間乾燥させることでリン酸被覆蓄光材料5を得た。
【0045】
実施例6
リン酸(和光純薬工業社製、純度85wt%)2.53gを秤量し、純水5.70gに投入後、攪拌することによりリン酸水溶液を作製した。
蓄光材料(1)200gを1Lのポリ容器に投入し、攪拌機FLOS20-S(太洋社製)にて、周速10m/s条件のもと攪拌を行いつつ上記リン酸水溶液をトリガースプレー♯30(マルハチ産業社製)を用いて0.01L/minで噴霧した。噴霧終了後、周速10m/s条件のもと10分間かけて攪拌したあと磁性皿に移し、130℃の電気乾燥機にて2時間乾燥させることでリン酸被覆蓄光材料6を得た。
【0046】
実施例7
リン酸(和光純薬工業社製、純度85wt%)5.06gを秤量し、純水11.39gに投入後、攪拌することによりリン酸水溶液を作製した。
蓄光材料(1)200gを1Lのポリ容器に投入し、攪拌機FLOS20-S(太洋社製)にて、周速10m/s条件のもと攪拌を行いつつ上記リン酸水溶液をトリガースプレー♯30(マルハチ産業社製)を用いて0.01L/minで噴霧した。噴霧終了後、周速10m/s条件のもと10分間かけて攪拌したあと磁性皿に移し、130℃の電気乾燥機にて2時間乾燥させることでリン酸被覆蓄光材料7を得た。
【0047】
比較例1
リン酸2水素ナトリウム(和光純薬工業社製、純度98wt%)7.75gを秤量し、純水11.39gに投入後、攪拌することによりリン酸2水素ナトリウム水溶液を作製した。
蓄光材料(1)200gを1Lのポリ容器に投入し、攪拌機FLOS20-S(太洋社製)にて、周速1m/s条件のもと攪拌を行いつつ上記リン酸2水素ナトリウム水溶液をトリガースプレー♯30(マルハチ産業社製)を用いて0.01L/minで噴霧した。噴霧終了後、周速1m/s条件のもと10分間かけて攪拌したあと磁性皿に移し、130℃の電気乾燥機にて2時間乾燥させることでリン酸2水素ナトリウム被覆蓄光材料を得た。
【0048】
比較例2
リン酸2水素アンモニウム(和光純薬工業社製、純度98wt%)7.43gを秤量し、純水11.39gに投入後、攪拌することによりリン酸2水素アンモニウム水溶液を作製した。
蓄光材料(1)200gを1Lのポリ容器に投入し、攪拌機FLOS20-S(太洋社製)にて、周速1m/s条件のもと攪拌を行いつつ上記リン酸2水素アンモニウム水溶液をトリガースプレー♯30(マルハチ産業社製)を用いて0.01L/minで噴霧した。噴霧終了後、周速1m/s条件のもと10分間かけて攪拌したあと磁性皿に移し、130℃の電気乾燥機にて2時間乾燥させることでリン酸2水素アンモニウム被覆蓄光材料を得た。
【0049】
比較例3
リン酸(和光純薬工業社製、純度85wt%)5.06gを秤量し、純水11.39g投入後、攪拌することによりリン酸水溶液を作製した。
蓄光材料(1)200gを1Lのポリ容器に投入し、攪拌機FLOS20-S(太洋社製)にて、周速1m/s条件のもと攪拌を行いつつ上記リン酸水溶液をピペットを用いて0.1L/minで滴下した。滴下終了後、周速1m/s条件のもと10分間かけて攪拌したあと磁性皿に移し、130℃の電気乾燥機にて2時間乾燥させることでリン酸被覆蓄光材料8を得た。
【0050】
比較例4
リン酸(和光純薬工業社製、純度85wt%)5.06gを秤量し、純水101.2gに投入後、攪拌することによりリン酸水溶液を作製した。
蓄光材料(1)200gと上記リン酸水溶液を1Lのポリ容器に投入し、攪拌機FLOS20-S(太洋社製)にて、周速1m/s条件のもと10分間かけて攪拌したあと磁性皿に移し、130℃の電気乾燥機にて5時間乾燥させることでリン酸被覆蓄光材料9を得た。
【0051】
比較例5
リン酸(和光純薬工業社製、純度85wt%)20.24gを秤量し、純水45.56gに投入後、攪拌することによりリン酸水溶液を作製した。
蓄光材料(1)200gを1Lのポリ容器に投入し、攪拌機FLOS20-S(太洋社製)にて、周速1m/s条件のもと攪拌を行いつつ上記リン酸水溶液をトリガースプレー♯30(マルハチ産業製)を用いて0.01L/minで噴霧した。噴霧終了後、周速1m/s条件のもと10分間かけて攪拌したあと磁性皿に移し、130℃の電気乾燥機にて2時間乾燥させることでリン酸被覆蓄光材料10を得た。
【0052】
1.処理剤種の比較
[耐水性(耐湿性)試験]
実施例1及び比較例1、2の蓄光材料5gをペトリシャーレに入れ、恒温恒湿機PR-1KT(エスペック製)にて温度60℃、湿度90%RHの条件で91時間保持前後のりん光輝度を測定した。表1は耐湿試験前後のりん光輝度を示したものである。なお、りん光輝度の評価は次のように実施した。
<りん光輝度評価>
蓄光材料及び透明アクリル樹脂を重量比で1:1.4となるよう秤量し、乳鉢を用いて混合したあと、埋込プレス機を用いて蓄光材料含有アクリル樹脂円形成型体を得た。その後、りん光輝度計(トプコン製BM-100)を用いてこの成型体のりん光輝度(60分後のりん光輝度、単位:mcd/m2)を測定した。この際、輝度測定はJIS Z 9107の6.3.2に準拠し、暗所に24時間以上外光を遮断した状態で保管し、その後、常用光源(東芝製D65蛍光灯)を用いて200ルクスの照度で20分間照射し、照射を止めた後、60分後のりん光輝度を測定した。
【0053】
【表1】
【0054】
表1に示したとおり、比較例1のみ試験後にりん光輝度低下が見られた。これは、リン酸2水素ナトリウムと蓄光材料の反応性が低く、水に不溶なリン酸水素ストロンチウムの形成がうまくなされなかったことに起因すると推測される。
この結果から、リン酸塩ではなく、リン酸を用いて表面処理を行うことで耐水性に優れた蓄光材料が得られることが確認された。
【0055】
[耐熱性試験]
次に実施例1及び比較例1、2の蓄光材料をそれぞれアルミナ坩堝に15g充填し、300℃に過熱したマッフル炉で1時間保持した。保持前後のサンプルに関して、上記と同じ方法により、りん光輝度を測定した。結果を表2に示す。
【0056】
【表2】
【0057】
表2に示したとおり、実施例1、比較例1に関しては加熱後のりん光輝度の低下は見られなかった。一方、比較例2については加熱後のりん輝度の顕著な低下が見られた。実施例1、比較例1の蓄光材料は目視で加熱後に変色が確認されなかったが、比較例2の蓄光材料については、変色が確認された。比較例2に関しては、カウンターイオンであるアンモニウムイオンと蓄光材料が反応して着色し、りん光輝度低下を引き起こしたと考えられる。
以上より、リン酸塩ではなく、リン酸を用いて表面処理を行うことで加熱後の輝度変化が抑制された、耐熱性に優れた蓄光材料が得られることが確認された。
【0058】
2.処理剤添加方法の比較
[耐水性(耐湿性)試験]
実施例1及び比較例3の蓄光材料5gをペトリシャーレに入れ、恒温恒湿機PR-1KT(エスペック社製)にて温度60℃、湿度90%RHの条件で120時間保持前後のりん光輝度を上記と同様の方法により測定した。耐湿試験前後のりん光輝度を表3に示す。
【0059】
【表3】
【0060】
表3に示したとおり、実施例1、比較例3共に耐湿試験後に劣化に由来する輝度低下は見られず、耐湿性能に差はなかった。
【0061】
次に実施例1及び比較例3で得られた蓄光材料を5g秤量し、40℃の純水100mlに浸漬して1時間保持して耐水試験を行い、耐水試験前後のpH及び耐水試験後の電気伝導度の測定を以下の方法により実施した。耐湿試験前後のpHおよび電気伝導度を表4に示す。
<pH測定>
蓄光材料を5g秤量し、40℃の純水100mlに浸漬して1時間保持した後のスラリーのpHをpHメーターD-71S(堀場製作所製)で計測した。
<電気伝導度測定>
蓄光材料を5g秤量し、40℃の純水100mlに浸漬して1時間保持した後のスラリーの電気伝導度を電気伝導率計CM-31P(東亜ディーディーケー社製)で計測した。
【0062】
【表4】
【0063】
表4に示したとおり、リン酸水溶液を滴下した場合、試験開始直後からpHが7を超えており、水に触れたと同時に加水分解反応が起こっていることを示している。一方噴霧の場合は、試験前後でpHの大きな変動はなく、耐水試験後の電気伝導度は100μS/cm未満であるため、蓄光材料の加水分解は起きていないと考えられる。
表3、表4に示された結果より、リン酸水溶液を噴霧により添加することで、蓄光材料表面に均一に処理剤を被覆することが出来、耐水性に優れた蓄光材料が得られることが確認された。
【0064】
3.処理剤濃度の比較
[耐水性(耐湿性)試験]
実施例1、2及び比較例4の蓄光材料5gをペトリシャーレに入れ、恒温恒湿機PR-1KT(エスペック社製)にて温度60℃、湿度90%RHの条件で120時間保持前後のりん光輝度を上記と同様の方法により測定した。耐湿試験前後のりん光輝度を表5に示す。
【0065】
【表5】
【0066】
表5に示したとおり、実施例1、2に関しては、高いりん光輝度が得られており、また耐湿試験前後でりん光輝度に差はない。一方、比較例4については、リン光輝度が実施例1、2に劣る結果となった。これは、りん酸水溶液の濃度が低いために、蓄光材料とりん酸の表面処理反応よりも蓄光材料の加水分解反応が優勢となったためと考えられる。
【0067】
次に実施例1、2及び比較例4で得られた蓄光材料を5g秤量し、40℃の純水100mlに浸漬して1時間保持して耐水試験を行い、耐水試験前後のpH及び耐水試験後の電気伝導度の測定を上記と同様の方法により実施した。
耐湿試験前後のpHおよび電気伝導度を表6に示す。
【0068】
【表6】
【0069】
表6に示したとおり、リン酸水溶液による処理を湿式で行った比較例4では耐水試験開始直後からpHが7を超えており、また耐水試験後の電気伝導度は150μS/cmを超えている。これは、リン酸水溶液の濃度が低いため、加水分解反応が表面処理反応よりも優勢となり、表面処理中に劣化してしまっており、劣化で溶出したSr2+によって電気伝導度とpHが上昇したと考えられる。
【0070】
4.処理剤添加量及び混合機の周速の比較
[耐水性(耐湿性)試験]
蓄光材料(1)、実施例1、3~7及び比較例5の蓄光材料5gをペトリシャーレに入れ、恒温恒湿機PR-1KT(エスペック製)にて温度60℃、湿度90%RHの条件で120時間保持前後のりん光輝度を上記と同様の方法により測定した。耐湿試験前後のりん光輝度を表7に示した。
【0071】
【表7】
【0072】
表7に示したとおり、実施例1、4~7においては蓄光材料(1)と比較してリン酸処理後の輝度はほぼ同等である。一方実施例3、比較例5に関してはリン酸処理後に輝度が低下している。これは、添加したリン酸量が過剰であったため、蓄光材料と過剰に反応し、腐食してしまったことに起因すると考えられる。また、耐湿試験後のりん光輝度測定結果より、蓄光材料(1)は劣化して輝度がりん光輝度が半減したが、実施例1、3~7及び比較例5に関しては、耐湿試験前後で劣化に起因するような顕著な輝度低下は見られなかった。過剰に被覆した場合でも耐湿性は担保されると考えられる。
【0073】
次に実施例1、3~7及び比較例5で得られた蓄光材料を5g秤量し、40℃の純水100mlに浸漬して1時間保持して耐水試験を行い、耐水試験前後のpH及び耐水試験後の電気伝導度の測定を上記と同様の方法により行った。
耐水試験前後のpHと電気伝導度を表8に示す。
【0074】
【表8】
【0075】
表8に示したとおり、蓄光材料(1)は試験開始直後からpHが7を超えており、水と接触した瞬間から加水分解反応に伴うSr2+溶出が起こっている。耐水試験終了後にはpHは更に上昇しており、耐水試験後の電気伝導度は2000μS/cm以上であった。一方、実施例1、3~7及び比較例5に関しては、耐水試験開始直後のpHは7未満であり、リン酸処理時のリン酸添加量が増えるとpHが低下する傾向にある。これは、未反応のリン酸が水に溶出しているためと考えられる。また、耐水試験後においては試験開始直後と比べてpHのわずかな上昇が見られるが、いずれも7未満であり、劣化は起こっていない。耐水試験後の電気伝導度に関してはリン酸添加量が増えると上昇傾向であり、特に比較例7は顕著に高い。未反応のリン酸が水に溶解したためである。
また実施例1、7より、周速の上昇と共に電気伝導度が低下する結果となった。これは周速が高いほどリン酸と蓄光材料が均一に接触し、表面処理反応が進行するようになるためであると考えられる。
【0076】
5.整粒効果の確認
実施例1、4~7及び比較例1、2において得られた蓄光材料の粒度分布測定を以下の方法により行い、測定した粒子径分布の分布幅の目安となるD25/D75を算出した。ここで、D75は、体積基準の積算粒子量曲線において、その積算量が75%となる点の粒子径(μm)を示し、D25は、体積基準の積算粒子量曲線において、その積算量が25%となる点の粒子径(μm)を示す。リン酸添加量、周速とD25/D75の関係を表9に示す。
<粒度分布測定>
粒度分布は、エタノールを分散媒として使用し、レーザー回折・散乱式粒度分布計 (マイクロトラック・ベル(株)製MT-3300EXII)により下記条件で測定した。
計測モード:MT-3000
測定上限:1408μm
測定下限:0.021μm
粒子屈折率:1.81
粒子形状:非球形
溶媒屈折率:1.36
【0077】
【表9】
【0078】
表9に示したとおり、実施例1、4~7及び原体を比較すると、リン酸の表面処理によりD25/D75値は増大した。一方比較例1、2に関しては原体よりも低下した。リン酸は反応性が高く、蓄光材料表面に付着した微粉粒子を取り込みながら表面処理層を形成する整粒効果を発揮するが、リン酸2水素ナトリウムやリン酸2水素アンモニウムは蓄光材料との反応性が低く、多くは未反応で蓄光材料表面に付着する。これら未反応の処理剤が糊のように作用し蓄光材料同士を癒着するため、造粒した粗大粒子が発生し、D25/D75値は原体よりも低下したと考えられる。
実施例4~7より、リン酸添加量が増えるとD25/D75値は増大傾向となることが確認された。これは、リン酸量が多いほど微粉粒子との反応性が高まり、上述の整粒効果が高くなるためと考えられる。また、実施例1、4より、周速が高いほどD25/D75値は上昇傾向となることが確認された。これは、周速が高いほど羽根のせん断力が増すため、リン酸処理剤を噴霧することで発生する蓄光材料同士の凝集を抑制しやすくなるためと考えられる。