(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】水系帯電防止離型コーティング剤組成物及び帯電防止離型フィルム
(51)【国際特許分類】
C09D 161/28 20060101AFI20220802BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20220802BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20220802BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20220802BHJP
C09D 183/06 20060101ALI20220802BHJP
B32B 27/42 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
C09D161/28
C09D5/00 Z
C09D7/65
C09D7/63
C09D183/06
B32B27/42
(21)【出願番号】P 2019141947
(22)【出願日】2019-08-01
【審査請求日】2021-03-04
(31)【優先権主張番号】P 2018147130
(32)【優先日】2018-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000168414
【氏名又は名称】荒川化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 良樹
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-104661(JP,A)
【文献】特開2016-216714(JP,A)
【文献】特開2017-119749(JP,A)
【文献】特開2009-107329(JP,A)
【文献】特開2012-097132(JP,A)
【文献】特開2014-080608(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 161/28
C09D 5/00
C09D 7/65
C09D 7/63
C09D 183/06
B32B 27/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチル化メラミン樹脂(A)、水酸基含有有機変性シリコーン(B)、酸触媒(C)及び導電性高分子(D)を含
み、
固形分換算で、前記メチル化メラミン樹脂(A)100重量部に対して、前記水酸基含有有機変性シリコーン(B)を25~150重量部含有する、水系帯電防止離型コーティング剤組成物。
【請求項2】
上記(A)成分が、イミノ型メチル化メラミン樹脂、メチロール型メチル化メラミン樹脂、イミノ・メチロール型メチル化メラミン樹脂及びフルエーテル型メチル化メラミン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の水系帯電防止離型コーティング剤組成物。
【請求項3】
上記(B)成分が、水酸基含有ポリエーテル変性シリコーン及び/又は水酸基含有シリコーン変性アクリル樹脂である、請求項1又は2に記載の水系帯電防止離型コーティング剤組成物。
【請求項4】
上記(C)成分が、有機スルホン酸及び/又は有機リン酸である、請求項1~3のいずれかに記載の水系帯電防止離型コーティング剤組成物。
【請求項5】
上記(D)成分が、ポリ(チオフェン)類及び/又はポリ(アニリン)類である、請求項1~4のいずれかに記載の水系帯電防止離型コーティング剤組成物。
【請求項6】
更に、塩基性化合物(E)を含む、請求項1~5のいずれかに記載の水系帯電防止離型コーティング剤組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の水系帯電防止離型コーティング剤組成物の硬化膜及びプラスチックフィルムを含む、帯電防止離型フィルム。
【請求項8】
上記プラスチックフィルムがポリエチレンテレフタレートフィルムである、請求項7の帯電防止離型フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系帯電防止離型コーティング剤組成物及び該コーティング剤組成物を塗工し、硬化してなる帯電防止離型フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
離型フィルムは、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂等のキャスト製膜用の工程フィルム、粘着テープ、粘着シート、粘着フィルム等の粘着剤層の保護フィルム、セラミックグリーンシートやプリント基板等の電子部品製造用の工程フィルムとして利用されている。離型フィルムとしては、一般に、ポリエステルフィルムなどの基材フィルムの表面にシリコーン系又は非シリコーン系離型剤からなる離型層が形成されたものが主である。
【0003】
通常、離型フィルムは、樹脂シートの成形後、粘着フィルムの使用時、あるいは電子部品の製造後に剥離されるものであるが、剥離した際には静電気が帯電しやすい。そのため、樹脂シート等を積み重ねて保管する場合には電気的反発又は引き合いによって、樹脂シート同士が反発あるいは張り付いた状態となる不具合や、粘着フィルムの場合には、粘着層に塵埃等の異物が付着し、粘着層が汚染する原因となっていた。また、セラミックグリーンシートの場合は、セラミックコンデンサーの小型化、大容量化に伴い薄層化が進んでいるが、薄層化が進むと、従来の離型フィルムでは剥離帯電が大きく、それによる静電気障害が大きな問題となっていた。これらの問題から、近年では、離型フィルムに帯電防止機能が求められるようになってきた。
【0004】
上記離型フィルムに帯電防止機能を付与する方法として、例えば、特許文献1には、カチオン性帯電防止剤からなる帯電防止層を基材フィルムの片面に設け、離型層をもう一方の面に設けることが提案されている。しかしながら、この方法では、離型フィルムへの静電気の帯電を十分に防ぐことは出来ず、離型層の面に帯電防止性を付与する方が好ましいと考えられる。
【0005】
また、特許文献2では、離型層の下に帯電防止層を設けることで離型フィルムに帯電防止機能を付与することが提案されている。しかしながら、この方法では、基材フィルム上に2層のコーティング層を形成させるため2回の塗工工程が必要であり、工程にかかる費用が高く生産効率も低いという問題があった。
【0006】
それに対して、特許文献3では、1層のコーティング層で基材フィルムに帯電防止性と離型性を付与することが提案されている。しかしながら、特許文献3では、上記コーティング層は硬化性樹脂や架橋剤等によって架橋されていないため、溶剤に溶解し易くなっており、溶剤を含む樹脂膜、粘着剤層、セラミックスラリー等が当該コーティング層に接した場合に、十分な離型性が得られない場合があった。また、特許文献3では、溶剤に分散した導電性高分子を用いているが、導電性高分子を分散出来る溶剤の種類が少ないため、上記コーティング層を形成するコーティング剤を調製する際は、コーティング剤の溶媒を限定する、又は、分散剤(界面活性剤)を使用することが必要であり、取扱い性に問題があった。さらに、界面活性剤を使用する場合は、コーティング層からの界面活性剤の移行(ブリード)が発生する問題もあった。
【0007】
耐溶剤性に優れる1層のコーティング層のみで、基材フィルムに帯電防止性、離型性を付与する方法としては、例えば、従来の離型剤に導電性高分子等の導電性物質を添加したコーティング剤を調製し、基材フィルム上に当該コーティング剤からなる帯電防止性及び耐溶剤性の離型層を形成させる方法が考えられる。しかしながら、本発明者が検討したところ、離型剤への導電性物質の添加は、導電性物質の分散不良又は溶解不良が起こって、コーティング剤としての安定性(液安定性)が悪くなり、基材への塗工が困難な場合があることが明らかになった。また、上記導電性物質によって離型剤の硬化が阻害される場合もあり、得られる離型層の耐溶剤性が悪くなることも明らかになった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平9-277451号公報
【文献】特開2005-153250号公報
【文献】特開2008-049542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、優れた帯電防止性及び離型性を有する帯電防止離型層を1層コーティングにて形成することができ、液安定性にも優れ、且つ耐溶剤性に優れた硬化膜を形成し得る、新規な水系帯電防止離型コーティング剤組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討した結果、所定のメラミン樹脂、所定の有機変性シリコーン、酸触媒及び導電性高分子を含む水系の組成物によって、前記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
詳しくは、本発明者らは、導電性高分子に所定のメラミン樹脂、所定の有機変性シリコーン及び酸触媒を組み合わせ、かつ、それらを含むコーティング剤を水系の組成物にすることで、導電性高分子を含んでも分散不良とはならずに、液安定性が良好なコーティング剤が得られることを見出した。また、当該コーティング剤は硬化阻害もなく、耐溶剤性に優れた帯電防止性の離型層を形成し得ることも見出した。即ち本発明は、以下の水系帯電防止離型コーティング剤組成物に関する。
【0012】
1.メチル化メラミン樹脂(A)、水酸基含有有機変性シリコーン(B)、酸触媒(C)及び導電性高分子(D)を含む、水系帯電防止離型コーティング剤組成物。
【0013】
2.上記(A)成分が、イミノ型メチル化メラミン樹脂、メチロール型メチル化メラミン樹脂、イミノ・メチロール型メチル化メラミン樹脂及びフルエーテル型メチル化メラミン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種である、前記項1に記載の水系帯電防止離型コーティング剤組成物。
【0014】
3.上記(B)成分が、水酸基含有ポリエーテル変性シリコーン及び/又は水酸基含有シリコーン変性アクリル樹脂である、前記項1又は2に記載の水系帯電防止離型コーティング剤組成物。
【0015】
4.上記(C)成分が、有機スルホン酸及び/又は有機リン酸である、前記項1~3のいずれかに記載の水系帯電防止離型コーティング剤組成物。
【0016】
5.上記(D)成分が、ポリ(チオフェン)類及び/又はポリ(アニリン)類である、前記項1~4のいずれかに記載の水系帯電防止離型コーティング剤組成物。
【0017】
6.更に、塩基性化合物(E)を含む、前記項1~5のいずれかに記載の水系帯電防止離型コーティング剤組成物。
【0018】
7.前記項1~6のいずれかに記載の水系帯電防止離型コーティング剤組成物の硬化膜及びプラスチックフィルムを含む、帯電防止離型フィルム。
【0019】
8.上記プラスチックフィルムがポリエチレンテレフタレートフィルムである、前記項7の帯電防止離型フィルム。
【発明の効果】
【0020】
本発明の水系帯電防止離型コーティング剤組成物は、帯電防止性に優れ、剥離力が軽く、且つ耐溶剤性に優れた硬化膜を形成することが出来る。また、当該コーティング剤組成物から形成される硬化膜は、防汚性にも優れる。さらに、当該コーティング剤組成物は、液安定性に優れており、基材フィルム等に容易に塗工できる。
【0021】
本発明の水系帯電防止離型コーティング剤組成物は、帯電防止性及び離型性の特性を合わせ持つ層を1層のコーティングで達成できるため、帯電防止機能を付与した離型フィルムを簡便に製造できる。また、当該コーティング剤組成物は、基材フィルムがポリエステルフィルムである帯電防止離型フィルムの帯電防止離型コーティング剤として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の水系帯電防止離型コーティング剤組成物(以下、水系コーティング剤組成物ともいう)は、メチル化メラミン樹脂(A)(以下、(A)成分ともいう)、水酸基含有有機変性シリコーン(B)(以下、(B)成分ともいう)、酸触媒(C)(以下、(C)成分ともいう)及び導電性高分子(D)(以下、(D)成分ともいう)を含む水系組成物である。
【0023】
(A)成分は、下記式で表されるメチル化メラミンに由来する構成単位を含む樹脂である。(A)成分は、メトキシメチル基(-CH2OCH3)を少なくとも1つ有することが必要であり、平均重合度は1.1~10である。(A)成分は、本発明の水系コーティング剤組成物からなる硬化膜において架橋構造を形成するものであり、当該硬化膜は耐溶剤性に優れたものとなる。
【0024】
【化1】
(式(1)中、R
1~R
6は同一又は異なっていてよく、それぞれ水素原子、メチロール基(-CH
2OH)、メトキシメチル基(-CH
2OCH
3)、エトキシメチル基(-CH
2OCH
2CH
3)、n-ブトキシメチル基(-CH
2OCH
2CH
2CH
2CH
3)及びイソブトキシメチル基(-CH
2OCH(CH
3)CH
2CH
3)のいずれかを表す。ただし、R
1~R
6の少なくとも一つはメトキシメチル基である。)
【0025】
(A)成分は、低温・短時間での硬化性に優れる点から、上記R1~R6の全てがメトキシメチル基であるフルエーテル型メチル化メラミンに由来する構成単位を含む樹脂(以下、フルエーテル型メチル化メラミン樹脂)が好ましい。また、(A)成分は、液安定性に優れる点から、当該R1~R6の少なくとも一つがメトキシメチル基であって、残りが全て水素原子であるイミノ型メチル化メラミンに由来する構成単位を含む樹脂(以下、イミノ型メチル化メラミン樹脂)が好ましく、同様の点から、当該R1~R6の少なくとも一つがメトキシメチル基であって、残りが全てメチロール基であるメチロール型メチル化メラミンに由来する構成単位を含む樹脂(以下、メチロール型メチル化メラミン樹脂)も好ましく、同様の点から、当該R1~R6の少なくとも一つがメトキシメチル基であって、残りが水素原子とメチロール基が混在しているイミノ・メチロール型メチル化メラミンに由来する構成単位を含む樹脂(以下、イミノ・メチロール型メチル化メラミン樹脂)も好ましい。(A)成分は、1種を単独で又は2種以上を併用できる。フルエーテル型メチル化メラミン樹脂の例としては、2,4,6-トリス[ビス(メトキシメチル)アミノ]-1,3,5-トリアジン等も挙げられる。
【0026】
(A)成分の市販品としては、例えば、サイメル300、サイメル301、サイメル303LF、サイメル350、サイメル370N、サイメル771、サイメル325、サイメル327、サイメル703、サイメル712、サイメル701、サイメル266、サイメル267、サイメル285、サイメル232、サイメル235、サイメル236、サイメル238、サイメル272、サイメル212、サイメル253、サイメル254、サイメル202、サイメル207(以上、オルネクスジャパン(株)製)、ニカラックMW-30M、ニカラックMW-30、ニカラックMW-30HM、ニカラックMW-390、ニカラックMW-100LM、ニカラックMX-750LM、ニカラックMW-22、ニカラックMS-21、ニカラックMS-11、ニカラックMW-12LF、ニカラックMW-24X、ニカラックMS-001、ニカラックMX-002、ニカラックMX-730、ニカラックMX-750、ニカラックMX-708、ニカラックMX-706、ニカラックMX-042、ニカラックMX-035、ニカラックMX-45、ニカラックMX-43、ニカラックMX-417、ニカラックMX-410(以上、(株)三和ケミカル製)等が挙げられ、単独又は2種以上を組み合わせても良い。
【0027】
(B)成分は、例えば、有機基で変性された水酸基含有シリコーンを意味する。一般的にシリコーン(未変性シリコーン)は、(A)成分との相溶性が悪いため、コーティング剤組成物の硬化膜から移行(ブリード)しやすい傾向にある。また、シリコーンは、水系のコーティング剤における溶解性が悪いため、シリコーンを含む水系コーティング剤は液安定性に劣るものが多い。さらに、シリコーンは、水系のコーティング剤への液安定性を向上させるため、乳化剤(界面活性剤)によって分散させたシリコーンエマルジョンとして用いられることもあるが、エマルジョンに含まれる乳化剤が硬化膜からブリードして、被着体を汚染することがある。
【0028】
(B)成分は、有機基で変性された部分を有するため、(A)成分とよく相溶し、さらに水酸基も有することから、硬化時に(A)成分と反応して硬化膜中に固定されるため、当該硬化膜と接する層へのブリードを抑制することができる。また、(B)成分は、離型性を付与する成分であるが、当該硬化膜からのブリードが抑制されていることから、硬化膜の離型性が長期において持続する。さらに、(B)成分は、後述する水系溶媒における溶解性が良い傾向にあるため、本発明の水系コーティング剤組成物は液安定性が良好である。
【0029】
(B)成分は、水酸基含有有機変性シリコーンであれば、特に限定されない。変性部位は、例えば、ポリエステル部位、ポリエーテル部位、アクリル樹脂部位、及びカルビノール部位からなる群より選ばれる少なくとも一種が挙げられる。なお、当該変性部位は、シリコーン鎖の片末端、両末端、及び側鎖のいずれかに導入されていればよい。また、水酸基は、変性部位であるポリエステル部位、ポリエーテル部位、アクリル樹脂部位、カルビノール部位に有していることが好ましい。(B)成分は、例えば、水酸基含有ポリエステル変性シリコーン、水酸基含有ポリエーテル変性シリコーン、水酸基含有シリコーン変性アクリル樹脂、カルビノール変性シリコーン等が例示される。(B)成分は、1種を単独で又は2種以上を併用できる。
【0030】
上記水酸基含有ポリエーテル変性シリコーン又は水酸基含有ポリエステル変性シリコーンの市販品は、BYK-370、BYK-375、BYK-377、BYK-SILCLEAN3720(ビックケミー・ジャパン(株)製)、X-22-4952、KF-6123(信越化学工業(株)製)、Silsurf A004、Silsurf A008、Silsurf A004、Silsurf C208、Silsurf B608、Silsurf CR1115、Silsurf Di-1010(Siltech社製)等が例示される。
【0031】
上記水酸基含有シリコーン変性アクリル樹脂の市販品は、ZX-028-G((株)T&K TOKA製)、BYK-SILCLEAN3700(ビックケミー・ジャパン(株)製)、サイマックUS-270、サイマックUS-450、サイマックUS-480(東亞合成(株)製)等が例示される。なお、本明細書において、アクリル樹脂には、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルの重合体が含まれる。
【0032】
上記カルビノール変性シリコーンの市販品は、X-22-4039、X-22-4015、X-22-4952、X-22-4272、X-22-170BX、X-22-170DX、KF-6000、KF-6001、KF-6002、KF-6003、KF-6123、X-22-176F(信越化学工業(株)製)、サイラプレーンFM-4411、サイラプレーンFM-4421、サイラプレーンFM-4425、サイラプレーンFM-0411、サイラプレーンFM-0421、サイラプレーンFM-DA11、サイラプレーンFM-DA21、サイラプレーンFM-DA26(JNC(株)製)等が例示される。
【0033】
(B)成分は、離型性、液安定性及び防汚性に優れる点から、水酸基含有ポリエーテル変性シリコーン及び/又は水酸基含有シリコーン変性アクリル樹脂が好ましい。
【0034】
(C)成分は、酸触媒である。酸触媒としては、特に限定されず、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸類;シュウ酸、酢酸、ギ酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、イソプレンスルホン酸、カンファースルホン酸、ヘキサンスルホン酸、オクタンスルホン酸、ノナンスルホン酸、デカンスルホン酸、ヘキサデカンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、クメンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ノニルナフタレンスルホン酸、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、プロピルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、ブトキシエチルアシッドホスフェート、オクチルアシッドホスフェート、2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、デシルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、ベヘニルアシッドホスフェート、フェニルアシッドホスフェート、ノニルフェニルアシッドホスフェート、シクロヘキシルアシッドホスフェート、フェノキシエチルアシッドホスフェート、アルコキシポリエチレングリコールアシッドホスフェート、ビスフェノールAアシッドホスフェート、ジメチルアシッドホスフェート、ジエチルアシッドホスフェート、ジプロピルアシッドホスフェート、ジイソプロピルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジ-2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、ジラウリルアシッドホスフェート、ジステアリルアシッドホスフェート、ジフェニルアシッドホスフェート、ビスノニルフェニルアシッドホスフェート等の有機酸類;スルホニウム塩、ベンゾチアゾリウム塩、アンモニウム塩、ホスホニウム塩等の熱酸発生剤が挙げられる。(C)成分は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。(C)成分は、(A)成分との相溶性の点において有機酸類を用いるのが好ましい。より好ましい例としては、有機スルホン酸及び/又は有機リン酸が挙げられる。
【0035】
(C)成分は、硬化性に優れる点で、「フルエーテル型メチル化メラミン樹脂」、「メチロール型メチル化メラミン樹脂」に対しては強酸(例えば有機スルホン酸)、「イミノ型メチル化メラミン樹脂」及び「イミノ・メチロール型メチル化メラミン樹脂」に対しては弱酸(例えば有機リン酸)を触媒として使用することが好ましい。
【0036】
(D)成分は、導電性高分子であり、硬化膜に帯電防止性を付与する物質である。
【0037】
(D)成分は、導電性高分子であれば特に限定されない。(D)成分は、(A)~(C)成分との相溶性及び液安定性が良好になる点から、水溶液若しくは水分散液、又は、後述する水系溶媒の溶液若しくは分散液として用いるのが好ましい。また、そのような場合は、(D)成分の固形分濃度は、0.1~10重量%程度であるのが好ましい。
【0038】
(D)成分は、各種公知のヘテロ原子を含有するπ共役系導電性ポリマーが好ましい。「ヘテロ原子」は水素および炭素以外の原子(例えば窒素原子や硫黄原子等)を意味し、「ヘテロ原子含有π共役系導電性ポリマー」は、分子内に当へテロ原子を有し、かつ、分子主鎖がπ共役構造をなしている有機高分子化合物を意味する。なお、本発明において、(D)成分は各種ドーパントでドープされた状態である。(D)成分は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0039】
上記ヘテロ原子含有π共役系導電性ポリマーは、例えば、ヘテロ原子が存在する複素環を有するπ共役系導電性ポリマーである、ポリ(チオフェン)類、ポリ(チオフェンビニレン)類、ポリ(ピロール)類等が挙げられる。また、芳香環を有するπ共役系導電性ポリマーである、ポリ(アニリン)類等が挙げられる。
【0040】
上記複素環や芳香環には、アルキル基、アルコキシ基、アルキレンジオキシ基が枝状、または環状に結合していてもよい。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基等が挙げられる。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、デシルオキシ基、オクタデシルオキシ基等が挙げられる。アルキレンジオキシ基としては、エチレンジオキシ基、プロピレンジオキシ基、ブテンジオキシ基等が挙げられる。
【0041】
上記ポリ(チオフェン)類は、特に限定されない。当該ポリ(チオフェン)類は、例えば、ポリ(チオフェン)、ポリ(アルキルチオフェン)類、ポリ(モノアルコキシチオフェン)類、ポリ(ジアルコキシチオフェン)類、ポリ(アルキレンジオキシチオフェン)類等が挙げられる。
【0042】
上記ポリ(アルキルチオフェン)類は、例えば、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ(3-エチルチオフェン)、ポリ(3-プロピルチオフェン)、ポリ(3-ブチルチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルチオフェン)、ポリ(3-オクチルチオフェン)、ポリ(3-デシルチオフェン)、ポリ(3-ドデシルチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルチオフェン)、ポリ(3,4-ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4-ジブチルチオフェン)等が挙げられる。また、上記ポリ(モノアルコキシチオフェン)類としては、ポリ(3-メトキシチオフェン)、ポリ(3-エトキシチオフェン)、ポリ(3-ブトキシチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3-デシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルオキシチオフェン)等が挙げられる。また、上記ポリ(ジアルコキシチオフェン)類としては、ポリ(3,4-ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジドデシルオキシチオフェン)等が挙げられる。また、上記ポリ(アルキレンジオキシチオフェン)類としては、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ブテンジオキシチオフェン)等が挙げられる。
【0043】
上記ポリ(チオフェンビニレン)類は、例えば、ポリ(チオフェンビニレン)、ポリ(アルキルチオフェンビニレン)類、ポリ(モノアルコキシチオフェンビニレン)類、ポリ(ジアルコキシチオフェンビニレン)類、ポリ(アルキレンジオキシチオフェンビニレン)類等が挙げられる。
【0044】
上記ポリ(アルキルチオフェンビニレン)類は、例えば、ポリ(3-メチルチオフェンビニレン)、ポリ(3-エチルチオフェンビニレン)、ポリ(3-プロピルチオフェンビニレン)、ポリ(3-ブチルチオフェンビニレン)、ポリ(3-ヘキシルチオフェンビニレン)、ポリ(3-ヘプチルチオフェンビニレン)、ポリ(3-オクチルチオフェンビニレン)、ポリ(3-デシルチオフェンビニレン)、ポリ(3-ドデシルチオフェンビニレン)、ポリ(3-オクタデシルチオフェンビニレン)、ポリ(3,4-ジメチルチオフェンビニレン)、ポリ(3,4-ジブチルチオフェンビニレン)等が挙げられる。また、上記ポリ(モノアルコキシチオフェンビニレン)類としては、ポリ(3-メトキシチオフェンビニレン)、ポリ(3-エトキシチオフェンビニレン)、ポリ(3-ブトキシチオフェンビニレン)、ポリ(3-ヘキシルオキシチオフェンビニレン)、ポリ(3-ヘプチルオキシチオフェンビニレン)、ポリ(3-オクチルオキシチオフェンビニレン)、ポリ(3-デシルオキシチオフェンビニレン)、ポリ(3-ドデシルオキシチオフェンビニレン)、ポリ(3-オクタデシルオキシチオフェンビニレン)等が挙げられる。また、上記ポリ(ジアルコキシチオフェンビニレン)類としては、ポリ(3,4-ジメトキシチオフェンビニレン)、ポリ(3,4-ジエトキシチオフェンビニレン)、ポリ(3,4-ジプロポキシチオフェンビニレン)、ポリ(3,4-ジブトキシチオフェンビニレン)、ポリ(3,4-ジヘキシルオキシチオフェンビニレン)、ポリ(3,4-ジヘプチルオキシチオフェンビニレン)、ポリ(3,4-ジオクチルオキシチオフェンビニレン)、ポリ(3,4-ジデシルオキシチオフェンビニレン)、ポリ(3,4-ジドデシルオキシチオフェンビニレン)等が挙げられる。また、上記ポリ(アルキレンジオキシチオフェンビニレン)類としては、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェンビニレン)、ポリ(3,4-プロピレンジオキシチオフェンビニレン)、ポリ(3,4-ブテンジオキシチオフェンビニレン)等が挙げられる。
【0045】
上記ポリ(ピロール)類としては、例えば、ポリ(ピロール)、ポリ(アルキルピロール)類、ポリ(モノアルコキシピロール)類、ポリ(ジアルコキシピロール)類、ポリ(アルキレンジオキシピロール)類等が挙げられる。
【0046】
上記ポリ(アルキルピロール)類は、例えば、ポリ(3-メチルピロール)、ポリ(3-エチルピロール)、ポリ(3-プロピルピロール)、ポリ(3-ブチルピロール)、ポリ(3-ヘキシルピロール)、ポリ(3-ヘプチルピロール)、ポリ(3-オクチルピロール)、ポリ(3-デシルピロール)、ポリ(3-ドデシルピロール)、ポリ(3-オクタデシルピロール)、ポリ(3,4-ジメチルピロール)、ポリ(3,4-ジブチルピロール)等が挙げられる。また、上記ポリ(モノアルコキシピロール)類としては、ポリ(3-メトキシピロール)、ポリ(3-エトキシピロール)、ポリ(3-ブトキシピロール)、ポリ(3-ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3-ヘプチルオキシピロール)、ポリ(3-オクチルオキシピロール)、ポリ(3-デシルオキシピロール)、ポリ(3-ドデシルオキシピロール)、ポリ(3-オクタデシルオキシピロール)等が挙げられる。また、上記ポリ(ジアルコキシピロール)類としては、ポリ(3,4-ジメトキシピロール)、ポリ(3,4-ジエトキシピロール)、ポリ(3,4-ジプロポキシピロール)、ポリ(3,4-ジブトキシピロール)、ポリ(3,4-ジヘキシルオキシピロール)、ポリ(3,4-ジヘプチルオキシピロール)、ポリ(3,4-ジオクチルオキシピロール)、ポリ(3,4-ジデシルオキシピロール)、ポリ(3,4-ジドデシルオキシピロール)等が挙げられる。また、上記ポリ(アルキレンジオキシピロール)類としては、ポリ(3,4-エチレンジオキシピロール)、ポリ(3,4-プロピレンジオキシピロール)、ポリ(3,4-ブテンジオキシピロール)等が挙げられる。
【0047】
上記ポリ(アニリン)類は、例えば、ポリ(アニリン)、ポリ(2-メチルアニリン)、ポリ(3-イソブチルアニリン)、ポリ(2-アニリンスルホン酸)、ポリ(3-アニリンスルホン酸)等が挙げられる。
【0048】
上記ドーパントとしては、例えば、ルイス酸(PF5、AsF5、SbF5等)、プロトン酸(HF、HCl、H2SO4、パラトルエンスルホン酸等)、電解質アニオン(Cl-、Br-、スルホアニオン等)、アニオン性ポリマー等が挙げられる。
【0049】
上記アニオン性ポリマーは、例えば、ポリスチレンスルホン酸(以下、PSSという)、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリル酸エチルスルホン酸、ポリアクリル酸ブチルスルホン酸、ポリ-2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、ポリイソプレンスルホン酸、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリルカルボン酸、ポリメタクリルカルボン酸、ポリ-2-アクリルアミド-2-メチルプロパンカルボン酸、およびポリイソプレンカルボン酸、ポリアクリル酸、ならびにそれらの塩類からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0050】
(D)成分は、帯電防止性に優れる点から、ポリ(チオフェン)類および/またはポリ(アニリン)類が好ましく、ポリ(チオフェン)類がより好ましい。ポリ(チオフェン)類としては、入手の容易性等を考慮して、PSSでドープされたポリ(アルキレンジオキシチオフェン)(特にポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(以下、PEDOTという))が特に好ましい。ポリ(アニリン)類としては、入手の容易性等を考慮して、ポリ(2-アニリンスルホン酸)、ポリ(3-アニリンスルホン酸)が特に好ましい。
【0051】
なお、PSSでドープされたPEDOTは、例えば、モノマーである3,4-エチレンジオキシチオフェン(EDOT)を、水相中、ドーパントとしてのPSSの存在下、酸化剤を用いて重合することにより、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との錯体(PEDOT/PSS)の水分散液として得ることができる。
【0052】
上記PEDOT/PSSの水溶液は市販品も使用でき、例えば、Baytron P(Starck社製)、Clevios P(Heraeus社製)、Orgacon ICP1010(日本アグファ・ゲバルト(株)製)等が挙げられる。
【0053】
なお、本発明の効果を損なわない限りにおいて、非へテロ原子系導電性高分子ポリマー、例えば、ポリ(アセチレン)類、ポリ(フェニレン)類、ポリ(フェニレンビニレン)類、ポリ(アセン)類等を併用することもできる。
【0054】
本発明の水系コーティング剤組成物は、固形分換算で、(A)成分100重量部に対して、(B)成分を0.1~150重量部、(C)成分を1~30重量部、及び(D)成分を1~40重量部含有するものが好ましい。これにより、水系コーティング剤組成物からなる硬化膜の硬化性、離型性及び耐溶剤性、並びに、水系コーティング剤組成物の液安定性とのバランスをとることができる。より好ましくは、固形分換算で、(A)成分100重量部に対して、(B)成分を0.5~100重量部、(C)成分を2~25重量部及び(D)成分を2~30重量部含有するものである。さらに好ましくは、固形分換算で、(A)成分100重量部に対して、(B)成分を1~50重量部、(C)成分を3~20重量部及び(D)成分を5~30重量部含有するものである。
【0055】
本発明の水系コーティング剤組成物は、水系溶媒を含有する。当該水系溶媒は、水のみ、又は、親水性の有機溶剤と水との混合物を意味する。
【0056】
上記の水としては、特に限定されないが、例えば、蒸留水、イオン交換水及びイオン交換蒸留水等が挙げられる。また、当該水には、(D)成分及び他成分に含有される水分も含まれる。水系溶媒における水の含有量は、特に限定されないが、液安定性に優れる点で、水系溶媒100重量%に対して10~100重量%程度であるのが好ましく、15~90重量%程度であるのがより好ましく、20~85重量%程度であるのがさらに好ましく、30~70重量%程度であるのが特に好ましい。
【0057】
上記親水性の有機溶剤は、水に可溶する有機溶剤であれば特に限定されない。親水性の有機溶剤は、例えば、(A)~(C)成分等を均一に溶解又は分散させうるものが挙げられる。具体的には、例えば、メタノール、エタノール、2 - プロパノール、1 - プロパノール等のアルコール類; エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等のグリコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル等のグリコールエーテル類; エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のグリコールエーテルアセテート類;テトラヒドロフラン、アセトン、アセトニトリル、及び、これらの混和物等が挙げられる。
【0058】
上記水系溶媒の含有量は、特に制限されないが、通常、本発明の水系コーティング剤組成物の固形分濃度が0.1~50重量%程度となる範囲で含有することが好ましく、0.5~30重量%程度となる範囲で含有することがより好ましい。かかる数値範囲であることにより、液安定性等が良好となる。
【0059】
本発明の水系コーティング剤組成物には、本発明の効果を損なわない限りにおいて、さらに塩基性化合物(E)(以下、(E)ともいう)を含めてよい。(E)成分は、当該コーティング剤組成物の液安定性をより向上させる。(E)成分は、塩基性化合物であれば、特に限定されない。(E)成分は、例えば、アンモニア、第1級~3級アミン類、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等が挙げられる。(E)成分は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。(E)成分は、耐溶剤性が良好な硬化膜が得られる点から、アンモニアや第1級~3級アミン類が好ましく、アンモニアやトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等の第3級アミン類がより好ましい。
【0060】
本発明の水系コーティング剤組成物における(E)成分の含有量は、特に限定されない。(E)成分の含有量は、液安定性及び耐溶剤性が両立できる点から、固形分換算で、(D)成分100重量部に対して、10~500重量部であるのが好ましい。
【0061】
本発明の水系コーティング剤組成物には、上記成分以外に、本発明の効果を損なわない限りにおいて、必要に応じて各種公知の添加剤、例えば、バインダー、消泡剤、防腐剤、防錆剤、硬化剤、pH調整剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、顔料、染料、滑剤、レベリング剤、ブロッキング防止剤、導電性向上剤等を配合できる。
【0062】
上記バインダーは、特に限定されない。当該バインダーは、(A)成分との反応が可能な点から、1分子中に水酸基を2つ以上有するポリオールが好ましい。当該バインダーは、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、アクリルポリオール、ウレタンポリオール及びポリオレフィンポリオール等のポリマーポリオール、トリメチロールプロパンなどの低分子ポリオールが挙げられる。当該バインダーは、単独でも2種以上を組み合わせても良い。当該バインダーは、液安定性の点から、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、アクリルポリオール、ウレタンポリオールが好ましい。なお、当該バインダーは、(B)成分とは異なるものである。
【0063】
本発明の水系コーティング剤組成物において、(A)成分と上記バインダーとの含有比率は、特に限定されないが、速硬化性及び硬化膜の耐溶剤性が両立できる点から、バインダーに対する(A)成分の重量比[(A)/バインダー]が、固形分換算で、99/1~50/50程度が好ましく、95/5~60/40程度がより好ましい。
【0064】
上記導電性向上剤としては、特に限定されない。当該導電性向上剤は、水系コーティング剤組成物からなる硬化膜の帯電防止機能を向上させる。当該導電性向上剤は、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、N-メチルホルムアミド、N-ジメチルホルムアミド、2-ピロリドン等が挙げられ、二種以上を併用しても良い。導電性向上剤は、帯電防止機能の向上の点から、N-メチルピロリドン、2-ピロリドン、ジメチルスルホキシドが好ましい。なお、導電性向上剤と上記親水性の有機溶剤は、同じものを用いてもよい。
【0065】
上記導電性向上剤の含有量は、特に限定されないが、コーティング剤中に0.1~20重量%程度が好ましい。
【0066】
本発明の水系コーティング剤組成物の製造方法は、特に限定されないが、上記の各成分を混合する方法が挙げられる。各成分の混合順序としては、特に限定されず、どの成分から混合してもよい。また、混合方法も特に限定されず、撹拌等の各種公知の方法を用いることができる。
【0067】
本発明の帯電防止離型フィルムは、本発明の水系コーティング剤組成物の硬化膜及びプラスチックフィルムを含む物品である。本発明の帯電防止離型フィルムは、各種公知のプラスチックフィルムに当該コーティング剤組成物を塗工し、加熱又は乾燥するなどして硬化させることにより得られる。
【0068】
上記プラスチックフィルムとしては、例えば、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド、ポリオレフィン、ナイロン、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、トリアセチルセルロース樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、ノルボルネン系樹脂等のプラスチックからなるフィルムが挙げられる。当該プラスチックフィルムは表面処理(コロナ放電等)がされたものであってよい。これらの中でも透明性、寸法安定性、機械的特性、耐薬品性等の性能の点でポリエチレンテレフタレートが好ましい。これらプラスチックフィルムは、その片面あるいは両面に、本発明のコーティング剤組成物以外のコーティング剤による層が設けられていてもよい。
【0069】
上記の硬化膜(帯電防止離型層)は、本発明の水系コーティング剤組成物を、各種基材上に、硬化後の重量が0.01~10g/m2程度、好ましくは0.05~5g/m2程度になるように塗工し、加熱、乾燥等させたものである。
【0070】
塗工方法は特に限定されず、各種公知の手段による。具体的には、例えば、ロールコーター、リバースロールコーター、グラビアコーター、ナイフコーター、バーコーター等が挙げられる。
【0071】
上記の加熱、乾燥条件は特に限定されないが、本発明の水系コーティング剤組成物は、通常100℃~160℃程度及び30秒~2分程度で硬化する。
【0072】
本発明の帯電防止離型フィルムの用途としては、例えば、セラミックグリーンシート、合成皮革、炭素繊維プリプレグ、プリント基板等の製造工程用帯電防止離型フィルムや、転写印刷関連製品に用いる帯電防止離型フィルム、偏光板乃至位相差板等の粘着フィルムの粘着層への保護に用いる帯電防止離型フィルム等が挙げられる。
【実施例】
【0073】
以下、実施例及び比較例をあげて本発明を更に詳しく説明するが、本発明がこれらに限定されるものではない。なお、各実施例及び比較例において、部又は%は重量基準である。
【0074】
実施例1
(A)成分としてニカラックMX-035(イミノ・メチロール型メチル化メラミン樹脂 固形分濃度70% (株)三和ケミカル製)(以下、(A1)成分とする)を11.4重量部、(B)成分としてBYK-SILCLEAN 3720(水酸基含有ポリエーテル変性シリコーン 固形分濃度25% ビックケミー・ジャパン(株)製)(以下、(B1)成分とする)を8重量部、(C)成分としてAP-8(オクチルアシッドホスフェート 固形分濃度100% 大八化学工業(株)製)(以下、(C1)成分とする)を1重量部、(D)成分としてアクアパス-01x(ポリアニリンスルホン酸 固形分濃度5%の水分散液 三菱ケミカル(株)製)(以下、(D1)成分とする)を40重量部配合し、これを水550重量部、イソプロピルアルコール550重量部で希釈して固形分濃度が1%になるように調製し、水系帯電防止離型コーティング剤組成物(以下、コーティング剤ともいう)を得た。
【0075】
実施例2
(A1)成分を13.6重量部、(B1)成分を2重量部、(C1)成分を1重量部、(D)成分としてORGACON ICP1010(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との複合体 固形分濃度1.2%の水分散液 日本アグフアマテリアルズ(株)製)(以下、(D2)成分とする)を83.3重量部、(E)成分としてトリエチルアミンを0.7重量部配合し、これを水550重量部、イソプロピルアルコール550重量部で希釈して固形分濃度が1%になるように調製し、コーティング剤を得た。
【0076】
実施例3
実施例2において、(A1)成分を13.9重量部、(B1)成分を4重量部に変更して、コーティング剤を得た。
【0077】
実施例4
実施例2において、(A1)成分を11.4重量部、(B1)成分を8重量部に変更して、コーティング剤を得た。
【0078】
実施例5
実施例2において、(A1)成分を10重量部、(B1)成分を12重量部に変更して、コーティング剤を得た。
【0079】
実施例6
実施例2において、(A1)成分を7.1重量部、(B1)成分を20重量部に変更して、コーティング剤を得た。
【0080】
実施例7
実施例2において、(A1)成分を11.4重量部、(B)成分としてBYK377(水酸基含有ポリエーテル変性シリコーン 固形分濃度100% ビックケミー・ジャパン(株)製)(以下、(B2)成分とする)を2重量部に変更して、コーティング剤を得た。
【0081】
実施例8
実施例2において、(A1)成分を10重量部、(B)成分としてサイマックUS-480(水酸基含有シリコーン変性アクリル樹脂 固形分濃度25% 東亞合成(株)製)(以下、(B3)成分とする)を12重量部に変更して、コーティング剤を得た。
【0082】
実施例9
実施例2において、(A)成分としてサイメル303LF(フルエーテル型メチル化メラミン樹脂 固形分濃度100% オルネクスジャパン(株)製)(以下、(A2)成分とする)を8重量部、(B1)成分を8重量部、(C)成分としてパラトルエンスルホン酸(以下、(C2)成分とする)を0.5重量部、(E)成分を0.5重量部に変更して、コーティング剤を得た。
【0083】
実施例10
実施例4において、(A)成分としてニカラックMX-730(イミノ型メチル化メラミン樹脂 固形分濃度80% (株)三和ケミカル製)(以下、(A3)成分とする)を10重量部に変更して、コーティング剤を得た。
【0084】
実施例11
(A1)成分を11.4重量部、(B1)成分を8重量部、(C1)成分を1重量部、(D2)成分を83.3重量部、(E)成分としてトリエチルアミンを0.7重量部、導電性向上剤としてN-メチルピロリドンを8重量部配合し、これを水550重量部、イソプロピルアルコール550重量部で希釈して固形分濃度が1%になるように調製し、コーティング剤を得た。
【0085】
実施例12
実施例11において、(D2)成分を41.7重量部に変更して、コーティング剤を得た。
【0086】
実施例13
(A1)成分を10.7重量部、(B1)成分を4重量部、(C1)成分を1重量部、(D2)成分を83.3重量部、(E)成分としてトリエチルアミンを0.7重量部、バインダーとしてアデカポリエーテルGM-30(ポリエーテルポリオール 固形分濃度100% (株)ADEKA製)を2.5重量部配合し、これを水550重量部、イソプロピルアルコール550重量部で希釈して固形分濃度が1%になるように調製し、コーティング剤を得た。
【0087】
実施例14
実施例9において、(A)成分としてサイメル370N(メチロール型メチル化メラミン樹脂 固形分濃度88% (株)三和ケミカル製)(以下、(A4)成分とする)を9重量部に変更して、コーティング剤を得た。
【0088】
比較例1
(A2)成分を9重量部、(B2)成分を1重量部、(C2)成分を0.5重量部配合し、これを水550重量部、イソプロピルアルコール550重量部で希釈して固形分濃度が1%になるように調製し、コーティング剤を得た。
【0089】
比較例2
実施例4において、(C)成分を使用せずに、コーティング剤を得た。
【0090】
比較例3
実施例7において、BYK377からBYK-378(水酸基を含まないポリエーテル変性シリコーン 固形分濃度100% ビックケミー・ジャパン(株)製)(以下、(B’1)成分とする)2重量部に変更して、コーティング剤を得た。
【0091】
比較例4
実施例9において、希釈する溶媒を、水及びイソプロピルアルコールからメチルエチルケトン1100重量部に変更して、コーティング剤を得た。
【0092】
(液安定性)
実施例1のコーティング剤を温度23℃、湿度50%の環境下で保管し、経時での液の状態変化を観察することで、コーティング剤の液安定性を評価した。他の実施例及び比較例に係るコーティング剤についても同様にして液安定性を評価した。
○:混合直後から1日後も変化なく、凝集物の発生なし。
×:混合直後から1日後の間に分散不良、あるいは溶解不良により凝集物が発生する。
【0093】
<帯電防止離型フィルムの作製>
実施例1のコーティング剤を、ポリエチレンテレフタレートフィルム(膜厚50μm 東レ(株)製 「ルミラーT60」)に硬化膜0.1μmになるように塗工し、150℃で1分乾燥させることによって、帯電防止離型フィルムを得た。他の実施例及び比較例のコーティング剤についても、同様にして帯電防止離型フィルムを得た。
【0094】
(耐溶剤性)
実施例1に係る帯電防止離型フィルムの硬化膜を、メチルエチルケトンに浸した綿棒で擦り、基材が露出するまでの往復回数を測定することによって、該硬化膜の耐溶剤性を評価した。他の実施例及び比較例に係る帯電防止離型フィルムについても同様にして耐溶剤性を評価した。
○:50回以上擦っても基材フィルム(ポリエチレンテレフタレートフィルム)の表面が露出しない。
△:10~49回擦った際に基材フィルムの表面が露出する。
×:1~9回擦った際に基材フィルムの表面が露出する。
【0095】
(剥離力)
実施例1に係る帯電防止離型フィルムの硬化膜に、ポリエステル粘着テープ(日東電工(株)製31Bテープ:25mm幅)を2kgのローラーで圧着させながら貼り合わせ、23℃で1時間間保管した。次いで、このテープを180°の角度で離型速度0.3m/min.で引っ張り、剥離するために要した力(N/25mm)を測定した。他の実施例及び比較例に係る帯電防止離型フィルムについても同様にして剥離力を測定した。
【0096】
(表面抵抗率)
実施例1に係る帯電防止離型フィルムの塗工面の表面抵抗率(Ω/□)を、JIS K6911に準拠して、抵抗率計((株)三菱ケミカルアナリテック製 「ハイレスターUP MCP-HT450」)を用いて、印加電圧100Vで、温度23℃、湿度50%の環境下での表面抵抗率(Ω/□)をそれぞれ測定した。他の実施例及び比較例に係る帯電防止離型フィルムについても同様にして表面抵抗率を測定した。
【0097】
(防汚性)
実施例1に係る帯電防止離型フィルムの硬化膜に、油性マーカー(ZEBRA(株)製、「マッキー(赤)」)を用いて線を書き、乾燥させた後、乾燥した不織布(旭化成(株)製、「ベンコットM-3II」)で拭き取ることにより、該硬化膜の防汚性を評価した。評価基準は以下のとおりである。他の実施例及び比較例に係る帯電防止離型フィルムについても同様にして防汚性を評価した。
○:拭き取り跡が無い
×:拭き取り不可
【0098】
【0099】
【0100】
表1、2中の注釈及び略語は、以下の通りである。
(1)耐溶剤性が悪かったので、剥離力及び表面抵抗率の評価はしなかった。
(2)コーティング剤が分散不良となって液安定性が悪くなり、基材フィルムに塗工出来なかった。
(化合物の略語及び詳細)
TEA:トリエチルアミン
NMP:N-メチルピロリドン
GM-30:アデカポリエーテルGM-30(ポリエーテルポリオール (株)ADEKA製)