(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】ガラス基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20220802BHJP
【FI】
H01L21/68 N
(21)【出願番号】P 2019543579
(86)(22)【出願日】2018-09-12
(86)【国際出願番号】 JP2018033743
(87)【国際公開番号】W WO2019059057
(87)【国際公開日】2019-03-28
【審査請求日】2021-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2017180180
(32)【優先日】2017-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168550
【氏名又は名称】友廣 真一
(72)【発明者】
【氏名】岡 隆雄
(72)【発明者】
【氏名】饗場 久敏
(72)【発明者】
【氏名】江田 道治
【審査官】齋藤 正貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-213131(JP,A)
【文献】特開2016-224430(JP,A)
【文献】特開2014-175420(JP,A)
【文献】特開2015-035562(JP,A)
【文献】特開2014-189350(JP,A)
【文献】特開2011-146457(JP,A)
【文献】特開2015-228487(JP,A)
【文献】特開2016-027671(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有するガラスフィルムと支持ガラス基板とを重ね合わせて積層体を作製する積層体作製工程と、前記積層体における前記ガラスフィルムに対して電子デバイス材を形成する処理を施してガラス基板とする処理工程と、前記ガラス基板と前記支持ガラス基板との両基板を剥離させて分離させる剥離工程とを含んだガラス基板の製造方法であって、
更に前記剥離工程が、前記両基板を部分的に剥離させた剥離起点部を形成する剥離起点部形成工程を含み、
前記剥離起点部形成工程では、前記ガラス基板の外周端に備わった辺部の端部を始点として前記両基板を前記辺部に沿って順次に剥離させることで、前記辺部の全長に沿って前記両基板を部分的に剥離させた前記剥離起点部を形成
し、
更に前記剥離工程が、前記両基板が剥離済の箇所と未剥離の箇所との境界となる剥離境界線を剥離方向に進行させることで、前記剥離起点部を起点として前記両基板の剥離を進展させる剥離進展工程を含み、
前記剥離進展工程では、前記辺部と前記剥離境界線とが並列に延びた状態を維持しつつ剥離を進展させ、
前記剥離起点部形成工程では、前記両基板の一方を吸着した状態で他方から離反する離反方向に移動可能な複数の起点形成用吸着パッドを一列に並べて配置し、該複数の起点形成用吸着パッドをその並びに倣って順番に前記離反方向に移動させることで、前記剥離起点部を形成し、
前記剥離進展工程では、前記複数の起点形成用吸着パッドに対して前記剥離方向の下流側にて、前記両基板の一方を吸着した状態で他方から離反する離反方向に移動可能な複数の剥離進展用吸着パッドを前記剥離方向に並べて配置し、該複数の剥離進展用吸着パッドをその並びに倣って順番に前記離反方向に移動させることで、前記両基板の剥離を進展させ、
前記起点形成用吸着パッドにおける吸着部の面積を、前記剥離進展用吸着パッドにおける吸着部の面積よりも小さくし、
前記剥離進展用吸着パッドとして、前記両基板の一方における前記辺部に沿う方向の略全幅を吸着可能な吸着パッドを用いることを特徴とするガラス基板の製造方法。
【請求項2】
前記剥離起点部形成工程では、前記辺部の両端部のうちの一端のみを前記剥離起点部の前記始点とすると共に、前記辺部の一端側に配置した前記起点形成用吸着パッドから他端側に配置した前記起点形成用吸着パッドへと順番に前記離反方向に移動させることを特徴とする請求項
1に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項3】
前記剥離進展用吸着パッドとして
、単一の吸着パッドを用いることを特徴とする請求項
1又は2に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項4】
前記ガラス基板が相対的に短い短辺部と相対的に長い長辺部とを外周端に備えた矩形状をなし、
前記剥離起点部形成工程では、前記短辺部に沿って前記両基板を部分的に剥離させた前記剥離起点部を形成することを特徴とする請求項1~
3のいずれかに記載のガラス基板の製造方法。
【請求項5】
前記剥離起点部形成工程では、前記両基板の相互間に刃状物を挿入することで、前記剥離起点部の前記始点を形成することを特徴とする請求項1~
4のいずれかに記載のガラス基板の製造方法。
【請求項6】
前記刃状物の挿入に伴って部分的に剥離した前記両基板の相互間に対し、前記刃状物を前記両基板の相互間から引き抜く前に、シート状部材を介在させることを特徴とする請求項
5に記載のガラス基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガラス基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年急速に普及しているスマートフォンやタブレット型PC等のモバイル端末は、薄型、軽量であることが求められるため、これらの端末に組み込まれるガラス基板についても薄板化の要請が高まっている。このような要請に応えるため、フィルム状に薄板化(例えば、厚みが200μm以下)されたガラスフィルムが開発、製造されるに至っている。ガラスフィルムは、その厚みが極めて薄いことから、可撓性に富んだ性質を有する。
【0003】
ここで、ガラスフィルムに対して透明導電膜等を形成する処理を施すことで、当該ガラスフィルムから上記端末に組み込むためのガラス基板を製造する手法の一例としては、下記のような手法が挙げられる。
【0004】
まず、ガラスフィルムと、これを支持する支持ガラス基板とを重ね合わせて積層体を作製する積層体作製工程を実行する。この支持ガラス基板との重ね合わせにより、ガラスフィルムの可撓性に富んだ性質を一時的に排除できると共に、重ね合わせた両者間に密着力を作用させることが可能となる。そのため、後に実行する処理工程(成膜工程等)の実行時において、ガラスフィルムの撓みを回避できると共に、膜のパターニングの位置ずれ等を防止することも可能となる。
【0005】
積層体作製工程が完了すると、次いで処理工程を実行することにより、処理後のガラスフィルムがガラス基板として製造される。その後、製造したガラス基板を上記端末には不要となる支持ガラス基板から剥離させて分離させる剥離工程を実行する。この剥離工程の実行に利用することが可能な技術が特許文献1に開示されている。
【0006】
同技術を利用した剥離工程の一例では、
図9に示すように、平置きにされたガラス基板100と、これの上に重ね合わされた支持ガラス基板200とを剥離させて分離させるにあたり、複数列の各列(
図9には、列R1~列R3の三列のみを図示)に吸着パッド300が配置されてなる吸着パッド群400を用いる。
【0007】
そして、吸着パッド群400の各列に支持ガラス基板200の上面を吸着させた状態で、各列を最前列R1側から後列側へと順番にガラス基板100から離反する離反方向(ここでは上方向であり、
図9では紙面に対して鉛直な方向)に移動させる。これにより、両基板100,200が剥離済の箇所(
図9にて斜線を施した箇所)と未剥離の箇所との境界となる剥離境界線Lをガラス基板100のコーナー部から剥離方向Tに進行させ、両基板100,200の剥離を進展させる。
【0008】
ところが、上記の例では、進行中の剥離境界線Lが円弧状をなすことに起因して、下記のような不具合があった。すなわち、剥離境界線Lと吸着パッド群400の各列とが並列な状態にないため、吸着パッド群400の各列を離反方向に移動させるタイミングが難しくなる。これは、列を誤ったタイミングで離反方向に移動させてしまうと、この列に属する吸着パッド300が、支持ガラス基板200のガラス基板100から未剥離の箇所を無理に離反方向に引っ張ってしまうからである。例えば、
図9に示す時点において、列R3を離反方向に移動させてしまうと、列R3の両端に存する吸着パッド300が、未剥離の箇所を無理に引っ張ってしまうことになる。このような事態が生じると、未剥離の箇所の引っ張りに伴って無理な変形が生じたガラス基板100が破損してしまう場合がある。
【0009】
そこで、上記のような不具合の発生を回避できる技術として、特許文献2に開示された技術を利用して剥離工程を実行することも考えられる。
【0010】
同技術を利用した剥離工程の一例では、
図10a,
図10bに示すように、ガラス基板100の辺部100aが予め支持ガラス基板200から部分的に剥離した剥離起点部となるように、支持ガラス基板200に他の部位と比較して厚みが薄い薄肉部200aを設けておく。そして、両基板100,200の剥離を進展させる際には、辺部100aと剥離方向Tに進行中の剥離境界線Lとが並列に延びた状態を維持しつつ剥離を進展させる(
図10bにて斜線を施した箇所は、両基板100,200が剥離済の箇所)。このように剥離を進展させることで、吸着パッド群の各列を離反方向に移動させるタイミングが簡易に判別できるようになる等して、剥離が進展中のガラス基板100に無理な変形が生じることを回避でき、その破損を防止することが可能となる。さらに、剥離起点部を形成したことで、円滑に両基板100,200の剥離を開始することもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2014-141344号公報
【文献】特開2012-131664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献2に開示された技術を利用した剥離工程によっても、未だ下記のような解決すべき問題が残存している。
【0013】
支持ガラス基板200に薄肉部200aを形成するには、当然ながら支持ガラス基板200に加工を施す必要がある。そのため、多数のガラス基板100を製造するような場合には、これらを支持するための多数の支持ガラス基板200の各々に対して加工を施すことが必須となり、結果的にガラス基板100の製造コストが高騰してしまうという問題がある。また、薄肉部200a上でガラス基板100が浮いた状態となっているため、ガラス基板100上にフォトレジスト等を作製する処理を施す際に、薬液等がガラス基板100と支持ガラス基板200との相互間に浸入した後、固着するおそれがあり、支持ガラス基板200からガラス基板100の剥離を容易に開始することができないという問題もある。このような現状から、上記技術を利用した剥離工程の利点が得られ、剥離を容易に開始することができ、更にガラス基板100の製造コストをも抑制できる製造方法の確立が期待されていた。
【0014】
上記事情に鑑みなされた本発明は、積層体を利用してガラス基板を製造する場合に、ガラス基板と支持ガラス基板との剥離を円滑に開始でき、また剥離に際してガラス基板の破損を防止でき、更に製造コストをも抑制できるガラス基板の製造方法を確立することを技術的な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために創案された本発明に係る方法は、可撓性を有するガラスフィルムと支持ガラス基板とを重ね合わせて積層体を作製する積層体作製工程と、積層体におけるガラスフィルムに対して電子デバイス材を形成する処理を施してガラス基板とする処理工程と、ガラス基板と支持ガラス基板との両基板を剥離させて分離させる剥離工程とを含んだガラス基板の製造方法であって、更に剥離工程が、両基板を部分的に剥離させた剥離起点部を形成する剥離起点部形成工程を含み、剥離起点部形成工程では、ガラス基板の外周端に備わった辺部の端部を始点として両基板を辺部に沿って順次に剥離させることで、辺部の全長に沿って両基板を部分的に剥離させた剥離起点部を形成することに特徴付けられる。
【0016】
本方法の剥離起点部形成工程では、ガラス基板の外周端に備わった辺部の端部を始点として、ガラス基板と支持ガラス基板との両基板を辺部に沿って順次に剥離させることで、辺部の全長に沿って両基板を部分的に剥離させた剥離起点部を形成する。このように両基板を容易に剥離させやすい辺部の端部を始点とし、更に辺部に沿って順次に剥離させることで、ガラス基板に無理な変形を生じさせることなく剥離起点部を形成することが可能である。そのため、当然に同工程の実行中におけるガラス基板の破損を防止できると共に、剥離起点部を形成したことにより、円滑に両基板の剥離を開始することが可能となる。また、上述のように剥離起点部形成工程を実行することで、支持ガラス基板に対して特段の加工を施すことなく剥離起点部を形成できるため、その分だけガラス基板の製造コストを抑制することも可能となる。また、処理工程を実行した後に、剥離起点部形成工程を実行して剥離起点部を形成しているため、処理工程の実行中にはガラス基板が支持ガラス基板から浮いている箇所も無く、ガラス基板と支持ガラス基板との相互間に薬液等が浸入して固着する虞も無い。さらに、剥離起点部形成工程にて両基板を辺部に沿って剥離させていることで、当該工程の実行後には、両基板が剥離済の箇所と未剥離の箇所との境界となる剥離境界線が略直線状(当該辺部と略平行な直線状)に延びた状態となる。このため、例えば、複数列の各列に吸着パッドが配置されてなる吸着パッド群を用いて両基板の剥離を進展させるような場合に、各列を剥離のために移動させるタイミングが簡易に判別できるようになる。これにより、吸着パッドが未剥離の箇所を無理に引っ張ってしまうような事態の発生を回避でき、剥離に際してガラス基板の破損を防止することが可能となる。以上のことから、本方法によれば、積層体を利用してガラス基板を製造する場合に、ガラス基板と支持ガラス基板との剥離を円滑に開始でき、また剥離に際してガラス基板の破損を防止でき、更に製造コストをも抑制できる。
【0017】
上記の方法において、更に剥離工程が、両基板が剥離済の箇所と未剥離の箇所との境界となる剥離境界線を剥離方向に進行させることで、剥離起点部を起点として両基板の剥離を進展させる剥離進展工程を含み、剥離進展工程では、辺部と剥離境界線とが並列に延びた状態を維持しつつ剥離を進展させることが好ましい。
【0018】
このようにすれば、剥離進展工程において、辺部と剥離境界線とが並列に延びた状態を維持しつつ剥離を進展させるため、剥離が進展中のガラス基板に無理な変形が生じることを回避できる。これにより、ガラス基板と支持ガラス基板との両基板を剥離させるに際し、ガラス基板の破損をより好適に防止することが可能である。
【0019】
上記の方法において、剥離起点部形成工程では、両基板の一方を吸着した状態で他方から離反する離反方向に移動可能な複数の起点形成用吸着パッドを一列に並べて配置し、複数の起点形成用吸着パッドをその並びに倣って順番に離反方向に移動させることで、剥離起点部を形成することが好ましい。
【0020】
このようにすれば、複数の起点形成用吸着パッドをその並びに倣って順番に離反方向に移動させるだけで、剥離起点部を形成することが可能であるため、効率よく剥離起点部形成工程を実行できる。また、剥離起点部形成工程の実行に際し、ガラス基板の支持ガラス基板との界面への接触を確実に回避することが可能なため、当該界面に傷が発生してガラス基板の品質が低下してしまうような事態の発生を的確に防止できる。
【0021】
上記の方法において、剥離起点部形成工程では、辺部の両端部のうちの一端のみを剥離起点部の始点とすると共に、辺部の一端側に配置した起点形成用吸着パッドから他端側に配置した起点形成用吸着パッドへと順番に離反方向に移動させることが好ましい。
【0022】
このようにすれば、辺部の両端部の各々に対して剥離起点部の始点を形成するような手間を排除できるため、更に効率よく剥離起点部形成工程を実行することが可能となる。なお、この場合には、単一方向(辺部の一端側から他端側に向かう方向)に向かってのみ剥離起点部が形成されていくことになる。
【0023】
上記の方法において、剥離進展工程では、複数の起点形成用吸着パッドに対して剥離方向の下流側にて、両基板の一方を吸着した状態で他方から離反する離反方向に移動可能な複数の剥離進展用吸着パッドを剥離方向に並べて配置し、複数の剥離進展用吸着パッドをその並びに倣って順番に離反方向に移動させることで、両基板の剥離を進展させることが好ましい。
【0024】
このようにすれば、効率よく剥離進展工程を実行できる。また、剥離進展工程の実行に際し、ガラス基板の支持ガラス基板との界面に傷が発生してガラス基板の品質が低下してしまうような事態の発生を的確に防止することが可能である。
【0025】
上記の方法において、起点形成用吸着パッドにおける吸着部の面積を、剥離進展用吸着パッドにおける吸着部の面積よりも小さくすることが好ましい。
【0026】
剥離進展工程の実行中と比較して、剥離起点部形成工程の実行中にはガラス基板、或いは、支持ガラス基板に特異な変形が生じやすい。このことに起因して、起点形成用吸着パッドにおける吸着部の面積が大きくなるほど、当該パッドの離反方向への移動に負荷が掛かり、当該パッドを移動させ難くなって、結果として剥離起点部を迅速に形成することが困難になり得る。しかしながら、起点形成用吸着パッドにおける吸着部の面積を、剥離進展用吸着パッドにおける吸着部の面積よりも小さくしておけば、小さくした分だけ起点形成用吸着パッドを離反方向へ移動させる際の負荷を低減でき、安定して剥離起点部を迅速に形成することが可能となる。
【0027】
上記の方法において、剥離進展用吸着パッドとして、両基板の一方における辺部に沿う方向の略全幅を吸着可能な単一の吸着パッドを用いることが好ましい。ここで、「略全幅」とは、全幅の長さを基準として90%以上の長さの幅を意味する。
【0028】
このようにすれば、各剥離進展用吸着パッドにより、両基板の一方(両基板のうちの剥離進展用吸着パッドに吸着される側の基板)における辺部に沿う方向の全幅が同時に離反方向に引っ張られることになる。このことに起因して、辺部と剥離境界線とが並列に延びた状態を容易に維持できるようになり、ひいては、各剥離進展用吸着パッドを離反方向に移動させるタイミングを簡易に判別することが可能となる。その結果、両基板が未剥離の箇所を無理に離反方向に引っ張ってしまうような事態の発生を的確に回避でき、ガラス基板の破損をより確実に防止できる。
【0029】
上記の方法において、ガラス基板が相対的に短い短辺部と相対的に長い長辺部とを外周端に備えた矩形状をなし、剥離起点部形成工程では、短辺部に沿って両基板を部分的に剥離させた剥離起点部を形成することが好ましい。
【0030】
このようにすれば、ガラス基板の製造効率を向上させることが可能となる。詳述すると、(1)本方法のように、短辺部に沿って剥離起点部を形成した後、長辺部に沿う方向に剥離境界線を進行させた場合と、(2)本方法とは異なり、長辺部に沿って剥離起点部を形成した後、短辺部に沿う方向に剥離境界線を進行させた場合とを比較すると、(1)の方が剥離する距離が短い短辺に剥離起点部を設けて長辺に沿う方向に剥離するため、所要時間を短縮できる。従って、本方法によれば、ガラス基板の製造効率が向上する。
【0031】
上記の方法において、剥離起点部形成工程では、両基板の相互間に刃状物を挿入することで、剥離起点部の始点を形成することが好ましい。
【0032】
このようにすれば、迅速に剥離起点部の始点を形成することが可能となる。さらに、始点の形成時だけ両基板の相互間に刃状物を挿入すればよいため、刃状物の挿入によってガラス基板の支持ガラス基板との界面が傷付くような虞も的確に排除できる。
【0033】
上記の方法において、刃状物の挿入に伴って部分的に剥離した両基板の相互間に対し、刃状物を両基板の相互間から引き抜く前に、シート状部材を介在させることが好ましい。
【0034】
このようにすれば、刃状物を引き抜く前にシート状部材を介在させることで、刃状物の挿入に伴って一旦は両基板が剥離した箇所が、再び接触して密着してしまうような虞を確実に排除できる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、積層体を利用してガラス基板を製造する場合に、ガラス基板と支持ガラス基板との剥離を円滑に開始でき、また剥離に際してガラス基板の破損を防止でき、更に製造コストをも抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1a】本発明の実施形態に係るガラス基板の製造方法における剥離起点部形成工程を示す平面図である。
【
図1b】本発明の実施形態に係るガラス基板の製造方法における剥離起点部形成工程を示す側面図である。
【
図2a】本発明の実施形態に係るガラス基板の製造方法における剥離起点部形成工程を示す平面図である。
【
図2b】本発明の実施形態に係るガラス基板の製造方法における剥離起点部形成工程を示す側面図である。
【
図3a】本発明の実施形態に係るガラス基板の製造方法における剥離起点部形成工程を示す平面図である。
【
図3b】本発明の実施形態に係るガラス基板の製造方法における剥離起点部形成工程を示す側面図である。
【
図4a】本発明の実施形態に係るガラス基板の製造方法における剥離起点部形成工程を示す平面図である。
【
図4b】本発明の実施形態に係るガラス基板の製造方法における剥離起点部形成工程を示す側面図である。
【
図5a】本発明の実施形態に係るガラス基板の製造方法における剥離起点部形成工程を示す平面図である。
【
図5b】本発明の実施形態に係るガラス基板の製造方法における剥離起点部形成工程を示す正面図である。
【
図6a】本発明の実施形態に係るガラス基板の製造方法における剥離起点部形成工程を示す平面図である。
【
図6b】本発明の実施形態に係るガラス基板の製造方法における剥離起点部形成工程を示す正面図である。
【
図7a】本発明の実施形態に係るガラス基板の製造方法における剥離進展工程を示す平面図である。
【
図7b】本発明の実施形態に係るガラス基板の製造方法における剥離進展工程を示す側面図である。
【
図8a】本発明の実施形態に係るガラス基板の製造方法における剥離進展工程を示す平面図である。
【
図8b】本発明の実施形態に係るガラス基板の製造方法における剥離進展工程を示す側面図である。
【
図9】従来のガラス基板の製造方法における剥離工程を示す平面図である。
【
図10a】従来のガラス基板の製造方法における剥離工程を示す側面図である。
【
図10b】従来のガラス基板の製造方法における剥離工程を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態に係るガラス基板の製造方法について、添付の図面を参照しながら説明する。
【0038】
本実施形態に係るガラス基板の製造方法は、可撓性を有するガラスフィルムと支持ガラス基板とを重ね合わせて積層体を作製する積層体作製工程と、積層体におけるガラスフィルムに対して電子デバイス材としての透明導電膜を形成する処理を施してガラス基板とする処理工程と、ガラス基板と支持ガラス基板との両基板を剥離させて分離させる剥離工程とを含んでいる。
【0039】
本実施形態では、ガラスフィルム(処理工程の実行後にガラス基板となる)と支持ガラス基板とが共に矩形状であり、支持ガラス基板はガラスフィルムに対して一回り大きいサイズを有する。また、ガラスフィルムと支持ガラス基板との両者は、共に相対的に短い短辺部と相対的に長い長辺部とを外周端に備えている。なお、ガラスフィルムの厚みは、例えば200μm以下であり、支持ガラス基板の厚みは、例えば500μmである。
【0040】
[積層体作製工程]
まず、積層体作製工程を実行する。
【0041】
積層体作製工程では、ガラスフィルムの外周端の全周から支持ガラス基板の外周端を食み出させるようにして、両者を重ね合わせて積層体を作製する。この積層体の作製に伴って両者間には密着力が作用した状態となる。以上により、積層体作製工程が完了する。
【0042】
ここで、本実施形態では、ガラスフィルムと支持ガラス基板との両者を直接に重ね合わせて積層体を作製しているが、本実施形態の変形例として、成膜された支持ガラス基板を用いて、膜を介して両者を重ね合わせて積層体を作製してもよく、また、樹脂層が形成された支持ガラス基板を用いて、樹脂層を介して両者を重ね合わせて積層体としてもよい。
【0043】
[処理工程]
積層体作製工程が完了すると、次に処理工程を実行する。
【0044】
処理工程では、公知の方法(例えば、真空蒸着法、スパッタリング法等)を利用して支持ガラス基板と重ね合わされたガラスフィルムに対して透明導電膜(例えば、ITO膜)の成膜を行う。その後、公知の方法(例えば、エッチング等)を利用して膜のパターニングを行う。これにより、処理後のガラスフィルムがガラス基板として製造される。以上により、処理工程が完了する。
【0045】
ここで、本実施形態では、電子デバイス材として透明導電膜をガラスフィルムに対して形成しているが、これに限定されるものではない。
【0046】
[剥離工程]
処理工程が完了すると、次に剥離工程を実行する。
【0047】
剥離工程は、
図1a~
図6bに示す、積層体1を構成するガラス基板2と支持ガラス基板3との両基板2,3を部分的に剥離させた剥離起点部4を形成する剥離起点部形成工程と、
図7a~
図8bに示す、両基板2,3が剥離済の箇所と未剥離の箇所との境界となる剥離境界線Lを剥離方向Tに進行させることで、剥離起点部4を起点として両基板2,3の剥離を進展させる剥離進展工程とを含んでいる。
【0048】
ここで、以下の説明では、ガラス基板2の長辺部2xに沿う方向をX方向と表記し、短辺部2yに沿う方向をY方向と表記し、ガラス基板2の厚み方向をZ方向と表記する。さらに、本実施形態を説明するための各図において、斜線を施して示した箇所は、ガラス基板2と支持ガラス基板3との両基板2,3が剥離済の箇所を表している。
【0049】
<剥離起点部形成工程>
図1a~
図6bに示すように、剥離起点部形成工程では、ガラス基板2の外周端に備わった短辺部2yの端部2yaを始点として、両基板2,3を短辺部2yに沿って端部2ya側から順次に剥離させることで、短辺部2yの全長に沿って両基板2,3を部分的に剥離させた剥離起点部4を形成する。
【0050】
ここで、本実施形態では、ガラス基板2の短辺部2yに沿って剥離起点部4を形成しているが、これに限定されるものではない。本実施形態の変形例として、ガラス基板2の長辺部2xに沿って剥離起点部4を形成してもよい。
【0051】
剥離起点部形成工程の実行に際しては、まず、
図1a,
図1bに示すように、ガラス基板2と支持ガラス基板3との相互間(界面)に対し、方向D1に沿って刃状物としてのナイフ5を挿入する。これにより、ガラス基板2のコーナー部側から内側に向かって剥離境界線Lが進行し、これに伴って短辺部2yの端部2yaが支持ガラス基板3から局所的に剥離し、剥離起点部4の始点が形成される。
【0052】
なお、後に短辺部2yの端部2yaを始点として、両基板2,3を短辺部2yに沿って端部2ya側から順次に剥離させる際には、後に詳述する起点形成用吸着パッド6aが、剥離起点部4の始点を吸着した状態でZ方向に引っ張ることになる(
図4a~
図5bを参照)。このとき、起点形成用吸着パッド6aが剥離した状態にある剥離起点部4の始点のみでなく、未剥離の箇所をも一緒に引っ張ってしまうと、ガラス基板2が破損してしまう虞が生じる。そのため、剥離起点部4の始点の形成時において、剥離境界線Lを後に起点形成用吸着パッド6aが吸着する予定の領域よりもガラス基板2の内側まで進行させておく。
【0053】
ここで、本実施形態においては、ナイフ5を用いて剥離起点部4の始点を形成しているが、この限りではない。本実施形態の変形例として、支持ガラス基板3のコーナー部をガラス基板2のコーナー部から離反させるように押し下げる(湾曲させる)ことで、剥離起点部4の始点を形成してもよい。本変形例では、支持ガラス基板3のコーナー部を押し下げるにつれて、これと密着したガラス基板2のコーナー部の湾曲が漸次に大きくなっていく。加えて、湾曲が大きくなるのに伴って、ガラス基板2のコーナー部に働く復元力が次第に大きくなっていく。そして、復元力が密着力よりも大きくなると、両基板2,3が局所的に剥離し、剥離起点部4の始点が形成される。なお、本変形例は、上記復元力について、両基板2,3を剥離させ得るだけの大きさを確保することを目的として、ガラス基板2(元となるガラスフィルム)の厚みが50μm以上である場合に適用することが好ましい。
【0054】
また、本実施形態の別の変形例として、支持ガラス基板3が成膜されている場合に、ガラス基板2のコーナー部と支持ガラス基板3のコーナー部との相互間に介在した膜をレーザーの照射により除去することで、両基板2,3を局所的に剥離させ、剥離起点部4の始点を形成してもよい。また、本実施形態の更に別の変形例として、エッチング液(例えば、フッ化水素酸等)を用いて、ガラス基板2のコーナー部と支持ガラス基板3のコーナー部との界面周辺を溶かすことで、両基板2,3を局所的に剥離させ、剥離起点部4の始点を形成してもよい。
【0055】
剥離起点部4の始点の形成が完了すると、次に、
図2a,
図2bに示すように、ナイフ5の挿入に伴って部分的に剥離した両基板2,3の相互間に対して、シート状部材としてのフィルムシート7を介在させる。これにより、部分的に剥離した両基板2,3の再密着を防止する。この作業は、両基板2,3の相互間に挿入されたナイフ5の下面に沿わせてフィルムシート7を挿入した後で、方向D2に沿ってナイフ5を両基板2,3の相互間から引き抜くことで完了する。これにより、ナイフ5に換わりフィルムシート7が両基板2,3の相互間に介在した状態となる。なお、フィルムシート7としては、樹脂シート(例えばテフロンシート(登録商標))等を用いることが可能である。
【0056】
ここで、本実施形態では、フィルムシート7を両基板2,3の相互間に介在させることで両基板2,3の再密着を防止しているが、これに限定されるものではない。本実施形態の変形例として、部分的に剥離した両基板2,3の相互間に対し、液体(例えば油)やミストを供給することで再密着を防止してもよい。
【0057】
両基板2,3の相互間にフィルムシート7を介在させ終えると、次に、
図3a,
図3bに示すように、積層体1の上下を反転させた後、積層体1を保持テーブル8の上に載置して固定する。なお、保持テーブル8は積層体1を固定するための機構(図示省略)を有しており、この機構の一例としては、保持テーブル8の支持面(積層体1が載置される面)に設けられた多数の吸着孔と、これら多数の孔と接続された真空ポンプとで構成される機構が挙げられる。
【0058】
積層体1の保持テーブル8への固定が完了すると、
図4a,
図4bに示すように、Y方向に沿って一列に並べられた複数(ここでは、五つ)の起点形成用吸着パッド6により、支持ガラス基板3におけるガラス基板2の短辺部2yと重なった部位(ここでは、支持ガラス基板3の短辺部)の吸着を開始する。複数の起点形成用吸着パッド6の各々は、円形の吸着部(支持ガラス基板3と当接する部位)を有すると共に、支持ガラス基板3を吸着した状態でガラス基板2から離反するZ方向に移動(上昇)が可能となっている。各起点形成用吸着パッド6にはエジェクターが内蔵されており、吸着部が支持ガラス基板3に当接した状態の各起点形成用吸着パッド6に対し、上方(吸着部とは反対側)から圧縮ガスを導入すれば、各起点形成用吸着パッド6が支持ガラス基板3を吸着することが可能となっている。
【0059】
なお、
図4a,
図4bでの図示は省略しているが、複数の起点形成用吸着パッド6に対して剥離方向T(X方向)の下流側には、後に実行する剥離進展工程に用いる複数の剥離進展用吸着パッド9が剥離方向Tに並べて配置されている(
図7a~
図8bを参照)。
【0060】
ここで、隣り合う起点形成用吸着パッド6同士のY方向に沿った相互間の間隔S1は、0mm~30mmの範囲内とすることが好ましい。また、各起点形成用吸着パッド6の吸着部の径Dは、20mm~80mmの範囲内とすることが好ましく、20mm~40mmの範囲内とすることがより好ましい。各起点形成用吸着パッド6における吸着部の面積(ここでは、πD2/4に等しい)は、剥離進展用吸着パッド9における吸着部の面積よりも小さくなっている。なお、本実施形態の変形例として、円形の吸着部を有する起点形成用吸着パッド6に代えて、矩形(正方形等)の吸着部を有する起点形成用吸着パッド6を用いてもよい。上述の吸着パッド(起点形成用吸着パッド6及び剥離進展用吸着パッド9)の吸着部の径Dや吸着部の面積は、吸着対象物(支持ガラス基板3)に接触していない状態の径や面積とする。
【0061】
次に、
図5a,
図5bに示すように、複数の起点形成用吸着パッド6をその並びに倣って、Y方向の上流側(短辺部2yの端部2ya側)に配置した起点形成用吸着パッド6から下流側(短辺部2yの端部2yb側)に配置した起点形成用吸着パッド6へと順番(6a→6b→6c→6d→6eの順番)に、Z方向に移動させる。これにより、各起点形成用吸着パッド6が順番に支持ガラス基板3をZ方向に引っ張ることで剥離境界線LがY方向に進行し、これに伴って、短辺部2yの端部2yaを始点として両基板2,3が剥離済の箇所が拡大していく。そして、剥離境界線Lが短辺部2yの端部2ybまで到達すると、
図6a,
図6bに示すように、短辺部2yの全長に沿って両基板2,3が部分的に剥離した剥離起点部4が形成される。以上により、剥離起点部形成工程が完了する。
【0062】
ここで、剥離起点部4の形成に際して、各起点形成用吸着パッド6をZ方向に移動させる距離は、2mm~10mmの範囲内とすることが好ましく、3mm~5mmの範囲内とすることがより好ましい。さらに、各起点形成用吸着パッド6をZ方向に移動させる速度は、0.01mm/s~1mm/sの範囲内とすることが好ましく、0.05mm/s~0.5mm/sの範囲内とすることがより好ましい。
【0063】
なお、本実施形態では、短辺部2yの両端部2ya,2ybのうちの端部2yaのみを剥離起点部4の始点とすると共に、短辺部2yの端部2ya側から端部2yb側に向かってのみ両基板2,3が剥離済の箇所を拡大させているが、この限りではない。本実施形態の変形例として、短辺部2yの両端部2ya,2ybのそれぞれを剥離起点部4の始点とすると共に、端部2yaと端部2ybとのそれぞれから両者の中間地点に向けて両基板2,3が剥離済みの箇所を拡大させてもよい。本変形例では、複数の起点形成用吸着パッド6がなす列の両端に配置した起点形成用吸着パッド6から内側に配置した起点形成用吸着パッド6へと順番(6a→6b→6cおよび6e→6d→6cの順番)にZ方向に移動させる。また、別の変形例として、複数の起点形成用吸着パッド6を、端部2ybを剥離起点部4の始点として6e→6d→6c→6b→6aの順番でZ方向に移動させてもよい。更に別の変形例として、複数の起点形成用吸着パッド6を、端部2yaを剥離起点部4の始点として6a→6b→6c→6e→6dの順番や、端部2ybを剥離起点部4の始点として6e→6d→6c→6a→6bの順番でZ方向に移動させてもよい。
【0064】
また、本実施形態では、複数の起点形成用吸着パッド6を用いて、両基板2,3が剥離済の箇所を拡大させているが、この限りではない。本実施形態の変形例として、樹脂シート(例えばテフロンシート(登録商標))を両基板2,3の界面に沿って推し進めることで、両基板2,3が剥離済の箇所を拡大させてもよい。また、本実施形態の別の変形例として、移動方向の後方に樹脂シートを連結したナイフを両基板2,3の界面に沿って移動させることで、両基板2,3が剥離済の箇所を拡大させてもよい。
【0065】
<剥離進展工程>
剥離起点部形成工程が完了すると、次に剥離進展工程を実行する。
図7a~
図8bに示すように、剥離進展工程では、短辺部2yと剥離境界線Lとが並列に延びた状態を維持しつつ両基板2,3の剥離を進展させる。
【0066】
剥離進展工程の実行に際しては、
図7a,
図7bに示すように、支持ガラス基板3を吸着した状態でガラス基板2から離反するZ方向に移動が可能な複数の剥離進展用吸着パッド9を、その並びに倣ってX方向の上流側に配置した剥離進展用吸着パッド9から下流側に配置した剥離進展用吸着パッド9へと順番に、Z方向に移動させる。これにより、各剥離進展用吸着パッド9が順番に支持ガラス基板3をZ方向に引っ張ることで剥離境界線Lが剥離方向T(X方向)に進行し、これに伴って、剥離起点部4を起点として両基板2,3が剥離済の箇所が拡大していく。そして、剥離境界線LがX方向の下流側に位置した短辺部2yまで到達すると、
図8a,
図8bに示すように、両基板2,3が完全に剥離されて分離した状態となる。以上により、剥離進展工程が完了する。
【0067】
複数の剥離進展用吸着パッド9の各々は、Y方向に長尺な矩形の吸着部(支持ガラス基板3と当接する部位)を有すると共に、支持ガラス基板3におけるY方向に沿った略全幅を吸着することが可能な単一の吸着パッドである。
【0068】
ここで、起点形成用吸着パッド6と剥離進展用吸着パッド9とのX方向に沿った相互間の間隔、及び、隣り合う剥離進展用吸着パッド9同士のX方向に沿った相互間の間隔S2は、いずれも0mm~100mmの範囲内とすることが好ましい。また、各剥離進展用吸着パッド9の吸着部のX方向に沿った幅Wは、20mm~80mmの範囲内とすることが好ましく、20mm~40mmの範囲内とすることがより好ましい。なお、剥離進展工程の実行に際して、各剥離進展用吸着パッド9をZ方向に移動させる距離や速度は、剥離起点部4の形成に際して、各起点形成用吸着パッド6をZ方向に移動させる距離や速度と同一の条件とすることが好ましい。
【0069】
なお、本実施形態では、剥離進展用吸着パッド9として、Y方向に長尺な単一の吸着パッドを用いているが、この限りではない。本実施形態の変形例として、Y方向に沿って一列に並べられた複数の吸着パッドを用いてもよい。この場合、上述の起点形成用吸着パッド6と同様、エジェクター方式の吸着パッドを用いてもよい。この場合であったとしても、起点形成用吸着パッド6の吸着部の面積が、剥離進展用吸着パッド9の吸着部の面積よりも小さくするのが好ましい。具体的には、起点形成用吸着パッド6の吸着部の径Dが15mm~25mmであることが好ましく、剥離進展用吸着パッド9の吸着部の径が30mm~50mmであることが好ましい。吸着パッド(起点形成用吸着パッド6及び剥離進展用吸着パッド9)の吸着部の径Dや吸着部の面積は、吸着対象物(支持ガラス基板3)に接触していない状態の径や面積とする。
【0070】
また、本実施形態では、複数の剥離進展用吸着パッド9を用いて剥離進展工程を実行しているが、この限りではない。本実施形態の変形例として、樹脂シート(例えばテフロンシート(登録商標))を両基板2,3の界面に沿って推し進めることで、剥離進展工程を実行してもよい。
【0071】
以上のように剥離進展工程が完了することで、剥離起点部形成工程と剥離進展工程とで構成される剥離工程も完了する。そして、剥離工程が完了することで、本実施形態に係るガラス基板の製造方法の全工程が完了する。
【0072】
ここで、本発明に係るガラス基板の製造方法は、上記の実施形態で説明した態様に限定されるものではない。例えば、上記の実施形態では、ガラス基板(元となるガラスフィルム)が矩形状であるが、この限りではなく、外周端に辺部が備わった形状でありさえすれば、ガラス基板が矩形状でない場合であっても、本発明を適用することが可能である。一例としては、ガラス基板は多角形(五角形、六角形等)や台形等であってもよい。
【0073】
また、上記の実施形態では、起点形成用吸着パッドおよび剥離進展用吸着パッドが、ガラス基板と支持ガラス基板とのうち、支持ガラス基板を吸着する態様となっているが、この限りではなく、ガラス基板を吸着する態様としてもよい。
【符号の説明】
【0074】
1 積層体
2 ガラス基板
2x 長辺部
2y 短辺部
2ya 端部
2yb 端部
3 支持ガラス基板
4 剥離起点部
5 ナイフ
6 起点形成用吸着パッド
6a~6e 起点形成用吸着パッド
7 フィルムシート
9 剥離進展用吸着パッド
L 剥離境界線
T 剥離方向