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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】電動圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04B 49/02 20060101AFI20220802BHJP
   F04B 39/00 20060101ALI20220802BHJP
   F04C 28/06 20060101ALI20220802BHJP
   H02P 21/24 20160101ALI20220802BHJP
   H02P 6/21 20160101ALI20220802BHJP
【FI】
F04B49/02 331C
F04B39/00 101Z
F04C28/06 B
H02P21/24
H02P6/21
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019035890
(22)【出願日】2019-02-28
(65)【公開番号】P2020139461
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 拓也
(72)【発明者】
【氏名】名嶋 一記
(72)【発明者】
【氏名】久保田 雅士
【審査官】大屋 静男
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-019399(JP,A)
【文献】特開2018-174631(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 39/00、49/02、49/06
F04C 28/06
H02P 6/21、21/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を圧縮する圧縮部と、
前記圧縮部を駆動するモータと、
前記モータの回転制御を行うインバータ装置と、を備え、
前記インバータ装置は、
d軸電圧指令値及びq軸電圧指令値を算出する電流制御部と、
前記モータに流れるd軸電流及びq軸電流と、前記d軸電圧指令値及び前記q軸電圧指令値と、に基づいて前記モータの回転角を推定する回転角推定部と、
前記回転角推定部によって推定された前記モータの回転角に基づいて前記モータの回転数を推定する速度演算部と、
前記速度演算部によって推定された前記モータの推定回転数と、前記モータの回転数指令値と、に基づいてd軸電流指令値及びq軸電流指令値を算出する速度制御部と、
前記モータの回転数を強制同期制御によって制御する第1制御モードから、前記回転角推定部によって前記モータの回転角を推定しつつ、前記モータの回転数を制御する第2制御モードに、制御モードを切り替えるモード切替部と、
前記モード切替部による前記第1制御モードから前記第2制御モードへの切替タイミングにおいて、前記第2制御モードでの前記q軸電流指令値の演算の繰り返しにて最初に用いる前記q軸電流指令値の初期値を、前記電流制御部によって算出された前記q軸電圧指令値を前記速度演算部によって推定された前記モータの推定回転数で割った値が大きいほど、大きくなるという関係を用いて、前記q軸電圧指令値に基づいて決定する初期値決定部と、を有し、
前記インバータ装置は、前記第1制御モードにて前記モータの回転を開始し、一定時間経過後に前記モード切替部が動作することにより、前記第2制御モードにて前記モータの回転を制御する電動圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
電動圧縮機は、流体を圧縮する圧縮部と、圧縮部を駆動するモータと、モータの回転制御を行うインバータ装置と、を備えている。ここで、電動圧縮機の起動時におけるモータの回転制御としては、例えば特許文献1に開示されているように、まず、モータの回転数を強制同期制御によって制御する第1制御モードを行う。強制同期制御では、モータに対して一定の電流を強制的に流すことにより、モータの回転数を上昇させていく。そして、モータの回転数が予め定められた所定の回転数に達すると、位置センサレス制御によってモータの回転数を制御する第2制御モードに切り替える。位置センサレス制御では、モータの回転角を推定しつつ、モータの回転数を制御する。これにより、モータの回転角を検出するセンサを用いずに、モータの回転制御を行うことが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-230430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
位置センサレス制御では、モータに流れるd軸電流及びq軸電流と、d軸電圧指令値及びq軸電圧指令値と、に基づいてモータの回転角が推定される。d軸電流は、励磁成分電流である。q軸電流はトルク成分電流である。d軸電圧指令値及びq軸電圧指令値は、d軸電流及びq軸電流と、d軸電流指令値及びq軸電流指令値と、に基づいて算出される。例えば、強制同期制御では、モータに対して一定の電流を流すため、d軸電流指令値及びq軸電流指令値は予め設定された値であるが、位置センサレス制御では、外部から入力されるモータの回転数指令値と、モータの推定回転数と、に基づいてd軸電流指令値及びq軸電流指令値が算出される。なお、d軸電流はモータのトルクの発生に寄与しないため、モータの回転制御を行う際には、d軸電流指令値は零に設定される。
【0005】
モータの推定回転数は、d軸電流及びq軸電流と、d軸電圧指令値及びq軸電圧指令値と、に基づいて推定されたモータの回転角に基づいて推定される。したがって、第1制御モードから第2制御モードへの切替タイミングにおいては、モータの回転角がまだ推定されていないため、推定回転数を推定することができず、q軸電流指令値を算出することができない。したがって、第1制御モードから第2制御モードへの切替タイミングにおいては、位置センサレス制御においてモータの回転角を推定するために、q軸電流指令値の初期値を予め設定しておく必要がある。
【0006】
ここで、第1制御モードから第2制御モードへの切替タイミングにおいて、モータに加わる負荷トルクが大きい場合であってもモータが回転できるように、q軸電流指令値の初期値を電流上限値に設定することが考えられている。しかし、q軸電流指令値の初期値が電流上限値に設定してあると、第1制御モードから第2制御モードへの切替タイミングにおいて、モータに加わる負荷トルクが小さい場合に、モータの回転数が急激に上昇してモータの回転数指令値を大幅に上回る現象、所謂オーバーシュートが発生してしまう虞がある。オーバーシュートが発生すると、モータの振動による異音が発生してしまう。かといって、q軸電流指令値の初期値を小さい値に設定してしまうと、モータに加わる負荷トルクが大きい場合に、モータが回転し難くなってしまい、電動圧縮機の起動性が悪化してしまう。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、起動性が悪化することなく、起動時における異音の発生を抑制することができる電動圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する電動圧縮機は、流体を圧縮する圧縮部と、前記圧縮部を駆動するモータと、前記モータの回転制御を行うインバータ装置と、を備え、前記インバータ装置は、d軸電圧指令値及びq軸電圧指令値を算出する電流制御部と、前記モータに流れるd軸電流及びq軸電流と、前記d軸電圧指令値及び前記q軸電圧指令値と、に基づいて前記モータの回転角を推定する回転角推定部と、前記回転角推定部によって推定された前記モータの回転角に基づいて前記モータの回転数を推定する速度演算部と、前記速度演算部によって推定された前記モータの推定回転数と、前記モータの回転数指令値と、に基づいてd軸電流指令値及びq軸電流指令値を算出する速度制御部と、前記モータの回転数を強制同期制御によって制御する第1制御モードから、前記回転角推定部によって前記モータの回転角を推定しつつ、前記モータの回転数を制御する第2制御モードに、制御モードを切り替えるモード切替部と、前記モード切替部による前記第1制御モードから前記第2制御モードへの切替タイミングにおいて、前記第2制御モードでの前記q軸電流指令値の演算の繰り返しにて最初に用いる前記q軸電流指令値の初期値を、前記電流制御部によって算出された前記q軸電圧指令値を前記速度演算部によって推定された前記モータの推定回転数で割った値が大きいほど、大きくなるという関係を用いて、前記q軸電圧指令値に基づいて決定する初期値決定部と、を有し、前記インバータ装置は、前記第1制御モードにて前記モータの回転を開始し、一定時間経過後に前記モード切替部が動作することにより、前記第2制御モードにて前記モータの回転を制御する。
【0009】
本発明者らは、第1制御モードから第2制御モードへの切替タイミングにおけるq軸電圧指令値の値が、電動圧縮機の起動時におけるモータに加わる負荷トルクの大きさに関係付けられていることを見出した。そこで、初期値決定部は、モード切替部による第1制御モードから第2制御モードへの切替タイミングにおいて、第2制御モードでのq軸電流指令値の演算の繰り返しにて最初に用いるq軸電流指令値の初期値を、q軸電圧指令値に基づいて決定する。これによれば、モータに加わる負荷トルクの大きさに応じてq軸電流指令値の初期値を決定することができる。そして、インバータ装置は、第1制御モードにてモータの回転を開始し、一定時間経過後にモード切替部が動作することにより、第2制御モードにてモータの回転を制御する。したがって、第1制御モードから第2制御モードへの切替タイミングにおいて、モータに加わる負荷トルクが小さい場合に、モータの回転数が急激に上昇してモータの回転数指令値を大幅に上回る現象、所謂オーバーシュートが発生してしまうことを抑制できる。さらには、第1制御モードから第2制御モードへの切替タイミングにおいて、モータに加わる負荷トルクが大きい場合に、モータが回転し難くなってしまうといったことが起こり難くなる。したがって、電動圧縮機の起動性が悪化することなく、起動時における異音の発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、電動圧縮機の起動性が悪化することなく、起動時における異音の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態における電動圧縮機を一部破断して示す側断面図。
図2】電動圧縮機の電気的構成を示す回路図。
図3】(a)はモータに加わる負荷トルクが小さいときのq軸電圧指令値を推定回転数で割った値の変化を示すグラフ、(b)はモータに加わる負荷トルクが大きいときのq軸電圧指令値を推定回転数で割った値の変化を示すグラフ。
図4】モータに加わる負荷トルクとq軸電圧指令値を推定回転数で割った値との関係を示すグラフ。
図5】q軸電圧指令値を推定回転数で割った値と速度制御部にて比例積分制御を行う際に用いられる積分項の初期値との関係を示すグラフ。
図6】制御装置の制御を説明するためのフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、電動圧縮機を具体化した一実施形態を図1図6にしたがって説明する。本実施形態の電動圧縮機は、例えば、車両空調装置に用いられる。
図1に示すように、電動圧縮機10のハウジング11は、有底筒状の吐出ハウジング12と、吐出ハウジング12に連結される有底筒状のモータハウジング13とを有している。吐出ハウジング12及びモータハウジング13は金属材料製であり、例えば、アルミニウム製である。モータハウジング13は、底壁13eと、底壁13eの外周縁から筒状に延在する側壁13aとを有している。
【0013】
モータハウジング13内には、回転軸14が収容されている。また、モータハウジング13内には、回転軸14が回転することにより駆動して流体としての冷媒を圧縮する圧縮部15と、回転軸14を回転させて圧縮部15を駆動するモータ16とが収容されている。圧縮部15及びモータ16は、回転軸14の回転軸線が延びる方向である軸線方向に並んで配置されている。モータ16は、圧縮部15よりもモータハウジング13の底壁13e側に配置されている。
【0014】
圧縮部15は、例えば、モータハウジング13内に固定された図示しない固定スクロールと、固定スクロールに対向配置される図示しない可動スクロールとから構成されるスクロール式である。なお、圧縮部15は、スクロール式に限らず、例えば、ピストン式やベーン式等であってもよい。
【0015】
モータ16は、筒状のステータ17と、ステータ17の内側に配置されるロータ18とからなる。ロータ18は、回転軸14と一体的に回転する。ステータ17は、ロータ18を取り囲んでいる。ロータ18は、回転軸14に止着されたロータコア18aと、ロータコア18aに設けられた複数の永久磁石18bと、を有している。ステータ17は、筒状のステータコア17aと、ステータコア17aに巻回されたコイル19とを有している。そして、コイル19に電力が供給されることによりロータ18が回転し、回転軸14がロータ18と一体的に回転する。
【0016】
側壁13aには、吸入ポート13hが形成されている。吸入ポート13hは、モータハウジング13内に冷媒を吸入する。吸入ポート13hには、外部冷媒回路20の一端が接続されている。吐出ハウジング12には、吐出ポート12hが形成されている。吐出ポート12hには、外部冷媒回路20の他端が接続されている。
【0017】
外部冷媒回路20から吸入ポート13hを介してモータハウジング13内に吸入された冷媒は、圧縮部15の駆動により圧縮部15で圧縮されて、吐出ポート12hを介して外部冷媒回路20へ流出する。そして、外部冷媒回路20へ流出した冷媒は、外部冷媒回路20の熱交換器や膨張弁を経て、吸入ポート13hを介してモータハウジング13内に還流する。電動圧縮機10及び外部冷媒回路20は、車両空調装置21を構成している。
【0018】
モータハウジング13の底壁13eには、有底筒状のカバー22が取り付けられている。そして、モータハウジング13の底壁13eとカバー22とによって、モータ16の回転制御を行うインバータ装置30を収容する収容空間22aが形成されている。圧縮部15、モータ16、及びインバータ装置30は、この順序で、回転軸14の軸線方向に並んで配置されている。
【0019】
図2に示すように、モータ16のコイル19は、u相コイル19u、v相コイル19v、及びw相コイル19wを有する三相構造になっている。本実施形態において、u相コイル19u、v相コイル19v、及びw相コイル19wは、Y結線されている。
【0020】
インバータ装置30は、インバータ回路31、制御装置32、及びドライブ回路33を有している。インバータ回路31は、複数のスイッチング素子Qu1,Qu2,Qv1,Qv2,Qw1,Qw2を有している。複数のスイッチング素子Qu1,Qu2,Qv1,Qv2,Qw1,Qw2は、モータ16を駆動するためにスイッチング動作を行う。複数のスイッチング素子Qu1,Qu2,Qv1,Qv2,Qw1,Qw2は、IGBT(パワースイッチング素子)である。複数のスイッチング素子Qu1,Qu2,Qv1,Qv2,Qw1,Qw2には、ダイオードDu1,Du2,Dv1,Dv2,Dw1,Dw2がそれぞれ接続されている。ダイオードDu1,Du2,Dv1,Dv2,Dw1,Dw2は、スイッチング素子Qu1,Qu2,Qv1,Qv2,Qw1,Qw2に対して並列に接続されている。
【0021】
各スイッチング素子Qu1,Qv1,Qw1は、各相の上アームを構成している。各スイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2は、各相の下アームを構成している。各スイッチング素子Qu1,Qu2、各スイッチング素子Qv1,Qv2、及び各スイッチング素子Qw1,Qw2はそれぞれ直列に接続されている。各スイッチング素子Qu1,Qu2,Qv1,Qv2,Qw1,Qw2のゲートは、ドライブ回路33に電気的に接続されている。
【0022】
各スイッチング素子Qu1,Qv1,Qw1のコレクタは、車両のバッテリである直流電源34の正極に電気的に接続されている。各スイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2のエミッタは、各電流センサ35u,35v,35wを介して直流電源34の負極に電気的に接続されている。各スイッチング素子Qu1,Qv1,Qw1のエミッタ及び各スイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2のコレクタは、それぞれ直列に接続された中間点からu相コイル19u、v相コイル19v、及びw相コイル19wにそれぞれ電気的に接続されている。
【0023】
電動圧縮機10は、直流電源34に対して並列接続されているコンデンサ36を備えている。コンデンサ36は、インバータ回路31の入力側に設けられている。コンデンサ36は、例えば、電解コンデンサである。
【0024】
電動圧縮機10は、直流電源34からの入力電圧を検出する電圧センサ37を備えている。電圧センサ37は、制御装置32と電気的に接続されており、検出した検出結果を制御装置32に送信する。
【0025】
制御装置32は、モータ16の駆動電圧をパルス幅変調により制御する。具体的には、制御装置32は、搬送波信号と呼ばれる高周波の三角波信号と、電圧を指示するための電圧指令信号とによってPWM信号を生成する。そして、制御装置32は、生成したPWM信号を用いて各スイッチング素子Qu1,Qu2,Qv1,Qv2,Qw1,Qw2のスイッチング動作の制御(オンオフ制御)を行う。これにより、直流電源34からの直流電圧が交流電圧に変換される。そして、変換された交流電圧が駆動電圧としてモータ16に印加されることにより、モータ16の駆動が制御される。
【0026】
制御装置32は、車両空調装置21の全体を制御する空調ECU38と電気的に接続されている。空調ECU38は、車内温度や設定温度等を把握可能に構成されており、これらのパラメータに基づいて、モータ16の回転数指令値ω*に関する情報を制御装置32に送信する。また、空調ECU38は、モータ16の運転指令やモータ16の停止指令などの各種指令を制御装置32に送信する。この空調ECU38からの各種指令は、制御装置32が外部から受信する指令である。
【0027】
制御装置32は、モータ16のロータ18の回転角θを検出するレゾルバなどの回転角センサを用いずに、インバータ回路31からモータ16へ流れる電流に基づいて、モータ16のロータ18の回転角θを推定することによりモータ16の回転数を制御することが可能になっている。よって、本実施形態の電動圧縮機10は、制御装置32によってロータ18の回転角θを推定しつつ、モータ16の回転数を制御する位置センサレス制御が行われている。
【0028】
また、制御装置32は、モータ16に対して一定の電流を強制的に流すことにより、モータ16の回転数を制御する強制同期制御を行うことが可能となっている。例えば、強制同期制御では、モータ16に対して一定の電流を強制的に流すことにより、モータ16の回転数を上昇させていく。
【0029】
制御装置32は、強制同期制御指令部41、モード切替部42、減算部43,44,45、速度制御部46、電流制御部47、座標変換部48,49、PWM発生部50、回転角推定部51、速度演算部52、及び積分項初期値演算部53を有している。
【0030】
強制同期制御指令部41は、モード切替部42に電気的に接続されている。強制同期制御指令部41は、d軸電流指令値Id*、q軸電流指令値Iq*、及び回転角指令値θ*に関する情報をモード切替部42に送信する。強制同期制御では、モータ16に対して一定の電流を流すため、d軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*の値は、回転角指令値θ*の値に応じて予め設定された値である。
【0031】
モード切替部42は、モータ16の回転数を強制同期制御によって制御する第1制御モードと、モータ16の回転数を位置センサレス制御によって制御する第2制御モードと、に制御モードを切り替え可能である。
【0032】
回転角推定部51は、モータ16のロータ18の回転角θを推定する。回転角推定部51は、モード切替部42と電気的に接続されている。回転角推定部51により推定された回転角θに関する情報は、モード切替部42に送信される。
【0033】
座標変換部48は、各電流センサ35u,35v,35wと電気的に接続されている。各電流センサ35u,35v,35wにより検出されたモータ16に流れるU相電流Iu、V相電流Iv、及びW相電流Iwそれぞれに関する情報は、座標変換部48に送信される。
【0034】
また、座標変換部48は、モード切替部42と電気的に接続されている。そして、例えば、モード切替部42によって第1制御モードに切り替えられている場合、座標変換部48には、強制同期制御指令部41からモード切替部42に送信された回転角指令値θ*に関する情報が、モード切替部42から送信される。座標変換部48は、U相電流Iu、V相電流Iv、及びW相電流Iwと、回転角指令値θ*とに基づいて、U相電流Iu、V相電流Iv及びW相電流Iwをd軸電流Id及びq軸電流Iqに変換する。なお、d軸電流Idは、励磁成分電流であり、モータ16に流れる電流において、永久磁石18bの作る磁束と同じ方向の電流ベクトル成分である。q軸電流Iqは、トルク成分電流であり、モータ16に流れる電流において、d軸と直交する電流ベクトル成分である。
【0035】
また、例えば、モード切替部42によって第2制御モードに切り替えられている場合、座標変換部48には、回転角推定部51からモード切替部42に送信された回転角θに関する情報が、モード切替部42から送信される。そして、座標変換部48は、U相電流Iu、V相電流Iv、及びW相電流Iwと、回転角θとに基づいて、U相電流Iu、V相電流Iv及びW相電流Iwをd軸電流Id及びq軸電流Iqに変換する。
【0036】
速度演算部52は、モード切替部42に電気的に接続されている。そして、例えば、モード切替部42によって第1制御モードに切り替えられている場合、速度演算部52には、強制同期制御指令部41からモード切替部42に送信された回転角指令値θ*に関する情報が、モード切替部42から送信される。速度演算部52は、回転角指令値θ*を微分することによりモータ16のロータ18の回転数を推定する。
【0037】
また、例えば、モード切替部42によって第2制御モードに切り替えられている場合、速度演算部52には、回転角推定部51からモード切替部42に送信された回転角θに関する情報が、モード切替部42から送信される。そして、速度演算部52は、回転角推定部51により推定されたロータ18の回転角θを微分することによりモータ16のロータ18の回転数を推定する。したがって、速度演算部52は、回転角推定部51によって推定されたモータ16の回転角θに基づいてモータ16の回転数を推定する。
【0038】
減算部43は、空調ECU38と電気的に接続されており、空調ECU38からの回転数指令値ω*に関する情報が送信される。また、減算部43は、速度演算部52と電気的に接続されている。速度演算部52によって推定されたモータ16のロータ18の推定回転数ωに関する情報は、減算部43に送信される。そして、減算部43は、空調ECU38から送信される回転数指令値ω*と、速度演算部52から送信されるロータ18の推定回転数ωとの差を算出する。
【0039】
速度制御部46は、減算部43に電気的に接続されている。減算部43により算出された回転数指令値ω*と推定回転数ωとの差に関する情報は、速度制御部46に送信される。そして、速度制御部46は、減算部43により算出された回転数指令値ω*と推定回転数ωとの差に基づいて、d軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*を算出する。したがって、速度制御部46は、速度演算部52によって推定されたモータ16の推定回転数ωと、モータ16の回転数指令値ω*と、に基づいてd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*を算出する。具体的には、速度制御部46は、減算部43により算出された回転数指令値ω*と推定回転数ωとの差に基づいた比例積分制御(PI制御)を行い、d軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*を算出する。速度制御部46は、モード切替部42に電気的に接続されている。そして、速度制御部46により算出されたd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*に関する情報は、モード切替部42に送信される。
【0040】
モード切替部42は、各減算部44,45と電気的に接続されている。そして、モード切替部42は、例えば、第1制御モードである場合、強制同期制御指令部41から送信されたd軸電流指令値Id*に関する情報を減算部44に送信するとともに、強制同期制御指令部41から送信されたq軸電流指令値Iq*に関する情報を減算部45に送信する。また、モード切替部42は、例えば、第2制御モードである場合、速度制御部46から送信されたd軸電流指令値Id*に関する情報を減算部44に送信するとともに、速度制御部46から送信されたq軸電流指令値Iq*に関する情報を減算部45に送信する。
【0041】
また、各減算部44,45は、座標変換部48と電気的に接続されている。座標変換部48により変換されたd軸電流Idに関する情報は、減算部44に送信されるとともに、q軸電流Iqに関する情報は、減算部45に送信される。減算部44は、d軸電流指令値Id*とd軸電流Idとの差を算出する。減算部45は、q軸電流指令値Iq*とq軸電流Iqとの差を算出する。
【0042】
電流制御部47は、各減算部44,45と電気的に接続されている。減算部44により算出されたd軸電流指令値Id*とd軸電流Idとの差に関する情報は、電流制御部47に送信される。減算部45により算出されたq軸電流指令値Iq*とq軸電流Iqとの差に関する情報は、電流制御部47に送信される。そして、電流制御部47は、d軸電流指令値Id*とd軸電流Idとの差、及びq軸電流指令値Iq*とq軸電流Iqとの差に基づいて、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を算出する。
【0043】
回転角推定部51は、電流制御部47と電気的に接続されている。電流制御部47により算出されたd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*に関する情報は、回転角推定部51に送信される。また、回転角推定部51は、座標変換部48と電気的に接続されている。座標変換部48により変換されたd軸電流Id及びq軸電流Iqに関する情報は、回転角推定部51に送信される。そして、回転角推定部51は、モータ16に流れるd軸電流Id及びq軸電流Iqと、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*と、に基づいてモータ16の回転角θを推定する。
【0044】
座標変換部49は、電流制御部47と電気的に接続されている。電流制御部47により算出されたd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*に関する情報は、座標変換部49に送信される。
【0045】
また、座標変換部49は、モード切替部42に電気的に接続されている。そして、例えば、モード切替部42によって第1制御モードに切り替えられている場合、座標変換部49には、強制同期制御指令部41からモード切替部42に送信された回転角指令値θ*に関する情報が、モード切替部42から送信される。座標変換部49は、回転角指令値θ*に基づいて、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*をモータ16への印加電圧である電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*に変換する。また、例えば、モード切替部42によって第2制御モードに切り替えられている場合、座標変換部49には、回転角推定部51からモード切替部42に送信された回転角θに関する情報が、モード切替部42から送信される。座標変換部49は、回転角θに基づいて、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*をモータ16への印加電圧である電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*に変換する。
【0046】
PWM発生部50は、座標変換部49と電気的に接続されている。座標変換部49により変換された電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*に関する情報は、PWM発生部50に送信される。そして、PWM発生部50は、電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に基づく電圧指令信号と高周波の三角波信号とによって、各スイッチング素子Qu1,Qu2,Qv1,Qv2,Qw1,Qw2のスイッチング動作を行うためのPWM信号を生成し、PWM信号をドライブ回路33へ出力する。ドライブ回路33は、PWM信号を増幅して得られる駆動信号を各スイッチング素子Qu1,Qu2,Qv1,Qv2,Qw1,Qw2のゲートに出力する。これにより、各スイッチング素子Qu1,Qu2,Qv1,Qv2,Qw1,Qw2のスイッチング動作が行われる。
【0047】
したがって、電動圧縮機10では、電流センサ35u,35v,35wにより検出されたモータ16に流れるU相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iwに基づいて、モータ16におけるd軸電流Idとq軸電流Iqとが目標値となるように、各スイッチング素子Qu1,Qu2,Qv1,Qv2,Qw1,Qw2のオンオフ制御を行う。これにより、モータ16が、空調ECU38から送信された回転数指令値ω*で回転する。
【0048】
モード切替部42には、電動圧縮機10の起動時におけるモータ16の回転制御として、まず、モータ16の回転数を強制同期制御によって制御する第1制御モードを行うプログラムが記憶されている。また、モード切替部42には、第1制御モードに切り替えてから一定時間経過すると、第1制御モードから第2制御モードに切り替えて、モータ16の回転数を位置センサレス制御によって制御する第2制御モードを行うプログラムが記憶されている。したがって、モード切替部42は、モータ16の回転数を強制同期制御によって制御する第1制御モードから、回転角推定部51によってモータ16の回転角θを推定しつつ、モータ16の回転数を制御する第2制御モードに、制御モードを切り替える。なお、一定時間とは、強制同期制御によって、モータ16の回転数を上昇させて、モータ16の回転数が予め定められた所定の回転数に達したと想定される時間であり、予め実験等によって求められている。
【0049】
積分項初期値演算部53は、速度演算部52と電気的に接続されている。そして、積分項初期値演算部53には、速度演算部52によって回転角指令値θ*を微分することにより推定されたロータ18の推定回転数ωに関する情報が送信される。また、積分項初期値演算部53は、電流制御部47と電気的に接続されている。そして、積分項初期値演算部53には、電流制御部47により算出されたq軸電圧指令値Vq*に関する情報が送信される。
【0050】
図3(a)では、モータ16に加わる負荷トルクが小さいときのq軸電圧指令値Vq*を推定回転数ωで割った値の変化を示している。また、図3(b)では、モータ16に加わる負荷トルクが大きいときのq軸電圧指令値Vq*を推定回転数ωで割った値の変化を示している。
【0051】
図3(a)及び図3(b)に示すように、モード切替部42による第1制御モードから第2制御モードへの切替タイミングTxにおいて、モータ16に加わる負荷トルクが大きいときのq軸電圧指令値Vq*を推定回転数ωで割った値は、モータ16に加わる負荷トルクが小さいときのq軸電圧指令値Vq*を推定回転数ωで割った値よりも大きい。なお、モード切替部42による第1制御モードから第2制御モードへの切替タイミングTxでは、強制同期制御中の回転角指令値θ*の値が固定値であるため、モータ16に加わる負荷トルクの大小に関係無く、推定回転数ωは同じである。また、d軸電流Idはモータ16のトルクの発生に寄与しないため、モータ16の回転制御を行う際には、d軸電流指令値Id*は零に設定される。よって、本発明者らは、第1制御モードから第2制御モードへの切替タイミングTxにおけるq軸電圧指令値Vq*の値が、電動圧縮機10の起動時におけるモータ16に加わる負荷トルクの大きさに関係付けられていることを見出した。
【0052】
図4では、モータ16に加わる負荷トルクとq軸電圧指令値Vq*を推定回転数ωで割った値との関係を示している。図4に示すように、モータ16に加わる負荷トルクが大きくなるほど、q軸電圧指令値Vq*を推定回転数ωで割った値は大きい。
【0053】
図5では、q軸電圧指令値Vq*を推定回転数ωで割った値と、速度制御部46にて比例積分制御を行う際に用いられる積分項の初期値と、の関係を示している。図5において特性線L1で示すように、q軸電圧指令値Vq*を推定回転数ωで割った値が大きいほど、比例積分制御を行う際に用いられる積分項の初期値は大きい。特性線L1は、一次関数により形成されている。積分項初期値演算部53には、図5に示すマップが予め記憶されている。そして、積分項初期値演算部53は、図5に示すマップを用いて、モード切替部42による第1制御モードから第2制御モードへの切替タイミングTxにおいて、比例積分制御を行う際に用いられる積分項の初期値を演算する。
【0054】
図2に示すように、積分項初期値演算部53は、速度制御部46と電気的に接続されている。積分項初期値演算部53により演算された積分項の初期値に関する情報は、速度制御部46に送信される。そして、モード切替部42による第1制御モードから第2制御モードへの切替タイミングTxにおいて、速度制御部46は、積分項初期値演算部53から送信された積分項の初期値に基づいて、d軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*それぞれの初期値を算出する。したがって、速度制御部46及び積分項初期値演算部53は、モード切替部42による第1制御モードから第2制御モードへの切替タイミングTxにおいて、第2制御モードでのq軸電流指令値Iq*の演算の繰り返しにて最初に用いるq軸電流指令値Iq*の初期値を、q軸電圧指令値Vq*に基づいて決定する初期値決定部54を構成している。そして、モード切替部42による第1制御モードから第2制御モードへの切替タイミングTxにおいて、速度制御部46により算出されたd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*それぞれの初期値に関する情報がモード切替部42に送信される。
【0055】
インバータ装置30は、第1制御モードにてモータ16の回転を開始し、一定時間経過後にモード切替部42が動作することにより、第2制御モードにてモータ16の回転を制御する。
【0056】
次に、本実施形態の作用について説明する。
位置センサレス制御では、モータ16の推定回転数ωは、d軸電流Id及びq軸電流Iqと、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*と、に基づいて推定されたモータの回転角θに基づいて推定される。したがって、第1制御モードから第2制御モードへの切替タイミングTxにおいては、モータ16の回転角θがまだ推定されていないため、推定回転数ωを推定することができない。したがって、第1制御モードから第2制御モードへの切替タイミングTxにおいては、位置センサレス制御においてモータ16の回転角θを推定するために、q軸電流指令値Iq*の初期値を予め設定しておく必要がある。
【0057】
ここで、第1制御モードから第2制御モードへの切替タイミングTxにおいて、モータ16に加わる負荷トルクが大きい場合であってもモータ16が回転できるように、q軸電流指令値Iq*の初期値を電流上限値に設定することが考えられる。しかし、q軸電流指令値Iq*の初期値が電流上限値に設定してあると、第1制御モードから第2制御モードへの切替タイミングTxにおいて、モータ16に加わる負荷トルクが小さい場合に、モータ16の回転数が急激に上昇してモータ16の回転数指令値ω*を大幅に上回る現象、所謂オーバーシュートが発生してしまう虞がある。オーバーシュートが発生すると、モータ16の振動による異音が発生してしまう。かといって、q軸電流指令値Iq*の初期値を小さい値に設定してしまうと、モータ16に加わる負荷トルクが大きい場合に、モータ16が回転し難くなってしまい、電動圧縮機10の起動性が悪化してしまう。
【0058】
図6に示すように、制御装置32は、まず、ステップS11において空調ECU38からのモータ16の運転指令を受信すると、ステップS12においてモード切替部42により第1制御モードに切り替える。これにより、電動圧縮機10は、モータ16に対して一定の電流を強制的に流すことにより、モータ16の回転数を制御する強制同期制御が行われる。
【0059】
次に、制御装置32は、ステップS13において、第1制御モードに切り替えてから一定時間経過したか否かを判定する。制御装置32は、ステップS13において一定時間経過していないと判定すると、ステップS12に移行する。
【0060】
一方、制御装置32は、ステップS13において、第1制御モードに切り替えてから一定時間経過したと判定すると、ステップS14においてモード切替部42により第1制御モードから第2制御モードに切り替え、積分項初期値演算部53により、比例積分制御を行う際に用いられる積分項の初期値を演算する。次に、制御装置32は、ステップS15において、速度制御部46により積分項の初期値に基づいてd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*それぞれの初期値を算出する。なお、モータ16の回転制御を行う際には、d軸電流指令値Id*は零に設定される。
【0061】
このように、本実施形態では、モード切替部42による第1制御モードから第2制御モードへの切替タイミングTxにおいて、初期値決定部54によって、q軸電圧指令値Vq*に基づいてq軸電流指令値Iq*の初期値を決定する。上述したように、本発明者らは、第1制御モードから第2制御モードへの切替タイミングTxにおけるq軸電圧指令値Vq*の値が、電動圧縮機10の起動時におけるモータ16に加わる負荷トルクの大きさに関係付けられていることを見出した。よって、モータ16に加わる負荷トルクの大きさに応じてq軸電流指令値Iq*の初期値が決定される。したがって、第1制御モードから第2制御モードへの切替タイミングTxにおいて、モータ16に加わる負荷トルクが小さい場合に、モータ16の回転数が急激に上昇してモータ16の回転数指令値ω*を大幅に上回ることが抑制される。さらには、第1制御モードから第2制御モードへの切替タイミングTxにおいて、モータ16に加わる負荷トルクが大きい場合に、モータ16が回転し難くなってしまうといったことが起こり難くなる。
【0062】
そして、制御装置32は、ステップS16において、回転角推定部51により推定されるモータ16の回転角θに基づいて推定されるモータ16の推定回転数ωを用いた位置センサレス制御を行う。これにより、電動圧縮機10は、制御装置32によってロータ18の回転角θを推定しつつ、モータ16の回転数を制御する位置センサレス制御が行われる。
【0063】
上記実施形態では以下の効果を得ることができる。
(1)本発明者らは、第1制御モードから第2制御モードへの切替タイミングTxにおけるq軸電圧指令値Vq*の値が、電動圧縮機10の起動時におけるモータ16に加わる負荷トルクの大きさに関係付けられていることを見出した。そこで、初期値決定部54は、モード切替部42による第1制御モードから第2制御モードへの切替タイミングTxにおいて、第2制御モードでのq軸電流指令値Iq*の演算の繰り返しにて最初に用いるq軸電流指令値Iq*の初期値を、q軸電圧指令値Vq*に基づいて決定する。これによれば、モータ16に加わる負荷トルクの大きさに応じてq軸電流指令値Iq*の初期値を決定することができる。そして、インバータ装置30は、第1制御モードにてモータ16の回転を開始し、一定時間経過後にモード切替部42が動作することにより、第2制御モードにてモータ16の回転を制御する。したがって、第1制御モードから第2制御モードへの切替タイミングTxにおいて、モータ16に加わる負荷トルクが小さい場合に、モータ16の回転数が急激に上昇してモータ16の回転数指令値ω*を大幅に上回る現象、所謂オーバーシュートが発生してしまうことを抑制できる。さらには、第1制御モードから第2制御モードへの切替タイミングTxにおいて、モータ16に加わる負荷トルクが大きい場合に、モータ16が回転し難くなってしまうといったことが起こり難くなる。したがって、電動圧縮機10の起動性が悪化することなく、起動時における異音の発生を抑制することができる。
【0064】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0065】
○ 実施形態において、積分項初期値演算部53が速度演算部52と電気的に接続されておらず、速度演算部52によって回転角指令値θ*を微分することにより推定されたロータ18の推定回転数ωに関する情報が積分項初期値演算部53に送信されなくてもよい。そして、積分項初期値演算部53は、q軸電圧指令値Vq*と速度制御部46にて比例積分制御を行う際に用いられる積分項の初期値との関係を示すマップを用いて、モード切替部42による第1制御モードから第2制御モードへの切替タイミングTxにおいて、比例積分制御を行う際に用いられる積分項の初期値を演算するようにしてもよい。つまり、比例積分制御を行う際に用いられる積分項の初期値を演算するために用いられるマップは、q軸電圧指令値Vq*を推定回転数ωで割った値をパラメータとして用いなくてもよく、単に、q軸電圧指令値Vq*のみをパラメータとして用いてもよい。
【0066】
○ 実施形態において、特性線L1は、例えば、二次関数により形成されていてもよい。
○ 実施形態において、電動圧縮機10は、例えば、インバータ装置30が、ハウジング11に対して回転軸14の径方向外側に配置されている構成であってもよい。要は、圧縮部15、モータ16、及びインバータ装置30が、この順で、回転軸14の回転軸線方向に並設されていなくてもよい。
【0067】
○ 実施形態において、電動圧縮機10は、車両空調装置21を構成していたが、これに限らず、例えば、電動圧縮機10は、燃料電池車に搭載されており、燃料電池に供給される流体としての空気を圧縮部15により圧縮するものであってもよい。
【符号の説明】
【0068】
10…電動圧縮機、15…圧縮部、16…モータ、30…インバータ装置、42…モード切替部、46…速度制御部、47…電流制御部、51…回転角推定部、52…速度演算部、54…初期値決定部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6