(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/12 20060101AFI20220802BHJP
【FI】
B60C11/12 A
B60C11/12 D
(21)【出願番号】P 2018160443
(22)【出願日】2018-08-29
【審査請求日】2021-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】長安 政明
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-024417(JP,A)
【文献】特開2005-193858(JP,A)
【文献】特開2009-255734(JP,A)
【文献】特開平09-039116(JP,A)
【文献】特開2002-292640(JP,A)
【文献】特開平11-048714(JP,A)
【文献】特開2011-245903(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部においてタイヤ周方向に延在する複数本の周方向溝と、これら周方向溝により区画された複数列の陸部と、少なくとも1列の陸部においてタイヤ幅方向に延びる複数本のサイプを有し、前記トレッド部がタイヤ周方向に分割された複数のセクターにより成形された空気入りタイヤにおいて、
前記サイプが、前記セクターの分割位置を含む境界領域に配置された少なくとも1本の浅底サイプと、該浅底サイプよりも前記セクターの分割位置から離れた位置に配置された複数本の通常サイプとを含み、前記浅底サイプが前記通常サイプよりも浅
く、前記浅底サイプが前記トレッド部の陸部のうちタイヤ幅方向外側に位置する陸部に最も多く配置されていることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記境界領域が前記セクターの分割位置を中心としてタイヤ周方向に片側15mm以内の領域であることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記浅底サイプの深さが、該浅底サイプが含まれる陸部における前記通常サイプの最大深さの平均に対して30%~80%の範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記セクターの分割線に対する前記サイプの傾斜角度をθとしたとき、0°≦θ≦30°を満たす浅底サイプが0°≦θ≦30°を満たさない浅底サイプよりも多いことを特徴とする請求項1~
3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関し、更に詳しくは、タイヤの外観を変化させずに、ウエット路面及び雪上路面での制動性能を改善し、外観不良の発生を低減することを可能にした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
トレッド部に複数本のサイプを有する空気入りタイヤを加硫成形する際、タイヤ金型とトレッドゴムとが貼り付き、加硫済みの空気入りタイヤにおいて外観不良が発生するという問題がある。こうしたタイヤ金型とトレッドゴムの貼り付きは、トレッド部に多数のサイプが配置される冬用タイヤにおいて顕著である。これに対して、セクターの分割位置を含む境界領域においてサイプの本数を減らすことやサイプのタイヤ幅方向長さを短くすることが提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
しかしながら、サイプの本数を減らすことやタイヤ幅方向長さを短くすることは、タイヤの外観を変化させてしまうだけでなく、サイプに基づくウエット路面及び雪上路面での制動性能を十分に得ることができないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3494511号公報
【文献】特許第4411975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、タイヤの外観を変化させずに、ウエット路面及び雪上路面での制動性能を改善し、外観不良の発生を低減することを可能にした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための空気入りタイヤは、トレッド部においてタイヤ周方向に延在する複数本の周方向溝と、これら周方向溝により区画された複数列の陸部と、少なくとも1列の陸部においてタイヤ幅方向に延びる複数本のサイプを有し、前記トレッド部がタイヤ周方向に分割された複数のセクターにより成形された空気入りタイヤにおいて、前記サイプが、前記セクターの分割位置を含む境界領域に配置された少なくとも1本の浅底サイプと、該浅底サイプよりも前記セクターの分割位置から離れた位置に配置された複数本の通常サイプとを含み、前記浅底サイプが前記通常サイプよりも浅く、前記浅底サイプが前記トレッド部の陸部のうちタイヤ幅方向外側に位置する陸部に最も多く配置されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、トレッド部においてタイヤ周方向に延在する複数本の周方向溝と、これら周方向溝により区画された複数列の陸部と、少なくとも1列の陸部においてタイヤ幅方向に延びる複数本のサイプを有し、トレッド部がタイヤ周方向に分割された複数のセクターにより成形された空気入りタイヤにおいて、サイプが、セクターの分割位置を含む境界領域に配置された少なくとも1本の浅底サイプと、浅底サイプよりもセクターの分割位置から離れた位置に配置された複数本の通常サイプとを含み、浅底サイプは通常サイプよりも浅くなっているので、サイプに基づいてウエット路面及び雪上路面での制動性能を改善しながら、境界領域では浅底サイプに基づいてタイヤ金型とトレッドゴムとの貼り付きを抑制し、外観不良の発生を低減することができる。また、境界領域において浅底サイプを設けてサイプの深さを変化させることで、タイヤの外観を変化させずに済む。
【0008】
本発明では、境界領域はセクターの分割位置を中心としてタイヤ周方向に片側15mm以内の領域であることが好ましい。これにより、ウエット路面及び雪上路面での制動性能を効果的に改善しながら、外観不良の発生を効果的に抑制することができる。
【0009】
本発明では、浅底サイプの深さは、その浅底サイプが含まれる陸部における通常サイプの最大深さの平均に対して30%~80%の範囲であることが好ましい。これにより、ウエット路面及び雪上路面での制動性能を効果的に改善しながら、タイヤ金型とトレッドゴムとの貼り付きを効果的に抑制することができる。
【0010】
本発明では、浅底サイプはトレッド部の陸部のうちタイヤ幅方向外側に位置する陸部に最も多く配置されていることが好ましい。これにより、サイプの型抜け性を改善することができ、タイヤ金型とトレッドゴムとの貼り付きを効果的に抑制することができる。
【0011】
本発明では、セクターの分割線に対するサイプの傾斜角度をθとしたとき、0°≦θ≦30°を満たす浅底サイプは0°≦θ≦30°を満たさない浅底サイプよりも多いことが好ましい。これにより、タイヤ金型とトレッドゴムとの貼り付きを効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態における空気入りタイヤを示す子午線断面図である。
【
図2】本発明の実施形態における空気入りタイヤのトレッド部を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
図1及び
図2は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示すものである。
図2において、Tcはタイヤ周方向であり、Twはタイヤ幅方向である。
【0014】
図1に示すように、本発明の実施形態からなる空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、該トレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2,2と、これらサイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3,3とを備えている。
【0015】
一対のビード部3,3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りにタイヤ内側から外側へ折り返されている。ビードコア5の外周上には断面三角形状のゴム組成物からなるビードフィラー6が配置されている。
【0016】
一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層のベルト層7が埋設されている。これらベルト層7はタイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。ベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°~40°の範囲に設定されている。ベルト層7の補強コードとしては、スチールコードが好ましく使用される。ベルト層7の外周側には、高速耐久性の向上を目的として、補強コードをタイヤ周方向に対して例えば5°以下の角度で配列してなる少なくとも1層のベルトカバー層8が配置されている。ベルトカバー層8の補強コードとしては、ナイロンやアラミド等の有機繊維コードが好ましく使用される。
【0017】
なお、上述したタイヤ内部構造は空気入りタイヤにおける代表的な例を示すものであるが、これに限定されるものではない。
【0018】
上記空気入りタイヤはセクショナル型のタイヤ金型によって加硫成形される。このタイヤ金型はトレッド部1を成形するための環状の側型を有し、この側型はタイヤ周方向に沿って複数に分割されたセクターから構成される。セクターとして、通常、タイヤ周方向に7~11分割されたものが使用される。
図2に示すように、トレッド部1には、セクターの分割位置Pが存在し、そのセクターの分割位置Pを含む境界領域Sがある。この境界領域Sは、セクターの分割位置Pを中心としてタイヤ周方向の両側に所定の長さを有する領域である。
【0019】
トレッド部1には、タイヤ周方向に延びる4本の周方向溝9が形成されている。周方向溝9は、タイヤ中心線CLの両側に位置する一対の内側周方向溝9Aと、タイヤ幅方向最外側に位置する一対の外側周方向溝9Bとを含んでいる。これら4本の周方向溝9により、トレッド部1には陸部10が区画されている。陸部10は、タイヤ中心線CL上に位置するセンター陸部10Aと、センター陸部10Aのタイヤ幅方向外側に位置する一対の中間陸部10Bと、各中間陸部10Bのタイヤ幅方向外側に位置する一対のショルダー陸部10Cとを含んでいる。これら陸部10A~10Cの少なくとも1列の陸部10には、タイヤ幅方向に延びる複数本のサイプ20が形成されている。サイプ20は、トレッド部1の踏面上で直線状又はジグザグ状に形成することができる。なお、サイプ20とは溝幅が1.5mm以下の細溝である。
【0020】
より具体的には、センター陸部10Aに、タイヤ幅方向に対して同一方向に傾斜する複数本のサイプ20Aと複数本の細溝31がタイヤ周方向に間隔をおいて配置されている。サイプ20Aは、一方の端部が内側周方向溝9Aに対して連通し、他方の端部が細溝31に連通している。一方、細溝31は、サイプ20Aよりも溝幅が広い溝である。この細溝31は、一方の端部が内側周方向溝9Aに対して連通し、他方の端部がサイプ20Aに連通している。このようなサイプ20Aと細溝31がタイヤ周方向に交互に配置され、センター陸部10Aの全体として細溝31がタイヤ周方向に千鳥状に配置されている。
【0021】
中間陸部10Bには、タイヤ幅方向に対して同一方向に傾斜する複数本のラグ溝32がタイヤ周方向に間隔をおいて配置されている。これらラグ溝32は、一方の端部が外側周方向溝9Bに開口する一方で、他方の端部が中間陸部10B内で終端している。また、ラグ溝32は、一方の端部と他方の端部の中途位置において鋭角状に形成された屈曲部32Aを有している。また、ラグ溝32に対して交差する方向に延在する複数本のサイプ20Bがタイヤ周方向に間隔をおいて配置されている。これらサイプ20Bは、ラグ溝32と交差することで複数の部位に分割されているが、それら分割された部位は同一直線上に配置されている。サイプ20Bは、少なくとも一方の端部が外側周方向溝9Bに対して連通している。
【0022】
ショルダー陸部10Cには、タイヤ幅方向に対して同一方向に傾斜する複数本のラグ溝33がタイヤ周方向に間隔をおいて配置されている。これらラグ溝33は外側周方向溝9Bに対して非連通である。ラグ溝33に連通し、タイヤ周方向に延在する複数本の細溝34が形成されている。また、タイヤ幅方向に対して同一方向に傾斜する複数本のサイプ20Cがタイヤ周方向に間隔をおいて配置されている。これらサイプ20Cは外側周方向溝9Bに対して非連通である。これらサイプ20Cは、細溝34と交差することで複数の部位に分割されているが、それら分割された部位は同一直線上に配置されている。
【0023】
上述したサイプ20(サイプ20A~20C)は、少なくとも1本の浅底サイプ21と複数本の通常サイプ22とを含んでいる。言い換えれば、浅底サイプ21を除くサイプ20は全て通常サイプ22である。浅底サイプ21は、セクターの分割位置Pのタイヤ周方向の両側の各々でセクターの分割位置Pの最も近くに配置されており、通常サイプ22は、浅底サイプ21よりもセクターの分割位置Pから離れた位置に配置されている。
【0024】
浅底サイプ21には底上げが施されている。そのため、
図3に示すように浅底サイプ21の深さdは通常サイプ22の深さDよりも浅い。浅底サイプ21が通常サイプ22よりも浅いことは、その浅底サイプ21が含まれる陸部10において通常サイプ22の最大深さの平均に対して浅いことを意味する。通常サイプ22の最大深さの平均は、陸部10のタイヤ全周に含まれる通常サイプ22の最大深さを平均したものである。なお、
図3に示すようにサイプ20が複数の段差部を有している場合、サイプ20の深さはトレッド部1の踏面から最下段までの深さ(最大深さ)を測定する。
【0025】
上述した空気入りタイヤでは、トレッド部1においてタイヤ周方向に延在する複数本の周方向溝9と、これら周方向溝9により区画された複数列の陸部10と、少なくとも1列の陸部10においてタイヤ幅方向に延びる複数本のサイプ20を有し、トレッド部1がタイヤ周方向に分割された複数のセクターにより成形された空気入りタイヤにおいて、サイプ20が、セクターの分割位置Pを含む境界領域Sに配置された少なくとも1本の浅底サイプ21と、浅底サイプ21よりもセクターの分割位置Pから離れた位置に配置された複数本の通常サイプ22とを含み、浅底サイプ21は通常サイプ22よりも浅くなっているので、サイプ20に基づいてウエット路面及び雪上路面での制動性能を改善しながら、境界領域Sでは浅底サイプ21に基づいてタイヤ金型とトレッドゴムとの貼り付きを抑制し、外観不良の発生を低減することができる。また、境界領域Sにおいて浅底サイプ21を設けてサイプ20の深さを変化させることで、タイヤの外観を変化させずに済む。更には、上記空気入りタイヤのユニフォーミティの改善にも寄与する。
【0026】
上記空気入りタイヤにおいて、境界領域Sはセクターの分割位置Pを中心としてタイヤ周方向に片側15mm以内の領域であることが好ましく、片側10mm以内の領域であることがより好ましい。このように浅底サイプ21が配置される境界領域Sを適度に設定することで、ウエット路面及び雪上路面での制動性能を効果的に改善しながら、外観不良の発生を効果的に抑制することができる。
【0027】
また、浅底サイプ21の深さは、その浅底サイプ21が含まれる陸部10における通常サイプ22の最大深さの平均に対して30%~80%の範囲であることが好ましく、40%~60%の範囲であることがより好ましい。このように浅底サイプ21の深さを通常サイプ22の最大深さの平均に対して適度に設定することで、ウエット路面及び雪上路面での制動性能を効果的に改善しながら、タイヤ金型とトレッドゴムとの貼り付きを効果的に抑制することができる。ここで、通常サイプ22の最大深さの平均に対する浅底サイプ21の深さの比率が30%未満であると外観不良の発生率が増加し、逆に80%を超えるとウエット路面及び雪上路面での制動性能の改善効果を十分に得ることができない。
【0028】
特に、浅底サイプ21はトレッド部1の陸部10のうちタイヤ幅方向外側に位置する陸部に最も多く配置されていることが好ましい。
図2に示す陸部10A~10Cの場合、タイヤ幅方向外側に位置する陸部10は、タイヤ幅方向最外側に位置するショルダー陸部10Cを意味する。タイヤ金型とトレッドゴムとの貼り付きはショルダー陸部において生じ易いため、タイヤ幅方向外側に位置する陸部10に対して浅底サイプ21を最も多く配置することで、サイプ20の型抜け性を改善することができ、タイヤ金型とトレッドゴムとの貼り付きを効果的に抑制することができる。
【0029】
セクターの分割線に対するサイプ20の傾斜角度をθとする(
図2参照)。サイプ20の傾斜角度θは、サイプ20における長手方向両端の溝幅中心位置を結ぶ直線とセクターの分割線とがなす角度である。このとき、0°≦θ≦30°を満たす浅底サイプ21は、0°≦θ≦30°を満たさない浅底サイプ21よりも多いことが好ましい。特に、0°≦θ≦15°を満たす浅底サイプ21は、0°≦θ≦15°を満たさない浅底サイプ21よりも多いことがより好ましい。セクターの分割線に対して略平行に配置されたサイプほど、タイヤ金型とトレッドゴムとの貼り付きが生じ易くなるため、上記傾斜角度θの関係を満たす浅底サイプ21を相対的に多くすることで、タイヤ金型とトレッドゴムとの貼り付きを効果的に抑制することができる。なお、
図2においてセクターの分割線はタイヤ幅方向と平行である。
【0030】
図2の実施形態では、セクターの分割位置Pのタイヤ周方向の両側において浅底サイプ21を設けた例を示したが、セクターの分割位置Pのタイヤ周方向片側のみに設けても良い。また、浅底サイプ21をセクターの分割位置Pから離間した位置に配置した例を示したが、浅底サイプ21をセクターの分割位置P上に配置しても良い。本発明では、浅底サイプ21をセクターの分割位置Pを跨ぐように配置した場合であっても、境界領域Sでは浅底サイプ21に基づいてタイヤ金型とトレッドゴムとの貼り付きを抑制することができる。
【0031】
本発明では、タイヤ周上における少なくとも1つの分割位置Pに対して浅底サイプ21が配置されていれば良く、タイヤ周上における全てのセクターの分割位置Pに対して浅底サイプ21が配置されていなくとも良い。また、トレッド部1の少なくとも1列の陸部10に浅底サイプ21が配置されていれば良く、トレッド部1の全ての陸部10に浅底サイプ21が配置されていなくとも良い。
【0032】
本発明に係るサイプ構造を適用するタイヤは特に限定されるものではないが、多数のサイプを備える冬用タイヤに適用することで、ウエット路面及び雪上路面での制動性能に対する改善効果に加え、タイヤ金型とトレッドゴムとの貼り付きに対する抑制効果が顕著である。
【実施例】
【0033】
タイヤサイズ205/55R16で、トレッド部においてタイヤ周方向に延在する複数本の周方向溝と、これら周方向溝により区画された複数列の陸部と、少なくとも1列の陸部においてタイヤ幅方向に延びる複数本のサイプを有し、トレッド部がタイヤ周方向に分割された複数のセクターにより成形された空気入りタイヤにおいて、境界領域におけるサイプの有無、浅底サイプの有無、境界領域の範囲、浅底サイプの底上げ率、各陸部における浅底サイプの本数の比較、センター陸部におけるサイプの傾斜角度θ、中間陸部におけるサイプの傾斜角度θ、ショルダー陸部におけるサイプの傾斜角度θを表1のように設定して従来例、比較例及び実施例1~7のタイヤを製作した。本明細書において、実施例1~4,7は参考例である。
【0034】
なお、従来例のタイヤは、境界領域においてサイプの本数を減らし、境界領域にはサイプが配置されていない構造を有する。比較例のタイヤは、境界領域に浅底サイプが配置されておらず、通常サイプのみが配置された構造を有する。
【0035】
表1において、境界領域の範囲は、セクターの分割位置を中心としてタイヤ周方向の片側に対する距離を示す。浅底サイプの底上げ率は、浅底サイプが含まれる陸部における通常サイプの最大深さの平均に対する浅底サイプの深さの比率である。各陸部における浅底サイプの本数の比較は、「同等」である場合には各陸部に配置された浅底サイプの本数が同じことを意味し、「ショルダー陸部」又は「中間陸部」である場合には当該陸部が浅底サイプの本数が最も多い陸部であることを意味する。
【0036】
これら試験タイヤについて、下記試験方法により、ウエット路面での制動性能、雪上路面での制動性能及び外観不良発生率を評価し、その結果を表1に併せて示した。
【0037】
ウエット路面での制動性能:
各試験タイヤをリムサイズ16×7Jのホイールに組み付けて、空気圧を230kPaとして排気量2000ccの試験車両に装着し、ウエット路面において速度40km/hの走行状態から制動し、完全停止までの制動距離を測定した。評価結果は、測定値の逆数を用い、従来例を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほどウエット路面での制動性能が優れていることを意味する。
【0038】
雪上路面での制動性能:
各試験タイヤをリムサイズ16×7Jのホイールに組み付けて、空気圧を230kPaとして排気量2000ccの試験車両に装着し、雪上路面において速度40km/hの走行状態から制動し、完全停止までの制動距離を測定した。評価結果は、測定値の逆数を用い、従来例を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど雪上路面での制動性能が優れていることを意味する。
【0039】
外観不良発生率:
各試験タイヤを1000本ずつ作製し、タイヤ周上の各境界領域における陸部の欠けや割れの発生を目視にて確認し、欠けや割れが生じた境界領域の数をカウントした。評価結果は、各試験タイヤについて欠けや割れが生じた境界領域の数の比率を示した。この比率が小さいほど外観不良の発生に対する抑制効果が優れていることを意味する。
【0040】
【0041】
この表1から判るように、実施例1~7のタイヤは、従来例に比して、ウエット路面での制動性能、雪上路面での制動性能及び外観不良発生率がバランス良く改善されていた。
【0042】
一方、比較例においては、境界領域に浅底サイプを設けずに通常サイプのみが存在する構造であるため、外観不良発生率の改善効果を十分に得ることができず、ウエット路面での制動性能、雪上路面での制動性能及び外観不良発生率をバランス良く改善することができなかった。
【符号の説明】
【0043】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
9 周方向溝
10 陸部
20 サイプ
21 浅底サイプ
22 通常サイプ
P セクターの分割位置
S 境界領域