(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】粘着付与樹脂エマルジョン、水系粘・接着剤組成物及び粘・接着シート
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20220802BHJP
C09J 133/00 20060101ALI20220802BHJP
C09J 11/08 20060101ALI20220802BHJP
C09J 193/04 20060101ALI20220802BHJP
C09J 125/08 20060101ALI20220802BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20220802BHJP
C08L 35/06 20060101ALI20220802BHJP
C08L 93/04 20060101ALI20220802BHJP
C08L 23/00 20060101ALI20220802BHJP
C08K 5/16 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
C08L101/00
C09J133/00
C09J11/08
C09J193/04
C09J125/08
C09J7/38
C08L35/06
C08L93/04
C08L23/00
C08K5/16
(21)【出願番号】P 2019127940
(22)【出願日】2019-07-09
【審査請求日】2021-02-04
(31)【優先権主張番号】P 2018131541
(32)【優先日】2018-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000168414
【氏名又は名称】荒川化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐野 正英
(72)【発明者】
【氏名】川端 昭寛
(72)【発明者】
【氏名】小川 寿子
(72)【発明者】
【氏名】西尾 基貴
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/109441(WO,A1)
【文献】特開2013-040285(JP,A)
【文献】特開昭56-047412(JP,A)
【文献】特開昭54-106609(JP,A)
【文献】特開平08-003530(JP,A)
【文献】特開2012-007027(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/16
C09J 133/00
C09J 11/08
C09J 193/04
C09J 125/08
C09J 7/38
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘着付与樹脂(A)、並びに、芳香族ビニル化合物(b1)に由来する構成単位1及びα,β-不飽和ジカルボン酸類(b2)に由来する構成単位2を含む重合体(B)の中和塩を含み、
当該重合体(B)の中和塩における構成単位1と構成単位2に含まれるカルボン酸塩構造とのモル比が1/1~3/1であ
り、
前記粘着付与樹脂(A)は、ロジンエステル類、ロジンフェノール樹脂、C9系石油樹脂及びテルペンフェノール樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記重合体(B)の中和塩は、重合体(B)とアンモニアとの中和塩である、水系粘・接着剤用の粘着付与樹脂エマルジョン。
【請求項2】
(A)成分の軟化点が70~180℃である、請求項
1に記載の粘着付与樹脂エマルジョン。
【請求項3】
(b1)成分がスチレン類である、請求項1
又は2に記載の粘着付与樹脂エマルジョン。
【請求項4】
(b2)成分が、マレイン酸、無水マレイン酸及びマレイン酸ハーフエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1~
3のいずれかに記載の粘着付与樹脂エマルジョン。
【請求項5】
(B)成分の重量平均分子量が、5,000~30,000である、請求項1~
4のいずれかに記載の粘着付与樹脂エマルジョン。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれかに記載の粘着付与樹脂エマルジョンとベースポリマーとを含む、水系粘・接着剤組成物。
【請求項7】
上記ベースポリマーがアクリル系重合体エマルジョンである、請求項
6に記載の水系粘・接着剤組成物。
【請求項8】
請求項
6又は
7に記載の水系粘・接着剤組成物からなる粘・接着層及び基材を含む、粘・接着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着付与樹脂エマルジョン、水系粘・接着剤組成物及び粘・接着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
テープやシート、ラベル等を製造する際に、基材である紙やプラスチックフィルム等に塗工する粘・接着剤組成物としては、従来、粘着力を付与するための粘着付与樹脂と(メタ)アクリル系重合体等のベースポリマーとを有機溶剤に溶解させた溶液型のものが一般的であったが、近年は環境、安全衛生、省資源等を考慮して、エマルジョン型の水系粘・接着剤組成物が主流になりつつある。
【0003】
水系粘・接着剤組成物としては、従来、上記ベースポリマーと粘着付与樹脂とを、別個に各種アニオン性乳化剤やノニオン性乳化剤の存在下でエマルジョン化し、混合したものが提案されている(特許文献1、2を参照)。しかしながら、上記乳化剤を使用して得られる粘着付与樹脂エマルジョンには凝集物が多く発生するものもあり、当該エマルジョンの乳化性は未だ十分なものではなかった。また、仮に乳化性の良い粘着付与樹脂エマルジョンが得られたとしても、当該エマルジョンを含む水系粘・接着剤は、上記乳化剤が水分と結びつき易いこともあって、水分や湿気の多い条件下での各種被着体に対する接着力(以下、耐水接着力ともいう)が低くなることがあった。
【0004】
さらに、上記乳化剤を使用して得られる粘着付与樹脂エマルジョンには、機械的安定性に劣るものもあり、当該エマルジョンを含む水系粘・接着剤組成物を各種基材へ高速塗工する際に、エマルジョン粒子に高い剪断力が負荷されるため当該エマルジョン粒子が容易に破壊されてしまい、凝集物等が発生して塗工性が低下することがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-106259公報
【文献】特開平11-61087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、乳化性及び機械的安定性に優れており、かつ、水系粘・接着剤組成物に高い耐水接着力を付与できる新規な粘着付与樹脂エマルジョンを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、特定の樹脂及び特定の構造を有する重合体の中和塩を含む粘着付与樹脂エマルジョンが上記課題を解決することを見出した。すなわち、本発明は以下の粘着付与樹脂エマルジョン及び水系粘・接着剤組成物に関する。
【0008】
1.粘着付与樹脂(A)、並びに、芳香族ビニル化合物(b1)に由来する構成単位1及びα,β-不飽和ジカルボン酸類(b2)に由来する構成単位2を含む重合体(B)の中和塩を含み、
当該重合体(B)の中和塩における構成単位1と構成単位2に含まれるカルボン酸塩構造とのモル比が1/1~3/1である、粘着付与樹脂エマルジョン。
【0009】
2.上記重合体(B)の中和塩が、上記重合体(B)と沸点-35~120℃の含窒素化合物(α)との中和塩である、前記項1に記載の粘着付与樹脂エマルジョン。
【0010】
3.(A)成分の軟化点が70~180℃である、前記項1又は2に記載の粘着付与樹脂エマルジョン。
【0011】
4.(A)成分が、ロジン系樹脂(a1)、石油樹脂(a2)及びテルペン系樹脂(a3)からなる群より選ばれる少なくとも1種である、前記項1~3のいずれかに記載の粘着付与樹脂エマルジョン。
【0012】
5.(A)成分が、ロジンエステル類及び/又はロジンフェノール樹脂である、前記項1~4のいずれかに記載の粘着付与樹脂エマルジョン。
【0013】
6.(b1)成分がスチレン類である、前記項1~5のいずれかに記載の粘着付与樹脂エマルジョン。
【0014】
7.(b2)成分が、マレイン酸、無水マレイン酸及びマレイン酸ハーフエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種である、前記項1~6のいずれかに記載の粘着付与樹脂エマルジョン。
【0015】
8.(B)成分の重量平均分子量が、5,000~30,000である、前記項1~7のいずれかに記載の粘着付与樹脂エマルジョン。
【0016】
9.(α)成分がアンモニア、モノアミン類、ジアミン類及びトリアミン類からなる群より選ばれる少なくとも1種である、前記項1~8のいずれかに記載の粘着付与樹脂エマルジョン。
【0017】
10.前記項1~9のいずれかに記載の粘着付与樹脂エマルジョンとベースポリマーとを含む、水系粘・接着剤組成物。
【0018】
11.上記ベースポリマーがアクリル系重合体エマルジョンである、前記項10に記載の水系粘・接着剤組成物。
【0019】
12.前記項10又は11に記載の水系粘・接着剤組成物からなる粘・接着層及び基材を含む、粘・接着シート。
【発明の効果】
【0020】
本発明の粘着付与樹脂エマルジョンは、従来の乳化剤を使用する場合に比べて、凝集物等の発生が抑制されており、乳化性に優れている。また、当該粘着付与樹脂エマルジョンを含む本発明の水系粘・接着剤組成物は、高い耐水接着力を有しており、例えば、建材、自動車内装部材、フィルムラベル等の耐水性が要求される用途での粘・接着剤として好適である。
【0021】
本発明の粘着付与樹脂エマルジョンは、機械的安定性に優れているため、当該粘着付与樹脂エマルジョンを含む本発明の水系粘・接着剤組成物は、基材への塗工において凝集物等の発生が抑制されており、塗工性が良好である。また、本発明の水系粘・接着剤組成物は、従来の粘着付与樹脂エマルジョンを含む水系粘・接着剤に比べて、保持力等の粘着性能に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の粘着付与樹脂エマルジョン(以下、粘着付与樹脂エマルジョンともいう)は、粘着付与樹脂(A)(以下、(A)成分ともいう)及び重合体(B)(以下、(B)成分ともいう)の中和塩を含むものである。
【0023】
(A)成分は、粘着付与樹脂であれば特に限定されない。(A)成分は、ロジン系樹脂(a1)(以下、(a1)成分ともいう)、石油樹脂(a2)(以下、(a2)成分ともいう)及びテルペン系樹脂(a3)(以下、(a3)成分ともいう)からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0024】
(a1)成分としては、特に限定されず、各種公知のものを使用できる。(a1)成分は、例えば、馬尾松、スラッシュ松、メルクシ松、思茅松、テーダ松及び大王松等に由来する天然ロジン(ガムロジン、トール油ロジン、ウッドロジン)、天然ロジンを減圧留去法、水蒸気蒸留法、抽出法、再結晶法等で精製して得られる精製ロジン(以下、天然ロジンと精製ロジンを纏めて原料ロジンともいう)、当該原料ロジンを水素化反応させて得られる水素化ロジン、当該原料ロジンを不均化反応させて得られる不均化ロジン、重合ロジン、アクリル化ロジン、マレイン化ロジン、フマル化ロジン等のα,β―不飽和カルボン酸変性ロジン、又はこれらのエステル化物(以下、ロジンエステル類とする)、ロジンフェノール樹脂などが挙げられる。これらは単独でも2種以上を組み合わせても良い。(a1)成分は、耐水接着力や粘着性能に優れる点から、ロジンエステル類及び/又はロジンフェノール樹脂が好ましい。
【0025】
(a2)成分としては、特に限定されず、各種公知のものを使用できる。(a2)成分は、例えば、ペンテン、ペンタジエン、イソプレン等のナフサのC5留分から得られるC5系石油樹脂;インデン、メチルインデン、ビニルトルエン、スチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン等のナフサのC9留分から得られるC9系石油樹脂;上記C5留分、C9留分から得られるC5-C9共重合系石油樹脂;スチレン等を主成分として重合して得られるピュアモノマー樹脂;シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエンから得られるDCPD系石油樹脂;これらの石油樹脂の水素化物等が挙げられる。これらは単独でも2種以上を組み合わせても良い。(a2)成分は、耐水接着力や粘着性能に優れる点から、C9系石油樹脂が好ましい。
【0026】
(a3)成分としては、特に限定されず、公知のテルペン類とフェノール類とを共重合させた樹脂、ポリテルペン樹脂等が挙げられる。なお、(a3)成分は水素化されたものであってもよい。(a3)成分は、耐水接着力や粘着性能に優れる点から、テルペンフェノール樹脂が好ましい。
【0027】
以下、(a1)成分に関して、ロジンエステル類、ロジンフェノール樹脂について説明する。本明細書において、ロジンエステル類は、ロジンエステル、重合ロジンエステル、不飽和カルボン酸変性ロジンエステルを意味する。ロジンエステル類は、耐水接着力や粘着性能に優れる点から、重合ロジンエステルがより好ましい。
【0028】
ロジンエステルは、上記の原料ロジン、水素化ロジン、不均化ロジンにアルコール類を反応させて得られる。
【0029】
上記ロジンと、アルコール類との反応条件としては、当該ロジン及びアルコール類を溶媒の存在下又は不存在下に、必要によりエステル化触媒を加え、250~280℃程度で、1~8時間程度で行えば良い。
【0030】
上記アルコール類としては、特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ステアリルアルコール等の1価のアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ダイマージオール等の2価のアルコール類、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンなどの3価のアルコール類、ペンタエリスリトール、ジグリセリンなどの4価のアルコール類、ジペンタエリスリトールなどの6価のアルコール類等が挙げられる。上記アルコール類は、2つ以上の水酸基を有する多価アルコール類が好ましく、ペンタエリスリトールが好ましい。
【0031】
重合ロジンエステルは、重合ロジンにアルコール類を反応させて得られる。重合ロジンとは、二量化された樹脂酸を含むロジン誘導体である。
【0032】
重合ロジンを製造する方法としては、公知の方法を採用することができる。当該製造方法は、例えば、上記原料ロジンを、硫酸、フッ化水素、塩化アルミニウム、四塩化チタン等の触媒を含むトルエン、キシレン等の溶媒中、温度40~160℃程度で、1~5時間程度反応させる方法等が挙げられる。
【0033】
重合ロジンは、例えば、上記原料ロジンにガムロジンを使用したガム系重合ロジン(例えば、商品名「重合ロジンB-140」、新洲(武平)林化有限公司製)、トール油ロジンを使用したトール油系重合ロジン(例えば、商品名「シルバタック140」、アリゾナケミカル社製)、ウッドロジンを使用したウッド系重合ロジン(例えば、商品名「ダイマレックス」、ASHLAND社製)等が挙げられる。
【0034】
また、重合ロジンとしては、重合ロジンに、水素化、不均化、アクリル化、マレイン化、フマル化等の各種処理を施したものを使用しても良い。また各種処理も単独であっても2種以上を組み合わせても良い。重合ロジンは、アクリル化、マレイン化、又はフマル化を施したものであるのが好ましい。
【0035】
上記重合ロジンとアルコール類との反応条件としては、重合ロジン及びアルコール類を溶媒の存在下又は不存在下に、必要によりエステル化触媒を加え、250~280℃程度で、1~8時間程度で行えば良い。
【0036】
重合ロジンをエステル化する際に用いるアルコール類は上記同様である。
【0037】
なお、上記重合反応と上記エステル化反応の順番は、上記に特に限定されず、エステル化反応の後に、重合反応を行ってもよい。
【0038】
重合ロジンエステルの物性としては特に限定されない。耐水接着力や粘着性能に優れる点から、重合ロジンエステルの物性は、軟化点が150~180℃程度であるのが好ましい。なお、本発明において、軟化点は、環球法(JISK5902)により測定した値である。
【0039】
不飽和カルボン酸変性ロジンエステルは、上記原料ロジンにα,β-不飽和カルボン酸類を付加反応させた変性ロジン(α,β-不飽和カルボン酸変性ロジン)に、更にアルコール類を反応させてエステル化させたものである。
【0040】
上記α,β-不飽和カルボン酸類としては、特に限定されず、各種公知のものを使用できる。α,β-不飽和カルボン酸類としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、ムコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水ムコン酸等が挙げられる。これらの中でも、アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸が好ましい。α,β-不飽和カルボン酸類の使用量は、乳化性の点から、通常は、上記原料ロジン100重量部に対して1~20重量部程度、好ましくは1~3重量部程度である。
【0041】
α,β-不飽和カルボン酸変性ロジンの製造方法としては、特に限定されないが、例えば、加熱下で溶融させた上記原料ロジンに、上記α,β-不飽和カルボン酸類を加えて、温度180~240℃程度で、1~9時間程度で反応させることが挙げられる。また、上記反応は、密閉した反応系内に窒素等の不活性ガスを吹き込みながら行っても良い。さらに反応では、例えば、塩化亜鉛、塩化鉄、塩化スズ等のルイス酸や、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等のブレンステッド酸等の公知の触媒を使用してもよい。これらの触媒の使用量は、上記原料ロジン100重量部に対して通常0.01~10重量部程度である
【0042】
得られたα,β-不飽和カルボン酸変性ロジンには、上記原料ロジン由来の樹脂酸が含まれても良い。
【0043】
上記α,β-不飽和カルボン酸変性ロジンと、アルコール類との反応条件としては、特に限定されないが、例えば、加熱下で溶融させたα,β-不飽和カルボン酸変性ロジンに、アルコールを加えて、温度250~280℃程度で、15~20時間程度で反応させることが挙げられる。また、上記反応は、密閉した反応系内に窒素等の不活性ガスを吹き込みながら行っても良く、前述の触媒を使用してもよい。
【0044】
α,β-不飽和カルボン酸変性ロジンをエステル化する際に用いるアルコール類は上記同様である。
【0045】
なお、上記原料ロジンに対する付加反応とエステル化反応の順番は、上記に特に限定されず、エステル化反応の後に、付加反応を行ってもよい。
【0046】
ロジンフェノール樹脂は、上記原料ロジンにフェノール類を反応させて得られる。
【0047】
フェノール類としては、特に限定されず、各種公知のものを使用できる。具体的には、クレゾール、ブチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール等のアルキルフェノール類、フェノール、ビスフェノール類、ナフトール類等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。フェノール類の使用量は、乳化性の点から、通常、上記原料ロジン1モルに対して0.8~1.5モル程度反応させればよい。
【0048】
ロジンフェノール樹脂の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、上記原料ロジン及びフェノール類を必要に応じて酸触媒の存在下、加熱して反応させることが挙げられる。反応条件としては、通常、180~350℃で6~18時間程度反応させればよい。なお、当該反応に用いることができる酸触媒としては、特に限定されないが、例えば、硫酸、塩化水素、三フッ化ホウ素等の無機酸触媒やパラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等の有機酸触媒を挙げることができる。酸触媒を使用する場合には、上記原料ロジン100重量部に対し、0.01~1.0重量部程度用いればよい。また、ロジンフェノール樹脂は、上記反応で得られた樹脂に、更にアルコール類を反応させてエステル化したものであっても良い。その際に用いるアルコール類は上記同様である。
【0049】
(A)成分の物性としては特に限定されない。耐水接着力や粘着性能に優れる点から、(A)成分の物性は、軟化点が、70~180℃程度であるのが好ましい。なお、本発明において、軟化点は、環球法(JISK5902)により測定した値である。
【0050】
(B)成分は、芳香族ビニル化合物(b1)(以下、(b1)成分ともいう)に由来する構成単位1(以下、構成単位1)及びα,β-不飽和ジカルボン酸類(b2)(以下、(b2)成分ともいう)に由来する構成単位2(以下、構成単位2)を含む重合体である。
【0051】
(b1)成分は、芳香族ビニル化合物であれば、各種公知のものを制限なく用い得る。ここで、芳香族ビニル化合物は、芳香環及びビニル基の部位を有する化合物を意味する。当該芳香環は、置換基を有するものでも良く、置換基を有しないものでも良い。(b1)成分は、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、t-ブチルスチレン、ジメチルスチレン、アセトキシスチレン、ヒドロキシスチレン等のスチレン類、ビニルトルエン、クロロビニルトルエン等のビニルトルエン類、アリルベンゼン、p-アリルトルエン、o-アリルトルエン等のアリルトルエン類、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン等が挙げられる。(b1)成分は、乳化性、耐水接着力及び機械的安定性に優れる点から、スチレン類が好ましく、スチレンがより好ましい。
【0052】
(b2)成分は、α,β-不飽和ジカルボン酸類であれば、各種公知のものを制限なく用い得る。ここで、α,β-不飽和ジカルボン酸類は、α,β-不飽和ジカルボン酸、α,β-不飽和ジカルボン酸無水物及びα,β-不飽和ジカルボン酸ハーフエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種を意味する。
【0053】
上記α,β-不飽和ジカルボン酸としては、例えば、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、ムコン酸等が挙げられる。上記α,β-不飽和ジカルボン酸無水物としては、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等が挙げられる。上記α,β-不飽和ジカルボン酸ハーフエステルとしては、例えば、当該α,β-不飽和ジカルボン酸(又は当該α,β-不飽和ジカルボン酸無水物)とモノアルコールとをモル比1/1で反応させて得られるモノエステル化物が挙げられる。上記モノアルコールは、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、3-メトキシブタノール、4-メトキシブタノール、1-エトキシブタノール、2-エトキシブタノール、4-エトキシブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ステアリルアルコール等の炭素数1~18のアルキル基を有する1価のアルコール類が挙げられる。(b2)成分は、主に乳化性、耐水性及び機械的安定性に優れる点より、マレイン酸、無水マレイン酸及びマレイン酸ハーフエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
【0054】
上記構成単位2において、α,β-不飽和ジカルボン酸に由来する構成単位には、ジカルボン酸構造(2つのCOOH)が含まれる。α,β-不飽和ジカルボン酸無水物に由来する構成単位には、上記ジカルボン酸構造の2つのCOOHが脱水閉環した酸無水物環が含まれる。α,β-不飽和ジカルボン酸ハーフエステルに由来する構成単位には、上記ジカルボン酸構造のいずれか1つのCOOHがエステル基(COOR、Rはアルキル基)であるハーフエステル構造が含まれる。
【0055】
(B)成分における構成単位1と構成単位2とのモル比は、(B)成分の中和塩における構成単位1と構成単位2に含まれるカルボン酸塩構造(COOM)とのモル比(構成単位1のモル数/構成単位2に含まれるカルボン酸塩構造のモル数)が1/1~3/1になるように設定すればよい。当該カルボン酸塩構造は、(B)成分の構成単位2に含まれる上記ジカルボン酸構造、酸無水物環、ハーフエステル構造が中和されることによって形成される。具体的には、構成単位2にジカルボン酸構造又は酸無水物環が含まれる場合は、構成単位2の1個当たりカルボン酸塩構造が2個形成され、同様に、構成単位2にハーフエステル構造が含まれる場合は、構成単位2の1個当たりカルボン酸塩構造が1個形成される。
【0056】
(B)成分における構成単位1と構成単位2とのモル比は、(B)成分の中和塩における上記モル比と、構成単位2に形成される上記カルボン酸塩構造の数とを考慮して設定すればよい。(B)成分における構成単位1と構成単位2とのモル比(構成単位1のモル数/構成単位2のモル数)は、構成単位2がα,β-不飽和ジカルボン酸やα,β-不飽和ジカルボン酸無水物に由来する場合は、2/1~6/1程度、好ましくは2/1~4/1程度であり、構成単位2がα,β-不飽和ジカルボン酸ハーフエステルに由来する場合は、1/1~3/1程度、好ましくは1/1~2/1程度である。
【0057】
なお、後述する(B)成分の製造方法において、(b2)成分にα,β-不飽和ジカルボン酸及び/又はα,β-不飽和ジカルボン酸無水物を用いる場合は、重合反応で得られた重合体にモノアルコールをエステル化反応させて、(b2)成分に由来する構成単位2をハーフエステル化させることがある。そのような場合には、(B)成分における構成単位1と構成単位2とのモル比は、通常1/1~3/1程度、好ましくは1/1~2/1程度であるのがよい。
【0058】
(b1)及び(b2)成分以外で、(B)成分の構成単位になり得る他成分(以下、他成分ともいう)は特に限定されないが、本発明者らが鋭意検討した結果、当該他成分として、(メタ)アクリル酸、クロトン酸及びイソクロトン酸等のα,β-不飽和モノカルボン酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ノルマルブチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸ターシャリーブチル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールエステル及び(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコールエステル等の(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリルアミド、N,N’-ジメチルアクリルアミド及びN,N’-ジメチルメタアクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類を使用した場合は、主に乳化性及び耐水接着力が不十分になる傾向にあるため、好ましくはない。
【0059】
(B)成分における上記他成分に由来する構成単位の含有率は、特に限定されない。(B)成分における当該構成単位の含有率は、上記他成分に由来する構成単位と、構成単位1及び構成単位2とのモル比(他成分に由来する構成単位のモル数/構成単位1と構成単位2の総モル数)が、通常は0~1/1程度、好ましくは0~1/2程度であるのがよい。
【0060】
(B)成分は、(b1)成分及び(b2)成分、並びに必要に応じて上記他成分を重合反応させることで得られる。重合反応の方法としては、溶液重合や乳化重合等の各種公知の重合方法が挙げられる。溶液重合に用いる溶剤としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、アセトン、メチルイソブチルケトン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、およびジメチルスルホキシド等を例示できる。また、乳化重合による場合は、各種公知の非反応性の低分子量乳化剤として、例えばジアルキルスルホコハク酸エステル塩、アルカンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホコハク酸エステル塩、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテルスルホコハク酸エステル塩、ナフタリンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、およびポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩等のアニオン性乳化剤や、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、およびポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のノニオン乳化剤を適宜使用できる。また、当該低分子量乳化剤の使用量は特に限定されないが、耐水性の点より、(b1)成分及び(b2)成分、並びに必要に応じて他成分の総重量に対して通常5重量%以下、好ましくは0.1~2重量%程度である。
【0061】
また、重合反応の際には、ベンゾイルパーオキシド、tert-ブチルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、クミルパーオキシド、tert-ブチルヒドロパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、アゾビスイソブチロニトリル、2,2-アゾビス-(2,4-ジメチルバレロニトリル)、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、2,2´-アゾビス-(2-アミジノプロパン)-ヒドロクロライド、レドックス系開始剤(過酸化水素-塩化第一鉄、過硫酸アンモニウム-酸性亜硫酸ナトリウムなど)といった過硫酸塩類や過酸化物、アゾ化合物、レドックス類等の開始剤等を、(b1)成分及び(b2)成分、並びに必要に応じて他成分の総重量に対して通常0.1~10重量%程度の範囲で使用できる。
【0062】
また、重合反応の際には、メタンチオール、エタンチオール、プロパンチオール、ブタンチオール、オクタンチオール、ドデカンチオール、ベンゼンチオール、トルエンチオール、α-ナフタレンチオール、β-ナフタレンチオール、メルカプトメタノール、メルカプトエタノール、メルカプトプロパノール、メルカプトブタノール等の連鎖移動剤を、(b1)成分及び(b2)成分、並びに必要に応じて他成分の総重量に対して通常0.1~5重量%程度の範囲で使用できる。
【0063】
(B)成分の製造方法において、(b2)成分としてα,β-不飽和ジカルボン酸及び/又はα,β-不飽和ジカルボン酸無水物を使用する場合は、上記重合反応で得られた重合体に、更にモノアルコールをエステル化反応させて、(b2)成分に由来する構成単位2をハーフエステル化させてもよい。モノアルコールの使用量は、通常は、(b2)成分とモノアルコールとのモル比が1/1程度であればよい。当該モノアルコールは、特に限定されない。当該モノアルコールは、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、3-メトキシブタノール、4-メトキシブタノール、1-エトキシブタノール、2-エトキシブタノール、4-エトキシブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ステアリルアルコール等の炭素数1~18のアルキル基を有する1価のアルコール類が挙げられる。エステル化反応の方法としては、特に限定されず、各種公知の方法が挙げられる。
【0064】
(B)成分の物性は、特に限定されない。上記(b2)成分がα,β-不飽和ジカルボン酸及び/又はα,β-不飽和ジカルボン酸無水物である場合、(B)成分は、乳化性及び耐水接着力に優れる点から、酸価が140~450mgKOH/g程度が好ましく、190~450mgKOH/g程度がより好ましい。上記(b2)成分がα,β-不飽和ジカルボン酸ハーフエステルである場合、(B)成分は、乳化性及び耐水接着力に優れる点から、酸価が90~300mgKOH/g程度が好ましく、160~300mgKOH/g程度がより好ましい。なお、酸価は、以下の方法によって測定された値である。
<酸価測定>
(B)成分0.3gをアセトン50mlに溶解させたアセトン溶液に対して、0.1mol/Lの水酸化カリウム水溶液を25ml加えた溶液を調製する。当該溶液を10分放置して、指示薬としてフェノールフタレインを2,3滴加えた後、0.1mol/Lの塩酸によって滴定を行う。塩酸滴定量と(B)成分の上記重量から、下記式によって(B)成分の酸価を算出する。
酸価(mgKOH/g)={25-塩酸滴定量(ml)}×5.611/(B)成分の重量(g)
【0065】
(B)成分は、乳化性、耐水性、機械的安定性及び保持力に優れる点から、重量平均分子量が好ましくは5,000~30,000程度、より好ましくは8,000~28,000であるのがよい。なお、重量平均分子量は、ゲルパーメーションクロマトグラフィー(GPC)法によるポリスチレン換算値である。
【0066】
(B)成分の市販品としては、例えば、SMA(登録商標)2000、SMA(登録商標)3000、SMA(登録商標)EF-30、SMA(登録商標)EF-40、SMA(登録商標)EF-60、SMA(登録商標)1440、SMA(登録商標)2625、SMA(登録商標)3840(以上、Cray Valley社製)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0067】
(B)成分の中和塩は、本発明の粘着付与樹脂エマルジョンにおいて、上記(A)成分を水中で乳化させるために用いる。従来の粘着付与樹脂エマルジョンは、公知のアニオン性乳化剤やノニオン性乳化剤を用いて乳化させて得られるが、乳化性、耐水接着力及び機械的安定性が全て優れるものを得るのが困難な場合があった。また、公知の高分子乳化剤を用いる場合は、機械的安定性に優れるものは得られるが、乳化性に劣っているものが多く、耐水接着力も不十分なものであった。本発明の粘着付与樹脂エマルジョンは、特定の構造を有する(B)成分の中和塩を用いることによって、乳化性、耐水接着力及び機械的安定性がバランス良く優れることが明らかになった。また、当該中和塩を含む粘着付与樹脂エマルジョンは、それを含む水系粘・接着剤において、保持力が優れることも明らかになった。
【0068】
(B)成分の中和塩は、各種公知の方法によって、上記(B)成分を各種の塩基性物質で中和することによって得られる。当該塩基性物質は、特に限定されない。当該塩基性物質は、例えば、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の酸化物、アンモニア、アルキルアミン類、アルカノールアミン類等が挙げられる。
【0069】
上記塩基性物質は、沸点が-35~120℃の含窒素化合物(α)(以下、(α)成分とする)であるのが好ましい。(B)成分との中和に(α)成分を用いることで、本発明の粘着付与樹脂エマルジョンを含む水系粘・接着剤組成物は、耐水接着力がより優れたものとなる。詳細は定かではないが、上記沸点を有する(α)成分は、基材に塗工された水系粘・接着剤組成物を乾燥する工程で塗膜から大気中へと離脱し易く、その結果、当該塗膜の疎水性が高くなって耐水接着力がより向上すると推定される。
【0070】
(α)成分は、乳化性及び耐水接着力に優れる点から、下記一般式(1)で表される化合物であるのがより好ましい。
【化1】
(1)
(式(1)中、X
1、X
2及びX
3はそれぞれ独立して、水素又は炭素数1~5のアルキル基を表わす。)
【0071】
(α)成分は、例えば、アンモニア;メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、s-ブチルアミン、t-ブチルアミン、イソブチルアミン、ペンチルアミン、t-ペンチルアミン、イソペンチルアミン等のモノアミン類;ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン等のジアミン類;トリメチルアミン、トリエチルアミン等のトリアミン類等が挙げられる。(α)成分は、乳化性及び耐水接着力に優れる点から、アンモニア、モノアミン類、ジアミン類及びトリアミン類からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、アンモニアがより好ましい。
【0072】
(α)成分の使用量は、特に限定されない。(α)成分の使用量は、通常は、(B)成分における中和によって形成されるカルボン酸塩構造(COOM)のモル数100モル%に対して、50~500モル%程度となる範囲であればよい。
【0073】
(B)成分の中和塩は、当該中和塩における構成単位1と構成単位2に含まれるカルボン酸塩構造(COOM)とのモル比(構成単位1のモル数/構成単位2に含まれるカルボン酸塩構造のモル数)が1/1~3/1であることを必須とする。ここで、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、一級アンモニウム、二級アンモニウム、三級アンモニウム又は四級アンモニウムを示す。(B)成分の中和塩は、当該モル比が1/1~3/1であることで、当該中和塩における疎水性と親水性のバランスが良好になり、粘着付与樹脂エマルジョンの乳化性や機械的安定性及び水系粘・接着剤の耐水接着力が優れたものとなる。(B)成分の中和塩は、当該モル比が1/1未満の場合は、粘着付与樹脂エマルジョンの乳化性及び水系粘・接着剤の耐水接着力に劣り、当該モル比が3/1を超える場合は、粘着付与樹脂エマルジョンの乳化性に劣る。(B)成分の中和塩は、乳化性及び耐水接着力に優れる点から、当該モル比が1/1~3/1程度が好ましく、1/1~2/1程度がより好ましい。
【0074】
(B)成分の中和塩は、上記(B)成分に含まれる酸成分及び酸無水物成分が中和して塩を形成する以外は、(B)成分と同様の構造を有するものである。
【0075】
(B)成分の中和塩の使用量は、特に限定されない。(B)成分の中和塩は、乳化性及び耐水接着力に優れる点から、固形分換算で、(A)成分100重量部に対して、1~10重量部程度が好ましく、2~5重量部程度がより好ましい。(B)成分の中和塩の使用量を1重量部以上とすることにより、上記粘着付与樹脂エマルジョンは乳化性が優れたものとなり、また、10重量部以下とすることにより、当該エマルジョンを含む水系粘・接着剤は耐水接着力が優れたものとなる。
【0076】
本発明の粘着付与樹脂エマルジョンは、本発明の所望の特性を損なわない限り、当該エマルジョンの乳化性を向上させることを目的に、必要に応じて乳化剤(C)(以下(C)成分ともいう)を含めてもよい。なお、(C)成分は、(B)成分とは異なるものである。
【0077】
(C)成分は、本発明の所望の特性を損なわない限り、特に限定されず各種公知の乳化剤を使用できる。具体的には、モノマーを重合させて得られる高分子量乳化剤、低分子量アニオン性乳化剤、低分子量ノニオン性乳化剤等が挙げられる。これらは単独でも2種以上を組み合わせてもよい。これらの中でも、乳化性に優れる点から、低分子量アニオン性乳化剤が好ましい。
【0078】
上記高分子量乳化剤の製造に用いられるモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等の(メタ)アクリル酸エステル系モノマー類;(メタ)アクリル酸、クロトン酸等のモノカルボン酸系ビニルモノマー類;マレイン酸、無水マレイン酸等のジカルボン酸系ビニルモノマー類;ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、等のスルホン酸系ビニルモノマー類;及びこれら各種有機酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、有機塩基類の塩;(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド系モノマー類;(メタ)アクリロニトリル等のニトリル系モノマー類;酢酸ビニル等のビニルエステル系モノマー類;(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル等のヒドロキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル系モノマー類;メチルビニルエーテル、グリシジル(メタ)アクリレート、ウレタンアクリレート、炭素数6~22のα-オレフィン、ビニルピロリドン等のその他のモノマー類などが挙げられる。これらは単独でも2種以上組み合わせても良い。
【0079】
重合方法としては、溶液重合、懸濁重合、後述する高分子量乳化剤以外の反応性乳化剤、高分子量乳化剤以外の非反応性乳化剤などを用いた乳化重合などが挙げられる。
【0080】
かくして得られた上記高分子量乳化剤の重量平均分子量は特に限定されないが、通常1,000~500,000程度とすることが、得られる粘着付与樹脂エマルジョンの粘着特性の点で好ましい。ここでいう重量平均分子量は、ゲルパーメーションクロマトグラフィー(GPC)法によるポリスチレン換算値である。
【0081】
上記高分子量乳化剤以外の反応性乳化剤としては、例えば、スルホン酸基、カルボキシル基などの親水基と、アルキル基、フェニル基などの疎水基を有するものであって、分子中に炭素-炭素二重結合を有するものをいう。
【0082】
上記低分子量アニオン性乳化剤としては、例えばジアルキルスルホコハク酸エステル塩、アルカンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホコハク酸エステル塩、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテルスルホコハク酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンジアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレントリアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩等が挙げられる。
【0083】
上記低分子量ノニオン性乳化剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0084】
上記高分子量乳化剤以外の乳化剤は単独でも2種以上を適宜選択して使用しても良い。
【0085】
(C)成分の使用量は、乳化性及び耐水接着力に優れる点から、固形分換算で、(A)成分100重量部に対して、1~10重量部程度が好ましく、2~8重量部程度がより好ましい。
【0086】
本発明の粘着付与樹脂エマルジョンは、所望の特性を損なわない限り、必要に応じて消泡剤、増粘剤、充填剤、酸化防止剤、耐水化剤、造膜助剤、アンモニア水や重曹等のpH調整剤等を含めてもよい。
【0087】
本発明の粘着付与樹脂エマルジョンは、(B)成分及び必要に応じて(C)成分(以下、これらをまとめて「乳化剤」という)の存在下、(A)成分を乳化させてなるものであり、粘着付与樹脂として用いることができる。
【0088】
上記乳化方法としては、特に限定されず、高圧乳化法、転相乳化法等の公知の乳化法を採用することができる。
【0089】
上記高圧乳化法は、(A)成分を液体状態とした上で、乳化剤と水を予備混合して、高圧乳化機を用いて微細乳化した後、必要に応じて溶剤を除去する方法である。(A)成分を液体状態とする方法は、加熱のみでも、溶剤に溶解してから加熱しても、可塑剤等の非揮発性物質を混合して加熱してもよいが、加熱のみで行うことが好ましい。なお、溶剤としては、トルエン、キシレン、メチルシクロヘキサン、酢酸エチル等の(A)成分を溶解できる有機溶剤が挙げられる。
【0090】
上記転相乳化法は、(A)成分を加熱溶融した後、撹拌しながら乳化剤・水を加え、まずW/Oエマルジョンを形成させ、次いで、水の添加や温度変化等によりO/Wエマルジョンに転相させる方法である。
【0091】
このようにして得られた粘着付与樹脂エマルジョンの濃度は特に限定されないが、通常は固形分が20~70重量%程度となるように適宜に調整して用いる。また、得られた粘着付与樹脂エマルジョンの体積平均粒子径は、通常0.1~2μm程度であり、大部分は1μm以下の粒子として均一に分散しているが、0.7μm以下とすることが、貯蔵安定性の点から好ましい。また、(A)成分は白色ないし乳白色の外観を呈し、粘度は通常10~1,000mPa・s程度(温度25℃、濃度50重量%)である。また、pHは通常2~10程度であるが、必要に応じて、塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸;モノメチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン等のアルカノールアミン;エチルアミン、n-ブチルアミン、トリエチルアミン等の脂肪族アミン;水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物等を適宜添加して、pHを調整しても良い。
【0092】
本発明の水系粘・接着剤組成物は、本発明の粘着付与樹脂エマルジョン及びベースポリマーを含むものである。また、本発明の水系粘・接着剤組成物は、水系粘・接着剤として使用することができる。なお、本明細書において、「粘・接着剤」とは、粘着剤及び接着剤のいずれか一方又は両方を含むことを明らかにしたものである。
【0093】
上記ベースポリマーとして、アクリル系重合体エマルジョン、ゴム系ラテックス及び合成樹脂系エマルジョン等が挙げられ、またそれぞれを併用することもでき、さらに必要に応じて架橋剤、消泡剤、増粘剤、充填剤、酸化防止剤、耐水化剤、造膜助剤、アンモニア水や重曹等のpH調整剤等を使用することもできる。また、公知の粘着付与樹脂エマルジョンをさらに使用しても良い。これら水系粘・接着剤組成物の濃度は、通常は固形分が40~70重量%程度であり、好ましくは55~70重量%である。ベースポリマーは、少なくとも1種以上用いればよい。
【0094】
上記アクリル系重合体エマルジョンとしては、一般に各種のアクリル系粘・接着剤に用いられているものを使用でき、(メタ)アクリル酸エステル等のモノマーの一括仕込み重合法、モノマー逐次添加重合法、乳化モノマー逐次添加重合法、シード重合法等の公知の乳化重合法により容易に製造することができる。
【0095】
上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、たとえば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル等をあげることができ、これらを単独で又は二種以上を混合して用いる。また、得られるエマルジョンに貯蔵安定性を付与するため上記(メタ)アクリル酸エステルの一部に代えて(メタ)アクリル酸を使用してもよい。さらに所望により(メタ)アクリル酸エステル重合体の接着特性を損なわない程度において、たとえば、酢酸ビニル、スチレン等の共重合可能なモノマーを併用できる。なお、アクリル系重合体エマルジョンに用いられる乳化剤にはアニオン系乳化剤、部分ケン化ポリビニルアルコール等を使用でき、その使用量は固形分換算で、(メタ)アクリル酸エステル重合体100重量部に対して0.1~5重量部程度、好ましくは0.5~3重量部程度である。
【0096】
上記アクリル系重合体エマルジョンと粘着付与樹脂エマルジョンの含有比率は、特に限定されないが、粘着付与樹脂エマルジョンによる改質の効果が十分に発現でき、かつ、過剰使用による保持力、タック等の低下を引き起こさない適当な使用範囲としては、固形分換算で、アクリル系重合体エマルジョン100重量部に対して、粘着付与樹脂エマルジョンを通常2~40重量部程度とするのがよい。
【0097】
上記ゴム系ラテックスとしては、水系粘・接着剤組成物に用いられる各種公知のものを使用できる。例えば天然ゴムラテックス、スチレン-ブタジエン共重合体ラテックス、クロロプレンラテックス等が挙げられる。
【0098】
上記ゴム系ラテックスと粘着付与樹脂エマルジョンの含有比率は、特に限定されないが、粘着付与樹脂エマルジョンによる改質の効果が十分に発現でき、かつ、過剰使用による接着力、タック等の低下を引き起こさない適当な使用範囲としては、固形分換算で、ゴム系ラテックス100重量部に対して、粘着付与樹脂エマルジョンを通常10~150重量部程度とするのがよい。
【0099】
上記合成樹脂系エマルジョンとしては、水系粘・接着剤組成物に用いられる各種公知のものを使用でき、例えば酢酸ビニル系エマルジョン、エチレン-酢酸ビニル共重合体エマルジョン、ウレタン系エマルジョン等の合成樹脂エマルジョンが挙げられる。
【0100】
上記合成樹脂系エマルジョンと粘着付与樹脂エマルジョンの含有比率は、特に限定されないが、粘着付与樹脂エマルジョンの改質の効果が十分に発現でき、かつ、過剰使用による接着力、タック等の低下を引き起こさない適当な使用範囲としては、固形分換算で、合成樹脂系エマルジョン100重量部に対して、粘着付与樹脂エマルジョンを通常2~40重量部程度とするのがよい。
【0101】
本発明の水系粘・接着剤組成物は、上記粘着付与樹脂エマルジョンと上記ベースポリマーとを混合させることで得られる。混合方法としては、特に限定されず各種公知の方法を用いることができる。
【0102】
本発明の粘・接着シートは、上記水系粘・接着剤組成物からなる粘・接着層及び基材を含むものである。本発明の粘・接着シートは、当該粘・接着層を基材の片面または両面に有する形態の基材付き粘・接着シートであってもよく、当該粘・接着層が剥離ライナー(剥離面を備える基材としても把握され得る。)に保持された形態等の基材レスの粘・接着シートであってもよい。ここでいう粘・接着シートの概念には、粘・接着テープ、粘・接着ラベル、粘・接着フィルム等と称されるものが包含され得る。
【0103】
上記基材としては、例えば、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体等)製フィルム、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート等)製フィルム、塩化ビニル系樹脂製フィルム、酢酸ビニル系樹脂製フィルム、ポリイミド系樹脂製フィルム、ポリアミド系樹脂製フィルム、フッ素系樹脂製フィルム、その他セロハン類等のプラスチックフィルム類;和紙、クラフト紙、グラシン紙、上質紙、合成紙、トップコート紙等の紙類;各種の繊維状物質の単独または混紡等による織布や不織布等の布類;天然ゴム、ブチルゴム等からなるゴムシート類;発泡ポリウレタン、発泡ポリクロロプレンゴム等の発泡体からなる発泡体シート類;アルミニウム箔、銅箔等の金属箔;これらの複合体;等を用いることができる。
【0104】
本発明の粘・接着シートは、公知方法にて製造することができる。始めに、基材の片面又は両面に上記水系粘・接着剤組成物を塗工して、当該水系粘・接着剤組成物からなる塗工層を形成する。塗工方法は公知方法を適用でき、ロールコーター法、コンマコーター法、ダイコーター法、リバースコーター法、シルクスクリーン法、及びグラビアコーター法等が挙げられる。 次に、塗工層を加熱または乾燥させることにより、上記水系粘・接着剤組成物からなる粘・接着層を形成する。加熱または乾燥時の条件は、粘・接着層の厚みなどにより適宜設定することができ、温度は例えば10~120℃であり、時間は例えば0.1~10時間である。当該粘・接着層の厚み(乾燥後の厚み)は用途によって異なるが、好ましくは5~200μmである。
【0105】
本発明の粘・接着シートは、上記水系粘・接着剤組成物からなる粘・接着層を含むことから、高い耐水接着力を有しており、例えば、建材、自動車内装部材、フィルムラベル等の耐水性が要求される用途での粘・接着シートとして好適である。また、本発明の粘・接着シートは、保持力等の粘着性能にも優れる。
【実施例】
【0106】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例中の「部」及び「%」は特に断りがない限り、重量基準である。
【0107】
[ベースポリマーの製造]
製造例1
撹拌装置、温度計、還流冷却管、滴下ロート及び窒素導入管を備えた反応容器に、窒素ガス気流下、水43.4部及びポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩(アニオン性乳化剤:商品名「ハイテノールLA-16」,第一工業製薬(株)製)0.92部からなる水溶液を仕込み、70℃に昇温した。次いで、アクリル酸ブチル90部、アクリル酸2-エチルヘキシル7部及びアクリル酸3部からなる混合物と、過硫酸カリウム(重合開始剤)0.24部、重曹(pH調整剤)0.11部及び水8.83部からなる開始剤水溶液の1/10量を反応容器に添加し、窒素ガス気流下にて70℃、30分間予備重合反応を行った。次いで、前記混合物と前記開始剤水溶液の残りの9/10量を2時間にわたり反応容器に添加して乳化重合を行い、その後70℃で1時間保持して重合反応を完結させた。こうして得られたアクリル系重合体エマルジョンを室温まで冷却した後100メッシュ金網を用いてろ過し、固形分濃度47.8%のアクリル系重合体エマルジョンを得た。
【0108】
[重合ロジンエステルの製造]
製造例2
撹拌装置、コンデンサー、温度計および窒素導入管・水蒸気導入管を備えた反応容器に、
重合ロジン100部(酸価145mgKOH/g、軟化点140℃)、ペンタエリスリトール14部を仕込んだ後、窒素ガス気流下に250℃で2時間反応させた後、さらに280℃まで昇温し同温度で12時間反応させ、エステル化を完了させた。その後、減圧下に水分等を除去し、軟化点160℃の重合ロジンエステル(以下、(A-1)成分とする)を得た。
【0109】
[ロジンフェノール樹脂の製造]
製造例3
製造例2と同様の反応容器に、ガムロジン50部(酸価160mgKOH/g、軟化点70℃)、フェノール100部仕込んだ後、100℃まで昇温し96%硫酸を2.1部仕込み窒素ガス気流下に3時間反応させた。次いで消石灰を3.0部加えた後、10kPa減圧下で280℃まで昇温し、同温度で4時間反応させた。その後、水分等を除去し、軟化点150℃のロジンフェノール樹脂(以下、(A-2)成分とする)を得た。
【0110】
[ガムロジンエステルの製造]
製造例4
製造例2と同様の反応容器に、ガムロジン100部(酸価160mgKOH/g、軟化点70℃)、フマル酸を1部仕込んだ後、窒素ガス気流下に系内温度が220℃となるまで加熱し、1時間反応させた。その後、ペンタエリスリトール13部を仕込んだ後、250℃で2時間反応させた後、さらに280℃まで昇温し同温度で12時間反応させ、エステル化を完了させた。その後、減圧下に水分等を除去し、軟化点100℃のガムロジンエステル(以下、(A-3)成分とする)を得た。
【0111】
[重合体(B)の中和塩の製造]
製造例5
25%アンモニア水溶液65gに、スチレン/無水マレイン酸共重合体(商品名「SMA(登録商標)2000」、CRAY VALLEY社製、スチレン/無水マレイン酸のモル比:2/1)(以下、(B-1)成分とする)50g及び水150gを投入し、80℃で1時間攪拌することで、スチレン/無水マレイン酸共重合体の中和塩(スチレン/カルボン酸塩構造のモル比:1/1、重量平均分子量:10,000、固形分濃度20%)265gを得た。
【0112】
製造例6
25%アンモニア水溶液15gに、スチレン/マレイン酸ハーフエステル共重合体(商品名「SMA(登録商標)2625」、CRAY VALLEY社製、スチレン/マレイン酸ハーフエステルのモル比:2/1)(以下、(B-2)成分とする)50g及び水200gを投入し、80℃で1時間攪拌することで、スチレン/マレイン酸ハーフエステル共重合体の中和塩(スチレン/カルボン酸塩構造のモル比:2/1、重量平均分子量:11,000、固形分濃度20%)265gを得た。
【0113】
製造例7
25%アンモニア水溶液80gに、スチレン/無水マレイン酸共重合体(商品名「SMA(登録商標)EF60」、CRAY VALLEY社製、スチレン/無水マレイン酸のモル比:6/1)(以下、(B-3)成分とする)50g及び水200gを投入し、80℃で1時間攪拌することで、スチレン/無水マレイン酸共重合体の中和塩(スチレン/カルボン酸塩構造のモル比:3/1、重量平均分子量:16,000、固形分濃度15%)330gを得た。
【0114】
製造例8
25%アンモニア水溶液85gに、スチレン/無水マレイン酸共重合体(商品名「SMA(登録商標)1000」、CRAY VALLEY社製、スチレン/無水マレイン酸のモル比:1/1)(以下、(B’-1)成分とする)50g及び水200gを投入し、80℃で1時間攪拌することで、スチレン/無水マレイン酸共重合体の中和塩(スチレン/カルボン酸塩構造のモル比:1/2、重量平均分子量:7,000、固形分濃度15%)335gを得た。
【0115】
製造例9
25%アンモニア水溶液80gに、スチレン/無水マレイン酸共重合体(商品名「SMA(登録商標)EF80」、CRAY VALLEY社製、スチレン/無水マレイン酸のモル比:8/1)(以下、(B’-2)成分とする)50g及び水200gを投入し、80℃で1時間攪拌することで、スチレン/無水マレイン酸共重合体の中和塩(スチレン/カルボン酸塩構造のモル比:4/1、重量平均分子量:15,000、固形分濃度15%)330gを得た。
【0116】
製造例10
25%アンモニア水溶液15gに、イソブチレン/無水マレイン酸共重合体(商品名「イソバン600」、(株)クラレ製)(以下、(B’-3)成分とする)50g及び水200gを投入し、80℃で1時間攪拌することで、イソブチレン/無水マレイン酸共重合体の中和塩(重量平均分子量:6,000、固形分濃度20%)265gを得た。
【0117】
[重量平均分子量の測定]
(B-1)~(B-3)成分の中和塩、及び(B’-1)~(B’-3)成分の中和塩の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(東ソー(株)製、商品名「HLC-8320」、カラム:東ソー(株)製、商品名「TSK-GEL GMPWXL」および「TSK-GEL G2500PWXL」を連結)により測定し、ポリエチレンオキシド換算により求めた。
【0118】
[粘着付与樹脂エマルジョンの製造]
実施例1
製造例2で得られた(A-1)成分100部をメチルシクロヘキサン80部に80℃にて3時間かけて溶解させた後、製造例5で得られた(B-1)成分の中和塩5.0部(固形分換算)および水140部を添加し、1時間撹拌した。次いで、高圧乳化機(マントンガウリン社製)により30MPaの圧力で高圧乳化して乳化物を得た。次いで、70℃、2.93×10-2MPaの条件下に6時間減圧蒸留を行い、固形分濃度50%の粘着付与樹脂エマルジョンを得た。
【0119】
実施例2~3
実施例1において、(B-1)成分の中和塩を製造例6、7で得られた(B-2)、(B-3)成分の中和塩に変えた以外は、同様に行い、粘着付与樹脂エマルジョン(いずれも固形分濃度50%)を得た。
【0120】
実施例4~5
実施例1において、(A-1)成分を製造例3、4で得られた(A-2)、(A-3)成分に変えた以外は、同様に行い、粘着付与樹脂エマルジョン(いずれも固形分濃度50%)を得た。
【0121】
実施例6
実施例1において、(A-1)成分100部を、(A-1)成分70部とC9系石油樹脂(商品名「ネオポリマー140」 JXTGエネルギー(株)製)(以下、(A-4)成分とする)30部の併用に変えた以外は、同様に行い、粘着付与樹脂エマルジョン(いずれも固形分濃度50%)を得た。なお、(A-1)成分70部と(A-4)成分30部を併用した場合の軟化点は155℃あった。
【0122】
実施例7
実施例1において、(A-1)成分を、テルペンフェノール(商品名「Dertophene T115」 DRT社製 軟化点125℃)(以下、(A-5)成分とする)に変えた以外は、同様に行い、粘着付与樹脂エマルジョン(いずれも固形分濃度50%)を得た。
【0123】
比較例1~3
実施例1において、(B-1)成分の中和塩を製造例8~10で得られた(B’-1)~(B’-3)成分の中和塩に変えた以外は、同様に行い、粘着付与樹脂エマルジョン(いずれも固形分濃度50%)を得た。
【0124】
比較例4
実施例1において、(B-1)成分の中和塩をドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(以下、(C-1)成分とする)に変えた以外は、同様に行い、粘着付与樹脂エマルジョン(いずれも固形分濃度50%)を得た。
【0125】
[乳化性の評価]
各実施例および比較例の粘着付与樹脂エマルジョンの体積平均粒子径を、レーザー回折式粒度測定装置((株)島津製作所製、商品名「SALD-7500nano」)を用い、屈折率1.70-0.20i、吸光度0.06の条件下で測定した。得られた体積平均粒子径に関して、以下の基準にて評価した。結果を表1に示す。体積平均粒子径が小さいほど、粘着付与樹脂エマルジョンの乳化性や貯蔵安定性は良好である。
○:体積平均粒子径0.7μm未満
△:体積平均粒子径0.7μm以上1.5μm未満
×:体積平均粒子径1.5μm以上
【0126】
また、各実施例および比較例の粘着付与樹脂エマルジョンを400メッシュの金網(日本金網商工(株)社製、目開き34μm)でろ過し、得られた残渣の粘着付与樹脂(A)に対する重量%を秤量した。当該残渣の重量%に関して、以下の基準にて評価した。結果を表1に示す。残渣の重量%が小さいほど、粘着付与樹脂エマルジョンにおいて凝集物の発生が抑制されており、その乳化性は良好である。
○:0.1重量%未満
△:0.1重量%以上1.0重量%未満
×:1.0重量%以上
【0127】
[機械的安定性の評価]
各実施例および比較例の粘着付与樹脂エマルジョンをマーロン試験(JIS K 6828に準ずる)に供し、凝集物の発生率((凝集物量/初期固形分量)×100)を算出して、機械的安定性に関して以下の基準にて評価した。結果を表1に示す。凝集物の発生率(ppm)が高いほど機械的安定性が劣る。
○:凝集物の発生率250ppm未満
△:凝集物の発生率250ppm以上500ppm未満
×:凝集物の発生率500ppm以上
<試験条件>
試料:粘着付与樹脂エマルジョン30g(固形分15g)
金網:200メッシュの金網(日本金網商工(株)社製、目開き76μm)
荷重:10kg
回転数:1000rpm
回転時間:10分
【0128】
[水系粘・接着剤組成物の製造]
製造例1にて合成したアクリル系重合体エマルジョン70部(固形分換算)と実施例1の粘着付与樹脂エマルジョン30部(固形分換算)とを混合し、水系粘・接着剤組成物を得た。実施例2~7及び比較例1~4の各粘着付与樹脂エマルジョンについても、同様にして水系粘・接着剤組成物を製造した。
【0129】
[試料テープの作成]
サイコロ型アプリケーター(太佑機材(株)製)を用いて、上記水系粘・接着剤組成物をポリエステルフィルム(商品名「S-100」、三菱ケミカル(株)製 厚み:38μm)に厚みが50μm程度となるように塗布し、次いで105℃の循風乾燥機で5分間乾燥させて試料テープを作成した。
【0130】
[耐水接着力の評価]
上記試料テープを幅25mmに切り、被着体(ステンレス板(SS))に2kgのローラーを2往復させて貼り合わせ、1日静置した。次いで、恒温恒湿機(60℃、90%RH)にて試料テープを貼り合わせた被着体を7日間静置した後、恒温恒湿機から当該被着体を取り出し、直ちに180度剥離テストを、引張速度300mm/分、測定温度23℃の条件で行い、接着力(N/25mm)を測定した。結果を表1に示す。
【0131】
[保持力の評価]
上記試料テープ(25mm×25mm)をステンレス板に重ね合わせ、重量2kgのローラーで1往復させて貼り合わせた。60℃で1.2kgの荷重を試料テープに加え、試料テープが落下するまでの時間(h)を測定した。結果を表1に示す。落下するまでの時間が長い方が、保持力が強いといえる。
【0132】
【表1】
※注釈は、以下の通りである。
1)(B)成分の中和塩における構成単位1のモル数/(B)成分の中和塩における構成単位2のカルボン酸塩構造のモル数
2)樹脂エマルジョンの減圧蒸留中に不溶物が多量に発生し粘着付与樹脂エマルジョンが得られなかったので、耐水接着力、機械的安定性及び保持力が評価出来なかった。