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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】タイヤ試験装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/02 20060101AFI20220802BHJP
   B60C 19/00 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
G01M17/02
B60C19/00 H
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018172874
(22)【出願日】2018-09-14
(65)【公開番号】P2020046227
(43)【公開日】2020-03-26
【審査請求日】2021-08-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】奥田 耕士
(72)【発明者】
【氏名】杉山 正人
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-251732(JP,A)
【文献】特開2008-175757(JP,A)
【文献】特開平04-337443(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/00 - 17/10
B60C 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤを回転させる回転駆動部と、前記タイヤの踏面がその外周面に当接し前記タイヤの回転に伴って回転する、路面を模擬したドラムと、を備えるタイヤ試験装置であって、
前記ドラムは、水を内側から外周面に向けて供給する供給部と、前記供給部により供給される水を前記ドラムの外周面に浸み出させる外周部材と、を含む、
タイヤ試験装置。
【請求項2】
前記外周部材は、多孔質材を含む、
請求項1に記載のタイヤ試験装置。
【請求項3】
前記供給部により供給される水の水圧を調整する水圧調整部を備える、
請求項1又は2に記載のタイヤ試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタイヤ試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ウェット状態の路面を模擬したタイヤ試験(以下、「ウェット試験」)を実施可能なタイヤ試験装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1では、回転可能な円盤状部材の表面や円筒状部材の内周面の疑似路面にタイヤを当接させ、当該疑似路面に上から水が供給されることによって、ウェット試験が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許4888832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、回転するタイヤにドラムの外周面を当接させる態様のタイヤ試験装置が用いられる場合もある。この場合、ドラムの外周面に外側から水を供給しても、特許文献1のように、疑似路面側に水を定着させる力(例えば、重力や遠心力等)が作用せず、タイヤと当接する路面を模擬する部分に適切な水膜を形成することができない可能性がある。
【0006】
そこで、上記課題に鑑み、ウェット試験において、路面を模擬するドラムの外周面に適切な水膜を形成することが可能なタイヤ試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一実施形態では、
タイヤを回転させる回転駆動部と、前記タイヤの踏面がその外周面に当接し前記タイヤの回転に伴って回転する、路面を模擬したドラムと、を備えるタイヤ試験装置であって、
前記ドラムは、水を内側から外周面に向けて供給する供給部と、前記供給部により供給される水を前記ドラムの外周面に浸み出させる外周部材と、を含む、
タイヤ試験装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
上述の実施形態によれば、ウェット路面のタイヤ試験において、路面を模擬するドラムの外周面に適切な水膜を形成することが可能なタイヤ試験装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態に係るタイヤ試験装置を示す外観図である。
図2】一実施形態に係るタイヤ試験装置を示す外観図である。
図3A】一実施形態に係るタイヤ試験装置のウェット試験に関する構成の一例を示す図である。
図3B】一実施形態に係るタイヤ試験装置のウェット試験に関する構成の一例を示す図である。
図4】一実施形態に係るタイヤ試験装置のウェット試験に関する構成の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。
【0011】
[タイヤ試験装置の基本構成]
まず、図1図2を参照して、本実施形態に係るタイヤ試験装置100の基本構成について説明する。
【0012】
図1図2は、本実施形態に係るタイヤ試験装置100を示す外観図である。具体的には、図1は、正面側から見たタイヤ試験装置100を示す図であり、図2は、背面側から見たタイヤ試験装置100を示す図である。以下、図中のXYZ座標系を用いて説明する場合がある。このとき、X軸は、鉛直方向に沿っており、X軸正方向は、鉛直上方向であり、X軸負方向は、鉛直下方向である。また、Y軸は、タイヤ試験装置100の奥行方向(即ち、前後方向)に沿っており、Y軸正方向は、後方向であり、Y軸負方向は、前方向である。また、Z軸は、タイヤ試験装置100の幅方向(即ち、左右方向)に沿っており、Z軸正方向は、右方向であり、Z軸方向は、左方向である。
【0013】
タイヤ試験装置100は、枠体101と、回転軸111と、タイヤ駆動モータ112と、荷重生成機構113と、レール114と、台車115と、筐体116と、ユニバーサルジョイント117と、ドラム121と、ドラム駆動機構122と、ドラム駆動モータ123と、動力制御盤130を含む。また、タイヤ試験装置100に関する構成として、動力制御盤130に通信可能に接続される制御端末10が含まれる。
【0014】
尚、図2では、動力制御盤130及び制御端末10は省略される。
【0015】
枠体101は、例えば、鉄やステンレス等の金属製の枠状の部材であり、回転軸111、タイヤ駆動モータ112、レール114、台車115、ドラム121、ドラム駆動機構122、及びドラム駆動モータ123等を直接的又は間接的に保持する。枠体101は、複数の金属製のH形鋼等のような柱状の部材がボルト締結や溶接等で組み付けられることによって、図1及び図2に示すように、前後方向、左右方向、及び上下方向に立体的な骨格を有する。
【0016】
回転軸111は、試験対象物としてのタイヤ20を回転自在に保持する。回転軸111は、ベアリング等によって回転自在に軸支されている。回転軸111のY軸負方向側の端部には、ホイール21に装着されたタイヤ20が固定される。タイヤ20の踏面(外周面のうち、ドラム121に当接する部分)は、XY平面に略平行である。
【0017】
また、回転軸111は、Y軸正方向側の端部がタイヤ駆動モータ112に接続され、タイヤ駆動モータ112によって回転駆動される。これにより、タイヤ20が回転し、タイヤ20に当接するドラム121がタイヤ20の回転に伴って回転する。
【0018】
回転軸111の両端間には、後述する筐体116及びユニバーサルジョイント117が設けられる。回転軸111は、ユニバーサルジョイント117で連結される2本の回転軸111A,111Bを含む。以下、回転軸111A,111Bを区別しない場合、単に回転軸111と称す。
【0019】
回転軸111は、回転軸111A,111Bのうちのタイヤ駆動モータ112に接続される回転軸111Aに対して、タイヤ20が装着される回転軸111Bがユニバーサルジョイント117によって角度を振れるように構成されている。筐体116の内部の分力計は、タイヤ20が装着される回転軸111Bに直列に設置される。
【0020】
タイヤ駆動モータ112(回転駆動部の一例)は、回転軸111AのY軸正方向の端部に接続され、タイヤ試験装置100の利用者が制御端末10を通じて設定する走行速度に応じた回転数で回転軸111(回転軸111A,111B)を回転駆動する。このとき、設定される走行速度は、タイヤ20を装着する仮想的な車両の走行速度を意味する。タイヤ駆動モータ112を駆動するインバータ等は、動力制御盤130の内部に配置される。
【0021】
荷重生成機構113は、筐体116を保持する。換言すれば、荷重生成機構113は、筐体116を保持することによって、間接的に回転軸111Bを保持している。荷重生成機構113と筐体116との間には、荷重生成機構113に対する筐体116の角度を振るためのジョイントが設けられている。
【0022】
荷重生成機構113は、筐体116をZ軸方向に移動させることにより、回転軸111A,111BをZ軸方向に移動させる機構である。荷重生成機構113は、回転軸111Aに対する回転軸111Bの角度を変化させることなく、回転軸111A,111BをZ軸方向に移動させることが可能に構成されている。
【0023】
荷重生成機構113は、回転軸111A,111BをZ軸正方向に移動させることにより、タイヤ20の踏面をドラム121に押し付ける。これにより、タイヤ20の踏面に掛かる荷重を増大させることができる。一方、荷重生成機構113は、回転軸111A,111BをZ軸負方向に移動させることにより、タイヤ20の踏面に掛かる荷重を低減することができる。
【0024】
荷重生成機構113が筐体116をZ軸方向に移動すると、後述の如く、タイヤ駆動モータ112を搭載する台車115がレール114に沿ってZ軸方向に移動する。これにより、回転軸111A,111Bは、Y軸方向に平行な状態でZ軸方向に移動することができる。
【0025】
尚、荷重生成機構113は、例えば、図示しないモータによって駆動される。
【0026】
レール114は、枠体101の背面側の底部に設けられる。レール114は、Z軸に沿って延在し、台車115をZ軸に沿って移動可能に構成される。レール114は、枠体101と同様、例えば、鉄やステンレス等の金属製である。
【0027】
台車115は、枠体101の背面側の底部において、レール114に搭載され、レール114に沿ってZ軸方向に移動可能に構成される。台車115には、タイヤ駆動モータ112が搭載されている。これにより、タイヤ駆動モータ112は、台車115の移動に伴い、Z軸方向に移動することができる。
【0028】
尚、台車115は、例えば、図示しないモータによって駆動される。
【0029】
筐体116は、回転軸111Bに直列に配置される分力計を収容する円筒型の筐体である。筐体116は、ユニバーサルジョイント117よりもタイヤ20が装着される側に位置し、荷重生成機構113によって保持されている。
【0030】
なお、回転軸111Bは、筐体116の位置がモータによって移動されることによって、回転軸111Aに対して角度を有するように移動される。この詳細については後述する。
【0031】
ユニバーサルジョイント117は、回転軸111Aと回転軸111Bとを接続するユニバーサルジョイントである。ユニバーサルジョイント117は、Y軸に平行に延在する回転軸111Aに対する回転軸111Bの角度がXY平面内及びYZ平面内で自在に変化できるように、回転軸111Aと回転軸111Bとを接続している。ユニバーサルジョイント117は、タイヤ20のキャンバ角及びトー角を調整可能にするために設けられている。
【0032】
ドラム121は、タイヤ20よりも大きい外径を有する円柱状の路面を模擬する部材である。つまり、ドラム121の外周面は、タイヤ20の踏面が接地する路面に相当する。タイヤ20がタイヤ駆動モータ112によって回転駆動されると、タイヤ20に当接するドラム121も回転される。
【0033】
ドラム駆動機構122は、ドラム駆動モータ123が発生する力(トルク)をドラム121に伝達する動力伝達機構である。ドラム駆動機構122は、本体部122Aと、回転軸122Bと、プーリ122C,122Dと、ベルト122Eを含む。
【0034】
本体部122Aは、ドラム駆動モータ123が搭載される枠状の部材である。
【0035】
回転軸122Bは、ドラム121の回転軸に相当する。
【0036】
プーリ122Cは、回転軸122Bのドラム121と反対側の端部に同軸で取り付けられる。
【0037】
プーリ122Dは、ドラム駆動モータ123の回転軸123Aに同軸で接続されている。
【0038】
ベルト122Eは、プーリ122Cとプーリ122Dとの間に掛けられ、ドラム駆動モータ123の動力(トルク)を回転軸123Aからドラム121の回転軸122Bに伝達する。
【0039】
ドラム駆動モータ123は、ドラム121に伝達される力(トルク)を発生する。ドラム駆動モータ123は、ドラム121に力(トルク)を伝達することにより、ドラム121を回転させるタイヤ20に対して、走行抵抗を付与することができる。走行抵抗には、タイヤ20を装着する仮想的な車両が路面から受ける転がり抵抗の他、空気抵抗等の転がり抵抗以外の抵抗も含まれる。
【0040】
例えば、タイヤ20を装着する仮想的な車両が上り坂を走行している状況を模擬する場合、ドラム駆動モータ123は、タイヤ20の回転を妨げる力(トルク)を発生する。
【0041】
また、平坦路を走行している状況を模擬する場合、ドラム駆動モータ123は、上り坂の場合よりも小さい、タイヤ20の回転を妨げる力(トルク)を発生する。
【0042】
また、下り坂を走行している状況を模擬する場合、ドラム駆動モータ123は、模擬する下り坂が比較的傾斜が緩やかなときには、平坦路の場合よりも更に小さい、タイヤ20の回転を妨げる力(トルク)を発生する。また、模擬する下り坂が比較的傾斜が急であるとき(即ち、タイヤ20を装着する仮想的な車両に掛かる重力によって車速が上昇する状況を模擬するとき)には、ドラム121の回転をアシストする方向(ドラム121の回転方向と同一の回転方向)にドラム121を回転させる力(トルク)を発生する。
【0043】
上り坂、平坦路、及び下り坂のいずれの場合にも、路面の摩擦係数等によって転がり抵抗は変化するため、制御端末10を介してドラム駆動モータ123が発生する力(トルク)を自在に設定することができる。
【0044】
動力制御盤130は、タイヤ駆動モータ112及びドラム駆動モータ123を駆動するインバータ、荷重生成機構113、台車115、及び筐体116を駆動するモータを駆動するインバータ、タイヤ試験装置100を制御する後述の制御装置180を含む。また、動力制御盤130は、走行速度、荷重、キャンバ角、及びトー角等の設定値を表示する表示部(例えば、液晶ディスプレイ)等を含んでもよい。
【0045】
制御端末10は、例えば、携帯型或いは定置型(つまり、デスクトップ型)のコンピュータ端末であり、動力制御盤130に所定のケーブルで接続される。タイヤ試験装置100の利用者は、制御端末10を通じて、走行速度等の様々な試験条件を設定入力する。制御端末10には、タイヤ試験装置100専用のアプリケーションプログラムがインストールされ、利用者が入力する試験条件等の情報は、制御端末10のディスプレイに表示される。また、試験中のタイヤ20の回転による走行速度、走行抵抗、及びタイヤ20に掛かる荷重等の情報も制御端末10のディスプレイに表示されてよい。
【0046】
尚、制御端末10の機能は、動力制御盤130に統合されてもよい。この場合、動力制御盤130には、例えば、ディスプレイやディスプレイに実装されるタッチパネル等の操作部が搭載され、利用者が操作部を通じて走行速度等の様々な試験条件を設定入力する態様であってよい。また、動力制御盤130のディスプレイに利用者が入力する試験条件等の情報や試験中のタイヤ20の回転による走行速度、走行抵抗、及びタイヤ20に掛かる荷重等の情報が表示されるようにしてもよい。
【0047】
[タイヤ試験装置のウェット試験に関する構成]
次に、図3図3A,3B)、図4を参照して、本実施形態に係るタイヤ試験装置100のウェット試験に関する構成について説明する。ウェット試験とは、雨等によって、路面がぬれている場合の状態を模擬したタイヤ試験である。ウェット試験には、雨が降り出して直ぐのときのように、路面の水膜が比較的薄い状態(以下、便宜的に「ジャストウェット状態」)を模擬した試験と、雨が降り出してからある程度の時間が経過したときのように路面の水膜が比較的厚い状態を模擬した試験が含まれうる。
【0048】
<ウェット試験に関する構成の一例>
図3A,3Bは、本実施形態に係るタイヤ試験装置100のウェット試験に関する構成の一例を示す図である。具体的には、図3Aは、タイヤ試験装置100のウェット試験に関する構成の全体を示す図であり、図3Bは、図3Aの場合とは異なる方向から見たドラム121のウェット試験に関する構成を示す断面図である。
【0049】
尚、図3Aにおいて、太い実線は、水の供給系統を表し、点線は、信号系統を表す。以下、後述する図4についても同様である。また、ドラム121は、図3Aにおいて、側面視断面図、具体的には、図1及び図2におけるXY平面での断面図が示され、図3Bにおいて、その周方向に対する鉛直平面による断面図が示される。
【0050】
図3Aに示すように、本例では、タイヤ試験装置100のウェット試験に関する構成は、ドラム121と、回転軸122Bと、制御装置180と、センサ190と、水供給部200を含む。また、上述の如く、制御装置180には、制御端末10が所定のケーブルで通信可能に接続される。
【0051】
図3A,3Bに示すように、ドラム121は、本体部121Aと、外周部材121Bと、水路121Cを含む。
【0052】
本体部121Aは、円柱形状を有し、その中心には、同軸状に回転軸122Bが挿通される。
【0053】
外周部材121Bは、本体部121Aの外周面の全周に亘って、略同じ厚さで配置される。外周部材121Bは、後述の水路121Cから供給される水を表面、つまり、ドラム121の外周面に浸み出させることができる。外周部材121Bには、水路121Cにより供給される水を表面に浸み出させることが可能であれば、任意の部材が適用されうる。例えば、外周部材121Bは、多孔質材を含む態様で構成されうる。多孔質材は、例えば、多孔質セラミック、多孔質タングステン等であってよく、0.5~10μmの気孔が無数に形成されていてよい。外周部材121Bから表面に単位時間当たりに浸み出す水量は、水路121Cから供給される水の水圧に依存する。つまり、水路121Cを通じて供給される水の水圧が調整されることで、外周部材121Bの表面に浸み出した水で形成される水膜WTの状態(例えば、水膜WTの厚さ)が調整される。
【0054】
尚、外周部材121Bの表面には、路面を模擬するために適切な表面状態(表面粗さ)が実現されるように適宜表面処理が施されてよい。
【0055】
水路121C(供給部の一例)は、本体部121Aの中心部、つまり、回転軸122Bが挿通される部分から本体部121Aの外周面まで径方向に延設される。本例では、水路121Cは、図3Aに示すように、本体部121Aの中心軸から見て、90°ごとに、配置されており、周方向に4本配置される。また、本例では、水路121Cは、図3Bに示すように軸方向で2本配置される。つまり、水路121Cは、ドラム121の本体部121Aに8本配置されている。水路121Cは、回転軸122Bの外周に形成される貫通孔122Bbを通じて、回転軸122B内部の水路122Baに接続されており、後述する供給ポンプ204の吐出圧の作用によって、水路122Baから本体部121Aの外周面、つまり、外周部材121Bの裏面まで水を供給することができる。
【0056】
尚、水路121Cの配置規則やその本数は、一例であり、ドラム121の外周面、つまり、外周部材121Bの表面にウェット試験に対応する水膜WTを形成可能であれば、任意の配置規則や本数が採用されてよい。
【0057】
回転軸122Bは、図3A,3Bに示すように、その両端のうちの一端が開放され、他端が閉塞される態様の中空形状を有し、開放される一端には、供給ポンプ204から吐出される水が供給される水供給系統に接続される。つまり、回転軸122Bの中空部分は、水路122Baとして機能し、水路122Baに供給された水は、外周部の貫通孔122Bbを通じて、水路121Cに流れ込む。
【0058】
尚、回転軸122Bと水供給系統との連結部分には、既知のロータリジョイントが採用される。これにより、回転しない水供給系統から回転する回転軸122Bの水路122Baに水を供給することができる。
【0059】
制御装置180は、水供給部200によるドラム121の外周面への水の供給状態を制御する。具体的には、制御装置180は、ドラム121の外周面、つまり、外周部材121Bの表面に形成される水膜WTの厚さ(深さ)等を制御する。例えば、制御装置180は、後述の供給ポンプ204に制御指令を出力し、吐出圧を調整することによって、ドラム121の外周部材121Bの表面に形成される水膜WTの厚さを制御してよい。
【0060】
このとき、制御装置180は、指定する吐出圧に対応する予め規定された制御指令を出力することで、供給ポンプ204の吐出圧を制御してよい。これにより、制御装置180は、例えば、制御指令と吐出圧との関係を示す制御マップ等に基づき、供給ポンプ204の吐出圧を制御することができる。また、制御装置180は、後述のセンサ190により検出される実際の吐出圧の検出値と制御指令に対応する吐出圧の指令値との間の差分(偏差)を小さくする態様で、フィードバック制御(例えば、PI(Proportional Integral Differential)制御等)を行ってもよい。これにより、制御装置180は、より適切に、供給ポンプ204の吐出圧を制御することができる。
【0061】
また、制御装置180は、指定する水膜WTの厚さに対して予め規定される吐出圧になるように供給ポンプ204を制御することで、ドラム121の外周面の水膜WTの厚さを調整してよい。これにより、制御装置180は、吐出圧と水膜WTの厚さとの関係を示す制御マップ等に基づき、適切に、ドラム121の外周面の水膜WTの厚さを制御することができる。また、制御装置180は、後述のセンサ190により検出される実際の水膜WTの厚さの検出値と制御指令に対応する水膜WTの厚さの指令値との間の差分(偏差)を小さくする態様で、フィードバック制御を行ってもよい。これにより、制御装置180は、より適切に、ドラム121の外周面の水膜WTの厚さを制御することができる。
【0062】
センサ190は、制御装置180が水供給部200の制御をするための検出情報を出力する。センサ190は、例えば、後述する供給ポンプ204の吐出圧を検出する圧力センサを含んでよい。また、センサ190は、ドラム121の外周面、つまり、外周部材121Bの表面(具体的には、タイヤ20と当接する部分付近の表面)に形成されている水膜WTの厚さを検出する赤外線センサを含んでもよい。
【0063】
尚、制御装置180による制御態様によっては、上述の如く、外部からの検出情報を必要としない場合もありうる。この場合、センサ190は、省略されてよい。
【0064】
水供給部200は、ドラム121にウェット試験用の水を供給する。水供給部200は、水受け201と、回収ポンプ202と、水タンク203と、供給ポンプ204を含む。
【0065】
水受け201は、ドラム121及びタイヤ20の下方に配置され、ウェット試験において、ドラム121の外周面から飛散等した水を下方で受け止め、一時的に溜める機能を果たす。
【0066】
回収ポンプ202は、水受け201に溜まった水を吸い上げ、水タンク203に回収する。
【0067】
尚、回収ポンプ202と水タンク203の間、水タンク203の内部、或いは、水タンク203と供給ポンプ204との間には、水受け201から回収された水からゴミ等を除去するフィルタが設けられてよい。
【0068】
水タンク203は、ウェット試験用の水を貯蔵する。水タンク203には、外部供給の水(例えば、水道インフラから供給される水)及び回収ポンプ202により水受け201から回収された水の双方が貯蔵されうる。例えば、タイヤ試験装置100の利用者は、外部供給の水を試験開始前に試験に必要と考えられる水量を水タンク203に貯蔵させておき、試験開始後は、回収ポンプ202により水受け201から回収された水だけを循環させる態様であってよい。
【0069】
供給ポンプ204(水圧調整部の一例)は、制御装置180の制御下で、水タンク203に貯蔵される水を所定の吐出圧で吐出し、回転軸122B内の水路122Baを通じて、ドラム121に供給する。
【0070】
制御端末10は、タイヤ試験装置100の利用者の設定入力に応じて、ウェット試験に関する試験条件(例えば、水膜WTの厚さ等)を制御装置180に送信する。
【0071】
尚、上述の如く、制御端末10の機能は、動力制御盤130に統合されてもよく、この場合、タイヤ試験装置100の利用者は、動力制御盤130の操作部を通じて水膜WTの厚さ等のウェット試験に関する様々な試験条件を設定入力する態様であってよい。
【0072】
本例に係るタイヤ試験装置100では、上述の如く、ドラム121の内側から水を供給する水路121Cと、水路121Cにより供給される水をドラム121の外周面に浸み出させる外周部材121Bが設けられる。
【0073】
これにより、ドラム121の外側から外周面に水を供給する場合のように、水がドラム121の遠心力等により飛散してしまうような事態が抑制され、タイヤ試験装置100は、ドラム121の外周面に適切な水膜を形成することができる。特に、ジャストウェット状態に対応するウェット試験の場合、比較的薄い水膜WTを形成する必要があるところ、タイヤ試験装置100は、このような比較的薄い水膜WTであっても適切に形成することができる。また、ドラム121からの水の飛散量や飛散範囲を相対的に小さく抑制することができるため、水受け201を含む水供給部200をコンパクトに構成することができ、タイヤ試験装置100の小型化及び低コスト化を図ることができる。また、ウェット試験に必要な水膜を適切に調整できるため、水供給部200が供給すべき水の量を最小化することが可能となり、タイヤ試験の効率化を図ることができる。
【0074】
また、本例に係るタイヤ試験装置100では、上述の如く、外周部材121Bには、多孔質部材が含まれる。
【0075】
これにより、外周部材121Bは、具体的に、ドラム121の内側から供給される水をドラム121の外周面、つまり、表面に浸み出させることができる。
【0076】
また、本例に係るタイヤ試験装置100では、水路121Cにより供給される水の圧力を調整する供給ポンプ204が設けられる。
【0077】
これにより、制御装置180は、水路121Cにより供給される水の圧力を調整し、具体的に、外周部材121Bの表面に浸み出す水の量、つまり、外周部材121Bの表面に形成される水膜の厚さを制御することができる。
【0078】
<ウェット試験に関する構成の他の例>
図4は、本実施形態に係るタイヤ試験装置100のウェット試験に関する構成の他の例を示す図である。本例に係るタイヤ試験装置100のウェット試験に関する構成は、図3A,3Bの一例に対して、ドラム121と水供給部200の構成が異なる。以下、図3A,3Bの一例と異なる部分を中心に説明を行う。
【0079】
尚、図4において、ドラム121は、側面視断面図、具体的には、図1及び図2におけるXY平面での断面図が示される。また、ドラム121のその周方向に対する鉛直平面による断面図は、図3Bと同様であるため、省略されている。
【0080】
ドラム121は、本体部121Aと、外周部材121Bと、水路121Cと、水膜調整部材121Dを含む。
【0081】
水膜調整部材121Dは、ドラム121の外周面に沿う態様の曲板形状或いは翼形状を有し、ドラム121の外周面のうちのタイヤ20が当接する部分に隣接する上方(つまり、X軸正方向)の領域から所定距離だけ隙間が空けられた位置に配置される。これにより、水膜調整部材121Dは、後述の水配管206からドラム121の上部(即ち、X軸正方向側の端部)の外周面に供給される水を、自身とドラム121との間の隙間に流入させることができる(図4中の水配管206から延出する矢印参照)。そのため、水膜調整部材121Dは、下方に隣接するタイヤ20と当接するドラム121の外周部分に当該隙間に相当する厚みの水膜WTを形成させることができる。特に、水膜調整部材121Dが用いられることで、タイヤ試験装置100は、比較的厚い(深い)水膜を適切に形成することができる。
【0082】
また、水膜調整部材121Dは、ドラム121の径方向に移動可能であり、ドラム121の外周面からの隙間を変化させることができる。これにより、タイヤ試験装置100の利用者は、水膜調整部材121Dの位置を調整することで、様々な条件に対応する水膜の厚さを用いて、ウェット試験を行うことができる。
【0083】
水供給部200は、水受け201と、回収ポンプ202と、水タンク203と、供給ポンプ204と、切換弁205と、水配管206を含む。
【0084】
切換弁205は、制御装置180の制御下で、供給ポンプ204から吐出される水を、回転軸122Bの水路122Baに対応する水供給系統に供給するか、水配管206に対応する水供給系統に供給するかを切り換える。つまり、切換弁205は、制御装置180の制御下で、ドラム121の外周面の内側から外周面に水を供給するか、ドラム121の外周面の外側から外周面に水を供給するかを切り換える。
【0085】
尚、水配管206には、供給ポンプ204から吐出される水とは別系統の水が供給されてもよい。この場合、切換弁205は、省略される。
【0086】
水配管206は、ドラム121の上部の外周面の上方に配置され、切換弁205を介して供給ポンプ204から供給される水をドラム121の外周面に流し出す。例えば、水配管206の下端には、貫通孔が複数設けられ、水配管206内の水は、複数の貫通孔から下方のドラム121の外周部に流れ出す態様であってよい。
【0087】
制御装置180は、ウェット試験に対応するドラム121の水膜の厚さの大小に応じて、ドラム121の外周面の内側からドラム121の外周面に水を供給するか、ドラム121の外周面の外側からドラム121の外周面に水を供給するかを切り換えてよい。例えば、制御装置180は、試験条件に対応する水膜の厚さが所定閾値以下である場合、切換弁205を制御し、供給ポンプ204から回転軸122Bの水路122Baに水を供給させることで、ドラム121の外周面の内側からドラム121の外周面に水が供給されるようにする。これにより、外周部材121Bから水を染み出させる場合、ドラム121の外周面、つまり、外周部材121Bの表面に比較的薄い水膜を形成し易くなるため、制御装置180は、試験条件に対応する水膜の厚さに合わせて、より適切に、ドラム121の外周面に水膜を形成させることができる。一方、制御装置180は、試験条件に対応する水膜の厚さが所定閾値を超える場合、切換弁205を制御し、供給ポンプ204から水配管206に水を供給させることで、ドラム121の外周面の外側からドラム121の外周面に水が供給されるようにする。これにより、水膜調整部材121Dを利用する場合、ドラム121の外周面に比較的厚い(深い)水膜を形成し易くなるため、制御装置180は、試験条件に対応する水膜の厚さに合わせて、より適切に、ドラム121の外周面に水膜を形成させることができる。つまり、制御装置180は、試験条件に対応する水膜の厚さの大小に合わせて、適切な水供給方法を選択し、より適切な水膜をドラム121の外周面に形成させることができる。
【0088】
尚、上述の如く、水配管206に供給ポンプ204から吐出される水とは別系統の水が供給される場合もありうる。この場合、制御装置180は、試験条件に対応する水膜の厚さの大小に合わせて、供給ポンプ204を作動させるのか、別系統のポンプを作動させるのかを選択することにより、ドラム121の外周面の内側からドラム121の外周面に水を供給するか、ドラム121の外周面の外側からドラム121の外周面に水を供給するかを切り換えてよい。
【0089】
以上、本発明を実施するための形態について詳述したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0090】
例えば、上述した実施形態において、図4では、ドラム121の外周面の内側からドラム121の外周面に水を供給する構成と、ドラム121の外周面の外側からドラム121の外周面に水を供給する構成の双方が採用されるが、前者は、省略されてもよい。つまり、図4において、回転軸122B内の水路122Ba及び貫通孔122Bb、ドラム121の水路121C、切換弁205等は省略されてもよく、外周部材121Bは、水を内部から浸みださせることが可能な部材でなくてもよい。
【符号の説明】
【0091】
20 タイヤ
100 タイヤ試験装置
112 タイヤ駆動モータ(回転駆動部)
121 ドラム
121A 本体部
121B 外周部材
121C 水路(供給部)
121D 水膜調整部材
122B 回転軸
122Ba 水路
122Bb 貫通孔
180 制御装置
190 センサ
200 水供給部
201 水受け
202 回収ポンプ
203 水タンク
204 供給ポンプ(水圧調整部)
205 切換弁
206 水配管
図1
図2
図3A
図3B
図4