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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】衛生洗浄装置
(51)【国際特許分類】
   E03D 9/08 20060101AFI20220802BHJP
【FI】
E03D9/08 H
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018163764
(22)【出願日】2018-08-31
(65)【公開番号】P2020033848
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池ヶ谷 健治
(72)【発明者】
【氏名】村岡 慶彦
【審査官】広瀬 杏奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-046969(JP,A)
【文献】特開2015-108458(JP,A)
【文献】特開2011-214233(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03D 9/00-9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を吐出するノズルと、
前記ノズルに接続され、前記ノズルに水を供給する給水路と、
室温を測定する第1温度センサと、
前記給水路を流れる水の温度を測定する第2温度センサと、
前記給水路における前記第2温度センサよりも下流側に配置され、前記給水路を流れる水の温度を測定する第3温度センサと、
第1基準値と、前記第1温度センサの出力値が前記第1基準値であるときの前記第3温度センサの出力値である第2基準値とを関連付けた基準値情報を記憶する記憶部と、
前記第1温度センサの出力値と前記第1基準値との差が第1閾値以下となった場合に、前記第3温度センサの出力値と前記第2基準値とを比較し、前記第3温度センサの出力値と前記第2基準値との差が第2閾値を超えた場合に、前記第3温度センサの異常を判定する制御部と
を備える、衛生洗浄装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記衛生洗浄装置を施工した後の通電時において、前記第1温度センサおよび前記第3温度センサの出力値を取得し、取得した前記第1温度センサおよび前記第3温度センサの出力値をそれぞれ前記第1基準値および前記第2基準値とする前記基準値情報を生成して前記記憶部に記憶させる、請求項1に記載の衛生洗浄装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記衛生洗浄装置を施工した後、かつ、前記給水路への通水が開始される前に、前記第1温度センサおよび前記第3温度センサの出力値を取得し、取得した前記第1温度センサおよび前記第3温度センサの出力値をそれぞれ前記第1基準値および前記第2基準値とする前記基準値情報を生成して前記記憶部に記憶させる、請求項1に記載の衛生洗浄装置。
【請求項4】
前記制御部は、
電源投入時に実行されるイニシャル動作が前記衛生洗浄装置を施工した後において最初に実行された場合に、前記基準値情報を生成する、請求項3に記載の衛生洗浄装置。
【請求項5】
前記制御部は、
前記第1温度センサの出力値と前記第1基準値との差が第1閾値以下となり、かつ、前記第3温度センサが熱平衡状態であると判定した場合に、前記第3温度センサの出力値と前記第2基準値とを比較する、請求項1~4のいずれか一つに記載の衛生洗浄装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、衛生洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人体の局部に温水を吐出する衛生洗浄装置が知られている。この種の衛生洗浄装置は、水を加熱するヒータと、ヒータによって加熱された水の温度を測定するための温度センサとを備える。
【0003】
たとえば、特許文献1には、ヒータよりも上流側に設けられた入水サーミスタと、熱交換器よりも下流側に設けられた温水サーミスタと、温水サーミスタの下流側に設けられたリミッタサーミスタとを備えた衛生洗浄装置が開示されている。入水サーミスタおよび温水サーミスタは、熱交換器のフィードバック制御に用いられ、リミッタサーミスタは、熱交換器から流出した水の温度が人体にとって安全な温度であることを確認するために用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-227773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来技術には、たとえば衛生洗浄装置の長期使用(たとえば、5~10年)により、温度センサが経年劣化するおそれがある。温度センサが経年劣化すると、人体に吐出する水の温度を適切に制御することが困難となるおそれがある。
【0006】
本開示は、温度センサの異常を検知することができる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る衛生洗浄装置は、水を吐出するノズルと、前記ノズルに接続され、前記ノズルに水を供給する給水路と、室温を測定する第1温度センサと、前記給水路を流れる水の温度を測定する第2温度センサと、前記給水路における前記第2温度センサよりも下流側に配置され、前記給水路を流れる水の温度を測定する第3温度センサと、第1基準値と、前記第1温度センサの出力値が前記第1基準値であるときの前記第3温度センサの出力値である第2基準値とを関連付けた基準値情報を記憶する記憶部と、前記第1温度センサの出力値と前記第1基準値との差が第1閾値以下となった場合に、前記第3温度センサの出力値と前記第2基準値とを比較し、前記第3温度センサの出力値と前記第2基準値との差が第2閾値を超えた場合に、前記第3温度センサの異常を判定する制御部とを備える。
【0008】
基準値情報における温度環境と同等の温度環境となったときに、第3温度センサの出力値を基準値情報の第2基準値と比較するようにすることで、温度環境に左右されることなく、第3温度センサの異常を精度よく判定することができる。
【0009】
また、前記制御部は、前記衛生洗浄装置を施工した後の通電時において、前記第1温度センサおよび前記第3温度センサの出力値を取得し、取得した前記第1温度センサおよび前記第3温度センサの出力値をそれぞれ前記第1基準値および前記第2基準値とする前記基準値情報を生成して前記記憶部に記憶させる。
【0010】
このように、実際に使用される環境下において基準値情報を生成することで、温度センサの異常判定処理を精度よく行うことができる。
【0011】
また、前記制御部は、前記衛生洗浄装置を施工した後、かつ、前記給水路への通水が開始される前に、前記第1温度センサおよび前記第3温度センサの出力値を取得し、取得した前記第1温度センサおよび前記第3温度センサの出力値をそれぞれ前記第1基準値および前記第2基準値とする前記基準値情報を生成して前記記憶部に記憶させる。
【0012】
給水路への通水が行われた後の状態では、通水後の給水路が室温に馴染むまでに時間がかかることから、通水後の給水路が室温に馴染む前、すなわち、第1温度センサと第3温度センサとが異なる温度を測定している状態で、基準値情報が生成されるおそれがある。したがって、給水路への通水が開始される前に基準値情報を生成するようにすることで、第1基準値および第2基準値として適切な第1温度センサおよび第3温度センサの出力値を取得することができる。
【0013】
また、前記制御部は、電源投入時に実行されるイニシャル動作が前記衛生洗浄装置を施工した後において最初に実行された場合に、前記基準値情報を生成する。
【0014】
施工後最初のイニシャル動作が行われた段階では、未だ給水路への通水は行われておらず、また、仮に、出荷前において通水を伴う検査を行い多少の残水があったとしても、検査から施工までには十分に時間が経っていると考えられ、施工時において検査の影響はないと考えられる。したがって、施工後最初のイニシャル動作が行われた段階で基準値情報を生成するようにすることで、第1基準値および第2基準値として適切な第1温度センサおよび第3温度センサの出力値を取得することができる。
【0015】
また、前記制御部は、前記第1温度センサの出力値と前記第1基準値との差が第1閾値以下となり、かつ、前記第3温度センサが熱平衡状態であると判定した場合に、前記第3温度センサの出力値と前記第2基準値とを比較する。
【0016】
第3温度センサが熱平衡状態にあるときに第3温度センサの出力値を第2基準値と比較することとで、第3温度センサの異常を精度良く判定することができる。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、温度センサの異常を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、第1実施形態に係る衛生洗浄装置を備えたトイレ装置を模式的に示す斜視図である。
図2図2は、第1実施形態に係る衛生洗浄装置の構成の一例を示す図である。
図3図3は、温度ドリフトの説明図である。
図4図4は、実施形態に係る基準値情報の一例を示す図である。
図5図5は、実施形態に係る基準値情報生成処理の手順の一例を示すフローチャートである。
図6図6は、実施形態に係る異常判定処理の手順の一例を示すフローチャートである。
図7図7は、変形例に係る基準値情報生成処理の手順の一例を示すフローチャートである。
図8図8は、変形例に係る基準値情報の一例を示す図である。
図9図9は、変形例に係る衛生洗浄装置の構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本開示に係る衛生洗浄装置を実施するための形態(以下、「実施形態」と記載する)について図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態により本開示に係る衛生洗浄装置が限定されるものではない。また、各実施形態は、処理内容を矛盾させない範囲で適宜組み合わせることが可能である。また、以下の各実施形態において同一の部位には同一の符号を付し、重複する説明は省略される。
【0020】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る衛生洗浄装置を備えたトイレ装置を模式的に示す斜視図である。なお、図1には、説明を分かり易くするために、互いに直交するX軸方向、Y軸方向およびZ軸方向を規定し、Z軸正方向を鉛直上向き方向とする3次元の直交座標系を図示している。また、本明細書において、「水」なる表現は、必ずしも冷水の意味ではなく、温水を含む意味で使用される場合がある。
【0021】
図1に示すように、トイレ装置1は、洋式大便器(以下「便器」と記載する)10と、衛生洗浄装置20とを備え、トイレ室TR内に設置される。便器10は、貯水タンク11に貯留された水で洗浄を行うロータンク式であるが、これに限定されるものではなく、たとえばフラッシュバルブ式であってもよい。また、図1に示す例では、床置き式の便器10を示したが、これに限られず、壁掛け式などであってもよい。
【0022】
衛生洗浄装置20は、便器10の上部に設けられる。衛生洗浄装置20は、本体部21と、便蓋22と、図示しない便座とを備える。便蓋22および便座はともに、開閉可能なように本体部21に取り付けられる。本体部21は、ケース23を備える。ケース23は、ノズルなどを収納する。
【0023】
図2は、第1実施形態に係る衛生洗浄装置の構成の一例を示す図である。衛生洗浄装置20は、給水路30と、バルブユニット40と、熱交換器50と、電解槽ユニット60と、バキュームブレーカ70と、切替弁80と、ノズル90とを備える。また、衛生洗浄装置20は、入水サーミスタ101と、温水サーミスタ102と、リミッタサーミスタ103と、室温サーミスタ104とを備える。また、衛生洗浄装置20は、制御部200と、記憶部250とを備える。
【0024】
これら給水路30、バルブユニット40、熱交換器50、電解槽ユニット60、バキュームブレーカ70、切替弁80、ノズル90、入水サーミスタ101、温水サーミスタ102、リミッタサーミスタ103、室温サーミスタ104、制御部200および記憶部250は、衛生洗浄装置20のケース23内に収容される。
【0025】
給水路30は、給水源の一例である水道管Aとノズル90とを接続し、水道管Aからの水をノズル90へ供給する。
【0026】
給水路30には、上流側(すなわち水道管A側)から順に、バルブユニット40、入水サーミスタ101、熱交換器50、温水サーミスタ102、電解槽ユニット60、バキュームブレーカ70、リミッタサーミスタ103および切替弁80が設けられる。
【0027】
バルブユニット40は、制御部200からの制御信号に応じて給水路30を開閉する。熱交換器50は、たとえば、瞬間式熱交換器である。熱交換器50は、発熱体を備え、給水路30を流れる水をその流速を保ったまま、設定温度に加熱する。
【0028】
電解槽ユニット60は、その内部に陽極板および陰極板を有し、制御部200からの制御信号に応じて駆動して内部を流れる水を電気分解することによって次亜塩素酸を含む水を機能水として生成する。
【0029】
バキュームブレーカ70は、給水路30に負圧が生じた場合に、逆流する水を図示しない大気開放経路へ流すことで、ノズル90から熱交換器50等への水の逆流を防止する。
【0030】
切替弁80は、制御部200からの制御信号に応じて駆動し、給水路30を流れる水の流出先を切り替える。たとえば、給水路30を流れる水は、切替弁80によって、その流出先をノズル90が備える複数の吐出口のいずれかに切り替えられる。また、給水路30を流れる機能水は、切替弁80によって、その流出先をノズル洗浄用流路85に切り替えられる。ノズル洗浄用流路85を流れる機能水は、ノズル90の表面に供給される。これにより、ノズル90が洗浄される。
【0031】
ノズル90は、給水路30を流れる水を便座に着座した使用者の局部に向けて吐出する。ノズル90は、ケース23(図1参照)に対して進退可能に構成される。具体的には、ノズル90には、図示しないモータなどの駆動源が接続されており、ノズル90は、かかる駆動源により、便器10のボウル内へ進出した位置と、ケース23内に後退して格納される位置との間で進退させられる。ノズル90は、進出した位置で水を使用者の局部へ吐出させて局部を洗浄する。
【0032】
入水サーミスタ101、温水サーミスタ102およびリミッタサーミスタ103は、給水路30を流れる水の温度を測定する温度センサである。
【0033】
入水サーミスタ101は、バルブユニット40よりも下流側かつ熱交換器50よりも上流側に配置されており、熱交換器50に流入する前の水、言い換えれば、熱交換器50によって加熱される前の水の温度を測定する。温水サーミスタ102は、熱交換器50よりも下流側かつ電解槽ユニット60よりも上流側に配置されており、熱交換器50から流出した水、言い換えれば、熱交換器50によって加熱された水の温度を測定する。
【0034】
リミッタサーミスタ103は、温水サーミスタ102のさらに下流側に配置される。具体的には、リミッタサーミスタ103は、バキュームブレーカ70よりも下流側かつ切替弁80よりも上流側に配置され、ノズル90から吐出される水の温度が人体にとって安全な温度であることを確認するために用いられる。
【0035】
一方、室温サーミスタ104は、トイレ室TRの室温を測定する温度センサであり、給水路30の外部において、たとえばケース23に取り付けられる。
【0036】
入水サーミスタ101、温水サーミスタ102、リミッタサーミスタ103および室温サーミスタ104の出力値は、制御部200に入力される。入水サーミスタ101、温水サーミスタ102、リミッタサーミスタ103および室温サーミスタ104の出力値は、たとえば、0~255のデジタル値(以下、「AD値」と記載する)で表現される。制御部200は、入水サーミスタ101等から入力されるAD値を記憶部250に予め記憶されている変換テーブルを用いて温度に変換する。
【0037】
制御部200は、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)等によって、記憶部250に記憶されているプログラムがRAMを作業領域として実行されることにより実現される。また、制御部200は、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等の集積回路により実現され得る。かかる制御部200は、入力される各種の信号に基づいてバルブユニット40、熱交換器50、電解槽ユニット60、切替弁80等の制御を行う。記憶部250は、たとえばRAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ(Flash Memory)等の半導体メモリ素子等によって実現される。
【0038】
制御部200は、入水サーミスタ101および温水サーミスタ102の出力値に基づき、熱交換器50から流出する水の温度が設定温度に対して所定範囲内となるように熱交換器50をフィードバック制御する。具体的には、制御部200は、熱交換器50を制御することにより、水を加熱する加熱量を増減させながら水の温度を設定温度に到達させる温度制御処理を行う。
【0039】
また、制御部200は、リミッタサーミスタ103の出力値が閾値以上である場合に、熱交換器50から流出した水の温度が人体にとって安全な温度を超えていると判定する。この場合、制御部200は、上述した温度制御処理を中止することで、水を加熱しないようにする。また、これに限らず、制御部200は、リミッタサーミスタ103の出力値が閾値以上である場合に、バルブユニット40を制御して水の吐出を強制停止してもよい。
【0040】
また、制御部200は、室温サーミスタ104の出力値に基づき、たとえば、便座温度の制御を行っている。
【0041】
入水サーミスタ101、温水サーミスタ102、リミッタサーミスタ103および室温サーミスタ104は、たとえば衛生洗浄装置20の長期使用によって経年劣化することで、温度ドリフトと呼ばれる現象が生じることがある。この点について、図3を参照して説明する。図3は、温度ドリフトの説明図である。
【0042】
上述したように、制御部200は、入水サーミスタ101等の温度センサから入力されるAD値を予め記憶された変換テーブルを用いて温度に変換することで、給水路30の各地点における水の温度を認識している。たとえば、図3に例示するように、ある時間「t0」において温度センサ(たとえばリミッタサーミスタ103)から入力されたAD値が「80」であった場合、制御部200は、記憶部250に記憶された変換テーブルに従って、リミッタサーミスタ103が配置される場所における水の温度が「45℃」であると認識する。
【0043】
ところが、リミッタサーミスタ103に温度ドリフトが発生すると、リミッタサーミスタ103は、実際の水温がたとえば50℃であるにも関わらず、AD値「80」を制御部200に出力するようになる。この場合、制御部200は、実際の水温が50℃であるにも関わらず、リミッタサーミスタ103が配置される場所における水の温度を「45℃」であると誤認識する。この結果、設定温度である45℃よりも高い50℃の水がノズル90から人体に吐出されることとなる。なお、ここでは、リミッタサーミスタ103のAD値が高温側にシフトする場合について説明したが、リミッタサーミスタ103のAD値は、温度ドリフトによって低温側にシフトする場合もある。
【0044】
このように、温度ドリフトとは、温度センサから出力されるAD値に予め対応付けられた温度と実際の温度とが乖離する現象、具体的には、全体的に上昇方向または下降方向へシフトする現象であり、温度ドリフトが生じることで、人体に吐出する水の温度を適切に制御することが困難となるおそれがある。
【0045】
そこで、実施形態に係る衛生洗浄装置20では、室温サーミスタ104のAD値がある値(第1基準値)であるときのリミッタサーミスタ103のAD値(第2基準値)を予め記憶しておき、この情報に基づいて、リミッタサーミスタ103の異常判定を行うこととした。
【0046】
図4は、実施形態に係る基準値情報の一例を示す図である。図4に示すように、基準値情報は、第1基準値と第2基準値とを関連付けた情報である。たとえば、図4に示す例では、第1基準値「80」に対して第2基準値「80」が関連付けられている。
【0047】
第1基準値および第2基準値は、衛生洗浄装置20の便器10への設置施工直後、具体的には、設置施工直後の通電時における室温サーミスタ104およびリミッタサーミスタ103のAD値である。すなわち、制御部200は、衛生洗浄装置20の設置施工直後に、室温サーミスタ104およびリミッタサーミスタ103のAD値を取得して基準値情報として記憶部250に記憶する。
【0048】
この点について図5を参照して説明する。図5は、実施形態に係る基準値情報生成処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【0049】
図5に示すように、制御部200は、イニシャル動作が行われたか否かを判定する(ステップS101)。イニシャル動作とは、衛生洗浄装置20の電源プラグが電源に接続された際に実行される動作である。たとえば、制御部200は、衛生洗浄装置20が電源に接続されると、イニシャル動作として、図示しないモータなどの駆動源を制御することにより、ノズル90をケース23(図1参照)に対して進退させる。
【0050】
ステップS101においてイニシャル動作が行われたと判定した場合(ステップS101,Yes)、制御部200は、今回行われたイニシャル動作が施工後最初のイニシャル動作であるか否かを判定する(ステップS102)。たとえば、制御部200は、イニシャル動作を行った回数をカウントする。そして、カウント数が「1」である場合に、制御部200は、施工後最初のイニシャル動作が行われたと判定する。なお、これに限らず、衛生洗浄装置20は、実行されたイニシャル動作が施工後最初のイニシャル動作であるか、2回目以降のイニシャル動作であるかを識別することができる情報を保持しておけばよい。
【0051】
ステップS102において施工後最初のイニシャル動作であると判定した場合(ステップS102,Yes)、制御部200は、室温サーミスタ104のAD値を取得するとともに(ステップS103)、リミッタサーミスタ103のAD値を取得する(ステップS104)。そして、制御部200は、取得した室温サーミスタ104のAD値とリミッタサーミスタ103のAD値とを関連付けた基準値情報を生成して記憶部250に記憶する(ステップS105)。
【0052】
このように、実施形態に係る衛生洗浄装置20では、たとえば出荷前の段階で基準値情報を生成するのではなく、施工後のイニシャル動作が行われた段階で基準値情報を生成することとした。つまり、実際に使用される環境下において基準値情報を生成することで、かかる基準値情報を用いた異常判定処理を精度よく行うことが可能となる。
【0053】
また、実施形態に係る衛生洗浄装置20では、実行されたイニシャル動作が施工後最初のイニシャル動作である場合に、基準値情報を生成することとした。
【0054】
たとえば、出荷前の段階では、給水路30への通水を伴う検査が行われる場合がある。また、施工後2回目以降のイニシャル動作も、給水路30に水が存在している状態で実施される可能性がある。
【0055】
給水路30への通水が行われた後の状態では、通水後の給水路30が室温に馴染むまでに時間がかかることから、通水後の給水路30が室温に馴染む前、すなわち、室温サーミスタ104とリミッタサーミスタ103とが異なる温度を測定している状態で、基準値情報が生成されるおそれがある。これを避けるために、通水後の給水路30が室温に馴染むまで基準値情報の生成を待ったり、通水後の給水路30を室温に強制的に馴染ませたりすることも考えられるが、手間である。
【0056】
これに対し、施工後最初のイニシャル動作が行われた段階では、未だ給水路30への通水は行われておらず、また、出荷前において通水を伴う検査を行い多少の残水があったとしても、検査から施工までには十分に時間が経っていると考えられ、施工時において検査の影響はないと考えられる。したがって、施工後最初のイニシャル動作が行われた段階で基準値情報を生成するようにすることで、第1基準値および第2基準値として適切な室温サーミスタ104およびリミッタサーミスタ103のAD値を取得することができる。
【0057】
なお、制御部200は、ステップS101においてイニシャル動作が行われていない場合(ステップS101,No)、または、ステップS102において施工後最初のイニシャル動作でない場合(ステップS102,No)、処理を終了する。
【0058】
次に、基準値情報を用いて行われるリミッタサーミスタ103異常判定処理の内容について図6を参照して説明する。図6は、実施形態に係る異常判定処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【0059】
図6に示すように、制御部200は、室温サーミスタ104のAD値V1を取得するとともに(ステップS201)、リミッタサーミスタ103のAD値V2を取得する(ステップS202)。
【0060】
つづいて、制御部200は、ステップS201において取得した室温サーミスタ104のAD値V1と、第1基準値との差の絶対値が第1閾値以内であるか否かを判定する(ステップS203)。この処理において、第1基準値とAD値V1との差の絶対値が第1閾値以内でない場合(ステップS203,No)、制御部200は、処理を終了する。
【0061】
一方、ステップS203において第1基準値とAD値V1との差の絶対値が第1閾値以内であると判定した場合(ステップS203,Yes)、制御部200は、リミッタサーミスタ103が熱平衡状態であるか否かを判定する(ステップS204)。
【0062】
たとえば、制御部200は、熱交換器50による水の加熱が停止された後、予め決められた時間が経過した場合に、リミッタサーミスタ103が熱平衡状態に達したと判定してもよい。上記予め決められた時間は、リミッタサーミスタ103が熱平衡状態に達するまでの時間として十分な時間であり、実験等によって求められる。
【0063】
このように、リミッタサーミスタ103が熱平衡状態に達するまでの時間を予め取得しておくことで、リミッタサーミスタ103が熱平衡状態に達したか否かの判定を容易に行うことができる。リミッタサーミスタ103が熱平衡状態に達するまでの時間とは、例えば、40分である。
【0064】
また、制御部200は、リミッタサーミスタ103のAD値の単位時間あたりの変化率が閾値を下回った場合、つまり、AD値の変化が収束した場合に、リミッタサーミスタ103が熱平衡状態に達したと判定してもよい。これにより、リミッタサーミスタ103が熱平衡状態に達したか否かの判定を正確に行うことができる。単位時間あたりの変化率とは、例えば、10分間で0.5℃の変化量である。
【0065】
ステップS204においてリミッタサーミスタ103が熱平衡状態ではない場合(ステップS204,No)、制御部200は、処理を終了する。
【0066】
一方、ステップS204においてリミッタサーミスタ103が熱平衡状態であると判定した場合(ステップS204,Yes)、制御部200は、ステップS202において取得したリミッタサーミスタ103のAD値V2と、第2基準値との差の絶対値が第2閾値以内であるか否かを判定する(ステップS205)。
【0067】
この処理において、AD値V2と第2基準値との差の絶対値が第2閾値以内であると判定した場合(ステップS205,Yes)、制御部200は、リミッタサーミスタ103が正常であると判定し(ステップS206)、異常判定処理を終了する。なお、制御部200は、処理をステップS201に戻してもよい。
【0068】
一方、ステップS205において、AD値V2と第2基準値との差の絶対値が第2閾値を超えている場合(ステップS205,No)、制御部200は、リミッタサーミスタ103が異常であると判定し(ステップS207)、異常対応処理を行ったうえで(ステップS208)、処理を終了する。
【0069】
たとえば、制御部200は、異常対応処理として、衛生洗浄装置20の本体部21あるいは図示しない操作部に設けられたLED(Light Emitting Diode)インジケータを点灯させることにより、リミッタサーミスタ103に異常が生じたことを使用者に報知してもよい。また、制御部200は、異常対応処理として、熱交換器50による温度制御処理を禁止することで、設定温度を超える温度の水が人体に吐出されないようにしてもよい。
【0070】
このように、実施形態に係る衛生洗浄装置20では、基準値情報が生成されたときの温度環境と同等の温度環境となったときに、リミッタサーミスタ103のAD値を基準値情報の第2基準値と比較することにより、リミッタサーミスタ103の異常を判定することとした。これにより、衛生洗浄装置20が設置されたトイレ室TRの温度環境に左右されることなく、リミッタサーミスタ103の異常を精度よく判定することができる。
【0071】
トイレ室TRの室温は、1年を通して変動するが、基準値情報を生成したときと同様の温度環境となるタイミングは、長期的に見れば再度起こり得る。たとえば、ある年の夏場に衛生洗浄装置20が設置された場合には、次の年の夏場に同様の温度環境となる可能性が高い。したがって、リミッタサーミスタ103の異常判定処理が実行されてから次の異常判定処理が実行されるまでの期間が長くあく可能性があるが、これは、リミッタサーミスタ103の「経年劣化」を監視するという点では都合がよい。
【0072】
ここでは、施工後最初のイニシャル動作が行われた場合に基準値情報を生成することとしたが、制御部200は、施工後最初であるかどうかに関わらず、イニシャル動作が行われた場合に、基準値情報を生成してもよい。
【0073】
なお、特開2017-133995号公報には、2つの測温素子(第1の測温素子、第2の測温素子)と、各測温素子の出力値をデジタル値に変換する2つの変換チャネル(第1の変換チャネル、第2の変換チャネル)とを備えた温度測定装置において、第1の測温素子の出力値を第1の変換チャネルおよび第2の変換チャネルの両方に入力し、第1の変換チャネルから出力されるデジタル値と、第2の変換チャネルから出力されるデジタル値とを比較することで、第1の変換チャネルまたは第2の変換チャネルの異常を検知する技術が開示されている。しかしながら、特開2017-133995号公報には、測温素子の異常を検知することに関しては何ら記載されていない。
【0074】
(変形例)
上述した実施形態では、1つの基準値情報を記憶する場合の例について説明したが、記憶部250には、異なる複数の基準値情報が記憶されてもよい。異なる複数の基準値情報を記憶することで、異常判定の実行頻度を高めることができる。
【0075】
図7は、変形例に係る基準値情報生成処理の手順の一例を示すフローチャートである。また、図8は、変形例に係る基準値情報の一例を示す図である。
【0076】
図7に示すように、制御部200は、施工後所定期間内であるか否かを判定する(ステップS301)。たとえば、制御部200は、施工後最初のイニシャル動作が行われてからの時間を計測しておき、計測された時間が、予め決められた時間(たとえば、1年間)に達していない場合に、施工後所定期間内であると判定する。
【0077】
ステップS301において施工後所定期間内であると判定した場合(ステップS301,Yes)、制御部200は、室温サーミスタ104のAD値を取得する(ステップS302)。
【0078】
つづいて、制御部200は、基準値情報を参照し、ステップS302において取得したAD値が第1基準値として未取得のAD値であるか否かを判定する(ステップS303)。たとえば、第1基準値が「80」である基準値情報のみが記憶部250に記憶されている場合に、ステップS302において取得した室温サーミスタ104のAD値が「75」であったならば、制御部200は、ステップS302において取得したAD値が第1基準値として未取得のAD値であると判定する。
【0079】
ステップS303において、室温サーミスタ104から取得したAD値が第1基準値として未取得のAD値であると判定した場合(ステップS303,Yes)、制御部200は、リミッタサーミスタ103が熱平衡状態であるか否かを判定する(ステップS304)。そして、制御部200は、リミッタサーミスタ103が熱平衡状態であると判定した場合(ステップS304,Yes)、リミッタサーミスタ103のAD値を取得する(ステップS305)。そして、制御部200は、ステップS302において取得した室温サーミスタ104のAD値と、ステップS305において取得したリミッタサーミスタ103のAD値とを関連付けた基準値情報を生成して記憶部250に記憶する(ステップS306)。
【0080】
このようにすることで、図8に示すように、異なる複数の基準値情報を生成することができる。したがって、1つの基準値情報のみを記憶する場合と比較して、異常判定処理を高頻度で実行することができる。
【0081】
また、上述してきた各実施形態では、貯湯タンクを有しない所謂瞬間式の衛生洗浄装置を例に挙げて説明したが、これに限定されず、貯湯タンクを有する所謂貯湯式の衛生洗浄装置であってもよい。ここで、貯湯式の衛生洗浄装置の構成例について図9を参照して説明する。図9は、変形例に係る衛生洗浄装置の構成の一例を示す図である。
【0082】
図9に示すように、変形例に係る衛生洗浄装置20Aは、熱交換器50(図2参照)に代えて、給水路30を流れる水を貯留する貯湯タンク55を備える。貯湯タンク55は、入水サーミスタ101よりも下流側かつ電解槽ユニット60よりも上流側に配置される。貯湯タンク55の内部には、ヒータ56と、温水サーミスタ102とが配置される。ヒータ56は、制御部200の制御に従って貯湯タンク55に貯留された水を加熱する。
【0083】
衛生洗浄装置20Aの制御部200は、熱交換器50に対する温度制御処理と同様の処理をヒータ56に対して行う。
【0084】
上述してきたように、実施形態に係る衛生洗浄装置20,20Aは、水を吐出するノズル90と、ノズル90に接続され、ノズル90に水を供給する給水路30と、室温を測定する第1温度センサ(一例として、室温サーミスタ104)と、給水路30を流れる水の温度を測定する第2温度センサ(一例として、温水サーミスタ102)と、給水路30における第2温度センサよりも下流側に配置され、給水路30を流れる水の温度を測定する第3温度センサ(一例として、リミッタサーミスタ103)と、第1基準値と、第1温度センサの出力値が第1基準値であるときの第3温度センサの出力値である第2基準値とを関連付けた基準値情報を記憶する記憶部250と、第1温度センサの出力値と第1基準値との差が第1閾値以下となった場合に、第3温度センサの出力値と第2基準値とを比較し、第3温度センサの出力値と第2基準値との差が第2閾値を超えた場合に、第3温度センサの異常を判定する制御部200とを備える。
【0085】
基準値情報における温度環境と同等の温度環境となったときに、第3温度センサの出力値を基準値情報の第2基準値と比較するようにすることで、温度環境に左右されることなく、第3温度センサの異常を精度よく判定することができる。
【0086】
また、制御部200は、衛生洗浄装置20,20Aを施工した後の通電時において、第1温度センサおよび第3温度センサの出力値を取得し、取得した第1温度センサおよび第3温度センサの出力値をそれぞれ第1基準値および第2基準値とする基準値情報を生成して記憶部250に記憶させる。
【0087】
このように、実際に使用される環境下において基準値情報を生成することで、温度センサの異常判定処理を精度よく行うことができる。
【0088】
また、制御部200は、衛生洗浄装置20,20Aを施工した後、かつ、給水路30への通水が開始される前に、第1温度センサおよび第3温度センサの出力値を取得し、取得した第1温度センサおよび第3温度センサの出力値をそれぞれ第1基準値および第2基準値とする基準値情報を生成して記憶部に記憶させる。
【0089】
給水路30への通水が行われた後の状態では、通水後の給水路30が室温に馴染むまでに時間がかかることから、通水後の給水路30が室温に馴染む前、すなわち、第1温度センサと第3温度センサとが異なる温度を測定している状態で、基準値情報が生成されるおそれがある。したがって、給水路30への通水が開始される前に基準値情報を生成するようにすることで、第1基準値および第2基準値として適切な第1温度センサおよび第3温度センサの出力値を取得することができる。
【0090】
また、制御部200は、電源投入時に実行されるイニシャル動作が衛生洗浄装置20,20Aを施工した後において最初に実行された場合に、基準値情報を生成する。
【0091】
施工後最初のイニシャル動作が行われた段階では、未だ給水路30への通水は行われておらず、また、仮に、出荷前において通水を伴う検査を行い多少の残水があったとしても、検査から施工までには十分に時間が経っていると考えられ、施工時において検査の影響はないと考えられる。したがって、施工後最初のイニシャル動作が行われた段階で基準値情報を生成するようにすることで、第1基準値および第2基準値として適切な第1温度センサおよび第3温度センサの出力値を取得することができる。
【0092】
また、制御部200は、第1温度センサの出力値と第1基準値との差が第1閾値以下となり、かつ、第3温度センサが熱平衡状態であると判定した場合に、第3温度センサの出力値と前記第2基準値とを比較する。
【0093】
第3温度センサが熱平衡状態にあるときに第3温度センサの出力値を第2基準値と比較することとで、第3温度センサの異常を精度良く判定することができる。
【0094】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0095】
A 水道管
TR トイレ室
1 トイレ装置
10 便器
20 衛生洗浄装置
30 給水路
40 バルブユニット
50 熱交換器
60 電解槽ユニット
70 バキュームブレーカ
80 切替弁
85 ノズル洗浄用流路
90 ノズル
101 入水サーミスタ
102 温水サーミスタ
103 リミッタサーミスタ
104 室温サーミスタ
200 制御部
250 記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9