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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】ミラー加飾製品及びその金属膜成膜方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/08 20060101AFI20220802BHJP
   G09F 13/04 20060101ALI20220802BHJP
   G09F 19/12 20060101ALI20220802BHJP
   C23C 14/14 20060101ALI20220802BHJP
   C23C 14/04 20060101ALI20220802BHJP
   B60R 13/04 20060101ALN20220802BHJP
   B60R 19/52 20060101ALN20220802BHJP
【FI】
G02B5/08 A
G09F13/04 J
G09F19/12 Z
C23C14/14 D
C23C14/04 A
B60R13/04 Z
B60R19/52 K
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018182006
(22)【出願日】2018-09-27
(65)【公開番号】P2020052260
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2020-10-28
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096116
【弁理士】
【氏名又は名称】松原 等
(72)【発明者】
【氏名】影山 弘明
(72)【発明者】
【氏名】大川 新太朗
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 剛
【審査官】池田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-002338(JP,A)
【文献】特表2006-522945(JP,A)
【文献】国際公開第2018/072176(WO,A1)
【文献】特開2001-089872(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102621825(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0067314(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/08
G09F 13/04
G09F 19/12
C23C 14/14
C23C 14/04
B60R 13/04
B60R 19/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材と該透明基材の一方の面に設けられた金属膜とを含むカバー部を有する、カメラ又はサイネージ光源を内蔵するためのミラー加飾製品である自動車のバックガーニッシュ又はフロントグリルにおいて、
前記カバー部が、
金属膜の膜厚が相対的に薄く、外縁で光線透過率が40%であり、外縁から内側へ向かうにつれて光線透過率が高くとも92%まで徐々に増加する、内蔵させるカメラ又はサイネージ光源の正面に位置させるための透光部と、
金属膜の膜厚が相対的に厚く、光線透過率が0~10%であり光輝性外観が得られる、カバー部の主要部分を占めるミラー加飾部と、
透光部と加飾部との境界領域に位置して透光部の存在を目視で気付きにくくするためのグラデーション部であって、透光部側からミラー加飾部側へ向かうに連れて、金属膜の膜厚が徐々に厚くなり、光線透過率が徐々に低くなるグラデーション部と
を含むことを特徴とする自動車のバックガーニッシュ又はフロントグリル
【請求項2】
透光部は直径10~20mmの円形であり、グラデーション部の透光部側からミラー加飾部側までの幅が、2mm以上である請求項1記載の自動車のバックガーニッシュ又はフロントグリル
【請求項3】
グラデーション部における光線透過率の変化率が、30ポイント/mm以下である請求項1又は2記載の自動車のバックガーニッシュ又はフロントグリル
【請求項4】
金属膜は、Ni-Cr-Mo合金からなる請求項1~3のいずれか一項に記載の自動車のバックガーニッシュ又はフロントグリル
【請求項5】
透明基材と該透明基材の一方の面に設けられた金属膜とを含むカバー部を有する、カメラ又はサイネージ光源を内蔵するためのミラー加飾製品の製造方法において、
前記カバー部が、金属膜の膜厚が相対的に薄い透光部と、金属膜の膜厚が相対的に厚いミラー加飾部と、金属膜の膜厚が徐々に厚くなるなるグラデーション部とを含むものであり、
透明基材よりも小さいマスクを該マスクの外縁が前記面から面直交方向に4~10mm離間するように配置した状態で、前記面に金属微粒子をスパッタすることにより、前記金属膜を成膜することを特徴とするミラー加飾製品の金属膜成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部にカメラ又はサイネージ光源を内蔵するためのミラー加飾製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のバックガーニッシュ、フロントグリル等の外装用の樹脂製品は、光輝性外観を得るためにカバー部にミラー加飾が施されることが多い。ミラー加飾は、めっき、真空蒸着、スパッタリング等による金属膜からなり、通常、金属膜の光線透過率は10%以下と低い。
【0003】
近年、上記ミラー加飾製品のカバー部の内方に、視認用、障害物発見用、測距用等の目的で、カメラを内蔵させることが検討されている。その場合、上記のように金属膜の光線透過率が低いと、カメラの撮像性能(樹脂部品を通して外部を撮像する性能)が得られない。そこで、特許文献1では、カバーの金属膜を「外部からの光を透過および反射可能な光制御層」とし、光制御層を透過した光によりカメラの撮像性能を得ている。また、光制御層を透過する光の量が光制御層で反射する光の量よりも小さくなるように設定されていると、反射する光の量が大きいため、外部から目視したとき、光制御層の反射像のみが認識され、カメラは認識されない、と記載されている。特許文献1の記載を総合すると、カメラの撮像性能と外部から視認されないこととを両立する光制御層の光線透過率は、25~50%とされているようである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-114944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のような光線透過率25~50%の金属膜は、ミラー加飾のうちでもいわゆるハーフミラー加飾と称されるものである。特許文献1のように、カバー部の金属膜を一律にハーフミラー加飾にすると、通常のミラー加飾と比べて、光輝性外観が全体的に暗くなる。また、本発明者の検討によると、光透過率25~39%の金属膜は、カメラの撮像性能をかなり低下させる。
光輝性外観を優先して、この金属膜を光透過率25%未満にすると、ますますカメラの撮像性能を低下させてしまう。カメラの撮像性能を優先して、この金属膜を光透過率50%超にすると、光輝性外観がさらに暗くなってしまう。よって、明るい光輝性外観とカメラの撮像性能とを両立させることは困難であった。
【0006】
また、上記ミラー加飾製品のカバー部の内方に、文字や図形を表示するためのサイネージ光源を内蔵させることも検討されている。その場合、点灯しないときのサイネージ光源を外部から視認されないようにするために、特許文献1のように、カバー部の金属膜を一律にハーフミラー加飾にすると、光輝性外観が暗くなる問題と、サイネージ光源の光放射性能が低下する問題とが生じる。
【0007】
そこで、本発明は、明るい光輝性外観とカメラの高い撮像性能又はサイネージ光源の高い光放射性能とを両立させることができ、外部からカメラ又はサイネージ光源を視認可能ではあるが気付きにくくすることができるミラー加飾製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)ミラー加飾製品
本発明は、透明基材と該透明基材の一方の面に設けられた金属膜とを含むカバー部を有し、カメラ又はサイネージ光源を内蔵するためのミラー加飾製品である自動車のバックガーニッシュ又はフロントグリルにおいて、
前記カバー部が、
金属膜の膜厚が相対的に薄く、外縁で光線透過率が40%であり、外縁から内側へ向かうにつれて光線透過率が高くとも92%まで徐々に増加する、内蔵させるカメラ又はサイネージ光源の正面に位置させるための透光部と、
金属膜の膜厚が相対的に厚く、光線透過率が0~10%であり光輝性外観が得られる、カバー部の主要部分を占めるミラー加飾部と、
透光部と加飾部との境界領域に位置して透光部の存在を目視で気付きにくくするためのグラデーション部であって、透光部側からミラー加飾部側へ向かうに連れて、金属膜の膜厚が徐々に厚くなり、光線透過率が徐々に低くなるグラデーション部と
を含むことを特徴とする。
【0009】
ここで、「相対的に薄く(厚く)」は、ミラー加飾部の金属膜の膜厚と、透光部の金属膜の膜厚との対比である。
「徐々に」は、好ましくは「連続的に変化して」であるが、「複数段階的に変化して」でもよい。
光線透過率は、金属膜のみの光線透過率ではなく、透明基材も含むカバー部の光線透過率である(以下同じ。)。
透光部は、金属膜が無い部分を含んでもよい。
【0010】
<作用>
(ア)内蔵されたカメラ又はサイネージ光源の正面に位置する透光部は、金属膜の膜厚が相対的に薄く、光線透過率が40~92%であることにより、カメラの高い撮像性能又はサイネージ光源の高い光放射性能が得られる。
【0011】
(イ)カバー部の主要部分を占めるミラー加飾部は、金属膜の膜厚が相対的に厚く、光線透過率が0~10%であることにより、光線反射率が高いため、明るい光輝性外観(通常のミラー加飾)が得られる。
【0012】
(ウ)光線透過率が40~92%である透光部は、外部からカメラ又はサイネージ光源を視認可能にする。しかし、透光部とミラー加飾部との境界領域に位置するグラデーション部は、透光部側からミラー加飾部側へ向かうに連れて、金属膜の膜厚が徐々に厚くなり、光線透過率が徐々に低くなることにより、透光部とミラー加飾部との境界をぼかす作用をして、透光部の存在を目視で気付きにくくし、もって透光部の内側にあるカメラ又はサイネージ光源も目視で気付きにくくする。
仮に、このグラデーション部が無いと、透光部とミラー加飾部との境界がはっきり・くっきりとするため、透光部の存在を目視で気付きやすくなり、透光部の内側にあるカメラ又はサイネージ光源も目視で気付きやすくなる。
【0013】
(2)ミラー加飾製品の金属膜成膜方法
本発明は、透明基材と該透明基材の一方の面に設けられた金属膜とを含むカバー部を有し、カメラ又はサイネージ光源を内蔵するためのミラー加飾製品の製造方法において、
前記カバー部が、金属膜の膜厚が相対的に薄い透光部と、金属膜の膜厚が相対的に厚いミラー加飾部と、金属膜の膜厚が徐々に厚くなるなるグラデーション部とを含むものであり、
透明基材よりも小さいマスクを該マスクの外縁が前記面から面直交方向に4~10mm離間するように配置した状態で、前記面に金属微粒子をスパッタすることにより、前記金属膜を成膜することを特徴とする。
【0014】
<作用>
透明基材よりも小さいマスクを該マスクの外縁が前記面から面直交方向に4~10mm離間するように配置した状態で、前記面に金属微粒子をスパッタすることにより、
・前記面のマスクで隠れない部位には、金属微粒子が多く付着して、膜厚が相対的に厚い金属膜が成膜される。
・前記面のマスクで隠れる部位のうちマスクの外縁に近い部位には、離間したマスクの裏に回り込むように角度を付けて飛翔した金属微粒子が少し付着して、マスクの外縁から内側へ向かうに連れて膜厚が徐々に薄くなる金属膜が成膜され、上記グラデーション部はこの部位に含まれる。このように金属微粒子の飛翔に角度が付くのは、金属微粒子は、ターゲット表面からいろいろな角度ではじき飛ばされ、また、Arガスと衝突して散乱されるからである。
・前記面のマスクで隠れる部位のうちマスクの外縁から遠い内側部位には、金属微粒子がほとんど付着しないため、膜厚が相対的に薄い金属膜が成膜され、金属膜が成膜されない箇所が生じることもある。
【0015】
前記離間の距離が4mm未満になると、金属微粒子の前記回り込みが少なくなり、グラデーション部の幅を十分に得られなくなる。前記離間の距離が10mmを超えると、金属微粒子の前記回り込みが多くなり、透光部が小さくなりやすい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、明るい光輝性外観と、カメラの高い撮像性能又はサイネージ光源の高い光放射性能とを両立させることができ、外部からカメラ又はサイネージ光源を視認可能ではあるが気付きにくくすることができるミラー加飾製品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は実施例のミラー加飾製品(自動車のバックガーニッシュ)の断面図である。
図2図2の(a)は透光性とそのグラテーションを濃淡で表現したカバー部の金属膜側の図、(c)は光輝性とそのグラテーションを濃淡で表現したカバー部の透明基材側の図である。
図3図3は同ミラー加飾製品の金属膜の成膜方法を示す断面図である。
図4図4は基準試料の金属膜の成膜方法を示す断面図である。
図5図5の(a)は同基準試料の光線透過率と膜厚の散布図、(b)は同基準試料の膜厚とL*値の散布図である。
図6図6は実施試料の金属膜の成膜方法を示す断面図である。
図7図7は同実施試料の各位置における光線透過率、膜厚、及びL*値を示すグラフ図である。
図8図8は同実施試料の透光性とそのグラテーションを濃淡で表現した金属膜側の図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
1.透明基材
透明基材の材料としては、特に限定されないが、樹脂、ガラス等を例示できる。
透明は、無色透明のみならず、有色透明も含む。
【0019】
2.金属膜
金属膜の金属としては、特に限定されないが、Ni-Cr-Mo合金、Al、In等を例示できる。
金属膜の成膜法に起因する種類としては、特に限定されないが、スパッタ膜、真空蒸着膜等を例示できる。
【0020】
3.透光部
透光部は、金属膜のない部分を含んでいてもよい。
透光部は、光線透過率が40~92%の範囲にあればよく、透孔部の全域でみて、光線透過率が実質的に一定であるものでもよいし、光線透過率が徐々に変化するものでもよいし(但しその最大変化率はグラデーション部での最大変化率よりも小さいことが好ましい。)、光線透過率が実質的に一定である部分と光線透過率が徐々に変化する部分とを含むものでもよい。
金属膜のL*a*b*表色系におけるL*値(以下単に「L*値」という。)は、41.9~59.0であることが好ましい。
金属膜の厚さは、7.6nm以下であることが好ましい。
【0021】
透光部の形状は、特に限定されないが、カメラを内蔵する場合には、カメラのレンズの円形に対応するように該円形よりも大きい円形が好ましい。円形は、形状が滑らかであり、目立ちにくいという利点もある。透光部の円形の直径は、カメラのレンズにもよるが、10~20mmが好ましい。20mmを超えると、外部から目立ちやすくなる。
【0022】
4.ミラー加飾部
ミラー加飾部は、光線透過率が0~30%の範囲にあればよく、ミラー加飾部の全域でみて、光線透過率が実質的に一定であるものでもよいし、光線透過率が徐々に変化するものでもよいし(但しその最大変化率はグラデーション部での最大変化率よりも小さいことが好ましい。)、光線透過率が実質的に一定である部分と光線透過率が徐々に変化する部分とを含むものでもよい。
金属膜のL*値は、64~80であることが好ましく、74~80であることがより好ましい。
金属膜の厚さは、10.5nm以上であることが好ましく、21nm以上であることが好ましい。
【0023】
5.グラデーション部
グラデーション部の透光部側からミラー加飾部側までの幅は、2mm以上であることが好ましく、3mm以上であることがより好ましい。同幅が2mm以上であることにより、上述したグラデーション部が透光部とミラー加飾部との境界をぼかす作用が高くなるからである。同幅の上限は、特にないが、あえていえば20mmであり、デザイン上、同幅をあまり大きくしたくない場合は5mmである。
【0024】
グラデーション部の幅方向における光線透過率の変化率は、一定でもよいし途中で増減してもよい。同変化率は(途中で増減する場合、最も高いところでも)、30ポイント/mm以下であることが好ましく、16ポイント/mm以下であることがより好ましい。ポイントは、幅1mm当たりの光線透過率の%値の変化分を%値のまま表したものである(以下同じ)。同変化率が30ポイント/mm以下であることにより、上述したグラデーション部が透光部とミラー加飾部との境界をぼかす作用が高くなる。
【0025】
グラデーション部の幅方向におけるL*値の変化率は、一定でもよいし途中で増減してもよい。同変化率は(途中で増減する場合、最も高いところでも)、10ポイント/mm以下であることが好ましく、6.5ポイント/mm以下であることがより好ましい。同変化率が10ポイント/mm以下であることにより、上述したグラデーション部が透光部とミラー加飾部との境界をぼかす作用が高くなる。
【0026】
7.ミラー加飾製品
ミラー加飾製品(用途)としては、特に限定されないが、自動車用外装製品が好適であり、バックガーニッシュ、フロントグリル等を例示できる。
【実施例
【0027】
以下、本発明を具体化した実施例について、次の順に説明する。なお、本発明は本実施例に限定されるものではない。
<1>基準試料の作製(図4図5
<2>実施試料の作製(図6図8
<3>ミラー加飾製品の作製(図1図3
【0028】
<1>基準試料の作製(図4図5
本発明のミラー加飾製品は、グラデーション部で、金属膜の膜厚(以下単に「膜厚」という。)が徐々に厚くなり、光線透過率が徐々に低くなり、よって光線透過率が徐々に高くなりL*値が大きくなる。このように徐々に変化する要素のうち、光線透過率は、ピンポイント的に測定することが比較的容易にできるが、膜厚とL*値は、ピンポイント的に測定することが比較的困難である。
【0029】
そこで、まず、図4に示すように、透明基材6としての無色透明のガラス板に、金属膜7をスパッタにて均一な膜厚に成膜してなる基準試料を、表1に示すように、膜厚が相互に異なるようにして複数枚作製した。具体的には、スパッタ装置20のチャンバー21内の、陽極22側に透明基材6を設置するとともに、Ni-Cr-Mo合金(ハステロイC22)からなるターゲット23(陰極)として設置し、チャンバー21内を真空排気してアルゴン(Ar)ガスを流入させ、高電圧をかけた。スパッタ条件は、スパッタ圧0.5Pa、スパッタ電力300W、Arガス流量10sccmとし、スパッタ時間を適宜変えて膜厚が試料相互に異なるようにした。イオン化したアルゴンがターゲット23表面に衝突し、金属微粒子がはじき飛ばされて透明基材6の一方の面に到達し、金属膜7が均一な膜厚に成膜された。但し、表1の最上の基準試料は、金属膜のないガラス板である。
【0030】
【表1】
【0031】
作製した各基準試料について、光線透過率、膜厚、L*値を測定した。測定結果を表1に示す。
(ア)光線透過率は、透過率計(朝日分光株式会社製TLV-304)を用いて、波長550nmの光線の透過率を測定した。上記のとおり、光線透過率は、金属膜のみの光線透過率ではなく、透明基材(ガラス板)も含む光線透過率である
(イ)膜厚は、触針式段差計を用いて測定した。
(ウ)L*値は、分光測色計(コニカミノルタ株式会社製CM-700d)を用いて、金属膜側から、視野角10°、D65光源で測定した。
【0032】
上記の測定結果をプロットした、図5(a)の光線透過率と膜厚との散布図、及び、図5(b)の膜厚とL*値との散布図において、それぞれ近似曲線(検量線)を作成した。
【0033】
<2>実施試料の作製(図6図8
次に、図6に示すように、上記の<1>と同じ透明基材6としての無色透明のガラス板の一方の面に、スペーサ8を介することにより、一定厚の板状のマスク9を面直交方向に6mm離間して配置し、スペーサ8から右へ25mm突出した透明基材6の前記面の全体が、同じくスペーサ8から右へ25mm突出したマスク9により隠れるようにしたものを作製した。これをスパッタ装置20のチャンバー21内の陽極22側に設置し、上記の<1>と同様にスパッタを行った(但し、スパッタ時間は90秒)。
【0034】
・透明基材6の前記面のうちマスク9の右縁に近い部位には、離間したマスク9の裏に回り込むように角度を付けて飛翔した金属微粒子が少し付着して、マスク9の右縁から内側へ向かうに連れて膜厚が徐々に薄くなる金属膜7が成膜された。後述するグラデーション部5はこの部位に含まれる。
・透明基材6の前記面のうちマスク9の右縁から遠い内側部位には、金属微粒子がほとんど付着しないため、膜厚が相対的に薄い金属膜7が成膜され、金属膜が成膜されない箇所も生じた。
【0035】
こうして作製した透明基材6と金属膜7からなる実施試料の、上記25mmの範囲における、マスク9で最も内奥に隠れた端から1mmずつ離れていく各位置について、光線透過率を上記の<1>と同様に測定した。測定した光線透過率から、上記の図5(a)の近似曲線に基づいて換算した換算膜厚を求めた。また、その換算膜厚から、上記の図5(b)の近似曲線に基づいて換算した換算L*値を求めた。測定結果及び換算結果を表2に示す。
【0036】
【表2】
【0037】
図7は、各位置における光線透過率、換算膜厚、及び、換算L*値を示すグラフ図である。図8は(透明基材6側から当てた光を金属膜7側から見たときの)透光性とそのグラテーションを濃淡で表現した金属膜7側の図であり、図7の「位置(0~25mm)」と対応しており、左側が次に述べる透光部、右側が次に述べるミラー加飾部である。
【0038】
実施試料のマスク9に隠れていた上記25mmの範囲には、次の透光部3とミラー加飾部4とグラデーション部5とが形成された。
・金属膜7の膜厚が相対的に薄く、光線透過率が40~92%である透光部3。本例の透光部3は、光線透過率が90.9~88.9%で実質的に一定(2ポイント差程度)である部分と、光線透過率が88.9%を下回って40%へと徐々に変化する部分とを含むものである。
・金属膜7の膜厚が相対的に厚く、光線透過率が0~10%であるミラー加飾部4。本例のミラー加飾部4は、光線透過率が1.5~2.0%で実質的に一定(仮にマスクに隠れない部位が続くとしたとき、その部位の光線透過率は0%になると推定され、その0%に対して2ポイント差程度)である部分と、光線透過率が2%を上回って10%へと徐々に変化する部分とを含むものである。
・透光部3とミラー加飾部4との境界領域に位置するグラデーション部5であって、透光部側からミラー加飾部側へ向かうに連れて、金属膜7の膜厚が(透光部3の金属膜7の膜厚から)連続的に変化して(ミラー加飾部4の金属膜7の膜厚へと)厚くなり、光線透過率が連続的に変化して低くなるグラデーション部5と
が形成された。
【0039】
グラデーション部5の幅は3.6~3.8mmである。
グラデーション部5の幅方向における光線透過率の変化率は、途中で増減し、最も高いところで15.7ポイント/mmである。同最高変化率に対して、透光部3での光線透過率の最高変化率は低く、ミラー加飾部4での光線透過率の最高変化率も低い。
グラデーション部5の幅方向におけるL*値の変化率は、途中で増減し、最も高いところで6.3ポイント/mmである。
【0040】
<3>ミラー加飾製品の作製(図1図3
次に、図1図3に示すように、実施例のミラー加飾製品1として、カバー部2を構成する透明基材6の一方の面(裏面)に金属膜7を成膜してなる自動車用バックガーニッシュを作製した。透明基材6としての無色透明の樹脂板をスパッタ装置20のチャンバー21内の陽極22側に設置し、透明基材6の一方の面から離間した位置に、透明基材6よりも小さく且つ後述する透光部よりも大きいマスク9を配置した状態で、上記の<1>基準試料と同様に、スパッタを行った(但し、スパッタ時間は20秒。マスク9は直径16mmで透明基材を向く面が中央ほど凸に湾曲した円板であり、マスク9の外縁が透明基材6の一方の面から面直交方向に6mm離間するように配置した。
【0041】
・透明基材6の前記面のマスク9に隠れなかった部位には、金属微粒子が多く付着して、膜厚が相対的に厚い金属膜7が成膜された。
・透明基材6の前記面のマスク9に隠れていた円形領域のうちマスク9の外縁に近い部位には、離間したマスク9の裏に回り込むように角度を付けて飛翔した金属微粒子が少し付着して、マスク9の外縁から内側へ向かうに連れて膜厚が徐々に薄くなる金属膜7が成膜された。後述するグラデーション部5はこの部位に含まれる。
・透明基材6の前記面のマスク9に隠れていた円形領域のうち中心に近い(マスク9の外縁から遠い)部位には、金属微粒子があまり付着しないため、膜厚が相対的に薄い金属膜7が成膜された。
【0042】
図1は、こうして作製したミラー加飾製品1としてのバックガーニッシュの断面図である。図2(a)は(透明基材6側から当てた光を金属膜7側から見たときの)透光性とそのグラテーションを濃淡で表現したカバー部2の金属膜7側の図、図2(b)は(透明基材6側に当てた光を透明基材6側から見たときの)光輝性とそのグラテーションを濃淡で表現したカバー部2の透明基材6側の図である。
【0043】
本実施例のミラー加飾製品1のカバー部2には、次の透光部3とミラー加飾部4とグラデーション部5とが形成された。
・マスク9に隠れていた円形領域のうち中心に近い部位には、金属膜7の膜厚が相対的に薄く、光線透過率が40~50%である透光部3が形成された。本例の透光部3は、光線透過率が徐々に変化する。
・マスク9に隠れていた円形領域のうちマスク9の外縁に近い部位と、マスク9に隠れなかった部位とには、金属膜7の膜厚が相対的に厚く、光線透過率が8~10%であるミラー加飾部4が形成された。本例のミラー加飾部4は、光線透過率が徐々に変化するが、2ポイント差程度なので実質的に一定といえる。
・透光部3とミラー加飾部4との境界領域には、透光部側からミラー加飾部側へ向かうに連れて、金属膜7の膜厚が(透光部3の金属膜7の膜厚から)連続的に変化して(ミラー加飾部4の金属膜7の膜厚へと)厚くなり、光線透過率が連続的に変化して低くなるグラデーション部5が形成された。
【0044】
グラデーション部5の幅は2~3.5mmである。
グラデーション部5の幅方向における光線透過率の変化率は、途中で増減し、その最高変化率に対して、透光部3での光線透過率の最高変化率は低く、ミラー加飾部4での光線透過率の最高変化率も低い。
【0045】
本実施例のミラー加飾製品1によれば、次の作用効果が得られる。
(ア)内蔵されたカメラ10の正面に位置する透光部3は、金属膜7の膜厚が相対的に薄く、光線透過率が40~50%であることにより、カメラ10の高い撮像性能が得られる(図2(a))。
【0046】
(イ)カバー部2の主要部分を占めるミラー加飾部4は、金属膜7の膜厚が相対的に厚く、光線透過率が8~10%であることにより、光線反射率が高いため、明るい光輝性外観(通常のミラー加飾)が得られる(図2(b))。
【0047】
(ウ)光線透過率が40~50%である透光部3は、外部からカメラ10を視認可能にする。しかし、透光部3とミラー加飾部4との境界領域に位置するグラデーション部5は、透光部側からミラー加飾部側へ向かうに連れて、金属膜7の膜厚が徐々に厚くなり、光線透過率が徐々に低くなることにより、透光部3とミラー加飾部4との境界をぼかす作用をして、透光部3の存在を目視で気付きにくくし、もって透光部3の内側にあるカメラ10も目視で気付きにくくする。
【0048】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、例えば次のように、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することができる。
(1)透光部3に、低い光線透過率(例えば40%)で実質的に一定である部分を形成しようとする場合には、まず、マスクを配置せずにスパッタして一定膜厚の金属膜を透明基材の一方の面の全域に付着させた後、上記<3>のようにマスクを配置してスパッタすることにより行うことができる。
(2)カメラに代えて又は加えてサイネード光源を内蔵するためのミラー加飾製品とすること。
【符号の説明】
【0049】
1 ミラー加飾製品
2 カバー部
3 透光部
4 ミラー加飾部
5 グラデーション部
6 透明基材
7 金属膜
8 スペーサ
9 マスク
10 カメラ
20 スパッタ装置
21 チャンバー
22 陽極
23 ターゲット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8