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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】材料試験機
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/06 20060101AFI20220802BHJP
   G01N 3/08 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
G01N3/06
G01N3/08
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018201460
(22)【出願日】2018-10-26
(65)【公開番号】P2020067407
(43)【公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-02-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100101753
【弁理士】
【氏名又は名称】大坪 隆司
(72)【発明者】
【氏名】安田 善一
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-072422(JP,A)
【文献】特開2003-028770(JP,A)
【文献】特開平01-142438(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0252437(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/00-3/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
治具を介して供試体を負荷するアクチュエータと
前記治具に接続され、前記アクチュエータの駆動により変位する移動部材と、
前記移動部材の変位を検出する変位検出器と、
前記供試体に与えられる荷重を検出する力検出器と、
ユーザが操作することにより前記アクチュエータに指令信号を与える操作部と、
前記アクチュエータの駆動を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
過負荷レベルの判定基準となる荷重値を保持し、前記操作部を介して前記アクチュエータに指令信号を与えているときに、前記力検出器による検出値と過負荷レベルを比較し、検出値が過負荷レベルを超えたかどうかにより過負荷を検出する過負荷検出部と、
前記操作部からの指令信号に応じて、前記アクチュエータの移動の目標値を更新する目標値更新部と、
前記過負荷検出部が過負荷を検出したときに、前記目標値更新部による目標値の負荷方向への更新を禁止する禁止部と、
を有し、
前記目標値更新部は、前記禁止部が目標値の負荷方向への更新を禁止した後に、現在の目標値と前記変位検出器の検出値の偏差に基づいて、負荷方向と逆側となる値に目標値を更新することを特徴とする材料試験機。
【請求項2】
請求項1に記載の材料試験機において、
前記制御部は、前記目標値更新部により、負荷方向と逆側となる値に目標値が更新されたときに、更新された目標値に到達するまで前記アクチュエータの駆動を積分動作を含む制御で制御する材料試験機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アクチュエータの手動操作時に供試体に加わる過負荷を検出して除荷する材料試験機に関する。
【背景技術】
【0002】
材料試験機においては、一般に、負荷機構の駆動により試験片に対して、各種の負荷を加えている。このような材料試験機としては、一対のつかみ具により試験片の両端を把持させて、これらのつかみ具を介して試験片に荷重を与えるものが知られている。
【0003】
このような材料試験機では、基台とヨークの間に一対の柱部材が立設され、これらの柱部材の所定の位置に架設されたクロスヘッドに上つかみ具を取り付け、基台側に設けた油圧アクチュエータの伸縮するロッドに下つかみ具を取り付けている。そして、上つかみ具と下つかみ具に試験片の両端を把持させ、目標変位または目標荷重を設定して、サーボ弁を介して油圧アクチュエータの動作をフィードバック制御することにより、上つかみ具および下つかみ具を介して試験片に荷重が与えられる(特許文献1参照)。
【0004】
試験片を一対のつかみ具の間にセットするときには、試験前の試験片に予定している荷重以外の負荷がかからないようにする必要がある。このため、従来の材料試験機には、過負荷防止機能が設けられている。従来の材料試験機において、試験片の両端をつかみ具につかませるときには、まず、試験片の一端を一方のつかみ具につかませ、次に、試験片をつかませたつかみ具を手動操作(ジョグ操作)により他方のつかみ具に向けて動かしている。このとき、試験片の端を、他方のつかみ具のつかみ歯間に挿入できずに、つかみ具の端面に試験片が衝突したり、試験片の端を他方のつかみ具のつかみ歯間に押し込みすぎたりして、試験片に過負荷が加わることがある。
【0005】
このため、特許文献1の材料試験機では、油圧アクチュエータがジョグ操作により動作されているときに、供試体に作用する荷重が設定値以上であるか否かを判定し、設定値以上であった場合には、油圧アクチュエータへのジョグ操作による指令信号の伝達を禁止し、供試体に過負荷がかかることを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平4-274729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の過負荷防止機構では、過負荷が検出された時点で、それ以降のジョグ操作を無効化しても、アクチュエータがすぐに停止するわけではなく、応答遅れの時間分、その時の目標値に向けてさらにアクチュエータが動作する。このため、供試体には余分な荷重が与えられていた。
【0008】
この発明は上記課題を解決するためになされたものであり、アクチュエータの手動操作時に供試体に加わる過負荷を検出して確実に除荷することができる材料試験機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、治具を介して供試体を負荷するアクチュエータと前記治具に接続され、前記アクチュエータの駆動により変位する移動部材と、前記移動部材の変位を検出する変位検出器と、前記供試体に与えられる荷重を検出する力検出器と、ユーザが操作することにより前記アクチュエータに指令信号を与える操作部と、前記アクチュエータの駆動を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、過負荷レベルの判定基準となる荷重値を保持し、前記操作部を介して前記アクチュエータに指令信号を与えているときに、前記力検出器による検出値と過負荷レベルを比較し、検出値が過負荷レベルを超えたかどうかにより過負荷を検出する過負荷検出部と、前記操作部からの指令信号に応じて、前記アクチュエータの移動の目標値を更新する目標値更新部と、前記過負荷検出部が過負荷を検出したときに、前記目標値更新部による目標値の負荷方向への更新を禁止する禁止部と、を有し、前記目標値更新部は、前記禁止部が目標値の負荷方向への更新を禁止した後に、現在の目標値と前記変位検出器の検出値の偏差に基づいて、負荷方向と逆側となる値に目標値を更新することを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の材料試験機において、前記制御部は、前記目標値更新部により、負荷方向と逆側となる値に目標値が更新されたときに、更新された目標値に到達するまで前記アクチュエータの駆動を積分動作を含む制御で制御する。
【発明の効果】
【0011】
請求項1および請求項2に記載の発明によれば、手動操作中に過負荷を検出すると、アクチュエータの移動の目標値の負荷方向への更新を禁止して、現在の目標値と変位検出器の検出値の偏差に基づいて、負荷方向と逆側となる値に目標値を更新することから、アクチュエータを除荷方向に動作させて、試験片に加わる過負荷を確実に除荷することが可能となる。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、目標値変更後に積分動作を含む制御を有効にしてアクチュエータを駆動することから、制御量を目標値に徐々に近づけて一致させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】この発明に係る材料試験機の概要図である。
図2】除荷に関係する制御系の信号経路を説明するブロック図である。
図3】除荷動作の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、この発明に係る材料試験機の概要図である。
【0015】
この材料試験機は、テーブル11により支持された一対のコラム12と、これらのコラム12により支持された架台13とを備える。テーブル11には、供試体としての試験片10に荷重を負荷するための油圧アクチュエータ21が配設されている。この油圧アクチュエータ21は、シリンダ型アクチュエータであり、シリンダ内に移動可能に嵌め合わされたピストン24(図2参照)に連結されたシリンダロッド25を備え、作動油の供給量を弁開度等により決定するサーボバルブ22と、油圧アクチュエータ21のシリンダロッド25の変位を検出する変位検出器26とに接続されている。油圧アクチュエータ21のシリンダロッド25は、この発明の移動部材であり、シリンダロッド25には、試験片10を掴む一対のつかみ具29のうちの一方が取り付けられている。
【0016】
つかみ具29は、くさびの自己締まり作用を応用して試験片10を把持するくさび式つかみ具である。なお、このつかみ具29は、一対のつかみ歯の開閉をユーザがハンドルを操作することにより行う手動式のものであるが、つかみ具29は、一対のつかみ歯の開閉に、作動油を利用する油圧式のつかみ具や、空気圧を利用する空圧式のつかみ具であってもよい。また、つかみ具29は、くさび式つかみ具に限定されるものではなく、つかみ歯をTレンチによって開閉させるねじ式のつかみ具であってもよい。
【0017】
架台13の下面には、試験片10にかかる荷重を検出するための力検出器としてのロードセル27と、試験片10を固定するための他方のつかみ具29とが配設されている。また、テーブル11の下方には、油圧アクチュエータ21の駆動源として、油圧アクチュエータ21を動作させるための作動油を供給する油圧供給部30が配置されている。
【0018】
また、この材料試験機は、装置全体を制御するための制御部40を備える。この制御部40は、表示部41および入力部42を備えたコンピュータ43と接続されている。入力部42は、ユーザが操作するアクチュエータに指令信号を与える操作部として機能する。上述したサーボバルブ22は、制御部40から供給される制御信号によってその弁開度が制御される。また、変位検出器26の出力信号と、ロードセル27の出力信号とは、所定時間ごとに制御部40に取り込まれる。
【0019】
油圧アクチュエータ21は、油圧供給部30から供給される作動油によって動作する。この油圧供給部30からの作動油は、管路37からサーボバルブ22を介して油圧アクチュエータ21に供給される。また、油圧アクチュエータ21から排出された作動油は、サーボバルブ22を通過した後、管路38を介して油圧供給部30に戻される。
【0020】
以上のような構成を有する材料試験機においては、試験片10の両端を一対のつかみ具29により把持した状態で、下側のつかみ具29を油圧アクチュエータ21のシリンダロッド25により往復移動させ、この試験片10に対して振動を付与する。このときの油圧アクチュエータ21におけるシリンダロッド25の往復移動のストロークは、油圧アクチュエータ21の振幅として変位検出器26により検出される。また、このときに試験片10に付与される荷重は、ロードセル27により検出される。そして、上述したように、このときの変位検出器26の出力信号と、ロードセル27の出力信号とは、所定時間ごとに制御部40に取り込まれる。制御部40では、設定された変位の目標値と変位検出器26から入力された検出値との偏差、または、荷重の目標値とロードセル27から入力された検出値との偏差が算出され、この偏差に基づいた駆動信号がサーボバルブ22に入力されることで、油圧アクチュエータ21がフィードバック制御される。
【0021】
図2は、除荷に関係する制御系の信号経路を説明するブロック図である。
【0022】
この材料試験機の制御部40は、サーボバルブ22に入力される駆動信号を演算する駆動制御部51を備える。駆動制御部51は、PID制御器として動作する構成を有し、変位検出器26やロードセル27からのフィードバック値と目標値との偏差に対して、比例演算、積分演算、微分演算を組み合わせて、油圧アクチュエータ21への操作量を決定し、サーボバルブ22に駆動信号を出力する。
【0023】
制御部40は、値を保持(記憶)する機能を持った素子を含むことにより、過負荷レベルの判定基準となる荷重値を保持し、入力部42を介して油圧アクチュエータ21に指令信号を与えているときに、ロードセル27による検出値と過負荷レベルを比較し、検出値が過負荷レベルを超えたかどうかにより過負荷を検出する過負荷検出部52と、入力部42からの指令信号に応じて、油圧アクチュエータ21の移動目標値を更新する目標値更新部54と、過負荷検出部52が過負荷を検出したときに、目標値更新部54による目標値の負荷方向への更新を禁止する禁止部53と有する。なお、油圧アクチュエータ21の目標値とは、例えば、図2におけるシリンダの最下端の位置を0mmとして、そこからのピストン24の高さ位置を示す値である。下側のつかみ具29に試験片10をつかませた状態で、下側のつかみ具29をジョグ操作により上側のつかみ具29に向けて移動させているときに過負荷が検出される状態は、試験片10の上端部が上側のつかみ具29のつかみ歯間に挿入できずに上側のつかみ具29の端面に衝突した場合などである。したがって、このときの過負荷を生じさせる負荷方向は上方向となる。そして、このときに目標値の負荷方向への更新を禁止するとは、例えば、ピストン24の高さ位置の目標値が5mmとなっているのを、目標値更新部54が、さらにそれより上側の位置となる7mmに更新することを禁止することである。
【0024】
次に、上述した材料試験機において、ジョグ操作中に試験片10に加わる過負荷を除荷する除荷動作について説明する。図3は、除荷動作の手順を示すフローチャートである。
【0025】
この材料試験機で疲労試験を行うときには、最初に、試験片10の下端を下側のつかみ具29に把持させ、ジョグ操作により、試験片10の上端が上側のつかみ具29のつかみ歯により把持される位置まで下側のつかみ具29を上昇させる。ジョグ操作は、ユーザが入力部42を操作して、シリンダロッド25に接続された下側のつかみ具29移動方向と移動量を入力することにより行われる。このとき、例えば試験片10が上側つかみ具29の端面に衝突するなどして生じた荷重は、過負荷検出部52における過負荷レベルとの比較により過負荷か否かが判定される(ステップS1)。過負荷検出部52において過負荷が検出されたと判定されると、禁止部53によって、入力部42を介して目標値更新部54に伝達された指令信号に基づく目標値の負荷方向への更新を禁止し(ステップS2)、ユーザによる入力部42からのシリンダロッド25の上方向への移動操作を無効化する。
【0026】
油圧アクチュエータ21の動作においては、シリンダロッド25を移動させる目標値が更新されてからその目標値に到達するまで、応答遅れがある。したがって、先に目標値が更新された後に、過負荷が検出されたことによって目標値の負荷方向への更新が禁止されても、油圧アクチュエータ21は、その時点で設定されている目標値にむけてシリンダロッド25を移動させている途上にある。応答遅れ分の時間内に、目標値更新部54は、変位検出器26から入力された現在の検出値と目標値との偏差を求め、その偏差を目標値から引いた値を新たな目標値として算出し(ステップS3)、目標値を更新する(ステップS4)。なお、禁止部53は、目標値の負荷方向への更新は禁止するが、負荷方向の逆側となる値に更新することは許容している。したがって、例えば、目標値が5mmに設定されているときに、目標値更新部54が応答遅れ分に相当する現在の検出値と目標値との偏差2mmを解消するように、目標値を5mmより下側の位置となる3mmに更新することは、許容される。
【0027】
目標値が更新されると、駆動制御部51から油圧アクチュエータ21の駆動信号をサーボバルブ22に与えて、目標値にむけてシリンダロッド25を移動させる(ステップS5)。そして、変位検出器26からの入力をモニタしてピストン24が新しい目標値に到達するのを待つ。このとき、駆動制御部51の積分制御を有効にすることで、制御量を目標値に徐々に近づけて一致させることができる。なお、積分制御を有効にする動作は、ユーザが入力部42から入力してもよく、ジョグ操作が行われたときに自動的に積分制御を有効にしてもよい。また、駆動制御部51は、比例制御により油圧アクチュエータ21を制御することもできるが、比例積分制御とすることで、細かい制御が可能となる。
【0028】
しかる後、ロードセル27から過負荷検出部52に入力された検出値が所定の荷重範囲内に到達した否かにより除荷終了判定が行われる(ステップS6)。ロードセル27の検出値が所定の荷重範囲内に到達していない、すなわち過負荷レベルよりも低い荷重値に到達していない場合は、ステップS3からステップS5が繰り返し行われる。ロードセル27の検出値が所定の荷重範囲内に到達している場合は、除荷動作が完了したものとして、禁止部53による負荷方向への目標値更新の禁止を解除する(ステップS7)。これ以降、入力部42から入力された目標値変更のための指令信号は、方向に関係なく有効となる。この過負荷検出と除荷の一連の動作は、入力部42を介したジョグ操作中に繰り返し実行される。
【0029】
従来は、ジョグ操作により油圧アクチュエータ21のシリンダロッド25を移動させて、一方のつかみ具29に試験片10を把持させた状態で、上下一対のつかみ具29を近接させるときに、ユーザがつかみ具29の位置を見ながらシリンダロッド25の停止信号を入力しても、アクチュエータがすぐに停止するわけではなく、応答遅れの時間分、その時の目標値に向けてさらにアクチュエータが動作したため、試験片10が他方のつかみ具29の意図しない位置に当たり、試験片10に過負荷が加わる状態が生じていた。この発明に係る材料試験機においては、ジョグ操作中に、過負荷を検出すると目標値が自動で操作されるため、油圧アクチュエータ21に除荷を実現する動作を実行させることができ、試験前に試験片10に過負荷が加わることを確実に防止することが可能となる。
【0030】
上述した実施形態では、テーブル11側に油圧アクチュエータ21を配置し、負荷枠内に治具として一対のつかみ具29を配置した材料試験機を例に説明したが、材料試験機の構成は、これに限定されない。すなわち、クロスヘッド側にアクチュエータを配置し、シリンダロッドに治具として圧盤を接続し、基台上に配置したブロックなどの供試体に繰り返し圧縮荷重を与える材料試験機にも、この発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0031】
10 試験片
11 テーブル
12 コラム
13 架台
21 油圧アクチュエータ
22 サーボバルブ
24 ピストン
25 シリンダロッド
26 変位検出器
27 ロードセル
29 つかみ具
30 油圧供給部
37 管路
38 管路
40 制御部
41 表示部
42 入力部
43 コンピュータ
51 駆動制御部
52 過負荷検出部
53 禁止部
54 目標値更新部
図1
図2
図3