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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C09J 167/00 20060101AFI20220802BHJP
   C09J 175/04 20060101ALI20220802BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20220802BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20220802BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
C09J167/00
C09J175/04
C09J11/06
B32B27/36
B32B27/40
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019530560
(86)(22)【出願日】2018-07-18
(86)【国際出願番号】 JP2018026848
(87)【国際公開番号】W WO2019017366
(87)【国際公開日】2019-01-24
【審査請求日】2021-06-24
(31)【優先権主張番号】P 2017140040
(32)【優先日】2017-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】足立 裕子
【審査官】本多 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開平2-16180(JP,A)
【文献】特開平2-279783(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均分子量が5000~40000、ガラス転移温度が20℃以下、酸価が5~400当量/10gである非晶性ポリエステル樹脂(A)と、数平均分子量が5000~60000、ガラス転移温度が50℃以上である非晶性ポリウレタン樹脂(B)、およびポリイソシアネート(C)を含む接着剤組成物。
【請求項2】
非晶性ポリエステル樹脂(A)は、樹脂末端にカルボキシル基が2個以上有するものである請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
非晶性ポリエステル樹脂(A)と非晶性ポリウレタン樹脂(B)の配合比が、非晶性ポリエステル樹脂(A)100質量部に対し、非晶性ポリウレタン樹脂(B)が5質量部以上70質量部以下である請求項1または2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の接着剤組成物からなる接着剤層とプラスチックフィルムとを積層した積層体。
【請求項5】
請求項4に記載の積層体の接着剤層の面に樹脂を積層した積層体。
【請求項6】
請求項5に記載の積層体の一部に研磨層を備える研磨パッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着性、塗工性、耐溶剤性に優れる接着剤組成物に関する。詳しくは、湿式フィルム積層シート及びこれを用いてなる研磨パッドに関するものであり、より詳しくは、ポリエステルフィルム上にウレタン多孔質層を積層した湿式フィルム積層シート、及びその表皮層を除去することにより得られる、液晶ガラス、ガラスディスク、ホトマスク、シリコンウエハー、CCDカバーグラス等の電子部品表面精密研磨に適した研磨パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルム上に、湿式凝固させたウレタンの蜂窩状多孔質フィルム(以下、これを湿式フィルムという)を積層した湿式フィルム積層シートは、従来より電子部品の表面精密研磨用の研磨パッド等に使用されている。
【0003】
従来は、上記のような湿式フィルム積層シートは、ポリエステルフィルムの上に、ポリウレタンプレポリマーの溶液を塗布し、湿式フィルムを形成させたのち、このフィルムをポリエステルフィルムより剥離して、別のポリエステルフィルム上に接着剤を用いて貼付することにより得ていた。また、研磨パッドを形成する場合は、この湿式フィルムの表皮層を、予め、研削や研磨等により除去して表面スエード状のフィルムにしてから別のポリエステルフィルム上に貼付していた。上記のように、湿式フィルムをポリエステルフィルムから一旦剥離して、別のポリエステルフィルムに接着剤で貼付するのは、従来のポリエステルフィルムと湿式フィルムとは、相互の接着性に乏しく、接着剤なしでそのまま研磨パッド等として使用することができなかったためである。しかしながら、上記の方法では湿式フィルムをポリエステルフィルムから剥離する際に、湿式フィルムの変形を生じ易く、時には破れや切断が発生するという問題があった。従って、使用するポリウレタンの種類が制限され、湿式フィルムの厚さも制限されていた。また、精密研磨を行うための研磨パッドには、平坦度(表面の凹凸)の精度が要求され、近年、精密研磨面の測定機器の発達とあいまって、ユーザーからの要求品質が高くなり、ますます精度の高い研磨パットが必要になってきているが、上記のようにポリエステルフィルム上に接着剤を用いて湿式フィルムを貼付すると、接着剤の凹凸による影響が湿式フィルム表面に生じて平坦度の精度が悪くなるという問題もあった。
【0004】
湿式フィルムをポリエステルフィルムから一旦剥離して、別のポリエステルフィルムに貼付するという工程なしに得られ、研磨パッドとして使用したときに高い精度が実現できる湿式フィルム積層シートも提供されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3723897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記方法では、基材フィルムが限定されており、さらに易接着水性塗液を塗布した後、再延伸、熱固定が必要といった問題があった。
【0007】
本発明は、ウレタン多孔質層と基材フィルムとを良好に接着する接着性、塗工性、および耐溶剤性に優れる接着剤組成物である。本発明の接着剤組成物は、基材フィルムを選ばず、上記のように湿式フィルムをポリエステルフィルムから一旦剥離して、別のポリエステルフィルムに貼付するという工程なしに湿式フィルム積層シートおよび研磨パッドを得ることができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明は以下の構成からなる。
【0009】
数平均分子量が5000~40000、ガラス転移温度が20℃以下、酸価が5~400当量/10gである非晶性ポリエステル樹脂(A)と、数平均分子量が5000~60000、ガラス転移温度が50℃以上である非晶性ポリウレタン樹脂(B)、およびポリイソシアネート(C)を含む接着剤組成物。
【0010】
非晶性ポリエステル樹脂(A)は、樹脂末端にカルボキシル基が2個以上有するものであることが好ましく、非晶性ポリエステル樹脂(A)と非晶性ポリウレタン樹脂(B)の配合比が、非晶性ポリエステル樹脂(A)100質量部に対し、非晶性ポリウレタン樹脂(B)が5質量部以上70質量部以下であることが好ましい。
【0011】
前記接着剤組成物からなる接着剤層とプラスチックフィルムとを積層した積層体。さらに前記接着剤層の面に樹脂を積層した積層体。前記積層体の一部に研磨層を備える研磨パッド。
【発明の効果】
【0012】
本発明の接着剤組成物は、ウレタン多孔質層と基材フィルムとの接着性に優れ、また塗工性および耐溶剤性にも優れる。さらに、本発明の接着剤組成物は、基材フィルムを選ばず、湿式フィルムをポリエステルフィルムから一旦剥離して、別のポリエステルフィルムに貼付するという工程なしに湿式フィルム積層シートおよび研磨パッドを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<非晶性ポリエステル樹脂(A)>
本発明に用いられる非晶性ポリエステル樹脂(A)は、多価カルボン酸成分と多価アルコール成分を共重合成分とするポリエステルであることが好ましく、ジカルボン酸成分とグリコール成分を共重合成分とすることがより好ましい。
【0014】
非晶性ポリエステル樹脂(A)を構成するジカルボン酸成分としては、特に限定されないが、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸または脂環族ジカルボン酸が挙げられ、特に芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸を併用することが好ましい。
【0015】
芳香族ジカルボン酸の共重合量は、カルボン酸成分の合計量を100モル%とした場合、50モル%以上が好ましく、より好ましくは60モル%以上である。少なすぎると耐湿熱性が低下することがある。また、90モル%以下が好ましく、80モル%以下がより好ましい。多すぎると基材への接着性が低下することがある。
【0016】
芳香族ジカルボン酸の具体例としては、特に限定されないが、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、1,5-ナフタル酸、2,6-ナフタル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、2,2’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸等が挙げられ、これらを単独でまたは2種以上併用して使用することができる。特にこのうちのテレフタル酸、イソフタル酸を用いることが、耐湿熱性の観点から好ましい。
【0017】
脂肪族ジカルボン酸としては、特に限定されないが、炭素数4以上18以下の脂肪族ジカルボン酸を使用することが好ましい。脂肪族ジカルボン酸のより好ましい炭素数は5以上であり、さらに好ましくは炭素数6以上である。また、炭素数10以下がより好ましい。脂肪族ジカルボン酸の共重合量は、カルボン酸成分の合計量を100モル%とした場合、50モル%以下が好ましく、より好ましくは40モル%以下である。多すぎると耐湿熱性が低下することがある。また、10モル%以上が好ましく、より好ましくは20モル%以上である。少なすぎると基材への接着性が低下することがある。
【0018】
脂肪族ジカルボン酸の具体例としては、特に限定されないが、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、オクタデカンジオン酸等が挙げられ、これらを単独でまたは2種以上併用して使用することができる。特にこのうちのアジピン酸、セバシン酸を用いることが、入手性の観点から好ましい。
【0019】
脂環族ジカルボン酸の共重合量は、カルボン酸成分の合計量を100モル%とした場合、50モル%以下が好ましく、より好ましくは40モル%以下であり、さらに好ましくは30モル%以下であり、特に好ましくは20モル%以下であり、最も好ましくは10モル%以下であり、0モル%であっても差し支えない。多すぎると耐湿熱性に優れたポリエステル樹脂を得られないことがある。脂環族ジカルボン酸の具体例としては、特に限定されないが、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、4-メチル-1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸等が挙げられ、これらを単独でまたは2種以上併用して使用することができる。特にこのうちの1,4-シクロヘキサンジカルボン酸を用いることが、入手性の観点から好ましい。
【0020】
非晶性ポリエステル樹脂(A)には、酸価や分岐を付与する目的で無水多価カルボン酸を使用することが好ましい。より好ましくは3価以上の無水多価カルボン酸である。酸価や分岐を付与することによって、ポリイソシアネート(C)との反応性が向上し、基材フィルムへの接着性を向上させることが期待できる。無水多価カルボン酸としては、特に限定されないが、無水フタル酸、無水ピロメリット酸、無水トリメリット酸、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、グリセロールトリスアンヒドロトリメリテート等の芳香族無水多価カルボン酸;無水フマル酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水イタコン酸、ドデセニル無水コハク酸等の脂肪族無水多価カルボン酸;ヘキサヒドロ無水フタル酸、4-メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等の脂環族無水多価カルボン酸を挙げることができる。これらを単独でまたは2種以上を併用して使用することができる。
【0021】
前記無水多価カルボン酸のうち、芳香族無水多価カルボン酸が脂肪族無水多価カルボン酸や脂環族無水多価カルボン酸に比べてより酸価や分岐付与効果が高いため好ましい。なかでも無水トリメリット酸、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、グリセロールトリスアンヒドロトリメリテートが好ましく、入手性の観点から無水トリメリット酸がより好ましい。
【0022】
分岐の付与方法としては、特に限定されないが、3官能以上の無水多価カルボン酸を非晶性ポリエステル樹脂(A)の共重合成分として、他の多価カルボン酸や多価アルコールとともに脱水エステル化工程を経て重合する方法がある。無水多価カルボン酸の共重合量は、非晶性ポリエステル樹脂(A)のカルボン酸成分の合計量を100モル%とした場合、0.1モル%以上であることが好ましく、より好ましくは0.5モル%以上である。少なすぎると分岐の付与が不十分となることがある。また、5モル%以下であることが好ましく、2モル%以下であることがより好ましく、1モル%以下であることがさらに好ましい。多すぎると薄膜等の力学物性が低下することがあり、また重合中にゲル化を起こす可能性がある。
【0023】
酸価の付与方法としては、特に限定されないが、ジカルボン酸成分とグリコール成分でポリエステル樹脂(プレポリマー)を重合した後、続いて系内に3官能以上の無水多価カルボン物を投入し酸価を付与する方法が挙げられる。無水多価カルボン酸の共重合量は、ポリエステル樹脂(プレポリマー)のカルボン酸成分の合計量100モル%に対して、0.1モル%以上であることが好ましく、より好ましくは0.5モル%以上である。少なすぎると酸価が不十分となることがある。また、5モル%以下であることが好ましく、2モル%以下であることがより好ましく、1モル%以下であることがさらに好ましい。多すぎると薄膜等の力学物性が低下することがあり、また重合中にゲル化を起こす可能性がある。
【0024】
非晶性ポリエステル樹脂(A)の酸価は、5当量/10g以上であればよく、10当量/10g以上であることが好ましく、15当量/10g以上であることがさらに好ましい。少なすぎるとポリイソシアネート(C)との反応性が低下するため、接着性が低下することがある。一方、400当量/10g以下であることが必要であり、200当量/10g以下であることが好ましく、150当量/10g以下であることがより好ましく、130当量/10g以下であることがさらに好ましい。多すぎると加水分解が起きやすくなる。
【0025】
非晶性ポリエステル樹脂(A)は、該樹脂の末端にカルボキシル基が2個以上有するものであることが好ましい。非晶性ポリエステル樹脂(A)の末端にカルボキシル基が2個以上有することで、カルボキシル基が1個の場合に比べ、ポリイソシアネート(C)との反応性を向上させることができ、優れた接着性を発現することができる。
【0026】
本発明に用いる非晶性ポリエステル樹脂(A)を構成する多価アルコール成分としては、特に限定されないが、脂肪族グリコール、芳香族グリコールまたは脂環族グリコールが挙げられ、特に脂肪族グリコールを使用することが好ましい。
【0027】
脂肪族グリコールは、直鎖状の脂肪族グリコール、分岐状の脂肪族グリコールのいずれでもよい。脂肪族グリコールとしては、特に限定されないが、炭素数2以上12以下のグリコールが好ましい。脂肪族グリコールのより好ましい炭素数は3以上である。炭素数9以下が好ましく、炭素数8以下がより好ましく、炭素数7以下がさらに好ましく、炭素数6以下が特に好ましい。脂肪族グリコールの共重合量は、多価アルコール成分の合計量を100モル%とした場合、40モル%以上が好ましく、より好ましくは50モル%以上であり、さらに好ましくは60モル%以上であり、よりさらに好ましくは70モル%以上であり、特に好ましくは80モル%以上であり、最も好ましくは90モル%以上であり、100モル%であっても差し支えない。少なすぎるとポリエチレンテレフタレートフィルム(以下、PETフィルムともいう。)への接着性が低下することがある。
【0028】
脂肪族グリコールの具体例としては、特に限定されないが、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、メチルペンタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、ドデカンジオール等が挙げられ、これらを単独でまたは2種以上併用して使用することができる。特にこのうちのエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオールを用いることが好ましい。
【0029】
脂環族グリコールとしては、特に限定されないが、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、水添キシリレングリコール等が挙げられる。芳香族グリコールとしては、特に限定されないが、キシリレングリコール等が挙げられる。
【0030】
非晶性ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度(以下、Tgともいう)は20℃以下であることが必要である。好ましいガラス転移温度は14℃以下であり、より好ましくは13℃以下であり、さらに好ましくは12℃以下である。ガラス転移温度が高すぎると接着性が低下することがある。下限は特に限定されないが、好ましくは-10℃以上であり、より好ましくは-5℃以上である。
【0031】
本発明におけるガラス転移温度は示差走査型熱量計(SII社、DSC-200)により測定したものである。具体的には、サンプル(試料)約5mgをアルミニウム押え蓋型容器に入れ密封し、液体窒素を用いて-50℃まで冷却、次いで150℃まで20℃/分にて昇温させる。その過程にて得られる吸熱曲線において、吸熱ピークが出る前のベースラインと、吸熱ピークに向かう接線との交点の温度をもって、ガラス転移温度(Tg、単位:℃)とする。
【0032】
非晶性ポリエステル樹脂(A)の数平均分子量は5000以上であることが必要であり、6000以上であることが好ましく、7000以上であることがより好ましく、8000以上であることがさらに好ましく、10000以上であることが特に好ましい。また、40000以下であることが必要であり、35000以下であることが好ましく、30000以下であることがより好ましく、25000以下であることが特に好ましい。数平均分子量が5000より低いと、接着剤としての機械特性が不足し、ポリエチレンテレフタレートフィルム(以下、PETフィルムともいう。)等の基材への十分な接着性、加工性、耐湿熱性が得られないことがある。数平均分子量が40000より高いと、本接着剤を溶剤に溶解して使用する場合に、溶液粘度が高くなりすぎて、実使用できない等の問題が生じることがある。
【0033】
本発明に用いるポリエステル樹脂(A)は、非晶性のポリエステル樹脂である。非晶性であることで、結晶性に比べ安定的に各種有機溶剤に溶解することができる。また接着剤組成物を基材に塗布した後、ポリエステル樹脂の結晶化が起こらず、体積収縮による接着強度の低下を引き起こすこともない点で有利である。本発明で非晶性とは、示差走査型熱量計(DSC)を用いて、-100℃から300℃まで20℃/minで昇温し、次に-100℃まで50℃/minで降温し、続いて-100℃から300℃まで20℃/minで昇温する。二度の昇温過程においてどちらにも融解ピークを示さないものを指す。逆に結晶性とはどちらかの昇温過程に明確な融解ピークを示すものを指す。
【0034】
<非晶性ポリウレタン樹脂(B)>
本発明において用いられる非晶性ポリウレタン樹脂(B)は、共重合成分として、ジオール成分とジイソシアネート成分からなるものであることが好ましい。また、必要に応じて、例えばジアミン成分等を共重合しても問題ない。ジオール成分としてはポリエステルポリオールを主成分(50質量%以上)とするものであることが望ましい。アクリルポリオールやポリエーテルポリオール等を主成分とすることもできる。
【0035】
ポリエステルポリオールとしては、前記非晶性ポリエステル樹脂(A)を使用することができる。ポリエステルポリオールの酸成分としては、前記非晶性ポリエステル樹脂(A)で例示した芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸または脂環族ジカルボン酸が挙げられる。なかでも芳香族ジカルボン酸を使用することが好ましく、テレフタル酸および/またはイソフタル酸がより好ましい。
【0036】
芳香族ジカルボン酸の共重合量は、カルボン酸成分の合計量を100モル%とした場合、70モル%以上が好ましく、より好ましくは80モル%以上であり、さらに好ましくは90モル%以上であり、特に好ましくは95モル%以上であり、100モル%であっても差し支えない。少なすぎると耐湿熱性が低下することがある。
【0037】
ポリエステルポリオールのグリコール成分としては、前記非晶性ポリエステル樹脂(A)で例示した脂肪族グリコール、芳香族グリコールまたは脂環族グリコールが挙げられる。なかでも脂肪族グリコールを使用することが好ましく、エチレングリコールおよび/またはネオペンチルグリコールがより好ましい。
【0038】
脂肪族グリコールの共重合量は、多価アルコール成分の合計量を100モル%とした場合、70モル%以上が好ましく、より好ましくは80モル%以上であり、さらに好ましくは90モル%以上であり、特に好ましくは95モル%以上であり、100モル%であっても差し支えない。
【0039】
ジオール成分には必要に応じてポリエステルポリオール以外の低分子量成分が含まれていても全く問題ない。例えば、ジオール化合物としては1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、2,3-ブチレングリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,2-ジメチル-3-ヒドロキシプロピル-2’,2’-ジメチル-3-ヒドロキシプロパネート、2-ノルマルブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、3-エチル-1,5-ペンタンジオール、3-プロピル-1,5-ペンタンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、3-オクチル-1,5-ペンタンジオール、3-フェニル-1,5-ペンタンジオール、2,5-ジメチル-3-ナトリウムスルホ-2,5-ヘキサンジオール等が挙げられる。また1,2-プロパンジアミン、1,5-ペンタメチレンジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロへキサン、1,2-ジアミノシクロブタン、1,2-ジアミノシクロペンタン、1,2-ジアミノシクロヘプタンなどのようなジアミン化合物を用いることもできる。これら低分子量成分を1種または2種以上使用することができる。なかでもネオペンチルグリコールが好ましい。
【0040】
ジオール成分として、ポリエステルポリオールが50質量%以上含有することが好ましく、より好ましくは60質量%以上であり、さらに好ましくは70質量%以上である。少なすぎるとウレタン基濃度が高くなるため凝集力があがり、基材との密着性が悪くなることがある。また、99質量%以下であることが好ましく、より好ましくは98質量%以下である。多すぎるとウレタン基濃度が低くなり凝集力が低下して接着強度が低下することがある。
【0041】
ジオール成分として、前記非晶性ポリエステル樹脂(A)を用いる場合、無水多価カルボン酸による酸付加されていないものであることが好ましい。酸付加されていると、樹脂末端がカルボン酸基を有することになり、ジイソシアネート成分との反応性が低下することがある。
【0042】
非晶性ポリウレタン樹脂(B)に用いられるジイソシアネート成分としては、特に限定されず、芳香族ジイソシアネート成分、脂肪族ジイソシアネート成分または脂環族ジイソシアネート成分が挙げられる。芳香族ジイソシアネート成分としては、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ビフェニレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、2,6-ナフタレンジイソシアネート、4,4’-ジイソシアネートジフェニルエーテル、1,5-キシリレンジイソシアネート、またはo-トリジンジイソシアネート等が挙げられる。脂肪族ジイソシアネート成分としては、エチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアナート、または3,3’-ジメチルビフェニル-4,4’-ジイソシアネート等が挙げられる。脂環族ジイソシアネートとしては、1,3-ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、1,4-ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、イソホロンジイソシアネート等が挙げられる。これらを1種または2種以上使用することができる。なかでも芳香族ジイソシアネート成分が好ましく、ジフェニルメタンジイソシアネートがより好ましい。
【0043】
非晶性ポリウレタン樹脂(B)の数平均分子量は、5000以上であることが必要であり、6000以上であることが好ましく、7000以上であることがより好ましく、8000以上であることがさらに好ましく、10000以上であることが特に好ましい。また、60000以下であることが必要であり、50000以下であることが好ましい。数平均分子量が5000より低いと、接着剤としての機械特性が不足し、PETフィルム等の基材への十分な接着性、加工性、耐湿熱性が得られないことがある。数平均分子量が60000より高いと、本接着剤を溶剤に溶解して使用する場合に、溶液粘度が高くなりすぎて、実使用できない等の問題が生じることがある。
【0044】
非晶性ポリウレタン樹脂(B)のガラス転移温度は、50℃以上であることが必要である。より好ましいガラス転移温度は60℃以上であり、さらに好ましくは70℃以上である。ガラス転移温度が低すぎるとブロッキングを起こすことがある。また、150℃以下であることが好ましく、より好ましくは120℃以下であり、さらに好ましくは100℃以下である。ガラス転移温度が高すぎると有機溶剤に溶けなくなることがある。
【0045】
本発明に用いるポリウレタン樹脂(B)は、非晶性のポリウレタン樹脂である。非晶性であることで、結晶性に比べ安定的に各種有機溶剤に溶解することができる。また接着剤組成物を基材に塗布した後、ポリウレタン樹脂の結晶化が起こらず、体積収縮による接着強度の低下を引き起こすこともない点で有利である。本発明で非晶性とは、示差走査型熱量計(DSC)を用いて、-100℃から300℃まで20℃/minで昇温し、次に-100℃まで50℃/minで降温し、続いて-100℃から300℃まで20℃/minで昇温する。二度の昇温過程においてどちらにも融解ピークを示さないものを指す。逆に結晶性とはどちらかの昇温過程に明確な融解ピークを示すものを指す。
【0046】
本発明において用いられる非晶性ポリウレタン樹脂(B)は酸価があってもよい。本発明に用いる非晶性ポリウレタン樹脂(B)にカルボキシル基を導入する方法としては、末端に酸変性処理を施したポリエステルポリオールを用いて非晶性ポリウレタン樹脂を合成する方法や、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸等を鎖長延長剤として非晶性ポリウレタン樹脂を合成する方法が挙げられる。これらのうち、非晶性ポリウレタン樹脂の重合の際、適度の分子量に調整するためには後者の方が好ましい。
【0047】
非晶性ポリウレタン樹脂(B)の含有量は、非晶性ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して、5質量部以上であることが好ましく、より好ましくは10質量部以上であり、さらに好ましくは15質量部以上である。少なすぎるとブロッキングを起こすことがある。また、70質量部以下であることが好ましく、より好ましくは45質量部以下であり、さらに好ましくは40質量以下である。多すぎると接着性が低下することがある。
【0048】
<ポリイソシアネート(C)>
本発明に用いられるポリイソシアネート(C)は、分子内に2以上のイソシアネート基を有するものであれば、特に限定されないが、耐候性の観点から脂肪族ポリイソシアネートや脂環族ポリイソシアネートが好ましく、脂肪族ジイソシアネートまたは脂環族ジイソシアネートがより好ましい。ポリイソシアネート(C)の具体例としては、特に限定されないが、脂肪族ポリイソシアネートとしては、エチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(以下、HDIともいう)、またはテトラメチレンジイソシアナート等が挙げられる。脂環族ジイソシアネートとしては、1,3-ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、1,4-ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、またはイソホロンジイソシアネート等が挙げられる。さらにこれらを用いて多官能化した化合物、或いは、ジオール化合物に上記イソシアネートを用いて変性した化合物等が挙げられる。また、芳香族ジイソシアネートを使用することもできる。芳香族ジイソシアネートとしては、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ビフェニレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、2,6-ナフタレンジイソシアネート、3,3’-ジメチルビフェニル-4,4’-ジイソシアネート、4,4’-ジイソシアネートジフェニルエーテル、または1,5-キシリレンジイソシアネートが挙げられる。これらを単独でまたは2種以上を併用して使用することができる。なかでも脂肪族ポリイソシアネート化合物としてはヘキサメチレンジイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート化合物としてはイソホロンジイソシアネートを好適な例として挙げることができる。
【0049】
ポリイソシアネート(C)は、ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して、0.5質量部以上であることが好ましい。より好ましくは1質量部以上であり、さらに好ましくは1.5質量部以上であり、特に好ましくは2質量部以上である。また、20質量部以下であることが好ましく、より好ましくは19質量部以下であり、さらに好ましくは18質量部以下であり、特に好ましくは17質量部以下であり、最も好ましくは16質量部以下である。少なすぎると非晶性ポリエステル樹脂(A)と十分な反応をすることができず、耐溶剤性が低下することがある。多すぎると非晶性ポリウレタン樹脂(B)との接着性が低下することがある。
【0050】
<接着剤組成物>
本発明の接着剤組成物は、前記非晶性ポリエステル樹脂(A)、非晶性ポリウレタン樹脂(B)およびポリイソシアネート(C)を含有する組成物である。接着剤組成物には、本発明の特徴を損なわない範囲で添加剤として広く用いられているものを配合することができる。添加剤としては、特に限定されないが、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、シランカップリング剤、可塑剤、種々粘着性樹脂成分等の公知の添加剤を挙げることができ、これらを単独でまたは2種以上併用して含有させることができる。また、本発明の効果を損なわない範囲であれば、非晶性ポリエステル(A)とは異なるポリエステル樹脂や非晶性ポリウレタン樹脂(B)とは異なるポリウレタン樹脂を配合しても構わない。さらにポリオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等を配合しても構わない。
【0051】
また、反応性を制御するために硬化触媒も使用してもよい。触媒としては特に限定されないが、ポリイソシアネート硬化用触媒が好ましく、さらに好ましくは錫系又はアミン系のポリイソシアネート硬化用触媒が挙げられる。特に限定されないが、具体的には、例えば、ジブチルチンジアセテート、ジブチルチンジラウレート、ジブチルチンビスビスマレイン酸モノブチルエステル、ジオクチルチンビスビスマレイン酸モノブチルエステル、テトラブチルジアセトキシジスタノキサン等の錫系触媒;トリブチルアミン、トリエチレンジアミン、N’-メチル-N-(2-ジメチルアミノエチル)ピペラジン、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)-7-ウンデセン、1,5-ジアザビシクロ(4,3,0)-ノネン-5、6-ジブチルアミノ-1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)-7-ウンデセン,1,2-ジメチルイミダゾール等のアミン系触媒が挙げられる。特にフリーのポリイソシアネートと組み合わせる場合はこれらの3級アミン化合物をフェノール等により塩を形成させたものが好ましい。
【0052】
本発明の接着剤組成物は、有機溶剤を含有することでワニスにすることもできる。有機溶剤としては、前記非晶性ポリエステル樹脂(A)、非晶性ポリウレタン樹脂(B)およびポリイソシアネート(C)を溶解するものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン等の脂肪族系炭化水素、シクロヘキサン、シクロヘキセン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロへキサン等の脂環族炭化水素、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等の非プロトン性の極性溶媒、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、プロパンジオール、フェノール等のアルコール系溶剤、アセトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトンペンタノン、ヘキサノン、シクロヘキサノン、イソホロン、アセトフェノン等のケトン系溶剤、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、ギ酸ブチル等のエステル系溶剤を使用することができ、これら1種または2種以上を併用することができる。特に樹脂の溶解性の観点から非プロトン性の極性溶媒を一部に含むことが好ましい。非プロトン性の極性溶媒を含むことにより樹脂同士が溶剤に混ざりやすくなり、相溶性が上がることで、塗膜に筋が入りにくくなる。特にN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)が好ましい。
【0053】
有機溶剤は、非晶性ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して、50質量部以上であることが好ましく、より好ましくは80質量部以上であり、さらに好ましくは100質量部以上である。少なすぎると基材への塗布が困難となる場合がある。また、1000質量以下であることが好ましく、より好ましくは900質量部以下であり、さらに好ましくは800質量部以下である。多すぎると製造コストや輸送コストの面から不利となる場合がある。また、有機溶剤の一部に非プロトン性の極性溶媒を含むことが好ましく、非晶性ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して、10質量部以上であることが好ましく、より好ましくは15質量部以上である。また、100質量部以下であることが好ましく、より好ましくは70質量部以下である。
【0054】
<接着剤層>
本発明にかかる接着剤組成物を用いて接着剤層を作製することができる。本発明の接着剤層は、前記接着剤組成物を基材に塗布し、乾燥し、エージング等を行って硬化させた後の接着剤組成物の層をいう。接着剤層の好ましい膜厚は4μm以上であり、より好ましくは5μm以上である。薄すぎると接着剤としての効果が発現されないことがある。また、30μm以下が好ましく、より好ましくは25μm以下である。
【0055】
<積層体>
本発明の積層体は、前記接着剤層と基材1との2層の積層体(基材1/接着剤層)、または接着剤層の面に基材2を貼り合わせた3層の積層体(基材1/接着剤層/基材2)、さらに3層の積層体に2層の積層体を貼り合わせた積層体(基材1/接着剤層/基材2/接着剤層/基材3)をいう。
【0056】
本発明で使用することのできる基材1、基材2および基材3としては、特に限定されないが、金属、プラスチック、木、布または紙類が挙げられる。金属の素材としては、特に限定されないが、アルミニウム、SUS、銅、鉄、亜鉛等の各種金属、及びそれぞれの合金、めっき品等の金属板、金属箔または蒸着層等を例示することができる。プラスチックとしては、特に限定されないが、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、ポバールまたはポリウレタン等のプラスチックシートまたはプラスチックフィルムを例示することができる。布としては、特に限定されないが、綿、絹、麻の他、ポリエステル等の合成繊維等を例示することができる。紙類としては、特に限定されないが、上質紙、クラフト紙、ロール紙、グラシン紙等を例示することができる。前記基材1、基材2と基材3は同じ種類のものであってもよく、異なるものであってもよい。また、これらから選ばれる複数の基材を積層しても良い。
【0057】
本発明の接着剤組成物は、特に研磨パッド用途に好適である。研磨パッド用途の場合、基材1がプラスチックフィルムであることが好ましく、ポリエステルフィルムであることがより好ましい。研磨パッドは、ポリエステルフィルムに接着剤組成物を塗布し、乾燥し、エージング等により硬化させて、積層体を作製する。次いで、該積層体の接着剤層の面にポリウレタンプレポリマー溶液を塗布し、次いで湿式凝固、乾燥(湿式製膜)させることによりポリエステルフィルム上に多孔質のウレタン研磨層を有する研磨パッド(ポリエステルフィルム/接着剤層/多孔質のウレタン研磨層)を作製することができる。
【実施例
【0058】
以下、本発明を更に詳細に説明するため、実施例を挙げるが、本発明は実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例中に単に部とあるのは質量部を示す。
【0059】
<ポリエステル樹脂(A)の製造例(a-1)>
温度計、撹拌機、還流式冷却管および蒸留管を具備した反応容器にテレフタル酸49.8部、イソフタル酸49.8部、アジピン酸58.4部、エチレングリコール35.4部、ネオペンチルグリコール69.3部、1,4-ブタンジオール60.0部、触媒としてテトラ-n-ブチルチタネート(以下、TBTと略記する場合がある)を全酸成分に対して0.03モル%仕込み、160℃から240℃まで4時間かけて昇温しながらエステル交換反応を行った。次いで系内を徐々に減圧していき、20分かけて5mmHgまで減圧し、さらに0.3mmHg以下の真空下、260℃にて90分間重縮合反応を行った。窒素気流下、220℃まで冷却し、無水トリメリット酸を2部投入し、30分間反応を行い、ポリエステル樹脂(a-1)を得た。得られたポリエステル樹脂(a-1)の結果を表1に示す。
【0060】
<ポリエステル樹脂(a-2)~(a-11)の製造例>
ポリエステル樹脂(a-1)の製造例に準じて、但し、原料の種類と配合比率を変更して、ポリエステル樹脂(a-2)~(a-11)を製造した。結果を表1に示す。なお、数平均分子量50000の樹脂は、製造中にゲル化したため製造できなかった。
【0061】
【表1】
【0062】
1.ポリエステル樹脂(A)の組成
ポリエステル樹脂(A)の組成及び組成比の決定は共鳴周波数400MHzのH-NMR測定(プロトン型核磁気共鳴分光測定)にて行った。測定装置はVARIAN社製1H-NMR装置400-MRを用い、溶媒には重クロロホルムを用いた。
【0063】
2.ガラス転移温度(Tg)
示差走査型熱量計(SII社製、DSC-200)により測定した。サンプルは試料(ポリエステル樹脂またはポリウレタン樹脂)5mgをアルミニウム押え蓋型容器に入れて密封したものを用いた。まず、液体窒素を用いて-50℃まで試料を冷却し、次いで150℃まで20℃/分にて昇温した。この過程にて得られる吸熱曲線において、吸熱ピークが出る前のベースラインと、吸熱ピークに向かう接線との交点の温度をもって、ガラス転移温度(Tg、単位:℃)とした。
【0064】
3.酸価(AV)
試料(ポリエステル樹脂またはポリウレタン樹脂)0.2gを精秤しクロロホルム40mlに溶解し、0.01-Nの水酸化カリウムのエタノール溶液で滴定を行った。指示薬にはフェノールフタレインを用いた。測定値を試料10gあたりの当量に換算し、単位は当量/10gとした。
【0065】
4.数平均分子量(Mn)
試料(ポリエステル樹脂またはポリウレタン樹脂)を、樹脂濃度が0.5%程度となるようにテトラヒドロフランに溶解または希釈し、孔径0.5μmのポリ四フッ化エチレン製メンブランフィルターで濾過したものを測定用試料とした。測定用試料について、テトラヒドロフランを移動相とし示差屈折計を検出器とするゲル浸透クロマトグラフィーにより分子量を測定した。流速は1mL/分、カラム温度は30℃とした。カラムには昭和電工製KF-802、804L、806Lを用いた。分子量標準には単分散ポリスチレンを使用した。但し、測定用試料がテトラヒドロフランに溶解しない場合は、テトラヒドロフランに変えてN,N-ジメチルホルムアミドを用いた。数平均分子量1000未満の低分子化合物(オリゴマー等)はカウントせずに省いた。
【0066】
表1において、ポリエステル樹脂の共重合成分は下記の略号を用いて表した。
TPA:テレフタル酸残基
IPA:イソフタル酸残基
AA:アジピン酸残基
SA:セバシン酸残基
TMA:トリメリット酸残基
EG:エチレングリコール残基
2MG:2-メチル-1,3-プロパンジオール残基
NPG:ネオペンチルグリコール残基
BD:1,4-ブタンジオール残基
【0067】
<非晶性ポリウレタン樹脂(B)の合成例(b-1)>
撹拌機、温度計、ジムロートを装備した反応缶内に、ポリエステルポリオール(組成テレフタル酸/イソフタル酸//エチレングリコール/ネオペンチルグリコール=50/50//50/50モル比、数平均分子量2000、ガラス転移温度55℃)を220部、トルエンを200部仕込み、80℃まで昇温を行い、1時間かけて完全に溶解した。その後、メチルエチルケトン150部、ネオペンチルグリコール8部、1,6-ヘキサンジオール3部、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートを50部仕込み、80℃にて1時間撹拌を行った。その後、ジブチルチンジラウレートを0.1g仕込み、80℃にて10時間撹拌を行い、ウレタン化反応を行った。反応終了後、トルエン、メチルエチルケトンを仕込み希釈を行い、固形分濃度32質量%の目的とする非晶性ポリウレタン樹脂(B)の溶液を得た。このようにして得られた非晶性ポリウレタン樹脂(B)の特性値は、数平均分子量26000、ガラス転移温度は80℃、酸価は1当量/10g以下であった。
【0068】
<非晶性ポリウレタン樹脂(B)の合成例(b-2)>
撹拌機、温度計、ジムロートを装備した反応缶内に、ポリエステルポリオール(組成テレフタル酸/イソフタル酸//エチレングリコール/セバシン酸/ネオペンチルグリコール=50/45/5//50/50モル比、数平均分子量2000、ガラス転移温度55℃)を220部、トルエンを200部仕込み、80℃まで昇温を行い、1時間かけて完全に溶解した。その後、メチルエチルケトン150部、ネオペンチルグリコール8部、1,6-ヘキサンジオール3部、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートを50部仕込み、80℃にて1時間撹拌を行った。その後、ジブチルチンジラウレートを0.1g仕込み、80℃にて10時間撹拌を行い、ウレタン化反応を行った。反応終了後、トルエン、メチルエチルケトンを仕込み希釈を行い、固形分濃度32質量%の目的とする非晶性ポリウレタン樹脂(B)の溶液を得た。このようにして得られた非晶性ポリウレタン樹脂(B)の特性値は、数平均分子量42000、ガラス転移温度は60℃、酸価は1当量/106g以下であった。
【0069】
<実施例1>
温度計、撹拌機、還流式冷却管を具備した反応容器に、非晶性ポリエステル樹脂(a-1)70部、メチルエチルケトン20部、トルエン20部を仕込み溶解した。その後、非晶性ポリウレタン樹脂(b-1)溶液125部(固形30部)、DMF25部を仕込み溶解した。この溶液にポリイソシアネート(c-1)1部を添加し、接着剤組成物1を得た。結果を表2に示す。
【0070】
<実施例2~11、比較例1~5>
実施例1に準じて、但し、原料の種類と配合比率を変更して、接着剤組成物2~16を作製した。
表2、3において、ポリイソシアネート(C)は以下のものを用いた。
ポリイソシアネート(c-1):HDIイソシアヌレート体「日本ポリウレタン製 コロネート(登録商標)HX」
ポリイソシアネート(c-2):HDIアダクト体「日本ポリウレタン製 コロネート(登録商標)HL」
【0071】
【表2】
【0072】
【表3】
【0073】
5.塗工性の評価
厚さ50μmのPETフィルムに、接着剤組成物を乾燥後の膜厚が25μmとなるようにアプリケーターで塗布した。接着剤組成物をアプリケーターで塗布した際に筋が発生するか確認した。
評価基準
○:筋なし
△:うっすら筋あり
×:筋あり
【0074】
6. 耐ブロッキング性
厚さ50μmのPETフィルムに、接着剤組成物を乾燥後の膜厚が25μmとなるように塗布し、約120℃で約1分間乾燥させて試験用サンプルを作製した。試験用サンプルを2枚用意し、接着剤層同士を重ね、40℃30MPaで5分間プレスしたあと、ブロッキングの有無を確認した。
評価基準
○:ブロッキングなし
×:ブロッキングあり
【0075】
7.耐溶剤性
厚さ50μmのPETフィルムに、接着剤組成物を乾燥後の膜厚が25μmとなるように塗布した。その後、約120℃で約1分間乾燥し、溶剤を揮発させた。その後40℃で3日間エージングをおこなった。その接着剤層上にあらかじめ作製しておいたウレタンプレポリマー溶液を塗布し、湿式製膜を作製した。その断面を切り取り、目視にて剥がれがないか確認した。なお、ウレタンプレポリマー溶液は、ポリブチレンアジペートジオール/ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート/ジエチレングリコールを共重合成分とするウレタンプレポリマーのDMF溶液である。
評価基準
○:剥がれなし
△:一部剥がれあり
×:すべて剥がれる
【0076】
8.接着強度
厚さ50μmのPETフィルムに、接着剤組成物を乾燥後の膜厚が25μmとなるように塗布した。その後、約120℃で約1分間乾燥し、溶剤を揮発させた。その後40℃で3日間エージングをおこなった。その接着剤層上にあらかじめ作製しておいたウレタンプレポリマー溶液を乾燥後の膜厚が25μmとなるように湿式製膜にて積層した。このとき、一部剥がし代を作製した。次いで、接着強度を測定した。1kgf/inch以上の強度を示すものが接着強度良好である。