(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】圧電薄膜素子
(51)【国際特許分類】
H01L 41/187 20060101AFI20220802BHJP
H01L 41/09 20060101ALI20220802BHJP
H01L 41/113 20060101ALI20220802BHJP
H01L 41/319 20130101ALI20220802BHJP
C30B 29/38 20060101ALI20220802BHJP
C30B 29/16 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
H01L41/187
H01L41/09
H01L41/113
H01L41/319
C30B29/38 C
C30B29/16
(21)【出願番号】P 2018223900
(22)【出願日】2018-11-29
【審査請求日】2021-08-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】木村 純一
(72)【発明者】
【氏名】井上 ゆか梨
【審査官】柴山 将隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-095843(JP,A)
【文献】特開平07-232998(JP,A)
【文献】特開2009-167037(JP,A)
【文献】特開2008-133145(JP,A)
【文献】特開2006-333276(JP,A)
【文献】特開2014-212307(JP,A)
【文献】特開2007-191376(JP,A)
【文献】特開2018-131367(JP,A)
【文献】特開2008-178126(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0255629(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 41/187
H01L 41/09
H01L 41/113
H01L 41/319
C30B 29/38
C30B 29/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電層と、
前記導電層の表面に直接積層された圧電薄膜と、
を備え、
前記圧電薄膜は、ウルツ鉱型構造を有する複数の結晶粒を含み、
少なくとも一部の前記結晶粒の(001)面が、前記導電層の表面の法線方向において配向しており、
前記導電層の表面に平行な方向における前記複数の結晶粒のメジアン径が、30nm以上80nm以下である、
圧電薄膜素子。
【請求項2】
少なくとも一部の前記結晶粒は、前記導電層の表面の法線方向に沿って延びる柱状結晶である、
請求項1に記載の圧電薄膜素子。
【請求項3】
前記結晶粒の面積分率Vは、下記数式1によって定義され、
下記数式1中のh、k及びlは、前記ウルツ鉱型構造のミラー指数であり、
下記数式1中のΣI
(h00)は、前記ウルツ鉱型構造の(h00)面に由来する回折X線の強度I
(h00)の総和であり、
下記数式1中のΣI
(hk0)は、前記ウルツ鉱型構造の(hk0)面に由来する回折X線の強度I
(hk0)の総和であり、
下記数式1中のΣI
(hkl)は、前記ウルツ鉱型構造の全結晶面に由来する回折X線の強度の総和であり、
下記数式1中のI
(h00)、I
(hk0)及びI
(hkl)は、前記圧電薄膜の表面の面内回折X線の強度であり、
前記圧電薄膜の表面は、前記導電層の表面に平行であり、
前記面積分率Vが、90%以上100%以下である、
請求項1又は2に記載の圧電薄膜素子。
【数1】
【請求項4】
前記導電層と前記圧電薄膜との間の格子不整合度の絶対値が、0%以上6%以下である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の圧電薄膜素子。
【請求項5】
前記圧電薄膜の表面の算術平均粗さRaが、0.1nm以上5.0nm以下である、
請求項1~4のいずれか一項に記載の圧電薄膜素子。
【請求項6】
前記圧電薄膜は、窒化アルミニウムの単体、又は、添加元素を含む窒化アルミニウムである、
請求項1~5のいずれか一項に記載の圧電薄膜素子。
【請求項7】
前記圧電薄膜は、酸化亜鉛の単体、又は、添加元素を含む酸化亜鉛である、
請求項1~5のいずれか一項に記載の圧電薄膜素子。
【請求項8】
前記導電層は、複数の導電性結晶粒を含み、
前記圧電薄膜に含まれる前記結晶粒が、前記導電性結晶粒の表面に形成されている、
請求項1~7のいずれか一項に記載の圧電薄膜素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電薄膜素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)が注目されている。MEMS(微小電気機械システム)とは、微細加工技術によって、機械要素部品及び電子回路等が一つの基板上に集積化されたデバイスである。センサ、フィルタ、ハーベスタ、又はアクチュエータ等の機能を有するMEMSでは、圧電薄膜が利用される。圧電薄膜を用いたMEMSの製造では、シリコン又はサファイア等の基板上に下部電極層、圧電薄膜、及び上部電極層が積層される。続く微細加工、パターンニング、又はエッチング等の後工程を経ることで、任意の特性を有するMEMSが得られる。圧電性に優れた圧電薄膜を選択することで、MEMS等の圧電薄膜素子の特性向上及び小型化が可能になる。圧電薄膜の圧電性は、例えば、正圧電定数(圧電歪定数)d、及び圧電出力係数gに基づいて評価される。gはd/ε0εrに等しい。ε0は真空の誘電率であり、εrは圧電薄膜の比誘電率である。d及びgの増加によって、圧電薄膜素子の特性が向上する。
【0003】
圧電薄膜を構成する圧電組成物としては、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)、LiNbO3(ニオブ酸リチウム)、AlN(窒化アルミニウム)、ZnO(酸化亜鉛)及びCdS(硫化カドミウム)等が知られている。
【0004】
PZT及びLiNbO3は、ペロブスカイト型構造を有する。ペロブスカイト型構造を有する圧電薄膜のdは比較的大きい。しかし、圧電薄膜がペロブスカイト型構造を有する場合、圧電薄膜の厚みの減少に伴って、dが減少し易い。したがって、ペロブスカイト型構造を有する圧電薄膜は、微細加工に不向きである。またペロブスカイト型構造を有する圧電薄膜のεrは比較的大きいため、ペロブスカイト型構造を有する圧電薄膜のgは比較的小さい傾向がある。
【0005】
一方、AlN、ZnO及びCdSは、ウルツ鉱型構造を有する。ウルツ鉱型構造を有する圧電薄膜のdは、ペロブスカイト型構造を有する圧電薄膜のdに比べて小さい。しかし、ウルツ鉱型構造を有する圧電薄膜のεrは比較的小さいため、ウルツ鉱型構造を有する圧電薄膜は、ペロブスカイト型構造を有する圧電薄膜に比べて大きいgを有することが可能である。したがって、大きいgが求められる圧電薄膜素子にとって、ウルツ鉱型構造を有する圧電組成物は有望な材料である。(下記非特許文献1参照。)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Rajan S. Naik et al., IEEE TRANSACTIONS ON ULTRASONICS,FERROELECTRICS AND FREQUENCY CONTROL,2000,vol. 47,p.292-296
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ウルツ鉱型構造を有する圧電薄膜の圧電性が発現する結晶方位は、ウルツ鉱型構造の[001]である。つまり、ウルツ鉱型構造の(001)面が配向することにより、圧電薄膜は優れた圧電性を有することができる。しかし、(001)面の配向性を有する圧電薄膜における残留応力は、結晶面の配向性がランダムである圧電薄膜における残留応力に比べて大きい。圧電薄膜における大きい残留応力は、圧電薄膜におけるクラック(亀裂)を引き起こす。圧電薄膜に形成されたクラックによって、圧電薄膜の圧電性及び絶縁性が劣化してしまう。したがって、圧電薄膜素子の高い歩留まり率(yield rate)を達成するためには、ウルツ鉱型構造を有する圧電薄膜における残留応力を低減することが必要である。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、圧電薄膜における残留応力が低減された圧電薄膜素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面に係る圧電薄膜素子は、導電層と、導電層の表面に直接積層された圧電薄膜と、を備え、圧電薄膜は、ウルツ鉱型構造を有する複数の結晶粒(grain)を含み、少なくとも一部の結晶粒の(001)面が、導電層の表面の法線方向において配向しており、導電層の表面に平行な方向における複数の結晶粒のメジアン径が、30nm以上80nm以下である。
【0010】
少なくとも一部の結晶粒は、導電層の表面の法線方向に沿って延びる柱状結晶であってよい。
【0011】
結晶粒の面積分率Vは、下記数式1によって定義され、下記数式1中のh、k及びlは、ウルツ鉱型構造のミラー指数であり、下記数式1中のΣI
(h00)は、ウルツ鉱型構造の(h00)面に由来する回折X線の強度I
(h00)の総和であり、下記数式1中のΣI
(hk0)は、ウルツ鉱型構造の(hk0)面に由来する回折X線の強度I
(hk0)の総和であり、下記数式1中のΣI
(hkl)は、ウルツ鉱型構造の全結晶面に由来する回折X線の強度の総和であり、下記数式1中のI
(h00)、I
(hk0)及びI
(hkl)は、圧電薄膜の表面の面内回折X線の強度であり、圧電薄膜の表面は、導電層の表面に平行であり、面積分率Vが、90%以上100%以下であってよい。
【数1】
【0012】
導電層と圧電薄膜との間の格子不整合度の絶対値が、0%以上6%以下であってよい。
【0013】
圧電薄膜の表面の算術平均粗さRaが、0.1nm以上5.0nm以下であってよい。
【0014】
圧電薄膜は、窒化アルミニウムの単体、又は、添加元素を含む窒化アルミニウムであってよい。
【0015】
圧電薄膜は、酸化亜鉛の単体、又は、添加元素を含む酸化亜鉛であってよい。
【0016】
導電層は、複数の導電性結晶粒を含んでよく、圧電薄膜に含まれる結晶粒が、導電性結晶粒の表面に形成されていてよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、圧電薄膜における残留応力が低減された圧電薄膜素子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1中の(a)は、本発明の一実施形態に係る圧電薄膜素子10の模式的な斜視図であり、
図1中の(b)は、ウルツ型構造の単位胞ucの模式的な斜視図である。
【
図2】
図2中の(a)は、圧電薄膜素子10の模式的な断面であり、この断面は導電層4の表面の法線方向D
Nに対して平行であり、
図2中の(b)は、圧電薄膜素子10に備わる圧電薄膜2の表面2sの模式図であり、この表面2sは導電層4の表面の法線方向D
Nに対して垂直である。
【
図3】
図3中の(a)は、圧電薄膜2に含まれる結晶粒3(柱状結晶)の模式的な斜視図であり、
図3中の(b)は、圧電薄膜2に含まれる複数の結晶粒3の粒径dの粒度分布gである。
【
図4】
図4は、本発明の一実施形態に係る圧電薄膜素子10aの模式的な断面であり、この断面は導電層4の表面の法線方向D
Nに対して平行である。
【
図5】
図5は、圧電薄膜に含まれる結晶粒の粒径と導電層に含まれる導電性結晶粒の粒径との関係を示す模式図である。
【
図6】
図6は、実施例1の圧電薄膜の断面の画像であり、この断面は導電層の表面の法線方向に対して平行である。
【
図7】
図7中の(a)は、実施例1の圧電薄膜の表面の画像であり、この表面は導電層の表面の法線方向に対して垂直であり、
図7中の(b)は、二値化された
図7中の(a)の画像(binarized image)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、場合により図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。ただし、本発明は下記実施形態に何ら限定されるものではない。各図において、同一又は同等の構成要素には同一の符号を付す。各図に示されるX,Y及びZは、互いに直交する3つの座標軸を意味する。
【0020】
図1中の(a)に示されるように、本実施形態に係る圧電薄膜素子10は、導電層4と、導電層4の表面に直接積層された圧電薄膜2と、を備える。圧電薄膜2が積層される導電層4の表面は、導電性を有している。導電層4の全体が導電性を有していてもよい。導電層4は、複数の層を含んでよい。例えば、
図4に示されるように、導電層4は、基板1と、基板1の表面に直接積層された密着層8と、密着層8の表面に直接積層された第一電極層6とを備えてよく、圧電薄膜2は第一電極層6の表面に直接積層されてよい。つまり、圧電薄膜素子10の変形例である圧電薄膜素子10aは、基板1と、基板1に直接重なる密着層8と、密着層8の直接重なる第一電極層6と、第一電極層6に直接重なる圧電薄膜2と、圧電薄膜2に直接重なる第二電極層12と、を備えてよい。第一電極層6は、下部電極層と言い換えられてよい。第二電極層12、上部電極層と言い換えられてよい。ただし圧電薄膜素子10aは、第二電極層12を備えなくてもよい。例えば、第二電極層を備えない圧電薄膜素子が、製品として、電子機器の製造業者に供給された後、電子機器の製造過程において、第二電極層が圧電薄膜素子に付加されてよい。
【0021】
図2中の(a)及び(b)に示されるように、圧電薄膜2は、ウルツ鉱型構造を有する複数の結晶粒(crystalline grain)3を含む。換言すれば、個々の結晶粒3は、ウルツ鉱型構造を有する圧電性組成物を含む。場合により、ウルツ鉱型構造を有する結晶粒3は、「圧電性結晶粒」と表記される。個々の結晶粒3は、単結晶又は多結晶であってよい。複数の結晶粒3の間には粒界相5が介在してよい。粒界相5の一部又は全部は、導電層4の表面の法線方向D
Nに沿って圧電薄膜2を貫通していてよい。
【0022】
ウルツ鉱型構造の単位胞(unit cell)ucは、
図1中の(b)に示される。ウルツ鉱型構造を有する圧電組成物は、少なくとも二種類の元素(元素E
α及び元素E
β)を含んでよい。ウルツ鉱型構造を有する圧電組成物は、E
αE
βと表されてよい。例えば、E
αはAl(アルミニウム)であってよく、E
βはN(窒素)であってよく、E
αE
βはAlN(窒化アルミニウム)であってよい。E
αはZn(亜鉛)であってもよく、E
βはO(酸素)であってもよく、E
αE
βはZnO(酸化亜鉛)であってもよい。E
αの一部が他の添加元素によって置換されてよい。E
βの一部が他の添加元素によって置換されてもよい。ウルツ鉱型構造を有する圧電組成物の組成の詳細は、後述される。
【0023】
少なくとも一部の結晶粒3の(001)面は、導電層4の表面の法線方向DNにおいて配向している。好ましくは、全ての結晶粒3の(001)面が、導電層4の表面の法線方向DNにおいて配向していてよい。換言すれば、一部又は全部の結晶粒3の(001)面が、導電層4の表面の法線方向DNに対して略垂直であってよい。一部又は全部の結晶粒3の(001)面が、導電層4の表面に略平行であってよい。一部又は全部の結晶粒3の[001](結晶方位)が、導電層4の表面の法線方向DNと略平行であってよい。結晶粒3の(001)面は、単位胞ucにおける六角形状の結晶面に相当する。導電層4の表面の法線方向DNとは、圧電薄膜2が直接積層された面の法線方向DNである。法線方向DNは、導電層4の厚み方向(Z軸方向)と言い換えられてよい。場合により、面指数が(001)と等価でない結晶粒3の結晶面が、「非(001)面」と表記される。非(001)面は、例えば、(100)面又は(101)面である。導電層4の表面の法線方向DNにおいて非(001)面が配向している結晶粒3は、圧電薄膜2の圧電性に寄与し難い。ウルツ鉱型構造を有する結晶粒3の(001)面は、(0001)面と表記されてもよい。
【0024】
圧電薄膜2の圧電性が発現する結晶方位は、ウルツ鉱型構造の[001]である。したがって、一部又は全部の結晶粒3の(001)面が、導電層4の表面の法線方向DNにおいて配向することにより、圧電薄膜2は優れた圧電性を有することができる。同様の理由から、一部又は全部の結晶粒3の(001)面が、圧電薄膜2の表面2sの法線方向dnにおいて配向していてよい。換言すれば、一部又は全部の結晶粒3の(001)面が、圧電薄膜2の表面2sの法線方向dnに対して略垂直であってよい。一部又は全部の結晶粒3の(001)面が、圧電薄膜2の表面2sに略平行であってよい。一部又は全部の結晶粒3の[001](結晶方位)が、圧電薄膜2の表面2sの法線方向dnと略平行であってよい。圧電薄膜2の表面2sは、導電層4の表面に略平行な面であり、圧電薄膜2の表面2sは、導電層4の表面の法線方向DNに対して略垂直である。つまり、圧電薄膜2の表面2sの法線方向dnは、導電層4の表面の法線方向DNと略平行である。圧電薄膜2の表面の法線方向dnは、圧電薄膜2の厚み方向(Z軸方向)と言い換えられてよい。結晶粒3の[001]は、圧電薄膜2の分極方向と言い換えられてよい。場合により、法線方向DN又は法線方向dnにおいて(001)面が配向している結晶粒3は、「(001)配向性結晶粒」と表記される。
【0025】
導電層4の表面に平行な方向における複数の結晶粒3のメジアン径D50は、30nm以上80nm以下である。結晶粒3のメジアン径が30nm以上80nm以下であることにより、圧電薄膜2における残留応力が低減される。残留応力の低減によって、圧電薄膜2におけるクラックが抑制される。クラックの抑制によって、圧電薄膜2の圧電性及び絶縁性が向上する。同様の理由から、結晶粒3のメジアン径は、35nm以上70nm以下であってよい。
【0026】
結晶粒3のメジアン径の特定方法は、下記の通りである。
【0027】
結晶粒3のメジアン径は、導電層4の表面に平行な方向(XY面方向)における複数の結晶粒3の粒径dから算出される。個々の結晶粒3の粒径dは、圧電薄膜2の表面2sに露出する個々の結晶粒3の表面3sの面積から算出される。圧電薄膜2の表面2sに露出する個々の結晶粒3の表面3sは、
図2中の(b)に示される。個々の結晶粒3の表面3sの面積は、Aと表される。個々の結晶粒3の粒径d(直径)は、(4A/π)
1/2と表される。(4A/π)
1/2は、面積がAである円の直径(円相当径)に相当する。つまり個々の結晶粒3の粒径dは、個々の結晶粒3の表面3sの面積Aから算出されるHeywood径である。個々の結晶粒3の表面3sの面積Aの測定のために、圧電薄膜2の表面2sの画像が走査型電子顕微鏡(SEM)によって撮影される。圧電薄膜2の表面2sの画像の一例は、
図7中の(a)に示される。続いて、圧電薄膜2の表面2sの画像が二値化される。二値化された圧電薄膜2の表面2sの画像の一例は、
図7中の(b)に示される。
図7中の(b)に示される白い部分は、圧電薄膜2の表面2sに露出した結晶粒3の表面3sに相当する。
図7中の(b)に示される黒い部分は、粒界相5に相当する。粒界相5に囲まれた一つの閉領域(白い領域)の面積は、一つの結晶粒3の表面3sの面積Aとして測定される。粒界相5によって明確に区画されない結晶粒3は、面積Aの測定の対象から除外される。つまり、粒界相5によって明確に区画されない結晶粒3は、
図7中の(b)に示される黒い部分に含まれる。圧電薄膜2の表面2sの画像の二値化は、手作業又は画像解析ソフトウェアによって行われてよい。結晶粒3の表面3sの面積Aの測定は、画像解析ソフトウェアによって行われてよい。面積Aが測定される結晶粒3の個数N(サンプル数)は、例えば、300個以上500個以下であってよい。
【0028】
上記の方法によって算出されたn個の結晶粒3の粒径dから、結晶粒3の粒度分布が得られる。結晶粒3の粒度分布の一例は、
図3中の(b)に示される。結晶粒3の粒度分布gは、個数分布(個数基準の粒度分布)である。この粒度分布gに基づいて、結晶粒3のメジアン径D50が特定される。
図3中の(b)に示される粒度分布gは頻度分布であるが、粒度分布は積算分布であってもよい。
【0029】
圧電薄膜2における残留応力が低減されるメカニズムは、下記の通りである。
【0030】
圧電薄膜2の粒界過剰体積と、圧電薄膜2に含まれる結晶粒3の粒径dは、圧電薄膜2における残留応力σの因子である。圧電薄膜2の粒界過剰体積は、δと表される。δは、例えば(vp-vs)/2sと定義されてよい。vpは、圧電薄膜2の体積である。vsは、圧電薄膜2と同じ組成を有し、且つ圧電薄膜2と同数の原子からなる単結晶(完全結晶)の体積である。sは、圧電薄膜2の表面2sの面積である。圧電薄膜2の粒界過剰体積δは、圧電薄膜2の表面2sに露出した粒界相5の単位面積あたりの粒界相5の自由体積を意味する。圧電薄膜2の粒界過剰体積δの増加に伴って、応力が粒界相5に集中し易く、圧電薄膜2における残留応力σは増加する。一方、圧電薄膜2に含まれる結晶粒3の粒径dの減少に伴って、圧電薄膜2における残留応力σは減少する。つまり、圧電薄膜2における残留応力σは、δ/dに比例する。したがって、結晶粒3のメジアン径D50が大きいほど、圧電薄膜2における残留応力σが小さい傾向がある。換言すれば、圧電薄膜2に占める粒界相5の体積の割合が小さいほど、圧電薄膜2における残留応力σが小さい傾向がある。そして、圧電薄膜2が、ウルツ鉱型構造を有する複数の結晶粒3を含み、少なくとも一部の結晶粒3の(001)面が、導電層4の表面の法線方向DNにおいて配向している場合、結晶粒3のメジアン径D50が30nm以上80nm以下であることにより、圧電薄膜2における残留応力が低減される。仮に結晶粒3のメジアン径が30nm未満である場合、圧電薄膜2における残留応力を十分に低減することは困難である。圧電薄膜2における残留応力が低減される結晶粒3のメジアン径の範囲は、本発明者らによってはじめて特定された範囲である。
【0031】
本発明の技術的範囲は、以上のメカニズムによって限定されない。
【0032】
圧電薄膜2の厚みTは、例えば、0.1μm以上30μm以下であってよい。圧電薄膜2の厚みTは、略均一であってよい。圧電薄膜2の厚みTは、導電層4の表面の法線方向DNにおける個々の結晶粒3の長さとみなされてよい。
【0033】
少なくとも一部の結晶粒3は、柱状結晶であってよい。全部の結晶粒3が、柱状結晶であってよい。
図3中の(a)に示されるように、柱状結晶は、導電層4の表面の法線方向D
Nに沿って延び、且つアスペクト比d/Tが0より大きく1未満である結晶粒3と定義される。柱状結晶の(001)面は法線方向D
Nにおいて配向し易いので、圧電薄膜2が柱状結晶を含むことにより、圧電薄膜2は優れた圧電性を有し易い。柱状結晶のメジアン径D’50は、30nm以上80nm以下であることが好ましい。柱状結晶のメジアン径が30nm以上80nm以下であることにより、圧電薄膜2における残留応力が低減され易い。同様の理由から、柱状結晶のメジアン径は、35nm以上70nm以下であってよい。柱状結晶のメジアン径D’50は柱状結晶のみに基づいて特定されることを除いて、柱状結晶のメジアン径D’50の定義及び特定方法は、結晶粒3のメジアン径D50の定義及び特定方法と同じである。つまり、柱状結晶のメジアン径D’50の特定方法では、アスペクト比d/Tが1以上である結晶粒3の粒径dが粒度分布gから除外される。
【0034】
結晶粒3の面積分率V(単位:%)は、下記数式1によって定義される。下記数式1中のh、k及びlは、ウルツ鉱型構造のミラー指数である。hは、0以上3以下である整数である。kは、0以上2以下である整数である。lは、0以上6以下である整数である。下記数式1中のΣI
(h00)は、ウルツ鉱型構造の(h00)面に由来する回折X線の強度I
(h00)の総和である。下記数式1中のΣI
(hk0)は、ウルツ鉱型構造の(hk0)面に由来する回折X線の強度I
(hk0)の総和である。下記数式1中のΣI
(hkl)は、ウルツ鉱型構造の全結晶面に由来する回折X線の強度の総和である。I
(h00)、I
(hk0)及びI
(hkl)は、圧電薄膜2の表面2sの面内回折X線の強度である。つまりI
(h00)、I
(hk0)及びI
(hkl)は、圧電薄膜2の表面2sにおけるIn plane回折によって測定されるX線回折(XRD)パターンのピーク強度である。上述の通り、圧電薄膜2の表面2sは、圧電薄膜2が積層される導電層4の表面に略平行である。圧電薄膜2に含まれる全部の結晶粒3のうち(001)配向性結晶粒の割合が高いほど、面積分率Vは高い。圧電薄膜2に含まれる全部の結晶粒3の(001)面が圧電薄膜2の表面2sと平行である場合、(h00)面及び(hk0)面其々に由来する回折X線のみが圧電薄膜2の表面2sの面内方向において検出されるので、ΣI
(hkl)はΣI
(h00)+ΣI
(hk0)に等しい。したがって、圧電薄膜2に含まれる全部の結晶粒3の(001)面が圧電薄膜2の表面2sと平行である場合、面積分率Vは100%である。面積分率Vは、90%以上100%以下であってよい。面積分率Vが90%以上である場合、D50又はD’50の増加に伴って圧電薄膜2における残留応力が減少し易い。同様の理由から、面積分率Vは、95%以上100%以下、96%以上100%以下、97%以上100%以下、98%以上100%以下、又は99%以上100%以下であってよい。数式1は、下記数式1aと等価である。
【数2】
【数3】
【0035】
導電層4と圧電薄膜2との間の格子不整合度Δa/aの絶対値は、0%以上6%以下であってよい。格子不整合度Δa/aの絶対値は、0%以上3.4%以下であってもよい。導電層4と圧電薄膜2との間の格子不整合度Δa/aは、下記数式2によって定義される。
【数4】
【0036】
数式1中、aele.は、圧電薄膜2の成膜温度T℃(例えば300℃)における導電層4のa軸方向の格子定数であってよい。例えば、aele.は、導電層4の結晶構造の(100)面の間隔であってよい。aele.は、圧電薄膜2が積層される導電層4の表面の格子定数と言い換えられてよい。導電層4が第一電極層6を含み、圧電薄膜2が第一電極層6の表面に直接積層される場合、aele.は第一電極層6の格子定数であってよい。室温(27℃)における導電層4の格子定数はaele.0と表されてよく、導電層4の熱膨張係数はCTEele.と表されてよい。または、室温(27℃)における第一電極層6の格子定数はaele.0と表されてよく、第一電極層6の熱膨張係数がCTEele.と表されてよい。T℃でのaele.は、aele.0+CTEele.×(T-27)に等しい。awurt.は、圧電薄膜2の成膜温度(例えば300℃)における圧電薄膜2のウルツ型構造のa軸方向の格子定数であってよい。例えば、awurt.は、ウルツ型構造の(100)面の間隔であってよい。室温(27℃)における圧電薄膜2のウルツ型構造の格子定数はawurt.0と表されてよい。圧電薄膜2の熱膨張係数はCTEwurt.と表されてよい。T℃でのawurt.は、awurt.0+CTEwurt.×(T-27)に等しい。
【0037】
導電層4と圧電薄膜2との間の格子不整合度Δa/aの絶対値が0%以上6%以下であることが好ましい理由は、以下の通りである。
【0038】
Δa/aの絶対値が低減されることにより、結晶粒3の(001)面が導電層4の表面の法線方向DNにおいて配向し易く、結晶粒3の面積分率Vが高まり易い。つまり、導電層4の表面の法線方向DNにおいて、結晶粒3の(001)面の配向の揺らぎが抑制され易く、法線方向DNにおける結晶粒3の非(001)面の配向が抑制され易い。その結果、圧電薄膜2の圧電特性が向上し易い。
【0039】
Δa/aの絶対値が低減されることにより、圧電薄膜2における残留応力が低減され易い。残留応力の低減により、圧電薄膜2におけるクラックが抑制され易く、圧電薄膜2の圧電特性及び絶縁性が向上し易い。また圧電薄膜2におけるクラックの抑制により、第一電極層6からの圧電薄膜2の剥離が抑制され易い。例えば、導電層4が基板1及び第一電極層6を含み、圧電薄膜2が第一電極層6の表面に直接積層され、基板1がシリコンの単結晶であり、圧電薄膜2が窒化アルミニウムである場合、圧電薄膜2における残留応力σ(単位:GPa)は、下記数式3で表される。
【数5】
【0040】
数式3中のEは、圧電薄膜2のヤング率(単位:GPa)である。νは、圧電薄膜2のポアソン比である。εmisfitは、第一電極層6と圧電薄膜2との間の格子不整合度に由来する因子である。εthermalは、基板1と圧電薄膜2との間の熱膨張係数の差に由来する因子である。Δa/aは、上記の格子不整合度である。αAlNは、圧電薄膜2(AlN)の熱膨張係数であり、約4.2×10-6/℃である。αSiは、基板1(Si)の熱膨張係数であり、約3.0×10-6/℃である。数式3に示される通り、格子不整合度の減少によって、残留応力σが減少する。また、基板1と圧電薄膜2との間の熱膨張係数の差の減少によって、残留応力σが減少する。第一電極層6がタングステンであり、圧電薄膜2が300℃で形成される場合、εmisfitは、約2.52%であり、εthermalは、3.28×10-4%である。これらの数値は、格子不整合度及び熱膨張係数差のうち、格子不整合度が残留応力σにとって支配的な要因であることを示唆している。
【0041】
圧電薄膜2に含まれる全部の結晶粒3のうち(001)配向性結晶粒の割合が高いほど、圧電薄膜2の表面2sは平滑である。換言すれば、結晶粒3の面積分率Vが高いほど、圧電薄膜2の表面2sは平滑である。一方、導電層4の表面の法線方向DNにおいて非(001)面が配向する結晶粒3が多いほど、圧電薄膜2の表面2sは粗い。また導電層4と圧電薄膜2との間の格子不整合度Δa/aの絶対値が小さいほど、圧電薄膜2の表面2sは平滑である。
【0042】
圧電薄膜2の表面2sが平滑であることにより、圧電薄膜2の絶縁抵抗が高まり易い。その理由は以下の通りである。導電層4と圧電薄膜2との間の格子不整合度が大きい場合、Volmer-Weber型のアイランド成長によって圧電薄膜2が形成され易い。その結果、圧電薄膜2の表面が粗くなる。表面が粗い圧電薄膜2に電界を印加した場合、圧電薄膜2の表面における電界分布が偏り易く、圧電薄膜2の表面の局所(例えば、凸部)における電界強度が過度に高くなり易い。その結果、圧電薄膜2における絶縁破壊が起きて易い。一方、導電層4と圧電薄膜2との間の格子不整合度が小さい場合、Frank‐Van der Merwe型のLayer‐by‐layer成長によって圧電薄膜2が形成され易い。その結果、圧電薄膜2の表面が平滑になり易い。表面が平滑である圧電薄膜2に電界を印加した場合、圧電薄膜2の表面における電界分布が均一になり易い。その結果、圧電薄膜2における絶縁破壊は起き難い。
【0043】
圧電薄膜2の表面2sが粗いほど、圧電薄膜2の表面2sが第二電極層12によって均一に被覆され難く、第二電極層12の厚みが不均一である。その結果、第二電極層12のインピーダンスが変化し易く、圧電薄膜素子10の誘電損失が変化し易い。また圧電薄膜2の圧電現象の発現によって、第二電極層12において比較的薄い部分が破損し易い。つまり、第二電極層12において比較的薄い部分においてクラックが形成され易い。その結果、第二電極層12の実効的な面積が変化し易く、圧電薄膜素子10の出力が経時的に安定し難い。
【0044】
以上の理由から、圧電薄膜2の表面2sが平滑であることが好ましい。換言すれば、圧電薄膜2の表面2sの算術平均粗さRaは小さいことが好ましい。例えば、圧電薄膜2の表面2sの算術平均粗さRaは、0.1nm以上5.0nm以下、又は1.4nm以上4.4nm以下であってよい。圧電薄膜2の表面2sの算術平均粗さRaとは、導電層4に面する圧電薄膜2の表面の裏面の算術平均粗さである。算術平均粗さRaは、原子間力顕微鏡(AFM)によって測定されてよい。算術平均粗さRaが上記の範囲外であっても、本発明の効果を達成することは可能である。
【0045】
導電層4は、複数の導電性結晶粒を含んでよく、圧電薄膜2に含まれる圧電性結晶粒3は、導電性結晶粒の表面に形成されていてよい。例えば、導電層4が、基板1、密着層8及び第一電極層6を含み、圧電薄膜2が第一電極層6の表面に直接積層される場合、
図5に示されるように、第一電極層6は複数の導電性結晶粒6aから構成されてよい。一つの圧電性結晶粒3aが一つの導電性結晶粒6aの表面全体を覆うように、圧電性結晶粒3が導電性結晶粒6aの表面に形成されていてよい。複数の圧電性結晶粒3aが一つの導電性結晶粒6aの表面全体を覆うように、圧電性結晶粒3aが導電性結晶粒6aの表面に形成されていてもよい。
【0046】
第一電極層6のアニーリング(annealing)により、複数の導電性結晶粒6aは凝集して、より大きい導電性結晶粒6bへ成長する。大きい導電性結晶粒6bの表面に覆う圧電性結晶粒3bの粒径dは、小さい導電性結晶粒6aを覆う圧電性結晶粒3aの粒径dよりも大きい傾向がある。つまり、導電性結晶粒の粒径の増加に伴い、圧電性結晶粒3の粒径d及びメジアン径D50も増加し易い。
【0047】
以上の理由から、導電性結晶粒の粒径の調整によって、圧電性結晶粒3のメジアン径D50を制御することが可能である。第一電極層6のアニーリングの温度が高いほど、導電性結晶粒の粒径及びメジアン径は増加し易く、圧電性結晶粒3の粒径d及びメジアン径D50も増加し易い。第一電極層6のアニーリングの時間が長いほど、導電性結晶粒の粒径及びメジアン径は増加し易く、圧電性結晶粒3の粒径d及びメジアン径D50も増加し易い。アニーリングの温度は、第一電極層6を構成する導電性結晶粒が凝集及び成長する温度であればよい。導電性結晶粒が凝集及び成長する温度は、第一電極層6の組成に依って変動するので、アニーリングの温度は限定されない。アニーリングの雰囲気は、例えば、Ar(アルゴン)単体、Ar及びO2(酸素)の混合ガス、又はAr及びN2(窒素)の混合ガスであってよい。導電性結晶粒の粒径を制御する方法は、第一電極層6のアニーリングに限定されない。第一電極層6が密着層8の表面に直接積層される場合、密着層8を構成する結晶粒の粒径の増加に伴い、導電性結晶粒の粒径も増加し易い。したがって密着層8を構成する結晶粒の粒径の調整によって、導電性結晶粒の粒径が制御されてよい。導電性結晶粒の場合と同様に、密着層8を構成する結晶粒は、密着層8のアニーリングによって制御されてよい。
【0048】
第一電極層6の組成の選択によって、圧電性結晶粒3のメジアン径D50が制御されてもよい。第一電極層6の厚みの調整によって、圧電性結晶粒3のメジアン径D50が制御されてもよい。密着層8の組成の選択によって、導電性結晶粒の粒径が制御されてもよい。密着層8の厚みの調整によって、導電性結晶粒の粒径が制御されてもよい。
【0049】
例えば、金属板、n型半導体又はp型半導体のように、基板1自体が導電性を有する場合、導電層4は基板1のみからなっていてよく、圧電薄膜2は基板1の表面に直接積層されていてよい。圧電薄膜2が基板1の表面に直接積層される場合、基板1は複数の導電性結晶粒を含む多結晶であってよく、複数の導電性結晶粒が基板1の表面に露出していてよい。基板1の表面に露出する導電性結晶粒の粒径の増加に伴い、圧電性結晶粒3の粒径d及びメジアン径D50も増加し易い。したがって、基板1の表面に露出する導電性結晶粒の粒径の調整によって、圧電性結晶粒3のメジアン径D50を制御することが可能である。基板1の組成の選択によって、圧電性結晶粒3のメジアン径D50が制御されてもよい。
【0050】
導電層4の表面に平行な方向における複数の導電性結晶粒のメジアン径は、例えば、30nm以上80nm以下に調整されてよい。その結果、圧電性結晶粒3のメジアン径D50が30nm以上80nm以下に制御され易い。圧電薄膜2の形成前に、走査型電子顕微鏡を用いた導電層4(例えば第一電極層6)の表面の分析によって、導電性結晶粒のメジアン径が測定されてよい。圧電薄膜素子10における圧電薄膜2と導電層4との界面に平行な方向において、導電層4(例えば第一電極層6)の断面が形成されてよく、走査型電子顕微鏡を用いた導電層4の断面の分析によって、導電性結晶粒のメジアン径が測定されてもよい。
【0051】
上述の通り、圧電薄膜2は、ウルツ鉱型構造を有する圧電組成物を含む。換言すれば、個々の結晶粒3は、ウルツ鉱型構造を有する圧電組成物を含む。ウルツ鉱型構造を有する圧電組成物は、例えば、AlN(窒化アルミニウム)、ZnO(酸化亜鉛)、ZnS(硫化亜鉛)、ZnTe(テルル化亜鉛)、CdS(硫化カドミウム)、CdSe(セレン化カドミウム)及びCdTe(テルル化カドミウム)からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。圧電薄膜2は、複数種の圧電組成物を含んでよい。圧電薄膜2は、ウルツ鉱型構造を有する圧電組成物のみからなっていてよい。個々の結晶粒3は、ウルツ鉱型構造を有する圧電組成物のみからなっていてよい。例えば、圧電薄膜2は、窒化アルミニウムの単体であってよい。圧電薄膜2は、酸化亜鉛の単体であってもよい。
【0052】
ウルツ鉱型構造が損なわれない限りにおいて、上記の圧電組成物は、添加元素を含んでもよい。例えば、圧電薄膜2は、添加元素を含む窒化アルミニウムであってよい。圧電薄膜2は、添加元素を含む酸化亜鉛であってもよい。添加元素は、1価元素、2価元素、3価元素、4価元素及び5価元素からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。1価元素は、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)及びカリウム(K)からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。2価元素は、Mg(マグネシウム)、Ca(カルシウム)、Sr(ストロンチウム)及びBa(バリウム)からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。3価元素は、Sc(スカンジウム)、Y(イットリウム)及びIn(インジウム)からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。4価元素は、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)及びHf(ハフニウム)からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。5価元素は、Cr(クロム)、V(バナジウム)、Nb(ニオブ)及びTa(タンタル)からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。圧電薄膜2は、一種又は複数種の上記添加元素を含んでよい。圧電薄膜2が上記添加元素を含む場合、ウルツ型構造の格子定数が調整され易く、ウルツ型構造を有する結晶粒3(柱状結晶)が導電層4の表面に一様に形成され易く、結晶粒3のメジアン径D50が増加し易く、圧電薄膜2の圧電特性が向上し易い。粒界相5の組成は限定されない。粒界相5に含まれる元素の一部又は全部が、圧電組成物に含まれる上記元素のうち少なくとも一種と共通していてよい。
【0053】
導電層4において圧電薄膜2が直接積層される表面は、面心立方格子構造を有していてよい。例えば、第一電極層6が面心立方格子構造を有していてよい。導電層4の全体が面心立方格子構造を有していてもよい。圧電性結晶粒3のウルツ鉱型構造は、面心立方格子構造と整合し易い。したがって、導電層4において圧電薄膜2が直接積層される表面が、面心立方格子構造を有することにより、格子不整合度Δa/aの絶対値が低減され易く、圧電性結晶粒3の(001)面の配向性が向上し易い。
【0054】
導電層4において圧電薄膜2が直接積層される表面が、面心立方格子構造を有する場合、導電層4において圧電薄膜2が直接積層される表面は、面心立方格子構造の(111)面であってよい。面心立方格子構造の(111)面内における原子配列は、ウルツ鉱型構造の(001)面内における原子配列と整合し易い。その結果、格子不整合度Δa/aの絶対値が低減され易く、圧電性結晶粒3の(001)面の配向性が向上し易い。
【0055】
導電層4において圧電薄膜2が直接積層される表面は、体心立方格子構造を有していてもよい。例えば、第一電極層6が体心立方格子構造を有していてよい。導電層4の全体が体心立方格子構造を有していてもよい。圧電性結晶粒3のウルツ鉱型構造は、体心立方格子構造と整合し易い。したがって、導電層4において圧電薄膜2が直接積層される表面が、体心立方格子構造を有することにより、格子不整合度Δa/aの絶対値が低減され易く、圧電性結晶粒3の(001)面の配向性が向上し易い。
【0056】
導電層4において圧電薄膜2が直接積層される表面が、体心立方格子構造を有する場合、導電層4において圧電薄膜2が直接積層される表面は、体心立方格子構造の(110)面であってよい。体心立方格子構造の(110)面内における原子配列は、ウルツ鉱型構造の(001)面内における原子配列と整合し易い。その結果、格子不整合度Δa/aの絶対値が低減され易く、圧電性結晶粒3の(001)面の配向性が向上し易い。
【0057】
導電層4において圧電薄膜2が直接積層される表面は、六方最密充填構造を有していてもよい。例えば、第一電極層6が六方最密充填構造を有していてよい。導電層4の全体が六方最密充填構造を有していてもよい。圧電性結晶粒3のウルツ鉱型構造は、六方最密充填構造と整合し易い。したがって、導電層4において圧電薄膜2が直接積層される表面が、六方最密充填構造を有することにより、格子不整合度Δa/aの絶対値が低減され易く、圧電性結晶粒3の(001)面の配向性が向上し易い。
【0058】
導電層4において圧電薄膜2が直接積層される表面が、六方最密充填構造を有する場合、導電層4において圧電薄膜2が直接積層される表面は、六方最密充填構造の(001)面であってよい。六方最密充填構造の(001)面内における原子配列は、ウルツ鉱型構造の(001)面内における原子配列と整合し易い。その結果、格子不整合度Δa/aの絶対値が低減され易く、圧電性結晶粒3の(001)面の配向性が向上し易い。
【0059】
基板1は、例えば、半導体基板(シリコン基板、若しくはガリウム砒素基板等)、光学結晶基板(サファイア基板等)、絶縁体基板(ガラス基板、若しくはセラミックス基板等)又は金属基板(ステンレス鋼板等)であってよい。
【0060】
第一電極層6は、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、V(バナジウム)、Cr(クロム)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、Ru(ルテニウム)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)、Ti(チタン)、Y(イットリウム)、Sc(スカンジウム)、Mg(マグネシウム)、Pt(白金)、Ir(イリジウム)、Au(金)、Rh(ロジウム)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)及びAl(アルミニウム)からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含んでよい。第一電極層6は、上記の群より選ばれる少なくとも二種の元素を含む合金であってよい。第一電極層6は、金属単体であってもよい。第一電極層6が上記の組成を有することにより、圧電性結晶粒3の(001)面の配向性が向上し易い。
【0061】
第一電極層6は基板1の表面に直接積層されていてよい。第一電極層6と基板1との間に密着層8が介在してもよい。密着層8は、Al(アルミニウム)、Si(ケイ素)、Ti(チタン)、Zn(亜鉛)、Y(イットリウム)、Zr(ジルコニウム)、Cr(クロム)、Nb(ニオブ)、Mo(モリブデン)、Hf(ハフニウム)、Ta(タンタル)、W(タングステン)及びCe(セリウム)からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。密着層8は、金属単体、合金又は化合物(酸化物など)であってよい。密着層8は、別の圧電薄膜、高分子、又はセラミックスから構成されていてもよい。密着層8が上記の組成を有することにより、第一電極層6に含まれる導電性結晶粒の粒径が増加し易い。また密着層8の介在により、第一電極層6の面心立方格子構造の(111)面が、導電層4の表面の法線方向DNにおいて配向し易い。または密着層8の介在により、第一電極層6の体心立方格子構造の(110)面が、導電層4の表面の法線方向DNにおいて配向し易い。または密着層8の介在により、第一電極層6の六方最密充填構造の(001)面が、導電層4の表面の法線方向DNにおいて配向し易い。密着層8は、機械的な衝撃等に因る第一電極層6の剥離を抑制する機能も有する。密着層8は、界面層、支持層、バッファ層又は中間層と言い換えられてよい。
【0062】
第二電極層12は、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、V(バナジウム)、Cr(クロム)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、Ru(ルテニウム)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)、Ti(チタン)、Y(イットリウム)、Sc(スカンジウム)、Mg(マグネシウム)、Pt(白金)、Ir(イリジウム)、Au(金)、Rh(ロジウム)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)及びAl(アルミニウム)からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含んでよい。第二電極層12は、上記の群より選ばれる少なくとも二種の元素を含む合金であってよい。第二電極層12は、金属単体であってもよい。
【0063】
基板1の厚みは、例えば、50μm以上10000μm以下であってよい。密着層8の厚みは、例えば、0.01μm以上1μm以下であってよい。第一電極層6の厚みは、例えば、0.01μm以上1μm以下であってよい。第二電極層12の厚みは、例えば、0.01μm以上1μm以下であってよい。
【0064】
密着層8、第一電極層6、圧電薄膜2及び第二電極層12それぞれは、少なくとも一種のターゲットを用いたスパッタリングによって積層順に従って形成されてよい。複数のターゲットを用いたスパッタリング(co‐sputtering、又はmulti‐sputtering)によって、密着層8、第一電極層6、圧電薄膜2及び第二電極層12それぞれが形成されてもよい。ターゲットは、各層又は圧電薄膜を構成する元素のうち少なくとも一種を含んでよい。所定の組成を有するターゲットの選定及び組合せにより、目的とする組成を有する各層及び圧電薄膜2それぞれを形成することができる。ターゲットは、例えば、金属単体、合金又は酸化物であってよい。スパッタリングの雰囲気の組成は、各層及び圧電薄膜2それぞれの組成を左右する。圧電薄膜2を形成するためのスパッタリングの雰囲気は、例えば、窒素ガスであってよい。圧電薄膜2を形成するためのスパッタリングの雰囲気は、希ガス(例えばアルゴン)と窒素とを含む混合ガスであってもよい。各ターゲットに与えられる入力パワー(電力密度)は、各層及び圧電薄膜2それぞれの組成及び厚みの制御因子である。スパッタリングの雰囲気の全圧、雰囲気中の原料ガス(例えば窒素)の分圧又は濃度、各ターゲットのスパッタリングの継続時間、圧電薄膜が形成される基板表面の温度、及び基板バイアス等も、各層及び圧電薄膜2それぞれの組成及び厚みの制御因子である。エッチング(例えばプラズマエッチング)により、所望の形状又はパターンを有する圧電薄膜が形成されてよい。
【0065】
密着層8、第一電極層6、圧電薄膜2及び第二電極層12それぞれの結晶構造は、X線回折(XRD)法によって特定されてよい。各層及び圧電薄膜2それぞれの組成は、蛍光X線分析法(XRF法)、エネルギー分散型X線分析法(EDX)、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)、レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法(LA-ICP-MS)、及び電子線マイクロアナライザ(EPMA)を用いた分析法、のうち少なくともいずれか一つの分析方法にとって特定されてよい。
【0066】
本実施形態に係る圧電薄膜素子の用途は、多岐にわたる。圧電薄膜素子は、例えば、圧電マイクロフォン、ハーベスタ、発振子、共振子、又は音響多層膜であってよい。圧電薄膜素子は、例えば、圧電アクチュエータであってもよい。圧電アクチュエータは、例えば、ヘッドアセンブリ、ヘッドスタックアセンブリ、又はハードディスクドライブに用いられてよい。圧電アクチュエータは、例えば、プリンタヘッド、又はインクジェットプリンタ装置に用いられてもよい。圧電アクチュエータは、圧電スイッチに用いられてもよい。圧電薄膜素子は、例えば、圧電センサであってもよい。圧電センサは、例えば、ジャイロセンサ、圧力センサ、脈波センサ、超音波センサ、又はショックセンサに用いられてよい。上述された各圧電薄膜素子は、MEMSの一部又は全部であってよい。
【実施例】
【0067】
以下では実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0068】
(実施例1)
真空チャンバー内でのRFマグネトロンスパッタリングにより、Tiからなる密着層が基板の表面全体に直接形成された。基板はシリコンの単結晶であり、密着層が形成された基板の表面はシリコンの(100)面であった。基板の厚みは、625μmであった。基板の厚みは均一であった。密着層の厚みは、0.03μmであった。密着層の厚みは均一であった。真空チャンバー内の雰囲気は、Arガスであった。密着層の形成過程における基板の温度は、300℃に維持された。スパッタリングターゲットとしては、Ti単体が用いられた。スパッタリングターゲットの単位面積当たりの入力パワーは、9.87W/cm2であった。
【0069】
真空チャンバー内でのRFマグネトロンスパッタリングにより、Niからなる第一電極層(下部電極層)が密着層の表面全体に直接形成された。第一電極層の厚みは、0.3μmであった。第一電極層の厚みは均一であった。真空チャンバー内の雰囲気は、Arガスであった。第一電極層の形成過程における基板及び密着層の温度は、300℃に維持された。スパッタリングターゲットとしては、Al単体が用いられた。スパッタリングターゲットの単位面積当たりの入力パワーは、9.87W/cm2であった。
【0070】
真空チャンバー内で、第一電極層が500℃でアニールされた。真空チャンバー内の雰囲気は、Ar及びN2の混合ガスであった。アニーリングの継続時間は、10分であった。第一電極層は面心立方格子構造を有していた。第一電極層の表面は、面心立方格子構造の(111)面であった。
【0071】
真空チャンバー内でのRFマグネトロンスパッタリングにより、圧電薄膜を、第一電極層の表面全体に直接形成した。圧電薄膜は、ウルツ型構造を有するAlNからなっていた。圧電薄膜の厚みTは、1.3μmであった。圧電薄膜の厚みは均一であった。真空チャンバー内の雰囲気は、Ar及びN2の混合ガスであった。圧電薄膜の形成過程における基板、密着層及び第一電極層の温度は、300℃に維持された。スパッタリングターゲットとしては、Al単体が用いられた。RFマグネトロンスパッタリングにおける入力パワーは、9.87W/cm2であった。
【0072】
第一電極層の場合の同様の方法で、第二電極層を圧電薄膜の表面全体に直接形成した。第二電極層の組成は、第一電極の組成と全く同じであった。第二電極層の厚みは、第一電極の厚みと全く同じであった。第二電極層の厚みは均一であった。
【0073】
以上の通り、基板と、基板に直接積層された密着層と、密着層に直接積層された第一電極層と、第一電極層に直接積層された圧電薄膜と、圧電薄膜に直接積層された第二電極と、を備える積層体を作製した。続いて、フォトリソグラフィにより、基板上の積層構造のパターニングを行った。続いて、積層体全体を、ダイシングにより切断することにより、四角形状の実施例1の圧電薄膜素子を得た。圧電薄膜素子は、基板と、基板に直接積層された密着層と、密着層に直接積層された第一電極層と、第一電極層に直接積層された圧電薄膜と、圧電薄膜に直接積層された第二電極層と、を備えていた。圧電薄膜の表面は、基板の表面及び第一電極層の表面其々に対して平行であった。基板と、基板に直接積層された密着層と、密着層に直接積層された第一電極層からなる層は、上述の導電層に相当する。第一電極層の表面の法線方向は、上述の導電層の表面の法線方向に相当する。基板の表面の法線方向は、第一電極層の表面の法線方向と同じである。
【0074】
後述される分析及び測定のために、複数の実施例1の圧電薄膜素子が作製された。
【0075】
[圧電薄膜素子の分析]
上述の第一電極層及び圧電薄膜の結晶構造は、X線回折(XRD)法により特定された。第一電極層及び圧電薄膜それぞれの組成は、蛍光X線分析法(XRF法)及びレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法(LA-ICP-MS)により特定された。XRD法には、株式会社リガク製の多目的X線回折装置(SmartLab)を用いた。XRF法には、株式会社リガク製の分析装置(ZSX-100e)を用いた。LA-ICP-MS法には、Agilent社製の分析装置(7500s)を用いた。
【0076】
<メジアン径D’50>
実施例1の圧電薄膜を、圧電薄膜の表面に対して垂直な方向に切断することにより、圧電薄膜の断面が形成された。走査型顕微鏡(SEM)によって撮影された圧電薄膜の断面の画像は、
図6に示される。SEMとしては、株式会社日立ハイテクノロジーズ製のS‐4700が用いられた。
図6に示されるように、圧電薄膜は、第一電極層の表面の法線方向に対して略平行に延びる多数の結晶粒(柱状結晶)を含んでいた。
【0077】
帯電を防止するために、圧電薄膜の表面全体が、Ptからなる薄膜で覆われた。Ptの薄膜で覆われた圧電薄膜の表面が、上記のSEMによって撮影された。SEMによって撮影された圧電薄膜の表面の画像は、
図7中の(a)に示される。
図7中の(a)に示される圧電薄膜の表面は、第一電極層の表面に対して平行であった。
図7中の(a)に示されるように、多数の結晶粒(柱状結晶)が圧電薄膜の表面に露出していた。
図7中の(a)に示される圧電薄膜の長方形状の表面の寸法は、縦880nm×横1260nmであった。
【0078】
図7中の(a)に示される画像が、手作業によって二値化された。二値化された圧電薄膜の表面の画像は、
図7中の(b)に示される。
図7中の(b)に示される白い部分は、圧電薄膜の表面に露出した結晶粒の表面に相当する。
図7中の(b)に示される黒い部分は、粒界相に相当する。粒界相に囲まれた一つの閉領域(白い領域)の面積が、一つの結晶粒の表面の面積Aとして測定された。粒界相によって明確に区画されない結晶粒は、面積の測定の対象から除外された。個々の結晶粒の表面の面積の測定には、画像解析ソフトが用いられた。画像解析ソフトとしては、TDK株式会社製の画像解析ソフト(非売品)が用いられた。画像解析ソフトとして、株式会社マウンテック製のMac‐Viewが用いられてもよい。
【0079】
個々の結晶粒の表面の面積Aの測定値から、個々の結晶粒の粒径d(円相当径)が算出された。個々の結晶粒の粒径d(直径)は、(4A/π)
1/2と表される。
図7中の(b)に示される表面内にある全ての結晶粒から、柱状結晶のみが選定された。柱状結晶とは、アスペクト比d/Tが0より大きく1未満である結晶粒である。Tは、上述の通り圧電薄膜の厚みである。柱状結晶の粒径dの粒度分布に基づいて、柱状結晶のメジアン径D’50が特定された。実施例1の柱状結晶のメジアン径D’50は、下記表1に示される。
【0080】
<(001)面の配向方向>
第一電極層に直接積層された圧電薄膜の表面において、上記のX線回折装置を用いた2θχ‐φスキャン及び2θχスキャンが行われた。2θχ‐φスキャン及び2θχスキャンによって測定されたXRDパターンは、圧電薄膜が、ウルツ鉱型構造を有する複数の結晶粒を含み、大多数の結晶粒の(001)面が、導電層の表面の法線方向において配向していることを示していた。つまり、圧電薄膜に含まれる大多数の結晶粒の(001)面は、基板及び第一電極層其々の表面にほぼ平行であった。
【0081】
測定されたXRDパターンから算出された実施例1の結晶粒の面積分率V(単位:%)は、下記表1に示される。
【0082】
<格子不整合度Δa/a>
第一電極層と圧電薄膜との間の格子不整合度Δa/aが測定された。実施例1のΔa/aの絶対値(単位:%)は、下記表1に示される。
【0083】
<算術平均粗さRa>
圧電薄膜の表面の算術平均粗さRa(単位:nm)が原子間力顕微鏡によって測定された。原子間力顕微鏡としては、株式会社日立ハイテクサイエンス製のL-traceが用いられた。圧電薄膜の表面のうち原子間力顕微鏡で走査された長方形状の領域の寸法は、縦5μm×横5μmであった。実施例1の算術平均粗さRaは、下記表1に示される。
【0084】
<残留応力σ>
以下の手順で、実施例1の圧電薄膜における残留応力σ(単位:MPa)を算出した。まず、圧電薄膜が形成される前の導電層(つまり、基板、密着層及び第一電極層からなる積層体)の曲率半径R
Before(単位:μm)が測定された。続いて、圧電薄膜が形成された後の導電層(つまり、基板、密着層、第一電極層及び圧電薄膜からなる積層体)の曲率半径R
After(単位:μm)が測定された。R
Before及びR
After其々の測定には、KLA‐Tencor社製の測定装置(P‐16プロファイラ)を用いた。そして、下記数式4(ストーニーの式)に基づき、実施例1の残留応力σを算出した。正の残留応力σは、引っ張り応力であり、負の残留応力σは、圧縮応力である。実施例1の残留応力σは、下記表1に示される。
【数6】
【0085】
数式3中のEは、シリコンからなる基板のヤング率(単位:GPa)である。νsは、シリコンからなる基板のポアソン比である。tsub.(単位:μm)は、シリコンからなる基板の厚みである。tfilm(単位:μm)は、圧電薄膜の厚みTである。
【0086】
<クラック率RCRACK>
100mm×100mmの板状の実施例1の圧電薄膜素子を切断して、10mm角の100個のサンプルを作製した。100個のサンプルのうち、圧電薄膜にクラックが形成されているサンプルの数nを光学顕微鏡で数えた。実施例1のクラック率(つまりn%)は、下記表1に示される。
【0087】
<圧電定数d33>
実施例1の圧電薄膜の圧電定数d33(単位:pC/N)を測定した。圧電定数d33の測定の詳細は以下の通りであった。実施例1の圧電定数d33(3点測定点平均値)は下記表1に示される。
測定装置:Piezotest社製のd33メーター(PM200)
周波数: 110Hz
クランプ圧: 0.25N
【0088】
<絶縁抵抗率IR>
実施例1の圧電薄膜の絶縁抵抗率IR(単位:Ω・cm)を測定した。IRの測定には、ADVANTEST社製の測定装置(R8340A)を用いた。絶縁抵抗率IRを測定では、1V/μmの電界を圧電薄膜へ印加した。第一電極層及び第二電極層其々において電界が印加された部分の面積は、600×600μm2であった。実施例1の絶縁抵抗率IRは、下記表1に示される。
【0089】
(実施例2)
真空チャンバー内でのRFマグネトロンスパッタリングにより、Crからなる第一電極層(下部電極層)が密着層の表面全体に直接形成された。第一電極層の形成過程における基板及び密着層の温度は、500℃に維持された。スパッタリングターゲットとしては、Cr単体が用いられた。
【0090】
真空チャンバー内で、第一電極層が600℃でアニールされた。アニーリングの継続時間は、10分であった。実施例2の第一電極層は体心立方格子構造を有していた。実施例2の第一電極層の表面は、体心立方格子構造の(110)面であった。
【0091】
以上の事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例2の圧電薄膜素子が作製された。実施例1と同様の方法で、実施例2の圧電薄膜が分析された。実施例2の分析結果は、下記表1に示される。
【0092】
(実施例3)
真空チャンバー内でのRFマグネトロンスパッタリングにより、Ptからなる第一電極層(下部電極層)が密着層の表面全体に直接形成された。第一電極層の形成過程における基板及び密着層の温度は、300℃に維持された。スパッタリングターゲットとしては、Pt単体が用いられた。
【0093】
実施例3の第一電極層のアニーリングの方法は、実施例1と同じであった。実施例3の第一電極層は面心立方格子構造を有していた。実施例3の第一電極層の表面は、面心立方格子構造の(111)面であった。
【0094】
以上の事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例3の圧電薄膜素子が作製された。実施例1と同様の方法で、実施例3の圧電薄膜が分析された。実施例3の分析結果は、下記表1に示される。
【0095】
(実施例4)
真空チャンバー内でのRFマグネトロンスパッタリングにより、Ruからなる第一電極層(下部電極層)が密着層の表面全体に直接形成された。第一電極層の形成過程における基板及び密着層の温度は、300℃に維持された。スパッタリングターゲットとしては、Ru単体が用いられた。
【0096】
真空チャンバー内で、第一電極層が400℃でアニールされた。アニーリングの継続時間は、10分であった。実施例4の第一電極層は六方最密充填構造を有していた。実施例4の第一電極層の表面は、六方最密充填構造の(001)面であった。
【0097】
以上の事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例4の圧電薄膜素子が作製された。実施例1と同様の方法で、実施例4の圧電薄膜が分析された。実施例4の分析結果は、下記表1に示される。
【0098】
(実施例5)
真空チャンバー内でのRFマグネトロンスパッタリングにより、Pt0.7Ni0.3からなる第一電極層(下部電極層)が密着層の表面全体に直接形成された。第一電極層の形成過程における基板及び密着層の温度は、300℃に維持された。スパッタリングターゲットとしては、Pt単体及びNi単体が用いられた。
【0099】
実施例5の第一電極層のアニーリングの方法は、実施例4と同じであった。実施例5の第一電極層は面心立方格子構造を有していた。実施例5の第一電極層の表面は、面心立方格子構造の(111)面であった。
【0100】
以上の事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例5の圧電薄膜素子が作製された。実施例1と同様の方法で、実施例5の圧電薄膜が分析された。実施例5の分析結果は、下記表1に示される。
【0101】
(実施例6)
真空チャンバー内でのRFマグネトロンスパッタリングにより、圧電薄膜を、第一電極層の表面全体に直接形成した。圧電薄膜は、ウルツ型構造を有するAl0.75Sc0.25Nからなっていた。スパッタリングターゲットとしては、Al単体及びSc単体が用いられた。圧電薄膜の形成過程における基板、密着層及び第一電極層の温度は、300℃に維持された。
【0102】
以上の事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例6の圧電薄膜素子が作製された。実施例1と同様の方法で、実施例6の圧電薄膜が分析された。実施例6の分析結果は、下記表1に示される。
【0103】
(実施例7)
実施例7の第一電極層の作製及びアニーリングの方法は、実施例2と同じであった。実施例7の圧電薄膜の作製方法は、実施例6と同じであった。
【0104】
以上の事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例7の圧電薄膜素子が作製された。実施例1と同様の方法で、実施例7の圧電薄膜が分析された。実施例7の分析結果は、下記表1に示される。
【0105】
(実施例8)
実施例8の第一電極層の作製及びアニーリングの方法は、実施例3と同じであった。実施例8の圧電薄膜の作製方法は、実施例6と同じであった。
【0106】
以上の事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例8の圧電薄膜素子が作製された。実施例1と同様の方法で、実施例8の圧電薄膜が分析された。実施例8の分析結果は、下記表1に示される。
【0107】
(実施例9)
真空チャンバー内でのRFマグネトロンスパッタリングにより、Zrからなる第一電極層(下部電極層)が密着層の表面全体に直接形成された。第一電極層の形成過程における基板及び密着層の温度は、500℃に維持された。スパッタリングターゲットとしては、Zr単体が用いられた。
【0108】
真空チャンバー内で、第一電極層が600℃でアニールされた。アニーリングの継続時間は、10分であった。実施例9の第一電極層は六方最密充填構造を有していた。実施例9の第一電極層の表面は、六方最密充填構造の(001)面であった。
【0109】
実施例9の圧電薄膜の作製方法は、実施例6と同じであった。
【0110】
以上の事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例9の圧電薄膜素子が作製された。実施例1と同様の方法で、実施例9の圧電薄膜が分析された。実施例9の分析結果は、下記表1に示される。
【0111】
(実施例10)
真空チャンバー内でのRFマグネトロンスパッタリングにより、Nb0.5Mo0.5からなる第一電極層(下部電極層)が密着層の表面全体に直接形成された。第一電極層の形成過程における基板及び密着層の温度は、500℃に維持された。スパッタリングターゲットとしては、Nb単体及びMo単体が用いられた。
【0112】
実施例10の第一電極層のアニーリングの方法は、実施例9と同じであった。実施例10の第一電極層は体心立方格子構造を有していた。実施例10の第一電極層の表面は、体心立方格子構造の(110)面であった。
【0113】
実施例10の圧電薄膜の作製方法は、実施例6と同じであった。
【0114】
以上の事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例10の圧電薄膜素子が作製された。実施例1と同様の方法で、実施例10の圧電薄膜が分析された。実施例10の分析結果は、下記表1に示される。
【0115】
(実施例11)
真空チャンバー内でのRFマグネトロンスパッタリングにより、圧電薄膜を、第一電極層の表面全体に直接形成した。圧電薄膜は、ウルツ型構造を有するAl0.75(Mg0.5Zr0.5)0.25Nからなっていた。スパッタリングターゲットとしては、Al単体、Mg単体及びZr単体が用いられた。圧電薄膜の形成過程における基板、密着層及び第一電極層の温度は、300℃に維持された。
【0116】
以上の事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例11の圧電薄膜素子が作製された。実施例1と同様の方法で、実施例11の圧電薄膜が分析された。実施例11の分析結果は、下記表1に示される。
【0117】
(実施例12)
実施例12の第一電極層の作製及びアニーリングの方法は、実施例2と同じであった。実施例12の圧電薄膜の作製方法は、実施例11と同じであった。
【0118】
以上の事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例12の圧電薄膜素子が作製された。実施例1と同様の方法で、実施例12の圧電薄膜が分析された。実施例12の分析結果は、下記表1に示される。
【0119】
(実施例13)
実施例13の第一電極層の作製及びアニーリングの方法は、実施例3と同じであった。実施例13の圧電薄膜の作製方法は、実施例11と同じであった。
【0120】
以上の事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例13の圧電薄膜素子が作製された。実施例1と同様の方法で、実施例13の圧電薄膜が分析された。実施例13の分析結果は、下記表1に示される。
【0121】
(実施例14)
実施例14の第一電極層の作製及びアニーリングの方法は、実施例9と同じであった。実施例14の圧電薄膜の作製方法は、実施例11と同じであった。
【0122】
以上の事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例14の圧電薄膜素子が作製された。実施例1と同様の方法で、実施例14の圧電薄膜が分析された。実施例14の分析結果は、下記表1に示される。
【0123】
(実施例15)
真空チャンバー内でのRFマグネトロンスパッタリングにより、W0.5Mo0.25Nb0.25からなる第一電極層(下部電極層)が密着層の表面全体に直接形成された。第一電極層の形成過程における基板及び密着層の温度は、500℃に維持された。スパッタリングターゲットとしては、W単体、Mo単体、及びNb単体が用いられた。
【0124】
実施例15の第一電極層のアニーリングの方法は、実施例9と同じであった。実施例15の第一電極層は体心立方格子構造を有していた。実施例15の第一電極層の表面は、体心立方格子構造の(110)面であった。
【0125】
実施例15の圧電薄膜の作製方法は、実施例11と同じであった。
【0126】
以上の事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例15の圧電薄膜素子が作製された。実施例1と同様の方法で、実施例15の圧電薄膜が分析された。実施例15の分析結果は、下記表1に示される。
【0127】
(実施例16)
真空チャンバー内でのRFマグネトロンスパッタリングにより、圧電薄膜を、第一電極層の表面全体に直接形成した。圧電薄膜は、ウルツ型構造を有するAl0.75(Li0.5Nb0.5)0.25Nからなっていた。スパッタリングターゲットとしては、Al及びLiからなる合金、及びNb単体が用いられた。圧電薄膜の形成過程における基板、密着層及び第一電極層の温度は、300℃に維持された。
【0128】
以上の事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例16の圧電薄膜素子が作製された。実施例1と同様の方法で、実施例16の圧電薄膜が分析された。実施例16の分析結果は、下記表2に示される。
【0129】
(実施例17)
実施例17の第一電極層の作製及びアニーリングの方法は、実施例2と同じであった。実施例17の圧電薄膜の作製方法は、実施例16と同じであった。
【0130】
以上の事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例17の圧電薄膜素子が作製された。実施例1と同様の方法で、実施例17の圧電薄膜が分析された。実施例17の分析結果は、下記表2に示される。
【0131】
(実施例18)
実施例18の第一電極層の作製及びアニーリングの方法は、実施例3と同じであった。実施例18の圧電薄膜の作製方法は、実施例16と同じであった。
【0132】
以上の事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例18の圧電薄膜素子が作製された。実施例1と同様の方法で、実施例18の圧電薄膜が分析された。実施例18の分析結果は、下記表2に示される。
【0133】
(実施例19)
真空チャンバー内でのRFマグネトロンスパッタリングにより、Hfからなる第一電極層(下部電極層)が密着層の表面全体に直接形成された。第一電極層の形成過程における基板及び密着層の温度は、500℃に維持された。スパッタリングターゲットとしては、Hf単体が用いられた。
【0134】
実施例19の第一電極層のアニーリングの方法は、実施例9と同じであった。実施例19の第一電極層は六方最密充填構造を有していた。実施例19の第一電極層の表面は、六方最密充填構造の(001)面であった。
【0135】
実施例19の圧電薄膜の作製方法は、実施例16と同じであった。
【0136】
以上の事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例19の圧電薄膜素子が作製された。実施例1と同様の方法で、実施例19の圧電薄膜が分析された。実施例19の分析結果は、下記表1に示される。
【0137】
(実施例20)
真空チャンバー内でのRFマグネトロンスパッタリングにより、W0.8Mo0.1V0.1からなる第一電極層(下部電極層)が密着層の表面全体に直接形成された。第一電極層の形成過程における基板及び密着層の温度は、500℃に維持された。スパッタリングターゲットとしては、W単体、Mo単体、及びV単体が用いられた。
【0138】
実施例20の第一電極層のアニーリングの方法は、実施例9と同じであった。実施例20の第一電極層は体心立方格子構造を有していた。実施例20の第一電極層の表面は、体心立方格子構造の(110)面であった。
【0139】
実施例20の圧電薄膜の作製方法は、実施例16と同じであった。
【0140】
以上の事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例20の圧電薄膜素子が作製された。実施例1と同様の方法で、実施例20の圧電薄膜が分析された。実施例20の分析結果は、下記表2に示される。
【0141】
(実施例21)
実施例21の第一電極層の作製及びアニーリングの方法は、実施例3と同じであった。
【0142】
真空チャンバー内でのRFマグネトロンスパッタリングにより、圧電薄膜を、第一電極層の表面全体に直接形成した。圧電薄膜は、ウルツ型構造を有するZnOからなっていた。スパッタリングターゲットとしては、ZnOが用いられた。真空チャンバー内の雰囲気は、Ar及びO2の混合ガスであった。圧電薄膜の形成過程における基板、密着層及び第一電極層の温度は、300℃に維持された。
【0143】
以上の事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例21の圧電薄膜素子が作製された。実施例1と同様の方法で、実施例21の圧電薄膜が分析された。実施例21の分析結果は、下記表2に示される。
【0144】
(実施例22)
実施例22の第一電極層の作製及びアニーリングの方法は、実施例9と同じであった。実施例22の圧電薄膜の作製方法は、実施例21と同じであった。
【0145】
以上の事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例22の圧電薄膜素子が作製された。実施例1と同様の方法で、実施例22の圧電薄膜が分析された。実施例22の分析結果は、下記表1に示される。
【0146】
(実施例23)
真空チャンバー内でのRFマグネトロンスパッタリングにより、Moからなる第一電極層(下部電極層)が密着層の表面全体に直接形成された。第一電極層の形成過程における基板及び密着層の温度は、500℃に維持された。スパッタリングターゲットとしては、Mo単体が用いられた。
【0147】
実施例23の第一電極層のアニーリングの方法は、実施例2と同じであった。
【0148】
真空チャンバー内でのRFマグネトロンスパッタリングにより、圧電薄膜を、第一電極層の表面全体に直接形成した。圧電薄膜は、ウルツ型構造を有するZn0.75Mg0.25Oからなっていた。スパッタリングターゲットとしては、ZnO及びMgOが用いられた。真空チャンバー内の雰囲気は、Ar及びO2の混合ガスであった。圧電薄膜の形成過程における基板、密着層及び第一電極層の温度は、300℃に維持された。
【0149】
以上の事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例23の圧電薄膜素子が作製された。実施例1と同様の方法で、実施例23の圧電薄膜が分析された。実施例23の分析結果は、下記表2に示される。
【0150】
(比較例1)
圧電薄膜が形成される前に、比較例1の第一電極層はアニールされなかった。
【0151】
以上の事項を除いて実施例3と同様の方法で、比較例1の圧電薄膜素子が作製された。実施例1と同様の方法で、比較例1の圧電薄膜が分析された。比較例1の分析結果は、下記表2に示される。ただし、比較例1の圧電薄膜は導電性を有しており、比較例1の絶縁抵抗率IRは測定困難であった。
【0152】
(比較例2)
圧電薄膜が形成される前に、比較例2の第一電極層はアニールされなかった。
【0153】
以上の事項を除いて実施例8と同様の方法で、比較例2の圧電薄膜素子が作製された。実施例1と同様の方法で、比較例2の圧電薄膜が分析された。比較例2の分析結果は、下記表2に示される。
【0154】
(比較例3)
圧電薄膜が形成される前に、比較例3の第一電極層はアニールされなかった。
【0155】
以上の事項を除いて実施例21と同様の方法で、比較例3の圧電薄膜素子が作製された。実施例1と同様の方法で、比較例3の圧電薄膜が分析された。比較例3の分析結果は、下記表2に示される。ただし、比較例3の圧電薄膜は導電性を有しており、比較例3の絶縁抵抗率IRは測定困難であった。
【0156】
(比較例4)
比較例4の第一電極層の作製方法は、実施例3と同じであった。比較例4の圧電薄膜の作製方法は、実施例23と同じであった。ただし、圧電薄膜が形成される前に、比較例4の第一電極層はアニールされなかった。
【0157】
以上の事項を除いて実施例1と同様の方法で、比較例4の圧電薄膜素子が作製された。実施例1と同様の方法で、比較例4の圧電薄膜が分析された。比較例4の分析結果は、下記表2に示される。
【0158】
上述された実施例及び比較例の全ての場合において、圧電薄膜は、ウルツ鉱型構造を有する複数の結晶粒を含み、大多数の結晶粒の(001)面が、第一電極層の表面の法線方向において配向していた。つまり、圧電薄膜に含まれる大多数の結晶粒の(001)面は、基板及び第一電極層其々の表面にほぼ平行であった。
【0159】
表1及び表2に示される圧電薄膜及び第一電極層其々の組成式中の数値の単位は、モルである。残留応力σの絶対値は小さいことが好ましく、σの絶対値の目標値は、900MPa以下である。クラック率RCRACKは小さいことが好ましく、RCRACKの目標値は、1%以下である。圧電定数d33は大きいことが好ましく、d33の目標値は、6.0pC/N以上である。絶縁抵抗率IRは大きいことが好ましく、IRの目標値は、1013Ω・cm以上である。表1及び表2に記載の品質Aは、σ、RCRACK、d33及びIRの4つの値の全てが上記の目標値に達していることを意味する。表1及び表2に記載の品質Bは、σ、RCRACK、d33及びIRの4つの値のうち3つの値が上記の目標値に達していることを意味する。表1及び表2に記載の品質Cは、σ、RCRACK、d33及びIRの4つの値のうち2つの値が上記の目標値に達していることを意味する。表1及び表2に記載の品質Dは、σ、RCRACK、d33及びIRの4つの値の全てが上記の目標値に達していないことを意味する。
【0160】
【0161】
【産業上の利用可能性】
【0162】
本発明によれば、圧電薄膜における残留応力が低減された圧電薄膜素子が提供される。
【符号の説明】
【0163】
1…基板、2…圧電薄膜、2s…圧電薄膜の表面、3,3a,3b…ウルツ型構造を有する結晶粒、3s…圧電薄膜の表面に露出する結晶粒の表面、4…導電層、5…粒界相、6…第一電極層、6a,6b…導電性結晶粒、8…密着層、10,10a…圧電薄膜素子、Eα,Eβ…ウルツ型構造に含まれる元素、T…圧電薄膜の厚み、d…導電層の表面に平行な方向における結晶粒の粒径(直径)、DN…導電層の表面の法線方向、dn…圧電薄膜の表面の法線方向、g…結晶粒の粒度分布、uc…ウルツ型構造の単位胞。