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特許7115337固体電解質、リチウムイオン蓄電素子、及びこれらの製造方法
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  • 特許-固体電解質、リチウムイオン蓄電素子、及びこれらの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】固体電解質、リチウムイオン蓄電素子、及びこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20220802BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220802BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20220802BHJP
   H01B 1/10 20060101ALI20220802BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20220802BHJP
   C01B 25/14 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M10/052
H01B1/06 A
H01B1/10
H01B13/00 Z
C01B25/14
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019010669
(22)【出願日】2019-01-24
(65)【公開番号】P2020119783
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100158540
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 博生
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】吉川 大輔
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/173940(WO,A1)
【文献】特開2013-037950(JP,A)
【文献】国際公開第2018/047566(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/218057(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0562
H01M 10/052
H01B 1/06
H01B 1/10
H01B 13/00
C01B 25/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム、リン、硫黄、及びハロゲンを含有し、
CuKα線を用いたX線回折測定において、空間群F-43mに帰属可能な回折パターンを有し、(311)面を示す回折線の半値幅(FWHM(311))と(222)面を示す回折線の半値幅(FWHM(222))との比(FWHM(311)/FWHM(222))が0.93以上0.98以下である、固体電解質。
【請求項2】
上記半値幅(FWHM(311))が0.130°以上である、請求項1の固体電解質。
【請求項3】
リチウム、リン、硫黄、及びハロゲンを含有し、CuKα線を用いたX線回折測定において、空間群F-43mに帰属可能な回折パターンを有する固体電解質の製造方法であって、
エーテルを含む有機液体と、リチウム源、硫黄源及びハロゲン源と、を含有する原料液を調製すること、
上記有機液体を揮発させて、固形体を得ること、及び
上記固形体を含む前駆体を焼成すること
をこの順に備え、
上記有機液体に占める上記エーテルの含有割合が40体積%以上であり、
上記前駆体がリン源を含む、固体電解質の製造方法。
【請求項4】
正極層と、
隔離層と、
負極層と
を備え、
上記正極層、上記隔離層、上記負極層又はこれらの組み合わせが請求項1又は請求項2の固体電解質を含む、リチウムイオン蓄電素子。
【請求項5】
請求項1若しくは請求項2の固体電解質又は請求項3の固体電解質の製造方法で得られた固体電解質を用いて、正極層、隔離層及び負極層の少なくとも1つを作製することを備える、リチウムイオン蓄電素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質、リチウムイオン蓄電素子、及びこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。上記非水電解質二次電池は、一般的には、セパレータで電気的に隔離された一対の電極と、この電極間に介在する非水電解質とを有し、両電極間でリチウムイオンなどの電荷の受け渡しを行うことで充放電するよう構成される。また、非水電解質二次電池以外の非水電解質蓄電素子として、リチウムイオンキャパシタや電気二重層キャパシタ等のキャパシタも広く普及している。
【0003】
近年、非水電解質として、有機溶媒等の液体に電解質塩が溶解された非水電解液に代えて、硫化物系固体電解質等の固体電解質を用いる蓄電素子が提案されている。硫化物系固体電解質の一つとして、リチウム、リン、硫黄及びハロゲンを含有するArgyrodite型固体電解質が知られている(特許文献1、2、非特許文献1、2参照)。この固体電解質は、空間群F-43mに帰属する結晶構造を有するとされている。従来、このような固体電解質は、ボールミル等を用いたメカニカルミリング処理により固体原料を粉砕混合し、得られた混合粉末を焼成することにより合成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-67552号公報
【文献】特開2017-117753号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Prasada Rao Rayavarapu他、「Variation in structure and Li+-ion migration in argyrodite-type Li6PS5X (X=Cl,Br,I) solid electrolytes」、J Solid State Electrochem 16(2012)1807-1813
【文献】Sylvain Boulineau他、「Mechanochemical synthesis of Li-argyrodite Li6PS5X (X=Cl,Br,I) as sulfur-based solid electrolytes for all solid state batteries application」、Solid State Ionics 221 (2012) 1-5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
蓄電素子には、放電容量が大きいことなどが要求される。上記のような従来のArgyrodite型固体電解質を用いた蓄電素子においても放電容量は十分といえず、充放電性能の更なる向上が望まれる。
【0007】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、リチウムイオン蓄電素子の放電容量を大きくすることができる固体電解質、放電容量の大きいリチウムイオン蓄電素子、及びこれらの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様は、リチウム、リン、硫黄、及びハロゲンを含有し、CuKα線を用いたX線回折測定において、空間群F-43mに帰属可能な回折パターンを有し、(311)面を示す回折線の半値幅(FWHM(311))と(222)面を示す回折線の半値幅(FWHM(222))との比(FWHM(311)/FWHM(222))が0.93以上0.98以下である、固体電解質である。
【0009】
本発明の他の一態様は、エーテルを含む有機液体と、リチウム源、硫黄源及びハロゲン源と、を含有する原料液を調製すること、上記有機液体を揮発させて、固形体を得ること、及び上記固形体を含む前駆体を焼成することをこの順に備え、上記有機液体に占める上記エーテルの含有割合が40体積%以上であり、上記前駆体がリン源を含む、固体電解質の製造方法である。
【0010】
本発明の他の一態様は、正極層と、隔離層と、負極層とを備え、上記正極層、上記隔離層、上記負極層又はこれらの組み合わせが当該固体電解質を含む、リチウムイオン蓄電素子である。
【0011】
本発明の他の一態様は、当該固体電解質又は当該固体電解質の製造方法で得られた固体電解質を用いて、正極層、隔離層及び負極層の少なくとも1つを作製することを備える、リチウムイオン蓄電素子の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、リチウムイオン蓄電素子の放電容量を大きくすることができる固体電解質、放電容量の大きいリチウムイオン蓄電素子、及びこれらの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明のリチウムイオン蓄電素子の一実施形態である全固体電池の模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態に係る固体電解質は、リチウム、リン、硫黄、及びハロゲンを含有し、CuKα線を用いたX線回折測定において、空間群F-43mに帰属可能な回折パターンを有し、(311)面を示す回折線の半値幅(FWHM(311))と(222)面を示す回折線の半値幅(FWHM(222))との比(FWHM(311)/FWHM(222))が0.93以上0.98以下である、固体電解質である。
【0015】
当該固体電解質は、リチウムイオン蓄電素子の放電容量を大きくすることができる。このような効果が生じる理由は定かでは無いが、以下の理由が推測される。上記半値幅の比(FWHM(311)/FWHM(222))は、結晶配向性に依存する指標である。すなわち、上記半値幅の比が上記範囲である場合、結晶配向性が充放電性能を高めるための適度な状態となっていると考えられ、放電容量が大きくなっていると推測される。
【0016】
なお、空間群「F-43m」における「-4」は4回回反軸の対象要素を表し、本来「4」の上にバー「-」を付して表記すべきものである。上記CuKα線を用いるX線回折測定は、以下の手順により行う。気密性のX線回折測定用試料ホルダーに、露点-50℃以下のアルゴン雰囲気下で、測定に供する固体電解質粉末を充填する。X線回折装置(Rigaku社の「MiniFlex II」)を用いて、粉末X線回折測定を行う。線源はCuKα線、管電圧は30kV、管電流は15mAとし、回折X線は厚み30μmのKβフィルターを通し高速一次元検出器(型番:D/teX Ultra 2)にて検出する。サンプリング幅は0.01°、スキャンスピードは5°/min、発散スリット幅は0.625°、受光スリット幅は13mm(OPEN)、散乱スリット幅は8mmとする。また、得られたX線回折パターンを、PDXL(解析ソフト、Rigaku製)を用いて自動解析処理する。ここで、PDXLソフトの作業ウィンドウで「バックグラウンドを精密化する」及び「自動」を選択し、実測パターンと計算パターンの強度誤差が4000以下になるように精密化する。この精密化によってバックグラウンド処理がされ、ベースラインを差し引いた結果に基づき、各回折線のピーク強度の値、及び半値幅の値、等が得られる。
【0017】
上記半値幅(FWHM(311))が0.130°以上であることが好ましい。本発明の一実施形態に係る固体電解質において半値幅(FWHM(311))が0.130°以上である場合、結晶配向性がより良好な状態となっていることなどにより、放電容量をより大きくすることができる。
【0018】
本発明の一実施形態に係る固体電解質の製造方法は、エーテルを含む有機液体と、リチウム源、硫黄源及びハロゲン源と、を含有する原料液を調製すること、上記有機液体を揮発させて、固形体を得ること、及び上記固形体を含む前駆体を焼成することをこの順に備え、上記有機液体に占める上記エーテルの含有割合が40体積%以上であり、上記前駆体がリン源を含む、固体電解質の製造方法である。
【0019】
当該固体電解質の製造方法によれば、リチウムイオン蓄電素子の放電容量を大きくすることができる固体電解質を得ることができる。この理由としては定かではないが以下が推測される。上記有機液体を含む原料液において上記有機液体を揮発させた場合、リチウム、硫黄及びハロゲンが適当な配向状態となった固形体が得られていると推測される。そこで、このような固形体を含む前駆体を焼成することで、得られる固体電解質の結晶配向性が良好な状態に制御されたものとなると推測される。
【0020】
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン蓄電素子は、正極層と、隔離層と、負極層とを備え、上記正極層、上記隔離層、上記負極層又はこれらの組み合わせが本発明の一実施形態に係る上記固体電解質を含むリチウムイオン蓄電素子である。当該リチウムイオン蓄電素子は、放電容量が大きい。
【0021】
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン蓄電素子の製造方法は、当該固体電解質又は当該固体電解質の製造方法で得られた固体電解質を用いて、正極層、隔離層及び負極層の少なくとも1つを作製することを備える、リチウムイオン蓄電素子の製造方法である。当該リチウムイオン蓄電素子の製造方法によれば、放電容量の大きいリチウムイオン蓄電素子を得ることができる。
【0022】
以下、本発明の一実施形態に係る固体電解質、その製造方法、リチウムイオン蓄電素子及びその製造方法を順に詳説する。
【0023】
<固体電解質>
本発明の一実施形態に係る固体電解質は、リチウム、リン、硫黄、及びハロゲンを含有する。上記ハロゲンとしては、塩素、臭素、ヨウ素等を挙げることができ、塩素が好ましい。
【0024】
当該固体電解質における各構成元素の含有割合は、所定の結晶構造を有することができる限り特に限定されない。当該固体電解質におけるリンに対するリチウムの含有割合の下限としては、モル比で5が好ましく、5.5がより好ましく、5.9がさらに好ましく、6がよりさらに好ましい。このリチウムの含有割合の上限は7が好ましく、6.5がより好ましく、6がさらに好ましい。リンに対する硫黄の含有割合の下限としては、モル比で4が好ましく、4.5がより好ましく、4.9がさらに好ましく、5がよりさらに好ましい。この硫黄の含有割合の上限は6が好ましく、5.5がより好ましく、5.1がさらに好ましく、5がよりさらに好ましい。リンに対するハロゲンの含有割合の下限としては、モル比で0.2が好ましく、0.5がより好ましく、1がさらに好ましい。このハロゲンの含有割合の上限は1.8が好ましく、1.5がより好ましく、1がさらに好ましい。
【0025】
当該固体電解質は、リチウム、リン、硫黄、及びハロゲン以外の他の元素をさらに含有していてもよい。他の元素としては、マグネシウム、インジウム等を挙げることができる。当該固体電解質におけるリンに対する上記他の元素の含有割合としては、例えばモル比で0.01以上0.1以下が好ましい。当該固体電解質は、リチウム、リン、硫黄、及びハロゲン以外の他の元素を実質的に含有していなくてもよい。
【0026】
当該固体電解質は、下記式(1)で表されることが好ましい。
Li7-mx-yPS6-yHa ・・・ (1)
式(1)中、Aは、マグネシウム又はインジウムである(以下、マグネシウム又はインジウムを「元素A」とも表す。)。Haは、ハロゲンである。xは、0以上0.1以下の数である。yは、0.2以上1.8以下の数である。mは、元素Aの価数である。
【0027】
上記xは、0が好ましいことがある。上記yの下限は0.5が好ましく、この上限は1.5が好ましい。上記yは、1がより好ましい。上記mは、元素Aがマグネシウムの場合2であり、元素Aがインジウムの場合3であってよい。
【0028】
当該固体電解質は、CuKα線を用いたX線回折測定において、空間群F-43mに帰属可能な回折パターンを有する。当該固体電解質は、空間群F-43mに属する結晶構造を有していてよい。当該固体電解質は、立方晶であり、Argyrodite型の結晶構造を有する。
【0029】
当該固体電解質の上記回折パターンにおいては、(311)面を示す回折線の半値幅(FWHM(311))と(222)面を示す回折線の半値幅(FWHM(222))との比(FWHM(311)/FWHM(222))の下限が0.93であり、0.94が好ましく、0.95がより好ましく、0.96がさらに好ましい。一方、この比(FWHM(311)/FWHM(222))の上限は0.98であり、0.980が好ましく、0.975がより好ましい。比(FWHM(311)/FWHM(222))が上記範囲内であることにより、結晶配向性が好適化され、リチウムイオン蓄電素子の放電容量を大きくすることができる。
【0030】
当該固体電解質において、上記(311)面を示す回折線は、通常、2θ=29.5±0.5°の位置に現れる。上記(222)面を示す回折線は、通常、2θ=31.0±0.5°の位置に現れる。
【0031】
上記半値幅(FWHM(311))の下限としては、0.130°が好ましい。一方、この半値幅(FWHM(311))の上限としては、0.20°が好ましく、0.18°がより好ましく、0.16°がさらに好ましく、0.15°がよりさらに好ましく、0.14°が特に好ましい。半値幅(FWHM(311))が上記範囲内であることにより、結晶配向性がより好適化され、リチウムイオン蓄電素子の放電容量をより大きくすることができる。
【0032】
当該固体電解質の25℃におけるイオン伝導度の下限としては、1×10-4S/cmが好ましく、2×10-4S/cmがより好ましく、1×10-3S/cmがさらに好ましい。当該固体電解質の25℃におけるイオン伝導度が上記下限以上であることで、リチウムイオン蓄電素子の放電容量をより大きくすることができる。上記イオン伝導度の上限としては、例えば5×10-3S/cmである。
【0033】
なお、当該固体電解質のイオン伝導度は、以下の方法で交流インピーダンスを測定して求める。露点-50℃以下のアルゴン雰囲気下で、内径10mmの粉体成型器に試料粉末を120mg投入したのちに、油圧プレスをもちいて50MPa以下で一軸加圧成形する。圧力解放後に、試料の上面及び下面に集電体としてSUS316L粉末を投入したのちに、360MPa、5min一軸加圧成形することによりイオン伝導度測定用ペレットを得る。このイオン伝導度測定用ペレットを宝泉社製HSセル内に挿入して交流インピーダンス測定を行う。測定条件は、印加電圧振幅20mV、周波数範囲1MHz~100mHzとする。
【0034】
当該固体電解質の形状は特に限定されず、通常、粒状、塊状等である。当該固体電解質が粒状である場合、その平均粒径の下限としては例えば3μmであり、5μmが好ましく、10μmがより好ましい。一方、この上限としては例えば100μmであり、50μmが好ましく、20μmがより好ましい。当該固体電解質の平均粒径が上記範囲内であることで、リチウムイオン蓄電素子に用いた場合に良好なイオン伝導性が発揮されることなどにより、放電容量をより大きくすることができる。なお、「平均粒径」とは、JIS-Z-8825(2013年)に準拠し、粒子を溶媒で希釈した希釈液に対しレーザ回折・散乱法により測定した粒径分布に基づき、JIS-Z-8819-2(2001年)に準拠し計算される体積基準積算分布が50%となる値(メジアン径)を意味する。以下、平均粒径について同様である。固体電解質の平均粒径は、具体的には以下の方法による測定値とする。測定装置としてレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(HORIBA製の「Partica LA-960」)を用いて測定する。分散媒に超脱水ヘプタンを用い、測定対象試料の粒子が分散媒中に分散する分散液を測定セルに充填する。この測定セルにレーザー光を照射し、測定試料から散乱光分布を得る。そして、散乱光分布から得られる累積度50%(D50)にあたる粒子径を平均粒径とする。
【0035】
当該固体電解質は、リチウムイオン二次電池等のリチウムイオン蓄電素子の電解質として好適に用いることができる。中でも、全固体電池の電解質として特に好適に用いることができる。なお、当該固体電解質は、リチウムイオン蓄電素子における正極層、隔離層、負極層等のいずれにも用いることができる。
【0036】
<固体電解質の製造方法>
当該固体電解質の製造方法は特に限定されないが、液相法を用いた以下の方法によって好適に製造することができる。すなわち、本発明の一実施形態に係る固体電解質の製造方法は、
(1)エーテルを含む有機液体と、リチウム源、硫黄源及びハロゲン源とを含有する原料液を調製すること、
(2)上記有機液体を揮発させて、固形体を得ること、及び
(3)得られた上記固形体を含む前駆体を焼成すること
をこの順に備える。上記有機液体に占める上記エーテルの含有割合は40体積%以上である。また、上記前駆体はリン源を含む。当該製造方法の各工程は、全てアルゴン雰囲気等、不活性雰囲気下で行うことが好ましい。以下、各工程について詳説する。
【0037】
(1)原料液調製工程
本工程においては、有機液体と、リチウム源、硫黄源及びハロゲン源とを含む原料液を調製する。リチウム源とは、リチウム原子であり、単体として存在することに限定されるものでは無い。すなわち、原料液中にリチウム原子が存在していればよい。また、リチウム源は、リチウムイオン又はリチウムを含む多原子イオンとして原料液中に全て溶解して存在していてもよいし、一部は溶解せずに存在していてもよい。リチウム源以外のリン源、硫黄源及びハロゲン源についても同様である。但し、リチウム源、硫黄源及びハロゲン源のそれぞれは、少なくとも一部が有機液体中に溶解して存在していることが好ましい。
【0038】
上記有機液体は、エーテルを含む。上記エーテルとしては、ジメチルエーテル、メチルエチルエーテル、ジエチルエーテル等の鎖状エーテル、テトラヒドロフラン、フラン、テトラヒドロピラン、ピラン等の環状エーテルなどが挙げられる。これらの中でも、環状エーテルが好ましく、テトラヒドロフラン及びテトラヒドロピランがより好ましく、テトラヒドロフランがさらに好ましい。
【0039】
上記有機液体に占める上記エーテルの含有割合の下限は40体積%であり、60体積%が好ましく、80体積%がより好ましい。上記エーテルの含有割合は、実質的に100体積%であってもよい。当該製造方法においては、このようにエーテル比率の高い有機液体を用いることで、結晶配向性が良好な、本発明の一実施形態に係る上記固体電解質を効果的に得ることができる。
【0040】
上記有機液体に含有されていてもよいエーテル以外の有機液体としては、アルコール、エステル、ケトン、アミド等を挙げることができ、アルコールが好ましい。アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール等を挙げることができ、エタノールが好ましい。
【0041】
上記有機液体は、可能な限り水を含まないことが好ましい。上記有機液体における含水量としては、0.01質量%以下が好ましく、0.001質量%以下がより好ましい。
【0042】
原料液調製工程においては、上記有機液体に、リチウム源、硫黄源及びハロゲン源を含む化合物又は単体を添加し、攪拌等により混合することで、上記原料液を調製することができる。添加する化合物及び単体全体で、リチウム原子、硫黄原子及びハロゲン原子が含まれていればよい。上記化合物としては、目的とする固体電解質を構成する原子の2種以上から構成されるものを用いることができる。例えばリチウム原子及び硫黄原子から構成される化合物としてLiSが挙げられ、リチウム原子及びハロゲン原子を含む化合物としてLiCl、LiBr等が挙げられる。これらの化合物の使用割合は、目的とする固体電解質の組成に応じて適宜設定される。
【0043】
上記原料液には、リン源がさらに含まれていてもよい。リン源は、原料液中に溶解して存在していてもよいし、溶解せずに存在していてもよい。リン源の少なくとも一部は、原料液中に溶解せずに存在していることが好ましい場合もある。リン原子が含まれる化合物としては、P等が挙げられる。
【0044】
合成する固体電解質の組成に応じ、上記原料液には他の成分がさらに含まれていてもよい。例えば合成する固体電解質がマグネシウムを含む場合、原料液にはさらにマグネシウム源が含まれ、合成する固体電解質がインジウムを含む場合、原料液にはさらにインジウム源が含まれる。マグネシウム原子が含まれる化合物としてはMgCl等が挙げられ、インジウム原子が含まれる化合物としては、InCl等が挙げられる。上記原料液には、上記有機液体以外の成分としては、合成する固体電解質を構成する元素以外の元素が実質的に含まれないことが好ましい。
【0045】
(2)揮発工程
本工程においては、上記原料液中の上記有機液体を揮発させる。この揮発により、リチウム源、硫黄源及びハロゲン源を含む固形体が得られる。この固形体中において、リチウム、硫黄及びハロゲンは、例えばメカニカルミリング法で得られたものとは異なる、適当な配向状態となった複合体等となっていると推測される。
【0046】
有機液体の揮発方法としては特に限定されず、自然乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥等の公知の方法により行うことができる。なお、加熱乾燥する場合の加熱温度としては、例えば50℃以上150℃以下とすることができる。また、減圧乾燥の際に、例えば上記加熱温度で加熱しながら行ってもよい。
【0047】
(3)焼成工程
本工程においては、前駆体を焼成する。この前駆体は、上記(2)揮発工程で得られた固形体を含み、かつリン源を含む。上記原料液中に、リチウム源、硫黄源及びハロゲン源に加えてリン源も含まれている場合、得られた固形体には、リチウム源、硫黄源、ハロゲン源及びリン源が含まれているため、この固形体をそのまま前駆体として焼成に供することができる。得られた固形体にさらに別の成分を加えて前駆体としてもよい。焼成に供されるリチウム源、硫黄源、ハロゲン源及びリン源等の含有比率は、目的とする固体電解質の組成となるように調整される。
【0048】
上記焼成における焼成温度としては、例えば500℃以上600℃以下とすることができる。また、焼成時間としては、例えば3時間以上24時間以下とすることができる。
【0049】
<リチウムイオン蓄電素子>
本発明のリチウムイオン蓄電素子の一実施形態として、以下、全固体電池を具体例に挙げて説明する。図1の全固体電池10は、正極層1と負極層2とが隔離層3を介して配置された二次電池である。正極層1は、正極基材4及び正極活物質層5を有し、正極基材4が正極層1の最外層となる。負極層2は、負極基材7及び負極活物質層6を有し、負極基材7が負極層2の最外層となる。図1に示す全固体電池10においては、負極基材7上に、負極活物質層6、隔離層3、正極活物質層5及び正極基材4がこの順で積層されている。
【0050】
全固体電池10は、正極層1、負極層2及び隔離層3の少なくとも1つに、本発明の一実施形態に係る固体電解質を含有する。より具体的には、正極活物質層5、負極活物質層6及び隔離層3の少なくとも1つに、本発明の一実施形態に係る固体電解質が含有されている。全固体電池10は、当該固体電解質を含有するので、放電容量が大きい。当該固体電解質は、正極層1に含有されていることが好ましい。
【0051】
全固体電池10は、本発明の一実施形態に係る固体電解質以外のその他の固体電解質を併せて用いるようにしてもよい。その他の固体電解質としては、当該固体電解質以外の硫化物系固体電解質、酸化物系固体電解質、ドライポリマー電解質、ゲルポリマー電解質、疑似固体電解質等を挙げることができ、硫化物系固体電解質が好ましい。また、全固体電池10における一つの層中に異なる複数種の固体電解質が含有されていてもよく、層毎に異なる固体電解質が含有されていてもよい。
【0052】
硫化物系固体電解質としては、例えばLiS-P、LiS-P-LiI、LiS-P-LiCl、LiS-P-LiBr、LiS-P-LiO、LiS-P-LiO-LiI、LiS-P-LiN、LiS-SiS、LiS-SiS-LiI、LiS-SiS-LiBr、LiS-SiS-LiCl、LiS-SiS-B-LiI、LiS-SiS-P-LiI、LiS-B、LiS-P-Z2n(ただし、m、nは正の数、Zは、Ge、Zn、Gaのいずれかである。)、LiS-GeS、LiS-SiS-LiPO、LiS-SiS-LiMO(ただし、x、yは正の数、Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga、Inのいずれかである。)、Li10GeP12等を挙げることができる。
【0053】
[正極層]
正極層1は、正極基材4と、この正極基材4の表面に積層される正極活物質層5とを備える。正極層1は、正極基材4と正極活物質層5との間に中間層を有していてもよい。中間層は、例えば、導電性粒子及び樹脂バインダーを含む層などとすることができる。
【0054】
(正極基材)
正極基材4は、導電性を有する。「導電性」を有するとは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が10Ω・cm以下であることを意味し、「非導電性」とは、上記体積抵抗率が10Ω・cm超であることを意味する。正極基材4の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、インジウム、ステンレス鋼等の金属又はこれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ、及びコストの観点からアルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。正極基材としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、正極基材としてはアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔が好ましい。アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)に規定されるA1085P、A3003P等が例示できる。
【0055】
正極基材の平均厚さの下限としては、5μmが好ましく、10μmがより好ましい。正極基材の平均厚さの上限としては、50μmが好ましく、40μmがより好ましい。正極基材の平均厚さを上記下限以上とすることで、正極基材の強度を高めることができる。正極基材の平均厚さを上記上限以下とすることで、全固体電池の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。また、これらの理由から、正極基材の平均厚さは5μm以上50μm以下とすることが好ましく、10μm以上40μm以下とすることがより好ましい。「平均厚さ」とは、任意の十点において測定した厚さの平均値をいう。他の部材等に対して「平均厚さ」を用いる場合にも同様に定義される。
【0056】
中間層は、正極基材と正極活物質層との間に配される層である。中間層は、炭素粒子等の導電性を有する粒子を含むことで正極基材と正極活物質層との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば、樹脂バインダー及び導電性を有する粒子を含む。
【0057】
(正極活物質層)
正極活物質層5は、正極活物質を含む。正極活物質層5は、正極活物質を含むいわゆる正極合剤から形成することができる。正極活物質層5は、正極活物質と固体電解質とを含む混合物又は複合体を含有してもよい。正極活物質層5は、必要に応じて、導電剤、バインダー(結着剤)、増粘剤、フィラー等の任意成分を含んでいてよい。これらの各任意成分の1種又は2種以上は、正極活物質層5に実質的に含有されていなくてもよい。
【0058】
正極活物質層5に含まれる正極活物質としては、リチウムイオン二次電池や全固体電池に通常用いられる公知の正極活物質の中から適宜選択できる。上記正極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。例えば、α-NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物、ポリアニオン化合物、カルコゲン化合物、硫黄等が挙げられる。α-NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、例えば、Li[LiNi1-x]O(0≦x<0.5)、Li[LiNiγCo(1-x-γ)]O(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LiNiγMnβCo(1-x-γ-β]O(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)等が挙げられる。スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物として、LiMn,LiNiγMn(2-γ)等が挙げられる。ポリアニオン化合物として、LiFePO,LiMnPO,LiNiPO,LiCoPO,Li(PO,LiMnSiO,LiCoPOF等が挙げられる。カルコゲン化合物として、二硫化チタン、二硫化モリブデン、二酸化モリブデン等が挙げられる。これらの材料中の原子又はポリアニオンは、他の元素からなる原子又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。正極活物質は、表面がニオブ酸リチウム、チタン酸リチウム、リン酸リチウム等の酸化物で被覆されていてもよい。正極活物質層においては、これら正極活物質の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0059】
正極活物質の平均粒径は、例えば、0.1μm以上20μm以下とすることが好ましい。正極活物質の平均粒径を上記下限以上とすることで、正極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。正極活物質の平均粒径を上記上限以下とすることで、正極活物質層の電子伝導性が向上する。
【0060】
粒子を所定の形状で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法として、例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェトミル、旋回気流型ジェットミル又は篩等を用いる方法が挙げられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、篩や風力分級機等が、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0061】
正極活物質層5における正極活物質の含有量の下限としては、10質量%が好ましく、30質量%がより好ましく、50質量%がさらに好ましい。正極活物質の含有量の上限としては、90質量%が好ましく、80質量%がより好ましい。正極活物質の含有量を上記範囲とすることで、全固体電池10の電気容量をより大きくすることができる。
【0062】
正極活物質層5が固体電解質を含有する場合、固体電解質の含有量の下限としては、10質量%が好ましく、20質量%がより好ましい。正極活物質層5における固体電解質の含有量の上限は、90質量%が好ましく、70質量%がより好ましく、50質量%がさらに好ましい。固体電解質の含有量を上記範囲とすることで、当該全固体電池の電気容量を高めることができる。正極活物質層5に本発明の一実施形態に係る固体電解質を用いる場合、正極活物質層5中の全固体電解質に占める本発明の一実施形態に係る固体電解質の含有量としては、50質量%以上が好ましく、70質量以上%がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、実質的に100質量%であることがよりさらに好ましい。
【0063】
上記正極活物質と固体電解質との混合物は、正極活物質及び固体電解質等をメカニカルミリング等で混合することにより作製される混合物である。例えば、正極活物質と固体電解質等との混合物は、粒子状の正極活物質及び粒子状の固体電解質等を混合して得ることができる。上記正極活物質と固体電解質との複合体としては、正極活物質及び固体電解質等の間で化学的又は物理的な結合を有する複合体、正極活物質と固体電解質等とを機械的に複合化させた複合体等が挙げられる。上記複合体は、一粒子内に正極活物質及び固体電解質等が存在しているものであり、例えば、正極活物質及び固体電解質等が凝集状態を形成しているもの、正極活物質の表面の少なくとも一部に固体電解質等含有皮膜が形成されているものなどが挙げられる。
【0064】
(任意成分)
導電剤は、導電性を有する材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、例えば、黒鉛;ファーネスブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック;金属;導電性セラミックス等が挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。これらの中でも、電子伝導性等の観点よりアセチレンブラックが好ましい。
【0065】
正極活物質層5における導電剤の含有量の下限としては、1質量%が好ましく、3質量%がより好ましい。導電剤の含有量の上限としては、10質量%が好ましく、9質量%がより好ましい。導電剤の含有量を上記範囲とすることで、全固体電池の電気容量を高めることができる。また、これらの理由から、導電剤の含有量は1質量%以上10質量%以下とすることが好ましく、3質量%以上9質量%以下とすることがより好ましい。
【0066】
バインダーとしては、例えば、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。
【0067】
正極活物質層5におけるバインダーの含有量の下限としては、1質量%が好ましく、3質量%がより好ましい。バインダーの含有量の上限としては、10質量%が好ましく、9質量%がより好ましい。バインダーの含有量を上記範囲とすることで、活物質を安定して保持することができる。また、これらの理由から、バインダーの含有量は1質量%以上10質量%とすることが好ましく、3質量%以上9質量%以下とすることがより好ましい。
【0068】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。増粘剤がリチウム等と反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させてもよい。
【0069】
フィラーは、特に限定されない。フィラーとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス、アルミナシリケイト等が挙げられる。
【0070】
正極活物質層5は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Nb、W等の遷移金属元素を正極活物質、導電剤、バインダー、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0071】
正極活物質層5の平均厚さの下限としては、30μmが好ましく、60μmがより好ましい。正極活物質層5の平均厚さの上限としては、1000μmが好ましく、500μmがより好ましい。正極活物質層5の平均厚さを上記下限以上とすることで、高いエネルギー密度を有する全固体電池を得ることができる。正極活物質層5の平均厚さを上記上限以下とすることで、全固体電池の小型化を図ることなどができる。
【0072】
[負極層]
負極層2は、負極基材7と、当該負極基材7に直接又は中間層を介して配される負極活物質層6とを有する。中間層の構成は特に限定されず、例えば上記正極層で例示した構成から選択することができる。
【0073】
(負極基材)
負極基材7は、導電性を有する。負極基材7の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼、アルミニウム等の金属又はこれらの合金が用いられる。これらの中でも銅又は銅合金が好ましい。負極基材としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、負極基材としては銅箔又は銅合金箔が好ましい。銅箔の例としては、圧延銅箔、電解銅箔等が挙げられる。
【0074】
負極基材7の平均厚さの下限としては、3μmが好ましく、5μmがより好ましい。負極基材7の平均厚さの上限としては、30μmが好ましく、20μmがより好ましい。負極基材の平均厚さを上記下限以上とすることで、負極基材7の強度を高めることができる。負極基材の平均厚さを上記上限以下とすることで、全固体電池の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。また、これらの理由から、負極基材7の平均厚さは、3μm以上30μm以下とすることが好ましく、5μm以上20μm以下とすることがより好ましい。
【0075】
(負極活物質層)
負極活物質層6は、負極活物質を含む。負極活物質層6は、負極活物質を含むいわゆる負極合剤から形成することができる。負極活物質層6は、負極活物質と固体電解質とを含む混合物又は複合体を含有してもよい。負極活物質層6は、必要に応じて、導電剤、バインダー、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。これらの負極活物質層における任意成分の種類及び好適な含有量は、上述した正極活物質層の各任意成分と同様である。これらの各任意成分の1種又は2種以上は、負極活物質層に実質的に含有されていなくてもよい。
【0076】
負極活物質層6は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を負極活物質、導電剤、バインダー、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0077】
負極活物質としては、リチウムイオン二次電池や全固体電池に通常用いられる公知の負極活物質の中から適宜選択できる。上記負極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。負極活物質としては、例えば、金属Li;Si、Sn等の金属又は半金属;Si酸化物、Ti酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物;LiTi12、LiTiO2、TiNb等のチタン含有酸化物;ポリリン酸化合物;炭化ケイ素;黒鉛(グラファイト)、非黒鉛質炭素(易黒鉛化性炭素又は難黒鉛化性炭素)等の炭素材料等が挙げられる。これらの材料の中でも、黒鉛及び非黒鉛質炭素が好ましい。負極活物質層においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0078】
「黒鉛」とは、充放電前又は放電状態において、X線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.33nm以上0.34nm未満の炭素材料をいう。黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛が挙げられる。安定した物性の材料を入手できるという観点で、人造黒鉛が好ましい。
【0079】
「非黒鉛質炭素」とは、充放電前又は放電状態においてX線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.34nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。非黒鉛質炭素の結晶子サイズLcは、通常、0.80~2.0nmである。非黒鉛質炭素としては、難黒鉛化性炭素や、易黒鉛化性炭素が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、例えば、樹脂由来の材料、石油ピッチ由来の材料、アルコール由来の材料等が挙げられる。
【0080】
ここで、「放電状態」とは、負極活物質として炭素材料を含む負極を作用極として、金属Liを対極として用いた単極電池において、開回路電圧が0.7V以上である状態をいう。開回路状態での金属Li対極の電位は、Liの酸化還元電位とほぼ等しいため、上記単極電池における開回路電圧は、Liの酸化還元電位に対する炭素材料を含む負極の電位とほぼ同等である。つまり、上記単極電池における開回路電圧が0.7V以上であることは、負極活物質である炭素材料から、充放電に伴い吸蔵放出可能なリチウムイオンが十分に放出されていることを意味する。
【0081】
「難黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.36nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。難黒鉛化性炭素は、通常、非黒鉛質炭素の中でも、3次元的な積層規則性を持つ黒鉛構造が生成し難い性質を有する。
【0082】
「易黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.34nm以上0.36nm未満の炭素材料をいう。易黒鉛化性炭素は、通常、非黒鉛質炭素の中でも、3次元的な積層規則性を持つ黒鉛構造が生成し易い性質を有する。
【0083】
負極活物質の平均粒径は、例えば、1μm以上100μm以下とすることができる。負極活物質の平均粒径を上記下限以上とすることで、負極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。負極活物質の平均粒径を上記上限以下とすることで、活物質層の電子伝導性が向上する。粒子を所定の形状で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法及び粉級方法は、例えば、上記正極層で例示した方法から選択できる。
【0084】
負極活物質層6が固体電解質を含有する場合、固体電解質の含有量の下限としては、10質量%が好ましく、20質量%がより好ましい。負極活物質層6における固体電解質の含有量の上限は、90質量%が好ましく、70質量%がより好ましく、50質量%がさらに好ましい。固体電解質の含有量を上記範囲とすることで、当該全固体電池の電気容量を大きくすることができる。負極活物質層6に本発明の一実施形態に係る固体電解質を用いる場合、負極活物質層6中の全固体電解質に占める本発明の一実施形態に係る固体電解質の含有量としては、50質量%以上が好ましく、70質量以上%がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、実質的に100質量%であることがよりさらに好ましい。
【0085】
上記負極活物質と固体電解質との混合物又は複合体は、上述した正極活物質と固体電解質との混合物又は複合体において、正極活物質を負極活物質に置き換えたものとすることができる。
【0086】
負極活物質層6の平均厚さの下限としては、30μmが好ましく、60μmがより好ましい。負極活物質層6の平均厚さの上限としては、1000μmが好ましく、500μmがより好ましい。負極活物質層6の平均厚さを上記下限以上とすることで、高いエネルギー密度を有する全固体電池を得ることができる。負極活物質層6の平均厚さを上記上限以下とすることで、全固体電池の小型化を図ることなどができる。
【0087】
[隔離層]
隔離層3は、固体電解質を含有する。隔離層3に含有される固体電解質としては、上述した本発明の一実施形態に係る固体電解質以外にも、各種固体電解質を用いることができ、中でも、硫化物系固体電解質を用いることが好ましい。隔離層3における固体電解質の含有量としては、70質量%以上が好ましく、90質量以上%がより好ましく、99質量%以上がさらに好ましく、実質的に100質量%であることがよりさらに好ましいこともある。また、隔離層3に本発明の一実施形態に係る固体電解質を用いる場合、隔離層3中の全固体電解質に占める本発明の一実施形態に係る固体電解質の含有量としては、50質量%以上が好ましく、70質量以上%がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、実質的に100質量%であることがよりさらに好ましい。
【0088】
隔離層3には、LiPO等の酸化物、ハロゲン化合物、バインダー、増粘剤、フィラー等の任意成分が含有されていてもよい。バインダー、増粘剤、フィラー等の任意成分は、上記正極層で例示した材料から選択できる。
【0089】
隔離層3の平均厚さの下限としては、1μmが好ましく、3μmがより好ましい。隔離層3の平均厚さの上限としては、50μmが好ましく、20μmがより好ましい。隔離層3の平均厚さを上記下限以上とすることで、正極と負極とを確実性高くに絶縁することが可能となる。隔離層3の平均厚さを上記上限以下とすることで、全固体電池のエネルギー密度を高めることが可能となる。
【0090】
<リチウムイオン蓄電素子の製造方法>
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン蓄電素子の製造方法は、本発明の一実施形態に係る固体電解質又は本発明の一実施形態に係る固体電解質の製造方法で得られた固体電解質を用いて、正極層、隔離層及び負極層の少なくとも1つを作製することを備える。当該製造方法は、具体的には、例えば(1)正極合剤を用意すること、(2)隔離層用材料を用意すること、(3)負極合剤を用意すること、及び(4)正極層、隔離層及び負極層を積層することを備える。上記(1)及び(4)にて正極層が作製され、上記(2)及び(4)にて隔離層が作製され、上記(3)及び(4)にて負極層が作製される。正極合剤、隔離層用材料及び負極合剤の少なくとも一つに、本発明の一実施形態に係る固体電解質又は本発明の一実施形態に係る固体電解質の製造方法で得られた固体電解質が含まれる。以下、各工程について詳説する。
【0091】
(1)正極合剤用意工程
本工程では、通常、正極層(正極活物質層)を形成するための正極合剤が作製される。正極合剤の作製方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、正極合剤の材料のメカニカルミリング処理、正極活物質の圧縮成形、正極活物質のターゲット材料を用いたスパッタリング等が挙げられる。正極合剤が、正極活物質と固体電解質とを含む混合物又は複合体を含有する場合、本工程は、例えばメカニカルミリング法等を用いて正極活物質と固体電解質とを混合し、正極活物質と固体電解質との混合物又は複合体を作製することを含むことができる。
【0092】
(2)隔離層用材料用意工程
本工程では、通常、隔離層を形成するための材料が作製される。リチウムイオン蓄電素子が全固体電池である場合、隔離層用材料は、通常、固体電解質である。隔離層用材料としての固体電解質は、従来公知の方法で作製することができる。例えば、所定の材料をメカニカルミリング法により処理して得ることができる。溶融急冷法により所定の材料を溶融温度以上に加熱して所定の比率で両者を溶融混合し、急冷することにより隔離層用材料を作製してもよい。その他の隔離層用材料の合成方法としては、例えば減圧封入して焼成する固相法、溶解析出などの液相法、気相法(PLD)、メカニカルミリング後にアルゴン雰囲気下で焼成することなどが挙げられる。
【0093】
(3)負極合剤用意工程
本工程では、通常、負極層(負極活物質層)を形成するための負極合剤が作製される。負極合剤の具体的作製方法は、正極合剤と同様である。負極合剤が、負極活物質と固体電解質とを含む混合物又は複合体を含有する場合、本工程は、例えばメカニカルミリング法等を用いて負極活物質と固体電解質とを混合し、負極活物質と固体電解質との混合物又は複合体を作製することを含むことができる。
【0094】
(積層工程)
本工程は、例えば、正極基材及び正極活物質層を有する正極層、隔離層、並びに負極基材及び負極活物質層を有する負極層が積層される。本工程では、正極層、隔離層及び負極層をこの順に順次形成してもよいし、この逆であってもよく、各層の形成の順序は特に問わない。上記正極層は、例えば正極基材及び正極合剤を加圧成型することにより形成され、上記隔離層は、隔離層用材料を加圧成型することにより形成され、上記負極層は、負極基材及び負極合剤を加圧成型することにより形成される。正極基材、正極合剤、隔離層材料、負極合剤及び負極基材を一度に加圧成型することにより、正極層、隔離層及び負極層が積層されてもよい。正極層及び負極層をそれぞれ予め成形し、隔離層と加圧成型して積層してもよい。
【0095】
[その他の実施形態]
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、上記態様の他、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。例えば、本発明に係るリチウムイオン蓄電素子については、正極層、隔離層及び負極層以外のその他の層を備えていてもよい。また、本発明に係るリチウムイオン蓄電素子は、各層のうちの1つ又は複数に液体を含むものであってもよい。本発明に係るリチウムイオン蓄電素子は、二次電池の他、キャパシタ等であってもよい。
【0096】
<実施例>
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0097】
[実施例1]液相法による合成
有機液体としてのテトラヒドロフラン(THF)100mLに、LiS(1.311g)、P(1.242g)及びLiCl(0.474g)を添加し、室温下、攪拌機により回転数200rpmで3時間攪拌し、原料液を調製した。回転数200rpmでの攪拌を行いながら原料液を100℃で3時間加熱し、乾固した原料液を120℃で半日減圧乾燥させることにより、有機液体を揮発させ、前駆体を得た。得られた前駆体をペレット状に成形した。この前駆体を550℃で6時間加熱することにより焼成し、組成式LiPSClで表される実施例1の固体電解質を得た。なお、上記全工程は、全て露点-50℃以下のアルゴン雰囲気下で行った。
【0098】
[実施例2~3、比較例1~2]
用いた有機液体の組成を表1の通りとしたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2~3及び比較例1~2の各固体電解質を得た。表1中、EtOHはエタノールを表す。なお、実施例1~3及び比較例1~2で用いたTHF及びEtOHは、いずれも含水量が0.001質量%以下の試薬を用いた。
【0099】
[比較例3]メカニカルミリング法による合成
LiS(0.437g)、P(0.414g)及びLiCl(0.158g)をメノウ乳鉢で混合した。混合物を、直径4mmのジルコニアボールが160g入った密閉式の80mLジルコニアポットに投入した。これらの工程は、露点-50℃以下のアルゴン雰囲気下で行った。遊星ボールミル(FRITSCH社製、型番Premium line P-7)によって公転回転数370rpmで25時間のメカニカルミリング処理を行い、前駆体を得た。露点-50℃以下のアルゴン雰囲気を維持したグローブボックス中で、得られた前駆体をペレット化し、550℃で4時間加熱することで焼成し、組成式LiPSClで表される比較例3の固体電解質を得た。
【0100】
[比較例4~9]
メカニカルミリング処理における回転数及び処理時間、並びに焼成温度を表2の通りとしたこと以外は比較例3と同様にして、比較例4~9の各固体電解質を得た。
【0101】
[評価]
(1)粉末X線回折測定
上記の方法で、粉末X線回折測定を行った。なお、気密性のX線回折測定用試料ホルダーにはRigaku社製、商品名「汎用雰囲気セパレータ」を用いた。
【0102】
実施例及び比較例の固体電解質は、いずれも空間群F-43mに帰属可能な回折パターンを有していた。表1及び表2に、実施例及び比較例の固体電解質における(311)面を示す回折線の半値幅(FWHM(311))、及び半値幅(FWHM(311))と(222)面を示す回折線の半値幅(FWHM(222))との比(FWHM(311)/FWHM(222))を示す。
【0103】
(2)イオン伝導度
実施例1~3及び比較例1~3の固体電解質の25℃におけるイオン伝導度を、Bio-Lobic社製「VMP-300」を用いて上述の方法で交流インピーダンスを測定し、求めた。表1に実施例1~3及び比較例1~3の固体電解質の25℃におけるイオン伝導度を示す。
【0104】
(3)平均粒径
実施例1及び比較例3の固体電解質の平均粒径を、上記の方法で求めた。実施例1の固体電解質の平均粒径は、14.52μmであった。比較例3の固体電解質の平均粒径は、14.84μmであった。
【0105】
(4)放電容量
(4-1)正極活物質の作製
超脱水エタノールに金属Liを溶解させた後に、ニオブエトキシド(Nb(OC)を溶解させることで、LiNbO前駆体溶液を調製した。パウレック社製の転動流動コーティング装置(FD-MP-01F)を用いて、LiNi0.8Co0.15Al0.05(NCA)の粒子表面へのLiNbOコートを行った。LiNbO前駆体をコーティングしたNCAを400℃、30分間熱処理することによりLiNbOコートNCAを作製した。このLiNbOコートNCAを正極活物質として用いた。
【0106】
(4-2)全固体電池の作製
LiNbOコートNCAと実施例1の固体電解質(LiPSCl)とを、LiNbOコートNCA:LiPSCl=70:30(質量比)となるように秤量した。これらをメノウ乳鉢で混合し、この混合物を正極合剤とした。
内径10mmの粉体成型器に、隔離層用材料として硫化物系固体電解質である75LiS・25P(LPS)を60mg投入した後に、油圧プレスを用いて加圧成型し、隔離層を作製した。圧力解放後に、隔離層の片面に正極合剤を17.5mg投入し、さらに正極基材であるIn箔を載置して360MPaで5分加圧成型した。圧力解放後に、隔離層の反対面に、負極活物質層である金属Li箔を予め負極基材であるステンレス鋼板に貼り合わせた負極を対向させて、120MPaで3分間加圧成型した。これにより、正極基材、正極活物質層、隔離層、負極活物質層、及び負極基材を有する直径10mmの積層体を得た。中央部に直径約10mmの貫通孔を設けた約30mm角の矩形状のPTFE板を用意し、この貫通孔に、得られた積層体を配置し、このPTFE板の中央部を覆うように2枚のステンレス鋼箔で挟んだ。これをアルミニウム金属樹脂複合フィルム製の外装体内に収納し、熱溶着により減圧封口した。このとき、それぞれのステンレス鋼箔にあらかじめ取り付けられたニッケル箔からなるリード端子の各端部を、外装体の封口部から導出させた。この外装体の両面を約40mm角の2枚のPTFEシートで挟み、さらにこの両面を約60mm角の2枚のステンレス鋼板で挟み、積層体に25MPaの圧力が加わる条件で、ステンレス鋼板同士をネジで締め付けた。このようにして、実施例1の固体電解質を備えた全固体電池を得た。
【0107】
上記実施例1の固体電解質を実施例2~3及び比較例1~3のいずれかの固体電解質にしたこと以外は実施例1と同様の操作をして、実施例2~3及び比較例1~3の固体電解質を備えた全固体電池を得た。
【0108】
(4-3)充放電試験
上記全固体電池に対して、以下の条件にて充放電試験を行った。充放電試験は50℃の恒温槽内で行った。充電は、充電電流0.125mA/cm、充電上限電圧4.35Vで、定電流定電圧(CCCV)充電とした。充電終止条件は充電電流が0.0625mA/cmとなるまでとした。放電は、放電電流0.125mA/cm、放電終止電圧2.85Vで、定電流(CC)放電とした。充電及び放電の間の休止時間を30分とした。このときの放電容量を表1に示す。
【0109】
【表1】
【0110】
【表2】
【0111】
表1に示されるように、半値幅比(FWHM(311)/FWHM(222))が0.93以上0.98以下である実施例1~3の固体電解質を用いた場合、放電容量が150mAh/gを超える大きい値となった。このような半値幅比を有する固体電解質は、エーテルの含有割合が40体積%以上である有機液体を用いた液相法により得られることがわかる。また、実施例1~3の固体電解質と、メカニカルミリング法により合成した比較例3の固体電解質とを比較すると、実施例2、3の固体電解質のイオン伝導度は比較例3のイオン伝導度よりも一桁低いにも拘らず、これらを用いた全固体電池は、大きい放電容量を示している。さらに、実施例1の固体電解質の平均粒径と比較例3の固体電解質の平均粒径は同程度であるにも拘らず、これらを用いた全固体電池の放電容量には大きな違いがある。これらのことから、実施例1~3の固体電解質においては、イオン伝導度や粒径では無く、半値幅比(FWHM(311)/FWHM(222))で表される結晶配向性によって良好な効果が発揮されていることがわかる。
【0112】
また、表2に示されるように、メカニカルミリング法によって合成した場合、一般的な範囲で条件を変えても、半値幅比(FWHM(311)/FWHM(222))が0.93以上0.98以下である固体電解質を得ることができなかった。
【0113】
なお、THF100%の有機液体を用いた実施例1の原料液においては、添加した成分の一部が溶けきれず白濁した。一方、EtOH100%の有機液体を用いた比較例2の原料液においては、全ての成分が溶けて透明な溶液となった。そこで、別途、LiS、P及びLiClのそれぞれをTHF又はEtOHに添加及び攪拌し、これらの溶解性を確認した。EtOHに対しては、LiS、P及びLiClはいずれも溶解した。一方、THFに対しては、LiS及びLiClは十分に溶解したものの、Pはほとんど溶解しなかった。すなわち、実施例1の原料液において溶解せずに残った成分はPであるといえる。このような溶解せずに残ったPを含む原料液から、有機液体を揮発させて固形体を得たとき、固形体中のPの結晶構造は添加前のPと変わるものではない。従って、リン源を含むPを焼成前の前駆体に加えるタイミングは、得られる固体電解質の結晶配向性に影響を与えるものではないと推測できる。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明に係る固体電解質は、全固体電池等の蓄電素子の固体電解質として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0115】
1 正極層
2 負極層
3 隔離層
4 正極基材
5 正極活物質層
6 負極活物質層
7 負極基材
10 全固体電池
図1