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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】内燃機関の排気浄化装置、及び車両
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/08 20060101AFI20220802BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
F01N3/08 G ZAB
B01D53/94 222
B01D53/94 400
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019009460
(22)【出願日】2019-01-23
(65)【公開番号】P2020118077
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】澤田 明寛
(72)【発明者】
【氏名】嶺澤 正信
(72)【発明者】
【氏名】土橋 優貴
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/163235(WO,A1)
【文献】特開2017-141703(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/08
B01D 53/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に配設される排気浄化装置であって、
前記排気通路内に配設されたSCR(Selective Catalytic Reduction)触媒と、
前記排気通路内の前記SCR触媒の上流側で、尿素水を噴射する尿素水噴射装置と、
前記SCR触媒におけるアンモニアストレージ量を推定し、当該アンモニアストレージ量の推定値に基づいて、前記尿素水噴射装置の尿素水噴射量を制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、前記SCR触媒におけるNOx浄化率が第1閾値以下まで低下した場合、前記尿素水噴射量を現時点の前記アンモニアストレージ量の推定値に基づいて決定される第1噴射量から第2噴射量に増加させる試験動作を行い、
前記試験動作において、所定時間内に前記NOx浄化率が前記第1閾値よりも大きい第2閾値以上まで増加した場合には、前記アンモニアストレージ量の推定値を減少させる補正処理を行い、
前記試験動作において、前記所定時間内に前記NOx浄化率が前記第2閾値以上まで増加しない場合には、前記アンモニアストレージ量の推定値を増加させる補正処理を行う、
排気浄化装置。
【請求項2】
前記制御装置は、
前記尿素水噴射量の推移と前記SCR触媒におけるアンモニア消費量の推移とに基づいて、現時点の前記アンモニアストレージ量を推定する、
請求項1に記載の排気浄化装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記所定時間内に前記NOx浄化率が前記第1閾値よりも大きい第2閾値以上まで増加した場合には、現時点の前記アンモニアストレージ量の推定値を、前記SCR触媒におけるNOx浄化率、前記SCR触媒の温度、及び、前記排気通路内の排ガス流量に基づいて算出されるアンモニアストレージ量に補正する、
請求項1又は2に記載の排気浄化装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記所定時間内に前記NOx浄化率が前記第2閾値以上まで増加しない場合には、現時点の前記アンモニアストレージ量の推定値を、現時点の前記SCR触媒のストレージ可能量に補正する、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の排気浄化装置。
【請求項5】
前記制御装置は、
前記所定時間内に前記NOx浄化率が前記第1閾値よりも大きい第2閾値以上まで増加した場合には、前記アンモニアストレージ量の推定値と前記アンモニアストレージ量の目標値との間の差分の単位量当たりの前記尿素水噴射量が増加するように、前記尿素水噴射量を調整する補正係数を補正し、
前記所定時間内に前記NOx浄化率が前記第2閾値以上まで増加しない場合には、前記アンモニアストレージ量の推定値と前記アンモニアストレージ量の目標値との間の差分の単位量当たりの前記尿素水噴射量が減少するように、前記補正係数を補正する、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の排気浄化装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の排気浄化装置を備える車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、内燃機関の排気浄化装置、及び車両に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の排気浄化装置として、アンモニア(NH3)を還元剤として、排ガス中のNOxを選択的に還元するNOx選択還元型触媒(Selective Catalytic Reduction:以下、「SCR触媒」と称する)を有するSCR触媒排気浄化システムが知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
このSCR触媒排気浄化システムにおいて、SCR触媒のNOx還元特性を効果的に機能させるためには、当該SCR触媒中のアンモニアの溜め込み量(以下、「アンモニアストレージ量」と称する)を適切な量にコントロールする必要がある。そのコントロール手法としては、コントロールユニットにて、種々のセンサ情報に基づいて、SCR触媒におけるアンモニアの消費量を逐次的に予測し、不足するアンモニア量を前駆体である尿素水としてSCR触媒に供給する手法が一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-189007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、SCR触媒におけるNOx浄化反応は、複雑であり、そのNOx浄化反応に基づくアンモニアの消費量を正確に演算するのは困難である。加えて、アンモニアの消費量の予測値は、尿素水噴射装置における噴射量の誤差やNOxセンサの検出誤差等に起因した誤差も含むことになる。
【0006】
そのため、コントロールユニットの演算により推定されるアンモニアストレージ量の推定値が、実際値と乖離することは稀ではない。そして、その乖離が拡大すると、SCR触媒におけるアンモニアストレージ量が不足した状態(以下、「アンダーストレージ状態」と称する)、又は、SCR触媒におけるアンモニアストレージ量が過剰な状態(以下、「オーバーストレージ状態」と称する)が発生することになる。
【0007】
ここで、SCR触媒におけるアンダーストレージ状態が発生した場合には、NOx浄化反応を引き起こすアンモニアが不足することによって、SCR触媒のNOx浄化率が低下することになる。
【0008】
一方、SCR触媒におけるオーバーストレージ状態が発生した場合には、過剰なアンモニアがSCR触媒から脱離し、脱離したアンモニアが後段の酸化触媒によりNOxに変化することで排気浄化装置のNOx浄化性能が低下する。又、脱離したアンモニアが後段の酸化触媒によりアンモニアのまま排出されたとしても、SCR触媒の下流側NOxセンサは、アンモニアをNOxとして検出し、コントローラ側ではNOx浄化性能が低下していると判断してしまうことになる。加えて、オーバーストレージ状態においては、余剰な尿素水又はアンモニアが排出されるおそれもある。
【0009】
このような背景から、SCR触媒においてNOx浄化率の低下が検出された場合には、当該NOx浄化率の低下が、SCR触媒におけるアンダーストレージ状態又はオーバーストレージ状態のいずれが発生しているのかを正確に特定し、その上でSCR触媒におけるアンモニアストレージ量の推定値の補正等を実行することが求められる。
【0010】
本開示は、上記問題点に鑑みてなされたもので、SCR触媒におけるアンモニアストレージ量の推定値が、実際値と乖離した場合にも、アンモニアストレージ量の推定値を適切に補正することを可能とする内燃機関の排気浄化装置、及び車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述した課題を解決する主たる本開示は、
内燃機関の排気通路に配設される排気浄化装置であって、
前記排気通路内に配設されたSCR(Selective Catalytic Reduction)触媒と、
前記排気通路内の前記SCR触媒の上流側で、尿素水を噴射する尿素水噴射装置と、
前記SCR触媒におけるアンモニアストレージ量を推定し、当該アンモニアストレージ量の推定値に基づいて、前記尿素水噴射装置の尿素水噴射量を制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、前記SCR触媒におけるNOx浄化率が第1閾値以下まで低下した場合、前記尿素水噴射量を現時点の前記アンモニアストレージ量の推定値に基づいて決定される第1噴射量から第2噴射量に増加させる試験動作を行い、
前記試験動作において、所定時間内に前記NOx浄化率が前記第1閾値よりも大きい第2閾値以上まで増加した場合には、前記アンモニアストレージ量の推定値を減少させる補正処理を行い、
前記試験動作において、前記所定時間内に前記NOx浄化率が前記第2閾値以上まで増加しない場合には、前記アンモニアストレージ量の推定値を増加させる補正処理を行う、
排気浄化装置である。
【0012】
又、他の局面では、
上記排気浄化装置を備える車両である。
【発明の効果】
【0013】
本開示に係る排気浄化装置によれば、SCR触媒におけるアンモニアストレージ量の推定値が、実際値と乖離した場合にも、アンモニアストレージ量の推定値を適切に補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施形態に係る排気浄化装置の構成の一例を示す図
図2】一実施形態に係るECUの構成の一例を示すブロック図
図3】一実施形態に係る補正処理部が行う具体的な動作フローの一例を示す図
図4】本実施形態に係る排気浄化装置における、尿素水噴射量の挙動(図4A)、SCR触媒におけるアンモニアストレージ量の挙動(図4B)、及び、SCR触媒におけるNOx浄化率の挙動(図4C)の一例を示すタイムチャート
図5】本実施形態に係る排気浄化装置における、尿素水噴射量の挙動(図5A)、SCR触媒におけるアンモニアストレージ量の挙動(図5B)、及び、SCR触媒におけるNOx浄化率の挙動(図5C)の一例を示すタイムチャート
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の好適な実施形態について詳細に説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0016】
[排気浄化装置の構成]
以下、図1を参照して、一実施形態に係る排気浄化装置の構成について説明する。
【0017】
図1は、本実施形態に係る排気浄化装置Uの構成の一例を示す図である。
【0018】
本実施形態に係る排気浄化装置Uは、例えば、トラック等の車両に搭載されており、エンジン10の排ガス中のNOxを浄化する。
【0019】
エンジン10は、例えば、燃焼室、燃焼室内で燃料を噴射する燃料噴射装置等(図示せず)を含んで構成される。エンジン10は、燃焼室内で、燃料と空気の混合気を燃焼及び膨張させて、動力を発生する。エンジン10には、燃焼室内に空気を導入する吸気通路(例えば、吸気管)20と、燃焼室から排出される燃焼後の排ガスを、車両の外部に排出する排気通路(例えば、排気管)30と、が接続されている。
【0020】
尚、本実施形態に係るエンジン10は、4気筒エンジンであり、吸気通路20からは吸気マニホルドを介して四つの燃焼室に分岐し、当該四つの燃焼室から排気マニホルドを介して排気通路30に合流する構成となっている。
【0021】
排気浄化装置Uは、SCR触媒40、尿素水噴射装置50、各種センサ61~64、及び、ECU(Electronic Control Unit)100を備えている。
【0022】
SCR触媒40は、尿素水噴射装置50から供給される尿素水が加水分解したアンモニアを吸着すると共に、当該吸着したアンモニアによって排ガス中からNOxを選択的に還元浄化する。SCR触媒40としては、公知のSCR触媒を用いることができ、例えば、セラミック製の担持体の表面に、Feゼオライト、Cuゼオライト又はバナジウム等のNOx還元触媒を担持したものを用いることができる。尚、SCR触媒40としては、触媒上で尿素水をアンモニアに変換するタイプのものを用いてもよい。
【0023】
尿素水噴射装置50は、排気通路30内のSCR触媒40の上流側において、尿素水を噴射する。尿素水噴射装置50は、例えば、尿素水添加弁51、尿素水タンク52、及び、サプライポンプ53を含んで構成される。
【0024】
尿素水噴射装置50においては、尿素水タンク52からサプライポンプ53によって圧送された尿素水が、尿素水添加弁51から排気通路30中に噴射される。尿素水添加弁51から排気通路30中に噴射された尿素水は、排ガスの高温により加水分解され、アンモニアに変換されてSCR触媒40に供給される。そして、当該アンモニアは、SCR触媒40に吸着して、当該SCR触媒40の作用でNOxと反応して、NOxを還元浄化する。
【0025】
尿素水噴射装置50から排気通路30に噴射する尿素水の噴射量は、尿素水添加弁51の開度の調整により行われる。尚、尿素水添加弁51の開度の制御は、ECU100(尿素水噴射制御部103)から出力される制御信号によって行われる。
【0026】
各種センサ61~64は、排気通路30を通流する排ガスの状態、及びSCR触媒40の状態等を検出するために設けられている。具体的には、排気通路30には、第1NOxセンサ61、第2NOxセンサ62、温度センサ63、及び流量センサ64等が備え付けられている。
【0027】
第1NOxセンサ61は、排気通路30のSCR触媒40の上流側に配設され、SCR触媒40に流入するNOx量(即ち、NOx濃度)を検出する。第2NOxセンサ62は、排気通路30のSCR触媒40の下流側に配設され、SCR触媒40から流出するNOx量(即ち、NOx濃度)を検出する。温度センサ63は、エンジン10から排出される排ガスの温度を検出する。流量センサ64は、エンジン10から排出される排ガスの流量を検出する。そして、これらの各種センサ61~64は、検出により得られたセンサ情報を、逐次、ECU100に送信する。
【0028】
ECU100(本発明の「制御装置」に相当)は、排気浄化装置Uの動作を制御する。ECU100は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、入力ポート、及び出力ポート等を含んで構成されている。ECU100の後述する各機能は、例えば、CPUがROM、RAM等に記憶された制御プログラムや各種データを参照することによって実現される。但し、当該機能は、ソフトウェアによる処理に限られず、専用のハードウェア回路によっても実現できることは勿論である。
【0029】
尚、ECU100は、エンジン10及び尿素水噴射装置50等と通信することで、これらを制御したり、これらの状態情報を取得したりする。又、ECU100は、各種センサ61~64からセンサ情報を取得して、排気通路30を通流する排ガスの状態、及びSCR触媒40の状態等を検出する。
【0030】
[ECU100の詳細構成]
次に、図2図3図4図5を参照して、本実施形態に係るECU100の詳細構成について説明する。
【0031】
図2は、本実施形態に係るECU100の構成の一例を示すブロック図である。
【0032】
ECU100は、NOx浄化率検出部101、アンモニアストレージ量推定部102、尿素水噴射制御部103、補正係数設定部104、及び、補正処理部105を備えている。
【0033】
<NOx浄化率検出部101について>
NOx浄化率検出部101は、SCR触媒40におけるNOx浄化率を検出し、補正処理部105に送出する。NOx浄化率検出部101は、例えば、第1NOxセンサ61のセンサ信号(即ち、SCR触媒40に流入するNOx量)及び第2NOxセンサ62のセンサ信号(即ち、SCR触媒40から流出するNOx量)に基づいて、SCR触媒40におけるNOx浄化率を検出する。
【0034】
尚、NOx浄化率検出部101は、SCR触媒40のNOx浄化率を検出する際、SCR触媒40に流入するNOx量については、エンジン10の運転状態から推定された値を用いてもよい。
【0035】
<アンモニアストレージ量推定部102について>
アンモニアストレージ量推定部102は、SCR触媒40中のアンモニアストレージ量を推定する。アンモニアストレージ量推定部102は、典型的には、尿素水噴射装置50の尿素水噴射量に基づいて、SCR触媒40に新たに吸着するアンモニアの吸着量を算出し、SCR触媒40に到来するNOx量に基づいて、SCR触媒40中のアンモニアの消費量を算出する。そして、アンモニアストレージ量推定部102は、SCR触媒40に新たに吸着したアンモニアの吸着量から、SCR触媒40中で消費したアンモニアの消費量を減算することによって、現時点におけるSCR触媒40中のアンモニアストレージ量を推定する。つまり、アンモニアストレージ量推定部102は、尿素水噴射量の推移とSCR触媒40におけるアンモニア消費量の推移とに基づいて、記憶部(例えば、RAM)に記憶する現時点のアンモニアストレージ量を逐次的に更新していく。
【0036】
尚、SCR触媒40中のアンモニアの消費量は、例えば、SCR触媒40に到来するNOx量(例えば、第1NOxセンサ61のセンサ情報)、排ガス温度(例えば、温度センサ63のセンサ情報)、排ガス流量(例えば、流量センサ64のセンサ情報)、及び、現時点におけるSCR触媒40中のアンモニアストレージ量に基づいて、算出される。
【0037】
アンモニアストレージ量推定部102は、補正処理部105から補正指令を受信した場合、記憶部(例えば、RAM)に記憶する現時点におけるSCR触媒40中のアンモニアストレージ量の推定値を、補正処理部105から指令された値に補正する。これにより、SCR触媒40中のアンモニアストレージ量の推定値が実際値と乖離した場合に、SCR触媒40中のアンモニアストレージ量の推定値を、再度、実際値に近づける。
【0038】
<尿素水噴射制御部103について>
尿素水噴射制御部103は、尿素水添加弁51に開度指令信号を出力することによって、尿素水噴射装置50からの尿素水噴射を制御する。この際、尿素水噴射制御部103は、例えば、アンモニアストレージ量推定部102によって推定されるSCR触媒40におけるアンモニアストレージ量の推定値が目標値に維持されるように、尿素水噴射装置50の尿素水噴射量を制御する。これによって、SCR触媒40を、NOx浄化率が高い状態で維持する。
【0039】
尚、SCR触媒40におけるアンモニアストレージ量の目標値は、現時点における排ガス温度等によって適宜変化させられてもよい。
【0040】
尿素水噴射制御部103は、例えば、現時点のSCR触媒40におけるアンモニアストレージ量の推定値と目標値の差分と、尿素水噴射量とを関連付けた制御マップに基づいて、尿素水噴射量を算出する。そして、尿素水噴射制御部103は、制御マップを用いて算出した尿素水噴射量に、補正係数設定部104に設定された尿素噴射補正係数(例えば、0.5~1.5の間のいずれかの値)を乗算した値を、尿素水噴射装置50に指令する尿素水噴射量と決定する。
【0041】
<補正係数設定部104について>
補正係数設定部104は、尿素水噴射制御部103にて尿素水噴射量を決定する際の補正係数である尿素噴射補正係数を設定する。
【0042】
尿素噴射補正係数は、主に、尿素水噴射装置50の装置誤差(例えば、開度指令信号が指示する弁開度に対する実際の尿素水添加弁51の弁開度の誤差)を校正するべく設定される。つまり、尿素水噴射装置50が実際に噴射する尿素水噴射量は、尿素水噴射装置50の装置誤差に起因して、尿素水噴射制御部103からの指令値からずれる場合があるため、排気浄化装置Uは、尿素噴射補正係数により当該装置誤差を校正する。
【0043】
尿素噴射補正係数は、例えば、初期状態では「1.0」に設定され、補正処理部105からの増加指令に応じて、「1.1」、「1.2」…と段階的に増加させられる。又、尿素噴射補正係数は、補正処理部105からの減少指令に応じて、「0.9」、「0.8」…と段階的に減少させられる。尿素噴射補正係数は、尿素水噴射制御部103からの指令値に係る尿素水噴射量と、実際に尿素水噴射装置50が噴射する尿素水噴射量とを合致させるように機能する。
【0044】
尚、尿素噴射補正係数を適切に設定することは、アンモニアストレージ量推定部102における推定精度の向上にもつながり、アンモニアストレージ量の推定値が実際値と乖離した状態が発生する頻度を低減することにも資する。
【0045】
<補正処理部105について>
補正処理部105は、SCR触媒40におけるNOx浄化率が第1閾値以下(例えば、60%)まで低下した場合に、当該NOx浄化率が低下した要因を特定するための試験動作を実行する。そして、補正処理部105は、当該試験動作の結果に基づいて、NOx浄化率低下の要因がアンダーストレージ状態にあるのか、オーバーストレージ状態にあるのかを特定し、アンモニアストレージ量の推定値を実際値に近づけるべく、アンモニアストレージ量の推定値を補正する。
【0046】
補正処理部105が実行する具体的な試験動作としては、尿素水噴射装置50の尿素水噴射量を現時点のアンモニアストレージ量の推定値に基づいて決定される第1噴射量から第2噴射量(>第1噴射量)に増加させ、所定時間(例えば、1分間)内にNOx浄化率が第1閾値よりも大きい第2閾値(例えば、80%)以上まで増加するか否かを判定する手法である。補正処理部105は、この試験動作において、所定時間内にNOx浄化率が第1閾値よりも大きい第2閾値以上まで増加した場合には、SCR触媒40においてアンモニアのアンダーストレージが発生していると特定し、所定時間内にNOx浄化率が第2閾値以上まで増加しない場合には、SCR触媒40においてアンモニアのオーバーストレージが発生していると特定する。
【0047】
ここで、補正処理部105が試験動作として、一時的に尿素水噴射量を増加させる手法を用いている理由としては、アンダーストレージ状態に起因してSCR触媒40におけるNOx浄化率が低下している場合には、当該試験動作によってNOx浄化率が急速に回復する一方、オーバーストレージ状態に起因してSCR触媒40におけるNOx浄化率が低下している場合には、当該試験動作によってもNOx浄化率が回復せず、当該試験動作の応答の結果が明確に判別可能であるためである。換言すると、仮に、補正処理部105が試験動作として、一時的に尿素水噴射量を減少させたとしても、NOx浄化率変化に係る応答が小さく、SCR触媒40においてNOx浄化率が低下している要因が、アンダーストレージ状態であるのかオーバーストレージ状態であるのかを判別することができない。
【0048】
図3は、補正処理部105が行う具体的な動作フローの一例を示す図である。図3に示すフローチャートは、例えば、ECU100がコンピュータプログラムに従って、所定間隔(例えば、100ms毎)で実行するものである。
【0049】
図4図5は、本実施形態に係る排気浄化装置Uにおける、尿素水噴射量の挙動(図4A図5A)、SCR触媒40におけるアンモニアストレージ量の挙動(図4B図5B)、及び、SCR触媒40におけるNOx浄化率の挙動(図4C図5C)の一例を示すタイムチャートである。尚、図4図5のタイミングT1は、補正処理部105が試験動作を開始したタイミングを表し、タイミングT2は、補正処理部105が試験動作を終了したタイミングを表す。
【0050】
図4は、SCR触媒40においてアンダーストレージ状態が発生している場合の各値の挙動を示し、図5は、SCR触媒40においてオーバーストレージ状態が発生している場合の各値の挙動を示している。
【0051】
尚、図4B及び図5Bは、SCR触媒40におけるアンモニアストレージ量の推定値(実線)と実際値(点線)の挙動を示している。又、ここでは、排気浄化装置Uは、SCR触媒40におけるアンモニアストレージ量の推定値が、SCR触媒40のストレージ可能量に対して90%となるように、尿素水噴射量を制御している。
【0052】
ステップS1において、補正処理部105は、SCR触媒40におけるNOx浄化率が第1閾値(例えば、60%)以下まで低下しているか否かを判定する。ここで、SCR触媒40におけるNOx浄化率が第1閾値以下まで低下していない場合(ステップS1:NO)、補正処理部105は、特に処理を実行することなく、図3のフローチャートの処理を終了する。一方、SCR触媒40におけるNOx浄化率が第1閾値以下まで低下している場合(ステップS1:YES)、補正処理部105は、ステップS2に処理を進める。
【0053】
尚、このステップS1において、補正処理部105は、NOx浄化率の積分値に基づいて、SCR触媒40におけるNOx浄化率が低下しているか否かを判定してもよい。これによって、NOx浄化率を検出する際のノイズに起因して、無用に試験動作を実施してしまうことを回避することができる。
【0054】
ステップS2において、補正処理部105は、SCR触媒40におけるNOx浄化率の低下の要因を確定するための試験動作を開始する。この際、補正処理部105は、SCR触媒40におけるNOx浄化率の低下の要因を、SCR触媒40のアンダーストレージ状態と仮定して、暫定的に、現時点のSCR触媒40のアンモニアストレージ量の推定値を低下させる。加えて、補正処理部105は、暫定的に、現時点の尿素噴射補正係数を一段階増加させる(例えば、1.0から1.1に増加させる)。これによって、尿素水噴射制御部103が尿素水噴射装置50に対して指令する尿素水噴射量は、試験開始前よりも増加する。
【0055】
尚、このステップS2において、暫定的にアンモニアストレージ量の推定値を低下させる度合いは、例えば、予め規定した値(例えば、10%)であってもよい。又、暫定的にアンモニアストレージ量の推定値に対して、他のアンモニアストレージ量推定手法で推定したアンモニアストレージ量の推定値を代入する手法を用いてもよい。
【0056】
ステップS3において、補正処理部105は、試験終了までの所定時間内(例えば、1分間)に、SCR触媒40におけるNOx浄化率が第2閾値(例えば、80%)以上まで上昇するか否かを判定する。ここで、SCR触媒40におけるNOx浄化率が第2閾値以上まで上昇した場合(ステップS3:YES)、補正処理部105は、ステップS4に処理を進める。一方、SCR触媒40におけるNOx浄化率が第2閾値未満である場合(ステップS3:NO)、補正処理部105は、ステップS5に処理を進める。
【0057】
ステップS4において、補正処理部105は、SCR触媒40のアンダーストレージがNOx浄化率低下の要因と特定する。そして、補正処理部105は、アンモニアストレージ量の推定値を減少させる方向に補正し、尿素噴射補正係数を増加させる方向に補正する(図4を参照)。
【0058】
このステップS4の補正処理は、例えば、ステップS2にて暫定的に補正したSCR触媒40のアンモニアストレージ量の推定値及び尿素噴射補正係数を、現時点のSCR触媒40のアンモニアストレージ量の推定値及び尿素噴射補正係数と確定する処理であってもよい。
【0059】
尚、このステップS4の補正処理は、例えば、現時点のNOx浄化率、SCR触媒40の温度、及び、排気通路内の排ガス流量に基づいて、記憶部(例えば、ROM)に予め記憶した制御マップや物理式を用いて、SCR触媒40における現時点のアンモニアストレージ量を算出し、当該アンモニアストレージ量を、記憶部(例えば、RAM)に記憶する現時点のアンモニアストレージ量に上書きする処理であってもよい。
【0060】
SCR触媒40におけるアンモニアストレージ量は、NOx浄化率、SCR触媒40の温度、及び、排気通路内の排ガス流量と相関関係を有するため、現時点のこれらの値から、一意に算出され得る。又、現時点のSCR触媒40のアンモニアストレージ量の推定値を算出する物理式としては、例えば、NOxの化学反応の反応速度式から導出される以下の式(1)を用いてよい。
【数1】
【0061】
このステップS4によって、尿素水噴射装置50から噴射される尿素水噴射量は、現時点のSCR触媒40におけるアンモニアストレージ量の実際値に即した量となり、試験開始前よりも増加することになる。その結果、SCR触媒40におけるNOx浄化率は、回復することになる。
【0062】
又、このステップS4で、尿素噴射補正係数を増加させることによって、アンモニアストレージ量の推定値と目標値との間の差分の単位量当たりの尿素水噴射量を増加させることになるため、尿素水噴射装置50の装置誤差に伴う噴射量不足を抑制することができる。
【0063】
ステップS5において、補正処理部105は、SCR触媒40のオーバーストレージがNOx浄化率低下の要因と特定する。そして、補正処理部105は、アンモニアストレージ量の推定値を増加させる方向に補正し、尿素噴射補正係数を減少させる方向に補正する。
【0064】
このステップS5の補正処理は、例えば、ステップS2にて暫定的に補正したSCR触媒40のアンモニアストレージ量の推定値を破棄し、記憶部(例えば、RAM)に記憶する現時点のSCR触媒40のアンモニアストレージ量の推定値を、現時点のSCR触媒40のストレージ可能量に補正する処理であってもよい。尚、SCR触媒40の温度とSCR触媒40のストレージ可能量との関係を規定する制御マップを、予め記憶部に記憶しておき、補正処理部105は、当該制御マップを用いて、補正処理を行えばよい。
【0065】
又、このステップS5の補正処理は、ステップS2にて暫定的に補正した尿素噴射補正係数を破棄し、尿素噴射補正係数を1段階減少させる方向に補正する処理であってもよい。
【0066】
このステップS5によって、尿素水噴射装置50から噴射される尿素水噴射量は、現時点のSCR触媒40におけるアンモニアストレージ量の実際値に即した量となり、試験開始前よりも減少することになる。その結果、SCR触媒40におけるNOx浄化率は、時間の経過と共に回復することになる(図5を参照)。
【0067】
又、このステップS5で、尿素噴射補正係数を減少させることによって、アンモニアストレージ量の推定値と目標値との間の差分の単位量当たりの尿素水噴射量を減少させることになるため、尿素水噴射装置50の装置誤差に伴う過剰噴射を抑制することができる。
【0068】
尚、ステップS4及びS5を実行した際には、所定時間(例えば、10分間)、図3に示すフローチャートの処理の実行を禁止するのが望ましい。これによって、SCR触媒40におけるNOx浄化率が回復する前に、SCR触媒40のアンモニアストレージ量の推定値及び尿素噴射補正係数を補正する処理を繰り返し実行してしまうことを抑制することができる。
【0069】
以上のような処理により、SCR触媒40のアンモニアストレージ量の推定値と実際値との間の乖離は、解消されることになる。又、尿素噴射補正係数も適切な値に設定されることになるため、長期的に見て、SCR触媒40のアンモニアストレージ量の推定値と実際値との間の乖離が発生する頻度も抑制されることになる。
【0070】
尚、補正処理部105にてアンモニアストレージ量推定部102が推定するアンモニアストレージ量の推定値を減少させたり、増加させたりする処理(上記したステップS4、S5)は、任意の手法であってよい。かかる処理は、例えば、段階的に(例えば、5%毎)、アンモニアストレージ量推定部102が推定するアンモニアストレージ量の推定値を増加又は減少させる処理であってもよい。かかる手法であっても、図3のフローチャートの処理を繰り返し実行することで、アンモニアストレージ量推定部102が推定するアンモニアストレージ量の推定値を段階的に実際値に近づけることができる。
【0071】
[効果]
以上のように、本実施形態に係る排気浄化装置U(ECU100)によれば、SCR触媒40におけるNOx浄化率の低下の原因が、SCR触媒40におけるアンモニアのオーバーストレージ状態に起因するのか又はアンダーストレージ状態に起因するのかを特定することが可能である。そして、これによって、アンモニアストレージ量の推定値、及び、尿素噴射補正係数を適切に補正することができる。
【0072】
(その他の実施形態)
本発明は、上記実施形態に限らず、種々に変形態様が考えられる。
【0073】
上記実施形態では、ECU100の構成の一例として、NOx浄化率検出部101、アンモニアストレージ量推定部102、尿素水噴射制御部103、補正係数設定部104、及び、補正処理部105の機能が一のコンピュータによって実現されるものとして記載したが、複数のコンピュータによって実現されてもよいのは勿論である。例えば、アンモニアストレージ量推定部102の機能と尿素水噴射制御部103の機能は、それぞれ別個のECUに搭載されてもよい。
【0074】
又、上記実施形態では、一例として、排気浄化装置Uをディーゼルエンジンに適用した態様ついて説明する。但し、本実施形態に係る排気浄化装置Uは、ディーゼルエンジンに限らず、ガソリンエンジンにも適用し得る。
【0075】
又、上記実施形態では、排気浄化装置Uの適用対象の一例として、車両を示したが、排気浄化装置Uの適用対象は、これに限定されない。例えば、排気浄化装置Uは、発電機、建設機械、船舶等に適用されてもよい。
【0076】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本開示に係る排気浄化装置によれば、SCR触媒におけるアンモニアストレージ量の推定値が、実際値と乖離した場合にも、アンモニアストレージ量の推定値を適切に補正することができる。
【符号の説明】
【0078】
U 排気浄化装置
10 エンジン
20 吸気通路
30 排気通路
40 SCR触媒(NOx選択還元化型触媒)
50 尿素水噴射装置
51 尿素水添加弁
52 尿素水タンク
53 サプライポンプ
61 第1NOxセンサ
62 第2NOxセンサ
63 温度センサ
64 流量センサ
100 ECU(制御装置)
101 NOx浄化率検出部
102 アンモニアストレージ量推定部
103 尿素水噴射制御部
104 補正係数設定部
105 補正処理部
図1
図2
図3
図4
図5