(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】無人探査車
(51)【国際特許分類】
B62D 63/02 20060101AFI20220802BHJP
B64G 1/16 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
B62D63/02
B64G1/16
(21)【出願番号】P 2019076353
(22)【出願日】2019-04-12
【審査請求日】2022-04-11
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年11月22日~23日にロボット・航空宇宙フェスタふくしま2018にて展示発表。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】711007781
【氏名又は名称】中島 紳一郎
(72)【発明者】
【氏名】中島 紳一郎
【審査官】塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-191494(JP,A)
【文献】特開平9-142347(JP,A)
【文献】特開2000-154997(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 63/02
B64G 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体部と、前記本体部の幅方向両端において同軸上に配置された一対の車輪と、前記車輪の外周面に設けられた複数の爪と、前記本体部の後方に設けられ、地面に接地する接地体と、を備える無人探査車であって、前記一対の車輪を後進回転させる回転力が、前記一対の車輪以外の構成要素の重量による前記一対の車輪の回転軸まわりの回転力よりも大きいことを特徴とする、無人探査車。
【請求項2】
前記一対の車輪以外の構成要素のうち、前記一対の車輪の回転軸よりも前方にある部位は、前記一対の車輪径よりも外周側に飛び出さずに配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の無人探査車。
【請求項3】
前記一対の車輪以外の構成要素の外面形状は、上下対称に形成されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の無人探査車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不整地を走行して探査を行う無人探査車に関する。
【背景技術】
【0002】
無人探査車を走行させて、砂や石等で覆われた不整地の探査を行う場合、無人探査車は、遠隔地に居る操作者による遠隔操作、または、無人探査車に搭載された判断回路による自立判断で動作される。この、遠隔操作ないし自立判断による動作、いづれの場合に於いても、無人探査車に搭載されたカメラからの撮影情報を頼りに不整地周辺の状況を把握し、無人探査車が次に行う動作を判断して指示する。その際、カメラからの撮影映像は、無人探査車の走行方向を常に撮影していることが、無人探査車が次に行う動作を判断するために重要となる。
【0003】
ところで、前進走行している無人探査車の走行方向軌跡の延長の前方に、例えば、急斜面や窪地等、無人探査車の走行にとって厳しい環境が在る時には、無人探査車の前進走行を継続させると、厳しい環境に突入してしまい、それ以上の走行が困難になると判断され、無人探査車の動作として後進する場合がある。無人探査車が後進する場合、無人探査車に搭載されたカメラは、無人探査車の前進方向を向いるため、無人探査車が後進で走行する方向(後進方向)の撮影は出来ない状態になり、無人探査車が後進している間は、遠隔操作ないし自立判断に必要な、カメラからの撮影情報がないままで走行することとなる。
【0004】
カメラからの撮影情報が無いままで走行すると、無人探査車が後進で走行する経路に、例えば、急斜面や窪地等があったとしても、それを確認することが出来ず、本来ならば回避すべき急斜面や窪地等に突入していまい、その結果、走行不能に陥ってしまう危険性を伴う、といった問題がある。この問題を回避する手段として、無人探査車の後進方向に向けたカメラを追加して搭載する方法が考えられる。しかし、この方法の場合、大型化を招く、重量増加を伴う、カメラ制御システムが複雑になる、といった不具合が生じる。
【0005】
一般的に、車輪を有する無人探査車は、通常では前進方向に走行する前提とし、例えば、カメラや計測器が前進向きに搭載されている等、前進走行に適した設計が成されている。そのため、上記のように後進走行が必要になった場合、後進走行を一時的な動作とし、後進走行の後には、旋回走行をして、再び前進走行に戻す切り返し動作が必要となり、動作が煩雑になってしまう、といった不具合も生じる。
【0006】
また同様に、車輪を有する無人探査車は、例えば、不整地の急斜面や窪地を走行し、上下が逆さまに転倒した場合、転倒した状態では走行不可能となっている。具体的な要因としては、通常走行の状態に於いて、本体部(フレーム)は、車輪よりも鉛直方向上側に飛び出して形成されている。そのため、無人探査車が上下逆さまに転倒した場合、本体部(フレーム)の一部が不整地に接触してしまい、この不整地との接触部から大きな抵抗となって無人探査車に作用すると共に、車輪の走行に必要な接地荷重が低下し、さらには、車輪が不整地から浮いてしまい、走行不能に陥ってしまう、といった不具合も生じる。
【0007】
また、無人探査車を、例えば宇宙に運ぶためには、その打ち上げや着陸等にかかる費用が莫大なものとなっており、この費用削減のために、無人探査車の小型軽量化が、重要な課題となっている。
【0008】
特許文献1に記載の無人探査車は、本体部(メインフレーム)の一部(立設部)や、本体部に取りつけられた保護フレームが、通常走行の状態に於いて、車輪の直径よりも鉛直方向上側に飛び出して配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載の無人探査車は、転倒した場合でも正常な姿勢に回復する機能を備えた無人探査車であるが、転倒した状態のままでは、幅方向に設けられた一対の車輪が共に不整地に接地することはできず、正常な走行を行う事が困難な構成となっている。
【0011】
また、特許文献1に記載の無人探査車では、無人探査車が転倒した場合に、姿勢を回復する機構が備えられているため、その分、重量の増加、大型化を招く恐れがある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するため、(1)~(3)に記載する無人探査車を提供する。
【0013】
(1)本体部と、前記本体部の幅方向両端において同軸上に配置された一対の車輪と、前記車輪の外周面に設けられた複数の爪と、前記本体部の後方に設けられ、地面に接地する接地体と、を備える無人探査車であって、前記一対の車輪を後進回転させる回転力が、前記一対の車輪以外の構成要素の重量による前記一対の車輪の回転軸まわりの回転力よりも大きいことを特徴とする、無人探査車。
【0014】
(2)前記一対の車輪以外の構成要素のうち、前記一対の車輪の回転軸よりも前方にある部位は、前記一対の車輪径よりも外周側に飛び出さずに配置されていることを特徴とする、前記(1)に記載の無人探査車。
【0015】
(3)前記一対の車輪以外の構成要素の外面形状は、上下対称に形成されていることを特徴とする、前記(1)又は(2)に記載の無人探査車。
【発明の効果】
【0016】
本発明の無人探査車によれば、無人探査車が後進する場合、車輪以外の構成要素が、車輪の回転軸まわりに回転し、無人探査車の前方を撮影するように配置されたカメラも、同様に回転して、無人探査車の走行方向を向く。そのため、無人探査車が後進する場合でも、無人探査車は、走行方向に対して前進する場合と同様な配置を維持し、無人探査車の遠隔操作や自立判断に必要な撮影情報が途絶えることなく、常に良好な動作をさせることが出来る。
【0017】
特に前記(2)に記載の無人探査車によれば、無人探査車が後進する場合、車輪以外の構成要素が、地面(不整地)と接触することなく、車輪の回転軸まわりに回転するため、さらに良好な動作を維持させることが出来る。
【0018】
特に前記(3)に記載の無人探査車によれば、無人探査車が後進する場合でも、無人探査車が前進する場合と同一な配置状態が維持されるため、さらに良好な走行性能や動作を維持させることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施の形態に係る無人探査車を示す斜視図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る無人探査車を示す側面図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係る無人探査車を示す正面図である。
【
図4】本発明の実施の形態に係る無人探査車を示す平面図である。
【
図7】無人探査車が前進から後進に切り替わる状態を(a)、(b)、(c)の順に時系列で示す、本発明の実施の形態に係る無人探査車を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る無人探査車の実施の形態について、
図1~6を参照して説明する。尚、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0021】
また、以下の説明に於いて、水平面に対して垂直な鉛直方向を「上下方向」または「高さ方向」というものとする。また、無人探査車100には車輪20が設けられているが、車輪20の回転軸方向を「幅方向」または「左右方向」といい、車輪20の回転軸方向に対して垂直な水平方向を「前後方向」というものとする。また、幅方向に於いて、無人探査車100の中心部側(中心に近い側)を「内側」といい、無人探査車100の端部側(中心から遠い側)を「外側」というものとする。
【0022】
また、以下の説明に於いて、一対で設けられている構成要素については、その一方を説明し、他方の説明を省略することがある。
【0023】
また、以下の説明に於いて「不整地」とは、整地されていない土地であって、例えば、砂、石、岩、泥等で覆われた土地をいい、特に説明がない限りに於いて、水平な地表を成しているものとする。尚、不整地は、例えば、月の土地、火星の土地等、地球外惑星の土地も含まれるものとする。
【0024】
図1は、本発明に係る無人探査車100の斜視図であり、無人探査車100の全体が示されている。また、
図2は、無人探査車100の側面図であり、
図3は、無人探査車100の正面図であり、
図4は、無人探査車100の平面図であり、それぞれ無人探査車100の全体が示されている。尚、
図3と
図5に於いて、図面上方が、無人探査車100の上方にあたり、
図4に於いて、図面下方が、無人探査車100の前方にあたる。
【0025】
図5は、
図2のA-A線断面図であり、前から見た断面が示されている。また、
図6は、
図3のB-B線断面図であり、横から見た断面が示されている。
【0026】
本体部10は、薄板状の部材で囲われた容器体として形成されている。本体部10の中央領域には、幅方向に平行に伸びる略円筒状の中央部11が形成され、中央部11の幅方向両端領域には、中央部11よりも大なる径の略球状の一対の膨張部12が形成されている。
【0027】
中央部11は、上方に配置される平面状の中央上面11aと、下方に配置される平面状の中央下面11bと、軸線が幅方向に平行で前方に配置される部分円筒面の中央前面11cと、軸線が幅方向に平行で後方に配置される部分円筒面の中央後面11dとで囲われて、その外面が形成されている。
【0028】
中央前面11cと中央後面11dとは、それぞれの部分円筒面の径が同一で、かつ、それぞれの部分円筒面の軸線が同軸に配置されている。また、中央上面11aと中央下面11bとは、互いに平行に形成されている。すなわち、中央上面11aと中央下面11bとは、中央前面11cと中央後面11dとの部分円筒面を延長させて成る一つの円筒面を切り欠いた平行面として形成されている。
【0029】
膨張部12は、正の曲率の部分球面状の膨張面12aと、幅方向に対して垂直向きの平面状の測面12bとで囲われて、その外面が形成されている。また、膨張面12aの球直径は、中央上面11aと中央下面11bとの離隔距離よりも大なる直径で形成され、かつ、中央前面11cと中央後面11dとの最大距離(中央前面11cと中央後面11dとで成る仮想円筒の直径)よりも大なる直径で形成されている。
【0030】
図5で示されるように、側面12bには、車輪20を駆動する駆動モーター14を保持するモーター保持13が取り付けられている。駆動モーター14は、膨張部12の内部に配置され、駆動モーター14の回転動力は、減速歯車15を介して減速されて減速軸16に伝達される。減速軸16は、側面12b、及び、モーター保持13を貫通して、側面12bから幅方向外側に突出している。
【0031】
膨張部12の内部には、駆動モーター14に電力を供給するバッテリー18aを保持するバッテリー保持18が設置されている。また、膨張部12の内部には、駆動モーター14の駆動状態等を制御する制御基板19aを保持する基板保持19が設置されている。そのため、バッテリー18a、及び、制御基板19aは、膨張部12の内部に配置されている。
【0032】
ここで、モーター保持13、駆動モーター14、減速歯車15、減速軸16、これらのそれぞれは、左右一対で左右対称に設けられており、一対の減速軸16の回転軸は同軸に配置されている。尚、一対の減速軸16の回転軸は、一対の車輪20の回転軸でもあり、以下の説明に於いて、この減速軸16の回転軸を単に「回転軸」というものとする。
【0033】
回転軸は、円板状に形成されている側面12bの中心に配置されており、中央上面11a、及び、中央下面11bは、回転軸に対して上下対称に配置されている。すなわち、本体部10は、その外面の形状が、回転軸に対して上下対称に形成されている。
【0034】
モーター保持14は、幅方向外側の端部が開口しており、この開口部の内周面に車輪20を回転可能に保持する軸受17が取り付けられている。
【0035】
車輪20は、円盤状に形成されたディスク部21と、ディスク部21の径よりも径大な略筒状に形成されたリム部22と、ディスク部21の外周面からリム部22の幅方向外側の端部に向けて放射状に延出している複数の柱状のスポーク部23とで、一体化して構成されている。
【0036】
ディスク部21は、軸受17によって回転可能に支持され、減速軸16と相対回転不能に接合され、減速軸16からの回転動力を受けている。
【0037】
リム部22は、リム外周面22a(リム部22の外周面)が正の曲率の部分球面で形成された薄板状の筒体で成る。そのため、リム内周面22b(リム部22の内周面)は、リム外周面22aに沿った負の曲率の部分球面で形成されている。
【0038】
ここで、リム外周面22aの径(球径)は、リム内周面22bの径(球径)よりも大きく形成され、リム内周面22bの径(球径)は、膨張面12aの径(球径)よりも大きく形成されている。
【0039】
リム外周面22aからは、薄板状に形成された複数の爪24が、リム外周面22aの半径方向に放射状に伸びて設けられている。また、爪24の外周面である爪外周面24aは、リム外周面22aに沿った正の曲率の曲面で形成されている。尚、爪24は、爪24を不整地に食い込ませることで走破性を増そうとする目的で設けられており、技術名称として「グローサ」と呼ばれている。
【0040】
中央部11の中央前面11cには、カメラ40を保持するカメラ保持穴11eが設けられている。カメラ40は、カメラ保持穴11eに保持されて、中央部11の内部に回転軸に対して上下対称位置に配置されている。
【0041】
無人探査車100は、カメラ40による撮影情報を利用して、遠隔地に居る操作者による遠隔操作、または、無人探査車100に搭載された判断回路による自立判断によって走行を行う。そのため、無人探査車100は、カメラ40が向いている方向が前進方向(通常走行の方向)となる。換言すれば、前後方向に見て、中央部11の中心からカメラ保持穴11eに向かう方向が、前進方向となる。尚、前記の無人探査車100に搭載された判断回路は、制御基板19aの一部として搭載されている。
【0042】
中央部11の中央後面11dからは、棒状に形成されて後方に延出する複数の脚31が設けられ、複数の脚31の後方先端には、一対の接地体34、35を保持する接地体保持33が固定されている。
【0043】
一対の接地体34、35は、略皿状に形成され、接地体保持33に取り付けられ、無人探査車100の最後方に配置されている。一対の接地体外周面34a(接地体34の外周面)、35a(接地体35の外周面)は、正の曲率の部分球面で形成されている。
【0044】
また、一対の接地体外周面34a、35aのうち、一方の接地体外周面34aは、不整地Gに接地する向きに配置され、一対の接地体外周面34a、35aは、上下対称に形成されている。すなわち、一方の接地体外周面34aは、下向きに配置されて不整地Gに接地し、他方の接地体外周面35aは、上向きに配置されている。
【0045】
また、上下方向に延びる棒状に形成された補助脚32が、補助脚32の両端を一対の接地体保持33で固定されて設けられ、上下に設けられた一対の接地体34、35同士を繋いで保持している。
【0046】
また、一対の接地体外周面34a、35aのそれぞれの径(球径)は、リム外周面22aの径(球径)と同一に形成されている。
【0047】
次に、
図2と
図6を参照して、無人探査車100が前進走行の状態から後進走行の状態へ切り替わる時の状態を、力や回転力の関係に着目して説明する。
図2と
図6は、一対の接地体外周面34a、35aの、一方の接地体外周面34aが下を向き、他方の接地体外周面35aが上を向いている状態で、車輪20の接地面として機能するリム部22と接地体外周面34aとが、不整地Gに接地している状態を示している。
【0048】
無人探査車100を走行させる場合、本体部10の内部に取り付けられたモーター保持13に保持された駆動モーター14の回転動力を車輪20に伝え、20を回転させることで、無人探査車100を走行させている。
【0049】
無人探査車100は、無人探査車100が走行している時に、本体部10に回転不能に接合されて回転を伴わない要素の集合体で成る本体要素1と、車輪20に伴って回転している要素の集合体である車輪要素2とに大別される。具体的には、本体要素1は、本体部10に加え、モーター保持13、バッテリー保持18、バッテリー18a、基板保持19、制御基板19a、脚31、補助脚32、接地体保持33、接地体34、35、カメラ40、とで成る。また、車輪要素2は、車輪20に加え、減速軸16、爪24とで成る。
【0050】
尚、駆動モーター14、減速歯車15、軸受17、これらの要素は、無人探査車100が走行している時に、本体部10に回転不能に接合されている要素部分と、車輪20に伴って回転している要素部分とが混在しているため、本体要素1、車輪要素2のどちらにも属さない中間要素3として分類する。
【0051】
以下に、本体要素1と車輪要素2との間で作用する力や回転力について説明する。その際、厳密には中間要素3も、本体要素1や車輪要素2に作用を及ぼすが、中間要素3の総重量は、本体要素1や車輪要素2の総重量に比べて軽く、本体要素1と車輪要素2との間で作用する力や回転力に与える影響も軽微であるため、中間要素3が本体要素1や車輪要素2に作用する力や回転力の成分を省略して説明する。つまり、本体要素1を、無人探査車100の車輪要素2以外の要素として扱う。
【0052】
前述したように、本体要素1は、本体部10がリム内周面22bの直径よりも内周領域に配置されて形成されている。ただし、中央後面11dからは、後方に延出する複数の脚31が設けられ、複数の脚31の後方先端には、一対の接地体34、35を保持する接地体保持33が固定され、一対の接地体34、35は、接地体保持33によって保持され、かつ、補助脚32によって繋がれているため、これら脚31及び脚31よりも後方に配置されている要素は、回転軸より後方に向けて、リム外周面22aの直径よりも外周領域に飛び出して配置されている。
【0053】
図2及び
図6は、無人探査車100を左側から見た図(側面図と
図3のB-B線断面図)である。
図2と
図6に於いて、無人探査車100の最後方に配置されている一対の接地体34、35は、車輪20よりも左側に位置して示されており、無人探査車100が前進走行する時の進行方向は、左から右に向かう方向であり、無人探査車が前進走行している時、車輪20を含む車輪要素2は右回転している。
【0054】
車輪要素2が右回転している時(無人探査車100が前進走行している時)、本体要素1から受ける車輪要素2の回転力は、右回転方向に与えられ、その反力として、車輪要素2から受ける本体要素1の回転力は、左回転方向に与えられている。
【0055】
本体要素1が車輪要素2から左回転方向の回転力を与えられると、当然にして、本体要素1は、左回転方向に回転しようとする。しかし、本体要素1の一つの要素である接地体外周面34aが不整地Gに接触することで本体要素1の回転は止まり、その反力として、本体要素1から右回転方向の回転力が与えられている車輪要素2が右回転して、無人探査車100が前進走行する。
【0056】
上記に倣い、以下の説明に於いて、無人探査車100が前進走行する時の車輪要素2の回転方向を、右回転(無人探査車100が後進走行する時の車輪要素2の回転方向を、左回転)とする。また、無人探査車100が前進走行する時の進行方向を、右方向(無人探査車100が後進走行する時の進行方向を、左方向)とする。
【0057】
ここで、
図2と
図6に示されている太線矢印は、力や回転力の向きを示しており、
図2と
図6は、無人探査車100が、前進走行から後進走行に切り替わっている時の状態を示している。また、不整地Gは、整地されていない土地であって、例えば、砂、石、岩、泥等が堆積して成る堆積層Gbで成り、その表面は、水平に広がる地表面Gaとして成る。
【0058】
無人探査車100が、後進走行に切り替わっている時、本体要素1から受ける車輪要素2の回転力T2は、左回転方向に与えられ、その反力として、車輪要素2から受ける本体要素1の回転力T1は、右回転方向に与えられている。尚、車輪要素2の回転力T2と、本体要素1の回転力T1とは、互いに反力の関係にあり、互いに回転力の大きさは等しく、かつ、回転力の回転向きは逆向きの関係にある。
【0059】
車輪要素2の重心点P2は、回転軸上にある。また、本体要素1の重心点P3は、水平方向に於いて車輪要素2の重心点P2の後方にあり、かつ、上下方向に於いて一対の接地体34、35の中間にある。一対の接地体外周面34a、35aのそれぞれの径(球径)は、リム外周面22aの径(球径)と同一に形成されているため、本体要素1の重心点P3は、車輪要素2の重心点P2から水平方向に後方(真後ろ)に在る。
【0060】
本体要素1には、本体要素1の重心点P3から下向きに、本体要素1の重力F3が作用している。回転軸(車輪要素2の重心点P2を含む回転軸)まわりに作用している、本体要素1の重力F3による回転力T3は、本体要素1の重心点P3と車輪要素2の重心点2との水平方向距離Lに比例し、「T3=F3×L」の関係式で表せられる。また、本体要素1の重力F3による回転力T3は、左回転方向となる。
【0061】
無人探査車100が、前進走行から後進走行に切り替わる時、車輪要素2を左回転方向に回転させるため、車輪要素2の回転力T2は左回転方向に与えられ、その反力である車本体要素1の回転力T1は、右回転方向に与えられる。つまり、本体要素1の回転力T1は、本体要素1の重力F3による回転力T3に対して逆回転方向に与えられる。
【0062】
無人探査車100が前進走行から後進走行に切り替わる時、本体要素1の回転力T1が、本体要素1の重力F3による回転力よりも小さい場合、本体要素1は回転を伴わず、車輪要素2が左回転して、無人探査車100は、左方向に後進走行を行う。
【0063】
これに対して、無人探査車100が前進走行から後進走行に切り替わる時、本体要素1の回転力T1が、本体要素1の重力F3による回転力T3よりも大きい場合、車輪要素2は回転を伴わず、本体要素1が本体要素1の回転力T1に伴って右回転する。尚、本発明の好適な実施例としては、本体要素1の回転力T1が、本体要素1の重力F3による回転力T3よりも大きい場合である。
【0064】
次に、
図7を参照して、本体要素1の回転力T1が、本体要素1の重力F3による回転力よりも大きい場合の、無人探査車100が前進走行の状態から後進走行の状態へ移行する動作を説明する。
図7は、無人探査車100が前進走行の状態から後進走行の状態へ移行する動作を(a)、(b)、(c)の順に時系列で示す、無人探査車100の左側図である。
【0065】
図7(a)は、
図2と同様に、無人探査車100が前進走行の状態から後進走行に切り替わった瞬間の状態を示している。尚、この状態では、接地体外周面34aが下を向いて不整地Gに接地している。
【0066】
図7(b)は、車輪要素2の回転力T2の反力としての本体要素1の回転力T1が、本体要素1の重力F3による回転力T3よりも大きいため、車輪要素2は回転を伴わず、本体要素1が本体要素1の回転力T1に伴って90°右回転している状態を示している。この状態では、本体要素1の重心点P3は、車輪要素2の重心点P2の真上にあり、本体要素1の重心点P3と車輪要素2の重心点2との水平方向距離Lは0となる。従って、この状態では、本体要素1の重力F3による回転力T3も0となり、この状態になった後は、本体要素1の回転力T1が僅かでもあれば、本体要素1は右回転する。すなわち、本体要素1が本体要素1の回転力T1に伴って右回転するに連れて、本体要素1の重心点P3と車輪要素2の重心点2との水平方向距離Lは短くなり、本体要素1の重力F3による回転力T3も小さくなり、本体要素を右回転させるために必要な本体要素1の回転力T1も小さくて済む。
【0067】
図7(c)は、本体要素1が本体要素1の回転力T1に伴って180°右回転し、接地体外周面35aが下を向いて不整地Gに接地している状態を示している。この状態になった後、引き続き、本体要素1の回転力T1を発生させると、本体要素1の一つの要素である接地面体外周面35aが不整地Gに接触することで本体要素1の回転(右回転)は止まり、その反力である車輪要素2の回転力T2によって、車輪要素2が左回転して、無人探査車100が後進方向に走行する。
【0068】
以上で説明したように、無人探査車100が前進走行から後進走行に切り替わる動作は、車輪要素2の回転力T2の反力である本体要素1の回転力T1が本体要素1の重力F3による回転力T3よりも大きい場合、カメラ40を含む本体要素1は回転軸まわりに180°回転し、カメラ40は無人探査車100の進行方向に向き、無人探査車100が後進方向に走行する。
【0069】
前述したように、本体要素1の少なくとも回転軸よりも前側(
図2と
図6に於いて右側)のにある部位は、車輪20のリム外周面22aの直径よりも内周領域に配置されている。そのため、無人探査車100が前進走行から後進走行に切り替わる動作として本体要素1が回転軸まわりに180°回転される最中に、本体要素1は、接地体外周面34a、35a以外に不整地Gに接触せず、本体要素1の回転が不整地Gの接触によって阻害されることはない。
【0070】
無人探査車100が前進走行から後進走行に切り替わる動作として、本体要素1が回転軸まわりに180°回転すると、無人探査車100が後進方向に走行する状態の時に、カメラ40が無人探査車100の進行方向に向くことに加え、一対の接地体34、35は、無人探査車100の進行方向に対して最後方に位置する。
【0071】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明した本実施の形態によれば、無人探査車100が後進走行する時でも、前進方向の走行に適するように設計された本体要素1の配置は、無人探査車100の走行方向に対して変わらずに維持されるため、無人探査車100の操作性、動作判断能力、走行性能も、走行状態に依らずに常に維持される。
【0072】
また、無人探査車100が前進走行から後進走行に切り替えて、後進方向の走行を恒常的に行う場合の動作(反転走行動作)は、旋回切り返し動作を必要しないシンプルな動作となるため、無人探査車100の操作性、走行性能が向上し、無人探査車100の消費エネルギーが低減される。
【0073】
また、無人探査車100が不整地Gの劣悪な状況に突入して上下逆さまに引っくり返ったとしても、元の姿勢に戻す必要が無く、ひっくり返った状態のまま、走行性能を維持して走行が可能なため、無人探査車100の操作性、走行維持能力を向上させる。
【0074】
また、無人探査車100が上下逆さまに引っくり返った時の、姿勢回復機構を追加で設ける必要がないため、無人探査車100の小型化、軽量化が図られる。
【0075】
(付記)
尚、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【0076】
上記の実施例では、本体要素1の回転力T1が、本体要素1の重力F3による回転力T3よりも大きい場合を好適な実施例としたが、本体要素1の回転力T1は、可変で、その最大動力としての本体要素1の回転力T1が本体要素1の重力F3による回転力T3よりも大きければ良い。
【0077】
上記の実施例では、無人探査車100の遠隔操作や自立判断のための情報は、カメラ40による撮影画像としたが、例えば、赤外線センサー等の各種センサーや照明等でも良い。
【0078】
爪24の形状については、例えば、リム外周面22aに幅方向に延びる長穴を設けて、その壁面を爪24としても良い。
【0079】
尚、上記の説明に於ける「回転力」は、「トルク」と同義である。
【符号の説明】
【0080】
1…本体要素、2…車輪要素、3…中間要素、10…本体部、11…中央部、11a…中央上面、11b…中央下面、11c…中央前面、11d…中央後面、11e…カメラ保持穴、12…膨張部、12a…膨張面、12b…側面、13…モーター保持、14…駆動モーター、15…減速歯車、16…減速軸、17…軸受、18…バッテリー保持、18a…バッテリー、19…基板保持、19a…制御基板、20…車輪、21…ディスク部、22…リム部、22a…リム外周面、22b…リム内周面、23…スポーク部、24…爪、24a…爪外周面、25…リム内周隙間、31…脚、32…補助脚、33…接地体保持、34…接地体、34a…接地体外周面、35…接地体、35a…接地体外周面、40…カメラ、100…無人探査車、